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審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 一部無効 2項進歩性  A23L
管理番号 1317519
審判番号 無効2014-800012  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-01-21 
確定日 2016-08-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第3966527号発明「生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3966527号の出願についての主な経緯は,以下のとおりである。
なお,甲各号証は,甲と数字を組合わせて表すこととする。例えば,甲第1号証は,「甲1」という。乙各号証も同様である。
平成10年 6月12日 出願
平成19年 6月 8日 特許権の設定登録(請求項の数5)
平成22年 1月18日 訂正審判請求(訂正2010-390006
号)
平成22年 2月25日付け 訂正2010-390006号の審決(訂正
を認め,その後確定。)
平成26年 1月21日 本件無効審判請求書(請求人)(甲1?甲
13)
平成26年 4月28日 答弁書(被請求人)(乙1の1?乙26の
3)
平成26年 6月 2日付け 審理事項通知書
平成26年 6月23日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成26年 6月23日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成26年 7月 1日 上申書(1)(請求人)
平成26年 7月 7日差出 上申書(被請求人)
平成26年 7月 7日 口頭審理
平成26年 7月14日 上申書(請求人)

第2 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張
特許第3966527号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,下記「第2 3」に示した証拠を提出した。
2 無効理由の概要
請求人の主張する無効理由の概要は,次のとおりである。
なお,特許第3966527号の請求項1に記載された発明を「本件特許発明」という。
(無効理由1)
本件特許発明は,「発明の詳細な説明に記載したもの」ではなく,特許法第36条第6項第1号違背であって,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

(無効理由2)
本件特許発明は,特許出願前に公然と知られ,また,公然と実施されていた発明(甲3?7号証)及び,特許出願前に日本国内で頒布されていた刊行物(甲1,甲2,甲8?10)記載の発明に基づいて,特許出願の際に,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。(審判請求書8頁32?39行)

審判請求書8頁32?39行記載の上記無効理由からすると,主発明が甲1?10のいずれなのか明確でないが,審判請求書には,甲1を主引例とする無効理由しか記載されていないことから,無効理由2は,審判請求書16頁「(4-C)」の項の記載からみて,
「甲1記載の発明において,甲2記載の発明,甲3?7に記載の公然と知られ,公然と実施された発明,及び,甲8?10記載の発明を適用することで,本件特許発明は,当業者が容易に発明できたものである。」
というものであると理解される。

なお,念のため,当審から審理事項通知書3頁下から4行?4頁12行で,上記無効理由2の理解を示したが,特段の反論はなかった。

3 証拠方法
甲1 特開平8-140637号公報
甲2 特開平6-121660号公報
甲3 渡邊 功作成,平成25年8月27日,陳述書
甲4 金子登喜男作成,平成25年8月27日,陳述書
甲5 WK-3型用大荒ゴミ取り機の写真
甲6 平成9年10月31日付けの金子商会宛の渡邊機開工業株式会社の
売掛金元張の写し
甲7 平成9年10月31日付けの小浅商事(株)宛の渡邊機開工業株式
会社の売掛金元張の写し
甲8 特開平5-71027号公報
甲9 実開平7-40644号公報
甲10 実願平1-152938号の願書に最初に添付した明細書及び図面
の内容を撮影したマイクロフィルム(実開平3-91423号)
甲11 特開平8-280362号公報
甲12 特開平10-262616号公報
甲13 H9.7.28日という記入のある作成者不明の大異物取機部品図面

4 主な甲号証記載の事項
(1)甲1記載の事項
甲1には次の事項が記載されている。なお,下線は当審にて付記したものである。
(甲1-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し,この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし,この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底隅部に異物排出口を設けたことを特徴とする生海苔の異物分離除去装置。」

(甲1-2)「【0020】また,61は円筒状の混合液連設タンクであり,前記第二分離除去具20の環状枠板23の外周縁に外嵌めされている。また,この連設タンク61の上端縁には前記第二分離除去具20と同じ構成の第一分離除去具70が配置されている。但し,環状固定板74と第一回転板81とのクリアランスSは前記第二分離除去具20よりも大であり,また,分離した生海苔と水との混合液を第二分離除去具20上に落下させる必要上,第二分離除去具20における底板部21の代わりにガイド筒77が設けられている。なお,第二分離除去具20における第二回転板52に相当するものは図示されていないが設置しても構わない。第一分離除去具70において,72は周筒部,73は環状枠板,75は管状の排出路,76はコック761を有する排出管である。」

(甲1-3)「【0021】90は円筒状の混合液主タンクであり,前記第一分離除去具70の環状枠板73の外周縁に外嵌めされている。なお,この主タンク90及び/又は前記連設タンク61はこの発明の「混合液タンク」に相当する。91は原料供給管であり,前記主タンク90の上端縁に設置されている。この原料供給管91を介して原料液(原生海苔と水との混合物)を前記主タンク90内に供給する。また,図示はしないが,水供給管も前記主タンク90の上端縁に設置されている。なお,92は液面レベルセンサであり,前記主タンク90の上端縁に設置されている。この液面レベルセンサ92はタンク(主タンク90及び前記連設タンク61)内への混合液および水の供給をコントロールする(タンク内において混合液が所定量に達したときに混合液又は水の供給を停止する)。」

(甲1-4)「【0022】次にこの異物分離除去装置Dの作動を説明する。
【0023】まず,原料供給管91を介して生海苔混合液(生海苔と塩水とを適宜濃度に調合したもの)を主タンク90内に供給する。そして,第一モータ11を駆動させることによって第一分離除去具70の第一回転板81および第二分離除去具20の第一回転板51を回転させるとともに第二モータ12を駆動させることによって第二分離除去具20の第二回転板52を回転させる。すると,第一分離除去具70において主タンク90内の混合液が渦を発生し,混合液中の大異物は第一回転板81の遠心力によってクリアランスSを越えて環状枠板73側に集積する。このため,生海苔のみが水とともに前記クリアランスSを通過して下方に流れる。このとき,第一回転板81は回転しているため,前記クリアランスSに生海苔は詰まりにくいものである。また,小異物は生海苔および水とともに前記クリアランスSを通過して下方に流れ,連設タンク61内に混合液として供給される。」

