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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1312689
審判番号 不服2015-4398  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-05 
確定日 2016-03-25 
事件の表示 特願2008-557442「ネックカラー部に配される電子機器を有するバイオメトリックモニタ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月 7日国際公開、WO2007/100959、平成21年 8月 6日国内公表、特表2009-528141〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2007年(平成19年)2月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年2月28日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年7月23日付けで拒絶理由が通知され、同年10月26日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成25年4月22日付けで拒絶理由が通知され、同年8月2日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたが、平成26年2月20日付けで同手続補正について補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶理由が通知され、同年8月22日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたが、同年10月29日付けで同手続補正について補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成27年3月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成27年3月5日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成27年3月5日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。


[理由]

1 本件補正について

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に係る発明について、平成24年10月26日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「 患者と機能的に結合するように構成される1又は複数のバイオメトリックセンサを有する少なくとも1つのリモートセンサ部材であって、電力源を有さないリモートセンサ部材と、
前記リモートセンサ部材を動作させるための電子機器を有するネックカラー部であって、該ネックカラー部上に又は該ネックカラー部内に配される電力源を有し、前記電子機器が、前記1又は複数のバイオメトリックセンサからのセンサデータを処理するプロセッサ、メモリ及びワイヤレストランシーバを含み、前記リモートセンサ部材が、該ネックカラー部から分離しており、該ネックカラー部上に配されていない、ネックカラー部と、
前記リモートセンサ部材及び前記ネックカラー部を接続する可撓性のロープを有する通信リンクであって、前記可撓性のロープが、前記少なくとも1つのリモートセンサ部材の前記1又は複数のバイオメトリックセンサから、前記ネックカラー部の前記電子機器に、センサデータを伝えるデータ通信経路と、前記リモートセンサ部材の前記1又は複数のバイオメトリックセンサに電力を供給するために、前記ネックカラー部の前記電力源から、前記少なくとも1つのリモートセンサ部材に、電力を伝える電力経路と、を有する通信リンクと、
を有するバイオメトリックモニタ。」

を、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮)を目的として、

「 患者と機能的に結合するように構成される1又は複数のバイオメトリックセンサを有する少なくとも1つのリモートセンサ部材であって、患者の耳と結合する耳センサ部材を少なくとも含み、電力源を有さないリモートセンサ部材と、
前記リモートセンサ部材を動作させるための電子機器を有し、患者の首の周りに配されるネックカラー部であって、該ネックカラー部上に又は該ネックカラー部内に配される電力源を有し、前記電子機器が、前記1又は複数のバイオメトリックセンサからのセンサデータを処理するプロセッサ、メモリ及びワイヤレストランシーバを含み、前記リモートセンサ部材が、該ネックカラー部から分離しており、該ネックカラー部上に配されていない、ネックカラー部と、
前記リモートセンサ部材及び前記ネックカラー部を接続する可撓性のロープを有する通信リンクであって、前記可撓性のロープが、前記少なくとも1つのリモートセンサ部材の前記1又は複数のバイオメトリックセンサから、前記ネックカラー部の前記電子機器に、センサデータを伝えるデータ通信経路と、前記リモートセンサ部材の前記1又は複数のバイオメトリックセンサに電力を供給するために、前記ネックカラー部の前記電力源から、前記少なくとも1つのリモートセンサ部材に、電力を伝える電力経路と、を有する通信リンクと、
を有し、
前記ネックカラー部が更に、首に取り付けられた状態で読み取り可能であるように前記ネックカラー部上に設けられるディスプレイであって、前記1又は複数のバイオメトリックセンサから取得される少なくとも1つのセンサデータから得られる情報を表示するように前記電子機器により作動されるディスプレイを有する、バイオメトリックモニタ。」

と補正することを含むものである。(下線は補正箇所を示す。)

すなわち、この補正は、発明特定事項である「リモートセンサ部材」に対して「患者の耳と結合する耳センサ部材を少なくとも含み」との限定を付加し、同じく「ネックカラー部」に対して「患者の首の周りに配される」との限定、及び、「首に取り付けられた状態で読み取り可能であるように前記ネックカラー部上に設けられるディスプレイであって、前記1又は複数のバイオメトリックセンサから取得される少なくとも1つのセンサデータから得られる情報を表示するように前記電子機器により作動されるディスプレイを有する」との限定を付加することを含むものである。

2 独立特許要件についての検討

(1)そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。

(2)引用例

ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である国際公開第2005/034742号(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。

