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審決分類 |
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1314815 |
審判番号 | 不服2014-26325 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-12-24 |
確定日 | 2016-05-16 |
事件の表示 | 特願2013-512144「半導体材料のための平滑化方法及びそれによって作製されるウェハ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月 1日国際公開,WO2011/149906,平成25年 7月18日国内公表,特表2013-529389〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2011年(平成23年)5月24日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2010年5月27日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成25年1月16日に特許法184条の4第1項の規定による翻訳文の提出がされるとともに,同日に審査請求及び手続補正がされ,平成26年1月29日付けの拒絶理由通知に対し,同年7月31日に手続補正がされ,同年8月29日付けで拒絶査定がされ,これに対して同年12月24日に審判請求がされるとともに,同日に手続補正がされ,その後,平成27年4月22日付けで上申書が提出されたものである。 第2 補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成26年12月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであって,本件補正前の特許請求の範囲の請求項11については,本件補正の前後で以下のとおりである。 ・補正前 「【請求項11】 半導体ウェハを処理する方法であって, 前記半導体ウェハの表面を化学機械平坦化するステップと, 200から1000オングストロームの厚さを有する酸化物を前記表面上に形成して,スクラッチ,及び/又は表面下欠陥と共に原子ステップを削減するために前記半導体ウェハを酸化するステップと,を含む,方法。」 ・補正後 「【請求項10】 半導体ウェハを処理する方法であって, 半導体ウェハの表面を化学機械平坦化するステップと, 200から1000未満のオングストロームの厚さを有する酸化物を表面上に形成して,スクラッチ,及び/又は表面下欠陥と共に原子ステップを削減するためにある時間及びある温度で半導体ウェハを酸化するステップと,を含む,方法。」 2 補正事項の整理 本件補正による,本件補正前の特許請求の範囲の請求項11についての補正を整理すると次のとおりとなる。(当審注.下線は補正箇所を示し,当審で付加したもの。) ・補正事項1 本件補正前の請求項11の項番を請求項10にすること。 ・補正事項2 本件補正前の請求項11の「200から1000オングストロームの厚さを有する酸化物を前記表面上に形成して,」を,「200から1000未満のオングストロームの厚さを有する酸化物を表面上に形成して,」と補正すること。 3 補正の適否について (1)補正事項1について 補正事項1は,本件補正前の他の請求項(請求項4)の削除に伴う項番の繰り上がりであるから,適法であることは明らかである。 (2)補正事項2について 本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0020】の記載から,補正事項2は本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるので,補正事項2は,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。 