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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1317951
審判番号 不服2015-911  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-16 
確定日 2016-08-10 
事件の表示 特願2011-274530「半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月24日出願公開,特開2012- 99832〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2003年(平成15年)8月22日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2002年8月30日,スウェーデン)を国際出願日とする特願2004-532493号(以下「原出願」という。)の一部を,平成23年12月15日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成23年12月15日 上申書・審査請求
平成25年 8月14日 拒絶理由通知
平成26年 2月19日 意見書・手続補正書
平成26年 9月 8日 拒絶査定
平成27年 1月16日 審判請求・手続補正書
平成27年 2月25日 手続補正書
(審判請求書「請求の理由」を補正。)
平成27年 2月26日 上申書
平成27年 3月 3日 手続補正書
(審判請求書「提出物件の目録」を補正。)

第2 審判請求時の補正の適否
1 本件補正の内容
平成27年1月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は,特許請求の範囲を補正するものであって,特許請求の範囲の記載は,本件補正の前後で以下のとおりである。
・補正前
「【請求項1】
前面及び裏面を有する基板層として働く第一伝導性タイプのドリフト領域,
ドリフト領域の前面に配された第一コンタクト電極,
前面に配され,かつ少なくとも第一伝導性タイプのキャリアのドリフト領域への入射を制御する制御領域,及び
ドリフト領域の裏面に第二コンタクト電極を有する,ドリフト領域が第一コンタクト電極と第二コンタクト電極の間でキャリア流れを運ぶように配された半導体装置において,
ドリフト領域が,10^(15)cm^(-3)より低い正味のキャリア濃度と少なくとも50nsのキャリア寿命を有する炭化ケイ素ウェーハから成り,
炭化ケイ素ウェーハがドリフト領域の裏面又は前面を形成する表面であって,1°より小さいオフアクシス角度でミラー指数の方向にオフ配向されている表面を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
制御領域が,
ドリフト領域内の前面の表面に配され,スペースで分離されている,所定の深さを有する第二伝導性タイプの少なくとも二つのベース領域;
前面の表面に位置し,第二伝導性タイプのベース領域内にある第一伝導性タイプのソース領域;
ソース領域を有するベース領域内の前面の表面に配され,ソース領域とベース領域の端の間に配されたチャネル領域;
チャネル領域を制御するためのゲート電極;及び
ゲート電極をチャネル領域から電気的に分離するためのゲート絶縁領域
を有することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
ゲート絶縁領域が,ソース領域の上に重なったチャネル領域の上に位置し,ベース領域の間のスペースに完全に重なっていることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
第一電極が,ソース領域とベース領域に共通するオーミックコンタクトを備えたエミッタ電極であり,ゲート電極から電気的に絶縁されていることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項5】
第一電極が,ドリフト領域の前面全体にわたって延びたエミッタ電極であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】
第二コンタクト電極がドリフト領域の裏側の表面に配された層を形成するコレクタ電極であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項7】
コレクタ領域がドリフト領域内の裏側表面に位置していることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項8】
コレクタ領域が第二電極とオーミックコンタクトを形成していることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
コレクタ領域が第二伝導性タイプであることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項10】
コレクタ領域がドリフト領域の裏面全体にわたって延び,フィールドストップ領域を備えていることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項11】
コレクタ領域が小さい領域で区切られた幾つかのユニットに分けられ,第二コンタクト電極がそれぞれのコレクタユニット及びドリフト領域又はドリフト領域内のフィールドストップ領域と共通のオーミックコンタクトを形成していることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項12】
ドリフト領域の裏面が逆阻止のために接合終端エクステンションを備えていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項13】
ドリフト領域の前面が順方向阻止のために接合終端エクステンションを備えていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項14】
ドリフト領域の裏面に設けられた構造と前面における構造を一直線に並べるために,ドリフト領域の前面が位置合わせマークを備えていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項15】
デバイスがIGBTであることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項16】
炭化ケイ素ウェーハの表面がオンアクシスの配向を有することを特徴とする請求項1に記載の装置。」
・補正後
「【請求項1】
前面及び裏面を有する基板層として働く第一伝導性タイプのドリフト領域,
前記ドリフト領域の前面に配された第一コンタクト電極,
前面に配され,かつ少なくとも前記第一伝導性タイプのキャリアの前記ドリフト領域への入射を制御する制御領域,及び
前記ドリフト領域の裏面に第二コンタクト電極を有する,前記ドリフト領域が前記第一コンタクト電極と前記第二コンタクト電極の間でキャリア流れを運ぶように配された半導体装置において,
前記ドリフト領域が,10^(15)cm^(-3)より低い正味のキャリア濃度と少なくとも50nsのキャリア寿命を有する炭化ケイ素ウェーハから成り,
前記炭化ケイ素ウェーハが前記ドリフト領域の裏面又は前面を形成する表面であって,1°より小さいオフアクシス角度でミラー指数の方向にオフ配向されている表面を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記制御領域が,
前記ドリフト領域内の前面の表面に配され,スペースで分離されている,所定の深さを有する第二伝導性タイプの少なくとも二つのベース領域;
前記前面の表面に位置し,前記第二伝導性タイプの前記ベース領域内にある前記第一伝導性タイプのソース領域;
前記ソース領域を有する前記ベース領域内の前面の表面に配され,前記ソース領域と前記ベース領域の端の間に配されたチャネル領域;
前記チャネル領域を制御するためのゲート電極;及び
前記ゲート電極を前記チャネル領域から電気的に分離するためのゲート絶縁領域
を有することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ゲート絶縁領域が,前記ソース領域の上に重なった前記チャネル領域の上に位置し,前記ベース領域の間のスペースに完全に重なっていることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記第一コンタクト電極が,前記ソース領域と前記ベース領域に共通するオーミックコンタクトを備えたエミッタ電極であり,前記ゲート電極から電気的に絶縁されていることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記第一コンタクト電極が,前記ドリフト領域の前面全体にわたって延びたエミッタ電極であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記第二コンタクト電極が前記ドリフト領域の裏側の表面に配された層を形成するコレクタ電極であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項7】
コレクタ領域が前記ドリフト領域内の裏側表面に位置していることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記コレクタ領域が前記第二コンタクト電極とオーミックコンタクトを形成していることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記コレクタ領域が第二伝導性タイプであることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記コレクタ領域が前記ドリフト領域の裏面全体にわたって延び,フィールドストップ領域を備えていることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項11】
前記コレクタ領域が小さい領域で区切られた幾つかのユニットに分けられ,前記第二コンタクト電極がそれぞれのコレクタユニット及び前記ドリフト領域又は前記ドリフト領域内のフィールドストップ領域と共通のオーミックコンタクトを形成していることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項12】
前記ドリフト領域の裏面が逆阻止のために接合終端エクステンションを備えていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記ドリフト領域の前面が順方向阻止のために接合終端エクステンションを備えていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記ドリフト領域の裏面に設けられた構造と前面における構造を一直線に並べるために,前記ドリフト領域の前面が位置合わせマークを備えていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記半導体装置がIGBTであることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記炭化ケイ素ウェーハの表面がオンアクシスの配向を有することを特徴とする請求項1に記載の装置。」

