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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01L
管理番号 1312961
審判番号 不服2014-13307  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-09 
確定日 2016-03-30 
事件の表示 特願2011-506653「圧力センサー」拒絶査定不服審判事件〔2009年(平成21年)11月5日国際公開,WO2009/132983,平成23年6月30日国内公表,特表2011-519042〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続の経緯
本件出願は,特許法184条の3第1項の規定により,平成21年4月20日(優先権主張 2008年(平成20年)4月29日 欧州特許庁)にされたとみなされる特許出願であって,その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成24年11月12日:拒絶理由通知(同年同月27日発送)
平成25年 5月27日:意見書
平成25年 5月27日:手続補正
平成26年 2月25日:拒絶査定(同年3月11日送達)
平成26年 7月 9日:審判請求
平成27年 4月20日:拒絶理由通知(同年同月21日発送)
平成27年 9月 8日:手続補正(以下「本件補正」という。)
平成27年 9月 8日:意見書

2 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明は,本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載されたとおりの,以下のものである(以下,請求項4に係る発明(請求項3が請求項2を引用するもの)を「本件補正後発明4」という。)。

「【請求項1】
柔軟な薄膜(11)を含み,該薄膜(11)が該薄膜の変形に基づいて加えられた圧力値を示すことが可能な伝達装置(10)と協働するように構成され,前記薄膜(11)は,センサーの寸法を最適化できるように,少なくとも部分的にアモルファス合金で製造された圧力センサー(6)を含む時計であって,
前記アモルファス合金は,金75重量%,またはプラチナ85重量%,または銀を含むことを特徴とする時計。

【請求項2】
請求項1に記載の時計であって,前記薄膜(11)が完全にアモルファス材料から製造されていることを特徴とする時計。

【請求項3】
請求項1または2に記載の時計であって,前記アモルファス材料のヤング率に対する弾性限界の比が,0.01以上であることを特徴とする時計。

【請求項4】
請求項3の時計であって,前記アモルファス材料のヤング率が,50GPa以上であることを特徴とする時計。

【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項の時計であって,前記薄膜(11)は,円板状であり,またその周辺部において前記センサーに取付けられることを特徴とする時計。

【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項の時計であって,前記薄膜(11)が,変形表面を増やすために,非線形の輪郭形状を有していることを特徴とする時計。

【請求項7】
請求項6の時計であって,前記薄膜(11)の輪郭形状が少なくとも1つの正弦波形状を有することを特徴とする時計。

【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の時計であって,前記時計に深さ測定機能が達成されるように,前記圧力値を深さに変換する手段を,更に備えていることを特徴とする時計。」

3 当合議体による拒絶の理由
本件審判を行う審判官の合議体(以下「当合議体」という。)による拒絶の理由のうち,理由2及び4は,以下のとおりである(なお,拒絶理由通知時の請求項2は,本件補正後の請求項1に概ね対応し,また,拒絶理由通知時の請求項4?10は,それぞれ,本件補正後の請求項2?8に概ね対応する。)。

「理由2:この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。



(1) 本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,「アモルファス合金は,重量で過半分の貴金属元素を含む」との構成を具備する。
しかしながら,貴金属元素の含量について,本件出願の発明の詳細な説明には,(A)Ptが57.5%である具体的なアモルファス合金の例示,(B)プラチナ850,すなわち,Ptが85%の貴金属材料が好適であるとの言及,(C)金750,すなわち,18金の貴金属材料が好適であるとの言及,(D)パラジウム,レニウム,ルチニウム,ロジウム,銀,イリジウム又はオスニウムなど,他の貴金属も使用することができるとの言及,があるにとどまり,「重量で過半分の貴金属元素を含む」,すなわち,重量で50%を下限としてそれ以上の数値範囲が良いとする「アモルファス合金」は,記載されていない。また,貴金属元素を含むアモルファス合金について,本件出願の発明の詳細な説明には,上記(A)以外の合金組成については,具体的例示がない。さらにまた,当業者ならば,ある特定の元素の組み合わせ及び組成の場合においてのみ,アモルファス合金が安定に存在することを知っている。したがって,本件出願の発明の詳細な説明を参照しても,「重量で過半分の貴金属元素を含む」合金において,安定に存在するアモルファス合金,とりわけ,本件出願の発明の詳細な説明の段落【0002】?【0006】に記載の背景技術を前提として,段落【0008】に記載された発明が解決しようとする課題を解決するアモルファス合金が製造できると理解することができない。
本件出願の優先日時点の当業者における技術常識を考慮しても,本願発明1の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは,いえない。
したがって,本願発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(2) 本件出願の特許請求の範囲の請求項2に係る発明(以下「本願発明2」という。)は,「前記アモルファス合金は,金75重量%,またはプラチナ85重量%,または銀を含む」との構成を具備する。
しかしながら,前記(1)と同様の理由により,本件出願の優先日時点の当業者における技術常識を考慮しても,本願発明2の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは,いえない。
したがって,本願発明2は,発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(3) …(省略)…

