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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04N
管理番号 1316147
審判番号 不服2016-6242  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-27 
確定日 2016-07-05 
事件の表示 特願2015-232609「送信装置、送信方法、受信装置および受信方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月12日出願公開、特開2016- 76957、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成26年3月7日に出願した特願2014-45763号の一部を、数次の分割を経て平成27年11月30日に新たな特許出願としたものであって、平成27年12月21日(起案日)付けで拒絶の理由が通知され、それに応答して平成28年2月4日付けで手続補正がなされたが、平成28年2月26日(起案日)付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成28年4月27日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成28年2月4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
動画像データを構成する各ピクチャの画像データを階層符号化し、低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のストリームと高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のストリームを生成する画像符号化部を備え、
上記符号化画像データはNALユニット構造を有し、上記画像符号化部は、上記第1のストリームのSPSのNALユニットに、上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値と共に上記第1のストリームのレベル指定値を挿入し、
上記画像符号化部で生成された上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを多重化して多重化ストリームを得ると共に、該多重化ストリームに、上記第1のストリームに対応させて、該第1のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報が記述されると共に、該第1のストリームのレベル指定値が記述された第1のデスクリプタを挿入し、上記第2のストリームに対応させて、該第2のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報が記述されると共に、上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値が記述された第2のデスクリプタを挿入する多重化部と、
上記多重化部で得られた多重化ストリームを送信する送信部をさらに備える
送信装置。
【請求項2】
上記画像符号化部は、
上記第1のストリームのSPSのNALユニットに、上記第1のストリームのレベル指定値の挿入があることを示すフラグ情報をさらに挿入する
請求項1に記載の送信装置。
【請求項3】
上記多重化ストリームはトランスポートストリームであり、
上記第1のデスクリプタおよび上記第2のデスクリプタは、プログラムマップテーブルの配下に挿入される
請求項1に記載の送信装置。
【請求項4】
画像符号化部が、動画像データを構成する各ピクチャの画像データを階層符号化し、低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のストリームと高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のストリームを生成する画像符号化ステップを有し、
上記符号化画像データはNALユニット構造を有し、上記画像符号化ステップでは、上記第1のストリームのSPSのNALユニットに、上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値と共に上記第1のストリームのレベル指定値を挿入し、
多重化部が、上記画像符号化ステップで生成された上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを多重化して多重化ストリームを得ると共に、該多重化ストリームに、上記第1のストリームに対応させて、該第1のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報が記述されると共に、該第1のストリームのレベル指定値が記述された第1のデスクリプタを挿入し、上記第2のストリームに対応させて、該第2のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報が記述されると共に、上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値が記述された第2のデスクリプタを挿入する多重化ステップと、
送信部が、上記多重化ステップで得られた多重化ストリームを送信する送信ステップをさらに有する
送信方法。
【請求項5】
動画像データを構成する各ピクチャの画像データが階層符号化されて生成された、低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のストリームと高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のストリームを含むと共に、上記第1のストリームに対応して、該第1のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報が記述されると共に、該第1のストリームのレベル指定値が記述された第1のデスクリプタを含み、上記第2のストリームに対応して、該第2のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報が記述されると共に、上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値が記述された第2のデスクリプタを含む多重化ストリームを受信する受信部を備え、
上記符号化画像データはNALユニット構造を有し、上記第1のストリームのSPSのNALユニットに、上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値と共に上記第1のストリームのレベル指定値が挿入されており、
デコード能力に応じて、上記受信された多重化ストリームに含まれる上記第1のストリームに、あるいは上記第1のストリームおよび上記第2のストリームの双方にデコード処理を実行する処理部をさらに備える
受信装置。
【請求項6】
受信部が、動画像データを構成する各ピクチャの画像データが階層符号化されて生成された、低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のストリームと高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のストリームを含むと共に、上記第1のストリームに対応して、該第1のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報が記述されると共に、該第1のストリームのレベル指定値が記述された第1のデスクリプタを含み、上記第2のストリームに対応して、該第2のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報が記述されると共に、上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値が記述された第2のデスクリプタを含む多重化ストリームを受信する受信ステップを有し、
上記符号化画像データはNALユニット構造を有し、上記第1のストリームのSPSのNALユニットに、上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値と共に上記第1のストリームのレベル指定値が挿入されており、
処理部が、デコード能力に応じて、上記受信された多重化ストリームに含まれる上記第1のストリームに、あるいは上記第1のストリームおよび上記第2のストリームの双方にデコード処理を実行する処理ステップをさらに有する
受信方法。」

