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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H04J
審判 査定不服 特123条1項5号 取り消して特許、登録 H04J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04J
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04J
管理番号 1318025
審判番号 不服2015-14780  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-06 
確定日 2016-08-30 
事件の表示 特願2012-285304「無線ピアツーピア(P2P)ネットワークにおけるWANインフラストラクチャリソースの再使用のための方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月11日出願公開,特開2013-138433,請求項の数(33)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2008年7月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年7月10日 米国,2008年7月8日 米国)を国際出願日とする出願である特願2010-516218号の一部を,平成24年12月27日に新たな特許出願としたものであって,平成25年12月13日付けで特許法第50条の2の通知を伴う拒絶理由が通知され,平成26年6月12日付けで手続補正がされ,同年9月18日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年12月18日付けで手続補正がされたが,平成27年3月30日付けで補正の却下の決定がされるとともに同日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年8月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けで手続補正がされ,その後,当審において平成28年2月24日付けで拒絶理由が通知され,同年6月27日付けで誤訳訂正がされ,同年6月28日付けで手続補正がされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1-33に係る発明は,平成28年6月28日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-33に記載された事項により特定されるものと認められる。
本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「(a1) 無線ピアツーピア通信ネットワーク内で第2の無線デバイスと通信している第1の無線デバイスを操作するための方法であって,前記無線ピアツーピア通信ネットワークは,周波数スペクトラムを無線広域ネットワークと共有しており,
(a2) 時間周波数構造を複数のサブセットのトーン記号に分割すること,なお,前記時間周波数構造は,複数の直交周波数分割多重化(OFDM)記号を含んでおり,前記複数のOFDM記号のそれぞれは,複数のトーンを含んでおり,トーン記号は,前記複数のOFDM記号のうちの1つの中の1つのトーンである,ここにおいて,前記時間周波数構造は,前記共有された周波数スペクトラム上で,前記無線広域ネットワークと前記無線ピアツーピア通信ネットワークとの間で同時に使用される,と,
(a3) 第1の複数の前記サブセットのトーン記号を選択すること,ここにおいて,前記サブセットのそれぞれは,前記無線広域ネットワークによって送信される第2の信号によって使用されるトーン記号と完全にはオーバラップしないように構築され,前記第1の無線デバイスが信号を送信しないトーン記号を少なくとも1つ含む,と,
(a4) 前記複数のサブセットのトーン記号のうちの前記の選択されたサブセットを使用して,前記第2の無線デバイスに対して信号を送信することと,
(a5) 前記無線広域ネットワークにおいて送信された信号の記号タイミング情報を導出するために前記共有されたスペクトラムをモニタすることと,
(a6) 前記の導出された記号タイミング情報の関数として前記送信のタイミングを調節することと,
を備えている,方法。」


第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
理由1 この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由2 この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

<理由1について>
・請求項 1-39
・引用文献等 1-4
・備考
(請求項12-39について)
引用文献1(特に,日本国公表特許公報である特表2008-510343号の第1,6,15-34段落参照)には,無線ピアツーピア通信ネットワーク(P2P通信)及び無線広域ネットワーク(従来の通信)が同じ周波数帯を利用すること,すなわち,周波数スペクトラムを共用することが記載されている。また,両通信間に干渉が生じることが記載されているから,同じ時間で通信が行われていると認められる。
ここで,両通信のフレーム構造は当業者が適宜定める事項であって,同じフレーム構造を用いることに格別の困難性は認められない。(引用文献4において,共通の通信方式フレーム構成を採用することを参照。)
したがって,引用文献1に基づいて,周波数スペクトラム及び時間からなる無線フレームについて「前記共有された周波数スペクトラム上で,前記無線広域ネットワークと前記ピアツーピア通信ネットワークとの間で同時に使用される」よう構成することは当業者が容易になし得たものである。
そして,先の拒絶理由に示した通り,引用文献1の技術を周知のOFDM通信(引用文献2,更に引用文献4のTDD-OFDM等)に適用した場合に,上記周波数スペクトラム及び時間からなる無線リソースを本願の「時間周波数構造」とすることは容易であり,引用文献1及び周知技術に基づいて本願発明の構成を想到することは当業者が容易になし得たことである。

(請求項1-11について)
「前記共有された周波数スペクトラム上で,前記無線広域ネットワークと前記ピアツーピア通信ネットワークとの間で同時に使用される」との構成については上記の通りである。
その余の点は先の拒絶理由通知を参照されたい。

・請求項 1-39
・引用文献等 4
・備考
(請求項1-11,16-18について)
引用文献4([0062]-[0088],[0104])には,以下の構成を備えたデバイスの発明が記載されていると認められる。
「・無線ピアツーピア通信ネットワーク(アドホックネットワーク)内で第2のデバイス(他の無線通信装置)と通信するように構成された第1のデバイス(無線通信装置10)であって,前記無線ピアツーピア通信ネットワークは,周波数スペクトラムを無線広域ネットワーク(移動体通信ネットワーク)と共有している(同一周波数帯を使用する)こと,
・時間周波数構造を複数のサブセットのトーン記号に分割するように,なお前記時間周波数構造は,複数の直交周波数分割多重化記号を含んでおり,前記複数のOFDM記号のそれぞれは,複数のトーンを含んでおり,トーン記号は,前記複数のOFDM記号のうちの1つの中の1つのトーンである(TDD-OFDMに基づいた多重アクセスを行うことを参照),ここにおいて,前記時間周波数構造は,前記共有された周波数スペクトラム上で,前記無線広域ネットワークと前記ピアツーピア通信ネットワークとの間で同時に使用されること(同じ無線フレームを用いていることを参照)
・第1の複数の前記サブセットのトーン記号を選択すること(TDD-OFDMを用いること,ネットワーク資源の割り当てを受けることを参照)
・前記複数のサブセットのトーン記号のうちの前記の選択されたサブセットを使用して,前記第2のデバイスに対して信号を送信すること(TDD-OFDMを用いること,ネットワーク資源の割り当てを受けること,割り当てにしたがって他の無線通信装置とアドホックネットワーク内で通信することを参照)
・無線広域ネットワークにおいて送信された信号の記号タイミング情報(移動体通信ネットワークにおける通信タイミング)に基づいて前記の送信タイミング(アドホックネットワークの通信タイミング)を調節する(同期処理)こと(特に[0083]を参照)」
スペクトラムをモニタすることは,無線広域ネットワークにおいて送信された信号の記号タイミング情報を検出するために当業者が容易に適宜なし得た構成にすぎない。

(請求項12-15について)
引用文献4には,更に,前記第2のデバイスとの無線ピアツーピア通信接続を確立するための送受信機(制御部14を備えること,セットアップの処理を参照)を備えることが記載されていると認められる。
また,アドホックネットワークと移動体通信ネットワークとが同じ無線フレームを用いていることから,時間周波数構造を再利用していると認められることから,「前記第2のデバイスとの前記ピアツーピア通信接続にわたる通信のために,前記WANの時間周波数構造を再使用するように適応された処理回路を備える」ようにすることは当業者が容易になし得たものである。

(請求項19-39について)
移動体通信ネットワークのアップリンクの時の干渉を測定することも記載されている。
ここで,引用文献4では干渉を測定して,干渉の発生を抑制することを目的としているものの,測定された干渉に基づいた受信処理は当業者が適宜採用しうる構成にすぎず,格別の困難性は認められない。

<理由2について>
・請求項 1-39
請求項に係る発明において,「前記○○」との表現を多く利用しているが,「○○」が前に記載されていない場合にも「前記○○」を利用している場合がある。
以下はその例である。
請求項1の「前記の送信タイミング」,請求項19の「前記干渉強度」,請求項23の「前記記号持続時間」,請求項23の「前記トーンスペーシング」,請求項24の「前記受信電力」,請求項30の「前記タイミング同期化情報」,請求項30の「前記送信タイミング」,請求項34の「前記WAN」等 上記は一例であるが,このような『「○○」が前に記載されていない場合にも「前記○○」なる表現を利用した場合』について,「前記」が何を指しているのか,不明である。

・請求項 18,39
上記請求項に係る発明における「・・・機械可読メディア。」について,伝送媒体か記録媒体かが不明であり(段落【0029】を参照した),技術的範囲の明確でない用語を用いている。したがって,当該請求項は権利範囲として,伝送媒体を請求しているか記録媒体を請求しているかが不明であるから,当該請求項に係る発明を明確に把握することができない。
(なお,日本国特許庁においては,「・・・記録媒体。」なる請求項は認められているが,「・・・伝送媒体。」なる請求項は新規性を有していないため,認められていない。(審査基準第7部第1章2.3.6(4)))

