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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01T 審判 査定不服 特37 条出願の単一性( 平成16 年1 月1 日から) 取り消して特許、登録 G01T 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01T 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G01T |
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管理番号 | 1318615 |
審判番号 | 不服2015-12537 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-07-02 |
確定日 | 2016-09-20 |
事件の表示 | 特願2013-549229「放射線検出パネルの製造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月20日国際公開、WO2013/089015、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年12月6日(特許法第41条に基づく国内優先権主張 特願2011-276157、特願2011-276158、特願2011-276207、特願2011-276208、いずれも平成23年12月16日の出願)の出願であって、平成26年12月4日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月2日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、同年4月16日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年7月2日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同時に手続補正がされ、その後、当審において平成28年6月15日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年7月21日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成28年7月21日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものと認められる。 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。 「シンチレータ材を蒸発させ鉛直上方へ向けて放射させる蒸発源と、 前記蒸発源より鉛直上方側に位置し、光電変換基板の蒸着面が前記蒸発源に露出しかつ鉛直軸に対して斜めとなる状態に前記光電変換基板を保持する保持機構と、 前記光電変換基板から向かって前記保持機構を越えて位置し、前記保持機構に間隔を置いて対向配置される熱伝導体と、 前記保持機構から向かって前記熱伝導体を越えて位置し、前記熱伝導体を通じて前記光電変換基板の温度を調整する温度調整部と、 前記保持機構に取付けられ、前記保持機構とともに前記光電変換基板を回転させる駆動部と、を備え、 前記熱伝導体は、前記温度調整部の熱を前記光電変換基板に伝える機能及び前記光電変換基板の熱を吸収し前記温度調整部に伝える機能を有し、 前記蒸発源は、前記シンチレータ材を放射させる蒸発口を有し、 前記蒸発口の中心と前記蒸着面の任意の点とを結ぶ仮想線と、前記蒸着面の法線との内側になす角度をθとすると、 前記保持機構は、前記蒸着面の中心において45°≦θ≦70°となるように前記光電変換基板を保持し、 前記駆動部は、前記蒸着面の中心の法線に沿った軸を回転軸として前記保持機構とともに前記光電変換基板を4rpm以上の回転速度で回転させる放射線検出パネルの製造装置。」 第3 原査定の理由について 1 原査定の理由の概要 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 刊行物: 1.特開平05-249299号公報(以下、「引用文献1」という。) 2.特開2008-82872号公報(以下、「引用文献2」という。) 3.特開平11-100674号公報(以下、「引用文献3」という。) 引用文献1には、鉛直軸に対して斜めとなる状態に基板1を配置し、基板1を回転させながら基板1の表面に蛍光体層を蒸着させる放射線画像変換パネルの製造装置の発明が記載されている(段落【0013】,図3参照)。基板1を固定するために保持機構は当然備えていると認められる。 