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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 取り消して特許、登録 H04L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 取り消して特許、登録 H04L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04L
管理番号 1318047
審判番号 不服2015-22869  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-25 
確定日 2016-08-30 
事件の表示 特願2013-193226「無線LANにおけるパケットスケジューリング」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月27日出願公開、特開2014- 39291、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年1月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年1月8日、米国、2004年11月17日、米国)を国際出願日とした特願2006-549345号の一部を平成21年7月23日に新たな特許出願とした特願2009-172253号の一部を平成24年1月5日に新たな特許出願とした特願2012-645号の一部を平成25年9月18日に新たな特許出願としたものであって、原審において平成26年6月26日付けで拒絶理由が通知され、同年10月8日付けで手続補正され、同年12月25日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成27年6月10日付けで手続補正されたが、同年8月10日付けで補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月25日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正されたものである。

第2 平成27年12月25日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年12月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は、平成26年10月8日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1を、

「【請求項1】
無線デバイスであって、
複数のデータ待ち行列と、
前記複数のデータ待ち行列のそれぞれについて第1の値を得るように構成される回路であって、前記第1の値は、第2の値、各データ待ち行列に関連付けられるサイズ、および各データ待ち行列についてのスケジューリング伝送間の遅延から得られ、スケジューリング伝送間の前記遅延は、時と共に変化する、回路と
を備え、
前記第2の値は、データレートに関連付けられ、前記得られた第1の値は、プライオリティに関連付けられ、前記回路は、前記得られた第1の値に基づいて伝送のための前記データ待ち行列の少なくとも一つからデータを選択するようにさらに構成される、
無線デバイス。」
から

「【請求項1】
無線デバイスであって、
複数のデータ待ち行列と、
前記複数のデータ待ち行列のそれぞれについて第1の値を得るように構成される回路であって、前記第1の値は、第2の値、そのデータ待ち行列の大きさ、およびそのデータ待ち行列についてのデータ伝送間の時間から得られ、前記データ伝送間の前記時間は、時と共に変化する、回路と
を備え、
前記第2の値は、データ転送速度に関連付けられ、前記回路は、前記データ待ち行列に関連付けられるプライオリティおよび前記得られた第1の値に基づいて伝送のための前記データ待ち行列の少なくとも一つからデータを選択するようにさらに構成される、
無線デバイス。」
と補正することを含むものである。

すなわち、本件補正は、以下の補正事項a.を含むものである。

補正事項a.補正前の「前記得られた第1の値に基づいて」を、「前記データ待ち行列に関連付けられるプライオリティおよび前記得られた第1の値に基づいて」に変更する補正。

2.補正の適否
ア 特許法第17条の2第3項(新規事項)に適合するかについての検討
上記補正事項a.の「前記データ待ち行列に関連付けられるプライオリティおよび前記得られた第1の値に基づいて」は、「データ待ち行列に関連付けられるプライオリティ」及び「得られた第1の値」の両方に基づくものとの解釈を含み得る。

一方、本願明細書又は図面(以下、「明細書等」という。)には、「プライオリティ」に関連して以下の記載がある。

イ.「【0014】
他のパケットとの衝突が発生する場合(ステップ112)、プライオリティが高い方のパケットが送信される(ステップ120)。プライオリティが低い方のパケットのコンテンションウィンドウ(CW)の値は、プライオリティが低い方のパケットに関連付けられたACのCWmaxの値と比較される(ステップ122)。CWの値がCWmaxよりも小さい場合、CWの値は式(1)に示すように更新される(ステップ124)。」

ロ.「【0018】
いったん、パケットがAC、例えば、AC_2から選択され、送信の準備ができると(すなわち、パケットはバックオフモードにはなく、チャネルがアイドル状態であることを感知している)、パケットはチャネル上で送信しようとする。他のAC、例えば、AC_4からの送信の準備ができている他のパケットが存在する場合、このことによってAC間の内部衝突が生じる。この場合、AC_2(プライオリティが低い)からのパケットによって、プライオリティが高いAC(AC_4)に対して、チャネルへアクセスし、パケットを送信する権利が与えられる。AC_2は、CW[AC_2]を値((CW[AC_2]+1)×2)-1に更新し、またはCW[AC_2]がすでにCWmax[AC_2]に達している場合、CWの値をそのままにしておく。」

ハ.「【0023】
競合解決機能
各待ち行列内で、「プライオリティインデックス(Priority Index)」は、「遅延およびデータ転送速度(Delay and Data Rate)」の基準に基づいて計算される。「データ転送速度インデックス(Data Rate Index)」の計算は、パケットを送信するために使用される瞬間的なデータ転送速度を考慮に入れる。高いデータ転送速度は、送信間隔時間(medium time)が少なくて済み、プライオリティが高い。このことにより、システム全体のスループットは改善するが、ユーザにとっては、瞬間的なデータ転送速度の遅さに伴う遅延を増加させる可能性がある。「遅延インデックス(Delay Index)」の計算は、トラフィックフローごとのQoS要件を反映するため、各待ち行列における最初のパケットの遅延(すなわち、そのパケットが待ち行列において費やした時間)、および待ち行列の大きさを考慮に入れる。同一のAC内で最も高いプライオリティインデックス(「データ転送速度、および遅延」の組み合わせ)を持つパケットは、送信のために他のACと競争することをスケジュール化される。」