そして,補正事項2において,本件補正前の請求項11における「200から1000オングストロームの厚さを有する酸化物」を「200から1000未満のオングストロームの厚さを有する酸化物」とする補正は,「酸化物」の厚さを限定するもので,本件補正前の請求項11に記載された発明特定事項を限定的に減縮するものであるから,特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり,また,同法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また,補正事項2において,本件補正前の請求項11における「前記表面上に」を「表面上に」とする補正は,本件補正前の請求項11における誤記を訂正するものであるから,特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり,また,同法第17条の2第5項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。 4 独立特許要件についての検討 (1)検討の前提 上記3(2)で検討したとおり,本件補正における,本件補正前の請求項11についての補正事項2は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むから,本件補正後の請求項10に記載された事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かにつき,更に検討する。 (2)本願補正発明 本件補正後の請求項10に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は,次のとおりのものと認める。(再掲) 「【請求項10】 半導体ウェハを処理する方法であって, 半導体ウェハの表面を化学機械平坦化するステップと, 200から1000未満のオングストロームの厚さを有する酸化物を表面上に形成して,スクラッチ,及び/又は表面下欠陥と共に原子ステップを削減するためにある時間及びある温度で半導体ウェハを酸化するステップと,を含む,方法。」 (3)先願明細書等の記載と先願発明 ア 先願明細書等 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張日(以下「本願優先日」という。)前の日本語特許出願であって,その出願後に国際公開がされ,本願の発明者が上記日本語特許出願に係る発明をした者と同一ではなく,また本願の出願の時において,本願の出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもない,特願2010-549405号(以下「先願」という。)の国際出願日における国際出願の明細書,請求の範囲又は図面(以下「先願明細書等」という。)には,次の記載がある。(当審注.下線は当審において付加した。以下同じ。) (ア)「【0011】 本発明は,このような課題を解決し,平滑で高品質な表面を有する炭化珪素半導体層等を成長させるための炭化珪素単結晶基板およびそれを製造する方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 ・・・ 【0014】 また,本発明の他の炭化珪素単結晶基板の製造方法は,機械研磨が施された主面を有する炭化珪素単結晶基板を用意する工程(A)と,砥粒が分散した研磨スラリーを用いて,前記炭化珪素単結晶基板の前記主面に化学機械研磨を施し,前記主面を鏡面に仕上げる工程(B)と,前記鏡面に仕上げられた主面の少なくとも一部を気相で酸化し,酸化物を形成する工程(C’1)と,前記酸化物を除去する工程(C’2)とを包含する。」 (イ)「【0045】 (第1の実施形態) 図3は,本発明による炭化珪素単結晶基板の製造方法の第1の実施形態を示すフローチャートである。また,図4(a)から(c)は,炭化珪素単結晶基板の製造工程における工程断面図を示している。本実施形態では,気相法を用いたエッチングによって表面残留物を直接除去する。 【0046】 まず,工程S11および図4(a)に示すように,機械研磨が施された炭化珪素単結晶基板10を用意する。炭化珪素単結晶基板10は少なくとも鏡面に仕上げられる主面10Sを備える。主面10Sの表面には機械的研磨によって応力が生じている加工変質層11が生じている。加工変質層11の表面11Sの表面粗度Raは1μm程度以下であることが好ましい。通常,加工変質層11は表面粗度と同程度の厚さを有しており,加工変質層11の厚さはたとえば1μm以下である。 ・・・ 【0050】 次に,工程S12に示すように,CMPによって加工変質層11を除去し,炭化珪素単結晶基板10の主面10Sを鏡面に仕上げる。CMPに用いる研磨スラリーは,分散媒および分散媒に分散した砥粒を含む。 ・・・ 【0056】 上述した研磨スラリーを用意し,炭化珪素単結晶基板10の主面10S側をたとえば50g重/cm^(2)?1000g重/cm^(2)の研磨面圧力で研磨定盤に押し付け,研磨定盤を回転させ,研磨スラリーをたとえば1ml/min程度の割合で研磨定盤上に供給しながら,炭化珪素単結晶基板10の主面10Sの研磨を行う。