(甲1-5)「【0025】異物の除去された混合液は第二分離除去具20の流出口29をバッチ水槽11(当審注:段落【0013】の「10はこの装置Dのバッチ水槽」との記載照らし,「バッチ水槽11」は,「バッチ水槽10」の誤記である。)に流れ落とされる。また,除去された異物を排出する場合は,主タンク61へ混合液を供給するのを停止して,水のみを供給してタンク(主タンク90及び前記連設タンク61)内の混合液比率を薄くしてタンク(主タンク90及び前記連設タンク61)内に生海苔が存在していないことを確認した後,コック261,761を開いて排出管26,76から大小の異物をそれぞれ排出する。」

(甲1-6)「【0028】
【発明の効果】この発明に係る生海苔の異物分離除去装置においては,筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し,この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし,この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底隅部に異物排出口を設けたため,第一回転板を回転させると混合液に渦が形成されるため生海苔よりも比重の大きい異物は遠心力によって第一回転板と前記環状枠板部とのクリアランスよりも環状枠板部側,即ち,タンクの底隅部に集積する結果,生海苔のみが水とともに前記クリアランスを通過して下方に流れるものである。このとき,第一回転板は回転しているため,前記クリアランスには生海苔が詰まりにくいものである。
【0029】よって,この異物分離除去装置を使用すれば,異物が前記クリアランスに詰まりにくいため,従来のように目詰まり洗浄装置等を別途に設ける必要がない結果,装置の維持がしやすいとともに取扱いが簡易になり,この結果,生海苔の異物分離除去作業の作業能率を向上させることができる。」

(甲1-7) 「【図1】



(甲1-8)「【0015】次に,前記第二分離除去具20は,前記フレーム30に螺子止めされた円板状の底板部21とこの底板部21の周縁に立設された周筒部22とこの周筒部22の上端内周縁に連設された環状枠板23とから構成されている。24は環状固定板であり,前記環状枠板23の内周縁に螺子止めされている。この環状固定板24は前記環状枠板23の内周側に延出し,後記第一回転板51の外周縁とのクリアランスCを調節する(図4を参照のこと)。・・・(略)・・・29は流出口であり(図2参照のこと),前記周筒部22に設置され,異物を除去された混合液を前記バッチ水槽11に流れ落とす。」

(甲1-9)「【図面の簡単な説明】
・・・(略)・・・
【符号の説明】
・・・(略)・・・
73・・・環状枠板(環状枠板部)
74・・・環状固定板(環状枠板部)
81・・・第一回転板」

(2)甲2記載の事項
(甲2-1)「【0012】図4は第2実施例を示すもので,分離タンク1eに排出パイプ40を固定的に配設し,その排出パイプ40に分離ドラム15eを回転自在に支持させ,排出パイプ40の分離ドラム15e内に位置する部分に排出口3eを設けてある。排出パイプ40の一端部はホース5eを介して図示しない排出ポンプの吸引口に連結され,他端部は栓10eによって閉塞されている。また分離タンク1eの底壁1beには海苔混合液を供給する供給パイプ43の供給口13eが設けられている。また清掃装置28eとして清掃ブラシ44を示してあり,その清掃ブラシ44は分離タンク1eに固定的に配設した支持棒45に分離ドラム15eの周壁17eに摺接するブラシ部材47を植設して構成してある。清掃ブラシ44は分離ドラム15eの周囲を多数に分割する位置に夫々配設しても良い。なお第一実施例と実質的に同一な部分には同じ符号にアルファベットのeを付して重複説明を省略する。以後の実施例についても同様にアルファベットのf,g,h,k,mを付して重複説明を省略する。
【0013】この実施例では,分離ドラム15eの外側の分離室に海苔混合液が供給され,この海苔混合液の生海苔と水が分離孔21eから分離ドラム15e内に流れ,この分離ドラム15e内に流入した異物分離除去後の海苔混合液が排出口3eから排出される。清掃ブラシ44は分離ドラム15eの回転によりブラシ部材47が周壁17eを摺接し,異物や生海苔による各分離孔21eの詰まりを清掃する。」

(甲2-2)「【図4】



(3)甲5記載の事項
(甲5-1)「【写真4】



(甲5-2)「【写真5】



(甲5-3)「【写真6】



(甲5-4)「【写真7】



(甲5-5)「【写真8】



(4)甲3記載の事項
(甲3-1)「回転ブラシ筒(写真6)が濾筒の内側に回転可能に装入されます(写真5)。」(5頁24行)

(甲3-2)「回転ブラシ筒の上部側にはL型金具が取り付けられています。このL型金具が取り付けられる高さ位置は,回転ブラシ筒の周壁にらせん状に取り付けられているブラシの最上部より少し低い高さ位置になっています(写真6)。」(5頁29?31行)

(甲3-3)「回転ブラシ筒が濾筒の中に装入された状態で,L型金具の刃部が濾筒の上端縁の上に当接します(写真5)。」(2頁32行?末行)

(甲3-4)「送水筒を介して,濾筒の底部より,異物分離処理を行う「生海苔と海水との混合液」(以下「生海苔混合液」という)を濾筒の中に送り込むと共に,回転ブラシ筒を回転させます。」(6頁7?9行)

(甲3-5)「回転ブラシ筒を回転させると生海苔混合液が濾筒内を上昇し,濾筒の側壁に無数に形成されている微小通水孔を通過できる海水などは当該微小通水孔を介して,濾筒と外槽との間に排出され,第二排水パイプを介して外部へ排出されます。」(6頁10?13行)

