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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
管理番号 1315232
審判番号 不服2014-5674  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-27 
確定日 2016-06-01 
事件の表示 特願2012-552815「無線通信システムにおけるデータ送信方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月18日国際公開、WO2011/099829、平成25年 5月30日国内公表、特表2013-520068〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明
1.手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)2月14日(優先権主張 2010年(平成22年)2月12日 米国、同年10月19日 米国、同月20日 米国、同年11月1日 米国、同月2日 米国、同月18日 米国、同月19日 米国、同日 米国、同年12月28日 米国、2011年(平成23年)2月11日 韓国)を国際出願日とする出願であって、平成24年8月10日付けで手続補正書[1]の提出がなされ、平成25年2月28日付けで手続補正書[2]の提出がなされ、同年8月15日付けで拒絶理由が通知され、同年11月11日付けで意見書とともに手続補正書[3]の提出がなされ、同月28日付けで拒絶査定され、これに対し、平成26年3月27日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正書[4]の提出がなされ、同年5月28日付けで前置審査において拒絶理由が通知され、同年9月2日付けで意見書の提出がなされ、同年10月23日付けで前置報告書が提出され、平成27年6月18日付けで当審により平成26年3月27日付け手続補正が却下されるとともに同日付けで拒絶理由が通知され、同年9月8日付けで意見書とともに手続補正書[5]の提出がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成27年9月8日付け手続補正書[5]の特許請求の範囲の請求項1に記載(下線は請求人が付与。)された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
無線通信システムにおけるユーザ機器(UE)によるデータ送信方法であって、
該データ送信方法は、
該UEにより、複数のコンポーネント搬送波(CC;Component Carrier)のうちの第1のCCのSounding Reference Signal(SRS)サブフレーム内でアップリンクデータを基地局に送信することを含み、該アップリンクデータは、第1のPhysical Uplink Shared Channel(PUSCH)を通して、搬送波集合を介して送信され、
該複数のCCのうちの第2のCCの該SRSサブフレームは、SRSの送信のために留保された最後のSingle Carrier-Frequency Division Multiple Access(SC-FDMA)シンボルを含み、
該第1のCCにおいて該第1のPUSCHを通して送信されるアップリンクデータと該第2のCCにおいて送信される該SRSとが該SRSの送信のために留保された該最後のSC-FDMAシンボルにおいて一致した場合に、該アップリンクデータは該第1のCCにおいて送信され、送信が該第2のCCにおいて設定されている該SRSは該第2のCCにおいて送信されず、
該搬送波集合を介して該アップリンクデータを送信することは、同時に該複数のCCのうちの一つ以上のCCを介して該アップリンクデータを送信することを含み、該一つ以上のCCは、CC容量に応じて該UEに割り当てられている、方法。

第2 先願発明
1.先願の概要
当審から通知した拒絶理由において引用した「特願2009-247899号(特開2011-97266号)」(以下「先願」という。)は、平成21年10月28日を出願日とする出願であって、平成23年5月12日に出願公開されたものである。

2.先願当初明細書等における記載事項
先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願当初明細書等」という。)には、次の事項が記載(下線は当審が付与。)されている。

(1) 【技術分野】
【0001】
本発明は、移動局装置が基地局装置にチャネル測定用の参照信号とデータ信号を送信する技術に関し、特に、移動局装置が行なうチャネル測定用の参照信号とデータ信号との同時送信について、基地局装置が行なう制御(上りリンク信号のリソース割り当て制御)技術に関する。
【背景技術】
【0002】
標準化団体3GPP(3rd Generation Partnership Project)において、第3世代の無線通信方式を進化させたEvolved Universal Terrestrial Radio Access(以降EUTRAと称する)、さらにその発展形のAdvanced EUTRA(LTE-Advancedとも呼ばれる)の検討が進められている。Advanced EUTRAでは、上りリンク通信方式としてSC-FDMA(Single Carrier-Frequency Division Multiple Access)方式が提案されている。
【0003】
Advanced EUTRAでは、EUTRAとの互換性を維持しつつ、より高速なデータ伝送が可能な技術として、キャリアアグリゲーション(Carrier Aggregation:周波数帯域集約)が提案されている(非特許文献1)。キャリアアグリゲーションとは、送信装置と受信装置を有する無線通信システムにて、送信装置と、前記送信装置の送信帯域幅を超える受信帯域幅を持つ受信装置とを用意し、それぞれ異なる複数の要素周波数帯域(コンポーネントキャリア(CC:Component Carrier)やキャリア要素と称することもある)が設定された複数の送信装置からデータを送信し、受信装置において、前記複数の送信装置から送信されたデータを受信することで、データレートを向上させる技術である。また、前記送信装置と受信装置を有する無線通信システムにて、受信装置と、前記受信装置の受信帯域幅を超える送信帯域幅を持つ送信装置を用意し、それぞれ異なる周波数帯域が設定された複数の受信装置が、前記送信装置から送信されたデータを受信することで、データレートを向上させる技術である。

