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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1317001
異議申立番号 異議2016-700293  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-11 
確定日 2016-07-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第5799636号発明「ポリエステルの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5799636号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第5799636号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成23年7月26日に特許出願され、平成27年9月4日に特許権の設定登録がされ、平成27年10月28日に特許公報が発行され、その後、平成28年4月11日に、その特許に対し、特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
特許第5799636号の請求項1?6に係る特許は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。)。

「【請求項1】
1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分とジカルボン酸成分とをエステル化反応及び/又はエステル交換反応を行いオリゴマーを得るエステル化工程、並びに、オリゴマーを重縮合反応させてポリエステルを得る重縮合工程からなるポリエステルの製造方法において、反応触媒としてTi化合物を使用し、該Ti化合物が窒素原子として0.1重量ppm以上40,000重量ppm以下の窒素化合物を含有する1,4-ブタンジオールで希釈されたTi化合物溶液として、反応系に添加されることを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項2】
前記Ti化合物溶液を前記エステル化工程に添加することを特徴とする請求項1に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
前記Ti化合物溶液中のTi化合物濃度が0.1%以上10%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
前記窒素化合物がアミン、アミノアルコール、及びアミドからなる群より選ばれた1種または2種以上の化合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項5】
前記Ti化合物溶液を重縮合工程に添加することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項6】
前記Ti化合物を希釈する1,4-ブタンジオールがバイオマス資源由来であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の製造方法。」

3 特許異議申立の概要
特許異議申立人は、証拠として下記の本件出願前頒布された刊行物である甲第1?3号証を提出(主たる証拠として甲第1号証及び甲第2号証を、従たる証拠として甲第3号証を提出)して、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、本件発明3は、甲第2号証に記載された発明、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明、本件発明6は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当する。
また、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明に基いて,本件発明2は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明に基いて、本件発明3は、甲第1号証と甲第2号証に記載された発明に基いて、又は甲第2号証に記載された発明に基いて、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は甲第2号証と甲第1号証に記載された発明若しくは、甲第2号証と甲第3号証に記載された発明に基いて、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明に基いて、又は甲第2号証と甲第1号証にに記載された発明に基づいて、本件発明6は、甲第2号証に記載された発明に基いて、又は甲第1号証と甲第2号証に記載された発明に基いて、それぞれ当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきである旨主張している。


甲第1号証:特開2002-284869号公報
甲第2号証:特開2007-197654号公報
甲第3号証:特開昭62-199617号公報

4 甲号証の記載
(1)甲第1号証
(1a)「【請求項1】 ジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体と、1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、触媒として有機チタン化合物を用い、エステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応することによりポリエステルを製造するに際し、前記有機チタン化合物と共に、ヒドロキシアルキル基を1つ以上含有する環状化合物を反応系へ添加することを特徴とするポリエステルの製造法。
【請求項2】 前記有機チタン化合物と前記環状化合物を予め混合して反応系へ添加することを特徴とする請求項1に記載のポリエステルの製造法。
【請求項3】 前記環状化合物が、ベンジルアルコール、p-キシリレングリコール、2-ピリジンメタノールおよび2,6-ピリジンジメタノールから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルの製造法。」(【特許請求の範囲】)

(1b)「【0006】しかしながら、チタン酸エステルに代表される有機チタン化合物は、優れた触媒活性を有する反面、水によって容易に加水分解を受け、かつ失活しやすいという本質的な欠点を有している。その結果、特に有機チタン化合物を用いたエステル化反応においては、触媒活性の持続性が保持できず、その反応だけではなく、引き続き行われる重縮合反応過程においては、前記の失活分に見合う触媒を新たに補填するなどの煩雑な手段を必要としていた。
【0007】また、チタン酸エステル触媒が、反応過程で生成する水によって加水分解されて失活した際には、触媒残渣がエステル化生成物または重合体中に不溶化することになる。そして、このような触媒残渣に起因して、溶融状態の重合体にあっては、透明性の悪化、溶液状態にあっては、溶液ヘイズの悪化という不具合が現れる。かかる重合体中の不溶化は、時に異物となり、それが著しい場合には、成形品または繊維の強度低下を引き起こすなどの問題を招いていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、その目的とするところは、異物の少ないポリエステルを製造する方法を提供することにある。」

(1c)「【0016】本発明においては、エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に触媒を添加することが必要である。
【0017】本発明において使用される触媒は、有機チタン化合物であり、具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステル、あるいはこれらの混合エステルなどが挙げられるが、これらの内でもチタン酸のテトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステルおよびテトライソプロピルエステルが好ましく、チタン酸のテトラ-n-ブチルエステルが特に好ましく使用される。
【0018】これらの有機チタン化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用することもできる。また、エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応時に同一種を用いてもよく、異種の有機チタン化合物を用いてもよい。さらに、この有機チタン化合物を適当な有機溶媒と一緒に添加してもよい。この場合の有機溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、2-エチルヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよび1,4-ブタンジオールなどが用いられる。」(下線は当審にて追加、以下同様)

(1d)「【0020】この有機チタン化合物の添加時期については、特に限定されるものでなく、エステル化反応前に一括添加してもよく、重縮合反応終了までの任意の段階で分割添加してもよい。」

(1e)「【0026】本発明のポリエステルの製造法においては、上記有機チタン化合物と共に、ヒドロキシアルキル基を1つ以上含有する環状化合物を反応系へ添加することが必須の要件であり、これにより異物の少ないポリエステルを製造することが可能となる。
・・・
【0029】上記環状化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用することもできる。また、エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応時に同一種を用いてもよく、異種の環状化合物を用いてもよい。さらに、この環状化合物を適当な有機溶媒と一緒に添加してもよい。
【0030】この環状化合物の添加時期については、特に限定されるものでなく、エステル化反応前に一括添加してもよく、重縮合反応終了までの任意の段階で分割添加してもよいが、異物の少ないPBTを得るためには、反応系内において有機チタン化合物が存在する際には、必ず上記環状化合物が存在するように添加時期を考慮することが好ましい。例えば、予め有機チタン化合物と上記環状化合物を混合して添加することがより好ましく、有機溶剤を用いて有機チタン化合物と上記環状化合物の混合溶液を作成し、それを添加することが最も好ましい。
・・・
【0032】本発明において、直接重合法を用いる場合には、まずエステル化反応を行ってオリゴマーとし、次いで重縮合反応することによりポリエステルを製造する。」

(1f)「【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
・・・
[実施例1]テレフタル酸1132g、1,4-ブタンジオール1100g(1,4-ブタンジオール/テレフタル酸モル比:1.8)を用いてエステル化反応を行い、次いで重縮合反応を行った。
【0040】すなわち、テレフタル酸の全量、1,4-ブタンジオールの全量、テトラ-n-ブチルチタネート(以下TBTと称する)0.8gおよびp-キシリレングリコール1.3g(TBTに対し4.0モル倍)を、精留塔の付いた反応器に仕込み、190℃、窒素気流下にエステル化反応を開始した後、徐々に昇温し、225℃で3時間エステル化反応を行った。得られた反応物にTBT1.0gおよびp-キシリレングリコール1.6g(TBTに対し4.0モル倍)を添加し、250℃、67Paで2時間30分重縮合反応を行った。
[実施例2]有機溶剤として1,4-ブタンジオールを用いて、テトラ-n-ブチルチタネートとp-キシリレングリコールを混合した溶液を作成して添加した以外は、実施例1と同様にして行った。
[実施例3]p-キシリレングリコールの代わりに、2-ピリジンメタノールをTBTに対し4.0モル倍になるように用いてエステル化反応および重縮合反応した以外は、実施例2と同様にして行った。
[実施例4]2-ピリジンメタノールをTBTに対し1.2モル倍に減量してエステル化反応および重縮合反応した以外は、実施例3と同様にして行った。」(【0037】?【0040】)