(4) 本件出願の特許請求の範囲の請求項4に係る発明(以下「本願発明4」という。)は,「前記薄膜(11)が完全にアモルファス材料から製造されている」との構成を具備する。
しかしながら,前記(1)と同様の理由により,本件出願の発明の詳細な説明を参照しても,前記(1)?(3)の前提において「完全にアモルファス材料から製造されている」との要件を満たす圧力センサーの薄膜が製造できると理解することができない。
本件出願の優先日時点の当業者における技術常識を考慮しても,本願発明4の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは,いえない。
したがって,本願発明4は,発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(5) 本件出願の特許請求の範囲の請求項5に係る発明(以下「本願発明5」という。)は,「前記アモルファス材料のヤング率に対する弾性限界の比が,0.01以上である」との構成を具備する。
しかしながら,前記(1)と同様の理由により,本件出願の発明の詳細な説明を参照しても,前記(1)?(4)の前提において「前記アモルファス材料のヤング率に対する弾性限界の比が,0.01以上である」との要件を満たす圧力センサーの薄膜が製造できると理解することができない。
本件出願の優先日時点の当業者における技術常識を考慮しても,本願発明5の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは,いえない。
したがって,本願発明5は,発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(6) 本件出願の特許請求の範囲の請求項6に係る発明(以下「本願発明6」という。)は,「前記アモルファス材料のヤング率が,50GPa以上である」との構成を具備する。
しかしながら,前記(1)と同様の理由により,本件出願の発明の詳細な説明を参照しても,前記(1)?(5)の前提において「前記アモルファス材料のヤング率が,50GPa以上である」との要件を満たす圧力センサーの薄膜が製造できると理解することができない。
本件出願の優先日時点の当業者における技術常識を考慮しても,本願発明6の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは,いえない。
したがって,本願発明6は,発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(7) …(省略)…」

「理由4: この出願は,発明の詳細な説明の記載について下記の点で,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。



当業者ならば,ある特定の元素の組み合わせ及び組成の場合においてのみ,アモルファス合金が安定に存在することを知っている。したがって,当業者は,本件出願の発明の詳細な説明を参照しても,「Pt57.5Cu14.7Ni5.3P22.3」(段落【0030】)以外の場合について,本件出願の発明の詳細な説明の段落【0002】?【0006】に記載の背景技術を前提として,段落【0008】に記載された発明が解決しようとする課題を解決するアモルファス合金の組成及び製造方法が判らない。
よって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1?10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」

第2 当審判体の判断
1 発明の詳細な説明の記載
本件出願の発明の詳細な説明には,以下のとおり記載されている。
(1) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,柔軟な薄膜を用いる圧力センサーに関する。この薄膜は,供給される圧力を表す値を薄膜の変形に基づいて示すことができる伝達装置と協働する。」

