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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09B
管理番号 1318827
審判番号 不服2014-19545  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-30 
確定日 2016-09-01 
事件の表示 特願2012-204899「フタロシアニン結晶の製造方法、及びそれを用いた電子写真感光体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月27日出願公開、特開2012-255173〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 手続の経緯
この出願は、平成19年3月20日(優先権主張平成18年3月20日、同年3月28日、同年6月9日、同年6月16日)に出願した特願2007-73260号の一部を平成24年9月18日に新たな特許出願としたものであって、平成24年10月17日に上申書が提出され、平成26年3月11日付けで拒絶理由が通知され、同年5月19日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月24日付けで拒絶査定がされ、同年9月30日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、平成27年12月22日付けで、平成26年9月30日付けの手続補正が却下されるとともに当審より拒絶理由が通知され、平成28年2月25日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、平成28年3月29日付けで、当審より拒絶理由(最後)が通知され、同年6月2日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
なお、上記特願2007-73260号からは、平成24年9月18日に、この出願以外に特願2012-204898号、特願2012-204900号、特願2012-204901号が、平成25年7月2日に特願2013-138597号が、それぞれ分割出願され、また、特願2012-204901号からは、平成26年7月18日に特願2014-147716が分割出願されている。

第2 平成28年6月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成28年6月2日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正
平成28年6月2日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲(平成28年2月25日付けの手続補正により補正されたものである。)の請求項1である
「オキシチタニウムフタロシアニンを化学的処理して得られる、オキシチタニウムフタロシアニンを含有する低結晶性/アモルファス性フタロシアニン化合物を、
水の共存下、
1013hPa、25℃の条件下において固体であり、ベンゼンまたはナフタレンに、Hammett則における置換基定数σ_(p)^(0) の値が0.200以上である電子吸引性の置換基として、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基及びその無水物、並びにスルホ基及びその無水物から選ばれる少なくとも一つを有する芳香族化合物の存在下、
1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない分子量50以上300以下の有機化合物として、ハロゲン、アルデヒド基、アセチル基、ニトロ基、及びアルコキシカルボニル基から選ばれる少なくとも一つを置換基として有するベンゼン、またはテトラヒドロフランに接触させることにより結晶型を変換する工程を備え、
上記の結晶型を変換する工程を経て得られるオキシチタニウムフタロシアニンを含有し、CuK_(α)特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2に主たる回折ピークを有するフタロシアニン結晶を得ることを特徴とするフタロシアニン結晶の製造方法。」
を、
「オキシチタニウムフタロシアニンを化学的処理して得られる、オキシチタニウムフタロシアニンを含有する低結晶性/アモルファス性フタロシアニン化合物を、
水の共存下、
1013hPa、25℃の条件下において固体であり、ベンゼンまたはナフタレンに、Hammett則における置換基定数σ_(p)^(0) の値が0.200以上である電子吸引性の置換基として、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基及びその無水物、並びにスルホ基及びその無水物から選ばれる少なくとも一つを有する芳香族化合物である電子吸引性特定芳香族化合物の存在下、
1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない分子量50以上300以下の有機化合物である非酸性特定有機化合物として、ハロゲン、アルデヒド基、アセチル基、ニトロ基、及びアルコキシカルボニル基から選ばれる少なくとも一つを置換基として有するベンゼン、またはテトラヒドロフランに接触させることにより結晶型を変換する工程を備え、
上記の結晶型を変換する工程においては、前記電子吸引性特定芳香族化合物及び前記非酸性特定有機化合物をフタロシアニン結晶中に取り込みながら結晶型を変換し、
上記の結晶型を変換する工程を経て得られるオキシチタニウムフタロシアニンを含有し、CuK_(α)特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2に主たる回折ピークを有するフタロシアニン結晶を得ることを特徴とするフタロシアニン結晶の製造方法。」
とする補正を含むものである(審決注:補正部分に下線を付した。)。

2 補正の適否

(1)補正の目的の適否について

ア 上記補正は、補正前の請求項1に記載されていた「1013hPa、25℃の条件下において固体であり、ベンゼンまたはナフタレンに、Hammett則における置換基定数σ_(p)^(0) の値が0.200以上である電子吸引性の置換基として、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基及びその無水物、並びにスルホ基及びその無水物から選ばれる少なくとも一つを有する芳香族化合物」(以下「化合物S」という。)及び「1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない分子量50以上300以下の有機化合物として、ハロゲン、アルデヒド基、アセチル基、ニトロ基、及びアルコキシカルボニル基から選ばれる少なくとも一つを置換基として有するベンゼン、またはテトラヒドロフラン」(以下「化合物L」という。)を、それぞれ「電子吸引性特定芳香族化合物」及び「非酸性特定有機化合物」と称することを、特許請求の範囲に記載する補正を含む。
しかし、そのように補正しても、「化合物S」が「化合物Sである電子吸引性特定芳香族化合物」と、「化合物L」が「化合物Lである非酸性特定有機化合物」と、それぞれ言い換えられただけで、それぞれに該当する化合物の範囲は、変わるものではない。また、化合物S及び化合物Lをそれぞれ「電子吸引性特定芳香族化合物」及び「非酸性特定有機化合物」と称することにより、特許請求の範囲の不明瞭であった記載であって拒絶理由通知で示されたものが明瞭になるというものでもない。

