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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特29条の2  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1318092
異議申立番号 異議2016-700237  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-22 
確定日 2016-08-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第5784819号発明「固体電解質二次電池用電極、固体電解質二次電池および電池パック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5784819号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5784819号の請求項1?6に係る特許についての出願は、2012年3月15日を国際出願日とする出願であって、平成27年7月31日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人増山良裕により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
特許第5784819号の請求項1?6に係る発明(以下それぞれ「本件発明1?6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
活物質粒子と、前記活物質粒子に接触して存在する第1の固体電解質粒子と、前記活物質粒子間の間隙に存在する第2の固体電解質粒子とを含む固体電解質二次電池用電極であって、
前記第1の固体電解質粒子は、0.05μm以上0.5μm以下の粒径を有し、かつ前記第1の固体電解質粒子の粒径をD1、前記第2の固体電解質粒子の粒径をD2とすると、前記粒径D1に対する前記粒径D2の粒径比率(D2/D1)は3<D2/D1<50である固体電解質二次電池用電極。
【請求項2】
前記活物質粒子は、0.1μm以上10μm以下の粒径を有する請求項1記載の固体電解質二次電池用電極。
【請求項3】
前記第1、第2の固体電解質粒子は、ガーネット型構造を有し、式 Li_(5+x)La_(3)M_(2-x)Zr_(x)O_(12)(Mは、Nb,Taのうち少なくとも1つである)で表される酸化物固体電解質から作られる請求項1記載の固体電解質二次電池用電極。
【請求項4】
前記第1、第2の固体電解質粒子は、(1-x-y)Li_(2)S・xGeS_(2)・yP_(2)S_(5)(0≦x<0.5、0≦y<0.4)で表わされる硫化物固体電解質から作られる請求項1記載の固体電解質二次電池電極。
【請求項5】
正極と、負極と、固体電解質層とを備える固体電解質二次電池であって、
正極および負極の少なくとも一方の電極は、活物質粒子と、前記活物質粒子に接触して存在する第1の固体電解質粒子と、前記活物質粒子間の間隙に存在する第2の固体電解質粒子とを含み、前記第1の固体電解質粒子は、0.05μm以上0.5μm以下の粒径を有し、かつ前記第1の固体電解質粒子の粒径をD1、前記第2の固体電解質粒子の粒径をD2とすると、前記粒径D1に対する前記粒径D2の粒径比率(D2/D1)は3<D2/D1<50である固体電解質二次電池。
【請求項6】
請求項5記載の固体電解質二次電池を含む電池パック。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、特開2009-211950号公報(以下、「甲第1号証」という。)、特開2009-187911号公報(以下、「甲第2号証」という。)、国際公開第2012/026583号(以下、「甲第3号証」という。)、特願2012-14379号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(特開2013-157084号公報参照。以下、「甲第4号証」という。)を提出し、以下の申立理由1-1?申立理由5によって請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

申立理由1-1
本件特許の請求項1?2、4?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
申立理由1-2
本件特許の請求項1?2、5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
申立理由1-3
本件特許の請求項1?2、4?5に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
申立理由2
本件特許の請求項1?2、4?6に係る発明は、甲第1号証?甲第3号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
申立理由3
本件特許の請求項1?6に係る発明は、甲第4号証に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、その特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。
申立理由4
本件特許の請求項3?5に係る発明は、効果を奏することが不明であり、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないものであり、また、当業者が実施できる程度に発明の詳細な説明の記載が明確かつ十分に記載されているものでもないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
申立理由5
本件特許の請求項1?6に係る発明は明確ではないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

4 甲号証の記載
(1)本件特許の出願前に頒布された甲第1号証には、「固体電解質及びその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。

1ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池等に用いられる固体電解質及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現行のリチウムイオン電池には、電解質として有機系電解液が主に用いられている。有機系電解液は高いイオン伝導度を示すものの、電解液が液体でかつ可燃性であることから電池として用いた場合、漏洩、発火等の危険性が懸念されている。従って、次世代リチウムイオン電池用電解質として、より安全性の高い固体電解質の開発が期待されている。
【0003】
全固体電池を実現するために、固体電解質の開発が精力的に行なわれているが、イオン伝導度が有機系電解液に比べて一般的に小さく、実用化が難しいのが現状である。
また、固体電解質として室温で高いイオン伝導度(10^(-3)S/cm)を示す材料としてLi_(3)Nをベースとするリチウムイオン伝導性セラミックが報告されているが、分解電圧が低く3V以上で作動する全固体電池を構成することが困難であった。
【0004】
かかる課題を解決するために、イオウ元素、リチウム元素及びリン元素を主成分として含有する固体電解質粒子であって、平均粒径が0.1?10μm、全固体電解質粒子の90体積%以上が粒径20μm以下の技術が開発された(特許文献1)。
【0005】
特許文献1の固体電解質粒子を、固体電池の固体電解質層の原料に用いた場合に、固体電池を高エネルギー密度化及び高出力化し、固体電解質層及び電極の界面抵抗を低減することが可能になった。
しかし、特許文献1に記載の固体電解質粒子は、液体溶媒に混合した場合にスラリー状態を一定時間維持させることが容易でなかった。
【特許文献1】特開2008-4459号公報(請求項2等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、液体に混合したときにスラリー状態を一定時間維持できる固体電解質及び所定粒径の固体電解質の製造方法を提供することである。」

1イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
A.固体電解質
本発明の固体電解質は粒子状であり、固体電解質粒子を複数含む。
この固体電解質粒子は、少なくともSとLiとを含む。
固体電解質に含まれるすべての固体電解質粒子の粒径の平均が1.5μm以下であり、より望ましくは0.5μm以上1.5μm以下である。さらに、固体電解質に含まれるすべての固体電解質粒子の内、90%以上の粒子の粒径が2.5μm以下、より望ましくは80%以上の粒子の粒径が0.1μm以上2.5μm以下である。
このような固体電解質粒子を含む固体電解質は、液体にスラリー状に分散させることができ、そのスラリー状態をある程度維持できる。」

1ウ 「【0039】
E.電極
本発明の正極合材は粒子状であり、上記の固体電解質粒子と、正極活物質粒子を含有する。
正極活物質粒子としては市販されているものを特に限定なく使用することができ、リチウムと遷移金属の複合酸化物等を好適に用いることができる。具体的には、LiCoO_(2)、LiNiCoO_(2)、LiNiO_(2)、LiNiMnCoO_(2)、LiFeMnO_(2)、Li_(2)PtO_(3)、LiMnNiO_(4)、LiMn_(2)O_(4)、LiNiMnO_(2)、LiNiVO_(4)、LiCrMnO_(4)、LiFePO_(4)、LiFe(SO_(4))_(3)、LiCoVO_(4)、LiCoPO_(4)、S等の各材料及び各元素の組成比が異なる類似の材料が挙げられる。粒径に関しても特に制限はないが、平均粒径が数μm?10μmのものを好適に用いることができる。
【0040】
本発明の負極合材は粒子状であり、上記の固体電解質粒子と、負極活物質粒子を含有する。
負極活物質粒子としては市販されているものを特に限定なく使用することができ、炭素材料やSn金属、In金属等を好適に用いることができる。具体的には、天然黒鉛や各種グラファイト、Sn、Si、Al、Sb、Zn、Bi等の金属粉、Sn_(5)Cu_(6)、Sn_(2)Co、Sn_(2)Fe等の金属合金粉、その他アモルファス合金やメッキ合金が挙げられる。粒径に関しても特に制限はないが、平均粒径が数μm?80μmのものを好適に用いることができる。
【0041】
電極活物質粒子と固体電解質粒子を所定の割合で混合することにより電極合材(正極合材又は負極合材)を作製できる。電極活物質粒子は、固体重量%(重量%)として、20重量%?95重量%の割合で用いることができる。より好ましくは、50重量%?90重量%であり、さらに好ましくは60重量%?80重量%である。混合する方法としては、乾燥紛体をメノウ乳鉢等で混ぜる方法の他、有機溶媒に直接加えて混合する方法等を用いることができる。」

1エ 「【0044】
本発明の電極合材を用いて電極を形成できる。
例えば、Alフィルム等の集電体上に電極合材を積層して、電極を形成する。形成方法は前述のように電極合材混合液を膜化する方法の他、乾燥粒子を圧縮成形する方法も好適に用いることができる。混合液を用いるときは、例えば、混合液を十分撹拌して粒子を分散させ、基板上に滴下しドクターブレードで膜化したり、スピンコート法、スクリーン印刷により膜化する。」

1オ 「【0048】
リチウム電池は、大電流や大電圧を得ることができるので、電動機を駆動源として用いる電気自動車や、発動機とその他駆動源を組み合わせたハイブリッド電気自動車の電力供給源として、好適に用いることができる。より大型化された形態として電池セルを複数個集合させ直列もしくは並列に接続した電池モジュールがあり、さらに電気自動車に搭載される形態として電池パックや電池ユニットがある。前記リチウム電池はこれらの内電池セルを形成する。」

1カ 「【0052】
実施例1
[固体電解質粗粒子の製造]
上記製造例により製造した平均粒径30μm程度のLi_(2)S 32.54gと平均粒径50μm程度のP_(2)S_(5)(アルドリッチ社製)67.46gを10mmφアルミナボール175個が入った500mlアルミナ製容器に入れ密閉した。上記計量、密閉作業はすべてグローブボックス内で実施し、使用する器具類はすべて乾燥機で事前に水分除去したものを用いた。
【0053】
この密閉したアルミナ容器を、遊星ボールミル(レッチェ社製PM400)にて室温下、36時間メカニカルミリング処理することで白黄色の固体電解質ガラス粗粒子を得た。このときの回収率は78%であった。
得られた粗粒子のX線回折測定(CuKα:λ=1.5418Å)を行なった結果、原料Li_(2)Sのピークは観測されず、固体電解質ガラスに起因するハローパターンであった。
【0054】
上記固体電解質粗粒子をグローブボックス内Ar雰囲気下でSUS製チューブに密閉し、300℃、2時間の加熱処理を施し電解質ガラスセラミック(平均粒径14.52μm)を得た。このガラスセラミック粗粒子のX線回折測定では、2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測された。
この固体電解質ガラスセラミック粗粒子の伝導度は、1.3×10^(-3)S/cmであった。
【0055】
[固体電解質粒子の製造]
上記固体電解質ガラスセラミック粗粒子をアイメックス社製バッチ式レディーミル(RMB-08)により粉砕した。粉砕条件は、800mlZrO_(2)製ポットに0.5mmφZrO_(2)ビーズ1270g、無水トルエン溶媒254g、固体電解質ガラスセラミック粗粒子109gを仕込み、回転数2000rpmで2時間処理し、固体電解質ガラスセラミック粒子スラリーを得た。この固体電解質ガラスセラミック粒子スラリーを、25μm目開きメッシュシートを用いたヌッチェ式真空ろ過を施し0.5mmφZrO_(2)ビーズを分離除去し、固形分濃度が30%の固体電解質ガラスセラミックトルエン混合液を得た。混合液は撹拌状態で均一な白色を呈する分散液となり、約12秒後に液面上部より若干透明になり始めた。静止後の混合液は、再度撹拌することで速やかに(撹拌とほぼ同時に)分散状態となった。分散液底部に粒子の沈降は認められなかった。
【0056】
引き続きデカンテーションにより上澄みトルエンを除去、その後真空脱気下で加熱し固体電解質ガラスセラミック乾燥粒子を得た。
【0057】
[固体電解質粒子の評価]
上記工程で得られた固体電解質ガラスセラミック乾燥粒子の粒径は、倍率10000倍のSEM観察を任意の8視野で実施し、各視野で約60?70個、合わせて約500個の任意の各粒子の長径を測定し求めた。この約500検体のメジアン径D_(50)を平均粒径とした。また、メジアン径10%及び90%を示すD_(10)及びD_(90)を上記粒径分布から求めた。各メジアン径を表1に示す。粉砕前後のSEM像を図1,2に示す。図1は粉砕前の倍率1,000倍のSEM像、図2(a)は粉砕後の倍率10,000倍のSEM像、図2(b)は粉砕後の倍率1,000倍のSEM像を示す。
【0058】
・・・
【0059】
さらに、上記固体電解質粒子とLiCoO_(2)を7:3の重量比で混合して正極合材を作製し、負極にはIn箔を用いた。負極、固体電解質粒子、正極合材、Tiメッシュ、Ti箔をこの順序で積層して組み上げ10?30MPaで圧縮し電池を形成、充放電サイクル曲線を得て評価した。充放電評価は、カットオフ電圧を下限1.5V、上限3.7V、充電後の充電容量に対する放電容量の比により実施した。500mAの充放電の結果、充放電容量比は92%であった。」

1キ 「【表1】



1ク 上記1アの記載によれば、甲第1号証に記載された発明は、次世代リチウムイオン電池である全固体電池を実現するための、液体に混合したときにスラリー状態を一定時間維持できる固体電解質に関するものである。

1ケ 上記1ウの記載によれば、甲第1号証に記載された発明の正極合材は、粒子状であり、固体電解質粒子と、正極活物質粒子を含有するものであり、正極活物質粒子については、平均粒径が数μm?10μmのものを好適に用いることができる。

