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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1315038
審判番号 不服2012-20646  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-19 
確定日 2016-05-16 
事件の表示 特願2007-531272「ナルメフェン及びそれの類似体を使用する疾患の処置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月16日国際公開、WO2006/029167、平成20年 4月24日国内公表、特表2008-512462〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2005年9月6日(パリ条約による優先権主張 2004年9月8日(US)米国)を国際出願日とする出願であって,平成23年10月14日付けの拒絶理由通知に対して,平成24年4月25日に意見書,手続補正書が提出されたが,平成24年6月14日付けで拒絶査定がなされ,これに対して同年10月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ,同年12月5日に手続補正書(方式)が提出され,平成25年12月13日付けの審尋に対し,平成26年5月15日に回答書が提出されたものである。

第2 平成24年10月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年10月19日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は,補正前の特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】
B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染,器官の損傷が肝臓の損傷,肺の損傷,及び腎臓の損傷であるところの器官の損傷,並びに,クローン病,潰瘍性大腸炎,及び肺繊維症からなる群より選択された,スーパーオキサイドアニオンラジカル,TNF-α,又はiNOS,の過剰生産と関連させられた疾患より選択された健康状態を予防する又は治療するための医薬において,
それは,式R-A-Xの化合物の治療的な量をそれを必要とするヒト又は動物へ投与することを具備すると共に,
Rは,H,アルキル,アリル,フェニル,ベンジル,又は(CH_(2))_(m)R_(4)であると共に,
mは,0から6までであると共に,
R_(4)は,環の構造であることができると共に,
Aは,
【化1】

であると共に,,
Xは,水素,アリル,シンナモイル,クロトニル,(CH_(2))C_(6)H_(5)-4F,(CH_(2))_(n)C=CR_(1)R_(2),(CH_(2))_(n)C≡CR_(3),(CH_(2))_(n)R_(5),及び(CH_(2))_(m)CHR_(6)R_(7)であることができると共に,
mは,0から6までであると共に,
nは,0から6までであると共に,
R_(3)は,H,アルキル,又はR_(4)と同じものであると共に,
R_(4)は,上に記載されたものであると共に,
R_(5)は,アルキル,CN,COR_(8),又は以下に続く構造
【化2】

からなる群より選択された構造であることができると共に,
Yは,Oであることができると共に,
R_(6)及びR_(7)は,各々独立に,上に定義されたようなR_(4)と同じものであると共に,
R_(8)は,アルキル,上に定義されたようなR_(4)と同じもの,又は,R_(5)が,上に記載された構造(IX-XVIII)であることができるとき,R_(5)と同じものである,
医薬。」
を,
「【請求項1】
B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染,器官の損傷が肝臓の損傷,肺の損傷,及び腎臓の損傷であるところの非静脈内の虚血性の再灌流の器官の損傷,並びに,クローン病,潰瘍性大腸炎,及び肺繊維症からなる群より選択された,TNF-αの過剰生産と関連させられた疾患より選択された健康状態を予防する又は治療するための医薬において,
それは,式R-A-Xの化合物の治療的な量をそれを必要とするヒト又は動物へ投与することを具備すると共に,
Rは,H,アルキル,アリル,フェニル,ベンジル,又は(CH_(2))_(m)R_(4)であると共に,
mは,0から6までであると共に,
R_(4)は,環の構造であることができると共に,
Aは,
【化1】

であると共に,
Xは,水素,アリル,シンナモイル,クロトニル,(CH_(2))C_(6)H_(5)-4F,(CH_(2))_(n)C=CR_(1)R_(2),(CH_(2))_(n)C≡CR_(3),(CH_(2))_(n)R_(5),及び(CH_(2))_(m)CHR_(6)R_(7)であることができると共に,
mは,0から6までであると共に,
nは,0から6までであると共に,
R_(3)は,H,アルキル,又はR_(4)と同じものであると共に,
R_(4)は,上に記載されたものであると共に,
R_(5)は,アルキル,CN,COR_(8),又は以下に続く構造
【化2】

からなる群より選択された構造であることができると共に,
R_(6)及びR_(7)は,各々独立に,上に定義されたようなR_(4)と同じものであると共に,
R_(8)は,アルキル,上に定義されたようなR_(4)と同じもの,又は,R_(5)が,上に記載された構造(IX-XVIII)であることができるとき,R_(5)と同じものである,
医薬。」
(下線は補正箇所を示す。)とする補正を含むものである。

