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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12P
管理番号 1314105
審判番号 不服2014-3975  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-03 
確定日 2016-05-06 
事件の表示 特願2012-236592「抗体のフレームワーク・シャッフル」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月24日出願公開、特開2013- 13425〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年3月17日(パリ条約による優先権主張 平成17年3月18日(2005.03.18),米国[以下,「第1優先権主張」という。] 平成17年4月28日(2005.04.28) 米国[以下,「第2優先権主張」という。])を国際出願日とする特願2008-502101号の一部を,特許法第44条第1項の規定により平成24年10月26日に新たな特許出願として分割したものであって,平成25年10月31日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,平成26年3月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,同時に手続補正書が提出されたものである。
その後,当審において,平成27年6月16日付けで拒絶理由通知書が出され,これに対して,同年10月23日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?14に係る発明は,平成27年10月23日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載の事項により特定される発明であると認める。
そのうち,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次の事項により特定される発明である。
「【請求項1】
抗原と免疫特異的に結合するヒト化抗体を作製する方法であって,
(a)改変された重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列をそれぞれ含む複数のポリヌクレオチド配列を合成するステップであって,前記ヌクレオチド配列は重鎖フレームワーク領域1をコードする核酸配列,重鎖CDR1をコードする核酸配列,重鎖フレームワーク領域2をコードする核酸配列,重鎖CDR2をコードする核酸配列,重鎖フレームワーク領域3をコードする核酸配列,重鎖CDR3をコードする核酸配列,および重鎖フレームワーク領域4をコードする核酸配列を同時に融合することにより作製され,重鎖CDR1,重鎖CDR2,及び重鎖CDR3は前記抗原と免疫特異的に結合するドナー抗体重鎖可変領域由来でありかつ重鎖フレームワーク領域1,2,3および4をコードする該核酸配列はそれぞれ,ヒト重鎖フレームワーク領域をそれぞれコードする複数の核酸配列を含むサブバンク由来である前記ステップ;
(b) 前記ポリヌクレオチド配列を細胞中に導入し,かつドナー軽鎖可変領域,ヒト化軽鎖可変領域および改変された軽鎖可変領域からなる群より選択される軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド配列を該細胞中に導入するステップ,ここで該軽鎖CDRは前記ドナー抗体軽鎖可変領域由来である;
(c) 改変された重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を発現させるステップ;
(d) 抗原と免疫特異的に結合する改変された抗体をスクリーニングするステップ;ならびに
(e) 改善された平衡解離定数(K_(D)),改善された血清半減期,改善された有効期間,変化したpI,改善された溶解度,および改善された産生レベルからなる群より選択される1以上の改善されたおよび/または変化した特性を有する改変された抗体をスクリーニングするステップであって,前記改善および/または変化がドナー抗体と比較して約1%?500%であるかまたはドナー抗体と比較して2倍?1000倍であるステップ
を含んでなる前記方法。」

