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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1313460
審判番号 不服2014-12820  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-03 
確定日 2016-04-12 
事件の表示 特願2012- 96580「オプティカルフローに基づく傾きセンサー」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月13日出願公開、特開2012-178854〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2006(平成18)年1月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年1月7日、米国)を国際出願日とする出願である特願2007-550456号の一部を平成24年4月20日に新たな特許出願としたものであって、平成25年6月27日付けの拒絶理由通知に応答して平成25年10月2日付けで手続補正がなされ、平成25年10月25日付けの拒絶理由通知に応答して平成26年1月29日付けで手続補正がなされたが、平成26年2月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年7月3日に拒絶査定不服審判が請求された。
その後当審において、平成27年5月20日付けで最初の拒絶理由が通知されたが、それに応答して平成27年9月25日付けで手続補正がなされたものである。

第2.本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成27年9月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項27に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は次のとおりである。なお、本願発明の各構成の符号は便宜的に当審で付したものである。

(本願発明)
(A)装置に配置された画像センサーによって捕捉した複数の画像にアクセスする段階と、
(B)前記装置に配置された前記画像センサーによって捕捉した前記複数の画像中に存在する特徴群を識別する段階と、
(C)捕捉した前記複数の画像内での個々の特徴の位置の変化に基づいて、個々の特徴に対応するフローベクトルを決定する段階と、
(D)前記フローベクトルの方向及び大きさの類似性に基づいて、識別した前記特徴群を複数の特徴セットに分ける段階と、
(E)前記複数の特徴セットから、捕捉した前記複数の画像中の最大領域に広がる、及び/又は、最も多くの特徴を含む、1つの特徴セットを選択する段階と、
(F)捕捉した前記複数の画像内での第1の特徴のフローベクトルと第2の特徴のフローベクトルとの間の距離の変化に基づいて、前記装置の奥行き方向の動きの様子を検出する段階と
を有し、
(G)前記第1の特徴及び前記第2の特徴は、選択された前記1つの特徴セットに含まれ、
(H)前記第2の特徴は、前記第1の特徴とは異なるものであり、前記第1の特徴から離れた位置にあり、
(I)前記奥行き方向は、前記第1の特徴および前記第2の特徴に対して近づいたり遠ざかったりする移動の方向である
(J)ことを特徴とする方法。

第3.当審の判断
1.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)当審拒絶理由の内容
当審における平成27年5月20日付けの拒絶理由において、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨を通知した。
具体的には、平成26年1月29日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載される

「捕捉した前記画像内での第1の特徴と第2の特徴との間の距離の変化に基づいて、前記装置の奥行き方向の動きの様子を検出する段階」

という事項に関して、本件明細書の発明の詳細な説明には、段落【0035】に、

『装置の奥行き方向の動きの様子(カメラのZ軸に沿った平行移動)を検出する方法として、画像の中心から放射状に外側に向かって延びるオプティカルフローベクトルのオプティカルフロー場に基づいて、カメラのZ軸に沿った平行移動を検出すること』

が記載されているのみであり、請求項1の第1の特徴と第2の特徴との間の距離の変化を単に計測することによって、装置の奥行き方向の動きの様子(カメラのZ軸に沿った平行移動)を検出するという上記事項は、発明の詳細な説明に記載されていない事項であると指摘した。

(2)出願人の対応
その拒絶の理由に対し、出願人は、平成27年9月25日付けの手続補正により、特許請求の範囲の請求項1を、上記第2.の本願発明に示される構成(F)のとおり

「捕捉した前記複数の画像内での第1の特徴のフローベクトルと第2の特徴のフローベクトルとの間の距離の変化に基づいて、前記装置の奥行き方向の動きの様子を検出する段階」