ニ.「【0025】
一待ち行列は、各ACに存在し、「n」で索引を付けられる。各待ち行列内で、プライオリティインデックスは、「遅延およびデータ転送速度」の基準に基づいて、各パケットについて計算される。「遅延インデックス」は、AC-依存パラメータを含む。」

ヘ.「【0035】
最も高い「プライオリティインデックス」の値を有するトラフィックフローの最初のパケットは送信のために選択され(ステップ308)、その機能は終了する(ステップ310)。」

してみれば、本願明細書において、「プライオリティ」は、アクセスカテゴリ(AC)について高低のプライオリティが付けられ、トラフィックフロー(パケット)について高低のプライオリティがつけられているにすぎず、「データ待ち行列に関連付けられるプライオリティ」は記載されていない。そして、上記ヘ.によれば、トラフィックフロー(パケット)は、プライオリティに基づいて送信のために選択されるものであり、「データ待ち行列に関連付けられるプライオリティ」及び「得られた第1の値」の両方に基づくことは記載も示唆もされておらず、当業者にとって自明の事項でもない。また、「データ待ち行列に関連付けられるプライオリティ」及び「得られた第1の値」の両方に基づくことは、それ自体如何なる意味なのか不明である。よって、「前記データ待ち行列に関連付けられるプライオリティおよび前記得られた第1の値に基づいて」は、明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、上記補正事項a.は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものである。

イ 特許法第17条の2第4項(目的外補正)に適合するかについての検討
上記補正事項a.の「前記データ待ち行列に関連付けられるプライオリティおよび前記得られた第1の値に基づいて」は、本件補正前の(プライオリティに関連付けられた)「前記得られた第1の値に基づいて」の発明特定事項を概念的により下位の発明特定事項とするものではない。よって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。また、上記補正事項a.は、請求項の削除、誤記の訂正あるいは明瞭でない記載の釈明を目的とするものではないことは明らかである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反してなされたものである。

ウ 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反するので、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-4に係る発明は、平成26年10月8日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
無線デバイスであって、
複数のデータ待ち行列と、
前記複数のデータ待ち行列のそれぞれについて第1の値を得るように構成される回路であって、前記第1の値は、第2の値、各データ待ち行列に関連付けられるサイズ、および各データ待ち行列についてのスケジューリング伝送間の遅延から得られ、スケジューリング伝送間の前記遅延は、時と共に変化する、回路と
を備え、
前記第2の値は、データレートに関連付けられ、前記得られた第1の値は、プライオリティに関連付けられ、前記回路は、前記得られた第1の値に基づいて伝送のための前記データ待ち行列の少なくとも一つからデータを選択するようにさらに構成される、
無線デバイス。」

2.原査定の理由の概要
原審の平成26年12月25日付け最後の拒絶理由は、以下のとおりである。
「理 由

1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

理由1について

請求項:1-4
(1)請求項1,3に記載の「関連付けられるサイズ」について、「データ待ち行列」の容量であるのか、使用量であるのか、何らかの関連があればよいサイズであるのか、いずれであるのかが不明であり、発明を特定することができない。

(2)請求項1,3に記載の「スケジューリング伝送間の遅延」について、「スケジューリング伝送」がどのような伝送態様であるのかが不明であり、「所定の伝送間の遅延」とは、送信間隔の時間差であるのか、往復伝送遅延であるのか、どのような遅延であるのか、当該請求項の記載から把握することができない。

(3)請求項1,3に記載の「データレート」について、「入力レート」なのか、「出力レート」なのか、「符号化レート」等であるのか、あるいは、他の「データレート」であるのか、いずれであるのかが不明である結果、発明を特定することができない。

請求項1,3を引用して記載した請求項2についても同様である。
よって、請求項1-4に係る発明は明確でない。

理由2について
(省略)

理由3について
(省略)

理由4について

請求項:1-4
刊行物1,2
刊行物1には、第1の値(優先インデックス)を、データレート(サービス転送速度)と待ち行列に関連付けられるサイズ(待ち行列長)とに基づいて算出することが記載されている(特に、段落9)。
刊行物2には、時と共に変化する遅延に応じて第1の値(優先度)を算出することが記載されている(特に、段落58)。
刊行物1,2に記載の発明は、いずれも優先度に基づく出力制御を行う点で共通するから、刊行物1に記載された発明において、遅延を考慮するようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

刊行物等一覧
刊行物1:特開平11-298523号公報
刊行物2:特開2000-324130号公報」

「拒絶査定の概要
この出願については、平成26年12月25日付け拒絶理由通知書に記載した
理由1,4によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだ
せません。」