この補正前後の発明特定事項を対比すると,
(1)「器官の損傷」について,「非静脈内の虚血性の再灌流の器官の損傷」と限定し,
(2)「スーパーオキサイドアニオンラジカル,TNF-α,又はiNOS,の過剰生産と関連させられた疾患」について,「TNF-αの過剰生産と関連させられた疾患」に限定し,
(3)一般式の定義中の「Yは,Oであることができると共に」との限定を省くものと認められる。

また,本件補正は,補正前の特許請求の範囲の請求項4の
「【請求項4】
請求項3に記載の医薬において,
上記の器官の損傷は,肝臓の損傷である,医薬。」
を,
「【請求項4】
請求項3に記載の医薬において,
上記の器官の損傷は,肝臓の損傷であると共に,
上記の予防又は治療は,治療される患者における酵素SGPT及びSGOPの少なくとも一つのものの減少を測定することによるものである,
医薬。」
(下線は補正箇所を示す。)とする補正を含むものである。

この補正前後の発明特定事項を対比すると,
(4)「上記の予防又は治療は,治療される患者における酵素SGPT及びSGOPの少なくとも一つのものの減少を測定することによるものである」との事項を加える補正事項は,かかる事項を加えることで「予防又は治療」を特定しようとするものである。

さらに,本件補正は,補正前の特許請求の範囲の請求項5の
「【請求項5】
請求項3に記載の医薬において,
上記の器官の損傷は,腎臓の損傷である,医薬。」
を,
「【請求項5】
請求項3に記載の医薬において,
上記の器官の損傷は,腎臓の損傷であると共に,
上記の予防又は治療は,治療される患者における血液の尿の窒素及びクレアチニンのレベルの少なくとも一つのものの減少を測定することによるものである,医薬。」
(下線は補正箇所を示す。)とする補正を含むものである。

この補正前後の発明特定事項を対比すると,
(5)「上記の予防又は治療は,治療される患者における血液の尿の窒素及びクレアチニンのレベルの少なくとも一つのものの減少を測定することによるものである」との事項を加える補正事項は,かかる事項を加えることで「予防又は治療」を特定しようとするものである。

2 補正の適否
本件補正は,特許法第17条の2第1項第4号において準用する同法第121条第1項の拒絶査定不服審判を請求する場合において,その審判の請求と同時になされたものであるところ,(i)同法第17条の2第3項において,「特許請求の範囲・・について補正をするときは,」「誤訳訂正書を提出してする場合を除き,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(第三十6条の2第2項の外国語書面出願にあつては,同条第四項の規定により明細書,特許請求の範囲及び図面とみなされた同条第二項に規定する外国語書面の翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては,翻訳文又は当該補正後の明細書,特許請求の範囲若しくは図面)」(以下,「当初明細書等」という。)「に記載した事項の範囲内においてしなければならない」とされていて,また,(ii)同法第17条の2第4項において,同条第1項第4号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正は,同項第1号乃至第4号に掲げる事項(請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正,明りようでない記載の釈明)を目的とするものに限るとされているので,それらの規定を満たすか検討する。

当初明細書等には,(1)「非静脈内の虚血性の再灌流の器官の損傷」はもとより,「非静脈内の虚血性の再灌流」について何ら記載がない。
また,当初明細書等には,(4)「治療される患者における酵素SGPT及びSGOPの少なくとも一つのものの減少を測定する」ことも,(5)「治療される患者における血液の尿の窒素及びクレアチニンのレベルの少なくとも一つのものの減少を測定する」ことも,一切記載されておらず,当初明細書等に記載した事項から自明な事項でもない。
そうすると,上記(1),(4),(5)の補正を含む本件補正は,新たな技術事項を導入するものであり,当初明細書等に記載されたものではない。
なお,上記(2)の補正については,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「スーパーオキサイドアニオンラジカル,TNF-α,又はiNOS,の過剰生産と関連させられた疾患」を「TNF-αの過剰生産と関連させられた疾患」に限定するものであって,特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,上記(3)の補正については,一般式に存在しないYの定義を削除するものであり,同第3号(誤記の訂正)に該当する。

