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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B63B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B63B |
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管理番号 | 1312712 |
審判番号 | 不服2014-23588 |
総通号数 | 197 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-11-19 |
確定日 | 2016-03-22 |
事件の表示 | 特願2011-537416号「船体用ロボット」拒絶査定不服審判事件〔平成22年5月27日国際公開、WO2010/059195、平成24年4月19日国内公表、特表2012-509225号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2009年11月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理米国(US)2008年11月21日)を国際出願日とする出願であって、平成24年11月15日に手続補正書が提出され、平成25年12月13日付けで拒絶の理由が通知され、平成26年3月17日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年7月10日付けで拒絶査定がされ、同査定の謄本は平成26年7月22日に請求人に送達された。 これに対して、平成26年11月19日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同時に手続補正書が提出された。 第2 平成26年11月19日の手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成26年11月19日の手続補正を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 平成26年11月19日の手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。 なお、下線部は補正箇所を示す。 「船舶の航行中および静止中に作動可能な船体クリーニングロボットであって: 船舶の船体をクリーニングするための少なくとも1つのクリーニング装置と; 前記船体の周囲で前記ロボットを移動させるように、前記船体上に前記ロボットを保持する少なくとも1つの駆動トラックと; 前記少なくとも1つのクリーニング装置と前記少なくとも1つの駆動トラックとを別々に作動させるために、前記船体を流れ過ぎる水によって活性化される少なくとも1つのタービンと;を具備してなることを特徴とする船体クリーニングロボット。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の、平成26年3月17日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「船体クリーニングロボットであって: 船舶の船体をクリーニングするための少なくとも1つのクリーニング装置と; 前記船体の周囲で前記ロボットを移動させるように、前記船体上に前記ロボットを保持する少なくとも1つの駆動トラックと; 前記少なくとも1つのクリーニング装置と前記少なくとも1つの駆動トラックとを別々に作動させるために、前記船体を流れ過ぎる水によって活性化される少なくとも1つのタービンと;を具備してなることを特徴とする船体クリーニングロボット。」 2 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無 上記本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「船体クリーニングロボット」について、「船舶の航行中および静止中に作動可能な」という事項を付加し、限定するものであり、かつ、当該補正の前後において発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、上記事項は、本願の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内のものであるので、上記本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。 3 独立特許要件 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 1.本願補正発明 本願補正発明は、上記1 (1)に記載したとおりのものである。 2.刊行物に記載の事項及び発明 (1)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である、実願平3-75157号(実開平5-19086号)のCD-ROM(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 なお、下線は当審で加筆した。 (1a) 「 【0001】 【産業上の利用分野】 本考案は、海洋構造物の水中検査または補修等を行なう自走式の水中作業用ロボットに関し、特に移動用ローラーの前面に水中付着物の除去装置が装着された自走式の水中作業用ロボットにおいて、移動用ローラーの転接面の水中付着物の除去が上記除去装置により確実に行なえるようにした、自走式水中作業用ロボットに関する。」