第3.原査定の理由の概要
本願の請求項1ないし6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記(引用文献)
引用文献1:Sam Narasimhan et al.,Consideration of buffer management issues HEVC scalability, [online],Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG 16 WP 3 and ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11 14th Meeting: Vienna, Austria, AT, 25 July - 2 Aug. 2013,
引用文献2:Benjamin Bross et al.,High Efficiency Video Coding (HEVC) text specification draft 9, [online],Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG 16 WP 3 and ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11 11th Meeting: Shanghai, CN, 10-19 October 2012,
引用文献3:Information technology --Generic coding of moving pictures and associated audio information: Systems AMENDMENT 3: Transport of HEVC video over MPEG-2 systems,2012-05-24,p.5,

本願発明と、引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1には、第1のストリームのSPSのNALユニットに上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値と共に上記第1のストリームのレベル指定値が挿入されることが記載されていない点、上記多重化ストリームに各ストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大及び最小の値を示す階層範囲情報、ストリームのレベル指定値が挿入された第1のデスクリプタ及び第2のデスクリプタを挿入することが記載されていない点、で相違する。
しかしながら、引用文献1に記載されたHEVCの伝送にあたり、SPSのNALユニットにレベル指定値を挿入することは、例えば引用文献2に記載されているように適宜採用しうる周知技術であるから、引用文献1に記載されたベースレイヤのレベル、ベース+エンハスメントレイヤのレベル(念のために説明すると、引用文献1に記載されたエンハンスメントレイヤビデオストリーム(高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のストリーム)は、ベースレイヤビデオストリーム(低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のストリーム)とエンハンスメントレイヤビデオストリーム(高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のストリーム)を合わせたストリームとして用いるものであるから、エンハンスメントレイヤビデオストリームに対応するレベル指定値は、上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値である。)について、SPSのNALユニットにレベル指定値を挿入することは当業者が容易になし得ることである。
また、引用文献3には、引用文献1に記載されたHEVCの伝送にあたり、各ストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大及び最小の値を示す階層範囲情報、レベル指定値が挿入されたデスクリプタを含めることが記載されているから、引用文献1に記載された発明においても、各ビデオストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大及び最小の値を示す階層範囲情報、及び、引用文献1に記載されたベースレイヤのレベル、ベース+エンハスメントレイヤのレベルについて、上記引用文献3に記載のデスクリプタを含めるようにすることは、引用文献1に記載された発明における「第2ビデオストリームのレベル指定値」がすなわち「上記第1のビデオストリームおよび上記第2のビデオストリームを合わせたビデオストリームのレベル指定値」であることは、階層符号化に係る技術常識(第2のビデオストリーム(エンハンスメントレイヤビデオストリーム)は、第2のビデオストリーム(エンハンスメントレイヤビデオストリーム)のみで用いることができるものでなく、第1のビデオストリーム(ベースレイヤビデオストリーム)と合わせてはじめて用いることができるものであること)であることが当業者に明らかなことであるから、当業者が容易になし得ることである。

第4.当審の判断
1.引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である「Consideration of buffer management issues HEVC scalability」(HEVCのスケーラビリティのバッファ管理の問題の考慮事項)の「1. Introduction」(1.序論)には、次に掲げる事項が記載されている(なお、括弧内に当審で作成した日本語仮訳を添付する)。

「1. Introduction
1.1 Buffer model considerations
The scalability model as introduced in SVC (and also used in MVC) uses AVC base layer and adds scalable enhancements to achieve temporal, SNR and spatial improvements. Typical SVC applications targetted use cases where bit rate savings were achieved over simulcast of ‘base layer and enhancement without scalability’. MVC provided view enhancements using a similar model.」
(1.序論
1.1バッファモデルの考慮事項
SVCで導入された(また、MVCにおいても同様に用いられた)ようなスケーラビリティモデルは、AVCベースレイヤを使用し、また、時間的、SNR、空間的な改善を達成するために、スケーラブルなエンハンスメントを追加します。目標とする典型的なSVCアプリケーションは、「ベースレイヤとスケーラビリティのないエンハンスメント」の同時放送上で、ビットレートの節約が達成されるケースを使用します。MVCは同様のモデルを使用してビューのエンハンスメントを提供しました。)