(ア)段落[0001]
「 本発明は、耳部で生体情報を検出するための装置に関するものである。」

(イ)段落[0005]
「 また、外耳道又は耳朶に装着する装置としては、無線通信手段を有し、動脈血酸素飽和濃度センサー、体温センサー、心電センサー、脈波センサーを備えている緊急情報装置がある(例えば、特許文献2参照。)。この装置は、センサー部分を外耳道へ挿入し、データ通信部が耳への固定手段を兼ねているが、必ずしも安定に装着できるとはいえない。」

(ウ)段落[0034]?[0035]
「 [実施の形態1-2]
以下、実施の形態について、図5を参照して説明する。図5に本実施の形態の生体情報収集装置の構成を示す。本実施の形態の生体情報収集装置は図5に示すように中空のフレーム1、該中空のフレーム1を外耳道に保持する保持部2、該中空のフレーム1に取り付けたセンシング部3、前記センシング部3を駆動制御し、かつ前記センシング部からの信号を処理する駆動制御部4により構成する。駆動制御部4はセンシング部3と信号線により接続されている。
次に、本実施の形態の生体情報収集装置の動作について説明する。中空のフレーム1、保持部2、センシング部3の構成と動作は前述の生態情報収集装置と同様である。図5に示す駆動制御部4には計測結果を表示する表示部(図示せず)を接続することができる。駆動制御部4を通じてセンシング部3へ駆動信号を送り、センシング部3は生体情報を計測し、計測結果を駆動制御部4へ送信する。駆動制御部4はセンシング部3の計測結果の信号を処理し、外部に設けられた表示部(図示せず)にその結果を表示する。ここで図5において駆動制御部4は保持部2の外部に示されているが、これは構成と動作の説明の便宜のためであり、駆動制御部4はLSIにより非常に小型化可能であり、保持部2の中へ実装することが可能である。以上のように本実施の形態の生体情報収集装置は、簡易に生体情報を計測し、収集可能である。」

(エ)段落[0041]?[0047]
「 [実施の形態1-4]
以下、本願発明の実施の形態1-4について図9を参照して説明する。本実施の形態では以下の3つの場合がある。
第1の場合は、図1の実施の形態の生体情報収集装置のセンシング部3に電源部6を更に備える構成である。第2の場合は、図5に示す実施の形態の生体情報収集装置のセンシング部3または駆動制御部4のいずれかに電源部6を備え、かつセンシング部3と駆動制御部4は信号線と電源線で接続される場合である。第3の場合は、図6、図7に示す実施の形態の生体情報収集装置のセンシング部3、駆動制御部4、送信部5のいずれかに電源部6を備え、センシング部3と駆動制御部4、送信部5と電源部6がそれぞれ信号線と電源線で接続される場合である。これらは類似しているので、これらを代表して第3の場合について図9により説明する。
図9に本実施の形態の生体情報収集装置の構成を示す。図9において、生体情報収集装置は中空のフレーム1、該中空のフレーム1を外耳道に保持する保持部2、該中空のフレーム1に取り付けたセンシング部3、前記センシング部3を駆動制御し、かつ前記センシング部3からの信号を処理する駆動制御部4、前記駆動制御部4で処理した情報を送信する送信部5、前記センシング部3、前記駆動制御部4又は前記送信部5のうち少なくとも1つに電力を供給する電源部6により構成する。
図9において、電源部6はセンシング部3、駆動制御部4、送信部5にそれぞれ接続されて示されているが、電源部6はセンシング部3、駆動制御部4、送信部5のいずいれか1つに接続されていてもよい。また、センシング部3と駆動制御部4、駆動制御部4と電源部6がそれぞれ信号線と電源線で接続されるが図9には煩雑さを避けるために、信号線のみを示している。
ここで図9において駆動制御部4、送信部5、電源部6は保持部2の外部に示されているが、駆動制御部4、送信部5、電源部6はLSIにより非常に小型化可能であり、保持部2の中へ実装することも可能である。
本実施の形態の生体情報収集装置の動作について説明する。本実施の形態の生体情報収集装置の動作は、前述の実施の形態の生体情報収集装置の動作において説明した中で、外部から、センシング部3、駆動制御部4、送信部5のそれぞれに電源回路を接続して、電源を供給していたのに替えて、センシング部3、駆動制御部4、送信部5のいずいれか1に電源部6を備えて、そこから他の部分へ電源を供給し、これ以外の動作は、前述の実施の形態の動作と同様である。
図10に生体への装着の例を示す。図10(A)は送信部5に電源部6を備え、かつ送信部5と電源部6をネックレス状に首に装着した場合であり、図10(B)は送信部5と電源部6も保持部2の中に実装した場合である。電源部にはバッテリを保有させて携帯可能にすることが好ましい。」

