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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1315600
審判番号 不服2015-8024  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-30 
確定日 2016-06-09 
事件の表示 特願2012-528596「プラスチック偏光レンズ、その製造方法および偏光フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月16日国際公開、WO2012/020570〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年 8月10日(優先権主張 平成22年 8月12日)を国際出願日とする出願であって、平成26年 5月16日付けで拒絶理由が通知され、同年 7月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年 2月 6日付けで拒絶査定がなされたところ、同年 4月30日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
平成27年 4月30日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成26年 7月18日に提出された手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲を補正しようとするものであって、そのうち、請求項1に係る補正については次のとおりである(下線は補正に関連する箇所を示し、当審で付加したものである。)。
(1)本件補正前の請求項1及び2
「【請求項1】
偏光フィルムの両面に、チオウレタン系樹脂からなる層が積層しているプラスチック偏光レンズであって、
前記偏光フィルムは、下記一般式(1)で表される有機色素化合物を50?7000ppm含むことを特徴とするプラスチック偏光レンズ;
【化1】

(式(1)中、A_(1)?A_(8)はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?20の直鎖、分岐または環状のアルキル基、炭素数1?20のアルコキシ基、炭素数6?20のアリールオキシ基、炭素数1?20のモノアルキルアミノ基、炭素数2?20のジアルキルアミノ基、炭素数7?20のアラルキル基、炭素数6?20のアリール基、ヘテロアリール基、炭素数1?20のアルキルチオ基、炭素数1?20のアリールチオ基を表し、連結基を介して芳香族環を除く環を形成しても良く、Mは2個の水素原子、2価の金属原子、1置換の3価金属原子、2置換の4価金属原子、またはオキシ金属を表す。)。」

「【請求項2】
前記有機色素化合物は、下記一般式(1a)で表されることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック偏光レンズ;
【化2】

(式(1a)中、t-C_(4)H_(9)はターシャリーブチル基を表す。4個のターシャリーブチル基は、式(1)におけるA_(1)またはA_(2)、A_(3)またはA_(4)、A_(5)またはA_(6)、A_(7)またはA_(8)に相当し、位置異性体構造を表す。なお、ターシャリーブチル基ではないA_(1)?A_(8)は水素原子を表す。Mは、2価の銅原子、2価のパラジウム原子、または2価の酸化バナジウム(-V(=O)-)を表す。)。」

(2)本件補正後の請求項1
「【請求項1】
偏光フィルムの両面に、チオウレタン系樹脂からなる層が積層しているプラスチック偏光レンズであって、
前記偏光フィルムは、下記一般式(1a)で表される有機色素化合物を50?7000ppm含むことを特徴とするプラスチック偏光レンズ;
【化1】

(式(1a)中、t-C_(4)H_(9)はターシャリーブチル基を表す。4個のターシャリーブチル基は、式(1)におけるA_(1)またはA_(2)、A_(3)またはA_(4)、A_(5)またはA_(6)、A_(7)またはA_(8)に相当し、位置異性体構造を表す。なお、ターシャリーブチル基ではないA_(1)?A_(8)は水素原子を表す。Mは、2価の銅原子、2価のパラジウム原子、または2価の酸化バナジウム(-V(=O)-)を表す。)。」

2 新規事項の追加の有無及び補正の目的について
(1)補正事項
請求項1に係る本件補正は、以下の補正事項からなるものである。
ア 本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「下記一般式(1)で表される

(式(1)中、A_(1)?A_(8)はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?20の直鎖、分岐または環状のアルキル基、炭素数1?20のアルコキシ基、炭素数6?20のアリールオキシ基、炭素数1?20のモノアルキルアミノ基、炭素数2?20のジアルキルアミノ基、炭素数7?20のアラルキル基、炭素数6?20のアリール基、ヘテロアリール基、炭素数1?20のアルキルチオ基、炭素数1?20のアリールチオ基を表し、連結基を介して芳香族環を除く環を形成しても良く、Mは2個の水素原子、2価の金属原子、1置換の3価金属原子、2置換の4価金属原子、またはオキシ金属を表す。)」「有機色素化合物」を、本件補正前の請求項2に記載された「下記一般式(1a)で表される

