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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H05B
管理番号 1318790
審判番号 不服2014-12947  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-04 
確定日 2016-09-13 
事件の表示 特願2010-263017「有機電界発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月 5日出願公開,特開2012- 4529,請求項の数(15)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成22年11月25日(優先権主張平成22年1月15日,平成22年5月20日)の出願であって,平成25年11月1日付けで拒絶理由が通知され,平成26年2月12日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年2月25日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされた。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成26年7月4日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,平成27年7月28日付けで拒絶理由が通知され,同年11月16日に意見書及び手続補正書が提出され,同年12月3日付けで拒絶理由が通知され,平成28年6月7日に意見書及び手続補正書が提出され,同年7月6日付けで拒絶理由が通知され,同年7月15日に意見書及び手続補正書が提出された。

第2 本願の請求項1に係る発明
本願の請求項1ないし15に係る発明は,平成28年7月15日提出の手続補正書によって補正された請求項1ないし15に記載された事項によって特定されるとおりのものと認められるところ,請求項1の記載は次のとおりである。
なお,請求項2ないし10,13ないし15は,請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項である。
また,請求項11及び12は,いずれも独立形式で記載され,末尾がそれぞれ「発光層」及び「組成物」とされた請求項であるが,請求項1と同じく,「少なくとも一種の一般式(PI-1)で表される化合物と少なくとも一種の一般式(1)で表される化合物を含有する」との発明特定事項が記載されている。

「基板上に,一対の電極と,該電極間に発光層を含む少なくとも一層の有機層とを有する有機電界発光素子であって,
前記発光層に,少なくとも一種の一般式(PI-1)で表される化合物と少なくとも一種の一般式(1)で表される化合物を含有する,有機電界発光素子。
【化1】

[一般式(PI-1)中,R^(1)?R^(9)はそれぞれ独立に,水素原子,置換されていてもよいアルキル基,置換されていてもよいアルケニル基,置換されていてもよいアリール基又はフッ素原子を表すが,R^(3)?R^(6)の少なくとも1つは置換されていてもよいアルキル基である。R^(1)?R^(9)で表される置換基は,互いに結合して環を形成してもよい。
(X-Y)はモノアニオン性の二座配位子を表す。
pは1?3の整数を表す。]
【化2】

[一般式(1)中,R_(1)はアルキル基,アリール基,又はシリル基を表し,更に置換基Zを有していてもよい。但し,R_(1)がカルバゾリル基又はペルフルオロアルキル基を表すことはない。R_(1)が複数存在する場合,複数のR_(1)は,それぞれ同一でも異なっていてもよい。また複数のR_(1)は,互いに結合して置換基Zを有していてもよいアリール環を形成してもよい。
R_(2)?R_(5)はそれぞれ独立に,アルキル基,アリール基,シリル基,シアノ基又はフッ素原子を表し,更に置換基Zを有していてもよい。R_(2)?R_(5)がそれぞれ複数存在する場合,複数のR_(2)?複数のR_(5)は,それぞれ同一でも異なっていてもよい。
置換基Zはアルキル基,アルケニル基,アリール基,芳香族ヘテロ環基,アルコキシ基,フェノキシ基,フッ素原子,シリル基,アミノ基,シアノ基又はこれらを組み合わせて成る基を表し,複数の置換基Zは互いに結合してアリール環を形成しても良い。
n1は0?5の整数を表す。
n2?n5はそれぞれ独立に,0?4の整数を表す。]」(以下,「本願発明」という。)


第3 原査定の拒絶の理由について
1 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,概略,次のとおりである。

本願の請求項1ないし16(平成26年2月12日提出の手続補正書による補正後の請求項1ないし16)に係る発明は,その優先権主張の日より前に電気通信回線を通じて公開された引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条1項3号に該当し,特許を受けることができないか,少なくとも当該発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
また,本願の請求項1ないし16に係る発明は,その優先権主張の日より前に頒布された又は電気通信回線を通じて公開された引用文献2及び3に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:国際公開第2008/072538号
引用文献2:国際公開第2004/074399号
引用文献3:国際公開第2007/095118号

引用文献1に開示された発明は,請求項1-16に係る発明と,発明特定事項において格別の差異は無い。化合物に任意の置換基を付加する程度は当業者が発明の実施にあたり適宜なし得た設計変更であり,当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内である。したがって,「R^(3)?R^(6)の少なくとも1つは置換基である」点に進歩性を認めることはできない。
また,有機EL素子の技術分野においては,公知のホストやドーパントを組み合わせることは,当業者の通常の創作能力の発揮といえるから,引用文献2に開示された発明において,引用文献3に開示されている燐光ドーパントを採用することにより,請求項1-16に係る発明とすることは,当業者であれば容易に推考し得たことである。

