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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1318457
審判番号 不服2014-25329  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-10 
確定日 2016-08-18 
事件の表示 特願2013- 83445「管ライニング材反転装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月25日出願公開、特開2013-144458〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成17年12月1日(優先権主張 平成16年12月28日)の出願である特願2005-347430号の一部を新たな特許出願とした特願2010-249261号の一部をさらに新たな特許出願としたものであって、平成26年7月15日付けで拒絶理由が通知され、同年8月21日に意見書及び特許請求の範囲並びに明細書についての手続補正書が提出されたが、同年9月29日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年12月10日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲及び明細書についての手続補正書が提出されたので、特許法第162条所定の審査がされた結果、平成27年1月29日付けで同法第164条第3項所定の報告がされ、同年4月8日に上申書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[結論]
平成26年12月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成26年12月10日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容

本件補正は、特許請求の範囲及び明細書についての補正であって、その内、本件補正の前後における特許請求の範囲の記載は、それぞれ以下のとおりである。

・ 本件補正前(請求項2の記載省略)

「【請求項1】
管ライニング材を管路内に反転挿入する管ライニング材反転装置であって、
管ライニング材が巻回される回転体を内部に有し、管ライニング材の引き出し時に管ライニング材が通過する開口部が形成されたトラックの荷台に取り付け可能な収納容器と、
前記収納容器の開口部に接続され、前記収納容器に収納された管ライニング材を先端部に導く導管と、
前記導管の先端部に設けられ、前記管ライニング材を反転させるための垂直下方に延びる反転ノズルと、を備え、
前記収納容器は、該収納容器に導管を介して反転ノズルを取り付けた状態で作業現場に移動できるように、前記トラックの荷台に取り付けられることを特徴とする管ライニング材反転装置。」

・ 本件補正後(請求項2の記載省略)

「【請求項1】
管ライニング材を管路内に反転挿入する管ライニング材反転装置であって、
管ライニング材が巻回される回転体を内部に有し、管ライニング材の引き出し時に管ライニング材が通過する開口部が形成されたトラックの荷台に取り付け可能な収納容器と、
前記収納容器の開口部に接続され、前記収納容器に収納された管ライニング材を先端部に導く導管と、
前記導管の先端部に設けられ、前記管ライニング材を反転させるための垂直下方に延びる反転ノズルと、を備え、
前記収納容器は、該収納容器に導管を介して反転ノズルを取り付け、該反転ノズルの開口端外周に前記管ライニング材の一端を折り返して気密に取り付けた状態で作業現場に移動できるように、前記トラックの荷台に取り付けられることを特徴とする管ライニング材反転装置。」(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)

2 本件補正の目的

本件補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「前記収納容器は、該収納容器に導管を介して反転ノズルを取り付けた状態で作業現場に移動できるように、前記トラックの荷台に取り付けられる」について、「前記収納容器は、該収納容器に導管を介して反転ノズルを取り付け、該反転ノズルの開口端外周に前記管ライニング材の一端を折り返して気密に取り付けた状態で作業現場に移動できるように、前記トラックの荷台に取り付けられる」へ補正するものである。
当該補正事項について検討すると、補正前には特に取付状態について特定されていなかったものが、本件補正により「反転ノズルの開口端外周に前記管ライニング材の一端を折り返して気密に取り付けた状態で」と特定されている。
しかも、補正の前後で、請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらないから、当該補正事項は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

なお、本件補正の請求項1についてする補正は、いわゆる新規事項を追加するものではないと判断される。

3 独立特許要件違反の有無について

上記2のとおりであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。下記4参照)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討するところ、下記5において詳述するように、本件補正は当該要件に違反すると判断される。

4 本願補正発明

本願補正発明は、平成26年12月10日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

本願補正発明
「管ライニング材を管路内に反転挿入する管ライニング材反転装置であって、
管ライニング材が巻回される回転体を内部に有し、管ライニング材の引き出し時に管ライニング材が通過する開口部が形成されたトラックの荷台に取り付け可能な収納容器と、
前記収納容器の開口部に接続され、前記収納容器に収納された管ライニング材を先端部に導く導管と、
前記導管の先端部に設けられ、前記管ライニング材を反転させるための垂直下方に延びる反転ノズルと、を備え、
前記収納容器は、該収納容器に導管を介して反転ノズルを取り付け、該反転ノズルの開口端外周に前記管ライニング材の一端を折り返して気密に取り付けた状態で作業現場に移動できるように、前記トラックの荷台に取り付けられることを特徴とする管ライニング材反転装置。」

