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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1317275
審判番号 不服2014-18528  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-17 
確定日 2016-03-31 
事件の表示 特願2013-540144「液晶組成物、液晶表示素子および液晶ディスプレイ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 1日国際公開、WO2014/064765〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 出願の経緯

本願は、2012年10月23日を国際出願日とする出願であって、平成25年9月2日付けで手続補正がされ、同年10月28日付け拒絶理由通知に対し、同年12月26日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに、平成26年2月17日付け最後の拒絶理由通知に対し、同年4月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月12日付けで同年4月28日付け手続補正書における補正の却下の決定がされるとともに、同日付けで平成25年12月26日付け手続補正書の特許請求の範囲に係る発明に基づいて拒絶査定がされた。その後、平成26年9月17日付けで拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正が行われ、これに対して平成27年7月15日付けで当審より拒絶理由が通知されたところ、同年9月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願の請求項に記載された事項

本願に係る平成27年9月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11の各項には、以下の記載がされている。

「 【請求項1】
下記式(1)、下記式(8.1)、下記一般式(8)、下記式(6.1)、下記式(6.2)および下記式(b3)で表される化合物群から選ばれる化合物から構成される誘電率異方性が-2より大かつ+2より小である誘電的に中性の成分である成分(B)を含有し、前記成分(B)は下記式(1)および下記式(8.1)で表される化合物を含み、
【化1】

【化2】

(式中、R^(5)は炭素原子数2若しくは5のアルキル基又は炭素原子数1?3のアルコキシ基を表す。ただし、前記一般式(8)が前記式(8.1)である場合を除く。)
【化3】

下記一般式(2)、下記一般式(3)、下記一般式(5)、下記式(9.1)、下記式(9.2)、下記式(7.1)、下記式(7.2)および下記一般式(4)で表される化合物群から選ばれる化合物から構成される誘電率異方性が-2以下の負の成分(A)を含有し、前記成分(A)は下記一般式(2)および下記一般式(5)で表される化合物を含み、
【化4】

(式中、R^(1)及びR^(4)はそれぞれ独立して炭素原子数1?8のアルキル基を表す。R^(3)は炭素原子数1?8のアルキル基又は炭素原子数2?8のアルケニル基を表す。)
【化5】

(R^(2)は炭素原子数1?8のアルキル基又は炭素原子数2?8のアルケニル基を表す。)
かつ前記成分(A)および前記成分(B)の合計含有量が80%以上99%以下である、負の誘電率異方性を有するネマチック液晶組成物。
【請求項2】
下記一般式(3)または(4)で表される化合物群から選ばれる化合物を前記負の成分(A)に含む請求項1に記載の液晶組成物。
【化6】

(式中、R^(2)及びR^(3)はそれぞれ独立して炭素原子数1?8のアルキル基又は炭素原子数2?8のアルケニル基を表す。)
【請求項3】
前記成分(A)は、下記の式(3.1)、式(3.2)、式(4.1)および式(4.2)で表される化合物群から選ばれる化合物を2種以上を含む請求項1又は2に記載の液晶組成物。
【化7】

【請求項4】
前記成分(B)は下記式(6.1)又は(6.2)で表される化合物を含む請求項1?3の何れか一項に記載の液晶組成物。
【化8】

【請求項5】
前記成分(A)は下記式(7.1)又は(7.2)で表される化合物を含む請求項1?4のいずれか一項に記載の液晶組成物。
【化9】

【請求項6】
前記成分(B)は下記一般式(8)で表される化合物を含む請求項1?5のいずれか一項に記載の液晶組成物。
【化10】

(式中、R^(5)は炭素原子数5のアルキル基又は炭素原子数1?3のアルコキシ基を表す。)
【請求項7】
前記成分(A)は下記式(9.1)又は(9.2)で表される化合物を含む請求項1?6のいずれか一項に記載の液晶組成物。
【化11】

【請求項8】
前記成分(A)は下記式(10.1)又は(10.2)で表される化合物を含む請求項1?7のいずれか一項に記載の液晶組成物。
【化12】

【請求項9】
屈折率異方性(Δn)が0.09?0.12である、請求項1?8の何れか一項に記載の液晶組成物。
【請求項10】
請求項1?9のいずれか一項に記載の液晶組成物を使用したことを特徴とする液晶表示素子。
【請求項11】
請求項10に記載の液晶表示素子を使用したことを特徴とする液晶ディスプレイ。」

第3 当審の判断

当審は、本願が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていおらず(平成27年7月15日付け拒絶理由通知の理由1に相当。以下、「理由A」という。)、また、同法同条同項第1号に規定する要件を満たしていないから(上記拒絶理由通知の理由2に相当。以下、「理由B」という。)、特許法第49条第4号に該当し、さらに、本願発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから(上記拒絶理由通知の理由4に相当。以下、「理由C」という。)、特許法第49条第2号に該当し、拒絶査定を不服とする審判の請求は成り立たないと判断する。
以下、理由AないしCそれぞれについて詳述する。

I. 理由A、B

(I-A)理由A(特許法第36条第6項第2号の規定について)

本願明細書には、
「【0034】
《液晶組成物》
本発明の第一実施形態の液晶組成物は、負の誘電率異方性を有する液晶組成物であって、成分(A)及び成分(B)を含む。
成分(A)は、下記式(2)?(5)で表される化合物群から選ばれる化合物を2種類以上を含む誘電的に負の成分である。ここで、誘電的に負の成分とは、誘電率異方性が「-2以下」の成分である。
成分(B)は、下記式(1)で表される誘電的に中性の化合物を含み、誘電率異方性が「-2より大かつ+2より小」である誘電的に中性の成分である。
各成分の誘電率異方性及び前記液晶組成物の誘電率異方性は常法により、25℃において測定した値である。」
「【0099】
《その他の成分:成分(C)》
本発明の液晶組成物は、成分(A)又は成分(B)に該当しない成分(C)を含んでいてもよい。成分(C)の前記液晶組成物中の含有量は特に制限されないが、20%以下が好ましく、1?10%が好ましく1?6%が更に好ましい。
【0100】
成分(C)として誘電異方性が正の化合物を含んでいてもよく、例えば、下記式(c1)で表される化合物を含んでいてもよい。
【0101】(省略)
【0102】(省略)
【0103】
本発明の液晶組成物は、上述の化合物以外に、用途に応じて、通常のネマチック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶、酸化防止剤、紫外線吸収剤、重合性モノマーなどを含有しても良い。
・・(後略)」
との記載がされており、本願の液晶組成物は、成分(A)、成分(B)、成分(C)の3成分よりなる、すなわち、本願の液晶組成物を構成する成分は全て、成分(A)、成分(B)、成分(C)のいずれかに分類されるものと解される。
そして、出願時に成分(A)又は成分(B)に分類されていた化合物が、補正により成分(C)に分類されるようになること(すなわち、当初明細書に記載のない概念を追加すること)があってはならないことはいうまでもない。
〔出願時の成分(A)、成分(B)と平成27年9月24日付け手続補正書における成分(A)、成分(B)とを区別するため、以下では、出願時の成分(A)、成分(B)、成分(C)をそれぞれ「成分(a)」、「成分(b)」、「成分(c)」という。〕

そこで、まず、出願時における成分(a)、成分(b)、成分(c)それぞれの定義について確認すると、出願時の成分(a)の定義は、『下記式(2)?(5)で表される化合物群から選ばれる化合物を2種類以上を含む誘電的に負の成分』というものであり、出願時の成分(b)の定義は、『下記式(1)で表される誘電的に中性の化合物を含み、誘電率異方性が「-2より大かつ+2より小」である誘電的に中性の成分』というものであったと認められるから(当審注:上記の下線は、当審が付した。)、本願の液晶組成物を構成する成分のうち、「誘電的に負の成分」は成分(a)に分類され、「誘電的に中性の成分」は成分(b)に分類され、それ以外の成分が成分(c)に分類されるものと推認される。そして、本願の出願時の液晶組成物は成分(a)、成分(b)として分類された化合物の中に、特定の構造式を表される化合物が含まれていることを要件とするものと理解される。
しかしながら、本願明細書の「《その他の成分:成分(C)》」と項立てされた記載中にある上記段落【0103】には、「本発明の液晶組成物は、上述の化合物以外に、用途に応じて、通常のネマチック液晶・・などを含有しても良い。」(当審注:「上述の化合物」とは、誘電異方性が正の化合物を指すと推察される。)と記載されており、「通常のネマチック液晶」は成分(c)に分類されることが明記されているが(なお、「液晶」とは、物質分子の配向の状態を表す用語であり、「ネマチック液晶」とは、その配向状態がネマチックであることを指すか、又は、ネマチックという配向状態である液晶組成物を指す用語であり、一般に液晶化合物を指す用語として用いられるものでない。)、成分(a)、成分(b)に分類される各化合物も「通常のネマチック液晶」組成物に用いられているものであるから、成分(a)、成分(b)と成分(c)との異同が不明確であるといわざるを得ない。そして、成分(a)、成分(b)が不明確であるため、補正により、成分(a)、成分(b)がそれぞれ成分(A)、成分(B)に限定されることで、本願の液晶組成物から除外された実施形態が不明確であり、本願の液晶組成物の外縁が明確でないから、本願の特許請求の範囲の記載は、依然として明確性に欠ける。
確かに、平成27年9月24日付けの手続補正によって、本願の液晶組成物を構成する成分(A)と成分(B)の定義が一見明確となったが、本願の液晶組成物は成分(A)、成分(B)の他、成分(c)を1?20%で含むことを必須要件とするものであるところ、上述したように、成分(c)の定義が不明確であることから、結局、一の液晶組成物を測定等することにより、本願の液晶組成物か否かを判断する基準が明確であるということができない。
(なお、平成27年7月15日付けでした拒絶理由通知において、『(C-1)本願明細書[0099]以降に、成分(A)及び成分(B)とは異なる成分(C)についての説明があるが、例えば、・・本願明細書[0103]でも種々の特性を有する成分が列挙されているが、これらと成分(A)、(B)との区別も不明確であり、結局、成分(A)、成分(B)にどのような化合物まで含まれてくるのかを明確に把握することができない。(なお、[0103]に記載の「通常のネマチック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶」とはどのような化合物であるか不明確であり、これらを成分Cとして含有しうる点でも、本願発明は明確でないということができる。) 』ことを指摘し、成分(a)、成分(b)の不明確性を問うたが、審判請求人は、平成27年9月24日付け意見書において、特段の釈明をしていない。)

