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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 A01K 審判 一部申し立て 特39条先願 A01K 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A01K 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A01K |
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管理番号 | 1315681 |
異議申立番号 | 異議2016-700271 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-04-01 |
確定日 | 2016-06-16 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5788763号発明「ペット用の運搬器具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5788763号の請求項5に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第5788763号の請求項5に係る特許についての出願は、特願2010-188816号(出願日:平成22年8月9日)の一部を平成23年10月30日に新たな特許出願としたものであって、平成27年8月7日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人福谷安弘により特許異議の申立てがされたものである。 2 本件発明 特許第5788763号の請求項5に係る特許は、その特許請求の範囲の請求項5に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである(以下「本件発明」という。分説は申立人の主張に基づく。)。 「A 対向する第1及び第2の側面を有する本体と、 B 前記本体から延在する肩紐と、 C 底板を保持するための第1及び第2のポケットを備え、 C-1 前記第1及び第2のポケットが、前記第1及び第2の側面の間に設けられた底面上に形成されており、 C-2 前記第1及び第2のポケットの開口縁は、互いに対向するように離れた位置に形成されている、 D 運搬器具。」 3 申立理由の概要 特許異議申立人は、以下の取消理由を主張している。 (1)取消理由1(進歩性欠如) 請求項5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、該特許は取り消されるべきものである。 [証拠方法] 甲第1号証:特開2009-136255号公報(以下「刊行物1」という。) 甲第2号証:登録実用新案第3095095号公報(以下「刊行物2」という。) (2)取消理由2(実施可能要件) 請求項5に係る発明は、実施可能要件を満足しておらず、その特許は特許法第36条第4項第1号の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、該特許は取り消されるべきものである。 (3)取消理由3(サポート要件) 請求項5に係る発明は、サポート要件を満足しておらず、その特許は特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、該特許は取り消されるべきものである。 (4)取消理由4(明確性要件) 請求項5に係る発明は、明確性要件を満足しておらず、その特許は特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、該特許は取り消されるべきものである。 (5)取消理由5(同日特許発明と同一) 請求項5に係る発明は、これと同日に出願された、原出願の請求項1に係る発明(以下「同日特許発明」という。)と同一であり、その特許は特許法第39条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、該特許は取り消されるべきものである。 (同日特許発明:特許第4865894号の請求項1) 「対向する第1及び第2の側面を有する本体と、 前記本体から延在する肩紐と、 底板と、 前記底板を保持するための第1及び第2のポケットとを備え、 前記第1及び第2のポケットが、前記第1及び第2の側面の間に設けられた底面上に形成されている、運搬器具であって、 前記運搬器具の使用時には前記底面が曲面を形成し、前記第1及び第2のポケットの開口縁は、互いに対向するように離れた位置に形成されている、運搬器具。」 4 刊行物に記載された事項 (1)刊行物1には、以下の記載がある(下線を付した。以下同じ。)。 ア 「【0020】 以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。 