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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11B |
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管理番号 | 1316918 |
審判番号 | 不服2014-18303 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-09-12 |
確定日 | 2016-07-11 |
事件の表示 | 特願2012-544809「香料及び香料封入体」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月23日国際公開、WO2011/075551、平成25年 4月22日国内公表、特表2013-513720〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 出願の経緯 本願は、平成22年12月16日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2009年12月18日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成25年9月20日付けで拒絶理由が通知され、それに対して同年12月12日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年5月15日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年9月12日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出され、これに対して平成27年6月26日付けで、当審から拒絶理由を通知したところ、同年11月6日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願に係る発明 本願に係る発明は、平成27年11月6日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下の事項により特定されるものである。 「【請求項1】 香料送達システムであって、前記香料送達システムが、ポリマー支援型送達(PAD)システムであり、かつ香料を含み、前記香料が、 a)2-メトキシナフタレン、1,3,3-トリメチル-2-オキサビシクロ[2,2,2]オクタン、及びそれらの混合物からなる群から選択される、3%?20%の香料原料と、 b)2-メチルウンデカナール、2,4-ジメチルシクロヘキサ-3-エン-1-カルボアルデヒド、3-(4-tert-ブチルフェニル)プロパナール、及びそれらの混合物からなる群から選択される、2%?35%の香料原料と、 c)エチル2-メチルブタノアート、5-ヘプチルオキソラン-2-オン、ジエチルブタ-2-エンジオアート、酢酸フロール、[(4Z)-1-シクロオクタ-4-エニル]メチルカルボナート及びそれらの混合物からなる群から選択される、2%?35%の香料原料と、 d)シクロペントール、左旋性トリサンドール、3,7-ジメチルオクタ-1,6-ジエン-3-オール、及びそれらの混合物からなる群から選択される、2%?8%の香料原料と、 e)(E)-1-(2,6,6-トリメチル-1-シクロヘキサ-3-エニル)ブタ-2-エン-1-オン、(E)-3-メチル-4-(2,6,6-トリメチル-1-シクロヘキサ-2-エニル)ブタ-3-エン-2-オン、及びそれらの混合物からなる群から選択される、2%?8%の香料原料と、 を含み、 前記ポリマー支援型送達(PAD)システムが、ポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムを含み、 前記ポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムが、シェル材料及びコア材料を含む香料送達粒子を含み、前記シェル材料が、前記コア材料を封入し、前記コア材料が、前記香料を含み、前記シェルが、メラミンホルムアルデヒド及び/又は架橋メラミンホルムアルデヒドを含み、 前記シェルが、多糖、カチオン修飾デンプン及びカチオン修飾グアー、ポリシロキサン、ポリハロゲン化ジメチルジアリルアンモニウム、ポリ塩化ジメチルジアリルアンモニウムとビニルピロリドンのコポリマー、アクリルアミド、イミダゾール、ハロゲン化イミダゾリニウム及びハロゲン化イミダゾリウム、並びにポリビニルアミン及びそのN-ビニルホルムアミドとのコポリマーからなる群から選択される水溶性カチオンポリマーによってコーティングされる、香料送達システム。」 第3 当審の拒絶理由通知の概要 当審が通知した平成27年6月26日付け拒絶理由通知で概略以下の内容を含む拒絶理由が通知された。 