(式(1a)中、t-C_(4)H_(9)はターシャリーブチル基を表す。4個のターシャリーブチル基は、式(1)におけるA_(1)またはA_(2)、A_(3)またはA_(4)、A_(5)またはA_(6)、A_(7)またはA_(8)に相当し、位置異性体構造を表す。なお、ターシャリーブチル基ではないA_(1)?A_(8)は水素原子を表す。Mは、2価の銅原子、2価のパラジウム原子、または2価の酸化バナジウム(-V(=O)-)を表す。)。」「有機色素化合物」に限定する。

(2)補正の目的等
ア 上記(1)アの補正事項は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「有機色素化合物」を限定するものであって、補正の根拠としての本件補正前の請求項2は、本願の願書に添付された出願当初の特許請求の範囲の請求項2と同じであり、本件補正の前後で当該請求項に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であると認められるから、特許法17条の2第3項の規定に適合し、また、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ なお、本件補正後の請求項1には、「式(1)」が記載されておらず、「式(1)」における「A_(1)?A_(8)」が何を意味するのか不明瞭な記載となっているが、本件補正前の請求項1及び2の記載を鑑みると、「4個のターシャリーブチル基は、式(1)におけるA_(1)またはA_(2)、A_(3)またはA_(4)、A_(5)またはA_(6)、A_(7)またはA_(8)に相当し、位置異性体構造を表す。なお、ターシャリーブチル基ではないA_(1)?A_(8)は水素原子を表す。」との記載は、単に「式(1a)」における「4個のターシャリーブチル基(t-C_(4)H_(9))(及び4個の水素原子)」と、本件補正前の請求項1に記載された「式(1)」における「A_(1)?A_(8)」との対応関係を説明するものにすぎないと解される。
以上を踏まえ、本願補正発明は、以下のとおりのものであると解して以下検討する。
「【請求項1】
偏光フィルムの両面に、チオウレタン系樹脂からなる層が積層しているプラスチック偏光レンズであって、
前記偏光フィルムは、下記一般式(1a)で表される有機色素化合物を50?7000ppm含むことを特徴とするプラスチック偏光レンズ;

(式(1a)中、t-C_(4)H_(9)はターシャリーブチル基を表す。4個のターシャリーブチル基は、式(1)におけるA_(1)またはA_(2)、A_(3)またはA_(4)、A_(5)またはA_(6)、A_(7)またはA_(8)に相当し、位置異性体構造を表す。なお、ターシャリーブチル基ではないA_(1)?A_(8)は水素原子を表す。Mは、2価の銅原子、2価のパラジウム原子、または2価の酸化バナジウム(-V(=O)-)を表す。)

(式(1)中、A_(1)?A_(8)はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?20の直鎖、分岐または環状のアルキル基、炭素数1?20のアルコキシ基、炭素数6?20のアリールオキシ基、炭素数1?20のモノアルキルアミノ基、炭素数2?20のジアルキルアミノ基、炭素数7?20のアラルキル基、炭素数6?20のアリール基、ヘテロアリール基、炭素数1?20のアルキルチオ基、炭素数1?20のアリールチオ基を表し、連結基を介して芳香族環を除く環を形成しても良く、Mは2個の水素原子、2価の金属原子、1置換の3価金属原子、2置換の4価金属原子、またはオキシ金属を表す。)。」

