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審決分類 |
審判 査定不服 その他 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 特29条の2 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1316394 |
審判番号 | 不服2014-22434 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-11-04 |
確定日 | 2016-07-19 |
事件の表示 | 特願2007-533903「有機半導体を含む電子デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月13日国際公開,WO2006/037458,平成20年 5月15日国内公表,特表2008-516421,請求項の数(10)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,2005年9月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年10月1日,欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,平成19年6月4日に国際出願日における明細書及び特許請求の範囲の翻訳文が提出され,平成23年10月28日付けで拒絶の理由が通知され,平成24年5月7日に意見書及び手続補正書が提出され,平成25年2月20日付けで拒絶の理由が通知され,同年5月23日に意見書及び手続補正書が提出され,同年12月3日付けで拒絶の理由が通知され,平成26年6月5日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年6月23日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされた。 本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成26年11月4日に請求されたものであって,平成28年1月28日付けで拒絶の理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,同年6月1日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし10に係る発明は,平成28年6月1日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものと認められるところ,本願の請求項1に係る発明は以下のとおりである。 「少なくとも1種の有機半導体を含む発光層を有する電子デバイスであって,前記発光層を形成するための,有機半導体中のハロゲンであるフッ素,塩素,臭素,およびヨウ素の含有量が,それぞれ20ppm未満であり, ただし,フッ素が有機半導体の化学構造の構成部分でなく, ただし,少なくとも1種の反応性ハロゲンは有機半導体の調製に関与したものであり, 前記有機半導体がポリマーであり, 前記ポリマーがポリ-p-アリーレンビニレン(PAV),ポリフルオレン(PF),ポリ-スピロ-ビフルオレン(PSF),ポリ-パラ-フェニレン(PPP)若しくはポリ-パラ-ビフェニレン,ポリジヒドロフェナントレン(PDHP),ポリ-トランス-インデノフルオレン若しくはポリ-シス-インデノフルオレン(PIF),ポリチオフェン(PT),ポリピリジン(PPy),ポリピロール,ポリフェナントレン,ポリビニルカルバゾール(PVK),トリアリールアミンポリマー,またはこれらのクラスの2つ以上からの構造単位を有するコポリマーを含むことを特徴とする電子デバイスの製造方法であって, 以下の工程: a)反応性ハロゲンとのカップリング反応を用いる前記有機半導体の製造と, b)a)からの前記有機半導体の任意の単離と, c)前記有機半導体中のハロゲンの含有量を低減させるような前記有機半導体の後処理とを含む方法により得られることを特徴とする製造方法。」(以下,「本願発明」という。) 第3 原査定の拒絶の理由について 1 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由は,概略次のとおりである。 本願の請求項1ないし19(平成28年6月1日提出の手続補正書による補正前の請求項1ないし19)に係る発明は,その出願の日(パリ条約による優先権主張の効果により,2004年10月1日)前の特許出願であって,その出願後に出願公開がされた下記先願の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下,それぞれを「当初明細書」及び「当初特許請求の範囲」といい,両者を総称して「当初明細書等」という。)に記載された発明と同一であり,しかも,本願の発明者が先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本願の出願の時において,その出願人が上記先願の出願人と同一でもないので,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができない。 記 先願:特願2004-28989号(特開2005-222794号) 先願の当初明細書の【0067】ないし【0077】には,昇華精製を行った化合物(1-1-3),(1-1-4)サンプルの臭化物Aの含有量が,クロマトグラフィーを用いて測定し0.02%より小さい検出限界以下の値を有する旨も開示されている。 そして,クロマトグラフィーの検出限界の値が,20ppm未満である0.1ppm以下程度であることは,先願の出願時点において周知であるから,先願の当初明細書等に記載の検出限界以下の値は20ppm未満である0.1ppm以下程度の値を示しており,当該構成は,本願発明の構成に該当する。 