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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23Q
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23Q
管理番号 1312969
審判番号 不服2014-20200  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-07 
確定日 2016-03-30 
事件の表示 特願2012-227358「電子部品用の切断装置及び切断方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年1月17日出願公開、特開2013-10180〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成20年2月29日を出願日とする特願2008-49048号の一部を、平成24年10月12日に新たな出願としたものであって、
平成24年10月17日付けで分割出願に関する上申書が提出され、
同年同月18日付けで自発補正に関する上申書が提出され、同日付けで手続補正がなされ、
同年同月19日付けで審査請求がなされ、
平成25年10月21日付けで拒絶理由通知(同年同月29日発送)がなされ、
これに対して同年12月16日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、
平成26年6月26日付けで上記平成25年10月21日付けの拒絶理由通知書に記載した理由(特許法第29条第2項)によって拒絶査定(同年7月8日謄本発送・送達)がなされたものである。

これに対して、「原査定を取り消す。本願の発明は特許すべきものとする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨として平成26年10月7日付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、
平成27年1月28日付けで上申書が提出された。
その後、当審合議体より平成27年7月3日付けで拒絶理由通知(同年同月14日発送)がなされ、
これに対して同年9月11日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 分割の適法性について
(1)特許法第44条に関する検討
本願が特許法第44条に規定される新たな特許出願とされるためには、その時期やその内容に関し複数の法定要件を満たす必要があるところ、本願に関し、分割出願の明細書、特許請求の範囲または図面に記載された事項が、原出願である特願2008-49048号の出願当初の明細書、特許請求の範囲または図面(以下、「原出願の当初明細書等」という。)に記載された技術的事項との関係において、新たな技術的特徴を導入するものでないかについて検討する。

原出願の当初明細書等には、「複数の吸引孔と複数の供給孔とを併設し、該複数の供給孔から供給された洗浄水が該複数の吸引孔を経由して吸引されることによって、外部に除去される」ことが記載されている。
一方で、「複数の吸引孔」を設けるとの発明特定事項を付すことなく、「切削水と複数の供給孔から供給された洗浄液とが複数の逃げ溝の長さ方向の全ての部分に十分な勢いで十分な量だけ行き渡ることによって、前記複数の逃げ溝の内部において溜まっている液体を治具の外部に排出する」こと、すなわち、本願の請求項5-6及び12-13に係る発明でなされた特定の内容については、対応する記載が見当たらない。
特に、原出願の当初明細書のうち、複数の供給孔に対応して記載された箇所である【0034】には、

「また、本発明によれば、複数の吸引孔(30)に加えて複数の溝(13、14)の底面に設けられた複数の供給孔(34)を備えるとともに、複数の供給孔(34)は複数の溝(13、14)に洗浄液(37)を供給する。これにより、供給孔(34)から供給された洗浄液(37)が、吸引孔(30)によって吸引されて治具(6)の外部、ひいては切断装置の外部に排出される。したがって、供給孔(34)と吸引孔(30)との間における溝(13、14)の内部が洗浄される。」(下線は当審にて付加した。)

と記載されており、「複数の供給孔」を特定事項として備える発明には、前提として「吸引孔」の存在を必要な条件とする旨が認められる。
また、「供給孔」を設けたことによって生じるとされる事項、すなわち、前記した「切削水と複数の供給孔から供給された洗浄液とが複数の逃げ溝の長さ方向の全ての部分に十分な勢いで十分な量だけ行き渡る」状態について、原出願の当初明細書等と照合したところ、逃げ溝内の液が“十分な勢い”であったり、“十分な量”とされる点は、直接的には課題を示す【0009】、【0012】、【0015】の3箇所に記載されているのみであって、逃げ溝内に十分な勢いや十分な液量をもたらすために提案された手段は、溝が延びる方向に洗浄液を噴射する、「高圧」とされた「噴射手段」が採用された箇所のみと判断される。(なお、本件の最新の特許請求の範囲には、噴射手段の設置を必要とする発明はもはや存在しない。)そして、「供給孔」から供給される洗浄液が、十分な勢い、あるいは、十分な量とされることを示す直接的な記載も、そう思わせる間接的な記載、例えば高圧で洗浄液を供給するとした記載もなされていない。
これらのことから、原出願の当初明細書等で開示された発明は、切断くずの効果的な排出を図る解決手段として、「噴射手段」を備えるか、あるいは「吸引孔」を備えることが開示されていたというべきであり、「吸引孔」を伴わずして解決しようとする課題に対する別途の解決手段の提示はなかったというべきである。
そうすると、本件の、切断くずを洗浄液の排出によって行うとされた切断装置及び切断方法に係る発明の構成として、他の請求項で備えるとされた「吸引孔」を特定事項に含まない発明、すなわち、請求項5-6及び12-13に係る発明は、原出願の当初明細書等に記載された事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。