3 むすび
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明

本願の請求項1?13に係る発明は,平成24年4月25日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりの発明と認める。

そして,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次の事項により特定される発明である。

「【請求項1】
B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染,器官の損傷が肝臓の損傷,肺の損傷,及び腎臓の損傷であるところの器官の損傷,並びに,クローン病,潰瘍性大腸炎,及び肺繊維症からなる群より選択された,スーパーオキサイドアニオンラジカル,TNF-α,又はiNOS,の過剰生産と関連させられた疾患より選択された健康状態を予防する又は治療するための医薬において,
それは,式R-A-Xの化合物の治療的な量をそれを必要とするヒト又は動物へ投与することを具備すると共に,
Rは,H,アルキル,アリル,フェニル,ベンジル,又は(CH_(2))_(m)R_(4)であると共に,
mは,0から6までであると共に,
R_(4)は,環の構造であることができると共に,
Aは,
【化1】

であると共に,,
Xは,水素,アリル,シンナモイル,クロトニル,(CH_(2))C_(6)H_(5)-4F,(CH_(2))_(n)C=CR_(1)R_(2),(CH_(2))_(n)C≡CR_(3),(CH_(2))_(n)R_(5),及び(CH_(2))_(m)CHR_(6)R_(7)であることができると共に,
mは,0から6までであると共に,
nは,0から6までであると共に,
R_(3)は,H,アルキル,又はR_(4)と同じものであると共に,
R_(4)は,上に記載されたものであると共に,
R_(5)は,アルキル,CN,COR_(8),又は以下に続く構造
【化2】

からなる群より選択された構造であることができると共に,
Yは,Oであることができると共に,
R_(6)及びR_(7)は,各々独立に,上に定義されたようなR_(4)と同じものであると共に,
R_(8)は,アルキル,上に定義されたようなR_(4)と同じもの,又は,R_(5)が,上に記載された構造(IX-XVIII)であることができるとき,R_(5)と同じものである,
医薬。」

1.新規性(29条第1項第3号違反)について

(1)引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物1(原査定の引用文献4)に係る国際公開第92/18126号には,以下の事項が記載されている。

なお,以下の日本語訳による摘示は,当審によるものであり,訳文中下線は当審が付したものである。

(刊1-1)
「 8. A method of treating a patient suffering from ischemia or hypoperfusion in an internal organ as a result of trauma, insult or hemorrhagic shock comprising the intravenous administration to the patient of about 10 to about 3000 μg/kg, based on patient body weight, of nalmefene in an injectable vehicle subsequent to the onset of ischemia or hypoperfusion in the organ. ・・・
14. A method according to Claim 8 wherein the internal organ is a kidney, small bowel, liver or lung.」 (請求項8?14)
(訳文)
「 8.器官における虚血または低灌流の発症に続く,注射可能な媒体中の,患者の体重に基づく,約10?3000μg/kgのナルメフェンの患者への静脈内投与を含む,外傷,損傷,または出血性ショックによる,内臓器官での虚血または低灌流に苦しむ患者を治療する方法。 ・・・
14.内臓器官が腎臓,小腸,肝臓,または肺である,請求項8に記載の方法。」

(刊1-2)
「EXAMPLE 1
Hepatic (Splanchnic) Ischemia
Sprague-Dawley rats (ten per dosage group) weighing 250-300 grams, were subjected to 40 minutes of warm ischemia after cross-clamping of the hepatic hilum (hepatic artery and portal vein, respectively) . Each animal received an intravenous injection of vehicle (for control) , naloxone or nalmefene immediately after release of the vascular clamps. Intravenous fluids based on Ringer's lactate (15 ml/kg) were given. The animals were followed for 24 hours and survival evaluated. The 24-hour survival data for each dosage group is set forth in Table 1 below. Survival of animals at 48 and 72 hours post ischemia was identical to 24-hour results, i.e. no additional animals died.
TABLE 1

」(6頁実施例1,表1)
(訳文)
「実施例1
肝臓の(内臓の)虚血
体重250?300グラムのスピローグ・ドーリー・ラット(投薬量グループ当たり10匹)は,肝臓の門(肝臓動脈及び肝門静脈のそれぞれ)にクランプ交差した後,40分間の温虚血にさらされた。各動物は,媒体(コントロール),ナロキソンまたはナルメフェンの静脈注射を,血管クランプの放出直後に受けた。乳酸リンゲル液(15ml/kg)に基づいた静脈内輸液が与えられた。動物は24時間追跡調査され,生存が評価された。各投薬量グループの24時間生存データは,以下の表1に説明される。虚血後48及び72時間の動物の生存は,24時間での結果と同一であり,すなわち,それ以上の動物は死ななかった。
表1 虚血後24時間の生存%(表は省略)」

