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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  F16L
管理番号 1317969
審判番号 無効2015-800136  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-06-15 
確定日 2016-08-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第5399595号発明「伸縮式ホース」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第5399595号についての手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

2012年 4月 3日 特願2013-542266号出願
(国際出願日)
(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 米国 2011年11月4日)
平成25年11月 1日 特許第5399595号の設定登録
平成27年 6月12日 審判請求書提出(請求人)
平成27年 8月 4日 手続補正書提出(請求人)
平成27年12月 4日 審判事件答弁書提出(被請求人)
平成28年 1月19日付け 審理事項通知
平成28年 3月 3日 上申書提出(被請求人)
平成28年 3月 7日付け 審理事項通知
平成28年 3月11日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成28年 3月11日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成28年 3月17日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成28年 3月22日 上申書提出(被請求人)
平成28年 3月25日 口頭審理

第2 本件特許発明
特許第5399595号の請求項1?27に係る発明のうち、請求項1及び26に係る発明(以下、各請求項の番号に対応させて、「本件特許発明1」及び「本件特許発明26」という。)は、本件の特許明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び26に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
第1の端部および第2の端部を有しており、布地材料によって構成された内部が実質的に中空である可撓で細長い外側チューブと、
第1の端部および第2の端部を有しており、内部が実質的に中空であり、弾性材料で形成されている可撓で細長い内側チューブと、
前記内側および前記外側チューブの前記第1の端部に固定された第1のカプラと、
前記第1の端部と前記第2の端部との間で前記内側および前記外側チューブがお互いに固定されることなく前記内側および前記外側チューブの前記第2の端部に固定された第2のカプラとを備え、
前記第1のカプラが、ホースを流体を通すことができるように加圧流体の供給源に結合させ、前記第2のカプラが、前記ホースを流量制限装置に結合させ、
前記流量制限装置が前記ホース内の前記第1のカプラと前記第2のカプラとの間の流体の圧力の上昇を生じさせ、該流体の圧力の上昇によって前記細長い内側チューブが前記内側チューブの長さに亘って長手方向に膨張するとともに前記内側チューブの幅を横切って横方向にも膨張することで当該ホースの長さが伸長状態に実質的に増加し、さらに、当該ホースが、前記第1のカプラと前記第2のカプラとの間の流体の圧力が低下するときに実質的に短い若しくは弛緩した長さに収縮するホース。

【請求項26】
前記外側チューブが、収縮状態において、平滑ではなく、むしろ無作為に蛇腹状に折り畳まれ、圧縮され、収縮状態の前記内側チューブの外周の周囲にぴったりと集められている請求項1に記載のホース。」

第3 請求人の主張の概要
1 請求人が主張する請求の趣旨及び理由
請求人は、「特許第5399595号の請求項1および26記載の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その請求の理由は、それらの請求項に係る特許発明の進歩性の欠如であるところ、具体的には次のとおりである。
本件特許の請求項1及び26に係る発明は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2号証の1及び甲第2号証の2に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

2 請求人の証拠方法
請求人は、証拠方法として、審判請求書に添付して以下の甲第1号証?甲第3号証(枝番含む)を提出し、さらに平成28年3月17日提出の口頭審理陳述要領書に添付して以下の甲第4号証?甲第6号証を提出している。

・甲第1号証
米国特許第6948527号明細書
・甲第2号証の1
特開2006-294号公報
・甲第2号証の2
日本ロボット学会誌,Vol.26,No.6,pp.674-682 2008 「シート状湾曲型空気圧ゴム人工筋の開発と肘部パワーアシストウェアへの応用」 に関する記事の写し
・甲第3号証
次のインターネットのアドレスに示されるinstructablesのWater-Weenieに関する投稿記事の写し
http://www.instructables.com/id/Water-Weenie/?lang=ja
・甲第4号証
審判便覧 「31-02 利害関係人の具体例」
・甲第5号証
登録実用新案公報第3186680号公報及び実用新案登録第3186680号の登録原簿の写し
・甲第6号証
次のインターネットアドレスに示される日本弁護士連合会ホームページの「無効審判における請求人適格に関する運用(案)」に対する意見書」に関する記事の写し
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2015/150114_3.html

第4 被請求人の主張の概要
被請求人は、答弁書を提出し、「本件審判の請求は成り立たない」「審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、次の3点から、請求人が主張する無効理由は存在しない、と主張している。
・甲第2号証の1及び甲第2号証の2を証拠とする周知性の主張が失当であること。
・請求人の甲第1号証の指摘箇所からでは、甲第1号証に記載の発明が「スプリング」を有さないものであるかどうか不明であること。
・甲第1号証に記載の発明が「スプリング」を有さないものであったとしても、甲第2号証の1あるいは2に記載の発明とは技術分野が異なり、それらに基づいて、本件の請求項1及び26に係る発明は、当業者が容易に想到し得ないこと。
・甲第3号証に記載の事項は本件の発明と技術分野が異なり、甲第3号証を根拠に庭用散水ホース技術においてゴムホースを使用することが広く公開されたとの主張が失当であること。

また、平成28年3月3日提出の上申書により、請求人の請求人適格が不明との追加の主張をし、請求人の平成28年3月17日提出の口頭審理陳述要領書における請求人適格を有する旨の主張を受けて、平成28年3月22日提出の上申書により、請求人は請求人適格を有さない旨の主張もしている。

第5 請求人適格について
事案に鑑み、まず請求人適格の有無について検討する。
1 請求人の具体的主張
請求人は、平成28年3月17日提出の口頭審理陳述要領書により、次の2点から、請求人は請求人適格を有する旨の主張をしている。
・請求人は、本件特許の請求項1及び26に係る発明を将来実施する可能性を有する者である。
・請求人は、本件特許の請求項1及び26に係る発明と関連する登録実用新案第3186680号の実用新案権者である。

