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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C11D 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C11D |
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管理番号 | 1314142 |
審判番号 | 不服2014-22772 |
総通号数 | 198 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-11-07 |
確定日 | 2016-05-06 |
事件の表示 | 特願2013-504924「液体洗剤組成物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月27日国際公開,WO2011/133305,平成25年6月20日国内公表,特表2013-525520〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2011年3月31日(パリ条約による優先権主張 2010年4月19日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成25年11月8日付けの拒絶理由通知に対して,その指定期間内の平成26年4月14日付けで手続補正書が提出されたが,同年7月9日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年11月7日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。 第2 平成26年11月7日付け手続補正についての補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成26年11月7日付け手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正の内容 特許法第17条の2第1項第4号に該当する手続補正である,平成26年11月7日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲についてするものであって,そのうち請求項1についての補正は以下のとおりである。 (1-1)補正前の請求項1(すなわち,平成26年4月14日付け手続補正書の請求項1) 「【請求項1】 アニオン性洗浄界面活性剤を含む液体洗濯洗剤組成物の製造方法であって, a)アニオン性界面活性剤,およびアルカノールアミンとナトリウムイオンを0.1:1?60:1のモル比で含むベース組成物を作製する工程であって,前記アニオン性界面活性剤がアルキルアルコキシル化サルフェートを含む工程と, b)水を前記ベース組成物に添加する工程と,を含む,方法。」 (1-2)補正後の請求項1(すなわち,平成26年11月7日付け手続補正書の請求項1) 「【請求項1】 アニオン性洗浄界面活性剤を含む液体洗濯洗剤組成物の製造方法であって, a)アニオン性界面活性剤,およびアルカノールアミンとナトリウムイオンを5:1?35:1のモル比で含むベース組成物を作製する工程であって,前記アニオン性界面活性剤がアルキルアルコキシル化サルフェートを含む工程と, b)水を前記ベース組成物に添加する工程と,を含む,方法。」(以下,「本件補正発明」ともいう。) 本件補正の前後の両請求項を対比すると,本件補正は,補正前の請求項1における発明を特定するために必要な事項である 「アルカノールアミンとナトリウムイオンを0.1:1?60:1のモル比で含む」 なる事項について,その比率を「5:1?35:1」に限定するものであって,特許法第17条の2第5項第2号にいう特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 そこで,上記本件補正発明が,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(すなわち,いわゆる独立特許要件を満たすか)について以下検討する。 2.独立特許要件の検討 (2-1)引用刊行物及びその記載事項 刊行物A:特開平6-299191号公報(原査定の引用文献3) (A-1)【特許請求の範囲】 「【請求項1】下記成分 (a)?(d) を含有し,且つアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量が1.4重量%以下であることを特徴とする液体洗浄剤組成物。 (a)平均炭素数6?20のアルキル基もしくはアルケニル基を有し,エチレンオキサイド平均付加モル数が1?20,プロピレンオキサイド平均付加モル数が0?5であるポリオキシアルキレンアルキルもしくはアルケニルエーテル及び/又は平均炭素数6?20の置換アルキル基もしくはアルケニル基を有し,エチレンオキサイド平均付加モル数が1?20,プロピレンオキサイド平均付加モル数が0?5であるポリオキシアルキレンアルキルもしくはアルケニルフェニルエーテル (b)スルホネート型又はサルフェート型アニオン界面活性剤 但し,(a)+(b)の和が30?75重量%であり,かつ(b)/(a)=1/2?2/1である。 (c)アルキル多糖界面活性剤 5?20重量% (d)水以外の界面活性能を有しない相調節剤 1?15重量% 【請求項2】(b)成分の全量中,20重量%以上がモノエタノールアミン塩型のスルホネート型又はサルフェート型アニオン界面活性剤である請求項1記載の液体洗浄剤組成物。 【請求項3】(a)成分が,平均炭素数10?20のアルキル基又はアルケニル基を有し,エチレンオキサイド平均付加モル数が1?20モルのポリオキシエチレンアルキル又はアルケニルエーテルの1種又は2種以上である請求項1又は2記載の液体洗浄剤組成物。」 (A-2)【0004】 「【0004】 【課題を解決するための手段】本発明者らは,非イオン界面活性剤,スルホネート型又はサルフェート型アニオン界面活性剤,アルキル多糖界面活性剤及び水以外の界面活性能を有しない相調節剤をそれぞれ特定の割合で含有する液体洗浄剤組成物が,洗浄性能は勿論のこと,前述の保存安定性の問題点を解決し,さらに洗濯1回当たりの使用量を低減できることを見い出し本発明を完成した。」 (A-3)【0010】?【0013】 「【0010】本発明の(b) 成分であるアニオン界面活性剤は,スルホネート型又はサルフェート型アニオン界面活性剤であり,例えば下記 (1)?(5) から選択される1種類以上を使用できる。 (1)平均炭素数10?16のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホネート (2)平均炭素数10?20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を有し,1分子内に平均0.5?8モルのエチレンオキサイドを付加したアルキル又はアルケニルエーテルサルフェート (3)平均炭素数10?20のアルキル基又はアルケニル基を有するアルキル又はアルケニルサルフェート (4)平均10?20の炭素原子を1分子内に有するオレフィンスルホネート (5)平均10?20の炭素原子を1分子内に有するアルカンスルホネート (b)成分のアニオン界面活性剤の塩を形成する対イオンとしては,ナトリウム,カリウム等のアルカリ金属,マグネシウム,カルシウム等のアルカリ土類金属,モノエタノールアミン,ジエタノールアミン,トリエタノールアミン等のアルカノールアミンの各陽イオン及びそれらの混合物が挙げられる。 【0011】本発明では(b)成分のアニオン界面活性剤としては,特に,モノ又はジエタノールアミン塩となっているものが好ましい。すなわち,本発明においては,液体洗浄剤組成物全体に含まれるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量が 1.4重量%を越えると組成物が濁ったり,沈澱を生じたりする。このため,本発明では液体洗浄剤組成物全体に含まれるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属は,金属単体として 1.4重量%以下でなければならない。ここで,組成物中のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とは,(b)成分のアニオン界面活性剤のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩や,後述の任意成分のうちアルカリ金属塩,アルカリ土類金属塩を形成するものに由来するものである。よって,(b)成分としてアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩となっているものを配合する時は,その他の成分中のものを含めた重量で,液体洗浄剤組成物全体に含まれるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の量が金属単体として1.4重量%以下となるように配合する必要がある。 【0012】また,本発明において(a)成分と(b)成分は,(a)+(b)の合計で,組成物中に30?75重量%配合され,また(a)成分と(b)成分の重量比は(b) /(a)=1/2?2/1の範囲である。(a)成分と(b)成分の配合量がこの範囲にないと,充分な洗浄力を得ることが出来ない。 【0013】本発明の(c) 成分であるアルキル多糖界面活性剤としては,次の一般式(I)で表されるアルキルグリコシドが挙げられる。 R_(1)(OR_(2))_(x)G_(y) (I) 〔式中,R_(1)は直鎖又は分岐鎖の炭素数8?18のアルキル基,アルケニル基又はアルキルフェニル基,R2は炭素数2?4のアルキレン基,Gは炭素数5又は6の還元糖に由来する残基であり,x及びyは平均値であって,xは0?5の数,yは1?10の数である。〕 式中,R_(1)は溶解性,起泡性および洗浄性の点から,炭素数が9?14であるのが好ましい。また,R2は水溶性等の点から炭素数2?3であるのが好ましい。また,xの値は水溶性および結晶性に影響し,これが大きいほど水溶性が高くかつ結晶性が低くなる傾向があり,好ましいxの範囲は0?2,特に0である。