「Some of the application use cases required transmission of AVC base layer stream to base layer decoder while the enhancement layer was transmitted seperately where the SVC/MVC decoder assembled the base and enhancement layers before decoding the enhanced data.」
(いくつかのアプリケーションは、エンハンスメントレイヤが別に送信される間、ベースレイヤデコーダにAVCベースレイヤストリームの送信が要求されるケースを使用します。そして、その時、SVC/MVCデコーダは、エンハンスメントデータを復号化する前に、ベース及びエンハンスメントレイヤを組み立てます。)





「The base layer video stream may use different profile and level than the [base + enhancement layer] (uaually this being higher level than base layer) and each required a different CPB size and bit rate for HRD buffer management. The video standard (and in turn systems) did not specify an independent buffer size and rate for each enhancement layer and the specification defined a scheme where the base layer and [base + enhancement layer] buffers had to be managed in parallel to make sure they did not overflow or underflow. This management was required at both the encoding end as well as decoders. The HRD model for SVC and MVC did not address such parallel CPB management of base layer and [base + enhancement layer]. The HRD model defined how to extract base layer video from the full SVC/MVC access unit and then manage the base layer.」
(ベースレイヤビデオストリームは、[ベース+エンハンスメントレイヤ](通常、ベースレイヤよりもハイレベルである)とは異なるプロファイルとレベルを使用することができ、それぞれがHRDバッファ管理のための異なるCPBサイズとビットレートが要求されます。ビデオ規格(と同様にシステム)は、各エンハンスメントレイヤのための独立したバッファサイズとレートを指定しませんでした。そして、仕様は、ベースレイヤと[ベース+エンハンスメントレイヤ]のバッファが確実にオーバーフローまたはアンダーフローしないようするために並行して管理されなければならない時のスキームを定義しました。この管理は、復号化側と同様に、符号化端の両方で必要とされました。SVCとMVCのためのHRDモデルは、ベースレイヤと[ベース+エンハンスメントレイヤ]の並列CPB管理のようなものに対応していませんでした。HRDモデルは、完全なSVC/MVCアクセスユニットからベースレイヤビデオを抽出し、そして、ベースレイヤを管理する方法を定義しました。)

「The transport part of SVC/MVC had to support the STD management independently for base and [base + enhancement layer] as STD does not have the ability to extract base layer data from full SVC access units and this capability would have required the base layer decoders to support the larger buffer sizes that included the base and enhancement layer data.
The STD extension in systems requires a virtual re-assembly buffer and the management of multiple buffers after re-assembly (see figure below).
This has made the STD more complex for SVC and MVC transport and makes re-multiplexing very difficult, complex and not implementable with legacy re-multiplexers. The defined compression of enhancement layer required variable bit rate and buffer allocation between base layer and enhancement layer to achieve best results. For example, if it was required to use a higher buffer size and rates for base layer, the equivalent was adjusted in enhancement layer and vice versa. However, the buffer size and rates for base layer or [base + enhancement] layer could never exceed the maximum limits for the level specified.」
(SVC/MVCの伝送部は、完全なSVCアクセスユニットからベースレイヤデータを抽出する能力を持たないSTDについて、ベースと[ベース+エンハンスメントレイヤ]の独立したSTD管理をサポートしなければなりませんでした。そして、この能力は、ベース及びエンハンスメントレイヤデータが含まれるような、より大きなバッファサイズをサポートするベースレイヤデコーダを必要としました。システムにおけるSTDの拡張は、仮想的再組み立てバッファ及び再組み立て後の複数バッファの管理を必要とします(下図参照)。これは、SVCとMVC伝送のためにSTDをより複雑にし、再多重化を非常に困難に、複雑に、従来の再マルチプレクサで実現可能ではないようにしました。エンハンスメントレイヤの定義された圧縮は、最良の結果を達成するために、ベースレイヤとエンハンスメントレイヤとの間の可変ビットレートとバッファの割り当てを必要としました。例えば、もし、ベースレイヤのためにより高いバッファサイズとレートを使用する必要があった場合は、同僚のものがエンハンスメントレイヤにおいて調整されました。そして、逆も同様です。しかし、ベースレイヤまたは[ベース+エンハンスメント]レイヤのバッファサイズやレートは、指定されたレベルの最大制限を超えることはありませんでした。)