(2)小括
以上により、本願の取扱いとしては、特許法第44条に定める新たな特許出願として扱うこととせず、現実の出願日、すなわち、平成24年10月12日を出願日とする出願であると認める。

なお、本件出願の扱いを、分割出願とすべきでない点について、上記「第1 手続の経緯」に示す当審拒絶理由通知にて審判請求人に示したところ、審判請求人は、平成27年9月11日付け意見書にて以下の意見を述べつつ、適法な分割出願である旨、および、特許法第36条第6項第1号の不備がない旨を主張している。

(意見書の抜粋)
「B.請求項5-6、12-13に係る発明がサポート要件を満たすこと
1.請求項1-14に係る発明(本願発明)の要旨について
(1)
本願発明の要旨は、「被切断物を固定面に固定する治具」の外部から「前記複数の逃げ溝に洗浄液を供給」することによって、「前記複数の逃げ溝の内部において溜まっている液体を前記治具の外部に排出することによって前記複数の逃げ溝の内部を洗浄」することです。要するに、本願発明は、「治具の外部から複数の逃げ溝に洗浄液を供給することによって、複数の逃げ溝の内部において溜まっている液体を治具の外部に排出すること」という技術的思想を中核に有するものです。このことは、例えば、次の記載から明らかです。
(a)本願の当初段落[0040](原出願の当初段落[0038])の第1文における、
「 吸着用治具6における側方(図1では前方)の近傍には、回転刃17と一体的に洗浄水用ノズル22が設けられている。」という記載。
(b)「「被切断物を固定面に固定する治具」の外部から」という点については、「 吸着用治具6における側方」という記載が対応します。
(c)本願の当初段落[0033](原出願の当初段落[0031])における、「被切断線(20)に重なる1つの溝(21)(略)に向かって(略)噴射された洗浄液(23,29)が、その1つの溝(21,26)における長さ方向の全ての部分において流動する。したがって、1つの溝(21,26)の内部に残っていた液体がその1つの溝(21,26)から除去される。」という記載。
2.「複数の吸引孔」を設けずに、単に「複数の供給孔」のみを設けることについて
(1)
頂戴したご指摘の通り、「「複数の吸引孔」を設けずに、単に「複数の供給孔」のみを設けること」については、本願の当初明細書等及び原出願の当初明細書等に明示されているわけではありません。しかし、上記1.で説明した本願発明の要旨を考慮すれば、次の記載に接した当業者であれば、「「複数の吸引孔」を設けずに、単に「複数の供給孔」のみを設けること」が本願の当初明細書等及び原出願の当初明細書等に記載されているのと同然であると理解する事項である、と考えます。
(a)本願の当初段落[0062]、[0063]、及び、当初の図6(原出願の当初段落[0060]、[0061]、及び、当初の図6)における記載。具体的には、「吸着用治具6における溝13,14の底面には、複数の吸引孔30と複数の供給孔34とが相隣り合って設けられている。」という記載、及び、「複数の供給孔34は溝13,14の内部に洗浄水37を供給する。」という記載。
(b)本願の当初段落[0073](原出願の当初段落[0071])における、「また、本発明は、上述の各実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、必要に応じて、任意にかつ適宜に組み合わせ、変更し、又は選択して採用できるものである。」という記載。
(2)
上記1. (1)において説明した技術的思想と上記 1. (1) (a)の記載とに基づいて考えれば、「治具」の外部から「前記複数の逃げ溝に洗浄液を供給」する構成要素として、
「 吸着用治具6における側方(図1では前方)の近傍に」設けられた「洗浄水用ノズル22」が本出願の当初明細書等及び原出願の当初明細書等に明記されているといえます。このこと、及び、上記2. (1) (b)において説明した「(略)必要に応じて、任意にかつ適宜に(略)変更(略)して採用できるものである。」という記載から、「洗浄水用ノズル22」に代えて「複数の供給孔34」を採用することは、当業者にとって本願の当初明細書等及び原出願の当初明細書等に記載されているのと同然であると理解する事項である、といえます。
(3)
上記 (2)の説明を言い換えれば、次の事項は、当業者にとって本願の当初明細書等及び原出願の当初明細書等に記載されているのと同然であると理解する事項です。
本願の当初段落[0040](原出願の当初段落[0038])に記載された「洗浄水用ノズル22」に代えて、本願の当初段落[0062]、[0063]、及び、当初の図6(原出願の当初段落[0060]、[0061]、及び、当初の図6)に記載された「溝13,14の内部において」設けられた「複数の供給孔34」を使用すること。
(4)
上記1. (1)で説明した「前記複数の逃げ溝の内部において溜まっている液体を前記治具の外部に排出すること」について、「複数の供給孔34」から「前記複数の逃げ溝」に供給された洗浄液と「前記複数の逃げ溝の内部において溜まっている液体」とは、次の理由に基づいて、前記治具の外部に排出されます。
その理由は、「前記複数の逃げ溝」の上部が被切断物によって覆われているということです。具体的には、「前記複数の逃げ溝」に供給された洗浄液と「前記複数の逃げ溝の内部において溜まっている液体」とにとっては、「前記複数の逃げ溝の内部」を「前記治具の外部に」向かって流動する以外に、流路が存在しないからです。
(5)
上記 (4)で説明した「前記治具の外部に排出され」る液体には、従来から使用されている「切削水用ノズル18」から「上方又は斜め上方から被切削点に向かって」吐出された切削水19が、含まれます。このことは、本願の当初段落[0007]、[0009]、及び、当初の図1-6(原出願の当初段落[0007]、[0009]、及び、当初の図1-6)に実質的に記載されています。
(6)
上記 (1)- (5)において説明したように、「複数の吸引孔」を設けずに、単に「複数の供給孔」のみを設けることは、本願の当初明細書等及び原出願の当初明細書等に記載されているのと同然であると当業者が理解する事項である、と考えます。したがって、請求項5-6、12-13に係る発明がサポート要件を満たさないという拒絶の理由は解消したものと考えます。