2 補正事項の整理
本件補正による特許請求の範囲についての補正を整理すると次のとおりとなる。(当審注.下線は補正箇所を示し,当審で付加したもの。)
・補正事項1
補正前の請求項1の「前面及び裏面を有する基板層として働く第一伝導性タイプのドリフト領域,ドリフト領域の前面に配された第一コンタクト電極,前面に配され,かつ少なくとも第一伝導性タイプのキャリアのドリフト領域への入射を制御する制御領域,及び ドリフト領域の裏面に第二コンタクト電極を有する,ドリフト領域が第一コンタクト電極と第二コンタクト電極の間でキャリア流れを運ぶように配された半導体装置において,ドリフト領域が,10^(15)cm^(-3)より低い正味のキャリア濃度と少なくとも50nsのキャリア寿命を有する炭化ケイ素ウェーハから成り,炭化ケイ素ウェーハがドリフト領域の裏面又は前面を形成する表面であって,1°より小さいオフアクシス角度でミラー指数の方向にオフ配向されている表面を有する」を,「前面及び裏面を有する基板層として働く第一伝導性タイプのドリフト領域,前記ドリフト領域の前面に配された第一コンタクト電極,前面に配され,かつ少なくとも前記第一伝導性タイプのキャリアの前記ドリフト領域への入射を制御する制御領域,及び前記ドリフト領域の裏面に第二コンタクト電極を有する,前記ドリフト領域が前記第一コンタクト電極と前記第二コンタクト電極の間でキャリア流れを運ぶように配された半導体装置において,前記ドリフト領域が,10^(15)cm^(-3)より低い正味のキャリア濃度と少なくとも50nsのキャリア寿命を有する炭化ケイ素ウェーハから成り,前記炭化ケイ素ウェーハが前記ドリフト領域の裏面又は前面を形成する表面であって,1°より小さいオフアクシス角度でミラー指数の方向にオフ配向されている表面を有する」と補正すること。
・補正事項2
補正前の請求項2の「制御領域が,ドリフト領域内の前面の表面に配され,スペースで分離されている,所定の深さを有する第二伝導性タイプの少なくとも二つのベース領域;前面の表面に位置し,第二伝導性タイプのベース領域内にある第一伝導性タイプのソース領域;ソース領域を有するベース領域内の前面の表面に配され,ソース領域とベース領域の端の間に配されたチャネル領域;チャネル領域を制御するためのゲート電極;及びゲート電極をチャネル領域から電気的に分離するためのゲート絶縁領域を有する」を,「前記制御領域が,前記ドリフト領域内の前面の表面に配され,スペースで分離されている,所定の深さを有する第二伝導性タイプの少なくとも二つのベース領域;前記前面の表面に位置し,前記第二伝導性タイプの前記ベース領域内にある前記第一伝導性タイプのソース領域;前記ソース領域を有する前記ベース領域内の前面の表面に配され,前記ソース領域と前記ベース領域の端の間に配されたチャネル領域;前記チャネル領域を制御するためのゲート電極;及び前記ゲート電極を前記チャネル領域から電気的に分離するためのゲート絶縁領域を有する」と補正すること。
・補正事項3
補正前の請求項3の「ゲート絶縁領域が,ソース領域の上に重なったチャネル領域の上に位置し,ベース領域の間のスペースに完全に重なっている」を,「前記ゲート絶縁領域が,前記ソース領域の上に重なった前記チャネル領域の上に位置し,前記ベース領域の間のスペースに完全に重なっている」と補正すること。
・補正事項4
補正前の請求項4の「第一電極が,ソース領域とベース領域に共通するオーミックコンタクトを備えたエミッタ電極であり,ゲート電極から電気的に絶縁されている」を,「前記第一コンタクト電極が,前記ソース領域と前記ベース領域に共通するオーミックコンタクトを備えたエミッタ電極であり,前記ゲート電極から電気的に絶縁されている」と補正すること。
・補正事項5
補正前の請求項5の「第一電極が,ドリフト領域の前面全体にわたって延びたエミッタ電極である」を,「前記第一コンタクト電極が,前記ドリフト領域の前面全体にわたって延びたエミッタ電極である」と補正すること。
・補正事項6
補正前の請求項6の「第二コンタクト電極がドリフト領域の裏側の表面に配された層を形成するコレクタ電極である」を,「前記第二コンタクト電極が前記ドリフト領域の裏側の表面に配された層を形成するコレクタ電極である」と補正すること。
・補正事項7
補正前の請求項7の「コレクタ領域がドリフト領域内の裏側表面に位置している」を,「コレクタ領域が前記ドリフト領域内の裏側表面に位置している」と補正すること。
・補正事項8
補正前の請求項8の「コレクタ領域が第二電極とオーミックコンタクトを形成している」を,「前記コレクタ領域が前記第二コンタクト電極とオーミックコンタクトを形成している」と補正すること。
・補正事項9
補正前の請求項9の「コレクタ領域が第二伝導性タイプである」を,「前記コレクタ領域が第二伝導性タイプである」と補正すること。
・補正事項10
補正前の請求項10の「コレクタ領域がドリフト領域の裏面全体にわたって延び,フィールドストップ領域を備えている」を,「前記コレクタ領域が前記ドリフト領域の裏面全体にわたって延び,フィールドストップ領域を備えている」と補正すること。
・補正事項11
補正前の請求項11の「コレクタ領域が小さい領域で区切られた幾つかのユニットに分けられ,第二コンタクト電極がそれぞれのコレクタユニット及びドリフト領域又はドリフト領域内のフィールドストップ領域と共通のオーミックコンタクトを形成している」を,「前記コレクタ領域が小さい領域で区切られた幾つかのユニットに分けられ,前記第二コンタクト電極がそれぞれのコレクタユニット及び前記ドリフト領域又は前記ドリフト領域内のフィールドストップ領域と共通のオーミックコンタクトを形成している」と補正すること。
・補正事項12
補正前の請求項12の「ドリフト領域の裏面が逆阻止のために接合終端エクステンションを備えている」を,「前記ドリフト領域の裏面が逆阻止のために接合終端エクステンションを備えている」と補正すること。
・補正事項13
補正前の請求項13の「ドリフト領域の前面が順方向阻止のために接合終端エクステンションを備えている」を,「前記ドリフト領域の前面が順方向阻止のために接合終端エクステンションを備えている」と補正すること。
・補正事項14
補正前の請求項14の「ドリフト領域の裏面に設けられた構造と前面における構造を一直線に並べるために,ドリフト領域の前面が位置合わせマークを備えている」を,「前記ドリフト領域の裏面に設けられた構造と前面における構造を一直線に並べるために,前記ドリフト領域の前面が位置合わせマークを備えている」と補正すること。
・補正事項15
補正前の請求項15の「デバイスがIGBTである」を,「前記半導体装置がIGBTである」と補正すること。
・補正事項16
補正前の請求項16の「炭化ケイ素ウェーハの表面がオンアクシスの配向を有する」を,「前記炭化ケイ素ウェーハの表面がオンアクシスの配向を有する」と補正すること。