1コ 上記1カの段落【0057】には、実施例1として製造された固体電解質粒子の粒径について、倍率10000倍のSEM観察を任意の8視野で実施し、各視野で約60?70個、合わせて約500個の任意の各粒子の長径を測定した結果が、上記1キの表1に記載されており、当該表1によれば、実施例1の固体電解質粒子のD_(50)、D_(10)、D_(90)は、それぞれ0.38μm、0.19μm、0.86μmであることが見て取れる。

1サ 上記1カの段落【0059】には、上記1コに記載した固体電解質粒子と、LiCoO_(2)を7:3の重量比で混合することにより正極合材が作製され、また、上記正極合材を他の部材と積層した状態で10?30MPaで圧縮することにより、正極が形成されることが記載されている。ここで、上記LiCoO_(2)は、上記1ウの段落【0039】の記載及び上記1ケの検討を参照すれば、平均粒径が数μm?10μmの正極活物質粒子であるものと認められる。

1シ 上記1ア?1キの記載事項及び1ク?1サの検討事項に基づき、実施例1の電池を構成している正極に関する記載を、本件発明1の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「 平均粒径が数μm?10μmでLiCoO_(2)からなる正極活物質粒子と、固体電解質粒子とを含む、全固体電池用の正極であって、
前記固体電解質粒子は、D_(50)が0.38μmであり、D_(10)が0.19μmであり、D_(90)が0.86μmである全固体電池用の正極」(以下「甲1発明」という。)

(2)本件特許の出願前に頒布された甲第2号証には、「固体電池およびその電極の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
2ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の固体電解質を挟んで正極、負極を有し、少なくとも一方の電極中に第二の固体電解質がn次元(但しn=1、2、3)の鎖状または網目状に形成されている全固体リチウムイオン二次電池。」

2イ 「【技術分野】
【0001】
この発明は固体電池およびその電極の製造方法に関し、全固体型のリチウムイオン電池の正極又は負極として好適なものである。」

2ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明の全固体リチウムイオン二次電池(以下、本発明の電池という)はセパレータとしての固体電解質を挟んで正極、負極が積層され、さらに正極および負極の外側には集電体が積層される。
ここで全固体リチウムイオン二次電池とは、セパレータとしての固体電解質、正極、負極のいずれにも実質的に有機化合物を含まないものをいう。実質的に含まないとは、例えば、質量分析を用いて有機化合物の含有割合が質量基準で500ppm以下をいう。また、有機化合物とは熱処理により気化してプロパン、ブタン、二酸化炭素等として検出されるものであることをいう。
【0012】
本発明の電池は上記の構成において、正極、負極の少なくとも一方においてその少なくとも一部分に固体電解質存在し、その固体電解質がn次元(但しn=1、2、3)の鎖状または網目状に形成されていることを特徴とする。ここで、正極または負極中の固体電解質はセパレータとしての固体電解質と区別するために第二の固体電解質と呼ぶ。また、セパレータとしての固体電解質を第一の固体電解質と呼ぶ。第一の固体電解質と第二の固体電解質の材料は同一でも異なっていてもよい。
【0013】
上記鎖状とは複数の細長い固体電解質が接してイオン伝導経路を形成し、そのイオン伝導経路は閉じている部分が存在しない状態であり、上記網目状とは複数の細長い固体電解質が接してイオン伝導経路を形成し、終端の無い経路を有する状態である。またn次元とは電極中の固体電解質の拡がりかたを表わし、直交するX軸、Y軸、Z軸の3方向を定義するとき、1次は1方向にのみ拡がり、2次は2方向に拡がり、3次は3方向に拡がることを言う。図1?図5は電極中に存在する第二の固体電解質の一部分の形状を模式的に表わした図である。図1は1次元の鎖状、図2は2次元の鎖状、図3は3次元の鎖状、図4は2次元の網目状、図5は3次元の網目状をそれぞれ表わしている。」

2エ 「【0034】
正極グリーンシート及び負極グリーンシートには、イオン伝導を付与するために前記繊維状材料とは別にリチウムイオン伝導性無機物粉末を添加しても良い。具体的には、前記リチウムイオン伝導性のガラスセラミックスを含むことができる。また、固体電解質グリーンシートに含まれるイオン伝導性無機物と同じものを添加するとより好ましい。このように同じ材料を含むと電解質と電極材に含まれるイオン移動機構が共通することができ、電解質?電極間のイオン移動がスムーズに行え得る。従って、より高出力・高容量の電池が提供できる。」

2オ 「【実施例】
【0039】
以下、本発明の固体電池をリチウムイオン二次電池に適用した場合について、具体的な実施例を挙げて説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施し得るものである。
【0040】
(実施例1)
[固体電解質作製]
原料として日本化学工業株式会社製のH_(3)PO_(4)、Al(PO_(3))_(3)、Li_(2)CO_(3)、株式会社ニッチツ製のSiO_(2)、堺化学工業株式会社製のTiO_(2)を使用した。これらを酸化物換算のmol%でP_(2)O_(5)が35.0%、Al_(2)O_(3)が7.5%、Li_(2)Oが15.0%、TiO_(2)が38.0%、SiO_(2)が4.5%といった組成になるように秤量して均一に混合した後に、白金ポットに入れ、電気炉中1500℃の温度で撹拌しながら3時間加熱・熔解してガラス融液を得た。
【0041】
溶融したガラスを白金製のパイプから、キャストしながら、酸水素バーナーの火炎をキャスト溶融ガラスに当て吹き飛ばし、火炎法により水を満たしたステンレス製の水槽中に繊維状のガラスを成型した。得られたガラスをメッシュ穴径36μmのふるいにかけて、メッシュを通過したガラスを乾燥させて繊維状のガラスを得た。
【0042】
得られたガラスの一部をボールミルにて、湿式粉砕し、平均粒子径0.3μmのガラス粉末Aを得た。このガラスは、ベックマン・コールター社製のサブミクロンアナライザーN-5にて測定した。また繊維状のガラスの一部をボールミルにて乾式粉砕し、線径0.3?1μm、長さ1?8μmの繊維状ガラス粉末Bを得た。この繊維状ガラス繊維は日立製S-3000N型走査型電子顕微鏡にて観察した。前記電子顕微鏡像で観察された繊維状ガラスのアスペクト比は全て3以上であった。
また、溶融ガラスの一部をステンレス製容器にキャスト、急冷することによりバルク成型した。このガラスバルク体を1000℃にて熱処理を行い、結晶化した。得られたガラスセラミックスのイオン伝導度を交流インピーダンス法により測定したところ、1.1×10^(-3)S/cmであった。
ガラスAとバインダーとなるアクリル系樹脂、精製水を混合して、スラリーを調整し、ドクターブレード法にて電解質グリーンシートを作製した。この固体電解質グリーンシートを400℃にて脱脂したのち、970℃に急昇温して第一の固体電解質となる焼結体を得た。この焼結体の厚さは30μmで、イオン伝導度は5.5×10^(-4)S/cmであった。」

2カ「【0043】
[正極グリーンシート作製]
日本アライアンス・ナノテクノロジー社製の燐酸鉄リチウムを活物質として用い、乾式粉砕にて、平均粒子径1μmに調整した。また、ガラス粉末Bにスパッタリング法にて白金の皮膜を粒子の一部に形成させた。こうして得た白金皮膜を付与したガラス粉末Bと燐酸鉄リチウムを混合し、その後ガラス粉末Bとバインダーとなるアクリル系樹脂、精製水を混合し、ドクターブレード法にて正極グリーンシートを作製した。グリーンシート内に投入したリン酸鉄リチウム(3.7g/cc)、ガラスA、B(2.8g/cc)はそれぞれ体積比で85:5:10となるように調整した。
【0044】
[負極グリーンシート作製]
石原産業製のチタン酸リチウムを活物質として用い、乾式粉砕にて平均粒子径0.3μmに調整した。この活物質とガラス粉末Bを体積比85:15となるように秤量し、バインダーとなるアクリル系樹脂、精製水とともに混合してスラリーを調整した。
[電池作製]
上記で得られた第一の固体電解質上に正極グリーンシートを積層し、800℃で熱処理した。これにより第一の固体電解質上に正極が形成された。
その後正極と反対側の第一の固体電解質上に負極グリーンシートを積層し、750℃で熱処理した。これにより薄板状の固体電解質上に負極が形成された。
上記で作製した積層体の正極側にアルミニウムを蒸着で形成し、負極側にニッケルを蒸着により形成した。更に、正極側にアルミニウム箔を正極リードとして接続し、負極側に胴箔を負極リードとして接続し、内側を絶縁コートしたアルミラミネートフィルムに封入し、リチウムイオン電池を作製した。
また正極、負極中の固体電解質の形状を日立製S-3000N型走査型電子顕微鏡で観察したところ、n次元(但しn=1、2、3)の鎖状または網目状に形成されていることが確認された。」

2キ 「図1?5



2ク 上記2イの記載によれば、甲第2号証に記載された発明は、全固体型のリチウムイオン二次電池を構成する正極又は負極に関するものである。

2ケ 上記2オの記載によれば、実施例1の全固体型のリチウムイオン二次電池に使用される固体電解質として、平均粒子径0.3μmのガラス粉末Aと、線径0.3?1μm、長さ1?8μmの繊維状ガラス粉末Bの2種類が用意されるものと認められる。

2コ 上記2カの記載によれば、実施例1の全固体型のリチウムイオン二次電池において、平均粒子径1μmの燐酸鉄リチウムからなる活物質粒子と、白金皮膜を付与した、線径0.3?1μm、長さ1?8μmの繊維状ガラス粉末Bと、平均粒子径0.3μmのガラス粉末Aを混合して、正極グリーンシートを作成した後、第一の固体電解質上に上記正極グリーンシートを積層し、800℃で熱処理することにより、正極が形成されるものと認められる。
なお、段落【0043】には「グリーンシート内に投入したリン酸鉄リチウム(3.7g/cc)、ガラスA、B(2.8g/cc)はそれぞれ体積比で85:5:10となるように調整した」と記載されており、グリーンシート内にはガラスA,Bの両者が含まれることが記載されているので、当該グリーンシートの作成方法について記載された「こうして得た白金皮膜を付与したガラス粉末Bと燐酸鉄リチウムを混合し、その後ガラス粉末Bとバインダーとなるアクリル系樹脂、精製水を混合し」について、ガラス粉末Bのみを混合すると記載されていることは明らかな誤記である。そして、段落【0043】に「ガラス粉末Bにスパッタリング法にて白金の皮膜を粒子の一部に形成させた。」と記載されていることからすると、下線を付した二つの上記ガラス粉末Bのうち、「その後バインダーとなるアクリル系樹脂、精製水を混合」するガラス粉末Bはガラス粉末Aであるものと認められる。

2サ 上記2カの段落【0044】には、実施例1の全固体型のリチウムイオン二次電池において、正極グリーンシートを800℃で熱処理して形成された正極を走査型電子顕微鏡で観察すると、固体電解質が、n次元(但しn=1、2、3)の鎖状または網目状に形成されていることが記載されている。ここで、上記2ウの段落【0013】を参照すると、鎖状の固体電解質とは、図1?3に示されているように、複数の細長い固体電解質、すなわち、ガラス粉末Bが接してイオン伝導経路を形成し、そのイオン伝導経路は閉じている部分が存在しない状態のものであり、網目状の固体電解質とは、図4?5に示されているように、複数の細長い固体電解質、すなわち、ガラス粉末Bが接してイオン伝導経路を形成し、終端の無い経路を有する状態のものである。

2シ 上記2ア?2キの記載事項及び2ク?2サの検討事項に基づき、実施例1の全固体型のリチウムイオン二次電池における正極に関する記載を、本件発明1の記載ぶりに則して整理すると、甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「平均粒子径1μmの燐酸鉄リチウムからなる活物質粒子と、n次元(但しn=1、2、3)の鎖状または網目状に形成された固体電解質とを含む全固体型のリチウムイオン二次電池用の正極電極であって、
上記正極は、白金皮膜を付与した、線径0.3?1μm、長さ1?8μmの繊維状ガラス粉末Bと、平均粒子径0.3μmのガラス粉末Aを混合した正極グリーンシートを、第一の固体電解質上に積層し、800℃で熱処理することにより形成した、全固体型のリチウムイオン二次電池用の正極電極。」(以下「甲2発明」という。)

(3)本件特許の出願前に頒布された甲第3号証には、「全固体二次電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
3ア 「技術分野
[0001] 本発明は、全固体二次電池に関する。」

3イ 「[0007] ところが、固体電解質は、その種類により、固体電解質層形成用のスラリーに用いることができる溶媒が制限される。例えば、特許文献1では極性溶媒のNMPをスラリーに用いているが、固体電解質として優れた性能が期待されている、Li_(2)SとP_(2)S_(5)とからなる硫化物ガラスを用いようとした場合、NMPと該硫化物ガラスとが反応するため、リチウムイオン伝導性が低下し、出力特性や高温サイクル特性等の電池特性が低下するという問題があることがわかった。即ち、極性溶媒を用いる系では、優れた固体電解質である硫化物ガラスの使用が制限されるのが現状であった。
しかし、硫化物ガラスと反応しない非極性溶媒を用いようとすると、今度は、前記変性アクリロニトリルゴムを固体電解質のバインダーとして用いた場合は、非極性溶媒に対する溶解性が十分ではないため、固体電解質を均一に分散することができず、非極性溶媒を分散媒とするスラリー組成物の製造が困難であるという問題があることがわかった。
このように、目的に応じて固体電解質の種類を選ぶと、用いる溶媒が限定され、さらに、固体電解質を高度に分散できるバインダーも限られるという問題があった。
[0008] したがって、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、固体電解質として何れの種類を用いる場合であっても、固体電解質の分散性に優れ、また固体電解質の劣化も抑制され、電池の出力特性や高温サイクル特性が良好な全固体二次電池を提供することを目的とする。」