また,先願の当初明細書の【0076】の記載は,臭素含有量の測定結果のみが開示されているものの,昇華精製を行った化合物(1-1-3),(1-1-4)サンプルにおいては,臭素含有量だけでなく,他のハロゲン含有量の全てが低減されていることは明らかであるから,臭素含有量が0.1ppm以下の値を備えていることを考慮すると,先願の当初明細書等に記載された昇華精製を行った化合物(1-1-3),(1-1-4)サンプルのフッ素,塩素,臭素,およびヨウ素の含有量についても,それぞれ20ppm未満である値まで低減されている。 2 原査定の理由の判断 (1)先願の当初明細書等の記載 先願の当初明細書等には,次の記載がある。(下線は,後述する先願発明の認定に特に関係する箇所を示す。) ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,電気エネルギーを光に変換して発光できる有機電界発光素子およびそれを形成する有機化合物材料の調製方法に関する。」 イ 「【背景技術】 【0002】 今日,種々の表示素子に関する研究開発が活発であり,中でも有機電界発光(EL)素子は,低電圧で高輝度の発光を得ることができるため,有望な表示素子として注目されている。 【0003】 上記EL素子において現在強く改良が求められているのは長時間の通電による輝度劣化の問題である。特にりん光発光を用いた有機EL素子においては輝度劣化が大きく,これを改良することが求められていた。 【0004】 素子の輝度劣化は素子を形成するために用いられる有機化合物材料の純度に強く影響される。このため純度の高い有機化合物材料で素子を形成することで耐久性の高い素子が作成可能であることが報告されている(特許文献1,2)。特に特許文献2において有機化合物材料中に含まれるハロゲン化合物の含有量を低減することが素子の高耐久化に大きく寄与することが開示されている。 【0005】 有機化合物の純度を高める方法としては再結晶による方法,蒸留による方法,昇華精製による方法,液体クロマトグラフィーによる方法,再沈殿による方法が一般的である。しかしこれらいずれの方法はいずれも有機化合物材料に含まれる微量の不純物,特にハロゲン化合物を効果的に除く方法としては不十分であり,しばしばこれらの方法によってはハロゲン化合物を除くことが困難であることが多い。 【0006】 このため有機電界発光素子に用いる,有機化合物材料に含まれる不純物,特にハロゲン化合物を効果的に除去する方法の開発が強く求められていた。 【0007】 【特許文献1】特開2000-48955号公報 【特許文献2】特許第3290432号公報 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明の目的は,発光特性および素子駆動耐久性が良好な有機電界発光素子,およびこれを形成する有機化合物材料に含まれる不純物の効果的な除去し有機化合物を調製する方法の提供にある。」 ウ 「【課題を解決するための手段】 【0009】 この課題は下記手段によって達成された。 (1)一対の電極間に,発光層を含む少なくとも一層の有機層を有する有機電界発光素子であって,ハロゲン化合物の濃度が0.1質量%未満である芳香族へテロ環化合物から形成された前記有機層を有する有機電界発光素子。 ・・・(中略)・・・ (7)有機電界発光素子の有機層を形成する有機電界発光素子用材料の調製方法であって,前記材料に含まれるハロゲン化合物を還元処理し,ハロゲン化合物を除去する有機電界発光素子用材料の調製方法。」 エ 「【発明の効果】 【0010】 本発明により提供される方法により,有機電界発光素子を形成する有機化合物材料に含まれるハロゲン化合物を効果的に除去することを可能にする。また,本発明の方法により調製された有機化合物材料から調製された発光素子は発光特性,耐久性が優れる。」 オ 「【発明を実施するための最良の形態】 【0011】 ・・・(中略)・・・ 【0024】 次に有機化合物材料中に含まれるハロゲン化合物について説明する。 該ハロゲン化合物は発光素子中に含まれる有機化合物材料を製造する際,用いた原料が未反応で残存したり,あるいは反応中間体が残存した結果,該有機化合物材料中に含まれることとなったものである。 上記ハロゲン化合物としてはヨウ素化物,臭素化物,塩素化物が好ましく,臭素化物,塩素化物がさらに好ましく,臭素化物が最も好ましい。 ・・・(中略)・・・ 【0049】 次に本発明の方法について詳しく説明する。本発明の方法における該有機化合物材料,および該ハロゲン化合物はそれぞれ前記有機化合物材料,および前記ハロゲン化合物と同義である。 【0050】 該ハロゲン化合物を還元する反応とは該ハロゲン化合物中のハロゲン原子を水素原子に置換する反応を表し,例えば新実験化学講座(丸善株式会社) 14[I] P22?P30にて示される反応が挙げられる。 該方法はハロゲン化合物と有機金属化合物,あるいは金属化合物との反応を含む方法が好ましい。」 カ 「【0067】 <実施例1> 以下に示す方法で例示化合物(1-1)を合成した。 窒素雰囲気下においてカルバゾール66.9g(0.4 mol),炭酸ルビジウム277g(1.2 mol),酢酸パラジウム(II)0.9g(0.004 mol),トリ-t-ブチルホスフィン2.4g(0.012 mol)およびキシレン1000mlの混合物を90℃に加熱し,これに4,4’-ジブロモビフェニル62.4g(0.2 mol)を添加した。添加後,反応温度を150℃にし,さらに攪拌を続けた。3時間後,反応物を室温まで冷却した後,水1L,クロロホルム2Lを加え,30分攪拌し,不溶物をろ過した。ここで得られたろ液を分液して有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後,ろ過し,得られたろ液の溶媒を減圧下留去した。