(2) 【発明が解決しようとする課題】
【0005】
EUTRAの移動局装置は、シングルキャリア通信方式が適用されたため、チャネル測定用の参照信号とデータ信号を同時に送信することができなかった。そのため、基地局装置が電力許容値に余裕のある移動局装置に対して移動局装置の送信電力に無駄のない最適なリソース割り当てを行なうことに限界があった。これに対して、Advanced EUTRAの移動局装置にはシングルキャリア通信方式だけでなく、マルチキャリア通信方式が適用できるため、電力許容値に余裕のない移動局装置に対してチャネル測定用の参照信号とデータ信号を同じ時間シンボルに同時に割り当てられることが考えられる。
【0006】
しかしながら、Advanced EUTRAの移動局装置において、チャネル測定用の参照信号とデータ信号とでは、それぞれ異なるリソース割り当て方法が適用されているため、移動局装置の最大送信電力を超えたリソース割り当てが行なわれるという問題が生じる。基地局装置は、このような場合に対応するために、移動局装置から通知される電力許容値を基に、最適なリソース割り当て制御を行なう必要がある。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、各移動局装置の電力許容値などを使用した送信電力制御に合わせたリソース割り当て制御を行なうことにより、チャネル測定用の参照信号とデータ信号を、これらを送信するチャネルの品質を維持しながら同時送信することができる無線通信システム、基地局装置、移動局装置、無線通信システムの制御方法、基地局装置の制御プログラムおよび移動局装置の制御プログラムを提供することを目的とする。

(3) 【0044】
物理上りリンクデータチャネル(PUSCH:Physical Uplink Shared Channel)は、主に上りリンクデータ(UL-SCH:Uplink Shared Channel)を送信するために使用されるチャネルである。基地局装置が、移動局装置をスケジューリングした場合には、チャネル状態情報(下りリンクのチャネル品質識別子CQI、プレコーディングマトリックス識別子(PMI:Precoding Matrix Indicator)、ランク識別子(RI:Rank Indicator))や下りリンク送信に対するハイブリッド自動再送要求(HARQ:Hybrid Automatic Repeat Request)の肯定応答(ACK:Acknowledgement)/否定応答(NACK:Negative Acknowledgement)も物理上りリンクデータチャネル(PUSCH)を使用して送信される。ここで、上りリンクデータ(UL-SCH)とは、例えば、ユーザデータの送信を示しており、UL-SCHは、トランスポートチャネルである。UL-SCHでは、HARQ、動的適応無線リンク制御がサポートされ、また、ビームフォーミングが利用可能である。UL-SCHは、動的なリソース割り当て、および、準静的なリソース割り当てがサポートされる。

(4) 【0046】
上りリンク参照信号(UL-RS:Uplink Reference Signal)は、移動局装置から基地局装置へ送信される。UL-RSには、サウンディング参照信号(SRS:Sounding Reference Signal)とデモジュレーション参照信号(DM-RS:Demodulation Reference Signal)とがある。チャネル測定用の参照信号であるサウンディング参照信号は、基地局装置が測定することで、移動局装置の上りリンク無線送信信号の受信品質の判断をし、受信品質に基づく上りリンクのスケジューリングや、上りリンクタイミング同期の調整に用いられる上りリンク受信品質測定用参照信号である。また、デモジュレーション参照信号は、上りリンクデータチャネルと共に送信され、上りリンク共用チャネルの信号の振幅、位相や周波数の変動量を計算し、上りリンクデータチャネルを利用して送信された信号を復調するための参照信号としても使用される。SRSのためのチャネルの帯域幅は、基地局装置の帯域幅に応じて決定される。また、SRSには、時間軸リンクに対して周波数ホッピングが適用される。この周波数ホッピングを用いることで、周波数ダイバーシティ効果と干渉の平均化効果が得られる。