(2) 「【背景技術】
【0002】
潜水時計が,薄膜と伝達装置とからなる圧力センサーを支持するケースを備えていることは従来から知られている。この薄膜は,外部圧力が作用することにより機械的に変形して,伝達装置を作動させる。この伝達装置は,圧力を示すこのような変形移動を伝達し,例えば,増幅してセンサーにより検出された圧力値が表示されるようにする。
【0003】
一般的に,この種のセンサーの薄膜は,例えば,銅とベリリウム(Cu-Be)から成る合金のような結晶材料から製造される。
【0004】
全ての材料は,弾性係数(一般にGPaで表される)とも呼ばれ,変形に対する材料の抵抗を表すヤング率Eによって特徴づけられる。さらに,全ての材料は又,弾性限界σ_(e)(一般にGPaで表される)によって特徴づけられ,この弾性限界は,それを超えるとその材料が塑性変形してしまう応力を表す。従って,ある与えられた厚さのもとで,各々の材料について,そのヤング率に対する弾性限界の比率σ_(e)/E を求めることにより,この比率により,各々の材料の弾性的な変形度を表して,それぞれの材料を比較することが可能になる。すなわち,この比率が高ければ,材料の弾性変形度も大きいものとされる。従来使われている結晶材料,例えばCu-Be合金は,ヤング率Eが130GPaで,弾性限界σ_(e) は代表的な場合で1GPaであり,低い比率σ_(e)/E, すなわち,0.007程度のものとなる。それ故,これらの結晶合金製の薄膜では,弾性変形度が限られている。このことは,圧力センサーを薄膜に利用する場合には,測定範囲が限られることを意味する。
【0005】
更に,弾性限界が低いために,薄膜が変形するときに,低い応力のもとで塑性変形領域の近傍まで変形することになり,その最初の形態まで回復出来ない恐れがある。このような変形を避けるために,薄膜の変形が抑制され,即ち薄膜変形の振幅が意図的に抑制されることになる。従って,伝達される変位が増幅されなければならないことが分かる。このことは,圧力センサーと更には圧力値の表示装置に,有害なノイズをもたらすことになる。
【0006】
加えて,貴金属結晶体は,その機械的特性が不十分であることを考慮すると,圧力センサーの薄膜その他の時計用の能動素子のような製品に,これらの材料を使用することは考えられない。実際,特にこれらの貴金属は,弾性限界値が低く,金,プラチナ,パラジウム及び銀合金では,従来,圧力薄膜の製造に使用されていた伝統的な結晶合金が,約1GPaであるのとは対照的に,0.5GPa程度である。これらの貴金属の弾性率は,約120GPaであり,この場合には,σ_(e)/E 比は約0.004となる。しかし,圧力薄膜の製造をするには,上記したように,高いσ_(e)/E 比が必要になる。
【0007】
従って,これらの貴金属を薄膜製造に使用するように当業者を指向させるものはなかった。」

(3) 「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は,最大応力に関して安全な幅を持ちながら,より大きな変形振幅を可能とし,より信頼性ある薄膜を提供することにより,上述した従来技術の欠点を解消する圧力センサーに関する。また,本発明は,より小さい寸法で,同等の変形振幅が可能になる薄膜を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このようなことを基礎として,本発明は,特に薄膜が,センサーの寸法を最適化するように,少なくとも部分的にアモルファス合金で製造されている,上述した圧力センサーにおいて,この金属合金が,金,プラチナ,パラジウム,レニウム,ルチニウム,ロジウム,銀,イリジウム又はオスニウムを包含するリストに含まれた,少なくとも1つの貴金属元素又は,これらの合金の1つからなることを特徴とする。
【0010】
このセンサーの有利な実施形態は,従属請求項2から8に記載される。
【0011】
驚くべきことに,アモルファス状態の貴金属は,高いσ_(e)/E 比を有し,本発明による薄膜のような部品の製造を可能にする。
【0012】
本発明による薄膜の第1の利点は,この薄膜が大きな利益をもたらす弾性特性を有することである。実際に,アモルファス材料では,弾性限界σ_(e) の増加により,σ_(e)/E 比率が増大する。これによって,材料がある応力以上で初期状態に回復しなくなる応力の限界が増加する。この比率σ_(e)/E の改良によって,より大きな変形が可能となる。このために,薄膜による測定範囲を増加させるか,又は測定範囲を同等にすると,薄膜の大きさを小さくすることにより,薄膜寸法の最適化が可能となる。
【0013】
更に,このアモルファス材料の利点は,この材料が,複雑な形状をより正確に製造できる部品設計を可能とする,成形についての新しい可能性を開くことである。実際に,アモルファス金属は,各合金に固有の特定の温度範囲(Tx-Tg)(Txは結晶化温度,Tgはガラス転移温度)において,アモルファス状態に留まりながら軟化するという特殊な特性を有する。従って,通常の温度のもとで,比較的低い応力により,それらを形成することが可能となる。この特性では,合金の粘度が著しく減少し,合金が型の全ての細部に入るようになるために,精密な形状を非常に正確に再生することが可能となる。
【0014】
更に本発明は,上記説明に一致した薄膜を有する圧力センサーを有することを特徴とする時計に関する。この時計の有利な形態は,従属請求項10の主題である。」