イ 上記補正は、補正前の請求項1に記載されていた「オキシチタニウムフタロシアニンを化学的処理して得られる、オキシチタニウムフタロシアニンを含有する低結晶性/アモルファス性フタロシアニン化合物を、水の共存下、化合物Sの存在下、化合物Lに接触させることにより結晶型を変換する工程」について、「上記の結晶型を変換する工程においては、前記電子吸引性特定芳香族化合物及び前記非酸性特定有機化合物をフタロシアニン結晶中に取り込みながら結晶型を変換し」との事項を、追加する補正を含む。
しかし、補正前の上記の、化合物Sの存在下、化合物Lに接触させることにより結晶型を変換する工程について、化合物S及び化合物Lをフタロシアニン結晶中に取り込みながら結晶型を変換する態様と、そうでない態様とが存在した、ということはできないから、「上記の結晶型を変換する工程においては、前記電子吸引性特定芳香族化合物及び前記非酸性特定有機化合物をフタロシアニン結晶中に取り込みながら結晶型を変換し」との事項を追加する補正が、上記の結晶型を変換する工程を限定するものであるとはいえない。また、「上記の結晶型を変換する工程においては、前記電子吸引性特定芳香族化合物及び前記非酸性特定有機化合物をフタロシアニン結晶中に取り込みながら結晶型を変換し」との事項を追加することにより、特許請求の範囲の不明瞭であった記載であって拒絶理由通知で示されたものが明瞭になるというものでもない。

ウ したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮、同第4号に掲げる明りようでない記載の釈明の、何れを目的とするものにも該当しない。また、同第1号に掲げる請求項の削除、同第3号に掲げる誤記の訂正の、何れを目的とするものにも該当しない。

(2)独立特許要件について
補正前の請求項1を補正後の請求項1とする補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しないことは、上記(1)に示したとおりであるが、仮に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合でも、本件補正が適法であるためには、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
そこで、念のため、本願補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて、以下に検討する。

ア 特許法第36条第6項第1号について検討する。

(ア)はじめに
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(イ)発明の詳細な説明の記載
この出願の明細書(以下「本願明細書」という。平成26年5月19日付け及び平成28年2月25日付けの手続補正により補正されている。本件補正でも段落【0026】と段落【0533】を補正しようとしている。摘示するときは本件補正の前後をともに示す。)には、以下の記載がある。