2 原査定の拒絶の理由に対する判断
(1)引用文献1に基づく新規性進歩性欠如に対する判断
ア 引用文献1
(ア)引用文献1の記載
引用文献1は,本願の優先権主張の日(以下,「優先日」という。)より前に電気通信回線を通じて公開されたものであって,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用文献1発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「技術分野
[0001] 本発明は有機エレクトロルミネッセンス素子に関し,特に,画素欠陥が無く,発光輝度及び発光効率が高く,寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
背景技術
[0002] 有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子は,電界を印加することより,陽極より注入された正孔と陰極より注入された電子の再結合エネルギーにより蛍光性物質が発光する原理を利用した自発光素子である。・・・(中略)・・・
また,近年,有機EL素子の発光層に,発光材料の他に有機リン光材料を利用することも提案されている(例えば,非特許文献1?2参照)。
・・・(中略)・・・
このような有機EL素子においては,3重項の励起状態又は3重項の励起子が消光しないように順次,陽極,正孔輸送層,有機発光層,電子輸送層(正孔阻止層),電子注入層,陰極のように層を積層する構成が用いられ,有機発光層にホスト化合物と燐光発光性の化合物が用いられてきた(例えば,特許文献4?5参照)。これらの特許文献では,ホスト化合物として,4,4-N,Nジカルバゾールビフェニルが用いられてきたが,この化合物はガラス転移温度が110℃以下であり,さらに対称性がよすぎるため,結晶化しやすく,また,素子の耐熱試験を行った場合,短絡や画素欠陥が生じるという問題があった。また,燐光発光性の錯体として,特許文献6?14にアゾール系錯体が開示されている。
また,その蒸着した際,異物や電極の突起が存在する箇所などで結晶成長が生じ,耐熱試験前の初期の状態より欠陥が生じることも見出された。また,3回対称性を保有するカルバゾール誘導体もホストとして用いられている。しかしながら,対称性がよいため,蒸着した際,異物や電極の突起が存在する箇所などで結晶成長が生じ,耐熱試験前の初期の状態より欠陥が生じることは免れていない。
・・・(中略)・・・
発明の開示
発明が解決しようとする課題
[0004] 本発明は,前記の課題を解決するためになされたもので,画素欠陥が無く,発光輝度及び発光効率が高く,寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0005] 本発明者等は,前記目的を達成するために,鋭意研究を重ねた結果,有機EL素子の発光層において,以下に示す特定のホスト材料とドーパントとを組み合わせて用いることにより,前記の課題を解決することを見出し,本発明を完成するに至った。
[0006] すなわち,本発明は,陰極と陽極間に一層又は複数層からなる有機薄膜層が挟持されている有機EL素子において,発光層が下記一般式(1)で表される化合物をホスト材料として,下記一般式(a)で表される金属錯体化合物をドーパントとして含有する有機EL素子を提供するものである。
[0007][化1]

[0008](式中,Czは,カルバゾリル基,炭素数18?60アリールカルバゾ-ルイル基,アザカルバゾリル基,炭素数18?60のアリールアザカルバゾ-ルイル基,アクリジニル基,フェノキサジニル基又はジベンゾアゼピニル基であり置換されていてもよい。Ar^(1)及びAr^(2)は,それぞれ独立に,置換もしくは無置換の炭素数6?60のアリール基又は置換もしくは無置換の炭素数3?60の複素環基である。Ar^(3)は,炭素数6?60の芳香族炭化水素基又は置換もしくは無置換の炭素数3?60の複素環基である。Ar^(4)は,置換もしくは無置換のベンゼン残基,置換もしくは無置換のチオフェン残基,置換もしくは無置換のトリアゾール残基,置換もしくは無置換のフルオレン残基又は置換もしくは無置換のスピロビフルオレン残基である。
aは0?1の整数,bは0?4の整数,cは1?3の整数であり,Cz及びAr^(4)が複数の時は,それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
ただし,a=0かつc=1のときは,Ar^(3)及びAr^(4)がベンゼン残基であり,かつAr^(2)がフェニルカルバゾリル基又はカルバゾリル基である場合を除く。また,a=1,b=0かつc=1のときは,Ar^(3)がベンゼン残基であり,かつAr^(1)及びAr^(2)がフェニルカルバゾリル基である場合を除く。さらに,b=0かつc=1のときは,Ar^(3)がベンゼン残基であり,かつAr^(1),Ar^(2)及びCzがカルバゾリル基又はフェニルカルバゾリル基である場合を除く。)
[0009][化2]

[0010](一般式(a)及び(b)において,R_(1)?R_(7)は,それぞれ独立に,水素原子,シアノ基,ニトロ基,ハロゲン原子,置換もしくは無置換の炭素数1?20のアルキル基,置換もしくは無置換のアミノ基,置換もしくは無置換の炭素数1?20のアルコキシル基,置換もしくは無置換の炭素数1?20のアルキルシリル基,置換もしくは無置換の炭素数1?20のアシル基,置換もしくは無置換の炭素数6?30の芳香族炭化水素基,又は置換もしくは無置換の炭素数3?30の芳香族複素環基を表す。また,R_(1)?R_(7)のうち隣接するものは,互いに結合して環構造を形成していてもよい。
Mは,イリジウム(Ir),ロジウム(Rh),白金(Pt)又はパラジウム(Pd)の金属原子である。
nは1?3の整数である。
ただし,MがIrの場合,n=3である。)
発明の効果
[0011] 本発明の有機EL素子は,画素欠陥が無く,発光輝度及び発光効率が高く,寿命が長い。」

b 「[0027] 本発明において一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に示すが,これら例示化合物に限定されるものではない。
[化6]