第3 引用刊行物記載の事項
当審の拒絶理由で引用され,本願第1優先日(2005年3月18日)前に頒布された刊行物である
刊行物1:米国特許公開第2005/0048617号明細書(2005年3月3日公開)
及び,本願第1優先日前の周知技術として引用された刊行物である
刊行物4:特開平7-303492号公報
刊行物5:特表平8-502963号公報
刊行物7:米国特許公開第2003/010968号明細書
には,次の事項が記載されている。
なお,刊行物1及び刊行物7の翻訳は当審によるものであり,下線は当審にて付記したものである。
1 刊行物1記載の事項
(刊1-1)「[0504]59. ある抗原と免疫特異的に結合するヒト化抗体を作製する方法であって,下記のステップ:
[0505](a)軽鎖フレームワーク領域のサブバンクを作製するステップ,
[0506](b)重鎖フレームワーク領域のサブバンクを作製するステップ,
[0507](c)ヒト化重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含む核酸配列を合成するステップ,ただし,前記ヌクレオチド配列は,重鎖フレームワーク領域1をコードする核酸配列,重鎖CDR1をコードする核酸配列,重鎖フレームワーク領域2をコードする核酸配列,重鎖CDR2をコードする核酸配列,重鎖フレームワーク領域3をコードする核酸配列,重鎖CDR3をコードする核酸配列,および重鎖フレームワーク領域4をコードする核酸配列を一緒に融合することにより合成され,その際,少なくとも1つのCDRは抗原と免疫特異的に結合するドナー抗体由来の重鎖CDRのサブバンクから得られたものであり,また,少なくとも1つの重鎖フレームワーク領域はヒト重鎖フレームワーク領域のサブバンクから得られたものであること,
[0508](d)ヒト化軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含む核酸配列を合成するステップ,ただし,前記ヌクレオチド配列は,軽鎖フレームワーク領域1をコードする核酸配列,軽鎖CDR1をコードする核酸配列,軽鎖フレームワーク領域2をコードする核酸配列,軽鎖CDR2をコードする核酸配列,軽鎖フレームワーク領域3をコードする核酸配列,軽鎖CDR3をコードする核酸配列,および軽鎖フレームワーク領域4をコードする核酸配列を一緒に融合することにより合成され,その際,少なくとも1つのCDRは抗原と免疫特異的に結合するドナー抗体由来の軽鎖CDRのサブバンクから得られたものであり,また,少なくとも1つの軽鎖フレームワーク領域はヒト軽鎖フレームワーク領域のサブバンクから得られたものであること,
[0509](e)前記核酸配列を細胞に導入するステップ,
[0510](f)ヒト化重鎖可変領域およびヒト化軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を発現させるステップ,
を含んでなる上記方法。
・・・
[0536]65. (g)抗原と免疫特異的に結合するヒト化抗体をスクリーニングするステップをさらに含む,実施形態56,57,58または59に記載の方法。」

(刊1-2)「[0063] 本発明は,抗原と免疫特異的に結合する抗体を同定する方法を提供し,前記方法は,本明細書に記載するように細胞において前記核酸配列を発現させ,抗原に対して少なくとも1×10^(6)M^(-1),少なくとも1×10^(7)M^(-1),少なくとも1×10^(8)M^(-1),少なくとも1×10^(9)M^(-1),少なくとも1×10^(10)M^(-1)またはそれ以上の親和性を有する抗体についてスクリーニングすることを含んでなる。・・・」

(刊1-3)「典型的な実施形態
[0404] 1. ヒト化重鎖可変領域をコードする第1のヌクレオチド配列を含む核酸配列であって,前記ヒト化重鎖可変領域をコードする第1のヌクレオチド配列は,重鎖フレームワーク領域1をコードする核酸配列,重鎖相補性決定領域(CDR)1をコードする核酸配列,重鎖フレームワーク領域2をコードする核酸配列,重鎖CDR2をコードする核酸配列,重鎖フレームワーク領域3をコードする核酸配列,重鎖CDR3をコードする核酸配列,および重鎖フレームワーク領域4をコードする核酸配列を一緒に融合することにより作製されたものであり,その際,前記CDRはドナー抗体の重鎖可変領域に由来し,各重鎖フレームワーク領域はヒト重鎖フレームワーク領域のサブバンクから得られるものである,上記核酸配列。
[0405] 2. ヒト化軽鎖可変領域をコードする第1のヌクレオチド配列を含む核酸配列であって,前記ヒト化軽鎖可変領域をコードする第1のヌクレオチド配列は,軽鎖フレームワーク領域1をコードする核酸配列,軽鎖CDR1をコードする核酸配列,軽鎖フレームワーク領域2をコードする核酸配列,軽鎖CDR2をコードする核酸配列,軽鎖フレームワーク領域3をコードする核酸配列,軽鎖CDR3をコードする核酸配列,および軽鎖フレームワーク領域4をコードする核酸配列を一緒に融合することにより作製されたものであり,その際,前記CDRはドナー抗体の軽鎖可変領域に由来し,各軽鎖フレームワーク領域はヒト軽鎖フレームワーク領域のサブバンクから得られるものである,上記核酸配列。」