「The following diagram shows an example of the system buffer model for HEVC layered coding and this is the same as that specified for SVC and MVC.」
(次の図は、HEVC階層符号化のためのシステムバッファモデルの例を示しており、これは、SVCとMVCのために指定されたものと同じです。)





2.引用発明
上記の記載事項によれば、引用文献1には、HEVCの時間的スケーラビリティのシステムモデルが記載されており、このモデルでは、ベースレイヤストリームとエンハンスメントレイヤストリームは別に送信され、デコーダ側において、1番目の図に示されるように、ベースレイヤコーダは、ベースレイヤデータをそのまま受け取り、エンハンスメントレイヤデコーダは、エンハンスメントデータを復号化する前に、ベースレイヤデータとエンハンスメントレイヤデータを組み立てるものであることが開示されている。
また、「HEVC階層符号化のためのシステムバッファモデルの例」を示す2番目の図を参照すると、ベースレイヤストリームとエンハンスメントレイヤストリームはそれぞれ別のPIDを有するHEVCビデオサブストリームとして送信され、TS Demuxにより分離されていることから、それぞれのサブストリームは多重化され、トランスポートストリームとして送信されているものといえる。
以上のことから、引用文献1には、ベースレイヤデータとエンハンスメントレイヤデータが、それぞれ別のPIDを有するHEVCビデオサブストリームとして送信され、それぞれのサブストリームは多重化され、トランスポートストリームとして送信されるHEVCの階層符号化システムモデルが記載されている。

よって、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。なお、引用発明の各構成の符号は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成(a)、構成(b)などと称する。

(引用発明)
(a)ベースレイヤデータとエンハンスメントレイヤデータが、それぞれ別のPIDを有するHEVCビデオサブストリームとして送信され、
(b)それぞれのサブストリームは多重化され、トランスポートストリームとして送信される
(c)HEVCの階層符号化システムモデル。

3.請求項1に係る発明について
(1)本願発明1
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という)は、次のとおりである。なお、本願発明1の各構成の符号は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成(A)、構成(B)などと称する。

(本願発明1)
(A)動画像データを構成する各ピクチャの画像データを階層符号化し、低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のストリームと高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のストリームを生成する画像符号化部を備え、
(B)上記符号化画像データはNALユニット構造を有し、上記画像符号化部は、上記第1のストリームのSPSのNALユニットに、上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値と共に上記第1のストリームのレベル指定値を挿入し、
(C)上記画像符号化部で生成された上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを多重化して多重化ストリームを得ると共に、該多重化ストリームに、上記第1のストリームに対応させて、該第1のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報が記述されると共に、該第1のストリームのレベル指定値が記述された第1のデスクリプタを挿入し、上記第2のストリームに対応させて、該第2のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報が記述されると共に、上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値が記述された第2のデスクリプタを挿入する多重化部と、
(D)上記多重化部で得られた多重化ストリームを送信する送信部をさらに備える
(E)送信装置。

(2)対比
本願発明1と上記引用発明とを対比する。

a.本願発明1の構成(A)について
引用発明の構成(a)は、HEVCの階層符号化システムモデルにおいて、「ベースレイヤデータとエンハンスメントレイヤデータが、それぞれ別のPIDを有するHEVCビデオサブストリームとして送信され」るものである。

ここで、HEVCの階層符号化の「ベースレイヤデータとエンハンスメントレイヤデータ」は、HEVCが動画像圧縮符号化標準規格であるから、動画像を階層符号化したデータである。
そして、動画像の符号化は、動画像データを構成する各ピクチャの画像データを符号化することであることは技術常識であるから、引用発明のHEVCの階層符号化の「ベースレイヤデータとエンハンスメントレイヤデータ」は、『動画像データを構成する各ピクチャの画像データを階層符号化し』て生成されたデータといえる。

