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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1314668
審判番号 不服2015-3432  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-23 
確定日 2016-05-11 
事件の表示 特願2013-515266号「ヒューズを用いた高電圧バッテリーのセンシングラインの短絡による二次事故防止装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月22日国際公開,WO2011/159112号,平成25年 7月11日国内公表、特表2013-528921号〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件に係る出願(以下,「本願」と言う。)は,
2011年(平成23年)6月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年6月17日,大韓民国)を国際出願日とする出願であって,
平成25年11月14日付けで最初の拒絶理由通知がなされ,
平成26年2月13日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ,
同年5月28日付けで最後の拒絶理由通知がなされ,
同年9月3日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ,
同年10月15日付けで同年9月3日の手続補正を却下する旨の補正の却下の決定がなされるとともに拒絶査定がなされ,
この査定に対して,平成27年2月23日に本件拒絶査定不服審判が請求されるとともに,審判請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2.平成27年2月23日付けの手続補正書についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年2月23日付けの手続補正(以下,「審判請求時補正」と言う。)を却下する。

[理由]
1.補正の目的に関して
審判請求時補正により,平成26年2月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の,
「【請求項1】
多数個のバッテリーセル(Cell)がそれぞれ備えられた多数個のバッテリーモジュールと、
前記多数個のバッテリーモジュールを含むバッテリーパックと、
前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの状態を監視するために、前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの電圧をモニタリング及び制御するバッテリー制御システム(BMS)と、
前記バッテリーモジュールと前記バッテリー制御システムとの間に連結され、前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの電圧をセンシング(sensing)するセンシングラインと、
前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの端子に直列に連結され、前記センシングラインで閉回路が構成される短絡事故発生時に動作する受動的安全装置と、を含み、
前記バッテリー制御システムが動作していない状況で短絡事故が発生した場合、前記受動的安全装置が動作することにより、前記センシングラインで前記閉回路が構成される、ヒューズを用いた高電圧バッテリーのセンシングラインの短絡による二次事故防止装置。」は,
「【請求項1】
多数個のバッテリーセル(Cell)がそれぞれ備えられた多数個のバッテリーモジュールと、
前記多数個のバッテリーモジュールを含むバッテリーパックと、
前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの状態を監視するために、前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの電圧をモニタリング及び制御するバッテリー制御システム(BMS)と、
前記バッテリーモジュールと前記バッテリー制御システムとの間に連結され、前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの電圧をセンシング(sensing)するセンシングラインと、
前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの端子に隣接する位置に直列に連結され、前記センシングラインで閉回路が構成される短絡事故発生時に動作する
受動的安全装置と、を含み、
前記バッテリー制御システムが動作していない状態で、前記センシングラインの短絡が発生した時に、前記受動的安全装置が動作する、
ヒューズを用いた高電圧バッテリーのセンシングラインの短絡による二次事故防止装置。」
(当審にて,補正した箇所に下線を付した。)
と補正された。

上記補正は,
(1)補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「受動的安全装置」が「バッテリーセルの端子に直列に連結され」ていることの「直列」について,「隣接する位置に」直列という事項を付加し,
(2)補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「受動的安全装置が動作する」条件の「…動作していない状況で短絡事故が発生した場合」動作することについて,「前記バッテリー制御システムが動作していない状態で、前記センシングラインの短絡が発生した時に」動作すると,短絡の内容を請求項の前の記載を引用する形で特定し,
(3)補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「(短絡事故が発生した場合、)受動的安全装置が動作することにより、前記センシングラインで前記閉回路が構成される」ことについて,動作する「ことにより、前記センシングラインで前記閉回路が構成される」という事項を削除する補正を含むものである。

上記(1)(2)は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項をさらに限定するものであり,その限定により産業上の利用分野及び解決しようとする課題が変更されるものでもないから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
しかしながら,上記(3)の発明を特定するために必要な事項の一部を削除する補正は,受動的安全装置が動作することにより,「前記センシングラインで前記閉回路が構成される」という構成要件を削除することによって,特許請求の範囲の請求項1の記載を拡張するものであり,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)のいずれを目的とするものとも認められない。
したがって,審判請求時補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお,請求人は,審判請求書において
「(3)補正の根拠
………請求項1の『前記バッテリー制御システムが動作していない状況で短絡事故が発生した場合、前記受動的安全装置が動作することにより、前記センシングラインで前記閉回路が構成される』を『前記バッテリー制御システムが動作していない状態で、前記センシングラインの短絡が発生した時に、前記受動的安全装置が動作する』とする補正は、明りょうでない記載の釈明を目的とする」旨主張しているが,補正前の「受動的安全装置が動作することにより、前記センシングラインで前記閉回路が構成される」という記載自体の意味は明りょうであるので,当該主張は採用できない。
さらに,仮に上記(3)が明りょうでない記載の釈明を目的とするものであったとしても,審判請求時補正は,上記(1)(2)の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであって,下記2.で検討するように,審判請求時補正後の請求項1に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないので,結局,審判請求時補正は却下すべきものである。