(5) 【0048】
(2)上りリンク信号の構成
上りリンク信号の構成について説明する。図9は、上りリンク信号の概略構成を示す図である。同図において横軸は時間であり、縦軸は周波数である。同図の例において、時間軸方向に14個のシンボルが並んでいる。7個のシンボルが1スロットに相当し、1スロットの長さは0.5ミリ秒(ms)である。また、14個のシンボル(2スロットに相当)が1サブフレームに相当し、1サブフレームの長さは1ミリ秒である。
【0049】
このように1サブフレームが14シンボルで構成される上りリンク信号において、SRSは14番目のシンボルに割り当てられる。14番目のシンボルに割り当てられるSRSのリソース(周波数方向の帯域幅)は、上りリンクシステム帯域幅や移動局装置の送信電力に応じて、設定される。また、PRACHは送信するメッセージの種類やフォーマットに応じて、帯域幅や時間シンボル長を変更して割り当てることができる。EUTRAの移動局装置では、シングルキャリア送信であったため、1つの移動局装置から複数のPUSCHとSRSが同時に送信されることはなかったが、Advanced EUTRAでは、上りリンク通信においてもマルチキャリア通信が可能となったため、基地局装置は、送信電力に余裕のある移動局装置に対してPUSCHとSRSの同時送信を行なうように設定することもできる。

(6) 【0056】
<第1の実施形態>
第1の実施形態について以下に説明する。第1の実施形態では、サウンディング参照信号(チャネル測定用の参照信号)と物理上りリンクデータチャネル(データ信号)を同時送信するか否かを切り替える同時送信制御情報を設定し、移動局装置に対して送信する。移動局装置は、基地局装置でデータ信号とチャネル測定用の参照信号を同時送信してもよいと設定された場合、同じ時間シンボルでチャネル測定用の参照信号とデータ信号が送割り当てられた時でもデータ信号とチャネル測定用の参照信号を同時に送信することができる。また、第1の実施形態では、基地局装置がデータ信号とチャネル測定用の参照信号を同時送信してはいけないと設定した場合にデータ信号をチャネル測定用の参照信号と同じ時間シンボルに送信しないようにリソース割り当てを変更する、という情報が同時送信制御情報に設定できる。

(7) 【0071】
図4は、本発明の第1の実施形態に係る基地局装置1と移動局装置3の同時送信制御情報の設定手順を示すシーケンスチャートである。基地局装置1は、移動局装置3に対して下りリンク信号を送信する(ステップS101)。移動局装置3の無線リソース制御部は、下りリンク信号に含まれている情報を基に、電力許容値を算出する(ステップS102)。移動局装置3は、算出した電力許容値を基地局装置1に対して通知する(ステップS103)。基地局装置1の同時送信設定部1051は、通知された電力許容値を基に、データ信号とチャネル測定用の参照信号の同時送信を行なってもよいか否かを設定する(ステップS104)。基地局装置1は、同時送信制御情報を移動局装置3に対して通知する(ステップS105)。
【0072】
移動局装置3の同時送信制御部2051は、通知された同時送信制御情報を設定し(ステップS106)、データ信号とチャネル測定用の参照信号が同じ時間シンボルで割り当てられた時には、同時送信制御情報に基づいて上りリンク信号のリソース割り当てを行なう(ステップS107)。移動局装置3は基地局装置1に対して上りリンク信号を送信する(ステップS108)。

(8) 【0075】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態における機器の機能構成は、第1の実施形態において示したものと同様であるので、ここではその説明を省略する。第2の実施形態では、基地局装置1は、チャネル測定用の参照信号とデータ信号が同時送信してはいけないと設定した場合に、チャネル測定用の参照信号を送信しない(ドロップする)ように制御する。
【0076】
図5は、本発明の第2の実施形態において、チャネル測定用の参照信号とデータ信号を同時送信してもよい場合と同時送信してはいけない場合の上りリンク信号のリソース割り当てを示す図である。基地局装置1の同時送信設定部1051でチャネル測定用の参照信号とデータ信号の同時送信してもよいと設定した場合、移動局装置3の同時送信制御部2051は同時送信制御情報に基づいて、チャネル測定用の参照信号とデータ信号を基地局装置1に対して同時送信する。また、基地局装置1の同時送信設定部1051がチャネル測定用の参照信号とデータ信号の同時送信してはいけないと設定した場合、移動局装置3の同時送信制御部2051は同時送信制御情報に基づいて、データ信号と同じ時間フレームに割り当てないようにチャネル測定用の参照信号を送信しない(ドロップする)よう制御して、データ信号のみを基地局装置1に対して送信する。