(1g)「【0042】
【表1】



(2)甲第2号証
(2a)「【請求項11】
ジカルボン酸とジオールとの反応によりポリエステルを製造する方法において、反応に供するジカルボン酸原料及びジオール原料の少なくとも一つがバイオマス資源から誘導されたものであり,該バイオマス資源から誘導されたジカルボン酸原料及びジオール原料中の窒素原子含有量が、原料の総和に対して質量比で0.01ppm以上2000ppm以下であることを特徴とするバイオマス資源由来ポリエステルの製造方法。」

(2b)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術で製造されるバイオマス資源由来のジカルボン酸やジオールを用いてポリエステルの製造を行おうとすると、通常、原料中に不純物として含有されるアンモニア塩や金属カチオンなどにより重合反応が阻害されて十分な分子量のポリエステルが得られなかったり、得られたポリエステルが着色したりするという問題が生じていることが、本発明者の研究により明らかとなった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、発酵法による原料を用いて高分子量で着色の少ない実用可能なバイオマス資源由来のポリエステルおよびその製造する方法を提供することにある。さらに本発明の特定の窒素原子含有量を有するバイオマス資源から製造されるポリエステルは生分解性に優れるという事実を究明したものである。」

(2c)「【発明の効果】
【0011】
本発明は、ポリエステルの主たる繰り返し単位を構成するジカルボン酸及びジオールの少なくともいずれかがバイオマス資源から得られたものであり、ポリエステルの分子内に共有結合されている官能基に含まれる窒素を除いたポリエステル中の窒素原子含有量が全ポリエステル質量に対して窒素原子換算として0.01ppm以上1000ppm以下であることを特徴とするポリエステルを提供する。
【0012】
本発明は環境問題、化石資源の問題等の解決に貢献し、実用的な物性を有する樹脂を提供することが出来、産業上の利用価値は極めて大である。また、バイオマス資源から製造される本発明のポリエステルは、驚くべきことに同一構造の石油由来の原料から製造したポリエステルとくらべ生分解性が良好であるため、特定の窒素原子含有量とすることにより、生分解性に優れ、着色が少なく、機械的物性に優れた様々な用途展開可能な高分子量ポリエステルを提供することができる。」

(2d)「【0043】
発酵法により製造したジオール中に含まれる窒素原子含有量は、ジオール中に、原子換算として、上限は通常2000ppm以下、好ましくは、1000ppm以下、より好ましくは100ppm以下、最も好ましくは50ppm以下である。下限は特に制限されないが、通常、0.01ppm以上、好ましくは、0.05ppm以上、精製工程の経済性の理由からより好ましくは、0.1ppm以上である。多すぎると、重合反応の遅延化や生成ポリマーの着色、一部ゲル化、そして安定性の低下などが引き起こされる傾向がある。一方、少なすぎる系は、好ましい形態であるが、精製工程が煩雑となり経済的に不利になる。
また、別の態様としては、ジカルボン酸原料及びジオール中に含まれる窒素原子含有量が、前述の原料総和に対して質量比で、上限は通常2000ppm以下、好ましくは、1000ppm以下、より好ましくは100ppm以下、最も好ましくは50ppm以下である。下限は特に制限されないが、通常、0.01ppm以上、好ましくは、0.05ppm以上、0.1ppm以上である。」

(2e)「【0049】
<ポリエステルの製造方法>
本発明のジオール単位及びジカルボン酸単位を主体とするポリエステルの製造は、重合反応液中の窒素の量を制御する他は、ポリエステルを製造する公知技術で行うことができる。このポリエステルを製造する際の重合反応は、従来から採用されている適切な条件を設定することができ、特に制限されない。
ポリエステルを製造する際に用いるジオールの使用量は、ジカルボン酸またはその誘導体100モルに対し、実質的に等モルであるが、一般には、エステル化中の留出があることから、1?20モル%過剰に用いられる。後述する脂肪族オキシカルボン酸を使用する際の使用量は、脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体100モルに対し好ましくは0?60モル、より好ましくは1.0?40モル、特に好ましくは2?20モルである。
【0050】
後述するオキシカルボン酸を使用する際の添加時期・方法は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、例えば、(1) あらかじめ触媒を脂肪族オキシカルボン酸溶液に溶解させた状態で添加する方法、(2) 原料仕込み時触媒を添加すると同時に添加する方法、などが挙げられる。本発明のポリエステルは、好ましくは上記原料を重合触媒の存在下で重合することにより製造される。触媒としては、チタン化合物、ゲルマニウム化合物が好適である。
【0051】
また、本発明においては、重縮合反応は、ゲルマニウム以外の重合触媒の存在下に行ってもよい。それらの重合触媒の添加時期は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよく、減圧開始時に添加してもよい。
従って、本発明においては、重合触媒としては、一般には、周期表で、水素、炭素を除く1族?14族金属元素を含む化合物が挙げられる。具体的には、チタン、ジルコニウム、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれた、少なくとも1種以上の金属を含むカルボン酸塩、アルコキシ塩、有機スルホン酸塩又はβ-ジケトナート塩等の有機基を含む化合物、更には前記した金属の酸化物、ハロゲン化物等の無機化合物及びそれらの混合物が挙げられる。これらの触媒成分は、上記の理由からバイオマス資源から誘導されるポリエステル原料中に含まれる場合がある。その場合は、特に原料の精製を行わず、そのまま金属を含む原料として使用してもよい。しかしながら、製造するポリエステルによってはポリエステル原料中に含まれるナトリウムやカリウム等の1族金属元素の含有量が少ない程、高重合度のポリエステルが製造しやすい場合がある。その様な場合には1族金属元素が実質含まれない程度まで精製された原料が好的に使用される。」