a 技術分野、背景技術、発明が解決しようとする課題及び発明の特徴についての記載
段落【0001】?【0042】に、以下の記載がある。
「【0001】本発明は、フタロシアニン結晶前駆体の結晶型を変換して得られるフタロシアニン結晶、並びに、そのフタロシアニン結晶を用いた電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ、及び画像形成装置に関する。特に、LED光や半導体レーザー光に対して高い感度を有するとともに、使用環境の湿度変化に対する感度の変動が少なく、太陽電池、電子ペーパー、電子写真感光体等の材料として好適に用いることのできる、優れたフタロシアニン結晶、並びに、高い感度を有するとともに、使用環境の湿度変化に対する感度の変動が少ない電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】近年、有機系の光導電材料を使用した、太陽電池、電子ペーパー、電子写真等に利用可能な有機光デバイスが鋭意検討されている。この中でも特に電子写真技術は、即時性に優れ、高品質の画像が得られること等から、近年では複写機の分野にとどまらず、各種のプリンタ、印刷機の分野でも広く応用されてきている。
【0003】電子写真技術の中核となる電子写真感光体(以下適宜「感光体」と略称する。)としては、従来、セレン、砒素-セレン合金、酸化亜鉛といった無機系の光導電材料を使用した感光体が用いられてきたが、最近では、無公害である、成膜・製造が容易である、材料選択・組み合わせの自由度が高い等の利点を有する有機系の光導電材料を使用した感光体が主流となっている。
【0004】有機系の光導電性材料を使用した電子写真感光体の感度は、露光光の波長、電荷発生物質の種類によって異なる。
【0005】600?800nmの長波長光に対して感度を有する電荷発生物質としては、フタロシアニン化合物が注目を浴びており、特に、クロロアルミニウムフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、オキシバナジウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、マグネシウムフタロシアニン、オキシチタニウムフタロシアニン等の金属含有フタロシアニン、或いは無金属フタロシアニン等についての研究が精力的に行なわれている。
【0006】フタロシアニン化合物については、単分子構造が同一であっても、単分子の集合体である結晶の配列規則性(結晶型)の違いにより、電荷発生効率が異なることが報告されている(非特許文献1、2参照)。
【0007】近年の複写機、レーザープリンター、普通紙ファックス等における電子写真プロセスの高速化・フルカラー化に伴い、電子写真感光体の特性として、高感度化、高速応答化が必須となっており、より高感度な電荷発生物質の開発が必須となっている。
【0008】高感度のためには電荷発生能力の高い電荷発生物質が必須である。その中でも、現在主流となっているLD露光に高感度を示すオキシチタニウムフタロシアニンに関して、盛んに研究が行なわれている。前記オキシチタニウムフタロシアニンは結晶多型を示すことが知られている。公知の結晶型としては、α型(・・・)、β型(・・・)、C型(・・・)、D型(・・・)、Y型(・・・)、M型(・・・)、M-α型(・・・)、I型(・・・)など、数多くの結晶型が報告されている。
【0009】これら結晶型の中でも、CuK_(α)特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有する結晶型(以下適宜「特定結晶型」という場合がある。)が、高い量子効率を示し、高感度を示すことが知られている。
【0010】また、オキシチタニウムフタロシアニン分子単体のみで構成される結晶以外にも、オキシチタニウムフタロシアニンと他のフタロシアニン類や他の顔料等とからなる混晶でも、上記の特定結晶型を形成し、高感度を示すことが広く知られている(特許文献9参照)。
【0011】前記の、特定結晶型のオキシチタニウムフタロシアニンを含有するフタロシアニン結晶型類は、非常に高い感度を有することが知られている。この高感度は、結晶中に水分子が存在し、増感剤として機能することにより発現していると考えられ、この増感剤として働いている水分子は、結晶のおかれている環境の湿度の変化により結晶の中と外を自由に出入りしており、結晶のおかれている環境の湿度が低くなると結晶中から水分子が脱離し、感度が低下するという課題を有している。
【0012】この湿度の低下に伴う水分子の脱離による感度の低下は、電子写真感光体としてレーザープリンター、複写機等に用いた場合に、通常の湿度の状態と、乾燥して湿度の低くなった状態で出力した両方の画像との間に、得られる画像濃度が異なるという課題となって現れる。特に近年幅広く普及してきているフルカラーレーザープリンターや複写機において、画像濃度の低下が、フルカラー画像の色調の変化等で顕著にあらわれるため大きな課題となってきている。
【0013】この様に、特定結晶型のオキシチタニウムフタロシアニンを含有するフタロシアニン結晶型類は、高感度である反面、使用する環境の変化によって特性が大きく変化してしまうという課題を有している。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0015】更に、特定結晶型のオキシチタニウムフタロシアニンの湿度変化に対する感度変化を抑制するために、電荷発生層に保湿剤を添加する方法が報告されている(・・・)が、これらの技術では、残留電位に係る湿度依存性のみが改善されて、湿度変化による感度変動は十分に改良されない。湿度依存による画像劣化は黒ベタ画像ではなく、ハーフトーン画像において生じ易いため、感度の変動を小さくする必要がある。実際に、特定結晶型のオキシチタニウムフタロシアニンの光減衰曲線においては、湿度の変化に対して、ハーフトーンに係る電位部分(電位の絶対値が100?300V付近)の変動が大きいことが分かっており、この電位変動を小さくする要求には、未だ不十分なものであった。
・・・・・・・・・・・・・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】上記の特定結晶型を示すフタロシアニン結晶(以下「フタロシアニン結晶」という場合には、単一種のフタロシアニン化合物のみで構成される結晶のみならず、複数種のフタロシアニン化合物からなる混晶や、フタロシアニン化合物と他の分子とからなる混晶も含め、フタロシアニン化合物が含まれる結晶全てを指すものとする。なお、「フタロシアニン化合物」については後述する。)は、非常に高い感度を示す。この高い感度は、水分子が結晶中に存在し、増感剤として機能することにより発現しているが、この増感剤として働いている水分子は、結晶のおかれている環境の湿度の変化に伴って結晶の中と外を自由に出入りしているため、湿度が低くなると結晶中から水分子が脱離し、感度が低下するという課題を有している。
【0019】この湿度の低下に伴う水分子の脱離による感度の低下という課題は、上記の特定結晶型を有するフタロシアニン結晶を電子写真感光体の材料としてレーザープリンター、複写機等に用いた場合に、通常の湿度の状態で出力した画像と、乾燥し湿度の低くなった状態で出力した画像との間で、得られる画像濃度が異なるという課題となって現れる。特に、近年幅広く普及してきているフルカラーレーザープリンターや複写機においては、画像濃度の低下が、フルカラー画像の色調の変化等として顕著に現れるため、大きな課題となっている。
【0020】上記の特定結晶型を有するフタロシアニン結晶は、前駆体となるフタロシアニン類を特定の化合物に接触させ、結晶型を変換することによって製造される。この結晶型変換工程において、用いた化合物分子とフタロシアニン類との相互作用により結晶型を構築するが、この際、用いる化合物によって、フタロシアニン類との相互作用が異なり、製造法の違いにより様々な結晶型、粒子形状を示す。また、電荷発生能力(感度)、帯電性、暗減衰などの電子写真感光体としての特性の面も製造法に依存しており、その性能を前もって予測することは非常に困難である。
【0021】この様に、上記の特定結晶型を有するフタロシアニン結晶は、高感度である反面、使用する環境の変化によって特性が大きく変化してしまうという課題を有している。前述した通り、近年主流となっている高画質で単位時間当たりに多くの枚数をフルカラー印刷できるレーザープリンター、複写機等において、より高感度、かつ使用環境の湿度の変動に対する感度変動の少ない電子写真感光体が広く望まれているが、未だ開発されていないのが現状である。
【0022】本発明は、前記要望を鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、高い感度を有するとともに、使用環境の湿度変化に対する感度の変動が少ないフタロシアニン結晶を提供すること、また、高感度であるとともに、使用環境の湿度変化に対する感度変動の少ない電子写真感光体を提供すること、更には、この電子写真感光体を用いることにより、使用環境の湿度変化に対して安定した画質の画像を提供することの出来る電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】本発明者らは、フタロシアニン結晶前駆体の結晶型を変換する際に用いる化合物が、得られる電子写真感光体の湿度の変化に対する感度変動に深く関与していると推測し、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、フタロシアニン結晶前駆体を特定の化合物の存在下で結晶型を変換することにより得られたフタロシアニン結晶が、高い感度を有するとともに、使用環境の湿度変化に対する感度の変動が少ないこと、また、高感度であって、使用環境の湿度変化に対する感度変動が少ない電子写真感光体を得ることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
・・・・・・・・・・・・・・・
【発明の効果】
【0042】本発明のフタロシアニン結晶は、高い感度を有するとともに、使用環境の湿度変化に対する感度の変動が少ないという利点を有する。
また、本発明の電子写真感光体は、高感度であって、且つ、使用環境の湿度変化に対する感度変動が少ないという利点を有する。
また、本発明の電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置は、使用環境の湿度変化に対して安定した画質の画像を提供することが出来るという利点を有する。」