3 補正の適否について
(1)補正事項1について
補正事項1は,補正前の請求項1に記載の既出の用語に「前記」を付すものである。
そうすると,補正事項1は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるので,補正事項1は,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
そして,補正事項1は,誤記の訂正を目的とするものと認められるから,特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり,また,同法第17条の2第5項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。

(2)補正事項2及び3について
補正事項2及び3は,それぞれ,補正前の請求項2及び3に記載の既出の用語に「前記」を付すものである。
そうすると,補正事項2及び3は,いずれも,補正事項1と同様,特許法第17条の2第3項,及び第4項の規定に適合し,また,同法第17条の2第5項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。

(3)補正事項4について
補正事項4は,補正前の請求項4に記載の「第一電極」を,当該請求項で引用する請求項2において引用される請求項1に記載の「第一コンタクト電極」とするとともに,補正前の請求項4に記載の既出の用語に「前記」を付すものである。
そうすると,補正事項4は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるので,補正事項1は,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
そして,補正事項4は,誤記の訂正を目的とするものと認められるから,特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり,また,同法第17条の2第5項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。

(4)補正事項5について
補正事項5は,補正前の請求項5に記載の「第一電極」を,当該請求項で引用する請求項1に記載の「第一コンタクト電極」とするとともに,補正前の請求項5に記載の既出の用語に「前記」を付すものである。
そうすると,補正事項5は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるので,補正事項5は,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
そして,補正事項5は,誤記の訂正を目的とするものと認められるから,特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり,また,同法第17条の2第5項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。

(5)補正事項6及び7について
補正事項6及び7は,それぞれ,補正前の請求項6及び7に記載の既出の用語に「前記」を付すものである。
そうすると,補正事項6及び7は,いずれも,補正事項1と同様,特許法第17条の2第3項,及び第4項の規定に適合し,また,同法第17条の2第5項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。

(6)補正事項8について
補正事項8は,補正前の請求項4に記載の「第二電極」を,当該請求項で引用する請求項7において引用される請求項1に記載の「第二コンタクト電極」とするとともに,補正前の請求項8に記載の既出の用語に「前記」を付すものである。
そうすると,補正事項8は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるので,補正事項8は,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
そして,補正事項8は,誤記の訂正を目的とするものと認められるから,特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり,また,同法第17条の2第5項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。

(7)補正事項9ないし14について
補正事項9ないし14は,それぞれ,補正前の請求項9ないし14に記載の既出の用語に「前記」を付すものである。
そうすると,補正事項9ないし14は,いずれも,補正事項1と同様,特許法第17条の2第3項,及び第4項の規定に適合し,また,同法第17条の2第5項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。

(8)補正事項15について
補正事項15は,補正前の請求項15に記載の「デバイス」を,当該請求項で引用する請求項1に記載の「半導体装置」とするとともに,これに「前記」を付すものである。
そうすると,補正事項15は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるので,補正事項15は,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
そして,補正事項15は,誤記の訂正を目的とするものと認められるから,特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり,また,同法第17条の2第5項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。

(9)補正事項16について
補正事項16は,補正前の請求項16に記載の既出の用語に「前記」を付すものである。
そうすると,補正事項16は,補正事項1と同様,特許法第17条の2第3項,及び第4項の規定に適合し,また,同法第17条の2第5項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。

4 むすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第3項,及び第4項の規定に適合し,また,同法第17条の2第5項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。

第3 本願発明の容易想到性について
1 検討の前提
前記第2で検討したとおり,本件補正は,特許法第17条の2第5項第3号に掲げる,誤記の訂正を目的とするものに該当するから,本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明が,平成26年9月8日付け拒絶査定(以下「原査定」という。)に記載した理由により,特許を受けることができないものであるか否かについて検討する。

2 本願発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものと認める。(再掲)
「【請求項1】
前面及び裏面を有する基板層として働く第一伝導性タイプのドリフト領域,
前記ドリフト領域の前面に配された第一コンタクト電極,
前面に配され,かつ少なくとも前記第一伝導性タイプのキャリアの前記ドリフト領域への入射を制御する制御領域,及び
前記ドリフト領域の裏面に第二コンタクト電極を有する,前記ドリフト領域が前記第一コンタクト電極と前記第二コンタクト電極の間でキャリア流れを運ぶように配された半導体装置において,
前記ドリフト領域が,10^(15)cm^(-3)より低い正味のキャリア濃度と少なくとも50nsのキャリア寿命を有する炭化ケイ素ウェーハから成り,
前記炭化ケイ素ウェーハが前記ドリフト領域の裏面又は前面を形成する表面であって,1°より小さいオフアクシス角度でミラー指数の方向にオフ配向されている表面を有することを特徴とする半導体装置。」