2 被請求人の具体的主張
被請求人は、平成28年3月22日提出の上申書により、次の2点から、請求人は利害関係人であるとは認められず、請求人適格を有さない旨の主張をしている。
・請求人が、本件特許の請求項1及び26に係る発明を将来実施する可能性を有することの具体的な事実を何ら主張しておらず、また、何らの証拠も提出していない。
・実用新案登録第3186680号の実用新案登録請求の範囲に記載された各考案は、本件特許の請求項1及び26に係る各発明の構成が全て含まれているとは思えず、請求人はその利用関係について何ら具体的な主張もしていない。

3 当審の判断
(1)実用新案登録第3186680号の経緯
当該実用新案は、請求人により、平成24年12月3日(パリ条約による優先権主張 2012年2月28日 中国)に特許出願された特願2012-264144号の一部を平成25年8月8日に新たな特許出願とした特願2013-164771号を、同日に実願2013-4600号として実用新案に変更出願され、平成25年9月25日に実用新案登録第3186680号として設定登録されたものである。
そして、平成25年10月2日付けで「新規性等を否定する先行技術文献等を発見できない」とする実用新案技術評価書が作成されている。

(2)実用新案登録第3186680号の請求項1に係る考案
上記考案は、その実用新案登録請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
内部に水圧により径方向及び長手方向に膨張するゴムホース103と、該ゴムホースをカバーし、径方向に膨張不能で内部ゴムホースの径方向の膨張を制限する一方、長手方向に蛇腹状をなして折り畳まれ、ゴムホースの長手方向に伸縮に伴って伸縮可能であって、ゴムホースの長手方向へ伸長を誘導する保護カバー106とからなる二重構造の、内部ゴムホース内の水圧により自動的に伸長及び収縮可能なる伸縮性ホースの蛇口又は散水ノズルとの接合構造であって、
蛇口又は散水ノズルに接続する大径空洞部102A、202Aと、
該大径空洞部と接続し、蛇口又は散水ノズルとは反対側に突出し、伸縮性ホースの内部ゴムホースと接続される、小径空洞部102B、202Bとを有する変形ジョイント102、202を備え、
小径空洞部102B、202Bに内部ゴムホース103の端部は先端から胴部に嵌入させた後、ファスナー部材104、204でパッドカバー105、205を緊締して水圧を受けて膨張時の前方への抜け落ちを防止する一方、保護カバー106の端部は固定せず、内部ゴムホース103の膨張時に内部ゴムホースの膨張で保護カバーをファスナー部材又はパッドカバーに対し係止めさせるようにしたことを特徴とする伸縮性散水ホースの接合構造。」

(3)判断
ここで、上記実用新案登録の請求項1に係る考案(以下、「請求人考案」という。)を検討すると、請求人考案も「ゴムホース103」内の水圧により自動的に伸長及び収縮可能な「伸縮性ホース」であり、「ゴムホース103」の水圧による径方向の膨張を「保護カバー106」により制限し「ゴムホース103」の長手方向の伸長を誘導するというものであるので、ホースの伸長収縮の原理を本件特許発明1及び26と同じくするものといえ、請求人考案の実施に当たり、請求人は本件特許発明1及び26について無効審判を請求する利益があり、利害関係を有しているといえる。
また、口頭審理において、上記理由により請求人は請求人適格を有している旨の合議体の暫定的見解に対して、被請求人請求人双方に意見はなかった(第1回口頭審理調書第1ページ下から3行?下から2行)。
よって、請求人は本件特許発明1及び26に対する無効審判についての請求人適格を有しているといえる。

第6 無効理由(特許法第29条第2項違反)について
1 甲第1号証?甲第3号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(1)甲第1号証の記載事項
本件の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、Fig.1A、1B、3A、3B、9A及び9Bと共に、次のア?カの事項が記載されている。なお、請求人が提出した甲第1号証部分訳文には、「retract」の訳(「収縮」と「取り込む」とが混在)等、用語の統一がなされていない部分等が存在するため、当審が原文の意に沿って翻訳した。(下線は当審で付与した。以下同様。)


「Accordingly, several objects and advantages of the invention are:
a) To provide a hose that retracts itself to a much smaller length when not in use.
b) To provide a hose that retracts itself to a much smaller volume when not in use.
c) To provide a hose that automatically extends itself for use.」(第2欄第24?31行)
(翻訳)
「よって、この発明の目的及び利点は下記のとおりとなる。
a)使用しない時に、ホース自体を最小限の長さに収縮させること。
b)使用しない時に、ホース自体を最小限の体積に収縮させること。
c)使用するためにホースを自動的に伸長できること。」


「FIGS. 1A and 1B show a preferred self-extending and self-retracting Linearly Retractable Pressure Hose 30 designed to be a garden hose with a flexible elongated body. Note that hose body 30 in FIGS. 1A and 1B are much shorter than an actual garden hose would be manufactured, but limited space on the page requires the shorter length of hose in order to be able to contrast the hose's retracted and fully extended states. Hose body 30 may be made with a thin-walled flexible material. A source connector 20 can be attached to one end of hose 30 and a nozzle connector 22 may be attached to the other end. Both ends 20 and 22 can be made to match standard garden hose connectors. This allows water to be transported from the source end of the hose to the nozzle connector end. Nozzle connector 22 can be designed to except standard water hose nozzles and sprinklers for standard garden hoses, such as, lawn sprinkler 24. Almost all water nozzles and sprinklers provide significant restrictions in the flow of water through them to increase the pressure within hose 30 sufficiently to cause it to extend as shown in FIG. 1B. The construction of hose 30 will be discussed in more detail during the discussion of FIGS. 3A-B. 」(第4欄第12?33行)
(翻訳)
「図1Aと1Bは、フレキシブルな細長い本体を備える庭用散水ホースとして設計されている、好ましい自己伸長及び自己収縮を行う直線的に収縮可能な圧カホース30を示している。図1A及び1Bのホース本体30は製造されるだろう実際の庭用散水ホースより十分短くなっているが、限られた頁スペースによりホースの収縮及び十分な伸長状態を対比することができるように、ホースの長さは比較的短い長さになっている。ホース本体30は薄い壁のフレキシブル材料により製造されてよい。供給源コネクタ20はホース30の一端に取り付けることができ、ノズルコネクタ22は他端に取り付けられてよい。双方の端部20及び22は標準の庭用散水ホースのコネクタに適合するように製造される。これによって水はホースの供給端からノズルコネクタ端に送られる。ノズルコネクタ22は標準散水ホース及び標準庭用ホース、例えば芝用スプリンクラー24を除外するように設計することができる。ほとんど全ての散水ノズルおよびスプリンクラーは、図1Bに示すように、伸長させるに充分な圧力をホース30内で増加させるために、これらを通しての水の流れに重要な制限を与える。ホース30の構造は図3A-Bの議論の中に詳細に説明されることになる。」


