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審決分類 審判 全部無効 特29条特許要件(新規)  A23L
審判 全部無効 2項進歩性  A23L
管理番号 1316550
審判番号 無効2015-800187  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-10-02 
確定日 2016-06-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第5363674号発明「青汁用の飲食用組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件無効審判の請求に係る特許第5363674号(以下「本件特許」という。)の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成25年 5月29日 本件特許出願
平成25年 9月13日 設定登録
平成27年10月 2日 審判請求書
平成27年12月18日 審判事件答弁書
平成28年 2月15日 審理事項通知書
平成28年 4月 4日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成28年 4月 5日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成28年 4月19日 口頭審理

第2 請求人の主張
請求人は、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として甲第1号証?甲第12号証(以下、証拠について、それぞれ「甲1」などという。)を提出し、次の無効理由を主張する。

1 無効理由1
本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、特許法で規定する「発明」の要件である「創作性」を備えておらず、「発明」とはいえないものであるから、特許法第29条第1項柱書きの規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

2 無効理由2
本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、甲2に係るウェブページに掲載された発明及び甲3?甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(証拠方法)
甲1:吉藤幸朔、「特許法概説」、第8版、株式会社有斐閣、昭和63年5月20日、62?63頁
甲2:くすりの和漢堂のホームページ出力物、「大麦若葉の青汁・麦緑素PG こだわりの国産大麦若葉・赤神力」のページ、2008年1月23日更新、<URL:http://www.wakando.jp/info/pg-sozai.htm>
甲3:国分牧衛、「食用作物」、株式会社養賢堂、2010年8月10日、191?201頁
甲4:2007年7月15日付け「ヘルスライフビジネス」の「国産有機JAS大麦若葉、桑葉、明日葉の受託製造」と題する記事
甲5:1998年5月21日付け「健康産業新聞」の広告欄(プリセプト株式会社)
甲6の1:1999年6月17日付け「健康産業新聞」の広告欄(日本薬品開発株式会社)
甲6の2:1999年6月17日付け「健康産業新聞」の広告欄(株式会社東洋新薬)
甲6の3:1999年6月17日付け「健康産業新聞」の広告欄(プリセプト株式会社、(有)ネットリサーチ)
甲7:平成23年5月25日付け「北海道新聞」夕刊の「マーケットビジネス」の欄
甲8:平成24年5月10日付け「熊本日日新聞」の「青汁原料を契約栽培」と題する記事
甲9:特開2012-239403号公報
甲10:特開2003-334046号公報
甲11:特開平11-332530号公報
甲12:本件特許公報
なお、甲1?甲12の成立につき、当事者間に争いはない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として乙1?乙14を提出し、無効理由がいずれも成り立たないと主張する。
(証拠方法)
乙1:特許・実用新案審査基準(第III部第1章 発明該当性及び産業上の利用可能性(特許法第29条第1項柱書))
乙2:竹田和彦、「特許の知識」、第8版、ダイヤモンド社、2006年3月9日、61頁
乙3:東京高裁平成2年2月13日判決 昭和63年(行ケ)第133号
乙4の1:独立行政法人農業生物資源研究所が管理する「農業生物資源ジーンバンク」「植物遺伝資源の検索(特性)」のサイトにおいて「大麦(6条)」を検索した結果を示す画面の印字物、2015年12月7日検索、<URL:https://www.gene.affrc.go.jp/databases-plant_search_char.php?type=3>