(甲3-6)「回転ブラシ筒の回転につれて濾筒内を上昇した生海苔混合液は,帽状キャップの環状鍔の下面と,濾筒の上端縁との間に形成される隙間を介して押し出され,排出樋を介して,次の工程(より小さな異物を生海苔混合液から除去する工程)へ送られます。」(6頁14?17行)

(甲3-7)「回転ブラシ筒の回転にともなって,帽状キャップの環状鍔の下面と,濾筒の上端縁との間に形成される隙間に挿入されているL型金具の刃部が,隙間を移動していきますので,帽状キャップの環状鍔と,濾筒の上端縁との間に形成される隙間に異物が詰まって,当該隙間を通過する生海苔混合液の量が少なくなることはありません。」(6頁22?26行)

(5)甲8記載の事項
(甲8-1)「【要約】
【目的】 ケージ内に付着した繊維屑がスクリュー羽根により掻落され,この繊維屑がスクリューを羽根と共回りするのを防止する。
【構成】 下部を小径とした円錐状のケージ3と,該ケージ3内に収納されるスクリュー羽根4とを備え,搬送気流と共に送り込まれる根繊維屑をケージ3により分離し,ケージ3に付着する繊維屑を回転するスクリュー羽根4により掻落し,下部開口部から圧縮して排出すると共に,ケージ3の内面にはスクリュー羽根4と共回りする繊維屑に対する共回り防止バー11を上下方向に取り付け,スクリュー跳ねは上記共回り防止バーに可及的に近接した円錐状とする。
【効果】 掻落された繊維屑は共回り防止バー11によりスクリュー羽根4と共回りすることなく下方に押し出される。」

(甲8-2)「【請求項1】下部を小径とし,かつ開口した円錐状のケージと,該ケージ内に収納されるスクリュー羽根を備え,搬送気流と共に送り込まれる繊維屑をケージ内に上方から供給し,ケージを介して搬送気流を排出し,回転するスクリュー羽根によりケージに付着する繊維屑を掻落し,順次下方に押し下げ,下部開口部から圧縮して排出する繊維屑圧縮排出装置において,ケージ内面下方にはスクリュー羽根と共廻りする繊維屑に対する共廻り防止バーを上下方向に取り付け,スクリュー羽根の上方はケージ内面に,下方は上記共廻り防止バー内面に可及的に近接する形状としたことを特徴とする繊維屑圧縮排出装置。」

(甲8-3)「【図1】



(6)甲9記載の事項
(甲9-1)「【要約】
【目的】 本考案は粉粒体フィーダの内筒2内の粉粒体が中央回転羽根4の回転に伴って共回りするのを圧密のおそれなく防止することを目的とする。
【構成】 底板7上に間隙tを介して粉粒体供給用の内筒2が設けられ,該内筒2と中心線を共有する外筒1の下端を底板7上に接続し,内外筒1,2間に上記間隙tから排出される粉粒体の円環状通路pを形成し,該通路pに排出口8を設け,かつ底板7の中心部に突設した直立回転体cに中央回転羽根4を設け,該回転羽根4の先端に外筒1の内周面に沿う外周回転リング6を設け,該回転リング6に設けた複数の外周回転羽根5を内側に向わせてなる粉粒体フィーダにおいて,上記底板7上面に開き角α均等な複数の半径線dにそれぞれ均等角度α’で同一方向に交差する等長抵抗板13を設け,該抵抗板13の直上に上記中央回転羽根4を配設してなるものである。」

(甲9-2)「【考案の名称】粉粒体フィーダにおける粉粒体の共回り防止用抵抗板」

(7)甲10記載の事項
(甲10-1)「産業上の利用分野
本考案は貯槽に溜められた原料を横送り用フィーダーで切り出す形式の原料供給装置に関するものである。」(明細書1頁13?16行)

(甲10-2)「考案の効果
以上のように本考案によれば,貯槽の内周面に内側に向かって延びる突起を設けたため,貯槽の内部でブリッジ防止用のアジテータを貯槽の内周面に沿って回転させた場合であっても,原料の共回り現象を防止することができ,貯槽内でのブリッジ現象を防止するとともに貯槽からこの貯槽の底部に取り付けられた横送り用のフィーダに原料がスムーズに流すことができるものである。」(明細書5頁6?13行)

第3 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人は,本件無効審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め,次の証拠方法を提出した。