そうすると、原査定の拒絶の理由の趣旨は、理由1、4によって拒絶をすべきものというものである。

3.原査定の理由についての当審の判断
(1)理由1について
本願明細書の段落【0023】における「「プライオリティインデックス(Priority Index)」は、「遅延およびデータ転送速度(Delay and Data Rate)」の基準に基づいて計算される。「データ転送速度インデックス(Data Rate Index)」の計算は、パケットを送信するために使用される瞬間的なデータ転送速度を考慮に入れる。高いデータ転送速度は、送信間隔時間(medium time)が少なくて済み、プライオリティが高い。このことにより、システム全体のスループットは改善するが、ユーザにとっては、瞬間的なデータ転送速度の遅さに伴う遅延を増加させる可能性がある。「遅延インデックス(Delay Index)」の計算は、トラフィックフローごとのQoS要件を反映するため、各待ち行列における最初のパケットの遅延(すなわち、そのパケットが待ち行列において費やした時間)、および待ち行列の大きさを考慮に入れる。」の記載に加え、平成26年10月8日付け意見書の「(3)理由1について」の項を参酌すると、請求項1,3の「関連付けられるサイズ」、「スケジューリング伝送間の遅延」、「データレート」は、それぞれ、「待ち行列の大きさ」、「そのパケットが待ち行列において費やした時間」、「データ転送速度」に相当するものであることは明らかである。

(2)理由4について
ア 刊行物の記載事項
刊行物1(特開平11-298523号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、パケット・スケジューリング方法に関し、特に超高速ネットワークを構成する中継ノードにおいて、各フローに対し中継ノードのパケット転送処理能力の割り当てを行うパケット・スケジューリングの制御方法に関するものである。」(2頁1欄)

ロ.「【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来のパケット・スケジューリング方法は、以下のような問題点があった。まず、WFQ(重み付き公平待ち行列化)などのタイムスタンプ・アルゴリズムでは、ルータに到着するそれぞれのパケットについて、あまりにも多くの変数を用いて計算を行うため、タイムスタンピング・アルゴリズムを超高速ネットワークで使用するのは困難であった。
【0008】また、WRR(重み付きラウンド・ロビン)などのフレーム単位でのアルゴリズムは、バースト性が高いトラフィックに極めて弱いため、遅延ジッタが大きいという問題点があった。本発明はこのような課題を解決するためのものであり、WFQよりも実施が容易であるとともに、WRRと比較して遅延ジッタ性能を向上できるパケット・スケジューリング方法を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】このような目的を達成するために、請求項1の発明は、パケット・スケジューリング方法において、各フローが要求するサービス転送速度に対応する時間量を示す重みと、各フローの待ち行列長とに基づいて、各フローのパケットを転送する優先順位を示す優先インデックスを算出し、これら優先インデックスの大きい順に各フローを並び替えて優先ソートリストに格納し、この優先ソートリストの先頭フローから順にパケットを転送することにより、各フローに対してパケット転送能力を割り当てるようにしたものである。したがって、各フローの重みと待ち行列長という極めて比較的少ない数の変数に基づいて優先インデックスが算出されて、パケット転送能力が割り当てられるとともに、各フローのトラフィック変化を反映した優先ソートリストに応じて迅速な優先処理が実行される。」(2頁2欄?3頁3欄)