(2f)「【0190】
<窒素原子含有量 5ppmのバイオマス資源由来コハク酸を用いたポリエステルの製造>
実施例1
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧用排気口を備えた反応容器に、窒素原子含有量 5ppmのバイオマス資源由来コハク酸100重量部(YI=2.5)、三菱化学社製工業グレードの1,4-ブタンジオール88.5重量部、リンゴ酸0.37重量部ならびに触媒として二酸化ゲルマニウムを予め0.98重量%溶解させた88%乳酸水溶液5.4重量部を仕込み、窒素?減圧置換によって系内を窒素雰囲気下にした。
【0191】
次に、系内を撹拌しながら220℃に昇温し、この温度で1時間反応させた。次に、30分かけて230℃まで昇温し、同時に1.5時間かけて0.07×10^(3)Paになるように減圧し、同減圧度で1.8時間反応を行い重合を終了し、白色のポリエステル(黄色度YIは11)を得た。
得られたポリエステル中の窒素原子含有量は、2ppm、ポリエステルの還元粘度(ηsp/c)は2.5、末端カルボキシル基量は26当量/トンあった。尚、得られたポリエステル(0.5g)は、1dLのフェノール/テトラクロロエタン(1/1(質量比)混合液)に室温で均一に溶解した。
【0192】
得られたポリエステルを、インフレ成形機を用いて成形温度160℃、ブロー比2.5、厚み20μmとしフィルム成形を行った。成形したフィルムを5cm×18cmの大きさに切り取り、土壌に埋設した。1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月のフィルムの重量減少率を測定し、生分解試験を行った。結果を表1に示す。
【0193】
実施例2
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧用排気口を備えた反応容器に、実施例1の窒素原子含有量 5ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸100重量部、旭化成(株)社製工業グレードのアジピン酸32重量部、三菱化学(株)社製工業グレードの1,4-ブタンジオール111.6重量部、リンゴ酸0.48重量部ならびに触媒として二酸化ゲルマニウムを予め0.98重量%溶解させた88%乳酸水溶液7.2重量部を仕込み、窒素?減圧置換によって系内を窒素雰囲気下にした。
次に、系内を撹拌しながら220℃に昇温し、この温度で1時間反応させた。次に、30分かけて230℃まで昇温し、同時に1.5時間かけて0.07×10^(3)Paになるように減圧し、同減圧度で1.6時間反応を行い重合を終了し、実施例1と同様の白色のポリエステル(黄色度YIは13)を得た。
得られたポリエステルの還元粘度(ηsp/c)は2.4、末端カルボキシル基量は22当量/トンあった。尚、得られたポリエステル(0.5g)は、1dLのフェノール/テトラクロロエタン(1/1(質量比)混合液)に室温で均一に溶解した。
【0194】
実施例3
原料として、実施例1の窒素原子含有量 5ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸100重量部、三菱化学(株)社製工業グレードの1,4-ブタンジオール81.4重量部、エチレングリコール6.3重量部、リンゴ酸0.37重量部ならびに触媒として二酸化ゲルマニウムを予め0.98重量%溶解させた88%乳酸水溶液5.4重量部を使用した以外は実施例2と同様の重縮合反応条件によって実施例2と同様の白いポリエステルを得た(還元粘度(ηsp/c)は2.4。末端カルボキシル基量は21当量/トン。)。尚、得られたポリエステル(0.5g)は、1dLのフェノール/テトラクロロエタン(1/1(質量比)混合液)に室温で均一に溶解した。
【0195】
実施例4
原料として、実施例1の窒素原子含有量 5ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸100重量部、三菱化学(株)社製工業グレードの1,4-ブタンジオール81.4重量部、1,4-シクロヘキサンジメタノール12.3重量部、リンゴ酸0.37重量部ならびに触媒として二酸化ゲルマニウムを予め0.98重量%溶解させた88%乳酸水溶液5.4重量部を使用した以外は実施例2と同様の重縮合反応条件によって実施例2と同様の白いポリエステルを得た(還元粘度(ηsp/c)は2.6。末端カルボキシル基量は17当量/トン。)。0.07×10^(3)Paの減圧下での重合反応時間は3.8時間かかった。尚、得られたポリエステル(0.5g)は、1dLのフェノール/テトラクロロエタン(1/1(質量比)混合液)に室温で均一に溶解した。
【0196】
実施例5
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧用排気口を備えた反応容器に、実施例1の窒素原子含有量 5ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸100重量部、三菱化学(株)社製工業グレードの1,4-ブタンジオール80.4重量部ならびにリンゴ酸0.37重量部を仕込み、窒素?減圧置換によって系内を窒素雰囲気下にした。
次に、系内を撹拌しながら220℃に昇温し、この温度で1時間反応させた。次に、0.11重量部のテトラ-n-ブチルチタネートを0.4重量部のブタノールに希釈した触媒液を反応系へ添加後、30分かけて230℃まで昇温し、同時に1.5時間かけて0.07×10^(3)Paになるように減圧し、同減圧度で2時間反応を行い重合を終了し、実施例1と同様の白色のポリエステルを得た(還元粘度(ηsp/c)は2.5。末端カルボキシル基量は11当量/トン。)。尚、得られたポリエステル(0.5g)は、1dLのフェノール/テトラクロロエタン(1/1(質量比)混合液)に室温で均一に溶解した。
【0197】
実施例6
実施例1において、リンゴ酸0.37重量部の代わりにリンゴ酸0.74重量部を仕込んだ以外は実施例1と同様の重縮合反応条件によってポリエステルを製造した。0.07×10^(3)Paの減圧下での重合反応時間は1.1時間であった。得られたポリエステルの還元粘度(ηsp/c)は3.2、末端カルボキシル基量は63当量/トンあった。尚、得られたポリエステル(0.5g)は、1dLのフェノール/テトラクロロエタン(1/1(質量比)混合液)に室温でほぼ均一に溶解したが、少量の不溶物が観測された。
【0198】
<窒素原子含有量 12ppmのバイオマス資源由来コハク酸を用いたポリエステル>
実施例7
原料として、実施例1の窒素原子5ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸100重量部の代わりに窒素原子12ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸(黄色度YIは7)100重量部を使用した以外は実施例1と同様の重縮合反応条件によってポリエステルを製造した。0.07×10^(3)Paの減圧下での重合反応時間は2時間であった。
得られたポリエステル(黄色度YIは22)中の窒素原子含量は、3.6ppm、ポリエステルの還元粘度(ηsp/c)は2.3、末端カルボキシル基量は19当量/トンあった。尚、得られたポリエステル(0.5g)は、1dLのフェノール/テトラクロロエタン(1/1(質量比)混合液)に室温で均一に溶解した。
【0199】
<窒素原子含有量 19ppmのバイオマス資源由来コハク酸を用いたポリエステル>
実施例8
原料として、実施例1の窒素原子5ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸100重量部の代わりに窒素原子19ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸(黄色度YIは8)100重量部を使用した以外は実施例1と同様の重縮合反応条件によってポリエステルを製造した。0.07×10^(3)Paの減圧下での重合反応時間は2.4時間であった。
得られたポリエステル(黄色度YIは18)中の窒素原子含量は、14ppm、ポリエステルの還元粘度(ηsp/c)は2.5、末端カルボキシル基量は19当量/トンあった。尚、得られたポリエステル(0.5g)は、1dLのフェノール/テトラクロロエタン(1/1(質量比)混合液)に室温で均一に溶解した。
【0200】
<窒素原子含有量 115ppmのバイオマス資源由来コハク酸を用いたポリエステル>
実施例9
原料として、実施例1の窒素原子5ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸100重量部の代わりに窒素原子115ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸100重量部を使用した以外は実施例1と同様の重縮合反応条件によってポリエステルを製造した。0.07×10^(3)Paの減圧下での重合反応時間は2.9時間であった。
得られたポリエステル(黄色度YIは23)中の窒素原子含量は、19ppm、ポリエステルの還元粘度(ηsp/c)は2.5、末端カルボキシル基量は19当量/トンあった。尚、得られたポリエステル(0.5g)は、1dLのフェノール/テトラクロロエタン(1/1(質量比)混合液)に室温で均一に溶解した。
【0201】
<窒素原子含有量 180ppmのバイオマス資源由来コハク酸を用いたポリエステル>
実施例10
原料として、実施例1の窒素原子5ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸100重量部の代わりに窒素原子180ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸100重量部を使用した以外は実施例1と同様の重縮合反応条件によってポリエステルを製造した。0.07×10^(3)Paの減圧下での重合反応時間は2.6時間であった。
得られたポリエステル(黄色度YIは37)中の窒素原子含量は、22ppm、ポリエステルの還元粘度(ηsp/c)は2.6、末端カルボキシル基量は19当量/トンあった。尚、得られたポリエステル(0.5g)は、1dLのフェノール/テトラクロロエタン(1/1(質量比)混合液)に室温で均一に溶解した。
【0202】
<窒素原子含有量 230ppmのバイオマス資源由来コハク酸を用いたポリエステル>
実施例11
原料として、実施例1の窒素原子5ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸100重量部の代わりに窒素原子230ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸(黄色度YIは11)100重量部を使用した以外は実施例1と同様の重縮合反応条件によってポリエステルを製造した。0.07×10^(3)Paの減圧下での重合反応時間は2.6時間であった。
得られたポリエステル(黄色度YIは39)中の窒素原子含量は、27ppm、ポリエステルの還元粘度(ηsp/c)は2.4、末端カルボキシル基量は19当量/トンあった。尚、得られたポリエステル(0.5g)は、1dLのフェノール/テトラクロロエタン(1/1(質量比)混合液)に室温で均一に溶解した。
【0203】
<窒素原子含有量 660ppmのバイオマス資源由来コハク酸を用いたポリエステル>
実施例12
原料として、実施例1の窒素原子5ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸100重量部の代わりに窒素原子660ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸(黄色度YIは8)100重量部を使用した以外は実施例1と同様の重縮合反応条件によってポリエステルを製造した。0.07×10^(3)Paの減圧下で2.5時間重合反応を実施したが得られたポリエステルはこげ茶に着色した(黄色度YIは60以上)。
得られたこげ茶のポリエステル中の窒素原子含量は、54ppm、ポリエステルの還元粘度(ηsp/c)は0.7、末端カルボキシル基量は139当量/トンあった。得られたポリエステル(0.5g)は、1dLのフェノール/テトラクロロエタン(1/1(質量比)混合液)に室温で溶解させようと試みたが、かなりの量の溶け残りが観測された。
【0204】
<窒素原子含有量 5ppmのバイオマス資源由来コハク酸と窒素原子0.7ppmを含有するバイオマス資源由来1,4-ブタンジオールを用いたポリエステルを用いたポリエステル>
実施例13
原料として、実施例1の三菱化学社製工業グレードの1,4-ブタンジオール88.5重量部の代わりに窒素原子0.7ppmを含有するバイオマス資源から誘導した1,4-ブタンジオール88.5重量部を使用した以外は実施例1と同様の重縮合反応条件によってポリエステルを製造した。0.07×10^(3)Paの減圧下での重合反応時間は3時間であった。
得られたポリエステル(黄色度YIは-1)中の窒素原子含量は、2.1ppm、ポリエステルの還元粘度(ηsp/c)は2.5、末端カルボキシル基量は21当量/トンあった。尚、得られたポリエステル(0.5g)は、1dLのフェノール/テトラクロロエタン(1/1(質量比)混合液)に室温で均一に溶解した。
【0205】
<窒素原子を含まない石油由来コハク酸と窒素原子0.7ppmを含有するバイオマス資源由来1,4-ブタンジオールを用いたポリエステル>
実施例14
原料として、実施例1の窒素原子5ppmを含有するバイオマス資源から誘導したコハク酸100重量部の代わりに窒素原子を含まない石油由来コハク酸(川崎化成(株)社製工業グレード(黄色度YIは2)100重量部に、三菱化学社製工業グレードの1,4-ブタンジオール88.5重量部の代わりに窒素原子0.7ppmを含有するバイオマス資源から誘導した1,4-ブタンジオール88.5重量部を使用した以外は実施例1と同様の重縮合反応条件によってポリエステルを製造した。0.07×10^(3)Paの減圧下での重合反応時間は3.4時間であった。
得られたポリエステル(黄色度YIは7)中の窒素原子含量は、0.5ppm、ポリエステルの還元粘度(ηsp/c)は2.5、末端カルボキシル基量は28当量/トンあった。尚、得られたポリエステル(0.5g)は、1dLのフェノール/テトラクロロエタン(1/1(質量比)混合液)に室温で均一に溶解した。
【0206】
<窒素原子を含まない石油由来ジメチルテレフタレートと窒素原子0.7ppmを含有するバイオマス資源由来1,4-ブタンジオールを用いたポリエステル>
実施例15
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧用排気口を備えた反応容器に、ジメチルテレフタレート132重量部、窒素原子0.7ppmを含有するバイオマス資源から誘導した1,4-ブタンジオール74重量部ならびに触媒としてテトラブチルチタネートを予め6重量%溶解させた1,4-ブタンジオール溶液1.7重量部を仕込み、窒素-減圧置換によって系内を窒素雰囲気下にした。
次に、系内を撹拌しながら150℃まで加温後、215℃に昇温させながら3時間反応させた。次に、245℃まで昇温し、同時に1.5時間かけて0.07×10^(3)Paになるように減圧し、同減圧度で1.5時間反応を行い重合を終了し、白色のポリエステル(黄色度YIは0.4)を得た。
得られたポリエステル中の窒素原子含有量は、0.4ppm、ポリエステルの還元粘度(ηsp/c)は1.2、末端カルボキシル基量は21当量/トンあった。尚、得られたポリエステル(0.5g)は、1dLのフェノール/テトラクロロエタン(1/1(質量比)混合液)に室温で均一に溶解した。
本実施例の検討において、ポリエステル中の窒素原子の含有量が高いほど生分解性が高い傾向があることが見出された。一方、窒素原子の含有量が多いほどポリエステルの着色や重合阻害が著しくなる傾向があることが判る。また、窒素原子の含有量が多いほど、一部ゲル化により生成したと考えられる有機溶媒に対する不溶物が多くなる傾向があり、これらが製品中へ混入されると製品の景観を損ねたり、物性の低下が引き起こされる。」