(オ)段落[0095]
「 [実施の形態1-10]
以下、本願発明の実施の形態1-10について図21を参照して説明する。図21に本実施の形態の生体情報収集システムの構成を示す。本実施の形態の生体情報収集システムは携帯端末8及び前述した生体情報収集装置からなる生体情報収集システムであって、該携帯端末8は前記送信部5からの情報を受信処理する端末受信部9、通信網51を介して情報処理装置50へ該端末受信部9からの信号を送信する通信部11、該端末受信部9からの情報を表示する表示部10を備える。」

(カ)段落[0097]?[0100]
「 また、通信網51には情報処理装置50が接続されている。ここで通信網51は医院内の比較的小規模な通信網でも良く、またはインターネットなどのような大規模な通信網でも良い。更に、情報処理装置50は小規模なパーソナルコンピューターでも良いし、あるいは大規模な情報処理装置でも良く、生体情報を収集する機能を有する。
本実施の形態の生体情報収集システムの動作について説明する。本実施の形態の生体情報収集システムは前述した生体情報収集装置と同様に生体情報を計測し、送信部5は計測結果を無線信号や光信号で送信するか、または信号線を通じて、携帯端末8へ送信し、この情報を携帯端末8は備えている端末受信部9により受信処理し、通信部11により通信網51を通じて情報処理装置50へ送信すると同時に、端末受信部9からの情報を表示部10に表示する。
以上説明したように本実施の形態の生体情報収集システムは収集した生体情報を遠隔にある情報処理装置へ送信するとともに、携帯端末で表示することができる。
上記のように生体情報の計測結果を通信網を介して遠隔にある情報処理装置へ送信し収集すると同時に携帯端末に表示することにより、現在の生体情報の計測結果を即時に認識し、例えば異常値であった場合は、迅速な対処が可能となり、利便性は一層向上する。」

(キ)[図10](A)




(ク)引用例1の図10(A)(上記摘記事項(キ))には、ヒトの首の周りに装着された帯状の部材に送信部5及び電源部6が配置されていること、保持部2と送信部5とが線状部材で接続されていることが示されている。

イ 引用例1に記載された発明の認定

上記ア(ア)ないし(ク)を含む引用例1全体の記載を総合すると、引用例1には、

「 中空のフレーム1、該中空のフレーム1を外耳道に保持する保持部2、該中空のフレーム1に取り付けたセンシング部3、前記センシング部3を駆動制御し、かつ前記センシング部3からの信号を処理する駆動制御部4、前記駆動制御部4で処理した情報を送信する送信部5、電源部6、表示部により構成される生体情報収集装置であって、
送信部5に電源部6を備え、センシング部3と駆動制御部4、駆動制御部4と電源部6がそれぞれ信号線と電源線で接続されており、送信部5から他の部分へ電源を供給するようにされており、
ヒトの首の周りに装着される帯状の部材に送信部5及び電源部6が配置され、保持部2と送信部5とが線状部材で接続されており、
駆動制御部4の外部に設けられた表示部に、センシング部3の計測結果の信号を駆動制御部4で処理した結果を表示する、生体情報収集装置。」

の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(3)本願補正発明と引用発明との対比

ア 対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)
a 引用例1の段落[0097]に「通信網51は医院内の比較的小規模な通信網でも良く」(上記摘記事項(2)ア(カ))との記載があることから、引用発明は医院内での使用をも意図したものであることは明らかであるから、引用発明の「ヒト」は、本願補正発明の「患者」に相当する。

b 引用発明の「センシング部3」は、生体情報を得るものであるから、本願補正発明の「バイオメトリックセンサ」に相当する。

c 引用発明の「センシング部3」は「中空のフレーム1に取り付け」られ、「該中空のフレーム1」は「保持部2」により「外耳道に保持」されることから、引用発明の「センシング部3」が、本願補正発明の「バイオメトリックセンサ」と同様に「患者と機能的に結合するように構成され」ていることは明らかである。