「FIG. 3B shows hose 30 from FIG. 3A in a partially retracted state. Cover material 34 provides most of the pressure support and may have a mesh of fibers within a more flexible material to help withstand higher pressures. Cover material 32 can be molded on top of spring coils 36 (compression biased spring) and cover material 34 to hold the entire system together.
・・・
Spring 36 acts as a support structure for hose cover material 34 to keep it from expanding radially too far. Cover material 32 basically provides a cover for the spring and also helps hold cover 34 in place on the spring coils.」(第5欄第43行?第6欄第1行)
(翻訳)
「図3Bは図3Aから部分的に収縮した状態のホース30を示す。被覆材料34は圧力サポートのほとんどを提供し、より高い圧力に耐えるように、よりフレキシブルな材料内に繊維メッシュを有するようにしてもよい。被覆材料32は、システム全体を一緒に保持するために、スプリングコイル36(圧縮バイアススプリング)と被覆材料34の上部にモールドされることができる。
・・・
スプリング36は、半径方向に膨張しすぎないように保持するために、ホース被覆材料34の支持構造として作用する。被覆材料32は、基本的にスプリングのカバ-を提供し、被覆34をスプリングコイル上に保持することを助ける。」


「However, in some designs, for special purposes, the cover material may represent a significant portion of the bias force. In fact, if desired, the hose may obtain all its biasing force from the cover material, and not need a separate metal or composite spring at all.」(第6欄第42?47行)
(翻訳)
「ただし、設計によっては、特別な目的のために、被覆材料がバイアス力の大きな割合を示す場合もある。事実、希望すれば、被覆材料からその全てのバイアス力をホースに与えることができ、独立した金属または複合スプリングが完全に必要なくなる。」


「In FIGS. 9 A-B we see a Linearly Retractable Water Hose 100. This hose is designed to carry water and is attached to water faucet 102 with source connector 106. The hose is in its retracted position in FIG. 9A because the water pressure is turned off at faucet 102. A nozzle 104 is placed on nozzle connector 108 at the end of retractable hose 100. When faucet 102 is turned on, water rushes into hose 100 and pressure builds up inside the hose. Nozzle 104 restricts the rate at which water can escape from the hose and thus causes water pressure to increase within the hose. In FIG. 9b, as this pressure builds, the restoring force (spring bias) within hose 100 is overcome by the internal water pressure and the hose expands linearly to its full length. The hose is designed with a biasing that will allow it to expand to its full length even when nozzle 104 allows large quantities of water to exit. In general, only about one-quarter (one-forth) of a typical household water pressure of 40 to 80 psi should be required to fully extend the hose. Conversely, if too little pressure is needed to extend the hose, the hose will not retract forcefully when pressure is released. If too much pressure is needed to extend the hose, nozzle 104 may need to restrict too much water flow for proper use of the hose. However, for specific applications, the spring biasing can be made significantly different than this one-quarter water pressure value. When the water pressure is turned off, the hose slowly retracts to its compressed state as water is slowly forced out through the open nozzle by the contracting force of the hose. If nozzle 104 is closed before turning off the water, the hose will remain pressurized and will remain extended. Opening the nozzle in this condition will again cause the hose to retract.」(第17欄第17?47行)
(翻訳)
「図9A-Bには、直線的に収縮可能な散水ホース100が示されている。このホースは水を搬送するように設計されており、供給源コネクタ106で水道蛇口102に取り付けられている。蛇口102で水圧が停止されている場合には、このホースは図9Aの収縮位置にある。ノズル104は、収縮可能なホース100の端部でノズルコネクタ108に位置している。蛇口102が開けられると、水がホース100内に流入し、ホース内に圧力が形成される。ノズル104は水がホースから放水される速度を制限するので、このようにしてホース内の水圧を増加させる。図9Bでは、この水圧が形成され、ホース100内の保持力(スプリングバイアス)に内部水圧が勝ると、ホースは直線的に全長まで伸長する。このホースはノズル104が大量の水を放水させる時でも全長まで伸長するようにバイアスするように設計されている。一般に、家庭水圧40から80psiの約四分の1がホースを充分に伸長させるには必要である。反対に、もし、ホースを伸長させるに必要な圧力が余りにも小さいと、圧力を解放した時にホースが力強く収縮しない。もし、ホースを伸張するのにより大きな圧力が必要とされるならば、ノズル104は、ホースの適切な使用のために多くの水流を制限する必要がある。しかしながら、特別な適用には、スプリングのバイアスは、水圧の四分の一の値よりも、かなりの違いとされることができる。水圧が停止されると、水はホースの収縮力によって開放ノズルを介してゆっくりと排出されるので、ホースは圧縮状態まで収縮する。水を止める前にノズル104を閉鎖すると、ホースは圧力状態を保持し、伸びた状態を維持する。この状態でノズルを開放すると、再びホースは収縮する。」