(段落【0001】) (1b) 「 【0011】 【作用】 上述の本考案の自走式水中作業用ロボットでは、移動用ローラーを装着された架台と水中付着生物の除去装置を装着された架台とが一体化されてロボットの本体に変向可能に取り付けられているため、ロボットの進行方向を変えるために移動用ローラーが旋回させられたとき、水中付着生物の除去装置も一緒に同一方向へ同じ角度旋回させられて、常に移動用ローラーの進行直前の走路面の水中付着生物の除去作用が行なわれる。」(段落【0011】) (1c) 「 【0015】 各さし込み軸22の下端部に、移動用ローラー2の架台4が取り付けられると共に、架台4に、移動用ローラー2の前方に位置して水中構造物の表面15の水中付着生物の除去を行なう除去装置(この除去装置はワイヤブラシ7,モーター9および回転軸8で構成される)の架台6が一体に形成されている。なおワイヤブラシ7の直径は移動用ローラー2の幅よりやや大きい寸法のものが用いられている。 【0016】 左右の移動用ローラー2は共通のモーター5により駆動軸3を介して回転駆動されるとともに、各移動用ローラー2は電磁石機能をそなえていて、鋼構造の水中構造物の表面15に吸着しながらモーター5の回転により移動することができるものである。 【0017】 そして上述の構成からなるローラーユニットが、図2,図3に示すように、ロボット本体10の前・後にそれぞれ一基づつ取り付けられている。」(段落【0015】?【0017】) (1d) 「 【0018】 図中の符号14はロボット本体10に取り付けられた水中作業装置(検査装置、補修装置等)を示している。」(段落【0018】) (1e) 「 【0019】 なお、モーター5,12はロボット本体10に搭載されたバッテリー(図示せず)を駆動源とすると共に、地上から無線式あるいは有線式の制御装置(図示せず)により各別に制御されるように構成されている。」(段落【0019】) (1f) 「 【0020】 上述の構成により、4個の移動用ローラー2がその電磁石機能により鋼構造の水中構造物の表面15に吸着しながら回転することによって、ロボットの移動が行なわれる。」(段落【0020】) (1g) 上記(1a)?(1f)及び図1?6から、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「海洋構造物の水中検査または補修等を行なう、移動用ローラー2の前面に水中付着物の除去装置が装着された自走式の水中作業用ロボットにおいて、 移動用ローラー2の前方に位置して水中構造物の表面15の水中付着生物の除去を行なう除去装置と、 移動用ローラー2が、その電磁石機能により鋼構造の前記水中構造物の表面15に吸着しながら回転することによって、前記ロボットの移動が行なわれる、移動用ローラー2と、 ワイヤブラシ7、モーター9および回転軸8で構成される前記除去装置と、モーター5により駆動軸3を介して回転駆動される前記移動用ローラー2と、地上から無線式の制御装置により各別に制御されるように構成されているモーター5、12を駆動するバッテリーをロボット本体10に搭載している、海洋構造物の水中検査または補修等を行なう、移動用ローラー2の前面に水中付着物の除去装置が装着された自走式の水中作業用ロボット。」 (2)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である、実願昭61-19362号(実開昭62-130999号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 (2a) 「上述の本考案の電源装置付き曳航型水中航走体では、回転翼車が、曳航に伴って外水により回転駆動され、発電機を駆動して発電を行ない、発生電力は、必要に応じ所要機器へ供給されるとともに、蓄電池に蓄えられる。」(明細書第3頁第11?15行) 3.対比 (1)本願補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)「海洋構造物」は、例えば、海上プラント、浮き桟橋、海上浮きタンク、備蓄船等、浮くなどして海上に存在する構造物を包含することを意味しており、船舶もその中に含まれているといえる。(例えば、特表2007-507331号公報の段落【0002】、特開昭63-20279号公報の第1頁左欄第18?20行、特開2001-123488号公報の段落【0002】、特開2005-255447号公報の段落【0002】、特開平8-82609号公報の段落【0003】の記載を参照。) したがって、引用発明の「海洋構造物」と本願補正発明の「船舶」とは、「海洋構造物」の限度で共通するといえる。 (イ)引用発明の「海洋構造物の水中検査または補修等を行なう、移動用ローラー2の前面に水中付着物の除去装置が装着された自走式の水中作業用ロボット」と、本願補正発明の「船舶の航行中および静止中に作動可能な船体クリーニングロボット」とは、いずれも水中で作業するロボットであるといえるから、「海洋構造物に用いる水中作業用ロボット」の限度で共通する。 (ウ)引用発明の「移動用ローラー2の前方に位置して水中構造物の表面15の水中付着生物の除去を行なう除去装置」についてみると、「水中構造物」は「海洋構造物」の水中部分といえることから、「水中構造物の表面15の水中付着生物の除去を行なう」ことは、「海洋構造物を清掃(クリーニング)する」ことであり、「除去装置」は「クリーニング装置」といえる。 