C.本願発明が分割の要件を満たすこと
上記B.の説明において、原出願の当初の段落番号、当初の図番等をかっこ書で記載しました。この原出願に関する説明から、本出願は「分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内である」とした要件を満たすものである、といえます。言い換えれば、請求項5-6、12-13に係る発明は、原出願の当初明細書等に実質的に記載されている内容であって、新たな技術的事項を導入するものではないといえます。したがって、本出願の請求項5-6、12-13に係る発明を含む本願発明は分割の要件を満たすので、本出願の出願日は原出願の出願日である平成20年2月29日であるものとして取り扱われるべきものであると考えます。」

上記意見の内容は、要するに、当審が通知した特許法第36条第6項第1号(サポート要件)と、分割の適法性に疑義があるとした認定に対して、まず本件出願で開示した内容が、どのような要旨であるかを、B.1.(1)に示し、問題とされた「複数の吸引孔」を伴わずに「複数の供給孔」のみを設けた発明を請求した点について、B.2.に適法とすべき根拠を示したものと見受けられる。
しかしながら、サポート要件および分割要件で共通して求められている要件は、前者が本願明細書の発明の詳細な説明、後者が原出願の当初明細書等と異なりこそすれ、いずれも開示されている事項であるか否かが重要な出発点とされるものであり、本願の要旨が何であるかに影響されるものではない。また、原出願も本件出願も、その明細書中に発明の要旨を明記する箇所はないことが明らかである以上、何を発明として示したかは、課題と解決手段から割り出すのが自然であり、請求人は、B.1.(a)、(b)を根拠としているものの、これらの箇所は解決手段として噴射手段を用いた箇所を示しており、供給孔と無関係であるから、B.2.の結論を導出するに至り得ないものとされ、妥当な論拠と扱うこともできない。
そして、原出願の当初明細書等では、溝における切断くずの除去が課題とされ、その解決手段としては噴射手段と吸引孔の2種のみが開示され、供給孔が解決手段になり得るとする記述がなされていないことは、前述のとおりである。
よって、請求人の主張は認められない。


第3 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年9月11日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