(4) 「【発明を実施するための形態】
【0016】
図1及び図2は,下部構造2を有する潜水時計1の断面図を示しており,該下部構造には,時計1のガラス4を保持する溝縁材3が固定される。また下部構造2に取付けられた表示ユニット5は,ガラス4の下方に配置される。
【0017】
時計1は,中間部材8に強固に取付けられたベース7によって閉じられ,この中間部材自体は,下部構造2に強固に固定されて,ケースが形成される。該時計はまた,圧力センサー6を有し,該圧力センサー6は,好ましくはケース21内部に配置される。
【0018】
圧力センサー6は,伝達装置10及び薄膜11から構成され,薄膜11は,密閉空洞部9を構成するよう取付けられる。薄膜11は,時計1のケース21内に配置され,その周辺部により支持部12に取付けられる。この構成により,薄膜11の好ましい変形が確保される。この実施形態では,支持部12は中間部材8に固定される。薄膜11が,外部環境に触れるのを確実にするために,ケース21のベース7には,複数の孔13が設けられる。これらの孔13は,図2に示されるように,圧力が薄膜11のどちら側で変化しても,薄膜11の変形を可能にする。
【0019】
更に,ケース21のベース7には,取外し可能なカバー14が嵌合しており,このカバー14は,圧力測定が必要ない場合に,クリップにより適切な位置に固定して,孔13を塞ぐことができる。このようにして,圧力センサー6の保護部が構成される。
【0020】
圧力センサー6を作動させるために,伝達装置10が薄膜11に組み合わせて使用される。すなわち,密閉空洞部9と外部環境との間の圧力差の影響で,薄膜11は,大きく又は小さく変形する。実際に,外部圧力が密封空洞部9内の圧力より高ければ,薄膜11は,図2から分かるように,空洞部9の容積を圧縮するように変形する。
【0021】
薄膜11のこの変形は,伝達装置10に作用し,伝達装置は,薄膜11が初期位置に対して変位した位置を検出する。初期位置は,好ましくは薄膜11の両側の圧力が等しい状態にあるときの位置である。変化が検出されると,伝達装置10は,例えば機械的変位により,薄膜11の変形を伝達する。
【0022】
伝達装置10による伝達圧力が表すこの変位は,次いで,場合によっては増幅し,続いて表示装置5によって利用される。この表示装置は,変形を示す変位量を変換する手段により,圧力が深さの測定値に変換される。この表示装置5は,このように圧力センサー6により測定された深さを表示するが,勿論圧力は,圧電型変換器などの他の手段によって検出されるように構成してもよい。更に,高度計又は天気予報用途など,圧力測定を利用する他の用途にも利用することができる。
【0023】
センサー6の要素は,薄膜11の変位についての所望の測定範囲を定めるために,所定の負荷仕様を使用して校正される。所望の測定範囲は,例えば深さ100メートルのように,検出して表示したい最大圧力値を表わす。薄膜11の変位は,その薄膜により可能な最大変形量を定める。このように薄膜11の特性は,これらの2つの値を基にして決定される。この薄膜は,その寸法(本実施形態による円形薄膜11では,直径と厚み)及び薄膜の製造材料とによって特徴づけられる。
【0024】
本発明において,薄膜11はアモルファス材料,又は部分的にアモルファス材料からなることが,利点をもたらす。特に,金属ガラス,即ちアモルファス金属合金が,薄膜11の形成に使われる。
【0025】
実際に,これらアモルファス金属合金の変形に関する有利性は,これらの製造時の事実から来るものであり,このアモルファス金属を形成する原子は,結晶材料の場合のように,特定の構造に配列されていない。このために,結晶材料とアモルファス材料のヤング率が同じであっても,弾性限界σ_(e) は異なるものとなる。実際に,アモルファス材料は,図5に示されるように,結晶材料の弾性限界よりも,実質的に2倍も高い弾性限界σ_(ea)を有するという違いがある。この図は,アモルファス材料(破線で示される)と結晶材料の変形εを関数とした応力σ曲線を示す。この曲線は,アモルファス材料が,弾性限界σ_(e) に到達するまでに,より大きな応力を作用させることが出来ることを示す。
【0026】
最後に,アモルファス材料から製造される薄膜11は,結晶材料から製造される薄膜11と比較して,圧力センサー6の信頼性を改良することができる。事実,弾性限界σ_(ea)がより高いので,塑性領域がより離れており,薄膜の塑性変形の危険性を低減させることを意味する。
【0027】
更に,より大きい応力に弾性的に耐えるこの能力は,より広範な測定範囲の想定を可能にする。
【0028】
更に,有利なことに,アモルファス材料から製造される薄膜11では,同じ応力が中心部に加えられる条件のもとでは,同等の変形を可能にするのに,その寸法を最適化できることが分かる。実際に,薄膜11の寸法は,その変形量を修正する。その直径が大きくなると,薄膜11の理論的な変形量も大きくなる。更に厚みが増えると,薄膜11の理論的な変形量は少なくなる。有利なことに,弾性限界が増加した場合,塑性変形させることなく薄膜11に作用させることができる応力も,また増加する。従って,その直径と厚みを減少させることにより,同じ変位振幅を維持することが可能である。
【0029】
材料自体に関しては,高いσ_(e)/E 比であれば,より有効なセンサーになることが,先ず認識される。有利なものとしては,σ_(e)/E 比が0.01以上である材料が,圧力センサー用薄膜11の変形材料として最も適切である。σ_(e)/E 比は別としても,ヤング率Eの値をある特定の限界値より大きく選ぶことによって,圧力センサーを,許容可能な容積内に収容できるようにすることが挙げられる。この好ましい限界値は,50GPaである。