(刊1-3)
「EXAMPLE 3
Renal Ischemia
The methodology of Example 1 was followed, but the animals were subjected to 60 minutes of warm ischemia after clamping of the renal artery and vein. 10 animals per dosage group subsequently received either 50, 100 or 200 μg/kg of vehicle, naloxone or nalmefene. The survival rates, evaluated 72 hours after reperfusion, are set forth in Table 4.
TABLE 4

」(8頁実施例3,表4)
(訳文)
「実施例3
腎臓の虚血
実施例1と同様の方法で行われたが,動物は,腎臓の動脈と静脈のクランプ交差後,60分間の温虚血にさらされた。投薬量グループ当たり10匹の動物は,その後それぞれ50,100,または200μg/kgのいずれかの,媒体,ナロキソンまたはナルメフェンを投与された。生存率は,再灌流後72時間で評価され,表4に説明される。
表4(表は省略)」

(2) 刊行物1記載の発明
刊行物1の請求項8について,請求項14の「内臓器官」の特定を加え,「治療する方法」に用いられる物の発明として整理すると(摘示(刊1-1)),刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。
「外傷,損傷,または出血性ショックによる,腎臓,小腸,肝臓,または肺での虚血または低灌流に苦しむ患者を治療するための,器官における虚血または低灌流の発症に続く,注射可能な媒体中の,患者の体重に基づく,約10?3000μg/kgのナルメフェンの患者への静脈内投与のための剤。」(以下,「引用発明」という。)

(3) 対比

ア 「健康状態」について
本願発明の「健康状態」の選択肢の一つである「器官の損傷が肝臓の損傷,肺の損傷,及び腎臓の損傷であるところの器官の損傷」(「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染,器官の損傷が肝臓の損傷,肺の損傷,及び腎臓の損傷であるところの器官の損傷,並びに,クローン病,潰瘍性大腸炎,及び肺繊維症からなる群より選択された,スーパーオキサイドアニオンラジカル,TNF-α,又はiNOS,の過剰生産と関連させられた疾患より選択された健康状態」の中から「器官の損傷」を選択した場合)について,引用発明と対比する。
本願発明の「器官の損傷」について,本願明細書には「【0073】特定の実施形態において,器官の損傷は,肝臓の損傷,腎臓の損傷,及び肺の損傷を含むが,それらに限定されない。このような損傷は,アルコールの過剰摂取,肝硬変症,肝炎,及び,細菌性感染又は四塩化炭素のような環境毒素から起こる敗血症のような敗血症性ショックを含むが,それらに限定されない原因から起こることもある。」と記載されており,原因や状態について,定義はなされていない。
そして,引用発明の「外傷,損傷,または出血性ショックによる,腎臓,小腸,肝臓,または肺での虚血または低灌流」は,「腎臓,小腸,肝臓,または肺」が,「外傷,損傷,または出血性ショック」を受け,「虚血または低灌流」を発症している健康状態である。
そうすると,引用発明の「外傷,損傷,または出血性ショックによる,腎臓,小腸,肝臓,または肺での虚血または低灌流」は,本願発明の「器官の損傷が肝臓の損傷,肺の損傷,及び腎臓の損傷であるところの器官の損傷」とは,「腎臓,小腸,肝臓,または肺の損傷」を含む「健康状態」である点で共通する。

イ 「式R-A-Xの化合物」について
引用発明の「ナルメフェン」は,THE MERCK INDEX 13TH EDITION(MERCK CO., INC., 2001年出版,「6386. Nalmefene.」参照)によれば,