乙1の1 判例時報2185号115?141頁(東地平成24年11
月2日判決)
乙1の2 東京地裁平成22年(ワ)第24479号判決書79?88頁
乙2 判例時報2192号105?122頁(知財高裁平成25年4
月11日判決)
乙3 無効2012-800065号の審決
乙4 特開平6-197742号公報
乙5の1 特開平10-327820号公報
乙5の2 平成17年9月22日付け平成9年特許願第159207号
に対する拒絶理由通知書
乙5の3 平成17年12月5日付け平成9年特許願第159207号
に対する手続補正書
乙5の4 平成17年12月5日付け平成9年特許願第159207号
に対する意見書
乙6の1 特開平11-206345号公報
乙6の2 特開2001-69954号公報
乙7 特開平11-243924号公報
乙8 特開平11-276124号公報
乙9 特開平11-276125号公報
乙10 特開平11-285366号公報
乙11 登録実用新案第3053035号公報
乙12 特開平11-313643号公報
乙13 特開平11-318399号公報
乙14 特開2000-23642号公報
乙15の1 特開2004-89033号公報
乙15の2 平成19年8月28日付け特願2002-252429号に対
する拒絶理由通知書
乙15の3 平成19年11月5日付け特願2002-252429号に
対する手続補正書
乙15の4 平成19年11月5日付け特願2002-252429号に
対する意見書
乙16 特開2005-333905号公報
乙17の1 特開平7-303463号公報
乙17の2 特開平8-280362号公報
乙17の3 特開平8-275755号公報
乙17の4 特開平9-262075号公報
乙17の5 特開平10-75745号公報
乙17の6 特開平10-262616号公報
乙18の1 特願平10-61497号の願書,明細書及び図面
乙18の2 特願平10-258335号の願書,明細書及び図面
乙18の3 特開2000-139424号公報
乙18の4 登録実用新案第3060414号公報
乙19の1 特開2007-306832号公報
乙19の2 平成23年2月15日付け特願2006-137777号に対
する拒絶理由通知書
乙19の3 平成23年4月25日付け特願2006-137777号に
対する意見書
乙19の4 特許第4789041号公報
乙20 特許第4352427号公報
乙21 株式会社親和製作所作成のDVD-ROM
乙22 鰐部幸政撮影,平成23年6月9日,荒切り前の生海苔と荒切
り後の生海苔の様子を撮影した写真
乙23 弁護士小南明也作成,平成22年11月7日,乙21の動画を
静止画として印刷し,文字等をいれたもの
乙24 特開2010-146225号公報
乙25の1 特開平11-346733号公報
乙25の2 特願平10-165696号に対する,平成19年3月2日
に行った面接の面接記録
乙25の3 平成19年3月15日付け平成10年特許願第165696号
に対する拒絶理由通知書
乙25の4 平成19年3月26日付け平成10年特許願第165696
号に対する手続補正書
乙25の5 平成19年3月26日付け平成10年特許願第165696
号に対する意見書
乙25の6 平成19年3月26日付け平成10年特許願第165696
号に対する物件提出書
乙25の7 乙25の6に添付された提出物件であるCD-R
乙26の1 平成25年12月11日付け訴状(1?13頁)
乙26の2 平成25年12月11日付け原告第1準備書面(1?17頁)
乙26の3 平成26年3月10日付け被告準備書面(1)(1?5頁)
参考資料 「生海苔異物除去装置及びそれに関連する特許等出願状況一
覧表」

第4 本件特許発明及び発明特定事項の解釈
確定した訂正審判(訂正2010-390006号)により訂正された訂正明細書及び図面からみて,無効理由に係る本件特許発明は,その請求項1に記載された次の事項により特定される発明であると認める。
なお,訂正明細書を,以下「本件明細書」といい,訂正明細書及び図面を併せいう場合は,「本件明細書等」という。

「【請求項1】
生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並びに異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において,
前記防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を,前記選別ケーシングの円周端面に設ける構成とした生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置。」

1 本件特許発明の「共回り」の解釈
本件特許発明の「共回り」とは,本件特許第3966527号の請求項1?5に係る発明に共通する概念であって,本件特許第3966527号の請求項3及び4に係る発明に基づく侵害訴訟の判決(乙1の132頁の「(1) 本件発明における「共回り」の意義」の項)でも,その解釈が示されているところでもある。
そして,本願明細書等の記載からみて,本件特許発明の「共回り」とは,次のように解される。
本件明細書等の【0003】には,「前記生海苔の異物分離除去装置,又は回転板とクリアランスを利用する生海苔異物分離除去装置においては,この回転板を高速回転することから,生海苔及び異物が,回転板とともに回り(回転し),クリアランスに吸い込まれない現象,又は生海苔等が,クリアランスに喰込んだ状態で回転板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれない現象であり,究極的には,クリアランスの目詰まり(クリアランスの閉塞)が発生する状況等である。この状況を共回りとする。」と記載されており,本件特許発明における「共回り」という技術用語が定義付けられているといえる。
この記載からは,本件特許発明における「共回り」とは,生海苔及び異物(以下「生海苔等」という)が,回転板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれない現象,又は,生海苔等が,クリアランスに喰込んだ状態で回転板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれない現象のことであって,究極的には,クリアランスの目詰まり(閉塞)が発生する状況をいうものと認められる。すなわち,生海苔がクリアランスに吸い込まれないという,異物分離除去の観点から望ましくない現象が生じることがあり,その状況としては,「回転板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれない」,及び,「生海苔等が,クリアランスに喰込んだ状態で回転板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれない」という状況があることが理解できる。

そして,このような理解に基づけば,生海苔等が,
i)クリアランスに喰込んだ状態で回転板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれない現象はもちろん,
特段「クリアランスに喰込んだ状態で」という特定なく回転板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれない現象も共回りに当たるとされているのだから,
ii)クリアランスに喰込んだ生海苔等が回転板に接触しつつ,回転板と一緒に回転して,クリアランスに吸い込まれない現象だけではなく,
iii)究極的に発生するとされるクリアランスに目詰まりが発生した状況において,生海苔異物分離除去装置の槽内の混合液中の生海苔等が,その槽内で,回転板の回転板に伴って回転しているだけで,クリアランスに吸い込まれていかない状況
もまた,本件特許発明における「共回り」に含まれるものと解される。

なお,審理事項通知書で上記解釈について請求人に意見を求めたが,請求人からは特段の意見(口頭審理陳述要領書)は出されなかった。

2 「クリアランス」について
上記「1 本件特許発明の「共回り」の解釈」における「クリアランス」とは,「【0019】【発明の実施の形態】本発明の生海苔混合液槽には,生海苔タンクから順次生海苔混合液が導入される。この導入された生海苔混合液の生海苔は,回転板とともに回転しつつ,順次吸込用ポンプにより回転板と選別ケーシングで形成される異物分離機構のクリアランスに導かれる。」との記載,及び,本件明細書等の他の記載にも回転板と選別ケーシングで形成されるもの以外の態様の記載は無いことから,異物分離機構における,回転板と選別ケーシングで形成されるクリアランスと解される。