「In addition, many types and styles of biasing springs can be used for the hose design. For example, plastic or composite materials can be used for the spring. Even the hose cover material itself can be used as the biasing means if made of a resilient material that provides a consistent restoring force.」(第23欄第56?61行)
(翻訳)
「加えて、ホース設計には、様々なタイプ及びスタイルのバイアススプリングを使用することができる。例えば、プラスチックまたは複合材をスプリングに使用できる。ホース被覆材料自身でさえ、一定の復元力を付与する弾性材料から製造した場合、バイアス手段として使用することができる。」

(2)甲第1号証に記載された発明

上記(1)オは、Fig.9A及びFig.9Bに対応しているが、Fig.1A、Fig.1B、Fig.3A、Fig.3B及びFig.3Cのホースの使用状態を説明する記載でもあると認められ、上記(1)イ?カにおいて、「ホース30」「ホース100」及び「ホース」は、それぞれの実施例、変形例に対応して番号が付されまたは付されていないが、ホースという意味では同じものであるので、「ホース」に統一する。 「ホース被覆材料」、「供給源コネクタ」、「ノズルコネクタ」、「ノズル」についても同様とする。


上記(1)エに、変形例として、バイアススプリングを用いず、ホース被覆材料自身をバイアス手段として使用することができる旨記載されている。
この場合、「ホース被覆材料」単体から構成されることから「ホース」と等しいものとなり、また、それは水を通すものであるので「内部が実質的に中空」であることは明らかである。


そうすると、上記(1)の記載事項並びにFig.1A、Fig.1B、Fig.3A、Fig.3B、Fig.3C、Fig.9A及びFig.9Bの記載から、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。

「一端および他端を有しており、内部が実質的に中空であり、一定の復元力を付与する弾性材料で形成されているフレキシブルな細長い本体を備えるホースを有し、
ホースは圧力サポートのほとんどを提供し
供給源コネクタはホースの一端に取り付けられ、
ノズルコネクタは他端に取り付けられ、
水はホースの供給端からノズルコネクタ端に送られ、ホースは、供給源コネクタで水道蛇口に取り付けられ、ノズルは、ホースの端部でノズルコネクタに位置し、
水道蛇口が開けられると、水がホース内に流入し、ホース内に圧力が形成され、ノズルは、水がホースから放水される速度を制限するので、ホース被覆材料内の水圧を増加させ、ホース内の保持力に内部水圧が勝ると、ホースは直線的に全長まで伸長し、
水圧が停止されると、水はホースの収縮力によって開放ノズルを介してゆっくりと排出されるので、ホースは圧縮状態まで収縮する、
ホース、供給源コネクタ及びノズルコネクタ。」

(3)甲第2号証の1の記載事項
本件の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証の1には、図1、図2、図7及び図8と共に、次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、身体の動作を支援する装着型パワーアシスト装置に関する。」


「【0016】
アクチュエータA_(1)は、単層構造のものであってもよいが、内部圧力が増加すると膨張する内側チューブと、該内側チューブを覆う筒状被覆材とからなり、前記内側チューブの径方向の膨張が、前記筒状被覆材によって制限されてなるものであることが好ましい。これにより、アクチュエータA_(1)をさらに変位の大きなものとしたり、アクチュエータA_(1)の動作の応答速度を速めることも可能になる。筒状被覆材は、蛇腹状に形成されたものであると好ましい。これにより、筒状被覆材を、径方向には膨張しにくく、長手方向には容易に伸長できるものとすることが可能になる。」


「【0027】
・・・糸や布は、拘束手段16の素材として好適である。図1と図2に示すアクチュエータA_(1)の拘束手段16には、合成繊維からなる織布を用いている。」


「【0028】
・・・内側チューブ10の素材には、通常、ゴム弾性を有するものが選ばれる。図1と図2に示すアクチュエータA_(1)の内側チューブ10には、シリコーンゴムを用いている。」


「【0029】
・・・筒状被覆材11は、長手方向には伸縮可能で径方向には膨張しない構造のものとなっており、図1と図2に示すアクチュエータA_(1)においては、非伸縮性の素材を蛇腹状に形成したものとなっている。筒状被覆材11の素材は、・・合成繊維や天然繊維からなる織布や編地からなるものを使用する・・・」


「【0030】
アクチュエータA_(1)の動作原理について説明する。図1の状態から、アクチュエータA_(1)の流体受容部14に流体を供給すると、流体受容部14の内部圧力が増加して区間I_(2)の内側チューブ10は膨張を始める。しかし、内側チューブ10は、筒状被覆材11によって径方向の膨張が制限されているために、内側チューブ10の外周部が筒状被覆材11の内周部に当接した後は、長手方向に伸長することでしか膨張できなくなる。・・・」


「【0038】
次に、アクチュエータA_(2b)について説明する。図7は、非伸長時のアクチュエータA_(2b)を長手方向に切断した状態を示した断面図である。図8は、伸長時のアクチュエータA_(2b)を長手方向に切断した状態を示した断面図である。アクチュエータA_(2b)は、内部圧力を高めることによって、図7の状態から図8のように伸長した状態へとその形状を変えるものとなっている。アクチュエータA_(2b)は、内部圧力を低くすると、再び図7の状態へとその形状を変える。アクチュエータA_(2b)は、アクチュエータA_(1)と比較して、拘束手段16を設けていない点が異なるだけで、その他の部分については同様であるために、アクチュエータA_(2b)の構造については説明を割愛する。また、アクチュエータA_(2b)の動作原理についても、アクチュエータA_(1)との構造の違いから自明であるから、説明を割愛する。このアクチュエータA_(2b)は、大きな収縮率や膨張率を得たい場合に好適なものである。」