[0028][化7]

[0029][化8]

[0030][化9]

[0031][化10]

・・・(中略)・・・
[0036]
一般式(a)?(b)において,R_(1)?R_(3)及びR_(7)が水素原子であり,R_(4),R_(5)及びR_(6)が,それぞれ独立に,置換もしくは無置換の炭素数6?30の芳香族炭化水素基又は置換もしくは無置換の炭素数6?30の芳香族複素環基であると好ましい。
一般式(a)?(b)において,R_(1)?R_(4)及びR_(7)が水素原子であり,R_(5)及びR_(6)が,それぞれ独立に,置換もしくは無置換の炭素数6?30の芳香族炭化水素基又は置換もしくは無置換の炭素数6?30の芳香族複素環基であると好ましい。
また,一般式(a)?(b)において,R_(1)?R_(4)及びR_(7)が水素原子であり,R_(5)及びR_(6)が,それぞれ独立に,置換もしくは無置換のフェニル基,ナフチル基,ビフェニル基,ターフェニル基,クォーターフェニル基,フェナントレニル基又はトリフェニレニル基であると好ましい。
さらに,一般式(a)において,R_(1)?R_(4)が水素原子であり,R_(5)が無置換又は炭素数1?30の置換基を有するフェニル基,ナフチル基,ビフェニル基,ターフェニル基,クォーターフェニル基,フェナントレニル基又はトリフェニレニル基であり,R_(6)?R_(7)は,それぞれ独立に,水素原子又は炭素数1?10のアルキル基又は炭素数1?10の芳香族炭化水素基であると好ましい。
一般式(a)及び(b)において,Mは,イリジウム(Ir),ロジウム(Rh),白金(Pt)又はパラジウム(Pd)の金属原子であり,Ir,Ptが好ましく,Irがさらに好ましい。
一般式(a)及び(b)において,nは1?3の整数であり,2?3が好ましい。
一般式(a)及び(b)において,MがIrの場合,n=3である。
[0037] 前記一般式(a)で表される化合物の具体例を以下に示すが,これら例示化合物に限定されるものではない。
[化13]

[0038] 前記一般式(b)で表される化合物の具体例を以下に示すが,これら例示化合物に限定されるものではない。
[化14]



c 「[0039] 以下,本発明の有機EL素子について説明する。
本発明の有機EL素子は,前記したように陽極と陰極間に一層もしくは多層の有機薄膜層を形成した素子である。一層型の場合,陽極と陰極との間に発光層を設けている。発光層は,発光材料を含有し,それに加えて陽極から注入した正孔,もしくは陰極から注入した電子を発光材料まで輸送させるために,正孔注入材料もしくは電子注入材料を含有してもよい。また,発光材料は,極めて高い蛍光量子効率,高い正孔輸送能力及び電子輸送能力を併せ持ち,均一な薄膜を形成することが好ましい。多層型の有機EL素子としては,(陽極/正孔注入層/発光層/陰極),(陽極/発光層/電子注入層/陰極),(陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極)等の多層構成で積層したものがある。
[0040] 発光層には,必要に応じて,本発明の一般式(1)のホスト材料及び一般式(a)及び/又は(b)のドーパントに加えてさらなる公知のホスト材料,発光材料,ドーピング材料,正孔注入材料や電子注入材料を使用し,組み合わせて使用することもできる。有機EL素子は,多層構造にすることにより,クエンチングによる輝度や寿命の低下を防ぐことができ,発光輝度や発光効率を向上させたり,燐光発光に寄与する他のドーピング材料と組み合わせて用いることにより,従来の発光輝度や発光効率を向上させることができる。・・・(中略)・・・
[0048] 本発明の有機EL素子は,効率良く発光させるために,少なくとも一方の面は素子の発光波長領域において充分透明にすることが望ましい。また,基板も透明であることが望ましい。・・・(中略)・・・
[0049] 本発明の有機EL素子の各層の形成は,真空蒸着,スパッタリング,プラズマ,イオンプレーティング等の乾式成膜法やスピンコーティング,ディッピング,フローコーティング等の湿式成膜法のいずれの方法を適用することができる。」