2.独立特許要件に関して
さらに,仮に審判請求時補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとして,審判請求時補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について,以下予備的に検討する。

(1)引用刊行物とその記載事項
平成25年11月14日付けの拒絶理由通知及び平成26年10月15日付けの補正の却下の決定において引用された,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2010-25925号公報(以下,「刊行物1」という)には,バッテリシステムに関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセルを直列に接続してなる組電池を対象として各セルの両端電圧を検出する装置であって、特に、組電池との間の配線(例えば、ワイヤハーネスなど)の断線を検知することが可能な電圧検出装置及び該装置を具えたバッテリシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッド自動車においては、走行用モータの電源として、複数のリチウムイオン二次電池(セル)を直列に接続してなる組電池が搭載されているが、組電池を構成するセルが過充電状態或いは過放電状態になると、発煙や発火が起こる危険性がある。そこで、図20に示す如きバッテリシステムを構成して、組電池を構成する各セルの両端電圧を監視することが行なわれている。」
(イ)「【0038】
本発明に係る第2の電圧検出装置は、複数のセルを直列に接続してなる組電池を対象として各セルの両端電圧を検出する装置であって、配線を介して組電池の複数の電圧検出点(組電池の両端及びセルどうしの連結点)と接続されるべき複数の電圧入力端子と、これら複数の電圧入力端子からそれぞれ引き出される電圧検出線と、隣り合う2本の電圧検出線を互いに連結する複数の第1連結線路と、前記第1連結線路に並列に設けられ、隣り合う2本の電圧検出線を互いに連結する複数の第2連結線路とを具え、前記複数の第1連絡線路の各第1連結線路には容量素子が介在し、各電圧検出線は各電圧検出線からの入力電圧に基づいて各セルの両端電圧を検出する電圧検出手段に接続されている。前記複数の第2連結線路の各第2連結線路には、少なくとも2つのスイッチング素子と1或いは複数の抵抗とを互いに直列に接続してなる放電回路が介在している。各放電回路の少なくとも2つのスイッチング素子の内、一部の1或いは複数のスイッチング素子のベース或いはゲートがそれぞれ1或いは複数の抵抗からなる第1抵抗回路を介してグランドに接続され、各第1抵抗回路の放電回路側の一端と各放電回路の正極側の電圧検出線とを互いに連結する各第3連結線路には、1或いは複数の抵抗からなる第2抵抗回路が介在している。そして、前記電圧検出手段は、各電圧検出線からの入力電圧に基づいて組電池の複数の電圧検出点と前記複数の電圧入力端子との間の配線の断線を検知する断線検知手段を具えている。
【0039】
………
【0040】
………
【0041】
又、上記電圧検出装置は、組電池を構成する各セルの充電状態を均等化する機能を有しており、均等化処理においては、例えば両端電圧が均等化目標電圧を超えるセルに対してそれぞれ放電回路による放電が実施される。上述の如く各セルから僅かな電流がグランドに向って流れている状態で、放電の対象とするセルに接続されている放電回路の少なくとも2つのスイッチング素子の内、例えばトランジスタ或いはFET(電界効果トランジスタ)からなる前記一部の1或いは複数のスイッチング素子以外のスイッチング素子がオンに設定されると、それら1或いは複数のスイッチング素子もオンとなって、該セルから放電回路の少なくとも2つのスイッチング素子及び1或いは複数の抵抗に電流が流れて該セルが放電されることになる。これによって、各セルの充電状態を均等化することが出来る。」
(ウ)「【0079】
上記電圧検出装置(2)においては、ワイヤハーネス(401)?(411)の何れにも断線が発生していない正常な状態では、各セルB1?B10から各コンデンサC1?C10に電流が供給されて各コンデンサは電荷が蓄えられた状態(満充電状態)に維持されることとなって、11本の電圧検出線(221)?(231)にはそれぞれ、各セルB1?B10の正極或いは負極の電位が発生することとなり、11本の電圧検出線(221)?(231)の電位がそれぞれADC(21)の11個の入力端子に入力される。ADC(21)は、隣り合う2つの入力端子間の各電位差、即ち各セルの両端電圧をデジタルの電圧検出データに変換して出力端子から出力する。制御回路(22)は、ADC(21)の出力端子から得られる10セル分の電圧検出データに基づいて、各セルが過充電状態或いは過放電状態となっていないかどうかを監視する。」
(エ)「【0089】
