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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1314646
審判番号 不服2013-24450  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-12 
確定日 2016-05-11 
事件の表示 特願2010-534920「局所美白化粧品組成物およびその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月28日国際公開、WO2009/067095、平成23年 2月10日国内公表、特表2011-504498〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 本願の経緯

本願は、2007年11月19日を国際出願日とする特許出願であって、平成25年1月25日付けで拒絶理由が通知され、同年6月4日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月17日付けで拒絶査定され、同年12月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成26年1月23日付けで前置審査の結果が報告され、当審において、同年7月29日に審尋され、同年10月24日に回答書が提出され、平成27年4月28日に審尋され、同年11月12日に回答書が提出されたものである。


第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成25年12月12日付け手続補正書による補正を却下する。


[理由]

1.補正の内容について

平成25年12月12日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項ただし書第4号の場合の補正であって、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前の

「フィランサス抽出物、
ベリス抽出物、および
甘草抽出物
を含む局所化粧品組成物。」

を、

「組成物の全重量に基づき、
0.1重量%から8重量%の量のフィランサス抽出物、
0.5重量%から30重量%の量のベリス抽出物、および
0.005重量%から5重量%の量の甘草抽出物
を含む局所化粧品組成物。」

とする補正するものであるところ、本件補正は実質的に

(1)「フィランサス抽出物」を、「組成物の全重量に基づき、0.1重量%から8重量%の量のフィランサス抽出物」とする補正(補正事項A)

(3)「ベリス抽出物」を、「組成物の全重量に基づき、0.5重量%から30重量%の量のベリス抽出物」とする補正(補正事項B)

(4)「甘草抽出物」を、「組成物の全重量に基づき、0.005重量%から5重量%の量の甘草抽出物」とする補正(補正事項C)

を含むものである。


2.補正の目的

補正事項Aは、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「フィランサス抽出物」について、その含有量を「組成物の全重量に基づき、0.1重量%から8重量%の量」に限定するものであり、補正事項Bは、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「ベリス抽出物」について、その含有量を「組成物の全重量に基づき、0.5重量%から30重要%の量」に限定するものであり、補正事項Cは、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「甘草抽出物」について、その含有量を「組成物の全重量に基づき、0.005重量%から5重重量%の量」に限定するものであり、いずれもその含有量を限定するものであって、本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項である「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。


3.独立特許要件

本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の場合に該当するから、同条第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合しているか否かを検討する。


(1)本件補正後の請求項係る発明

本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「補正発明」という。)は次のとおりである。

「組成物の全重量に基づき、
0.1重量%から8重量%の量のフィランサス抽出物、
0.5重量%から30重量%の量のベリス抽出物、および
0.005重量%から5重量%の量の甘草抽出物
を含む局所化粧品組成物。」


(2)引用刊行物及びその記載事項

ア. 引用刊行物
刊行物1:特表2007-523830号公報(原査定の引用文献4)
刊行物2:特開2004-352697号公報(原査定の引用文献8)
刊行物3:鈴木正人監修,機能性化粧品III,株式会社シーエムシー,2000年1月1日,27-35頁
(原査定の引用文献9)
刊行物4:特開2003-63925号公報(原査定の引用文献1)
刊行物5:特表2007-505055号公報(原査定の引用文献2)
刊行物6:特開2003-81749号公報(原査定の引用文献3)

イ.刊行物1の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている。

(ア)
「【請求項1】
ヒトの皮膚の色素除去のためのベリスペレンニスLの抽出物の使用。」
・・・
【請求項3】
化粧品組成物の適用を含むヒト皮膚の色素除去の方法であって、当該組成物が色素除去有効量のベリスペレンニスL抽出物を含む方法。
【請求項4】
組成物がクリーム、軟膏、エマルジョン(ミルク)トニック(ローション)、スティック、分散剤、テンサイドを含む製剤、溶液又はゲルである、請求項2又は3記載の使用又は方法。
【請求項5】
組成物が少なくとも一つの追加の色素除去剤、抗炎症剤又は抗酸化剤を含む、請求項1乃至4の何れか1項記載の使用又は方法。」