(刊1-4)「[0370] ペプチド,ポリペプチド,タンパク質,融合タンパク質,および抗体に関しては,患者に投与する投与量は,典型的には0.01mg/kg?100mg/kg 患者体重である。好ましくは,患者に投与する投与量は,0.1mg/kg?20mg/kg 患者体重,より好ましくは1mg/kg?10mg/kg 患者体重である。一般的に,ヒト抗体およびヒト化抗体は,外来性ポリペプチドに対する免疫応答による他の生物種由来の抗体よりも,ヒト体内で長い半減期を有する。したがって,ヒト抗体は多くの場合,より少ない投与量およびより少ない投与回数が可能である。」

4 刊行物4記載の事項
(刊4-1)「【0008】沈殿法による蛋白質の分離は,Albert,L.Lehninger:Biochemistry,第2版,The John Hopkins School of Medicine(1975),“The MolecularBasis of Cell Structure and Functionに論じられている。この教科書には,溶液中の蛋白質の溶解度は,pH,イオン強度,温度および溶媒の誘電率の関数として著しく変化すること,また蛋白質は,その等電点pH,すなわちその分子が正味の電荷をもたないPhで最も溶解し難いことが説明されている。このような条件下には,蛋白質は合体して沈殿しやすい。ある種の蛋白質はそれらの等電点pHでは事実上不溶で,この文献に述べられているように,溶解している異種の蛋白質が異なる等電点pH値を有するときは,多くの場合,それらは等電点沈殿法で互いに分離させることができる。」

5 刊行物5記載の事項
(刊5-1)「実施例25
中性pHの水性緩衝液における向上した溶解性の特徴付け
単一部位アミノ酸置換により修飾ソマトトロピンの中性の水性緩衝液における溶解性が有意に変化したか否かを確認するため,該化合物を特徴付けする。野生型および修飾ソマトトロピンを,前記の詳細な説明の節で記載した透析を介して試験する。その結果を表IVに示す。
これらのデータは,単一部位のアミノ酸置換がこのタンパク質の溶解性に有意な影響を与え得ることを示している。例えば,疎水性アミノ酸の比較的親水性のアミノ酸での置換で溶解性を向上できる。加えて,該タンパク質の等電点の変化により溶解性を向上できる。(等電点とは,該タンパク質が正味の帯電を有しないpHである)。」(明細書38頁6?16行)

6 刊行物7記載の事項
(刊7-1)[0020]本明細書で使用する場合,用語”フレームワーク修正”は,個々の相補性決定領域を取り巻く可変領域における単一又は複数のアミノ酸の置換,欠失又は付加をいう。フレームワーク修正は,抗体蛋白質の免疫原性,生産性又は結合等異性に影響を与え得る。」

(刊7-2)「[0064]軽鎖可変領域バージョンA,B,およびCは,CHO細胞において,実質的な生産性向上を実証する。軽鎖可変領域バージョンA及びCは,たった2つの共通アミノ酸残基で軽鎖可変領域バージョンBと異なるが,それらは生産性におけるさらなる実質的な改善を示す。ヒトに再構成されたF19軽鎖バージョンBとバージョンC又はAとの間の抗体分泌レベルにおいて,少なくともさらに10倍の違いがある。ヒト再構成されたF19軽鎖バージョンA及びBは,26位(TyrからPhe変異)及び87位(TyrからAsp変異)(カバット命名法に従う)の2つのアミノ酸残基でそれらのアミノ酸配列が異なる。・・・」