と補正することを含めて補正すると共に、同日付けの意見書において、『「画像中の各特徴の速度ベクトルを求め、その速度ベクトルのセット(オプティカルフロー場)に基づいて、カメラのZ軸方向の移動を検出する」という動作、又は「各特徴のオプティカルフロー場(ベクトル値)によりカメラの動き、すなわちユーザー入力を特定する」という動作を行っていることが明確になるよう、本願の発明の詳細な説明の段落[0023]?[0036],[0052],[0055]等の記載に基づき、請求項1,9,15,26,27において、「複数の画像」から画像中の各特徴の「フローベクトル」を求め、そのような各特徴の「フローベクトル」に基づいて移動検出を行うことを規定しました。』と説明している。

(3)判断
しかしながら、出願人が請求項1の構成(F)に関する補正の根拠として示す段落【0023】?【0036】,【0052】,【0055】等の記載を参酌しても、意見書において『「画像中の各特徴の速度ベクトルを求め、その速度ベクトルのセット(オプティカルフロー場)に基づいて、カメラのZ軸方向の移動を検出する」という動作、又は「各特徴のオプティカルフロー場(ベクトル値)によりカメラの動き、すなわちユーザー入力を特定する」という動作を行っていることが明確になるよう、』と出願人も述べているように、オプティカルフロー場のオプティカルフローベクトルの動きに基づいて、カメラの動きの様子を検出することは記載されているものの、請求項1の構成(F)に記載されるような、オプティカルフロー場の中の第1の特徴と第2の特徴の2つの特徴のフローベクトルに注目し、その2つのフローベクトルの間の距離の変化を検出し、その検出結果を用いて装置の奥行き方向の動きの様子を検出することは、発明の詳細な説明に記載されていない。
すなわち、「第1の特徴のフローベクトルと第2の特徴のフローベクトルとの間の距離の変化に基づいて」という事項、特に、距離の変化に基づくという事項は、発明の詳細な説明のどこにも記載されていない事項である。

なお、段落【0055】に、「対応付けられたペア群は、2つの関連するカメラ画像間で特徴の位置の全体的なパスを生成する。」との記載があるが、その記載は時間的に前後するカメラ画像間における対応する特徴群をペアとすることを意味するものと認められ、2つのフローベクトルをペアとすることを意味するものではない。

(4)まとめ
以上のように、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は、依然として、発明の詳細な説明に記載されていない事項を含むものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2.予備的検討
(1)特許法第29条第2項(進歩性)の検討
以上のように、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるが、仮に、請求項1の構成(F)の「捕捉した前記複数の画像内での第1の特徴のフローベクトルと第2の特徴のフローベクトルとの間の距離の変化に基づいて、前記装置の奥行き方向の動きの様子を検出する段階」が、発明の詳細な説明の段落【0035】に記載される『画像の中心から放射状に外側に向かって延びるオプティカルフローベクトルのオプティカルフロー場に基づいて、装置の奥行き方向の動きの様子を検出すること』を表現したものとして、特許法第36条第6項1号の規定に適合するとした場合、本願発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものであるか否かについて以下に予備的に検討する。

(2)刊行物の記載事項
ア.当審における、平成27年5月20日付けの拒絶理由に引用された刊行物である特開平10-240436号公報(以下、刊行物1という)には、「情報処理装置および記録媒体」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、情報処理装置および記録媒体に関し、例えば、装置全体を移動または回動させることにより、装置の画面に表示した画像をスクロールさせたり、ズーミングさせるようにした情報処理装置および記録媒体に関する。

【0037】次に、電子カメラ1の内部の構成について説明する。図4は、図1および図2に示す電子カメラの内部の構成例を示す斜視図である。CCD20は、撮影レンズ3の後段(面X2側)に設けられており、撮影レンズ3を介して結像する被写体の光画像を電気信号に光電変換するようになされている。