(イ)
「【0009】
色素除去のための開発された慣用の組成物は、コウジ酸、グラブリジン、アルブチン、エラグ酸、アゼライン酸、アスコルビン酸及びそれらの誘導体、胎盤抽出物、ルシノール及びヒドロキノン、及び様々なバリエーションの植物、例えばワイルドベリー、クワの実、クマコケモモ、カンゾウ、レモン、マトリカリアカミルレ、クミン種子、ウオロ(wolo)、オランダカラシ、又は上記の何れかの混合物を含む植物抽出物を含む。」

(ウ)
「【0013】
本発明おいて使用される、用語「色素沈着過剰」は、皮膚の局所的又は全身性のメラニン含有量の増加を意味し、後天的であるか又は遺伝であってよい。
本発明に従い治療してよい色素沈着過剰は、・・・黒子・・・、肝斑(chloasma)、特に妊娠性肝斑、・・・、損傷後色素沈着過剰(post lesional hyperpigmentation)、・・・を含む。
【0014】
さらに、本発明による薬学組成物は、色素沈着過剰(白斑(leucodermia))の治療のために使用することにより白色斑点を安定させるかもしれない。・・・
【0015】
特に好ましいのは白斑の治療であり、副作用を呈する現在使われているヒドロキノン含有組成物よりも良好な代替物を提供する。
本発明による化粧品組成物は、後天性の色素沈着過剰、例えばメラズマ(肝斑);炎症後の黒色症;太陽による黒子;・・・;老化による斑点(age spots)(老人性黒子(lentigo senile));・・・妊娠中に出現する皮膚上に出現する色素沈着斑点の異常な色素沈着パターン、・・・外傷後の色素沈着過剰(瘢痕)の場合のヒトの皮膚を色素除去に使用してよい。・・・」

(エ)
「【0026】
本発明によれば、ベリスペレンニスLの製剤は、色素除去作用、抗炎症作用又は抗酸化酸化を有する他の植物抽出物又は化学化合物と共に製剤化してもよい。
本発明に従い使用するための組成物は、約1%から約10%のベリスペレンニスL抽出物を含んでよく、約2%から5%の含有量が好ましい。約2%、3%、4%又は5%の含有量が特に好ましい。」

(オ)
「【0028】
【表2】
製剤実施例1:皮膚ライトニングクリーム(O/W)
・・・
【0030】
【表3】
製剤実施例2:皮膚ライトニングローション(O/W)
・・・
【0032】
【表4】
製剤実施例3:皮膚ライトニングゲル
・・・」

(カ)
「【0044】
色素除去効果のインビボにおける評価
・・・
結果
2%ベリスペレンニス抽出物を含む、発明による試験製剤は、2週及び4週の処置後に、透明ホワイトニング/ライトニング効果(メラニン含有量の約40%の減少)を未処理エリア及び偽薬処理エリアとの比較において示した(図2参照)。この色素除去又はホワイトニングの効果は、従来技術の色素除去剤又はホワイトニング剤により達成できた結果よりもはるかに優れている。何れの被験者にも不適合性は観察されなかった。」

(キ)
「【図2】



ウ.刊行物2の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物2には、以下の事項が記載されている。

(ア)
「【0024】
本発明のチロシナーゼ発現阻害剤には、必要に応じて任意の薬効成分、生理活性物質等を併せて含有させることができる。本発明のチロシナーゼ発現阻害剤において、タケノコ又はカンゾウ根からの抽出物とともに構成成分として利用可能なものとしては、水性成分、油性成分、粉末成分、界面活性剤、保湿剤、色剤、香料、防腐剤、抗酸化剤、紫外線カット剤、キレート剤、抗炎症剤、本抽出物以外の美白成分等が挙げられ、これらの成分とタケノコ又はカンゾウ根からの抽出物とを併用した場合、その相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。」