得られた反応混合物をカラムクロマトグラフィー,および再結晶により精製することで化合物(1-1)を75.9g(収率78.3%)の白色結晶として得た。このようにして得た(1-1)を昇華精製によって精製し,サンプル(1-1-1)とした。 【0068】 【化6】 【0069】 <実施例2> 実施例1によって得られたサンプル(1-1-1)1.5gについてさらに昇華精製を行ってサンプル(1-1-2)1.2gを得た(収率78%)。 【0070】 <実施例3> 窒素雰囲気下,実施例1によって得られたサンプル(1-1-1)2gを無水THF100ml中に懸濁させた。氷冷下,ここに3.0mlの1.6mol/lのn-ブチルリチウムヘキサン溶液を滴下した後,室温まで昇温してさらに攪拌を続けた。1時間攪拌後,水100mlを加え,さらに30分反応させた後,クロロホルム100mlを加えた。分液した後,有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた後,これをろ別し,得られたろ液から溶媒を減圧留去した。得られた白色固体をヘキサン/クロロホルム混合溶媒から再結晶し,これを昇華精製してサンプル(1-1-3)1.4gを得た(収率72%)。 【0071】 <実施例4> 窒素雰囲気下,LiAlH_(4)を200mg,無水THF100ml中に懸濁させた。これを氷冷して実施例1によって得たサンプル(1-1-1) 2gを添加し,添加終了後,室温に戻してさらに攪拌を続けた。24時間攪拌後,これに20mlに酢酸エチルを滴下,2時間攪拌後,イソプロピルアルコール20mlを加えた。さらに2時間攪拌後,クロロホルム100ml,水100mlを加えて分液し,得られた有機層に硫酸マグネシウムを加えて,乾燥した。乾燥剤をろ別して得られたろ液を減圧下,溶媒留去し,得られた固体をヘキサン/クロロホルム混合溶媒から再結晶後,昇華精製を行うことでサンプル(1-1-4)1.4gを得た(収率70%)。 【0072】 <実施例5> 洗浄したITO基板を蒸着装置に入れ,まず正孔注入層として銅フタロシアニンを10nm蒸着し,この上に正孔輸送材料としてα-NPD(N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(α-ナフチル)-ベンジジン)を30nm蒸着した。この上に実施例1から実施例4に示す方法によって得たサンプル(1-1-1)?(1-1-4)のいずれかとIr(ppy)_(3)を9対1の比率(質量比)で30nmの厚さに共蒸着し,この上にBalqを10nm,続いてAlq3を40nm蒸着した。有機薄膜上にパターニングしたマスク(発光面積が4mm×5mmとなるマスク)を設置し,蒸着装置内でフッ化リチウムを約1nm蒸着し,この上にアルミニウムを膜厚約200nm蒸着して素子を作製した。東陽テクニカ製ソースメジャーユニット2400型を用いて,直流定電圧をEL素子に印加し発光させ,その輝度をトプコン社の輝度計BM-8,発光波長を浜松フォトニクス社製スペクトルアナライザーPMA-11を用いて測定した。 その結果,いずれの素子においても色度値(0.27,0.62)の緑色発光が得られた。 【0073】 【化7】 【0074】 表1に実施例1から実施例4の方法によって得られたサンプル(1-1-1)から(1-1-4)について臭素化物Aの含有量およびこれらを用いて実施例5に従って作成した素子の輝度半減期を示す。臭素化物Aの含有量は液体クロマトグラフィーを用いて測定し,素子の輝度半減期は初期輝度2000cd/m^(2),電流値一定にて測定した。 【0075】 【化8】 【0076】 【表1】 【0077】 上記から明らかなようにハロゲン化合物の含有量が少ない材料で作成した素子の輝度半減期は大幅に向上している。 また本発明による方法によれば材料に微量に含まれるハロゲン化合物を効果的にかつ簡便に除去することが可能である。」 (2)先願の当初明細書等に記載された発明 先願の当初明細書の【0076】の【表1】から,サンプル(1-1-3)及びサンプル(1-1-4)の臭素化合物Aの含有量(質量%)がいずれも検出限界以下であることを看て取れる。 また,先願の当初明細書の【0072】の記載から,サンプル(1-1-3)又はサンプル(1-1-4)を用いて有機電界発光素子を製造する方法とを把握できる。 したがって,前記(1)アないしカの記載から,先願の当初明細書等に次の発明が記載されていると認められる。 「洗浄したITO基板に,正孔注入層として銅フタロシアニンを10nm蒸着し,この上に正孔輸送材料としてα-NPD(N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(α-ナフチル)-ベンジジン)を30nm蒸着し,この上にサンプル(1-1-3)又はサンプル(1-1-4)とIr(ppy)_(3)を9対1の質量比で30nmの厚さに共蒸着し,この上にBalqを10nm,続いてAlq3を40nm蒸着し,有機薄膜上にパターニングしたマスクを設置し,蒸着装置内でフッ化リチウムを約1nm蒸着し,この上にアルミニウムを膜厚約200nm蒸着することによって,有機電界発光素子を製造する方法であって, 前記サンプル(1-1-3)及び前記サンプル(1-1-4)は,それぞれ次の調整方法によって得られる有機化合物材料であり,いずれも液体クロマトグラフィーを用いて測定した臭素化合物Aの含有量(質量%)が検出限界以下である, 有機電界発光素子を製造する方法。 