(9)図5として次の図面が添付されている。

先願当初明細書等(上記(8)の【0076】参照)の記載を参酌すると、図5には、チャネル測定用の参照信号とデータ信号を同時送信してはいけない場合の上りリンク信号のリソース割り当てとして、UL CC1においてPUSCHを割り当ててSRSをドロップし、UL CC2においてPUSCHを割り当てることが記載されている。

3.先願発明
上記の記載(特に(8)及び(9))によれば、先願当初明細書等には次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されているといえる。

基地局装置1の同時送信設定部1051がチャネル測定用の参照信号とデータ信号の同時送信してはいけないと設定した場合、移動局装置3の同時送信制御部2051は同時送信制御情報に基づいて、データ信号と同じ時間フレームに割り当てないようにチャネル測定用の参照信号を送信しない(ドロップする)よう制御して、データ信号のみを基地局装置1に対して送信し、
チャネル測定用の参照信号とデータ信号を同時送信してはいけない場合の上りリンク信号のリソース割り当ては、UL CC1においてPUSCHを割り当ててSRSをドロップし、UL CC2においてPUSCHを割り当てる、
方法。

第3 当審の判断
1.対比
本願発明と先願発明を比較すると、次のことがいえる。

(1)先願発明における「移動局装置3」は、「無線通信システム」において、ユーザが用いて「基地局装置1」とデータを送受信するものであることは明白であるから、「ユーザ機器(UE)」といえる。
そして、先願発明は、「無線通信システム」における「ユーザ機器(UE)」による「データ送信方法」を開示する発明であるといえる。

(2)先願当初明細書等の図5の記載によれば、「UL CC1」及び「UL CC2」は、「移動局装置3」が「基地局装置1」に「上りリンク信号」を送信するために設定されるものと解される。
ここで、先願発明の「移動局装置3」は、先願当初明細書等の【0005】ないし【0007】(上記「第2」の2.(2)参照。)の記載によれば、「Advanced EUTRA」のものであることは明白である。
そして、先願当初明細書等の【0003】(上記「第2」の2.(1)参照。)の記載によれば、「Advanced EUTRA」では、それぞれ異なる複数の「コンポーネントキャリア(CC:Component Carrier)」が設定される「キャリアアグリゲーション(Carrier Aggregation:周波数帯域集約)」を行うことは、技術的に明白である。
そうすると、「UL CC1」及び「UL CC2」は、いずれも「コンポーネント搬送波(CC;Component Carrier)」といえる。
また、「キャリアアグリゲーション」の技術が、容量に応じて一つ以上の「CC」を「移動局装置3」に割り当てるものであることは、技術的に明白である。
つまり、先願発明は、「該一つ以上のCCは、CC容量に応じて該UEに割り当てられている」ことを備えているといえる。

(3)先願発明における「チャネル測定用の参照信号」について次のことがいえる。
ア 先願当初明細書等の【0046】(上記「第2」の2.(4)参照。)の記載によれば、「チャネル測定用の参照信号」は、「サウンディング参照信号(SRS:Sounding Reference Signal)」であると解される。
つまり、該「チャネル測定用の参照信号」は、「SRS」といえる。

イ 先願当初明細書等の【0049】(上記「第2」の2.(5)参照。)の記載によれば、「SRS」は、1「サブフレーム」が14「シンボル」で構成される「上りリンク信号」において、14番目の「シンボル」に割り当てられるものであり、また、該「上りリンク信号」の通信方式は、先願当初明細書等の【0002】(上記「第2」の2.(1)参照。)の記載によれば、「SC-FDMA(Single Carrier-Frequency Division Multiple Access)方式」であると解される。
このことは、該「SRS」が割り当てられる「シンボル」は、「サブフレーム」の「最後」の「SC-FDMA」「シンボル」であるといえることを示している。
また、該「SRS」が割り当てられる「サブフレーム」は、「SRSサブフレーム」といえる。