d 「実施例
[0050] 以下,本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが,本発明はその要旨を越えない限り,以下の実施例に限定されない。
実施例1(有機EL素子の作製)
25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板(ジオマティック社製)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後,UVオゾン洗浄を30分間行なった。洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し,まず透明電極ラインが形成されている側の面上に,前記透明電極を覆うようにして膜厚95nmのHTM(下記構造式参照)を成膜した。該HTM膜は正孔注入輸送層として機能する。さらに,該正孔注入輸送層の成膜に続けて,この膜上に膜厚30nmで,ホスト化合物として(43)とドーパントとして錯体(A4)を抵抗加熱により共蒸着成膜した。錯体(A4)の濃度は7.5wt%であった。このホスト化合物:(43)膜は,発光層として機能する。そして,該発光層成膜に続けて,下記材料ETM1を膜厚25nm,さらに該ETM1の上に下記材料ETM2を5nm積層成膜した。該ETM1層及びETM2層は電子輸送層,電子注入層として機能する。そして,この後LiFを電子注入性電極(陰極)として成膜速度1Å/minで膜厚0.1nm形成した。このLiF層上に金属Alを蒸着させ,金属陰極を膜厚150nm形成し有機EL素子を形成した。
(有機EL素子の発光性能評価)
以上のように作製した有機EL素子を直流電流駆動(電流密度J=1mA/cm^(2))により発光させ,外部量子効率(%),輝度(L)を測定し,発光効率(L/J)を求め,その結果を下記表1に示す。また,初期輝度1500cd/cm^(2)で半減寿命を測定した結果を示す。
[0051][化15]

[0052]実施例2?8
実施例1において,ホスト化合物(43)と錯体(A4)の組合せの代わりに表1のホスト化合物欄とドーパント欄に記載した各化合物の組合せを用いた以外は同様にして有機EL素子を作製した。得られたそれぞれの有機EL素子について,実施例1と同様にして評価した結果を表1に示す。
・・・(中略)・・・
[0054][表1]



e 「請求の範囲
[1] 陰極と陽極間に一層又は複数層からなる有機薄膜層が挟持されている有機エレク トロルミネッセンス素子において,発光層が下記一般式(1)で表される化合物をホスト材料として,下記一般式(a)及び/又は(b)で表される金属錯体化合物をドーパントとして含有する有機エレクト口ルミネッセンス素子。
[化1]

(式中,Czは,カルバゾリル基,炭素数18?60アリールカルバゾ-ルイル基,アザカルバゾリル基,炭素数18?60のアリールアザカルバゾ-ルイル基,アクリジニル基,フェノキサジニル基又はジベンゾアゼピニル基であり置換されていてもよい。Ar^(1)及びAr^(2)は,それぞれ独立に,置換もしくは無置換の炭素数6?60のアリール基又は置換もしくは無置換の炭素数3?60の複素環基である。Ar^(3)は,炭素数6?60の芳香族炭化水素基又は置換もしくは無置換の炭素数3?60の複素環基である。Ar^(4)は,置換もしくは無置換のベンゼン残基,置換もしくは無置換のチオフェン残基,置換もしくは無置換のトリアゾール残基,置換もしくは無置換のフルオレン残基又は置換もしくは無置換のスピロビフルオレン残基である。
aは0?1の整数,bは0?4の整数,cは1?3の整数であり,Cz及びAr^(4)が複数の時は,それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
ただし,a=0かつc=1のときは,Ar^(3)及びAr^(4)がベンゼン残基であり,かつAr^(2)がフェニルカルバゾリル基又はカルバゾリル基である場合を除く。また,a=1,b=0かつc=1のときは,Ar^(3)がベンゼン残基であり,かつAr^(1)及びAr^(2)がフェニルカルバゾリル基である場合を除く。さらに,b=0かつc=1のときは,Ar^(3)がベンゼン残基であり,かつAr^(1),Ar^(2)及びCzがカルバゾリル基又はフェニルカルバゾリル基である場合を除く。)
[化2]

(一般式(a)及び(b)において,R_(1)?R_(7)は,それぞれ独立に,水素原子,シアノ基,ニトロ基,ハロゲン原子,置換もしくは無置換の炭素数1?20のアルキル基,置換もしくは無置換のアミノ基,置換もしくは無置換の炭素数1?20のアルコキシル基,置換もしくは無置換の炭素数1?20のアルキルシリル基,置換もしくは無置換の炭素数1?20のアシル基,置換もしくは無置換の炭素数6?30の芳香族炭化水素基,又は置換もしくは無置換の炭素数3?30の芳香族複素環基を表す。また,R_(1)?R_(7)のうち隣接するものは,互いに結合して環構造を形成していてもよい。
Mは,イリジウム(Ir),ロジウム(Rh),白金(Pt)又はパラジウム(Pd)の金属原子である。
nは1?3の整数である。
ただし,MがIrの場合,n=3である。)」

(イ) 引用文献1に記載された発明
引用文献1の[0006]の記載中の「発光層」が,当該[0006]の記載中の「有機薄膜層」の一つであることが自明であり,また,引用文献1の[0048]の「基板も透明であることが望ましい。」との記載,及び[0049]の各層の形成方法の記載や[0050]の実施例1についての記載等から,引用文献1に記載された有機エレクトロルミネッセンス素子の各層が,基板上に形成されていることを理解できる。
そして,前記(ア)aないしeの記載から,一般式(1)で表される化合物として,[0027]に(1)として示された化合物(以下,「化合物(1)」という。)を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の発明を把握できるところ,当該発明の構成は次のとおりである。