【サンプル(1-1-3)の調整方法】 工程a:窒素雰囲気下においてカルバゾール66.9g(0.4 mol),炭酸ルビジウム277g(1.2 mol),酢酸パラジウム(II)0.9g(0.004 mol),トリ-t-ブチルホスフィン2.4g(0.012 mol)およびキシレン1000mlの混合物を90℃に加熱し,これに4,4’-ジブロモビフェニル62.4g(0.2 mol)を添加した後,反応温度を150℃にし,さらに攪拌を続け,3時間後,反応物を室温まで冷却した後, 工程b:水1L,クロロホルム2Lを加え,30分攪拌し,不溶物をろ過し,得られたろ液を分液して有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後,ろ過し,得られたろ液の溶媒を減圧下留去して得られた反応混合物をカラムクロマトグラフィー,および再結晶により精製することで化合物(1-1)を白色結晶として得, 工程c:当該化合物(1-1)を昇華精製によって精製してサンプル(1-1-1)とし,窒素雰囲気下,当該サンプル(1-1-1)2gを無水THF100ml中に懸濁させ,氷冷下,ここに3.0mlの1.6mol/lのn-ブチルリチウムヘキサン溶液を滴下した後,室温まで昇温してさらに攪拌を続け,1時間攪拌後,水100mlを加え,さらに30分反応させた後,クロロホルム100mlを加え,分液した後,有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた後,これをろ別し,得られたろ液から溶媒を減圧留去し,得られた白色固体をヘキサン/クロロホルム混合溶媒から再結晶し,これを昇華精製する。 【サンプル(1-1-4)の調整方法】 工程a:窒素雰囲気下においてカルバゾール66.9g(0.4 mol),炭酸ルビジウム277g(1.2 mol),酢酸パラジウム(II)0.9g(0.004 mol),トリ-t-ブチルホスフィン2.4g(0.012 mol)およびキシレン1000mlの混合物を90℃に加熱し,これに4,4’-ジブロモビフェニル62.4g(0.2 mol)を添加した後,反応温度を150℃にし,さらに攪拌を続け,3時間後,反応物を室温まで冷却した後, 工程b:水1L,クロロホルム2Lを加え,30分攪拌し,不溶物をろ過し,得られたろ液を分液して有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後,ろ過し,得られたろ液の溶媒を減圧下留去して得られた反応混合物をカラムクロマトグラフィー,および再結晶により精製することで化合物(1-1)を白色結晶として得, 工程d:当該化合物(1-1)を昇華精製によって精製してサンプル(1-1-1)とし,窒素雰囲気下,LiAlH_(4)を200mg,無水THF100ml中に懸濁させて,これを氷冷して前記サンプル(1-1-1) 2gを添加し,添加終了後,室温に戻してさらに攪拌を続け,24時間攪拌後,これに20mlに酢酸エチルを滴下,2時間攪拌後,イソプロピルアルコール20mlを加え,さらに2時間攪拌後,クロロホルム100ml,水100mlを加えて分液し,得られた有機層に硫酸マグネシウムを加えて,乾燥し,乾燥剤をろ別して得られたろ液を減圧下,溶媒留去し,得られた固体をヘキサン/クロロホルム混合溶媒から再結晶後,昇華精製を行う。」(以下,「先願発明」という。) (3)本願発明について ア 対比 (ア) 先願発明の「サンプル(1-1-3)又はサンプル(1-1-4)」,「有機電界発光素子」,「有機電界発光素子を製造する方法」及び「4,4’-ジブロモビフェニル」は,本願発明の「有機半導体」,「電子デバイス」,「電子デバイスの製造方法」及び「反応性ハロゲン」にそれぞれ相当する。 (イ) 先願発明において,「サンプル(1-1-3)又はサンプル(1-1-4)」(本願発明の「有機半導体」に相当する。以下,「(3)対比・判断」の欄において,先願発明の構成に付されたカッコ内の記載は,当該構成に相当する本願発明の構成を示す。)とIr(ppy)_(3)を共蒸着することにより形成される層が発光層であることは,当業者に自明であるから,先願発明が製造する「有機電界発光素子」(電子デバイス)は,「少なくとも1種の有機半導体を含む発光層を有する」ものといえる。 また,「サンプル(1-1-3)又はサンプル(1-1-4)」(有機半導体)は,いずれも, で表される化合物であるから,フッ素が「サンプル(1-1-3)又はサンプル(1-1-4)」の化学構造の構成部分とはなっていない。 さらに,当該サンプル(1-1-3)の調整方法及びサンプル(1-1-4)の調整方法のいずれにおいても,「4,4’-ジブロモビフェニル」を用いているから,「4,4’-ジブロモビフェニル」(反応性ハロゲン)が「サンプル(1-1-3)又はサンプル(1-1-4)」(有機半導体)の調整に関与している。 したがって,先願発明と本願発明は,「少なくとも1種の有機半導体を含む発光層を有する電子デバイスであって, ただし,フッ素が有機半導体の化学構造の構成部分でなく, ただし,少なくとも1種の反応性ハロゲンは有機半導体の調製に関与したものである, 電子デバイスの製造方法」である点で共通する。 (ウ) 先願発明のサンプル(1-1-3)の調整方法及びサンプル(1-1-4)の調整方法における「不溶物をろ過し,得られたろ液を分液して有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後,ろ過し,得られたろ液の溶媒を減圧下留去して得られた反応混合物をカラムクロマトグラフィー,および再結晶により精製することで化合物(1-1)を白色結晶として得」るという工程bは,不純物等が混合したものの中から,目的物質である を取り出す処理であるから,本願発明の「b)a)からの前記有機半導体の任意の単離」と,「有機半導体を製造した後に有機半導体を単離する工程」である点で共通する。 また,先願発明のサンプル(1-1-3)の調整方法における工程c及びサンプル(1-1-4)の調整方法における工程dは,いずれも,化合物(1-1)から不純物を除去して純度を高める処理であるところ,当該処理によって,「サンプル(1-1-3)又はサンプル(1-1-4)」(有機半導体)中のハロゲンの含有量が低減することは明らかであるから,当該工程c及び工程dは,本願発明の「有機半導体中のハロゲンの含有量を低減させるような有機半導体の後処理」に相当する。 