本願発明と、引用文献1に記載された発明を対比すると、本願発明では、光電変換基板にシンチレータ材を蒸着させるのに対し、引用文献1に記載された発明では単なる基板に蛍光体を蒸着させる点、また、本願発明では、熱伝導体1を備えているのに対し、引用文献1に記載された発明では、熱伝導体を備えていない点、で相違する。 相違点について検討する。引用文献2には、光電変換基板に蛍光体層を蒸着させる放射線検出器の製造方法の発明が記載されている(段落【0024】参照)。また、引用文献3には、基板12の背後に均熱板14を配置した真空処理装置の発明が記載されている(段落【0008】,図1参照)。均熱板14は本願発明の熱伝導体に相当する。引用文献1に記載の放射線画像変換パネルの製造装置において、引用文献2-3に記載の発明を採用することにより本願発明とすることは当業者が容易に想到しうるものである。 2 原査定の理由の判断 (1)刊行物の記載事項 ア 引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審が付した。)。 (ア)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、蒸気流を用いて基板の被蒸着面に輝尽性蛍光体を気相堆積させて少なくとも一層の輝尽性蛍光体層を形成する工程を含む放射線画像変換パネルの製造方法に関するものである。」 (イ)「【0013】図3の実施例では、輝尽性蛍光体材料からなる蒸発源2を固定し、この蒸発源2の上方側位置において、傾斜面内において基板1がその中央における法線方向Bを中心にして自転できるように配置されている。基板1を当該法線方向Bを軸として傾斜面内で自転させながら、電子ビーム等の励起手段により蒸発源2を蒸発させて蒸気流を形成すると、当該蒸気流の流線方向Aが基板1の中央における法線方向Bの回りに相対的に回転することとなる。従って、幅の狭い微細な柱状結晶からなる輝尽性蛍光体層が得られる。・・・ 【0015】本発明において、気相堆積させる際には、蒸気流の流線方向Aと、基板の被蒸着面の法線方向との交角(鋭角)θ(図1参照)が0°より大きく80°以下であることが好ましく、5°以上70°以下であることが特に好ましい。θが小さすぎると「影」の部分ができにくく、それを亀裂とする微細な柱状結晶も形成されにくい。また、θが大きすぎると、蛍光体層の機械的強度や基板に対する付着力が低下してしまい、きずや膜はがれが発生しやすくなる。 【0016】また、図5に示すように、蒸気流の流線方向Aを、基板1の被蒸着面1Aの法線方向Bの回りに相対的に回転させる際には、蒸発源2を始点とし当該法線が被蒸着面1Aと交差する各点を終点とする蒸気流ベクトルの被蒸着面1A上の各点における総和ベクトルCと被蒸着面1Aの法線方向との交角φが0°以上30°以下であることが好ましく、0°以上10°以下であることが特に好ましい。区画された各微細柱状結晶が、被蒸着面1A上の各点における蒸気流ベクトルの総和ベクトルCの方向にある程度傾きながら成長するが、その成長方向が被蒸着面1Aの法線方向に近い(交角φが小さい)ほど蒸気流が「影」になることにより生ずる亀裂の偏りが小さい。従って、当該総和ベクトルCの方向が被蒸着面1Aの法線方向に近い(交角φが小さい)ほど、放射線画像の読み取り方向による鮮鋭性の違いの小さい放射線画像変換パネルを製造することが可能になる。・・・ 【0018】気相堆積法による輝尽性蛍光体層の形成工程において、輝尽性蛍光体層の堆積速度は0.1?50μm/分が好ましい。堆積速度があまり小さいと生産性が低くなり、堆積速度があまり大きいと堆積速度のコントロールが困難となる。ところで、蒸気流を基板面に対して斜めから入射させることにより生ずる、蒸気流が到達しにくい「影」の部分は、蒸気流の直進性が高い(回り込みが少ない)ほど起こりやすいことは明らかであり、従って、亀裂によって区画された微細結晶を形成するには蒸着雰囲気圧力が低い(真空度が高い)ほど好ましい。」 (ウ)「【0021】図8は、本発明の製造方法により製造された放射線画像変換パネルの具体的構成例を示し、7は保護層、8はスペーサ、9は低屈折率層である。基板1の材料としては、ガラス、セラミックス、各種高分子材料、金属等が用いられる。具体的には、石英ガラス、化学強化ガラス等のガラス、結晶化ガラス、アルミナあるいはジルコニアの焼結板等のセラミクス、あるいはセルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセテートフィルム、ポリカーボネートフィルム等のプラスチックフィルム、アルミニウム、アルミニウム-マグネシウム合金、鉄、ステンレス、銅、クロム等の金属シート等が挙げられる。基板の厚さは、その材質等によって異なるが、一般的には100μm?5mmが好ましく、取扱いの便利性から、特に200μm?2mmが好ましい。これらの基板の表面は滑面であってもよいし、輝尽性蛍光体層との付着性を向上させる目的で粗面としてもよい。また基板の大部分を滑面とし、周縁部のみを付着性を向上させる目的で粗面としてもよい。