電圧検出装置(20)においては、11本の電圧検出線(221)?(231)の内、第11番目の電圧検出線(231)を除く電圧検出線(221)?(230)のコンデンサC1?C10よりもADC(21)側に位置する一点(251)?(260)からそれぞれ電流線路(281)?(290)が引き出され、10本の電流線路(281)?(290)の内、第10番目の電流線路(290)の先端が断線検知オン/オフ切換えスイッチング素子SWを介してグランドに接続され、他の9本の電流線路(281)?(289)の先端は第10番目の電流線路(290)に接続されている。該スイッチング素子SWは、制御回路(23)によってオン/オフ制御される。
【0090】
各電流線路(281)?(290)には、例えば200KΩ程度の抵抗値を有する断線検知用抵抗R1?R10が介在すると共に、ダイオードD11?D20が介在している。各ダイオードD11?D20は、電流が各電圧検出線(221)?(230)からグランドに向って流れる方向に接続されており、これによって、電圧の高い電流線路から電圧の低い電流線路に電流が逆流することを防止することが出来る。その他の構成及び動作は、第1実施例の電圧検出回路と同じであるので、説明を省略する。」
(オ)「【0117】
………
(第5実施例)
本実施例のバッテリシステムは、図15に示す如く、リチウムイオン二次電池からなる10個のセルを直列に接続してなる組電池(1)と、各セルの両端電圧を検出する電圧検出装置(25)とを具えており、組電池(1)の正極点P1、セルどうしの連結点P2?P10及び組電池(1)の負極点P11と電圧検出装置(25)の11個の電圧入力端子(201)?(211)とがそれぞれワイヤハーネス(401)?(411)によって互いに接続されている。尚、組電池の正極及び負極からはそれぞれ電力供給線(図示省略)が引き出され、走行用モータ等からなる負荷に接続されている。
【0118】
電圧検出装置(25)においては、11本の電圧検出線(221)?(231)がASIC(3)の11個の電圧入力端子(301)?(311)に接続されており、第11番目の電圧検出線(231)を除く電圧検出線(221)?(230)には、コンデンサC1?C10よりも電圧入力端子(201)?(210)側にPTC素子(291)?(300)が介在している。ASIC(3)内で短絡が生じて電圧検出線に過電流が流れたとき、PTC素子が発熱し、これに伴って電気抵抗値が急増する。この結果、電圧検出線を流れる過電流がPTC素子によって遮断されることになる。これによって、ASIC(3)に過電流が流れることを防止することが出来る。
【0119】
ASIC(3)においては、前記11個の電圧入力端子(301)?(311)からそれぞれ電圧検出線(321)?(331)が引き出されており、11本の電圧検出線(321)?(331)はADC(31)の11個の入力端子に接続され、該ADC(31)の1つの出力端子はマイクロコンピュータからなる制御回路(32)に接続されている。
【0120】
前記11本の電圧検出線(321)?(331)の内、第11番目の電圧検出線(331)を除く電圧検出線(321)?(330)上の一点(351)?(360)からそれぞれ電流線路(361)?(370)が引き出されており、10本の電流線路(361)?(370)の内、第10番目の電流線路(370)の先端が断線検知オン/オフ切換えスイッチング素子SWを介してグランドに接続され、他の9本の電流線路(361)?(369)の先端は第10番目の電流線路(370)に接続されている。該スイッチング素子SWは、制御回路(32)によってオン/オフ制御される。各電流線路(361)?(370)には、複数の抵抗(図15においては1つの抵抗のみを記載)に接続してなる断線検知用抵抗回路RC1´?RC10´が介在すると共に、ダイオードD11?D20が介在している。断線検知用抵抗回路RC1´?RC10´はそれぞれ1MΩ程度の抵抗値の大きな抵抗を用いて構成されており、組電池(1)の正極に最も近い断線検知用抵抗回路RC1´は、例えば4.3MΩの抵抗値を有している。
【0121】
又、隣り合う2本の電圧検出線を前記一点(351)?(360)よりも電圧入力端子(301)?(310)側にて互いに連結する各連結線路(341)?(350)には、クランプダイオードD1?D10が介在している。その他の構成は、第2実施例の電圧検出装置と同一である。
【0122】
本実施例のバッテリシステムにおいては、断線検知用抵抗回路RC1´?RC10´が介在する電流線路(361)?(370)よりも電圧入力端子(301)?(310)側にPTC素子(291)?(300)が配設されているが、PTC素子の抵抗値は通常の状態では数Ω程度であるので、PTC素子による電圧降下量は無視できる程度の量となる。例えば断線検知用抵抗回路に0.1mAの電流が流れた場合には、PTC素子による電圧降下量は1mV以下となる。従って、ASIC(3)内で短絡が生じたときにASIC(3)に過電流が流れることを防止すると共に、PTC素子(291)?(300)を具えていない電圧検出装置と同程度の高い電圧検出精度を得ることが出来る。尚、PTC素子に代えて、抵抗値の小さい保護素子、例えばヒューズを採用することも可能である。」