3 独立特許要件を満たすか否かの検討
請求項1に係る本件補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか)について検討する。
(1)引用例の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に国際公開された、国際公開第2009/098886号(以下「引用例1」という。)には、「プラスチック偏光レンズ及びその製造方法」(発明の名称)に関して、図面とともに、次の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。
(ア)「技術分野
[0001] 本発明はプラスチック偏光レンズ及びその製造方法に関する。
背景技術
[0002] 偏光レンズは、反射光の透過を防ぐことができる。そのため、スキー場やフィッシングなど戸外における強い反射光を遮断することによる眼の保護等や、自動車運転時における対向車からの反射光を遮断することによる安全性の確保などに使用されている。
[0003] プラスチック偏光レンズとして、プラスチックレンズ材料の表面に偏光フィルムを配置した偏光レンズと、プラスチックレンズ材料の内部に偏光フィルムを配置したサンドイッチ構造の偏光レンズの2種類が提案されている。プラスチックレンズ材料の表面に偏光フィルムを配置した偏光レンズ(例えば、特開平9-258009号公報(特許文献1))は、レンズの厚みを薄くすることができるものの、外周研磨工程(所定の形状に合わせるためのレンズの縁を削る工程)において、偏光フィルムがレンズ材料から剥離し易いという深刻な欠点がある。
[0004] 偏光レンズを構成する偏光フィルムに適用される樹脂としては、これまでは実質的にポリビニルアルコールに限定されている。偏光フィルムを製造するには、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素あるいは二色性染料を包含させて一軸延伸し、一軸方向に分子配向されたフィルムにすることにより行われる。ポリビニルアルコール偏光フィルムからなる偏光レンズの製造法は、例えば、国際公開第04/099859号パンフレット(特許文献2)に開示されている。
しかしながら、ポリビニルアルコール偏光フィルムを用いて製造された偏光レンズは、レンズの端の部分から徐々に水分の浸入が生じ、レンズ外周部から中心部に向けて経時的に、あるいは環境によって劣化が進行する欠点がある。
[0005] 前述の欠点を改良するため、国際公開第02/073291号パンフレット(特許文献3)では、ジアミンおよびイソシアネートプレポリマーから得られる耐衝撃性ポリウレタン樹脂からなるレンズ材料と、ポリエチレンテレフタレート偏光フィルムとを用いた偏光レンズが提案されている。
しかしながら、この偏光レンズは、偏光フィルムが入っているのがはっきりと判り、装着時に不快に感じる使用者が多いという欠点を有している。更に、ジアミンとイソシアネートプレポリマーを混合した組成物は、粘度が高いうえポットライフが短いため、偏光フィルムが固定されたレンズ注型用鋳型への注入に難があり、特に薄いレンズの製造は極めて困難であった。
このように従来のプラスチック偏光レンズにおいては、後工程である外周研磨工程における偏光フィルムの剥離の発生が抑制され、耐水性に優れ、装着時の不快感が抑制され、または薄型化等が可能なプラスチック偏光レンズが求められていた。
・・(略)・・
発明の開示
[0007] さらに工業的に大量の偏光レンズを製作するにあたって、重合後のレンズの周辺部をエッジャー等で研磨する際に発生する偏光フィルムの剥離を抑制し、歩留まり良く工業的に偏光レンズを作製できる偏光フィルムとプラスチックレンズとの密着性に優れた偏光レンズが求められるようになってきている。
本発明は上記背景技術に鑑みなされたものであり、加工特性等に優れるとともに偏光フィルムとプラスチックレンズとの密着性に優れたプラスチック偏光レンズ及びその製造方法を提供する。」

(イ)「[0061] まず、実施形態Aに含まれる実施形態A1、A2について説明する。
(実施形態A1)
図1に示すように、本実施形態のプラスチック偏光レンズ10は、熱可塑性ポリエステルからなる偏光フィルム12の両面に、チオウレタン系樹脂からなる樹脂層(プラスチックレンズ)14a、14bが形成されている。なお、本実施形態においては偏光フィルム12の両面に樹脂層14a、14bが積層された例によって説明するが、偏光フィルム12の一方の面にのみ樹脂層14bが積層されていればよい。」