b フタロシアニン結晶前駆体の結晶型を変換する際に用いる化合物群(A)?(D)の要約の記載
段落【0045】?【0051】に、以下の記載がある。
「【0045】[I.フタロシアニン結晶]
本発明のフタロシアニン結晶は、フタロシアニン結晶前駆体を、必要に応じて特定の化合物類の存在下、特定の化合物類に接触させることにより、結晶型を変換する工程(以下適宜「結晶型変換工程」という場合がある。)を経て得られるものである。
【0046】ここで、結晶型変換工程は、フタロシアニン結晶前駆体を接触させる特定の化合物類(以下適宜「結晶型変換用接触化合物類」という場合がある。)、及び、その際に必要に応じて共存させる特定の化合物類(以下適宜「結晶型変換用共存化合物類」という場合がある。また、結晶型変換用接触化合物類及び結晶型変換用共存化合物類を纏めて適宜「結晶型変換用化合物類」という場合がある。)の種類に応じて、以下の(A)?(D)に分類される。
【0047】(A)フタロシアニン結晶前駆体を、芳香族アルデヒド化合物に接触させることにより、結晶型を変換する。即ち、結晶型変換用接触化合物類として芳香族アルデヒド化合物を使用する(以下、この芳香族アルデヒド化合物を「結晶型変換用化合物類(A)」という場合がある。)。
【0048】(B)フタロシアニン結晶前駆体を、有機酸、有機酸無水物及びヘテロ原子を有する有機酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物(以下適宜「特定有機酸化合物」という。)の存在下、酸性を示す官能基を有さない有機化合物(以下適宜「非酸性有機化合物」という。)に接触させることにより、結晶型を変換する。即ち、結晶型変換用共存化合物類として特定有機酸化合物を使用し、結晶型変換用接触化合物類として非酸性有機化合物を使用する(以下、これらの特定有機酸化合物及び非酸性有機化合物を併せて「結晶型変換用化合物類(B)」という場合がある。)。
【0049】(C)フタロシアニン結晶前駆体を、1013hPa、25℃の条件下において固体であり、電子吸引性の置換基を有する芳香族化合物(以下適宜「電子吸引性特定芳香族化合物」という。)の存在下、1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない有機化合物(以下適宜「非酸性特定有機化合物」という。)に接触させることにより、結晶型を変換する。即ち、結晶型変換用共存化合物類として電子吸引性特定芳香族化合物を使用し、結晶型変換用接触化合物類として非酸性特定有機化合物を使用する(以下、これらの電子吸引性特定芳香族化合物及び非酸性特定有機化合物を併せて「結晶型変換用化合物類(C)」という場合がある。)。
【0050】(D)フタロシアニン結晶前駆体を、酸素原子を含有する基、及び、原子量30以上のハロゲン原子を置換基として有する芳香族化合物(以下適宜「特定置換基含有芳香族化合物」という。)に接触させることにより、結晶型を変換する。即ち、結晶型変換用接触化合物類として特定置換基含有芳香族化合物を使用する(以下、この特定置換基含有芳香族化合物を「結晶型変換用化合物類(D)」という場合がある。)。
【0051】結晶型変換工程では、上述の結晶型変換用化合物類(A)?(D)のうち、何れか一種の結晶型変換用化合物類を単独で用いてもよく、二種以上の結晶型変換用化合物類を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。」