3ウ 「[0020] 本発明に用いる固体電解質は、Li、P及びSのみからなる硫化物ガラス、Li、P及びSのみからなる硫化物ガラスセラミックスだけではなく、後に説明するように、Li、P及びS以外のものを含んでいても良い。
[0021] また、固体電解質の平均粒子径は、好ましくは0.1?50μmの範囲である。固体電解質の平均粒子径を上記範囲とすることで、固体電解質の取扱いが容易となると共に、シート状にする際のスラリー組成物中における固体電解質の分散性が向上するため、シート状に形成することが容易になる。以上の観点から、固体電解質の平均粒子径は0.1?20μmの範囲であることがさらに好ましい。平均粒子径は、レーザー回折で粒度分布を測定することにより求めることができる。」

3エ 「[0101] (実施例1)
<正極活物質層用スラリー組成物の製造>
正極活物質としてコバルト酸リチウム(平均粒子径:11.5μm)100部と、固体電解質としてLi_(2)SとP_(2)S_(5)とからなる硫化物ガラス(Li_(2)S/P_(2)S_(5)=70mol%/30mol%、平均粒子径:0.4μm)150部と、導電剤としてアセチレンブラック13部と、ニトリル基を有する重合単位を含んでなる重合体として水添NBR(日本ゼオン社製Zetpol(登録商標)3300(ニトリル含量23.6%、ヨウ素価7mg/100mg以下))のキシレン溶液を固形分相当で5部とを加え、さらに有機溶媒としてキシレンで固形分濃度58%に調整した後にプラネタリーミキサーで60分混合した。さらにキシレンで固形分濃度74%に調整した後に10分間混合して正極活物質層用スラリー組成物を調製した。正極活物質層用スラリー組成物の粘度は、7,100mPa・sであった。
[0102] <負極活物質層用スラリー組成物の製造>
負極活物質としてグラファイト(平均粒子径:20μm)100部と、固体電解質としてLi_(2)SとP_(2)S_(5)とからなる硫化物ガラス(Li_(2)S/P_(2)S_(5) =70mol%/30mol%、平均粒子径:0.4μm)50部と、ニトリル基を有する重合単位を含んでなる重合体として水添NBR(日本ゼオン社製Zetpol(登録商標)3300(ニトリル含量23.6%、ヨウ素価7mg/100mg以下))のキシレン溶液 を固形分相当で5部とを混合し、さらに有機溶媒としてキシレンを加えて固形分濃度60%に調整した後にプラネタリーミキサーで混合して負極活物質層用スラリー組成物を調製した。負極活物質層用スラリー組成物の粘度は、5,300mPa・sであった。」

3オ 「[0103] <固体電解質層用スラリー組成物の製造>
固体電解質としてLi_(2)SとP_(2)S_(5)とからなる硫化物ガラス(Li_(2)S/P_(2)S_(5)=70mol%/30mol%)100部と、ニトリル基を有する重合単位を含んでなる重合体として水添NBR(日本ゼオン社製Zetpol(登録商標)3300(ニトリル含量23.6%、ヨウ素価7mg/100mg以下))のキシレン溶液 を固形分相当で5部とを混合し、さらに有機溶媒としてキシレンを加えて固形分濃度30%に調整した後にプラネタリーミキサーで混合して固体電解質層用スラリー組成物を調製した。固体電解質層用スラリー組成物の粘度は、82mPa・sであった。得られた固体電解質層用スラリー組成物中の固体電解質の粒度分布を上記基準にて評価した。結果を表1に示す。」

3カ 「[0104] <全固体二次電池の製造> 集電体(アルミニウム)表面に上記正極活物質層用スラリー組成物を塗布し、乾燥(110℃、20分)させて50μmの正極活物質層を形成して正極を製造した。また、別の集電体(銅)表面に上記負極活物質層用スラリー組成物を塗布し、乾燥(110℃、20分)させて30μmの負極活物質層を形成して負極を製造した。」

3キ 「[表1]


なお、上記表3において、実施例3よりも右側部は引用を省略している。

3ク 上記3アの記載によれば、甲第3号証に記載された発明は、全固体二次電池に関するものである。

3ケ 上記3エの記載によれば、実施例1の全固体二次電池の正極を形成するための正極活物質層用スラリーは、平均粒径11.5μmのコバルト酸リチウムからなる正極活物質粒子と、平均粒子径0.4μmのLi_(2)SとP_(2)S_(5)とからなる硫化物ガラスからなる固体電解質粒子と、導電剤、ニトリル基を有する重合単位を含んでなる重合体、及び有機溶媒等を混合して調整されたものである。

3コ 上記3オの記載によれば、実施例1の全固体二次電池の固体電解質層を形成するための固体電解質層用スラリーは、Li_(2)SとP_(2)S_(5)とからなる硫化物ガラスからなる固体電解質粒子と、ニトリル基を有する重合単位を含んでなる重合体、及び有機溶媒等を混合して調整されたものである。また、表1を参照すれば、上記固体電解質粒子の平均粒子径D50は8μmである。

3サ 上記3カの記載によれば、実施例1の全固体二次電池の正極は、集電体表面に上記3ケで検討した正極活物質層用スラリーを塗布し、乾燥させることにより製造されるものである。したがって、上記正極には、上記正極活物質層用スラリーに含まれる、平均粒径11.5μmのコバルト酸リチウムからなる正極活物質粒子と、平均粒子径0.4μmのLi_(2)SとP_(2)S_(5)とからなる硫化物ガラスからなる固体電解質粒子とが含まれるものと認められる。

3シ 上記3ア?3キの記載事項及び3ク?3サの検討事項に基づき、実施例1の全固体二次電池を構成する正極に関する記載を、本件発明1の記載ぶりに則して整理すると、甲第3号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「平均粒径11.5μmのコバルト酸リチウムからなる正極活物質粒子と、平均粒子径0.4μmのLi_(2)SとP_(2)S_(5)とからなる硫化物ガラスからなる固体電解質粒子とを含む全固体二次電池の正極。」(以下「甲3発明」という。)

(4)本件特許の出願の日前の他の特許出願であって、本件特許の出願後に出願公開されたものの願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面である、甲第4号証には、「全固体電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
4ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導抵抗が低く、高充填率の固体電解質層を有する全固体電池に関する。
・・・
【0004】
固体電解質層は、イオンが移動して酸化反応と還元反応を仲立ちする働きをするため、高い電池性能を得るためにはイオンを効率良く伝導する必要がある。そこで、固体電解質層におけるイオン伝導性の向上が検討されている。例えば特許文献1では、微細化された固体電解質粒子を用いた全固体電池が開示されている。微細化された固体電解質粒子を用いることにより、薄層化された固体電解質層を形成することが可能となる。これにより、イオン伝導時に生じる抵抗を抑制し、全固体電池の電池性能の向上を図っている。」

4イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載されるように、高い電池性能を有する全固体電池を得るためには、微細化された固体電解質粒子を用いて固体電解質層を薄層化させることにより、イオン伝導抵抗を抑制することが好ましいとされている。さらに、固体電解質層を薄層化すると、上記固体電解質層に含有される固体電解質粒子の充填率が低い場合、全固体電池の作製過程において、電極活物質層に含有される導電性物質が固体電解質層に混入し短絡が発生しやすくなることから、短絡発生を抑制するには、微細化された固体電解質粒子を用いて充填率を向上させることが好ましいとされている。
しかしながら、固体電解質粒子の微細化により固体電解質層を薄層化させ、且つ、固体電解質層に生じるイオン伝導抵抗を抑制するという効果を十分に得ることができず、電池性能の更なる向上が図れていない。すなわち、従来は、固体電解質粒子は微粒子であるほど充填率の高い薄層の固体電解質層を形成することができ、より高い電池性能が得られると考えられており、固体電解質粒子の微細化により電池性能の低下が生じる可能性については検討されていない。
【0007】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、イオン伝導抵抗が低く、高充填率の固体電解質層を有する全固体電池の提供を主目的とする。」

4ウ 「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、固体電解質粒子の微粒子の大きさによっては、かえって電池性能の低下を生じるという、新たな課題を見出した。固体電解質粒子を微細化しすぎると、固体電解質層内においてイオンが伝導する際に上記粒子同士の接触界面(以下、粒界と省略する場合がある。)に生じる抵抗(以下、粒界抵抗と省略する場合がある。)が高くなる。固体電解質層の薄層化のために上記微細化された固体電解質粒子を用いると、充填率の増加に伴い、上記粒界および上記粒界抵抗も増加し、結果として全固体電池の電池性能の低下が生じるという問題があることを解明した。
また、本発明者らは、平均粒径の小さい固体電解質粒子のみを用いて固体電解質層を形成すると、上述したように固体電解質粒子の充填率を高め、短絡の発生を抑制できる反面、イオン伝導抵抗が増加するという課題があり、一方、平均粒径の大きい固体電解質粒子のみを用いて固体電解質層を形成すると、イオン伝導抵抗の増加を抑制できる反面、固体電解質粒子の充填率が低下するため、薄層化により短絡が発生するという課題があることを見出した。
そこで本発明者らは、平均粒径の大きい固体電解質粒子と、平均粒径の小さい固体電解質粒子と、の2種類の固体電解質粒子を少なくとも含有させることにより、イオン伝導抵抗を抑制し、且つ、充填率の高い、薄層の固体電解質層を得ることを可能とし、上記固体電解質層を用いることにより高電池性能を有する全固体電池が得られることを発見し、本発明を完成するに到った。」

4エ 「【0017】
図1は、本発明の全固体電池の一例を示す概略断面図である。図1に例示する全固体電池の発電要素10は、正極活物質2、第一の固体電解質粒子1aおよび第二の固体電解質粒子1bを含有する正極活物質層5と、負極活物質3と上記第一の固体電解質粒子1aおよび上記第二の固体電解質粒子1bを含有する負極活物質層6と、上記正極活物質層5および上記負極活物質層6の間に形成された、上記第一の固体電解質粒子1aおよび上記第二の固体電解質粒子1bを含有する固体電解質層4と、上記正極活物質層5の集電を行う正極集電体7と、上記負極活物質層6の集電を行う負極集電体8と、を有するものである。
本発明においては、上記固体電解質層4が、平均粒径の大きい第一の固体電解質粒子1aおよび平均粒径の小さい第二の固体電解質粒子1bの2種類の固体電解質粒子(以下、単に「2種類の固体電解質粒子」と省略する場合がある)を含有し、上記第一の固体電解質粒子1aの平均粒径Bμmおよび上記第二の固体電解質粒子1bの平均粒径Cμmが、(1/2)B≧C≧(1/40)Bを満たし、且つ、上記固体電解質層の厚さAμmと上記第一の固体電解質粒子1aの平均粒径BμmとがA>B≧(1/100)Aを満たすことを特徴とする。」

4オ 「【0025】
(1)第一の固体電解質粒子
本発明における固体電解質層に用いられる、第一の固体電解質粒子は、イオン伝導性を有するものであり、上記第一の固体電解質粒子の平均粒径Bμmは、後述する第二の固体電解質粒子の平均粒径Cμmよりも大きく、固体電解質層の厚さAμmと、A>B≧(1/100)Aの関係を有するものである。
【0026】
上記第一の固体電解質粒子の平均粒径Bμmは、具体的には、1.0μm?20μmの範囲内にあることが好ましく、1.5μm?5.0μmの範囲内にあることがよりに好ましい。」

4カ 「【0042】
(2)第二の固体電解質粒子
本発明における固体電解質層に用いられる第二の固体電解質粒子は、イオン伝導性を有するものであり、上記第二の固体電解質粒子の平均粒径Cμmは、上述した第一の固体電解質粒子の平均粒径Bμmよりも小さく、(1/2)B≧C≧(1/40)Bの関係を有するものである。
【0043】
上記第二の固体電解質粒子の平均粒径Cμmは、具体的には0.1μm?1.0μmの範囲内にあることが好ましく、0.1μm?0.5μmの範囲内にあることがよりに好ましい。」