・・・これにより,加工変質層11が完全に除去され,かつ,主面10Sが平坦化されて鏡面に仕上げられた炭化珪素単結晶基板10が得られる。図4(b)に示すように,このとき,加工変質層11は完全に除去されるが,表面観察では確認できない珪素,炭素および酸素を含む酸化物の薄い表面残留物13が部分的に残存している。 【0057】 しかし,全体として主面10Sは高い平坦度および平滑度を有しており,原子レベルの段差である炭化珪素単結晶に由来するステップ構造10dが主面10Sの表面に現れる。CMPによって鏡面に仕上げられた炭化珪素単結晶基板10の主面10Sの表面粗度Raは,1nm以下であることが好ましい。 【0058】 次に工程S13に示すように,鏡面に仕上げられた主面10Sの少なくとも一部を気相法によってエッチングする。・・・ ・・・ 【0063】 (第2の実施形態) 図6は,本発明による炭化珪素単結晶基板の製造方法の第2の実施形態を示すフローチャートである。また,図7(a)から(d)は,炭化珪素単結晶基板の製造工程における工程断面図を示している。本実施形態では,CMP後に生じた表面残留物を気相で酸化し,生成した酸化物を除去する。 【0064】 まず,工程S21および図7(a)に示すように,機械研磨が施された炭化珪素単結晶基板10を用意し,工程S22および図7(b)に示すように,炭化珪素単結晶基板10の主面10SにCMPを施して,炭化珪素単結晶基板10の主面10Sに生じている加工変質層11を研磨により除去する。用意する炭化珪素単結晶基板10や研磨に用いる研磨スラリーおよび工程S22における手順は第1の実施形態と同じである。 【0065】 炭化珪素単結晶基板10の主面10SにCMPを施すことによって,加工変質層11が完全に除去され,かつ,主面10Sが平坦化されて鏡面に仕上げられた炭化珪素単結晶基板10が得られる。図7(b)に示すように,このとき,加工変質層11は完全に除去されるが,表面観察では確認できない珪素,炭素および酸素を含む酸化物の薄い表面残留物13が部分的に残存している。 【0066】 次に,工程S23に示すように,鏡面に仕上げられた主面10Sの少なくとも一部を気相で酸化し,酸化物を形成する。この工程により表面残留物13が気相で酸化され,図7(c)に示すように,酸化珪素からなる酸化物13’が形成される。工程S23には,ウェット酸化法,陽極酸化法,プラズマ酸化法,熱酸化法およびオゾン酸化法のうち,いずれかの方法を用いることができる。 【0067】 第1の実施形態で説明したように,表面残留物13は薄いため,気相法による酸化を長時間行う必要はない。表面残留物13が完全に酸化する程度の時間で十分である。また,表面残留物13を優先的に酸化させてもよいし,表面残留物13も含めて炭化珪素単結晶基板10の主面10Sの表面から100nm程度の深さで全体を酸化してもよい。炭化珪素単結晶基板10の主面10Sの表面全体を酸化する場合には,酸化物13’を含む酸化物層が炭化珪素単結晶基板10の主面10Sの表面全体に形成される。 ・・・ 【0069】 熱酸化法によって工程S23を行う場合には,酸素雰囲気下で炭化珪素単結晶基板10を高温に保ち,炭化珪素単結晶基板10の主面10Sに残存する表面残留物13を完全に酸化し,酸化物13’を形成する。たとえば,炭化珪素単結晶基板10を900℃?1500℃の温度に保ち,酸素雰囲気下で,10分?240分間保持する。 ・・・ 【0071】 次に,工程S24に示すように,形成した酸化物13’を除去する。・・・ ・・・ 【0076】 第1の実施形態と同様,このようにして得られた炭化珪素単結晶基板10は,平坦であり,かつ,表面粗度Raが1nm以下の鏡面に仕上げられた主面10Sを有する。また,主面10S上に表面残留物13が残存していない。このため,炭化珪素単結晶基板10の主面10S上に筋状のステップバンチングのない高品質な炭化珪素半導体層や窒化ガリウム半導体層を形成することができる。・・・」 イ 先願発明 上記アより先願明細書等には,次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。 