c フタロシアニン結晶の組成についての記載
段落【0053】?【0058】に、以下の記載がある。
「【0053】〔I-1.フタロシアニン結晶の組成〕
本発明において「フタロシアニン結晶」とは、一種又は二種以上のフタロシアニン化合物を含有する結晶をいう。即ち、一種のフタロシアニン化合物のみで構成される結晶のみならず、複数種のフタロシアニン化合物からなる混晶や、一種又は二種以上のフタロシアニン化合物と他の分子とからなる混晶をも含めて、本発明では「フタロシアニン結晶」というものとする。
【0054】また、本発明において「フタロシアニン化合物」とは、フタロシアニン骨格を有する化合物を言う。その具体例としては、無金属フタロシアニン;銅フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、鉛フタロシアニン等の、平面分子構造を有するフタロシアニン;オキシチタニウムフタロシアニン、オキシバナジウムフタロシアニン、クロロアルミニウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン等の、分子がシャトルコック構造を有するフタロシアニン;ジクロロ錫フタロシアニン、ジクロロ珪素フタロシアニン、ジヒドロキシ錫フタロシアニン、ジヒドロキシ珪素フタロシアニン等の、分子がこま型構造を有するフタロシアニン;等が挙げられる。
【0055】本発明のフタロシアニン結晶が単一種のフタロシアニン化合物から構成される場合、電子写真感光体としての特性の面を考慮すると、シャトルコック構造を有するフタロシアニン化合物が望ましい。また、シャトルコック構造を有するフタロシアニン化合物の中でも、一般的に電子写真感光体としての特性が良好であることから、フタロシアニン化合物分子の中心金属が、酸化物、塩化物、又は水酸化物の形態を取ることが好ましく、フタロシアニン結晶の製造の容易さからは、中心金属が酸化物の形態を取ることがより好ましい。具体例としては、オキシチタニウムフタロシアニン又はオキシバナジウムフタロシアニンが特に好ましく、オキシチタニウムフタロシアニンが最も好ましい。
【0056】一方、本発明のフタロシアニン結晶が複数種の分子からなる混晶である場合としては、上述のように、複数種のフタロシアニン化合物から構成される(即ち、フタロシアニン化合物以外の化合物を含まない)場合と、一種又は二種以上のフタロシアニン化合物と、一種又は二種以上のフタロシアニン化合物以外の化合物とから構成される(即ち、フタロシアニン化合物以外の化合物を含む)場合とが挙げられるが、結晶安定性の面から、複数種のフタロシアニン化合物から構成される(即ち、フタロシアニン化合物以外の化合物を含まない)方が好ましい。
【0057】本発明のフタロシアニン結晶が混晶の場合、電子写真感光体としての特性の面を考慮すると、シャトルコック構造を有するフタロシアニン化合物を主成分として含有することが好ましい。この主成分として含有されるフタロシアニン化合物(以下適宜「主成分のフタロシアニン化合物」という。)は、その分子の中心金属が酸化物、塩化物、又は水酸化物の形態を取ることが好ましく、フタロシアニン結晶の製造の容易さからは、中心金属が酸化物の形態を取ることがより好ましい。具体例としては、オキシチタニウムフタロシアニン又はオキシバナジウムフタロシアニンが特に好ましく、オキシチタニウムフタロシアニンが最も好ましい。主成分のフタロシアニン化合物の含有量は、混晶であるフタロシアニン結晶に対して、通常60重量%以上であるが、含有される量が少ないと結晶型制御性が低下することから、70重量%以上が好ましく、分散時の結晶安定性の点からは、80重量%以上がより好ましく、電子写真感光体として用いた際の特性の面からは、85重量%以上が更に好ましい。
【0058】また、本発明のフタロシアニン結晶が混晶の場合、上述の主成分のフタロシアニン化合物以外に含有されるフタロシアニン化合物(以下適宜「主成分以外のフタロシアニン化合物」という。)としては、混晶としての結晶安定性の面から、シャトルコック構造を有するフタロシアニン化合物、又は、平面分子構造を有するフタロシアニン化合物が好ましい。中でも、電子写真感光体特性の面から、シャトルコック構造を有するフタロシアニン化合物の中では、オキシバナジウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニンが好ましく、平面構造を有するフタロシアニン化合物の中では、無金属フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、鉛フタロシアニンが好ましい。これらの中でも、オキシバナジウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、無金属フタロシアニンがより好ましく、混晶結晶中での空いた空間がより増えることから、平面分子構造を有する無金属フタロシアニンが特に好ましい。主成分以外のフタロシアニン化合物は、一種類のみを使用してもよく、二種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよいが、一種類のみを用いことが好ましい。主成分以外のフタロシアニン化合物の含有量は、混晶であるフタロシアニン結晶に対して、通常40重量%以下であるが、多過ぎると結晶型制御性が低下することから、30重量%以下が好ましく、分散時の安定性の面からは、20重量%以下が好ましく、電子写真特性の面からは、15重量%以下が好ましい。但し、主成分以外のフタロシアニン化合物の含有量が余りに少な過ぎると、その含有による効果が得られない場合があるため、その含有量は0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましい。」