ハ.「【0013】以下、本発明の基本となる優先インデックスを用いたアルゴリズムについて説明する。この考え方によれば、時間軸上に同じ長さのフレームを設け、各フレーム内においてその接続処理時に予め固定的に重みwi という時間量を各フローFi に割り当てることにより、各フローが要求するサービス転送速度を各フレームごとに保証するものとなっている。
【0014】さらに、待ち行列へ着信するフローの優先順位を示す値、すなわち優先インデックスが格納されている優先インデックス・テーブルを使用して、前述したWRRなどの静的なスケジューラとは異なり、それぞれのフローの瞬間的な「サービス需要」に対応した処理が可能となる。
【0015】図1において、N本(Nは2以上の整数)の各フローF1 ?FN には、それぞれのフロー接続処理時に、重みw1 ?wN が所定の方法により割当てられる。各フローから到着したパケットは、各フローごとに設けられたキュー・バッファ(待ち行列)Q1 ?QN に格納される。
【0016】優先インデックス・テーブル11には、各フローごとに優先インデックスu1?uN が格納されている。これら優先インデックスは、パケット転送シーケンス(ラウンド)の開始の直前タイミング(時刻t)に、次の式に基づいて更新される。
ui(t)=qi(t)/wiただし、i=1‥N、qi(t)は時刻tにおけるフローFi のキュー・バッファQi の長さ、wi はフローFi に予め割り当てられた重みを示す。
【0017】このようにして、各フローF1 ?FN の優先インデックスu1 ?uN を更新した後、これら優先インデックスを大きさの順に並び替え(ソート)する。続いて、優先インデックスが大きい順に各フローを順に選択し(ラウンド)、選択されたフローの重みwが残っている場合(w>0の場合)に限り、対応するフローのキュー・バッファQからパケットを読み出して送出する。
【0018】そして、各フローの選択が一巡し終わった時点(ラウンド終了時点)で、各フローの新たな待ち行列の長さとパケット読み出しに応じて減算された重みとに基づいて、各優先インデックスu1 ?uN が再計算され、次のパケット転送シーケンスが開始される。これにより、当初割り当てられた重みだけではなく、トラフィックにより変化する待ち行列の長さに応じてもパケット転送能力が各フローに割り当てられるものとなり、バースト的なトラフィックに対応できる。
【0019】本発明は、このような優先インデックスを用いたアルゴリズムを基本とし、図1に示すように、前述した優先インデックステーブルを用いた構成に対して、優先ソートリスト13を設けて、実際のパケット転送シーケンス(ラウンド)ごとに、全フローの優先インデックスの大きい順(降順)に格納するとともに、この優先ソートリスト13に基づいて各フローからパケットを転送するようにしたものである。
【0020】これにより、従来のWFQ方式と比較して、極めて少ない変数に基づいてスケジューリングを行うことができ、中継ノードにおいて容易に実施でき、かつ処理負担を軽減できる。また、任意のフローでバースト的なトラフィック変動が発生した場合でも、これに応じてそのフローを直ちに高優先で処理でき、従来のWRRのアルゴリズムに比較して、遅延ジッタを大幅に低減できる。
【0021】また、各フローごとに設定された所定のしきい値ei (しきい値テーブル12)と、各フローの優先インデックスuI とを比較し、その比較結果に応じて優先ソートリスト13への追加要否を判断して、優先ソートリスト13へ追加するフローを制限するようにしてもよく、より効果的にフロー選択処理の所要時間を短縮できる。
【0022】以下、所定のしきい値ei を用いて、優先ソートリスト13への追加要否を判断する場合について詳細に説明する。図3はパケット・スケジューリング処理動作を示すフローチャート、図4はフロー転送処理動作を示すフローチャート、図5はパケット転送処理動作を示すフローチャートである。
【0023】中継ノードでは、図3に示すように、パケット・スケジューリング処理として、まず、各フローF1 ?FN のキュー・バッファQ1 ?QN を検査することにより未転送パケットの有無を確認し(ステップ30)、未転送パケットがない場合は(ステップ30:NO)、任意のフローから新たなパケットが到着するまで待機する。
【0024】一方、未転送パケットがある場合は(ステップ30:YES)、各フローF1?FN に予め設定されている重みw1 ?wN を合計することにより1フレームの長さ(フレーム長)Lを算出する(ステップ31)。次に、ラウンドごとの処理として、まず、優先ソートリスト13(図1参照)を初期化し(ステップ32)、前述と同様にして、最新の待ち行列の長さに基づいて各フローの優先インデックスu1 ?uN を算出し、優先インデックステーブル11に格納する(ステップ33)。
【0025】続いて、任意のフローFi の優先インデックスui とそのフローFi に対して予めしきい値テーブル12に設定されているしきい値ei とを比較する(ステップ34)。このしきい値ei は、フローFi を優先リストテーブル13へ追加するか否かを判断するための値であり、各フローの重みwi と同様に呼設定時に算出され、しきい値テーブル12に格納される。
【0026】通常、例えばトラフィック急増などにより、フローFi が緊急性を要する場合、その優先インデックスui も大きくなり、優先インデックスui の大きいものから順に優先的に選択されて処理される。この場合、全フローの数すなわちコネクション数が大きくなれば、優先インデックスui の大きさに基づくフロー選択処理も大きくなり、中継ノードにおける処理負担が増加し、パケット転送の遅延が生じる場合がある。
【0027】一方、トラフィックがあまり増加していない各フローでは、優先インデックスui に応じた順で選択した場合でも、処理負担の小さい適当な順序、例えば呼設定順や各フローに割り当てられた番号順に選択した場合でも、そのフローに対する順序的優先による輻輳回避効果はあまり変わらないと考えられる。
【0028】このことから、これら優先インデックスが小さく、優先度が低いフローについては、優先インデックスに基づくフロー選択を実行せず、処理負担の小さい適当な順序によりフロー選択を行うことにより、中継ノードでの処理負担が軽減され、パケット転送の遅延発生が回避される。