(ウ)「[0147] さらに、本実施形態のプラスチック偏光レンズは、必要に応じ、裏面研磨、帯電防止処理、染色処理、調光処理等を施してもよい。
このようなプラスチック偏光レンズは、薄型化が可能であることから、メガネ用の偏光レンズ、特に視力補正用レンズとして有用である。」

(エ)上記(ア)ないし(ウ)から、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。
「偏光フィルムの両面にチオウレタン系樹脂からなる樹脂層が積層されたプラスチック偏光レンズ。」(以下「引用発明」という。)

イ 原査定の拒絶の理由で引用文献5として引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2008-134618号公報(以下「引用例2」という。)には、「プラスチック眼鏡レンズ」(発明の名称)に関して、図面とともに、次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収性能を有するネオジム化合物の代わりに有機系色素を用いて、ネオジム化合物含有プラスチック眼鏡レンズと同等の光透過性を得ることのできるプラスチック眼鏡レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズの用途目的のひとつとして、可視光に対する眩しさと関連した不快感やコントラストの不鮮明感、視覚疲労、などを軽減することが挙げられ、その対処法のひとつとして眼鏡レンズにいわゆる防眩性機能を付与する処方が施されている。主たる処方として眩しさを与え易い波長帯をできるだけ選択的に遮光することであり、実際にも585nm付近の可視光を高度に波長選択的に吸収できるネオジム化合物を眼鏡レンズに含有させると効果的な防眩性が得られることから実用化されている。
【0003】
これは眼鏡レンズに適切な遮光性を付与させることに基づくものであり、他方では過度な、あるいは不適切な波長領域での遮光は眼鏡本来の目的である視認性を不必要なまでに低下させてしまうので、できるだけ満足な視認性を維持でき、同時に適切な遮光性を付与することが眼鏡レンズに要求されている。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記背景技術に鑑みなされたものであり、有機希土類金属化合物を配合させたプラスチックレンズは防眩性と視認性のバランスと実用的な色調づけに優れた特性を有するにも拘わらず、配合させる目的のプラスチックレンズ材料の種類によっては樹脂への溶解性に難点があることも多い欠点、レンズ樹脂種によっては光、熱など環境下での安定性への課題、あるいは所望の程度の防眩性を付与させるには通常数%程度の多量の配合量が必要とされる欠点、また結果的には高価となる欠点や、高配合に由来するレンズの機械的物性への悪影響が生じやすいなど多くの問題点を有していた。本発明は前記有機希土類金属化合物が有する優れた防眩性と視認性のバランス、及び実用的な色調づけに優れた特徴を保持しつつ、さらにはより広い種類のプラスチックレンズ材料への適用が可能であり、また必要濃度レベルまでの溶解性が良好であり、更にその際の必要濃度レベルが極めて低く設定でき、結果として配合によるレンズの機械的物性への悪影響も発生しにくく、経済的にも有利である配合種と配合処方に基づいたプラスチック眼鏡レンズを提供することにある。」

(ウ)「【0062】
プラスチックレンズウエハー材料が熱可塑性樹脂である場合通常、圧縮成形法、トランスファー成形法、射出成形法、圧縮射出成形法などの公知の方法が採用される。すなわち供給される該熱可塑性樹脂を溶融温度以上に加熱させ、これを目的のプラスチックレンズウエハーの形状を有する金型内に導入後、冷却固化させてプラスチックレンズウエハーを得る方法である。その際、偏光フィルムなど目的の機能を有するプラスチックフィルムを予め金型内に設置しておき、上記方法で成形されたプラスチックレンズウエハー内に該機能性のプラスチックフィルムを一体化させるいわゆるインサート法も本発明の範囲を超えるものではない。」