エ.刊行物3の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物3には、以下の事項が記載されている。

(ア)
「4 薬剤の併用による美白作用の向上
メラニン生成経路は複雑で多岐にわたるため、作用機序の異なる薬剤を併用することで美白効果が増強される可能性がある。その一例として、コウジ酸と油溶性甘草エキスの併用効果が報告されている。油溶性甘草エキスはマメ科の甘草(Glycyrrhiza glabla L.)の酢酸エチル抽出物であり、その主成分としてグラブリジンを含有する。培養メラノーマ細胞に対してチロシナーゼおよびTRP-2活性抑制作用やDHIの重合抑制作用によりメラニン生成抑制効果を示すほか、臨床試験においても高い有効性が認められている。
培養メラノーマ細胞を用いた検討では、チロシナーゼ活性抑制効果に優れているコウジ酸と、TRP-2活性抑制効果に優れている油溶性甘草エキスを併用することにより、さらに優れたメラニン生成抑制効果が得られた(図4)。両薬剤は異なるメラニン生成ルートを効果的に抑制することで、競合することなくその併用効果を発揮していると考えられる。さらに、コウジ酸と油溶性甘草エキスを併用したクリームはヒト紫外線惹起色素沈着および顔面色素沈着症に対して優れた美白効果が実証された。」(第33頁)

オ.刊行物4の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物4には、以下の事項が記載されている。

(ア)
「【請求項1】 アンマロク(Phyllanthus emblica L.)由来成分を含有する皮膚外用剤。
・・・
【請求項8】 前記アンマロク由来成分を、美白および/または美肌成分として含有する請求項1?7のいずれか1項に記載の皮膚外用剤。
【請求項9】 さらに、美白剤、抗酸化剤、抗炎症剤、細胞賦活剤および紫外線防止剤からなる群から選ばれる少なくとも一種の薬効成分を含有する請求項1?8のいずれか1項に記載の皮膚外用剤。」
【請求項10】 前記アンマロク由来成分をメラニン生成抑制剤として含有する請求項1?9のいずれか1項に記載の皮膚外用剤。」

(イ)
「【0021】本発明において、前記アンマロク由来成分(以下、「成分(A)」という場合がある)と組み合わせ可能な他の薬効成分(以下、「成分(B)」という場合がある)としては、美白剤、抗酸化剤、抗炎症剤、細胞賦活剤および紫外線防止剤が挙げられる。以下、各薬効成分について具体例を挙げる。なお、以下の具体例において、「誘導体」には形成可能な塩が含まれる。また、2以上の薬効を有する化合物については、各薬効成分の具体例として重複して例示した。
【0022】(美白剤)美白剤としては、・・・グラブリジン・・・が挙げられる。・・・」

カ.刊行物5の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物5には、以下の事項が記載されている。

(ア)
「【0001】
本発明は、ユカン植物(Emblica officinalis、別名Phyllanthus Emblica)の果実から得られる組成物および得られた濃縮成分から、オリゴマー/ポリマー成分を含むがそれだけに限らない、望ましくない物質を除去する方法に関する。この植物は、一般に、インド、中国、パキスタン、ネパールおよび他の国々で見られる。従って、本発明は、どんな地理的位置からも取れるユカンの抽出物を対象とする。」

(イ)
「【0004】
米国特許出願第10/120,156号では、例えば、美白に有用な標準化された組成物が記載されている。以下「ユカン(EMBLICA)」と称するこの組成物は、例えば、総フラボノイド重量が1%未満であることおよびルチンの含有量がさらに低いことから「カプロス」とは区別される。淡色であるユカンは、基本的に美白目的の所望の成分からなるが、商品中の黒点(black speck)が、最終配合物の美的外観を損なうと言われてきた。」

キ.刊行物6の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物6には、以下の事項が記載されている。

(ア)
「【請求項4】 アンマロクの抽出物を含有することを特徴とする美白剤。」

(イ)
「【0009】
【課題を解決するための手段】このような事情により、本発明者らは鋭意検討した結果、アンマロクの抽出物が優れた活性酸素消去作用、ヒアルロニダーゼ阻害、コラゲナーゼ阻害及びチロシナーゼ阻害作用をもち、安定性においても優れていることを見出した。さらに、その抽出物を含有する皮膚外用剤が、安全で安定であり、老化防止及び美白作用に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】本発明に用いるアンマロク(トウダイグサ科、別名;マラッカノキ、ユカン)は、学名がPhyllanthus emblica(別名;Emblicaofficinalis)であり、インドから東南アジアにかけて分布する。なお、本植物は、一般に果実が強壮剤として、樹皮が染料として、葉を煎じた液が目の洗浄に用いられているが、化粧料としての利用は報告されていない。」