さらに、検討を進めると、請求項1には、「下記一般式(2)、下記一般式(3)、下記一般式(5)、下記式(9.1)、下記式(9.2)、下記式(7.1)、下記式(7.2)および下記一般式(4)で表される化合物群から選ばれる化合物から構成される誘電率異方性が-2以下の負の成分(A)」(当審注:上記の下線は、当審が付した。以下、同様である。)との記載があり、これに関連し、平成27年9月24日付け意見書において、『上記の請求項1についての補正により、・・成分(A)について「下記一般式(2)、下記一般式(3)、下記一般式(5)、下記式(9.1)、下記式(9.2)、下記式(7.1)、下記式(7.2)および下記一般式(4)で表される化合物群から選ばれる化合物から構成される」、とそれぞれ閉じた系とすることで、成分(A)及び成分(B)とは異なる成分(C)との区別を明確にしました』との釈明を行っているが、請求項1を引用する請求項8には、「成分(A)は」請求項1に記載のない「下記式(10.1)又は(10.2)で表される化合物を含む」ことが特定されており、結局、本願の液晶組成物において、成分(A)は、「下記一般式(2)、下記一般式(3)、下記一般式(5)、下記式(9.1)、下記式(9.2)、下記式(7.1)、下記式(7.2)および下記一般式(4)で表される化合物群から選ばれる化合物のみから構成される」と限定されるのか、「下記一般式(2)、下記一般式(3)、下記一般式(5)、下記式(9.1)、下記式(9.2)、下記式(7.1)、下記式(7.2)および下記一般式(4)で表される化合物群から選ばれる化合物から、その一部が構成される」との限定に留まるのかが明らかでない点で、成分(A)、成分(B)の定義は、依然として明確であるとはいえない。

(I-B)理由B(特許法第36条第6項第1号の規定について)

(B-1)本願発明の解決しようとする技術課題について
本願明細書の発明の詳細な説明の[0002]ないし[0011]、特に[0011]を参照すると、本願発明の解決しようとする技術課題は、「誘電率異方性(△ε)、粘度(η)、ネマチック相の上限温度(T_(ni))、低温でのネマチック相の安定性(溶解性)、回転粘度(γ_(1))、焼き付き特性が良好であり、液晶表示素子の製造時の滴下痕が発生し難く、ODF工程における安定した吐出が可能な液晶組成物、その液晶組成物を用いた液晶表示素子及び液晶ディスプレイの提供」であると認められる。

(B-2)本願明細書に記載の事項

(あ)
「[0012]
本発明者らは上記課題を解決するために、滴下法による液晶表示素子の作製に最適な種々の液晶組成物の構成を検討し、特定の液晶化合物を特定の混合割合で使用することにより液晶表示素子における滴下痕の発生を抑制することができることを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、本発明の第一実施形態は以下の(i)?(vii)の液晶組成物である。」

(い)
「[0030]
前述の通り、滴下痕が発生する詳細なプロセスは現時点では明らかでない。しかし、液晶化合物(液晶組成物)中の不純物、配向膜の相互作用、クロマト現象等が滴下痕の発生に関係している可能性が高いと考えられる。液晶化合物中の不純物の有無は化合物の製造プロセスに大きな影響を受ける。通常、液晶化合物の製造方法は、個々の化合物ごとに最適なプロセス及び原料の検討が行われている。既知の化合物に類似した化合物、たとえ側鎖の数が異なるだけの化合物を製造する場合であっても、そのプロセスが既知の化合物のプロセスと類似する又は同一であるとは限らない。液晶化合物は精密な製造プロセスによって製造されることから、そのコストは化成品の中では高価格であり、製造効率の向上が強く求められている。そのため、少しでも安い原料を使用するためには、たとえ側鎖の数が一つ異なるだけの類似化合物を製造する場合にも、既知の原料に代えて、全く別種の原料から製造を行った方が効率が良い場合もある。従って、液晶原体(液晶組成物)の製造プロセスは、各原体毎に異なっていることがあり、たとえプロセスが同一であっても、原料が異なることが大半である。その結果、各原体毎に異なった不純物が混入していることが多い。一方、滴下痕はきわめて微量の不純物によっても発生する可能性があり、原体の精製だけに頼って滴下痕の発生を抑制することには限界がある。
[0031]
その一方で、汎用されている液晶原体の製造方法は、製造プロセス確立後には、各原体毎に一定に定まる傾向がある。分析技術の発展した現在においても、どのような不純物が混入しているかを完全に明らかにすることは容易ではないが、各原体毎に定まった不純物が混入していることを前提として、液晶組成物の設計を行うことが必要となる。
[0032]
本発明者らは、液晶原体の不純物と滴下痕の関係について検討を行った結果、液晶組成物中に含まれている不純物には、滴下痕が発生し難い不純物と、滴下痕が発生し易い不純物があることを経験的に明らかにした。更に、滴下痕の発生を抑えるためには、特定の化合物を特定の混合割合で含む液晶組成物を使用することが重要であることを見いだした。すなわち、本発明の液晶組成物は、特に滴下痕が発生し難い組成物である。以下に記載する好ましい実施形態は、前記の観点から見いだされたものである。」

(う)
「[0123]
前述したように、滴下痕の発生は、注入される液晶材料(液晶組成物)を構成する液晶性化合物の種類及び組み合わせに大きな影響を受ける。更に、表示素子を構成する部材の種類や組み合わせも滴下痕の発生に影響を及ぼすことがある。特に、液晶表示素子中に形成されるカラーフィルターや薄膜トランジスターと液晶組成物とを隔てる部材は、配向膜や透明電極等の薄い部材だけであるため、当該カラーフィルターや薄膜トランジスタが、液晶組成物に影響を与えて滴下痕を発生させる可能性がある。
特に液晶表示素子中の薄膜トランジスターが逆スタガード型である場合には、ドレイン電極がゲート電極を覆うように形成されるため、当該薄膜トランジスターの面積が増大する傾向にある。ドレイン電極は、銅、アルミニウム、クロム、チタン、モリブデン、タンタル等の金属材料で形成され、一般的には、パッシベーション処理が施されるのが通常の形態である。しかし、保護膜は一般に薄く、配向膜も薄く、イオン性物質を遮断しない可能性が高いことから、従来の液晶組成物を用いた場合には、金属材料と液晶組成物の相互作用による滴下痕の発生が頻繁に生じていた。
一方、以下の実施例における滴下痕評価の結果で示すように、本発明の第一実施形態の液晶組成物を用いることにより、詳細なメカニズムは未解明であるが、従来問題になっていた滴下痕の発生を充分に低減することができる。」

(え)
「[実施例]
[0125]
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
[0126]
実施例中、測定した特性は以下の通りである。
T_(ni) :ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)
△n :25℃における屈折率異方性
△ε :25℃における誘電率異方性
η :20℃における粘度(mPa・s)
γ_(1 ) :25℃における回転粘度(mPa・s)
初期電圧保持率(初期VHR):周波数60Hz,印加電圧1Vの条件下で60℃における電圧保持率(%)
150℃1時間後電圧保持率:150℃の雰囲気下に1時間保持した後、初期VHRと同1条件で測定した電圧保持率(%)
[0127]
[焼き付きの評価]
液晶表示素子の焼き付き評価は、表示エリア内に所定の固定パターンを1000時間表示させた後に、全画面均一な表示を行ったときの固定パターンの残像のレベルを目視にて以下の4段階評価で行った。
◎:残像無し
○:残像ごく僅かに有るも、許容できるレベル
△:残像有り、許容できないレベル
×:残像有り、かなり劣悪
[0128]
[滴下痕の評価]
液晶表示装置の滴下痕の評価は、全面黒表示した場合における白く浮かび上がる滴下痕を目視にて以下の4段階評価で行った。
◎:残像無し
○:残像ごく僅かに有るも、許容できるレベル
△:残像有り、許容できないレベル
×:残像有り、かなり劣悪
[0129]
[プロセス適合性の評価]
プロセス適合性は、ODFプロセスにおいて、定積計量ポンプを用いて1回に50pLずつ液晶を滴下することを100000回行い、次の「0?100回、101?200回、201?300回、・・・・99901?100000回」の各100回ずつ滴下された液晶量の変化を以下の4段階で評価した。
◎:変化が極めて小さい(安定的に液晶表示素子を製造できる)
○:変化が僅かに有るも、許容できるレベル
△:変化が有り、許容できないレベル(斑発生により歩留まりが悪化)
×:変化が有り、かなり劣悪(液晶漏れや真空気泡が発生)
[0130]
[低温での溶解性の評価]
低温での溶解性評価は、液晶組成物を調製後、2mLのサンプル瓶に液晶組成物を1g秤量し、これに温度制御式試験槽の中で、次を1サイクル「-20℃(1時間保持)→昇温(0.1℃/毎分)→0℃(1時間保持)→昇温(0.1℃/毎分)→20℃(1時間保持)→降温(-0.1℃/毎分)→0℃(1時間保持)→降温(-0.1℃/毎分)→-20℃」として温度変化を与え続け、目視にて液晶組成物からの析出物の発生を観察し
、以下の4段階評価を行った。
◎:600時間以上析出物が観察されなかった。
○:300時間以上析出物が観察されなかった。
△:150時間以内に析出物が観察された。
×:75時間以内に析出物が観察された。
[0131]
[実施例1、比較例1]
表1に示す組成の液晶組成物を調製し、その物性値を測定した。
また、実施例1及び比較例1の液晶組成物を用いて、図1に示すVA液晶表示素子をそれぞれ作製した。この液晶表示素子は、アクティブ素子として逆スタガード型の薄膜トランジスターを有している。液晶組成物の注入は、滴下法(ODF法)にて行った。更に前述の方法により、得られた表示素子について、焼き付き、滴下痕、プロセス適合性及び低温での溶解性の評価を行った。この結果を表2に示す。
[0132]
[表1]