また、引用発明のHEVCの階層符号化の「ベースレイヤデータ」は、階層符号化における『低階層側のピクチャの符号化画像データ』であるといえ、「エンハンスメントレイヤデータ」は、階層符号化における『高階層側のピクチャの符号化画像データ』といえる。
そして、引用発明は、「ベースレイヤデータとエンハンスメントレイヤデータ」を、それぞれ別のPIDを有する「HEVCビデオサブストリーム」として送信するものであるから、『ベースレイヤデータを持つ第1のストリームと、エンハンスメントレイヤデータを持つ第2のストリームを生成する』ものといえる。

これらのことから、引用発明は、動画像データを構成する各ピクチャの画像データを階層符号化し、低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のストリームと高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のストリームを生成するものといえる。
そして、引用発明は、そのような処理を行う画像符号化部を備えているといえる。

したがって、引用発明の構成(a)は、本願発明1の構成(A)の「動画像データを構成する各ピクチャの画像データを階層符号化し、低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のストリームと高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のストリームを生成する画像符号化部を備え」という構成と一致するものである。

b.本願発明1の構成(B)について
引用発明のHEVCの階層符号化システムモデルは、ベースレイヤデータとエンハンスメントレイヤデータのHEVCビデオサブストリームの構造や、その他のデータについては何ら特定されていないものである。
よって、引用発明は、本願発明1の構成(B)の「上記符号化画像データはNALユニット構造を有し、上記画像符号化部は、上記第1のストリームのSPSのNALユニットに、上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値と共に上記第1のストリームのレベル指定値を挿入し」という構成を有しているか特定されていない点で本願発明1と相違する。

c.本願発明1の構成(C)について
引用発明は、構成(b)にあるように、ベースレイヤデータとエンハンスメントレイヤデータのそれぞれのサブストリームを多重化するものであるから、その多重化した多重化ストリームを得ているものといえ、さらに、その多重化を行う多重化部を備えているものといえる。
そうすると、引用発明は、本願発明1の構成(C)と「上記画像符号化部で生成された上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを多重化して多重化ストリームを得る多重化部」を備えるものである点で一致するものといえる。
ただし、「多重化部」に関して、本願発明1は「該多重化ストリームに、上記第1のストリームに対応させて、該第1のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報が記述されると共に、該第1のストリームのレベル指定値が記述された第1のデスクリプタを挿入し、上記第2のストリームに対応させて、該第2のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報が記述されると共に、上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値が記述された第2のデスクリプタを挿入する」ものであるのに対し、引用発明はそのようなものであるとは特定されていない点で相違する。

d.本願発明1の構成(D)について
引用発明は、構成(b)にあるように、多重化されたサブストリームはトランスポートストリームとして送信されるものであり、サブストリームの多重化は、上記cにおいて検討したように、多重化部で行われる。
また、引用発明は、その送信を行う送信部を備えているといえる。
よって、引用発明の構成(b)は、本願発明1の構成(D)の「上記多重化部で得られた多重化ストリームを送信する送信部をさらに備える」という構成と一致するものである。

e.本願発明1の構成(E)について
引用発明は、上述のdにおいて検討したとおり、多重化ストリームを送信するものであるから、引用発明の符号化側は送信装置といえる。
よって、引用発明は、本願発明1の構成(E)「送信装置」と一致するものである。

f.以上をまとめると、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
動画像データを構成する各ピクチャの画像データを階層符号化し、低階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第1のストリームと高階層側のピクチャの符号化画像データを持つ第2のストリームを生成する画像符号化部を備え、
上記画像符号化部で生成された上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを多重化して多重化ストリームを得る多重化部と、
上記多重化部で得られた多重化ストリームを送信する送信部をさらに備える
送信装置。

[相違点1]
引用発明は、本願発明1の「上記符号化画像データはNALユニット構造を有し、上記画像符号化部は、上記第1のストリームのSPSのNALユニットに、上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値と共に上記第1のストリームのレベル指定値を挿入し」という構成を有しているか特定されていない点。

[相違点2]
「多重化部」に関して、本願発明1は「該多重化ストリームに、上記第1のストリームに対応させて、該第1のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報が記述されると共に、該第1のストリームのレベル指定値が記述された第1のデスクリプタを挿入し、上記第2のストリームに対応させて、該第2のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報が記述されると共に、上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値が記述された第2のデスクリプタを挿入する」ものであるのに対し、引用発明はそのようなものであるとは特定されていない点。