「機械研磨が施された主面を有する炭化珪素単結晶基板の上記主面に化学機械研磨を施す工程であって,全体として上記炭化珪素単結晶基板の主面は高い平坦度および平滑度を有し,原子レベルの段差である炭化珪素単結晶に由来するステップ構造が主面の表面に現れる工程と, 上記炭化珪素単結晶基板を900℃?1500℃の温度に保ち,酸素雰囲気下で,10分?240分間保持して,上記炭化珪素単結晶基板の主面の表面から100nm程度の深さで全体を酸化し,酸化物層を上記炭化珪素単結晶基板の主面の表面全体に形成する工程とを,包含する,炭化珪素単結晶基板の製造方法。」 (4)本願補正発明と先願発明との対比 ア 先願発明における「炭化珪素単結晶基板」及び「工程」は,それぞれ,本願補正発明の「半導体ウェハ」及び「ステップ」に相当するといえる。 また,先願発明における「炭化珪素単結晶基板の主面」及び「炭化珪素単結晶基板の主面の表面」は,いずれも,本願補正発明の「半導体ウェハの表面」に相当するといえる。 そして,本願補正発明の「化学機械平坦化」について,本願明細書には「本発明の一実施形態によれば,その後,図1のウェハ100に化学機械平坦化(CMP)が適用される。CMPは「化学機械研磨」と呼ばれる場合もあるが,本開示の目的上,先に参照されたスクラッチ及び表面下欠陥を残すウェハの研磨も含みうる任意の初期の機械的な材料除去からCMPプロセスを区別するために,化学機械平坦化という用語が用いられることになる。」(【0016】)と記載されているところ,先願発明における「化学機械研磨」は,「機械研磨が施された主面を有する炭化珪素単結晶基板の上記主面」に施されるもので,それによって「全体として上記炭化珪素単結晶基板の主面は高い平坦度」を有するから,本願補正発明の「化学機械平坦化」に相当するということができる。 そうすると,先願発明における「機械研磨が施された主面を有する炭化珪素単結晶基板の上記主面に化学機械研磨を施す工程であって,全体として上記炭化珪素単結晶基板の主面は高い平坦度および平滑度を有し,原子レベルの段差である炭化珪素単結晶に由来するステップ構造が主面の表面に現れる工程」は,本願補正発明における「半導体ウェハの表面を化学機械平坦化するステップ」に相当するといえる。 イ 本願補正発明の「200から1000未満のオングストロームの厚さを有する酸化物を表面上に形成」することと,先願発明における「酸化物層を上記炭化珪素単結晶基板の主面の表面全体に形成する」こととは,「酸化物を表面上に形成」する点で共通するといえる。 そして,本願補正発明の「スクラッチ,及び/又は表面下欠陥と共に原子ステップを削減するためにある時間及びある温度で半導体ウェハを酸化する」ことと,先願発明における「上記炭化珪素単結晶基板を900℃?1500℃の温度に保ち,酸素雰囲気下で,10分?240分間保持して,上記炭化珪素単結晶基板の主面の表面から100nm程度の深さで全体を酸化」することとは,「ある時間及びある温度で半導体ウェハを酸化する」点で共通するといえる。 そうすると,本願補正発明の「200から1000未満のオングストロームの厚さを有する酸化物を表面上に形成して,スクラッチ,及び/又は表面下欠陥と共に原子ステップを削減するためにある時間及びある温度で半導体ウェハを酸化するステップ」と,先願発明における「上記炭化珪素単結晶基板を900℃?1500℃の温度に保ち,酸素雰囲気下で,10分?240分間保持して,上記炭化珪素単結晶基板の主面の表面から100nm程度の深さで全体を酸化し,酸化物層を上記炭化珪素単結晶基板の主面の表面全体に形成する工程」とは,「酸化物を表面上に形成して,ある時間及びある温度で半導体ウェハを酸化するステップ」である点で共通するといえる。 ウ 先願発明における「包含する」は,本願補正発明の「含む」に相当するといえる。 そして,先願発明における「炭化珪素単結晶基板の製造方法」は,「機械研磨が施された主面を有する炭化珪素単結晶基板」を処理する方法といえるから,本願補正発明と先願発明とは「半導体ウェハを処理する方法」である点で共通するということができる。 エ 以上から,本願補正発明と先願発明とは,下記(ア)の点で一致し,下記(イ)の点で一応の相違点があると認める。 (ア)一致点 「半導体ウェハを処理する方法であって, 半導体ウェハの表面を化学機械平坦化するステップと, 酸化物を表面上に形成して,ある時間及びある温度で半導体ウェハを酸化するステップと,を含む,方法。」 (イ)相違点 ・相違点1 一致点に係る構成の「酸化物を表面上に形成」することについて,本願補正発明では,「酸化物」が「200から1000未満のオングストロームの厚さを有する」と特定されているのに対し,先願発明では「炭化珪素単結晶基板の主面の表面全体に形成」される「酸化物層」の厚さは明示されていない点。 ・相違点2 一致点に係る構成の「ある時間及びある温度で半導体ウェハを酸化する」ことについて,本願補正発明は,「スクラッチ,及び/又は表面下欠陥と共に原子ステップを削減するため」であると特定されているのに対し,先願発明において「上記炭化珪素単結晶基板を900℃?1500℃の温度に保ち,酸素雰囲気下で,10分?240分間保持して,上記炭化珪素単結晶基板の主面の表面から100nm程度の深さで全体を酸化」することについて,本願補正発明のような特定はされていない点。 (5)一応の相違点についての検討 ア 相違点1について 上記(3)イのとおり,先願発明では「上記炭化珪素単結晶基板の主面の表面から100nm程度の深さで全体を酸化し,酸化物層を上記炭化珪素単結晶基板の主面の表面全体に形成する」から,炭化珪素単結晶基板の主面の表面から100nm程度の厚さを有する酸化物層が形成されると認められる。 そして,100nm程度の厚さには,100nm及びこれを僅かに下回る厚さ,すなわち1000オングストローム及びこれを僅かに下回る厚さが含まれることは明らかである。 そうすると,先願発明は,200から1000未満のオングストロームの厚さを有する「酸化物層を上記炭化珪素単結晶基板の主面の表面全体に形成する」との構成を実質的に備えていると認められる。 以上から,相違点1は,本願補正発明と先願発明との実質的な相違点とは認められない。 イ 相違点2について 先願明細書等の記載(上記(3)ア参照。)より,先願発明は,「平滑で高品質な表面を有する炭化珪素半導体層等を成長させるための炭化珪素単結晶基板およびそれを製造する方法を提供することを目的」(【0011】)とし,化学機械研磨により原子レベルの段差である炭化珪素単結晶に由来するステップ構造が現れた,炭化珪素単結晶基板の主面の表面全体に酸化物層を形成することを含み,その後「形成した酸化物13’を除去する」(【0071】)ことで,「得られた炭化珪素単結晶基板10は,平坦であり,かつ,表面粗度Raが1nm以下の鏡面に仕上げられた主面10Sを有する」(【0076】)との作用効果を奏するものと認められる。 そして,先願発明において,「平滑で高品質な表面を有する炭化珪素半導体層等を成長させるための炭化珪素単結晶基板」を製造するとの所期の目的を達成するためには,表面残留物の削減だけでなく,炭化珪素単結晶基板の主面の表面における表面下欠陥や,原子レベルの段差である炭化珪素単結晶に由来するステップ構造の削減が必要であることは,当該技術分野では技術常識である。 また,先願発明において,炭化珪素単結晶基板の主面の表面全体に形成された酸化物層を除去することで,上記表面下欠陥や上記ステップ構造が削減されることも,当該技術分野における技術常識を参酌すれば,先願明細書等の記載から自明である。 そうすると,先願発明において,「上記炭化珪素単結晶基板を900℃?1500℃の温度に保ち,酸素雰囲気下で,10分?240分間保持して,上記炭化珪素単結晶基板の主面の表面から100nm程度の深さで全体を酸化」することは,先願発明の所期の目的に鑑みれば,炭化珪素単結晶基板の主面の表面における表面下欠陥や,原子レベルの段差である炭化珪素単結晶に由来するステップ構造を削減するために行うものということができる。 以上より,先願発明における「上記炭化珪素単結晶基板を900℃?1500℃の温度に保ち,酸素雰囲気下で,10分?240分間保持して,上記炭化珪素単結晶基板の主面の表面から100nm程度の深さで全体を酸化」することは,「表面下欠陥と共に原子ステップを削減するため」に行うものといえるから,相違点2は,本願補正発明と先願発明との実質的な相違点とは認められない。 ウ 小括 上記ア及びイのとおり,先願発明は,本願補正発明との一応の相違点として認定した相違点1及び2に係る構成を,実質的に備えていると認められるから,本願補正発明と先願発明との間に実質的な相違点があるとはいえず,両者は同一と認める。 (6)まとめ 本件補正後の請求項10に係る発明(本願補正発明)は,先願明細書等記載の発明(先願発明)と同一であるから,特許法第29条の2の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 5 むすび したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明の特許性の有無について 1 本願発明について 平成26年12月24日に提出された手続補正書による手続補正は前記のとおり却下されたので,本願の請求項11に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成26年7月31日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項11に記載された事項により特定される,次のとおりのものと認める。