【0029】したがって、このしきい値ei には、各フローの優先インデックス値のうち、優先インデックスに基づくフロー選択処理による効果と、これにより増加する処理負担との平衡点を示す値が設定される。実際には、このしきい値ei は、中継ノードが使用されるネットワークのタイプ(バックボーンなど)、ネットワークに挿入されるトラフィックのタイプ、中継ノードを利用する予想ユーザ数などによって異なる。
【0030】例えば、呼設定時にアプリケーションから要求された転送レート、バッファサイズ、さらにはIETF(Internet Engineering Task Force )で提唱されているトークン・バケット・モデルにおけるトークン・バケットサイズなど、フローFi の性質を示す各種パラメータを用いて算出するようにしてもよい。
【0031】このようにして、ステップ34でしきい値ei と優先インデックスui とが比較され、ui ≧ei の場合にのみ(ステップ34:YES)、フローFi がその優先インデックスui の大きい順(降順)に、優先ソートリスト13に追加される(ステップ35)。そして、各フローのui のチェックが、同様にして繰り返し実施される(ステップ36:NO)。
【0032】すべてのフローのチェックが終了した後(ステップ36:YES)、図4(a)に示すように、優先ソートリスト内に追加されたフローに対する転送処理が実行される(ステップ37)。ここでは、まず、優先ソートリスト13(図1参照)のうち、先頭から順にフローFi が選択され(ステップ40)、そのフローFi に対するパケット転送処理が実行される(ステップ41)。
【0033】なお、任意のフローFi に対するパケット転送処理は、図5に示すように、その重みwi が0より大きい場合は(ステップ50:YES)、フローFi へのネットワーク資源割当量を使い切っておらず、パケット転送可能と判断して、フローFi のキュー・バッファQi から1パケット(単位パケット数)を読み出して転送し、その重みwi とフレーム長とをそれぞれ1パケット(単位パケット数)分減算する(ステップ51)。
【0034】また、重みwi が0より大きくない場合は(ステップ50:NO)、フローFi へのネットワーク資源割当量を使い切っており、パケット転送不可と判断して、現フレーム内でのフローFi からのパケット転送を禁止する(ステップ52)。
【0035】このようにして、図4(a)のステップ41で、選択されたフローFi から1パケット(単位パケット数)転送された後、優先ソートリスト13内の他のフローが、リストの先頭から順(優先インデックスの降順)に選択され(ステップ42:NO)、転送処理が実行される。そして、優先ソートリスト13内のすべてのフローについて転送処理が行われた後(ステップ42:YES)、処理が終了する。
【0036】このようにして、図3のステップ37で、優先ソートリスト13内のフローに関する転送処理が実行された後、図4(b)に示すような、優先ソートリスト13に追加されなかったフローの転送処理が実行される(ステップ38)。
【0037】まず、優先ソートリスト13外のフローを所定の順序で選択する(ステップ45)。ここでは、公知の一般的なラウンド・ロビン方式によるフロー選択、例えば呼設定順や各フローに割り当てられた番号順によりフローが順に選択され、優先インデックスに基づく順序での選択時より処理負担が軽減される。
【0038】そして、前述の図4(a)と同様に、選択されたフローのパケット転送処理が行われ(ステップ46)、選択されたフローFi から1パケット(単位パケット数)転送された後、優先ソートリスト13外の他のフローが、所定の順に選択され(ステップ47:NO)、転送処理が実行される。そして、優先ソートリスト13外のすべてのフローについて転送処理が行われた後(ステップ47:YES)、処理が終了する。
【0039】このようにして、図3のステップ38で、優先ソートリスト13外のフローに関する転送処理が実行された後、残りのフレーム長Lにより、1フレーム内でのパケット転送処理の継続可否が判断される(ステップ39)。ここで、L>0の場合は(ステップ39:YES)、前述したステップ32に戻って、新たなラウンドにおける転送処理を継続する。
【0040】また、フレーム長L>0以外の場合は(ステップ39:NO)、残りのフレーム長Lがなく、1フレーム内でのパケット転送処理を継続不可と判断して、前述したステップ30に戻り、次の新たなフレームにおけるパケット転送処理を開始する。
【0041】したがって、1フレーム内では、図2に示すような順序で各フレームのパケットが転送される。図2はパケット転送出力例を示す説明図である。各フローF1 ?FN の重みw1 ?wN の総和を長さとして持つフレームが、時間軸上に設けられている。
【0042】フレーム内には、各ラウンドが設けられており、ラウンド内において、自己の重みwi を使い切っていない各フローFi から1パケット(単位パケット数)ずつ読み出されて転送される。この場合、1ラウンド内では、前述の図3で説明したように、まず、各フローの優先インデックスu1 ?uN が新たに算出され、しきい値e1 ?eN との比較結果により優先ソートリストが更新される(時刻21)。
【0043】続いて、優先ソートリスト13に追加されている順、すなわち各フローの優先インデックスui の大きいものから順に、フローF(umax )?F(umin )が選択され、1パケット(単位パケット数)ずつ転送される。優先ソートリスト内の各フロー選択が終了した後、優先ソートリスト外の各フローが所定の順序で選択され、1パケット(単位パケット数)ずつ転送される。
【0044】自己の重みwi を使い切っていないすべてのフローから1パケット(単位パケット数)ずつ転送された時点で、1ラウンドが終了し、新たなラウンドが開始される(時刻22,23)。このようにして、フレーム長Lに残りがなくなるまで、ラウンドが繰り返され、フレーム長がなくなった時点で、新たなフレームが繰り返し開始される(時刻24)。
【0045】このように、各フローFi について、その優先インデックスui としきい値ei との比較結果に応じて、優先ソートリストへの追加要否を判断するようにしたので、より効果のあるフローのみを選択して優先ソートリストへ追加でき、追加フロー数を低減させた分だけ、中継ノードの処理負担を軽減できる。」(3頁4欄?5頁8欄)