この場合、粗面とした周縁部は実質的に画像として用いない部分に止める方が、画質の均一化の点で好ましい。」 (エ)図3は次のものである。 (オ)上記(イ)の記載を踏まえて、上記(エ)の図3を見ると、蒸発源2の蒸気流の流線方向Aは、鉛直上方であることがみてとれる。 また、基板1は、蒸発源2の鉛直上方に位置し、基板1の蒸着面は蒸発源2に露出し、かつ、鉛直軸に対して斜めとなる状態に保持されていることが見て取れる。 さらに、蒸発源2が、輝尽性蛍光体を蒸発させる蒸発口を有し、蒸発口の中心と蒸着面の中心の点を結ぶ仮想線と蒸着面の法線方向Bとの内側になす角度をθとすると、蒸着面の中心においてθとなるように基板を保持する点が見て取れる。 (カ)上記(オ)によれば、引用文献1に記載された発明では、基板1は鉛直軸に対して斜めとなる状態に保持されているから、引用文献1に記載された発明が、基板1を鉛直軸に対して斜めとなる状態に保持する保持手段を有することは明らかである。 また、上記(ア)によれば、引用文献1に記載された発明は「放射線画像変換パネルの製造方法に関するものである」から、引用文献1には、「放射線画像変換パネルの製造装置」の発明としての構成も記載されていることは明らかである。 したがって、上記(ア)ないし(オ)によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「輝尽性蛍光体材料からなる蒸発源2を固定し、この蒸発源2の上方側位置において、傾斜面内において基板1がその中央における法線方向Bを中心にして自転できるように配置され、 前記基板1を当該法線方向Bを軸として傾斜面内で自転させながら、電子ビーム等の励起手段により蒸発源2を蒸発させて蒸気流を形成すると、当該蒸気流の流線方向Aが基板1の中央における法線方向Bの回りに相対的に回転することとなる放射線画像変換パネルの製造装置であって、 前記蒸発源2の蒸気流の流線方向Aは、鉛直上方であり、 前記基板1は、前記蒸発源2の鉛直上方に位置し、前記基板1の蒸着面は前記蒸発源2に露出し、かつ、鉛直軸に対して斜めとなる状態に保持手段で保持され、 前記蒸発源2が、前記輝尽性蛍光体材料を蒸発させる蒸発口を有し、前記蒸発口の中心と蒸着面の中心の点を結ぶ仮想線と蒸着面の法線方向Bとの内側になす角度をθとすると、蒸着面の中心においてθとなるように前記基板を保持手段で保持し、 気相堆積させる際には、蒸気流の流線方向Aと、基板の被蒸着面の法線方向との交角(鋭角)θが5°以上70°以下である、 放射線画像変換パネルの製造装置。 イ 引用文献2には、以下の記載がある。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、医療診断装置,非破壊検査機器等に用いられる放射線検出器の製造方法に関し、特に、柱状結晶からなる蛍光体層を有する放射線検出器において、画質ムラが発生しない蛍光体層を製造することができる放射線検出器の製造方法に関する。」 (イ)「【0024】 図1に示す放射線検出器の製造装置10(以下、製造装置10という)は、蛍光体層を形成する材料の一例としてのCsI(ヨウ化セシウム)と、付活剤(activator)としてのTl(タリウム)とを所定の混合比率で混合した原料を加熱蒸発させる一元の真空蒸着によって、回転保持される支持体(ここでは、上面に2次元的に配列された光電変換手段を有する支持体)Sの表面に蛍光体層を形成して、放射線検出器を製造する装置である。」 ウ 引用文献3には、以下の記載がある。 (ア)「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は真空処理装置に関し、特に熱源と被処理物の間に配置する均熱板に改良を施した真空処理装置に関する。」 (イ)「【0008】 【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施例を図面を参照して説明する。 (実施例1)図1を参照する。図中の付番11は、図示しない真空槽内に配置された支持機構としてのサセプタである。このサセプタ11の中央は開口部11aとなっており、その段差部に被処理物としての基板12を載置するようになっている。前記サセプタ11の内側には、基板12を加熱する熱源としてのヒータ13が配置されている。前記ヒータ13と基板12間には、ヒータ13からの熱を基板12に伝えるカーボン製の均熱板14が配置されている。ここで、均熱板14は、裏面がフラットであるとともに、中心部が一番厚みが薄くかつ外周部に向うに連れて漸次厚くなる構成となっている。」 (ウ)図1は次のものである。 (2)対比 本願発明と引用発明とを対比すると、 「シンチレータ材を蒸発させ鉛直上方へ向けて放射させる蒸発源と、 前記蒸発源より鉛直上方側に位置し、基板の蒸着面が前記蒸発源に露出しかつ鉛直軸に対して斜めとなる状態に前記基板を保持する保持機構と、 前記保持機構に取付けられ、前記保持機構とともに前記基板を回転させる駆動部と、を備え、 前記蒸発源は、前記シンチレータ材を放射させる蒸発口を有し、 前記蒸発口の中心と前記蒸着面の任意の点とを結ぶ仮想線と、前記蒸着面の法線との内側になす角度をθとすると、 前記保持機構は、前記蒸着面の中心においてθとなるように前記光電変換基板を保持し、 前記駆動部は、前記蒸着面の中心の法線に沿った軸を回転軸として前記保持機構とともに前記基板を回転させる放射線検出パネルの製造装置。」 の点で一致している。 他方、本願発明と引用発明は、下記各点で相違している。 ア 本願発明は、シンチレータ材を蒸着させる対象が「光電変換基板」であって、「光電変換基板から向かって前記保持機構を越えて位置し、前記保持機構に間隔を置いて対向配置される熱伝導体と、前記保持機構から向かって前記熱伝導体を越えて位置し、前記熱伝導体を通じて前記光電変換基板の温度を調整する温度調整部」とを備え、「前記熱伝導体は、前記温度調整部の熱を前記光電変換基板に伝える機能及び前記光電変換基板の熱を吸収し前記温度調整部に伝える機能を有」するのに対して、引用発明は、輝尽性蛍光体材料を蒸着させる対象が「基板」であって、このような「熱伝導体」及び「温度調整部」を備えるとは特定されない点(以下、「相違点1」という。)。 イ 本願発明の「保持機構」は、「光電変換基板」を「蒸着面の中心において45°≦θ≦70°となるように」保持しているのに対して、引用発明では、「蒸気流の流線方向Aと、基板の被蒸着面の法線方向との交角(鋭角)θが5°以上70°以下である」点(以下、「相違点2」という。)。 ウ 本願発明の「駆動部」は、「光電変換基板」を「4rpm以上の回転速度で回転させる」のに対して、引用発明では、回転速度が特定されない点(以下、「相違点3」という。)。 (3)判断 まず、上記相違点3について検討する。 引用発明は、「基板1」は、「蒸発源2の上方側位置において、傾斜面内において基板1がその中央における法線方向Bを中心にして自転できるように配置され、前記基板1を当該法線方向Bを軸として傾斜面内で自転させながら、電子ビーム等の励起手段により蒸発源2を蒸発させて蒸気流を形成すると、当該蒸気流の流線方向Aが基板1の中央における法線方向Bの回りに相対的に回転することとなる」ものであるが、「相対的に回転する」とされるのみである。 また、堆積速度についても、「気相堆積法による輝尽性蛍光体層の形成工程において、輝尽性蛍光体層の堆積速度は0.1?50μm/分が好ましい。堆積速度があまり小さいと生産性が低くなり、堆積速度があまり大きいと堆積速度のコントロールが困難となる。ところで、蒸気流を基板面に対して斜めから入射させることにより生ずる、蒸気流が到達しにくい『影』の部分は、蒸気流の直進性が高い(回り込みが少ない)ほど起こりやすいことは明らかであり、従って、亀裂によって区画された微細結晶を形成するには蒸着雰囲気圧力が低い(真空度が高い)ほど好ましい。」(上記(1)ア(イ)、段落【0018】)と記載され、回転速度ではなく、蒸着雰囲気圧力を考慮するものであるから、「基板1」を、「蒸発源2の上方側位置において、傾斜面内において基板1がその中央における法線方向Bを中心にして自転」する際の回転速度を特定の値にする動機はない。 したがって、引用発明において、「基板1」を、「蒸発源2の上方側位置において、傾斜面内において基板1がその中央における法線方向Bを中心にして「4rpm以上の回転速度で回転させる」ものとなし、上記相違点3に係る本願発明の構成となすことが容易に想到し得たということはできない また、引用文献2及び3をみても、基板を、蒸発源の上方側位置において、傾斜面内において基板がその中央における法線方向を中心にして4rpm以上の回転速度で回転させることが容易に想到し得たことであることを示す記載や示唆はなく、他に、相違点3に係る本願発明の構成とすることが容易に想到し得たことであることを示す文献も見当たらない。 これに対して、本願発明は、 ア 「結晶成長ベクトルの向きの平均化には、光電変換基板21の回転速度が主要な要素となる。ここで、本願発明者は、光電変換基板21の回転速度に対するMTF(modulation transfer function)値について調査した。調査結果を図4に示す。図4は、光電変換基板21の回転速度に対するMTF相対値の変化をグラフで示す図である。図4には、光電変換基板21の回転速度を2rpm、4rpm、6rpm、とした場合の光電変換基板21の周辺部でのMTF値と、光電変換基板21の回転速度を2rpm、6rpm、10rpm、とした場合の光電変換基板21の中心部でのMTF値と、をプロットした。・・・光電変換基板21の回転速度が4rpm未満になると、MTF値が急低下することが分かる。・・・一方、光電変換基板21の回転速度が4rpm以上では、MTF値が漸増することが分かる。従って、光電変換基板21を回転させる際、光電変換基板21の回転速度を4rpm以上とすることが望ましい。