引 用 文 献 等 一 覧
1.国際公開第2006/016330号
2.国際公開第2007/052766号
3.特表2006-526368号公報
4.国際公開第2006/120990号

2 原査定の理由の判断
(理由1について)
原査定の拒絶理由は,国際公開第2006/016330号(引用文献1)を主引用例とする理由及び国際公開第2006/120990号(引用文献4)のみを引用例とする理由との2つの理由が示されているが,平成27年10月2日付けの前置報告では後者を採用していることから,後者について判断する。

(1)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(国際公開第2006/120990号)には,以下の事項が記載されている。
「 [0062] [第1の実施形態]
図1は,本発明の第1の実施形態に係る無線通信システムを示すもので,図中符号10は無線通信装置,符号30は移動体通信ネットワークの基地局である。
無線通信装置10は,周囲に存在する他の無線通信装置とアドホックネットワークを構築して,当該アドホックネットワーク内の無線通信装置どうしで相互に通信を行う機能と,移動体通信ネットワークの基地局30と通信を行う機能とを具備し,それぞれの通信方式に共通の TDD-CDMA方式を採用して同一周波数帯を使用するようになっている。この無線通信装置10は,例えば,携帯電話や,通信機能を有するPDAやパーソナルコンピュータ等の情報端末により構成されている。
[0063] 図2は,無線通信装置10の要部構成を示すブロック図である。この図2に示すように,無線通信装置10は,送信器11,受信器12,アンテナ13,制御部14および記憶部15を有している。
[0064] 送信器11は,送信信号を生成する送信データ処理部11a,搬送波を送信信号で一次変調する一次変調部11b,一次変調によって得られた変調信号を拡散符号で拡散変調(二次変調)する拡散部11c,拡散変調された信号を増幅する増幅部11d 等を備えている。すなわち,上記送信データ処理部11aで生成された送信信号は,一次変調部11bにて所定の変調方式(QPSK,16QAM等)で一次変調された後,拡散部11cにて拡散符号により拡散変調され,その後,増幅部11dにて増幅されてアンテナ13から電波として放射されるようになっている。
[0065] 一方,受信器12は,アンテナ13から受信した受信信号に含まれる不要なノイズ成分を除去する帯域フィルタ12a,この帯域フィルタ12aを通過した受信信号を拡散符号で逆拡散する逆拡散部12b,逆拡散によって得られた信号を復調する復調部12c,復調された信号に基づいて各種データ処理を行う受信データ処理部12d等を備えている。すなわち,アンテナ13で受信した受信信号は,ノイズ成分が帯域フィルタ12aで除去された後,送信側と同一の拡散符号によって逆拡散され,その後,復調部12cにて復調されてベースバンド波形に戻されるようになっている。
[0066] 制御部14は,記憶部15に記憶された制御情報等に基づいて送信器11や受信器12等の制御を行うもので,この制御部14によって,送信と受信の切替制御や,送信電力の出力制御,或いはアドホックネットワークと移動体通信ネットワークとの切替制御や同期制御等が行われるようになっている。例えば,移動体通信ネットワークの基地局30,或いはアドホックネットワーク内の他の無線通信装置と無線回線を使って通信する際には,後述するタイムスロットの割当に基づいて送信と受信の切替が行われて,TDD方式で通信が行われるようになっている。
[0067] また,本実施形態では,制御部14は,移動体通信ネットワークのアップリンクのときの干渉量I_(UL)を測定する処理,測定した干渉量I_(UL)と基地局30から通知された基準値Y(後述)とに基づいて,アドホックネットワーク内の通信で用いるネットワーク資源の利用率Zを設定する処理,その設定に基づいてネットワーク資源を割り当てる処理をそれぞれ実行するようになっている。
[0068] ここで,上記ネットワーク資源には,タイムスロットと拡散符号が含まれる。タイムスロットは,TDD-CDMAの無線フレームを複数に分割してなるもので,ここでは15個のタイムスロットが設けられている。また,拡散符号には,チャネライゼーションコード(channelisation code)とスクランブルコード(scrambling code)の2種類が用いられている。チャネライゼーションコードは,OVSF (Orthogonal Variable Spreading Factor:直交可変拡散率)符号であり,移動体通信ネットワークでは,受信側(基地局または移動局)において送信側(移動局または基地局)の識別に使用される一方,アドホックネットワークでは,ネットワーク内の送信ノードや受信ノードの識別,或いは制御信号とデータ信号の識別等に使用される。一方,スクランブルコードは,移動体通信ネットワークとアドホックネットワークの識別に用いられ,移動体通信ネットワークにおいては,基地局および移動局の属するセルの識別に用いられる。すなわち,近隣のセル間で重複しないように,セル毎にスクランブルコードが設定されている。TDD-CDMAでは,先ず,チャネライゼーションコードによって拡散処理が行われ,次いで,スクランブルコードによって拡散処理が行われる。
[0069] 図3は,移動体通信ネットワークの基地局の要部構成を示すブロック図である。この図3に示すように,基地局30は,送信器31,受信器32,アンテナ33,制御部34および記憶部35等を有し,このうち送信器31,受信器32およびアンテナ33は,上記無線通信装置10の対応する各構成要素とほぼ同様の機能を有している。
[0070] 制御部34は,本発明に係るロード量演算手段を構成しており,移動体通信ネットワークのアップリンクおよびダウンリンクで現在使用中のネットワーク資源からロード量X(%)を求める処理を実行する。TDD-CDMA方式で通信を行う場合,ネットワーク資源には,上述したように拡散符号とタイムスロットの2つの資源が存在し,基地局30 は,それらの資源を用いてユーザに通信のサービスを提供する。本実施形態では,それら2つの資源の利用率,詳細には,基地局30の通信エリア(セル)内で利用可能な拡散符号(チヤネライゼーションコード)とタイムスロットのすべての組合せの中で,移動体通信ネットワークの通信に使用されている拡散符号とタイムスロットの組合せの割合のことを,ロード量X(%)と呼ぶ。例えば,基地局30の通信エリア内で利用可能な拡散符号の数(符号量)を16,タイムスロットの数(スロット数)を15として,図4Aに示すように,移動体通信ネットワークの通信で使用されている符号量が12でスロット数が15のときには,ロード量Xは75%となり,図4Bに示すように,符号量が16でスロット数が5のときには,ロード量Xは約33%となる。
[0071] また,制御部34は,本発明に係る基準値設定手段および基準値通知手段を構成しており,上記のようにして求めたロード量Xと,当該基地局30の通信エリア内に存在するアドホックネットワークの数Nとに基づいて,アドホックネットワーク内の通信で用いるネットワーク資源の利用率の基準値Yを設定した後,設定した基準値Yを無線 通信装置10に対して通知する処理を実行する。基準値Yは,ロード量Xとアドホックネットワーク数Nを,Y=f(X, N)に代入することにより求めることができる。Y=f(X, N)はロード量Xとアドホックネットワーク数Nの減少関数となっていて,ロード量Xとアドホックネットワーク数Nが大きくなるほど基準値Yが小さく,また,ロード量Xとアドホックネットワーク数Nが小さくなるほど基準値Yが大きくなるように数式化されている。なお,ここでは,アドホックネットワーク数Nを加味して基準値Yを求めるようにしているが,ロード量Xのみから基準値Yを求めるようにしてもよい。