4キ 「【0056】
2.正極活物質層
次に、本発明における正極活物質層について説明する。本発明で用いられる正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質粒子、導電化材および結着材の少なくとも一つをさらに含有していても良い。
【0057】
正極活物質の種類は、全固体電池の種類に応じて適宜選択され、例えば、酸化物活物質、硫化物活物質等を挙げる事ができる。リチウム全固体電池に用いられる正極活物質としては、例えば、LiCo_(2)、LiNiO_(2)、LiCo_(1/3)Ni_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)、LiVO_(2)、LiCrO_(2)等の層状正極活物質、LiMn_(2)O_(4)、Li(Ni_(0.25)Mn_(0.75))_(2)O_(4)、LiCoMnO_(4)、Li_(2)NiMn_(3)O_(8)等のスピネル型正極活物質、LiCoPO_(4)、LiMnPO_(4)、LiFePO_(4)等のオリビン型正極活物質、Li_(3)V_(2)P_(3)O_(12)等のNASICON型正極活物質等を挙げることができる。
【0058】
上記正極活物質の形状としては、例えば粒子形状、薄膜形状等を挙げることができ、中でも粒子形状であることが好ましい。上記正極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径は、例えば、1nm?100μmの範囲内であることが好ましく、10nm?30μmの範囲内であることがより好ましい。
・・・
【0066】
上記正極活物質層の形成方法は、一般的な方法を用いることができる。例えば、正極活物質、固体電解質粒子、結着材および導電化材を含有する正極活物質層形成用ペーストを、後述する正極集電体上に塗工して乾燥させた後、プレスすることにより正極活物質層を形成することができる。」

4ク 「【実施例】
【0080】
以下に実施例および比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
【0081】
[合成例]
(硫化物固体電解質粗材料の合成)
出発原料として、硫化リチウム(Li_(2)S)および五硫化二リン(P_(2)S_(5))を用いた。次に、Ar雰囲気下(露点-70℃)のグローブボックス内で、Li_(2)SおよびP_(2)S_(5)を、75Li_(2)S・25P_(2)S_(5)のモル比(Li_(3)PS_(4)、オルト組成)となるように秤量した。この混合物2gを、メノウ乳鉢で5分間混合した。その後、得られた混合物2gを、遊星型ボールミルの容器(45cc、ZrO_(2)製)に投入し、脱水ヘプタン(水分量30ppm以下)4gを投入し、さらにZrO_(2)ボール(φ=5mm)53gを投入し、容器を完全に密閉した(Ar雰囲気)。この容器を遊星型ボールミル機(フリッチュ製P7)に取り付け、台盤回転数500rpmで、40時間メカニカルミリングを行った。その後、得られた試料を、150℃で乾燥させ、75Li_(2)S・25P_(2)S_(5)ガラスを得た。次に、得られた75Li_(2)S・25P_(2)S_(5)ガラスを、真空中で700℃に加熱することで、表面に残存したヘプタンを炭化させ、本発明の硫化物固体電解質粗材料を得た。
【0082】
(第一の硫化物固体電解質粒子の微細化工程)
上述の合成例により得られた硫化物固体電解質粒子の粗材料1gを、遊星型ボールミルの容器(45ml、ZrO_(2)製)に投入し、脱水ヘプタン(関東化学社製、水分量30ppm以下)8.9g、ブチルエーテル(添加剤、ナカライテクス社製)0.1gを投入し、さらにZrO_(2)ボール(φ=2mm、40g)を投入し、容器を完全に密閉した(Ar雰囲気)。この容器を遊星型ボールミル機(フリッチュ社製、P7)に取り付け、台盤回転数100rpm、0.5時間の条件によりMM法にて粉砕を行い、第一の硫化物固体電解質粒子を得た。
得られた硫化物固体電解質粒子について、レーザー回折・散乱式粒度分析計(MT3300EXII、日機装社製)を用いて、粒子屈折率1.81、粒子透過性、非球形、溶媒屈折率1.43の条件で粒径を確認したところ、平均粒径は20.5μmであった。また、粒度分布D_(90)/D_(10)は4.5であった。
【0083】
(第二の硫化物固体電解質粒子の微細化工程)
上述の合成例により得られた硫化物固体電解質粒子の粗材料1gを、遊星型ボールミルの容器(45ml、ZrO_(2)製)に投入し、脱水ヘプタン(関東化学社製、水分量30ppm以下)8.9g、ブチルエーテル(添加剤、ナカライテクス社製)0.1gを投入し、さらにZrO_(2)ボール(φ=0.3mm、40g)を投入し、容器を完全に密閉した(Ar雰囲気)。この容器を遊星型ボールミル機(フリッチュ社製、P7)に取り付け、台盤回転数200rpm、20時間の条件によりMM法にて粉砕を行い、第二の硫化物固体電解質粒子を得た。
得られた硫化物固体電解質粒子について、レーザー回折・散乱式粒度分析計(MT3300EXII、日機装社製)を用いて、粒子屈折率1.81、粒子透過性、非球形、溶媒屈折率1.43の条件で粒径を確認したところ、平均粒径は0.7μmであった。また、粒度分布D_(90)/D_(10)は2.4であった。
【0084】
(硫化物固体電解質粒子の混合物の調製)
上述の微細化工程により得られた第一の硫化物固体電解質粒子20.5mgと、第二の硫化物固体電解質粒子5.5mgとを秤量し、混合物を得た。上記第一の硫化物固体電解質粒子と上記第二の硫化物固体電解質粒子との粒径比は31.1%であった。
【0085】
(評価用電池の作製)
LiNi_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)(正極活物質)および上記硫化物固体電解質粒子の混合物を、正極活物質:硫化物固体電解質粒子の混合物=6:4の重量比となるように秤量し、湿式にて超音波分散機で混合し、乾燥させることにより正極合材を得た。
次に、黒鉛(負極活物質)および上記硫化物固体電解質粒子の混合物を、負極活物質:硫化物固体電解質粒子の混合物=6:4の重量比となるように秤量し、湿式にて超音波分散機で混合し、乾燥させることにより負極合材を得た。
上述の硫化物固体電解質粒子の混合物22mg、正極合材16mgおよび負極合材12mgをシリンダーに投入し、4.3ton/cm^(2)の圧力でコールドプレスを行い、評価用電池を作製した。」

4ケ 「【0096】
実施例1から実施例11で得られた硫化物固体電解質粒子の混合物について、各硫化物固体電解質粒子の平均粒径(μm)および配合量(mg)、第一の硫化物固体電解質粒子と第二の硫化物固体電解質粒子との粒径比および第一の硫化物固体電解質粒子の含有量(%)を表1に示す。
【0097】
【表1】


4コ 「【0113】
(交流インピーダンス測定)
大気非暴露環境下で恒温層を用い、25℃で温度調整をした後、評価用電池を設置した。充電レート1Cで3.6Vまで定電流充電し、その後、3.6Vでの定電圧充電を10時間行い、評価用電池の充電を行った。充電後、ソーラートロン1260(東陽テクニカ社製)を用いて交流インピーダンス測定を行い、硫化物固体電解質層の抵抗を求めた。インピーダンス測定の条件は、電圧振幅300mV、測定周波数1MHz?1000Hz、25℃とした。
実施例1?11および比較例1?13で得られた各評価用電池における、硫化物固体電解質層の厚さ、硫化物固体電解質層に含有される硫化物固体電解質粒子の充填率および交流インピーダンス測定による直流抵抗値の結果を表3に示す。」

4サ 上記4アの記載によれば、甲第4号証に記載された発明は、全固体電池に関するものである。

4シ 上記4キの記載によれば、甲第4号証に記載された発明で用いられる正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質粒子、導電化材および結着材の少なくとも一つをさらに含有するものである。そして、リチウム全固体電池に用いられる正極活物質としては、LiCo_(1/3)Ni_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)、が使用でき、正極活物質の形状としては、粒子形状であることが好ましいと記載されている。

4ス 上記4クの段落【0085】の記載によれば、実施例1の電池において、正極活物質であるLiNi_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)および硫化物固体電解質粒子の混合物を、湿式にて超音波分散機で混合し、乾燥させることにより正極合材を得、この正極合材を、硫化物固体電解質粒子の混合物および負極合材とともにシリンダーに投入し、4.3ton/cm^(2)の圧力でコールドプレスを行うことによって電池を作製しており、当該電池において、上記正極合材によって正極が形成されていることは明らかである。また、当該電池が、リチウム全固体電池であることは明らかである。

4セ 上記4スに記載された、正極活物質であるLiNi_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)は、硫化物固体電解質粒子の混合物と混合することにより、正極合材とされるものであり、上述のように粒子形状において使用することが好ましいものであるから、粒子形状であるものと認められる。

4ソ 上記4スにおいて使用される、硫化物固体電解質粒子の混合物とは、上記4クの記載によれば、平均粒径20.5μmの第一の硫化物固体電解質粒子と、平均粒径0.7μmの第二の硫化物固体電解質粒子とを混合したものである。そして、第二の硫化物固体電解質粒子の粒径に対する第一の硫化物固体電解質粒子の粒径の粒径比率は、20.5/0.7=29.3と計算される。

4タ 上記4コの記載によれば、実施例1を含む評価用電池について充電を行うことが記載されているから、実施例1のリチウム全固体電池が二次電池であることは明らかである。

4チ 上記4ア?4コの記載事項及び4サ?4タの検討事項に基づき、実施例1のリチウム全固体電池を構成する正極に関する記載を、本件発明1の記載ぶりに則して整理すると、甲第4号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「LiNi_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)からなる正極活物質粒子と、第一の硫化物固体電解質粒子と、第二の硫化物固体電解質粒子とを含むリチウム全固体電池用正極であって、
前記第1の硫化物固体電解質粒子は、平均粒径が20.5μmであり、第二の硫化物固体電解質粒子は、平均粒径が0.7μmであり、第二の硫化物固体電解質粒子の粒径に対する第一の硫化物固体電解質粒子の粒径の粒径比率が29.3であるリチウム全固体電池用正極。」(以下「甲4発明」という。)

5 判断
(1)申立理由1-1の検討
(1-1)本件発明1と甲1発明の対比
ア 甲1発明の「平均粒径が数μm?10μmでLiCoO_(2)からなる正極活物質粒子」は、本件発明1の「活物質粒子」に相当する。

イ 甲1発明の「正極」内には、「正極活物質粒子」と「固体電解質粒子」が混合して存在しているから、甲1発明の「固体電解質粒子」には、「正極」内において、「正極活物質粒子」の表面近傍に存在するものと、その間隙に存在するものがあり得ることは明らかであるから、甲1発明の「固体電解質粒子」のうち「正極活物質粒子」の表面近傍に存在するものは、本件発明1の「第1の固体電解質粒子」に相当し、甲1発明の「固体電解質粒子」のうち「正極活物質粒子」間の間隙にあるものは、本件発明1の「第2の固体電解質粒子」に相当する。

ウ 甲1発明の「正極」を備える「全固体電池」は、上記1カの段落【0059】に記載されているように、充放電サイクル曲線が得られる電池であるから、二次電池であることは明らかである。したがって、甲1発明の「全固体電池」は、本件発明1の「固体電解質二次電池」に相当する。

エ 甲1発明の「正極」は、本件発明1の「電極」に相当する。

(1-2)本件発明1と甲1発明の一致点と相違点
上記(1-1)の検討から、本件発明1と甲1発明の一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「 活物質粒子と、前記活物質粒子に接触して存在する第1の固体電解質粒子と、前記活物質粒子間の間隙に存在する第2の固体電解質粒子とを含む固体電解質二次電池用電極。」

≪相違点≫
相違点1:「第1の固体電解質粒子]及び「第2の固体電解質粒子」について、本件発明1は、「前記第1の固体電解質粒子は、0.05μm以上0.5μm以下の粒径を有し、かつ前記第1の固体電解質粒子の粒径をD1、前記第2の固体電解質粒子の粒径をD2とすると、前記粒径D1に対する前記粒径D2の粒径比率(D2/D1)は3<D2/D1<50である」のに対して、甲1発明は、そのようになっているか不明である点。

(1-3)相違点についての判断
ア 本件特許明細書の段落【0089】には、活物質粒子の表面近傍に存在する第1の固体電解質粒子の粒径D1は、SEMを用いて、活物質粒子近傍の固体電解質粒子をランダムに10個選択し、それらの粒径の算術平均をとることにより算出するものであり、活物質粒子間の間隙に存在する第2の固体電解質粒子の粒径D2は、SEMを用いて、活物質粒子間の間隙に存在する固体電解質粒子をランダムに10個選択し、それらの粒径の算術平均をとることにより算出するものであり、粒径は粒子の長軸の値を用い、「活物質近傍」とは、SEMによる測定において、1つの活物質に接触している状態をいい、また、「活物質粒子間の間隙」とはSEMによる測定において、活物質と接触していない、または複数の活物質と接触している状態をいうことが記載されている。
一方、甲第1号証には、実施例1の電池を構成している正極のSEM写真は掲載されていないから、「正極活物質粒子」と「固体電解質粒子」が相互にどのような配置で存在しているか不明であるし、「正極活物質粒子」の表面近傍に存在している複数の「固体電解質粒子」の粒径や、「正極活物質粒子」間の間隙に存在する複数の「固体電解質粒子」の粒径が測定されてもいないので、それら粒径の平均値も不明である。
したがって、甲第1号証の記載からでは、甲1発明において、第1の固体電解質粒子の粒径D1、前記第2の固体電解質粒子の粒径D2について、D2/D1がどのような値であるかについては、SEM写真に基づく検討はできず、不明である。