第5 無効理由1について
無効理由1は,具体的には,クリアランスが形成される位置・箇所と,「共回りを防止する防止手段」たる「突起物」が配備される位置との関係は,本件特許発明に規定されていないから,「クリアランスの目詰まりを無くす」という効果を期待できないような態様も本件特許発明に包含され,特許法第36条第6項第1号で規定されるところの「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」とはいえないものを包含するというものである。(口頭審理調書)

そこで検討するに,本件特許発明の発明特定事項の「共回り」とは,上記「第4 1 本件特許発明の「共回り」の解釈」に記載の「i)」?「iii)」のクリアランスに吸い込まれていかない状況を意味する。また,上記「第4 2「クリアランス」について」で述べたとおり,クリアランスとは,回転板と選別ケーシングで形成されるものと理解される。
よって,本件特許発明は,「共回りを防止する防止手段」を「突起・板体の突起物とし,この突起物を,前記選別ケーシングの円周端面に設」けたものであるから,前記「i)」?「iii)」の状況,すなわち,回転板と選別ケーシングで形成されるクリアランスに吸い込まれていかない状況を防止するような位置となる「前記選別ケーシングの円周端面」に「突起物」を設けたものと理解される。
以上のように,本件特許発明を解釈できるから,クリアランスが形成される位置・箇所と,「共回りを防止する防止手段」たる「突起物」が配備される位置との関係は,実質的に本件特許発明に規定されているといえるし,請求人の主張するような「クリアランスの目詰まりを無くす」という効果を期待できないような態様が,本件特許発明に包含されることもない。

したがって,本件特許発明は,特許法第36条第6項第1号に違背しているとはいえない。

第6 無効理由2について
1 甲1記載の発明
(1)第一分離除去具の構造の整理
なお,甲1記載の部材に付した括弧内の符合は,参考として当審にて付記したものである。
(i)第一回転板
請求項1(甲1-1)の「第一回転板」は,「第一分離除去具70の第一回転板81」((甲1-4)の【0023】)との記載からみて,第一分離除去具(70)の一部を構成する部材である。

(ii)環状枠板部
図面の簡単な説明(甲1-9)によれば,「73・・・環状枠板(環状枠板部)」「74・・・環状固定板(環状枠板部)」とされており,請求項1(甲1-1)の「環状枠板部」は,環状枠板(73)と環状固定板(74)とで構成される部材である。
「90は円筒状の混合液主タンクであり,前記第一分離除去具70の環状枠板73の外周縁に外嵌めされている。」(甲1-3)との記載に照らせば,環状枠板(73)は,第一分離除去具(70)の一部を構成する部材である。それと一体となって固定されている環状固定板(74)もまた第一分離除去具(70)の一部を構成する部材である。
そして,「環状固定板74と第一回転板81とのクリアランスS」(甲1-2)との記載及び【図1】(甲1-7)からみて,クリアランスSは,環状枠板部の一部である環状固定板(74)と第一回転板(81)とで構成されていることが分かる。

(iii)周筒部
「第一分離除去具70において,72は周筒部,73は環状枠板,75は管状の排出路,76はコック761を有する排出管である。」(甲1-2)と記載されており,環状枠板(73)に加えて,周筒部(72),環状の排出路(75)及び排出管(76)も,第一分離除去具の一部を構成していることが分かる。

(vi)排出管
排出管(76)は,「76から大小の異物をそれぞれ排出する」(甲1-5)との記載に照らし,異物を排出するためのものであることが分かる。

(v)ガイド筒
「第一分離除去具70が配置されている。但し,・・・(略)・・・,第二分離除去具20における底板部21の代わりにガイド筒77が設けられている。」(甲1-2)との記載に照らし,ガイド筒(77)は,第一分離除去具の一部を構成している部材である。
なお,海苔混合液の流れを追うと,「前記クリアランスSを通過し」(甲1-4)た海苔混合液は,第一分離除去具の一部を構成するガイド筒(77)から排出されることで,「小異物は生海苔および水とともに前記クリアランスSを通過して下方に流れ,連設タンク61内に混合液として供給される。」(甲1-4)こととなる。その後,海苔混合液は,第一分離除去具と同様の構造の第二分離除去具のクリアランスCを通過し,「29は流出口であり(図2参照のこと),前記周筒部22に設置され,異物を除去された混合液を前記バッチ水槽11に流れ落と」(甲1-8)されることとなる。

以上のことから,第一分離除去具(70)は,
i)第一回転板(81),
ii)第一回転板(81)との間にクリアランスSを形成する環状固定板(74)と環状枠板(73)で構成される環状枠板部,
iii)環状枠板(73)を連設するための周筒部(72),
iv)異物を排出するための管状の排出路(75)及びそれに続く排出管(76),及び,
v)クリアランスSを通過した海苔混合液を連接主タンク(61)に排出するガイド筒(77)
とで構成されていることが分かる。

(2)小括
甲1記載の請求項1(甲1-1)に,上記「(1) 第一分離除去具の構造の整理」記載の第一分離除去具(70)の構成部材を加えて整理すると,甲1には次の発明(「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「第一分離除去具(70)は,
i)第一回転板(81),
ii)第一回転板(81)との間にクリアランスSを形成する環状固定板(74)と環状枠板(73)で構成される環状枠板部,
iii)環状枠板(73)を連設するための周筒部(72),
iv)異物を排出するための管状の排出路(75)及びそれに続く排出管(76),及び,
v)クリアランスSを通過した海苔混合液を連接主タンク(61)に排出するガイド筒(77)
とで構成されており,
筒状混合液タンク(90)の底部周端縁に環状枠板部(73,74)の外周縁を連設し,この環状枠板部(73,74)の内周縁内に第一回転板(81)を略面一の状態で僅かなクリアランスSを介して内嵌めし,この第一回転板(81)を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンク(90)の底隅部に異物排出口(75,76)を設けたことを特徴とする生海苔の異物分離除去装置。」