第4 刊行物1記載の発明
刊行物1の請求項59を引用する請求項65(刊1-1)の記載からみて,刊行物1には次の発明(以下,「引用発明」といる。)が記載されていると認められる。
「ある抗原と免疫特異的に結合するヒト化抗体を作製する方法であって,下記のステップ:
(a)軽鎖フレームワーク領域のサブバンクを作製するステップ,
(b)重鎖フレームワーク領域のサブバンクを作製するステップ,
(c)ヒト化重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含む核酸配列を合成するステップ,ただし,前記ヌクレオチド配列は,重鎖フレームワーク領域1をコードする核酸配列,重鎖CDR1をコードする核酸配列,重鎖フレームワーク領域2をコードする核酸配列,重鎖CDR2をコードする核酸配列,重鎖フレームワーク領域3をコードする核酸配列,重鎖CDR3をコードする核酸配列,および重鎖フレームワーク領域4をコードする核酸配列を一緒に融合することにより合成され,その際,少なくとも1つのCDRは抗原と免疫特異的に結合するドナー抗体由来の重鎖CDRのサブバンクから得られたものであり,また,少なくとも1つの重鎖フレームワーク領域はヒト重鎖フレームワーク領域のサブバンクから得られたものであること,
(d)ヒト化軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含む核酸配列を合成するステップ,ただし,前記ヌクレオチド配列は,軽鎖フレームワーク領域1をコードする核酸配列,軽鎖CDR1をコードする核酸配列,軽鎖フレームワーク領域2をコードする核酸配列,軽鎖CDR2をコードする核酸配列,軽鎖フレームワーク領域3をコードする核酸配列,軽鎖CDR3をコードする核酸配列,および軽鎖フレームワーク領域4をコードする核酸配列を一緒に融合することにより合成され,その際,少なくとも1つのCDRは抗原と免疫特異的に結合するドナー抗体由来の軽鎖CDRのサブバンクから得られたものであり,また,少なくとも1つの軽鎖フレームワーク領域はヒト軽鎖フレームワーク領域のサブバンクから得られたものであること,
(e)前記核酸配列を細胞に導入するステップ,
(f)ヒト化重鎖可変領域およびヒト化軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を発現させるステップ,
(g)抗原と免疫特異的に結合するヒト化抗体をスクリーニングするステップ,
を含んでなる上記方法。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 引用発明の「ある抗原と免疫特異的に結合するヒト化抗体を作製する方法」は,本願発明の「抗原と免疫特異的に結合するヒト化抗体を作製する方法」に相当する。

2 本願発明の(a)の要件について
(1)引用発明の(c)の
「(c)・・・重鎖フレームワーク領域1をコードする核酸配列,重鎖CDR1をコードする核酸配列,重鎖フレームワーク領域2をコードする核酸配列,重鎖CDR2をコードする核酸配列,重鎖フレームワーク領域3をコードする核酸配列,重鎖CDR3をコードする核酸配列,および重鎖フレームワーク領域4をコードする核酸配列を一緒に融合することにより合成され」
ることは,本願発明の
「(a)前記ヌクレオチド配列は重鎖フレームワーク領域1をコードする核酸配列,重鎖CDR1をコードする核酸配列,重鎖フレームワーク領域2をコードする核酸配列,重鎖CDR2をコードする核酸配列,重鎖フレームワーク領域3をコードする核酸配列,重鎖CDR3をコードする核酸配列,および重鎖フレームワーク領域4をコードする核酸配列を同時に融合することにより作製す」
ることに相当する。