(3)相違点の判断
a.相違点1について
引用発明において採用されているHEVCは、その前身であるH.264/AVCをベースとし、続いて検討された動画像圧縮符号化の標準規格であり、動画像の符号化データをNALユニット構造とすること、SPSのNALユニットを設けること、SPSにはビデオストリームのレベル指定値を記述することは、H.264/AVCで既に規定されている周知の技術である。
さらに、HEVCにおける符号化データの伝送においては、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2である「High Efficiency Video Coding (HEVC) text specification draft 9」(高能率映像符号化(HEVC)テキスト仕様ドラフト9)の「7.3.2.2 Sequence parameter set RBSP syntax」内の「profile_tier_level」に係る「7.3.3 Profile, tier and level syntax」に、「7.4.3 Profile, tier and level semantics」に説明される「general_level_idc」「sub_layer_level_idc[ i ]」が記述されることが示されている。

・引用文献2の「7.4.3 Profile, tier and level semantics」の記載事項

「general_level_idc indicates a level to which the coded video sequence conforms as specified in Annex A.
NOTE 1 ? A greater value of general_level_idc indicates a higher level. The maximum level signalled in the video parameter set for a coded video sequence may be higher than the level signalled in the sequence parameter set for the same coded video sequence.」
(仮訳:general_level_idcは、附属書Aに示される符号化ビデオシーケンスが準拠するレベルを示す。
注1 - general_level_idcのより大きな値は、より高いレベルを示している。符号化ビデオシーケンスのシーケンスパラメータセットに記された最大のレベルは、同じ符号化ビデオシーケンスのシーケンスパラメータセットに記されるレベルよりも高くすることができる。)

「sub_layer_profile_space[ i ], sub_layer_tier_flag[ i ], sub_layer_profile_idc[ i ], sub_layer_profile_compatibility_flag[ i ][ j ], sub_layer_reserved_zero_16bits[ i ], and sub_layer_level_idc[ i ] have the same semantics as general_profile_space, general_tier_flag, general_profile_idc, general_profile_compatibility_flag[ j ], general_reserved_zero_16bits, and general_level_idc, respectively, but apply to the representation of the sub-layer with TemporalId equal to i.」
(仮訳:sub_layer_profile_space[i],sub_layer_tier_flag[i],sub_layer_profile_idc[i],sub_layer_profile_compatibility_flag[i][j],sub_layer_reserved_zero_16bits[i]およびsub_layer_level_idc[i]は、general_profile_space,general_tier_flag、general_profile_idc,general_profile_compatibility_flag[j],general_reserved_zero_16bitsおよびgeneral_level_idc、と同じ意味を持っている。ただし、それぞれが、TemporalIdがiに等しいサブレイヤの表現に適用されます。)

そして、「general_level_idc」は、階層符号化された符号化画像データの最大のレベル指定値であり、「sub_layer_level_idc[ i ]」は、各サブレイヤの符号化画像データのレベル指定値であるから、引用文献2には、各サブレイヤのSPSのNALユニットに、階層符号化された符号化画像データの最大のレベル指定値と、各サブレイヤの符号化画像データのレベル指定値を記述することが開示されているといえる。

したがって、引用発明に上記の公知技術を適用し、符号化画像データをNALユニット構造を有するものとし、画像符号化部において、第1のストリームのSPSのNALユニットに、第1のストリームおよび第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値と、第1のストリームのレベル指定値を記述するという構成を採用することによって、引用発明に相違点1に係る構成を付加することは、当業者が容易に想到し得ることである。