d フタロシアニン結晶前駆体についての記載
段落【0059】?【0072】に、以下の記載がある。
「【0059】〔I-2.フタロシアニン結晶前駆体〕
本発明のフタロシアニン結晶は、フタロシアニン結晶前駆体を結晶型変換用化合物類に接触させることにより結晶型を変換する工程を経て得られるものである。ここで「フタロシアニン結晶前駆体」とは、結晶型を変換する処理(以下「結晶型変換処理」という場合がある。)を施すことにより、フタロシアニン結晶が得られる物質をいう。よって、フタロシアニン結晶前駆体は、一種のフタロシアニン化合物、二種以上のフタロシアニン化合物の混合物、一種又は二種以上のフタロシアニン化合物と一種又は二種以上の他の化合物との混合物の何れであってもよい(以下の記載ではフタロシアニン化合物又はフタロシアニン化合物を含有する混合物を総称して「フタロシアニン類」と呼ぶ場合がある。)。また、その存在状態も特に制限されないが、結晶変換時の結晶型の制御性を考慮すると、フタロシアニン結晶前駆体としては、通常は得られるフタロシアニン結晶と同一の分子構造を有するアモルファス性フタロシアニン類又は低結晶性フタロシアニン類が用いられる。
【0060】本発明において「低結晶性フタロシアニン類」とは、粉末X線回折(X-ray diffraction:以下「XRD」と省略する場合がある。)スペクトルにおいて、CuK_(α) 特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)0°?40°の範囲内に半値幅が0.30°以下のピークを有さないフタロシアニン類をいう。この半値幅が小さ過ぎると、固体中でフタロシアニン分子がある程度一定の規則性や長期的秩序を有している状態になっており、結晶型を変換させる際に結晶型の制御性が低下することから、本発明においてフタロシアニン結晶前駆体として用いる低結晶性フタロシアニン類は、その半値幅が通常0.35°以下、更には0.40°以下、特に0.45°以下のピークを有さないものであることが好ましい。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0067】なお、低結晶性フタロシアニン類とアモルファス性フタロシアニン類との境界は明確ではないが、本発明では何れも好ましいフタロシアニン結晶前駆体として使用することが可能である。以下の記載では、低結晶性フタロシアニン類とアモルファス性フタロシアニン類とを特に区別せずに呼ぶ場合、「低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類」と総称することにする。
【0068】後述のように、本発明のフタロシアニン結晶の結晶型としては、CuK_(α) 特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有する結晶型(特定結晶型)が好ましいが、27.2°付近にピークを有する低結晶性フタロシアニン類は、上記特定結晶型を有するフタロシアニン結晶とある程度類似した規則性を有しており、上記特定結晶型への結晶型制御性に優れることから、フタロシアニン結晶前駆体として好ましい。この場合における低結晶性フタロシアニンは、その半値幅が通常0.30°以下、好ましくは0.35°以下、より好ましくは0.40°以下、更に好ましくは0.45°以下の範囲のピークを含まないものである。
【0069】一方、27.2°付近にピークを有さない低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類をフタロシアニン結晶前駆体として用いる場合には、上記特定結晶型を有するフタロシアニン結晶への結晶型制御性が低いことから、結晶性が低いことが望ましく、この場合における低結晶性フタロシアニンは、その半値幅が通常0.30°以下、好ましくは0.50°以下、より好ましくは0.70°以下、更に好ましくは0.90°以下の範囲のピークを含まないものである。
【0070】図2?5に、低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類の粉末X線回折スペクトルの例を示す。・・・
【0071】・・・低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類は、固体中で分子配列の規則性や分子配列の長期的秩序が低下した状態にあり、図2?5として例示した粉末X線回折スペクトルのように、ハロー図形を示すか、或いは、ピークを有してもその半値幅が非常に広いものとなる。
【0072】本発明においてフタロシアニン結晶前駆体となる低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類の調製法としては、アシッドペースト法、アシッドスラリー法等の化学的処理法、粉砕、磨砕等の機械的処理法等の公知の調製法を用いることが可能であるが、より均一な低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類が得られることから、化学的処理法が好ましく、中でもアシッドペースト法がより好ましい。」

e フタロシアニン結晶前駆体の結晶型を変換する際に用いる化合物群(A)についての記載
段落【0073】?【0089】に、「結晶型変換用化合物類(A)は、芳香族アルデヒド化合物である。芳香族アルデヒド化合物は、結晶型変換用接触化合物類として使用される」として、該当する芳香族アルデヒド化合物について詳細に記載されている。