「陰極と陽極間に一層又は複数層からなる有機薄膜層が挟持され,各層が基板上に形成されており,
前記有機薄膜層中の発光層が下記一般式(1)で表される化合物をホスト材料として,下記一般式(a)及び/又は(b)で表される金属錯体化合物をドーパントとして含有する,有機エレクトロルミネッセンス素子であって,
前記一般式(1)で表される化合物として,下記化合物(1)を用いた,
有機エレクトロルミネッセンス素子。

[一般式(1)]

(式中,Czは,カルバゾリル基,炭素数18?60アリールカルバゾ-ルイル基,アザカルバゾリル基,炭素数18?60のアリールアザカルバゾールイル基,アクリジニル基,フェノキサジニル基又はジベンゾアゼピニル基であり置換されていてもよい。Ar^(1)及びAr^(2)は,それぞれ独立に,置換もしくは無置換の炭素数6?60のアリール基又は置換もしくは無置換の炭素数3?60の複素環基である。Ar^(3)は,炭素数6?60の芳香族炭化水素基又は置換もしくは無置換の炭素数3?60の複素環基である。Ar^(4)は,置換もしくは無置換のベンゼン残基,置換もしくは無置換のチオフェン残基,置換もしくは無置換のトリアゾール残基,置換もしくは無置換のフルオレン残基又は置換もしくは無置換のスピロビフルオレン残基である。
aは0?1の整数,bは0?4の整数,cは1?3の整数であり,Cz及びAr^(4)が複数の時は,それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
ただし,a=0かつc=1のときは,Ar^(3)及びAr^(4)がベンゼン残基であり,かつAr^(2)がフェニルカルバゾリル基又はカルバゾリル基である場合を除く。また,a=1,b=0かつc=1のときは,Ar^(3)がベンゼン残基であり,かつAr^(1)及びAr^(2)がフェニルカルバゾリル基である場合を除く。さらに,b=0かつc=1のときは,Ar^(3)がベンゼン残基であり,かつAr^(1),Ar^(2)及びCzがカルバゾリル基又はフェニルカルバゾリル基である場合を除く。)

[一般式(a)及び(b)]

(一般式(a)及び(b)において,R_(1)?R_(7)は,それぞれ独立に,水素原子,シアノ基,ニトロ基,ハロゲン原子,置換もしくは無置換の炭素数1?20のアルキル基,置換もしくは無置換のアミノ基,置換もしくは無置換の炭素数1?20のアルコキシル基,置換もしくは無置換の炭素数1?20のアルキルシリル基,置換もしくは無置換の炭素数1?20のアシル基,置換もしくは無置換の炭素数6?30の芳香族炭化水素基,又は置換もしくは無置換の炭素数3?30の芳香族複素環基を表す。また,R_(1)?R_(7)のうち隣接するものは,互いに結合して環構造を形成していてもよい。
Mは,イリジウム(Ir),ロジウム(Rh),白金(Pt)又はパラジウム(Pd)の金属原子である。
nは1?3の整数である。
ただし,MがIrの場合,n=3である。)

[化合物(1)]

」(以下,「引用文献1発明」という。)

イ 対比・判断
(ア)本願発明について
a 対比
引用文献1発明の「基板」,「『陰極』及び『陽極』」,「発光層」,「有機薄膜層」及び「有機エレクトロルミネッセンス素子」は,本願発明の「基板」,「一対の電極」,「発光層」,「有機層」及び「有機電界発光素子」に,それぞれ相当する。
また,引用文献1発明の「一般式(a)及び/又は(b)で表される金属錯体化合物」と,本願発明の「一般式(PI-1)で表される化合物」は,ともに金属錯体であるから,本願発明と引用文献1発明は,「少なくとも一種の金属錯体」を含有する点で共通する。
さらに,引用文献1発明の「化合物(1)」は,本願発明の「一般式(1)」において,「n1として2を選択し,2つのR_(1)として置換基を有していないアリール基に該当するフェニル基という同一の基を選択し,n2ないしn5としていずれも0を選択した化合物」に該当するから,引用文献1発明は,本願発明の「少なくとも一種の一般式(1)で表される化合物を含有する」なる要件を満足する。
したがって,本願発明と引用文献1発明は,
「基板上に,一対の電極と,該電極間に発光層を含む少なくとも一層の有機層とを有する有機電界発光素子であって,
前記発光層に,少なくとも一種の金属錯体と少なくとも一種の一般式(1)で表される化合物を含有する,有機電界発光素子。