[0133]
表1中、比較例1の化学式(b4)で表される化合物は、下記式(b4)の構造式で表される化合物である。
[0134]
[化29]

[0135]
[表2]

[0136](省略)
[0137]
[実施例2、比較例2](省略)
[0138]
[表3]

[0139]
[表4]

[0140](省略)
[0141]
[実施例3?6](省略)
[0142]
[表5]

[0143]
[表6]

[0144](省略)
[0145]
[実施例7?10](省略)
[0146]
[表7]

[0147]
[表8]

[0148](省略)
[0149]
[実施例11?14](省略)
[0150]
[表9]

[0151]
[表10]

[0152](省略)
[0153]
[実施例15?18](省略)
[0154]
[表11]

[0155]
[表12]

[0156](省略)
[0157]
[実施例19?22](省略)
[0158]
[表13]

[0159]
[表14]

[0160](省略)
[0161]
[実施例23?26](省略)
[0162]
[表15]

[0163]
[表16]

[0164](省略)
[0165]
[実施例27?30](省略)
[0166]
[表17]

[0167]
[表18]

[0168](省略)
[0169]
[実施例31?34](省略)
[0170]
[表19]

[0171]
[表20]

[0172](省略9)
【0173】
[実施例35?40]8省略)
[0174]
[表21]

[0175]
[表22]

[0176](省略)
[0177]
[実施例41?44](省略))
[0178]
[表23]

[0179]
[表24]

[0180](省略)
[0181]
[実施例45?50](省略)
[0182]
[表25]

[0183]
[表26]

[0184](省略)
[0185]
[実施例51?53](省略)
[0186]
[表27]

[0187]
[表28]

[0188](省略)
[0189]
[実施例54?57](省略)
[0190]
[表29]

[0191]
[表30]

[0192](省略)」

(B-3)本願明細書の発明の詳細な説明のうち、上記技術課題に関し、実施例(比較例)以外の記載について

本願発明の解決しようとする技術課題は、液晶組成物に求められる基本的な物性や焼き付き特性が良好で、製造時の滴下痕が発生し難く、ODF工程における安定した吐出が可能な液晶組成物の提供にあると認められるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、「滴下痕」に関し、「本発明者らは・・特定の液晶化合物を特定の混合割合で使用することにより液晶表示素子における滴下痕の発生を抑制することができることを見出し、本発明の完成に至った」([0012]参照)、「本発明者らは、液晶原体の不純物と滴下痕の関係について検討を行った結果、液晶組成物中に含まれている不純物には、滴下痕が発生し難い不純物と、滴下痕が発生し易い不純物があることを経験的に明らかにした。更に、滴下痕の発生を抑えるためには、特定の化合物を特定の混合割合で含む液晶組成物を使用することが重要であることを見いだした」([0032]参照)、「滴下痕の発生は、注入される液晶材料(液晶組成物)を構成する液晶性化合物の種類及び組み合わせに大きな影響を受ける」([0123]参照)との記載が見受けられるが、「焼き付き特性」及び「ODF工程における安定した吐出」についての記載は特にない。
まず、「本発明者らは、液晶原体の不純物と滴下痕の関係について検討を行った結果、液晶組成物中に含まれている不純物には、滴下痕が発生し難い不純物と、滴下痕が発生し易い不純物があることを経験的に明らかにした。更に、滴下痕の発生を抑えるためには、特定の化合物を特定の混合割合で含む液晶組成物を使用することが重要であることを見いだした」([0032]参照)との記載について検討すると、本願明細書の発明の詳細な説明で、少なくとも何れの液晶原体が「滴下痕が発生し難い不純物」を含むものであり、何れの液晶原体が「滴下痕が発生し易い不純物」を含むものであるのかが明らかにされておらず、何れの液晶原体の使用を回避(ないし低減)させるべきであるかが十分に検討・開示されていない。また、「液晶原体(液晶組成物)の製造プロセスは、各原体毎に異なっていることがあり、たとえプロセスが同一であっても、原料が異なることが大半である。その結果、各原体毎に異なった不純物が混入していることが多い」([0030]参照)ことを踏まえると、多種多様な液晶原体が含まれうる一般式(2)ないし一般式(5)で表される化合物それぞれを一括りに扱える技術的根拠が見当たらない〔そして、一般式(2)ないし(5)で表される全ての化合物が「組成物中に含まれていても滴下痕が発生し難い不純物」を含む化合物であることの確認がされているとは認められない。〕。
また、「本発明者らは・・特定の液晶化合物を特定の混合割合で使用することにより液晶表示素子における滴下痕の発生を抑制することができることを見出し、本発明の完成に至った」([0012]参照)、「滴下痕の発生は、注入される液晶材料(液晶組成物)を構成する液晶性化合物の種類及び組み合わせに大きな影響を受ける」([0123]参照)との記載について検討すると、本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例で具体的に用いられている個別具体的な液晶(性)化合物の種類及び組み合わせ(混合割合)を超えて、各請求項における発明特定事項と上記技術課題との関係性(作用機序)が科学的客観性をもって開示されていない。

(B-4)本願明細書の発明の詳細な説明のうち、上記技術課題に関し、実施例(比較例)の記載について
本願明細書の[0125]以降の実施例(比較例)には、「実施例」が57事例、「比較例」が2事例ずつ開示されているが、本願発明1の要件を満たす実施例は、19ないし26、54ないし57の12事例のみである〔なお、実施例13、14、17、31ないし34、50は、成分(A)と成分(B)の合計含有量が80?99%であるものの、成分(a)と成分(b)の合計含有量で見ると100%であり、成分(c)が0%であるところ、審判請求人は、当該実施形態は、本願の現在の実施例に当たると主張していない。〕。

まず、平成27年9月24日付けの手続補正によって、本願の実施例として残った12事例と、本願の実施例でなくなった44事例とを比較すると、上記技術課題との関係において作用効果に差異が認められないので、本願の特許請求の範囲は、その発明特定事項を全て満たすことによって上記技術課題を解決しうるものとして、発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められない〔指摘事項1。例えば、成分(B)が式(1)と式(8.1)で表される化合物のみである事例も、成分(B)が式(1)で表される化合物を含み、かつ、式(8.1)で表される化合物を含まない事例も開示されているが、これらの事例の間に顕著な差異が認められないことから、式(1)と式(8.1)で表される化合物とを併用することと、上記技術課題との関係性を見出せない。〕。

次に、本願明細書には、上記の技術課題は、出願時の請求項1の要件、すなわち、「誘電率異方性が-2より大かつ+2より小である誘電的に中性の成分である成分(B)」が「式(1)で表される誘電的に中性の化合物を含み」、かつ、「誘電的に負の成分(A)」が「式(2)?(5)で表される化合物群から選ばれる化合物を2種類以上を含む」ことで解決されるとされているので、当該要件と実施例(比較例)との関係をみると、比較例1では、成分(B)として式(1)で表される化合物がともに配合されておらず、換わりに、式(b3)及び(b4)で表される化合物が合計で28質量%用いられており、焼き付き評価が×、滴下痕評価、プロセス適合性評価が△となっている。そして、当該結果は、式(1)で表される化合物が少しも配合されていないことよりも、式(b3)及び(b4)で表される化合物が合計で28質量%も用いられていることが大きく影響していると解されるところ〔式(b3)及び(b4)で表される化合物のようなアルケニル基を有する化合物が焼き付きを起こすことは、例えば、特開2012-077201号公報の【0010】にも記載されている公知事項である。〕、本願の請求項1の要件は、式(1)で表される化合物が〔必要であれば式(8.1)で表される化合物ともに〕存在すれば、例えば式(b3)及び(b4)で表される化合物を一定量含有する実施形態であっても許容されているが、このような実施形態が上記技術課題を解決しうると推測する技術的根拠が見当たらない(指摘事項2)。
また、比較例2では、成分(A)が一般式(2)で表される化合物しか含まず、一般式(3)?(5)で表される化合物も含むとの要件を満たさず、換わりに、式(7.1)、式(7.2)、式(9.1)、式(10.1)式(10.2)で表される化合物を合計で64質量%用いられ、焼き付き評価が△、低温での溶解性評価が×となっている。この実施形態において、さらに、一般式(3)?(5)で表される化合物を少量でも追加〔又は、式(7.1)、式(7.2)、式(9.1)、式(10.1)式(10.2)で表される化合物の一部と置換〕すれば本願の請求項1の要件を満たすこととなるが、その場合、必ず実施例と同程度の評価が得られると推測できる技術的根拠が見当たらない(指摘事項3)。
また、比較例2では、式(5)で表される化合物を有さないが、式(7.1)、式(7.2)、式(10.1)、式(10.2)で表される化合物を有するものである(それぞれの化合物の分子式を下記に示す。)。