したがって,先願発明の「サンプル(1-1-3)又はサンプル(1-1-4)」と,本願発明の「有機半導体」は,「有機半導体を製造した後に有機半導体を単離する工程と,有機半導体中のハロゲンの含有量を低減させるような有機半導体の後処理とを含む方法により得られる」点で共通する。 (エ) 前記(ア)ないし(ウ)によれば,本願発明と先願発明とは, 「少なくとも1種の有機半導体を含む発光層を有する電子デバイスであって, ただし,フッ素が有機半導体の化学構造の構成部分でなく, ただし,少なくとも1種の反応性ハロゲンは有機半導体の調製に関与したものである,電子デバイスの製造方法であって, 前記有機半導体が,有機半導体を製造した後に有機半導体を単離する工程と,前記有機半導体中のハロゲンの含有量を低減させるような前記有機半導体の後処理とを含む方法により得られる, 製造方法。」 である点で一致し,次の点で一応相違する。 相違点1: 本願発明では,発光層を形成するための,「有機半導体」中のハロゲンであるフッ素,塩素,臭素,及びヨウ素の含有量が,それぞれ20ppm未満であるのに対して, 先願発明では,発光層を形成するための,「サンプル(1-1-3)又はサンプル(1-1-4)」中の臭素化合物Aの含有量(質量%)は検出限界以下であるものの,フッ素,塩素,及びヨウ素の含有量は定かでない点。 相違点2: 本願発明では,「有機半導体」が,「反応性ハロゲン」とのカップリング反応を用いて製造されたポリマーであって,前記ポリマーがポリ-p-アリーレンビニレン(PAV),ポリフルオレン(PF),ポリ-スピロ-ビフルオレン(PSF),ポリ-パラ-フェニレン(PPP)若しくはポリ-パラ-ビフェニレン,ポリジヒドロフェナントレン(PDHP),ポリ-トランス-インデノフルオレン若しくはポリ-シス-インデノフルオレン(PIF),ポリチオフェン(PT),ポリピリジン(PPy),ポリピロール,ポリフェナントレン,ポリビニルカルバゾール(PVK),トリアリールアミンポリマー,又はこれらのクラスの2つ以上からの構造単位を有するコポリマーを含むものであるのに対して, 先願発明では,「サンプル(1-1-3)又はサンプル(1-1-4)」は,本願発明のようなポリマーではない点。 イ 判断 相違点2について実質的な相違点といえるのか否かを検討すると,本願発明と先願発明とでは,発光層を形成するための有機半導体として,異なる物質を用いているのであって,本願発明で用いている物質を用いることが,先願の当初明細書に記載されてはおらず,かつ,記載されたも同然の事項であるということもできないから,相違点2は実質的な相違点である。 したがって,相違点1が実質的な相違点といえるのか否かを検討するまでもなく,本願発明と先願発明は同一発明ではない。 (4)請求項2ないし10に係る発明について 本願の請求項2ないし10は,請求項1の記載を引用する形式で記載されているところ,請求項1に係る発明が先願発明と同一発明でない以上,請求項1に記載された発明特定事項を全て含み,さらに限定を付加したものに相当する請求項2ないし10に係る発明は,いずれも先願発明と同一発明ではない。 (5)小括 前記(3)及び(4)のとおりであって,本願の請求項1ないし10に係る発明は,いずれも先願発明と同一発明ではないから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 第4 当審拒絶理由について 1 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由は,概略次のとおりである。 当審拒絶理由1: 有機半導体中のハロゲンであるフッ素,塩素,臭素,およびヨウ素の含有量が,それぞれ20ppm未満である,あらゆる有機半導体を含む本願の請求項1,3ないし9(平成28年6月1日提出の手続補正書による補正前の請求項1,3ないし9のことである。以下,「1 当審拒絶理由の概要」の欄中の請求項に付した番号についても同様。)に係る発明の範囲全体にまで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから,本願の請求項1,3ないし9に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。 したがって,本願は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 当審拒絶理由2: 「有機半導体中のハロゲンであるフッ素,塩素,臭素,およびヨウ素の含有量」が,発光層を形成する前の,原料としての有機半導体中の含有量を指しているのか,それとも形成後の発光層中に存在する有機半導体中の含有量を指しているのか,不明であるから,本願の請求項1ないし19に係る発明は明確でない。また,物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているから,本願の請求項2ないし8,10ないし19に係る発明は明確でない。さらに,「前記有機半導体が低分子量であり」との記載からは,具体的にどの程度の分子量まで「低分子量」に該当するのか明らかでないから,本願の請求項7に係る発明は明確でない。 したがって,本願は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 当審拒絶理由3: 本願の請求項1ないし5,9ないし19に係る発明は,引用刊行物に記載された発明であるから,特許第29条1項3号に該当し,特許を受けることができないか,下記引用刊行物に記載された発明に基いて,その出願(パリ条約による優先権主張の効果により,2004年10月1日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用刊行物:Addy van Dijken et al., "Carbazole Compounds as Host Materials for Triplet Emitters in Organic Light-Emitting Diodes: Polymer Hosts