[0072] 次に,上記構成からなる無線通信システムによって実行されるネットワーク資源の割当処理の処理フローについて説明する。
先ず,基地局30において,上述したように,移動体通信ネットワークのアップリンクおよびダウンリンクで現在使用中のタイムスロットの数(スロット数)および拡散符号の数(符号量)からロード量X(%)を求める処理が行われる。
[0073] 次いで,基地局30において,上記のようにして求めたロード量Xと,当該基地局30の通信エリア内に存在するアドホックネットワークの数Nとに基づいて,アドホックネットワーク内の通信で用いるネットワーク資源の利用率の基準値Y(%)を設定する処理が行われる。
基準値Yの算出に用いる数式としては,例えば,以下の数式等を用いることが可能である。
[0074] (中略)
[0075] これら数式において,klおよびk2は係数であり,その値としては,例えば,kl=1000,1500,k2=l,2などの値を設定することが可能である。また,基準値Yの採り得る範囲は0%≦Y≦100%であり,上記数式による計算結果が100%を上回るときにはY=100%として設定する。
[0076] その後,基地局30において,上記のようにして設定した基準値Yを無線通信装置10に対して通知する処理を実行する。この通知は,基地局30の通信エリア内に存在する不特定多数の無線通信装置10に対して所定周期毎に繰り返し発信(ブロードキャスト)するものであっても,或いは特定の無線通信装置10からの要求に応答して送信するものであってもよい。
[0077] 基準値Yの通知を受けた無線通信装置10は,移動体通信ネットワークのアップリンクのときに測定した干渉量I_(UL)と,基地局30から通知された基準値Yとに基づいて,アドホックネットワーク内の通信で用いるネットワーク資源の利用率Z(%)を設定する処理を行う。
干渉量I_(UL)が小さいときには,図5のアドホックネットワークAN2のように,近隣に移動体通信ネットワークの移動局Mが存在しないと考えられる一方,干渉量I_(UL)が大きいときには,図5のアドホックネットワークAN1のように,近隣に移動体通信ネットワークの移動局Mが存在すると考えられる。したがって,この干渉量I_(UL)に応じた補正を基準値Yに加えるようにすれば,それぞれのアドホックネットワークに最適な利用率Zを求めることができる。ここでは,調整値を±a(%)として,干渉量I_(UL)が上限値(閾値)S1を上回るときに Z=Y-α,干渉量I_(UL)が下限値S2(S2<S1)を下回るときにZ=Y+α,干渉量I_(UL)が両閾値S1,S2の間にあるときにZ=Yにより,それぞれ利用率Zを求める。例えば,ロード量Xを80%,調整値αを20%,基準値Yの導出式をY=2(100-X)として,近隣に移動局Mが存在するアドホックネットワークAN1の干渉量I_(UL)が(S1<I_(UL)),近隣に移動局Mが存在しないアドホックネットワークAN2の干渉量I_(UL)が(I_(UL)<S2),やや離れた位置に移動局Mが存在するアドホックネットワークAN3の干渉量I_(UL)が(S2<I_(UL)<S1)である場合,図6に示すように,アドホックネットワークAN1の利用率Zは,Z=Y-αより20%,アドホックネットワークAN2の利用率Zは,Z=Y+αより60%,アドホックネットワークAN3の利用率Zは,Z=Yより40%となる。ここでは,閾値を用いて調整値を決定しているが,閾値を用いずに,干渉量I_(UL)に所定の係数を乗じた値を調整値とすることも可能である。
[0078] 利用率Zの設定後,無線通信装置10においては,利用率Zに基づいてネットワーク資源を割り当てる処理が行われる。具体的には,すべてのタイムスロットの中から,利用率Zに相当する数のタイムスロットを1フレーム毎にランダムに選出して,そのタイムスロットをアドホックネットワーク用のタイムスロットとして割り当てる処理が行われる。例えば,アドホックネットワークAN1の場合には,利用率Zが20%であるので,15個のうちの3個のタイムスロットが1フレーム毎にランダムに選出される。同様に,アドホックネットワークAN2の場合には9個のタイムスロットが,アドホックネットワークAN3の場合には6個のタイムスロットが,1フレーム毎にそれぞれランダムに選出される。ここでは,選出した各タイムスロットですべての拡散符号(16個)をアドホックネットワーク内の通信に使用するという前提でタイムスロットの割り当てを行うようにしているが,例えば全体の1/2にあたる拡散符号(8個)をアドホックネットワーク内の通信に使用するという前提でタイムスロットの割り当てを行うようにしてもよい。その場合,各アドホックネットワークAN1,AN2,AN3で選出されるスロット数がそれぞれ上記の2倍となる。
[0079] また,上記以外の方法として,基地局30の通信エリア内で利用可能な拡散符号とタイムスロットのすべての組合せの中から,利用率 Zに相当する数の組合せを1フレーム毎にランダムに選出して,その選出した拡散符号とタイムスロットの組合せをアドホックネットワーク用のネットワーク資源として割り当てる方法もある。例えば,基地局30の通信エリア内で利用可能な拡散符号の数が16,タイムスロットの数が15である場合,それらの組合せ総数は240通りとなる。この内,アドホックネットワークAN1の場合には,利用率Zが20%であるので,48通りの組合せが1フレーム毎にランダムに選択される。同様に,アドホックネットワークAN2の場合には144通りの組合せが,アドホックネットワークAN3の場合には96通りの組合せが,1フレーム毎にそれぞれランダムに選択される。
[0080] 次に,無線通信装置10によって実行されるアドホックネットワークのセットアップ処理について説明する。ここでは,上記無線通信装置10をノードAとして説明し,アドホックネットワーク全体を管理する無線通信装置をマスタ,当該マスタの管理下で無線通信を行う無線通信装置をスレーブと称することとする。
この処理は,アドホックモードに通信モードの切換が行われた場合や,移動体通信ネットワークよりもアドホックネットワークのSIR(Signal to Interference Ratio:信号対干渉比)の方が強い場合などに開始される。
[0081] 先ず,ノードAが,アドホックネットワーク内にマスタが存在するか否かを探索し,その探索結果に基づいて,当該ノードAのノード種別をマスタまたはスレーブの何れかに設定する処理を行う。すなわち,ノードAが,マスタから発せられるパイロット信号(制御信号)を検出する処理を行い,その結果,パイロット信号を検出できた場合には,ノード種別をスレーブに設定し,パイロット信号を検出できなかった場合には,ノード種別をマスタに設定する。
[0082] ここで,ノード種別がスレーブに設定された場合には,ノードAが,予め設定された 共有チャネル(Common Channel)を利用して,アドホックネットワークへの接続要求とノード情報(例えば,ノードAのID,アドレスなど)をマスタに対して送信する処理を行う。マスタは,ネットワークへの接続要求とノード情報をノードAから受信すると,受信したノード情報に基づいて,記憶部15内のネットワーク情報(各スレーブおよびマスタのノード情報,ネットワーク資源の割当に関する情報,QoSのパラメータなど)を更新する。その後,ノードAは,マスタからACK(接続許可応答)を受信した後,上記ネットワーク情報をマスタから取得して記憶部15に記憶する処理を行う。これにより,ノードAがスレーブとしてアドホックネットワーク内に組み入れられた状態となる。
[0083] 一方,ノード種別がマスタに設定された場合には,ノードAが,基準値 Yや拡散符号など,アドホックネットワークの構築に必要な情報を基地局30から取得する処理を行う。その後,ノードAは,所定周期毎にパイロット信号を繰り返し発信するとともに,スレーブから出力される制御信号を監視しながら,定期的に,基準値Yを用いてネットワーク資源を割り当てる処理,ネットワーク情報を更新する処理,各スレーブの通信状態を検出する処理,移動体通信ネットワークにおける通信タイミングに合致するようにアドホックネットワークの通信タイミングを設定する処理(同期処理)等を行う。これにより,ノードAをマスタとするアドホックネットワークが構築され,当該アドホックネットワークの維持管理がノードAによって行われる。