(カ)「【0141】
実施例において、PTC素子は、図15、図16に示すように電圧検出線(221)?(230)、(521)?(530)に介在しているが、図17、図18に示すように、配線(401)?(410)に介在するように配置しても良い。この様にすることでも、PTC素子を電圧検出線(221)?(230)、(521)?(530)に介在させた場合と同様の効果を得ることができる。」
(キ)図17には,実施例5のバッテリシステムの構成を表わす回路図が記載されており,そこには,組電池1の正極点P1,セルB1?B10同士の連結点P2?P10及び組電池1の負極点P11と,電圧検出装置26の電圧入力端子201?211と,が配線421?431によって接続されており,PTC素子291?300は,配線421?431のうちの配線421?430に介在し,電圧入力端子201?210と正極点P1及び連結点P2?P10間に直列に接続されたものであることが図示されている。
(ク)記載事項(キ)のバッテリシステムは,
「セルB1?B10を備える組電池1と,
電圧検出装置26と,
組電池1の正極点P1及びセルB1?B10同士の連結点P2?P10と電圧検出装置26の電圧入力端子201?210とを接続する配線421?430と,
配線421?430に介在し,電圧入力端子201?210と正極点P1及び連結点P2?P10間に直列に接続されたPTC素子291?300と,
を備えるバッテリシステム」といえる。
(ケ)記載事項(ク)の「電圧検出装置26」は,記載事項(オ)の「電圧検出装置(25)」に対応したものであるから,「各セルの両端電圧を検出する」ものであって,「その他の構成は、第2実施例の電圧検出装置と同一である」ものであり,その「第2実施例の電圧検出装置」は,記載事項(エ)の「電圧検出装置(20)」に対応したものであるから,「その他の構成及び動作は、第1実施例の電圧検出回路と同じである」ものであり,その「第1実施例の電圧検出回路」は,記載事項(ウ)の「電圧検出装置(2)」に対応したものであるから,「各セルが過充電状態或いは過放電状態となっていないかどうかを監視する」ものである。
そうすると,記載事項(ク)の「電圧検出装置26」は,「各セルの両端電圧を検出」し,「各セルが過充電状態或いは過放電状態となっていないかどうかを監視する」ものであるから,「各セルの両端電圧を検出し,各セルが過充電状態或いは過放電状態となっていないかどうかを監視する電圧検出装置26」といえる。
(コ)記載事項(ク)の「配線421?430」は,記載事項(キ)の配線421?431に含まれるものであり,その配線421?431は,記載事項(オ)の「ワイヤハーネス(401)?(411)」に対応したものであるから,「組電池(1)の正極点P1、セルどうしの連結点P2?P10及び組電池(1)の負極点P11」と「電圧検出装置(25)の11個の電圧入力端子(201)?(211)」とを接続するものである。
また,記載事項(オ)の「ワイヤハーネス(401)?(411)」は,「電圧検出装置(25)」が「各セルの両端電圧を検出する」ために,「電圧検出装置(25)の11個の電圧入力端子(201)?(211)」に「組電池(1)の正極点P1、セルどうしの連結点P2?P10及び組電池(1)の負極点P11」の電圧を入力する必要があるから,「組電池(1)の正極点P1、セルどうしの連結点P2?P10及び組電池(1)の負極点P11」の電圧を検知するものと認められる。
そうすると,記載事項(キ)の配線421?431も,「組電池(1)の正極点P1、セルどうしの連結点P2?P10及び組電池(1)の負極点P11」の電圧を検知するものであり,配線421?431のうちの配線421?430は,「組電池(1)の正極点P1」及び「セルどうしの連結点P2?P10」の電圧を検知するものである。
そして,記載事項(ク)の「配線421?430」は,記載事項(キ)の配線421?431のうちの配線421?430であるから,「組電池1の正極点P1及びセルB1?B10同士の連結点P2?P10と電圧検出装置26の電圧入力端子201?210とを接続し,組電池1の正極点P1及びセルどうしの連結点P2?P10の電圧を検知する配線421?430」といえる。
(サ)記載事項(ク)の「PTC素子291?300」は,記載事項(オ)の「PTC素子」であり,「ASIC(3)内で短絡が生じたときにASIC(3)に過電流が流れることを防止する」ものであり,また,「PTC素子に代えて、抵抗値の小さい保護素子、例えばヒューズを採用することも可能である」ものであるから,「短絡が生じたときに」「過電流が流れることを防止する」ものであり,「ヒューズ」に変更可能なものである。
そうすると,記載事項(ク)の「PTC素子291?300」は,「配線421?430に介在し,電圧入力端子201?210と正極点P1及び連結点P2?P10間に直列に接続され,短絡が生じたときに過電流が流れることを防止するヒューズ」と言い換えることができる。