d 引用発明の「中空のフレーム1」、「保持部2」及び「センシング部3」が、「ヒトの首の周りに装着される帯状の部材」から離れて一体的に構成されていることは明らかであるから、引用発明の「中空のフレーム1」、「保持部2」及び「センシング部3」は、本願補正発明の「リモートセンサ部材」に相当する。

e 引用発明の「センシング部3」がヒトの耳と結合し、耳から生体情報を得ることは明らかであるから、引用発明の「中空のフレーム1」、「保持部2」及び「センシング部3」は、本願補正発明の「リモートセンサ部材」と同様に「患者の耳と結合する耳センサ部材を少なくとも含」むものである。

f 引用発明は、「ヒトの首の周りに装着される帯状の部材」に配置された送信部5が備える電源部6から「他の部分へ電源を供給するようにされて」いることから、引用発明の「中空のフレーム1」、「保持部2」及び「センシング部3」は、本願補正発明の「リモートセンサ部材」と同様に「電力源を有さない」ものである。

g よって、引用発明の「中空のフレーム1、該中空のフレーム1を外耳道に保持する保持部2、該中空のフレーム1に取り付けたセンシング部3」は、本願補正発明の「患者と機能的に結合するように構成される1又は複数のバイオメトリックセンサを有する少なくとも1つのリモートセンサ部材であって、患者の耳と結合する耳センサ部材を少なくとも含み、電力源を有さないリモートセンサ部材」に相当する。

(イ)
a 引用発明の「ヒトの首の周りに装着される帯状の部材」は、本願補正発明の「患者の首の周りに配されるネックカラー部」に相当する。

b 引用発明の「ヒトの首の周りに装着される帯状の部材に」「配置されている」「電源部6」は、本願補正発明の「ネックカラー部上に又は該ネックカラー部内に配される電力源」に相当する。

c 引用発明の「送信部5」は、本願補正発明の「ワイヤレストランシーバ」に相当する。

d よって、引用発明の「送信部5及び電源部6が配置されている」「ヒトの首の周りに装着される帯状の部材」と、本願補正発明の「前記リモートセンサ部材を動作させるための電子機器を有し、患者の首の周りに配されるネックカラー部であって、該ネックカラー部上に又は該ネックカラー部内に配される電力源を有し、前記電子機器が、前記1又は複数のバイオメトリックセンサからのセンサデータを処理するプロセッサ、メモリ及びワイヤレストランシーバを含み、前記リモートセンサ部材が、該ネックカラー部から分離しており、該ネックカラー部上に配されていない、ネックカラー部」とは、「患者の首の周りに配されるネックカラー部であって、該ネックカラー部上に又は該ネックカラー部内に配される電力源を有し、ワイヤレストランシーバを有し、リモートセンサ部材が、該ネックカラー部から分離しており、該ネックカラー部上に配されていない、ネックカラー部」である点において共通する。

(ウ)
引用発明の「センシング部3を駆動制御し、かつ前記センシング部3からの信号を処理する駆動制御部4」と、本願補正発明の「1又は複数のバイオメトリックセンサからのセンサデータを処理するプロセッサ、メモリ及びワイヤレストランシーバを含み」、「リモートセンサ部材を動作させるための電子機器」とは、「1又は複数のバイオメトリックセンサからのセンサデータを処理する機器を含み、リモートセンサ部材を動作させるための電子装置」である点において共通する。

(エ)
a 引用発明の「信号線」及び「電源線」は、それぞれ本願補正発明の「データ通信経路」及び「電力経路」に相当する。

b 引用発明において、「線状部材」が「信号線と電源線」を含んでいることは明らかであるから、引用発明の「保持部2と送信部5と」を接続する「線状部材」と、本願補正発明の「前記リモートセンサ部材及び前記ネックカラー部を接続する可撓性のロープを有する通信リンクであって、前記可撓性のロープが」、「データ通信経路と」「電力経路と、を有する通信リンク」とは、「リモートセンサ部材及びネックカラー部を接続する線状部材を有する通信リンクであって、前記線状部材がデータ通信経路と電力経路とを有する通信リンク」である点において共通する。

c 引用発明の「センシング部3と駆動制御部4、駆動制御部4と電源部6」を「それぞれ」「接続する」「信号線」と、本願補正発明の「前記少なくとも1つのリモートセンサ部材の前記1又は複数のバイオメトリックセンサから、前記ネックカラー部の前記電子機器に、センサデータを伝えるデータ通信経路」とは、「少なくとも1つのリモートセンサ部材の1又は複数のバイオメトリックセンサから、ネックカラー部に、センサデータを伝えるデータ通信経路」である点において共通する。

d 引用発明の「センシング部3と駆動制御部4、駆動制御部4と電源部6」を「それぞれ」「接続する」「電源線」は、本願補正発明の「前記リモートセンサ部材の前記1又は複数のバイオメトリックセンサに電力を供給するために、前記ネックカラー部の前記電力源から、前記少なくとも1つのリモートセンサ部材に、電力を伝える電力経路」に相当する。