3 引用文献の記載と引用発明
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された,原出願の優先権主張日(以下「原出願の優先日」という。)前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平7-307469号公報(以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(当審注.下線は当審において付加した。以下同じ。)
ア「【0005】図20のIGBT103のチップを製造するには,まず,図21(a)に示すように予め用意されたn^(-)ベース層となるn^(-)基板131の裏面側にp^(+)アノード層132を裏面からボロン(B)等を拡散して形成する。あるいはp^(+)基板の上にn^(-)エピタキシャル層を形成してもよい。この場合はp^(+)基板がp^(+)アノード層132に,n^(-)エピタキシャル層がn^(-)ベース層131となる。次に,図21(b)に示すようにn^(-)基板131の表面側にゲート酸化膜となるSiO_(2 )膜133およびゲート酸化膜の上の絶縁ゲート電極となるポリシリコン層139を成膜して,n^(-)基板131の表面側ポリシリコン層139の中央部の窓を通してn^(-)基板131の表面側の中にボロン(B)等の拡散を行ってp型ベース層134を形成する。次に,図21(c)に示すようにゲート電極136となる部分のポリシリコン層を残して,新たにSiO_(2 )膜133をn^(-)基板131の表面上に成膜した後,このSiO_(2 )膜133の中央部分の2つの窓を通してp型ベース層134の中に砒素(As)等の拡散を行ってn^(+)エミッタ層135を形成する。いわゆる二重拡散技術である。その後,所定のフォトリソグラフィーおよびRIE法等の手法でゲート電極136の形状にポリシリコン膜をパターニングし,さらにこのポリシリコン膜およびn^(-)基板131の上にSiO_(2 )膜を形成する。そして,図21(d)に示すようにSiO_(2 )膜133を覆うようにして,n^(-)基板131の表面中央部にエミッタ電極137を形成し,またチップ裏面側のp^(+)アノード層132にコレクタ電極138を形成すれば,図20に用いるIGBT103のチップが得られる。
【0006】次にIGBTの動作原理について説明する。IGBTのターンオンは,たとえばエミッタ電極137が接地され,コレクタ電極138に正電圧が印加された状態でゲート電極136にエミッタ電極137に対して正電圧を印加することにより実現される。ゲート電極136に正電圧が印加されると,MOSFET同様p型ベース層134の表面に反転チャンネルが形成されn^(+)エミッタ層135から反転チャンネル層を通してn^(-)ベース層131内に電子が注入されp^(+)アノード層に到達する。これに対し,p^(+)アノード層132からn^(-)ベース層131内にホールの注入が起こり,p^(+)アノード層132とn^(-)ベース層131との間に形成されるpn接合は順バイアス状態となり,n^(-)ベース層131が伝導度変調を起こし,素子を導通状態に導く。・・・」
イ「【0028】図3は,本発明の第1または第2実施例の半導体スイッチの構成要素であるIGBT1,2の各チップを高耐圧化するための構造を示したものである。図3に示すように本発明の第1または第2の実施例のIGBTチップは不純物密度5×10^(12)?2×10^(14)cm^(-3)のn^(-)基板11を有し,そのn^(-)基板11の裏面全面には不純物密度5×10^(18)?2×10^(19)cm^(-3)のp^(+)拡散層(p^(+)型アノード層)12が形成され,さらにチップ側面にもアイソレーション拡散(素子分離拡散)法によってp^(+)拡散層12が形成されている。また,n^(-)基板11内のチップ表面側には不純物密度5×10^(15)?2×10^(17)cm^(-3)のp型ベース層13が形成され,p型ベース層13内のチップ表面側には一対の不純物密度5×10^(18)?2×10^(21)cm^(-3)のn^(+)エミッタ層14が形成されている。また,チップ表面の両サイドに各々現れたp^(+)拡散層12,n^(-)基板11,p型ベース層13,及びn^(+)エミッタ層14に亘るチップ表面上にSiO_(2 )膜15がそれぞれ形成されており,該各SiO_(2 )膜15内にはそれぞれポリシリコン膜からなるゲート電極16が形成されている。すなわち,ゲート電極16は,p型ベース層13に対応するチップ表面上に設けられ,その周囲をゲート酸化膜等のSiO_(2 )膜15によってチップ表面側から絶縁した状態の絶縁ゲート構造を成している。・・・」
ウ「【0038】図12は本発明の第7の実施例に係り,双方向性半導体スイッチを構成するIGBT1,2,を同一チップ上に集積化した,いわゆるワンチップ双方向性半導体スイッチの断面構造の一部を示す。図13は図12の構造の一ユニットに対応する等価回路を示す図で,nチャンネルIGBT91とpチャンネルIGBT92が並列接続され,それぞれゲート制御回路95,96により端子3-4間の交流が制御されることを示す。図12においてn^(+)エミッタ層14,p型ベース層13,i層211,p^(+)アノード層12によりnチャンネルIGBT91が構成され,p^(+)エミッタ層141,n型ベース層231,i層211,n^(+)アノード層221によりpチャンネルIGBT92が構成されている。nチャンネルIGBT91とpチャンネルIGBT92の共通ベース領域となるi層211は不純物密度1×10^(11)?2×10^(13)cm^(-3)程度のp^(--)層又はn^(--)層でもよい。この領域は注入された電子又は正孔が高電界で加速されていわゆるドリフト走行する領域であるのでn^(--)層,p^(--)層,i層のいずれであっても同様な動作となる。つまり,n^(--)層,p^(--)層,i層はほぼ完全に空乏化した領域としておけばよい。p型ベース層13の表面の一部にはゲート酸化膜を介してポリシリコンゲート電極16がnチャンネルIGBT91のゲート電極として形成され,n型ベース層231の表面の一部には,ゲート酸化膜を介してポリシリコンゲート電極161がpチャンネルIGBT92のゲート電極として形成されている。・・・各IGBT91,92は共通のエミッタ電極171,コレクタ電極181を有している。・・・」
エ「【0048】なお,本発明の第1?第6,第9?第13の実施例ではnチャンネル型IGBTについて主に説明したが,導電型を逆にしpチャンネル型としてもよいことはもちろんである。 またSiデバイスに限定する必要はなく,SiCで双方向性半導体スイッチを構成すれば,特に600℃以上での高温においても高効率で,交流,直流が共にスイッチ可能なパワーデバイスが実現される。・・・」
オ 本願の図12には,i層(又はp^(--)層又はn^(--)層)211の一方の面に,n^(+)エミッタ層14,p型ベース層13,p型ベース層13の表面の一部にゲート酸化膜(SiO_(2 )膜15)を介して形成されたポリシリコンゲート電極16,p^(+)エミッタ層141,n型ベース層231,p型ベース層231の表面の一部にゲート酸化膜(SiO_(2 )膜15)を介して形成されたポリシリコンゲート電極161,並びにn^(+ )エミッタ層14,p型ベース層13,p^(+)エミッタ層141,及びn型ベース層231それぞれの表面の一部に接するエミッタ電極171がそれぞれ配され,上記i層(又はp^(--)層又はn^(--)層)211の他方の面に,p^(+)アノード層12,n^(+)アノード層221,並びにp^(+)アノード層12,及びn^(+)アノード層221の表面に接するコレクタ電極181がそれぞれ配された,ワンチップ双方向性半導体スイッチが記載されていると認められる。