「【0058】
・・・
30 アクチュエータA_(2b)の内側チューブ
31 アクチュエータA_(2b)の筒状被覆材
32,33 アクチュエータA_(2b)の封止部材
34 アクチュエータA_(2b)の流体受容部
35 アクチュエータA_(2b)の流体移送管
37,38 アクチュエータA_(2b)の抜止め部材
・・・」

(4)甲第2号証の2の記載事項
本件の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証の2には、Fig.1及びFig.2(a)と共に、次の事項が記載されている。

「介護者の負担の軽減や筋力の補助,高齢者や身障者の自立を支援するウェアラブルパワーアシスト装置の開発が望まれている.身体への装着を考慮すると柔らかい機械システムからなる柔軟なアクチュエータであることが望ましい[1].」(第206ページ左欄第8?11行)


「先端をウレタン性の栓で密封し根本に配管を取り付けたゴムチューブを2枚のシートで挟み,周囲を縫合することでゴムチューブを密閉している.シートの材料として軸方向のみに伸張する弾性部材(織ゴム)を使用することで,加圧時に軸方向への伸長力を生じる.
Fig.1の構造を基本として,・・・Fig.2(a)はFig.1と同じく同枚数の織ゴムで挟んだ場合を示しており,加圧時の両シートの伸長量は等しいため,伸長動作を行う.」(第206ページ右欄下から3行?第207ページ左欄第8行)

(5)甲第3号証の記載事項
本件の優先日前に電気通信回路を通じて公衆に利用可能になった甲第3号証には、自転車インナーチューブ(bicycle innertube)を利用したウォーター-ウイニー(Water-Weenie)に関して、画像及び略図並びにステップ1?ステップ6を示す画像と共に、次の事項が記載されているといえる。

略図には自転車インナーチューブの一端を結び、他端にトグルスイッチの付いた雌雄ホース接続具が取り付けられることが図示されている。(第1ページ)


ステップ1には、その部品群が示されている。ステップ2には、インナーチューブの一端を結ぶことが示されている。ステップ3には、他端に雌雄の接続具を取り付けることが示されている。ステップ4には、スイッチを開いて、注水してインナーチューブを膨脹・伸張させてその内部に貯水することが示されている。ステップ5には、注水ホースを外し、スイッチで放水することが示されている。ステップ6は、使用状態を示していると認められる。(第1?4ページのステップ1?6)


「 (note: the innertube will burst if filled to much. We've observed that the innertube explosion is not too violent, but be carfeul!)」(第4ページ第2?3行)
(翻訳)
「(注意:インナーチューブは注水しすぎると破裂します。私たちはインナーチューブの破裂はさほど激しくないことを観察しましたが、注意して下さい!)」


「このinstructableについて・・・投稿日:6月8,2006」(第1ページ右欄中段)

2 本件特許発明1と甲1発明との対比・判断
(1)対比
以下、本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

甲1発明の「一端」、「他端」、「取り付けられ」及び「水」は、それぞれ、本件特許発明1の「第1の端部」、「第2の端部」、「固定され」及び「流体」に相当する。
また、ノズルは、一般に流路を絞って流量を制限する装置であるから、甲1発明の「ノズル」は、本件特許発明1の「流量制限装置」に相当し、また、甲1発明の「水道蛇口」は、 本件特許発明1の「加圧流体の供給源」に相当する。


「ホース」とは「ゴム・ビニールなどでつくり、液体や気体を送るのに使う管。蛇管。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]を意味する用語であり、「チューブ」は「管。筒。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]を意味する用語であり、「フレキシブル(flexible)」とは「曲げやすい,たわみやすい,しなやかな,柔軟な」[株式会社研究社 新英和大辞典第六版]を意味する用語であり、表現を変えれば「可撓」であるといえるので、甲1発明の「一端および他端を有しており、内部が実質的に中空であり、一定の復元力を付与する弾性材料で形成されているフレキシブルな細長い本体を備えるホース」と、本件特許発明1の「第1の端部および第2の端部を有しており、布地材料によって構成された内部が実質的に中空である可撓で細長い外側チューブと、
第1の端部および第2の端部を有しており、内部が実質的に中空であり、弾性材料で形成されている可撓で細長い内側チューブと、」とは、「第1の端部および第2の端部を有しており、内部が実質的に中空であり、可撓で細長い管」である限度で一致するといえる。


甲1発明の「ホース」と本件特許発明1の「内側チューブ」は、いずれもその内部に流体を通すもの」であるので、両者は「流体を通す部材」の限度で一致するといえる。


甲1発明の「供給源コネクタ」は、「ホース」と「水道蛇口」(加圧流体の供給源)に固定されるものであり、本件特許発明1の「第1のカプラ」は、「外側チューブ」及び「内側チューブ」並びに「加圧流体の供給源」に固定されるものであるから、両者は「第1のカプラ」の限度で一致するといえる。
同様の理由により、甲1発明の「ノズルコネクタ」と本件特許発明1の「第2のカプラ」は、「第2のカプラ」の限度で一致するといえる。


本件特許発明1における「ホース」は、「外側チューブ」及び「内側チューブ」に加え、「第1のカプラ」及び「第2のカプラ」も含むものであるので、甲1発明の「ホース、供給源コネクタ及びノズルコネクタ」と本件特許発明1における「ホース」は、「流体移送手段」の限度で一致するといえる。


本件特許発明1の「第1のカプラ」は「内側チューブ」(流体を通す部材)を固定することを含むことから、甲1発明の「供給源コネクタは、ホースの一端に取り付けられ、」と、本件特許発明1の「前記内側および前記外側チューブの前記第1の端部に固定された第1のカプラと、」とは、「前記管の前記第1の端部の少なくとも流体を通す部材に固定された第1のカプラと、」の限度で一致するといえる。