上記刊行物1の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記イ.の【0001】における「本発明は、パケット・スケジューリング方法に関し、特に超高速ネットワークを構成する中継ノードにおいて、各フローに対し中継ノードのパケット転送処理能力の割り当てを行うパケット・スケジューリングの制御方法に関するものである。」との記載、上記ハ.の【0015】における「図1において、N本(Nは2以上の整数)の各フローF1 ?FN には、それぞれのフロー接続処理時に、重みw1 ?wN が所定の方法により割当てられる。各フローから到着したパケットは、各フローごとに設けられたキュー・バッファ(待ち行列)Q1 ?QN に格納される。」との記載、同ハ.の【0016】における「優先インデックス・テーブル11には、各フローごとに優先インデックスu1?uN が格納されている。」との記載、及び図1によれば、刊行物1の中継ノードは、フロー(F1 ?FN)のキュー・バッファ(待ち行列)(Q1 ?QN)と、フロー(F1 ?FN)のキュー・バッファ(待ち行列)(Q1 ?QN)のそれぞれについてフローの優先インデックス(u1?uN)を得るように構成される手段を備えているということができる。ここで、同ハ.の【0016】における「これら優先インデックスは、パケット転送シーケンス(ラウンド)の開始の直前タイミング(時刻t)に、次の式に基づいて更新される。ui(t)=qi(t)/wiただし、i=1‥N、qi(t)は時刻tにおけるフローFi のキュー・バッファQi の長さ、wi はフローFi に予め割り当てられた重みを示す。」との記載によれば、前述のフローの優先インデックス(u1?uN)は、フローFi に予め割り当てられた重み、フローFi のキュー・バッファQi の長さから得られるということができる。
また、上記ロ.の【0009】における「請求項1の発明は、パケット・スケジューリング方法において、各フローが要求するサービス転送速度に対応する時間量を示す重みと、各フローの待ち行列長とに基づいて、各フローのパケットを転送する優先順位を示す優先インデックスを算出し」との記載によれば、前述のフローFi に予め割り当てられた重みは、サービス転送速度に関連付けられているということができる。
また、前述の得られたフローの優先インデックス(u1?uN)は、プライオリティに関連付けられていることは明らかである。
また、上記ハ.の【0043】における「優先ソートリスト13に追加されている順、すなわち各フローの優先インデックスui の大きいものから順に、フローF(umax )?F(umin )が選択され、1パケット(単位パケット数)ずつ転送される。優先ソートリスト内の各フロー選択が終了した後、優先ソートリスト外の各フローが所定の順序で選択され、1パケット(単位パケット数)ずつ転送される。」との記載によれば、刊行物1の中継ノードは、得られたフローの優先インデックス(u1?uN)に基づいて、フローF(umax )?F(umin )が選択され、1パケット(単位パケット数)ずつ転送されるということができる。