(3)刊行物に記載された発明

上記摘示イ(ア)の記載からみて、刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されている。

「色素除去有効量のベリスペレンニスL抽出物及び少なくとも一つの追加の色素除去剤、抗炎症剤又は抗酸化剤を含む、化粧品組成物。」


(4)対比

補正発明と刊行物発明とを対比する。

ア 補正発明の「局所化粧料組成物」は、本願明細書【0144】の「一実施形態において、本発明は、本明細書に記載の本発明による局所化粧品組成物の治療有効量をそれらを必要とする対象の皮膚に局所投与すること・・・」との記載、【0149】の「本発明の局所化粧品組成物は、望ましくない皮膚色素沈着を特徴とする様々な皮膚障害または状態を処置するのに有効である。このような障害および/または状態の非限定的な例は、・・・特発性肝斑(妊娠性肝斑または褐色斑)などの・・・部分的色素沈着過剰、肝斑として知られる老年性黒子などの・・・局所的色素沈着過剰、・・・瘢痕などの偶発的色素沈着過剰、そばかす、色素沈着障害、・・・脱色素する白斑などのある種の形態の白斑症を含みうる。」との記載を参酌すると、妊娠性肝斑、肝斑として知られる老年性黒子、瘢痕、そばかす、白斑という皮膚障害を呈する皮膚を対象し、また本願明細書【0156】「効果的にするために、本発明の方法で使用した局所化粧品組成物の投与経路は、標的皮膚領域に容易に影響を及ぼさなければならない。ほとんどの場合、効果的な結果は、影響を及ぼす領域、または所望する効果の実現が求められる領域に薄い層を局所的に塗布することによって実現される。」との記載より、投与という行為は、具体的には塗布であると解される。
以上より、補正発明の「局所化粧料組成物」は、化粧品として、妊娠性肝斑、肝斑として知られる老年性黒子、瘢痕、そばかす、白斑という皮膚障害を呈する皮膚に、塗布するための組成物である。
一方、刊行物発明の「化粧品組成物」は、当然化粧品であり、さらに上記摘示イ(ウ)より、妊娠性肝斑、肝斑、老人性黒子、瘢痕、そばかす、白斑という皮膚障害を呈する皮膚を対象とし、上記摘示イ(オ)の実施例の剤型より、塗布するためものであるといえる。
そうすると、刊行物発明の化粧品組成物は、対象とする皮膚、投与方法において補正発明と共通するため、補正発明の「局所化粧品組成物」に相当する。

イ 補正発明の「ベリス抽出物」は、本願明細書【0050】の「「ベリス抽出物」は、例えば、ベリス属の構成要素の花、例えば、ベリス・ペレンニスの花および/またはベリス・ロツンディフォリア・エル(Bellis rotundifolia L.)の花から得られた抽出物を含むベリス属の一群から得られた抽出物を意味する。」との記載や、【0177】の実施例の配合例に含まれる「ベリス・ペレンニスの花抽出物」との記載より、「ベリス・ペレンニスから得られた抽出物」を含むものと解される。
一方、刊行物発明の化粧品組成物に含まれる「ベリスペレンニスL抽出物」は、「L」が命名法における命名者表記のルールに従って記載されたものであって、「Linnaeus」の省略形であり、「リンネによって命名された」という意味を有することを考慮すれば、補正発明の「ベリス抽出物」と、引用発明の「ベリス・ペレンニスから得られた抽出物」は、ベリス・ペレンニス抽出物を含む点で、共通する。