(3)甲第3号証
(3a)「テレフタル酸を主とするジカルボン酸成分と、1,4-ブタンジオールを主とするグリコール成分とからエステル化反応、及び重縮合反応を経由してポリブチレンテレフタレートを製造するに際し、下記一般式( I )で示されるチタン酸エステル、及び一般式(II)で示されるアルカノールアミンを添加することを特徴とするポリブチレンテレフタレート系重合体の製造法。


」(特許請求の範囲(1))

(3b)「チタン酸エステルに代表される有機チタン化合物はそのエステル化反応に対する優れた触媒活性を有する反面、水によって容易に加水分解を受け,かつ失活し易いという本質的な欠点を有するため、前記した反応の場にあっては触媒活性に持続性が保てず、エステル化反応のみならず、引続き行なわれる重縮合反応過程では失活分に見合う触媒を補填する等の煩雑な手段が新たに必要となった。該エステル化反応の前半と後半とに有機チタン化合物を分割添加する等(特開昭49-57092号公報)もその-例である。
チタン酸エステル触媒がエステル化反応または重縮合反応過程で生成する水によって加水分解されて失活した触媒残渣は、エステル化生成物または重合体中に不溶化し、溶融状態の重合体にあっては透明性の悪化、溶液状態の重合体にあっては溶液へイズの悪化となってあられれる。かかる重合体中の不溶化物は時に異物となり、それが著しい場合には成形物または糸に対して強度斑ないし強度低下の原因となるなどの問題を有していた。」(2頁左下欄7行?右下欄6行)

(3c)「[発明が解決しようとする問題点]
本発明の目的は、TPAを主とするジカルボン酸とBGを主とするグリコールとから、濁りの少ない高品質PBTの工業的製造法を提供するにある。また他の目的は、酢酸を含有するTPA並びに酢酸および/またはそのグリコールエステルを含有するBGを原料として濁りの少ないPBTの工業的製造法を提供するにある。」(3頁左下欄5?12行)

(3d)「本発明におけるエステル化または重縮合反応触媒としては、前記(I)式で示されるチタン酸エステルで、具体的にはチタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトライソプロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステル、あるいはこれらのアルキル混合エステル等である。これらのうち、特にテトラ-n-プロピルエステル、テトライソプロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステルが好ましい。
これらのチタン酸エステルは、一種もしくは二種以上を組み合せて用いてもよく、またエステル化,重縮合反応時に同一種または異種の有機チタン化合物を用いてもよく、さらに該有機チタン化合物を適当な有機溶剤と一緒に添加するのもよい。この場合の有機溶剤には通常エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、2-エチルヘキサノール、エチレングリコール、BGなどが用いられる。
また該チタン酸エステルの添加量は最終的に得られるポリマに対し通常0.005?0.5重量%、好ましくは0.01?0.2重量%である。
さらに該チタン酸エステルの添加時期は、エステル化反応前の一括添加、あるいは反応途中の分割添加であってもよい。
かかるチタン酸エステルと共に併用される一般式(II)で示されるアルカノールアミンには、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-メチルアミノエタノール、2-エチルアミノエタノール、2-ブチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジブチルアミノエタノール、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、アミノプロパノール、ジメチルアミノプロパノール、2-アミノブタノール、ジエチルアミノペンチン-2-オール-4、トリイソプロパノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノール、ジシクロへキシルアミノプロパノール、ジフェニルアミノエタノール等がある。これらのうち、特に脂肪族系アルカノールアミンを中心としたものが好ましく、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチル-ジエタノールアミン等が特に好ましい。
これらのアルカノールアミンは、一種もしくは二種以上を組み合せて用いてもよく、またエステル化,重縮合反応時に同一種または異種のアルカノールアミンを用いてもよく、さらに該アルカノールアミンをBG等の適当な有機溶剤と一緒に添加するのもよい。
該アルカノールアミンの添加量は最終的に得られるポリマに対し通常0.005?0.5重量%、好ましくは0.01?0.2重量%である。
また該アルカノールアミンの添加時期は、エステル化反応前の一括添加、あるいは反応途中の分割添加であってもよいが、濁りの少ないPBTを得るためには反応系内において前記(I)式で示されるチタン酸エステルが存在する場合には、必ず前記一般式(II)で示されるアルカノールアミンの相当量が存在するように添加時期を考慮する必要がある。」(4頁右上欄5行?5頁左上欄7行)