そして、式(5)で表される化合物として実施例で具体的に用いられている式(5.1)、式(5.2)で表される化合物と、式(7.1)、式(7.2)、式(10.1)、式(10.2)で表される化合物は、同一骨格を有する化合物であって、末端官能基が異なることが理解される。すなわち、本願発明においては、各化合物の末端官能基の相違が重要であることが推測されるところ〔例えば、式(5.1)で表される化合物と式(7.1)で表される化合物の差異は、末端アルキル基の炭素数が3か4かだけである。〕、式(2)ないし(5)で表される化合物では、末端官能基R^(1)ないしR^(4)は、「R^(1)及びR^(4)はそれぞれ独立して炭素原子数1?8のアルキル基を表す。R^(3)は炭素原子数1?8のアルキル基又は炭素原子数2?8のアルケニル基を表す。」、「R^(2)は炭素原子数1?8のアルキル基又は炭素原子数2?8のアルケニル基を表す。」と幅広く許容されているが、それらの広範な末端官能基が上記技術課題との関係において全て等価の影響を与えると推測できる技術的根拠が見当たらない(指摘事項4)。
このように、本願明細書を参酌しても、上記技術課題と、出願時の請求項1の要件との関係が不明確であり、出願時の請求項1の要件を満たせば上記技術課題が解決しうると解する技術的根拠(作用機序)が把握できない。そして、このことは、請求項1の要件を平成27年9月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1の要件として捉えたとして、同様である(指摘事項4’)。

さらにいえば、実施例で実際に用いられている各種化合物であっても、実施例と異なる配合量で用いた場合に、どのような作用効果を示すかについてまで十分な検討がされているとは認められないが、本願の請求項1では、それぞれ多成分系である成分(A)と成分(B)が、単に合計で80%?99%であることとしか特定がされていないが、この範囲に含まれるあらゆる混合物で上記技術課題が解決しうるとする技術的根拠が見当たらない(指摘事項5)。
また、本願の液晶組成物では、1?20%の範囲で成分(A)及び成分(B)に含まれない化合物(成分(C))の配合が必須であるところ、成分(C)として液晶組成物に配合しうることが公知である化合物を任意に選択し、20%もの割合で配合しても、本願の特許請求の範囲で特定される要件を満たしさえすれば、常に上記技術課題が解決されると認める技術的根拠も見当たらない(指摘事項6)。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明で、上記技術課題を解決しうる液晶組成物として開示されていると認められる範囲は、実施例1ないし57として開示される個別具体的な実施形態のみである。

(B-5)結論
よって、上記指摘事項1ないし6より、本願の特許請求は、上記技術課題を解決できるものとして本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本願特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものでない。

〔なお、上記の指摘事項1ないし6(4’を除く)はいずれも平成27年7月15日付けでした拒絶理由通知において指摘したものと実質的に同一であるところ、審判請求人は、平成27年9月24日付け意見書において、
1. 『本願発明では、液晶組成物全体のうち、「前記成分(A)および前記成分(B)」を構成する特定の化合物について「合計含有量が80%以上99%以下」に限定され、請求項1に記載された液晶組成物の構成要件の全体を充足することによって、段落番号[0011]の「誘電率異方性(△ε)、粘度(η)、ネマチック相の上限温度(Tni)、低温でのネマチック相の安定性(溶解性)、回転粘度(γ1)、焼き付き特性が良好であり、液晶表示素子の製造時の滴下痕が発生し難く、ODF工程における安定した吐出が可能」との課題を解決するもので』あること、
2. 『請求項1の内容を満たす実施例19?26及び実施例54?57の12事例の実施例に開示された液晶組成物では、いずれも、焼き付き、プロセス適合性、滴下痕、低温での溶解性評価などの効果が良好で』あること、
を挙げて、本願の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定を満たす旨を主張するが、以下のとおり、当を欠くものである。

まず、上記1.の点について検討すると、上記の主張は、『液晶組成物全体のうち、「前記成分(A)および前記成分(B)」を構成する特定の化合物について「合計含有量が80%以上99%以下」に限定され、請求項1に記載された液晶組成物の構成要件の全体を充足す』れば、『「誘電率異方性(△ε)、粘度(η)、ネマチック相の上限温度(Tni)、低温でのネマチック相の安定性(溶解性)、回転粘度(γ1)、焼き付き特性が良好であり、液晶表示素子の製造時の滴下痕が発生し難く、ODF工程における安定した吐出が可能」との課題を解決する』といえる技術的根拠(作用機序)が分からないとの指摘に対し、何らの具体的な技術説明を加えるものでなく、受け入れることはできない。
また、上記2.の点について検討すると、上記の主張は、実施例19?26及び実施例54?57の12事例の実施例に開示された液晶組成物で確認された作用効果を、本願の特許請求の範囲に係る液晶組成物全体に拡張しうる技術的根拠が不明確であるとの指摘に対し、何らの具体的な技術説明を加えるものでなく、受け入れることはできない。〕

(I-C)まとめ
以上のとおりであるから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号及び、同条同項第2号の規定に適合するものではなく、本願は、特許法第36条第6項(柱書)に規定する要件を満たしていない。

II.理由C(特許法第29条第2項の規定について)

なお、上記「I-A」で説示したとおり、本願特許請求の範囲には記載不備が存在するものの、当該「II.]の検討に当たっては、平成27年9月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明につき「本願発明」として検討を行う。また、その際、請求項1中の「・・化合物群から選ばれる化合物から構成される」とは、平成27年9月24日付け意見書における「閉じた系」との説明を考慮して、「・・化合物群から選ばれる化合物のみから構成される」という意味であるとする。

(II-A)本願出願前に頒布されたことが明らかな刊行物
・国際公開第2012/076105号(以下、「引用例」という。)

(II-B)引用例に記載の事項
引用例には、以下の記載がされている(引用例の日本語訳を記載する。訳文は、対応日本国公報である特表2014-505746号公報によるものであり、引用例の段落番号も併せて記載した。)。

(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
ネマチック相および負の誘電異方性を有する液晶媒体であって、以下のもの
a)式I
【化1】

で表される化合物、
ならびに
b)式II
【化2】

式中、
R^(21)は、1?7個のC原子を有する非置換のアルキルラジカルまたは2?7個のC原子を有する非置換のアルケニルラジカルを示し、および
R^(22)は、2?7個のC原子を有する非置換のアルケニルラジカルを示す、
で表される1種または2種以上の化合物
ならびに
c)式III-1?III-4
【化3】

式中、
R^(31)は、1?7個のC原子を有する非置換のアルキルラジカルを示し、
R^(32)は、1?7個のC原子を有する非置換のアルキルラジカル、または1?6個のC原子を有する非置換のアルコキシラジカルを示し、ならびに
m、nおよびoは、各々、互いに独立して0または1を示す、
で表される化合物の群から選択された1種または2種以上の化合物
を含む、前記液晶媒体。
【請求項2】(省略)
【請求項3】(省略)
【請求項4】(省略)
【請求項5】(省略)
【請求項6】
式III-3-2
【化5】

式中、R^(31)およびR^(32)は、請求項1における式III-2について示したそれぞれの意味を有する、
で表される1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、請求項1?5のいずれか一項に記載の媒体。
【請求項7】
請求項1において示した式III-4で表される1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、請求項1?6のいずれか一項に記載の媒体。
【請求項8】
さらに1種または2種以上のキラルな化合物を含むことを特徴とする、請求項1?7のいずれか一項に記載の媒体。
・・(後略)」

(イ)8頁10?15行
「【0031】
したがって、極めて高い比抵抗、同時に大きい動作温度範囲、短い応答時間および低いしきい値電圧を有し、その補助によって様々なグレーシェードを生じることができ、特に良好であり、かつ安定なVHRを有するMLCディスプレイについての多大な需要が、継続してある。」

(ウ)13頁11行?15頁28行
「【0046】
本発明の媒体は、好ましくは、式III-1で表される1種または2種以上の化合物、好ましくは式III-1-1およびIII-1-2で表される化合物の群から選択された1種または2種以上の化合物を含む。
【化6】

【0047】
式中、パラメーターは、式III-1について上に示した意味を有し、好ましくは
R^(31)は、2?5個のC原子を有する、好ましくは3?5個のC原子を有するアルキルラジカルを示し、および
R^(32)は、2?5個のC原子を有するアルキルもしくはアルコキシラジカル、好ましくは2?4個のC原子を有するアルコキシラジカル、または2?4個のC原子を有するアルケニルオキシラジカルを示す。
【0048】(省略)
【0049】(省略)
【0050】
本発明の媒体は、好ましくは、式III-3で表される1種または2種以上の化合物、好ましくは式III-3-1およびIII-3-2で表される化合物の群から選択された
1種または2種以上の化合物を含む。
【化8】

【0051】
式中、パラメーターは、式III-3について上に示した意味を有し、好ましくは
R^(31)は、2?5個のC原子を有する、好ましくは3?5個のC原子を有するアルキルラジカルを示し、および
R^(32)は、2?5個のC原子を有するアルキルもしくはアルコキシラジカル、好ましくは2?4個のC原子を有するアルコキシラジカル、または2?4個のC原子を有するアルケニルオキシラジカルを示す。
【0052】
本発明の媒体は、好ましくは以下の化合物を述べた合計濃度において含む:
10?60重量%の式IIIで表される1種もしくは2種以上の化合物ならびに/または
30?80重量%の式IVおよび/もしくはVで表される1種もしくは2種以上の化合物、
ここで媒体中のすべての化合物の合計含量は、100%である。」