上記オと同様に、本件特許発明1の「第2のカプラ」は「内側チューブ」(流体を通す部材)を固定することを含むことから、甲1発明の「ノズルコネクタは、ホースの他端に取り付けられ、」と、本件特許発明1の「前記内側および前記外側チューブの前記第2の端部に固定された第2のカプラとを備え、」とは、「前記管の前記第2の端部の少なくとも流体を通す部材に固定された第2のカプラとを備え、」の限度で一致するといえる。


甲1発明の「水はホースの供給端からノズルコネクタ端に送られ、ホースは、供給源コネクタで水道蛇口に取り付けられ、」については、甲1発明の「ホース」、「供給源コネクタ」は、「ホース、供給源コネクタ及びノズルコネクタ」(流体移送手段)の一部をなすものであり、結局「ホース、供給源コネクタ及びノズルコネクタ」からなるものを「水道蛇口」(加圧流体の供給源)に取り付けるものであるから、甲1発明の当該事項と本件特許発明1の「前記第1のカプラが、ホースを流体を通すことができるように加圧流体の供給源に結合させ、」とは、「前記第1のカプラが、流体移送手段を流体を通すことができるように加圧流体の供給源に結合させ、」の限度で一致するといえる。


甲1発明の「ノズルは、ホースの端部でノズルコネクタに位置し、」については、「ノズルコネクタ」が、ホースの端部で「ノズル」を結合しているものであり、甲1発明の「ホース」は「ホース、供給源コネクタ及びノズルコネクタ」(流体移送手段)の一部をなすものであるから、上記キと同様の理由により、甲1発明の当該事項と本件特許発明1の「前記第2のカプラが、前記ホースを流量制限装置に結合させ、」とは、「前記第2のカプラが、前記流体移送手段を流量制限装置に結合させ、」の限度で一致するといえる。


甲1発明の「ノズルは、水がホースから放水される速度を制限するので、ホース内の水圧を増加させ、」については、「ホース内の水圧を増加させ」ることは、ホース内の「供給源コネクタ」と「ノズルコネクタ」との間の流体の圧力の上昇を生じさせることであり、甲1発明の「ホース」は「ホース、供給源コネクタ及びノズルコネクタ」(流体移送手段)の一部をなすものであるから、上記キ、クと同様の理由により、甲1発明の当該事項と本件特許発明1の「流量制限装置がホース内の第1のカプラと第2のカプラとの間の流体の圧力の上昇を生じさせ、」とは、「流量制限装置が流体移送手段内の第1のカプラと第2のカプラとの間の流体の圧力の上昇を生じさせ、」の限度で一致するといえる。


甲1発明の「ホース内の保持力に内部水圧が勝ると、ホースは直線的に全長まで伸長し、」については、甲1発明の「ホース」は「ホース、供給源コネクタ及びノズルコネクタ」(流体移送手段)の一部をなすものであるから、上記キ?ケと同様の理由により、 甲1発明の当該事項と本件特許発明1の「該流体の圧力の上昇によって」、「当該ホースの長さが伸長状態に実質的に増加し、」とは、「該流体の圧力の上昇によって」、「当該流体移送手段の長さが伸長状態に実質的に増加し、」の限度で一致するといえる。


甲1発明の「水圧が停止されると、水はホースの収縮力によって開放ノズルを介してゆっくりと排出されるので、ホースは圧縮状態まで収縮する、」については、「水圧が停止され」て「水は排出される」ことによって、ホース内の圧力が低下して、「供給源コネクタ」(第1のカプラ)と「ノズルコネクタ」(第2のカプラ)との間の流体の圧力が低下するものと認められ、甲1発明の「ホース」は「ホース、供給源コネクタ及びノズルコネクタ」(流体移送手段)の一部をなすものであるから、上記キ?コと同様の理由により、甲1発明の当該事項と本件特許発明1の「当該ホースが、前記第1のカプラと前記第2のカプラとの間の流体の圧力が低下するときに実質的に短い若しくは弛緩した長さに収縮する」とは、「当該流体移送手段が、前記第1のカプラと前記第2のカプラとの間の流体の圧力が低下するときに実質的に短い若しくは弛緩した長さに収縮する」の限度で一致するといえる。

(2)一致点、相違点
以上のことから、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「第1の端部および第2の端部を有しており、内部が実質的に中空であり、可撓で細長い管と、
前記管の前記第1の端部の少なくとも流体を通す部材に固定された第1のカプラと、
前記管の前記第2の端部の少なくとも流体を通す部材に固定された第2のカプラとを備え、
前記第1カプラが、流体移送手段を流体を通すことができるように加圧流体の供給源に結合させ、前記第2カプラが、前記流体移送手段を流量制限装置に結合させ、
前記流量制限装置が前記流体移送手段内の前記第一カプラと前記第二カプラとの間の流体の圧力の上昇を生じさせ、該流体の圧力の上昇によって当該流体移送手段の長さが伸長状態に実質的に増加し、さらに、当該流体移送手段が、前記第一カプラと前記第二カプラとの間の流体の圧力が低下するときに実質的に短い若しくは弛緩した長さに収縮する流体移送手段。」

<相違点>
本件特許発明1は、管が「内側チューブ」(流体を通す部材)と、その外側に配置される「第1の端部および第2の端部を有しており、布地材料によって構成された内部が実質的に中空である可撓で細長い外側チューブ」から構成されるものであり、
「第1のカプラ」と「第2のカプラ」は、「内側チューブ」に加えて「外側チューブ」の「第1の端部」及び「第2の端部」がそれぞれ固定されるものであって、当該「第1の端部」と「第2の端部」の間で、「前記内側および前記外側チューブがお互いに固定されることなく」という事項を有しており、
流体移送手段は、それら「外側チューブ」、「内側チューブ」、「第1のカプラ」及び「第2のカプラ」からなる「ホース」であって、
流体移送手段の長さが伸長状態に実質的に増加することのメカニズムに関して、「該流体の圧力の上昇によって前記細長い内側チューブが前記内側チューブの長さに亘って長手方向に膨張するとともに前記内側チューブの幅を横切って横方向にも膨張することで当該ホースの長さが伸長状態に実質的に増加し」というものであるのに対し、
甲1発明では、管が「ホース」(流体を通す部材)のみから構成され、上記「外側チューブ」に相当する事項を有しておらず、
「供給源コネクタ」(第1のカプラ)と「ノズルコネクタ」(第2のカプラ)は、1つの「ホース」に固定されるものであって、
流体移送手段はそれら「ホース」、「供給源コネクタ」及び「ノズルコネクタ」からなるものであり、
流体移送手段の長さが伸長状態に実質的に増加することのメカニズムに関して、「ホース内の保持力に内部水圧が勝ると、ホースは直線的に全長まで伸長」するというものである点。