[一般式(1)中,R_(1)はアルキル基,アリール基,又はシリル基を表し,更に置換基Zを有していてもよい。但し,R_(1)がカルバゾリル基又はペルフルオロアルキル基を表すことはない。R_(1)が複数存在する場合,複数のR_(1)は,それぞれ同一でも異なっていてもよい。また複数のR_(1)は,互いに結合して置換基Zを有していてもよいアリール環を形成してもよい。
R_(2)?R_(5)はそれぞれ独立に,アルキル基,アリール基,シリル基,シアノ基又はフッ素原子を表し,更に置換基Zを有していてもよい。R_(2)?R_(5)がそれぞれ複数存在する場合,複数のR_(2)?複数のR_(5)は,それぞれ同一でも異なっていてもよい。
置換基Zはアルキル基,アルケニル基,アリール基,芳香族ヘテロ環基,アルコキシ基,フェノキシ基,フッ素原子,シリル基,アミノ基,シアノ基又はこれらを組み合わせて成る基を表し,複数の置換基Zは互いに結合してアリール環を形成しても良い。
n1は0?5の整数を表す。
n2?n5はそれぞれ独立に,0?4の整数を表す。]」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
発光層が含有する「少なくとも一種の金属錯体」について,
本願発明では,「一般式(PI-1)で表される化合物」としているのに対して,
引用文献1発明では,「一般式(a)及び/又は(b)で表される金属錯体化合物」としている点。

b 相違点1の容易想到性の判断
引用文献1の[0036]には,一般式(a)及び(b)中のMがイリジウム(Ir)であるのが好ましい(その場合,n=3である)ことが記載されているものの,「一般式(a)及び/又は(b)で表される金属錯体化合物」の中でも,一般式(a)で表される金属錯体化合物であって,一般式(a)中のR_(4)とR_(5)が互いに結合してベンゼン環を形成しており,当該ベンゼン環が置換基として少なくとも一つの「置換されていてもよいアルキル基」を有するような金属錯体化合物(すなわち本願発明の一般式(PI-1)で表されるような化合物)が好適であることは,引用文献1には記載も示唆もされていない。
また,引用文献1の[0037]には,一般式(a)の具体例として,金属錯体化合物(A1)ないし(A28)が例示されており,これらのうち金属錯体化合物(A24)は,一般式(a)中のR_(4)とR_(5)が互いに結合してベンゼン環を形成した金属錯体化合物であって,本願発明における一般式(PI-1)で表される化合物と基本構造は共通しているものの,前記ベンゼン環が,置換基を有していないから,本願発明の「R^(3)?R^(6)の少なくとも1つは置換されていてもよいアルキル基である」との要件を満足しない。
さらに,引用文献1発明の一般式(b)の分子構造は,本願発明の一般式(PI-1)の分子構造と,ヘテロ原子Nの位置について合致しないから,当該一般式(b)で表される金属錯体化合物中に,本願発明の一般式(PI-1)で表される化合物に該当するものは存在しない。
そうすると,引用文献1発明において,発光層に含有させる金属錯体化合物として,無数に存在する一般式(a)及び/又は(b)で表される金属化合物の中から,引用文献1に例示のない本願発明の「一般式(PI-1)で表される化合物」に該当する物質を選択することには,動機付けがない。
そして,本願明細書の発明の詳細な説明の実施例についての記載等からみて,本願発明は,「一般式(1)で表される化合物」をホスト材料とし,「一般式(PI-1)で表される化合物」をドーパントとして組み合わせることで,「高温駆動時の外部量子効率及び耐久性が高く,かつ,高温駆動後の色度変化及び電圧上昇が小さい」(【0005】及び【0016】を参照。)という技術上の効果を奏するものと認められる。