5 本願補正発明が特許を受けることができない理由

(1) 刊行物
刊行物:実願昭59-027523号(実開昭60-138737号)のマイクロフィルム(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、以下、単に「引用文献」という。)

(2) 引用文献の記載事項
本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物であることが明らかな引用文献には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付した。)

ア 「圧力容器内に、内面に接着剤を塗布した筒状の内張り材を収納し、該内張り材を流体圧力で裏返しながら管路内に挿通し、裏返された内張り材を、前記接着剤を介して管路内面に接着する内張り工法において使用する、管路の内張り装置において、前記圧力容器の前面下部に内張り材吐出口を設けると共に、該吐出口の下方から前方に伸びるレールを設けた内張り装置本体と、前記レール上に前後に摺動自在に載置された、その先端部に内張り材を環状に固定する内張り材固定金具を有し、後端部には揺動型のシャッターを有し、後端には前記圧力容器の内張り材吐出口に着脱自在に取付けられる接続金具を有する内張り材取付け金具と、該内張り材取付け金具に対して着脱自在に結合可能であって、内張り材内に挿通される内張り材よりも充分に細い加温用ホースの一端を結合することのできるホース取付け金具を有する鏡板と、内張りされる管路の他端に取付けられ、内張り材内の流体を排出する排出金具を有する蓋板を取付けた先端金具とよりなることを特徴とする、管路の内張り装置」(実用新案登録請求の範囲)

イ 「すなわち、接着剤を調製してから工事開始までの間は、接着剤を常温下又は冷却下に置いて硬化反応を抑制し、内張り材を管路に挿通した後、管路に内張りされた内張り材内を加温して、接着剤の硬化反応を促進させ、急速に硬化させるのである。
このための方法として、出願人等が先に出願した、特願昭55-19569号に示された発明の方法がある。この発明の方法は、内張り材の端に該内張り材よりも充分に細く、且つ多数の小孔を穿設した加温用ホースを接続し、内張り材が管路内に挿通された状態において、前記加温用ホースが内張り材内に挿通されるようになし、然る後に加温用ホース内に加圧水蒸気を送入し、該加圧水蒸気を前記加温用ホースの小孔から内張り材内に漏出させて、該加圧水蒸気により内張り材を介して接着剤を加温し、急速に反応硬化せしめるものである。
本考案はこの方法を実施するための機能を有する新規な管路の内張り装置を提供することを目的とするものである。」(明細書4頁8行?5頁8行)

ウ 「図面は、本考案の内張り装置の一実施例を示すものである。第1図及び第2図において、1はトラックであって、該トラック1上には内張り装置本体2が搭載されている。該内張り装置本体2において、3は圧力容器であって、該圧力容器3内には、第3図に示すように、内張り材を巻回するリール4が回転自在に軸支されている。
圧力容器3の前下部には、後述する内張り材取付け金具を結合する内張り材吐出口5が形成されており、該内張り材吐出口5の上方には内張り材導入口6が形成されている。該内張り材導入口6は、常時は蓋7で密閉されており、内張り材を導入するときには該蓋7を開き、内張り材導入口6を開放することができるようになっている。また蓋7は、内張り材導入口6から取外したときには、ウエイトバランサー8により、容易に上方に吊上げられるようになっている。
前記リール4は、圧力容器3外において、チェーン9を介して減速機10に接続されており、該減速機10は無段変速機付きモーター11及び、クラッチ12を介して直流モーター13に接続されている。直流モーター13はトラック1のバッテリーにより駆動されるようになっており、無段変速機付きモーター11は、外部電源により駆動されるようになっている。
・・・
23は、内張り装置本体2を載置したフレーム24の前部に、前方に突出して設けられたレールである。25は内張り材取付け金具であって、前記レール23上に前後に摺動自在に載置されている。該内張り材取付け金具25は、その先端部に内張り材を環状に固定する内張り材固定金具26を有し、後端部には揺動自在のシャッター27を取付け、後端には、前記圧力容器の内張り材吐出口5に着脱自在に取付けられる接続金具28を有している。
また29及び30は、圧力容器3及び内張り材取付け金具25に圧力流体を送入する圧力流体送入口である。
第4図における31は、前記内張り材取付け金具25の接続金具28の後端を閉塞する鏡板であって、接続金具28に着脱自在に取付けることができるようになっている。該鏡板31には、ホース取付け金具32と、空気送入口33とが設けられている。
内張り材固定金具26の先端には、曲管34を介して誘導管35が取付けられ、さらにその先端は、曲管36を介して管路37の端末に接続されている。38は、前記管路37の他端側に曲管39を介して接続された先端金具であって、蓋40で閉塞され、且つ該蓋40には流体排出金具41が取付けられている。流体排出金具41は中空の針であって、蓋40に貫通するようになっており、且つ該流体排出金具41の基部は蒸気処理装置に接続されている。」(明細書6頁10行?10頁13行)