yは1?4の範囲にあることが好ましい。y はR1の疎水基に由来する物性を考慮し選択するのが好ましく,例えばR1が平均炭素数9?11の疎水基である場合にはy=1?1.4 を,R_(1)が平均炭素数12?14の疎水基である場合にはy=1.3 ?4を選択するのが好ましい。尚,平均糖重合度y はプロトンNMRにて求めることができる。この糖鎖の結合様式は,1-2,1-3,1-4もしくは1-6結合,α-もしくはβ-ピラノシド結合またはフラノシド結合のいずれか又はこれらの組み合わせである。更に,式中のGは原料である単糖または多糖によってその構造が決定されるが,この単糖としては例えばグルコース,フラクトース,ガラクトース,キシロース,マンノース,リキソース,アラビノース等が,多糖としては例えばマルトース,キシロビオース,イソマルトース,セロビオース,ゲンチビオース,ラクトース,スクロース,ニゲロース,ツラノース,ラフィノース,ゲンチアノース,メレジトース等が挙げられ,これらの単独または2種以上の組み合わせであってもよい。(c) 成分は本発明の液体洗浄剤組成物中に5?20重量%配合される。(c) 成分の配合量が5重量%未満であると広範囲の温度条件下での保存安定性が悪くなる。また20重量%を越えると低温での流動性が低下し,保存安定性が悪くなる。」 (A-4)【0019】?【0020】 「【0019】また,本発明の液体洗浄剤組成物の原液のpHは8?12,さらに好ましくはpH9?11である。 【0020】本発明の液体洗浄剤組成物の製法としては,液体洗浄剤組成物の製法に適する混合技術をいずれも利用することができる。特に,前述したように,(b)成分の全量中,20重量%以上,好ましくは40重量%以上は,アルカノールアミン塩を添加混合することが好ましい。アニオン界面活性剤としてアルカリ金属塩,アルカリ土類金属塩等を添加し,後で多量のアルカノールアミンを添加し,イオン交換させることもできるが,組成物が不透明になる場合もあり,好ましくない。」 (A-5)【0022】?【0025】 「【0022】 【実施例】以下,実施例により本発明を詳しく説明するが,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 【0023】実施例1 表1に示す成分を回分法により混合し,pH9.3?9.6の液体洗浄剤組成物を製造した。得られた各液体洗浄剤組成物について下記のような評価を行った。 (1) 保存安定性 試料をスクリュー管(直径4cm,高さ10cm)に入れ,50℃,40℃,室温,-5℃,-20℃にそれぞれ保存し,それぞれの保存1ケ月後の固結,分離,沈澱の有無を肉眼により判定し,以下の評価をした。その結果を表1に示す。 ○:均一な透明液体であった。 ×:不透明な液体,又は固結,分離若しくは沈澱を生じた。 【0024】 【表1】 ![]() 【0025】注) ^(*)1:アルキルグルコシドは一般式(I)において, R_(1)=C_(9)?C_(11),x=0,y=1.35 G:グルコース残基 の構造を示すものである。 ^(*)2:モノエタノールアミンはpHを調整する為に添加するものである。 ^(*)3:Bは全体を100とするためのバランス量である。」 (2-2)刊行物Aに記載された発明 ア 刊行物Aは,その【請求項1】に, 「下記成分(a)?(d)を含有し,且つアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量が1.4重量%以下であることを特徴とする液体洗浄剤組成物。・・・」(摘示(A-1)) と記載されているように,液体洗浄剤組成物中のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量を一定量以下とする発明について記載されているものであって,その【0024】の【表1】(摘示(A-5))に記載の「本発明品5」について注目すると,以下の液体洗浄剤組成物が記載されている。 「下記成分を含有し,且つアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量が0.85重量%である液体洗浄剤組成物。 <成分> (a)ポリオキシエチレン(p=7)アルキル(C_(12)?C_(14))エーテル:24重量% (b)-1アルキル(C_(10)?C_(13))ベンゼンスルホネートナトリウム塩:12重量% (b)-2ポリオキシエチレン(p=2.5)アルキル(C_(12)?C_(14))エーテルサルフェートモノエタノールアミン塩:12重量% (c)アルキルグルコシド:8重量% (d)-1エタノール:2重量% (d)-2プロピレングリコール:5重量% ヤシ油脂肪酸:3.2重量% クエン酸:3重量% モノエタノールアミン:7重量% プロテアーゼ:2重量% 水:21.8重量%」 そして,該組成物の製造方法については,【0023】に 「表1に示す成分を回分法により混合し,pH9.3?9.6の液体洗浄剤組成物を製造した。」 と記載されていることから,結局刊行物Aには,次の発明が記載されているものといえる。 