【0021】 図1?図4は本発明の実施形態に係るペット運搬用バッグを示す。このペット運搬用バッグ1は、平面視略長方形又は略長円形状をなす底面部2と、該底面部2の四周に延設された短辺側・長辺側各一対ずつの側壁部3(31、32、33、34)とを備えている。底面部2及び側壁部3は、いずれも、例えばポリウレタン等からなる芯材にポリエステル繊維を被せるなどして形成された柔軟な材料により形成され、その表面及び裏面には、通気性や防水・防汚性を高め、ペットの毛絡みを防ぐような処理が施されている。ただし、本発明は、各部の素材や表面加工等を特に限定するものではない。 【0022】 底面部2の下面側には、側方に開口部を有するポケット状の底板挿脱部(図示せず)が形成されている。この底板挿脱部には、底面部2と略同形状に形成された底板21が出し入れ自在に挿入される。底板21は、例えばペルボーレン(発泡ポリエチレンシート)、あるいはこれに類する合成樹脂等により形成され、適度の剛性を備えており、このペット運搬用バッグ1をボックスキャリーとして運搬する際に底面部2の撓み変形を減じる作用をなす。底板21挿脱部の開口部は、底板21の脱落を防ぐため、例えば面ファスナー等によって開閉される。」 イ 「【0028】 ショルダーストラップ4は、短辺側の一方の側壁部31と長辺側の両側壁部33、34との間に架け渡される。ショルダーストラップ4を構成するベルト41は、短辺側の一方の側壁部31に取り付けられた着脱可能なバックル42を経由して折り返され、その両端が、長辺側の側壁部33、34に着脱可能なバックル43を介してそれぞれ取り付けられる。そして、折り返されたベルト41が肩パッド44によって束ねられることにより、ショルダーストラップ4は全体として略三叉状に取り付けられることとなる。なお、長辺側の側壁部33、34におけるショルダーストラップ4の取り付け位置は、全体の重心バランスを考慮して、短辺側の他方の側壁部32のほうに偏倚している。」 ウ 図1として、 「 」 エ 上記アから、「底面部2と、側壁部3(31、32、33、34)」は、「ペット運搬用バッグ1」の「本体」に該当し、この「本体」は、「対向する一対の側壁部33,34を有する」といえる。 上記アないしエを総合すると、刊行物1には以下の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。 「対向する一対の側壁部33,34を有する本体と、 バックル43を介して前記本体に取り付けられたショルダーストラップ4と、 前記対向する一対の側壁部33,34の間に設けられた底面部2と、 底板21が出し入れ自在に挿入される、ポケット状の底板挿脱部とを備え、前記ポケット状の底板挿脱部が、前記底面部2の下面側に形成された、ペット運搬用バッグ。」 (2)刊行物2に記載された事項 刊行物2には、以下の記載がある。 ア 「【0001】【考案の属する技術分野】本考案は、犬や猫等のペットを入れて持ち運ぶことができるバッグに関する。」 イ 「【0011】上記バッグ本体1における前胴部4と、後胴部5と、上面部6と、左右のマチ部7,8は、その一部にネット18が用いられ、内部を透視可能に形成されている。 【0012】上記バッグ本体1における底部9の外方には外底板10が装着されている。この外底板10における長さ方向の両端部には、それぞれ一対のキャスタ11が一体に取り付けられている。」 ウ 「【0015】バッグ本体1における底部9の外方に対する外底板10の着脱装置として、バッグ本体1の底部9における長さ方向の両端部にそれぞれ外底板10の両端部が係止可能な係止部を設けている。この係止部としては、図に示すように、内向きに開口したポケット部12,13を設けることができる。 【0016】そして、上記外底板10は、その長さ方向の両端部をそれぞれ上記ポケット12,13に挿入して、バッグ本体1の底部9外方に一体に装着されるように構成されている。」 エ 図2として、 「 」 上記ア?エから、刊行物2には、以下の事項が記載されていると認められる。 「バッグ本体1における底部9に、内向きに開口したポケット部12,13を設け、外底板10の長さ方向の両端部をそれぞれ前記ポケット12,13に挿入して、バッグ本体1の底部9外方に一体に装着されるように構成した、ペットを入れて持ち運ぶことができるバッグ。」 5 判断 (1)取消理由1について ア 対比 本件発明と刊行物1発明とを対比する。 (ア)刊行物1発明の「ペット運搬用バッグ」は本件発明の「運搬器具」に相当し、以下同様に、 「一対の側壁部33,34」は「第1及び第2の側面」に、 「ショルダーストラップ4」は「肩紐」に、 「底板21」は「底板」に、 「(底板21が出し入れ自在に挿入される)ポケット状の底板挿脱部」は「底板を保持するためのポケット」に、 「対向する一対の側壁部33,34の間に設けられた底面部2」は「第1及び第2の側面の間に設けられた底面」に相当する。 (イ)刊行物1発明の「バックル43を介して前記本体に取り付けられたショルダーストラップ4」と本件発明の「本体から延在する肩紐」とは、「本体に取り付けられた肩紐」で共通する。 (ウ)刊行物1発明の「前記ポケット状の底板挿脱部が、前記底面部2の下面側に形成された」と本件発明の「前記第1及び第2のポケットが、前記第1及び第2の側面の間に設けられた底面上に形成されており」とは、「前記ポケットが、第1及び第2の側面の間に設けられた底面に形成された」で共通する。 (エ)上記(ア)ないし(ウ)を踏まえると、両者は、 「対向する第1及び第2の側面を有する本体と、前記本体に取り付けられた肩紐と、底板を保持するためのポケットを備え、前記ポケットが、第1及び第2の側面の間に設けられた底面に形成された、運搬器具。」で一致し、下記の2点で相違する。 相違点1:肩紐に関して、 本件発明の肩紐は、本体から延在するのに対して、刊行物1発明の肩紐は、バックルを介して取り付けられている点。 相違点2:底板を保持するためのポケットに関して、 本件発明は、第1及び第2のポケットを備え、第1及び第2のポケットが、底面上に形成されており、前記第1及び第2のポケットの開口縁は、互いに対向するように離れた位置に形成されているのに対して、刊行物1発明は、1つのポケットが、底面の下面側に形成されている点。 イ 相違点に関する判断 (ア)相違点1について 本件発明の肩紐は、本体から延在、すなわち、本体と一体化されているのに対して、刊行物1発明の肩紐は、バックルを介して本体に取り付けられており、本体とは別体に設けられている。 バッグ類において、部材を別の部材から延在し、両部材を一体化することは当業者が適宜なし得る設計的事項であるから、運搬器具において、肩紐を、本体から延在するものとする程度のことは当業者が適宜なし得たことである。 (イ)相違点2について 相違点2に関して、上記4(2)のとおり、刊行物2には、「バッグ本体1における底部9に、内向きに開口したポケット部12,13を設け、外底板10の長さ方向の両端部をそれぞれ前記ポケット12,13に挿入して、バッグ本体1の底部9外方に一体に装着されるように構成した、ペットを入れて持ち運ぶことができるバッグ。」が記載されている。 申立人は、刊行物2には、「第2のポケット」を備える点、及び「第1及び第2のポケットの開口縁は、互いに対向するように離れた位置に形成されている」という構成が記載されており、刊行物1発明と刊行物2に記載の構成とは、技術分野を一にするものであるから、刊行物2に記載の構成を刊行物1発明に適用することは容易になし得た旨、主張する。 しかしながら、刊行物2に記載のものにおいても、刊行物1発明と同様に、外底板10(底板)は、バッグ本体1における底部9(底面の下面側)に設けられており、この外底板10(底板)はキャスターを備えている(前記4(2)イ参照。)から、本体の底面上(底面の上面側)に設けることはできない。よって、刊行物1発明に、刊行物2に記載の構成を適用したとしても、本件発明には到達し得ない。 また、刊行物1発明において、「前記底面部2の下面側に形成され、底板21が出し入れ自在に挿入される、ポケット状の底板挿脱部」に係る構成を変更すべき課題は見いだせないから、1つのポケット(ポケット状の底板挿脱部)を、2つのポケット(第1及び第2のポケット)に変更する動機付けはない。 そもそも、刊行物1発明において、底面の下面側に設けられた、1つのポケットを、2つのポケット(第1及び第2のポケット)として、底面上(底面の上面側)に位置を変更し、さらに、第1及び第2のポケットの開口縁は、互いに対向するように離れた位置に形成することを容易想到とすることには、合理的な論理付けはなく、後知恵というべきである。 したがって、相違点2に係る構成の変更は、当業者が容易になし得たこととはいえない。 (ウ)本件発明が奏する効果について 本件発明は、相違点2に係る構成を有することにより、「底面が曲面を形成する場合であっても、底板を装着することができる。」「ポケット3,4に挿入した状態で使用しても、底板がズレや変形を起し難い。」(本件特許明細書【0008】【0012】参照。)との効果を奏するものである。 ウ まとめ 以上のとおり、本件発明は、当業者が刊行物1発明及び刊行物2に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものではないから、申立人が主張する取消理由1によっては、請求項5に係る特許を取り消すことはできない。 (2)取消理由2について ア 申立人の主張 取消理由2に関する申立人の主張は、概ね以下のとおりである。 本件発明の運搬器具は、少なくともその使用時において底面が曲面を形成するものと解釈されるが、底面が曲面を形成する具体的構成は何ら記載されておらず、かかる構成は周知のものでもない。 また、本件特許明細書には、いかなる場面が使用時に該当するのか具体的に記載されておらず、どのような場面において底面が曲面を形成するのか不明確であり、当該構成の具体的態様を理解することができない。 