c 本願発明の新規性,進歩性についてのまとめ
前記a及びbのとおりであって,本願発明と引用文献1発明との間には,相違点があるから,本願発明は,引用文献1発明と同一発明であるとはいえず,かつ,引用文献1発明を,相違点1に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることが,当業者といえども容易に想到し得たことでないから,本願発明は,引用文献1記載発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(イ)請求項2ないし15に係る発明について
請求項2ないし10,13ないし15は,請求項1の記載を引用する形式で記載されているから,請求項2ないし10,13ないし15に係る発明は,いずれも,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに限定を付加したものに相当する。
そして,前記(ア)で述べたとおり,本願発明は,引用文献1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,請求項2ないし10,13ないし15に係る発明も同様の理由により,引用文献1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
さらに,請求項11及び12は,それぞれ「発光層」及び「組成物」についての発明であるところ,当該請求項11及び12には,いずれにも,相違点1に係る本願発明の発明特定事項と同じ発明特定事項が記載されているから,請求項11及び12に係る発明も,本願発明と同様の理由により,引用文献1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)引用文献2,3に基づく進歩性欠如に対する判断
引用文献2には,発光層を形成する材料として用いるホスト材料の具体例中に本願発明の「一般式(1)で表される化合物」に該当する化合物が開示され,ドーパントとしてはイリジウム錯体が好適であることは記載されているものの,本願発明の「一般式(PI-1)で表される化合物」に該当する化合物は記載されておらず,ホスト材料である「一般式(1)で表される化合物」に該当する化合物と組み合わせるドーパントについて,イリジウム錯体の中でも本願発明の「一般式(PI-1)で表される化合物」に該当するイリジウム錯体が好適であることについては,記載も示唆もされていない。
また,引用文献3には,発光層を形成する材料として用いるドーパントの具体例中に本願発明の「一般式(PI-1)で表される化合物」に該当する化合物が開示されているものの,本願発明の「一般式(1)で表される化合物」に該当する化合物は記載されておらず,ドーパントである「一般式(PI-1)で表される化合物」に該当する化合物と組み合わせるホスト材料について,本願発明の「一般式(1)で表される化合物」に該当する化合物が好適であることについては,記載も示唆もされていない。
そうすると,引用文献2に記載された発光層を形成する材料について,ホスト材料として記載された多数の具体例の中から本願発明の「一般式(1)で表される化合物」に該当する化合物を選択するとともに,ドーパントとして,引用文献3に記載された多数の具体例の中から「一般式(PI-1)で表される化合物」を選択して,両者を組み合わせることには,動機付けがないというべきである。
そして,本願明細書の発明の詳細な説明の実施例についての記載等からみて,本願発明は,「一般式(1)で表される化合物」をホスト材料とし,「一般式(PI-1)で表される化合物」をドーパントとして組み合わせることで,「高温駆動時の外部量子効率及び耐久性が高く,かつ,高温駆動後の色度変化及び電圧上昇が小さい」(【0005】及び【0016】を参照。)という技術上の効果を奏するものと認められる。
したがって,本願発明は,引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)請求項2ないし15に係る発明について
請求項2ないし10,13ないし15は,請求項1の記載を引用する形式で記載されているから,請求項2ないし10,13ないし15に係る発明は,いずれも,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに限定を付加したものに相当する。
そして,前記(ア)で述べたとおり,本願発明は,引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,請求項2ないし10,13ないし15に係る発明も同様の理由により,引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
さらに,請求項11及び12は,それぞれ「発光層」及び「組成物」についての発明であるところ,当該請求項11及び12には,いずれにも,「少なくとも一種の一般式(PI-1)で表される化合物と少なくとも一種の一般式(1)で表される化合物を含有する」との本願発明の発明特定事項と同じ発明特定事項が記載されているから,請求項11及び12に係る発明も,本願発明と同様の理由により,引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
前記(2)及び(3)のとおりであって,本願の請求項1ないし15に係る発明は,いずれも,引用文献1発明と同一でなく,かつ,引用文献1発明に基づいて,又は,引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。


第4 当審において通知された拒絶理由について
1 当審において通知された拒絶理由の概要
(1)平成27年7月28日付けで通知された拒絶理由
平成27年7月28日付けで通知された拒絶理由(以下,「第1当審拒絶理由」という。)は,概略,次のとおりである。

ア サポート要件・明確性要件違反
この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない。

一般式(1)で表される化合物を含有する有機層の種類等に関して,本願の請求項1,2,4ないし11,14ないし16(平成26年7月4日提出の手続補正書による補正後の請求項1,2,4ないし11,14ないし16。以下,「(1)平成27年7月28日付けで通知された拒絶理由」における請求項は,平成26年7月4日提出の手続補正書による補正後の請求項を指す。)に係る発明にまで,本願明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので,本願の請求項1,2,4ないし11,14ないし16に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものでない。
一般式(PI-1)中のR^(1)?R^(9)の定義中の置換基に関して,本願の請求項1,2,4ないし11,14ないし16(平成26年7月4日提出の手続補正書による補正後の請求項1,2,4ないし11,14ないし16)に係る発明にまで,本願明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので,本願の請求項1,3ないし16に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものでない。
請求項12,13の記載は,他の請求項の記載を引用する記載に関して不明確な点が存在するから,請求項12,13に係る発明は明確でない。

進歩性欠如
本願の請求項1ないし16に係る発明は,本願の優先日より前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1:国際公開第2008/072538号
引用例2:国際公開第2008/143059号
引用例3:特表2009-526071号公報
引用例4:国際公開第2010/004887号

引用例1に記載された発明において,引用例2ないし4の記載事項を適用し,一般式(a)で表される金属錯体化合物として,一般式(PI-1)で表される化合物を用いることは,当業者であれば容易に想到し得たことである。
本願明細書の発明の詳細な説明の実施例等の記載からは,本願の各請求項に係る発明が,「高温駆動時の外部量子効率と耐久性に優れ,高温駆動時の色度変化と電圧上昇を抑えうる」という効果を有するものとは認められない。

(2)平成27年12月3日付けで通知された拒絶理由
平成27年12月3日付けで通知された拒絶理由(以下,「第2当審拒絶理由」という。)は,概略,次のとおりである。

この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

一般式(PI-1)中のR^(1)?R^(9)の定義中のアルキル基及びアリール基やR^(3)?R^(6)の定義中のアルキル基における置換の有無に関して,不明確な点が存在するから,請求項1ないし15(平成27年11月16日提出の手続補正書による補正後の請求項1ないし15。以下,本欄における請求項は,平成27年11月16日提出の手続補正書による補正後の請求項を指す。)に係る発明は明確でない。
請求項2記載の化合物16及21は,請求項1記載の一般式(PI-1)に該当する化合物でないから,請求項2ないし4,8ないし10,13ないし15に係る発明は明確でない。