(2)引用発明
ア 上記(1)ウより,引用文献1には,nチャンネルIGBT91とpチャンネルIGBT92とを同一チップ上に集積化した,ワンチップ双方向性半導体スイッチにおいて,上記nチャンネルIGBT91が,注入された電子が高電界で加速されていわゆるドリフト走行する領域である,不純物密度1×10^(11)?2×10^(13)cm^(-3)程度のn^(--)層211,n^(+)エミッタ層14,p型ベース層13,該p型ベース層13の表面の一部にゲート酸化膜を介して形成されたポリシリコンゲート電極16,p^(+)アノード層12,エミッタ電極171,及びコレクタ電極181により構成されることが記載されていると認められる。
そして,上記(1)ウ及びオより,上記nチャンネルIGBT91は,上記n^(--)層211の一方の面に,n^(+)エミッタ層14,p型ベース層13,該p型ベース層13の表面の一部にゲート酸化膜を介して形成されたポリシリコンゲート電極16,並びにn^(+)エミッタ層14,及びp型ベース層13それぞれの表面の一部に接する及びエミッタ電極171が配され,上記n^(-- )層211の他方の面に,p^(+)アノード層12,及びp^(+)アノード層12の表面に接するコレクタ電極181が配された構成を備えると認められる。
イ 上記(1)アより,IGBTの動作原理(【0006】)に照らせば,nチャンネルIGBT91において,ポリシリコンゲート電極16に正電圧が印加されると,p型ベース層13の表面に反転チャンネルが形成されn^(+)エミッタ層14から反転チャンネル層を通してn^(-- )層211内に電子が注入されp^(+)アノード層12に到達し,p^(+)アノード層12からn^(--)層211内にホールの注入が起こり,p^(+)アノード層12とn^(--)層211との間に形成されるpn接合は順バイアス状態となり,n^(--)層211が伝導度変調を起こし,素子を導通状態に導くと認められる。
そうすると,上記nチャンネルIGBT91において,上記n^(+)エミッタ層14,上記p型ベース層13,上記p型ベース層13の表面の一部にゲート酸化膜を介して形成されたポリシリコンゲート電極16は,n^(-- )層211内への電子の注入を制御するものということができ,また,上記nチャンネルIGBT91は,上記n^(+)エミッタ層14の表面の一部に接するエミッタ電極171と,上記p^(+)アノード層12に接するコレクタ電極181の間で,上記n^(--)層211内に電子及びホールを注入し素子を導通状態に導くものということができる。
ウ 上記(1)エによれば,引用文献1には,SiCで双方向性半導体スイッチを構成することが記載されているから,引用文献1には,上記(1)ウに記載されたワンチップ双方向性半導体スイッチにおけるn^(--)層211を,SiCで構成することが記載されていると認められる。
エ 上記アないしウより,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「注入された電子が高電界で加速されていわゆるドリフト走行する領域である,不純物密度1×10^(11)?2×10^(13)cm^(-3)程度のn^(--)層211,
上記n^(-- )層211の一方の面に,n^(+)エミッタ層14,p型ベース層13,該p型ベース層13の表面の一部にゲート酸化膜を介して形成されたポリシリコンゲート電極16,並びにn^(+)エミッタ層14及びp型ベース層13それぞれの表面の一部に接する及びエミッタ電極171が配され,
上記n^(+)エミッタ層14,上記p型ベース層13,上記p型ベース層13の表面の一部にゲート酸化膜を介して形成されたポリシリコンゲート電極16は,上記n^(--)層211内への電子の注入を制御するものであり,
上記n^(--)層211の他方の面に,p^(+)アノード層12及び当該p^(+)アノード層12の表面に接するコレクタ電極181が配され,
上記エミッタ電極171と,上記コレクタ電極181の間で,上記n^(--)層211内に電子及びホールを注入し素子を導通状態に導くnチャンネルIGBT91であって,
n^(--)層211がSiCで構成された
nチャンネルIGBT91。」

4 その他の引用文献及び周知例の記載
(1)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された,原出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特表2001-511315号公報(以下「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「発明の背景
本発明は,パワー半導体デバイスに関し,特に,シリコン・カーバイド中に形成されたパワーMOSFET(金属酸化半導体電界効果トランジスタ)に関する。
・・・
SiCは,本来の酸化物がシリコンの酸化物と同一であるSiOである複合半導体のグループの中でユニークなものである。これは,パワーMOSFET,絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ(IGBT),MOS制御型等のシリコンに使用されるワークホース・パワー・デバイスがSiCにすべて形成することができることを意味している。
しかしながら,技術的な相違により,SiCにおけるパワー・デバイスは,シリコン・デバイスと大きく異なっており,シリコンの概念をSiCに直接適用することは必ずしも可能ではない。SiCは,シリコンと比べて,ブレークダウン電界が7倍大きく,また,SiCデバイスは,シリコン中の同様な機能デバイスと対比して,1/100?1/200小さい抵抗となる特徴を有することができる。それにも拘わらず,このようなデバイスを実現する前に,幾つかの実際的な問題を解消しなければならない。SiC中のバイポーラ・デバイス(例えば,IGBT及びMCT)は少数キャリア・ライフタイムが短く,通常,40?400ナノセカンド(ns)の範囲である。この結果,SiCバイポーラ・トランジスタにおいて報告されている電流利得の最大値は,10?12程度である。」(8頁8行ないし9頁12行)