「下記成分を含有し,且つアルカリ金属の含有量が0.85重量%である液体洗浄剤組成物; <成分> (a)ポリオキシエチレン(p=7)アルキル(C_(12)?C_(14))エーテル:24重量% (b)-1アルキル(C_(10)?C_(13))ベンゼンスルホネートナトリウム塩:12重量% (b)-2ポリオキシエチレン(p=2.5)アルキル(C_(12)?C_(14))エーテルサルフェートモノエタノールアミン塩:12重量% (c)アルキルグリコシド:8重量% (d)-1エタノール:2重量% (d)-2プロピレングリコール:5重量% ヤシ油脂肪酸:3.2重量% クエン酸:3重量% モノエタノールアミン:7重量% プロテアーゼ:2重量% 水:21.8重量% の製造方法であって,各成分を回分法により混合して製造する方法。」(以下,「引用発明」という。) (2-3)対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の(b)-1成分及び(b)-2成分は,何れもアニオン性洗浄界面活性剤といえることに加えて,刊行物Aには,例えば,その【課題を解決するための手段】の項において, 「・・・さらに洗濯1回当たりの使用量を低減できることを見い出し本発明を完成した。」(摘示(A-2)) などと,引用発明に係る液体洗浄剤組成物が,洗濯に使用される旨の記載がなされている。したがって,引用発明に係る液体洗浄剤組成物は,本件補正発明でいう「アニオン性洗浄界面活性剤を含む液体洗濯洗剤組成物」に相当する。 イ 引用発明の(b)-2成分は,本件補正発明の「アルキルアルコキシル化サルフェート」に相当する。 ウ 引用発明においては,(b)-1成分としてナトリウム塩が使用されていて,また,(b)-2成分としてモノエタノールアミン塩が使用され,さらに,これらとは別にモノエタノールアミンがpH調節剤として使用されている(【表1】の欄外の「^(*)2」参照。(摘示(A-5)))ものである。したがって,引用発明に係る液体洗浄剤組成物は,「アルカノールアミンとナトリウムイオンを含む」点では,本件補正発明に係る液体洗濯洗剤組成物と共通する。 エ 引用発明に係る組成物も,本件補正発明に係る組成物も,ともに水を含む点では共通する。 オ したがって,本件補正発明と引用発明との一致点,相違点は次のようになる。 [一致点] 「アニオン性洗浄界面活性剤を含む液体洗濯洗剤組成物の製造方法であって, アニオン性界面活性剤,およびアルカノールアミンとナトリウムイオンを含み,前記アニオン性界面活性剤がアルキルアルコキシル化サルフェートを含むものであり,さらに水を含む組成物を製造する方法。」 [相違点] 本件補正発明では,「『a)アニオン性界面活性剤,およびアルカノールアミンとナトリウムイオンを5:1?35:1のモル比で含むベース組成物を作製する工程』と『b)水を前記ベース組成物に添加する工程』とを含む」旨特定しているのに対して,引用発明では,単に「各成分を回分法により混合して製造する方法」である点。 カ なお,引用発明で特定されている他の成分については,以下に示すように,何れも本件補正発明でも含有することが許容されているものと解されることから,実質的な相違点とはいえないものである。 キ 「(a)ポリオキシエチレン(p=7)アルキル(C_(12)?C_(14))エーテル」は,非イオン界面活性剤であるが,本件補正後の【請求項8】においても 「前記洗剤が非イオン性界面活性剤を含む,請求項1?7のいずれか一項に記載の方法。」 と記載されていることから,本件補正発明でも許容される成分であると解される。 ク 「(c)アルキルグルコシド」は,刊行物A【0013】に 「(c) 成分の配合量が5重量%未満であると広範囲の温度条件下での保存安定性が悪くなる。また20重量%を越えると低温での流動性が低下し,保存安定性が悪くなる。」(摘示(A-3)) と記載されていることから,『安定剤』と呼ぶべきものと解されるのに対して,本願明細書【0037】では, 「洗濯洗浄添加剤 本明細書の洗剤組成物は,・・・洗浄性酵素,・・・安定剤,・・・及び香料並びにこれらの添加剤のタイプの組み合わせから選択することができる。これらの物質の全ては,洗濯洗剤製品に従来利用されるタイプのものである。」 と記載されていることから,本件補正発明でも許容される成分であると解される。 ケ 「(d)-1エタノール」及び「(d)-2プロピレングリコール」は,ともに『有機溶媒』といえる成分であって,本件補正後の【請求項6】において, 「前記ベース組成物が有機溶媒を含む,請求項1?5のいずれか一項に記載の方法。」 と記載され,さらに本願明細書【0013】に, 「ベース組成物が有機溶媒,好ましくは非アミノ官能性溶媒,を含むことも好ましい。・・・本明細書での使用に好ましい非アミノ官能性溶媒としては,アルコール,グリコール及びこれらの混合物が挙げられる。特に好ましくは,非アミノ官能性溶媒は,エタノールとプロピレングリコールと場合によりジエチレングリコールとを含む混合物である。」 と記載されていることから,本件補正発明でも許容される成分であると解される。 コ 「ヤシ油脂肪酸」については,本願明細書【0029】に, 「好ましくはこの洗剤は,・・・より好ましくは1?5重量%の脂肪酸を含む。」 