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 イ 当審の判断 まず、本件発明において、「使用時において底面が曲面を形成する」との事項は発明特定事項となっていないから、申立人の「底面が曲面を形成する具体的構成は何ら記載されておらず・・・」との主張は失当というべきである。 また、本件発明が「少なくともその使用時において底面が曲面を形成するもの」と解釈されるとしても、運搬器具がその使用時において底面が曲面を形成する具体的な構成や、いかなる場面が使用時に該当するのかは、当業者であれば、本件特許明細書の記載及び技術常識に基づいて当然に理解することができる程度のことである。 したがって、申立人が主張する取消理由2によっては、請求項5に係る特許を取り消すことはできない。 (3)取消理由3及び4について ア 申立人の主張 取消理由3及び4に関する申立人の主張は、概ね以下のとおりである。 (ア)本件発明の「底板を保持するための第1及び第2のポケットを備え」との事項から、「底板」を備えていない「運搬器具」を含むと解釈できるが、本件特許明細書には、「底板」を備える「運搬器具」のみが記載され、「底板」を備えていない「運搬器具」は記載されていない。 また、本件発明において、「第1及び第2の側面の間に設けられた底面」との事項から、使用時に曲面を形成しない「底板」を備える「運搬器具」を含むと解釈できるが、本件特許明細書には、使用時に曲面を形成する「底板」のみが記載され、使用時に曲面を形成しない「底板」は記載されていない。 したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 (イ)本件発明の「底板を保持するための第1及び第2のポケットを備え」との事項では、「底板」が「運搬器具」に含まれるのか否か不明確であるから、本件発明は明確ではない。 イ 当審の判断 まず、本件発明の「底板を保持するための第1及び第2のポケットを備え」との特定事項に関して、「底板」自体は発明特定事項となっていないことから、本件発明は「底板」を備えていない「運搬器具」を含むと理解され、この点に不明確な点はない。 そして、本件発明において「底板」を用いるか否かは、適宜選択できる事項であって、「底板」を用いない場合は、単に「第1及び第2のポケット」に「底板を保持」しないだけであるから、本件特許明細書において、「底板」を備えていない「運搬器具」は記載されているに等しい事項である。 つぎに、本件発明において、「第1及び第2の側面の間に設けられた底面上に・・・」と特定され、「運搬器具の使用時」に「底面が曲面を形成」する構成は発明特定事項とはなっていないから、本件発明には、使用時に底面が曲面を形成しないものも含まれると理解される。 そして、「運搬器具」において、使用時に底面が曲面を形成するか否かは、運搬器具に用いる材料の選択によって適宜選択できる設計的事項に過ぎないから、本件特許明細書において、使用時に底面が曲面を形成しない「運搬器具」は記載されているに等しい事項である。 したがって、申立人が主張する取消理由3及び4によっては、請求項5に係る特許を取り消すことはできない。 (4)取消理由5について ア 同日特許発明との対比 本件発明と、同日特許発明とを対比すると、両者は下記の点で相違する。 相違点: 同日特許発明は、「底板」を備え、「前記運搬器具の使用時には前記底面が曲面を形成」するのに対して、本件発明は、その特定がない点。 イ 当審の判断 同日特許発明を先願、本件発明を後願と仮定すると、本件発明は同日特許発明を上位概念化したものであるから、両者は同一であるが、本件発明を先願、同日特許発明を後願と仮定すると、同一ではない。 また、「ペット用の運搬器具」において、「底板」を備え、「前記運搬器具の使用時には前記底面が曲面を形成」する構成は、「底面が曲面を形成する場合であっても、底板を装着することができる。」との効果を奏するから、周知技術の単なる付加には該当しない。 したがって、本件発明と、同日特許発明とは、同一であるとはいえない。 6 むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-06-01 |
出願番号 | 特願2011-238085(P2011-238085) |
審決分類 |
P
1
652・
4-
Y
(A01K)
P 1 652・ 536- Y (A01K) P 1 652・ 121- Y (A01K) P 1 652・ 537- Y (A01K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 谷山 稔男 |
特許庁審判長 |
中田 誠 |
特許庁審判官 |
住田 秀弘 赤木 啓二 |
登録日 | 2015-08-07 |
登録番号 | 特許第5788763号(P5788763) |
権利者 | 内田 曉枝 |
発明の名称 | ペット用の運搬器具 |