(2)引用発明の(c)の
「その際,少なくとも1つのCDRは抗原と免疫特異的に結合するドナー抗体由来の重鎖CDRのサブバンクから得られたものであり,また,少なくとも1つの重鎖フレームワーク領域はヒト重鎖フレームワーク領域のサブバンクから得られたもの」
であることは,重鎖CDR及び重鎖フレームワークの少なくとも一つだけドナー抗体由来であることを規定しているだけであって,本願発明の(a)の
「重鎖CDR1,重鎖CDR2,及び重鎖CDR3は前記抗原と免疫特異的に結合するドナー抗体重鎖可変領域由来でありかつ重鎖フレームワーク領域1,2,3および4をコードする該核酸配列はそれぞれ,ヒト重鎖フレームワーク領域をそれぞれコードする複数の核酸配列を含むサブバンク由来である」
こととは,
「重鎖CDR1,重鎖CDR2,及び重鎖CDR3のいずれかは前記抗原と免疫特異的に結合するドナー抗体重鎖可変領域由来でありかつ重鎖フレームワーク領域1,2,3および4をコードする該核酸配列のいずれかは,ヒト重鎖フレームワーク領域をそれぞれコードする複数の核酸配列を含むサブバンク由来である」(なお,下線は強調のため当審で付記したものである。以下,同様である。)
ことで共通する。

3 本願発明の(b)の要件について
(1)引用発明の「(e)前記核酸配列を細胞に導入するステップ」は,本願発明の「(b) 前記ポリヌクレオチド配列を細胞中に導入」するステップに相当する。

(2)本願発明の「改変された軽鎖可変領域」について,本願明細書には,
「好ましくは,改変された(例えば,ヒト化された)抗体軽鎖は,FR1,CDR1,FR2,CDR2,FR3,CDR3,およびFR4を含んでなる。」(【0123】)、
「・・・少なくとも1つの軽鎖フレームワーク領域は軽鎖フレームワーク領域のサブバンク(例えば,ヒト軽鎖フレームワーク領域のサブバンク)から得られるものである。」(【0064】)
と記載されている。
このことから本願発明の「改変された軽鎖可変領域」とは,少なくとも1つの軽鎖フレームワーク領域がヒト化されたものを包含すると理解される。
また,本願発明では「該軽鎖CDRは前記ドナー抗体軽鎖可変領域由来」であると規定されていることから,軽鎖CDRはすべてドナー抗体軽鎖可変領域由来であると理解される。

そうすると,引用発明の
「(d)ヒト化軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含む核酸配列を合成するステップ,ただし,前記ヌクレオチド配列は,軽鎖フレームワーク領域1をコードする核酸配列,軽鎖CDR1をコードする核酸配列,軽鎖フレームワーク領域2をコードする核酸配列,軽鎖CDR2をコードする核酸配列,軽鎖フレームワーク領域3をコードする核酸配列,軽鎖CDR3をコードする核酸配列,および軽鎖フレームワーク領域4をコードする核酸配列を一緒に融合することにより合成され,その際,少なくとも1つのCDRは抗原と免疫特異的に結合するドナー抗体由来の軽鎖CDRのサブバンクから得られたものであり,また,少なくとも1つの軽鎖フレームワーク領域はヒト軽鎖フレームワーク領域のサブバンクから得られたもの」
との規定は,CDRがすべてドナー抗体由来でないから,本願発明の
「(b)ドナー軽鎖可変領域,ヒト化軽鎖可変領域および改変された軽鎖可変領域からなる群より選択される軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド配列を該細胞中に導入するステップ,ここで該軽鎖CDRは前記ドナー抗体軽鎖可変領域由来である」
との規定のうちの,改変された軽鎖可変領域,すなわち,少なくとも1つの軽鎖フレームワーク領域がヒト化されたという選択肢に注目すると,
「(b)ドナー軽鎖可変領域,ヒト化軽鎖可変領域および改変された軽鎖可変領域からなる群より選択される軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド配列を該細胞中に導入するステップ,ここで該軽鎖CDRのいずれかは前記ドナー抗体軽鎖可変領域由来である」ことで共通する。

6 本願発明の(c)の要件について
引用発明の「(f)ヒト化重鎖可変領域およびヒト化軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を発現させるステップ」は,本願発明の「(c) 改変された重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を発現させるステップ」に相当する。