(エ)17頁1?21行
「【0057】
さらなる好ましい態様において、媒体は、式IV-1およびIV-2で表される化合物の群から選択された、式IVで表される1種または2種以上の化合物を含む。
【化10】

【0058】
式中、
AlkylおよびAlkyl’は、互いに独立して、1?7個のC原子を有する、好ましくは2?5個のC原子を有するアルキルを示し、
Alkoxyは、1?5個のC原子を有する、好ましくは2?4個のC原子を有するアルコキシを示し、ならびに
AlkenylおよびAlkenyl’は、互いに独立して2?7個のC原子を有する、好ましくは2?5個のC原子を有するアルケニルを示す。」

(オ)21頁8?25行
「【0066】
さらなる好ましい態様において、媒体は、式V-1aおよびV-1b、好ましくは式V-1bで表される化合物の群から選択された、式V-1で表される1種または2種以上の化合物を含む、
【化21】

【0067】
式中、
AlkylおよびAlkyl’は、互いに独立して、1?7個のC原子を有する、好ましくは2?5個のC原子を有するアルキルを示し、
Alkoxyは、1?5個のC原子を有する、好ましくは2?4個のC原子を有するアルコキシを示す。」

(カ)22頁35行?23頁11行
「【0072】
さらなる好ましい態様において、媒体は、式III-4で表される、好ましくは式III-4-aで表される1種または2種以上の化合物を含む、
【化24】

式中、
AlkylおよびAlkyl’は、互いに独立して、1?7個のC原子を有する、好ましくは2?5個のC原子を有するアルキルを示す。」

(キ)23頁13行?26頁10行
「【0073】
本発明の液晶媒体は、1種または2種以上のキラルな化合物を含んでもよい。
【0074】
本発明の特に好ましい態様は、以下の条件の1つまたは2つ以上を満たし、
ここで頭字語(略語)を表A?Cにおいて説明し、例によって表D中に例示する。
i.液晶媒体は、0.060またはそれ以上、特に好ましくは0.070またはそれ以上の複屈折を有する。
ii.液晶媒体は、0.130またはそれ以下、特に好ましくは0.120またはそれ以下の複屈折を有する。
iii.液晶媒体は、0.090またはそれ以上から0.120またはそれ以下までの範囲内の複屈折を有する。
【0075】
iv.液晶媒体は、2.0またはそれ以上、特に好ましくは3.0またはそれ以上の値を有する負の誘電異方性を有する。
v.液晶媒体は、5.5またはそれ以下、特に好ましくは4.0またはそれ以下の値を有する負の誘電異方性を有する。
vi.液晶媒体は、2.5またはそれ以上から3.8またはそれ以下までの範囲内の値を有する負の誘電異方性を有する。
【0076】
vii.液晶媒体は、以下に示す従属式から選択された式IIで表される1種または2種以上の特に好ましい化合物を含む:
【化25】

【0077】(省略)
【0078】
式中、Alkylは、上に示した意味を有し、好ましくは各場合において互いに独立して1?6個、好ましくは2?5個のC原子を有するアルキルおよび特に好ましくはn-アルキルを示す。
【0079】
viii.式IIで表される化合物の全体としての混合物中での合計濃度は、25%また
はそれ以上、好ましくは30%またはそれ以上であり、好ましくは25%またはそれ以上から49%またはそれ以下までの範囲内、特に好ましくは29%またはそれ以上から47%またはそれ以下までの範囲内、および極めて特に好ましくは37%またはそれ以上から44%またはそれ以下までの範囲内にある。
【0080】
ix.液晶媒体は、以下の式で表される化合物の群から選択された式IIで表される1種または2種以上の化合物を含む:好ましくは50%までまたはそれ以下、特に好ましくは42%までまたはそれ以下の濃度でのCC-n-Vおよび/またはCC-n-Vm、特に好ましくはCC-3-V、および任意にさらに、好ましくは15%までまたはそれ以下の濃度でのCC-3-V1、および/または好ましくは20%までまたはそれ以下の濃度での、特に好ましくは10%までまたはそれ以下の濃度でのCC-4-V。
【0081】
x.式CC-3-Vで表される化合物の全体としての混合物中での合計濃度は、20%またはそれ以上、好ましくは25%またはそれ以上である。
xi.式III-1?III-4で表される化合物の全体としての混合物中での比率は、50%またはそれ以上および好ましくは75%またはそれ以下である。
【0082】
xii.液晶媒体は、本質的に式I、II、III-1?III-4、IVおよびVで表される化合物、好ましくは式I、IIおよびIII-1?III-4で表される化合物からなる。
xiii.液晶媒体は、式IVで表される1種または2種以上の化合物を、好ましくは5%またはそれ以上、特に10%またはそれ以上、および極めて特に好ましくは15%またはそれ以上?40%またはそれ以下の合計濃度で含む。」

(ク)33頁13?24行
「【0108】
本発明の液晶媒体は、所要に応じて、またさらなる添加剤、例えば安定剤および/または多色性染料および/またはキラルなドーパントを通常の量において含んでいてもよい。使用するこれらの添加剤の量は、好ましくは、全体の混合物の量を基準として合計で0%またはそれ以上から10%またはそれ以下まで、特に好ましくは0.1%またはそれ以上から6%またはそれ以下までである。使用する個々の化合物の濃度は、好ましくは0.1%またはそれ以上から3%またはそれ以下である。これらのおよび同様の添加剤の濃度は、液晶化合物の液晶媒体中での濃度および濃度範囲を特定する場合には、一般的に考慮しない。」

(ケ)34頁30?34行
「【0113】
本発明の液晶相を、好適な添加剤によって、それらを現在まで開示されているあらゆるタイプの、例えばECB、VAN、IPS、GHまたはASM-VA LCDディスプレイにおいて使用することができるように修正することができる。
以下の表Eは、本発明の混合物に加えることができる可能なドーパントを示す。混合物が1種または2種以上のドーパントを含む場合には、それ(ら)を、0.01?4%、好ましくは0.1?1.0%の量において使用する。」

(コ)38頁6?30行
「【0128】
他に明確に示さない限り、以下の記号を使用する:
V0 20℃でのしきい値電圧、容量性[V]、
ne 20℃および589nmで測定した異常屈折率、
no 20℃および589nmで測定した通常屈折率、
Δn 20℃および589nmで測定した光学異方性、
ε⊥ 20℃および1kHzでのダイレクターに垂直な電気感受率、
ε? 20℃および1kHzでのダイレクターに平行な電気感受率、
Δε 20℃および1kHzでの誘電異方性、
【0129】
cl.p.またはT(N,I) 透明点[℃]、
ν 20℃で測定した流動粘度[mm2・s-1]、
γ1 20℃で測定した回転粘度[mPa・s]、
K1 20℃での弾性定数、「広がり」変形[pN]、
K2 20℃での弾性定数、「ねじれ」変形[pN]、
K3 20℃での弾性定数、「曲がり」変形[pN]、および
LTS 試験セル中で決定した相の低温安定性、
VHR 電圧保持比、
ΔVHR 電圧保持比の低下、
Srel VHRの相対的安定性。」

(サ)43頁12行?49頁4行
「【0138】
表D
【化34】

【0139】
【化35】

【0140】(省略)
【0141】
【化37】

【0142】
【化38】

【0143】
【化39】



(シ)61頁5行?63頁2行
「【0167】
例4ならびに比較例4aおよび4b:
比較例4a:
以下の混合物(C-4)を調製し、調査する。
【表7】

【0168】
この比較の混合物C-4を、例1に記載したように調査する。結果を、以下の表、表2に示す。
【表8】

【0169】
例4:
以下の混合物(M-4)を調製し、調査する。
【表9】

【0170】
ホスト混合物M-4を、例1に記載したように調査し、混合物M-1と同様に、250ppmのTINUVIN(登録商標)770を、混合物M-4-1に加える。結果を前の表、表2に要約する。」

(ス)
「【0181】
例10および比較例10.1?10.9:
例10:
【表15】

注:n.d:決定されず。
【0182】
この混合物M-10自体は、99.4%のVHRの初期値、VHR0を有する(LCD背面照射での照射の前)。250ppmのTINUVIN(登録商標)を、それに加え、それを次に調査する。ここでの電圧保持比における相対的な改善は、Srel(1000h)=2.8である。」

(II-C)引用例記載の発明
(A)上記(ア)の特に請求項1、(ウ)ないし(カ)によれば、引用例には、「ネマチック相および負の誘電異方性を有する液晶媒体であって、以下のもの
a)式I

で表される化合物、
ならびに
b)式II

(式中、
R^(21)は、1?7個のC原子を有する非置換のアルキルラジカルまたは2?7個のC原子を有する非置換のアルケニルラジカルを示し、および
R^(22)は、2?7個のC原子を有する非置換のアルケニルラジカルを示す。)、
で表される1種または2種以上の化合物
ならびに
c)式III-1?III-4

(式中、
R^(31)は、1?7個のC原子を有する非置換のアルキルラジカルを示し、
R^(32)は、1?7個のC原子を有する非置換のアルキルラジカル、または1?6個のC原子を有する非置換のアルコキシラジカルを示し、ならびに
m、nおよびoは、各々、互いに独立して0または1を示す。)、
で表される化合物の群から選択された1種または2種以上の化合物
であって、
好ましくは、式III-1で表される1種または2種以上の化合物として、式III-1-1およびIII-1-2で表される化合物の群から選択された1種または2種以上の化合物を含み、

