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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1317718
審判番号 不服2015-15154  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-12 
確定日 2016-08-23 
事件の表示 特願2013-515193「光学フィルタ、光学機器、電子機器及び反射防止複合体」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月22日国際公開、WO2012/157706、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年5月17日(優先権主張2011年5月17日)を国際出願日とする出願であって、平成25年11月11日に国内書面及び特許協力条約第19条補正の写し提出書が提出され、平成26年10月22日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月26日に手続補正がなされるとともに意見書が提出され、平成27年4月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月12日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年8月12日になされた手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲及び明細書についてするものであって、平成26年12月26日になされた手続補正によって補正された本件補正前の請求項1及び12に、
「【請求項1】
光透過性を有する基板と、
前記基板上に設けられ、膜厚方向に屈折率変化する屈折率傾斜薄膜と、
前記屈折率傾斜薄膜上に設けられ、可視光の波長よりも短いピッチの微細構造体とを備え、
前記微細構造体は、前記基板の屈折率と異なる屈折率の材料から形成され、
前記屈折率傾斜薄膜は、
界面を持たない膜から形成され、前記基板側の屈折率が前記基板の屈折率に近づき、且つ、前記微細構造体側の屈折率が前記微細構造体の屈折率に近づく屈折率変化が膜厚方向に連続的であることを特徴とする光学フィルタ。」
「【請求項12】
光透過性を有する基板上に設けられた膜厚方向に屈折率変化する屈折率傾斜薄膜と、
前記屈折率傾斜薄膜上に、密着層を介して設けられ、可視光の波長よりも短いピッチの微細構造体とを備え、
前記基板の屈折率と前記微細構造体を構成する材料の屈折率は異なり、
前記微細構造体は、前記基板の屈折率と異なる屈折率の材料から形成され、
前記屈折率傾斜薄膜は、
界面を持たない膜から形成され、前記基板側の屈折率が前記基板の屈折率に近づき、且つ、前記微細構造体側の屈折率が前記微細構造体の屈折率に近づく屈折率変化が膜厚方向に連続的に変化することを特徴とする反射防止複合体。」
とあったものを、

「【請求項1】
光透過性を有し、且つ、成膜対象となるフィルタ基板を構成する透明基板と、
前記透明基板上に設けられ、膜厚方向に屈折率変化する屈折率傾斜薄膜と、
前記屈折率傾斜薄膜上に設けられ、可視光の波長よりも短いピッチの微細構造体とを備え、
前記微細構造体は、前記透明基板の屈折率と異なる屈折率の材料から形成され、
前記屈折率傾斜薄膜は、
2種以上の材料から形成され各材料の組成の比率が膜厚方向に変化する膜であって、且つ、膜全体として界面を持たない膜から形成され、前記屈折率傾斜薄膜のうち前記透明基板側の屈折率が前記透明基板の屈折率に近づき、且つ、前記屈折率傾斜薄膜のうち前記微細構造体側の屈折率が前記微細構造体の屈折率に近づく屈折率変化が前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向に連続的であることを特徴とする光学フィルタ。」
「【請求項12】
光透過性を有し、且つ、成膜対象となるフィルタ基板を構成する透明基板上に設けられた膜厚方向に屈折率変化する屈折率傾斜薄膜と、
前記屈折率傾斜薄膜上に、密着層を介して設けられ、可視光の波長よりも短いピッチの微細構造体とを備え、
前記透明基板の屈折率と前記微細構造体を構成する材料の屈折率は異なり、
前記微細構造体は、前記透明基板の屈折率と異なる屈折率の材料から形成され、
前記屈折率傾斜薄膜は、
2種以上の材料から形成され各材料の組成の比率が膜厚方向に変化する膜であって、且つ、膜全体として界面を持たない膜から形成され、前記屈折率傾斜薄膜のうち前記透明基板側の屈折率が前記透明基板の屈折率に近づき、且つ、前記屈折率傾斜薄膜のうち前記微細構造体側の屈折率が前記微細構造体の屈折率に近づく屈折率変化が前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向に連続的に変化することを特徴とする反射防止複合体。」
とする補正を含むものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。

2 補正の適否
(1)本件補正のうち、特許請求の範囲の請求項1及び12を対象とする補正について
本件補正のうち、特許請求の範囲の請求項1及び12を対象とする補正は、本件補正前の独立請求項1及び12に記載された発明を特定するための事項である「基板」、「界面を持たない膜から形成され」た「屈折率傾斜薄膜」及び「屈折率傾斜薄膜」の屈折率の変化について、それぞれ「成膜対象となるフィルタ基板を構成する透明基板」、「2種以上の材料から形成され各材料の組成の比率が膜厚方向に変化する膜であって、且つ、膜全体として」及び「前記屈折率傾斜薄膜のうち前記透明基板側の屈折率が前記透明基板の屈折率に近づき、且つ、前記屈折率傾斜薄膜のうち前記微細構造体側の屈折率が前記微細構造体の屈折率に近づく屈折率変化が前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向に」との限定を付加する補正を含むものであって、本件補正の前後で請求項1及び12に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認められるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件に違反するところはない。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)及び請求項12に係る発明(以下、「本願補正発明2」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(2)独立特許要件について
ア 刊行物の記載事項
(ア)本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に電気通信回線を通じて公開された引用文献であって、原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された国際公開第2010/150615号(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
a 「[0002]近年多く用いられているテレビジョン、パーソナルコンピュータ、携帯電話、デジタルカメラ等の電子機器が備える表示装置は、通常、ガラス等の基板を土台として作製されるものであり、この基板上に回路素子、制御素子、カラーフィルタ等が配置されて表示装置は完成する。
[0003]例えば、液晶表示装置は、ガラス等の透明基板と、透明基板上に形成されたカラーフィルタとを備えている。カラーフィルタを設けることで表示光を着色させることが可能であるため、カラーフィルタを備える液晶表示装置は、カラー画像を表示することができる。そして、このようなカラーフィルタ及び透明基板は、透明基板がより表示面側に、カラーフィルタがより液晶表示装置の内面側に設置されている。