(本願発明)
「 格子状に設けられた複数の領域を有する被切断物を固定面に固定する治具と、前記固定面において前記複数の領域の境界線に重なるようにして格子状に設けられた複数の逃げ溝と、前記境界線に沿って前記被切断物を切断する回転刃とを備え、前記領域に各々対応する複数の電子部品を製造する際に使用される電子部品用の切断装置であって、
前記回転刃と前記被切断物とが接触する被切削点に向かって上方又は斜め上方から切削水を吐出する切削水用ノズルと、
格子状に設けられた前記複数の逃げ溝のそれぞれにおける底面にそれぞれ設けられた複数の吸引孔と、
前記複数の吸引孔に各々つながっている複数の吸引管とを備えるとともに、
前記被切断物には配線を有する基板と硬化樹脂とが含まれ、
前記境界線のうち1つの境界線からなる被切断線において前記被切断物が切断される際に、前記被切断線に重なる切断部逃げ溝の内部に前記回転刃の外縁が収容され、
前記複数の吸引管は前記複数の逃げ溝の内部において溜まっている液体を吸引して前記治具の外部に排出し、
前記複数の逃げ溝の内部において溜まっている液体を吸引して前記複数の吸引孔を経由して前記治具の外部に排出することによって前記複数の逃げ溝の内部を洗浄し、
前記溜まっている液体には前記切削水と前記回転刃によって発生した切断くずとが含まれ、
前記切断くずには前記硬化樹脂に起因する樹脂系切断くずと前記配線に起因する金属系切断くずとが含まれ、
前記溜まっている液体に含まれる前記切断くずが前記溜まっている液体とともに前記治具の外部に排出されることによって、前記複数の電子部品のそれぞれにおける接触不良及び短絡が防止されることを特徴とする電子部品用の切断装置。」


第4 引用文献・引用発明の認定
本願の出願日前に頒布され、当審が上記平成27年7月3日付けの拒絶理由通知において引用した、特開2009-202311号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
(下線は、当審にて付した。)

A
「【0002】
従来における被切断物の切断方式を、図7を参照して説明する。図7は、従来の被切断物の切断方式を説明する概略斜視図である。被切断物の例として、基板の複数の領域に各々装着されたチップ状の素子が樹脂封止されて形成された樹脂封止体を挙げて説明する。この例では、樹脂封止体を切断することによって、各領域に対応する複数の電子部品を製造する。なお、以下に説明するいずれの図についても、わかりやすくするために、適宜省略し又は誇張して模式的に描かれている。
【0003】
樹脂封止体1は、リードフレーム、ガラスエポキシ基板等のプリント基板、セラミックス基板等からなる基板2と、硬化樹脂3とを有する複合材料である。基板2は、仮想的に設けられた格子状の境界線4と、それらの境界線4によって区切られた複数の領域5とを有する。領域5のそれぞれには1個又は複数個のチップ状の素子(半導体チップ等からなり、以下適宜「チップ」という。)が装着され、それらのチップが硬化樹脂3によって樹脂封止されている。樹脂封止体1が有する領域5のそれぞれが切断され個片化されることによって、各領域5にそれぞれ対応する電子部品が製造される。
【0004】
樹脂封止体1を切断する電子部品用の切断装置には、樹脂封止体1を吸着固定する吸着用治具6が設けられる。吸着用治具6は、ベース7に取り付けられている。ベース7は、X方向とY方向とZ方向とに移動自在であるとともに、θ方向に回動自在に設けられている。吸着用治具6には、基板2の複数の領域5をそれぞれ吸着して保持(固定)する複数の柱状の突起8が設けられている。また、各突起8は、樹脂封止体1が領域5単位に切断されて形成された各電子部品(パッケージ)を吸着して保持する。突起8の上面には、吸着用の空間である凹部9と、凹部9に設けられた吸引孔10とが設けられている。吸引孔10は、突起8、吸着用治具6、及びベース7の内部に設けられた吸引管(図示なし)と吸引用配管11とを順次経由して、真空ポンプや減圧タンク等の吸引源12につながっている。突起8同士の間には、X方向に延びる溝13とY方向に延びる溝14とが設けられている。
【0005】
吸着用治具6の付近には、切断機構15が、Y方向に移動自在に設けられている。切断機構15には、モータ(図示なし)の回転軸16と、回転軸16に固定された回転刃17と、切削水用ノズル18とが設けられている。切削水用ノズル18が設けられている場所は、樹脂封止体1に対して切断機構15が相対的に進んでいく行き先の側であって、回転刃17の周端部が樹脂封止体1に接触する部分である被切削点付近である。また、樹脂封止体1が切断される際には、回転刃17の周端部が溝13又は溝14に収容される。
【0006】
樹脂封止体1を切断する工程では、まず、切断しようとするY方向に沿う境界線4に対して、X,Y,Z方向において回転刃17を位置合わせする。次に、樹脂封止体1に向かって切断機構15を+Y方向に移動させる。これにより、樹脂封止体1をその境界線4に沿って完全に切断する(フルカットする)ことができる。Y方向に沿う境界線4の全てにおいて樹脂封止体1を切断した後に、ベース7をθ方向に90°だけ回動させる。その後に、新たにY方向に沿うことになった境界線4のそれぞれにおいて、樹脂封止体1を完全に切断する(フルカットする)。これにより、樹脂封止体1を切断して、各領域5にそれぞれ対応する電子部品に個片化することができる。
【0007】
樹脂封止体1を切断する際に、切削水用ノズル18は、上方又は斜め上方から被切削点に向かって切削水19を吐出する。切削水19は、回転刃17と樹脂封止体1との間における加工抵抗の低減(言い換えれば潤滑)と、回転刃17と樹脂封止体1との冷却と、発生した切断くずの除去という役割をはたす。」