ウ 先願当初明細書等の図5の記載によれば、「SRS」は、「UL CC1」においてドロップされるものであると解される。
このことは、該「SRS」は、その送信が「UL CC1」において設定されているが、該「UL CC1」において送信されないものであることを示している。
そうすると、該「SRS」が設定されている「UL CC1」は、本願発明の「第2のCC」といえる。

エ 上記アないしウを踏まえれば、先願発明は、「該複数のCCのうちの第2のCCの該SRSサブフレームは、SRSの送信のために留保された最後のSingle Carrier-Frequency Division Multiple Access(SC-FDMA)シンボルを含」むことを備えているといえる。

(4)先願発明における「データ信号」について次のことがいえる。
ア 先願当初明細書等の【0056】(上記「第2」の2.(6)参照。)の記載によれば、「データ信号」は、「移動局装置3」が「基地局装置1」に「物理上りリンクデータチャネル」を使用して送信するものと解される。
そして、先願当初明細書等の【0044】(上記「第2」の2.(3)参照。)の記載によれば、該「物理上りリンクデータチャネル」は、「PUSCH:Physical Uplink Shared Channel」であると解される。
そうすると、該「データ信号」は、「移動局装置3」が「基地局装置1」に「PUSCH」を通して送信する「アップリンクデータ」といえる。

イ 先願当初明細書等の図5の記載によれば、該「データ信号」が送信される「PUSCH」は、「UL CC1」と「UL CC2」のいずれにも割り当てられていることは明白である。
このことは、該「データ信号」は、「UL CC1」及び「UL CC2」からなる「搬送波集合」を介して送信される「アップリンクデータ」といえることを示している。
また、「UL CC2」の「PUSCH」を通して送信される「データ信号」は、本願発明の「第1のCC」において「第1のPUSCH」を通して送信される「アップリンクデータ」といえる。

ウ 上記ア及びイを踏まえれば、先願発明は、「該UEにより、複数のコンポーネント搬送波(CC;Component Carrier)のうちの第1のCCのSounding Reference Signal(SRS)サブフレーム内でアップリンクデータを基地局に送信することを含み、該アップリンクデータは、第1のPhysical Uplink Shared Channel(PUSCH)を通して、搬送波集合を介して送信され」ること、及び、「該搬送波集合を介して該アップリンクデータを送信することは、同時に該複数のCCのうちの一つ以上のCCを介して該アップリンクデータを送信することを含」むことを備えているといえる。

(5) ア 先願当初明細書等の図5の記載によれば、「UL CC1」において「SRS」がドロップされるタイミングでは、「UL CC2」において「PUSCH」が割り当てられていることは明白である。
このことは、上記(3)及び(4)を踏まえれば、「SRS」の送信のために割り当てられた「最後」の「SC-FDMA」「シンボル」において、「データ信号」は「UL CC2」において「PUSCH」を通して送信され、送信が「UL CC1」において設定されている「SRS」は該「UL CC1」において送信されないといえることを示している。

イ 図5に関し、先願当初明細書等の【0076】(上記「第2」の2.(8)参照。)の記載によれば、「チャネル測定用の参照信号」を送信せず、「データ信号」のみを送信するのは、「チャネル測定用の参照信号」を「データ信号」と同じ「時間フレーム」に割り当てないようにするためであると解される。
このことは、「チャネル測定用の参照信号」を送信せず、「データ信号」のみを送信するのは、「チャネル測定用の参照信号」と「データ信号」とが同じ「時間フレーム」に割り当てられている場合であるといえることを示している。
そして、上記(3)及び(4)を踏まえれば、「チャネル測定用の参照信号」と「データ信号」とが同じ「時間フレーム」に割り当てらている場合とは、送信が「UL CC1」において設定されている「SRS」と、「UL CC2」において「PUSCH」を通して送信される「データ信号」とが、「SRS」の送信のために割り当てられた「最後」の「SC-FDMA」「シンボル」において、ともに割り当てられている、つまり、「一致」している場合といえることは明白である。

ウ 上記ア及びイを踏まえれば、先願発明は、「該第1のCCにおいて該第1のPUSCHを通して送信されるアップリンクデータと該第2のCCにおいて送信される該SRSとが該SRSの送信のために留保された該最後のSC-FDMAシンボルにおいて一致した場合に、該アップリンクデータは該第1のCCにおいて送信され、送信が該第2のCCにおいて設定されている該SRSは該第2のCCにおいて送信され」ないことを備えているといえる。