・・・略・・・

[0011]本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、反射光の低減が実現された表示装置を提供することを目的とするものである。また、屈折率が互いに異なる複数の層を有する場合であっても、光の反射率が低減される多層基板を提供することを目的とするものである。

・・・略・・・

[0029]次に、本発明者らは、具体的に表示装置の内部反射を低減する手法について種々検討したところ、屈折率が互いに異なる複数の層を有する基板における、各層間の屈折率の変化に着目した。そして、各層間の屈折率を層単位で断続的に変化させるのではなく、少なくとも各層の界面における屈折率はそれぞれ実質的に同一とし、かつ一つの層内で屈折率を、途切れることなく連続的に変化させることにより、光が屈折率の変化の影響を受けなくなり、それぞれ屈折率の異なる複数の材料で構成された各層間をそのまま光が透過することを見いだした。そして、透過率が大幅に向上した結果、反射率が大きく低減されることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。」
b 「[0072](実施形態1) 実施形態1は、液晶表示装置が備えるカラーフィルタ基板として用いることができる多層基板である。また、実施形態1の多層基板は、本発明の第二の多層基板である。実施形態1の多層基板は、偏光板、ガラス基板(透明基板)、モスアイフィルム、カラーフィルタ層、ブラックマトリクス(BM:Black Matrix)、及び、共通電極を有している。

・・・略・・・

[0079]以下、モスアイフィルムの表面構造について、詳述する。実施形態1において用いられるモスアイフィルムは、隣り合う凸部の頂点間の幅が可視光波長以下である複数の凸部を表面に有する。すなわち、実施形態1のモスアイフィルムは、隣り合う凸部の頂点の間隔(非周期構造の場合の隣り合う凸部の幅)又はピッチ(周期構造の場合の隣り合う凸部の幅)が可視光波長以下である凸部が複数存在する構造を有している。なお、実施形態1における各凸部は、その配列に規則性を有していない場合(非周期性配列)に不要な回折光が生じないという利点があり、より好ましい。

・・・略・・・

[0095]そして、このようにして作製されたモスアイフィルム13をガラス基板11上に配置し、スピンコート法、DFR(ドライフィルム)法等の製膜法とフォトリソグラフィー法とを用いてBM12の材料をモスアイフィルム13上に塗布することで、実施形態1の多層基板が備えるBM12を作製することができる。実施形態1の多層基板を液晶表示装置のカラーフィルタ基板として用いる場合には、BM12のパターニング形状は、サブ画素の外枠に対応した、一定の範囲(サブ画素領域)の周りを囲い込む形状とすることが好ましい。これにより、BM12が各色のカラーフィルタ間、すなわち、サブ画素間の仕切り部材となり、各色のカラーフィルタ層間の境界で起こる混色や光漏れを防ぐことができる。更に、BM12によって区画された領域に対し、例えば、インクジェット法等により、BM12で仕切られた領域内に適切な色層材料を吐出し、該色層材料を硬化させることで、容易にカラーフィルタ層を形成することができる。」
c 「[0119](実施形態5) 実施形態5は、液晶表示装置が備えるカラーフィルタ基板として用いることができる多層基板である。また、実施形態5の多層基板は、実施形態1の多層基板の外界側(観察面側)の表面に、更に、低反射層を配置した形態である。すなわち、実施形態5の多層基板は、低反射層、偏光板、ガラス基板、カラーフィルタ層、ブラックマトリクス、及び、共通電極を有している。
[0120]実施形態5で用いられる低反射層としては、例えば、多層基板の表面で反射した光と低反射層の表面で反射した光とを互いに干渉させて打ち消すことにより反射率を低減させるLR(Low Reflection)フィルム及びAR(Anti Reflection)フィルム、低反射層の表面に設けられた凹凸構造を利用して外光を散乱させることにより防眩効果を奏するAG(Anti Glare:防眩)フィルムとLRフィルムとの両方の特徴を有するAGLRフィルム、並びに、上述のように、隣り合う頂点間の幅が可視光波長以下の複数の凸部を形成し、多層基板の、外界(空気)と隣接する界面での屈折率の変化を擬似的に連続なものとし、屈折率界面に関係なく光のほぼ全てを透過させるモスアイフィルムが挙げられる。以下、低反射層としてモスアイフィルムを用いた場合について詳述する。
[0121]図23は、実施形態5の多層基板のモスアイフィルム(低反射層)、ガラス基板、モスアイフィルム及びブラックマトリクスを抜き出した模式図であり、モスアイフィルム(低反射層)、ガラス基板、モスアイフィルム及びブラックマトリクスの配置構成、並びに、更に外界(空気)を含めた屈折率分布を示している。実施形態5では、モスアイフィルム13が本発明の第四の層に相当し、ブラックマトリクス(BM)が本発明の第五の層に相当する。ガラス基板11のモスアイフィルム13側と逆側の面上に配置されたモスアイフィルム15は、ナノインプリント形成用のアクリル系UV樹脂で構成されている。BM12は、BM12の黒色を示すカーボンブラック粒子と、カーボンブラック粒子を包含するバインダー樹脂(媒質)とを含んで構成されている。ガラスの屈折率は約1.5であり、ナノインプリント形成用のアクリル系UV樹脂の屈折率は約1.5であり、バインダー樹脂の屈折率は約1.5であり、カーボンブラック粒子の屈折率は約2.0であるが、BM12が含むカーボンブラック粒子は、BM12を構成する層内で均一に分布している。そのため、BM12全体として見たときには、屈折率は、バインダー樹脂とカーボンブラック粒子とを平均化した約1.8である。
[0122]図23に示すように、実施形態5においては、ガラス基板11と外界(空気)10との間に、モスアイフィルム15が配置されている。モスアイフィルムの構成及び作製方法については、実施形態1で示したものと同様である。
[0123]図23に示すように、ガラス基板11とBM12との間には、モスアイフィルム13が配置されている。モスアイフィルム13の表面には、隣り合う頂点間の幅が可視光波長以下の複数の凸部が形成されており、微小な周期をもつ凹凸構造(モスアイ構造)を構成している。これら凸部(モスアイ構造の単位構造)の一つ一つは、先端から底部に向かって屈折率が連続的に増加している構造を有している。一方、BM12は、モスアイフィルム13の複数の凸部の間を埋めるように形成されており、したがって、BM12は、モスアイ構造と対称的な構造を有している。より具体的には、BM12のモスアイフィルム13側の表面には、モスアイフィルム13の有する凸部と対称な構造をもつ凹部が複数形成されている。
[0124]モスアイフィルム13の凸部とBM12の凹部とがかみ合わさった領域は、互いに屈折率が異なる2つの層が合わさった領域となり、かつ該領域の厚みが大きくなるにつれ、モスアイフィルム13の凸部とBM12の凹部との体積比がそれぞれ規則的に変動している。また、モスアイフィルム13の各凸部の頂点間の幅が可視光波長以下であるため、その体積比の変動は小さい。これにより、モスアイフィルム13の凸部とBM12の凹部とがかみ合わさった領域を、屈折率が連続的に変化している領域とすることができ、図23に示すようなグラフを得ることができる。
[0125]空気層の屈折率は約1.0であり、モスアイフィルムの屈折率は約1.5であり、空気層とモスアイフィルムの凸部とがかみ合わさった領域において屈折率は約1.0から約1.5まで変化している。また、モスアイフィルムの屈折率は約1.5であり、BM12の屈折率は約1.8であり、モスアイフィルム13の凸部とBM12の凹部とがかみ合わさった領域において屈折率は約1.5から約1.8まで変化している。したがって、実施形態5の多層基板全体としてみれば、空気層10からBM12までが断続的な屈折率の変化がない構成となっている。
[0126]したがって、実施形態5の多層基板の構成によれば、空気層10、モスアイフィルム15、ガラス基板11、モスアイフィルム13及びBM12を光がそのまま透過することになり、これにより反射率低減の効果を得ることができる。また、実施形態5においては、BM12を構成する粒子として黒色を有するカーボンブラック粒子が用いられているため、BM12を透過しない成分は、カーボンブラック粒子によって吸収されやすい。
[0127](実施形態6) 実施形態6は、液晶表示装置が備えるカラーフィルタ基板として用いることができる多層基板である。また、実施形態6の多層基板は、本発明の第二の多層基板である。実施形態6の多層基板は、モスアイフィルム(低反射層)、偏光板、ガラス基板、モスアイフィルム、カラーフィルタ層、中間樹脂層、ブラックマトリクス、及び、共通電極を有している。」
d 「[図23]