ウ 補正発明の「フィランサス抽出物」「甘草抽出物」は、本願明細書【0039】の「本明細書では、「相乗的皮膚美白系」または「相乗的皮膚美白成分」とは、フィランサス・エンブリカ抽出物、ベリス・ペレンニス抽出物、甘草抽出物を含むか、またはそれらから構成され、それぞれ個々の皮膚美白活性剤の皮膚美白効果と比較して相乗的な皮膚美白効果を示す皮膚美白活性成分を意味する。」との記載によれば、いずれも美白活性剤であること、また本明細書の【0037】の「「皮膚美白剤」とは、皮膚に局所塗布すると皮膚を美白するか、または脱色素する任意の化合物、物質または組成物を意味する。」との記載より、「美白」には「脱色素」の意味も含まれることを鑑みると、「フィランサス抽出物」「甘草抽出物」は、皮膚脱色素機能を有するもの、言い換えると「皮膚の色素除去機能を有するもの」であるといえる。
そうすると、刊行物発明の化粧品組成物に含まれる「少なくとも一つの追加の色素除去剤、抗炎症剤又は抗酸化剤」と、補正発明の局所用化粧品組成物に含まれる「フィランサス抽出物」「甘草抽出物」とは、「ベリスペレンニス抽出物以外の皮膚の色素除去機能を有するもの」であるという点で共通している。

したがって、両者は、

「ベリス抽出物として、ベリスペレンニス抽出物、および
ベリスペレンニス抽出物以外の皮膚の色素除去機能を有するもの
を含む局所化粧品組成物。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
補正発明は、「組成物の全重量に基づき、0.5重量%から30重量%」のベリス抽出物を含むのに対し、刊行物発明は、色素除去有効量と特定されているものの、具体的な含有量の特定がない点

相違点2
補正発明は、「組成物の全重量に基づき、0.1重量%から8重量%のフィランサス抽出物を含む」のに対し、刊行物発明は、そのような特定がない点

相違点3
補正発明は、「組成物の全重量に基づき、0.005重量%から5重量%の甘草抽出物を含む」のに対し、刊行物発明は、そのような特定がない点


(5)判断

ア 相違点について

(ア)相違点1について
刊行物1の上記摘示イ(エ)によれば、ベリスペレンニスL抽出物の含有量として、特に好ましいとされる2%、3%、4%、5%、さらに好ましいとされる2%から5%の数値範囲、さらに含んでいてもよいとされる1%から10%の数値範囲は、いずれも補正発明の0.5重量%から30重量%に完全に重複するものである。また、一般的に、化粧料組成物において、含有量を%表示する際には、「組成物の全重量に基づき」、「重量%」で表示することが一般的であることを考慮すれば、刊行物1の上記摘示イ(カ)の含有量は、「組成物の全重量に基づき」、「重量%」で表示したものであると解される。
よって、相違点1は実質的な相違点ではない。

(イ)相違点3について
刊行物1の上記摘示イ(イ)には、色素除去のための慣用の組成物に含まれるものが種々開示されており、その一例として「カンゾウの抽出物」が挙げられている。
そして、刊行物発明における「少なくとも一つの追加の色素除去剤、抗炎症剤又は抗酸化剤」として、上記摘示イ(イ)の慣用の組成物に含まれるものの具体的な示唆に基づいて、「カンゾウの抽出物」を選択することは、当業者が容易に想到し得るものである。

(ウ)相違点2について
刊行物発明における化粧品組成物は、「少なくとも一つの追加色素除去剤、抗炎症剤又は抗酸化剤を含む」ものであって、二つ以上の追加の剤を含むものも除外されないことに加え、上記摘示ウ(ア)、摘示エ(ア)、摘示オ(イ)にあるように、化粧品の分野では、複数の美白剤を適宜併用することが、本願国際出願時の技術常識であることを鑑みれば、刊行物発明の化粧品組成物において、上記(イ)で検討したとおり、まずカンゾウ抽出物を選択し、さらに他の適当な美白剤(追加色素除去剤)を加えること、その際美白剤として、例えば上記摘示オ(ア)、摘示カ(ア)(イ)、摘示キ(ア)(イ)にあるように本願国際出願時にはよく知られている「フィランサス・エンブリカ抽出物」を加えることに格別な困難性は認められない。