「 理 由 1)(中略) 2)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 ・・(中略)・・ C.理由2(特許法第36条第6項第1号の規定について) (C-1)本願発明の技術課題 本願発明の解決しようとする課題は、上記B.で示したとおり、本願明細書の【0002】、【0003】の記載からみて、「洗濯後、布地に汚れが残った場合でさえ、優れた臭気遮断/布地の臭いの低減が可能になる」「香料原料(PRM)の特定の組み合わせ」(香料組成物)の提供、及び、「このような香料組成物をカプセル化することにより」「ひどい汚れの条件下で香料の性能」を「更に向上」させる「香料送達システム」の提供にあると認められる。 (C-2)本願明細書の発明の詳細な説明の記載 本願明細書の発明の詳細な説明のうち、実施例に係る部分以外(【0013】-【0086】)には、上記B.で示したとおり、本願発明の香料又は香料送達システムにより、「洗濯後、布地に汚れが残った場合でさえ、優れた臭気遮断/布地の臭いの低減が可能になる」であろうと当業者が客観的に認識することができるような作用機序についての記載が見当たらない。 また、本願明細書の発明の詳細な説明のうち、実施例に係る部分(【0091】以降、特に【0092】-【0095】)を参照すると、本願発明の技術課題を解決し得るとされる香料の実施形態がA?Lの12個開示されている(なお、これらが本当に課題を解決しているか不明確であることは、上記B.の指摘事項3参照。)。そして、仮に、これら香料A?Lについては、本願発明の上記課題を解決し得るものであるとしても、香料A?Lの具体的な香料原料の名称、配合量、及び、組合せ、を参酌すれば、本願発明、特に、本願請求項1で特定される要件を満たす全ての場合について、上記本願発明の課題を解決することができるといえる技術常識が存在するとは認められない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者にとって、たとえその技術常識に照らしても、本願の各請求項に記載された事項で特定される全ての場合について、上記本願発明の課題を解決することができるものと認識することはできない。 よって、本願請求項1ないし9に記載された事項で特定される発明が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができないから、本願の各請求項の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではない。 (後略)・・」 第4 当審の判断 当審は、本願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものでなく、同条第6項に規定する要件を満たしていないから、本願は、同法第49条第4号に該当するので、拒絶査定すべきでものである、と判断する。 以下詳述する。 (4-1)本願発明が解決しようとする課題 本願明細書の下記の記載 「【背景技術】 【0002】 汚れのレベルが高い洗濯条件、例えば、布地に集積する汚れ、例えば、身体の汚れのレベルが高いより温暖な地域、又は再使用するために洗濯水がリサイクルされる、若しくは、例えば、機械洗いと比較した手洗いなど洗濯プロセスの効率が低いことがある地理的条件では、洗剤香料があまり有効でなく、あるいは洗濯温度が低い洗濯条件においても、冷水中では従来の洗濯洗剤の性能が落ちるために洗剤香料があまり有効でないことが周知である。理論に制限されるものではないが、大半が比較的疎水性の香料物質は、そのような洗濯溶液内の高い濃度の疎水性汚れに引きつけられると考えられ、香料物質を汚れた水とともに洗い流され易くする(したがって、浪費され易くする)。更に、汚れがひどい状態で、又は冷水中で布地から汚れを除去するのはあまり効果的でなく、汚れ残留物が布地に残ることがある。本発明者らは、香料原料(PRM)の特定の組み合わせにより、洗濯後、布地に汚れが残った場合でさえ、優れた臭気遮断/布地の臭いの低減が可能になることを発見した。そのような香料組成物の潜在的な欠点は、そのような組成物に使用される材料が、高い濃度で未希釈で使用された場合に、又はそのような材料の高いレベルの残留物が部位、例えば、湿った布地に存在する場合に、望ましくない不快な臭気を有する可能性があることである。したがって、本発明者らは、香料送達システムを介してこのような香料を使用することにより、例えば、本明細書で説明するように、このような香料組成物をカプセル化することにより、香料原料と汚れとの相互作用が軽減されるために、かつ過剰な量が汚れとともに洗い流されることがなく、過剰なレベルの残留香料物質が部位に蓄積されることもないので、適切なレベルの香料がそのような部位に加えられるために、ひどい汚れの条件下で香料の性能が更に向上すると気付いた。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 本願は、香料組成物、このような香料及び/又は送達システムを含むこのような香料製品を含む送達システム、並びに、これらを製造及び使用する方法に関する。」