また、蒸着中は、光電変換基板21の回転速度を一定に保つとより望ましい。」(本願明細書 段落【0055】?【0057】)、 イ 上記アで言及される図4は次のものである。 ウ 「光電変換基板21の回転速度を4rpm以上としている。これにより、MTF値が漸増するため、X線検出パネル2の解像度の向上に寄与することができる。」(本願明細書 段落【0127】) との格別の効果を奏するものである。 よって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本願発明は、当業者が引用発明ならびに引用文献2及び3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 本願の請求項2ないし5に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明ならびに引用文献2及び3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 (4)小括 したがって、本願発明は、当業者が引用発明及び引用文献2ないし3の記載に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 また、本願の請求項2ないし5に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、同様に、当業者が引用発明及び引用文献2ないし3の記載に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 第4 当審拒絶理由について A 当審拒絶理由の概要 [理由1] 本願は、下記の点で特許法第37条に規定する要件を満たしていない。 記 本願請求項1に係る発明の、発明の「特別な技術的特徴」は、後記[理由4]の引用文献1ないし4の記載に照らして、「前記蒸発源は、前記シンチレータ材を放射させる蒸発口を有し、前記蒸発口の中心と前記蒸着面の任意の点とを結ぶ仮想線と、前記蒸着面の法線との内側になす角度をθとすると、前記保持機構は、前記蒸着面の中心において45°≦θ≦70°となるように前記光電変換基板を保持し、前記駆動部は、前記蒸着面の中心の法線に沿った軸を回転軸として前記保持機構とともに前記光電変換基板を回転させる」ことにあるところ、本願請求項6に係る発明は、前記本願請求項1の発明の「特別な技術的特徴」に関して、同一の又は対応する特別な技術的特徴が存在しているとは認められないから、発明の単一性の要件を満たさない。 [理由2] 本願は、特許請求の範囲が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)本願発明の解決すべき課題に関して、本願の発明の詳細な説明には、「より細い柱状結晶を形成することができるため、X線検出パネル2の解像度の向上を図ることができ」、「上記結晶成長ベクトルの向きの平均化には、光電変換基板21の回転速度が主要な要素となる」ところ、「光電変換基板21の回転速度が4rpm未満になると、MTF値が急低下する」、ため「光電変換基板21を回転させる際、光電変換基板21の回転速度を4rpm以上とすることが望ましい」とされているところ、本願請求項1ないし5に係る発明は、「主要な要素」である「回転速度」を特定しないものである。 したがって、「回転速度」を特定しない本願請求項1ないし5に係る発明は、光電変換基板21の回転速度が4rpm未満のものを含むところ、本願の発明の詳細な説明(特に表1、及び、段落【0106】?【0115】)をみても、課題を解決する手段としての本願発明が、光電変換基板21の回転速度が4rpm未満とするものまで含む趣旨であったものとは認められない。 よって、光電変換基板21の回転速度が4rpm未満のものを含む本願請求項1ないし5に係る発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されていない発明を含むと認められる。 (2)本願請求項6について 本願請求項6に係る発明は、「温度調整部」に関して、「前記蒸着面上に前記シンチレータ材を蒸着させる際、蛍光体膜の形成を開始するタイミングである蒸着初期の前記光電変換基板の温度を70℃乃至140℃の範囲内に制御し、前記蒸着初期以降の前記光電変換基板の温度を125℃乃至190℃の範囲内に制御する」ことを発明特定事項とする。 上記発明特定事項は、例えば、「蒸着初期の前記光電変換基板の温度を140℃に制御し、前記蒸着初期以降の前記光電変換基板の温度を125℃に制御する」発明を含むところ、本願の発明の詳細な説明(特に表1、及び、段落【0106】?【0115】)をみても、「蒸着初期の前記光電変換基板の温度」>「前記蒸着初期以降の前記光電変換基板の温度」とするものまで含む趣旨であったものとは認められない。 