【0169】次に、図18に示したフローチャートを参照して、CCD20によって時系列的に取り込まれた画像に基づいて、電子カメラ1の移動および回動を検出し、画面表示を制御する他の方法について説明する。
【0170】最初に、ステップS41において、CCD20による画像の取り込みを行う。すなわち、CPU39は、画像処理部31を制御し、CCD20が光電変換した画像信号を所定のタイミングでサンプリングする。サンプリングされた画像信号は、A/D変換回路32においてディジタルの画像データに変換され、DSP33により一旦バッファメモリ36に供給される。そして、DSP33によりバッファメモリ36に記憶された画像データが読み出され、圧縮処理が施された後、メモリカード24に供給され、記憶される。

【0173】ステップS45においては、CPU39により、メモリカード24に取り込まれた画像の中のコントラストの高い複数の部分が検出され、ステップS46において、それらの部分の画面上での座標値P_(1n)(P_(xn),P_(yn))が、例えばバッファメモリ36に記憶される。ここで、nはコントラストの高い複数の部分に対応する番号を表している。

【0176】一方、前回記憶しておいた座標値P_(0n)があると判定された場合、ステップS48に進み、前回記憶しておいた座標値P_(0n)と、いま検出した座標値P_(1n)との差ΔP_(n)(ΔP_(xn),ΔP_(yn))を求める。
【0177】次に、ステップS49に進み、CPU39により、差ΔP_(n)(ΔP_(xn),ΔP_(yn))に基づいて、電子カメラ1が、図19に示すように、撮影レンズ3の光軸方向とほぼ平行な方向に平行移動したか否かが判定される。この判定は、ステップS45において検出された複数のコントラストの高い部分の時系列的な変化に基づいて行われる。例えば、図20に示すように、CCD20によって取り込まれた画像のコントラストの高い複数の部分が、画像の中心付近から遠ざかるような動き、若しくは、画像の中心付近に向かって近づくような動きをした場合、電子カメラ1は、レンズ3の光軸方向にほぼ平行な方向に平行移動したと判定される。

イ.同じく、拒絶の理由に引用された刊行物である特開2002-374521号公報(以下、刊行物2という)には、「移動体の監視方法および装置」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。

【0029】図1は本発明になる移動体の監視装置の第1実施例であり、図2はそのフロー図、図3は、撮像装置をズーム、旋回させた場合における撮像データ上の被写体の動きの説明図である。図において1はズームレンズ2、パン・チルトを含む旋回をおこなわせる旋回装置3を持つ撮像装置、4は撮像装置1からのデータをアナログ・デジタル変換すると共に、動きベクトル検出のために撮像データを複数記憶するメモリを持つ画像入力部、5は画像入力部4に記憶された撮像データから動きベクトルを検出する動きベクトル検出部、6は動きベクトル検出部5の検出結果を元に、撮像装置1のズーム量と旋回量を検出するズーム量旋回量検出部、8は動きベクトル検出部5とズーム量旋回量検出部6からのデータを元に移動体領域を抽出する移動体領域抽出部、9は動きベクトル検出部5、ズーム量旋回量検出部6、移動体領域抽出部8からの信号で移動体を画面の中心に位置させる旋回量を計算すると共に、移動体を適度な大きさに拡大するズーム量を計算するズーム旋回制御部、10はズーム旋回制御部9からの信号で旋回装置3のパン・チルトを含む旋回を制御する旋回制御部、11はズーム旋回制御部9からの信号でズームレンズ2のズーミングを制御するズーム制御部である。
【0030】撮像装置1が撮像したデータは画像入力部4のメモリに記憶され、動きベクトル検出部5がまず図2のステップ21で、相前後する撮像データから、被写体の同一点の移動量をオプティカルフローとして動きベクトルを算出する。