乙4の2:乙4の1の1頁目に示す画面における「特性評価データ一覧」のボタンを押すことによりダウンロードされるエクセルフィル「特性評価データ一覧」の印字物の一部
乙5:上記「農業生物資源ジーンバンク」の「植物遺伝資源の検索(特性)」のサイトにおいて「大麦(2条)」を検索した結果を示す画面の印字物、2015年12月7日検索、<URL:https://www.gene.affrc.go.jp/databases-plant_search_char.php?type=3>
乙6:米国農務省管轄下の遺伝資源データベース「Germplasm Resources Information Network」における大麦の学名「Hordeum vulgare」の検索結果を示す画面の印字物の一部、2015年12月8日検索、<URL:https://npgsweb.ars-grin.gov/gringlobal/view2.aspx?dv=web_taxonomyspecies_view_accessionlist¶ms=:taxonomyid=19333>、その和訳及び検索方法の説明
乙7の1:特許第3462839号公報
乙7の2:特許第3477473号公報
乙7の3:特許第5279163号公報
乙7の4:特許第4421684号公報
乙7の5:特許第4084726号公報
乙7の6:特許第5419259号公報
乙7の7:特許第5566733号公報
乙7の8:特許第5783784号公報
乙8:工業所有権法(産業財産権法)逐条解説、第19版、一般社団法人発明推進協会、2012年12月25日、12?15頁
乙9:東京地裁平成26年9月25日判決 平成25年(ワ)第25813号
乙10の1:特許第5225285号公報
乙10の2:特許第5311699号公報
乙10の3:特許第5498154号公報
乙10の4:特許第5620647号公報
乙10の5:特許第5639758号公報
乙10の6:特許第5655901号公報
乙11:酒類総合研究所情報誌、独立行政法人酒類総合研究所、平成21年2月17日、第13号、1?8頁
乙12:小柳敦史 外1、作物栽培大系3「麦類の栽培と利用」、初版第1刷、日本作物学会「作物栽培大系」編集委員会監修、株式会社朝倉書店、2011年9月5日、130?137頁
乙13:農林水産省、消費者の部屋、消費者相談の一サイトの画面の印刷物、2015年12月11日検索、<URL:http://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1109/a01.html>
乙14:吉田行郷、「主産地毎にみた国内産大麦・はだか麦に対する需要の変化と需要拡大に向けた新たな動き」、農林水産政策研究所、2015年1月20日、4頁、<URL:http://www.maff.go.jp/primaff/meeting/kaisai/2014/pdf/20150120.pdf>
なお、乙1?乙14の成立につき、当事者間に争いはない。

第4 本件特許
本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」といい、総称して「本件発明」いう。)は、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(甲12)。
「【請求項1】
6条大麦の葉を用いた青汁用の飲食用組成物であって、
6条大麦として、倍取、シルキースノウ、サヌキハダカ、ダイシモチ及びイチバンボシのうちの少なくとも1つの品種を用いた青汁用の飲食用組成物。
【請求項2】
粉末状である請求項1に記載の青汁用の飲食用組成物。」

第5 当審の判断
1 無効理由1について
(1)ア 特許法第29条第1項柱書きは、産業上利用することができる発明をした者がその発明について特許を受けることができることを規定しているところ、特許法における「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されている(同法第2条第1項)。すなわち、「発明」は、創作されたものでなければならないから、発明者が目的を意識して創作していない天然物、自然現象等の単なる発見は、「発明」に該当せず、特許が付与されない(乙1)。
イ 本件発明は、「倍取、シルキースノウ、サヌキハダカ、ダイシモチ及びイチバンボシのうちの少なくとも1つの品種」の6条大麦の葉を用いて、「青汁用の飲食用組成物」を作り出したものであるから、天然物、自然現象そのものではない。
そして、本件発明は、「倍取、シルキースノウ、サヌキハダカ、ダイシモチ及びイチバンボシのうちの少なくとも1つの品種」の6条大麦の葉の優れた飲食性を見出し、新たに「青汁用の飲食用組成物」に用いたものであるから、技術的思想の創作といえる。所定の効果を発揮していることに照らしても(甲12)、作り出すことが自明の事柄とまでは認められない。