(当審注:下線は、当審が付した。) からして、本願発明が解決しようとする課題は、『「洗濯後、布地に汚れが残った場合でさえ、優れた臭気遮断/布地の臭いの低減が可能になる」「香料原料(PRM)の特定の組み合わせ」「をカプセル化することにより」「ひどい汚れの条件下で香料の性能」が「更に向上」した「香料送達システム」の提供』にあると認められる。 (4-2)本願明細書に記載の事項 本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の上記課題の解決に関して、以下の記載がされている。 (あ) 「【0018】 好適な香料原料 ひどい汚れの条件下、及び冷水中での香料性能が向上した香料は、下記の表1に示す香料原料を含むことができる。 【0019】 【表1】 【0020】 【表2】 【0021】 【表3】 」 (い) 「【0087】 試験方法 本出願の「試験方法」の項で開示される試験方法は、本出願人らの発明が本明細書に記載され及び特許請求されているように、本出願人らの発明のパラメータの各値を求めるために使用されるべきであると理解される。 【0088】 香料評価試験 1)2つに分割された汚れた衣類に対する性能を比較するので、試験は2つの製品試験A対Bのみである。 2)消費者から調達した汚く/ひどく汚れた物品からなる汚れた洗濯物を使用し、各衣類を2つに分割する。 【0089】 【表4】 【0090】 機械A内の衣類に対応する半体を機械Bに入れる。 3)この試験では、発泡抑制剤は何ら加えない。 4)a)+10/-10等級のにおい効果、b)悪臭の存在(0?4等級に基づく、ここで、0=悪臭なし、4=非常に強烈な悪臭)、c)A?D等級に基づく香料特性、ここで、A=変化なし、B=若干変化あり、C=変化あり、D=大幅な変化あり、に関して各衣類の2つの半体を互いに比較して採点する。通常は、におい効果が基本的尺度と考えられる。 【実施例】 【0091】 本発明の特定の実施形態が例示され、記載されてきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、他の様々な変更及び修正を実施できることが、当業者には明白であろう。したがって、本発明の範囲内にあるそのような全ての変更及び修正を、添付の「特許請求の範囲」で扱うものとする。 【0092】 実施例1.香料A?Lは、ひどい汚れ条件下で、及び冷水での洗濯において改良された香料性能を示す。本明細書の香料評価試験方法に従ってそのような香料を試験し、その試験結果は、その香料が優れた性能をもつことを示している。 【0093】 【表5】 【0094】 【表6】 【0095】 【表7】 【0096】 実施例2:84重量%コア/16重量%壁のメラミンホルムアルデヒド(MF)カプセル ・・(中略)・・ 【0097】 実施例3:80重量%コア/20重量%壁のメラミンホルムアルデヒドカプセル ・・(中略)・・ 【0098】 実施例4:80重量%コア/20重量%メラミンホルムアルデヒド壁のカプセル ・・(中略)・・ 【0099】 実施例5:80重量%コア/20重量%壁のメラミンホルムアルデヒドカプセル ・・(中略)・・ 【0100】 実施例6:メラミンホルムアルデヒドカプセル ・・(省略)・・ 【0101】 実施例7:メラミンホルムアルデヒドカプセル ・・(省略)・・ 【0102】(省略) 【0103】(省略) 【0104】(省略) 【0105】(省略) 【0106】 実施例8:メラミンホルムアルデヒドカプセル ・・(省略)・・ 【0107】 実施例9:高コア密度(≧1)を有するメラミンホルムアルデヒド(MF)壁香料カプセル ・・(省略)・・ 【0108】 実施例10:噴霧乾燥マイクロカプセルの製造 ・・(省略)・・ 【0109】 実施例11 本発明の利益を実証するために、本出願人は以下の液体洗剤マトリックスAを調製した。 【0110】 【表10】 【0111】 【表11】 【0112】 (1)Merquat 5300:90% PAM/5% AA/5%MAPTACのモル比のターポリマー、Nalcoにより製造される。 【0113】 実施例12?19 香料組成物を含む洗濯洗剤組成物の実施例は以下に包含される。 【0114】 【表12】 【0115】 実施例20?27 香料組成物を含む粒状洗濯洗剤組成物の実施例は以下に包含される。 