【0045】しかしながら以上の説明では、旋回速度V_(0)とズーム速度mを(10)式で計算するとき、撮像データ全体を用いて計算していたが、こうすると画像中に移動体が含まれていると誤差が大きくなる。そのため、一度求めたズーム速度mと旋回速度V_(0)から、撮像データの各点Pでの動きベクトルを予測し、予測値との差の絶対値が閾値以下の点を背景領域とし、この背景領域のみの動きベクトルを用いて再計算することにより、ズーム速度mと旋回速度V_(0)の計算精度を向上させることができる。
【0046】図4は、このようにズーム速度mと旋回速度V_(0)を再計算する場合の本発明になる監視装置の第2実施例であり、図5はそのフロー図である。図中、図1、図2と同一構成要素には同一番号を付した。図4中7は、動きベクトルを再計算する動きベクトル補正部である。
【0047】図4の撮像装置1が撮像したデータは、図1と図2で説明したように図5のステップ21で動きベクトル検出部5で処理され、相前後する撮像データから被写体の同一点の移動量がオプティカルフローとして動きベクトルが算出される。そして次のステップ22で、ズーム量旋回量検出部6が、撮像装置のズーム速度mと旋回速度V_(0)を算出する。そしてこれらの値を元に移動体領域抽出部8が、ステップ23で、先に算出したズーム速度m、旋回速度V_(0)を用いて画面上の各点の予測動きベクトルを計算し、次のステップ24で、この各点の予測動きベクトルと先に算出した動きベクトルの差を取り、その絶対値が閾値以上の点を移動体上の点として移動体領域を特定し、それ以外の領域を背景領域とする。
【0048】そして、移動体がある場合は次のステップ25でそれが判断され、その次のステップ50で動きベクトル補正部7が、まず、背景領域の動きベクトルのみを用いて前記(10)式によりズーム速度m、旋回速度V_(0)を再計算する。そしてこの再計算したズーム速度m、旋回速度V_(0)を用い、ステップ51でズーム旋回制御部9が、移動体の動きベクトルから移動方向と速度、及び移動体領域の中心と画面中心との偏差を算出する。そしてステップ27で、移動体の動きベクトル、再計算したズーム速度m、旋回速度V_(0)を用い、移動体を画面中央に位置させるための旋回速度と旋回方向、及び移動体が何であるかを判別できる程度に拡大するためのズーム量を算出する。

(3)刊行物に記載された発明及び技術
ア.刊行物1に記載された発明
(ア)刊行物1の段落【0001】,【0037】,【0169】の記載によれば、刊行物1には、電子カメラにおいて、画面表示を制御するために『電子カメラの移動及び回動を検出する方法』に関する発明が記載されている。

(イ)刊行物1の段落【0037】の記載によれば、刊行物1の電子カメラは、内部にCCDが設けられており、段落【0169】,【0170】の記載によれば、CCDによって時系列的に取り込まれた画像は、メモリカードに記憶される。
そして、段落【0173】,【0176】の記載によれば、メモリカードに取り込まれた画像の中のコントラストの高い複数の部分を検出し、座標値をバッファメモリに記憶し、前回記憶しておいた座標値との差を求める。
すなわち、刊行物1の電子カメラは、『電子カメラの内部に設けられたCCDにより時系列的に取り込まれた複数の画像にアクセスし、その画像中のコントラストの高い複数の部分を検出する』という動作を行うものである。

(ウ)刊行物1の段落【0177】の記載によれば、刊行物1の電子カメラは、『複数のコントラストの高い部分の時系列的な変化に基づき、複数のコントラストの高い部分が、画像の中心付近から遠ざかるような動き、若しくは、画像の中心付近に向かって近づくような動きをした場合、電子カメラがレンズの光軸方向にほぼ平行な方向に平行移動したと判定する』という動作を行うものである。

(エ)まとめ
上記の電子カメラの動作は、それぞれ電子カメラが行う方法の段階といえるから、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明1」という)が記載されていると認められる。

(引用発明1)
(a)電子カメラの内部に設けられたCCDにより時系列的に取り込まれた複数の画像にアクセスする段階、
(b)その画像中のコントラストの高い複数の部分を検出する段階、
(c)複数のコントラストの高い部分の時系列的な変化に基づき、複数のコントラストの高い部分が、画像の中心付近から遠ざかるような動き、若しくは、画像の中心付近に向かって近づくような動きをした場合、電子カメラがレンズの光軸方向にほぼ平行な方向に平行移動したと判定する段階、
(d)を有する電子カメラの移動及び回動を検出する方法。