(式中、R^(31)は、2?5個のC原子を有する、好ましくは3?5個のC原子を有するアルキルラジカルを示し、および
R^(32)は、2?5個のC原子を有するアルキルもしくはアルコキシラジカル、好ましくは2?4個のC原子を有するアルコキシラジカル、または2?4個のC原子を有するアルケニルオキシラジカルを示す。)
式III-3で表される1種または2種以上の化合物として、式III-3-1およびIII-3-2で表される化合物の群から選択された1種または2種以上の化合物を含み、

(式中、R^(31)は、2?5個のC原子を有する、好ましくは3?5個のC原子を有するアルキルラジカルを示し、および
R^(32)は、2?5個のC原子を有するアルキルもしくはアルコキシラジカル、好ましくは2?4個のC原子を有するアルコキシラジカル、または2?4個のC原子を有するアルケニルオキシラジカルを示す。)
式III-4で表されるとして、式III-4-aで表される1種または2種以上の化合物を含み、

(式中、AlkylおよびAlkyl’は、互いに独立して、1?7個のC原子を有する、好ましくは2?5個のC原子を有するアルキルを示す。)、
さらに、好ましくは、式IV-1およびIV-2で表される化合物の群から選択された、式IVで表される1種または2種以上の化合物を含み、

(式中、
AlkylおよびAlkyl’は、互いに独立して、1?7個のC原子を有する、好ましくは2?5個のC原子を有するアルキルを示し、
Alkoxyは、1?5個のC原子を有する、好ましくは2?4個のC原子を有するアルコキシを示し、ならびに
AlkenylおよびAlkenyl’は、互いに独立して2?7個のC原子を有する、好ましくは2?5個のC原子を有するアルケニルを示す。)
また、好ましくは、式V-1bで表される化合物の群から選択された、式V-1で表される1種または2種以上の化合物を含む、

(式中、
AlkylおよびAlkyl’は、互いに独立して、1?7個のC原子を有する、好ましくは2?5個のC原子を有するアルキルを示し、
Alkoxyは、1?5個のC原子を有する、好ましくは2?4個のC原子を有するアルコキシを示す。)
前記液晶媒体」が記載されているといえる。

(B)上記(キ)によれば、引用例には、式IIで表される化合物として、好ましくは、

(式中、Alkylは、独立して1?6個のC原子を有するアルキルを示す。)
が選択し得ることが記載されているといえる。

(C)上記(キ)によれば、式IIで表される化合物は25?47%、式IIIで表される化合物は50?75%で配合しうることが記載されているといえ、また、式IVで表される化合物と式Vで表される化合物は任意成分であるから、、これらの化合物の合計含有量は、75?100%である。

上記(A)ないし(C)の検討事項より、引用例には、
「ネマチック相および負の誘電異方性を有する液晶媒体であって、以下のもの
a)式I

で表される化合物、
ならびに
b)式II

(式中、
R^(21)は、1?7個のC原子を有する非置換のアルキルラジカルまたは2?7個のC原子を有する非置換のアルケニルラジカルを示し、および
R^(22)は、2?7個のC原子を有する非置換のアルケニルラジカルを示す。)、
で表される1種または2種以上の化合物であって、

(式中、Alkylは、独立して1?6個のC原子を有するアルキルを示す。)
を選択し得るものであり、
ならびに
c)式III-1?III-4

(式中、
R^(31)は、1?7個のC原子を有する非置換のアルキルラジカルを示し、
R^(32)は、1?7個のC原子を有する非置換のアルキルラジカル、または1?6個のC原子を有する非置換のアルコキシラジカルを示し、ならびに
m、nおよびoは、各々、互いに独立して0または1を示す。)、
で表される化合物の群から選択された1種または2種以上の化合物
であって、
好ましくは、式III-1で表される1種または2種以上の化合物として、式III-1-1およびIII-1-2で表される化合物の群から選択された1種または2種以上の化合物を含み、

(式中、R^(31)は、2?5個のC原子を有する、好ましくは3?5個のC原子を有するアルキルラジカルを示し、および
R^(32)は、2?5個のC原子を有するアルキルもしくはアルコキシラジカル、好ましくは2?4個のC原子を有するアルコキシラジカル、または2?4個のC原子を有するアルケニルオキシラジカルを示す。)
式III-3で表される1種または2種以上の化合物として、式III-3-1およびIII-3-2で表される化合物の群から選択された1種または2種以上の化合物を含み、

(式中、R^(31)は、2?5個のC原子を有する、好ましくは3?5個のC原子を有するアルキルラジカルを示し、および
R^(32)は、2?5個のC原子を有するアルキルもしくはアルコキシラジカル、好ましくは2?4個のC原子を有するアルコキシラジカル、または2?4個のC原子を有するアルケニルオキシラジカルを示す。)
式III-4で表されるとして、式III-4-aで表される1種または2種以上の化合物を含み、

(式中、AlkylおよびAlkyl’は、互いに独立して、1?7個のC原子を有する、好ましくは2?5個のC原子を有するアルキルを示す。)、
さらに、好ましくは、式IV-1およびIV-2で表される化合物の群から選択された、式IVで表される1種または2種以上の化合物を含み、

(式中、
AlkylおよびAlkyl’は、互いに独立して、1?7個のC原子を有する、好ましくは2?5個のC原子を有するアルキルを示し、
Alkoxyは、1?5個のC原子を有する、好ましくは2?4個のC原子を有するアルコキシを示し、ならびに
AlkenylおよびAlkenyl’は、互いに独立して2?7個のC原子を有する、好ましくは2?5個のC原子を有するアルケニルを示す。)
また、好ましくは、式V-1bで表される化合物の群から選択された、式V-1で表される1種または2種以上の化合物を含み、

(式中、
AlkylおよびAlkyl’は、互いに独立して、1?7個のC原子を有する、好ましくは2?5個のC原子を有するアルキルを示し、
Alkoxyは、1?5個のC原子を有する、好ましくは2?4個のC原子を有するアルコキシを示す。)
これらの化合物の合計含有量は75?100%である、前記液晶媒体。」(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

また、上記(シ)より、引用例には、混合物C-4として、「CY-3-O2」、「CCY-3-O2」、「CCY-4-O2」、「CPY-2-O2」、「CPY-3-O2」、「PYP-2-3」、「CC-2-3」、「CC-3-4」、「CP-3-O1」のみから構成され、透明点T(N,I)が77.5℃、誘電異方性Δε(20℃,1kHz)が-3.0、回転粘度γ_(1)(20℃)が112mPa・s、しきい値電圧Vo(20℃)が2.37Vである液晶組成物が記載されているといえる。
また、透明点T(N,I)はネマチック相の上限温度であるから、当該混合物もネマチック液晶組成物であり、また、誘電異方性Δε(20℃,1kHz)が-3.0であるから負の誘電率異方性を有するといえる。

したがって、引用例には、
「CY-3-O2、CCY-3-O2、CCY-4-O2、CPY-2-O2、CPY-3-O2、PYP-2-3、CC-2-3、CC-3-4、CP-3-O1のみから構成された、透明点T(N,I)が77.5℃、誘電異方性Δε(20℃,1kHz)が-3.0、回転粘度γ_(1)(20℃)が112mPa・s、しきい値電圧Vo(20℃)が2.37Vである、負の誘電率異方性を有するネマチック液晶組成物。」(以下、「参考発明」という。)が記載されていると認められる。

(II-D)対比・判断
本願発明と引用例記載の発明とを対比する。

○引用例記載の発明の式IIで表される化合物は、「R^(21)、R^(22)」が「3個のC原子を有する非置換のアルキルラジカル、3個のC原子を有する非置換のアルケニルラジカル」であるとき、本願発明の式(b3)で表される化合物に相当するから、引用例記載の発明の式IIで表される化合物は、本願発明の式(b3)で表される化合物を包含するものである。

○引用例記載の発明の式IV-1で表される化合物は、「Alkyl、Alkyl’」がそれぞれ、「3個のC原子を有するアルキルラジカル、4個のC原子を有するアルキルラジカル」であるとき本願発明の式(1)で表される化合物に相当し、「2個のC原子を有するアルキル、3個のC原子を有するアルキルラジカル」であるとき本願発明の式(8.1)で表される化合物に相当するから、引用例記載の発明の式IV-1で表される化合物は、本願発明の式(1)で表される化合物及び式(8.1)で表される化合物を包含するものである。

○引用例記載の発明の式V-1bで表される化合物は、「Alkyl、Alkoxy」がそれぞれ「3個のC原子を有するアルキルラジカル、1個のC原子を有するアルコキシラジカル」であるとき本願発明の式(6.1)で表される化合物に相当し、「3個のC原子を有するアルキルラジカル、2個のC原子を有するアルコキシラジカル」であるとき本願発明の式(6.2)で表される化合物に相当するから、引用例記載の発明の式V-1bで表される化合物は、本願発明の式(6.1)で表される化合物及び式(6.2)で表される化合物を包含するものである。

○引用例記載の発明の式IV-1で表される化合物が、「Alkyl、Alkyl’」が「3個のC原子を有するアルキルラジカル、2若しくは5個のC原子を有するアルキルラジカル」であるか、式IV-2で表される化合物が、「Alkyl、Alkoxy」が「3個のC原子を有するアルキルラジカル、1?3個のC原子を有するアルコキシラジカル」であるとき本願発明の一般式(8)で表される化合物に相当するから、引用例記載の発明の式IV-1で表される化合物又は式IV-2で表される化合物は、本願発明の一般式(8)で表される化合物を包含するものである。