と記載されていることに加えて,同【0057】の実施例でも,「13.)C12?18脂肪酸」として添加されているものであるから,本件補正発明でも許容されている成分であると解される。 サ 「クエン酸」については,本件補正後の【請求項7】に 「前記洗剤が0?5%のクエン酸を含む,請求項1?6のいずれか一項に記載の方法。」 と記載されていることから,本件補正発明でも許容されている成分と解せられる。 シ 「プロテアーゼ」は,洗剤に汎用の洗浄性酵素であり,上記「ク」にも記載したように本願明細書【0037】において例示されている任意成分である。ス 以上「キ」?「シ」に記載したように,引用発明で含まれる成分のうち,本件補正発明との[一致点]又は[相違点]として挙げなかった成分については,何れも本件補正発明でも許容される成分であると解されることから,これらの成分が引用発明に含まれていることによっては,両発明が実質的に相違するものとすることができない。 (2-4)相違点の検討 ア 最初に,本件補正発明の「『a)アニオン性界面活性剤,およびアルカノールアミンとナトリウムイオンを5:1?35:1のモル比で含む』との特定事項について検討する。 イ 当該特定事項の趣旨については,本願明細書【0008】?【0009】及び【0026】において,「アルキルアルコキシル化サルフェート等のアニオン界面活性剤を予め中和する」旨,記載されていて,さらに,「アニオン界面活性剤を洗剤組成物に添加する場合は,通常ナトリウム塩の形態で添加される」ことが技術常識であることをも考え合わせると,本件補正発明の上記特定事項は,結局, (a)「『アニオン界面活性剤』の大半を,ナトリウム塩の形態ではなく,予めモノエタノールアミン等のアルカノールアミンの塩とした形態で添加する」という技術思想と, (b)さらに加えて,その際に「モノエタノールアミン等のアルカノールアミンとナトリウムイオンを5:1?35:1のモル比にする」という事項 の両者を意味するものと解される。 ウ しかしながら,前者の(a)については,刊行物Aにも,例えば,【0011】に, 「液体洗浄剤組成物全体に含まれるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量が 1.4重量%を越えると組成物が濁ったり,沈澱を生じたりする。このため,本発明では液体洗浄剤組成物全体に含まれるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属は,金属単体として 1.4重量%以下でなければならない。」(摘示(A-3)) と記載され,また,【0020】にも, 「(b) 成分の全量中,20重量%以上,好ましくは40重量%以上は,アルカノールアミン塩を添加混合することが好ましい。」(摘示(A-4)) と記載されているから,これらの記載を踏まえて,引用発明において「0.85」重量%とされているアルカリ金属の含有量(使用される成分からみて実質的に「ナトリウム」のみであると解される。)をさらに減らすことは,刊行物Aに教示されているというべきものである。さらに,刊行物Aにおいては,その【表1】(摘示(A-5))において「本発明品1?3」として,「アルカリ金属の含有量」が「0」のものも例示されていることから,引用発明においては,最小限「0までの範囲」で,ナトリウムの量を適宜調整できると理解されるものである。 エ ところで,引用発明における,モノエタノールアミン(アルカノールアミン)とナトリウムイオンのモル比について検討すると,次のように算出される。 モノエタノールアミンを含む成分である,(b)-2成分の「ポリオキシエチレン(p=2.5)アルキル(C_(12)?C_(14))エーテルサルフェートモノエタノールアミン塩」の平均分子量は450と計算され,また,モノエタノールアミンの分子量は61と計算される。そして,ナトリウムイオンを含む成分である(b)-1成分の「アルキル(C_(10)?C_(13))ベンゼンスルホネートナトリウム塩」の平均分子量は341と計算される。 そうすると,モノエタノールアミンとナトリウムイオンのモル比は, (12/450+7/61):(12/341)=約4.0:1 となる。 オ 引用発明においては,アルカリ金属の含有量(使用される成分からみて実質的に「ナトリウム」のみであると解される。)は,「0.85」重量%とされているものであるが,上記(2-4)の「ウ」で記載したように,刊行物Aにおける教示では,これを最小限ゼロまで低減させ得るものと解釈されることから,そのような教示に従って,例えば,(b)-1成分のナトリウム塩に代えて一定割合以上をモノエタノールアミン塩としたアニオン界面活性剤を使用することにより,ナトリウム濃度を0.85重量%より低減させ,牽いてはモノエタノールアミンと相対的なモル比についても,約4.0:1よりもさらにナトリウムイオンの比率を低下させて,その結果として,モノエタノールアミンとナトリウムイオンのモル比を5:1?35:1の間の範囲内の比率とすることは当業者が容易になし得るものとせざるを得ないものである。 