e 上記aないしdから、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「透明基板であるガラス基板11の一方の面にモスアイフィルム13及びブラックマトリクス12がこの順に積層されるとともに、他方の面にモスアイフィルム15を積層した多層基板であって、
ブラックマトリクス12の全体としての屈折率が、バインダー樹脂とカーボンブラック粒子とを平均化した約1.8であり、
モスアイフィルム13の屈折率が約1.5であり、
ガラス基板11の屈折率が約1.5であり、
モスアイフィルム15は、屈折率が約1.5であるナノインプリント形成用のアクリル系UV樹脂で構成されており、
モスアイフィルム13及び15は、隣り合う凸部の頂点間の幅が可視光波長以下である複数の凸部を表面に有し、
モスアイフィルム13の凸部とブラックマトリクス12の凹部とがかみ合わさった領域において屈折率が約1.5から約1.8まで変化し、
空気層とモスアイフィルム15の凸部とがかみ合わさった領域において屈折率は約1.0から約1.5まで変化し、
ブラックマトリクス12で仕切られた領域内に形成されたカラーフィルタ層を有し、
前記多層基板は液晶表示装置のカラーフィルタの透明基板として用いることができ、その際、透明基板がより表示面側に、カラーフィルタがより液晶表示装置の内面側に設置されるものである、
多層基板。」
(イ)本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された特開2002-267815号公報(以下、「引用例2」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
a 「【0008】
【発明の実施の形態】図1(a)に示すように、本発明の反射防止性成形品1は、例えば、成形品2の片面に、光の波長以下のピッチの無数の微細凹凸からなり、厚み方向に光の屈折率が変化する反射防止構造3を有するものであり、成形品2および反射防止構造3のいずれも透明性素材からなっている


・・・略・・・

【0009】図1(c)に示すように、本発明の反射防止性成形品1は、成形品2の両面に、光の波長以下のピッチの無数の微細凹凸からなり、厚み方向に光の屈折率が変化する反射防止構造3および3’を有していてもよく、この場合、反射防止構造3および3’は、成形品2と連続した透明性素材からなっていてもよいが、いずれか一方もしくは両方が、反射防止構造を有する表面層4および/または4’として、基板層である成形品2上に積層した積層構造を構成していてもよい。」
b 「【図1】