そうすると、引用発明の「移動用ローラー2の前方に位置して水中構造物の表面15の水中付着生物の除去を行なう除去装置」と、本願補正発明の「船舶の船体をクリーニングするための少なくとも1つのクリーニング装置」とは、「海洋構造物をクリーニングするための少なくとも1つのクリーニング装置」の限度で共通するといえる。 (エ)引用発明の「移動用ローラー2が、その電磁石機能により鋼構造の前記水中構造物の表面15に吸着しながら回転することによって、前記ロボットの移動が行なわれる、移動用ローラー2」についてみると、「水中構造物」は「海洋構造物」の水中部分といえることから、「移動用ローラー2が、その電磁石機能により鋼構造の前記水中構造物の表面15に吸着しながら回転することによって、前記ロボットの移動が行なわれる」ことは、「海洋構造物の周囲でロボットを移動させるように、前記海洋構造物上に前記ロボットを保持する」ことであり、「移動用ローラー2」は、「駆動トラック」といえる。 そうすると、引用発明の「移動用ローラー2が、その電磁石機能により鋼構造の前記水中構造物の表面15に吸着しながら回転することによって、前記ロボットの移動が行なわれる、移動用ローラー2」と、本願補正発明の「前記船体の周囲で前記ロボットを移動させるように、前記船体上に前記ロボットを保持する少なくとも1つの駆動トラック」とは、「前記海洋構造物の周囲で前記ロボットを移動させるように、前記海洋構造物上に前記ロボットを保持する少なくとも1つの駆動トラック」の限度で共通するといえる。 (オ)引用発明の「ワイヤブラシ7、モーター9および回転軸8で構成される前記除去装置と、モーター5により駆動軸3を介して回転駆動される前記移動用ローラー2と、地上から無線式の制御装置により各別に制御されるように構成されているモーター5、12を駆動するバッテリーをロボット本体10に搭載している」ことの各モーター5、9、12に着目すると、機能が異なるモーターは別々に制御することが技術常識といえること、及び、「無線式の制御装置により各別に制御されるように構成されているモーター5、12を駆動する」ことから、「モーター5、12」とは機能が異なる除去装置の「モーター9」は、「モーター5、12」を無線式の制御装置により各別に制御するのと同様に、「無線式の制御装置によりモーター5、12とは各別に制御される」といえる。 そして、上記(ウ)及び(エ)の事項から、引用発明の「除去装置」及び「移動用ローラー2」は、それぞれ、「少なくとも1つのクリーニング装置」及び「少なくとも1つの駆動トラック」といえるし、引用発明の「バッテリー」と「船体を流れ過ぎる水によって活性化される少なくとも1つのタービン」とは、「動力源」の限度で共通するといえることから 引用発明の「ワイヤブラシ7、モーター9および回転軸8で構成される前記除去装置と、モーター5により駆動軸3を介して回転駆動される前記移動用ローラー2と、地上から無線式の制御装置により各別に制御されるように構成されているモーター5、12を駆動するバッテリーをロボット本体10に搭載している、海洋構造物の水中検査または補修等を行なう、移動用ローラー2の前面に水中付着物の除去装置が装着された」と、本願発明の「前記少なくとも1つのクリーニング装置と前記少なくとも1つの駆動トラックとを別々に作動させるために、前記船体を流れ過ぎる水によって活性化される少なくとも1つのタービンと;を具備してなること」とは、「前記少なくとも1つのクリーニング装置と前記少なくとも1つの駆動トラックとを別々に作動させるために、動力源と;を具備してなること」の限度で共通する。 (2)以上より、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「海洋構造物に用いる水中作業用ロボットであって: 海洋構造物をクリーニングするための少なくとも1つのクリーニング装置と; 前記海洋構造物の周囲で前記ロボットを移動させるように、前記海洋構造物上に前記ロボットを保持する少なくとも1つの駆動トラックと; 前記少なくとも1つのクリーニング装置と前記少なくとも1つの駆動トラックとを別々に作動させるために、動力源と;を具備してなる海洋構造物に用いる水中作業用ロボット。」 <相違点1> 「海洋構造物に用いる水中作業用ロボット」が、本願補正発明では、「船舶の航行中および静止中に作動可能な船体クリーニングロボット」であるのに対して、引用発明では、「海洋構造物の水中検査または補修等を行なう、移動用ローラー2の前面に水中付着物の除去装置が装着された自走式の水中作業用ロボット」である点。 <相違点2> 「クリーニング装置」が、本願補正発明では、「船舶の船体をクリーニングするための少なくとも1つのクリーニング装置」であるのに対して、引用発明では、「移動用ローラー2の前方に位置して水中構造物の表面15の水中付着生物の除去を行なう除去装置」である点。 <相違点3> 「駆動トラック」が、本願補正発明では、「前記船体の周囲で前記ロボットを移動させるように、前記船体上に前記ロボットを保持する少なくとも1つの駆動トラック」であるのに対して、引用発明では、「移動用ローラー2が、その電磁石機能により鋼構造の前記水中構造物の表面15に吸着しながら回転することによって、前記ロボットの移動が行なわれる、移動用ローラー2」である点。 <相違点4> 「動力源」に関して、本願補正発明は、「前記少なくとも1つのクリーニング装置と前記少なくとも1つの駆動トラックとを別々に作動させるために、前記船体を流れ過ぎる水によって活性化される少なくとも1つのタービンを具備してなる」のに対して、引用発明は、「ワイヤブラシ7、モーター9および回転軸8で構成される前記除去装置と、モーター5により駆動軸3を介して回転駆動される前記移動用ローラー2と、地上から無線式の制御装置により各別に制御されるように構成されているモーター5、9を駆動するバッテリーをロボット本体10に搭載している」点。 