【0030】
また,幾つかの特性も考慮することができる。耐食性及び非磁性の特性は,潜水時計にとって特に関係があると考えられる。使用可能なアモルファス材料の例を,以下に示す。すなわち,例として,Zr41Ti14Cu12Ni10Be23では,ヤング率Eが105GPa,弾性限界σ_(e) が1.9GPaで,σ_(e)/E 比は0.018であり,またPt57.5Cu14.7Ni5.3P22.3では,ヤング率Eが98GPa,弾性限界σ_(e) が1.4GPaで,σ_(e)/E 比は0.014である。
【0031】
一般的には,合金のアレルギー要因状態のような,関係のある他の特性がある。事実,結晶材料又はアモルファス材料のいずれであっても,アレルギー原因元素を含む合金が使用されることが多い。このような合金は,例えばコバルト,ベリリウム,又はニッケルである。従って,本発明による薄膜11の変形例は,これらのアレルギー原因元素を含まない合金により構成することができる。またアレルギー原因元素を含んでいても,アレルギー反応を生じないように構成することもできる。このためには,薄膜11に錆が発生した時に,これらアレルギー原因元素を含む薄膜11が,この元素を放出しないようにすることができる。
【0032】
本発明の他の変形例によれば,薄膜11は,貴金属で製造することができる。実際に,金又はプラチナなどの貴金属は,結晶状態では,柔軟で丈夫な薄膜11を形成するには柔らか過ぎる。しかし,これらの材料が,金属ガラス状態,即ちアモルファス状態になれば,これらの貴金属は,圧力センサー用の薄膜11を製造可能な特性を有し,また華麗で美的な良い外観を与えることができる。プラチナ850(Pt850)及び金750(Au750)は,この薄膜11の製造に使われる,特に好適な貴金属材料である。当然ながら,パラジウム,レニウム,ルチニウム,ロジウム,銀,イリジウム又はオスニウムなど,他の貴金属も使用することができる。
【0033】
アモルファス金属合金は,容易に成形できることも,また指摘することができる。実際に,アモルファス金属は,各合金に固有の一定の温度範囲(Tx-Tg)において,アモルファス状態を維持しながら軟化する,という特殊な特性を有する。従って,通常の温度のもとで,かつ比較的低応力で,これら合金の成形が可能になる。
【0034】
本発明の方法は,アモルファスのプリフォームを熱形成することからなる。このプリフォームは,炉内でアモルファス合金を構成する金属元素を溶融することで得られる。この溶融は,合金が酸素により汚染されるのが出来る限り低く抑制されるように制御される。これらの元素が溶融すると,半完成形状に,即ち薄膜11に近い寸法の円板に鋳型され,続いてアモルファス状態を維持させるために急速冷却される。プリフォームが完成すると,熱成型が行われ最終部品が得られる。この熱成型では,Tx-Tg間の温度範囲で所定時間の間,全体的又は部分的にアモルファス構造を維持した状態で,加圧が実施される。この工程は,アモルファス金属材料の特徴的な弾性特性が維持されるように実施される。薄膜11を最終成形する種々の工程をまとめると,以下のとおりである。
【0035】
a)薄膜11形状とは反対の形状を有するマトリクスを所定温度まで加熱する。
b)加熱されたマトリクス間にアモルファス金属円板を挿入する。
c)アモルファス金属円板にこれら形状の複製を作るため,マトリクスに閉じ方向の力を加える。
d)所定の最大期間の間,そのままに置く。
e)マトリクスを開く。
f)薄膜11を温度Tg以下に急速に冷却する。
g)マトリクスから薄膜11を取出す。
【0036】
この形成方法では,合金粘度が著しく減少し,合金が金型の細部全てに入るようになるために,精密形状を非常に正確に再生可能である。この方法の利点は,固化による収縮がないことであり,これによって射出成形法より低温で,より精密な部品製造が可能となる。
【0037】
当然であるが,射出成形法のような他の成型方法の使用が可能である。この方法は,金属元素を溶融させて得られる合金を,結晶状態又はアモルファス状態のいずれであっても,炉内で,どのような形状にでも,例えば棒にでも成形することができる。この合金部品は,どのような形状であっても,再び溶融され,最終部品形状を有する型に注入される。型が充填されると,合金結晶化するのを回避するためTg温度以下に急速冷却され,アモルファス又は半アモルファス状態で製造された薄膜11を得ることができる。
【0038】
このように必要とされる形状に応じて,薄膜11を形成することが可能になる。例えば,同様な手法で,その厚み及び直径により特性を変更するように,薄膜11の輪郭形状を形成することも可能である。例を挙げると,図3及び図4に示されるように,正弦波状輪郭形状を得るように,薄膜11を成形することができる。この形状は,薄膜11の表面及びその剛性を増加させる。このために,薄膜11は変形しにくくなる。この部分の構成はまた,材料の弾性変形を圧力に対する線形な関数とするのに有利である。この線形化は,薄膜11の変位を圧力値に変換する手段を簡単化するのに役立つ。
【0039】
当業者に自明である種々の変形及び/又は,改良及び/又は,これらの組合せが,添付した請求項に定められた発明から逸脱することなく,上述した本発明の種々の実施形態に適用できることは容易に理解されよう。例えば,薄膜は別の形状としてもよい。」