(エ)「【0064】
[有機系色素]
本発明の有機系色素は、油溶性の性質を有し、クロロホルム又はトルエン溶液で測定された可視光吸収分光スペクトルにおいて、565nm?605nmの間に主吸収ピーク(P)を有し、前記主吸収ピーク(P)のピーク頂点(Pmax)の吸光係数が0.5×10^(5)(ml/g・cm)以上であり、前記主吸収ピーク(P)のピーク頂点(Pmax)の吸光度の1/4の吸光度におけるピーク幅が50nm以下であり、かつ前記主吸収ピーク(P)のピーク頂点(Pmax)の吸光度の1/2の吸光度におけるピーク幅が30nm以下であり、かつ前記主吸収ピーク(P)のピーク頂点(Pmax)の吸光度の2/3の吸光度におけるピーク幅が20nm以下の範囲にあることを要件とする。有機系色素は、熱硬化性又は熱可塑性プラスチックレンズウエハー内の少なくとも片面表面から500μm以下の深さの範囲に局在させるとよい。
・・(略)・・
【0066】
この様な有機系色素としては例えば(1)の一般式で表されるテトラアザポルフィリン化合物があり、(1)式中、Mは2価の銅であることがより好ましい。具体例としては(2)式で表されるテトラ-t-ブチル-テトラアザポルフィリン・銅錯体が挙げられ、PD-311S[三井化学(株)製]の品番名に相当する。
【化1】

[式(1)中、A^(1)?A^(8)は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、炭素数1?20の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、炭素数1?20のアルコキシ基、炭素数6?20のアリールオキシ基、炭素数1?20のモノアルキルアミノ基、炭素数2?20のジアルキルアミノ基、炭素数7?20のジアルキルアミノ基、炭素数7?20のアラルキル基、炭素数6?20のアリール基、ヘテロアリール基、炭素数6?20のアルキルチオ基、炭素数6?20のアリールチオ基を表し、連結基を介して芳香族環を除く環を形成しても良く、Mは2個の水素原子、2価の金属原子、2価の1置換金属原子、4価の2置換金属原子、又はオキシ金属原子を表す。]
【0067】
【化2】

[式(2)中、Cuは2価の銅を、t-C4H9はターシャリーブチル基を表し、その4個の置換基の置換位置は式(1)におけるそれぞれA1とA2、A3とA4、A5とA6及びA7とA8のいずれかひとつの位置に置換されていている位置異性体構造を表す。]」

(オ)「【0074】
本発明の熱硬化性又は熱可塑性のプラスチック眼鏡レンズにおいては、必要に応じてプラスチックレンズウェハーの少なくとも片面にレンズ部材として施された単層又は多層積層を構成する成分層の少なくとも1層に本発明の有機系色素を含有させて、目的の波長選択的光吸収性を有するプラスチックレンズとすることができる。」

(カ)「【0080】
前記形成された成分層の厚さは、0.05μm?100μm、好ましくは0.1μm?50μm、より好ましくは0.5μm?30μm、特に好ましくは0.5μm?10μmの範囲が適当である。前記成分層中に含有される本発明の有機系色素の濃度は0.02重量%?5重量%、好ましくは0.05重量%?3重量%、の範囲が適当である。
【0081】
本発明の有機系色素は、プラスチックレンズウエハーのみに含有させてもよいし、このプラスチックレンズウエハーの片面又は両面に形成されるハードコート層やプライマー層その他の成分層のみに含有させてもよい。成分層が複数層ある場合は、このうちの少なくとも一層に有機系色素を含有させてもよい。また、プラスチックレンズウエハーと成分層の両方に有機系色素を含有させてもよい。」