2.まとめ
以上のとおりであるから、先願発明は、本願発明を特定する事項を全て含んでいるといえる。
したがって、本願発明は、先願の願書に最初に添付された明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるといえる。
また、本願発明に係る発明者と先願発明に係る発明者が同一の者であるとも、あるいは、本願の出願の時にその出願人と先願の出願人とが同一の者であるともいえない。

3.請求人の主張に対する補足的検討
(1) 請求人は、平成27年9月8日付け意見書において、次の主張をしている(下線は請求人が付与。)。
「補正後の独立請求項1、9に係る発明によると、SRS送信が第2のCCのSRSサブフレームにおいて設定されている場合でさえ、第1のCCにおいて第1のPUSCHを通して送信されるアップリンクデータと第2のCCにおいて送信されるSRSとがSRSの送信のために留保された最後のSC-FDMAシンボルにおいて一致した場合に、アップリンクデータは常に第1のCCにおいて送信され、送信が第2のCCにおいて設定されているSRSは第2のCCにおいてドロップされなければなりません。この動作では、基地局による介入は存在しません。すなわち、基地局からのシグナリングが存在せず、基地局による決定もありません。UEが、ただ、UEがSRSの送信に設定された場合でさえアップリンクデータおよびSRSが最後のSC-FDMAシンボルにおいて一致するか否かに従って動作します。

それとは対照的に、引用文献1の図5は、基地局装置における同時送信可用性に基づいた切り替え送信方法を開示しています。すなわち、引用文献1は、PUSCHおよびSRSの同時伝送を可能とするか否かを基地局が決定することを開示しています。具体的には、引用文献1の0076は、「基地局装置1の同時送信設定部1051がチャネル測定用の参照信号とデータ信号の同時送信してはいけないと設定した場合、移動局装置3の同時送信制御部2051は同時送信制御情報に基づいて、データ信号と同じ時間フレームに割り当てないようにチャネル測定用の参照信号を送信しない(ドロップする)よう制御して、データ信号のみを基地局装置1に対して送信する。」と明示的に開示しています。基地局からの同時伝送制御情報がないと、UEは、SRS参照信号伝送をドロップする動作を実行することができません。
従いまして、先願1は、補正後の独立請求項1、9の特徴を教示していません。少なくとも以上の理由から、補正後の独立請求項1、9およびその従属請求項に対するこの拒絶理由は解消されるものと思料いたします。」
(当審注 上記した請求人の主張中、「引用文献1」及び「先願1」は、いずれも本審決における「先願」に該当する。)

(2) 請求人は要するに次の点を主張していると認められる。
「本願発明において、SRS送信が第2のCCのSRSサブフレームにおいて設定されている場合でさえ、第1のCCにおいて第1のPUSCHを通して送信されるアップリンクデータと第2のCCにおいて送信されるSRSとがSRSの送信のために留保された最後のSC-FDMAシンボルにおいて一致した場合に、アップリンクデータは常に第1のCCにおいて送信され、送信が第2のCCにおいて設定されているSRSは第2のCCにおいてドロップされなければならない動作では、基地局からのシグナリングが存在せず、基地局による決定もなく、
対照的に、先願当初明細書等は、PUSCHおよびSRSの同時伝送を可能とするか否かを基地局が決定することを開示し、基地局からの同時伝送制御情報がないと、UEは、SRS参照信号伝送をドロップする動作を実行することができず、
従って、先願当初明細書等は、本願発明の特徴を教示していない。」ことを主張するものである。

この主張について検討する。
本願の請求項1にも、本願明細書の【0134】ないし【0136】にも、「基地局からのシグナリングが存在せず、基地局による決定もな」いことについて記載はないから、当該主張は本願の請求項1に記載された事項に基づく主張ではなく、採用できない。
仮に、「基地局からのシグナリングが存在せず、基地局による決定もな」いことが本願発明の構成から読み取ることができる、あるいは、実質的に記載されたに等しい事項であるといえても、当該主張のような相違は格別なものではない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、他の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-05 
結審通知日 2016-01-06 
審決日 2016-01-21 
出願番号 特願2012-552815(P2012-552815)
審決分類 P 1 8・ 16- WZ (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼須 甲斐伊東 和重  
特許庁審判長 近藤 聡
特許庁審判官 水野 恵雄
梅本 章子
発明の名称 無線通信システムにおけるデータ送信方法及び装置  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  

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