イ.刊行物2に記載された技術
刊行物2の段落【0029】,【0030】,【0047】の記載によれば、刊行物2には、ズームレンズ及び旋回装置を持つ撮像装置において、撮像しメモリに記憶された相前後する撮像データから、被写体の同一点の移動量をオプティカルフローとして動きベクトルを算出し、撮像装置のズーム測度と旋回速度を算出する技術が記載されている。
そして、刊行物2の段落【0045】?【0048】の記載によれば、撮像データ全体を用いてズーム速度及び旋回速度を計算すると、画像中に移動体が含まれていると誤差が大きくなるため、一度求めたズーム速度、旋回速度から撮像データの各点での動きベクトルを予測し、予測値との差の絶対値が閾値以上の点を移動体領域とし、予測値との差の絶対値が閾値以下の点を背景領域として、この背景領域のみの動きベクトルを用いて、ズーム速度と旋回速度を再計算することが記載されている。

すなわち、刊行物2には、撮像データの各点での動きベクトルに基づいて、撮像装置のズーム速度、旋回速度を計算する技術において、撮像データ全体を用いてズーム速度及び旋回速度を計算すると、画像中に移動体が含まれていると誤差が大きくなるという問題に対応し、撮像データ全体の動きベクトルを用いて予測されたオプティカルフローとしての動きベクトルと類似する程度によって、撮像データの各点を移動体領域と背景領域とに分け、撮像データ全体の動きベクトルと類似する背景領域のみの動きベクトルを用いて、ズーム速度と旋回速度を再計算する技術が記載されている。

(4)対比
本願発明と引用発明1とを対比する。

ア.本願発明の構成(A)と、引用発明1の構成(a)の対比
引用発明1の電子カメラはCCDを備えており、CCDは画像センサーである。そして、電子カメラは画像センサーを備えた装置といえる。
したがって、引用発明1の構成(a)の「電子カメラの内部に設けられたCCDにより時系列的に取り込まれた複数の画像にアクセスする段階」は、本願発明の構成(A)の「装置に配置された画像センサーによって捕捉した複数の画像にアクセスする段階」と一致する。

イ.本願発明の構成(B)と、引用発明1の構成(b)の対比
引用発明1の構成(b)は、画像中のコントラストの高い複数の部分を検出するものであり、画像中のコントラストの高い部分とは、輝度の差が大きいエッジなどの部分であって画像中の特徴のある部分のことである。
そして、その特徴の有る部分を複数検出していることから、特徴の有る部分の群、すなわち特徴群を検出しているといえる。
また、引用発明1の構成(b)の「その画像」は、上記ア.において示したように、「装置に配置された画像センサーによって捕捉した複数の画像」である。
そうすると、引用発明1の構成(b)の「その画像中のコントラストの高い複数の部分を検出する段階」は、本願発明の構成(B)の「前記装置に配置された前記画像センサーによって捕捉した前記複数の画像中に存在する特徴群を識別する段階」と一致する。