(2)周知例
ア 周知例1
原査定の拒絶の理由に引用された,原出願の優先日前に日本国内及び外国において頒布された刊行物である,国際公開第2000/79570号(以下「周知例1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(当審注.訳は,対応する日本出願の公表公報(特表2003-502857号公報)による。)
「While we do not wish to be bound by a theory as regards the mechanism or basis of the improvement in doping character realized in the practice of the present invention, it is possible that the higher doping level in this offcut orientation may be explained by the surface bonding configuration. Figure 8 shows the bonding configuration of the <1-100> surface. In previous work by Burk et al, SiC epilayers were grown on on-axis <11-20> and <1-100> SiC substrates. The unintentional n-type doping was almost an order of magnitude higher on <11-20> orientation compared to the c-axis wafers, while the <1-100> epilayers contained about two orders of magnitude higher doping than the <11-20> epilayers (10 ^(18)cm^(-3)range). 」(17頁25行ないし18頁5行。当審注.原文では,「-」は数字の上に付加されているが,審決起案システムの制約上,数字の前に付加して記載した。)
(訳:本発明を実施することにより実現されるドーピング特性の改良の機構や基礎原理に関して理論により束縛されることを望むものではないが,このオフカット方位でのより高いドーピングレベルは,表面の結合配置によって説明できると考えられる。図8には,<1-100>面の結合配置が示されている。Burkらによる以前の研究では,オンアクシス<11-20>および<1-100>SiC基板上でSiCエピ層を成長させた。非意図的n型ドーピングは,c軸ウェハと比較して<11-20>方位でほぼ1桁大きくなったが,<1-100>エピ層では<11-20>エピ層よりも約2桁大きいドーピングになった(10^(18)cm^(-3)領域)。)
イ 周知例2
原出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平11-274173号公報(以下「周知例2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】炭化珪素を用いたMOSFETの製造に関する従来の技術として,セルフアラインによりチャネルを形成するための二重拡散技術が使えないという欠点を回避する製造方法が,特開平6-151860号公報に提案されている。・・・
【0003】・・・また,本出願人は,縦型MOSFETのチャネル移動度を向上させてオン抵抗を低減させる構造として,特願平9-259076号で出願している。この縦型MOSFETのうち,プレーナ型MOSFETを例として,その断面図を図20に示し,この図に基づいてプレーナ型縦型MOSFETの構造について説明する。
【0004】n^(+ )型炭化珪素半導体基板1は上面を主表面1aとし,主表面の反対面である下面を裏面1bとしている。このn^(+ )型炭化珪素半導体基板1の主表面1a上には,基板1よりも低いドーパント濃度を有するn^(- )型炭化珪素エピタキシャル層(以下,n^(- )型炭化珪素エピ層という)2が積層されている。このとき,n^(+ )型炭化珪素半導体基板1およびn^(- )型炭化珪素エピ層2の上面を(0001)Si面としているが,n^(+ )型炭化珪素半導体基板1およびn^(- )型炭化珪素エピ層2の上面を(112-0)a面としてもよい。つまり,(0001)Si面を用いると低い表面状態密度が得られ,(112-0)a面を用いると,低い表面状態密度で,かつ完全にらせん転位の無い結晶が得られるためである。なお,3°?10°程度の傾斜を設けたオフ基板を用いることもできる。」
ウ 周知例3
原出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2002-237592号公報(以下「周知例3」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【0040】〔実施例 1〕基板ウエハとして六方晶SiC単結晶ウエハを用いた,縦型電界効果トランジスタの一実施例を,図1,図2に基づき説明する。
・・・
【0043】図1の縦型電界効果型トランジスタにおいて,電極と接するために抵抗率を小さくしたn+型層で形成されたn+型低抵抗ドレイン領域1(基板ウエハであり低抵抗基板と呼ばれる)と,チャンネル形成領域3と,これに接したドレイン側ドリフト領域2(ON状態においてはドレイン領域として作用する)と,複数個のp型領域とn型領域で構成されている。
【0044】さらに,n型ソース領域4,ゲート絶縁膜5,電流の流路となるチャネル6,ゲート溝7,ゲート溝7の壁面であるチャネル形成面8と,ドレイン電極9,ソース電極10,および,ゲート電極11を有する。
【0045】さらに,半導体装置主表面13は,SiC単結晶基板12の主表面であって{1100}結晶面である。14は電界効果型トランジスタON時の電流経路を示している。なお,本実施例の素子は,一枚の六方晶SiC単結晶基板(ウエハ)12に一度に多数箇形成された後,それぞれに切り出し作製した。
・・・
【0059】〔実施例 2〕図3(a)は,本実施例の縦型電界効果型トランジスタの他の構成例を示す斜視図,図3(b)は図3(a)のA-A’線部分から見た模式断面図である。
【0060】図3に示す縦型電界効果型トランジスタの構成は図1と同じなので,その説明は省略する。
【0061】本実施例においては,素子を形成する六方晶SiC単結晶基板12の主表面が{1120}結晶面であり,また,ゲート溝7は,主表面13に垂直な断面での形状が,当該ゲート溝7の壁面が好ましくは60°または略60°の内角を持って交わるV字形状である点が異なる。」

5 本願発明と引用発明との対比
(1)引用発明における「注入された電子が高電界で加速されていわゆるドリフト走行する領域である,不純物密度1×10^(11)?2×10^(13)cm^(-3)程度のn^(--)層211」は,n型の「ドリフト走行する領域」ということができ,n型は,本願発明の「第一伝導性タイプ」に相当するといえる。
そして,引用発明における「n^(--)層211」は,「n^(+)エミッタ層14,p型ベース層13,該p型ベース層13の表面の一部にゲート酸化膜を介して形成されたポリシリコンゲート電極16,並びにn^(+)エミッタ層14,及びp型ベース層13それぞれの表面の一部に接する及びエミッタ電極171」が配される「一方の面」と,「p^(+)アノード層12,及びp^(+)アノード層12の表面に接するコレクタ電極181」が配される「他方の面」とを有する層として働くと認められ,引用発明における「一方の面」及び「他方の面」は,それぞれ,本願発明の「前面」及び「裏面」に相当するといえる。
そうすると,本願発明の「前面及び裏面を有する基板層として働く第一伝導性タイプのドリフト領域」と,引用発明における「注入された電子が高電界で加速されていわゆるドリフト走行する領域である,不純物密度1×10^(11)?2×10^(13)cm^(-3)程度のn^(--)層211」とは,「前面及び裏面を有する層として働く第一伝導性タイプのドリフト領域」である点で共通するということができる。

(2)引用発明における「n^(--)層211」の一方の面に,「n^(+)エミッタ層14及びp型ベース層13それぞれの表面の一部に接する及びエミッタ電極171」が配されていることは,後述する,本願発明の「ドリフト領域」に関する相違点の構成を除き,本願発明の「前記ドリフト領域の前面に配された第一コンタクト電極」を備えることに相当するといえる。

(3)引用発明は,「n^(--)層211」の一方の面に,「n^(+)エミッタ層14,p型ベース層13,該p型ベース層13の表面の一部にゲート酸化膜を介して形成されたポリシリコンゲート電極16」が配され,「n^(--)層211内への電子の注入を制御する」ものであり,引用発明における「電子」は,本願発明の「第一伝導タイプのキャリア」に相当するといえるから,後述する,本願発明の「ドリフト領域」に関する相違点の構成を除き,引用発明における「n^(--)層211内への電子の注入を制御する」ことは,本願発明の「少なくとも前記第一伝導性タイプのキャリアの前記ドリフト領域への入射を制御する」ことに相当するといえる。
そうすると,後述する,本願発明の「ドリフト領域」に関する相違点の構成を除き,引用発明における,「n^(--)層211」の一方の面に,「n^(+)エミッタ層14,p型ベース層13,該p型ベース層13の表面の一部にゲート酸化膜を介して形成されたポリシリコンゲート電極16」が配され,「上記n^(+)エミッタ層14,上記p型ベース層13,上記p型ベース層13の表面の一部にゲート酸化膜を介して形成されたポリシリコンゲート電極16は,上記n^(--)層211内への電子の注入を制御する」ことは,本願発明の「前面に配され,かつ少なくとも前記第一伝導性タイプのキャリアの前記ドリフト領域への入射を制御する制御領域」との構成を備えることに相当するといえる。