すると,刊行物1には,次の発明が開示されていると認めることができる(以下,この発明を「刊行物1に記載された発明」と言う。)。
「セルB1?B10を備える組電池1と,
各セルの両端電圧を検出し,各セルが過充電状態或いは過放電状態となっていないかどうかを監視する電圧検出装置26と,
組電池1の正極点P1及びセルB1?B10同士の連結点P2?P10と電圧検出装置26の電圧入力端子201?210とを接続し,組電池1の正極点P1及びセルどうしの連結点P2?P10の電圧を検知する配線421?430と,
配線421?430に介在し,電圧入力端子201?210と正極点P1及び連結点P2?P10間に直列に接続され,短絡が生じたときに過電流が流れることを防止するヒューズと,
を備えるバッテリシステム」

(2)対比
本願補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。
(ア)刊行物1に記載された発明の「セルB1?B10を備える組電池1」と,本願補正発明の「多数個のバッテリーセル(Cell)がそれぞれ備えられた多数個のバッテリーモジュールと、前記多数個のバッテリーモジュールを含むバッテリーパック」とは,多数個のバッテリーセルを含むバッテリーパックの点で共通する。
(イ)刊行物1に記載された発明の「各セルの両端電圧を検出し,各セルが過充電状態或いは過放電状態となっていないかどうかを監視する電圧検出装置26」と,本願補正発明の「前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの状態を監視するために、前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの電圧をモニタリング及び制御するバッテリー制御システム(BMS)」とは,バッテリーパックに備えられたそれぞれのバッテリーセルの状態を監視するために、前記バッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの電圧をモニタリングするバッテリー制御システムの点で共通する。
(ウ)刊行物1に記載された発明の「組電池1の正極点P1及びセルB1?B10同士の連結点P2?P10と電圧検出装置26の電圧入力端子201?210とを接続し,組電池1の正極点P1及びセルどうしの連結点P2?P10の電圧を検知する配線421?430」と,本願補正発明の「前記バッテリーモジュールと前記バッテリー制御システムとの間に連結され、前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの電圧をセンシング(sensing)するセンシングライン」とは,バッテリーパックとバッテリー制御システムとの間に連結され、前記バッテリーパックに備えられたそれぞれのバッテリーセルの電圧をセンシングするセンシングラインの点で共通する。
(エ)刊行物1に記載された発明の「配線421?430に介在し,電圧入力端子201?210と正極点P1及び連結点P2?P10間に直列に接続され,短絡が生じたときに過電流が流れることを防止するヒューズ」と,本願補正発明の「前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの端子に隣接する位置に直列に連結され、前記センシングラインで閉回路が構成される短絡事故発生時に動作する受動的安全装置」とは,バッテリーパックに備えられたそれぞれのバッテリーセルの端子に直列に連結され、短絡事故発生時に動作する受動的安全装置の点で共通する。
(オ)刊行物1に記載された発明の「バッテリシステム」は,ヒューズを備えているから,本願補正発明の「ヒューズを用いた高電圧バッテリーのセンシングラインの短絡による二次事故防止装置」と,ヒューズを用いた装置である点で共通する。

以上を踏まえると,本願補正発明と刊行物1に記載された発明とは,
「多数個のバッテリーセルを含むバッテリーパックと,
前記バッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの状態を監視するために,前記バッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの電圧をモニタリングするバッテリー制御システムと,
前記バッテリーパックと前記バッテリー制御システムとの間に連結され、前記バッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの電圧をセンシングするセンシングラインと,
前記バッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの端子に直列に連結され,短絡事故発生時に動作する受動的安全装置と,
を備える,ヒューズを用いた装置。」
の点で一致し,以下の点で相違している。

(相違点1)バッテリーパックに備えられたそれぞれのバッテリーセルが,本願補正発明は,「それぞれの」バッテリーパックに備えられたものであるのに対して,刊行物1に記載された発明の組電池1に備えられたセルB1?B10は,組電池1(本願補正発明の「バッテリーパック」に相当)に備えられたものであるものの,「それぞれの」組電池1とされたものでない,換言すると,組電池が複数存在することについて言及したものでない点。
(相違点2)本願補正発明の「バッテリーパック」は,「多数個のバッテリーセル(Cell)がそれぞれ備えられた多数個のバッテリーモジュール」を含むものであるのに対し,刊行物1に記載された発明の「組電池1」は,そのような構成を有していない点。
(相違点3)本願補正発明の「バッテリー制御システム」は,「バッテリーセルの電圧を」「制御する」ものであるのに対して、刊行物1に記載された発明の「電圧検出装置26」は,そのような構成を有していない点。
(相違点4)本願補正発明の「センシングライン」は,「前記バッテリーモジュールと前記バッテリー制御システムとの間に連結され」るものであるのに対して,刊行物1に記載された発明の「配線421?430」は,「組電池1の正極点P1及びセルB1?B10同士の連結点P2?P10と電圧検出装置26の電圧入力端子201?210とを接続」するものである点。
(相違点5)本願補正発明の「受動的安全装置」は,「前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの端子に隣接する位置に直列に連結され」るものであるのに対して,刊行物1に記載された発明の「ヒューズ」は,「配線421?430に介在し,電圧入力端子201?210と正極点P1及び連結点P2?P10間に直列に接続され」るものである点。
(相違点6)本願補正発明の「受動的安全装置」は,「前記センシングラインで閉回路が構成される」短絡事故発生時に動作するものであるのに対して,刊行物1に記載された発明の「ヒューズ」は,短絡の態様が特定されていない点。
(相違点7)本願補正発明の「受動的安全装置」は,「前記バッテリー制御システムが動作していない状態で、前記センシングラインの短絡が発生した時に、」「動作する」ものであるのに対して,刊行物1に記載された発明の「ヒューズ」は,そのように特定されていない点。
(相違点8)「ヒューズを用いた装置」が,本願補正発明は,「高電圧バッテリーのセンシングラインの短絡による二次事故防止装置」であるのに対して,刊行物1に記載された発明の「バッテリシステム」は,そのように特定されていない点。