for High-Efficiency Light-Emitting Diodes", Journal of the American Chemical Society,米国, 2004年5月28日,VOL.126,NO.24, p.7718-7727 当審拒絶理由4: 本願の請求項1ないし4,7,9ないし18に係る発明は,その出願の日(パリ条約による優先権主張の効果により,2004年10月1日)前の特許出願であって,その出願後に出願公開がされた先願(原査定の拒絶の理由で引用された先願)の当初明細書等に記載された発明と同一であり,しかも,本願の発明者が先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本願の時において,その出願人が上記先願の出願人と同一でもないので,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができない。 当審拒絶理由5: 本願の請求項5及び6に係る発明は,同一出願人が同日(パリ条約による優先権主張の効果により,2004年10月1日)に出願した下記同日出願の請求項1ないし4及び5に係る発明とそれぞれ同一と認められるから,当審拒絶理由の通知書と同日に発送した特許庁長官名による別紙指令書に記載した届出がないときは特許法39条2項の規定により特許を受けることができない。 記 同日出願:特願2014-224714号 2 当審拒絶理由1及び2の判断 平成28年6月1日に提出された手続補正書による補正によって,本願の請求項1ないし10に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものとなり,かつ,明確となった。 したがって,当審拒絶理由1及び2は解消した。 3 当審拒絶理由3の判断 (1)引用刊行物の記載 引用刊行物は,本願の優先権主張の日より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用刊行物には,次の記載がある。(下線は,後述する引用刊行物発明の認定に特に関係する箇所を示す。) ア 「 」(7719ページ右欄40行ないし7720ページ左欄33行) [日本語訳] 「材料:ポリマー1-10の構築ブロックの合成については,他所に詳しく説明している。ポリマーの合成(TNO Industrial Technology)については,他所により詳しく発表しているが,以下簡単に説明する。0.5mmolのビスボロン酸エステル誘導体と0.5mmolのジブロモ誘導体の25mLのトルエン混合液を室温で完全に溶解するまで攪拌した。脱気後アルゴンでブランケティングしてから2mol%のテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)を加え,その後1.7mLの20wt%のテトラエチル水酸化アンモニウム水溶液を加えた。この混合液を20時間還流した。次に1.0mmolの4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロリルベンゼン(末端キャッピング剤)といくらかの新しい触媒を加え,更に16時間還流した。反応混合液を放置して室温まで冷却した。シアン化ナトリウム水溶液を使った洗浄を数回行って結晶残渣を取り除いた。その後有機層を乾燥・濃縮した。テトラヒドロフラン及びメタノールを使って沈殿させて複数の分画に分けてポリマーを単離した。収率:繊維の形のポリマーとして?70%。ポリマーの特徴を1H NMR,SEC,及びICP-MSを使って分析した。1H NMR:ポリマーの組成はモノマー供給比と同等であった:平均分子量40?50kg/mol,典型的には多分散度は3であった。ICP-MS:Br<15ppm,Pd<15ppm。 PLEDでは緑色発光繊維金属錯体facトリス[2-(2-ポリジニル-kN)(5-(3,4-ビス(2-メチルプロピルオキシ)フェニル)フェニル)-kC]-イリジウム(III)(Covion Organic Semiconductors GmbH)を三重項エミッタとして使用した。以下本論文においてはこの三重項エミッタをIr-SC4と呼ぶ。 ポリマー発光ダイオード:PLEDは,グローブボックス内が窒素雰囲気([O_(2)],[H_(2)O]<1ppm)にあるクリーンルーム環境下で,前洗浄しておいたインジウム‐酸化チタン(ITO)で被覆されたガラス基板を使って製造した。このITOをUV/O_(3)フォトリアクター内で処理し,残った粉塵粒子はイオン化窒素を使って吹き飛ばした。 装置の第一層としてポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ-(スチレンスルホナート)(PEDOT:PSS,水中分散比1:6,電子工業グレードAI4083,HC Starck)を使用した(100nm)。PEDOT:PSS層は180℃で2分間アニールした。ポリマーのクロロベンゼン液を5μmのフィルターを使ってろ過し,PEDOT:PSS層の最上部をBLE Delta 20 BMスピンコーティング装置を使ってスピンコーティングした。金属カソードはマスクを通した真空蒸着によって形成した。このカソードはAu又はBa/Al(5nmのBaに100nmAlをキャッピングした)からできている。」 イ 「 」(7722ページ左欄6ないし11行) [日本語訳] 「本論文に記したポリマーはエミッタそのものではなく,三重項エミッタのホストとして機能するように特別にデザインしたものである。三重項エミッタのようなドーパントの存在は装置の電子及び発光特性に大きく影響するはずである。ポリマーを試験するために緑色発光イリジウム錯体Ir-SC4を使用した。」 ウ 「Table1.・・・(中略)・・・ 」(7723ページ左欄) エ 「Table2.・・・(中略)・・・ 」(7724ページ左欄) オ 「Table3.・・・(中略)・・・ 」(7724ページ右欄) カ 「Table4.