2 甲3?7記載の「WK-3型用大荒ゴミ取り機」
「WK-3型用大荒ゴミ取り機」に関する証拠方法として甲3?7が提出されている。そして,甲3に添付して参考資料1,2及び4(参考資料1,2及び4は,それぞれ,甲11,甲12及び甲13[口頭審理調書参照]である。)が提出されている。
その内,被請求人は,陳述書である甲3及び甲4については,信用性について争っており,甲5及び甲13については成立について不知と認否している。
また,甲11及び甲12は,「WK-3型用大荒ゴミ取り機」と無関係なものであり,加えて,「WK-3型用大荒ゴミ取り機」の構造の一部については,甲3?7から明確に特定できない部分もある。

そこで,甲3及び甲4の信用性についての検討はさておき,「WK-3型用大荒ゴミ取り機」の発明について,甲3?7から導けない事項は除き,最も詳細に「WK-3型用大荒ゴミ取り機」の構造や動作について記載されている甲3及び甲5を中心として「WK-3型用大荒ゴミ取り機」の構造を理解することとする。

(1)甲3及び甲5から理解される事項
上記「第2 4 主な甲号証記載の事項」で摘記した甲3及び甲5の記載に加えて,次の事項が理解される。

(事項1)【写真7】には,上方が開放された赤い囲み部材が外槽の上部の開放部に設けられていることが分かる。赤い囲み部材の側方には排水樋が突設している。

(事項2)【写真4】から,短い筒状部材が帽状キャップの下面に突設され,短い筒状部材の端面には環状鍔が設けられている。

(事項3)【写真5】及び【写真7】からみて,濾筒の上端縁は,鍔状のフランジ部となって,外側に突設していることがわかる。

(事項4)「回転ブラシ筒を回転させると生海苔混合液が濾筒内を上昇」(甲3-5)するとの記載からすると,生海苔混合液は,回転ブラシ筒に設けられたらせん状のブラシの回転により,スクリューコンベアのように持ち上げられ,濾筒内を上昇するものと解される。

以上のことをまとめると,甲3及び5から,次の発明(以下,「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
なお,参考として,発明特定事項を抽出した摘記箇所,写真等を付記することとする。
「外槽の底部には生海苔混合液を濾筒内へ送る送水筒(甲3-4)が接続【写真8】され,
外槽内側には,濾筒が設けられ【写真8】,
該濾筒は側壁に無数の微小通水孔が形成され【写真7】,該濾筒の上端縁に,鍔状のフランジ部があり(事項3),
回転ブラシ筒を濾筒の内側に回転可能に装入させ(甲3-1)【写真5】,
回転ブラシ筒の上端より所定間隔下であって,回転ブラシ筒の周壁にらせん状に取り付けられているブラシの最上部より少し低い高さ位置にL型金具を設け【写真5】(甲3-2),
外槽上部に排出樋が突出した上部が開放した赤い囲み部材を設け【写真7】(事項1),その上方の開放部を覆う帽状キャップの下面には,短い筒状部材が突設され【写真4】(事項2),短い筒状部材の端面には環状鍔が設けられ【写真4】,帽状キャップを赤い囲み部材に取り付けた際に,該環状鍔は前記濾筒の上端縁と対向し隙間を形成するように(甲3-7)なっており,
L型金具は,濾筒の上端縁に当接するように(甲3-3)該隙間に挿入され,L型金具の刃部が,該隙間を移動することで,該隙間に異物が詰まって,該隙間を通過する生海苔混合液の量が少なくなることがない(甲3-7),
WK-3型用大荒ゴミ取り装置であって,
回転ブラシ筒の回転につれて濾筒内を上昇した生海苔混合液は,帽状キャップの環状鍔の下面と,濾筒の上端縁との間に形成される隙間を介して押し出され,排出樋を介して出され(甲3-6)るWK-3型用大荒ゴミ取り装置。」

3 本件特許発明と甲1発明の対比
本件特許発明と甲1発明を対比する。
(1)回転板
甲1発明の「第一回転板(81)」は,本件特許発明の「回転板」に相当する。

(2)生海苔排出口
甲1発明の「iv)クリアランスSを通過した海苔混合液を連接主タンク(61)に排出するガイド筒(77)」は,「排出する」という機能及び構造からみて,本件特許発明の「生海苔排出口」に相当する。

(3)選別ケーシング
甲1発明の「第一分離除去具(70)」を,i)第一回転板(81)とii)?v)の部材で構成される部分とに分ける。

甲1発明の「第一分離除去具(70)」の構成部材である「iii)環状枠板(73)を連設するための周筒部(72)」は,筒であって,【図1】(甲1-7)からみて,下部に「iv)クリアランスSを通過した海苔混合液を連接主タンク(61)に排出するガイド筒(77)」が位置し,全体としてケーシングを構成している。
そして,甲1発明の「第一分離除去具(70)」は,第一回転板との間にクリアランスSを形成する環状固定板(74)と環状枠板(73)で構成される環状枠板部を有している。第一分離除去具(70)により形成されるクリアランスSは,「iv)クリアランスSを通過した海苔混合液」とあるように,海苔混合液を通過させるが,異物は通過させない選別機能を具備する。

さらに,上記「(2)生海苔排出口」で言及したように,甲1発明の第一分離除去具(70)は,本件特許発明の「生海苔排出口」に相当する「ガイド筒(77)」を具備する。
そうすると,甲1発明の「第一分離除去具(70)」から「i)第一回転板(81」を除いたii)?v)の部材で形成されるケーシングは,その機能,構造からみて,本件特許発明の「選別ケーシング」に相当する。

(4)共回りを防止する防止手段
甲1発明は,本件特許発明の「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段」を具備していない。加えて,甲1発明は,本件特許発明の「共回りを防止する防止手段」の具体的な構成である「前記防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を,前記選別ケーシングの円周端面に設ける構成とした」ことも具備していない。