したがって、上記刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「中継ノードであって、
フロー(F1 ?FN)のキュー・バッファ(待ち行列)(Q1 ?QN)と、
前記フロー(F1 ?FN)のキュー・バッファ(待ち行列)(Q1 ?QN)のそれぞれについてフローの優先インデックス(u1?uN)を得るように構成される手段であって、前記フローの優先インデックス(u1?uN)は、フローFi に予め割り当てられた重み、フローFi のキュー・バッファQi の長さから得る手段と、
を備え、
前記フローFi に予め割り当てられた重みは、サービス転送速度に関連付けられ、前記得られたフローの優先インデックス(u1?uN)は、プライオリティに関連付けられ、前記手段は、前記得られたフローの優先インデックス(u1?uN)に基づいて、フローF(umax )?F(umin )が選択され、1パケット(単位パケット数)ずつ転送される、
中継ノード。」

また、刊行物2(特開2000-324130号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ATM交換機がもつバッファ量やATMネットワーク帯域が有限であることを鑑みて、それそれの送信データやコネクションのもつ要求品質や優先度を考慮にいれ、交換機やネットワークのもつ有限なリソースをより効率をより効率よく使用するATMセル化回路、及びATMセル化方法に関する。」(4頁6欄)

ロ.「【0048】図1は、本発明のセル化回路の一実施例における構成図である。図1においてセル化回路1は、ノンブロッキングのセル化処理を行うために出力方路毎に独立に送信要求キュー2、キュー読み出し制御部3、及びフレーム情報格納部4を備え、その出力側にはフレームバッファに接続されたセル分割多重部5を備えている。セル分割多重部5は、フレーム情報格納部4によって方路毎に情報の格納が完了したフレームの中から、ATMスイッチコア6から通知される各方路の輻輳状態や、フレーム情報格納部4が収集したフレームの送信優先度に従ってセル化するフレームを選択し、セル化を行い多重化してスイッチコア6へセルを送出する。
【0049】セル化回路1を接続するATMスイッチコア6は、方路毎に出力バッファを有するいわば出力バッファ型のATMスイッチとする。ATMスイッチコア6の有する方路毎の出力バッファはそれぞれm個の閾値を有し、出力バッファにおけるセルの蓄積数と閾値との比較によりすべての出力方路におけるm段階の輻輳状態をセル化回路1に通知できる。
【0050】また、ここで説明するセル化回路1はAAL-5(ATM Adaptation Layer type5)に対応したものとする。
【0051】セル化回路1は、方路毎にフレームの送信要求キュー2をもつが、この送信要求キュー2はフレームの品質クラス及び出力コネクション毎に複数存在する。フレームの品質クラスはトラヒッククラスに対応するものであり、デジタル化された音声や映像などで扱われるCBR(constant bit rate)や、パケット化された音声などのトラヒックに使われるVBR(variablebit rate)等がある。フレームの送信要求があると、品質クラスに応じてそのフレームに対して優先度が静的に与えられ、この優先度に対応して送信要求キュー2の該当する段に情報が積み込まれる。
【0052】キュー読み出し制御部3は、積み込みのある送信要求キュー2の中からより高優先のキューを選択し、情報の読み出しを行う。
【0053】フレーム情報格納部4は、送信要求キュー2から読み出した情報を基に送信要求のあったフレームの情報(ディスクリプタ)及び静的に与えられたフレームの送信優先度を収集し格納する。ディスクリプタは、図8に示されるように、フレームバッファにおいて当該フレームの実態を格納した位置を示す先頭アドレス(Frame Start Address)、フレームのデータの長さを示すフレーム長(Frame Length)、フレームの出力方路を識別するための出力コネクション(VPI,VCI)等がある。
【0054】フレーム情報格納部4は、ディスクリプタの格納を完了すると、格納したフレームの情報とともにセル化要求をセル分割多重部5に対して発する。セル分割多重部5がフレーム情報格納部4からのセル化要求を受けセルを送出した後、フレーム情報格納部4では格納するフレームの情報を更新する。先頭アドレスについては1つのATMセルのペイロード長は48バイトであるので、セル分割多重部5が1セル送出する度に「+48バイト」として次にセル化するデータの格納位置を示し、また残フレーム長については「-48バイト」といった具合に更新する。
【0055】また、フレーム情報格納部4には内部に送信タイマが備えられており、フレーム情報格納部4がフレームの情報の格納を完了したときから、セル分割多重部5がフレーム情報格納部4からのセル化要求およびフレームの情報を受け、該当するフレームをセル化し送出するまでの時間を計測し、予め定められたタイムアウト値に達しても送信が完了しなかった場合は、セル分割多重部5によってフレームバッファから該当フレームを廃棄させる。
【0056】セル分割多重部5において1フレームのセル化/送出が完了、もしくはフレームの廃棄が発生した場合、フレーム情報格納部4はセル分割多重部5へのセル化要求をやめ、次の新たなフレームの情報の格納を行う。
【0057】ここで、前述したように、フレーム情報格納部4がセル化要求とともにセル分割多重部5に通知する情報としてフレームの優先度があるが、この優先度は内部状態に応じて動的に変化する。優先度の初期値はフレーム毎に決められた品質クラス、および出力コネクション種別により決定され、ここからセル化回路の内部状態に応じて優先度を段階的に高くする。
【0058】優先度を高める第一の条件は、フレーム情報格納部4に備えた送信タイマが示す送信タイマ値である。セル分割多重部5は後述するがより優先度の高い要求から順に受け付けるため、優先度の低いフレームのセル化要求がいつまでたっても受け付けられずタイムアウトによるフレーム廃棄が多発する恐れがある。本発明においては、送信タイマ値が上がっていくに従って優先度を段階的に上げていき、優先度が低いフレームについてもセル化待ち時間に制限をもたせることができる。」(8頁13?14欄)

上記刊行物2の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記イ.の【0001】における「本発明は、・・・それそれの送信データやコネクションのもつ要求品質や優先度を考慮にいれ、交換機やネットワークのもつ有限なリソースをより効率をより効率よく使用するATMセル化回路・・・に関する。」との記載、上記ロ.の【0058】における「優先度を高める第一の条件は、フレーム情報格納部4に備えた送信タイマが示す送信タイマ値である。セル分割多重部5は後述するがより優先度の高い要求から順に受け付けるため、優先度の低いフレームのセル化要求がいつまでたっても受け付けられずタイムアウトによるフレーム廃棄が多発する恐れがある。本発明においては、送信タイマ値が上がっていくに従って優先度を段階的に上げていき、優先度が低いフレームについてもセル化待ち時間に制限をもたせることができる。」との記載、及び図1によれば、刊行物2のATMセル化回路は、優先度が低いフレームについてもセル化待ち時間に制限をもたせるために、送信タイマ値が上がっていくに従って優先度を段階的に上げていることが読み取れる。

したがって、上記刊行物2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「ATMセル化回路において、優先度が低いフレームについてもセル化待ち時間に制限をもたせるために、送信タイマ値が上がっていくに従って優先度を段階的に上げていくこと。」