[0084] 次に,上記のようにして構築されたアドホックネットワーク内において,各ノード間で データ信号を送受信する際の処理について説明する。例えば,ノードAがスレーブに設定されている場合に,当該ノードAが,スレーブに設定されている他の無線通信装置(以下,ノードBと称する)との通信を開始する際には,先ず,ノードAが,通信相手となるノードBのIDを指定して,通信チャネルの割当要求を,共有チャネルを利用してマスタに対して送信する処理を行う。これを受けて,マスタは,記憶部15内のネットワーク情報を参照して,ノードBの通信状態を確認するとともに,ノードA・B間の通信チャネル(ノードA・B間の通信で使用するタイムスロットと拡散符号の組合せ)を割り当てる処理を実行する。すなわち,上述したネットワーク資源の割当処理によって割り当てられたアドホックネットワーク用のネットワーク資源の中から何れかを選択して,ノードA・B間の通信用に割り当てる処理を実行する。
[0085] その後,マスタは,割り当てた通信チャネルを,通信要求のあったノードAとその通信相手となるノードBに対して通知する処理を行う。ノードAおよびノードBは,通信チャネルの割当通知をマスタから受信すると,割り当てられた通信チャネルを利用して,データ信号の送受信をノード間で直接行う。その際に,ノードAおよびノードBは,ACM(Adapting Coding and Modulation)等で用いられている適応符号化変調を使用して通信を行う。適応符号化変調とは,伝送路の状態に応じて変調方式と符号化率の組合せを選択するもので,具体的には,表1に示すように,干渉量の大きいときは,低速であるが安定性に優れた変調方式(例えば,QPSK:Quadrature Phase Shift Keying)と誤り訂正能力の大きい符号化率を選択して,符号化変調レベル(MCSレベル)を低くし,一方,干渉量の小さいときは,高速な変調方式(例えば,16QAM:Quadrature Amplitude Modulation)と誤り訂正能力の小さい符号化率を選択して,符号化変調レベルを高くするというものである。この適応符号化変調を採用することにより,伝送路の状態に応じた最大限のデータレートで通信を行うことが可能となる。なお,この適応符号化変調は,アドホックネットワーク内における通信時だけではなく,移動体通信ネットワークの基地局30との通信時にも適用されるものである。
[0086] (表1は省略。)
[0087] 以上のように,第1の実施形態によれば,移動体通信ネットワークのネットワーク資源の利用状態に応じて,アドホックネットワーク内の通信で用いるネットワーク資源の利用率Zを設定し,その設定の範囲内でアドホックネットワーク内の通信を行うようにしたので,ネットワーク資源の利用効率を向上させることができるのは勿論のこと,ネットワーク間で相互に干渉が生じるのを抑制することができる。
したがって,アドホックネットワークと移動体通信ネットワークにおける通信に,TDD方式をベースとする共通の通信方式を採用して同一周波数帯を使用する場合においても,良好な通信状態を確保することができるとともに,スループットや通信容量の低下を回避することができる。
[0088] また,本実施形態では,すべてのタイムスロットの中から,上記利用率Zに相当する数のタイムスロットを1フレーム毎にランダムに選出して,そのタイムスロットをアドホックネットワーク用のタイムスロットとして割り当てるようにしたので,タイムスロットの割当制御が容易になる上に,タイムスロット間で干渉量に偏りが生じ難くなり,移動体通信ネットワークの特定の端末がアドホックネットワークから強い干渉を受けるのを防止することがでさる。
(中略)
[0103] なお,以上の各実施形態においては,アドホックネットワークのマスタまたはミニ基地局41が,アドホックネットワーク内または上記特定エリア内の通信用タイムスロットとして,利用率Zに相当する数のタイムスロットを1フレーム毎にランダムに選出するようにしたが,本発明はこれに限定されるものではなく,例えば,移動体通信ネットワークの移動局からの干渉量若しくは位置情報を元にして,互いの干渉量が最も少なくなるようなタイムスロットの組合せを選出するようにしてもよい。
[0104] また,以上の各実施形態においては,各ネットワーク(移動体通信ネットワーク(基地局の通信エリア内,ミニ基地局の通信エリア内),アドホックネットワーク)で使用する通信方式として,TDD-CDMA方式を例示したが,本発明はこれに限定されるものではなぐ各ネットワークで使用する通信方式は,TDD方式をベースとする通信方式であれば,例えば,TDD-TDMA方式やTDD-OFDMに基づいた多重アクセス方式などであってもよい。また,それぞれのネットワークで使用する通信方式は,複信方式にTDD方式を使用するものであれば全く同一である必要はなく,例えば一方をTDD-CDMA方式,他方をTDD-TDMA方式またはTDD-OFDMに基づいた多重アクセス方式とすることも可能である。
[0105] なお, OFDM方式の場合には,図9Aに示すように,それぞれのキャリア(Carrier)f_(1),f_(2),f_(3)が多数のサブキャリア(Sub-Carrier)によって構成され,そのうちの一部または全部がセル内の移動局と基地局間の通信に用いられる。
例えばCDMAシステムのように,周波数リユースファクタ(Frequency Reuse Factor)が1の場合には,図9Bに示すように,すべてのセル内で同じキャリアf_(1),f_(2),f_(3)が使用される(すなわち,各セルですベてのサブキャリアが使用される)ために,基地局どうしが互いに干渉となり,各セルの境界部における干渉を低減するためには逆拡散が必要になる。一方,例えば多くのGSMシステムのように,リユースファクタが3の場合には,図9Cに示すように,各セル毎に異なるキャリア(サブキャリア群)が使用されるために,各セルの境界部における干渉はそれほど大きくはならない。
図9Cのシステムのように,リユースファクタが1ではなく,互いに隣接するセル間で異なるキャリア(サブキャリア群)が使用される場合には,上記特定エリア内の通信用キャリア(サブキャリア群)またはアドホックネットワーク内の通信用キャリア(サブキャリァ群)として,システム全体のキャリアf_(1),f_(2),f_(3)を割り当てるようにしても,或いは所属するセルで使用されているキャリアや,所属するセル以外で使用されているキャリアのみを割り当てるようにしてもよい。
[0106] 各ユーザ(各無線通信装置または各移動局)にサブキャリアを割り当てる方法としては,例えば,利用可能なすべてのサブキャリアをフレーム毎に異なるユーザに割り当てる方法や,ユーザ毎に異なるサブキャリア群(サブセット)を割り当てる方法など,種々の方法が提案されているが,何れを用いるようにしてもよい。また,サブキャリアの割り当てに際しては,周波数ダイバシティを実現するためにサブキャリアホッピング(Sub-carrier Hopping)を用いることも可能である。これらのOFDMのシステムにおいて,対象となる移動体通信ネットワークのユーザが,アドホックネットワークやミニ基地局から離れた位置に存在する場合には,そのユーザに割り当てられたサブキャリアをアドホックネットワークやミニ基地局でリユースすることが可能であり,また,例えば,アドホックネットワークやミニ基地局から離れた位置にセルが存在する場合には,そのセルに割り当てられたサブキャリアをアドホックネットワークやミニ基地局でリユースすることが可能である。」(21?29ページ,33?34ページ)

