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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07K
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1316431
審判番号 不服2014-19316  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-26 
確定日 2016-06-22 
事件の表示 特願2011-157200「血管形成及び腫瘍増殖阻害用ポリペプチド化合物及びその応用」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月22日出願公開、特開2011-256179〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2004年(平成16年)3月12日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年3月12日 米国2件)とする特願2006-507160号の一部を、特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願としたものであって、平成26年5月21日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年9月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年9月26日付の手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
平成26年9月26日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)により、請求項1は補正前の、
「【請求項1】
EphB4蛋白質の細胞外領域のアミノ酸配列を含有する単離された可溶性ポリペプチドであり、該可溶性ポリペプチドは単量体であり、融合蛋白質であり、EphB4及びエフリンB2間の相互作用の結果生じるシグナルを阻害する可溶性ポリペプチド。」から、
「【請求項1】
配列番号395により特定されるEphB4蛋白質の細胞外領域のアミノ酸配列の残基1?522、残基1?412及び残基1?312から選択される配列を含有する単離された可溶性ポリペプチドであり、該可溶性ポリペプチドは単量体であり、融合蛋白質であり、EphB4及びエフリンB2間の相互作用の結果生じるシグナルを阻害する可溶性ポリペプチド。」(下線部は、補正箇所を表す。)へと補正された。

2.補正の適否
上記補正後の請求項1は、補正前の「EphB4蛋白質の細胞外領域のアミノ酸配列」を「配列番号395により特定されるEphB4蛋白質の細胞外領域のアミノ酸配列の残基1?522、残基1?412及び残基1?312から選択される配列」に特定するものであって、補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用例1として引用された、本願優先日前の2002年4月4日に頒布された刊行物である、国際公開第02/26827号(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。また、下線は当審にて付与した。)

ア.「1.EphB受容体の細胞外領域のアミノ酸配列、またはそれに本質的に類似したアミノ酸配列を含む単離された可溶性ポリペプチドであって、該単離された可溶性ポリペプチドは、哺乳類エフリンBリガンドと高親和性で結合することができるポリペプチド。
2.EphB4受容体の細胞外領域のアミノ酸配列、またはそれに本質的に類似したアミノ酸配列を含む請求項1に記載のポリペプチドであって、該ポリペプチドは、哺乳類エフリンBリガンドと高親和性で結合することができるポリペプチド。
3.配列番号2又は配列番号4、あるいは、それに本質的に類似したアミノ酸配列を含む請求項1に記載のポリペプチドであって、該ポリペプチドは、哺乳類エフリンBリガンドと高親和性で結合することができるポリペプチド。
・・・
8.請求項1?6いずれかに記載のポリペプチドの、ヒトを含む哺乳類の癌疾患の治療のための薬学的組成物の製造における使用。
9.請求項1?6いずれかに記載のポリペプチドの、ヒトを含む哺乳類の眼の血管新生の治療のための薬学的組成物の製造における使用。
・・・」(29?30ページ、特許請求の範囲)
イ.「遺伝子実験により、胚における血管形成に、EphB受容体とエフリンBリガンドが関与しているという証拠が供された。エフリンB2領域のホモ破壊をすると、毛細血管系の動脈と静脈の乱れた構造が観察された[Wang et al.,Cell 93,741-753(1998)] 。・・・EphB4遺伝子の標的不活性化は、上述した胎児の血管形成における異常と同様に、エフリンB2と類似した致死の表現型も示す [Gerety et al.,Molecular Cell 4,403-414(1999)] 。」(2ページ11?23行)
ウ.「v)特に好ましい発明の実施例は、それぞれ、マウス及びヒトのEphB4の細胞外領域を意味する、配列番号2[SwissProtデータベース アクセッション番号P54761のアミノ酸(aa)1-539]又は配列番号4[SwissProtデータベース アクセッション番号P54760のアミノ酸(aa)1-539]のアミノ酸配列、若しくは、配列番号2または配列番号4とそれぞれ本質的に類似したアミノ酸配列を含むを含む単離された可溶性ポリペプチドであって、該単離された可溶性ポリペプチドは哺乳類エフリンBリガンドと高親和性で結合することができるポリペプチドに関する。」(4ページ18?24行)
エ.「実施例1:腫瘍細胞における、マウスEphB4(マウスs-EphB4)またはエフリンB2(マウスs-エフリンB2)の細胞外ドメインの発現により、腫瘍血管形成及び腫瘍増殖を阻害
・・・
マウスs-EphB4またはエフリンB2を構成的に分泌する腫瘍細胞(A375)が注入された動物は、空のベクターでトランスフェクトされたコントロールの細胞が注入された動物と比較してかなり小さな腫瘍を形成する(図1)。A375腫瘍細胞により形成され、s-EphB4またはs-エフリンB2のいずれかを構成的に分泌する腫瘍は、コントロールの腫瘍と比較して血管構造が破壊していた。」(18ページ3行?19ページ18行)
オ.「組換え精製されたsEphB4ポリペプチド又はs-エフリンB2ポリペプチドを注入された、A375腫瘍を保有する免疫抑制マウスは、同様の体積のHBSSが与えられたコントロールの動物と比較して破壊された血管構造を有するかなり小さな腫瘍を形成した。」(21ページ6?9行)
カ.「s-EphB4による、EphB4-エフリンB2結合の阻害:
・・・表1に示されるように、未処理S8細胞とヌルベクターで形質導入されたS8細胞由来の馴化培地は、EphB4のエフリンB2との結合を実際に強化している。これに対して、Av3Cshs-EphB4が形質導入されたS8から調製された馴化培地は、容量依存的に十分にその結合を阻害している。これらの結果はこの遺伝子治療ベクターが、EphB4受容体の細胞外ドメインの発現を誘導することができ、EphB4とその関連するパートナーとの相互作用を阻害できることを示している。」(26ページ3?14行)