カ これに対して,本件補正発明においてモノエタノールアミンとナトリウムイオンのモル比を5:1?35:1という特定の範囲とすることによって,当業者にとって格別予想外の効果が奏されるものであることが,本願明細書等において,定量的なデータなどの技術的な裏付けを伴って示されているものでもない。 キ さらに加えて,本件補正発明では,「a)工程」でベース組成物を作製した後,「b)工程」で水を添加するものであるが,このことについても,同様に,このような製造方法を採用することにより当業者が予期し得ない格別の効果が奏されるものであることが,本願明細書等において,定量的なデータなどの技術的な裏付けを伴って示されているものともいえず,そのような状況では,組成物を構成する成分の添加順序は当業者が適宜選択する事項とせざるを得ないものである。 ク そうすると,以上のことから,引用発明において,例えば,(b)-1成分のナトリウム塩の一定割合をモノエタノールアミン塩とし,さらに,各成分の添加順序を適宜変更することにより,結果として本件補正発明の特定事項に至ることは,当業者が容易になし得ることというべきものである。 (2-5)小括 したがって,本件補正発明は,刊行物Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.むすび 以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 上記記載のとおり,平成26年11月7日付けの手続補正は却下されたので,本願の請求項に係る発明は,同年4月14日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであって,その請求項1は次のとおりである。 「【請求項1】 アニオン性洗浄界面活性剤を含む液体洗濯洗剤組成物の製造方法であって, a)アニオン性界面活性剤,およびアルカノールアミンとナトリウムイオンを0.1:1?60:1のモル比で含むベース組成物を作製する工程であって,前記アニオン性界面活性剤がアルキルアルコキシル化サルフェートを含む工程と, b)水を前記ベース組成物に添加する工程と,を含む,方法。」(以下,「本願発明」という。) 2.当審の判断 本願発明は,上記「第2 平成26年11月7日付け手続補正についての補正の却下の決定」の「2.独立特許要件の検討」で検討した本件補正発明と比較すると,アルカノールアミンとナトリウムイオンのモル比について,「5:1?35:1」となっていたものが「0.1:1?60:1」に拡張されたものとなっている点でのみ異なるものである。 そうすると,上記「第2」の2.の(2-4)「エ」で検討したように,上記引用発明の当該モル比は「約4.0:1」であることから,この点については,実質的な相違点とはならないものである。 したがって,本願発明と上記「第2」の2.の(2-2)で記載した引用発明との一致点・相違点は次のようになる。 [一致点] 「アニオン性洗浄界面活性剤を含む液体洗濯洗剤組成物の製造方法であって, アニオン性界面活性剤,およびアルカノールアミンとナトリウムイオンを0.1:1?60:1モル比で含み,前記アニオン性界面活性剤がアルキルアルコキシル化サルフェートを含むものであり,さらに水を含む組成物を製造する方法。」 [相違点] 本件補正発明では,「『a)ベース組成物を作製する工程』と『b)水を前記ベース組成物に添加する工程』とを含む」旨特定しているのに対して,引用発明では,単に「各成分を回分法により混合して製造する方法」である点。 かかる相違点について検討すると,上記「第2」の2.の(2-4)「キ」にも記載したように,「b)水を…ベース組成物に添加する工程」を敢えて別工程とすることにより,当業者が予期し得ない格別の効果が奏されることが,本願明細書等において,定量的なデータなどの技術的な裏付けを伴って示されているものともいえないことに加えて,組成物を構成する各成分の添加順序は,当業者が適宜選択するものといえるので,引用発明において,上記相違点に係る特定事項をさらに追加することは,当業者が容易になし得るものとせざるを得ないものである。 したがって,本願発明は,刊行物Aに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり,本願請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-11-30 |
結審通知日 | 2015-12-01 |
審決日 | 2015-12-14 |
出願番号 | 特願2013-504924(P2013-504924) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C11D)
P 1 8・ 575- Z (C11D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 福山 則明 |
特許庁審判長 |
國島 明弘 |
特許庁審判官 |
星野 紹英 橋本 栄和 |
発明の名称 | 液体洗剤組成物の製造方法 |
代理人 | 出口 智也 |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 磯貝 克臣 |
代理人 | 榎 保孝 |