イ 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
a.引用発明1の「フロー(F1 ?FN)のキュー・バッファ(待ち行列)(Q1 ?QN)」は、本願発明の「複数のデータ待ち行列」ということができる。
b.引用発明1の「フローの優先インデックス(u1?uN)」は、本願発明の「第1の値」に相当する。
c.引用発明1の「フローFi に予め割り当てられた重み」は、フローFi に予め割り当てられた重みが、サービス転送速度に関連付けされていることから、本願発明の「第2の値」に相当する。
d.引用発明1の「前記フローFi のキュー・バッファQi の長さ」は、本願発明の「各データ待ち行列に関連付けられるサイズ」ということができる。
e.引用発明1の「前記フローの優先インデックス(u1?uN)は、フローFi に予め割り当てられた重み、フローFi のキュー・バッファQi の長さから得る手段」と、本願発明の「前記第1の値は、第2の値、各データ待ち行列に関連付けられるサイズ、および各データ待ち行列についてのスケジューリング伝送間の遅延から得られ、スケジューリング伝送間の前記遅延は、時と共に変化する、回路」とは、上記c、dの検討を踏まえると、「前記第1の値は、第2の値、各データ待ち行列と関連付けられるサイズを含むものから得られ、回路」で共通する。
f.引用発明1の「前記得られたフローの優先インデックス(u1?uN)に基づいて、フローF(umax )?F(umin )が選択され、1パケット(単位パケット数)ずつ転送される」と、本願発明の「前記得られた第1の値に基づいて伝送のための前記データ待ち行列の少なくとも一つからデータを選択するようにさらに構成される」とは、後述する相違点を除いて、「前記得られた第1の値に基づいて伝送のためのデータ待ち行列の一つからデータを選択するようにさらに構成される」という点で一致する。
g.引用発明1の「中継ノード」と、本願発明の「無線デバイス」とは、後述する相違点を除いて、「通信装置」という点で一致する。

したがって、本願発明と引用発明1は、以下の点で一致ないし相違している。

<一致点>
「通信装置であって、
複数のデータ待ち行列と、
前記複数のデータ待ち行列のそれぞれについて優先度を得るように構成される回路であって、前記第1の値は、第2の値、各データ待ち行列に関連付けられるサイズを含むものから得られ、回路と
を備え、
前記第2の値は、データレートに関連付けられ、前記得られた第1の値は、プライオリティに関連付けられ、前記回路は、前記得られた第1の値に基づいて伝送のためのデータ待ち行列の一つからデータを選択するようにさらに構成される、
通信装置。」

<相違点1>
一致点の「通信装置」に関し、
本願発明は、「無線デバイス」であるのに対し、引用発明1は、「中継ノード」である点。

<相違点2>
一致点の「前記第1の値は、第2の値、各データ待ち行列に関連付けられるサイズを含むものから得られ、回路」に関し、
本願発明は、更に「および各データ待ち行列についてのスケジューリング伝送間の遅延」を有し、「スケジューリング伝送間の前記遅延は、時と共に変化する」のに対し、引用発明1は、その様な構成を有しない点。

ウ 判断
そこで、上記相違点2について検討する。
上記「ア 刊行物の記載事項」の項のとおり、刊行物2には、「ATMセル化回路において、優先度が低いフレームについてもセル化待ち時間に制限をもたせるために、送信タイマ値が上がっていくに従って優先度を段階的に上げていくこと。」との引用発明2が記載されている。しかしながら、刊行物1の上記ロ.の【0020】における「従来のWFQ方式と比較して、極めて少ない変数に基づいてスケジューリングを行うことができ、中継ノードにおいて容易に実施でき、かつ処理負担を軽減できる。また、任意のフローでバースト的なトラフィック変動が発生した場合でも、これに応じてそのフローを直ちに高優先で処理でき、従来のWRRのアルゴリズムに比較して、遅延ジッタを大幅に低減できる。」との記載によれば、引用発明1は、極めて少ない変数に基づいてスケジューリングを行う目的を有することから優先インデックスに新たな変数を追加する動機が見当たらず、また、引用発明1は、バースト的なトラフィック変動が発生した場合でもフローを直ちに高優先で処理するという技術思想を前提とするのに対し、引用発明2は、「ATMセル化回路」を対象として優先度の低いフレームの廃棄を少なくするための発明である点で発明の前提が大きく異なっている。このため引用発明1に引用発明2を適用して本願発明の相違点2に係る構成を当業者が容易に想到し得たということはできない。

エ 小活
したがって、本願発明は、上記相違点1について検討するまでもなく、引用発明1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

請求項2は、請求項1を引用する従属項であり、本願発明の発明特定事項を含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記ウと同じ理由により、引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

請求項3は、請求項1の「無線デバイス」のカテゴリーを「方法」としたものであり、本願発明の発明特定事項を含んでいるから、上記ウと同じ理由により、引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

請求項4は、請求項3を引用する従属項であり、本願発明の発明特定事項を含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記ウと同じ理由により、引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

4.むすび
以上のとおり、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-08-18 
出願番号 特願2013-193226(P2013-193226)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04L)
P 1 8・ 572- WY (H04L)
P 1 8・ 561- WY (H04L)
P 1 8・ 537- WY (H04L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 森谷 哲朗  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 萩原 義則
山中 実
発明の名称 無線LANにおけるパケットスケジューリング  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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