(3)平成28年7月6日付けで通知された拒絶理由
平成28年7月6日付けで通知された拒絶理由(以下,「第3当審拒絶理由」という。)は,概略,次のとおりである。

この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

R^(1)?R^(9)の定義中のアルキレン基は一般式(PI-1)と技術的に整合しないから,各請求項(平成28年6月7日提出の手続補正書による補正後の請求項)に係る発明は明確でない。

2 第1当審拒絶理由ないし第3当審拒絶理由に対する判断
(1)第1当審拒絶理由のうち「サポート要件・明確性要件違反」,第2当審拒絶理由及び第3当審拒絶理由について
第1当審拒絶理由のうち「サポート要件・明確性要件違反」,第2当審拒絶理由及び第3当審拒絶理由については,平成28年7月15日提出の手続補正書による補正によって不備が解消し,本願が,サポート要件に違反するとも,明確性要件に違反するとも,もはやいえなくなった。

(3)第1当審拒絶理由のうち「進歩性欠如」について
第1当審拒絶理由の「進歩性欠如」で引用された引用例1は,原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1であるところ,当該引用例1の記載事項及び引用例1に記載された発明(引用文献1発明)は,前記第3 2(1)ア(ア)及び(イ)に記載したとおりであり,本願発明との一致点及び相違点(相違点1)は,前記第3 2(1)イ(ア)aに記載したとおりである。
そして,前記第3 2(1)イ(ア)bで述べたように,引用例1には,発光層が含有する「一般式(a)及び/又は(b)で表される金属錯体化合物」について,その中でも本願発明の一般式(PI-1)で表されるような化合物であることが好ましいことは,記載も示唆もされていない。
一方,第1当審拒絶理由の「進歩性欠如」で引用された引用例2ないし4は,いずれも,本願の優先日より前に頒布され,又は電気通信回線を通じて公開されたものであるところ,引用例2ないし引用例4には,それぞれ,有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層に用いる金属錯体化合物の具体例が例示されており,それぞれの具体例中に,本願発明の「一般式(PI-1)」に該当する金属錯体化合物は存在するものの,当該本願発明の「一般式(PI-1)」に該当する金属錯体化合物と組合せるホスト材料として,本願発明の「一般式(1)で表される化合物」が好適であることは,記載も示唆もされていない。
そうすると,引用文献1発明の発光層が含有する「一般式(a)及び/又は(b)で表される金属錯体化合物」に該当する多数の金属錯体化合物の中から,引用例2ないし4に記載された本願発明の「一般式(PI-1)」に該当する金属錯体化合物を選択して,引用文献1発明の発光層が含有する「化合物(1)」と組み合わせることには,動機付けがないというべきである。
そして,本願明細書の発明の詳細な説明の実施例についての記載等からみて,本願発明は,「一般式(1)で表される化合物」をホスト材料とし,「一般式(PI-1)で表される化合物」をドーパントとして組み合わせることで,「高温駆動時の外部量子効率及び耐久性が高く,かつ,高温駆動後の色度変化及び電圧上昇が小さい」(【0005】及び【0016】を参照。)という技術上の効果を奏するものと認められる。
したがって,引用文献1発明において,発光層が含有する「一般式(a)及び/又は(b)で表される金属錯体化合物」に該当する多数の金属錯体化合物の中から,本願発明の「一般式(PI-1)」に該当する金属錯体化合物を選択して,「化合物(1)」と組み合わせることは,たとえ引用例2ないし4の存在をもってしても,当業者が容易に容易に想到し得たこととはいえないから,本願発明は,引用文献1発明及び引用例2ないし4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。

請求項2ないし10,13ないし15は,請求項1の記載を引用する形式で記載されているから,請求項2ないし10,13ないし15に係る発明は,いずれも,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに限定を付加したものに相当するところ,前述したとおり,本願発明が,引用文献1発明及び引用例2ないし4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,請求項2ないし10,13ないし15に係る発明も同様の理由により,引用文献1発明及び引用例2ないし4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。
さらに,請求項11及び12は,それぞれ「発光層」及び「組成物」についての発明であるところ,当該請求項11及び12には,いずれにも,相違点1に係る本願発明の発明特定事項と同じ発明特定事項が記載されているから,請求項11及び12に係る発明も,本願発明と同様の理由により,引用文献1発明及び引用例2ないし4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。

3 小括
以上のとおりであるから,第1当審拒絶理由ないし第3当審拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。


第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-08-29 
出願番号 特願2010-263017(P2010-263017)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H05B)
P 1 8・ 113- WY (H05B)
P 1 8・ 121- WY (H05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 東松 修太郎  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 清水 康司
樋口 信宏
発明の名称 有機電界発光素子  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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