(オ)
a 引用発明の「表示部」は、本願補正発明の「ディスプレイ」に相当する。

b 引用発明において、表示部が駆動制御部4により作動されることは明らかである。

c よって、引用発明の「センシング部3の計測結果の信号を駆動制御部4で処理した結果を表示する」「表示部」と、本願補正発明の「1又は複数のバイオメトリックセンサから取得される少なくとも1つのセンサデータから得られる情報を表示するように前記電子機器により作動されるディスプレイ」とは、「1又は複数のバイオメトリックセンサから取得される少なくとも1つのセンサデータから得られる情報を表示するように電子装置により作動されるディスプレイ」である点において共通する。

(カ)
引用発明の「生体情報収集装置」は、本願補正発明の「バイオメトリックモニタ」に相当する。

イ 一致点及び相違点

よって、本願補正発明と引用発明とは、

「 患者と機能的に結合するように構成される1又は複数のバイオメトリックセンサを有する少なくとも1つのリモートセンサ部材であって、患者の耳と結合する耳センサ部材を少なくとも含み、電力源を有さないリモートセンサ部材と、
前記1又は複数のバイオメトリックセンサからのセンサデータを処理する機器を含み、前記リモートセンサ部材を動作させるための電子装置と、
患者の首の周りに配されるネックカラー部であって、該ネックカラー部上に又は該ネックカラー部内に配される電力源を有し、ワイヤレストランシーバを有し、前記リモートセンサ部材が、該ネックカラー部から分離しており、該ネックカラー部上に配されていない、ネックカラー部と、
前記リモートセンサ部材及び前記ネックカラー部を接続する線状部材を有する通信リンクであって、前記線状部材が、前記少なくとも1つのリモートセンサ部材の前記1又は複数のバイオメトリックセンサから、前記ネックカラー部に、センサデータを伝えるデータ通信経路と、前記リモートセンサ部材の前記1又は複数のバイオメトリックセンサに電力を供給するために、前記ネックカラー部の前記電力源から、前記少なくとも1つのリモートセンサ部材に、電力を伝える電力経路と、を有する通信リンクと、
を有し、
前記1又は複数のバイオメトリックセンサから取得される少なくとも1つのセンサデータから得られる情報を表示するように前記電子装置により作動されるディスプレイを有する、バイオメトリックモニタ。」

の発明である点で一致し、次の4点で相違する。

(相違点1)
1又は複数のバイオメトリックセンサからのセンサデータを処理する機器を含み、リモートセンサ部材を動作させるための電子装置が、本願補正発明においては、「プロセッサ、メモリ及びワイヤレストランシーバを含み」、「ネックカラー部」に設けられているのに対し、引用発明においては、そのような特定がなされていない点。

(相違点2)
通信リンクの線状部材が、本願補正発明においては、「可撓性のロープ」であるのに対し、引用発明においては、そのような特定がなされていない点。

(相違点3)
少なくとも1つのリモートセンサ部材の1又は複数のバイオメトリックセンサから、ネックカラー部に、センサデータを伝えるデータ通信経路が、本願補正発明においては、「ネックカラー部の電子機器に、センサデータを伝える」ものであるのに対し、引用発明においては、そのような特定がなされていない点。

(相違点4)
ディスプレイが、本願補正発明においては、「首に取り付けられた状態で読み取り可能であるように前記ネックカラー部上に設けられる」ものであるのに対し、引用発明においては、そのように設けられたものではない点。

(4)当審の判断

ア 上記各相違点について検討する。

(ア)相違点1について

センサデータを処理する機器として、プロセッサ及びメモリを用いることは、例を示すまでもなく、本願優先日前において周知である。

引用例1の段落[0045]に「ここで図9において駆動制御部4、送信部5、電源部6は保持部2の外部に示されているが、駆動制御部4、送信部5、電源部6はLSIにより非常に小型化可能であり、保持部2の中へ実装することも可能である。」(上記摘記事項(2)ア(エ))との記載があるように、駆動制御部4を保持部2の外部に設けるか保持部2の中へ実装するかは適宜選択し得る事項であり、送信部5及び電源部6をヒトの首の周りに装着される帯状の部材に配置する引用発明において、駆動制御部4もヒトの首の周りに装着される帯状の部材に配置することは、設計的事項にすぎない。