このように、本件発明は、従来存在していないものを新たに作り出したものと認められるのであるから、単なる発見ではなく「発明」に該当する。
(2)ア この点に関し、請求人は、概ね、次のように主張している。すなわち、
(ア) (a)6条大麦は普通「大麦」と呼ばれていること、(b)6条大麦には多数の品種があることが知られていること、(c)6条大麦を使用して青汁用の飲食用組成物とすることは公知であり(甲2、4?11)、(d)特定品種の6条大麦若葉を乾燥粉末化する工程は、単に従来の製造工程を使用したに過ぎず、得られた6条大麦若葉粉末の効果も自明の域を脱していないこと等から判断すると、本件発明は、特に6条大麦若葉の「赤神力」という品種の青汁用の飲食用組成物と性状は同一で、単に視覚及び味覚による評価が優れているだけで、その評価を導き出すために何ら新規な技術手段を用いていないから、そこに「創作」はなく、「赤神力」以外の6条大麦若葉の効果の単なる「発見」というべきであって、特許法第29条第1項柱書きの「発明」とはいえない。
(イ) 多数の品種が存在する6条大麦の中から、当該5種類の6条大麦を選択した経緯、理由及び根拠が本件明細書には開示されていない。「色鮮やかであるため見た目が美しく、且つ風味が良好で嗜好性の高い青汁用の飲食用組成物」を得るために、如何なる手段・方法などを講じたかについての開示もない。単にたまたま出願時に取得できた5種類の6条大麦を、公知の方法を用いて粉末化し官能評価したところ、「赤神力」より良い結果が得られたと恣意的に判断したに過ぎない。本件明細書には「・・・鋭意研究した・・・」(【0008】)点に対応する記載はない。「創作」の要件は備えておらず、「発明」とはいえない。
イ しかし、大麦若葉を青汁用の飲食用組成物の原料とすることが広く知られ(甲4?8)、6条大麦を使用して青汁用の飲食用組成物とすることが公知であって(甲2、9?11)、その性状が類するとしても、当該特定の品種の6条大麦を新たに青汁用の飲食用組成物として用いる点に、上述したように一定の創作性が認められる。赤神力や2条大麦との対比で所定の効果を発揮したとされており(甲12)、本件発明は、単なる「発見」ではない。
そして、本件明細書には、当該5種類の特定の品種の6条大麦を選択し、比較例とともに官能評価を行った結果が開示されており、課題を解決するための手段・方法が開示されているといえる(甲12)。その意味で、本件明細書には鋭意研究した点の開示があり、本件発明の創作性を判断するにあたって、それ以上に、選択した経緯等を記載しなければならない理由も特段ない。また、その評価に特段恣意的なところも認められない。
(3) 以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条第1項柱書きの「発明」に該当する。
したがって、無効理由1は理由がない。

2 無効理由2について
(1) 甲2?11の内容
ア 甲2に係るウェブページに掲載された事項
(ア) 甲2に係るウェブページには、図面とともに、次の事項が掲載されている。
a 「大麦若葉の青汁・麦緑素PG
こだわりの国産大麦若葉・赤神力
【農薬不使用】」
b 「こだわりの大麦若葉赤神力R(原文は丸付きのR。以下同様)からつくられる究極の青汁」
c 「大麦とはイネ科の代表的な穀物で古くから食用の他、味噌、麦茶、ビール等の原料として親しまれています。穂の形状から6条大麦、2条大麦などに分けられ、日本では一般的に6条大麦のことを大麦と呼ぶことが多いようです。
又近年では大麦の穂より、栄養素や有用成分を多く含む若葉の方が注目され、ケールとともに代表的な青汁素材として定着しています。
大麦若葉には、他の青汁素材と比べてビタミン・ミネラル・フラノボイド・酵素等が豊富に含まれています。
しかしこの栄養素や有用成分は大麦若葉特有の硬い繊維質に囲まれているため、そのまま食しても私たち人間には消化吸収することが出来ません。
大麦若葉から青汁を搾(しぼり)出すことによって初めて、私たち人間に必要な栄養素や有用成分を体内で効率よく吸収できるようになります。
中でも安心・安全のこだわり素材から作られた大麦若葉エキス・麦緑素PGは抹茶にも似た風味でとても飲みやすく、現代人のアンバランスな食生活をサポートしてくれる究極の青汁製品です。
又大麦若葉エキス・麦緑素にも等級があり、一番刈り・二番刈り・繊維質の配合でその等級が決まります。
大麦若葉エキス・麦緑素PGは厳選した大麦若葉の新芽の部位(一番刈り)だけを原料にしたもので、大麦若葉エキスの最高峰の位置づけになります。」
d 「青汁づくりの基本は素材にあり。
素材選びは青汁製品づくりの中で最も重要なポイントです。同じ大麦若葉でも、素材の差が製品の色・味・品質の差として出てきます。