c 上記aおよびbからみて、引用例2には、次の技術(以下、「引用例2の記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「成形品2の両面に、光の波長以下のピッチの無数の微細凹凸からなり、厚み方向に光の屈折率が変化する反射防止構造3および3’を設けて反射防止性成形品1とする技術。」
(ウ)本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であって原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用された特開2009-122216号公報(以下、「引用例3」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
a 「【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0020】
まず、本発明に係る吸収型NDフィルターは、複数の錐状突起をサブミクロンピッチでマトリックス状に配置した錐状突起群により構成される反射防止構造体部が、樹脂フィルムから成る基板の少なくとも片面に設けられていることを特徴としている。」
b 「【0051】
以下、具体的に説明する。
【実施例1】
【0052】
錐状突起群により構成される反射防止構造体部が樹脂フィルム基板の片面に形成されかつ基板の反対側面に光吸収膜が設けられた吸収型NDフィルターを製造した。
【0053】
すなわち、可視波長域で透明な厚さ100μmのPETフィルムの片面に、熱ナノインプリント法(ダイレクトナノインプロント法とも称する)により、高さ600nm、ピッチ200nmの錐状突起群により構成された反射防止構造体部を形成した。モールドの圧力は10MPa、モールドの温度は130℃で行った。」
c 上記aおよびbからみて、引用例3には、次の技術(以下、「引用例3の記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「複数の錐状突起をサブミクロンピッチでマトリックス状に配置した錐状突起群により構成される反射防止構造体部を、吸収型NDフィルターに設ける技術。」
(エ)本願の優先日前に電気通信回線を通じて公開された引用文献であって、原査定の拒絶の理由に引用文献5として引用された国際公開第2010/116728号(以下、「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。
a 「[0016]本発明者が、ガラス基板上に形成されたアルミニウム膜を用いてモスアイ用型を製造したところ、陽極酸化工程またはエッチング工程において、アルミニウム膜(一部は陽極酸化膜となっている)とガラス基板との接着性が低下するという問題が起こった。この問題は、基板として、アルカリ金属を含むガラス(ソーダライムガラス)の基板を用いたときに顕著であった。また、プラスチックフィルムを基材として用いた場合にも、アルミニウム膜とプラスチックフィルムとの接着性が低下するという問題が起こった。なお、ここで、基材とアルミニウム膜との接着性は、基材の表面にアルミニウム膜を直接形成した場合のアルミニウム膜の剥がれ難さだけでなく、基材の表面とアルミニウム膜との間に他の層を介在させた場合のアルミニウム膜の剥がれ難さをも表す。
[0017]本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その主な目的は、ガラス基材またはプラスチック基材の上に形成されたアルミニウム膜を用いてモスアイ用型を製造する方法において、アルミニウム膜とガラス基材またはプラスチック基材との接着性を向上させることにある。」
b 「[0037]以下に、図2および図3を参照して、本発明者がガラス基板を用いて行った実験例を示して、本発明による実施形態の型の製造方法に用いられる型基材および得られたモスアイ型を説明する。図2(a)に、本発明による実施形態の型の製造方法に用いられる型基材10の模式的な断面図を示し、図2(b)に、型基材10を用いて製造されたモスアイ用型100の模式的な断面図を示す。図3(a)および(b)はそれぞれ、比較例の型基材30Aおよび30Bの模式的な断面図である。
[0038]図2(a)に示すように、型基材10は、ガラス基材12と、ガラス基材12の表面に形成された無機下地層14と、無機下地層14の上に形成されたアルミニウムを含有する緩衝層16と、緩衝層16の表面に形成されたアルミニウム層18とを有する。なお、アルミニウム層18を均一に陽極酸化するために下地に導電層(好ましくはバルブ金属層)を設ける場合、無機下地層14と緩衝層16の間、または、緩衝層16とアルミニウム層18との間に導電層を設けることが好ましい。

・・・略・・・

[0044] 緩衝層16は、無機下地層14とアルミニウム層18との間に設けられており、無機下地層14とアルミニウム層18との間の接着性を向上させるように作用する。また、緩衝層16は、耐酸性に優れた材料から形成されており、無機下地層14を酸から保護する。」
c 上記a及びbからみて、引用例4には、次の技術(以下、「引用例4の記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「ガラス基材またはプラスチック基材の上に形成されたアルミニウム膜を用いてモスアイ用型を製造する方法において、ガラス基材12、ガラス基材12の表面に形成された無機下地層14及びアルミニウム層18とを有する型基材10の、無機下地層14とアルミニウム層18との間に接着性を向上させる作用を有する緩衝層16を設ける技術。」
(オ)本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2010-78803号公報(以下、「引用例5」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。
a 「【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の光学素子は、可視域を含む使用波長領域で反射防止機能を有する光学素子であって、
該使用波長領域は、該使用波長領域内の最長波長λHが該使用波長領域内の最短波長λLに比べて2倍以上となる範囲であり、
該光学素子は基板の光入出射面の少なくとも一方の面に、平均ピッチが最短波長λL以下の微細凹凸構造体が最外層となるように構成された反射防止構造体を備え、
Pを微細凹凸構造体の平均ピッチ、n1を微細凹凸構造体を形成している材料の屈折率、hを微細凹凸構造体の平均高さ、θを空気側から微細凹凸構造体へ入射する光束の入射角とするとき、
P<λL/(n1+Sinθ)
0.2λL≦h≦0.8λH
なる条件を満足することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、広い波長領域でかつ広い入射角範囲において、良好な反射防止機能を有し、光学系に用いたときフレアやゴーストの発生が少ない光学素子及びそれを有する光学系が得られる。」
b 「【0017】
以下、図を用いて本発明の光学素子及びそれを有する光学系について説明する。
【0018】
本発明の光学素子(レンズ、プリズム、平行平板、フィルター等)は、可視域(波長40nm?波長700nm)を含む使用波長領域で反射防止機能を有する。
【0019】
使用波長領域は、使用波長領域内の最長波長λHが使用波長領域内の最短波長λLに比べて2倍以上となる範囲である。
【0020】
光学素子は基板の光入出射面の少なくとも一方の面(レンズ面)に、反射防止構造体(反射防止膜)が形成されている。反射防止構造体は、平均ピッチが最短波長λL以下の微細凹凸構造体が最外層となるように構成されている。
【0021】
光学素子の光入出射面の双方に前述した反射防止構造体を設けても良い。
【0022】
図1は、本発明の反射防止構造体を有する光学素子の実施例1の概略構成図である。図1に示す光学素子1は透明部材(光学部材)より成る基板11上に反射防止構造体(反射防止膜)201が形成されている。14は微細凹凸構造体であり、凹凸形状(円錐形状、多角錘形状等を含む)の平均ピッチが使用波長以下である。
【0023】
ここで使用波長とは例えば可視領域(波長400nm?波長700nm)を含む波長400nm?波長1100nmの範囲をいう。
【0024】
12、13は薄膜より成る均質層(均質膜)である。301は空気(空気層)である。daは光学素子1の膜厚方向(厚さ方向)を示す。
【0025】
微細凹凸構造体14は最も光入射媒質(空気)側の膜となるように基板11上に設けられている。
【0026】
図2は図1の光学素子1を構成する各部材の膜厚方向daにおける材料の屈折率nを示す屈折率構造の説明図(模式図)である。
【0027】
図2においてn21は基板11の屈折率、n22は均質層12の屈折率、n23は均質層13の屈折率、n24は構造体14の屈折率にそれぞれ対応している。この場合の、微細凹凸構造体14の見かけの屈折率(等価屈折率)は図2の屈折率n24に示す様に膜厚方向daに連続的に変化している。
【0028】
微細凹凸構造体14は均質層13側から空気側へと先細りの構造となっている。このため、屈折率構造的には均質層側(基板側)13から空気301側に向けて徐々に(連続的に)屈折率が低くなる(減少する)ような構成となる。
【0029】
図1の光学素子1では基材11と構造層14の間に微細凹凸構造体14とは異なる材料より成る2つの均質層12,13が挟まれているが、均質層は一層以上形成されていれば良く、例えば3層以上であっても良い。又、均質層は無くても良い。