(3e)「実施例1
0.08重量%の酢酸を含有するTPA755部、BG696部(BG/TPAモル比1.7)およびテトラ-n-ブチルチタネート0.50部とジエタノールアミン0.50部とを精留塔の付いた反応器に仕込み、180℃で、常圧下にエステル化反応を開始し、徐々に昇温し、最終的に230℃に到達させた。エステル化反応開始後、3時間25分後に反応が完結した。この時の副生THFは94部であった。得られた反応生成物の一部をオートクレーブに移し、前記チタン化合物を生成ポリマ100部に対してさらに0.05部とジエタノールアミン0.05部とを追添加し、245℃で徐々に減圧にし、lmmHg以下で重縮合反応を行わせた。3時間35分後に固有粘度が0.90の溶融透明性に優れたポリマが得られた。またポリマの溶液へイズは0.2%であった。
比較例1
実施例1において、エステル化ないし重縮合反応触媒としてテトラ-n-ブチルチタネートを各0.5部添加し、反応を実施した結果、副生THF95部の副生を伴い、エステル化時間3時間45分で反応を完結した。また重縮合時間は3時間50分であった。そして生成ポリマの溶融時の透明性がやや不良で、ポリマの溶液へイズは8%、固有粘度は0.90であった。
実施例2
TPA(酢酸含有率0.02wt%)529部、イソフタル酸(IPA)(酢酸含有率0.03wt%)226部およびBG327部[BG/(TPA+IPA)モル比0.8]並びに触媒としてテトラ-n-ブチルチタネート0.50部、トリエタノールアミン0.50部、及びモノブチルスズヒドロキシド0.50部を精留塔の付いた反応器に仕込み、180℃で、500mmHgの減圧下にエステル化反応を開始し、徐々に昇温すると共にBG164部(BG/二塩基酸モル比0.4)を連続的に追添加した。エステル化反応開始後、3時間24分(このときの温度は240℃)後に反応を完結させた。この時の反応率は98.4%であった。得られた反応生成物の一部をオートクレーブに移し、前記チタン化合物を生成ポリマ100部に対してさらに0.05部と亜燐酸0.02部とを添加し、245℃で徐々に減圧にし、1mmHg以下で重縮合反応を行わせた。3時間20分後に固有粘度が0.91の溶融透明性に優れたポリマが得られた。またポリマの溶液へイズは0.6%であった。 」(6頁左上欄14行?左下欄20行)

5 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 甲第1号証を主引用例とした場合
(ア)甲第1号証記載の発明について
上記摘記事項(1a)には、請求項1として、ジカルボン酸エステル形成誘導体と、1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、触媒として有機チタン化合物を用い、エステル化反応し、次いで重縮合反応することによりポリエステルを製造するに際し、前記有機チタン化合物と共に、ヒドロキシアルキル基を1つ以上含有する環状化合物を反応系へ添加するポリエステルの製造法が記載され、請求項2には、前記有機チタン化合物と前記環状化合物を予め混合して反応系へ添加するポリエステルの製造法が記載され、請求項3には、環状化合物として、ベンジルアルコール、p-キシリレングリコール、2-ピリジンメタノールおよび2,6-ピリジンジメタノールから選ばれた少なくとも1種であるポリエステルの製造法が記載され、摘記(1c)には、本発明において使用される触媒は、有機チタン化合物であり、有機チタン化合物を適当な有機溶媒と一緒に添加してもよく、この場合の有機溶媒としては、1,4-ブタンジオールなどが例示されており、摘記(1e)には、環状化合物の添加時期について、有機溶剤を用いて有機チタン化合物と上記環状化合物の混合溶液を作成し、それを添加することが最も好ましいと記載されており、直接重合法を用いる場合には、まずエステル化反応を行ってオリゴマーとし、次いで重縮合反応することによりポリエステルを製造することが記載されており、摘記(1f)には、実施例1において、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを用いてエステル化反応を行い、次いで重縮合反応を行ったこと、実施例2において、有機溶剤として1,4-ブタンジオールを用いて、テトラ-n-ブチルチタネートとp-キシリレングリコールを混合した溶液を作成して添加した以外は、実施例1と同様にして行ったこと、実施例3において、p-キシリレングリコールの代わりに、2-ピリジンメタノールをTBTに対し4.0モル倍になるように用いてエステル化反応および重縮合反応した以外は、実施例2と同様にして行ったこと、実施例4において、2-ピリジンメタノールをTBTに対し1.2モル倍に減量してエステル化反応および重縮合反応した以外は、実施例3と同様にして行ったことが記載されている。

したがって、甲第1号証には、「ジカルボン酸と、1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、触媒として有機チタン化合物を用い、エステル化反応を行い、次いで重縮合反応することによりポリエステルを製造するに際し、有機溶剤として1,4-ブタンジオールを用いて、テトラ-n-ブチルチタネートと共に、2-ピリジンメタノールを混合した溶液を作成して、反応系へ添加し、エステル化反応を開始するポリエステルの製造法」(以下、「甲1発明」という。)が開示されているといえる。

本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ジカルボン酸と、1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、」「エステル化反応を行う」は、本件発明1の「1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分とジカルボン酸成分とをエステル化反応及び/又はエステル交換反応を行」う「エステル化工程」に相当し、甲1発明の「次いで重縮合反応することによりポリエステルを製造する」は、本件発明1の「重縮合反応させてポリエステルを得る重縮合工程」に相当し、甲1発明の「ポリエステルの製造法」は、本件発明1の「ポリエステルの製造方法」に相当する。
また、甲1発明の「触媒として有機チタン化合物」である「テトラ-n-ブチルチタネート」は、本件発明1の「反応触媒としてTi化合物」に該当し、甲1発明の「2-ピリジンメタノール」は、本件発明1の「窒素化合物」に該当する。
そして、甲1発明の「有機溶剤として1,4-ブタンジオールを用いて、テトラ-n-ブチルチタネートと共に、2-ピリジンメタノールを混合した溶液を作成して、反応系へ添加」することは、本件発明1の「反応触媒としてTi化合物を使用し、該Ti化合物が窒素原子として0.1重量ppm以上40,000重量ppm以下の窒素化合物を含有する1,4-ブタンジオールで希釈されたTi化合物溶液として、反応系に添加される」こととの対比において、 「反応触媒としてTi化合物を使用し、該Ti化合物が窒素化合物を含有する1,4-ブタンジオールで希釈されたTi化合物溶液として、反応系に添加される」限りにおいて、一致している。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、「1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分とジカルボン酸成分とをエステル化反応を行うエステル化工程、並びに、重縮合反応させてポリエステルを得る重縮合工程からなるポリエステルの製造方法において、反応触媒としてTi化合物を使用し、該Ti化合物が窒素化合物を含有する1,4-ブタンジオールで希釈されたTi化合物溶液として、反応系に添加されるポリエステルの製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1-1:Ti化合物を希釈する1,4-ブタンジオールが、含有する窒素化合物について、本件発明1では、Ti化合物溶液に含有される窒素化合物の濃度が、窒素原子として0.1重量ppm以上40,000重量ppm以下と特定されているのに対して、甲1発明では、Ti化合物溶液に含有される窒素化合物に相当する2-ピリジンメタノールの窒素原子としての濃度が明らかでない点
相違点1-2:ポリエステルの製造方法の製造工程に関して、本件発明1では、エステル化反応及び/又はエステル交換反応を行いオリゴマーを得るエステル化工程が特定されているのに対して、甲1発明においてはエステル化工程によってオリゴマーを得ているかどうか明らかでない点