イ 本願発明の効果について

(ア)本願明細書には、「ヒドロキノン:T21から有意に改善される。本発明の局所用化粧品組成物:T14から有意に改善され、対照と比較したとき、統計学的に有意に高い美白レベルが示された。したがって、本発明の局所用化粧品組成物は、ヒドロキノンと比較して、迅速で、より著しい美白効果(より高い美白指数)をもたらした。」(【0212】)と記載されているが、この考察を得るための実験は「UV誘導色素沈着(メラニン形成)はあるが、色素性の機能障害は存在していない実験モデル」(【0206】)である。
一方、刊行物1の摘示イ(カ)には、「2%ベリスペレンニス抽出物を含む、発明による試験製剤は、2週及び4週の処置後に、透明ホワイトニング/ライトニング効果(メラニン含有量の約40%の減少)を未処理エリア及び偽薬処理エリアとの比較において示した(図2参照)。この色素除去又はホワイトニングの効果は、従来技術の色素除去剤又はホワイトニング剤により達成できた結果よりもはるかに優れている。」と記載されており、この考察を得るための実験は、UV誘導色素沈着を行ったモデルであることは記載されていないが、上記摘示イ(キ)の図2における、未処理に比較した皮膚のライトニングの増加が示す棒グラフからは、ベリスペレンニス抽出物が、未処理の皮膚に比較して、40%程度ライトニングが増加することが読み取れる。
このように、本願明細書における効果と、刊行物1に記載された効果は、UV誘導色素沈着を行った実験モデルであるか否かの点や、効果を評価する際に、初日との差を用いるのか、ライトニングの増加の割合を用いるのかという点で異なるものの、刊行物1には、上記したとおり、図4より未処理の皮膚と比較してライトニングが「40%」程度増加することが読み取れることに加えて、上記摘示イ(ウ)の「特に好ましいのは白斑の治療であり、副作用を呈する現在行われているヒドロキノン含有組成物よりも良好な代替物を提供する。」との記載より、少なくとも特定症状の皮膚に対してはヒドロキノン含有組成物よりも良好な結果を得られるものであることを鑑みれば、刊行物発明においても、皮膚の美白(ライトニング)に関しては、大変良好な結果を得ることができ、それはヒドロキノンと比較した場合であっても、白斑に対する場合と同様に、種々の皮膚障害に対して良好な結果を得ることができるであろうことは、当業者が予測し得るものである。

(イ)本願明細書の【0066】には、「相乗的皮膚美白成分 別の実施形態において、本発明は、フィランサス抽出物、例えば、フィランサス・エンブリカ抽出物、ベリス抽出物、例えば、ベリス・ペレンニス抽出物、および甘草抽出物を含むか、またはそれらから構成される相乗的皮膚美白活性成分を含むか、または構成されることができ、相乗的皮膚美白活性成分がそれぞれ個々の皮膚美白活性成分の皮膚美白効果と比較して相乗的な皮膚美白効果を表す局所化粧品組成物に関する。」と記載され、平成27年11月12日に提出された上申書にて、「本発明の効果が、各抽出物単独の美白効果と比較して、当業者の予測を超える美白効果を奏するものであることを説明するために、フィランサス・エンブリカ抽出物、ベリスペレンニス抽出物、甘草抽出物の各々単独の美白効果ならびに本発明の美白効果に関するデータを以下に示します。・・・具体的には、各抽出物単独および本発明の組み合わせにおける、チロシナーゼ活性阻害率(%)の比較データを示します。・・・かかるデータによれば、各抽出物のチロシナーゼ活性阻害率を単純に組み合わせれば、本発明のチロシナーゼ活性阻害率を達成できるようにも思えます。しかしながら、該データは、活性阻害の量ではなく比率を表すものであり、単純にそれらの結果を組み合わせればよいというものではありません。同等の阻害率を示すベリス抽出物と甘草抽出物を組み合わせたとしても、それ以上の効果が期待できないといったことや一方の効果を低下させるといったことも考えられます。」と説明している。
しかしながら、本願明細書自体には「相乗的な皮膚美白効果」ついては、上記【0066】と同種の記述にとどまるものであって、実施例等に基づいて具体的な効果の程度を示した箇所はない。
そして、平成27年11月12日に提出された上申書においては、具体的なデータを示しているが、Combo(混合物)の各成分の含有量は明示されておらず、各成分単独の含有量を混合したものだと仮定すると、Emblica(フィランサス抽出物)の含有量は、補正発明の発明特定事項であっては、0.1重量%から8重量%であるところ、上申書のデータでは0.006%、Licorice Extract(甘草抽出物)の含有量は、補正発明の発明特定事項であっては、0.005重量%から5重量%であるところ、上申書のデータでは0.0004%、Belides(ベリス抽出物)の含有量は、補正発明の発明特定事項であっては、0.5重量%から30重量%であるところ、上申書のデータでは0.25%であり、いずれの成分においても、補正発明の発明特定事項と上申書のデータにおける含有量とが全く重複しない。
また、Combo(混合物)の各成分の含有量が、補正発明の発明特定事項の範囲内(フィランサス抽出物は0.1重量%から8重量%で、甘草抽出物は0.005重量%から5重量%、ベリス抽出物は0.5重量%から30重量%)であると仮定しても、各成分単独の含有量が、Emblica(フィランサス抽出物)は0.006%、Licorice Extract(甘草抽出物)は、0.0004%、Belides(ベリス抽出物)は0.25%であるため、各成分単独の場合の含有量より、混合物としたときの含有量が大きく、このような条件で測定したデータでは、そもそもその効果が相乗的か相加的かを判断することができない。
したがって、上申書において主張する効果は、補正発明の特許請求の範囲に基づくものではないか、あるいは相乗効果を示すものではなく、参酌することはできない。