今回は大麦若葉エキス・麦緑素PGの素材・赤神力(あかしんりき)にスポットを当ててご紹介いたします。」
e 「自然が生んだ究極の青汁素材・赤神力(あかしんりき)
赤神力は究極の青汁づくりのために選ばれた6条大麦の一種で、純系淘汰(優れた品種だけを選んで継承すること)を経て育成されてきました。現在では大麦若葉・麦緑素の契約農家でしか栽培されていない希少価値の高い品種です。
昭和44年に国内で初めて大麦若葉の青汁(麦緑素)が製造販売された段階で、大麦若葉素材の選択基準となったのは、穂を収穫することが目的ではなく、青汁素材として優れているかという点でした。
当時の大麦は、基本的に穂を収穫することを目的として品種改良を繰り返してきました。そのため大麦若葉が倒れにくいように背丈を低く、穂に栄養成分が行き届くように、葉の部分が少なく・小さな品種に改良されたものが大半を占めていたのです。
その中で赤神力は大麦の原種に近い品種で、背丈が高く・葉が大きく・幅広・肉厚で柔らかいという、青汁素材としては最適の素材(若葉)を持っていました。
ビタミン・ミネラル・フラボノイド・酵素などをバランスよく含んだ青汁成分も豊富で、高品質な青汁づくりのためには最適の品質でした。
この赤神力を農薬不使用(無農薬)栽培の元、独自の製法(活性保存製法)で青汁を活性のまま粉末化した青汁エキスが麦緑素PGなのです。又トレーサビリティ(生産段階から最終消費段階まで追跡が可能な状態)の確立した生産体制によって安心してお召上がりできます。」
f 「原種に近い赤神力Rは背丈が高く葉の部分が大きい」
g 「風光明媚な周防灘に面した大分県北部は、緑豊かな平野、山々に囲まれ、清らかな水と温暖な気候、そして冬に吹き込む日本海からの寒気が、こだわりの大麦若葉赤神力Rを育む最適の環境をつくります。」
i 「究極の大麦若葉赤神力Rを守り続ける麦力素Rの契約農家と工場スタッフの方々。赤神力Rは契約農家や工場スタッフの情熱とこだわりによって、すくすくと生長しています。」
(イ) 以上のとおりであるから、甲2に係るウェブページには次の発明(以下「甲2発明」という。)が掲載されているといえる。
(甲2発明)
6条大麦の一種である赤神力の若葉を用いた、粉末化した青汁エキス。」
イ 甲3に記載された事項
(ア) 「オオムギは作物学的には6条オオムギ、2条オオムギに大別し、わが国では6条オオムギを普通種として単にオオムギと呼ぶことが多い.」(191頁下から4?3行)
(イ) 「裸麦は1900年頃から、短型のコビンカタギなどが作られ、以降多収の赤神力が急増した.1941年以降は組織的育種による品種である、香川裸1号、御島裸、愛媛裸1号が普及し、その後ユウナギハダカ、キカイハダカなどが普及した.現在は、イチバンボシとマンネンボシが2大品種となっている.」(201頁16?19行)
ウ 甲4に記載された事項
「国産有機JAS大麦若葉、桑葉、明日葉の受託製造 ミナト製薬
ミナト製薬・・・は国産有機JAS「大麦若葉末KW-100国産有機」・・・加工原料を用いた、受託製造加工に本格的に乗り出した。・・・
これら2原料の製造工程は契約農場で自然環境の中、生育された大麦若葉・・・を、機械を使用せずに丁寧に収穫し、その後、隣接された工場においてすばやく洗浄、特許取得製法のブランチング製法で葉緑素を損なうことなく粉末化して熱風乾燥を行ったもの。」
エ 甲5に記載された事項
「大麦若葉には、すぐれた麦緑素やSOD様成分が含まれ、・・・。プリセプトの”青汁”はこれを濃縮し、とてもおいしく飲めるように工夫していますので、・・・。
麦若葉青汁β」
オ 甲6の1に記載された事項
「健康実感、心身に活力みなぎる大麦若葉のエキス。
太陽と大地に育まれた大麦の若葉。その新鮮な若葉のエキスを独自の製造技術により、活性のまま粉末化しました。・・・
大麦若葉活性食品
グリーンマグマR21st.」
カ 甲6の2に記載された事項
「処方自在 差別化できる処方可能
大麦若葉青汁
大麦若葉の「緑効末」が効く!」
キ 甲6の3に記載された事項
(ア) 「大麦若葉には、すぐれた麦緑素やSOD様成分が含まれ、・・・。プリセプトの”青汁”はこれを濃縮し、とてもおいしく飲めるように工夫していますので、・・・。
麦若葉青汁β」
(イ) 「琉球青汁
大麦若葉に沖縄産ゴーヤー・・・とモロヘイヤをブレンドしました」
ク 甲7に記載された事項
「ノエビアが4月に発売した「青汁」・・・は、九州の契約農家が農薬を使わずに栽培した大麦若葉を微粉砕加工し、まるごと使用。・・・
サントリーウエルネスの「極の青汁」は、吸収力にこだわった。熊本県阿蘇産の大麦若葉と、・・・を使用。」
ケ 甲8に記載された事項
「東洋新薬・・・は9日、青汁などの原料となる野草ボタンボウフウ・・・の契約栽培を、天草地域で始めたことを明らかにした。・・・
同社は現在、阿蘇地域を中心に県内百数十ヘクタールで大麦若葉やスイオウ、ケールなどを生産・・・。」