(イ)相違点の判断
a 相違点1-1について
甲第1号証には、摘記(1f)の実施例3,4に、有機溶剤として1,4-ブタンジオールを用いて、窒素を含有する、ヒドロキシアルキル基を1つ以上含有する環状化合物である2-ピリジンメタノールをTBT(テトラ-n-ブチルチタネート)に対してそれぞれ、4.0モル倍又は1.2倍モルになるように用いて、エステル化反応および重縮合反応したことが記載されているものの、有機溶剤としてTi化合物を希釈する1,4-ブタンジオールが含有する、2-ピリジンメタノールの含有量については全く記載されていないし、希釈する1,4-ブタンジオールをどの程度の量用いたかも記載されてはいない。
さらに、甲第1号証には、摘記(1e)の【0026】に、「本発明のポリエステルの製造法においては、上記有機チタン化合物と共に、ヒドロキシアルキル基を1つ以上含有する環状化合物を反応系へ添加することが必須の要件であり、これにより異物の少ないポリエステルを製造することが可能となる。」と記載され、実施例全体をみても、上記環状化合物として、窒素を含有するものも、含有しないものも、ともに摘記(1b)に示された溶液ヘイズの悪化という課題を解決できることが摘記(1g)の【0042】の表1で示されいるだけであり、甲第1号証に記載されている実施例の2-ピリジンメタノールの配合割合は、摘記(1e)の【0031】に記載されている生成されるポリエステルや有機チタン化合物に対する割合であって、本件発明1の割合とは意味が異なり、Ti化合物を希釈する1,4-ブタンジオールが含有する窒素化合物の窒素原子の含有濃度を特定の範囲に特定しようとする動機付けもない。
したがって、甲1発明において、Ti化合物を希釈する1,4-ブタンジオールに関して、窒素原子として0.1重量ppm以上40,000重量ppm以下の窒素化合物を含有するという相違点1-1に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到するものとはいえない。

その他、甲第2号証の摘記(2d)摘記(2f)には、エステル化反応の原料としてのジオール成分として、1,4-ブタンジオールの窒素含有量を特定する記載があり、甲第3号証の摘記(3c)には、反応系に直接投入するアルカノールアミンの量の記載はあるものの、いずれも、Ti化合物を希釈する1,4-ブタンジオールに関して、窒素原子の含有濃度を特定する記載はなく、それらの記載を併せて検討しても、甲1発明において、相違点1-1の構成を備えることは、当業者が容易に想到するものとはいえない。

b 相違点1-2について
摘記(1e)には、「本発明において、直接重合法を用いる場合には、まずエステル化反応を行ってオリゴマーとし、次いで重縮合反応することによりポリエステルを製造する。」との記載があり、エステル化反応を行ってオリゴマーとすることが示唆されているので、甲1発明において、エステル化反応を行いオリゴマーを得るとの相違点1-2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

c しかしながら、上記aで述べたとおり、甲1発明において、相違点1-1の構成を備えることが容易でない以上、本件発明1を甲1発明から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。


(ウ)効果について
本願明細書【0063】の【表1】に示されるように、本件発明1は、Ti化合物を希釈する1,4-ブタンジオールに関して、窒素原子として0.1重量ppm以上40,000重量ppm以下の窒素化合物を含有するものとすることで、触媒の安定性が高く、色調が良好で、異物の少ないポリエステルを製造することが可能であるという効果が奏しているといえ、このような効果は、甲第1?3号証の記載から、当業者が容易に予測し得たものとはいえない。

(エ)異議申立人は、特許異議申立書8頁10?14行において、甲第1号証の実施例2,3の記載からTi化合物溶液の窒素含有量が導き出せ、本件発明1が甲第1号証に記載されている旨主張しているが、上述のとおり、実施例および甲第1号証のその他の記載を参酌しても、Ti化合物を希釈してTi化合物溶液を形成するための1,4-ブタンジオールが、窒素原子として0.1重量ppm以上40,000重量ppm以下の窒素化合物を含有する点は記載がなく、また示唆する記載もないので、上記異議申立人の主張は採用できない。

(オ)したがって、本件発明1は、甲1発明であるとも、甲1発明及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 甲第2号証を主引用例とした場合
(ア)甲第2号証記載の発明について
摘記(2a)には、ジカルボン酸とジオールとの反応によりポリエステルを製造する方法において、反応に供するジカルボン酸原料及びジオール原料の少なくとも一つがバイオマス資源から誘導されたものであり,該バイオマス資源から誘導されたジカルボン酸原料及びジオール原料中の窒素原子含有量が、原料の総和に対して質量比で0.01ppm以上2000ppm以下であるバイオマス資源由来ポリエステルの製造方法が記載され、摘記(2e)には、本発明においては、重合触媒として、チタン化合物が例示されており、摘記(2f)には、実施例15として、窒素原子を含まない石油由来ジメチルテレフタレートと窒素原子0.7ppmを含有するバイオマス資源由来1,4-ブタンジオールを用いたポリエステルとの標題で、ジメチルテレフタレート1、窒素原子0.7ppmを含有するバイオマス資源から誘導した1,4-ブタンジオールならびに触媒としてテトラブチルチタネートを予め6重量%溶解させた1,4-ブタンジオール溶液を仕込み、窒素雰囲気下で、系内を撹拌しながら150℃まで加温後、215℃に昇温させながら3時間反応させ、245℃まで昇温し、同時に1.5時間かけて0.07×10^(3)Paになるように減圧し、同減圧度で1.5時間反応を行い重合を終了し、白色のポリエステルを得たことが記載されている。

したがって、甲第2号証には、「ジカルボン酸とジオールとの反応によりポリエステルを製造する方法において、窒素原子を含まない石油由来ジメチルテレフタレートと窒素原子0.7ppmを含有するバイオマス資源由来1,4-ブタンジオール、触媒としてテトラブチルチタネートを予め6重量%溶解させた1,4-ブタンジオール溶液を系内に仕込んで重合させるポリエステルの製造方法」(以下、「甲2発明」という。)が開示されているといえる。

本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「ジカルボン酸とジオールとの反応によりポリエステルを製造する方法」は、本件発明1の「ジオール成分とジカルボン酸成分とをエステル化反応を行」う「ポリエステルの製造方法」に相当し、甲2発明の「窒素原子0.7ppmを含有するバイオマス資源由来1,4-ブタンジオール」は、本件発明1の「1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分」に該当し、甲2発明の「触媒としてテトラブチルチタネートを予め6重量%溶解させた1,4-ブタンジオール溶液を系内に仕込んで重合させる」ことは、本件発明1の「反応触媒としてTi化合物を使用し、該Ti化合物が」「1,4-ブタンジオールで希釈されたTi化合物溶液として、反応系に添加される」ことに該当する。

したがって、本件発明1と甲2発明とは、「1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分とジカルボン酸成分とをエステル化反応を行い、反応触媒としてTi化合物を使用し、該Ti化合物が1,4-ブタンジオールで希釈されたTi化合物溶液として、反応系に添加されるポリエステルの製造方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点2-1:Ti化合物を希釈する1,4-ブタンジオールが、含有する成分について、本件発明1では、Ti化合物溶液に含有される窒素化合物の濃度が窒素原子として0.1重量ppm以上40,000重量ppm以下とされているのに対して、甲2発明では、Ti化合物を希釈する1,4-ブタンジオールが、窒素原子として0.1重量ppm以上40,000重量ppm以下の窒素化合物を含有するのかどうか不明である点
相違点2-2:ポリエステルの製造方法の製造工程に関して、本件発明1では、エステル化反応及び/又はエステル交換反応を行いオリゴマーを得るエステル化工程、並びに、オリゴマーを重縮合反応させてポリエステルを得る重縮合工程からなることが特定されているのに対して、甲2発明においては、上記両工程からなることが明らかでない点

(イ)相違点の判断
a 相違点2-1について
甲第2号証には、摘記(2d)(2f)に、エステル製造原料としての1,4-ブタンジオールには、特定量の窒素が含有しているバイオマス資源から誘導されたものが記載されているものの、甲2の摘記(2d)の窒素原子「2000ppm以下」「0.01ppm以上」摘記(2f)の「0.7ppm」とは、ジオール原料中の窒素原子含有量という意味であり、本件発明1における触媒としてチタン化合物を予め溶解させた1,4-ブタンジオール溶液の窒素原子濃度という意味ではない。
そして、触媒としてテトラブチルチタネートを予め6重量%溶解させた1,4-ブタンジオール溶液に関しては、窒素原子として0.1重量ppm以上40,000重量ppm以下の窒素化合物を含有するものか全く記載されていない。
さらに、実施例全体をみると、摘記(2f)の他の実施例中、テトラブチルチタネート以外の他の触媒を用いた場合もいずれも窒素含有濃度を特定したものではなく、触媒を溶解させる溶液の窒素含有濃度に着目した記載はない。
したがって、甲2発明において、触媒としてテトラブチルチタネートを予め6重量%溶解させた1,4-ブタンジオール溶液の窒素原子濃度を特定して、さらに窒素原子として0.1重量ppm以上40,000重量ppm以下の窒素化合物を含有するという相違点2-1に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到するものとはいえない。