(3)判断
(ア)相違点1について
まず,刊行物1に記載された発明の組電池1は,刊行物1の記載事項(ア)に「従来、ハイブリッド自動車においては、走行用モータの電源として、複数のリチウムイオン二次電池(セル)を直列に接続してなる組電池が搭載されている」と記載されているように,実質的にハイブリッド自動車で用いられる,一単位の部品であると解される。
そして,自動車部品は,補修や量産の為に,同構成の部品が多数存在する工業製品であり,一品毎に構成を変えるようなものでないので,他の車両で使用される組電池1や,補修用それぞれの組電池1においても,同じく同構成の「セルB1?B10」を備えるものと解するのが通常である。
そうすると,相違点1は実質的な相違点ではない。
また,仮に,それぞれの組電池1が,同じ車両で使用されるものであるとしても,ハイブリッド自動車において,複数のバッテリーパックを備える態様も周知であることを考慮すると,刊行物1に記載された発明の「組電池1」を複数組備える構成とすることは,車両の規模等に応じて当業者が適宜選択し得た設計事項である。
(イ)相違点2,4について
バッテリーパックにバッテリーセルを実装する手法において,多数個のバッテリーセルがそれぞれ備えられた多数個のバッテリーモジュールを含み,センシングラインを前記バッテリーモジュールとバッテリー制御システムとの間に連結する手法は,例えば,国際公開第2010/008026号の図1,5に,多数個の単位電池21がそれぞれ備えられた多数個の電池モジュール5を含み,単位電池電圧検出線11が電池モジュール5と保護回路基板7との間に連結されたものが記載されており,特開2008-118841号公報の図1,2に,多数個の電池セルがそれぞれ備えられた多数個のサブパック2a?2hを含み,図2に図示される信号線がサブパック2a?2hとバッテリー管理システム1の電圧センシング部110との間に連結されたものが記載されており,特開2010-130897号公報の図2,3に,多数個の電池セルがそれぞれ備えられた多数個のサブパック2a?2hを含み,図3に図示される信号線がサブパック2a?2hとバッテリー管理システム1の第1リレー部110との間に連結されたものが記載されているように,本願の優先権主張の日前に周知の技術である。
そして,刊行物1に記載された発明の「組電池1」は,多数個のバッテリーセルを備えることから,バッテリーパックといえるものであり,刊行物1に記載された発明の「組電池1」の実装手法として,上記周知の実装手法を採用して,「組電池1」が,多数個の「セル」がそれぞれ備えられた多数個のバッテリーモジュールを含み,「配線421?430」が,前記バッテリーモジュールと「電圧検出装置26」との間に連結される構成として具現化して,本願補正発明の相違点2,4に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
(ウ)相違点3について
刊行物1の記載事項(イ)の「電圧検出装置」は,「複数のセルを直列に接続してなる組電池を対象として各セルの両端電圧を検出する装置」であり,「組電池を構成する各セルの充電状態を均等化する機能を有」するものである。
そして,刊行物1に記載された発明の「電圧検出装置26」と,記載事項(イ)の「電圧検出装置」とは,どちらも組電池の各セルの両端電圧を検出する点で機能が共通するものであるから,刊行物1に記載された発明の「電圧検出装置26」の機能に,記載事項(イ)の「電圧検出装置」の「組電池を構成する各セルの充電状態を均等化する機能」を付加して,本願補正発明の相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
(エ)相違点5?8について
(a)刊行物1に記載された発明の「ヒューズ」は,「配線421?430」に介在するものであり,この「ヒューズ」を「配線421?430」のどの位置に配置するか,すなわち,配線のP1?P10側に設けるか,中間部に設けるか,電圧入力端子201?210側に設けるかは,当業者が適宜設定する事項であるから,刊行物1に記載された発明の「ヒューズ」を「正極点P1及び連結点P2?P10」に隣接する位置に配置することは,当業者が適宜なし得たことである。
なお,通常,配線の中間部に保護素子を設けるには配線を切断しなければならず,保護範囲を考慮しても上流側に保護素子を設けるのが一般的であって,刊行物1の図17のPTC素子もP1?P10側に図示されている。
(b)上記(a)にともなって,刊行物1に記載された発明の「ヒューズ」は,「正極点P1及び連結点P2?P10」に隣接する位置に配置されることになり,この「ヒューズ」の配置された位置よりも「電圧検出装置26の電圧入力端子201?210」側の「配線421?430」の部分で閉回路が構成される短絡が発生したときに,過電流が流れることを防止するものとなるから,「配線421?430」で閉回路が構成される短絡事故発生時に動作するものとすることも,上記(a)にともなって,当業者が容易になし得たことである。
(c)また,上記「ヒューズ」は,「電圧検出装置26」の動作の有無に関わらず,過電流が流れることを防止するものである。
そうすると,刊行物1に記載された発明の「ヒューズ」は,「配線421?430」で閉回路が構成される短絡事故発生時に動作するものであり,「電圧検出装置26」が動作していない状態で,「配線421?430」の短絡が発生したときにも動作するものといえる。
(d)刊行物1に記載された発明の「バッテリシステム」は,上記(b)で検討したように,「電圧検出装置26」が動作していない状態で「配線421?430」の短絡による過電流が流れることを防止するものであり,短絡電流によって引き起こされる火災等の二次事故も当然防止するものと認められ,「配線421?430」の短絡による二次事故を防止するもの,すなわち,短絡による二次事故防止装置といえる。
そうすると,相違点8は実質的な相違点ではない。
(e)したがって,刊行物1に記載された発明の「ヒューズ」を,普通に想定される配線のP1?P10側に設けるものとして,本願補正発明の相違点5?8に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
(オ)総合判断
本願補正発明の効果は,刊行物1及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって,本願補正発明は,刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)独立特許要件のむすび
以上のとおり,審判請求時補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
1.本願の経緯
平成27年2月23日付けの手続補正は,上記のとおり却下され,また,平成26年9月3日付けの手続補正は,同年10月15日付けで却下されているので,本願は,平成26年2月13日付けで手続補正がなされた「ヒューズを用いた高電圧バッテリーのセンシングラインの短絡による二次事故防止装置」に関するものと認められる。