エ 「而して、圧力容器3内に内張り材を収納する際には、内張り材42内に接着剤を封入し、この内張り材42をその先端から回転ローラー18、19間に送入し、回転ローラー18、19で絞つて接着剤を内張り材42内に均一に塗布し、内張り材導入口6を経て圧力容器3内に導入し、リール4に巻回する。・・・
内張り材42を圧力容器3に収納した後、内張り工事までの間に接着剤が早期硬化を起すのを防止するため、スノーフォン14から液化炭酸ガスを、粉末状のドライアイスとして内張り材42の表面に噴霧し、内張り材42を介して接着剤を冷却する。
また、内張り材42を圧力容器3に導入する場所と内張り工事を行う場所とが異なる場合には、トラック1で内張り材42を収納した圧力容器3を運搬する必要があるが、その際には、直流モーター13でリール4をゆっくりと回転させながら運搬することにより、接着剤が内張り材42内で低い部分に滞溜して、局部的に早期硬化を起すことを防止することが可能である。またこの運搬の際にも、スノーフォン14から粉末状ドライアイスを噴霧し、撹拌用ファン15で圧力容器3内の空気を撹拌することにより、保冷しつつ運搬するのが好ましい。
工事現場に着いたならば、一旦リール4の回転を停止し、内張り材42の端末を内張り材吐出口5から引出し、シャッター27を開いて内張り材取付け金具25内を通し、内張り材固定金具26に環状に取付ける。接続金具28と内張り材吐出口5とを結合し、更に内張り材固定金具26の先端を、曲管34、誘導管35及び曲管36を介して、管路37に接続する。また管路37の他端には、曲管39を介して先端金具38を取付けておく。先端金具38の流体排出金具41は取外しておく。
次に、圧力流体送入口29から圧力流体(例えば圧縮空気)を送入し、内張り材42を流体圧力により裏返しながら無段変速機付きモーター11でリール4を駆動し、内張り材42を裏返しながら、該内張り材42の裏返し部分44を、管路37内を他端に向って前進せしめ、管路内に挿通して内張りするのである。」(明細書10頁14行?13頁7行)

オ 「4.図面の簡単な説明
第1図は、本考案の内張り装置をトラックに搭載した状態の、一実施例を示す側面図であり、第2図は、その平面図である。第3図は、本考案の内張り装置の、主要部の中央縦断面図である。第4図は、本考案の内張り装置における、接着剤を加温する状態における、主要部の中央縦断面図である。
2……内張り装置本体 3……圧力容器
4……リール 5……内張り材吐出口
6……内張り材導入口 23……レール
25……内張り材取付け金具
26……内張り材固定金具
27……シャッター 28……接続金具
31……鏡板 32……ホース取付け金具
37……管路 38……先端金具
40……蓋 41……流体排出金具
42……内張り材 43……加温用ホース」(明細書15頁18行?16頁15行)

カ 「

」(図1?4)

(3)引用文献に記載された発明
引用文献には、上記5(2)アの装置が記載されている。そして、上記5(2)ウには「トラック上には内張り装置本体2が搭載されている」ことが記載され、上記5(2)エには「内張り材42と圧力容器3に導入する場所と内張り工事を行う場所とが異なる場合には、・・・工事現場に着いたならば、内張り材42の端末を内張り材吐出口5から引出し、シャッター27を開いて内張り材取付け金具25内を通し、内張り材固定金具26に環状に取付ける。」と記載されており、圧力容器と内張り工事を行う場所が異なる場合に、工事現場に到着後に、内張り材を内張り材取付け金具を通し、内張り材固定金具に環状に取り付けているものについての記載があるといえる。
これらの記載を併せ総合すると、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。