・・・略・・・

【0043】
光学素子1の一部を構成する均質層12、13の作製方法はどのような方法でも良い。例えば、スパッタリング法、蒸着法といったドライ法(真空成膜法)や、ゾル-ゲルコート液を使ったディッピング法、スピンコート法といったウエット法(湿式成膜法)等が適用できる。
【0044】
これらの手法により、予め均質層を形成した後、微細凹凸構造体14を作製する。微細凹凸構造体14の作製方法は、どのような方法でも良い。例えば波長以下の粒径の微粒子を分散した膜を塗布する方法、ゾル-ゲル法を用いた花弁状アルミナの微細凹凸構造体を形成する方法などが適用できる。
【0045】
本実施例の光学素子における均質層の少なくとも1つはジルコニア、シリカ、チタニア、酸化亜鉛のうち少なくとも一種を含むことが好ましい。また、微細凹凸構造体14は、アルミニウム又は酸化アルミニウム等、アルミナを主成分とすることが好ましい。」
c 「【0047】
次に実施例1の光学素子の具体的な構成について説明する。
【実施例1】
【0048】
実施例1において、透明部材11上の反射防止構造体201は透明基板11と微細凹凸構造体14との間に2つの均質層12、13を設け、全体として3層からなる。
【0049】
実施例1において反射防止効果のある波長域、即ち使用波長領域は400nmから1000nmの広い波長領域とした。透明部材11にはd線の屈折率n21が1.805のガラス基板を使用した。
【0050】
透明部材(基板)11側から構成した2層の均質層12、13の屈折率n22、n23は図2から明らかなように屈折率範囲を微細凹凸構造体14の基板11側の屈折率n24aと基板11の屈折率n21の範囲内に構成した。
【0051】
均質層12、13はSiO_(2)-TiO_(2)塗工液の混合割合を変えることにより、屈折率を調整し、スピンコート法により塗布後、加熱、乾燥を行い、薄膜より成る均質層12、13を形成した。
【0052】
均質層12、13は、基板11側から一層目12に、屈折率n22が1.696で物理的膜厚79nmを形成し、2層目13に屈折率n23が1.504で物理的膜厚74nmの均一層を形成した。
【0053】
最も空気側に配置された微細凹凸構造体14はアルミナを含むゾル-ゲルコート液をスピンコート法で塗布し、ゲル膜を形成した。それを温水に浸漬処理することにより、アルミナを主成分とする板状結晶を析出させ、最表面(空気側)の微細凹凸構造を形成した。
【0054】
この様に形成された微細凹凸構造体14は図2に示すようにガラス基板11側から空気301に向かってなだらかな傾斜を持って連続的に屈折率が変化している。
【0055】
この時、微細凹凸構造体14の基板11側の屈折率はほぼ1.4で空気の屈折率1.0まで連続的に変化している。微細凹凸構造体14の平均的な高さhは266nmである。
【0056】
図3は実施例1の光学素子1の反射率の分光特性の説明図である。図3の分光特性に示すように、波長400nmから波長1000nmの広い波長領域において、光線の入射角度が0度の場合、0.2%以下と高性能な反射防止効果が得られる。さらに光線入射角が60度においても、3%以下の良好な性能を持つ反射防止効果が得られる。」
d 「【図1】


e 「【図2】


f 上記a及びeからみて、引用例5には、次の技術(以下、「引用例5の記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「d線の屈折率n21が1.805のガラス基板を使用した透明部材11上に反射防止構造体201を設けた光学素子であって、
反射防止構造体201は、透明基板11側の屈折率がほぼ1.4である微細凹凸構造体14と、透明基材11と微細凹凸構造体14の間に設けた2つの均質層12、13からなり、
均質層12、13は、SiO_(2)-TiO_(2)塗工液の混合割合を変えることにより屈折率を調整して薄膜より成る均質層12、13として形成され、
均質層12は、屈折率n22が1.696であり、
均質層13は、屈折率n23が1.504であり、
均質層12及び13は、例えば3層以上であってもよい、
光学素子。」