2.原査定の理由
一方,原査定の拒絶の理由の概要は,次のとおりである。
「 理 由

平成26年2月13日付けでした手続補正は、下記の点で国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合にあっては、当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下、翻訳文等という。)(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあっては、翻訳文等又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項参照)。
平成19年2月7日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。



補正後の請求項1の「前記バッテリー制御システムが動作していない状況で短絡事故が発生した場合、前記受動的安全装置が動作することにより、前記センシングラインで前記閉回路が構成される」との記載について、出願人は平成26年2月13日付け意見書において、「請求項1の補正は、出願当初明細書の段落番号0035の記載に基づきます。」との主張をしている。
しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0035】には、「ここで、内外部的な要因によって短絡事故が発生した場合、瞬間的に多量の電流が流れるが、バッテリーとインバータを電気的に連結する主動力ラインでなく、センシングライン300で閉回路が構成されて電流が流れるため、主動力ラインのヒューズは無意味になる。」との記載があるが、当初明細書の他所の記載等を参酌しても「受動的安全装置が動作することにより、前記センシングラインで前記閉回路が構成される」点については記載されているとは言えず、また出願時の技術常識を勘案しても当該事項が当初明細書に記載されているとは認められない。
特に発明の詳細な説明の段落【0037】には「本発明の一実施例による受動的安全装置400は、前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの端子に直列に連結され、センシングライン300で閉回路が構成される短絡事故発生時に動作する。」と記載されており、段落【0035】における「センシングライン300で閉回路が構成されて電流が流れる」ことは、「受動的安全装置が動作すること」によるものではなく、「短絡」によるものであると認められる。
さらに言うと、「センシングライン300にヒューズ及びPTCのような受動的安全装置400を直列に連結」(段落【0036】)することによって構成される「受動安全装置」によって、どのようにして「前記バッテリー制御システムが動作していない状況で短絡事故が発生した場合、前記受動的安全装置が動作することにより、前記センシングラインで前記閉回路が構成される」といった事項が実現出来るのか不明である。」