その他、甲第1号証、甲第3号証の記載を併せて検討しても、いずれも、Ti化合物を希釈する1,4-ブタンジオールに関して、窒素原子の含有濃度を特定する記載はなく、それらの記載を併せて検討しても、相違点2-1の構成を備えることは、当業者が容易に想到するものとはいえない。

b 相違点2-2について
甲第2号証には、エステル化工程において、エステル化反応及び/又はエステル交換反応を行いオリゴマーを得ることや、重縮合工程において、オリゴマーを重縮合反応させてポリエステルを得ることに関して記載がなく、そのような点の示唆もない。そして、甲第1号証の摘記(1e)のオリゴマーに関する技術的事項を組み合わせる動機付けもないので、甲2発明において、相違点2-2の構成とすることは当業者が容易になし得るものとはいえない。

(ウ)効果について
上記ア(ウ)のとおり、本願明細書【0063】の【表1】に示されるように、本件発明1は、Ti化合物を希釈する1,4-ブタンジオールに関して、窒素原子として0.1重量ppm以上40,000重量ppm以下の窒素化合物を含有するものとすることで、触媒の安定性が高く、色調が良好で、異物の少ないポリエステルを製造することが可能であるという効果が奏しているといえ、このような効果は、甲第1?3号証の記載から、当業者が容易に予測し得たものとはいえない。

(エ)異議申立人は、特許異議申立書15頁23行?16頁15行において、甲第2号証には、テトラブチルチタネートが、窒素原子含有量が0.01ppm以上、2000ppm以下のジオールで希釈された1,4-ブタンジオール溶液として添加される甲2発明が記載されており、本件発明1が甲第2号証に記載されている旨主張しているが、上述のとおり、異議申立人の指摘する窒素原子含有量範囲は、原料としての1,4-ブタンジオールに関するもので、実施例および甲第2号証のその他の記載を参酌しても、Ti化合物を希釈してTi化合物溶液を形成するための1,4-ブタンジオールが、窒素原子として0.1重量ppm以上40,000重量ppm以下の窒素化合物を含有する点は記載がなく、また示唆する記載もないので、上記異議申立人の主張は採用できない。

(オ)したがって、本件発明1は、甲2発明であるとも、甲2発明及び甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

ウ 甲第3号証を主引用例とした場合
申立人は、甲第3号証を主引用例とはしていないが、念のため甲第3号証を主引用例とする場合についても検討する。

(ア)甲第3号証記載の発明について
摘記(3a)には、テレフタル酸を主とするジカルボン酸成分と、1,4-ブタンジオールを主とするグリコール成分とからエステル化反応、及び重縮合反応を経由してポリブチレンテレフタレートを製造するに際し、前記一般式(I)で示されるチタン酸エステル、及び一般式(II)で示されるアルカノールアミンを添加するポリブチレンテレフタレート系重合体の製造法が記載され、摘記(3d)には、エステル化または重縮合反応触媒としては、前記(I)式で示されるチタン酸エステルであることが記載され、摘記(3e)には、実施例1として、0.08重量%の酢酸を含有するTPA755部、BG696部およびテトラ-n-ブチルチタネート0.50部とジエタノールアミン0.50部とを精留塔の付いた反応器に仕込み、180℃で、常圧下にエステル化反応を開始し、徐々に昇温し、最終的に230℃に到達させ、エステル化反応開始後、3時間25分後に反応が完結したこと、得られた反応生成物の一部をオートクレーブに移し、前記チタン化合物を生成ポリマ100部に対してさらに0.05部とジエタノールアミン0.05部とを追添加し、245℃で徐々に減圧にし、lmmHg以下で重縮合反応を行わせたことが記載されている。

したがって、甲第3号証には、「テレフタル酸を主とするジカルボン酸成分と、1,4-ブタンジオールを主とするグリコール成分とからエステル化反応、及び重縮合反応を経由してポリブチレンテレフタレートを製造するに際し、酢酸を含有するテレフタル酸755部、1,4-ブタンジオール696部およびエステル化または重縮合反応触媒としてのテトラ-n-ブチルチタネート0.50部とジエタノールアミン0.50部とを反応器に仕込み、エステル化反応を行い、得られた反応生成物の一部をオートクレーブに移し、lmmHg以下で重縮合反応を行わせた、ポリブチレンテレフタレートの製造法」(以下、「甲3発明」という。)が開示されているといえる。

本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「テレフタル酸を主とするジカルボン酸成分」「1,4-ブタンジオールを主とするグリコール成分」は、それぞれ、本件発明1の「ジカルボン酸成分」「1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分」に該当し、甲3発明の「エステル化反応、及び重縮合反応を経由してポリブチレンテレフタレートを製造する」「製造法」は、本件発明1の「エステル化反応及び/又はエステル交換反応を行いオリゴマーを得るエステル化工程、並びに、オリゴマーを重縮合反応させてポリエステルを得る重縮合工程からなるポリエステルの製造」「方法」との対比において、「エステル化反応を行」う「エステル化工程」、並びに、「重縮合反応させてポリエステルを得る重縮合工程からなるポリエステルの製造方法」である限りにおいて一致しており、甲3発明の「エステル化または重縮合反応触媒としてのテトラ-n-ブチルチタネート」「を反応器に仕込み」は、本件発明1の「反応触媒としてTi化合物を使用し」に該当する。

したがって、本件発明1と甲3発明とは、「1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分とジカルボン酸成分とをエステル化反応を行うエステル化工程、並びに、重縮合反応させてポリエステルを得る重縮合工程からなるポリエステルの製造方法において、反応触媒としてTi化合物を使用し、反応系に添加されるポリエステルの製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点3-1:反応系に添加するTi化合物に関して、本件発明1では、窒素原子として0.1重量ppm以上40,000重量ppm以下の窒素化合物を含有する1,4-ブタンジオールで希釈されたTi化合物溶液として、反応系に添加されるとされているのに対して、甲3発明では、Ti化合物をTi化合物溶液として、反応系に添加されてはいない点
相違点3-2:ポリエステルの製造方法の製造工程に関して、本件発明1では、エステル化反応及び/又はエステル交換反応を行いオリゴマーを得るエステル化工程が特定されているのに対して、甲3発明においては、エステル化反応を行うエステル化工程、並びに、重縮合反応させてポリエステルを得る重縮合工程が存在するものの、エステル化工程においてオリゴマーが得られているかどうか明らかでない点

(イ)相違点の判断
a 相違点3-1について
甲第3号証には、摘記(3d)に、エステル化または重縮合反応触媒としては、前記(I)式で示されるチタン酸エステルの具体例として、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトライソプロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステル、あるいはこれらのアルキル混合エステル等が例示され、これらのチタン酸エステルは、一種もしくは二種以上を組み合せて用いてもよく、またエステル化1重縮合反応時に同一種または異種の有機チタン化合物を用いてもよく、さらに該有機チタン化合物を適当な有機溶剤と一緒に添加するのもよいこと、この場合の有機溶剤には通常エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、2-エチルヘキサノール、エチレングリコール、BGなどが用いられることが記載されているものの、上記摘記(3e)の実施例1、2においては、有機溶剤として1,4-ブタンジオールを用いて希釈し、アルカノールアミンの窒素の量を特定の範囲としたチタン化合物溶液として反応系に添加することは全く記載されていない。
甲3発明のジエタノールアミンは、反応器に仕込むのであり、1,4-ブタンジオールで希釈されたTi溶液に加えて、反応系に添加するものではない。
さらに、実施例全体をみても、有機溶剤で希釈して添加した例がそもそもなく、チタン酸エステルを希釈する有機溶剤に対するアルカノールアミンの濃度も窒素原子としての濃度も特定しようとする動機付けがない。
したがって、甲3発明において、重縮合反応触媒としてのテトラ-n-ブチルチタネート0.50部とジエタノールアミン0.50部とを反応器に仕込むという添加方法を変更し、チタン酸エステルであるテトラ-n-ブチルチタネートをあらかじめ希釈する有機溶剤として、1,4-ブタンジオールを選択し、窒素原子として0.1重量ppm以上40,000重量ppm以下の窒素化合物を含有する1,4-ブタンジオールで希釈されたチタン化合物溶液として反応系に添加するという相違点3-1に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到するものとはいえない。