イ 周知の事項
(ア)引用例1には次の事項が図とともに記載されている。
a 「[0113](実施形態4) 実施形態4は、液晶表示装置が備えるカラーフィルタ基板として用いることができる多層基板である。また、実施形態4の多層基板は、本発明の第一の多層基板及び第三の多層基板である。実施形態4の多層基板は、偏光板、ガラス基板、中間層、カラーフィルタ、ブラックマトリクス(BM)、及び、共通電極を有している。
[0114]図22は、実施形態4の多層基板のガラス基板、中間層及びブラックマトリクスの部分を抜き出した模式図であり、ガラス基板、モスアイフィルム、中間層及びブラックマトリクスの配置構成、並びに、これらの屈折率分布を示している。実施形態3では、ガラス基板11が本発明の第一の層に相当し、中間層25が本発明の第二の層に相当し、BM12が本発明の第三の層に相当する。また、ガラス基板11が本発明の第六の層に相当し、中間層25が本発明の中間層に相当し、BM12が本発明の第七の層に相当する。中間層25は、ガラス基板11の屈折率と異なる透明粒子33と、該透明粒子33を包含するバインダー樹脂(媒質)32とを含んで構成されている。ガラス基板11の屈折率は約1.5であり、バインダー樹脂の屈折率は約1.5であり、透明粒子の屈折率は約1.8であり、BM12が含むカーボンブラック粒子は約2.0である。カーボンブラック粒子はBM12を構成する層内で均一に分布している。そのため、BM12全体として見たときには、屈折率は、バインダー樹脂とカーボンブラック粒子とを平均化した約1.8である。このような透明粒子の材料としては、アクリル系樹脂等が挙げられる。また、透明粒子の粒径は、約100nm以下である。
[0115]図22に示すように、実施形態4においてバインダー樹脂32は、透明粒子33のほかに、可視光波長以下の粒径をもつナノ粒子34を有している。ナノ粒子34としては、実施形態2と同様のものを用いることができる。ナノ粒子34を中間層25内に混在させることで、中間層25内の屈折率をより光学的に平均化することができ、より均一な傾斜をもつ屈折率分布を有する中間層25を形成することができるようになる。
[0116]図22に示すように、ガラス基板11とBM12との間には、中間層25が配置されている。また、中間層25が含む透明粒子33は、中間層25の中でも、よりガラス基板11から遠ざかる位置により高い分布を有している。そのため、中間層25内における透明粒子33の濃度は、ガラス基板11から遠ざかるにつれて連続的に増加したものとなっており、これにより、図22に示すように、中間層25内の屈折率は、ガラス基板11から遠ざかるにつれて、すなわち、ガラス基板11と反対方向に向かって、連続的に増加したものとなっている。具体的には、バインダー樹脂32の屈折率は、ガラス基板11の屈折率と同じ約1.5であり、透明粒子33の屈折率は、ガラス基板11の屈折率及びバインダー樹脂32の屈折率よりも高く、かつBMの屈折率と同じ約1.8である。このことから、透明粒子33の濃度勾配を厚み方向に連続的に変化させることで、図22に示すようなガラス基板11からBM12までの屈折率の変化を連続的に変化したものとすることができ、かつガラス基板11の屈折率とBM12の屈折率とを連結させるようなグラフを得ることができる。
[0117]実施形態4の多層基板の構成によれば、ガラス基板11を通り抜けてきた光は、ガラス基板11と中間層25との境界、及び、中間層25とBM12との境界で反射が起こりにくい。これは、図22に示すように、中間層25の屈折率が、中間層25のガラス基板11と隣接する界面から中間層25のBM12と隣接する界面まで、ガラス基板11の中間層25と隣接する界面における屈折率の値を起点とし、中間層25のBM12と隣接する界面における屈折率の値を終点として断続的ではなく連続的に変化しているためである。また、言い換えれば、中間層25の屈折率は、ガラス基板11の屈折率とBM12の屈折率とを結ぶように連続的に変化しているためである。これにより、ガラス基板11を透過した光のほとんどは、ガラス基板11と中間層25との境界を通り抜け、更に、中間層25を透過した光のほとんどは、中間層25とBM12との境界を通り抜け、BM12を通り抜けることになる。また、実施形態4においては、BM12を構成する粒子として黒色を有するカーボンブラック粒子が用いられているため、BM12を透過しない成分は、カーボンブラック粒子によって吸収されやすい。

[0118]このように、実施形態4の多層基板の構成によれば、ガラス基板上に、ガラス基板の屈折率と大きく異なる屈折率をもつBMを形成する場合であっても、ガラス基板とBMとの間にこれらの屈折率を結ぶ中間層を配置しているので、多層基板内に断続的な屈折率の変化が起こる領域が形成されず、その結果、光の反射率が低減された多層基板が得られることになる。なお、このような実施形態4の構成は、3つの層によって屈折率が連続的に変化した領域を形成している点にも一つの特徴がある。

b 「[図22]


(イ)本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であって原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特開2005-133131号公報(以下、「周知例1」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
a 「【請求項1】
所望の成膜材料を用いてイオンプレーティング装置により基材上に成膜する際に、反応性ガスをその導入量を制御しながら導入することにより、厚み方向で屈折率が変化した屈折率変化層を基材上に形成することを特徴とする屈折率変化層の形成方法。」
b 「【0006】
本発明によれば、所望の材料を成膜材料として反応性ガスの導入量を制御しながらイオンプレーティング法により基材フィルム上に成膜することにより、成膜材料を変更することなく、厚み方向で屈折率が変化している屈折率変化層を形成することができる。このような屈折率変化層は、優れた反射防止性を具備する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、本発明の実施形態について説明する。
本発明の屈折率変化層の形成方法は、所望の成膜材料を蒸発させ基材上に成膜するイオンプレーティング装置により基材上に成膜する際に、反応性ガスをその導入量を制御しながら導入することにより、厚み方向で屈折率が変化した屈折率変化層を基材上に形成するものである。すなわち、成膜時に存在する反応性ガスの量が変わることにより形成される層の組成が変化することを利用し、反応性ガスの導入量を制御することによって厚み方向で屈折率を変化させ屈折率変化層を形成するものである。
本発明では、成膜材料として珪素、酸化珪素、酸化チタン、二酸化珪素、窒化珪素等を使用することができ、これらの1種を単独で、あるいは、2種以上の組み合わせで使用することができる。