[0062],[0080],[0104]等の記載によれば,アドホックネットワーク内で他の無線通信装置(スレーブ,ノードB)と通信している無線通信装置10(マスタ,ノードA)がみてとれ,アドホックネットワーク及び移動体通信ネットワークで使用する通信方式としてTDD-OFDMも挙げられている。この場合,アドホックネットワークは周波数スペクトラムを移動体通信ネットワークと共有していることは明らかである。そして,OFDMにおいては,複数のサブキャリア及び複数のOFDMシンボルからなる時間周波数構造が複数のREに分割されることは技術常識に照らして明らかであり,[0105]の記載によれば多数のサブキャリア(Sub- Carrier)のうちの一部または全部が通信に用いられるのであるから,選択されたREにて信号が送信されていることは明らかである。
また,[0083]の記載によれば,ノードAは,所定周期毎にパイロット信号を繰り返し発信するとともに,スレーブから出力される制御信号を監視しながら,定期的に,移動体通信ネットワークにおける通信タイミングに合致するようにアドホックネットワークの通信タイミングを設定する処理(同期処理)等を行うことが見て取れる。

したがって,刊行物1には
「アドホックネットワーク内で他の無線通信装置と通信している無線通信装置を操作するための方法であって,前記アドホックネットワークは,周波数スペクトラムを移動体通信ネットワークと共有しており,
時間周波数構造を複数のサブセットのREに分割すること,なお,前記時間周波数構造は,複数のOFDMシンボル記号を含んでおり,前記複数のOFDMシンボルのそれぞれは,複数のサブキャリアを含んでおり,RE記号は,前記複数のOFDMシンボルのうちの1つの中の1つのサブキャリアである,ここにおいて,前記時間周波数構造は,前記共有された周波数スペクトラム上で,前記移動体通信ネットワークと前記アドホックネットワークとの間で同時に使用される,と,
第1の複数の前記サブセットのREを選択すること,と,
前記複数のサブセットのREのうちの前記の選択されたサブセットを使用して,前記他の無線通信装置に対して信号を送信することと,
所定周期毎にパイロット信号を繰り返し発信するとともに,前記他の無線通信装置から出力される制御信号を監視しながら,定期的に,移動体通信ネットワークにおける通信タイミングに合致するようにアドホックネットワークの通信タイミングを設定する,
を備えている,方法。」
との発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2(国際公開第2006/016330号)には,以下の事項が記載されている。
「 The present invention relates generally to a communication network, and more particularly, to a dynamic frequency reuse method and apparatus for UEs to carry out direct communication, like P2P communication.
(中略)
When two UEs camping in a cell inside the coverage area of the communication network adopts online or offline P2P communication mode to establish P2P communication link, they usually use the frequency for conventional communication in the cell to conduct P2P communication. The frequency for conventional communication is the radio frequency resource assigned to the cell when the network operator sets up the communication network. Therefore, in the cell, there may be two communications sharing the same frequency: P2P communication and conventional communication.
(中略)
DETAILED DESCRIPTION OF THE INVENTION
According to the dynamic frequency reuse method as proposed in the present invention, RNC determines the candidate frequencies in each cell to be used for P2P communication according to the frequency planning and radio resource management policy of the current communication network, and broadcasts the candidate frequencies of each cell via base stations to each UE in the cell. According to the candidate frequencies for use in P2P communication in the serving cell, a UE in the cell detects the strength of signals using the candidate frequencies to communicate, and notifies RNC of the detection result. According to the detection result in conjunction with the usage of all current candidate frequency resource of the UE 's serving cell, RNC selects a frequency suitable for the UE to carry out P2P communication from the candidate frequencies and sends it to the UE. The UE performs P2P communication with this frequency, or namely dynamically reusing frequency resource.
TD-SCDMA system will be taken as an example below to describe the dynamic frequency reuse method for use in P2P communication as proposed in this invention, in conjunction with accompanying drawings. Fig.4 is a schematic diagram showing frequency allocation of a cell in a communication network, and it's supposed that the network operator has 10 frequencies available: Fl, F2, F3,F4, F5, F6, F7, F8, F9 and FlO. Assumed that the frequency reuse factor adopted by the frequency planning of the current network is 7, Fl is the primary frequency of the serving cell Al of the UE, and adjacent cells of Al are A2, A3, A4, A5 and A6, with primary frequency as F2, F3, F4, F5, F6 and F7 respectively. The network operator reserves frequencies F8, F9 and FlO, not yet allocated as primary frequency of any current cell.
Fig.5 illustrates the procedure of acquiring P2P communication frequency using signaling link between UEl and UTRAN, taking UEl in cell Al as an example. As shown in Fig.5, first of all, UTRAN determines the UE's candidate frequencies for use in P2P communication in cell Al according to the frequency planning information and frequency resource management policy information (step SlO).
When determining the UE's candidate frequencies for use in P2P communication in cell Al, UTRAN first excludes primary frequency Fl for conventional communication in cell Al from the 10 available frequencies Fl to FlO owned by the network operator. Then, according to the frequency planning information and frequency resource management policy, UTRAN further excludes those frequencies that have been defined not to be used for P2P communication. For instance, F 8 is defined as the frequency to be used in emergency, so it's forbidden to be used for P2P communication in cases not urgent; the adjacent cell A2 is a hot-spot cell with extraordinarily high overload of conventional communication traffic and its primary frequency F2 is forbidden to be used as the candidate frequency for P2P communication in other cells. Accordingly, UTRAN can determine that in cell Al the UE can use candidate frequencies F3, F4, F5, F6, F7, F9 and FlO for P2P communication.
After determining the candidate frequencies for the UE to carry out P2P communication in the cell Al, UTRAN encapsulates a list of these candidate frequencies into a system information message, and broadcasts the system information message via a common control channel such as BCCH (step S20).
Wherein, the information entity including these candidate frequencies can alone form a system information message and be broadcasted to the UEs in the cell, or as a part of other system information message, be broadcasted to the UEs in the cell along with other system information messages. Furthermore, UTRAN can regularly update and broadcast the system information message including the candidate frequencies according to the management policy information and the operation status of the network (idle or busy).
UEl reads the system information message over BCCH and extracts the candidate frequencies from the system information message (step S30). According to the extracted candidate frequencies, UEl detects the strength of signals using these candidate frequencies to communicate (step S40).
Wherein signals using these candidate frequencies to communicate can be signals for conventional communication in adjacent cells or signals for ongoing P2P communication including signals for P2P communication in the current cell and signals for P2P communication in adjacent cells as well. So, in addition to detect the pilot signals in adjacent cells to get the strength of signals for conventional communication using the candidate frequencies, UEl also needs to detect the strength of signals for P2P communication using these candidate frequencies in the current cell.
According to the detected signal strength, UEl ranks these candidate frequencies (step S50). Generally speaking, the lower the strength of pilot signals in adjacent cells detected is, the higher is the possibility that UEl is faraway from the base stations of the adjacent cells, and thus the lower is the interference between UEl 's P2P communication link and conventional links in adjacent cells if the primary frequency of the adjacent cells is taken as UEl 's P2P communication frequency. The lower the strength of P2P signals detected is, the higher is the possibility that UEl is faraway from the pairs of P2P communicating UEs, and thus the lower is the interference between UEl and the pairs of P2P communicating UEs if the candidate frequencies used by the pairs of P2P communicating UEs are taken as UEl' s P2P communication frequency.
UEl sends the ranked candidate frequencies as the detection result to UTKAN (step S60). Admittedly, UEl can also send the strength of the signals detected using these candidate frequencies as the detection result to UTRAN directly. Furthermore, UEl can also send its location information to UTRAN if possible, to be taken as a reference when UTRAN determines the P2P communication frequency suitable for UEl.