7 本願発明の(d)の要件について
引用発明の「(g)抗原と免疫特異的に結合するヒト化抗体をスクリーニングするステップ」は,本願発明の「(d) 抗原と免疫特異的に結合する改変された抗体をスクリーニングするステップ」に相当する。

以上のことを総合すると,両発明の間には,次の(一致点)及び(相違点1)?(相違点4)がある。

(一致点)
「抗原と免疫特異的に結合するヒト化抗体を作製する方法であって,
(a)改変された重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列をそれぞれ含む複数のポリヌクレオチド配列を合成するステップであって,前記ヌクレオチド配列は重鎖フレームワーク領域1をコードする核酸配列,重鎖CDR1をコードする核酸配列,重鎖フレームワーク領域2をコードする核酸配列,重鎖CDR2をコードする核酸配列,重鎖フレームワーク領域3をコードする核酸配列,重鎖CDR3をコードする核酸配列,および重鎖フレームワーク領域4をコードする核酸配列を同時に融合することにより作製され,重鎖CDR1,重鎖CDR2,及び重鎖CDR3のいずれかは前記抗原と免疫特異的に結合するドナー抗体重鎖可変領域由来でありかつ重鎖フレームワーク領域1,2,3および4をコードする該核酸配列のいずれかは,ヒト重鎖フレームワーク領域をそれぞれコードする複数の核酸配列を含むサブバンク由来である前記ステップ;
(b)ドナー軽鎖可変領域,ヒト化軽鎖可変領域および改変された軽鎖可変領域からなる群より選択される軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド配列を該細胞中に導入するステップ,ここで該軽鎖CDRのいずれかは前記ドナー抗体軽鎖可変領域由来である;
(c) 改変された重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を発現させるステップ;
(d) 抗原と免疫特異的に結合する改変された抗体をスクリーニングするステップ;
を含んでなる前記方法。」

(相違点1)
重鎖CDR1,重鎖CDR2,及び重鎖CDR3の由来が,本願発明では,「それぞれ」前記抗原と免疫特異的に結合するドナー抗体重鎖可変領域由来であるのに対して,引用発明では「少なくとも1つ」のCDRが抗原と免疫特異的に結合するドナー抗体由来である点

(相違点2)
重鎖フレームワーク領域1,2,3および4をコードする該核酸配列の由来が,本願発明では,いずれも「ヒト重鎖フレームワーク領域をそれぞれコードする複数の核酸配列を含むサブバンク由来である」のに対して,引用発明では「少なくとも1つ」の配列がヒト重鎖フレームワーク領域のサブバンク由来である点。

(相違点3)
軽鎖CDRの由来に関し,本願発明では,すべてのCDRが「前記ドナー抗体軽鎖可変領域由来」であるのに対して,引用発明では「少なくとも1つのCDR」が抗原と免疫特異的に結合するドナー抗体由来である点。

(相違点4)
本願発明が「(e)」のステップを有するのに対して,引用発明はかかるステップを具備していない点。

第6 検討
1 相違点1について
刊行物1の[0404]には,「典型的な実施形態」として,「重鎖相補性決定領域(CDR)1をコードする核酸配列,・・・,重鎖CDR2をコードする核酸配列,・・・,重鎖CDR3をコードする核酸配列,・・・その際,前記CDRはドナー抗体の重鎖可変領域に由来」(刊1-3)すると記載されている。
そうすると,引用発明において,重鎖CDR1をコードする核酸配列,重鎖CDR2をコードする核酸配列,重鎖CDR3をコードする核酸配列の由来を,(刊1-3)の記載に基づき,それぞれドナー抗体の重鎖可変領域に由来とすることで,相違点1に記載の本願発明の特定事項のごとく構成することは,単なる設計的事項にすぎない。