【0116】 【表13】 【0117】 実施例1?19に記載の機器及び物質は以下から入手することができる:IKA Werke GmbH & Co.KG(Staufen,Germany);CP Kelco(Atlanta,United States);Forberg International AS(Larvik,Norway);Degussa GmbH(Dusseldorf,Germany);Niro A/S(Soeberg,Denmark);Baker Perkins Ltd(Peterborough,United Kingdom);日本触媒(日本、東京);BASF(Ludwigshafen,Germany);Braun(Kronberg,Germany);Industrial Chemicals Limited(Thurrock,United Kingdom);Primex ehf(Siglufjordur,Iceland);ISP World Headquarters;Polysciences,Inc.(Warrington,Pennsylvania,United States);Cytec Industries Inc.(New Jersey,United States);International Specialty Products(Wayne,New Jersey,United States);P&G Chemicals Americas(Cincinnati,Ohio,United States);Sigma-Aldrich Corp.(St.Louis,Missouri,United States);Dow Chemical Company(Midland,MI,USA)。 【0118】 実施例28?37:布地柔軟仕上げ剤 本明細書に開示したポリマーコーティング香料カプセルを含有する布地柔軟仕上げ剤の非限定的な例を下記の表にまとめる。 【0119】 【表14】 ^(a) N,N-ジ(タローオイルオキシエチル)-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド。 ^(b) メチル-ビス(タローアミドエチル)-2-ヒドロキシエチルアンモニウムメチルサルフェート。 ^(c) 脂肪酸とメチルジエタノールアミンとのモル比1.5:1での反応生成物を塩化メチルで四級化して得られる、N,N-ビス(ステアロイル-オキシ-エチル)N,N-ジメチルアンモニウムクロリドとN-(ステアロイル-オキシ-エチル)N-ヒドロキシエチルN,Nジメチルアンモニウムクロリドとの1:1モル混合物。 ^(d) National Starchから商品名CATO(登録商標)で入手可能なカチオン性高アミローストウモロコシデンプン。 ^(f) BASF製のRheovis DCE ^(g) WackerからのSE39 ^(h) ジエチレントリアミン五酢酸。 ^(i) Rohm and Haas Co.から入手可能なKATHON(登録商標)CG。「PPM」は、「百万分の一」。 ^(j) グルタルアルデヒド ^(k) Dow Corning Corp.から商品名DC2310で入手可能なシリコーン消泡剤。 † 残部 【0120】 実施例38?43液体洗濯製剤(強力液体) 【0121】 【表15】 【0122】 実施例44?51:液体単位用量 以下のものは、液体組成物がPVAフィルム内に封入される単位用量の実施例である。本実施例において好適なフィルムは、Monosol M8630(厚さ76μm)である。 【0123】 【表16】 -NHにつき20個のエトキシル基を有するポリエチレンイミン(MW=600)。 ^(3) RA=アルカリ保存性(NaOHのg/投与量) 【0124】 実施例52シャンプー配合 【表17】 」 (4-3)検討 本願明細書の発明の詳細な説明の実施例(比較例)の部分は、【0087】ないし【0096】と、【0097】ないし【0124】に内容面から分けることができ、【0097】ないし【0124】の部分には、香料マイクロカプセルの製造例及びこれらを用いて調製された各種洗剤が開示されているものの、その作用効果について確認がされておらず、本願発明と上記課題(特に、「香料組成物をカプセル化することによりひどい汚れの条件下で香料の性能が更に向上」するとの作用効果に関する部分)との関係を認識できる記載はない〔なお、当該作用効果の有無については、下記(4-4)で改めて検討する。〕。 また、【0087】ないし【0096】の部分について検討すると、【0093】【表5】ないし【0095】【表7】には、香料A?Lの12つの香料が開示されており、【0092】には、「香料A?Lは、ひどい汚れ条件下で、及び冷水での選択において改良された香料性能を示す。本明細書の香料評価試験方法に従ってそのような香料を試験し、その試験結果は、その香料が優れた性能を持つことを示している。」と記載され、【0088】-【0090】には、本願発明における「香料評価試験」が開示され、下記3点において評価を行うこととされており、これは、 a)+10/-10等級のにおい効果、 b)悪臭の存在(0?4等級に基づく、ここで、0=悪臭なし、4=非常に強烈な悪臭)、 c)A?D等級に基づく香料特性(ここで、A=変化なし、B=若干変化あり、C=変化あり、D=大幅な変化あり)、 であるところ、香料A?Lのいずれも上記3点の評価が具体的にどうであるかを数値乃至ランキング記号を用いて示すものではない。