・・・(中略)・・・ 」(7725ページ左欄) キ 「 」(7726ページ右欄25ないし27行) [日本語訳] 「緑色発光三重項エミッタIr-SC4にとって十分高い三重項エネルギーを持つという要件を満たしているポリマーは1,3,4及び7だけである。」 (2)引用刊行物に記載された発明 引用刊行物に記載された,「PEDOT:PSS層上に,「ポリマーのクロロベンゼン液」をスピンコーティングする(前記(1)ア)ことにより形成する層が発光層であることは,当業者に自明であり,表1ないし表4(前記(1)ウ)の最も左の列に記された番号が,ポリマー1ないし10に対応しており,ポリマー1ないし10の構造式が,それぞれに対応する行中の「Structure」の欄に示されたものであることが当業者に自明であるから,前記(1)アないしキの記載から,引用刊行物に次の発明が記載されていると認められる。 「窒素雰囲気([O_(2)],[H_(2)O]<1ppm)にあるクリーンルーム環境下で,ITOで被覆されたガラス基板上に,PEDOT:PSSを用いて100nmのPEDOT:PSS層を形成し,当該PEDOT:PSS層の上に,5μmのフィルターを使ってろ過したポリマーのクロロベンゼン液を,スピンコーティングして発光層を形成し,当該発光層上に,マスクを通した真空蒸着によって金属カソードを形成することによって,ポリマー発光ダイオードを製造する方法であって, 前記発光層の形成に用いるポリマーのクロロベンゼン液は,下記ポリマー1,3,4及び7のいずれかをホストとし,緑色発光イリジウム錯体Ir-SC4をドーパントとして使用したクロロベンゼン液であり, 前記ポリマー1,3,4及び7は,下記構造式で表されるポリマーであり,ICP-MSにより測定した臭素の含有量が15ppm未満であり,かつ,下記方法により合成されたものである, ポリマー発光ダイオードを製造する方法。 【ポリマー1,3,4及び7の構造式】 (ポリマー1) (ポリマー3) (ポリマー4) (ポリマー7) 【ポリマー1,3,4及び7の合成方法】 0.5mmolのビスボロン酸エステル誘導体と0.5mmolのジブロモ誘導体の25mLのトルエン混合液を室温で完全に溶解するまで攪拌した。脱気後アルゴンでブランケティングしてから2mol%のテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)を加え,その後1.7mLの20wt%のテトラエチル水酸化アンモニウム水溶液を加え,この混合液を20時間還流し,次に1.0mmolの4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロリルベンゼン(末端キャッピング剤)といくらかの新しい触媒を加え,更に16時間還流し,反応混合液を放置して室温まで冷却し, シアン化ナトリウム水溶液を使った洗浄を数回行って結晶残渣を取り除いた後,有機層を乾燥・濃縮し,テトラヒドロフラン及びメタノールを使って沈殿させて複数の分画に分けてポリマーを単離する。」(以下,「引用刊行物発明」という。) (3)本願発明について ア 対比 (ア) 引用刊行物発明の「ポリマー1,3,4及び7」,「ポリマー発光ダイオード」,「ポリマー発光ダイオードを製造する方法」及び「ジブロモ誘導体」は,本願発明の「有機半導体」,「電子デバイス」,「電子デバイスの製造方法」及び「反応性ハロゲン」にそれぞれ相当する。 (イ) 引用刊行物発明において,「発光層」(本願発明の「発光層」に相当する。以下,「(3)対比」の欄において,引用刊行物発明の構成に付されたカッコ内の記載は,当該構成に相当する本願発明の構成を示す。)は,「ポリマー1,3,4及び7」(有機半導体)を含有しているから,引用刊行物発明が製造する「ポリマー発光ダイオード」(電子デバイス)は,「少なくとも1種の有機半導体を含む発光層を有する」ものといえる。 また,「ポリマー1,3,4及び7」(有機半導体)は,いずれも,ICP-MSにより測定した臭素の含有量が15ppm未満であるから,本願発明の「20ppm未満」という臭素の含有量の条件を満足している。 また,「ポリマー1,3,4及び7」(有機半導体)は,いずれも,フッ素が化学構造の構成部分とはなっていない。 さらに,ポリマー1,3,4及び7の合成方法においては,「ジブロモ誘導体」を用いているから,「ジブロモ誘導体」(反応性ハロゲン)が「ポリマー1,3,4及び7」(有機半導体)の調整に関与している。 したがって,引用刊行物発明と本願発明は,「少なくとも1種の有機半導体を含む発光層を有する電子デバイスであって,有機半導体中のハロゲンである臭素の含有量が20ppm未満であり, ただし,フッ素が有機半導体の化学構造の構成部分でなく, ただし,少なくとも1種の反応性ハロゲンは有機半導体の調製に関与したものである, 電子デバイスの製造方法」である点で共通する。 (ウ) 引用刊行物発明の「ポリマー1,3,4及び7」と,本願発明の「有機半導体」は,ポリマーである点で一致する。 (エ) 引用刊行物発明のポリマー1,3,4及び7の合成方法における「シアン化ナトリウム水溶液を使った洗浄を数回行って結晶残渣を取り除いた後,有機層を乾燥・濃縮し,テトラヒドロフランおよいメタノールを使って沈殿させて複数の分画に分けてポリマーを単離する」るという工程は,不純物等が混合したものの中から,目的物質であるポリマー1,3,4及び7を単離する処理であるから,引用刊行物発明の「ポリマー1,3,4及び7」と,本願発明の「有機半導体」は,「有機半導体を製造した後に有機半導体を単離する工程を含む方法により得られる」点で共通する。 (オ) 前記(ア)ないし(エ)によれば,本願発明と引用刊行物発明とは, 「少なくとも1種の有機半導体を含む発光層を有する電子デバイスであって,前記発光層を形成するための,有機半導体中のハロゲンである臭素の含有量が20ppm未満であり, ただし,フッ素が有機半導体の化学構造の構成部分でなく, ただし,少なくとも1種の反応性ハロゲンは有機半導体の調製に関与したものであり, 前記有機半導体がポリマーである,電子デバイスの製造方法であって, 前記有機半導体が,有機半導体を製造した後に有機半導体を単離する工程を含む方法により得られる, 製造方法。」 