・・・略・・・

【0011】
上述のような本発明の屈折率変化層の形成方法では、反応性ガスの導入量制御により、成膜される層の屈折率を制御して、厚み方向で屈折率が変化している屈折率変化層を形成することができる。したがって、形成された屈折率変化層は極めて良好な反射防止性を発現可能であり、反射防止膜、反射低減ガラス等の製造に適用することが可能である。
尚、製造した屈折率変化層を反射防止膜として使用する場合、屈折率変化層のヘイズは2%以下、好ましくは1%以下とすることが望ましい。」
(ウ)引用例1及び周知例1から把握される周知技術
上記(ア)及び(イ)からみて、本願の優先日前に、「2種以上の材料から形成され各材料の組成の比率が膜厚方向に変化する膜であって、且つ、膜全体として界面を持たない膜から形成され、屈折率変化が当該膜の膜厚方向に連続的である屈折率傾斜薄膜によって、反射防止性が発現すること」は、周知(以下、「周知技術」という。)であったと認められる。

ウ 本願補正発明1と引用発明との対比
本願補正発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「モスアイフィルム15」は、本願補正発明1の「可視光の波長よりも短いピッチの微細構造体」に相当する。
(イ)引用発明の「モスアイフィルム13の凸部とブラックマトリクス12の凹部とがかみ合わさった領域であって、屈折率は約1.5から約1.8まで変化している領域」は、本願補正発明1の「膜厚方向に屈折率変化する屈折率傾斜薄膜」に相当する。
(ウ)引用発明の「透明基板であるガラス基板11」は、「一方の面にモスアイフィルム13及びブラックマトリクス12」、「他方の面にモスアイフィルム15を積層」されているものであるので、本願補正発明1の「光透過性を有し、且つ、成膜対象となるフィルタ基板を構成する透明基板」に相当する。なお、引用発明の「ブラックマトリクス12」は、[0095]に記載されているように、「ガラス基板11」上に配置された「モスアイフィルム13」に「スピンコート法、DFR(ドライフィルム)法等の製膜法とフォトリソグラフィー法とを用いて」([0095])形成されるものであるので、本願補正発明1の「基板」には相当しない。
(エ)引用発明の「モスアイフィルム13の凸部とブラックマトリクス12の凹部とがかみ合わさった領域」(屈折率傾斜薄膜)は、「モスアイフィルム13」側、すなわち該領域における「ガラス基板11」(本願補正発明1の「透明基板」に相当。以下、「」に続く()内の用語は、対応する本願補正発明の用語を表す。)側の屈折率が「ガラス基板11」(透明基板)と同等の屈折率である約1.5に、連続的に近づいていることが技術常識からみて明らかであるので、補正発明の「屈折率傾斜薄膜」と、「透明基板側の屈折率が透明基板の屈折率に近づ」く「屈折率変化が前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向に連続的である」点で一致する。
(オ)引用発明の「多層基板」は、「ブラックマトリクス12で仕切られた領域内に形成されたカラーフィルタ層を有し」ており、「カラーフィルタの透明基板として用いることができる」ものであることを踏まえると、本願補正発明1の「光学フィルタ」に相当する。そして、引用発明の「ガラス基板11」(透明基板)は、「多層基板」(光学フィルタ)における透明基板、すなわち「フィルタ基板」を構成するものである。
(カ)上記(ア)ないし(オ)から、本願補正発明1と引用発明とは、
「光透過性を有し、且つ、成膜対象となるフィルタ基板を構成する透明基板と、
前記透明基板上に設けられ、膜厚方向に屈折率変化する屈折率傾斜薄膜と、
可視光の波長よりも短いピッチの微細構造体とを備え、
前記屈折率傾斜薄膜は、
前記屈折率傾斜薄膜のうち前記透明基板側の屈折率が前記透明基板の屈折率に近づく屈折率変化が前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向に連続的である光学フィルタ。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願補正発明1では、「微細構造体」が、「屈折率傾斜薄膜上に設けられ」ているのに対し、
引用発明では、微細構造体が「透明基板」上の「屈折率傾斜薄膜」が設けられているのとは反対側の表面に設けられており、「屈折率傾斜薄膜」上には設けられていない点。

相違点2:
本願補正発明1では、「微細構造体」が「透明基板の屈折率と異なる屈折率の材料から形成され」ているのに対し、
引用発明では、「微細構造体」と「透明基板」が、共に約1.5という同等の屈折率を有している点。

相違点3:
本願補正発明1では、「屈折率傾斜薄膜」が、「2種以上の材料から形成され各材料の組成の比率が膜厚方向に変化する膜であって、且つ、膜全体として界面を持たない膜から形成され」るとともに、「屈折率傾斜薄膜のうち微細構造体側の屈折率が前記微細構造体の屈折率に近づく屈折率変化が前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向に連続的である」のに対し、
引用発明では、屈折率傾斜薄膜が、そのような構成を有していない点。