3.当審の判断
(1)補正の内容
平成26年2月13日付けの手続補正により,特許請求の範囲の,
「【請求項1】
多数個のバッテリーセル(Cell)がそれぞれ備えられた多数個のバッテリーモジュールと、
前記多数個のバッテリーモジュールを含むバッテリーパックと、
前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの状態を監視するために、前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの電圧をモニタリング及び制御するバッテリー制御システム(BMS)と、
前記バッテリーモジュールと前記バッテリー制御システムとの間に連結され、前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの電圧をセンシング(sensing)するセンシングラインと、
前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの端子に直列に連結され、前記センシングラインで閉回路が構成される短絡事故発生時に動作する受動的安全装置と、を含む、ヒューズを用いた高電圧バッテリーのセンシングラインの短絡による二次事故防止装置。」は,
「【請求項1】
多数個のバッテリーセル(Cell)がそれぞれ備えられた多数個のバッテリーモジュールと、
前記多数個のバッテリーモジュールを含むバッテリーパックと、
前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの状態を監視するために、前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの電圧をモニタリング及び制御するバッテリー制御システム(BMS)と、
前記バッテリーモジュールと前記バッテリー制御システムとの間に連結され、前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの電圧をセンシング(sensing)するセンシングラインと、
前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの端子に直列に連結され、前記センシングラインで閉回路が構成される短絡事故発生時に動作する受動的安全装置と、を含み、
前記バッテリー制御システムが動作していない状況で短絡事故が発生した場合、前記受動的安全装置が動作することにより、前記センシングラインで前記閉回路が構成される、ヒューズを用いた高電圧バッテリーのセンシングラインの短絡による二次事故防止装置。」
(当審にて,補正した箇所に下線を付した。)
と補正された。

(2)特許法第17条の2第3項の規定違反に関しての請求人の主張
ア.請求人は,平成26年9月3日付けの意見書において
「3.拒絶理由について
請求項1を「前記バッテリー制御システムが動作していない状態で、前記センシングラインの短絡が発生した時に、前記受動的安全装置が動作する」と補正しました。………補正したことにより、上記の補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものと思料致します。」旨主張している。
イ.請求人は,審判請求書において
「(3)補正の根拠
前記拒絶査定に対し、本審判請求書と同日に提出の手続補正書により特許請求の範囲を補正しました。………これらの補正は、特許法第17条の2第3項、第4項及び第5項の要件を満たしています。

(4)本願発明が特許されるべき理由
………
(4-2)………請求項1の補正は、特許法第17条の2第5項の要件を満たしていると思料致します。
(4-3)………請求項1に係る発明の「バッテリー制御システムが動作していない状態で、センシングラインの短絡が発生した時に、受動的安全装置が動作する」ことは、引用文献1に記載の発明から当業者が容易に想到し得ないと思料致します。」と主張している。

(3)上記第(2)の請求人の主張について検討した上で,特許法第17条の2第3項の規定違反についての判断を行う。

ア.まず,上記第(2)の請求人の主張は,いずれも却下された平成26年9月3日付けの手続補正,及び平成27年2月23日付けの手続補正を前提としたものであって,平成26年2月13日付けの手続補正に対する主張ではないので,採用できるものではない。

イ.願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「当初明細書等」という。)には,受動的安全装置の動作に関し,以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
………
前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの端子に直列に連結され、前記センシングラインで閉回路が構成される短絡事故発生時に動作する受動的安全装置と、を含む、ヒューズを用いた高電圧バッテリーのセンシングラインの短絡による二次事故防止装置。
………
【課題を解決するための手段】
【0018】
………
前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの端子に直列に連結され、前記センシングラインで閉回路が構成される短絡事故発生時に動作する受動的安全装置と、を含む。
………
【0035】
ここで、内外部的な要因によって短絡事故が発生した場合、瞬間的に多量の電流が流れるが、バッテリーとインバータを電気的に連結する主動力ラインでなく、センシングライン300で閉回路が構成されて電流が流れるため、主動力ラインのヒューズは無意味になる。
【0036】
従って、センシングライン300にヒューズ及びPTCのような受動的安全装置400を直列に連結して、一次短絡事故による二次、三次の火災事故が発生することを防止することができる。
【0037】
本発明の一実施例による受動的安全装置400は、前記それぞれのバッテリーパックに備えられた前記それぞれのバッテリーセルの端子に直列に連結され、センシングライン300で閉回路が構成される短絡事故発生時に動作する。本発明の一実施例による受動的安全装置400は、ヒューズまたはPTCに具現されることができる。
………」

ウ.当初明細書等の記載事項は,上記のとおりであり,「受動的安全装置が動作することにより、前記センシングラインで前記閉回路が構成される」という構成は記載されておらず,また,明示の記載がなくとも,当業者において自明な事項であるとも認められない。
そうすると,「二次事故防止装置」に「前記バッテリー制御システムが動作していない状況で短絡事故が発生した場合、前記受動的安全装置が動作することにより、前記センシングラインで前記閉回路が構成される」という構成を追加する本件補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるから,当初明細書等に記載した事項の範囲内でなされたものではない。

4.むすび
したがって,平成26年2月13日付けの手続補正による補正は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-04 
結審通知日 2015-12-08 
審決日 2015-12-21 
出願番号 特願2013-515266(P2013-515266)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01M)
P 1 8・ 55- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関口 明紀田中 啓介  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 前田 浩
藤井 昇
発明の名称 ヒューズを用いた高電圧バッテリーのセンシングラインの短絡による二次事故防止装置  
代理人 林 一好  
代理人 正林 真之  

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