「圧力容器内に、内面に接着剤を塗布した筒状の内張り材を収納し、該内張り材を流体圧力で裏返しながら管路内に挿通し、裏返された内張り材を、前記接着剤を介して管路内面に接着する内張り工法において使用する、管路の内張り装置において、
前面下部に内張り材吐出口を備えており、内部に内張り材を巻回するリールが回転自在に軸支されている圧力容器と、圧力容器の吐出口下方から前方に伸びるレールと、レール上に前後に摺動自在に載置され、先端部に内張り材を環状に固定する内張り材固定金具、後端部に揺動型のシャッターを備えた内張り材吐出口に着脱自在に取付けられる接続金具を有する内張り材取付け金具と、内張材取付け金具に対して着脱自在に結合可能で内張り材内に挿通される内張り材よりも充分に細い加温用ホースの一端を結合することのできるホース取付け金具を有する鏡板と、内張りされる管路の他端に取付けられ、内張り材内の流体を排出する排出金具を有する蓋板を取付けた先端金具とよりなる管路の内張り装置であって、トラック上に内張り装置本体が搭載されており、工事現場に到着後に、内張り材を内張り材取付け金具を通し、内張り材固定金具に環状に取り付ける、管路の内張り装置。」

(4)本願補正発明と引用発明との対比・判断
引用発明の「リール」、「圧力容器」、「内張り材吐出口」、「内張り材」、「接続金具を有する内張り材取付け金具」、「内張り材固定金具」は、それぞれ、本願補正発明における「回転体」、「収納容器」、「収納容器の開口部」、「管ライニング材」、「導管」、「反転ノズル」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明の「管路の内張り装置」は、上記5(2)イ及びウの記載から、本願補正発明における「管ライニング材を管路内に反転挿入する管ライニング材反転装置」に相当することは明らかである。
また、引用発明は「トラック上に内張り装置本体が搭載」されているのであるから、上記5(2)カの第1図からみて、圧力容器(収納容器)はトラックの荷台に取り付けられているといえる。
引用発明の「圧力容器」(収納容器)、「接続金具を有する内張り材取付け金具」(導管)、「内張り材固定金具」(反転ノズル)、「内張り材」(管ライニング)の関係は、上記5(2)ウ?カの記載から、圧力容器(収納容器)に接続金具を有する内張り材取付金具(導管)を介して内張り材固定金具(反転ノズル)が取り付けられており、内張り材取付金具(反転ノズル)の開口端外周に内張り材(管ライニング材)の一端を折り返して取り付けられているといえる。
さらに、本願明細書等の段落【0023】の記載において、管ライニング材の収納容器への取付けが、作業現場で行われるか作業現場に向かう前の段階で行われるかで区別しているものであることから、本願補正発明における「作業現場」とは、管ライニング材の反転作業を行う場所、すなわち実際の管の補修工事が行われる場所を意味し、引用発明の「工事現場」に相当するといえる。
そうすると、両者は、

「管ライニング材を管路内に反転挿入する管ライニング材反転装置であって、
管ライニング材が巻回される回転体を内部に有し、管ライニング材の引き出し時に管ライニング材が通過する開口部が形成されたトラックの荷台に取り付け可能な収納容器と、 前記収納容器の開口部に接続され、前記収納容器に収納された管ライニング材を先端部に導く導管と、
前記導管の先端部に設けられ、前記管ライニング材を反転させるための反転ノズルと、を備え、
前記収納容器は、該収納容器に導管を介して反転ノズルを取り付け、外反転ノズルの開口端外周に前記管ライニング材の一端が折り返して取り付けられており、前記トラックの荷台に取り付けられる管ライニング材反転装置。」

の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
反転ノズルに関し、本願補正発明においては「垂直下方に延びる」と特定するのに対して、引用発明は、反転ノズルの形状についての特定はなく、引用文献の上記5(2)カの図面においては、水平に延びる形状となっている点。

<相違点2>
収納容器のトラックの荷台への取付けに関して、本願補正発明においては「気密に取り付けた状態で作業現場に移動できるように」と特定するのに対して、引用発明はこの点を特定しない点。

以下、相違点について検討する。
相違点1について
内張り材固定金具としては、内張り材を固定できればいいのであって、その延びる方向については、当業者が適宜設定しうる設計事項といえる。そのことによる効果については、当業者が予測し得るものであって、格別な効果が奏されるものとはいえない。