である点で一致し,次の点で一応相違する。 相違点1: 本願発明では,発光層を形成するための,「有機半導体」中のハロゲンであるフッ素,塩素,及びヨウ素の含有量が,それぞれ20ppm未満であるのに対して, 引用刊行物発明では,発光層を形成するための,「ポリマー1,3,4及び7」中のフッ素,塩素,及びヨウ素の含有量は定かでない点。 相違点2: 本願発明では,「有機半導体」が,「反応性ハロゲン」とのカップリング反応を用いて製造された,ポリ-p-アリーレンビニレン(PAV),ポリフルオレン(PF),ポリ-スピロ-ビフルオレン(PSF),ポリ-パラ-フェニレン(PPP)若しくはポリ-パラ-ビフェニレン,ポリジヒドロフェナントレン(PDHP),ポリ-トランス-インデノフルオレン若しくはポリ-シス-インデノフルオレン(PIF),ポリチオフェン(PT),ポリピリジン(PPy),ポリピロール,ポリフェナントレン,ポリビニルカルバゾール(PVK),トリアリールアミンポリマー,又はこれらのクラスの2つ以上からの構造単位を有するコポリマーを含むものであるのに対して, 引用刊行物発明では,「ポリマー1,3,4及び7」が,本願発明のようなポリマーではない点。 相違点3: 本願発明では,ハロゲンの含有量を低減させるような後処理を行うことにより得られる「有機半導体」を用いるのに対して, 引用刊行物発明で用いている「ポリマー1,3,4及び7」は,本願発明のような後処理を行うことにより得られたものでない点。 イ 判断 まず,相違点2について,検討する。 (ア) 引用刊行物には,緑色発光イリジウム錯体Ir-SC4をドーパントとして使用した場合に,十分高い三重項エネルギーを持つという要件を満たすポリマーが,ポリマー1,3,4及び7だけであることが記載されている(前記(1)キ)。 そうすると,相違点2は実質的な相違点であるから,相違点1及び3が実質的な相違点といえるのか否かを検討するまでもなく,引用刊行物発明は本願発明と同一発明とはいえなくなった。 (イ) また,引用刊行物において,ポリマー1,3,4及び7よりも三重項エネルギーが低いとはされているものの,ホストとして使用したことが記載されている他のポリマー2,5,6,8ないし10についても,相違点2に係る本願発明の発明特定事項におけるポリマー材料のいずれかに該当するものはない。 そして,相違点2に係る本願発明の発明特定事項におけるポリマー材料のいずれかが,ポリマー1,3,4及び7と比較して,緑色発光イリジウム錯体Ir-SC4をドーパントとしたときのホストとして,同等かそれ以上に高い三重項エネルギーを持っていることが,本願の優先権主張の日より前に当業者に知られていたことを示す証拠は見当たらない。 そうすると,引用刊行物発明において,ポリマー1,3,4及び7に代えて,相違点2に係る本願発明の発明特定事項におけるポリマー材料のいずれかを採用することは,例え当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。 したがって,相違点1及び3について検討するまでもなく,本願発明は,引用刊行物発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものともいえなくなった。 (4)請求項2ないし10に係る発明の容易想到性の判断 本願の請求項2ないし10は,請求項1の記載を引用する形式で記載されているところ,請求項1に係る発明が,本願発明と同一発明とはいえなくなり,かつ,引用刊行物発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものともいえなくなった上,請求項1に記載された発明特定事項を全て含み,さらに限定を付加したものに相当する請求項2ないし10に係る発明は,いずれも,引用刊行物発明と同一発明とはいえなくなり,かつ,引用刊行物発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものともいえなくなった。 (5)小括 以上のとおりであるから,当審拒絶理由3によって本願を拒絶することはできない。 4 当審拒絶理由4の判断 前記第3で述べたのと同様の理由で,本願の請求項1ないし10に係る発明は,いずれも先願発明と同一発明とはいえなくなったから,当審拒絶理由4は解消した。 5 当審拒絶理由5の判断 同日出願は,平成28年2月10日に出願取下書が提出されたことにより,特許法39条5項の規定により,初めからなかったものとみなされる。 したがって,当審拒絶理由5は解消した。 第5 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-07-04 |
出願番号 | 特願2007-533903(P2007-533903) |
審決分類 |
P
1
8・
16-
WY
(H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L) P 1 8・ 537- WY (H01L) P 1 8・ 113- WY (H01L) P 1 8・ 5- WY (H01L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 塩谷 領大 |
特許庁審判長 |
鉄 豊郎 |
特許庁審判官 |
藤原 敬士 清水 康司 |
発明の名称 | 有機半導体を含む電子デバイス |
代理人 | 砂川 克 |
代理人 | 野河 信久 |
代理人 | 峰 隆司 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 佐藤 立志 |
代理人 | 岡田 貴志 |
代理人 | 河野 直樹 |
代理人 | 堀内 美保子 |