b.相違点2について
動画像圧縮符号化における符号化データの配信技術において、ビデオストリームの属性情報を記述したデスクリプタを多重化ストリームに含めて伝送することは周知の技術であり、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3である「Information technology --Generic coding of moving pictures and associated audio information: Systems AMENDMENT 3: Transport of HEVC video over MPEG-2 systems」(情報技術-動画像と関連するオーディオ情報のジェネリックコーディング:システム 改正3:MPEG-2システム上のHEVCビデオの伝送)に、「2.6.96 HEVC video descriptor」の「Syntax」内の「level_idc, temporal_id_min, temporal_id_max」、及び「2.6.97 Semantic definition of fields in HEVC video descriptor」の「level_idc - This 8-bit field indicates the level, as defined in the HEVC specification. temporal_id_min - This 3-bit field indicates the minimum value of the temporal_id syntax element in the NAL unit header, as defined in the HEVC specification, for the associated Elementary Stream. temporal_id_max - This 3-bit field indicates the minimum value of the temporal_id syntax element in the NAL unit header, as defined in the HEVC specification, for the associated Elementary Stream.」(仮訳:level_idc -この8ビットのフィールドは、HEVC仕様で定義されているように、レベルを示します。temporal_id_min -この3ビットのフィールドは、関連するエレメンタリストリームに対して、HEVC仕様で定義されているように、NALユニットヘッダにおけるtemporal_id構文要素の最小値を示しています。temporal_id_max - この3ビットのフィールドは、関連するエレメンタリストリームに対して、HEVC仕様で定義されているように、NALユニットヘッダにおけるtemporal_id構文要素の最小(「maximum(最大)」の誤記であると認定できる)値を示しています。)と記載されているように、HEVCのデスクリプタに、ビデオストリームに含まれる符号化データに関するtemporal_id_minとtemporal_id_max、すなわち、階層符号化における符号化画像データの階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報、及びlevel_idc、すなわちレベル指定値を挿入することが公知の技術である。

ここで、本願発明1の「第1のストリーム」及び「第2のストリーム」について確認すると、本願発明1の構成(A)にあるように、「第1のストリーム」は低階層側のピクチャの符号化画像データを有し、「第2のストリーム」は高階層側のピクチャの符号化画像データを有している。そして、「第1のストリーム」は単独で復号化が可能な『通常の』ストリームであるが、「第2のストリーム」は「第1のストリーム」と組み合わされない限り復号化できず、単独では復号化が可能ではない『通常でない』ストリームであるといえる。

そうすると、引用発明に上記公知の技術を適用し、通常のストリームである「第1のストリーム」に関連して、多重化ストリームに「第1のストリームに対応させて、該第1のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報」、及び「該第1のストリームのレベル指定値が記述された第1のデスクリプタ」を挿入することは、当業者が容易に想到し得ることと認められる。

一方、通常のストリームとは異なる「第2のストリーム」に関連して、多重化ストリームにどのような情報を含ませるかということについて、引用文献3には何ら記載されていない。そして、通常とは異なるストリームへの対応は様々な方法が想定でき、例えば、多重化ストリームに含ませる情報は通常のストリームと同様のものとしておき、ストリームの分析により復号化の処理を可能とすることや、多重化ストリームに含ませる情報を通常のストリームとは異なるものとしておき、復号化の処理を簡単にすることなど、様々な方法を選択することが可能である。
そして、その対応方法として、多重化ストリームに含ませる情報を、相違点2に係る「第2のストリームに対応させて、該第2のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報」及び「上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値が記述された第2のデスクリプタ」とすることに関して、様々な対応方法から、当該対応方法を選択する積極的な理由を、引用文献1ないし3の記載事項から見出すことはできない。
よって、引用発明に上記構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

このように、引用文献3には、上記相違点2に係る発明の構成は開示されておらず、本願発明1が、引用発明に引用文献3記載の技術を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献1ないし3に記載された発明、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4.請求項2ないし6に係る発明について
本願の請求項2ないし6に係る発明は、上記[相違点2]の、多重化ストリームに「第2のストリームに対応させて、該第2のストリームに含まれる各ピクチャの符号化画像データに対応する階層の最大および最小の値を示す階層範囲情報が記述されると共に、上記第1のストリームおよび上記第2のストリームを合わせたビットストリームのレベル指定値が記述された第2のデスクリプタ」が挿入されているという技術事項を含むものであるから、請求項1に係る発明と同様の理由により、引用文献1ないし3に記載された発明、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし6に係る発明は、引用文献1ないし3に記載された発明、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の拒絶理由によっては拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-06-21 
出願番号 特願2015-232609(P2015-232609)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 後藤 嘉宏  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 清水 正一
戸次 一夫
発明の名称 送信装置、送信方法、受信装置および受信方法  
代理人 宮田 正昭  
代理人 澤田 俊夫  
代理人 佐々木 榮二  
代理人 特許業務法人大同特許事務所  
代理人 山田 英治  

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