コ 甲9に記載された事項
(ア) 「緑色野菜粉砕物、結晶セルロース、及び水系媒体を含有する飲料。」(【請求項1】)
(イ) 「<緑色野菜>
本発明において「緑色野菜」とは、大麦若葉、・・・のことである。・・・
本発明の飲料に用いる緑色野菜としては、緑色の鮮やかさ等の視覚的な面、さらに、栄養成分補給、生活習慣病の予防の観点から、好ましくは、大麦若葉、・・・より好ましくは大麦若葉、・・・さらに好ましくは大麦若葉、・・・である。
<大麦若葉>
大麦は・・・6条種と2条種に分けられ、6条種はさらに裸麦と皮麦に分けられる。2条種は俗にビール麦と呼ばれている。日本ではこのビール麦の他、6条大麦と裸麦の3種の大麦が主に栽培されている。本発明においては6条大麦、裸麦、ビール麦の3種の大麦はもちろんのこと他の種類の大麦も全て使用することができる。」(【0017】?【0019】)
サ 甲10に記載された事項
(ア) 「以下の(a)?(c)の各成分が必須成分として含有されてなることを特徴とする粉末飲料。
(a)大麦・・・の若葉の微粉末及び/又はケール・・・の微粉末
(b)不醗酵茶の微粉末及び/又は半醗酵茶の微粉末
(c)多糖類の微粉末」(【請求項1】)
(イ) 「<(a)成分>大麦・・・は・・・6条種と2条種に分けられ、また、成熟粒が潁と密着しているものを皮ムギ、たやすく分離するものを裸ムギと呼んでいる。2条皮ムギは俗にビールムギと呼ばれており、日本では、このビールムギの他、6条オオムギと裸ムギの3種の大麦が主に栽培されている。本発明においては、6条オオムギ、裸ムギ、ビールムギの3種の大麦は勿論、他の種類の大麦も全て好適に使用することができるが、・・・6条オオムギや裸ムギが特に好ましく用いられる。
本発明においては、大麦の若葉、より詳しくは結実前の若葉の微粉末が用いられる。」(【0010】、【0011】)
シ 甲11に記載された事項
(ア) 「ケール・・・の微粉末と、不醗酵茶及び/又は半醗酵茶の微粉末とが必須成分として含有されてなることを特徴とするケール含有飲料。
前記必須成分に加えて、・・・大麦・・・が含有されてなることを特徴とする請求項1に記載のケール含有飲料。」(【請求項1】、【請求項2】)
(イ) 「大麦・・・は・・・6条種と2条種に分けられ、また、成熟粒が潁と密着しているものを皮ムギ、たやすく分離するものを裸ムギと呼んでいる。2条皮ムギは俗にビールムギと呼ばれており、日本では、このビールムギの他、6条オオムギと裸ムギの3種の大麦・・・が主に栽培されている。本発明においては、6条オオムギ、裸ムギ、ビールムギの3種の大麦・・・は勿論、他の種類の大麦・・・も全て好適に使用することができるが、・・・6条オオムギや裸ムギが特に好ましく用いられる。また、大麦・・・の若葉、特に結実前の若葉を用いるのが望ましい。」(【0029】)

(2) 対比・判断
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲2発明とを、その有する機能に照らして対比すると、甲2発明の「6条大麦の一種である赤神力の若葉を用いた」点は、本件発明1の「6条大麦の葉を用いた」点に相当し、甲2発明の「粉末化した青汁エキス」は、本件発明1の「青汁用の飲食用組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で一致し、相違する。
(一致点1)
6条大麦の葉を用いた青汁用の飲食用組成物」である点
(相違点1)
本件発明1は、「6条大麦として、倍取、シルキースノウ、サヌキハダカ、ダイシモチ及びイチバンボシのうちの少なくとも1つの品種を用いた」ものであるのに対し、甲2発明は、6条大麦として「赤神力」を用いている点
(イ) 上記相違点1について検討する。
甲2発明は、「こだわりの大麦若葉赤神力」からつくられる究極の青汁であるところ(甲2)、甲2の掲載内容から、次のことがわかる(前記(1)ア(ア))。
すなわち、青汁づくりの基本は素材にあり、素材選びは青汁製品づくりの中で最も重要なポイントで、同じ大麦若葉でも、素材の差が製品の色・味・品質の差として出てくる。その中で、赤神力は究極の青汁づくりのために選ばれた6条大麦の一種であって、純系淘汰(優れた品種だけを選んで継承すること)を経て育成されてきたもので、現在では契約農家でしか栽培されていない希少価値の高い品種である。
昭和44年に国内で初めて大麦若葉の青汁(麦緑素)が製造販売された段階で、当時の大麦は、基本的に穂を収穫することを目的として品種改良を繰り返してきたため、大麦若葉が倒れにくいように背丈を低く、穂に栄養成分が行き届くように、葉の部分が少なく・小さな品種に改良されたものが大半を占めていた。これに対し、赤神力は大麦の原種に近く、背丈が高く・葉が大きく・幅広・肉厚で柔らかいという、青汁素材としては最適の素材(若葉)を持ち、ビタミン・ミネラル・フラボノイド・酵素などをバランスよく含んだ青汁成分も豊富で、高品質な青汁づくりのためには最適の品質であった。