(3)判断
<相違点について>

請求人の主張する無効理由は、本件特許発明1及び26は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証の1及び甲第2号証の2に記載された周知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたというものであるから、甲第2号証の1及び甲第2号証の2に記載の技術事項に基いて、上記相違点を容易想到と判断するに足る周知技術を認定できるか否かについて検討する。


まず、本件特許発明1は、その請求項1に「前記第1のカプラが、ホースを流体を通すことができるように加圧流体の供給源に結合させ」との記載があり、本件特許明細書の段落【0001】には「本発明は、流体物質を運ぶためのホースに関する・・・」との記載があることから、「流体を通すホース」に係る技術分野のものと認める。


甲第2号証の1である特開2006-294号公報(発明の名称:装着型パワーアシスト装置)は、平成16年6月16日の出願であって、出願人は、「則次俊郎」及び「株式会社コスモ情報システム」、そして、発明者は、「則次俊郎」、「高岩昌弘」、「佐々木大輔」及び「山本裕司」であり、平成18年1月5日に出願公開されたものである。
そして、上記1(3)から、甲第2号証の1には(特に図7、8に係る例)、次の技術事項が記載されているといえる。
「織布によって構成された筒状被覆材31と、
ゴム弾性を有する素材で形成されている内側チューブ30と、
前記内側チューブ30の両開口端部の一方に固定された封止部材33と、
内側チューブ30の内部は流体収容部34となっており、
流体収容部34に流体を供給して内部圧力を高めると、内側チューブ30は膨張し、筒状被覆材31によって径方向の膨張が制限されているために、内側チューブ30の外周部が筒状被覆材31の内周部に当接した後は、長手方向に伸長することにより、アクチュエータA_(2b)は長手方向に伸長し、流体を排出して内部圧力を低めると、アクチュエータA_(2b)はもとの状態に戻る、アクチュエータA_(2b)。」


甲第2号証の2である日本ロボット学会誌,Vol.26,No.6,pp.674-682 2008 「シート状湾曲型空気圧ゴム人工筋の開発と肘部パワーアシストウェアへの応用」 は、2007年12月14日に原稿受付され(第206ページ左下欄外)、その著者は、岡山大学大学院の「荒金正哉」(博士前期課程)、「則次俊郎」(教授)、「高岩昌弘」(准教授)、「佐々木大輔」(助教)及び2007年に岡山大学大学院博士前期課程を修了しアルケア株式会社に入社した「猶本真司」であり(第214ページ)、2008年9月号として発行されたものである。
そして、上記1(4)から、甲第2号証の2には(特にFig.1の例)、次の技術事項が記載されているといえる。
「先端を栓で密封し根元に配管を取り付けたゴムチューブを織りゴムによって構成された2枚のシートで挟み、周囲を縫合することでゴムチューブを密閉し、
加圧時に軸方向への伸長力が生じるアクチュエータ。」


甲第2号証の1と甲第2号証の2とを比較すると、前者の出願人の一人である「則次俊郎」と後者の著者の一人である「則次俊郎」(教授)が同一人物であることは、審判請求書の第15ページ下から6行に「甲第2号証の2には同教授のアクチュエータの動作原理として」と記載されているように、請求人も認めるとおりである。
このことから、両証拠に記載される技術事項は、岡山大学大学院の則次俊郎教授を中心に研究開発されたものとみるべきである。
そうすると、当該技術事項は、上述したとおり、大学院の研究室で研究開発されるようなものであることからも、「身体へ装着するパワーアシスト装置に用いるアクチュエータ」という特定の先進的な技術分野に限定されたものと解されるので、本件特許発明1及び26が属する「流体を通すホース」に係る技術分野とは異なる技術分野のものというべきであり、両者が同一の技術分野に属するものとすべき合理性もないというべきである。
したがって、甲第2号証の1及び甲第2号証の2から、少なくとも本件特許発明1及び26が属する「流体を通すホース」に係る技術分野の当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとっての周知技術を認定できるはいえない。


請求人は、平成28年3月11日提出の口頭審理陳述要領書において、「また、かかる二重構造の機能は広く学会等で知られ、広く実施されているから周知である。」(第4ページ第8?9行)と主張している。
しかしながら、当該「二重構造の機能」と称するものが、本件の優先日前にいかなる技術分野において広く知られているのか、あるいは、広く実施されているのかの具体的な説明やそのことを裏付ける証拠はなく、上記主張は具体性を欠くものであって採用できない。


特許を受けようとする発明の進歩性の判断は、当業者が先行技術に基いて容易に発明をすることができたか否かで判断するものであるところ、上記オで検討したとおり、甲第2号証の1及び甲第2号証の2から、本件特許の技術分野の当業者にとっての周知技術を認定することができないから、請求人が主張するところの理由によっては、本件特許発明1を当業者が容易に発明をすることができたということはできない。


仮に、請求人の主張が、甲第2号証の1及び甲第2号証の2に記載の上記技術事項が周知技術か否かはおいて、いずれにせよ甲1発明及び当該技術事項により上記相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項を有するものとすることが容易想到であるとの趣旨のものであったとして、甲1発明において上記相違点に係る事項を有するものとすることが、当業者にとって容易になし得たものであるかどうかについて以下検討する。