2 理由2について
本件補正後発明4は,「前記アモルファス合金は,金75重量%,またはプラチナ85重量%,または銀を含む」との構成を具備する。
しかしながら,本件出願の発明の詳細な説明には,(A)Ptが57.5%である具体的なアモルファス合金の例示,(B)プラチナ850,すなわち,Ptが85%の貴金属材料が好適であるとの言及,(C)金750,すなわち,18金の貴金属材料が好適であるとの言及,(D)パラジウム,レニウム,ルチニウム,ロジウム,銀,イリジウム又はオスニウムなど,他の貴金属も使用することができるとの言及,があるにとどまり,(a)金75重量%を含めば,他の材料は任意である(他の材料を考慮すると「18金の貴金属材料」として成立しない)アモルファス合金,(b)プラチナ85重量%を含めば,他の材料は任意である(他の材料を考慮すると「Ptが85%の貴金属材料」として成立しない)アモルファス合金は,いずれも,記載されていない(例えば,金75%,シリコン25%の合金はアモルファスとなり得るが,この組成は,「金750」すなわち「18金の貴金属材料」に該当しない。)。また,金75重量%,またはプラチナ85重量%,または銀を含むアモルファス合金の組成について,本件出願の発明の詳細な説明には,具体的例示がない。さらにまた,当業者ならば,ある特定の元素の組み合わせ及び組成の場合においてのみ,アモルファス合金が安定に存在することを知っているところ,本件補正後発明4のアモルファス合金ないし薄膜(11)は,「前記薄膜(11)が完全にアモルファス材料から製造されている」,「前記アモルファス材料のヤング率に対する弾性限界の比が,0.01以上である」及び「前記アモルファス材料のヤング率が,50GPa以上である」という程度にまで良好な性質を具備するものである。
そうしてみると,本件出願の発明の詳細な説明を参照しても,「金75重量%,またはプラチナ85重量%,または銀を含む」場合において,「前記薄膜(11)が完全にアモルファス材料から製造されている」という程度にまで安定に存在するアモルファス合金,とりわけ,本件出願の発明の詳細な説明の段落【0002】?【0006】に記載の背景技術を前提として,段落【0008】に記載された発明が解決しようとする課題を,「前記アモルファス材料のヤング率に対する弾性限界の比が,0.01以上である」及び「前記アモルファス材料のヤング率が,50GPa以上である」という程度にまで解決するアモルファス合金が製造できると理解することができない。