Upon receipt of the above detection result provided by UEl, UTRAN checks the current operation status of the communication network, that is, current usage of all candidate frequencies. According to the detection result provided by UEl in conjunction with the current operation status of the communication network, UTRAN selects a suitable frequency as UEl 's frequency for P2P communication (step S70). For example, from the current usage of candidate frequencies it can be known that F3 should be excluded from being UEl 's P2P communication frequency among the candidate frequencies for UEs to carry out P2P communication in Al if the number of UEs selecting F3 as P2P communication frequency in Al is above the predefined threshold.
When determining UEl 's P2P communication frequency, UTRAN can also refer to UEl 's notified location information such as UEl 's location information obtained by UEl through GPS, to determine P2P communication frequency for UEl. For example, according to UEl 's location information, F4 should be excluded from being UEl 's P2P communication frequency as much as possible if other UEs are using F4 to perform P2P communication around UEl .
After a suitable P2P communication frequency (usually the candidate frequency whose signal strength is the weakest) is selected for UEl according to the detection result notified by UEl in conjunction with the current usage of candidate frequencies and UEl 's location information likely obtained, UTRAN sends the selected frequency to UEl and updates the present frequency usage information of the communication network (step S80). In the above embodiment of the present invention, UTRAN should choose the frequency whose signal strength is the weakest as UEl 's P2P communication frequency from F5, F6, F7, F9 and FlO as possible as it can on the premise that Fl, F2 and F8 have been excluded and F3 and F4 have been excluded as possible as it can. Upon receipt of the suitable frequency sent from UTRAN, UEl establishes P2P communication link with another UE using this frequency (step S90).
After UEl completes P2P communication using this P2P communication frequency, UEl sends a request for releasing the P2P communication frequency it uses to UTRAN (step Sl00). After receiving the release request, UTRAN reclaims the P2P communication frequency and updates the current frequency usage information of the communication network (step S110).
In the above embodiment, UEl in Al is taken as an example to describe the procedure as how UEl in online P2P communication mode obtains P2P communication frequency, which is also applicable to the case where a UE to adopt offline P2P communication mode in a cell obtains P2P communication frequency via UTRAN first and then performs offline P2P communication.
When UEl in Al attempts to perform offline P2P communication, it can choose offline P2P communication frequency independently besides obtaining P2P communication frequency via UTRAN. During the independent selecting procedure, UEl first obtains candidate frequencies that are broadcasted by UTRAN and can be used for the UEs in Al to carry out P2P communication. But different from the above steps, after UEl searches signals according to the candidate frequencies and ranks the signal strength corresponding to the candidate frequencies, the process doesn't go to step S60 afterwards,. : but goes to a step where the candidate frequency corresponding to the signal with the weakest strength detected from the ranked candidate frequencies is determined as the suitable frequency for P2P communication and P2P communication is initiated with another UE using the suitable frequency.」(1ページ4?6行,2ページ20?26行,4ページ25行?8ページ23行)
([当審仮訳]:
本発明は,概して通信ネットワークに関し,特にUEがP2Pのような直接通信を実行する動的周波数再利用方法及び装置に関する。
(中略)
通信ネットワークのサービスエリアの内側でセルにキャンピングしている2つのUEがP2P通信リンクを確立するためにオンライン又はオフラインP2P通信モードを採用する場合,通常では,P2P通信を行うためにセルで従来の通信用の周波数を使用する。従来の通信の周波数は,ネットワークオペレータが通信ネットワークを設定するときにセルに割り当てられる無線周波数リソースである。従って,セルでは,同じ周波数を共有する2つの通信(P2P通信及び従来の通信)が存在し得る。
(中略)
発明で提案される動的周波数再利用方法によれば,RNCは,現在の通信ネットワークの周波数設計及び無線リソース管理ポリシーに従って,P2P通信に使用される各セルの候補周波数を決定し,基地局を介して各セルの候補周波数をセルの各UEにブロードキャストする。サービングセルでP2P通信に使用される候補周波数に従って,セルのUEは通信するための候補周波数を使用する信号の強度を検出し,検出結果をRNCに通知する。UEのサービングセルの全ての現在の候補周波数のリソースの使用と共に検出結果に従って,RNCはUEが候補周波数からP2P通信を実行するのに適した周波数を選択し,これをUEに送信する。UEは,この周波数でP2P通信を実行する。すなわち,動的に周波数リソースを再利用する。
以下では,添付図面と共に,本発明で提案されるP2P通信で使用される動的周波数再利用方法を説明するために,TD-SCDMAシステムが一例として挙げられる。
図4は,通信ネットワークでセルの周波数割り当てを示す概略図であり,ネットワークオペレータが10の利用可能な周波数(F1,F2,F3,F4,F5,F6,F7,F8,F9及びF10)を有することが仮定される。現在のネットワークの周波数設計で採用される周波数再利用係数が7であることを仮定すると,F1がUEのサービングセルA1の基本周波数であり,A1の隣接セルはそれぞれF2,F3,F4,F5,F6及びF7として基本周波数を有するA2,A3,A4,A5及びA6である。ネットワークオペレータは,現在のセルの基本周波数としてまだ割り当てられていない周波数F8,F9及びF10を留保する。
図5は,セルA1のUE1を一例として挙げて,UE1とUTRANとの間のシグナリングリンクを使用してP2P通信周波数を取得する手順を示している。
図5に示すように,まず,UTRANは,周波数設計情報と周波数リソース管理ポリシー情報とに従って,セルでP2P通信に使用されるUEの候補周波数を決定する(ステップS10)。
セルA1でP2P通信に使用されるUEの候補周波数を決定するときに,UTRANは,ネットワークオペレータにより所有されている10の利用可能な周波数F1?F10から,セルA1の従来の通信用の基本周波数F1を排除する。次に,周波数設計情報と周波数リソース管理ポリシーとに従って,UTRANは,P2P通信に使用されないように定められている周波数を更に排除する。例えば,F8は緊急時に使用される周波数として定められているため,緊急でない場合にP2P通信に使用されることを禁止される。隣接セルA2は異常に高い負荷の従来の通信トラヒックを有するホットスポットセルであり,この基本周波数F2は,他のセルのP2P通信用の候補周波数として使用されることが禁止される。従って,UTRANは,セルA1でUEがP2P通信用に候補周波数F3,F4,F5,F6,F7,F9及びF10を使用することができることを決定し得る。
UEがセルA1でP2P通信を実行する候補周波数を決定した後に,UTRANは,これらの候補周波数のリストをシステム情報メッセージにカプセル化し,BCCHのような共通制御チャネルを介してシステム情報メッセージをブロードキャストする(ステップS20)。
これらの候補周波数を含む情報エンティティが単独でシステム情報メッセージを形成し,セルのUEにブロードキャストされてもよく,他のシステム情報メッセージの一部として他のシステム情報メッセージと共にセルのUEにブロードキャストされてもよい。更に,UTRANは,ネットワークの管理ポリシー情報と動作状態(アイドル又はビジー)とに従って候補周波数を含むシステム情報メッセージを定期的に更新してブロードキャストしてもよい。
UE1はBCCHでシステム情報メッセージを読み取り,システム情報メッセージから候補周波数を抽出する(ステップS30)。
抽出された候補周波数に従って,UE1は,通信するためのこれらの候補周波数を使用する信号強度を検出する(ステップS40)。
通信するためのこれらの候補周波数を使用した信号は,隣接セルの従来の通信用の信号でもよく,現在のセルでのP2P通信用の信号及び隣接セルでのP2P通信用の信号を含む継続中のP2P通信用の信号でもよい。従って,隣接セルのパイロット信号を検出し,候補周波数を使用した従来の通信用の信号の強度を得ることに加えて,UE1はまた,現在のセルでのこれらの候補周波数を使用するP2P通信用の信号の強度を検出する必要がある。
検出された信号強度に従って,UE1はこれらの候補周波数をランク付けする(ステップS50)。概して,検出された隣接信号のパイロット信号の強度が低いほど,UE1が隣接セルの基地局から離れている可能性が高くなるため,隣接セルの基本周波数がUE1のP2P通信周波数とされたときに,隣接セルでUE1のP2P通信リンクと従来のリンクとの間での干渉が低くなる。検出されたP2P信号の強度が低いほど,UE1がP2P通信中のUEの対から離れている可能性が高くなるため,P2P通信中のUEの対により使用される候補周波数がUE1のP2P通信周波数とされたときに,UE1とP2P通信中のUEの対との間での干渉が低くなる。
UE1は,検出結果としてランク付けされた候補周波数をUTRANに送信する(ステップS60)。明らかに,UE1はまた,検出結果としてこれらの候補周波数を使用して検出された信号の強度をUTRANに直接に送信してもよい。更に,UE1はまた,UTRANがUE1に適したP2P通信周波数を決定したときに参照として受け入れられるため,場合によってその位置情報をUTRANに送信してもよい。
UE1により提供される前記の検出結果の受信時に,UTRANは通信ネットワークの現在の動作状態(すなわち,全ての候補周波数の現在の使用)を検査する。通信ネットワークの現在の動作状態と共にUE1により提供される検出結果に従って,UTRANは,P2P通信用のUE1の周波数として適切な周波数を選択する(ステップS70)。例えば,候補周波数の現在の使用から,A1でP2P通信周波数としてF3を選択するUEの数が所定の閾値より上である場合に,UEがA1でP2P通信を実行する候補周波数のうち,F3がUE1のP2P通信から排除されるべきであることがわかる。
UE1のP2P通信周波数を決定するときに,UTRANはまた,GPSを通じてUE1により取得されたUE1の位置情報のようなUE1の通知位置情報をも参照し,UE1のP2P通信周波数を決定し得る。例えば,UE1の位置情報に従って,他のUEがUE1の周辺でP2P通信を実行するためにF4を使用している場合には,F4はUE1のP2P通信周波数からできるだけ排除されるべきである。
候補周波数の現在の使用及び取得される可能性の高いUE1の位置情報と共に,UE1により通知された検出結果に従って適切なP2P通信周波数(通常は信号強度が最小である候補周波数)がUE1に選択された後に,UTRANは,選択された周波数をUE1に送信し,通信ネットワークの現在の周波数使用情報を更新する(ステップS80)。本発明の前記の例では,F1,F2及びF8が排除されており,F3及びF4ができるだけ排除されるという前提で,UTRANは,F5,F6,F7,F9及びF10から,UE1のP2P通信周波数として信号強度が最小である周波数をできるだけ選択するべきである。
UTRANから送信された適切な周波数を受信すると,UE1はこの周波数を使用して他のUEとP2P通信リンクを確立する(ステップS90)。
UE1がこのP2P通信周波数を使用してP2P通信を終了した後に,UE1は,使用するP2P通信周波数を解放する要求をUTRANに送信する(ステップS100)。解放要求を受信した後に,UTRANはP2P通信周波数を再利用し,通信ネットワークの現在の周波数使用情報を更新する(ステップS110)。
前記の実施例では,オンラインP2P通信モードのUE1がP2P通信周波数を取得する方法としての手順を説明するために,A1のUE1が一例として挙げられている。これは,セルでオフラインP2P通信モードを採用するUEが最初にUTRANを介してP2P通信周波数を取得して,オフラインP2P通信を実行する場合にも適用可能である。
A1のUE1がオフラインP2P通信を実行しようとすると,UTRANを介してP2P通信周波数を取得することに加えて,オフラインP2P通信周波数を独立して選択し得る。独立した選択手順の間に,UE1は,まず,UTRANによりブロードキャストされて,A1のUEがP2P通信を実行するために使用され得る候補周波数を取得する。しかし,前記のステップと異なり,UE1が候補周波数に従って信号を検索して,候補周波数に対応する信号強度をランク付けした後に,処理はステップS60に進まず,ランク付けされた候補周波数から最小の検出強度を有する信号に対応する候補周波数がP2P通信用の適切な周波数として決定されるステップに進む。この適切な周波数を使用して,他のUEとP2P通信が開始される。)
([当審注]:[当審仮訳]は刊行物2のパテントファミリーである特表2008-510343号公報の記載に基づいて合議体が作成した。)