(再掲) 「【請求項11】 半導体ウェハを処理する方法であって, 前記半導体ウェハの表面を化学機械平坦化するステップと, 200から1000オングストロームの厚さを有する酸化物を前記表面上に形成して,スクラッチ,及び/又は表面下欠陥と共に原子ステップを削減するために前記半導体ウェハを酸化するステップと,を含む,方法。」 2 先願明細書等の記載と先願発明 先願明細書等の記載は,前記第2の4(3)アのとおりであり,先願発明は,前記第2の4(3)イで認定したとおりである。 3 本願発明と先願発明との対比 前記第2の1及び2から明らかなように,本願発明は,本願補正発明から,平成26年12月24日に提出された手続補正書による補正事項1に係る請求項の項番の変更と,補正事項2に係る技術的限定(前記第2の2参照。)を取り除いたものである。 そうすると,本願発明と先願発明とを対比すると,前記第2の4(4)より,両者は,下記(ア)の点で一致し,下記(イ)の点で一応の相違点があると認める。 (ア)一致点 「半導体ウェハを処理する方法であって, 半導体ウェハの表面を化学機械平坦化するステップと, 酸化物を表面上に形成して,ある時間及びある温度で半導体ウェハを酸化するステップと,を含む,方法。」 (イ)相違点 ・相違点1 一致点に係る構成の「酸化物を表面上に形成」することについて,本願補正発明では,「酸化物」が「200から1000オングストロームの厚さを有する」と特定されているのに対し,先願発明では「炭化珪素単結晶基板の主面の表面全体に形成」される「酸化物層」の厚さは明示されていない点。 ・相違点2 一致点に係る構成の「ある時間及びある温度で半導体ウェハを酸化する」ことについて,本願補正発明は,「スクラッチ,及び/又は表面下欠陥と共に原子ステップを削減するため」であると特定されているのに対し,先願発明において「上記炭化珪素単結晶基板を900℃?1500℃の温度に保ち,酸素雰囲気下で,10分?240分間保持して,上記炭化珪素単結晶基板の主面の表面から100nm程度の深さで全体を酸化」することについて,本願補正発明のような特定はされていない点。 4 一応の相違点についての検討 ア 相違点1について 前記第2の4(5)アにおける検討より,先願発明は,200から1000のオングストロームの厚さを有する「酸化物層を上記炭化珪素単結晶基板の主面の表面全体に形成する」との構成を実質的に備えていると認められる。 以上から,相違点1は,本願発明と先願発明との実質的な相違点とは認められない。 イ 相違点2について 前記第2の4(5)イで検討したとおり,本願補正発明と先願発明との相違点2は,本願補正発明と先願発明との実質的な相違点とは認められない。 ウ 小括 上記ア及びイのとおり,先願発明は,本願補正発明との一応の相違点として認定した相違点1及び2に係る構成を,実質的に備えていると認められるから,本願発明と先願発明との間に実質的な相違点があるとはいえず,両者は同一と認める。 5 まとめ 以上のとおり,本願の請求項11に係る発明(本願発明)は,先願明細書等記載の発明(先願発明)と同一であるから,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができないものである。 第4 結言 したがって,本願の請求項11に係る発明は,特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-12-24 |
結審通知日 | 2015-12-25 |
審決日 | 2016-01-05 |
出願番号 | 特願2013-512144(P2013-512144) |
審決分類 |
P
1
8・
16-
Z
(H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 粟野 正明 |
特許庁審判長 |
鈴木 匡明 |
特許庁審判官 |
河口 雅英 加藤 浩一 |
発明の名称 | 半導体材料のための平滑化方法及びそれによって作製されるウェハ |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 大牧 綾子 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 竹内 茂雄 |
代理人 | 小林 泰 |