また、本願請求項6に係る発明は、シンチレータ材を特定せず、光電変換基板の温度のみ特定するものであるため、様々なシンチレータ材であっても、上記(1)でいう本願発明の課題を解決するものを含むところ、本願の発明の詳細な説明(特に表1、及び、段落【0106】?【0115】)をみても、シンチレータ材を問わないものまで含む趣旨であったものとは認められない。 よって、「蒸着初期の前記光電変換基板の温度」>「前記蒸着初期以降の前記光電変換基板の温度」とすることを含むみ、また、シンチレータ材を特定することのない、上記本願請求項6に係る発明は本願の発明の詳細な説明に記載されていない発明を含むと認められる。 [理由3] 本願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)本願請求項6は、「温度調整部」に関して、「前記蒸着面上に前記シンチレータ材を蒸着させる際、蛍光体膜の形成を開始するタイミングである蒸着初期の前記光電変換基板の温度を70℃乃至140℃の範囲内に制御し、前記蒸着初期以降の前記光電変換基板の温度を125℃乃至190℃の範囲内に制御する」ことを発明特定事項とする。 (2)ここで、「蒸着初期」とは、「光電変換基板21上への蛍光体膜22の形成を開始するタイミングであ」って、「具体的には、坩堝32の先端部(蒸発口)に設けたシャッタを開くことにより、そのタイミングを設定できる」ものであるが、シャッタを開いた瞬間だけを意味するのか不明で、どこまでが「蒸着初期」で、どこからが、「蒸着初期以降」であるのかが理解できない。 したがって、請求項6に係る発明は明確でない。 また、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 [理由4] 本願の請求項6に係る発明は、その最先の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ・引用文献1 特開平05-249299号公報 ・引用文献2 特開2008-082872号公報 ・引用文献3 特開平11-100674号公報 ・引用文献4 特開2009-014526号公報 本願発明6は、引用発明及び引用文献2ないし4に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 B 当審拒絶理由の判断 (1)平成28年7月21日付け手続補正書によって、本願の請求項1は、 「シンチレータ材を蒸発させ鉛直上方へ向けて放射させる蒸発源と、 前記蒸発源より鉛直上方側に位置し、光電変換基板の蒸着面が前記蒸発源に露出しかつ鉛直軸に対して斜めとなる状態に前記光電変換基板を保持する保持機構と、 前記光電変換基板から向かって前記保持機構を越えて位置し、前記保持機構に間隔を置いて対向配置される熱伝導体と、 前記保持機構から向かって前記熱伝導体を越えて位置し、前記熱伝導体を通じて前記光電変換基板の温度を調整する温度調整部と、 前記保持機構に取付けられ、前記保持機構とともに前記光電変換基板を回転させる駆動部と、を備え、 前記熱伝導体は、前記温度調整部の熱を前記光電変換基板に伝える機能及び前記光電変換基板の熱を吸収し前記温度調整部に伝える機能を有し、 前記蒸発源は、前記シンチレータ材を放射させる蒸発口を有し、 前記蒸発口の中心と前記蒸着面の任意の点とを結ぶ仮想線と、前記蒸着面の法線との内側になす角度をθとすると、 前記保持機構は、前記蒸着面の中心において45°≦θ≦70°となるように前記光電変換基板を保持し、 前記駆動部は、前記蒸着面の中心の法線に沿った軸を回転軸として前記保持機構とともに前記光電変換基板を4rpm以上の回転速度で回転させる放射線検出パネルの製造装置。」 と補正された(下線は当審が付した。)。このことにより、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであることが明確となった。 また、平成28年7月21日付けの手続補正によって、請求項6は削除された。 したがって、当該請求項6に対する上記拒絶の理由は解消した。 よって、当審拒絶理由は全て解消した。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-09-05 |
出願番号 | 特願2013-549229(P2013-549229) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G01T)
P 1 8・ 65- WY (G01T) P 1 8・ 536- WY (G01T) P 1 8・ 537- WY (G01T) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 鳥居 祐樹 |
特許庁審判長 |
森林 克郎 |
特許庁審判官 |
松川 直樹 伊藤 昌哉 |
発明の名称 | 放射線検出パネルの製造装置 |
代理人 | 特許業務法人スズエ国際特許事務所 |