ウ.本願発明の構成(C)と、引用発明1の構成(c)の対比
引用発明1の構成(c)の「複数のコントラストの高い部分の時系列的な変化に基づき、複数のコントラストの高い部分が、画像の中心付近から遠ざかるような動き、若しくは、画像の中心付近に向かって近づくような動きをした場合」とは、複数のコントラストの高い部分の時系列的な変化に基づき、複数のコントラストの高い部分が、画像の中心付近から遠ざかるような動き、若しくは、画像の中心付近に向かって近づくような動きをしていることを検知するものである。
ここで、引用発明1の「コントラストの高い部分」は、上記イ.の検討を参酌すれば「捕捉した複数の画像中の特徴」に相当し、「複数のコントラストの高い部分の時系列的な変化」は、「個々の特徴の位置の変化」に相当する。
また、「複数のコントラストの高い部分の時系列的な変化に基づき、複数のコントラストの高い部分が、画像の中心付近から遠ざかるような動き、若しくは、画像の中心付近に向かって近づくような動きをしていることを検知する」ということは、時系列的な画像中の特徴の位置の変化と動きの方向を検出しているのであるから特徴のフローベクトルを検知するものといえる。
すなわち、引用発明1の構成(C)の上記構成は、「補足した複数の画像中の個々の特徴の位置の変化に基づき、個々の特徴のフローベクトルを検知する」ものといえ、本願発明の構成(C)の「捕捉した前記複数の画像内での個々の特徴の位置の変化に基づいて、個々の特徴に対応するフローベクトルを決定する段階」と一致する。

エ.本願発明の構成(D)及び(E)について
本願発明は、本願明細書の段落【0056】ないし【0059】に記載されるように、「環境が静的であるという保証は無く、それ自体が動いている特徴によってカメラの動きを誤って推定してしまう可能性がある」ことを考慮し、「特徴を静的特徴と動的特徴とに別け」て、「最も重要な特徴群のセット」である「静的背景」を「平行かつ同等の大きさを持ち画像の中の最大領域に広がり、および/または最も多い数の特徴を有する特徴群のセットを選択することによって」選択しているものである。
それに対し、引用発明1は、そのような「それ自体が動いている特徴」の存在を想定していない理想的な環境下における技術であることから、本願発明の構成(D)の「前記フローベクトルの方向及び大きさの類似性に基づいて、識別した前記特徴群を複数の特徴セットに分ける段階」、及び構成(E)の「前記複数の特徴セットから、捕捉した前記複数の画像中の最大領域に広がる、及び/又は、最も多くの特徴を含む、1つの特徴セットを選択する段階」を有していない点で本願発明と相違する。

オ.本願発明の構成(F)と、引用発明1の構成(c)の対比
引用発明1の構成(c)は、「複数のコントラストの高い部分の時系列的な変化に基づき、複数のコントラストの高い部分が、画像の中心付近から遠ざかるような動き、若しくは、画像の中心付近に向かって近づくような動きをした場合、電子カメラがレンズの光軸方向にほぼ平行な方向に平行移動したと判定する段階」であり、この構成は、上記ウ.の検討を参酌すれば、捕捉した複数の画像内での個々の特徴に対応するフローベクトルを決定し、そのフローベクトルが、画像の中心付近から遠ざかるような動き、若しくは、画像の中心付近に向かって近づくような動きであれば、電子カメラがレンズの光軸方向にほぼ平行な方向に平行移動したと判定するというものである。
また、電子カメラがレンズの光軸方向にほぼ平行な方向に平行移動したと判定するということは、レンズの光軸方向が電子カメラの奥行き方向であるから、装置の奥行き方向に平行移動したこと、すなわち、装置の奥行き方向の動きの様子を検出することといえる。
そして、上記(1)において仮定したように、本願発明の構成(F)は、『画像の中心から放射状に外側に向かって延びるオプティカルフローベクトルのオプティカルフロー場に基づいて、装置の奥行き方向の動きの様子を検出すること』を表現したものとすると、引用発明1の構成(c)の『捕捉した複数の画像内での個々の特徴に対応するフローベクトルを決定し、そのフローベクトルが、画像の中心付近から遠ざかるような動き、若しくは、画像の中心付近に向かって近づくような動きであれば、電子カメラがレンズの光軸方向にほぼ平行な方向に平行移動したと判定する(装置の奥行き方向の動きの様子を検出する)』という構成は、フローベクトルがオプティカルフローベクトルに相当し、フローベクトルの動きがオプティカルフロー場に相当するものであるから、その仮定した構成(F)と一致するものである。
よって、引用発明の構成(c)は、上記(1)において仮定した構成に対応する本願発明の構成(F)の「捕捉した前記複数の画像内での第1の特徴のフローベクトルと第2の特徴のフローベクトルとの間の距離の変化に基づいて、前記装置の奥行き方向の動きの様子を検出する段階」と一致するものである。