なる化学構造式で表される化合物であり,本願の請求項1の記載と対応させると,式R-A-Xの
RがHであり,
Xが(CH_(2))_(n)R_(5)であり,
nは1であり,
R_(5)がシクロプロピルであり,
RがAの酸素原子に,XがAの窒素原子に結合した化合物である。
ここで,本願発明の「式R-A-Xの化合物」は,Aのいずれの結合手がRと結合し,またXと結合するものであるか,化学構造式から明らかではないが,本願明細書段落【0027】には,「本発明は,様々な疾患若しくは健康状態(condition)の処置(treatment)における,又は,このような健康状態の処置のための,医薬の生産のための,式R-A-Xに従った化合物の使用に関係すると共に,Rは,酸素原子へ,及び,Xは,窒素原子へ,付けられるものであるが,・・・」と記載されており,また,段落【0041】には,「ここで使用されるような用語“アルキル”は,例えば,メチル,エチル,プロピル,イソプロピル,・・・を含む,直鎖,分岐,又は環状の,飽和又は不飽和の炭化水素鎖を含めてC_(1)-C_(20)を参照する。」と記載されているから,R_(5)が環状の,飽和の3員環である化合物(すなわち,ナルメフェン)は,本願発明の「式R-A-Xの化合物」に相当する。
なお,本願明細書段落【0033】には,「特に好適なものは,ナルメフェン,Xがシクロプロピルメチルであると共にRが水素である化合物である。」とも記載されており,上記の対応とも整合する。

ウ 「治療的な量」について
引用発明の「注射可能な媒体中の,患者の体重に基づく,約10?3000μg/kgのナルメフェン」は,患者の体重に基づいて,「虚血または低灌流に苦しむ患者を治療するための」量,すなわち「治療的な量」であるといえるし,引用発明において,有効成分であるナルメフェンを「治療的な量」で用いるのは当然のことともいえる。
そして,引用発明のナルメフェンは,本願発明の「式R-A-Xの化合物」に相当することは,上記イのとおりである。
したがって,引用発明の「注射可能な媒体中の,患者の体重に基づく,約10?3000μg/kgのナルメフェン」は,本願発明の「式R-A-Xの化合物の治療的な量」に相当する。

エ 「健康状態を予防する又は治療するための医薬」について
引用発明の「器官における虚血または低灌流の発症に続く,注射可能な媒体中の,患者の体重に基づく,約10?3000μg/kgのナルメフェンの患者への静脈内投与のための剤」は,ナルメフェンによる虚血または低灌流の治療を目的としているから,本願発明の「健康状態を予防する又は治療するための医薬」に相当するし,かつ,「それを必要とするヒト又は動物へ投与することを具備」している。

したがって,両者は,
「腎臓,小腸,肝臓,または肺の損傷を含む健康状態を予防する又は治療するための医薬において,
式R-A-Xの化合物の治療的な量を,
それを必要とするヒト又は動物へ投与することを具備する医薬。」
である点で一致し,以下の点で一応相違する。

<相違点1>
「腎臓,小腸,肝臓,または肺の損傷」を含む「健康状態」が,
本願発明では,「器官の損傷が肝臓の損傷,肺の損傷,及び腎臓の損傷であるところの器官の損傷」であるのに対し,
引用発明では,「外傷,損傷,または出血性ショックによる,腎臓,小腸,肝臓,または肺での虚血または低灌流」である点。

(4) 判断
上記相違点について検討する。なお,下線は当審で付したものである。
引用発明の「外傷,損傷,または出血性ショックによる,腎臓,小腸,肝臓,または肺での虚血または低灌流」は,摘示(刊1-2)にあるとおり,その実施態様として,「肝臓の虚血」として,ラットの肝臓の動脈と静脈をクランプ交差して虚血に導いており,摘示(刊1-3)の「腎臓の虚血」についても同様であることから,「損傷による肝臓での虚血」と,「損傷による腎臓での虚血」とを少なくとも含むものである。
一方,上記「(3)ア」で述べたとおり,本願発明の「器官の損傷」は特段の定義はされておらず,「損傷による」器官の「虚血」を排除しない。
そして,本願発明の「器官の損傷が肝臓の損傷,肺の損傷,及び腎臓の損傷であるところの器官の損傷」は,文言どおり解釈すれば,「肝臓」,「腎臓」,及び「肺」のいずれもの損傷を意味するが,本願明細書段落【0073】の,「特定の実施形態において,器官の損傷は,肝臓の損傷,腎臓の損傷,及び肺の損傷を含むが,それらに限定されない。」との記載からみて,肝臓,腎臓,及び肺を含む損傷のいずれか,すなわち,「肝臓の損傷,肺の損傷,または腎臓の損傷であるところの器官の損傷」の意味であるとの解釈が妥当である。
したがって,引用発明の「外傷,損傷,または出血性ショックによる,腎臓,小腸,肝臓,または肺での虚血または低灌流」は,本願発明の「器官の損傷が肝臓の損傷,肺の損傷,及び腎臓の損傷を含むものであるところの器官の損傷」という健康状態と,実質的には相違しない。