(5)異物排出口
甲1発明の「v)異物を排出するための管状の排出路(75)及びそれに続く排出管(76)」は,本件特許発明の「異物排出口」に相当する。

(6)生海苔混合液槽
甲1発明の「筒状混合液タンク(90)」は,本件特許発明の「生海苔混合液槽」に相当する。

(7)生海苔異物分離除去装置
甲1発明の「生海苔の異物分離除去装置」は,「生海苔異物分離除去装置」に相当する。

以上のことを総合すると,両発明の間には,次の(一致点)及び(相違点1)がある。

(一致点)
「生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,並びに異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置。」

(相違点)
本件特許発明が「防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を,前記選別ケーシングの円周端面に設ける構成とした」「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段」を具備する生海苔の共回り防止装置であるのに対して,甲1発明はかかる防止装置でない点。

なお,審判請求書において請求人は,相違点1?4があるとしているが,「突起物」,「共回り防止手段」は相互に関連するから,請求人の主張する相違点1?4を一体の相違点とした。
当審は,念のため審理事項通知書において,意見を求めたところ,
「平成26年6月2日付の「審理事項通知書」第10頁第30?第34行に記載されている審判官合議体のお考えに異存はありません。」(口頭審理陳述要領書2頁6?7行)と請求人は述べている。

4 検討
(1)甲1発明に内在する解決すべき課題について
甲1には,「この異物分離除去装置を使用すれば,異物が前記クリアランスに詰まりにくいため,従来のように目詰まり洗浄装置等を別途に設ける必要がない結果,装置の維持がしやすいとともに取扱いが簡易」(甲1-6)になると記載され,「第一回転板は回転しているため,前記クリアランスには生海苔が詰まりにくい」(甲1-6)とされている。
異物がクリアランスに詰まるという解決すべき課題,及び,クリアランスに生海苔が詰まるという解決すべき課題が,甲1発明により従来のものと比べて解決できたものと解されるが,「詰まりにくい」ということからして,甲1発明においてもなお,異物及び生海苔によるクリアランスの詰まりという課題が完全には解消せずに残されていると理解される。
そこで,この課題を解決するために甲2記載の発明,甲3?7記載の発明,甲8?10記載の発明が適用できるか以下で検討する。

(2)甲2記載の発明の適用についての判断
甲2には,「分離タンク1eに排出パイプ40を固定的に配設し,その排出パイプ40に分離ドラム15eを回転自在に支持させ」(甲2-1),「清掃ブラシ44は分離タンク1eに固定的に配設した支持棒45に分離ドラム15eの周壁17eに摺接するブラシ部材47を植設して構成し」(甲2-1),「分離ドラム15eの外側の分離室に海苔混合液が供給され,この海苔混合液の生海苔と水が分離孔21eから分離ドラム15e内に流れ,この分離ドラム15e内に流入した異物分離除去後の海苔混合液が排出口3eから排出される。清掃ブラシ44は分離ドラム15eの回転によりブラシ部材47が周壁17eを摺接し,異物や生海苔による各分離孔21eの詰まりを清掃する」(甲2-1)図4(甲2-2)に図示された装置が記載されている。

甲1発明の「クリアランスS」と甲2記載のものを敢えて対応させるならば,甲2記載の「分離ドラム15」に形成された「分離孔21e」が,海苔が通過する隙間という点で共通するが,隙間が甲1発明では,「環状枠板部(73,74)の内周縁内に第一回転板(81)を略面一の状態」「内嵌め」して「僅かなクリアランスS」を形成したものであって,環状であるのに対して,甲2記載の「分離孔21e」は,「分離ドラム15」の周囲全体に多数形成されたスリット状の孔であり,両者は構造,形状が全く異なる。

甲1発明の「クリアランスS」の詰まりを解消するため,甲1発明のクリアランスSと構造及び形状が異なる甲2記載の「分離孔21e」の清掃技術を適用することは困難である。

また,甲2に記載のものは,「分離孔21e」に「摺接」する「清掃ブラシ44」であるから,仮に適用出来るとしてもせいぜい,甲1発明の「クリアランスS」の外側から清掃ブラシを摺接するように構成する程度であり,このように構成しても,本件特許発明のごとく「選別ケーシングの円周端面」に「共回り防止手段」が設けられるものとはならない。

(3)甲3発明の適用についての判断
甲3発明は,「回転ブラシ筒」に設けた「L型金具の刃部が,該隙間を移動」することで,「隙間に異物が詰まって,当該隙間を通過する生海苔混合液の量が少なくなること」を防止するものである。甲3発明においては,「L型金具」だけでは,隙間に異物が詰まることを防止できず,それを動かす「回転ブラシ筒」と併せて隙間に異物が詰まることを防止するものである。

甲1発明と甲3発明は,共に海苔の異物除去に関する技術分野の装置であることで共通するものであるが,両者の構造は大きく異なっており,以下に具体的に言及するように,甲1発明に甲3発明を適用することは困難であるし,適用できたとしても本件特許発明のごとく構成されない。

甲1発明の「環状枠板部(73,74)の内周縁内」に「第一回転板(81)」を「内嵌め」することで形成される「クリアランスS」の詰まりを解消するため,前記甲3発明を適用するに際しては,「L型金具」とそれを回転させる「回転ブラシ筒」を併せて適用する必要のあるところ,甲1発明には甲3発明の回転ブラシ筒に相当する部材は存在せず,甲1発明に甲3発明を適用することは困難である。