カ.本願発明の構成(G)ないし(I)と、引用発明1の構成(c)の対比
引用発明1は、本願発明の構成(D)及び(E)を有していないことに起因して、本願発明の構成(G)の「前記第1の特徴及び前記第2の特徴は、選択された前記1つの特徴セットに含まれ」という事項を有していない点で、本願発明と相違する。

引用発明1の構成(c)は、上記イ.における認定を援用すれば、引用発明1の「コントラストの高い部分」は本願発明の「特徴」に相当し、「複数のコントラストの高い部分」、すなわち複数存在する特徴の各々を、第1の特徴または第2と特徴と称するとこは任意のことであるから、引用発明1の「複数のコントラストの高い部分」が本願発明の「第1の特徴」及び「第2の特徴」に相当する。
この「複数のコントラストの高い部分」は、上述した「選択された前記1つの特徴セットに含まれ」という特定はないものの、画像内での異なる部分であり、かつ、離れた位置にあるものである。

よって、引用発明1は、本願発明の構成(H)の「前記第2の特徴は、前記第1の特徴とは異なるものであり、前記第1の特徴から離れた位置にあり」という事項を有しているといえる。

また、この「複数のコントラストの高い部分」は、「電子カメラがレンズの光軸方向にほぼ平行な方向に平行移動したと判定する」ことに利用された「複数のコントラストの高い部分」であるから、電子カメラがレンズの光軸方向にほぼ平行な方向に平行移動することに伴い、電子カメラは画像内の「複数のコントラストの高い部分」に対応する被写体に近づいたり遠ざかったりすることとなる。
そして、上記オ.における認定を援用すれば、引用発明1の「電子カメラがレンズの光軸方向にほぼ平行な方向に平行移動した」ということは、本願発明の「装置の奥行き方向の動きの様子」であるから、この「装置の奥行き方向の動き」は、「複数のコントラストの高い部分」、すなわち、「第1の特徴」及び「第2の特徴」に近づいたり遠ざかったりすることである。
よって、引用発明1は、本願発明の構成(I)の「前記奥行き方向は、前記第1の特徴および前記第2の特徴に対して近づいたり遠ざかったりする移動の方向である」という事項を有しているといえる。

キ.本願発明の構成(J)と、引用発明1の構成(d)の対比
引用発明の構成(d)の「電子カメラの移動及び回動を検出する方法」は、上記ア.ないしカ.において検討したように、複数の画像内の特徴のフローベクトルに基づいて、装置の奥行き方向の動きの様子を検出する方法である点において、本願発明の構成(J)の「方法」に相当するものである。

(5)一致点・相違点
上記(4)のア.ないしキ.の対比結果を踏まえると、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は次の通りである。

[一致点]
装置に配置された画像センサーによって捕捉した複数の画像にアクセスする段階と、
前記装置に配置された前記画像センサーによって捕捉した前記複数の画像中に存在する特徴群を識別する段階と、
捕捉した前記複数の画像内での個々の特徴の位置の変化に基づいて、個々の特徴に対応するフローベクトルを決定する段階と、
捕捉した前記複数の画像内での第1の特徴のフローベクトルと第2の特徴のフローベクトルとの間の距離の変化に基づいて、前記装置の奥行き方向の動きの様子を検出する段階と
を有し、
前記第2の特徴は、前記第1の特徴とは異なるものであり、前記第1の特徴から離れた位置にあり、
前記奥行き方向は、前記第1の特徴および前記第2の特徴に対して近づいたり遠ざかったりする移動の方向である
ことを特徴とする方法。