また、機能の異なる電子回路をまとめて構成することは、例を示すまでもなく、本願優先日前において周知であり、引用発明において駆動制御部4をヒトの首の周りに装着される帯状の部材に配置するように設計する際、同じくヒトの首の周りに装着される帯状の部材に配置されている送信部5(ワイヤレストランシーバ)とまとめて構成することは、当業者が適宜採用し得る設計変更にすぎない。

してみると、引用発明において、前記本願優先日前において周知な事項を採用し、駆動制御部4をプロセッサ及びメモリを備えたものとするとともに、ヒトの首の周りに装着される帯状の部材に配置して送信部5とまとめて構成するように設計変更を施し、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(イ)相違点2について

通信経路及び電力経路を有する線状部材として、可撓性のロープを用いることは、例を示すまでもなく、本願優先日前において周知である。

よって、引用発明において、前記本願優先日前において周知な事項を採用し、線状部材を可撓性のロープで構成し、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)相違点3について

引用発明において、上記(ア)で検討した駆動制御部4をヒトの首の周りに装着される帯状の部材に配置するように設計変更を施す際、センシング部3と駆動制御部4とを接続する信号線は、ヒトの首の周りに装着される帯状の部材に配置された駆動制御部4に、センシング部3からの信号を伝えるものとなることから、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明において、上記(ア)で検討した駆動制御部4をヒトの首の周りに装着される帯状の部材に配置するように設計変更を施すことにより、必然的にもたらされる構成にすぎない。

(エ)相違点4について

引用例1の段落[0097]に「通信網51は医院内の比較的小規模な通信網でも良く」(上記摘記事項(2)ア(カ))との記載があり、引用発明は医院内で患者が装着することをも意図したものであることが明らかであることから、引用発明の表示部を設ける位置として、患者と接する医師や看護師における表示部の視認性、及び、装置の取扱いの容易性、並びに、製造の容易性及びコストを考慮して、送信部5及び電源部6が配置されている首の周りに装着される帯状の部材に表示部を設けるようにすることは、当業者が適宜選択し得る事項であり、格別な技術的困難性があるとも、特段の阻害要因があるとも認められない。

してみると、引用発明において、送信部5及び電源部6が配置されている首の周りに装着される帯状の部材に表示部を設け、首に取り付けられた状態で読み取り可能であるようにして、上記相違点4に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ 本願補正発明の奏する作用効果

本願補正発明によってもたらされる効果は、引用例1の記載事項及び本願優先日前において周知な事項から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ

以上のとおりであり、本願補正発明は、引用発明、引用例1の記載事項及び本願優先日前において周知な事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)補正の却下の決定のむすび

したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明

平成27年3月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年10月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記第2[理由]1の記載参照。)

2 引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例1の記載事項及び引用発明については、上記第2[理由]2の(2)引用例に記載したとおりである。

3 対比・判断

本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本願補正発明から、「リモートセンサ部材」が「患者の耳と結合する耳センサ部材を少なくとも含」むものであることに係る限定事項、「ネックカラー部」が「患者の首の周りに配される」ものであることに係る限定事項、及び、「ネックカラー部」が「首に取り付けられた状態で読み取り可能であるように前記ネックカラー部上に設けられるディスプレイであって、前記1又は複数のバイオメトリックセンサから取得される少なくとも1つのセンサデータから得られる情報を表示するように前記電子機器により作動されるディスプレイを有する」ものであることに係る限定事項を削除したものに相当する。

そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2[理由]2の(3)及び(4)において記載したとおり、引用発明、引用例1の記載事項及び本願優先日前において周知な事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明、引用例1の記載事項及び本願優先日前において周知な事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-29 
結審通知日 2015-11-02 
審決日 2015-11-13 
出願番号 特願2008-557442(P2008-557442)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五閑 統一郎福田 裕司  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 松本 隆彦
渡戸 正義
発明の名称 ネックカラー部に配される電子機器を有するバイオメトリックモニタ  
代理人 津軽 進  
代理人 笛田 秀仙  

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