イ 粒径比率(D2/D1)についての検討は、上述のとおり、SEM写真に基づいて行うべきものであるところ、申立人はSEM写真に基づかない以下の主張を行っており、申立人の当該主張が妥当なものであるかについて検討する。
甲1発明の正極に含まれる固体電解質粒子は、D_(10)が0.19μmであり、D_(90)が0.86μmであるから、当該正極中には、正極活物質粒子とともに、0.19μmより小さい固体電解質粒子や、0.86μmより大きい固体電解質粒子が含まれることは明らかであり、この点に関して、申立人は申立書の第16頁において「甲第1号証に記載された粒径が0.19μm以下の固体電解質粒子は正極活物質粒子に接触しており、また、粒径が0.86μm以上の固体電解質粒子は、正極活物質粒子間の間隙に存在しており、これらは、それぞれ、本件特許発明1で特定する第1および第2の固体電解質粒子に相当する。」と主張している。

ウ D_(10)とは、粒度分布において積算値が10%のときの粒径の値として定義されることは技術常識であるから、甲第1号証の実施例1の正極において、粒径がD_(10)=0.19μm以下の固体電解質粒子には、正極活物質粒子の表面近傍に存在するものがあるかもしれないが、粒径が0.19μm以下の固体電解質粒子は、D_(10)の上記定義によれば、全体のわずか10%しか存在しないので、正極活物質粒子の表面近傍には、粒径が0.19μmよりも大きい残り90%の固体電解質粒子も存在している蓋然性が高く、正極活物質粒子には、様々な粒径の固体電解質粒子が存在しているものと推定できるから、申立人の主張するように、粒径が0.19μm以下の固体電解質粒子のみが本件特許発明1で特定する第1の固体電解質粒子に相当するとはいえない。
また、D_(90)とは、粒度分布において積算値が90%のときの粒径の値として定義されることは技術常識であるから、甲第1号証の実施例1の正極において、粒径がD_(90)=0.86μm以上の固体電解質粒子には、正極活物質粒子間の間隙に存在するものがあるかもしれないが、粒径が0.86μm以上の固体電解質粒子は、D_(90)の定義によれば、わずか10%しか存在しないので、正極活物質粒子間の間隙には、粒径が0.86μmよりも小さい残り90%の固体電解質粒子も存在している蓋然性が高く、正極活物質粒子間の間隙には、様々な粒径の固体電解質粒子が存在しているものと推定できるから、申立人の主張するように、粒径が0.86μm以上の固体電解質粒子のみが本件特許発明1で特定する第2の固体電解質粒子に相当するとはいえない。
したがって、甲1発明の正極において、粒径が0.19μm以下の固体電解質粒子が本件特許発明1で特定する第1の固体電解質粒子に相当するとはいえないし、粒径が0.86μm以上の固体電解質粒子が本件特許発明1で特定する第2の固体電解質粒子に相当するともいえないから、請求人の上記主張は採用できない。また、このとき、D1=0.19、D2=0.86とはいえないから、甲1発明の正極において、3<D2/D1<50になっていると結論づけることができない。

エ さらに、本件特許明細書の段落【0085】?【0086】には、比較例1や比較例2の固体電解質粒子について、本件特許明細書の実施例1と同様の方法、すなわち、正極活物質粒子と固体電解質粒子とを混合してスラリーを調整し、これを集電体に塗布、乾燥、プレスして形成する方法を採用して形成されているものであり、2μmのみにピークを持つ粒度分布を有することが記載されており、また、段落【0091】には、上記比較例1や比較例2では、「粒径分布のピークが1つであるため、D2/D1は1になった。」と記載されている。ここで、上記比較例1や比較例2の固体電解質粒子が2μmにピークを持つ粒度分布を有するということは、頻度分布で表したときに粒径2μmにおいて頻度は最も大きい値をとるとともに、2μmより小さい粒径の粒子も存在するし、2μmより大きい粒径の粒子も存在するということであり、表現を変えると、D_(10)より粒径の小さい粒子と、D_(90)より粒径の大きい粒子が存在するということである。
一方、甲第1号証に実施例1として記載された正極について見てみると、本件特許発明の電極の製造方法と同じように、正極活物質粒子と固体電解質粒子とを混合し、電極用の合材を作製し、これを集電体に塗布、乾燥して、圧縮して形成されたものであり、上記実施例1の固体電解質粒子は、D_(10)=0.19μm以下の粒径の小さい粒子や、D_(90)=0.86μm以上の粒径の大きい粒子を含有するものではあるとはいえるが、単にD_(10)=0.19μm以下の粒径の粒子や、D_(90)=0.86μm以上の粒径の粒子を含有するということをもって、複数のピーク(頻度分布におけるピーク)を持つ粒度分布を有するものであると解することができないことは技術常識に照らして明らかである。また、甲第1号証には、実施例1の固体電解質粒子が複数のピーク(頻度分布におけるピーク)を有するものであることを示唆する記載も見つけられない。よって、上記実施例1の固体電解質粒子は、本件特許明細書に記載された上記比較例1や比較例2と同様に、粒径分布のピーク(頻度分布におけるピーク)が一つであると認められ、そのため、D2/D1が1である蓋然性が高く、3<D2/D1<50になっているということはできない。

オ 以上、SEM写真に基づかない申立人の主張も含めて検討したとしても、相違点1は、本件発明1と甲1発明の実質的な相違点であるから、本件発明1と甲1発明は相違しており、本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

(1-4)本件発明2、4についての検討
本件発明2、4は、本件発明1の発明特定事項を有し、これをさらに限定したものであるから、上記(1-2)で検討したと同様に、甲1発明と少なくとも相違点1の点で相違しており、上記(1-3)で検討したと同様の理由で、相違点1は、本件発明2、4と甲1発明の実質的な相違点である。
したがって、本件発明2、4は甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

(1-5)本件発明5?6についての検討
本件発明5?6は、正極と、負極と、固体電解質層とを備える固体電解質二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方の電極が本件発明1の電極に該当するものである。
一方、甲第1号証には甲1発明を正極とする全固体電池(以下「甲1電池発明」という。)が記載されているといえる。
したがって、本件発明5?6は、上記(1-2)で検討したと同様に、甲1電池発明と少なくとも相違点1の点で相違しており、上記(1-3)で検討したと同様の理由で、相違点1は、本件発明5?6と甲1電池発明の実質的な相違点である。
よって、本件発明5?6は甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

(2)申立理由1-2の検討
(2-1)本件発明1と甲2発明の対比
ア 甲2発明の「平均粒子径1μmの燐酸鉄リチウムからなる活物質粒子」は、本件発明1の「活物質粒子」に相当する。

イ 甲2発明の「全固体型のリチウムイオン二次電池」は、本件発明1の「固体電解質二次電池」に相当する。

ウ 甲2発明の「正極電極」は、本件発明1の「電極」に相当する。

エ 甲2発明の「n次元(但しn=1、2、3)の鎖状または網目状に形成された固体電解質」は、粒子状であるといえるか不明である。また、正極グリーンシートに含まれていた「平均粒子径0.3μmのガラス粉末A」が、800℃の熱処理を経た正極中で粒子形状を維持しているか不明である。
したがって、甲2発明の「n次元(但しn=1、2、3)の鎖状または網目状に形成された固体電解質」及び「平均粒子径0.3μmのガラス粉末A」は、本件発明1の「第1の固体電解質粒子」及び「第2の固体電解質粒子」と、固体電解質の点で共通している。


(2-2)本件発明1と甲2発明の一致点と相違点
上記(2-1)の検討から、本件発明1と甲2発明の一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「 活物質粒子と、固体電解質とを含む固体電解質二次電池用電極。」

≪相違点≫
相違点2:「固体電解質」が、本件発明1では「粒子」の形状で存在しており、「前記活物質粒子に接触して存在する第1の固体電解質粒子と、前記活物質粒子間の間隙に存在する第2の固体電解質粒子」であるのに対して、甲2発明ではそもそも「粒子」の形状で存在するか不明であり、仮に「粒子」であったとしても、「前記活物質粒子に接触して存在する第1の固体電解質粒子と、前記活物質粒子間の間隙に存在する第2の固体電解質粒子」であるか不明である点。

相違点3:「第1の固体電解質粒子]及び「第2の固体電解質粒子」について、本件発明1は、「前記第1の固体電解質粒子は、0.05μm以上0.5μm以下の粒径を有し、かつ前記第1の固体電解質粒子の粒径をD1、前記第2の固体電解質粒子の粒径をD2とすると、前記粒径D1に対する前記粒径D2の粒径比率(D2/D1)は3<D2/D1<50である」のに対して、甲2発明は、そのようになっているか不明である点。

(2-3)相違点2、3についての判断
甲2発明において、正極グリーンシートに含有される、「線径0.3?1μm、長さ1?8μmの繊維状ガラス粉末B」(以下「繊維状ガラス粉末B」という。)及び「平均粒子径0.3μmのガラス粉末A」(以下「ガラス粉末A」という。)が、800℃で熱処理することにより形成された正極中で、粒子状になっているか不明であるから、両者ともに粒子状になっている場合と、少なくとも一方が粒子状になっていない場合に分けて検討する。

(2-3-1)正極中で「繊維状ガラス粉末B」及び「ガラス粉末A」がいずれも粒子状である場合の検討
(2-3-1-1)相違点2についての検討
ア 甲2発明の「正極電極」中には、「活物質粒子」と、粒子状の「繊維状ガラス粉末B」及び「ガラス粉末A」が含まれているから、「繊維状ガラス粉末B」及び「ガラス粉末A」には、「正極活物質粒子」の表面近傍に存在するものと、その間隙に存在するものがあり得ることは明らかだから、甲2発明の「繊維状ガラス粉末B」及び「ガラス粉末A」のうち「活物質粒子」の表面近傍に存在するものは、本件発明1の「第1の固体電解質粒子」に相当し、甲2発明の「繊維状ガラス粉末B」及び「ガラス粉末A」のうち「活物質粒子」間の間隙にあるものは、本件発明2の「第2の固体電解質粒子」に相当する。
したがって、相違点2については、本件発明1と甲2発明との実質的な相違点とはいえない。

(2-3-1-2)相違点3についての検討
ア 甲第2号証には、実施例1の電池を構成している正極のSEM写真は掲載されていないから、「活物質粒子」と「繊維状ガラス粉末B」及び「ガラス粉末A」が相互にどのような配置で存在しているか不明であるし、「活物質粒子」に接触している複数の「繊維状ガラス粉末B」及び「ガラス粉末A」の粒径や、「正極活物質粒子」間の間隙に存在する複数の「繊維状ガラス粉末B」及び「ガラス粉末A」の粒径が測定されてもいないので、それら粒径の平均値も不明である。
したがって、甲第2号証の記載からでは、甲2発明において、第1の固体電解質粒子の粒径D1、前記第2の固体電解質粒子の粒径D2について、D2/D1がどのような値であるかについては、SEM写真に基づく検討はできず、不明である。

イ 粒径比率(D2/D1)についての検討は、上述のとおり、SEM写真に基づいて行うべきものであるところ、SEM写真に基づかない以下の検討も行う。
甲2発明の「正極電極」に含まれる固体電解質は、「線径0.3?1μm、長さ1?8μmの繊維状ガラス粉末B」と「平均粒子径0.3μmのガラス粉末A」であるから、「繊維状ガラス粉末B」と「ガラス粉末A」は、異なるピークを持つ粒度分布を有する固体電解質粒子であるということができる。また、甲2発明の正極は、「活物質粒子」、「繊維状ガラス粉末B」及び「ガラス粉末A」を含有する正極グリーンシートを作製し、これを800℃で熱処理することにより形成されている。
一方、本件特許明細書には、実施例1の製造方法として、活物質粒子と、0.1μmと2μmにピークを持つ粒度分布を有する固体電解質粒子を含有するスラリーを形成し、これを集電体に塗布、乾燥、プレスして形成する方法を採用している。
したがって、電極の製造方法の観点からみると、甲2発明と本件発明1は、異なるピークを持つ粒度分布を有する固体電解質粒子を用いる点は共通しているが、甲2発明は、正極グリーンシートを形成しこれを800℃で熱処理するのに対して、本件発明1は、スラリーを形成し、これを塗布、乾燥、プレスしているから、両者で製造方法が異なっている。
よって、甲2発明は、本件発明1と、2つのピークを有する固体電解質粒子を用いる点で共通しているものの、それぞれ異なる製造方法で製造されているから、甲2発明の正極電極において、第1の固体電解質粒子の粒径D1、前記第2の固体電解質粒子の粒径D2について、本件発明1と同様になっているということはいえないので、製法の観点から検討しても、甲2発明においてD2/D1が「3<D2/D1<50」になっているとは直ちにはいうことができない。

ウ 以上、SEM写真に基づかない検討を行ったとしても、相違点3が、本件発明1と甲2発明の実質的な相違でないとはいえず、本件発明1と甲2発明は相違していないとはいえないので、本件発明1は甲第2号証に記載された発明であるということはできない。

(2-3-2)正極中で「繊維状ガラス粉末B」及び「ガラス粉末A」の少なくとも一方が粒子状になっていない場合の検討
(2-3-2-1)相違点2についての検討
ア 甲2発明の「正極電極」において、「繊維状ガラス粉末B」及び「ガラス粉末A」のいずれかが粒子状ではない場合には、「正極電極」中に「固体電解質粒子」として、「繊維状ガラス粉末B」又は「ガラス粉末A」のいずれか1種類のみが含まれる場合と、いずれも含まれない場合がある。