また,甲3発明の「隙間」は,「帽状キャップの下面」に突設された「短い筒状部材の端面」に設けられた「環状鍔」と,「濾筒の上端縁」で形成されたものであり,隙間を構成する部材は,いずれも動くことがなく,該「隙間」を構成する部材とは別の「回転ブラシ筒」に設けられている「L型金具の刃部が,該隙間を移動」するものである。仮に甲3発明の「L型金具」を「回転ブラシ筒」以外の部材に設けることができたとしても,L型金具は「隙間を移動」すべく,隙間を構成する部材とは別の何らかの回転する部材に設けられる必要がある。
甲1発明において,本件特許発明のごとく「防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を,前記選別ケーシングの円周端面に設ける構成」とするには,静止している甲1発明の「ii)第一回転板(81)との間にクリアランスSを形成する環状固定板(74)と環状枠板(73)で構成される環状枠板部」に,甲3発明の「L型金具」を設ける必要がある。
ところが,甲3発明の「L型金具」は,前記したように隙間を構成する部材とは別の何らかの回転する部材に設ける必要があり,甲1発明に甲3発明の「L型金具」を適用するとしても,静止している甲1発明の前記「ii)・・・環状枠板部」を,甲3発明の「L型金具」を設ける部材として選ぶことはあり得ないことである。

しかも,本件特許発明の「選別ケーシングの円周端面」という突起物を設ける箇所については,甲1,甲2,甲3?7並びに甲8?10のいずれにも記載されていないし示唆もないから,当業者が本件特許発明のごとく構成することは困難である。

よって,請求人の主張するとおりの甲3発明が特許出願前に公然と実施又は知られていたとしても,甲1発明及び甲3発明に基づいて,本件特許発明を当業者が容易に発明することができたものとはいえないから,甲3及び甲4の信用性について検討するまでもなく,請求人の主張する無効理由によって本件特許発明に係る特許を無効とすることはできない。

(4)甲8記載の事項の適用についての判断
甲8に記載のものは,「繊維屑圧縮排出装置」(甲8-2)に関するものであって,甲1発明の属する技術分野と全く異なり,甲1発明に適用する動機といえるものがない。

加えて,甲8の(甲8-1)に記載のように,甲8記載の繊維屑圧縮排出装置においては,「ケージ3の内面」で「スクリュー羽根4と共廻りする繊維屑」による「共廻り」が起こる。それを防止するために【図1】(甲8-3)のごとく長い「共廻り防止バー11」が採用されている。しかしながら,甲1発明では海苔が圧縮されることはないし,繊維屑を圧縮するためのケージやスクリュー羽根も甲1発明にはないから,繊維屑圧縮時に起きる甲8でいう「共廻り」は,甲1発明では起き得ない現象である。このように,甲1発明の「共回り」と甲8記載の「共廻り」は,表記が類似しているだけであって,全く別異な現象である。
そうすると,甲8記載の「共廻り」及び「共廻り防止バー11」の機能及び構造からみて,甲1発明において生じ得る,異物及び生海苔によるクリアランスの詰まりという課題を解消する手段として,甲8に記載の「共廻り防止バー11」を採用する動機がない。

また,仮に適用し得たとしても,本件特許発明の「選別ケーシングの円周端面」という突起物を設ける箇所については,甲1,甲2,甲3?7及び甲8?10のいずれにも記載されていないし示唆もないから,当業者が本件特許発明のごとく構成することは困難である。

(5)甲9記載の事項の適用についての判断
甲9に記載のものは,「粉粒体フィーダにおける粉粒体の共回り防止用抵抗板」(甲9-2)に関するものであって,甲1発明の属する技術分野と全く異なり,甲1発明に適用する動機といえるものがない。

加えて,甲9の解決しようとする課題は「本考案は回転羽根と共回りしようとする粉粒体を圧密を起こすことなく安定して排出させることを目的とする。」(甲9-1)ものであって,粉粒体が圧密を起こすのを防ごうとしている。しかしながら,甲1発明の「海苔混合液」は,液体であって,液体においては圧密は起き得ないから,甲1発明に甲9記載の事項を適用する動機がない。

仮に適用できたとしても,本件特許発明の「選別ケーシングの円周端面」という突起物を設ける箇所については,甲1,甲2,甲3?7及び甲8?10のいずれにも記載されていないし示唆もないから,当業者が本件特許発明のごとく構成することは困難である。

(6)甲10記載の事項の適用についての判断
甲10に記載のものは,「貯槽に溜められた原料を横送り用フィーダーで切り出す形式の原料供給装置に関するもの」(甲10-1)であり,甲1発明の技術分野と全く異なり,甲1発明に適用する動機といえるものがない。

加えて,甲10には,「貯槽内でのブリッジ現象を防止すると共に貯槽からこの貯槽の底部に取り付けられた横送り用フィーダに原料がスムーズに流すことができるものである。」(甲10-2)との効果が記載されているが,甲1記載の「海苔混合液」は,液体でありブリッジ現象が生じることはあり得ないし,液体である「海苔混合液」がスムーズに流れなくなるということもないのだから,甲1発明に甲10記載の事項を適用する動機がない。

仮に適用できたとしても,本件特許発明の「選別ケーシングの円周端面」という突起物を設ける箇所については,甲1,甲2,甲3?7及び甲8?10のいずれにも記載されていないし示唆もないから,当業者が本件特許発明のごとく構成することは困難である。

(7)小括
以上のごとく,甲1記載の発明において,甲2記載の発明,甲3?7に記載の公然と知られ,公然と実施された発明,及び,甲8?10記載の発明を適用することは困難であって,本件特許発明を,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。

第7 結語
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件特許の請求項1に係る発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-06 
結審通知日 2014-08-12 
審決日 2014-09-03 
出願番号 特願平10-165696
審決分類 P 1 123・ 537- Y (A23L)
P 1 123・ 121- Y (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山中 隆幸千葉 直紀  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 飯室 里美
中島 庸子
登録日 2007-06-08 
登録番号 特許第3966527号(P3966527)
発明の名称 生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置  
代理人 涌井 謙一  
代理人 三井 直人  
代理人 小南 明也  
代理人 工藤 貴宏  
代理人 鈴木 一永  
代理人 山本 典弘  

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