f フタロシアニン結晶前駆体の結晶型を変換する際に用いる化合物群(B)についての記載
段落【0090】?【0123】に、「結晶型変換用化合物類(B)は、有機酸、有機酸無水物及びヘテロ原子を有する有機酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物(特定有機酸化合物)と、酸性官能基を有さない有機化合物(非酸性有機化合物)とからなる。特定有機酸化合物は結晶型変換用共存化合物類として使用され、非酸性有機化合物は結晶型変換用接触化合物類として使用される」として、該当する特定有機酸化合物(段落【0091】?【0112】)及び非酸性有機化合物(段落【0113】?【0122】)について詳細に記載され、その作用については「フタロシアニン結晶前駆体の結晶変換処理時に、結晶型変換用化合物類(B)として、特定有機酸化合物及び非酸性有機化合物を併用することにより、得られるフタロシアニン結晶を材料として用いた電子写真感光体の特性がなぜ向上するのか、そのメカニズムについては明白ではないが、結晶変換処理時に非酸性有機化合物が共存することによって、同時に用いる特定有機酸化合物がより効率的にフタロシアニン結晶中に取り込まれることにより、本発明の効果が得られているものと推測される」(段落【0123】)と記載されている。

g フタロシアニン結晶前駆体の結晶型を変換する際に用いる化合物群(C)についての記載
段落【0124】?【0152】に、「結晶型変換用化合物類(C)は、1013hPa、25℃の条件下において固体であり、電子吸引性の置換基を有する芳香族化合物(電子吸引性特定芳香族化合物)と、1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない有機化合物(非酸性特定有機化合物)とからなる。電子吸引性特定芳香族化合物は結晶型変換用共存化合物類として使用され、非酸性特定有機化合物は結晶型変換用接触化合物類として使用される」として、該当する電子吸引性特定芳香族化合物及び非酸性特定有機化合物並びにその作用について、以下の記載がある。
「【0124】 <I-3-3.結晶型変換用化合物類(C)>
結晶型変換用化合物類(C)は、1013hPa 、25℃の条件下において固体であり、電子吸引性の置換基を有する芳香族化合物(電子吸引性特定芳香族化合物)と、1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない有機化合物(非酸性特定有機化合物)とからなる。電子吸引性特定芳香族化合物は結晶型変換用共存化合物類として使用され、非酸性特定有機化合物は結晶型変換用接触化合物類として使用される。
【0125】(電子吸引性特定芳香族化合物)
電子吸引性特定芳香族化合物は、1013hPa、25℃の条件下において固体であり、電子吸引性の置換基(以下適宜「電子吸引性基」と略称する。)を有する芳香族化合物である。
【0126】ここで「電子吸引性基」とは、Hammett則における置換基定数σ_(p)^(0)(以下単に「置換基定数σ_(p)^(0)」という場合がある。)の値が正の値を示す置換基のことを指すものとする。ここで、「Hammett関係則」とは、芳香族化合物における置換基が芳香環の電子状態に与える効果を説明するために用いられる経験則であり、通常は、日本化学会編「化学便覧基礎編II 改訂4版」(平成5年9月30日、丸善(株)発行)379ページに記載されているように、無置換の安息香酸のpK_(a) からその置換基を有する安息香酸のpK_(a) を減算した値として算出される。置換基定数σ_(p)^(0) の値は、水素原子の場合を0とすると、電子吸引性が高くなるに従って絶対値の大きな正の値となり、電子供与性が高くなるに従って絶対値の大きな負の値となる。よって、この置換基定数σ_(p)^(0) を用いることにより、置換基を有している芳香族化合物の電子状態や電子密度を予測・表現することが可能となる。代表的な置換基について、日本化学会編「化学便覧基礎編II 改訂4版」(平成5年9月30日、丸善(株)発行)に記載されている置換基定数σ_(p)^(0) の値を下記表1に示す。なお、本発明においては、前記文献に置換基定数σ_(p)^(0) の値が記載されている置換基については、その値を用いるものとし、記載されていない置換基については、日本化学会編「化学便覧基礎編II 改訂4版」(平成5年9月30日、丸善(株)発行)に記載されている置換基定数σ_(p)^(0) の値の測定条件と同様の条件で測定し、算出することにより求めるものとする。
【0127】