(4)後述する,本願発明の「ドリフト領域」に関する相違点の構成を除き,引用発明における「上記n^(--)層211の他方の面に」,「当該p^(+ )アノード層12の表面に接するコレクタ電極181」が配されることは,本願発明の「前記ドリフト領域の裏面に第二コンタクト電極を有する」との構成を備えることに相当するといえる。
そして,引用発明における「電子及びホール」,及び「電子及びホールを注入し素子を導通状態に導く」ことは,それぞれ,本願発明の「キャリア」,及び「キャリア流れを運ぶ」ことに相当するといえるから,後述する,本願発明の「ドリフト領域」に関する相違点の構成を除き,引用発明における「上記エミッタ電極171と,上記コレクタ電極181の間で,上記n^(--)層211内に電子及びホールを注入し素子を導通状態に導く」ことは,本願発明の「前記ドリフト領域が前記第一コンタクト電極と前記第二コンタクト電極の間でキャリア流れを運ぶように配された」との構成を備えることに相当するといえる。
また,本願発明の「ドリフト領域」に関する相違点の構成を除き,引用発明における「nチャンネルIGBT91」は,本願発明の「半導体装置」に相当するといえる。
そうすると,後述する,本願発明の「ドリフト領域」に関する相違点の構成を除き,引用発明における「上記n^(--)層211の他方の面に,p^(+)アノード層12及び当該p^(+)アノード層12の表面に接するコレクタ電極181が配され,上記エミッタ電極171と,上記コレクタ電極181の間で,上記n^(-- )層211内に電子及びホールを注入し素子を導通状態に導くnチャンネルIGBT91」は,本願発明の「前記ドリフト領域の裏面に第二コンタクト電極を有する,前記ドリフト領域が前記第一コンタクト電極と前記第二コンタクト電極の間でキャリア流れを運ぶように配された半導体装置」に相当するといえる。

(5)本願発明の「前記ドリフト領域が,10^(15)cm^(-3)より低い正味のキャリア濃度と少なくとも50nsのキャリア寿命を有する炭化ケイ素ウェーハから成」ることと,引用発明における「n^(--)層211がSiCで構成された」こととは,後述する,本願発明の「ドリフト領域」に関する相違点の構成を除き,「ドリフト領域」が,「炭化ケイ素」から成る点で共通するといえる。

(6)以上から,本願補正発明と引用発明との一致点と相違点は,次のとおりである。
ア 一致点
「前面及び裏面を有する層として働く第一伝導性タイプのドリフト領域 ,
前記ドリフト領域の前面に配された第一コンタクト電極,
前面に配され,かつ少なくとも前記第一伝導性タイプのキャリアの前記ドリフト領域への入射を制御する制御領域,及び
前記ドリフト領域の裏面に第二コンタクト電極を有する,前記ドリフト領域が前記第一コンタクト電極と前記第二コンタクト電極の間でキャリア流れを運ぶように配された半導体装置において,
前記ドリフト領域が,炭化ケイ素から成る,
半導体装置。」
イ 相違点
・相違点1
一致点における「前面及び裏面を有する層として働く第一伝導性タイプのドリフト領域」との構成について,本願発明の「ドリフト領域」は「基板層」であるのに対し,引用発明における「n^(--)層211」が「基板層」であるか否かは不明である点。
・相違点2
一致点における「前記ドリフト領域が,炭化ケイ素から成る」との構成について,本願発明は,「前記ドリフト領域が,10^(15)cm^(-3)より低い正味のキャリア濃度と少なくとも50nsのキャリア寿命を有する炭化ケイ素ウェーハ」から成るのに対し,引用発明における「n^(--)層211」が「炭化ケイ素ウェーハ」から成るか否かは不明であり,また,「n^(--)層211」の不純物密度が「1×10^(11)?2×10^(13)cm^(-3)程度」であることは記載されているものの「正味のキャリア濃度」は明示されておらず,また,「n^(--)層211」の「キャリア寿命」は不明である点。
・相違点3
一致点における「前記ドリフト領域が,炭化ケイ素から成る」との構成について,本願発明は,「前記炭化ケイ素ウェーハが前記ドリフト領域の裏面又は前面を形成する表面であって,1°より小さいオフアクシス角度でミラー指数の方向にオフ配向されている表面を有する」のに対し,引用発明における「n^(--)層211」が「炭化ケイ素ウェーハ」から成るか否かは不明であり,また,「n^(--)層211」が「1°より小さいオフアクシス角度でミラー指数の方向にオフ配向されている表面」を有するか否かも不明である点。

6 相違点についての検討
(1)相違点1について
上記3(1)ア及びイによれば,引用文献1には,従来技術及び引用文献1記載の発明の別の実施例として,縦型のnチャンネルIGBTを形成する際,電子及びホールが注入され,伝導度変調を起こし,素子を導通状態に導くn^(-)ベース層を,不純物密度5×10^(12)?2×10^(14)cm^(-3)のn^(-)基板で構成することが記載され,また,上記3(1)エによれば,引用文献1には,SiCで双方向性半導体スイッチを構成することが記載されているから,引用発明における「n^(--)層211」が,不純物密度1×10^(11)?2×10^(13)cm^(-3)程度の炭化ケイ素基板からなることは,引用文献1に記載されているに等しい事項であり,引用発明が実質的に備えるものといえる。
そうすると,引用文献1の上記の記載から,引用発明における「n^(--)層211」は,実質的に本願発明の「基板層」と認められる。
また,仮にそうでないとしても,引用発明における「n^(--)層211」を不純物密度1×10^(11)?2×10^(13)cm^(-3)程度の炭化ケイ素基板で構成すること,すなわち本願発明の「基板層」とすることは,引用文献1の上記の記載に接した当業者が普通に行い得るものといえる。
以上から,相違点1は,本願発明と引用発明との実質的な相違点であるとはいえず,仮にそうでないとしても,引用文献1の記載から,当業者が普通に行い得るものである。