すなわち、本願明細書には、香料A?Lが香料評価試験方法において良好な結果が得られるとの漠然とした記載があるのみであり、それを客観的に認識できる根拠がなく、香料A?Lがそれぞれどの程度に上記課題(特に、「洗濯後、布地に汚れが残った場合でさえ、優れた臭気遮断/布地の臭いの低減が可能になる」との作用効果に関する部分)の解決に寄与するかを理解することができない。特に、本願明細書【0002】の「汚れのレベルが高い洗濯条件・・、又は再使用するために洗濯水がリサイクルされる、若しくは、例えば、機械洗いと比較した手洗いなど洗濯プロセスの効率が低いことがある地理的条件では、洗剤香料があまり有効でなく、あるいは洗濯温度が低い洗濯条件においても、冷水中では従来の洗濯洗剤の性能が落ちるために洗剤香料があまり有効でないことが周知である。」、「本発明者らは、香料原料(PRM)の特定の組み合わせにより、洗濯後、布地に汚れが残った場合でさえ、優れた臭気遮断/布地の臭いの低減が可能になることを発見した。」との記載からして、従来技術である「洗濯洗剤」中にも何らかの「洗剤香料」が含まれていたが、これに比べて、本願発明の「香料原料(PRM)の特定の組み合わせ」を用いると、「洗濯後、布地に汚れが残った場合でさえ、優れた臭気遮断/布地の臭いの低減が可能になる」との本願発明特有の効果を奏するということであるから、上記「香料評価試験方法」において確認されるべき「優れた性能」は、香料を用いない場合との対比ではなく、従前の「洗剤香料」と比した場合の性能であるべきところ、この対比がなされておらず、本願発明の香料、例えば、香料Lが、上記技術課を解決しうるものとして開示されているとは認められない。 また、仮に香料Lが「洗濯後、布地に汚れが残った場合でさえ、優れた臭気遮断/布地の臭いの低減が可能になる」との本願発明特有の効果を奏するものであると認められるとしても、これは、香料原料a)が合計で3.2重量%、香料原料b)が合計で9.0重量%、香料原料c)が合計で11.7重量%、香料原料d)が合計で6.9重量%、香料原料e)が合計で3.8重量%であり、香料原料a)ないしe)の合計が34.6重量%、他に、香料原料a)ないしe)のいずれにも属さない特定の香料原料を2.0%含有する「香料原料(PRM)の特定の組み合わせ」であり(残り65.4重量%が、水や増量剤等の効果に影響しない成分であるか否か不明である。)、本願発明特有の効果を奏する実施例として唯一のものであるところ、本願発明は、香料原料a)に分類される化合物又はその混合物を3%?20%、香料原料b)に分類される化合物又はその混合物を2%?35%、香料原料c)に分類される化合物又はその混合物を2%?35%、香料原料d)に分類される化合物又はその混合物を2%?8%、香料原料e)に分類される化合物又はその混合物を2%?8%含む香料であって上記香料L以外の極めて多数の香料組成物を包含するものであり、これらの香料組成物についてまでも、上記課題(特に、「洗濯後、布地に汚れが残った場合でさえ、優れた臭気遮断/布地の臭いの低減が可能になる」との作用効果に関する部分)を解決しうるであろうと当業者が客観的に認識し得るような作用機序が把握できない。 そして、本願明細書の発明の詳細な説明全体を参酌しても、香料原料「a)」ないし「e)」を全て特定量で用いた香料を含むポリマー支援型送達システムを採用することで上記課題を解決しうるといえる技術的根拠が示されておらず、また、本願の優先日前において、本願発明といえる全ての香料及び香料送達システムが、上記課題を解決しうると当業者が認識することができるような技術常識が存するものとも認められない。 してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、本願発明の特定の香料を含む香料送達システムにより、上記課題が解決できるであろうと当業者が客観的に認識することができるということはできない。 よって、本願発明が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができないから、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではない。 (4-4)平成27年11月6日付け意見書における主張について 審判請求人は、上記意見書の3頁「(5)理由2(特許法第36条第6項第1号の規定について)」において、 「本願明細書の記載および添付の実験成績証明書によれば、香料Lが本願発明の解決すべき課題を解決できていることから、当業者であれば、補正後の請求項1に係る発明は本願発明の解決すべき課題を解決できることを十分に理解できる」旨述べるとともに、[添付資料]として実験成績証明書を提出した。ここには、下記のような結果が表にまとめられているが、 表中のA、B、Cは、 を表し、また、上下二段で表された数値はそれぞれ3人のパネリストによる評価の平均値と解されるところ、上段の数値は、 「世界標準化した強度尺度(GSIS)0?100;Δ2.5=技術的差異;Δ5=消費者が気づく」 というものであり、数値が大きいほど良好な結果であり、また、他よりも5以上数値が大きいとその作用効果の違いに消費者が気づくほど改善されたことを意味すると解される。