上記記載事項ア.、ウ.?カ.によれば、引用例には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「配列番号4のアミノ酸配列であるEphB4受容体の細胞外領域のアミノ酸配列を含む可溶性ポリペプチドであり、EphB4及びエフリンB2間の相互作用を阻害し、腫瘍増殖や血管形成を抑制する可溶性ポリペプチド。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の配列番号4は、上記記載事項ウ.によれば、ヒトのEphB4の細胞外領域のアミノ酸1-539である。これに対し、本願の配列番号395は、本願明細書の段落【0045】及び【図65】よれば、ヒトEphB4の全長のアミノ酸配列1-987であり、引用発明の配列番号4のアミノ酸配列と1-539において、完全に一致している。よって、引用発明の「配列番号4のアミノ酸配列」は、本願補正発明の「配列番号395により特定されるEphB4蛋白質の細胞外領域のアミノ酸配列の残基1?522、残基1?412、残基1?312から選択される配列を含有する」アミノ酸配列である。
そうすると、両者は、「配列番号395により特定されるEphB4蛋白質の細胞外領域のアミノ酸配列の残基1?522、残基1?412、残基1?312から選択される配列を含有する単離された可溶性ポリペプチド」である点で共通しており、以下の点で相違している。

(相違点1)本願補正発明は、さらに「単量体であり、融合蛋白質」であることが特定されているのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。
(相違点2)本願補正発明は、「EphB4及びエフリンB2間の相互作用の結果生じるシグナルを阻害する」と特定されているのに対し、引用発明は、「EphB4及びエフリンB2間の相互作用を阻害し、腫瘍増殖や血管形成を抑制する」と特定されている点。

(3)当審の判断
まず、相違点1について検討する。
引用発明の「EphB4受容体の細胞外領域のアミノ酸配列を含む可溶性ポリペプチド」は、多量体を形成するようなドメインを特に有しておらず、通常、単量体であることは、技術的に明らかである(要すれば、EphB4の細胞外領域のドメイン構造について開示されたNature,1998, Vol.396, p.486-491を参照)。
また、あるポリペプチドにおいて、該ポリペプチドを精製する際の利便性、検出の容易性、半減期の延長等を目的として、それぞれ目的に応じたペプチドを融合することは、本願優先日当時における当業者の周知慣用技術であり、その際に、もとのポリペプチドの活性や性質を維持したものとすることは常套手段であるから、引用発明のポリペプチドを、単量体であり、融合タンパク質であるものとすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。