甲第2号証の1に記載の技術事項を甲1発明へ適用することが容易であるか否かについて検討する。
まず、甲1発明は、上記1(1)イ、オに示されることから、「一端から他端に水を通して放水するホース」に係る技術分野のものと認める。
一方、甲第2号証の1に記載される技術事項は、上記1(3)ア、イに示されることから、「身体の動作を支援する装着型パワーアシスト装置のアクチュエータ」という特定の技術分野のものにすぎず、甲1発明とは技術分野が全く異なるものである。
そして、上記1(1)アに示されるように、甲1発明は、「a)使用しない時に、ホース自体を最小限の長さに収縮させること。b)使用しない時に、ホース自体を最小限の体積に収縮させること。c)使用するためにホースを自動的に伸長できること。」ということを主たる課題としているのに対し、甲第2号証の1に記載の技術事項は、人体に装着して使用するパワーアシスト装置に用いるアクチュエータであるから、伸長した状態と比べて収縮した状態における長さ方向のコンパクトさが特段要求されるようなものではなく、甲1発明の課題とは全く異なる課題のもと開発されたものといえる。
また、甲第2号証の1に記載の技術事項のアクチュエータは、人体に装着して使用するパワーアシスト装置に用いるものである以上、伸長、収縮したいずれの状態においても、人体への装着やパワーアシスト装置としての機能を発揮する上での適切な程度の長さが必要であって、甲1発明に要求されるような伸長量や伸縮率と比して、アクチュエータ全体としての伸長量や伸縮率もさほど大きい必要はなく、逆に大きすぎては人体に装着して使用するパワーアシスト装置として不適切となることは明らかである。
したがって、甲第2号証の1に記載の技術事項と甲1発明に要求される伸長量や伸縮比率は全く異なるものであることは明らかであって、当業者が甲1発明に甲第2号証の1に記載の技術事項を適用する動機付けは見当たらない。


請求人は、甲第3号証には、自転車インナーチューブの内部に注水しすぎると破裂する欠点があることが示唆され、甲1発明もホースをゴムとした場合同様な課題を有するものである旨主張している(審判請求書第16ページ第3?10行、第17ページ下から9行?同ページ下から5行及び第1回口頭審理調書)。
しかしながら、甲第3号証に開示されているのは、自転車インナーチューブの一端に設けた接続具に流体の供給源を選択的に結合させて注水と放水とを行えるようにし、そのチューブの他端は結ばれて閉鎖されており、注水後に持ち歩いて任意の場所で放水をするようなものであって、甲1発明のような一端から他端に水を通して放水する「ホース」とは技術分野を異にするものである上、自転車インナーチューブを本来の用途と異なる使い方(自転車インナーチューブとして本来想定されている以上の膨張があり得る。甲第3号証のステップ4?6の各画像を参照。)をしているからこそ、注水しすぎたときの破裂の問題が生じていることは明らかといえる。
そして、甲1発明のホースにおいては、少なくとも通常想定される使用状態において破裂しないような強度等に設計するのが当業者にとって当然考慮すべきことといえ、更に、甲第2号証の1の記載によれば、「筒状被覆材31」は「内側チューブ30」の径方向の膨張を制限し長手方向に伸長しやすくして、当該「筒状被覆材31」を設けない場合に比して、アクチュエータとしての変位を大きくし、動作の応答速度を速めるために設けられるものであって(上記1(3)イ、カ)、同証拠には、「内側チューブ30」の破裂防止を意図して「筒状被覆材31」を設けたことの記載はないことからみても、甲第3号証は、甲1発明に甲第2号証の1に記載の技術事項を適用することの契機とはなり得ないものである。


また、甲第2号証の2について検討しても、甲第2号証の1と同様の技術分野のものであり、アクチュエータとしての基本構造は大凡同様のものであることから、上記甲第2号証の1についての判断と同様に、甲1発明に甲第2号証の2の記載の技術事項を適用する動機付けは見当たらないし、甲第3号証は、甲1発明に甲第2号証の2に記載の技術事項を適用することの契機とはなり得ないものである。
さらにいえば、甲第2号証の2に記載されるのは、上記1(4)イの「ゴムチューブを2枚のシートで挟み、周囲を縫合することでゴムチューブを密閉し」たことにより、縫合した2枚のシートがいわゆる「チューブ」状になっているのかどうかも明らかでない。


そして、本件特許発明1における「内側および外側チューブの第1の端部に固定された第1のカプラ」及び「前記内側および前記外側チューブの前記第2の端部に固定された第2のカプラとを備え、」という事項は、いずれの甲号証にも示されておらず、その事項が公知ないし周知であるという証拠も存在しない。


以上からすると、甲1発明において、上記相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、甲第2号証の1及び甲第2号証の2に記載の技術事項に基いて、当業者にとって容易になし得たということはできない。

したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2号証の1及び甲第2号証の2に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

3 本件特許発明26の判断
本件特許発明1に他の発明特定事項を直列的に付加している本件特許発明26は、上記2と同様の理由により、甲第2号証の1及び甲第2号証の2に記載の技術事項を周知技術とする請求人が主張するところの理由によっては、本件特許発明26を当業者が容易に発明をすることができたということはできないか、あるいは、本件特許発明26は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2号証の1及び甲第2号証の2に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由及び証拠方法によっては、本件特許発明1及び26に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものである。
 
審理終結日 2016-06-16 
結審通知日 2016-06-20 
審決日 2016-07-01 
出願番号 特願2013-542266(P2013-542266)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 黒石 孝志  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
和田 雄二
登録日 2013-11-01 
登録番号 特許第5399595号(P5399595)
発明の名称 伸縮式ホース  
代理人 佐久間 滋  
代理人 神田 雄  
代理人 深井 俊至  
代理人 石井 久夫  

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