○引用例記載の発明の式III-1-1で表される化合物は、「R^(31)、R^(32)」が「3のC原子のアルキルラジカル、2?5個のC原子を有するアルコキシラジカル」であるとき本願発明の一般式(2)で表される化合物(R^(1)が炭素原子数2?5のアルキル基を表す。)と重複一致する。

○引用例記載の発明の式III-3-2で表される化合物は、「R^(31)、R^(32)」が「2?5個のC原子を有するアルキルラジカル、2個のC原子を有するアルキルラジカル」 であるとき本願発明の一般式(3)で表される化合物(R^(3)は炭素原子数2?5のアルキル基を表す。)と重複一致する。

○引用例記載の発明のIII-1-2で表される化合物は、「R^(31)、R^(32)」が「3個のC原子を有するアルキルラジカル、2?5個のC原子を有するアルコキシラジカル」であるとき本願発明の一般式(5)で表される化合物(R^(4)は炭素原子数2?5のアルキル基を表す。)と重複一致する。

○引用例記載の発明の式III-1-1で表される化合物は、「R^(31)、R^(32)」がそれぞれ「5個のC原子を有するアルキルラジカル、2個のC原子を有するアルコキシラジカル」であるとき本願発明の式(9.1)で表される化合物に相当し、「5個のC原子を有するアルキルラジカル、4個のC原子のアルコキシラジカル」であるとき本願発明の式(9.2)で表される化合物に相当するから、引用例記載の発明の式III-1-1で表される化合物は、本願発明の式(9.1)で表される化合物及び式(9.2)で表される化合物を包含するものである。

○引用例記載の発明の式III-1-2で表される化合物は、「R^(31)、R^(32)」がそれぞれ「4個のC原子を有するアルキルラジカル、2個のC原子を有するアルコキシラジカル」であるとき本願発明の式(7.1)で表される化合物に相当し、「5個のC原子を有するアルキルラジカル、2個のC原子を有するアルコキシラジカル」であるとき本願発明の式(7.2)で表される化合物に相当するから、引用例記載の発明の式III-1-2で表される化合物は、本願発明の式(7.1)で表される化合物及び式(7.2)で表される化合物を包含するものである。

○引用例記載の発明の式III-4-aで表される化合物は、「R^(31)、R^(32)」が「Alkyl、Alkyl’」が「1?7個のC原子のアルキルラジカル、2個のC原子を有するアルキルラジカル」であるとき本願発明の一般式(4)で表される化合物に相当するから、引用例記載の発明の式III-4-aで表される化合物は、本願発明の一般式(4)で表される化合物を包含するものである。

○引用例記載の発明の「ネマチック相および負の誘電異方性を有する液晶媒体」は、本願発明の「負の誘電率異方性を有するネマチック液晶組成物」に相当する。

以上より、本願発明と引用例記載の発明とは、
「下記式(1)、下記式(8.1)、下記一般式(8)、下記式(6.1)、下記式(6.2)および下記式(b3)で表される化合物群から選ばれる化合物を含む誘電率異方性が-2より大かつ+2より小である誘電的に中性の成分である成分(B)を含有し、前記成分(B)は下記式(1)および下記式(8.1)で表される化合物を含み、
【化1】

【化2】

(式中、R^(5)は炭素原子数2若しくは5のアルキル基又は炭素原子数1?3のアルコキシ基を表す。ただし、前記一般式(8)が前記式(8.1)である場合を除く。)
【化3】

下記一般式(2)、下記一般式(3)、下記一般式(5)、下記式(9.1)、下記式(9.2)、下記式(7.1)、下記式(7.2)および下記一般式(4)で表される化合物群から選ばれる化合物を含む誘電率異方性が-2以下の負の成分(A)を含有し、前記成分(A)は下記一般式(2)および下記一般式(5)で表される化合物を含む、
【化4】

(式中、R^(1)、R^(3)及びR^(4)はそれぞれ独立に炭素原子数2?5のアルキル基を表す。)
【化5】

(R^(2)は炭素原子数1?7のアルキル基を表す。)
負の誘電率異方性を有するネマチック液晶組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本願発明では、「誘電率異方性が-2より大かつ+2より小である誘電的に中性の成分である成分(B)」が「式(1)、式(8.1)、一般式(8)、式(6.1)、式(6.2)および式(b3)で表される化合物群から選ばれる化合物から構成される」ことが特定され、かつ、「誘電率異方性が-2以下の負の成分(A)」が「一般式(2)、一般式(3)、一般式(5)、式(9.1)、式(9.2)、式(7.1)、式(7.2)および一般式(4)で表される化合物群から選ばれる化合物から構成される」ことが特定されているのに対し、引用例記載の発明では、「誘電率異方性が-2より大かつ+2より小である誘電的に中性の成分である成分(B)」として「式(1)、式(8.1)、一般式(8)、式(6.1)、式(6.2)および式(b3)で表される化合物群から選ばれる化合物」を含み得、また、「誘電率異方性が-2以下の負の成分(A)」として「一般式(2)、一般式(3)、一般式(5)、式(9.1)、式(9.2)、式(7.1)、式(7.2)および一般式(4)で表される化合物群から選ばれる化合物」を含み得るとされるに留まる点。

<相違点2>
本願発明では、「成分(B)は下記式(1)および式(8.1)で表される化合物を含み」、「成分(A)は一般式(2)および一般式(5)で表される化合物を含」むことが特定されているのに対し、引用例記載の発明では、これらが選択し得る化合物として示されているの留まる点。

<相違点3>
本願発明では、成分(A)と成分(B)の合計含有量が「80%以上99%以下」と特定されているのに対し、引用例記載の発明では、「75?100%」とされている点。

以下、上記相違点について検討する。
<相違点1>及び<相違点2>について
引用例記載の発明では、「誘電率異方性が-2より大かつ+2より小である誘電的に中性の成分である成分(B)」として「式(1)、式(8.1)、一般式(8)、式(6.1)、式(6.2)および式(b3)で表される化合物群から選ばれる化合物」を含み得、また、「誘電率異方性が-2以下の負の成分(A)」として「一般式(2)、一般式(3)、一般式(5)、式(9.1)、式(9.2)、式(7.1)、式(7.2)および一般式(4)で表される化合物群から選ばれる化合物」を含み得るとされるに留まるものの、当然に、「誘電率異方性が-2より大かつ+2より小である誘電的に中性の成分である成分(B)」が「式(1)、式(8.1)、一般式(8)、式(6.1)、式(6.2)および式(b3)で表される化合物群から選ばれる化合物から構成される」ことが特定され、かつ、「誘電率異方性が-2以下の負の成分(A)」が「一般式(2)、一般式(3)、一般式(5)、式(9.1)、式(9.2)、式(7.1)、式(7.2)および一般式(4)で表される化合物群から選ばれる化合物から構成され」、かつ、「成分(B)は下記式(1)および式(8.1)で表される化合物を含み」、「成分(A)は一般式(2)および一般式(5)で表される化合物を含」む実施形態を包含するものであり、そのような実施形態を実際に選択することは、それにより顕著な効果が奏されるのでもなければ、公知材料の中からの最適材料の選択を超えるものとは認められず、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。

<相違点3>について
例えば、上記(ク)に、「本発明の液晶媒体は、所要に応じて、またさらなる添加剤、例えば安定剤および/または多色性染料および/またはキラルなドーパントを通常の量において含んでいてもよい。使用するこれらの添加剤の量は、好ましくは、全体の混合物の量を基準として合計で0%またはそれ以上から10%またはそれ以下まで、特に好ましくは0.1%またはそれ以上から6%またはそれ以下までである」ことが、上記(ケ)に、「本発明の液晶相を、好適な添加剤によって、それらを現在まで開示されているあらゆるタイプの、例えばECB、VAN、IPS、GHまたはASM-VA LCDディスプレイにおいて使用することができるように修正することができる」ことが記載されているように、液晶組成物に必要に応じて添加剤を適宜配合することは、液晶組成物の分野において技術常識である。そして、このような技術常識に基づいて、引用例記載の発明において、添加剤を適宜配合することは、当業者にとって造作もないことである。
また、その際に添加剤の配合量は、「合計で0%またはそれ以上から10%またはそれ以下」であるから、1?10%とすることに何らの困難性も認められない。

<効果>について
本願発明は「誘電率異方性(△ε)、粘度(η)、ネマチック相の上限温度(T_(ni))、低温でのネマチック相の安定性(溶解性)、回転粘度(γ_(1))等の諸特性が良好であり、液晶表示素子の製造時のODF工程における安定した吐出が可能」(【0028】参照)との作用効果を有するものであるが、出願時の明細書において、当該作用効果を得るために必要な事項とされていたものは、技術的裏付けがあるかはさておき、式(1)で表される誘電的に中性の化合物を含み、式(2)?(5)で表される化合物群から選ばれる化合物を2種類以上含むことであるところ、例えば、引用例記載の発明の実施形態である上記(シ)の「混合物M-4」には、式(1)で表される化合物に相当する「CC-3-4」と、式(2)で表される化合物に相当する「CY-3-O4」、式(3)で表される化合物に相当する「CPY-2-O2」、「CPY-3-O2」、式(5)で表される化合物に相当する「CCY-3-O2」が含まれ、また、上記(ス)の「混合物M-10」には、式(1)で表される化合物に相当する「CC-3-4」と、式(2)で表される化合物に相当する「CY-3-O4」、式(5)で表される化合物に相当する「CCY-3-O2」、「CCY-5-O2」が含まれていることから、いずれも上記の「必要な事項」を満足し、したがって、上記の作用効果を有しているはずである。また、本願明細書には、上記の「必要な事項」を満足するだけでは上記作用効果を奏しないが、本願発明の要件を全て満足すれば上記作用効果を奏すると解すべき技術的根拠が示されていないことは、上記「II.(II-B)」で検討済みである(指摘事項4’参照)。
とするならば、本願発明の作用効果は、引用例記載の発明が既に内在していたものにすぎないか、又は、本願明細書の発明の詳細な説明で裏付けられていないものであり、いずれにしろ、本願発明は、引用例記載の発明と比べて有利な効果を有するとは認められない。