エ 本願補正発明1と引用発明との相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
(ア)引用例1に「各層の界面における屈折率はそれぞれ実質的に同一とし、かつ一つの層内で屈折率を、途切れることなく連続的に変化させることにより、光が屈折率の変化の影響を受けなくなり、それぞれ屈折率の異なる複数の材料で構成された各層間をそのまま光が透過することを見いだした。」([0029])と記載されているように、引用発明は多層構造を構成する層間の界面での反射を低減するものであるところ、引用発明の「モスアイフィルム13の凸部とブラックマトリクス12の凹部とがかみ合わさった領域」(屈折率傾斜薄膜)は、「ガラス基板11」(透明基板)と「ブラックマトリクス12」との界面での反射を低減するための領域であることは技術的にみて明らかである。
(イ)したがって、引用発明の「モスアイフィルム13」及び「ブラックマトリクス12」は、「ガラス基板11」が適用される液晶表示装置の内面側に設置されるものであって、「モスアイフィルム13の凸部とブラックマトリクス12の凹部とがかみ合わさった領域」(屈折率傾斜薄膜)も、「ガラス基板11」が適用される液晶表示装置の内面側に設置されるものである。
(ウ)一方で、引用発明の「モスアイフィルム15」(微細構造体)の「空気層とモスアイフィルム15の凸部とがかみ合わさった領域」は、「屈折率」が「約1.0から約1.5まで変化している」ことから、「ガラス基板11」(透明基板)が適用される液晶表示面側における空気層と「ガラス基板11」(透明基板)との界面での反射を低減する領域であることは技術的にみて明らかである。
(エ)したがって、引用発明の「モスアイフィルム15」(微細構造体)は、「ガラス基板11」が適用される液晶表示装置の表示面側に設置されるものである。
(オ)上記(ア)ないし(エ)からみて、引用発明の「モスアイフィルム13の凸部とブラックマトリクス12の凹部とがかみ合わさった領域」(屈折率傾斜薄膜)と「モスアイフィルム15」(微細構造体)は、必然的にそれぞれ「ガラス基板11」(透明基板)の別の面に設置されるものであり、また、引用例1にはこれらを「ガラス基板11」の同じ面に設置することについての記載ないし示唆もなく、引用発明において「モスアイフィルム13の凸部とブラックマトリクス12の凹部とがかみ合わさった領域」(屈折率傾斜薄膜)と「モスアイフィルム15」(微細構造体)を「ガラス基板11」の同じ面に設置することが、当業者が適宜なし得たことであるともいえない。
(カ)また、そもそも、引用発明では「モスアイフィルム15」(微細構造体)と「ガラス基板」(透明基板)は、同等の屈折率(約1.5)を有しているのであるから、「モスアイフィルム15」(微細構造体)と「ガラス基板」(透明基板)の間の界面での反射を低減するための屈折率傾斜薄膜を、「モスアイフィルム15」(微細構造体)と「ガラス基板」(透明基板)の間に設ける必要がないことは、当業者にとって自明である。したがって、例え引用例2ないし5の記載事項及び周知技術をもってしても、引用発明において相違点1に係る本願補正発明1の構成を採用することが、当業者にとって容易であったとはいえない。
(キ)上記(ア)ないし(カ)にて示したとおり、引用発明において上記相違点1に係る本願補正発明1の構成を採用することは当業者が容易に想到し得たことではないから、上記ウ(カ)で示した相違点2及び相違点3については、検討するまでもなく、本願補正発明1は、当業者が引用文献1に記載された発明、引用文献2ないし引用文献5の記載事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものでない。

オ 本願補正発明2について
本願補正発明2の記載は、本願補正発明1の記載と比較して「微細構造体」が「屈折率傾斜薄膜上に、密着層を介して設けられ」ることが追加されている点、及び「反射防止複合体」に関する記載である点で異なるが、その余の点は実質的に本願補正発明1の記載と差異がない。
したがって、本願補正発明2と引用発明とは、少なくとも上記ウ(カ)で示した相違点1ないし3で相違するところ、前記エと同様の理由で本願補正発明2は当業者が引用文献1に記載された発明、引用文献2ないし引用文献5の記載事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものでない。

なお、引用例5に記載された発明を引用発明(以下、「引用発明2」という。)とした場合についても、一応検討しておく。
本願補正発明1及び本願補正発明2と引用発明2との対比を行うと、主に以下の点で相違する。

相違点4:
本願補正発明1及び本願補正発明2の「屈折率傾斜薄膜」が、「2種以上の材料から形成され各材料の組成の比率が膜厚方向に変化する膜であって、且つ、膜全体として界面を持たない膜から形成され」ているのに対し、
引用発明2では、屈折率傾斜薄膜に対応する部分が、「均質層12、均質層13」の2層構成されている点。

引用発明2では、均質層12及び均質層13は、例えば3層以上であってもよいものであり、3層以上の多層構造とすることは、当業者であれば適宜なし得ることである。
しかしながら、引用例5には均質層を界面を持たない膜構造とすることについての記載ないし示唆がなく、仮に均質層を3層以上の多層構造としたとしても、層間の界面は依然として存在するから、均質層の層数を増やしたとしても、相違点4に係る本願補正発明の構成は至らない。
また、仮に「2種以上の材料から形成され各材料の組成の比率が膜厚方向に変化する膜であって、且つ、膜全体として界面を持たない膜から形成され、屈折率変化が当該膜の膜厚方向に連続的である屈折率傾斜薄膜によって、反射防止性が発現すること」が周知であったとしても、引用発明2の「透明基材11と微細凹凸構造体14の間に設けた」均質層が、いかなる作用、機能を有する層構成であるのかについて、引用例5には記載も示唆もないから、上記均質層に代えて、屈折率傾斜薄膜を採用することが当業者にとって容易であったということはできない。

(3)本件補正のその他の補正事項について
ア 本件補正の補正事項1以外の補正事項(以下、「その他の補正事項」という。)は、以下の通りである。
イ 本件補正前の請求項2ないし5、8及び15に、上記(1)のアと同様に、「基板」を「透明基板」とする限定を付加するものである。
ウ 本件補正前の請求項14に、上記(1)のアと同様の限定を付加するものである。
エ 本件補正のその他の補正事項のうち、上記イ及びウは補正前の請求項2ないし5、8、14及び15に記載された発明と補正後の請求項2ないし5,8、14及び15に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件に違反するところはない。

(4)上記(1)?(3)からみて、本件補正の補正事項1及びその他の補正事項は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

本件補正のその余の補正事項についても、特許法第17条の2第3項ないし第6項に違反するところはない。

3.むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし15に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、上記「第2 2(2)独立特許要件について」で示したように、独立請求項である請求項1及び12に係る発明は、当業者にとって容易に想到し得たものではなく、さらに請求項1及び12を引用する請求項2ないし11及び13ないし15に係る発明は、請求項1及び12に係る発明をさらに限定したものであるから、当業者にとって容易に想到し得ないものであることは明らかである。
本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-08-09 
出願番号 特願2013-515193(P2013-515193)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 渡邉 勇
清水 康司
発明の名称 光学フィルタ、光学機器、電子機器及び反射防止複合体  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  

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