甲2発明は、このような赤神力を、契約農家や工場スタッフの情熱とこだわりの元に栽培し、青汁を粉末化した青汁エキスである。
このように、素材選びは青汁製品づくりの中で最も重要なポイントであって、同じ大麦若葉でも、素材の差が製品の色・味・品質の差として出てくる中で、甲2発明は、希少価値の高い赤神力をこだわりをもって選択したのものであるといえる。
そして、甲2には、赤神力に代えて、他の大麦の品種を採用することに関し、特段開示も示唆もなく、甲3?11にも、本件発明1に係る特定の品種の6条大麦を青汁用の飲食用組成物の原料とすることにつき記載はないから、甲2発明において、赤神力に代えて、当該特定の品種の6条大麦を採用することは、当業者にとって困難である。
(ウ) この点に関し、請求人は、6条大麦若葉を使用して青汁用の飲食用組成物とすることは公知であり(甲2、4?11)、甲8?11において具体的な品種は明確でないが、必ずいずれかの品種の6条大麦若葉を使用していることは顕著な事実である、本件発明1の効果も赤神力から当然考えられる程度で、材料の単なる置換というべきである、などと主張している。
確かに、本件発明1に係る特定の品種のうち「イチバンボシ」が裸麦として代表的な品種で(甲3)、その他の品種も例示するまでもなく広く知られた品種であると認められるが、甲2発明は、素材として赤神力を選択したことにこだわっており、この点に技術的意義があるのであって、他の品種の大麦、6条大麦を選択することは、甲2発明の技術的意義を失わせることになる。
よって、甲2発明には、他の品種に変更する動機付けがあるとは認められない。
そして、甲4?8に、大麦若葉を青汁用の飲食用組成物の原料とする点が開示されているが、一般的に6条大麦を単に大麦と称することがあるとしても(甲2、3)、6条大麦若葉を原料とする点の開示にとどまり、本件発明1に係る特定の品種の6条大麦を使用する点の開示はない。この点は、甲9?11も同様である。
そして、本件発明1は、当該特定の品種の6条大麦を採用することにより、「色が鮮やかであるため見た目が美しく、且つ、風味が良好で嗜好性が高い」といった効果に関し、赤神力や2条大麦との対比で所定の優位性が認められるから(甲12)、この点を単なる設計的事項ということはできない。
(エ) そうすると、甲2発明において、赤神力に代えて、当該特定の品種の6条大麦を採用し、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
イ 本件発明2について
本件発明2と甲2発明とを、その有する機能に照らして対比すると、さらに以下の点で一致し、前記相違点1のほか相違するところはない。
(一致点2)
「粉末状である青汁用の飲食用組成物」である点
そして、既に述べたように、甲2発明において、前記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
ウ 以上のとおりであるから、本件発明は、甲2発明及び甲3?11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、無効理由2は理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、無効理由1及び2はいずれも理由がなく、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1及び2の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-27 
結審通知日 2016-05-02 
審決日 2016-05-16 
出願番号 特願2013-113154(P2013-113154)
審決分類 P 1 113・ 1- Y (A23L)
P 1 113・ 121- Y (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三原 健治竹内 祐樹  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 紀本 孝
窪田 治彦
登録日 2013-09-13 
登録番号 特許第5363674号(P5363674)
発明の名称 青汁用の飲食用組成物  
代理人 前田 秀一  
代理人 松嶋 善之  
代理人 成川 弘樹  
代理人 羽鳥 修  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  
代理人 後田 春紀  
代理人 原田 知子  
代理人 成瀬 源一  

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