なお,請求人は,平成26年5月15日付け回答書において,刊行物1(回答書では「引用文献等4」)の「虚血性の傷害」は,「症状に対処するもので」あって,本件出願の「器官の損傷は,不可逆的な虚血性の損傷とは完全に異なるものである治療可能な及び可逆的なものです」と主張しているが,本願発明でそのような限定がなされているものでもなく,また,そもそも本願明細書の記載に基づく主張でもないため,上記判断を左右するものではない。

(5) 新規性のむすび
以上のとおりであるから,本願発明は,本願の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物1に記載された発明であると認められ,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

2.記載不備について

(1) 原査定の理由
原査定の理由4及び5は,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない,及び,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない,というものであり,概略,以下の点を指摘している。
医薬発明にかかる薬理試験結果については、どの化合物を、どのような薬理試験系において適用し、どのような結果が得られたのか、そして、その薬理試験系が請求項に係る医薬発明の医薬用途とどのような関連性があるのか明らかにされなくてはならない。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明には本願発明の化合物の薬理試験結果についての記載が皆無であるし、化合物と医薬用途との関連性を裏付ける技術常識も明らかでない。

(2) 本願明細書の記載
本願明細書には,本願発明の「ウィルス性の感染の予防又は治療」に関連して,以下の記載がある。なお,下線は当審で付したものである。

ア 「【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明に従って生産された処置又は医薬は,B型肝炎及びC型肝炎のようなウィルス感染,並びに,敗血症性ショック,器官の損傷,神経系の障害,神経変性の疾患,癌,及び,超酸化物の陰イオン性のラジカル,TNF-α又はiNOSの過剰生産と関連した疾患のような健康状態を予防する又は処置するためのものを含む。
【0035】
本発明の他の実施形態に従って,本発明は,B型肝炎及びC型肝炎を伴った患者におけるウィルス感染並びに敗血症性ショック,器官の損傷,神経系の障害,神経変性の疾患,癌,及び超酸化物,TNF-α又はiNOSの過剰生産と関連した疾患のような健康状態を予防する又は処置する方法であって,指定された化合物の一つ又はより多くの治療的に有効な量を含む薬学的な組成物を,それを必要とする主体へ,投与することを含む,方法に関係する。」

イ 「【0054】
本発明の活性な化合物は,単独で又は他の治療薬との組み合わせで投与されることができる。例えば,本発明の活性な化合物は,ウィルス感染,並びに,敗血症性ショック,炎症,器官の損傷,神経系の障害,神経変性の疾患,癌,及び心臓の障害,並びに,超酸化物の陰イオン性のラジカル,TNF-α,及びiNOSの過剰生産と関連した疾患のような健康状態の予防及び/又は処置に有用なものであることが,今知られた,又は,後に識別された,化合物と,共に投与されることができる,例示的な化合物は,鎮痛剤,麻酔剤,抗真菌薬,抗生物質,消炎剤,駆虫薬,解毒剤,制吐剤,抗ヒスタミン剤,抗圧薬,抗マラリア薬,抗菌剤,抗精神病薬,解熱剤,防腐剤,抗関節炎薬,抗結核薬,鎮咳薬,抗ウィルス剤,心臓作用性の薬物,瀉下薬,化学療法剤,副腎皮質ホルモン(ステロイド),抗鬱剤,抑制剤,診断補助薬,利尿剤,酵素,去痰剤,ホルモン類,催眠剤,無機質,栄養補給剤,副交感神経様作用薬,カリウム補給剤,鎮静剤,スルホンアミド,興奮剤,交感神経様作用薬,精神安定剤,泌尿器の抗感染薬,血管収縮剤,血管拡張剤,ビタミン類,キサンチン誘導体,及び同様のものを含むが,しかし,それらに限定されるものではない。」