(2)相違点2について
ア 上記(1)のとおり,引用発明において,「n^(--)層211」を不純物密度1×10^(11)?2×10^(13)cm^(-3)程度の炭化ケイ素基板で構成することは,引用発明が実質的に備えているか,仮にそうでないとしても,当業者が普通に行い得るものである。
そして,その際に,炭化ケイ素基板として,10^(15)cm^(-3)より低い正味のキャリア濃度の炭化ケイ素ウェーハを用いることは,「n^(--)層211」に求められる不純物密度から,当業者が当然に採用し得るものであり,このことは,引用文献1における「n^(--)層211」に関する,「この領域は注入された電子又は正孔が高電界で加速されていわゆるドリフト走行する領域であるのでn^(--)層,p^(--)層,i層のいずれであっても同様な動作となる。つまり,n^(--)層,p^(--)層,i層はほぼ完全に空乏化した領域としておけばよい。」(【0038】,上記3(1)ウ参照。)との記載によっても裏付けられる。
イ 上記4(1)のとおり,引用文献2の記載より,「SiC中のバイポーラ・デバイス(例えば,IGBT及びMCT)は少数キャリア・ライフタイムが短く,通常,40?400ナノセカンド(ns)の範囲である」ことは,原出願の優先日前,当該技術分野では公知又は周知の事項と認められ,引用発明における「n^(--)層211」もSiCで構成されているから,そのキャリア寿命は,40?400ナノセカンド(ns)の範囲と推認できる。
そして,引用発明の「nチャンネルIGBT91」において,キャリア寿命が長い方が望ましいことは,当該技術分野では技術常識であり,また,本願明細書の記載より,本願発明において,キャリア寿命が50nsの場合と,これを僅かに下回る場合とで,半導体装置における作用効果の点で格別の相違があるとは認められず,キャリア寿命の下限値を50nsとした点に臨界的意義があるとは認められない。
そうすると,引用文献2に記載されている上記の公知又は周知の事項に鑑みれば,引用発明において,SiCで構成される「n^(--)層211」のキャリア寿命を少なくとも50nsとすることは,当業者が普通に行い得るものといえるから,引用発明において,「n^(--)層211」を炭化ケイ素基板で構成する際に,少なくとも50nsのキャリア寿命を有する炭化ケイ素ウェーハを用いることも,当業者が普通に行い得るものといえる。
ウ 以上から,引用発明において,「n^(--)層211」を,「10^(15)cm^(-3)より低い正味のキャリア濃度と少なくとも50nsのキャリア寿命を有する炭化ケイ素ウェーハ」で構成すること,すなわち,相違点2に係る構成とすることは,引用文献2の記載に基づいて,当業者が容易に想到し得たものと認める。

(3)相違点3について
ア はじめに,本願請求項1の「前記炭化ケイ素ウェーハが前記ドリフト領域の裏面又は前面を形成する表面であって,1°より小さいオフアクシス角度でミラー指数の方向にオフ配向されている表面を有する」との記載の意味内容について検討する。
本願明細書には,本願請求項1の上記の記載に関して次の記載がある。
「原子のステップの十分な密度をもたらすために8°までオフされた高不純物基板を用いる従来のCVD法と比べて,HTCVD法は,オンアクシスの又は僅かに間違って方向付けられた(1°以下)種結晶を用いて,種に実質的に低めのステップ密度を有するSiC結晶を成長させることが可能である。軸上のウェーハと少し間違って方向付けされたウェーハの両方ともこのような結晶からスライスされ,研磨される。このようなウェーハをハイパワーデバイスの電圧阻止層として用いることは,電場の異方性効果を減少させる利点がある。」(【0019】)
本願明細書の上記の記載より,本願に係る発明では,表面が軸上すなわちオンアクシスの配向を有する炭化ケイ素ウェーハ,又は表面が僅かに間違って方向付けられた(1°以下)配向を有する炭化ケイ素ウェーハが用いられると解される。
そうすると,本願明細書の記載に照らせば,本願請求項1の上記の記載は,オフアクシス角度が0°の場合,すなわち,表面がオンアクシスの配向を有する炭化ケイ素ウェーハをも含むと解するのが相当と認められ,このことは,本願請求項16に「前記炭化ケイ素ウェーハの表面がオンアクシスの配向を有することを特徴とする請求項1に記載の装置。」と記載されていることによっても裏付けられる。
イ 上記4(2)より,炭化珪素を用いた,縦型MOSFETのような縦型の絶縁ゲート型半導体装置において,表面がオンアクシスの配向を有する炭化ケイ素ウェーハを用いることは,周知例1ないし3にみられるように,当該技術分野では周知の技術である。
そして,(0001)Si面の表面を有する炭化ケイ素ウェーハを用いると低い表面状態密度が得られることや,(112-0)a面の表面を有する炭化ケイ素ウェーハを用いると,低い表面状態密度で,かつ完全にらせん転位の無い結晶が得られることも,周知例2にみられるように,当該技術分野ではよく知られた事項である。
そうすると,引用発明において,引用発明において,「n^(--)層211」を炭化ケイ素基板で構成する際に,表面がオンアクシスの配向を有する炭化ケイ素ウェーハを用いることは,当業者が普通に行い得るものであり,それによって表面状態密度やらせん転位が低減できるとの効果も自明のもので,格別のものとはいえない。
ウ 上記アより,本願発明における相違点3に係る構成には,表面がオンアクシスの配向を有する炭化ケイ素ウェーハをも含むと解されるところ,上記イより,引用発明において,「n^(--)層211」を炭化ケイ素基板で構成する際に,表面がオンアクシスの配向を有する炭化ケイ素ウェーハを用いることは,当業者が普通に行い得るものと認められる。
以上から,引用発明において,相違点3に係る構成とすることは,周知例1ないし3にみられるような周知技術に接した当業者が,普通に行い得るものと認める。

7 審判請求人の主張について
審判請求人は,本願発明では,なるべく低い底面の転位密度を得るために低いオフアクシスを使用するものである旨,主張する。
しかし,審判請求人の上記の主張は採用できない。その理由は以下のとおりである。
上記6(3)で検討したとおり,本願発明は,表面がオンアクシスの配向を有する炭化ケイ素ウェーハをも含むと解されるところ,引用発明において,「n^(--)層211」を炭化ケイ素基板で構成する際に,表面がオンアクシスの配向を有する炭化ケイ素ウェーハを用いることは,当業者が普通に行い得るものと認められ,また,それによって表面状態密度やらせん転位が低減できるとの効果も自明のもので,格別のものとはいえない。
そうすると,審判請求人が主張する,本願発明の作用効果は,格別のものということはできない。

8 まとめ
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明(本願発明)は,引用文献1記載の発明(引用発明),引用文献2に記載の事項,及び周知例1ないし3にみられるような周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

第4 結言

したがって,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-16 
結審通知日 2016-02-23 
審決日 2016-03-31 
出願番号 特願2011-274530(P2011-274530)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 工藤 一光  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 綿引 隆
河口 雅英
発明の名称 半導体装置  
代理人 今井 秀樹  
代理人 今井 秀樹  
代理人 藤田 アキラ  
代理人 藤田 アキラ  

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