(キ)上記(ア)ないし(カ)から、引用例2には、次の事項が記載されているものと認められる。
「優れた防眩性と視認性のバランス、及び実用的な色調づけに優れた特徴を保持しつつ、さらにはより広い種類のプラスチックレンズ材料への適用が可能であり、また必要濃度レベルまでの溶解性が良好であり、更にその際の必要濃度レベルが極めて低く設定でき、結果として配合によるレンズの機械的物性への悪影響も発生しにくく、経済的にも有利である配合種と配合処方に基づいたプラスチック眼鏡レンズを提供することを目的として、
偏光フィルムなど目的の機能を有するプラスチックフィルムを予め金型内に設置しておき、上記方法で成形されたプラスチックレンズウエハー内に該機能性のプラスチックフィルムを一体化させるいわゆるインサート法により製造されたものを含む熱可塑性のプラスチック眼鏡レンズにおいて、
プラスチックレンズウェハーの少なくとも片面にレンズ部材として施された単層又は多層積層を構成する成分層の少なくとも1層に、下記【化2】式で表されるテトラ-t-ブチル-テトラアザポルフィリン・銅錯体からなる有機系色素を含有させて、目的の波長選択的光吸収性を有するプラスチックレンズとすることができ、
前記成分層中に含有される前記有機系色素の濃度は0.02重量%?5重量%、好ましくは0.05重量%?3重量%、の範囲が適当であること。
【化2】

[式中、Cuは2価の銅を、t-C4H9はターシャリーブチル基を表し、その4個の置換基の置換位置は【化1】式におけるそれぞれA1とA2、A3とA4、A5とA6及びA7とA8のいずれかひとつの位置に置換されていている位置異性体構造を表す。]
【化1】

[式中、A^(1)?A^(8)は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、炭素数1?20の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、炭素数1?20のアルコキシ基、炭素数6?20のアリールオキシ基、炭素数1?20のモノアルキルアミノ基、炭素数2?20のジアルキルアミノ基、炭素数7?20のジアルキルアミノ基、炭素数7?20のアラルキル基、炭素数6?20のアリール基、ヘテロアリール基、炭素数6?20のアルキルチオ基、炭素数6?20のアリールチオ基を表し、連結基を介して芳香族環を除く環を形成しても良く、Mは2個の水素原子、2価の金属原子、2価の1置換金属原子、4価の2置換金属原子、又はオキシ金属原子を表す。]」(以下「引用例2の記載事項」という。)

(2)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明における「偏光フィルム」及び「プラスチック偏光レンズ」は、それぞれ本願補正発明における「偏光フィルム」及び「プラスチック偏光レンズ」に相当する。

イ 樹脂からなる「層」が、「樹脂層」であることは明らかであるから、引用発明における「チオウレタン系樹脂からなる樹脂層」は、本願補正発明における「チオウレタン系樹脂からなる層」に相当する。

ウ 上記ア及びイから、本願補正発明と引用発明とは、
「偏光フィルムの両面に、チオウレタン系樹脂からなる層が積層しているプラスチック偏光レンズ」である点で一致し、次の点で相違している。

相違点:
偏光フィルムが、本願補正発明においては、下記一般式(1a)で表される有機色素化合物を50?7000ppm含むのに対し、引用発明においては、有機色素化合物を含有していない点。

(式(1a)中、t-C_(4)H_(9)はターシャリーブチル基を表す。4個のターシャリーブチル基は、式(1)におけるA_(1)またはA_(2)、A_(3)またはA_(4)、A_(5)またはA_(6)、A_(7)またはA_(8)に相当し、位置異性体構造を表す。なお、ターシャリーブチル基ではないA_(1)?A_(8)は水素原子を表す。Mは、2価の銅原子、2価のパラジウム原子、または2価の酸化バナジウム(-V(=O)-)を表す。)

(式(1)中、A_(1)?A_(8)はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?20の直鎖、分岐または環状のアルキル基、炭素数1?20のアルコキシ基、炭素数6?20のアリールオキシ基、炭素数1?20のモノアルキルアミノ基、炭素数2?20のジアルキルアミノ基、炭素数7?20のアラルキル基、炭素数6?20のアリール基、ヘテロアリール基、炭素数1?20のアルキルチオ基、炭素数1?20のアリールチオ基を表し、連結基を介して芳香族環を除く環を形成しても良く、Mは2個の水素原子、2価の金属原子、1置換の3価金属原子、2置換の4価金属原子、またはオキシ金属を表す。)