また、下段の()で囲まれた数値は、 「悪臭等級:(0)-悪臭なし,(1)-僅かな悪臭,(2)-中程度の悪臭,(3)-強烈な悪臭,(4)-非常に強烈な悪臭」 というものであり、数値が小さいほど良好な結果であることを意味すると解される。 そして、上記「C.」の説明にある「PMC」とは、本願明細書【0027】の「香料マイクロカプセル(PMC)」のことであり、本願発明のポリマー支援型送達(PAD)リザーバシステムに対応するものと推察されるから、製品Cは本願発明の実施例として示されたものと解される(なお、当該PMCが、本願発明の要件である、「シェルが特定の樹脂を含み、特定の水溶性カチオンポリマーによってコーティングされる」との要件を満たすものが用いられているか不明である。)。 そして、本願明細書【0002】に、「そのような香料組成物の潜在的な欠点は、そのような組成物に使用される材料が、高い濃度で未希釈で使用された場合に、又はそのような材料の高いレベルの残留物が部位、例えば、湿った布地に存在する場合に、望ましくない不快な臭気を有する可能性があることである。したがって、本発明者らは、香料送達システムを介してこのような香料を使用することにより、例えば、本明細書で説明するように、このような香料組成物をカプセル化することにより、・・ひどい汚れの条件下で香料の性能が更に向上すると気付いた。」と記載されているように、本願発明の課題(の一部)は「香料原料(PRM)の特定の組み合わせ」の潜在的な欠点を、香料送達システムを介して使用することで解決しようとするものであるから、本願発明である製品Cは香料Lの香油がカプセル化されずに用いられている製品Bよりも「香料の性能が更に向上」しているはずである。 しかしながら、上記表を参酌すると、「濡れた状態」では、製品Bの方が製品Cよりも優れた結果を示しており、また、「摩擦前に1日乾燥された系」では製品B、Cの結果はあまり変わらないことが示されている。このように、本願発明が、上記表の全ての状態・系において、上記課題(特に、「香料組成物をカプセル化することによりひどい汚れの条件下で香料の性能が更に向上」するとの作用効果に関する部分)につき、優れた効果を奏するものとはいえない。 また、本願発明は、従前の洗剤香料と比して有利な効果を奏するものであるべきところ、製品Aには香料が配合されておらず、従前の洗剤香料をも有しないものであるから、製品Cが製品Aに対して優れた結果を示したとしても、本願発明が、上記課題(特に、「洗濯後、布地に汚れが残った場合でさえ、優れた臭気遮断/布地の臭いの低減が可能になる」との作用効果に関する部分)につき、従来技術と比して優れた効果を奏するものとは認められない(なお、「摩擦前に1日乾燥させた系」において、「汚れた物品」を用いた場合においては、本願発明である製品Cは無香料の製品Aよりも優れた結果が得られない(同様若しくは製品Cの方が劣る項目がある)ことが見て取れる。)。 このように、本願明細書の発明の詳細な説明に接した当業者が、例えば、追加で提出された実験成績証明書を参酌したとしても、本願発明が上記課題を解決しうるものとして認識することができるとはいえない。 (4-5)まとめ 以上のとおりであるから、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本願特許請求の範囲(特に請求項1)の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものでないから、同法同条第6項に規定する要件を満たしていない。 第5 結語 したがって、本願は、請求項2ないし12に係る発明について検討するまでもなく、特許法第49条第4号の規定に該当し、拒絶されるべきものである。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-02-16 |
結審通知日 | 2016-02-19 |
審決日 | 2016-03-01 |
出願番号 | 特願2012-544809(P2012-544809) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(C11B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 福山 則明 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
橋本 栄和 岩田 行剛 |
発明の名称 | 香料及び香料封入体 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 小島 一真 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 出口 智也 |
代理人 | 磯貝 克臣 |