B
「【0011】
電子部品に付着した切断くずは、後工程において不具合を発生させるという第1の問題を引き起こす。特に、ガラスエポキシ基板等及び硬化樹脂3が切断されることによって発生する大量の樹脂系の切断くずは、接触不良の原因になる。また、基板2において配線材料として使用されている銅箔に起因する金属系の切断くずは、短絡の原因になる。更に、電子部品に付着した切断くずは、電子部品を洗浄して切断くずを完全に除去する工程が必要になるので工数が増加するという第2の問題を引き起こす。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明が解決しようとする課題は、切断装置の治具に設けられた溝における切断くずを除去することが困難であることである。」

C
「【0037】
本発明に係る切断装置の実施例1を、図1を参照して説明する。図1は、本実施例に係る切断装置の要部を示す概略斜視図である。図1に示されているように、本実施例に係る切断装置が有する吸着用治具6には、樹脂封止体1が吸着固定されている。樹脂封止体1は、Y方向に沿う1つの境界線4からなる被切断線20において回転刃17によって切断されている。その被切断線20には、Y方向に延びる溝14のうちの1つの溝である切断部溝21が、平面視した場合に重なっている。そして、切断部溝21には、回転刃17の外縁である周端部が収容される。」

D
「【実施例5】
【0057】
本発明に係る切断装置の実施例5を、図5を参照して説明する。図5は、本実施例に係る切断装置の要部を示す概略斜視図である。図5に示されているように、吸着用治具6における溝13,14の底面には、複数の吸引孔30が設けられている。複数の吸引孔30は、吸着用治具6及びベース7の内部に設けられた吸引管(図示なし)と吸引用配管31とを順次経由して、真空ポンプや減圧タンク等の吸引源32につながっている。そして、回転刃17によって樹脂封止体1が切断されている間、溝13,14の内部に溜まっている液体は、複数の吸引孔30を経由して吸引されることによって排水33として吸着用治具6の外部に除去される。
【0058】
本実施例によれば、複数の溝13,14の底面に設けられ吸引源32につながっている複数の吸引孔30によって、溝13,14の内部が吸引される。このことにより、複数の溝13,14の内部に残っており切断くずを含む液体が吸引されて吸着用治具6の外部、ひいては切断装置の外部に除去される。したがって、複数の溝13,14の内部が洗浄される。
【0059】
ところで、溝13,14の内部において複数の吸引孔30が設けられる場所と数とについては、特に限定されるものではなく任意に定めることができる。しかし、それらの場所は、図に示されているように溝13,14の交差点であることが好ましい。これにより、複数の溝13,14の内部において切断くずを含む液体が溜まりやすい交差点において、溜まっている液体が切断装置の外部に除去される効果が高まる。」

E 引用文献の図5には、実施例5に係る切断装置の要部を示す概略斜視図が図示されている。図示から、回転刃17の斜め上方に切削水用ノズル18が配置され、切削水19が供給されていること、吸着用治具(治具)8には溝13と溝14とが、前者は図中X方向に延びる溝として、後者は図中Y方向に延びる溝として示され、溝13及び14は互いに格子を形成している様が見てとれる。