(3)相違点の判断
上記相違点について判断する。
ア 引用例2には、上記(1)イ(キ)のとおりの事項が記載されており、引用例2に記載された「下記【化2】式で表されるテトラ-t-ブチル-テトラアザポルフィリン・銅錯体からなる有機系色素
【化2】

[式中、Cuは2価の銅を、t-C4H9はターシャリーブチル基を表し、その4個の置換基の置換位置は【化1】式におけるそれぞれA1とA2、A3とA4、A5とA6及びA7とA8のいずれかひとつの位置に置換されていている位置異性体構造を表す。]
【化1】

[式中、A^(1)?A^(8)は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、炭素数1?20の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、炭素数1?20のアルコキシ基、炭素数6?20のアリールオキシ基、炭素数1?20のモノアルキルアミノ基、炭素数2?20のジアルキルアミノ基、炭素数7?20のジアルキルアミノ基、炭素数7?20のアラルキル基、炭素数6?20のアリール基、ヘテロアリール基、炭素数6?20のアルキルチオ基、炭素数6?20のアリールチオ基を表し、連結基を介して芳香族環を除く環を形成しても良く、Mは2個の水素原子、2価の金属原子、2価の1置換金属原子、4価の2置換金属原子、又はオキシ金属原子を表す。]」は、本願補正発明の「下記一般式(1a)で表される有機色素化合物

(式(1a)中、t-C_(4)H_(9)はターシャリーブチル基を表す。4個のターシャリーブチル基は、式(1)におけるA_(1)またはA_(2)、A_(3)またはA_(4)、A_(5)またはA_(6)、A_(7)またはA_(8)に相当し、位置異性体構造を表す。なお、ターシャリーブチル基ではないA_(1)?A_(8)は水素原子を表す。Mは、2価の銅原子、2価のパラジウム原子、または2価の酸化バナジウム(-V(=O)-)を表す。)

(式(1)中、A_(1)?A_(8)はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン基、炭素数1?20の直鎖、分岐または環状のアルキル基、炭素数1?20のアルコキシ基、炭素数6?20のアリールオキシ基、炭素数1?20のモノアルキルアミノ基、炭素数2?20のジアルキルアミノ基、炭素数7?20のアラルキル基、炭素数6?20のアリール基、ヘテロアリール基、炭素数1?20のアルキルチオ基、炭素数1?20のアリールチオ基を表し、連結基を介して芳香族環を除く環を形成しても良く、Mは2個の水素原子、2価の金属原子、1置換の3価金属原子、2置換の4価金属原子、またはオキシ金属を表す。)」(一般式(1a)中、Mは、2価の銅原子である。)に相当する。また、引用例2に記載された成分層中に含有される前記有機系色素の濃度は0.02重量%?5重量%(200?50000ppm)の範囲が適当であるところ、本願補正発明の偏光フィルムが含む前記一般式(1a)で表される有機色素化合物の量と、引用例2に記載された成分層中に含有される上記【化2】式で表されるテトラ-t-ブチル-テトラアザポルフィリン・銅錯体からなる有機系色素の量とは、200?7000ppmの範囲で重複する。

イ ここで、引用例1の[0147](上記(1)ア(ウ))に「このようなプラスチック偏光レンズは、薄型化が可能であることから、メガネ用の偏光レンズ、特に視力補正用レンズとして有用である。」と記載されていることからも分かるように、引用発明の「プラスチック偏光レンズ」は、メガネに用いられるものであるところ、優れた防眩性と視認性のバランスを保持することは、引用例2の【0002】、【0003】にも記載されているように、メガネ用レンズの技術分野において本願優先日前の一般的な課題であり、また、偏光フィルムに色素を含有させることも、原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用された特開昭61-87757号公報の4頁右上欄5行?同頁右下欄7行、特開2004-171025号公報の【0017】及び特開2009-294445号公報の【0091】に記載されているように、本願優先日前の周知技術である。