2 相違点2について
刊行物1の[0404]には,「典型的な実施形態」として,「重鎖フレームワーク領域1をコードする核酸配列,・・・,重鎖フレームワーク領域2をコードする核酸配列,・・・,重鎖フレームワーク領域3をコードする核酸配列,・・・,および重鎖フレームワーク領域4をコードする核酸配列を一緒に融合することにより作製されたものであり,その際,・・・,各重鎖フレームワーク領域はヒト重鎖フレームワーク領域のサブバンクから得られる」(刊1-3)と記載されている。
そうすると,引用発明において,重鎖フレームワークの各領域の由来を,(刊1-3)の記載に基づき,いずれの領域も重鎖フレームワーク領域のサブバンク由来とすることで,相違点2に記載の本願発明の特定事項のごとく構成することは,単なる設計的事項にすぎない。

3 相違点3について
刊行物1の[0405]には,「典型的な実施形態」として,「軽鎖CDR1をコードする核酸配列,・・・,軽鎖CDR2をコードする核酸配列,・・・,軽鎖CDR3をコードする核酸配列,および・・・ことにより作製されたものであり,その際,前記CDRはドナー抗体の軽鎖可変領域に由来」(刊1-3)すると記載されている。
そうすると,引用発明において,軽鎖CDRの由来を(刊1-3)の記載に基づき,いずれもドナー抗体の軽鎖可変領域に由来するものとして,相違点3に記載の本願発明の特定事項のごとく構成することは,単なる設計的事項にすぎない。

4 相違点4について
本願発明の(e)の抗体の特性のうち,
(1) 改善された平衡解離定数(K_(D))
平衡解離定数(K_(D))は,抗体とリガンドとの結合親和性に関係する指標であって,刊行物1に「抗原に対して少なくとも1×10^(6)M^(-1),少なくとも1×10^(7)M^(-1),少なくとも1×10^(8)M^(-1),少なくとも1×10^(9)M^(-1),少なくとも1×10^(10)M^(-1)またはそれ以上の親和性を有する抗体についてスクリーニングする」(刊1-2)と記載されていることから,引用発明の「(g)抗原と免疫特異的に結合するヒト化抗体をスクリーニングするステップ」で親和性,すなわち,平衡解離定数(K_(D))が改善するものをスクリーニングすることは,引用発明の「スクリーニング」が目的とする自明な課題である。
引用発明において,前記自明な課題を解決すべく,平衡解離定数の改善および/または変化した特性の抗体を取得すべく,引用発明において,スクリーニングする動機があるといえる。

(2) 改善された血清半減期
刊行物1には「ヒト抗体およびヒト化抗体は,外来性ポリペプチドに対する免疫応答による他の生物種由来の抗体よりも,ヒト体内で長い半減期を有する。」(刊1-4)と記載されている。
よって,ヒト化により長い半減期の抗体となるという示唆が刊行物1に記載されているのだから,引用発明において,より長い半減期の抗体を得ようとスクリーニングするする十分な動機がある。

(3) 変化したpI及び変化した溶解度
刊行物4に「教科書には,・・・蛋白質は,その等電点pH,すなわちその分子が正味の電荷をもたないPhで最も溶解し難いことが説明されている。」(刊4-1)と記載され,pHとタンパク質の溶解性についての技術常識が示されている。
かかる技術常識から,蛋白質の等電点と該蛋白質を溶解するための溶媒のpHが一致すると溶解が困難になることが理解され,そのため,刊行物5に記載のように,「該タンパク質の等電点の変化により溶解性を向上できる」ことが本願第1優先日前から周知の技術として行われており,溶解度を向上させることは周知の課題といえる。
また,抗体においても,下記刊行物Aに記載されているように「等電点を塩基性へと改変された抗体を作製する」ことも行われている。

以上のように,本願第1優先日前から,溶解度を変化させるため,タンパク質のアミノ酸残基を変化させたり,pI(等電点)を変化さるため,タンパク質のアミノ酸残基を変化させることは普通に行われていたことといえ,引用発明において,これらを改変させようとスクリーニングする動機があったといえる。