(6)まとめ

補正発明は、刊行物発明及び本願出願前の周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。したがって、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反する。


4.むすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項の規定に違反しているものと認められるので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明

上記第2で判断したとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?15に係る発明は平成25年6月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15にそれぞれ記載された事項により特定される通りのものであり、このうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「フィランサス抽出物、
ベリス抽出物、および
甘草抽出物
を含む局所化粧品組成物。」

第4 本願発明についての判断

1.引用文献及びその記載事項

原査定において引用され、本願出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であることが明らかな下記引用文献4、8、9、1、2、3は、各々上記第2の3(2)アにおける刊行物1、2、3、4、5、6と同じ文献であり、したがって、該引用文献にはそれぞれ同(2)イ?キに摘示した事項が記載されている。

引用文献4:特表2007-523830号公報
引用文献8:特開2004-352697号公報
引用文献9:鈴木正人監修,機能性化粧品III,株式会社シーエムシー,2000年1月1日,27-35頁
引用文献1:特開2003-63925号公報
引用文献2:特表2007-505055号公報
引用文献3:特開2003-81749号公報


2.引用文献4に記載された発明

引用文献4には同(3)で認定した刊行物発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

3.対比・判断

本願発明と引用発明とを対比すると、同(4)で述べた点を踏まえると、両者は、

「ベリス抽出物として、ベリスペレンニス抽出物、および
ベリスペレンニス抽出物以外の皮膚の色素除去機能を有するもの
を含む局所化粧品組成物。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2’
本願発明は、「フィランサス抽出物を含む」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点

相違点3’
本願発明は、「甘草抽出物を含む」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点

ここで、相違点2’及び3’はそれぞれ上記第2で検討した補正発明の、フィランサス抽出物の含有量の発明特定事項を削除し、甘草抽出物の含有量の発明特定事項を削除したものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに含有量に関する発明特定事項を付加したことに相当する補正発明が、上記第2の(5)ないし(6)に記載したとおり、刊行物発明及び本願出願前の周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び本願出願前の周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
そうすると、本願発明は、引用発明及び本願出願前の周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願については、他の請求項について検討するまでもなく上記理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-10 
結審通知日 2015-12-15 
審決日 2015-12-28 
出願番号 特願2010-534920(P2010-534920)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 光本 美奈子  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 大熊 幸治
齊藤 光子
発明の名称 局所美白化粧品組成物およびその使用方法  
代理人 品川 永敏  
代理人 鮫島 睦  
代理人 森本 靖  
代理人 水原 正弘  
代理人 田村 恭生  

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