以上の記載によれば,刊行物2には
「セルA1でP2P通信に使用されるUEの候補周波数を決定するときに,利用可能な周波数F1?F10から,セルA1の従来の通信用の基本周波数F1及び近隣のホットスポットセルの基本周波数を除いた候補周波数F3,F4,F5,F6,F7,F9及びF10を使用する。」
との発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

(2)対比
本願発明と引用発明1とを対比すると,
本願発明の「無線ピアツーピア通信ネットワーク」,「無線広域ネットワーク」,「トーン」,「直交周波数分割多重化(OFDM)記号」,「トーン記号」と,引用発明1の「アドホックネットワーク」,「移動体通信ネットワーク」,「サブキャリア」,「OFDMシンボル」,「RE」とは,それぞれ表現が異なるのみであって実質的な差異はない。そして,引用発明1の「無線通信装置」,「他の無線通信装置」を,それぞれ「第1の無線デバイス」,「第2の無線デバイス」と称することは任意である。
本願発明の「(a5) 前記無線広域ネットワークにおいて送信された信号の記号タイミング情報を導出するために前記共有されたスペクトラムをモニタすることと,(a6) 前記の導出された記号タイミング情報の関数として前記送信のタイミングを調節することと」と,引用発明1の「所定周期毎にパイロット信号を繰り返し発信するとともに,前記他の無線通信装置から出力される制御信号を監視しながら,定期的に,移動体通信ネットワークにおける通信タイミングに合致するようにアドホックネットワークの通信タイミングを設定する」とは,下記の相違点2は別として,「前記送信のタイミングを調節すること」の点で共通する。

したがって,本願発明と引用発明1とは,
「無線ピアツーピア通信ネットワーク内で第2の無線デバイスと通信している第1の無線デバイスを操作するための方法であって,前記無線ピアツーピア通信ネットワークは,周波数スペクトラムを無線広域ネットワークと共有しており,
時間周波数構造を複数のサブセットのトーン記号に分割すること,なお,前記時間周波数構造は,複数の直交周波数分割多重化(OFDM)記号を含んでおり,前記複数のOFDM記号のそれぞれは,複数のトーンを含んでおり,トーン記号は,前記複数のOFDM記号のうちの1つの中の1つのトーンである,ここにおいて,前記時間周波数構造は,前記共有された周波数スペクトラム上で,前記無線広域ネットワークと前記無線ピアツーピア通信ネットワークとの間で同時に使用される,と,
第1の複数の前記サブセットのトーン記号を選択すること,と,
前記複数のサブセットのトーン記号のうちの前記の選択されたサブセットを使用して,前記第2の無線デバイスに対して信号を送信することと,
前記送信のタイミングを調節すること,
を備えている,方法。」
の点で一致している。

他方,本願発明と引用発明1とは,以下の点で相違する。
(相違点1)
一致点の「第1の複数の前記サブセットのトーン記号を選択すること」に関して,本願発明は「ここにおいて,前記サブセットのそれぞれは,前記無線広域ネットワークによって送信される第2の信号によって使用されるトーン記号と完全にはオーバラップしないように構築され,前記第1の無線デバイスが信号を送信しないトーン記号を少なくとも1つ含む,」との構成を有するのに対し,引用発明は当該構成を有していない点。

(相違点2)
一致点の「前記送信のタイミングを調節すること」に関し,本願発明は,更に「(a5) 前記無線広域ネットワークにおいて送信された信号の記号タイミング情報を導出するために前記共有されたスペクトラムをモニタすること」なる構成を有し,これに伴い,「(a6) 前記の導出された記号タイミング情報の関数として前記送信のタイミングを調節する」ものであるに対し,引用発明1は,「所定周期毎にパイロット信号を繰り返し発信するとともに,前記他の無線通信装置から出力される制御信号を監視しながら,定期的に,移動体通信ネットワークにおける通信タイミングに合致するようにアドホックネットワークの通信タイミングを設定する」ものである点。

(3)判断
まず相違点1について検討する。
引用発明1は,アドホックネットワークと移動体通信ネットワークとでリソースを共有する際に,利用率Zに基づきタイムスロットを割り当て([0078]),なるべく干渉が少なくなるようにタイムスロットの組み合わせを選ぶようにするものである([0103])が,送信のために選択したREが送信しないREを少なくとも1つ含むことは記載も示唆もされていない。そして,本願発明は,相違点1の構成によりヌルパイロットとして干渉電力の測定が可能となる(【0048】,【0056】,【0057】,【0065】)という,引用発明1にない特段の作用効果を奏するものである。
したがって,相違点1を容易になし得るとすることはできない。

なお,刊行物2(原査定における引用文献1)を主引用例としても,刊行物2に記載された引用発明2はOFDMに係るものではなく,仮に引用発明2に周知のOFDMを適用したとしても,本願発明との間には上記相違点1と同様の相違が存在しており,上述と同様の理由により当該相違点を容易になし得るとすることはできない。

(4)小括
したがって,相違点2について判断するまでもなく,本願発明は,当業者が引用発明1又は2に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また,本願の請求項2に係る発明は,実質的に本願発明からレガシーヘッダに関する構成を省略したものであるが,同様に,当業者が引用発明1又は2に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また,請求項3?7に係る発明は,請求項2に係る発明をさらに限定したものであるので,同様に,当業者が引用発明1又は2に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。


(理由2について)
平成28年6月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は,理由2の指摘事項を解消している。


第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
理由1 (明確性,サポート要件)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号,同第2号に規定する要件を満たしていない。
理由2 (実施可能要件)この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由3 (原文新規事項)この出願は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項が,下記の点で外国語書面に記載した事項の範囲内にないから,特許法第49条第6号に該当する。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

[理由1について]
(1)請求項3の「完全にオーバーラップしない」は,オーバーラップが全くないと解されるが,請求項3が引用する請求項1の「完全にはオーバーラップしない」は,部分的にオーバーラップすることを含むから,記載内容が整合せず,請求項3に係る発明が不明確である。
また,「完全にオーバーラップしない」との記載は,翻訳文の発明の詳細な説明の【0047】,【0055】に存在するが,当該記載は下記[理由2について]のとおり本願の開示内容全体からみて不自然であり,下記[理由3について]のとおり誤訳と考えられるから,請求項3の裏付けが不明確である。
(「完全にはオーバーラップしない」の誤記ではないのか?
なお,【0047】に「1つのトラフィックスロットでは,P1,P2,及びP3は,「WANsignals」と完全に非オーバラップしているが,」との記載があるが,当該記載は1つのトラフィックスロットについてのみ述べているものであって,「異なるトラフィックスロットにおいて,P1,P2及びP3のいくつかは,「WANsignals」のいくつかとオーバラップすることができる。」との記載が続くように,複数のスロット全体でみれば,結局,完全にはオーバーラップしないことを述べているものと解されるから,当該記載は請求項3の裏付けにはならないことに留意されたい。)
(2)請求項5の「前記の選択された第1の複数の前記サブセットのトーン記号において,1セットのトーン記号のいずれの信号も送信することを抑止することと」との記載によれば,選択された第1の複数のサブセットの全てのトーン記号で信号の送信が抑止されると解されるが,そうすると第1の無線デバイスは無線ピアツーピア通信で信号を送信できないことになるから,発明が意味不明である。
また,当該記載は,翻訳文の発明の詳細な説明の【0012】,【0056】に存在するが,当該記載は下記[理由2について]のとおり本願の開示内容全体からみて不自然であり,下記[理由3について]のとおり誤訳と考えられるから,請求項5の裏付けが不明確である。
3)「前記第2の無線デバイスによって送信される前記信号のパイロット」(請求項6)について,それ以前には第2の無線デバイスによる送信については記載されていないため,当該パイロットが不明確である。
(「第1の無線デバイス」の誤記ではないのか?)
(4)請求項7は請求項1を引用しているが,請求項1の(a5),(a6)の構成は図5のオプション1に対応するものであるところ,請求項7は図5のオプション2に対応するものであるから,請求項7に係る発明には相異なる2つのタイミング調節動作が存在するこことなり,発明が不明確である。
(請求項1の(a5),(a6)の構成に替えて請求項7の構成とするということか?)
(5)請求項14,33について,「・・・インストラクションを備えているコンピュータ読み取り可能な記録媒体」なる記載は,日本語として不明確である。
(「・・・インストラクションを記憶しているコンピュータ読み取り可能な記録媒体」とした場合は,当該拒絶理由は解消する。)