イ 最初に、「正極電極」中に、「固体電解質粒子」として、「繊維状ガラス粉末B」又は「ガラス粉末A」のいずれかが一方のみが含まれる場合を検討する。この場合、「正極活物質粒子」の表面近傍に存在する「固体電解質粒子」と、その間隙に存在する「固体電解質粒子」があり得ることが明らかだから、甲2発明の「繊維状ガラス粉末B」又は「ガラス粉末A」いずれか一方の「固体電解質粒子」であって「活物質粒子」の表面近傍に存在するものは、本件発明1の「第1の固体電解質粒子」に相当し、甲2発明の「繊維状ガラス粉末B」又は「ガラス粉末A」いずれか一方の「固体電解質粒子」であって「活物質粒子」間の間隙にあるものは、本件発明2の「第2の固体電解質粒子」に相当する。
したがって、この場合、相違点2については、本件発明1と甲2発明との実質的な相違点とはいえない。

ウ 次に、「正極電極」中に、「固体電解質粒子」として、「繊維状ガラス粉末B」又は「ガラス粉末A」のいずれも含まれない場合を検討する。この場合、「正極活物質粒子」の表面近傍に存在する「固体電解質粒子」も、その間隙に存在する「固体電解質粒子」もないから、甲2発明において、本件発明1の「第1の固体電解質粒子」及び「第2の固体電解質粒子」に相当するものは存在しないこととなる。
したがって、この場合、相違点2については、本件発明1と甲2発明との実質的な相違点である。

(2-3-2-2)相違点3についての検討
最初に、「正極電極」中に、「固体電解質粒子」として、「繊維状ガラス粉末B」又は「ガラス粉末A」のいずれか一方のみが含まれる場合を検討する。この場合、これら粉末A、Bにおいて平均粒径が決まっているということは、技術常識に基づけば、粒径分布のピークが1つであり、D_(10)よりも小さい粒径の固体電解質粒子及びD_(90)よりも大きい粒径の固体電解質粒子を有しているものであるということができるから、上記(1-3)ウ、エで検討した理由と同様の理由により、甲2発明の正極においても、3<D2/D1<50になっていると結論づけることはできない。
したがって、この場合、相違点3については、本件発明1と甲2発明との実質的な相違点でないとはいえない。

次に、「正極電極」中に、「固体電解質粒子」として、「繊維状ガラス粉末B」又は「ガラス粉末A」のいずれも含まれない場合を検討する。この場合、そもそも、「第1の固体電解質粒子の粒径」である「D1」及び「第2の固体電解質粒子の粒径」である「D2」のいずれも特定することができないから、甲2発明の正極において、3<D2/D1<50になっているということはできない。
したがって、この場合、相違点3については、本件発明1と甲2発明との実質的な相違点である。

(2-3-3)相違点2、3についての判断の結論
以上、SEM写真に基づかない検討を行ったとしても、少なくとも相違点3は、本件発明1と甲2発明の実質的な相違点であるか、実質的な相違点でないとはいえないから、本件発明1と甲2発明は相違しているか、相違していないとはいえないので、本件発明1は甲第2号証に記載された発明であるということはできない。

(2-4)本件発明2、4についての検討
本件発明2、4は、本件発明1の発明特定事項を有し、これをさらに限定したものであるから、上記(2-2)で検討したと同様に、甲2発明と少なくとも相違点2及び相違点3の点で相違しており、上記(2-3)で検討したと同様の理由で、少なくとも相違点3は、本件発明2、4と甲2発明の実質的な相違点であるか、実質的な相違点ではないとはいえない。
したがって、本件発明2、4は甲第2号証に記載された発明であるということはできない。

(2-5)本件発明5?6についての検討
本件発明5?6は、正極と、負極と、固体電解質層とを備える固体電解質二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方の電極が本件発明1の電極に該当するものである。
一方、甲第2号証には甲2発明を正極とする全固体型のリチウムイオン二次電池(以下「甲2電池発明」という。)が記載されているといえる。
したがって、本件発明5?6は、上記(2-2)で検討したと同様に、甲2電池発明と少なくとも相違点2及び相違点3の点で相違しており、上記(2-3)で検討したと同様の理由で、少なくとも相違点3は、本件発明5?6と甲2電池発明の実質的な相違点であるか、実質的な相違点ではないとはいえない。
よって、本件発明5?6は甲第2号証に記載された発明であるということはできない。

(3)申立理由1-3の検討
(3-1)本件発明1と甲3発明の対比
ア 甲3発明の「平均粒径11.5μmのコバルト酸リチウムからなる正極活物質粒子」は、本件発明1の「活物質粒子」に相当する。

イ 甲3発明の「正極」内には、「正極活物質粒子」と「固体電解質粒子」が混合して存在しているから、甲3発明の「固体電解質粒子」には、「正極」内において、「正極活物質粒子」の表面近傍に存在するものと、その間隙に存在するものがあり得ることは明らかだから、甲1発明の「固体電解質粒子」のうち「正極活物質粒子」の表面近傍に存在するものは、本件発明1の「第1の固体電解質粒子」に相当し、甲1発明の「固体電解質粒子」のうち「正極活物質粒子」間の間隙にあるものは、本件発明1の「第2の固体電解質粒子」に相当する。

ウ 甲3発明の「正極」を備える「全固体二次電池」は、本件発明1の「固体電解質二次電池」に相当する。

エ 甲3発明の「正極」は、本件発明1の「電極」に相当する。

(3-2)本件発明1と甲3発明の一致点と相違点
上記(3-1)の検討から、本件発明1と甲3発明の一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「 活物質粒子と、前記活物質粒子に接触して存在する第1の固体電解質粒子と、前記活物質粒子間の間隙に存在する第2の固体電解質粒子とを含む固体電解質二次電池用電極。」

≪相違点≫
相違点4:「第1の固体電解質粒子]及び「第2の固体電解質粒子」について、本件発明1は、「前記第1の固体電解質粒子は、0.05μm以上0.5μm以下の粒径を有し、かつ前記第1の固体電解質粒子の粒径をD1、前記第2の固体電解質粒子の粒径をD2とすると、前記粒径D1に対する前記粒径D2の粒径比率(D2/D1)は3<D2/D1<50である」のに対して、甲3発明は、そのようになっているか不明である点。

(3-3)相違点についての判断
ア 甲第3号証には、実施例1の全固体二次電池を構成している正極のSEM写真は掲載されていないから、「正極活物質粒子」と「固体電解質粒子」が相互にどのような配置で存在しているか不明であるし、「正極活物質粒子」に接触している複数の「固体電解質粒子」の粒径や、「正極活物質粒子」間の間隙に存在する複数の「固体電解質粒子」の粒径が測定されてもいないので、それら粒径の平均値も不明である。
したがって、甲第3号証の記載からでは、甲3発明において、第1の固体電解質粒子の粒径D1、前記第2の固体電解質粒子の粒径D2について、D2/D1がどのような値であるかについては、SEM写真に基づく検討はできず、不明である。

イ 粒径比率(D2/D1)についての検討は、上述のとおり、SEM写真に基づいて行うべきものであるところ、SEM写真に基づかない以下の検討も行う。
甲3発明の正極に含まれる固体電解質粒子は、その平均粒子径が0.4μmであるということは、技術常識に基づけば、粒径分布のピークが1つであり、D_(10)よりも小さい粒径の固体電解質粒子及びD_(90)よりも大きい粒径の固体電解質粒子を有しているものであるということができるから、上記(1-3)ウ、エで検討した理由と同様の理由により、甲3発明の正極においても、3<D2/D1<50になっていると結論づけることはできない。
したがって、相違点4については、本件発明1と甲3発明との実質的な相違点でないとはいえない。

ウ 以上、SEM写真に基づかない検討を行ったとしても、相違点4は、本件発明1と甲3発明の実質的な相違点でないとはいえず、本件発明1と甲3発明は相違していないとはいえないので、本件発明1は甲第3号証に記載された発明であるということはできない。

(3-4)申立人の主張について
ア 申立人は、申立書において、「上記の全固体二次電池における固体電解質層の形成に用いた固体電解質層用スラリー組成物における硫化物固体電解質粒子は、平均粒子径が8μmであったことがわかる(3-8、表1参照)。」(第28頁10?13行)、及び、「したがって、正極活物質層中には、正極活物質用スラリー組成物中に元々存在している平均粒子径0.4μmの固体電解質粒子が存在する。また、固体電解質層用スラリー組成物における硫化物固体電解質粒子は、平均粒子径が8μmの粒子が存在していることを考慮すると(3-8、表1参照)、正極活物質層にも、同様に平均粒子径8μmの固体電解質粒子が存在していると考えて差し支えない。」(第28頁下から6?1行)と主張しているので、この主張について検討する。

イ 申立人の上記主張は、正極のSEM写真の測定結果を根拠とする主張ではないので、そもそも、合理的な主張とはいえないが、SEM写真に基づかない申立人の当該主張が、妥当なものであるかについて検討する。

ウ 甲第3号証において、上記3エの段落[0101]の記載によれば、実施例1の正極活物質層用スラリー組成物には、固体電解質としてLi_(2)SとP_(2)S_(5)とからなる硫化物ガラス(Li_(2)S/P_(2)S_(5)=70mol%/30mol%、平均粒子径:0.4μm)が含まれている。また、上記3オの段落[0103]の記載によれば、実施例1の固体電解質層用スラリー組成物には、固体電解質としてLi_(2)SとP_(2)S_(5)とからなる硫化物ガラス(Li_(2)S/P_(2)S_(5)=70mol%/30mol%)が含有されており、上記3キの表1を参照すると、実施例1の体積平均粒子径D50が8μmであることが記載されている。
したがって、上記記載に基づけば、実施例1の正極活物質層用スラリー組成物と、固体電解質層用スラリー組成物は、いずれも、固体電解質として同じ組成である、Li_(2)SとP_(2)S_(5)とからなる硫化物ガラス(Li_(2)S/P_(2)S_(5) =70mol%/30mol%)を有しているから、上記両組成物において、固体電解質として、同じ硫化物ガラスを採用している可能性がある。

エ しかしながら、正極活物質層用スラリー組成物に含まれる硫化物ガラスは、その平均粒子径が0.4μmであることが記載されているところ、上記3ウには「平均粒子径は、レーザー回折で粒度分布を測定することにより求めることができる。」と記載されており、レーザー回折で測定される粒度分布から求められる平均粒子径とは、技術常識に基づけば、D_(50)のことである。
してみると、実施例1の正極活物質層用スラリー組成物に含有される、固体電解質であるLi_(2)SとP_(2)S_(5)とからなる硫化物ガラスのD_(50)が0.4μmであるのに対して、実施例1の固体電解質層用スラリー組成物に含有される、固体電解質であるLi_(2)SとP_(2)S_(5)とからなる硫化物ガラスのD_(50)が8μmである。そして、同じ粉末において、D_(50)はただ一つに特定されることは技術常識であるから、D_(50)が異なる上記二つの硫化物ガラスは、同じ組成を有するものではあるが、異なる工程によって形成されたと推定される異なる固体電解質であると認められる。
また、甲第3号証には、実施例1において、固体電解質層用スラリー組成物に含有される固体電解質を、正極活物質層用スラリー組成物に用いることについて記載されていない。
したがって、「正極活物質層にも、同様に平均粒子径8μmの固体電解質粒子が存在していると考えて差し支えない。」とする、SEM写真に基づかない申立人の上記主張は、上記検討に照らして不合理な主張であり、これを採用することができない。

(3-5)本件発明2、4についての検討
本件発明2、4は、本件発明1の発明特定事項を有し、これをさらに限定したものであるから、上記(3-2)で検討したと同様に、甲3発明と少なくとも相違点4の点で相違しており、上記(3-3)で検討したと同様の理由で、相違点4は、本件発明2、4と甲3発明の実質的な相違点でないとはいえない。
したがって、本件発明2、4は甲第3号証に記載された発明であるということはできない。

(3-6)本件発明5?6についての検討
本件発明5?6は、正極と、負極と、固体電解質層とを備える固体電解質二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方の電極が本件発明1の電極に該当するものである。
一方、甲第3号証には甲3発明を正極とする全固体二次電池(以下「甲3電池発明」という。)が記載されているといえる。
したがって、本件発明5?6は、上記(3-2)で検討したと同様に、甲3電池発明と少なくとも相違点4の点で相違しており、上記(3-3)で検討したと同様の理由で、相違点4は、本件発明5?6と甲3電池発明の実質的な相違点でないとはいえない。
したがって、本件発明5?6は甲第3号証に記載された発明であるということはできない。

(4)申立理由2の検討
ア 上記(1)?(3)の検討から、甲第1号証?甲第3号証のいずれにも、固体電解質二次電池用電極に含まれる第1及び第2の固体電解質粒子について、「前記第1の固体電解質粒子は、0.05μm以上0.5μm以下の粒径を有し、かつ前記第1の固体電解質粒子の粒径をD1、前記第2の固体電解質粒子の粒径をD2とすると、前記粒径D1に対する前記粒径D2の粒径比率(D2/D1)は3<D2/D1<50」とすることによって、電極自体のイオンの伝導性を向上するとともに、固体電解質層と組合わせた固体電解質二次電池における電極と固体電解質層との間でのリチウムイオン伝導性を高めることについては記載されていない。