4.判断 (1)以下、相違点について検討する。 <相違点1について> (a)水中作業用ロボットで船舶の外板部分をクリーングすることは、例示するまでもない周知の技術事項であるし、作業ロボットにより船舶の外板部分を検査ないし補修すると共にクリーングすることも、周知の技術事項(例えば、実願昭56-107791号(実開昭58-14096号)のマイクロフィルムの明細書第1頁第12?15行、実願昭60-144822号(実開昭62-52096号)のマイクロフィルムの明細書第1頁第19行?第2頁第2行及び第1?3図、特開昭63-20279号公報の第1頁左欄第18行?右欄第8行及び第2頁左上欄第10?14行等参照。)であるといえる。 (b)ここで、引用発明の「海洋構造物」という事項は、上記3.(1)(ア)で述べたとおり、当業者であれば、通常、船舶も含んでいるものと理解するから、引用発明の水中作業用ロボットは船舶に用いてもよいことが実質的に開示されているといえるし、少なくとも、上記(a)の周知の技術事項に鑑みることで、引用発明の水中作業用ロボットを船舶に用いることは、格別に困難なことではない。 (c)そして、引用発明の水中作業用ロボットは、地上から無線式の制御装置により各別に制御されるように構成されているモーター5、9を駆動するバッテリーをロボット本体10に搭載し、移動用ローラー2が、その電磁石機能により鋼構造の水中構造物の表面15に吸着しながら回転することによって、ロボットの移動が行なわれる、自走式の水中作業用ロボットであるから、上記(b)で述べたとおり船舶に用いれば、引用発明の水中作業用ロボットは、船体に吸着しながら自走するといえるので、船舶の航行中および静止中に作動可能であるといえる。 (d)また、引用発明の水中作業用ロボットは、水中付着物の除去装置(クリーニング装置)が装着されており、海洋構造物の水中検査または補修等を行なうから、上記周知の技術事項に鑑みることで、水中検査または補修等の水中作業にクリーニング作業をも含めて、引用発明の水中付着物の除去装置(クリーニング装置)を、移動用ローラー2の前面部分だけでなく、ロボットが走行する部分の幅全体に渡ってクリーニングができるように構成することで、クリーニングロボットとしても構成することは、格別に困難なことではない。 (e)そもそも、引用発明の水中作業用ロボットは、水中付着物の除去装置(クリーニング装置)により水中付着物の除去(クリーニング)を行っているのであるから、クリーニングがされない部分が存在するか否かにかかわらず、クリーニングロボットであるともいえる。 (f)上記(a)?(e)の事項を総合すると、引用発明の海洋構造物の水中検査または補修等を行なう、移動用ローラー2の前面に水中付着物の除去装置が装着された自走式の水中作業用ロボット(海洋構造物に用いる水中作業用ロボット)」を、船舶の航行中および静止中に作動可能な船体クリーニングロボットとしても構成することで、上記相違点1の本願補正発明の構成に到ることは、格別に困難なことではない。 <相違点2について> (a)上記<相違点1について>(b)及び(d)で述べたとおり、引用発明をクリーニングロボットとしても構成して、船舶に用いることで、上記相違点2の本願補正発明の構成に到ることは、格別に困難なことではない。 <相違点3について> (a)上記<相違点1について>(b)で述べたとおり、引用発明を船舶に用いることで、上記相異点3の本願補正発明の構成に到ることは、格別に困難なことではない。 <相違点4について> (a)水中で用いる装置の動力源として、流れ過ぎる水によって活性化されるタービンを設け、そのタービンで発電した電力をバッテリーに充電して、必要に応じて利用することは、周知の技術事項(例えば、刊行物2の上記2.(2)(2a)の記載事項、さらに必要があれば、特開2002-12196号公報の段落【0016】【0023】及び図1?3、特開平6-99888号公報の段落【0011】【0012】【0019】及び図2、国際公開第2007-027544号の段落[0001]?[0032]及び図1?8、特開2006-160025号公報の段落【0030】及び図1?3の記載事項等を参照。)といえる。 (b)引用発明のバッテリーをロボット本体10に搭載している水中作業用ロボットも、水中で用いる装置であり、上記(a)で述べた周知の技術事項とバッテリーを搭載した水中で用いる装置という点で技術分野は同じであるから、上記<相違点1について>(b)で述べたとおり引用発明を船舶に用いる際に、この周知の技術事項を引用発明の水中作業用ロボットのバッテリーの充電に適用して、引用発明の動力源として、船体を流れ過ぎる水によって活性化されるタービンを設け、そのタービンで発電した電力をバッテリーに充電して、クリーニング装置と駆動トラックとを別々に各モーターによって作動させるために利用することで、上記相違点4の本願補正発明の構成に到ることは、格別に困難なことではない。 (c)審判請求書において、請求人は、「また上述のように、引用文献3に記載の発明では、蓄電池に蓄電するための発電機を駆動させる構成要素(回転翼車)は、蓄電池から電力供給されて駆動される構成要素と同一です。そのため、引用文献3に記載の水中航走体は「曳航されない場合に」駆動可能となるものです。また引用文献3には、水中航走体が曳航されている場合に水中航走体を自走させる技術思想は開示されておりません。・・・したがいまして、「船舶が航行中でも作動できる」船体用ロボットを提供しようと試みる当業者が、船舶が航行中には発電機として機能するため船舶の航行中には水中航走体を駆動できない発電機(電動機)しか開示しない引用文献3を参照する動機付けがありません。」