その他、甲第2号証の摘記(2d)摘記(2f)には、エステル化反応の原料としてのジオール成分として、1,4-ブタンジオールの窒素含有量を特定する記載があり、甲第1号証の摘記(1f)には、1,4-ブタンジオールを用いて、テトラ-n-ブチルチタネートとヒドロキシアルキル基を1つ以上含有する環状化合物としての2-ピリジンメタノールを混合した溶液を作製して添加したことの記載はあるものの、いずれも、Ti化合物を希釈する1,4-ブタンジオールに関して、窒素原子の含有濃度を特定する記載はなく、それらの記載を併せて検討しても、相違点3-1の構成を備えることは、当業者が容易に想到するものとはいえない。

b 相違点3-2について
甲第3号証には、エステル化工程において、エステル化反応及び/又はエステル交換反応を行いオリゴマーを得ることや、重縮合工程において、オリゴマーを重縮合反応させてポリエステルを得ることに関して記載がなく、そのような点の示唆もない。そして、甲第1号証の摘記(1e)のオリゴマーに関する技術的事項を組み合わせる動機付けもないので、甲3発明において、相違点3-2の構成とすることは当業者が容易になし得るものとはいえない。

(ウ)効果について
上記ア(ウ)のとおり、本願明細書【0063】の【表1】に示されるように、本件発明1は、Ti化合物を希釈する1,4-ブタンジオールに関して、窒素原子として0.1重量ppm以上40,000重量ppm以下の窒素化合物を含有するものとすることで、触媒の安定性が高く、色調が良好で、異物の少ないポリエステルを製造することが可能であるという効果が奏しているといえ、このような効果は、甲第1?3号証の記載から、当業者が容易に予測し得たものとはいえない。

(エ)したがって、本件発明1は、甲3発明から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(2)本件発明2について
ア 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、Ti化合物溶液をエステル化工程に添加することをさらに限定した発明である。

イ 甲1?3発明との対比
(ア)甲1発明との対比
甲1発明では、有機溶剤として1,4-ブタンジオールを用いて、前記有機チタン化合物と共に、ヒドロキシアルキル基を1つ以上含有する環状化合物を混合した溶液を作成して、反応系へ添加し、エステル化反応を開始することが特定されており、Ti化合物溶液をエステル化工程に添加すること自体は、新たな相違点とはならない。

(イ)甲2発明との対比
本件発明2と甲2発明とを対比すると、相違点2-1、相違点2-2以外に、以下の相違点2-3が認定できる。

相違点2-3:Ti化合物溶液の添加時期に関して、甲2発明が、チタン化合物溶液添加時期を限定していないのに対して、本件発明2においては、Ti化合物溶液をエステル化工程に添加することが特定されている点

(ウ)甲3発明との対比
甲3発明では、エステル化または重縮合反応触媒としてのテトラ-n-ブチルチタネートとジエタノールアミンとを反応器に仕込み、エステル化反応を行い、得られた反応生成物の一部をオートクレーブに移し、重縮合反応を行わせたポリブチレンテレフタレートの製造法であることが特定されており、Ti化合物溶液をエステル化工程に添加すること自体は、新たな相違点とはならない。

相違点の判断
甲2発明において、摘記(2e)の「重合触媒の添加時期は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよく、減圧開始時に添加してもよい。」との記載から、甲2発明において、Ti化合物溶液をエステル化工程に添加することで、相違点2-3の構成とすることは当業者が容易に想到することである。

しかしながら、甲1発明との対比においての相違点1-1、甲2発明との対比においての相違点2-1、2-2、甲3発明との対比においての相違点3-1、3-2が、甲第1?3号証の記載を併せて検討しても、当業者が容易に想到し得ないことは、本件発明1において、検討したとおりである。

エ 小括
よって、本件発明2は、甲1発明又は甲2発明であるとも、甲第1?3号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。

(3)本件発明3?6について
ア 本件発明3は、本件発明1において、Ti化合物溶液中のTi化合物濃度が0.1%以上10%以下であることををさらに限定した発明である。

甲第2号証の摘記(2f)には、「触媒としてテトラブチルチタネートを予め6重量%溶解させた1,4-ブタンジオール溶液1.7重量部を仕込み」との記載があり、本件発明3の「Ti化合物溶液中のTi化合物濃度が0.1%以上10%以下であること」に該当する記載があるものの、甲1発明との対比においての相違点1-1、甲2発明との対比においての相違点2-1、2-2、甲3発明との対比においての相違点3-1、3-2が、甲第1?3号証の記載を併せて検討しても、当業者が容易に想到し得ないことは、本件発明1において、検討したとおりである。

イ 本件発明4は、本件発明1において、窒素化合物がアミン、アミノアルコール、及びアミドからなる群より選ばれた1種または2種以上の化合物であることをさらに限定した発明である。
甲第3号証の摘記(3d)摘記(3e)には、窒素化合物としてアミノアルコールに該当するものが記載されているものの、甲1発明との対比においての相違点1-1、甲2発明との対比においての相違点2-1、2-2、甲3発明との対比においての相違点3-1、3-2が、甲第1?3号証の記載を併せて検討しても、当業者が容易に想到し得ないことは、本件発明1において、検討したとおりである。

ウ 本件発明5は、本件発明1において、Ti化合物溶液を重縮合工程に添加することをさらに限定した発明である。
甲第1号証の摘記(1d)の「この有機チタン化合物の添加時期については、特に限定されるものでなく、エステル化反応前に一括添加してもよく、重縮合反応終了までの任意の段階で分割添加してもよい。」との記載、甲第2号証の摘記(2e)の「本発明においては、重縮合反応は、ゲルマニウム以外の重合触媒の存在下に行ってもよい。それらの重合触媒の添加時期は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよく、減圧開始時に添加してもよい。」との記載、甲第3号証の摘記(3e)の「エステル化反応開始後、3時間25分後に反応が完結した。この時の副生THFは94部であった。得られた反応生成物の一部をオートクレーブに移し、前記チタン化合物を生成ポリマ100部に対してさらに0.05部とジエタノールアミン0.05部とを追添加し、245℃で徐々に減圧にし、lmmHg以下で重縮合反応を行わせた。」との記載から、触媒としてのTi化合物の添加時期自体は、当業者が容易に想到しうるものではあるが、甲1発明との対比においての相違点1-1、甲2発明との対比においての相違点2-1、2-2、甲3発明との対比においての相違点3-1、3-2が、甲第1?3号証の記載を併せて検討しても、当業者が容易に想到し得ないことは、本件発明1において、検討したとおりである。

エ 本件発明6は、本件発明1において、Ti化合物を希釈する1,4-ブタンジオールがバイオマス資源由来であることをさらに限定した発明である。
甲第2号証の摘記(2a)には、ジオール原料がバイオマス資源から誘導されたものであることの記載があるものの、甲1発明との対比においての相違点1-1、甲2発明との対比においての相違点2-1、2-2、甲3発明との対比においての相違点3-1、3-2が、甲第1?3号証の記載を併せて検討しても、当業者が容易に想到し得ないことは、本件発明1において、検討したとおりである。

オ 小括
したがって、本件発明3?6は、甲1発明又は甲2発明であるとも、甲第1?3号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-07-04 
出願番号 特願2011-163563(P2011-163563)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08G)
P 1 651・ 121- Y (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 瀬良 聡機
加藤 幹
登録日 2015-09-04 
登録番号 特許第5799636号(P5799636)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 ポリエステルの製造方法  

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