ウ 「【0072】
使用の方法
ここで記載した式の化合物に加えて,本発明は,有用な治療の方法もまた提供する。例えば,本発明は,ウィルス感染,並びに,敗血症性ショック,炎症,器官の損傷,神経系の傷害,神経変性の疾患,癌,及び心臓の障害,並びに,超酸化剤の陰イオン性のラジカル,TNF-α,及びiNOSの過剰生産と関連した疾患を処置する方法を提供する。いくつかの実施形態においては,ウィルス感染は,B型肝炎ウィルス及びC型肝炎ウィルスによる感染を含むが,しかし,それらに限定されるものではない。
【0073】
特定の実施形態において,器官の損傷は,肝臓の損傷,腎臓の損傷,及び肺の損傷を含むが,それらに限定されない。このような損傷は,アルコールの過剰摂取,肝硬変症,肝炎,及び,細菌性感染又は四塩化炭素のような環境毒素から起こる敗血症のような敗血症性ショックを含むが,それらに限定されない原因から起こることもある。」

(3) 当審の判断
(3-1) 特許法第36条第6項第1号について
特許法第36条第6項第1号の判断は,請求項に係る発明が,発明の詳細な説明において,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かを調べることにより行われる。そして,請求項に係る発明が,発明の詳細な説明において,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると判断された場合には,請求項に係る発明は,発明の詳細な説明に実質的に記載されているとはいえず,特許法第36条第6項第1号の規定に反するものとなる。
これを本願についてみると,本願発明は,「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染を予防する又は治療するための医薬において」,ナルメフェンを含む「式R-A-Xの化合物」「の治療的な量をそれを必要とするヒト又は動物へ投与することを具備する医薬」に関するものを包含しており,「式R-A-Xの化合物」を「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染を予防する又は治療するための医薬」とすることを課題とするものである。
そして,本願において発明の課題が解決できることを当業者が理解できるためには,「式R-A-Xの化合物」が,「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染を予防する又は治療する」という医薬用途において有用なものであることが理解できる必要がある。
ここで,「式R-A-Xの化合物」はナルメフェンを含む,公知の化合物である(1.(3)イ参照)。
しかし,上記(1)の各摘示事項をみても,上記化合物が「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染」に使用されたことは記載されていない。また,摘示事項アないしウに,ウィルス感染に関する記載はあるものの,予防または治療すべき状態の羅列列挙の一部に過ぎず,「式R-A-Xの化合物」が,「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染を予防する又は治療するための医薬」として使用できることの客観的な根拠を伴った記載ではない。
したがって,発明の詳細な説明の記載によって,本願発明,すなわち,「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染を予防する又は治療するための医薬において」,ナルメフェンを含む「式R-A-Xの化合物」「の治療的な量をそれを必要とするヒト又は動物へ投与することを具備する医薬」が記載されたものとはいえないから,本願発明は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

(3-2) 特許法第36条第4項第1号について
上記,(3-1)に記載のとおり,本願明細書には,予防または治療すべき状態について,羅列列挙されるのみで,具体的に「式R-A-Xの化合物」を用いることにより,「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染」を予防する又は治療することができるのかについて,実際に確認した実施例が何ら記載されていない。 さらに,実施例に変わる理論的説明により,「式R-A-Xの化合物」を用いることにより,「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染」を予防する又は治療することができることが明らかにされているとも認められない。
そして,当該技術分野において,「式R-A-Xの化合物」と,「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染」についての関係が明らかであったという技術常識が,本願の優先日当時に存在していたとも認めることはできない。
そうしてみると,本願の発明の詳細な説明の記載は,所期の医薬として使用できるように記載されているとはいえない。
したがって,本願発明については,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

(4) 記載不備のむすび
よって,本願発明に係る出願は,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず,また,発明の詳細な説明の記載が同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.むすび
以上のとおり,本願は,特許請求の範囲の請求項1に係る発明が,本願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。また,特許請求の範囲の請求項1の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていないから,特許を受けることができない。

それゆえ,他の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-10 
結審通知日 2014-10-14 
審決日 2014-10-27 
出願番号 特願2007-531272(P2007-531272)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
P 1 8・ 561- Z (A61K)
P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 關 政立鈴木 智雄  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 安藤 倫世
渕野 留香
発明の名称 ナルメフェン及びそれの類似体を使用する疾患の処置  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  
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