と主張するが、拒絶査定では、拒絶の理由で引用された引用文献3(上記刊行物2)のタービンで発電した電力をバッテリーに充電する技術的事項について述べているのであって、発電機をモーターとして機能させて、タービンを推進装置として駆動させることについてまで述べてはいない。引用発明(原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2に記載の発明)は別のモーターによる駆動装置を備えているから、発電機をモーターとして機能させてタービンによって推進させる必要はない。 そして、上記(a)に示した周知例に記載されるように、発電機をモーターとしても機能させて充電及びタービン駆動を行う技術事項(例えば、刊行物2の上記2.(2)(2a)の記載事項、特開2006-160025号公報の段落【0030】及び図1?3等参照。)も、発電機は充電するだけでモーターとしては機能させずタービンを駆動させない技術事項(例えば、特開2002-12196号公報の段落【0016】【0023】及び図1?3、特開平6-99888号公報の段落【0011】【0012】【0019】及び図2、国際公開第2007-027544号の段落[0001]?[0032]及び図1?8等参照。)も、水中で用いる装置においては、いずれも周知の技術事項であり、発電機をモーターとして駆動するか否かは必要に応じて設定し得る事項といえるから、別のモーターによる駆動装置を備えている引用発明に、上記(a)に示した周知の技術事項(発電及び充電に係る技術事項)を適用することに阻害要因があるとはいえないので、上記の請求人の主張には首肯することができない。 (d)なお、本願補正発明及び本願の請求項2に係る発明の発明特定事項を全て含む、本願の請求項3及び4に係る発明の発明特定事項では、充電可能な電源(バッテリー)が特定されているから、本願補正発明の船体を流れ過ぎる水によって活性化されるタービンは、発電して充電可能な電源(バッテリー)に充電するために用いることが含まれることが明らかであるので、上記<相違点4について>(a)?(c)のように判断したが、本願補正発明の船体を流れ過ぎる水によって活性化されるタービンについて、本願のFIG.8に記載の実施例に示される、機械的に駆動力を駆動トラックに伝達するものまで考慮すれば、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(英国特許出願公開第2038721号明細書)に開示される技術的事項を参照することもあることを、付け加えておく。 (2)そして、本願補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知の技術事項から予測される範囲内のものにすぎず、格別に顕著なものということはできない。 (3)したがって、本願補正発明は、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明(引用発明)及び周知の技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5.本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成26年11月19日の手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?22に係る発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、平成26年3月17日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2.刊行物の記載事項及び発明 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、刊行物1及び刊行物2の記載事項は、上記第2 3 2.(1)及び(2)に示したとおりである。 また、上記刊行物1に記載された発明は、上記第2 3 2.(1)(1g)に示した「引用発明」のとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明から、「船体クリーニングロボット」についての「船舶の航行中および静止中に作動可能な」という事項の限定を省いたものである。 本願発明の構成要件を全て含む本願補正発明が、第2 3 3.及び4.で検討したとおり、引用発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明(引用発明)及び刊行物2に記載の技術事項乃至周知の技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-10-09 |
結審通知日 | 2015-10-19 |
審決日 | 2015-11-09 |
出願番号 | 特願2011-537416(P2011-537416) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(B63B)
P 1 8・ 121- Z (B63B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 志水 裕司 |
特許庁審判長 |
島田 信一 |
特許庁審判官 |
出口 昌哉 一ノ瀬 覚 |
発明の名称 | 船体用ロボット |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 志賀 正武 |