[相違点1]
引用発明1は、本願発明の「前記フローベクトルの方向及び大きさの類似性に基づいて、識別した前記特徴群を複数の特徴セットに分ける段階」、及び「前記複数の特徴セットから、捕捉した前記複数の画像中の最大領域に広がる、及び/又は、最も多くの特徴を含む、1つの特徴セットを選択する段階」を有していない点。

[相違点2]
引用発明1は、上記相違点1に起因して、本願発明の「前記第1の特徴及び前記第2の特徴は、選択された前記1つの特徴セットに含まれ」という事項を有していない点。

(6)相違点の判断
[相違点1及び相違点2について]
上記(3)イ.に示したように、刊行物2には、撮像データの各点での動きベクトルに基づいて、撮像装置のズーム速度、旋回速度を計算する技術において、撮像データ全体を用いてズーム速度及び旋回速度を計算すると、画像中に移動体が含まれていると誤差が大きくなるという問題に対応し、撮像データ全体の動きベクトルを用いて予測されたオプティカルフローとしての動きベクトルと類似する程度によって、撮像データの各点を移動体領域と背景領域とに分け、撮像データ全体の動きベクトルと類似する背景領域のみの動きベクトルを用いて、ズーム速度と旋回速度を再計算する技術が記載されており、同じ撮像装置である引用発明1の電子カメラおける移動及び回動を検出する方法において、理想的な環境下ではなく、現実に起こり得る画像中に移動体が含まれていることを考慮して刊行物2に記載される技術を適用することは当業者が容易に想到し得ることである。
そして、上記(4)エ.に示したように、本願発明は、「環境が静的であるという保証は無く、それ自体が動いている特徴によってカメラの動きを誤って推定してしまう可能性がある」ことを考慮し、「特徴を静的特徴と動的特徴とに別け」て、「最も重要な特徴群のセット」である「静的背景」を「平行かつ同等の大きさを持ち画像の中の最大領域に広がり、および/または最も多い数の特徴を有する特徴群のセットを選択することによって」選択しているものであるが、背景領域とは、一般に画像中で大きな範囲を有し、検出される特徴点の数も多くなることは自明のことであるから、引用発明1に刊行物2記載の背景領域のみの動きベクトルを用いる技術を適用する際に、画像中で大きな範囲を有し、検出される特徴点の数も多くなる領域を背景領域とすることも、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、引用発明1に刊行物2に記載される技術を適用し、画像中のコントラストの高い複数の部分の時系列的な変化の類似性に基づいて、コントラストの高い複数の部分を複数のセットに分けるようにし、相違点1に係る「前記フローベクトルの方向及び大きさの類似性に基づいて、識別した前記特徴群を複数の特徴セットに分ける段階」を有するものとすること、画像中で最も大きな範囲、最も多くのコントラストの高い複数の部分が存在する背景領域を選択するものとし、相違点1に係る「前記複数の特徴セットから、捕捉した前記複数の画像中の最大領域に広がる、及び/又は、最も多くの特徴を含む、1つの特徴セットを選択する段階」を有するものとすること、そして、その背景領域のコントラストの高い複数の部分を用いることとし、相違点2に係る「前記第1の特徴及び前記第2の特徴は、選択された前記1つの特徴セットに含まれ」るものとすることは、当業者が容易になし得ることである。

(7)効果等について
本願発明の構成は、上記のように当業者が容易に想到できたものであるところ、本願発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測しうる範囲内のものであり、同範囲を超える格別顕著なものがあるとは認められない。

(8)まとめ
以上のとおり、本件特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許法第36条第6項1号の規定に適合すると仮定したとしても、本願発明は引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4.むすび
以上のように、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないため、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしておらず、また、刊行物1に記載された発明、及び刊行物2に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-10 
結審通知日 2015-11-16 
審決日 2015-11-30 
出願番号 特願2012-96580(P2012-96580)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04N)
P 1 8・ 537- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高野 美帆子  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 戸次 一夫
清水 正一
発明の名称 オプティカルフローに基づく傾きセンサー  
代理人 村山 靖彦  
代理人 黒田 晋平  

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