ウ そして、引用例2の【0081】(上記(1)イ(カ))における「本発明の有機系色素は、プラスチックレンズウエハーのみに含有させてもよいし、このプラスチックレンズウエハーの片面又は両面に形成されるハードコート層やプライマー層その他の成分層のみに含有させてもよい。成分層が複数層ある場合は、このうちの少なくとも一層に有機系色素を含有させてもよい。また、プラスチックレンズウエハーと成分層の両方に有機系色素を含有させてもよい。」との記載からは、プラスチック眼鏡レンズを構成するいずれかの部材に有機系色素を含有させれば、優れた防眩性と視認性のバランスを保持するという効果が得られるものと認められる。

エ したがって、引用発明の「プラスチック偏光レンズ」をメガネに用いる際に、優れた防眩性と視認性のバランスを保持するために引用例2の記載事項を適用するにあたり、上記周知技術を認識している当業者ならば、偏光フィルムに上記【化2】式で表されるテトラ-t-ブチル-テトラアザポルフィリン・銅錯体からなる有機系色素を200?7000ppm含有させることにより上記相違点にかかる本願補正発明の構成とすることは、容易に想到し得たことである。

オ 請求人は平成27年 4月30日付け審判請求書において、本願補正発明によれば、色のコントラストや物の輪郭をより明確に認識することができコントラスト性が特に改善されるので、視認性に優れるとともに視覚疲労が特に軽減されるとともに、偏光フィルム自体に特定の有機色素化合物を含んでいるため、レンズの厚みの違いにより生じる部分的な色の相違がなく外観においても優れた偏光レンズを提供することができるという顕著な効果が得られる旨を主張している。

カ しかしながら、本願補正発明における「色のコントラストや物の輪郭をより明確に認識することができコントラスト性が特に改善されるので、視認性に優れるとともに視覚疲労が特に軽減される」という効果は、単にレンズに上記一般式(1a)で表される有機色素化合物を含有させることにより得られる効果であると認められ、引用例2の記載事項からみて当業者が予測し得る程度のものである。

キ また、本願補正発明における「偏光フィルム自体に特定の有機色素化合物を含んでいるため、レンズの厚みの違いにより生じる部分的な色の相違がなく外観においても優れた偏光レンズを提供することができる」という効果についても、レンズを構成する部材のうち、膜厚が一定の部材に色素を均一に分散させて添加することにより、レンズの厚さが部位ごとに異なってもレンズの色調に差が生じることがないことは、特開2010-85911号公報の【0031】、【0032】に記載されているように本願優先日前に知られているから、当業者が予測し得ない格別のものと認めることはできない。

(4)まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、引用例2の記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
したがって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2での本件補正についての補正の却下の決定の結論のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、本件補正前の請求項1ないし31に記載されたとおりのものであり、そのうち、請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1(1)に記載のとおりのものである。

2 引用例の記載事項
引用例の記載事項については、上記第2の3(1)のとおりである。

3 判断
上記第2の2(1)で検討したように、本願補正発明は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「有機色素化合物」を、本件補正前の請求項2に記載された「有機色素化合物」に限定したものに相当し、実質的に本願発明と同一であると認められる。
そうすると、本願発明と実質的に同一である本願補正発明が、上記第2の3において検討したとおり、引用発明、引用例2の記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2の記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-29 
結審通知日 2016-04-05 
審決日 2016-04-25 
出願番号 特願2012-528596(P2012-528596)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 537- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 邦久  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 鉄 豊郎
本田 博幸
発明の名称 プラスチック偏光レンズ、その製造方法および偏光フィルム  
代理人 速水 進治  

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