次に、相違点2について検討する。
上記記載事項イ.によれば、EphB4とエフリンB2の相互作用は、その結果、血管発生を誘導するものであるに対し、上記記載事項ア.の請求項9、及び、上記記載事項エ.、オ.、カ.によれば、引用発明は、EphB4及びエフリンB2間の相互作用を阻害し、血管形成を阻害するものであることから、引用発明のポリペプチドが、「EphB4とエフリンB2間の相互作用の結果生じるシグナルを阻害する」結果、血管形成を阻害するものであると推認できる。
さらに、本願明細書の段落【0011】?【0014】及び実施例2の記載を参酌すれば、本願補正発明のEphB4及びエフリンB2間の相互作用の結果生じるシグナルを阻害する可溶性ポリペプチドとして、腫瘍増殖や血管形成を阻害する作用を有するものが記載されており、引用発明において特定される作用と同様であることからも、引用発明における「EphB4及びエフリンB2間の相互作用を阻害し、腫瘍増殖や血管形成を抑制する」と、本願補正発明における「EphB4及びエフリンB2間の相互作用の結果生じるシグナルを阻害する」とが実質的に相違しないことは明らかであるといえる。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点とはいえない。

また、本願補正発明の効果についても、引用例の記載、及び、周知技術から当業者が予測できない程の格別なものとはいえない。

(4)審判請求人の主張
審判請求人は、審判請求書において、以下の点について主張している。
(1)引例には本願の請求項1の特定のEphB4蛋白質の細胞外領域のアミノ酸配列を含有する可溶性ポリペプチドを誘導させる示唆はなく、当業者はEphB4の細胞外領域のアミノ酸配列の断片であれば如何なる断片であっても生物活性(例えば、EphB4及びエフリンB2間の相互作用の結果生じるシグナルを阻害することや、エフリンB2への結合能力を保持するということ)を有するとまで期待することはできないところ、そのような示唆がない中で、本願の請求項1で特定する可溶性ポリペプチドを見出すのは容易ではない。
(2)本発明が創作された当時、EphB4の細胞外領域を有する構築物は、状況次第でアゴニスト的又はアンタゴニスト的効果を奏するという複合活性をもつ多量体の形態にもなり得ると考えられており(本願明細書段落0006)、他の文献においても単量体のEphB4融合蛋白質が純粋にアンタゴニストとして働くことは記載されていない。一方、補足資料として提出した、可溶性EphB4-HSA融合蛋白質はモノマーでありエフリンB2のリン酸化を阻害したが、EphB4-Fc融合蛋白質は多量体であり、EphB4及びエフリンB2間の相互作用の結果生じるシグナルを阻害することはできなかったことを示す実験データに基づけば、本願の請求項1で特定する可溶性ポリペプチドは顕著な効果を奏するものである。

まず、主張(1)について検討する。
上記第2 2.(2)において述べたとおり、本件補正発明は、「配列番号395により特定されるEphB4蛋白質の細胞外領域のアミノ酸配列の残基1?522、残基1?412、残基1?312から選択される配列を含有する単離された可溶性ポリペプチド」であり、特定の断片からなるものではない上記主張は、本願補正発明に基づかない主張である。

次に、主張(2)について検討する。
Fcを融合すると多量体を形成し、アンタゴニスト活性を損なうという事実は、Fcのような多量体を形成する特殊なものを融合パートナーとした場合に、アンタゴニスト活性を損なう場合があることを示しているに過ぎないから、引用例に、EphB4受容体の細胞外領域のアミノ酸配列を含む可溶性ポリペプチドが、単量体の状態で、アンタゴニスト活性を有することが示されている以上、融合タンパク質とした場合に、同様に単量体の状態でアンタゴニスト活性を有するものであったということは、当業者が予測し得る効果に過ぎないといえる。

したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。

(5)むすび
以上検討したところによれば、本願補正発明は、引用例に記載された発明及び本願優先日当時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成26年9月26日付手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?27に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1?27に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1.に補正前として記載したとおりのものである。
そして、本願発明は本願補正発明を包含するものであることが明らかであり、本願補正発明は、上記第2 2.で述べたとおり、引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-25 
結審通知日 2016-01-26 
審決日 2016-02-08 
出願番号 特願2011-157200(P2011-157200)
審決分類 P 1 8・ 56- Z (C07K)
P 1 8・ 575- Z (C07K)
P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 茜  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 飯室 里美
中島 庸子
発明の名称 血管形成及び腫瘍増殖阻害用ポリペプチド化合物及びその応用  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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