イ したがって、「前記第1の固体電解質粒子は、0.05μm以上0.5μm以下の粒径を有し、かつ前記第1の固体電解質粒子の粒径をD1、前記第2の固体電解質粒子の粒径をD2とすると、前記粒径D1に対する前記粒径D2の粒径比率(D2/D1)は3<D2/D1<50である」との特定事項を有する本件発明1は、甲第1号証?甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5)申立理由3の検討
(5-1)本件発明1と甲4発明の対比
ア 甲4発明の「LiNi_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)からなる正極活物質粒子」は、本件発明1の「活物質粒子」に相当する。

イ 甲4発明の「正極」は、上記4スで検討したように、「固体電解質粒子」と「第一の硫化物固体電解質粒子」と「第二の硫化物固体電解質粒子」を混合し、乾燥して正極合材としたものを、コールドプレスを行うことにより形成するものであるから、甲4発明の「正極」内において、「第一の硫化物固体電解質粒子」及び「第二の硫化物固体電解質粒子」には、「正極活物質粒子」の表面近傍に存在するものと、その間隙に存在するものがあり得ることは明らかである。したがって、甲4発明の「第一の硫化物固体電解質粒子」及び「第二の硫化物固体電解質粒子」のうち「正極活物質粒子」の表面近傍に存在するものは、本件発明1の「第1の固体電解質粒子」に相当し、甲4発明の「第一の硫化物固体電解質粒子」及び「第二の硫化物固体電解質粒子」のうち「正極活物質粒子」間の間隙にあるものは、本件発明1の「第2の固体電解質粒子」に相当する。

ウ 甲4発明の「正極」を備える「リチウム全固体電池」は、上記4タで検討したように、二次電池である。したがって、甲4発明の「リチウム全固体電池」は、本件発明1の「固体電解質二次電池」に相当する。

エ 甲4発明の「正極」は、本件発明1の「電極」に相当する。

(5-2)本件発明1と甲4発明の一致点と相違点
上記(5-1)の検討から、本件発明1と甲1発明の一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「 活物質粒子と、前記活物質粒子に接触して存在する第1の固体電解質粒子と、前記活物質粒子間の間隙に存在する第2の固体電解質粒子とを含む固体電解質二次電池用電極。」

≪相違点≫
相違点5:「第1の固体電解質粒子]及び「第2の固体電解質粒子」について、本件発明1は、「前記第1の固体電解質粒子は、0.05μm以上0.5μm以下の粒径を有し、かつ前記第1の固体電解質粒子の粒径をD1、前記第2の固体電解質粒子の粒径をD2とすると、前記粒径D1に対する前記粒径D2の粒径比率(D2/D1)は3<D2/D1<50である」のに対して、甲4発明は、そのようになっているか不明である点。

(5-3)相違点についての判断
(5-3-1)甲第4号証の記載のみに基づく検討
ア 甲第4号証には、実施例1の電池を構成している正極のSEM写真は掲載されていないから、「正極活物質粒子」と「第1の固体電解質粒子]及び「第2の固体電解質粒子」が相互にどのような配置で存在しているか不明であるし、「正極活物質粒子」の表面近傍に存在する複数の「第1の固体電解質粒子]及び「第2の固体電解質粒子」の粒径や、「正極活物質粒子」間の間隙に存在する複数の「第1の固体電解質粒子]及び「第2の固体電解質粒子」の粒径が測定されてもいないので、それら粒径の平均値も不明である。
したがって、甲第4号証の記載からでは、甲4発明において、第1の固体電解質粒子の粒径D1、前記第2の固体電解質粒子の粒径D2について、D2/D1がどのような値であるかについては、SEM写真に基づく検討はできず、不明である。

イ したがって、上記アの検討によれば、甲4発明のD2/D1の値が特定できないから、相違点5のうちD2/D1の点において甲4発明と本件発明1が相違しないとはいえないから、相違点5は実質的な相違点でないとはいえない。
よって、本件発明1は甲第4号証に記載された発明であるとはいえない。

(5-3-2)本件特許明細書を参酌した検討
ア 粒径比率(D2/D1)についての検討は、上述のとおり、SEM写真に基づいて行うべきものであるところ、SEM写真に基づかない以下の検討も行う。
上記4クの段落【0085】によれば、実施例1の正極は、平均粒径が20.5μmである第一の硫化物固体電解質粒子及び平均粒径が0.7μmの第二の硫化物固体電解質粒子の混合物と、正極活物質粒子とを湿式で混合し、乾燥させることにより得られた正極合材を、コールドプレスすることによって作製されている。また、上記4キの段落【0066】によれば、正極活物質層の製造方法としては、正極活物質と固体電解質粒子を含有する正極活物質層形成用ペーストを、正極集電体上に塗工して乾燥させた後、プレスすることによっても形成する方法が一般的であるとも記載されている。上記いずれの方法においても、固体電解質粒子と正極活物質粒子の混合した物をプレスして正極を形成している。

イ 一方、本件特許明細書の段落【0083】、【0091】には、実施例1の電極の形成方法が記載されており、0.1μmと2μmに粒度分布のピークを持つ固体電解質粒子と活物質粒子を混合したスラリーを、Al箔状に塗布し、乾燥させ、加温プレスを施して正極を形成すると、3<D2/D1<50となることが示されている。
また、本件特許明細書の段落【0084】、【0091】には、実施例2の電極の形成方法が記載されており、0.1μmと2μmに粒度分布のピークを持つ固体電解質粒子と活物質粒子を混合したスラリーを、Al箔状に塗布し、乾燥させ、加温プレスを施して負極を形成すると、3<D2/D1<50となることが示されている。
また、同段落【0085】、【0091】には、比較例1の電極の形成方法が記載されており、2μmのみにピークを持つ固体電解質粒子を使用する以外、実施例1と同じ方法で正極を形成すると、D2/D1=1となることが示されている。
また、同段落【0086】、【0091】には、比較例2の電極の形成方法が記載されており、2μmのみにピークを持つ固体電解質粒子を使用する以外、実施例2と同じ方法で負極を形成すると、D2/D1=1となることが示されている。
また、同段落【0087】、【0091】には、比較例3の電極の形成方法が記載されており、3μmと6μmにピークを持つ固体電解質粒子を使用する以外、実施例2と同じ方法で負極を形成すると、D2/D1=1.8となることが示されている。
また、同段落【0088】、【0091】には、比較例4の電極の形成方法が記載されており、0.5μmと29μmにピークを持つ固体電解質粒子を使用する以外、実施例2と同じ方法で負極を形成すると、D2/D1=60となることが示されている。
以上の記載から、正極または負極に含有される2種類の固体電解質粒子の粒度分布のピークの値をP1、P2(P1<P2、ただし1つのみのピークの場合はP1=P2と考える)とすると、上記いずれの実施例及び比較例においても、P2/P1≒D2/D1の近似的関係が成立することが確認される。このことは、大きさが異なる二つのピークを持つ固体電解質粒子を活物質粒子と混合してプレスすると、活物質粒子の表面近傍には主に小さいピークの固体電解質粒子が存在し、活物質粒子間の間隙には主に大きいピークの固体電解質粒子が存在することを意味するものと推定される。
つまり、それぞれ粒度分布のピークP1、P2(P1<P2)を持つ2種類の固体電解質粒子と活物質粒子を混合してプレスにより電極を形成すると、活物質粒子の表面近傍には主に小さいピークP1の固体電解質粒子が存在し、活物質粒子間の間隙には主に大きいピークP2の固体電解質粒子が存在するので、当該電極において、D2≒P2、D1≒P1となり、D2/D1≒P2/P1となるものと推定される。
なお、上記推定について、大きい粒子と小さい粒子を混合すると、大きい粒子の間隙に小さい粒子が入り込むという周知の現象があるから、この現象からも、上記推定の妥当性が肯定される。

ウ そこで、甲4発明の電極も、20.5μmと0.7μmという二つの平均粒径を持つ固体電解質粒子と活物質粒子を混合してプレスにより電極を形成したものであり、平均粒径すなわちD_(50)と粒度分布のピークは同じではないが、同程度の値であり、平均粒径をピークと読み替えることができると仮定すると、上記イの検討を適用することができると考えられる。このとき、活物質粒子の表面近傍には主に平均粒径(すなわちピークP1)0.7μmの固体電解質粒子が存在し、活物質粒子間の間隙には主に平均粒径(すなわちピークP2)20.5μmの固体電解質粒子が存在することになり、その結果、D1=P1=0.7μm、D2=P2=20.5μm、D2/D1=P2/P1=29.3となるものと推定できる。
このとき、上記D2/D1の値(29.3)は、本件発明1の特定事項である「3<D2/D1<50」を満足するものとなっているが、D1の値(0.7μm)は、本件発明1の特定事項である「0.05μm以上0.5μm以下」を満足していない。

エ 以上の検討をまとめると、上記イ、ウの検討が妥当とすれば、甲4発明において、D2/D1の値(29.3)は「3<D2/D1<50」を満足するが、D1の値=0.7は、本件発明1の特定事項である「0.05μm以上0.5μm以下」を満足しない。つまり、本件発明1と甲4発明は、相違点5のうち、「第1の固体電解質粒子は、0.05μm以上0.5μm以下の粒径を有」する点において相違しており、その余の点において一致するといえる。

オ そこで、本件発明1が「前記第1の固体電解質粒子は、0.05μm以上0.5μm以下の粒径を有」するものであるのに対して、甲4発明において、「第二の硫化物固体電解質粒子」の「平均粒径が0.7μmであ」ることが、本件発明1と甲4発明の構成上の微差であるといえるかについて検討する。

カ 上記4カの段落【0042】の記載によれば、第二の固体電解質粒子の平均粒径Cμmは、第一の固体電解質粒子の平均粒径Bμmよりも小さく、(1/2)B≧C≧(1/40)Bの関係を有するものであるから、甲4発明において、第1の固体電解質粒子の平均粒径20.5μmに対して許容される第2の固体電解質粒子の平均粒径Cは、0.512≦C≦10.25であるといえる。そして、このCの値の範囲は、さらに、段落【0043】の「第二の固体電解質粒子の平均粒径Cμmは、具体的には0.1μm?1.0μmの範囲内にあることが好ましく」との記載に照らすと、0.512≦C≦1.0の範囲が好ましい範囲であるといえる。
したがって、甲第4号証の記載に基づけば、第1の固体電解質粒子の平均粒径が20.5μmである甲4発明において、第2の固体電解質粒子の平均粒径について、0.7μmに代えて、好ましいとされる0.512μm以上1.0μm以下の範囲の値を採用することが可能であるといえる。そして、上記ウの検討によれば、第2の固体電解質粒子の平均粒径は、本件発明1のD1を表すものと解釈できるから、甲4発明において、採用可能なD1の値の範囲は、0.512μm以上1.0μmであるといえる。
しかしながら、甲4発明において採用可能といえる上記D1の範囲内のいずれの値も、本件発明1の特定事項である「前記第1の固体電解質粒子は、0.05μm以上0.5μm以下の粒径を有」することを満足しない。

ク 以上、SEM写真に基づかない検討を行ったとしても、甲4発明において、第二の硫化物固体電解質粒子の平均粒径が0.7μmであることは、本件発明1と甲4発明の構成上の微差であるとはいえないから、仮に、上記イ、ウの検討が妥当で採用できるとしても、相違点5は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は甲第4号証に記載された発明であるとはいえない。

(5-3-3)相違点についての判断のまとめ
以上の検討から、本件発明1と甲4発明は、相違点5において相違するから、本件発明1は甲第4号証に記載された発明と同一であるということはできない。

(5-4)本件発明2?4についての検討
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項を有し、これをさらに限定したものであるから、上記(5-2)で検討したと同様に、甲4発明と少なくとも相違点5の点で相違しており、上記(5-3)で検討したと同様の理由で、相違点5は、本件発明2?4と甲4発明の実質的な相違点である。
したがって、本件発明2?4は甲第4号証に記載された発明と同一であるということはできない。

(5-5)本件発明5?6についての検討
本件発明5?6は、正極と、負極と、固体電解質層とを備える固体電解質二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方の電極が本件発明1の電極に該当するものである。
一方、甲第4号証には甲4発明を正極とするリチウム全固体電池(以下「甲4電池発明」という。)が記載されているといえる。
したがって、本件発明5?6は、上記(5-2)で検討したと同様に、甲4電池発明と少なくとも相違点5の点で相違しており、上記(5-3)で検討したと同様の理由で、相違点5は、本件発明5?6と甲4電池発明の実質的な相違点である。
したがって、本件発明5?6は甲第4号証に記載された発明と同一であるということはできない。

(6)申立理由4の検討
(6-1)申立人の主張について(その1)
(6-1-1)申立人の主張
申立人は、申立書の第44頁の(ア)において、(a)本件特許明細書には、その請求項3に記載された「式 Li_(5+x)La_(3)M_(2-x)Zr_(x)O_(12)(Mは、Nb,Taのうち少なくとも1つである)で表される酸化物固体電解質」を用いた例はなく、効果を奏することの説明も記載もないので、本件特許明細書にいう所定の効果を奏するか不明であり、また、(b)この式のxの値についても記載がないので、どのようなものが該当するか不明である旨の主張をしている。