〔なお、引用例に記載の上記参考発明について見てみると、これは、上記(サ)より、
・参考発明の「CY-3-O2」は本願発明における一般式(2)で表される化合物(R^(1)は炭素原子数2のアルキル基を表す。)に相当し、
・参考発明の「CCY-3-O2」は本願発明における一般式(5)で表される化合物(R^(4)は炭素原子数2のアルキル基を表す。)に相当し、
・参考発明の「CCY-4-O2」は本願発明における式(7.1)で表される化合物に相当し、
・参考発明の「CPY-2-O2」は本願発明における一般式(3)で表される化合物(R^(3)は炭素原子数2のアルキル基を表す。)に相当し、
・参考発明の「CPY-3-O2」は本願発明における一般式(3)で表される化合物(R^(3)は炭素原子数3のアルキル基を表す。)に相当し、
・参考発明の「PYP-2-3」は本願発明における一般式(4)で表される化合物(R^(2)は炭素原子数3のアルキル基を表す。)に相当し、
・参考発明の「CC-2-3」は本願発明における式(8.1)で表される化合物に相当し、
・参考発明の「CC-3-4」は本願発明における式(1)で表される化合物に相当し、
・参考発明の「CP-3-O1」は本願発明における式(6.1)で表される化合物に相当することが分かるから、参考発明は、「誘電率異方性が-2より大かつ+2より小である誘電的に中性の成分である成分(B)」が「式(1)、式(8.1)、一般式(8)、式(6.1)、式(6.2)および式(b3)で表される化合物群から選ばれる化合物から構成される」ことが特定され、かつ、「誘電率異方性が-2以下の負の成分(A)」が「一般式(2)、一般式(3)、一般式(5)、式(9.1)、式(9.2)、式(7.1)、式(7.2)および一般式(4)で表される化合物群から選ばれる化合物から構成され」、かつ、「成分(B)は下記式(1)および式(8.1)で表される化合物を含み」、「成分(A)は一般式(2)および一般式(5)で表される化合物を含」むとの要件を全て満たし、本願発明とは、「成分(A)および成分(B)の合計含有量」が「80%以上99%以下である」か「100%である」かでのみ相違するものである。
そして、本願明細書の各種“実施例”を参照すると、「成分(A)および成分(B)の合計含有量が100%である」ものが複数開示されており、これらは皆良好な結果を奏していることからして、「成分(A)および成分(B)の合計含有量」が99%であることと100%であることとの間に臨界的意義は認められず、引用例では確認されていない低温でのネマチック相の安定性、焼き付き特性、滴下痕の発生がし難いといった本願発明が有する作用効果についても、少なくとも参考発明が内在していたものにすぎず、本願発明の作用効果は、本願出願前公知の技術(参考発明)が既に有していたものといえる。
しかも、上記(イ)に、「極めて高い比抵抗、同時に大きい動作温度範囲、短い応答時間および低いしきい値電圧を有し、その補助によって様々なグレーシェードを生じることができ、特に良好であり、かつ安定なVHRを有するMLCディスプレイについての多大な需要が、継続してある」と記載されているように、「極めて高い比抵抗、同時に大きい動作温度範囲、短い応答時間および低いしきい値電圧を有」する液晶組成物が求められているところ、参考発明は、「透明点T(N,I)が77.5℃、誘電異方性Δε(20℃,1kHz)が-3.0、回転粘度γ_(1)(20℃)が112mPa・s、しきい値電圧Vo(20℃)が2.37Vであ」り、実施例として開示されたものと遜色ない物性を示していることから、参考発明は、「劣る」例ではなく、液晶組成物の良好な一実施形態であるといえる。すなわち、本願発明は、本願出願前公知の良好な一液晶組成物と比して効果上の差異を有するものでなく、この点からも、本願発明特有の有利な効果を認めることはできない。〕

(II-E)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成27年9月24日付け意見書において、
4. 『本願発明は、上述の通り、一般式(2)、一般式(3)、一般式(5)、式(9.1)、式(9.2)、式(7.1)、式(7.2)および一般式(4)で表される化合物群から選ばれる特定の化合物のみから構成される誘電率異方性が-2以下の負の成分(A)と、式(1)、式(8.1)、一般式(8)、式(6.1)、式(6.2)および式(b3)で表される化合物群から選ばれる特定の化合物のみから構成される誘電率異方性が-2より大かつ+2より小である誘電的に中性の成分である成分(B)とで80?99%の液晶組成物を構成し、さらに必須化合物として成分(A)から一般式(2)および一般式(5)を含み、さらに成分(B)から式(8.1)および式(1)を含むことによって、段落番号[0011]の「誘電率異方性(△ε)、粘度(η)、ネマチック相の上限温度(Tni)、低温でのネマチック相の安定性(溶解性)、回転粘度(γ1)、焼き付き特性が良好であり、液晶表示素子の製造時の滴下痕が発生し難く、ODF工程における安定した吐出が可能」との課題を解決するもの』であること、
5. 『本願の請求項1の必須成分である式(1)や式(8.1)などを含む上位概念の式が引用例に記載されている点、また、・・それら上位概念の式の化合物の、「合計含有量が80%以上99%以下である」との要件を満たす実施形態を包含する点を指摘して、本願発明・・は引用例に記載された発明に該当し、特許を受けることができるものではない、と認定されました。しかしながら、審査基準にも記載の通り、引用発明が下位概念で表現されている場合は、上位概念で表現された発明を認定できますが、引用発明が上位概念で表現されている場合は、下位概念で表現された発明が示されていることにならないから、下位概念で表現された発明は認定でき』ないこと、
6. 『本願の請求項1に係る発明は、引用例には記載されておらず、滴下痕を抑制する引用例には記載されていない異質な効果を有しますから、引用例に記載の発明に対して新規性進歩性を有してい』ること、
を挙げて、本願発明の非容易想到性を主張する。

まず、上記3.について検討する。審判請求人は、『一般式(2)、一般式(3)、一般式(5)、式(9.1)、式(9.2)、式(7.1)、式(7.2)および一般式(4)で表される化合物群から選ばれる特定の化合物のみから構成される誘電率異方性が-2以下の負の成分(A)と、式(1)、式(8.1)、一般式(8)、式(6.1)、式(6.2)および式(b3)で表される化合物群から選ばれる特定の化合物のみから構成される誘電率異方性が-2より大かつ+2より小である誘電的に中性の成分である成分(B)とで80?99%の液晶組成物を構成し、さらに必須化合物として成分(A)から一般式(2)および一般式(5)を含み、さらに成分(B)から式(8.1)および式(1)を含むこと』と『「誘電率異方性(△ε)、粘度(η)、ネマチック相の上限温度(Tni)、低温でのネマチック相の安定性(溶解性)、回転粘度(γ1)、焼き付き特性が良好であり、液晶

表示素子の製造時の滴下痕が発生し難く、ODF工程における安定した吐出が可能」との課題を解決する』こととの間に因果関係があることを述べているが、当初明細書において、上記課題解決手段として開示されていたと認められるのは、あくまでも、「負の誘電率異方性を有する液晶組成物であって、式(1)で表される誘電的に中性の化合物を含み、誘電率異方性が-2より大かつ+2より小である誘電的に中性の成分である成分(B)と、式(2)?(5)で表される化合物群から選ばれる化合物を2種類以上を含む誘電的に負の成分(A)とを含むこと」でしかなく、それを超えた事項に基づく上記主張は、当初明細書の記載を越えるものであるから、認めることはできない。そして、その範囲で本願発明が引用例記載の発明と比して有利な効果を有しないことは、上記「<効果>について」で検討済みである。
次に、上記4.について検討すると、引用例の実施例(比較例)で具体的に用いられている化合物を参照すると、引用例には、「本願の請求項1の必須成分である式(1)や式(8.1)などを含む上位概念の式」が記載されているに留まらず、これらの下位概念として、「式(1)や式(8.1)など」が具体的に想定されていたと認められる。また、引用例には、本願発明の成分(A)や成分(B)に分類されない「添加剤」を添加しうることが記載されており(なお、液晶組成物の分野において、添加剤を適宜配合することは、たとえ直接的な記載や示唆が必要でないほどに、周知・慣用の技術事項である。)、これらを適量配合した実施形態を想到することも、当業者にとって何ら困難なことではないから、上記4.の主張も妥当でない。
次に、上記5.について検討すると、上記3.で検討したように、引用例記載の発明も「滴下痕を抑制する」との作用効果を内在していたと推認されるから、この点で、本願発明の進歩性を認めることはできない。

(II-F)結論
以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものでない。

第4 結語
したがって、本願は、請求項2ないし11に係る発明について検討するまでもなく、特許法第49条第2号及び同条第4号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-27 
結審通知日 2016-02-02 
審決日 2016-02-15 
出願番号 特願2013-540144(P2013-540144)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09K)
P 1 8・ 537- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁科 努  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 岩田 行剛
橋本 栄和
発明の名称 液晶組成物、液晶表示素子および液晶ディスプレイ  
代理人 高橋 詔男  
代理人 鈴木 三義  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 村山 靖彦  

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