[理由2について]
(1)翻訳文の【0047】の「複数のタイルあるいはサブセットは,それらが無線WAN信号によって使用されるトーン記号と完全にオーバラップしないように構築される。・・・しかしながら,ピアツーピア送信機によって使用されるべき複数のサブセットは,与えられたトラフィックスロットにおいて無線WAN送信機によって使用されるべき複数のサブセットと完全にオーバラップしない。したがって,ピアツーピア信号は,無線WAN信号と完全にオーバラップしない。」,【0055】の「例えば,第2の信号が,第2の複数のサブセットのトーン記号を使用して無線広域ネットワーク(WAN)で送信される場合には,選択された第1の複数のサブセットのトーン記号は,送信された第1の信号が第2の信号と完全にオーバラップしないように選択されることができる。すなわち,選択された第1の複数のサブセットのトーン記号は,そのピアツーピア接続がWANによって使用される第2のサブセットのトーン記号と完全にオーバラップしない(あるいは,おそらくまったくオーバラップしない)ため,第1のデバイスによって使用されるために選択される。」の「完全にオーバラップしない」は,部分的にオーバラップすることを含まないものである。
しかしながら,請求項1に係る発明は,「第1の複数の前記サブセットのトーン記号を選択すること,ここにおいて,前記サブセットのそれぞれは,前記無線広域ネットワークの第2の信号によって使用されるトーン記号と完全にはオーバラップしないように構築され,前記第1の無線デバイスが信号を送信しないトーン記号を少なくとも1つ含む」ものであり,部分的にオーバラップすることは明らかである。そして,【0048】によれば,当該「送信しないトーン記号」はヌルパイロットとして干渉電力を推定するためのものであると認められ,部分的にオーバラップするからこそ,干渉電力が推定されるものである。そして,完全にオーバラップしなければそもそも干渉は生じないことから,上記翻訳文の記載は意味不明である。このように,上記翻訳文の記載は請求項1の記載とも整合しないから,発明を実施することができない。
(2)翻訳文の【0012】の「一つのインプリメンテーションでは,第1のデバイスは,代わりに,第2のデバイスにおける信号回復を容易にするために,選択された第1の複数のサブセットのトーン記号において,1セットのトーン記号におけるいずれの信号も送信することを抑止することができ,」,【0056】の「結果として,第1のデバイスは,第2のデバイスにおける信号回復を容易にするために,選択された第1の複数のサブセットのトーン記号において1セットのトーン記号のいずれの信号も送信することを抑止することができ,第1のデバイスによって使用される選択されたサブセットのトーン記号のそれぞれは,信号が送信される予定ではない,少なくとも1つのトーン記号を含んでいる。」の「いずれの信号も送信することを抑止する」の記載によれば,セットの全てのトーン記号において送信を抑止するものである。
しかしながら,そうすると第1の無線デバイスは無線ピアツーピア通信で信号を送信できないことになる。そして,【0048】によれば,信号の送信を抑止するのはヌルパイロットとして干渉電力を推定するためであると認められるところ,【0056】によれば,そのようなヌルパイロットに対応する少なくとも1つのトーン記号があれば十分であると解されるから,「いずれの信号も送信することを抑止する」必然性は見出せない。このため,上記翻訳文の記載は意味不明であり,発明の技術上の意義が不明確になっている。

[理由3について]
(1)翻訳文の【0047】の「複数のタイルあるいはサブセットは,それらが無線WAN信号によって使用されるトーン記号と完全にオーバラップしないように構築される。・・・しかしながら,ピアツーピア送信機によって使用されるべき複数のサブセットは,与えられたトラフィックスロットにおいて無線WAN送信機によって使用されるべき複数のサブセットと完全にオーバラップしない。したがって,ピアツーピア信号は,無線WAN信号と完全にオーバラップしない。」,【0055】の「例えば,第2の信号が,第2の複数のサブセットのトーン記号を使用して無線広域ネットワーク(WAN)で送信される場合には,選択された第1の複数のサブセットのトーン記号は,送信された第1の信号が第2の信号と完全にオーバラップしないように選択されることができる。すなわち,選択された第1の複数のサブセットのトーン記号は,そのピアツーピア接続がWANによって使用される第2のサブセットのトーン記号と完全にオーバラップしない(あるいは,おそらくまったくオーバラップしない)ため,第1のデバイスによって使用されるために選択される。」の「完全にオーバラップしない」に対応する箇所には,原文では「do(es) not completely overlap」と記載されている。
一方,「完全にオーバラップしない」は,部分的にオーバラップすることを含まないものであり,「completely non-overlap」又は「do(es) not overlap completely 」に相当するものである。しかしながら,原文の「do(es) not completely overlap」は「完全にはオーバラップしない」,すなわち,部分的にオーバラップすることを含むものであるから,翻訳文の上記記載に係る事項は外国語書面に記載されたものではない。
(2)翻訳文の【0012】の「一つのインプリメンテーションでは,第1のデバイスは,代わりに,第2のデバイスにおける信号回復を容易にするために,選択された第1の複数のサブセットのトーン記号において,1セットのトーン記号におけるいずれの信号も送信することを抑止することができ,」,【0056】の「結果として,第1のデバイスは,第2のデバイスにおける信号回復を容易にするために,選択された第1の複数のサブセットのトーン記号において1セットのトーン記号のいずれの信号も送信することを抑止することができ,第1のデバイスによって使用される選択されたサブセットのトーン記号のそれぞれは,信号が送信される予定ではない,少なくとも1つのトーン記号を含んでいる。」の「いずれの信号も送信することを抑止する」に対応する箇所には,原文では「restrain from transmitting any signal」と記載されている。
一方,「いずれの信号も送信することを抑止する」は,セットの全てのトーン記号において送信を抑止するものである。しかしながら,原文の,「restrain from transmitting any signal」は,任意の信号(any signal)の送信を抑止するものであって,必ずしも全ての送信を抑止することは意味していない。したがって,翻訳文の上記記載に係る事項は外国語書面に記載されたものではない。

なお,用語は,明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用する必要があることから,用語を統一されたい。
例えば,請求項30の「複数の受信アンテナ」,「マルチプル受信アンテナ」は,「複数の受信アンテナ」に統一されたい。また,「第1のデバイス」,「第2のデバイス」は,「第1の無線デバイス」,「第2の無線デバイス」に補正された請求項と補正されていない請求項とが存在することから,「第1の無線デバイス」,「第2の無線デバイス」に統一されたい。

2 当審拒絶理由の判断
(1)平成28年6月27日付けの誤訳訂正によって,【0047】,【0055】の「完全にオーバーラップしない」が「完全にはオーバーラップしない」に訂正され,平成28年6月28日付けの手続補正によって,請求項3の「完全にオーバーラップしない」が「完全にはオーバーラップしない」に補正された。このことにより,請求項3と請求項3が引用する請求項1との関係が整合することとなり,請求項3に係る発明が明確になった。また,実施可能要件も満たすようになり,外国語書面の記載の範囲内のものとなった。
よって,当審拒絶理由1(1),理由2(1),理由3(1)は解消した。

(2)平成28年6月27日付けの誤訳訂正によって,【0012】,【0056】の「いずれの信号も送信することを抑止する」が「いずれかの信号を送信することを抑止する」に訂正され,平成28年6月28日付けの手続補正によって,請求項5の「いずれの信号も送信することを抑止する」が「いずれかの信号を送信することを抑止する」に補正された。このことにより,請求項5に係る発明が明確になった。また,発明の技術上の意義も明らかとなり,外国語書面の記載の範囲内のものとなった。
よって,当審拒絶理由1(2),理由2(2),理由3(2)は解消した。

(3)平成28年6月28日付けの手続補正によって,請求項6の「前記第2の無線デバイスによって送信される前記信号のパイロット」が「前記第1の無線デバイスによって送信される前記信号のパイロット」に補正された。このことにより,当該パイロットが明確になった。
よって,当審拒絶理由1(3)は解消した。

(4)平成28年6月28日付けの手続補正によって,請求項7が独立請求項に補正された。このことにより,引用していた請求項1の(a5),(a6)との関係がなくなり,発明が明確になった。
よって,当審拒絶理由1(4)は解消した。

(5)平成28年6月28日付けの手続補正によって,請求項14,33の「・・・インストラクションを備えているコンピュータ読み取り可能な記録媒体」が「・・・インストラクションを記憶しているコンピュータ読み取り可能な記録媒体」に補正された。このことにより,記載内容が日本語として明確になった。
よって,当審拒絶理由1(5)は解消した。

なお,平成28年6月27日付けの誤訳訂正により「マルチプル」が「複数の」とされ,平成28年6月28日付けの手続補正により「デバイス」が「無線デバイス」とされた。このことにより,用語が,明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用されるようになった。


第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-08-18 
出願番号 特願2012-285304(P2012-285304)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (H04J)
P 1 8・ 121- WY (H04J)
P 1 8・ 537- WY (H04J)
P 1 8・ 54- WY (H04J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤江 大望速水 雄太  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 菅原 道晴
林 毅
発明の名称 無線ピアツーピア(P2P)ネットワークにおけるWANインフラストラクチャリソースの再使用のための方法及び装置  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 井関 守三  
代理人 福原 淑弘  
代理人 奥村 元宏  

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