(6-1-2)当審の判断
ア 本件特許明細書において実施例の酸化物固体電解質として使用されている物質は、「Li_(5)La_(3)Ta_(2)O_(12)」であり、これは、「式 Li_(5+x)La_(3)M_(2-x)Zr_(x)O_(12)(Mは、Nb,Taのうち少なくとも1つである)」においてx=0の場合に該当するものであるから、当該式のうちの代表的な一つの酸化物固体電解質の例が開示されている。
したがって、上記(a)の主張は、本件特許明細書の記載に基づいた妥当なものとはいえないから、これを採用できない。

イ 本件特許明細書の段落【0026】には、「・・・ガーネット型構造を有し、式 Li_(5+x)La_(3)M_(2-x)Zr_(x)O_(12)(Mは、Nb,Taのうち少なくとも1つである)表されるものが挙げられる。・・・ガーネット型の酸化物は、Li_(5)La_(3)Nb_(2)O_(12)、Li_(5)La_(3)Ta_(2)O_(12)、Li_(7)La_(3)Zr_(2)O_(12)が好ましい。」と記載されており、上記式の酸化物固体電解質に該当する3つの物質が例示されており、また、これら例示された物質から、xは、x=0?2の範囲の値を取り得ることが理解される。
したがって、上記(b)の主張も妥当なものとはいえないから、これを採用できない。

(6-2)申立人の主張について(その2)
(6-2-1)申立人の主張
申立人は、申立書の第44頁の(イ)において、本件特許明細書には、その請求項4に記載された「(1-x-y)Li_(2)S・xGeS_(2)・yP_(2)S_(5)(0≦x<0.5、0≦y<0.4)で表わされる硫化物固体電解質」を用いた例はなく、効果を奏することの説明も記載もないので、本件特許明細書にいう所定の効果を奏するか不明である旨の主張をしている。

(6-2-2)当審の判断
本件特許明細書には、上記硫化物固体電解質を用いた実施例については記載されていない。
しかしながら、本件特許が解決しようとする課題について、本件特許明細書の段落【0005】には「本実施形態は、イオン伝導性に優れた固体電解質二次電池用電極を提供することを目的とする。」と記載されており、その解決手段について、本件特許明細書の段落【0014】には「第1の固体電解質粒子の粒径D1、第2の固体電解質粒子の粒径D2において、粒径比率(D2/D1)を3<D2/D1<50に規定することによって、前記第1、第2の固体電解質粒子の機能を効果的に発揮できる。その結果、電極自体のイオン(例えばリチウムイオン)の伝導性を向上できると共に、固体電解質層と組合せた固体電解質二次電池における電極と固体電解質層との間でのリチウムイオン伝導性を高めることが可能になる。」と記載されている。
つまり、本件特許発明において解決しようとする課題は、イオン伝導性に優れた固体電解質二次電池用電極を提供することであり、その解決手段として、当該電極において、「第1の固体電解質粒子の粒径D1、第2の固体電解質粒子の粒径D2において、粒径比率(D2/D1)を3<D2/D1<50に規定する」ことによって、電極自体、及び、電極と固体電解質層との間でのリチウムイオン伝導性を高めることが可能となっているものであり、固体電解質の具体的な組成が上記課題の解決手段であることについては何ら記載がない。
してみると、本件特許の電極において、当該電極に含有される固体電解質の具体的な組成にかかわらず、第1の固体電解質粒子の粒径D1と、第2の固体電解質粒子の粒径D2について、粒径比率(D2/D1)を3<D2/D1<50との規定を満足すれば、イオン伝導性に優れた固体電解質二次電池用電極を提供することできるといえる。
そして、本件特許明細書においては、固体電解質の実施例としては、Li_(5)La_(3)Ta_(2)O_(12)が採用されているが、本件特許明細書の記載に基づけば、電極において「粒径比率(D2/D1)を3<D2/D1<50」の条件が満足されていれば、Li_(5)La_(3)Ta_(2)O_(12)以外の「(1-x-y)Li_(2)S・xGeS_(2)・yP_(2)S_(5)(0≦x<0.5、0≦y<0.4)で表わされる硫化物固体電解質」を採用した場合にも、実施例の固体電解質と同様の効果を奏することは、当業者が容易に理解し得ることであるといえる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(6-3)申立人の主張について(その3)
(6-3-1)申立人の主張
申立人は、申立書の第45頁の(ウ)において、(a)本件発明5には「正極および負極の少なくとも一方の電極」が本件発明1の電極を用いればいいことが規定されているが、本件特許明細書には、正極及び負極の双方を本件発明1で規定する電極とした実施例が記載されているのみであり、正極と負極の一方だけを本件発明1で規定する電極とした実施例は記載されておらず、後者の場合に、本件特許発明の効果を奏するか不明であり、また、(b)本件特許明細書の表2について、正極と負極の双方を本件発明1の電極としたものである実施例4は、「0.5C放電容量/0.1C放電容量」の値が61%となっているが、仮に、いずれか一方のみを本件発明1の電極とした場合には、比較例5(当審注:比較例6の誤記と認められる。)の59%を下回るものと見込まれる旨の主張をしている。

(6-3-2)当審の判断
ア 申立人は、上記(b)の主張について、実施例4の電池の一方のみが本件発明1の電極とした場合に、実際に、「0.5C放電容量/0.1C放電容量」が59%を下回ることを実験や理論によって証明しているわけではなく、申立人の上記主張は客観的かつ具体的な根拠に基づく主張ではないから採用できない。

イ また、本件特許明細書の段落【0092】?【0095】には、実施例1、2及び比較例1?4の電極に対して、対極にリチウム金属を用いた2極式セルにおいて行われた充放電試験の結果が記載されているところ、上記2極式セルが、正極と負極を備えた電池であることは当業者には自明の事項である。そして、例えば、0.1μmと2μmにピークを持つ実施例1の2極式セルと、実施例1とは2μmのみにピークを持つ点でのみ相違する比較例1の2極式セルの結果を比較すると、実施例1のセルは76%、比較例1のセルは65%となっており、一方の電極のみが本件発明1の電極である実施例1のセルは、いずれの電極も本件発明1の電極ではない比較例1のセルよりも効果があることが示されている。実施例2のセルと比較例2のセルとの比較においても同様の事実が示されている。
したがって、本件特許明細書には、正極と負極の一方だけを本件発明1で規定する電極としたセル、すなわち電池が記載されており、当該セルが本件特許発明の効果を奏することも示されている。
よって、申立人の上記主張(a)は採用できない。

(6-4)検討についての結果
以上のとおり、申立人の主張(6-1-1)、(6-2-1)、(6-3-1)はいずれも採用できない。
したがって、本件発明3?5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(7)申立理由5の検討
(7-1)申立人の主張について(その1)
(7-1-1)申立人の主張
申立人は、申立書の第46頁の(ア)において、本件発明1が、「前記活物質粒子に接触して存在する第1の固体電解質粒子・・・を含む固体電解質二次電池用電極」において「前記第1の固体電解質粒子は、0.05μm以上0.5μm以下の粒径を有」するものであるところ、(a)活物質粒子に接触して存在し、0.05μm以上0.05μm以下の粒径を有さないものは、第1の固体電解質粒子なのか、(b)その粒子が粒径として粒径比率を満たしていれば、第2の固体電解粒子というのか、あるいは、(c)活物質粒子に接触して存在する第2の固体電解質粒子というものがあるか、の点で不明である旨主張している。

(7-1-2)当審の判断
ア まず、本件特許明細書の記載を確認する。本件特許明細書の段落【0089】には「・・・活物質近傍の固体電解質粒子をランダムに10個選択し、それらの粒径の算術平均をD1とし、活物質粒子間の間隙に存在する固体電解質粒子をランダムに10個選択し、それらの粒径の算術平均をD2とする。粒径は粒子の長軸の値を用いる。ここで「活物質近傍」とは、SEMによる測定において、1つの活物質に接触している状態をいう。また、「活物質粒子間の間隙」とはSEMによる測定において、活物質と接触していない、または複数の活物質と接触している状態をいう。」と記載されている。

イ 上記アの記載によれば、固体電解質粒子が活物質粒子に接触しているか、間隙に存在するかは、SEMによる観察で決定されることであり、SEMによる観測の結果、活物質粒子に接触して存在する固体電解質粒子のことを「第1の固体電解質粒子」と呼んでおり、活物質粒子間の間隙に存在する固体電解質粒子のことを「第2の固体電解質粒子」と呼んでいるものと認められる。

ウ そして、活物質粒子近傍の固体電解質粒子をランダムに10個選択し、それらの粒径の算術平均をとった値をD1とし、活物質粒子間の間隙に存在する固体電解質粒子をランダムに10個選択し、それらの粒径の算術平均をとった値をD2としているものと認められる。

エ そこで、上記(a)の点、すなわち、「活物質粒子に接触して存在し、0.05μm以上0.05μm以下の粒径を有さないものは、第1の固体電解質粒子なのか」不明であるとの点について検討する。
1つの活物質粒子に接触して存在する固体電解質粒子は、上記イの検討によれば、その粒径がいかなるものであるかによらず、第1の固体電解質粒子であるといえる。
したがって、「活物質粒子に接触して存在し、0.05μm以上0.05μm以下の粒径を有さないもの」は、「活物質粒子に接触して存在」するものであるから、「0.05μm以上0.05μm以下の粒径を有さないもの」であったとしても、本件発明1?6にいうところの「第1の固体電解質粒子」であることは明らかである。
よって、上記(a)の点は不明瞭な記載であるとはいえない。

オ 次に、上記(b)の点、すなわち、「その粒子が粒径として粒径比率を満たしていれば、第2の固体電解粒子というのか」不明であるとの点について検討する。
まず、活物質粒子間の間隙に存在する固体電解質粒子は、上記イの検討によれば、その粒径がいかなるものであるかによらず、第2の固体電解質粒子であるといえる。
したがって、粒径についての条件である、「その粒子が粒径として粒径比率(D2/D1)を満たしてい」る第2の固体電解粒子が、本件発明1?6にいうところの「第2の固体電解粒子」であることは明らかである。なお、粒径比率(D2/D1)を満たしていない第2の固体電解粒子も、活物質粒子間の間隙に存在するのであれば、第2の固体電解質粒子であることも明らかである。
よって、上記(b)の点は不明瞭な記載であるとはいえない。

カ 上記(c)の点、すなわち、「活物質粒子に接触して存在する第2の固体電解質粒子というものがあるか」不明であるとの点について検討する。
上記アの記載によれば、1つの活物質に接触している固体電解質粒子は第1の固体電解質粒子であり、活物質と接触していない、または複数の活物質と接触している固体電解質粒子は第2の固体電解質粒子である。
したがって、固体電解質粒子が複数の活物質粒子に接触していれば、第2の固体電解質粒子であるから、「活物質粒子に接触して存在する第2の固体電解質粒子というもの」があることは明らかである。
よって、上記(c)の点は不明瞭な記載であるとはいえない。

キ 以上から、上記(7-1-1)において本件発明1について不明であると指摘された記載は、本件特許明細書の記載を参酌すれば、いずれも不明であるとはいえない。また、本件発明2?4、5?6についても、同様に不明であるとはいえない。

(7-2)申立人の主張について(その2)
(7-2-1)申立人の主張
申立人は、申立書の第46?47頁の(ア)の後半において、本件特許明細書に、粒子の粒径や粒度分布をどのような方法により求めるかは、明確に記載されていないので、本件発明1の「粒径」も不明瞭である旨主張している。

(7-2-2)当審の判断
ア まず、本件特許明細書の記載を確認する。本件特許明細書の段落【0089】には「・・・活物質近傍の固体電解質粒子をランダムに10個選択し、それらの粒径の算術平均をD1とし、活物質粒子間の間隙に存在する固体電解質粒子をランダムに10個選択し、それらの粒径の算術平均をD2とする。粒径は粒子の長軸の値を用いる。ここで「活物質近傍」とは、SEMによる測定において、1つの活物質に接触している状態をいう。また、「活物質粒子間の間隙」とはSEMによる測定において、活物質と接触していない、または複数の活物質と接触している状態をいう。」と記載されている。また、段落【0090】には「 また、得られた実施例2、比較例2?4の負極の負極層において、Li_(4)Ti_(5)O_(12)粒子の表面近傍に存在する第1のLi_(5)La_(3)Ta_(2)O_(12)粒子の粒径D1およびLi_(4)Ti5O_(12)粒子間の間隙に存在する第2のLi_(5)La_(3)Ta_(2)O_(12)粒子の粒径D2をSEMにより測定した。」と記載されている。

イ 上記アの記載によれば、D1及びD2の測定は、SEMによって、粒子の長軸を測定することにより行われているものと認められる。
したがって、粒径の測定方法は明らかであるから、本件発明1の「粒径」なる特定事項は不明瞭であるとはいえない。また、本件発明2?4、5?6についても、同様に不明瞭であるとはいえない。

(7-3)検討についての結果
以上のとおり、申立人の主張(7-1-1)、(7-2-1)はいずれも採用できない。
したがって、本件発明1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る本件特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-08-16 
出願番号 特願2014-504571(P2014-504571)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01M)
P 1 651・ 16- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 536- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 重樹  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 小川 進
池渕 立
登録日 2015-07-31 
登録番号 特許第5784819号(P5784819)
権利者 株式会社東芝
発明の名称 固体電解質二次電池用電極、固体電解質二次電池および電池パック  

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