認定事項ア
上記摘記事項Aより、引用文献で「被切断物」として想定している具体的な切断対象には、樹脂封止体が含まれるとされ、樹脂封止体を切断することによって「電子部品」が製造されることが理解される。
認定事項イ
上記摘記事項Bより、引用文献に示された発明が解決しようとする課題は、治具に設けられた溝における切断くずの除去を容易にすることと見られ、当該切断くずについては、樹脂系の切断くずと金属系の切断くずとが含まれること、樹脂系の切断くずは接触不良の原因となり、金属系の切断くずは短絡の原因となること、これらの切断くずの除去が図られれば、接触不良及び短絡が防止される関係にあることが理解される。

上記摘記事項A?E及び認定事項ア?イより、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「格子状に設けられた複数の領域を有する被切断物を固定面に固定する治具と、前記固定面において前記複数の領域の境界線に重なるようにして設けられた複数の溝と、前記境界線に沿って前記被切断物を切断する回転刃とを備え、前記領域に各々対応する複数の電子部品を製造する際に使用される切断装置であって、
前記被切断物における被切削点に向かって上方又は斜め上方から切削水を吐出する切削水用ノズルと、
前記複数の溝の底面に設けられた複数の吸引孔と、
前記複数の吸引孔に各々つながっている複数の吸引管とを備えるとともに、
前記被切断物には配線材料として使用されている銅箔を有する基板と硬化樹脂とが含まれ、
前記溝には、前記回転刃の外縁である周端部が収容され、
前記複数の吸引管は前記複数の溝の内部において溜まっている液体を吸引して前記治具の外部に除去され、
前記複数の溝の内部において溜まっている液体を吸引して前記複数の吸引孔を経由して前記治具の外部に排出することによって前記複数の溝の内部が洗浄され、
前記溜まっている液体には前記切削水と前記回転刃によって発生した切断くずとが含まれ、
前記切断くずには前記硬化樹脂に起因する樹脂系切断くずと前記配線に起因する金属系切断くずとが含まれ、
前記溜まっている液体に含まれる前記切断くずが前記溜まっている液体とともに前記治具の外部に排出されることによって、前記複数の電子部品のそれぞれにおける接触不良及び短絡が防止されることを特徴とする電子部品用の切断装置。」


第5 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「前記固定面において前記複数の領域の境界線に重なるようにして設けられた複数の溝」は、本願発明の「前記固定面において前記複数の領域の境界線に重なるようにして格子状に設けられた複数の逃げ溝」に相当する。
また、引用発明の「前記被切断物における被切削点に向かって上方又は斜め上方から切削水を吐出する切削水用ノズル」は、「切削」が「回転刃」と「被切断物」との接触によりなされることを考えると、本願発明の「前記回転刃と前記被切断物とが接触する被切削点に向かって上方又は斜め上方から切削水を吐出する切削水用ノズル」に相当する。
さらに、引用発明の「前記被切断物には配線材料として使用されている銅箔を有する基板と硬化樹脂とが含まれ」は、本願発明の「前記被切断物には配線を有する基板と硬化樹脂とが含まれ」に相当することも明らかである。
そうすると、引用発明の切断装置が含むとされている、その余の「複数の吸引孔」及び「複数の吸引管」とは、明らかに本願発明の「複数の吸引孔」及び「複数の吸引管」と一致し、
また、引用発明の「溝」と本願発明の「逃げ溝」とが相当関係にある点を鑑みると、被切断物の切断の際に「回転刃」が溝の内部に収容されること、吸引管が溝の内部に溜まっている液体を吸引し治具の外部に排出すること、当該排出により溝の内部が洗浄されること、当該排出により接触不良及び短絡の防止に至ることは、すべて両者の切断装置に一致して発生する事象と認められる。
そうすると、本願発明と引用発明とは、実質全ての点で一致し、相違するところがない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願に係る出願日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用発明と実質的に同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、他の請求項についての検討をするまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-15 
結審通知日 2016-01-26 
審決日 2016-02-08 
出願番号 特願2012-227358(P2012-227358)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B23Q)
P 1 8・ 113- WZ (B23Q)
P 1 8・ 121- WZ (B23Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大山 健五十嵐 康弘  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 西村 泰英
渡邊 真
発明の名称 電子部品用の切断装置及び切断方法  

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