なお,請求人は,意見書3.(2)において,(段落【0032】記載の実施例では)「薄膜をプラチナ850のみか,金750のみで製造します。すなわち,アモルファス金属は,プラチナ85重量%,または金75重量%を含むことが記載されています。」と主張している。
しかしながら,仮に,「金75重量%」及び「プラチナ85重量%」を,それぞれ,「金750」及び「プラチナ850」の意味と善解しても,本件出願の発明の詳細な説明には,アモルファス合金の組成について記載されているとはいえない(例えば,「金750」には,金が75%含まれるが,それ以外の組成(銀,銅,パラジウム等)について種々のものがあることは,一般常識である。)。
したがって,本件出願の優先日時点の当業者における技術常識を考慮しても,本件補正後発明4の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは,いえない。
この出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないものである。

3 理由4について
当業者ならば,ある特定の元素の組み合わせ及び組成の場合においてのみ,アモルファス合金が安定に存在することを知っている。したがって,当業者は,本件出願の発明の詳細な説明を参照しても,本件補正後発明4の「金75重量%,またはプラチナ85重量%,または銀を含む」場合について,「前記薄膜(11)が完全にアモルファス材料から製造されている」という程度にまで安定に存在するアモルファス合金,とりわけ,本件出願の発明の詳細な説明の段落【0002】?【0006】に記載の背景技術を前提として,段落【0008】に記載された発明が解決しようとする課題を,「前記アモルファス材料のヤング率に対する弾性限界の比が,0.01以上である」及び「前記アモルファス材料のヤング率が,50GPa以上である」という程度にまで解決するアモルファス合金の組成及び製造方法が判らない。

なお,請求人は,意見書の6.において,「本願のアモルファル合金の製造方法は,段落0033から0039に記載されています。この製造方法により,当業者であれば,請求項2,4,5,6(新請求項1から4)に係る発明のアモルファル合金を製造することはできます。」と主張する。
しかしながら,例えば,段落【0033】に記載されたTx(結晶化温度)及びTg(ガラス転移温度)は,元素の組合せ及び組成比によって相違し,かつ,実験を繰り返すことにより初めて判明する値である。また,段落【0035】に記載の製造方法を実施するためには,TxとTgの差(過冷却温度範囲)が大きいこと,そして,d)の「所定の最大期間」を確保することが必要であるところ,実験を繰り返すことによって初めて見出される特別な元素の組合せ及び組成比を除いては,過冷却温度範囲は存在しないか狭く,また,d)の時間も確保困難である(その期間に結晶化が進み,完全なアモルファスとはいえなくなる。)。
したがって,この出願の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件補正後発明4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるということができないから,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。

第3 まとめ
以上のとおりであるから,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-16 
結審通知日 2015-10-27 
審決日 2015-11-11 
出願番号 特願2011-506653(P2011-506653)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G01L)
P 1 8・ 537- WZ (G01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三田村 陽平  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 堀 圭史
樋口 信宏
発明の名称 圧力センサー  
代理人 小池 勇三  
代理人 山川 茂樹  
代理人 山川 政樹  

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