刊行物A:国際公開第01/064711号
(刊A-1)「発明を実施するための最良の形態
実施例1 ガングリオシドGM2に対する抗体の改変
ガングリオシドGM2に対するマウスモノクローナル抗体KM696(以下,単にKM696と記す)は,IgMタイプである。IgMは,2本のL鎖と2本のH鎖によって構成される4本鎖の抗体基本構造の5量体である。これを,キャンサーリサーチ[Cancer Research,54,1551-1516(1994)]および特開平6-20594に記載の方法により,KM696のH鎖のFc部分をヒトのFcに置換し,L鎖の定常領域をヒトκ鎖に置換することにより,マウス-ヒトキメラ抗体である抗ガングリオシドGM2抗体KM966(以下,単にKM966と記す)を作製した。
得られたKM696およびKM966について,抗体分子のH鎖およびL鎖の等電点をGENETYX-MAC(10.1)により計算した。KM696およびKM966のH鎖の値は6.52および8.05,L鎖の値は7.68および8.05となり,定常領域のアミノ酸配列の改変により抗体分子の等電点が塩基性へと変化したことが示された。
アミノ酸配列の改変後はIgG1の抗体となるが,依然として十分に高い疎水性及びガングリオシドGM2に対する結合活性を維持していた。以上の操作により,ガングリオシドGM2に対する結合活性及び疎水性を変化させることなく,等電点を塩基性へと改変された抗体を作製することができた。」(11頁13?25行)

(4) 改善された産生レベル
アミノ酸の改変が産生レベルに影響を与えることは本願第1優先日前から周知の事項である。
しかも,刊行物7に「単一又は複数のアミノ酸の置換,欠失又は付加」による「フレームワーク修正は,抗体蛋白質の免疫原性,生産性又は結合等異性に影響を与え得る」(刊7-1)と記載され,「ヒトに再構成されたF19軽鎖バージョンBとバージョンC又はAとの間の抗体分泌レベルにおいて,少なくともさらに10倍の違いがある」(刊7-2)とする実施例が示されており,抗体においてもフレームワークのアミノ酸を改変して産生量を増やそうとすることは普通に行われていた。
そうすると,引用発明において,産生レベルを向上すべくスクリーニングする動機があったといえる。

(5) まとめ
スクリーニングするに際して,出発起点となるものより改善や変化があったことを知るために,出発起点となるものを比較対照として選ぶことは例示するまでもなく周知の事項である。
引用発明において,上記(1)?(4)に記した動機の下で,改善された平衡解離定数(KD),改善された血清半減期,変化したpI,変化した溶解度及び改善された産生レベルのいずれかの特性を改変すべくスクリーニングを行い,出発起点となるものを比較対照として,該いずれかの特性が少なくとも約1%程度改善するものを選択することで,相違点4に記した本願発明の特定事項のごとくすることは当業者が容易になし得たことである。

5 本願発明の効果について
本願発明は,前記改善および/または変化がドナー抗体と比較して「約1%」と,あまり改善が図られていないようなものも含むものである。
そうすると,本願発明の効果は,当業者が刊行物1及び上記刊行物4,刊行物5,刊行物7や刊行物Aに記載のような本願第1優先日前の周知の技術事項から当業者が予測し得るものであって,格別顕著な効果とはいえない。

第7 結語
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明並びに上記刊行物4,刊行物5,刊行物7及び刊行物Aに記載のような本願第1優先日前の周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-25 
結審通知日 2015-12-01 
審決日 2015-12-17 
出願番号 特願2012-236592(P2012-236592)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 晋治  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 ▲高▼ 美葉子
高堀 栄二
発明の名称 抗体のフレームワーク・シャッフル  
代理人 新井 栄一  
代理人 平木 祐輔  
代理人 田中 夏夫  
代理人 藤田 節  

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