相違点2について
引用文献の上記5(2)エ及びカの記載から、引用発明の管ライニング材(内張り材)についても反転ノズル(内張り材固定具)への固定後に「圧力流体送入口29から圧力流体(例えば圧縮空気)を送入し、内張り材42を流体圧力により裏返しながら無段変速機付きモーター11でリール4を駆動し、内張り材42を裏返しながら、該内張り材42の裏返し部分44を、管路37内を他端に向って前進せしめ、管路内に挿通して内張りする」のであるから、その取り付けは「気密に」取り付けられているといえる。
また、引用発明の管ライニング材の反転ノズルへの取り付けは、「作業現場(工事現場)に到着後に」行われるものであるが、取り付けられた内張り装置本体はトラックの荷台上に設置されているものであるから、構造上「取り付けられた状態で作業現場に移動できる」といえる。
そうすると、相違点2は、実質上の相違点ではない。

したがって、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に想到し得たものである。

(5)請求人の主張の検討
請求人は、意見書において、反転ノズルの方向を「垂直下方に延びる」とすることによる効果について、「反転装置の走行方向の長さが短くなり、運搬、移動に好都合なほかに、トラックに反転装置をのせたまま反転ノズルをマンホールに垂直方向に臨まされる位置に配置することが容易になり(明細書段落[0023])、管ライニング材の管路への反転挿入を円滑に行うことができる、という優れた作用効果」があると主張する。
そこで、当該主張について検討する。
まず、反転装置の走行方向の長さが短くなることで、運搬、移動に好都合となることは、車両の全長が短くなることで当然に奏される効果であるから、当業者が予測し得るものである。
次に、反転ノズルをマンホールに垂直方向に臨まされる位置に配置することが容易になり、管ライニング材の管路への反転挿入を円滑に行うことができる点については、補修を行う既設管がどのような位置にあるかによって、当該効果が奏されるとは一概にはいえないし、また、補修を行う既設管の方向へ配置することで、既設管(管路)への挿入が容易となることもまた、当業者において当然に理解されている効果といえるから、この点も当業者が予測し得るものであり、請求人の主張は採用できない。

また、請求人は、上申書において「本願の発明1は、『反転ノズルの開口端外周に前記管ライニング材の一端を折り返して気密に取り付けた状態で作業現場に移動』するという発明2と同様な特徴を有します。引用例1は甲第1号証と同じものであり、引用例1には、上述した阻害要因があることから、上記審決と同様に、引用例1の発明において、収納容器を作業現場に移動させるに際して、『反転ノズルの開口端外周に前記管ライニング材の一端を折り返して気密に取り付けた状態で作業現場に移動』させることを想到するのは当業者には容易ではありません。」と主張する。
当該主張について検討するに、本願補正発明の記載は「・・・作業現場に移動できる」であるから、実際に移動しなくとも、移動できる装置であれば本願補正発明に該当することになるから、請求人の主張は失当である。また、発明2(無効審判請求がなされた案件の発明)は、「管ライニング材反転方法」に係る発明であって、そのカテゴリーが異なる発明であって、請求人が主張する阻害要因は、方法の発明において存在する阻害要因であるから、装置の発明である本願補正発明については該当しない。
したがって、上記請求人の主張も採用できない。

(6)まとめ
本願補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 補正の却下の決定のむすび

以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

平成26年12月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成26年8月21日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載されたとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「管ライニング材を管路内に反転挿入する管ライニング材反転装置であって、
管ライニング材が巻回される回転体を内部に有し、管ライニング材の引き出し時に管ライニング材が通過する開口部が形成されたトラックの荷台に取り付け可能な収納容器と、 前記収納容器の開口部に接続され、前記収納容器に収納された管ライニング材を先端部に導く導管と、
前記導管の先端部に設けられ、前記管ライニング材を反転させるための垂直下方に延びる反転ノズルと、を備え、
前記収納容器は、該収納容器に導管を介して反転ノズルを取り付けた状態で作業現場に移動できるように、前記トラックの荷台に取り付けられることを特徴とする管ライニング材反転装置。」

2 引用文献とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物であることが明らかな実願昭59-027523号(実開昭60-138737号)のマイクロフィルムの記載事項及び引用発明は、上記第2 5(2)及び(3)に記載したとおりである。

3 対比・判断

本願発明は、上記第2 2で述べたとおり、本願補正発明における「反転ノズルの開口端外周に前記管ライニング材の一端を折り返して気密に取り付けた状態で」との限定をなくしたものである。
そして、本願発明の特定事項をすべて含む本願補正発明が、上述のとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願発明も、同様の理由により、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-17 
結審通知日 2016-06-21 
審決日 2016-07-04 
出願番号 特願2013-83445(P2013-83445)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 粟野 正明富永 泰規  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
小柳 健悟
発明の名称 管ライニング材反転装置  
代理人 村雨 圭介  
代理人 早川 裕司  
代理人 加藤 卓  

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