【0128】本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物が有する電子吸引性基は、その置換基定数σ_(p)^(0) の値が0より大きなものであればその種類は特に制限されないが、得られた電子写真感光体の環境変動に対する特性の安定性の面から、置換基定数σ_(p)^(0) の値が通常0.200以上、中でも0.300以上である電子吸引性基が好ましい。
【0129】本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物が有する電子吸引性基の数は、1つ以上であれば特に制限は無いが、電子吸引性基の数が多過ぎると非酸性特定有機化合物に対する溶解性が低下し、得られる効果が低下することから、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。なお、二以上の電子吸引性基を有する場合には、それらは同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0130】本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物が有する電子吸引性基の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、アルデヒド基、ニトロ基、ニトロソ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルコキシスルフィニル基、アルキルスルホニルオキシ基、アルキルスルフィニルオキシ基、フルオロアルキル基、カルボキシアミド基、スルホンアミド基、カルボキシイミド基、アゾ基、アリール基、チオアルキル基、カルボキシル基、スルホ基、スルフィノ基、スルフェノ基、ホスフィニコ基、ホスホノ基、ボロン酸基、ボラン酸基等が挙げられる。中でも、電子吸引性特定芳香族化合物の安定性・汎用性の面から、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、アルデヒド基、ニトロ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、スルホ基、ボロン酸基が好ましく、より好ましくはシアノ基、ニトロ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、カルボキシル基、ボロン酸基であり、更に好ましくは、シアノ基、ニトロ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、カルボキシル基である。
【0131】本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物が有する電子吸引性基部分の分子量は、大き過ぎると化合物全体の分子体積が大きくなり、フタロシアニン結晶へ取り込まれ難くなることから、通常は300以下であり、好ましくは250以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは150以下である。
【0132】本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物は、その構造の面から、電子吸引性基部分と、電子吸引性基以外の部分(芳香環部分)の2つに区別することが出来る。
【0133】本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物の芳香環部分の構造は、平面環状ポリエン内に4n+2個(ここでnは0以上の整数を表わす。)のπ電子を有する構造、即ちヒュッケル則を満たす芳香族性を有する構造であれば、如何なる構造であってもよいが、芳香環部分の構造が大き過ぎると溶解性の低下などの弊害が多くなる場合があることから、ヒュッケル則における4n+2の式において、nは5以下であることが好ましく、より好ましくは4以下であり、更に好ましくは3以下である。
【0134】本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物の芳香環部分の例としては、ベンゼン、ナフタレン、アズレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、ピレン、ペリレン等の炭化水素からなる芳香環、ピロール、チオフェン、フラン、シロール、ピリジン、インドール、クロマン、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、キノリン、イソキノリン、カルバゾール、アクリジン、フェノキサジン、チアントレン等のヘテロ原子を含む芳香環等が挙げられる。これらの芳香環の中でも、非酸性特定有機化合物に対する溶解性の面から、芳香環を構成する元素数が14以下の芳香環が好ましく、元素数が10以下の芳香環がより好ましい。また、炭化水素からなる芳香環がより好ましく、ベンゼン、ナフタレンが更に好ましい。
【0135】本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物の芳香環部分の分子量は、大き過ぎるとフタロシアニン結晶中への電子吸引性特定芳香族化合物の取り込みが困難になることから、通常1000以下であり、好ましくは500以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは200以下である。
【0136】本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物は、先述した電子吸引性基以外の置換基を有していてもよい。電子吸引性特定芳香族化合物が電子吸引性基以外に有してもよい置換基の例としては、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルケニル基、フェノール性水酸基、置換、無置換のアミノ基等が挙げられるが、電子供与性が強くなると本発明の効果が得られ難くなることから、アルキル基、アルケニル基が好ましく、より好ましくはアルキル基である。これら電子吸引性基以外の置換基も、電子吸引性基と同様に、分子量が大き過ぎると電子吸引性特定芳香族化合物全体の分子体積が大きくなり、フタロシアニン結晶へ取り込まれ難くなることから、その分子量は、通常は300以下、好ましくは250以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは150以下である。
【0137】また、本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物は、1013hPa(760mmHg)、25℃の条件下において固体のものである。このような条件を満たす化合物は、フタロシアニン分子と強く相互作用を有するという理由で好ましい。
【0138】本発明で好適に使用される電子吸引性特定芳香族化合物の構造の例を以下に挙げる。但し、以下の構造はあくまでも例として示すものであり、本発明で使用可能な電子吸引性特定芳香族化合物の構造は、以下の例示に限定されるものではない。本発明の趣旨に反しない限り、任意の構造の電子吸引性特定芳香族化合物を用いることができる。なお、下記構造式中、「Me」はメチル基を表わし、「Ph」はフェニル基を表わし、「Bz」はベンゾイル基を表わす。
【0139】

【0140】なお、電子吸引性特定芳香族化合物としては、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0141】(非酸性特定有機化合物)
非酸性特定有機化合物とは、1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない有機化合物を言う。即ち、上記<I-3-2.結晶型変換用化合物類(B)>の欄で説明した非酸性有機化合物のうち、1013hPa、25℃の条件下において液体状態である化合物が、非酸性特定有機化合物に該当する。
【0142】ここで「酸性を示す官能基」とは、有機酸が構造中に有する酸性を示すために機能する官能基であり、例としては、カルボキシル基、チオカルボキシル基、ジチオカルボキシル基、メルカプトカルボニル基、ヒドロペルオキシ基、スルホ基、スルフィノ基、スルフェノ酸基、フェノール性水酸基、チオール基、ホスフィニコ基、ホスホノ基、セレノノ基、セレニノ基、セレネノ基、アルシニコ基、アルソノ基、ボロン酸基、ボラン酸基等が挙げられる。本発明に使用される非酸性特定有機化合物は、これらの酸性を示す官能基を有さない有機化合物である。
【0143】本発明で使用される非酸性特定有機化合物は、如何なる構造を有していてもよいが、フタロシアニン結晶前駆体と接触させた際の結晶型の制御性の観点から、その構造中に無置換アミノ基、1置換アミノ基、及びアルコール性水酸基を有さない有機化合物であることが好ましい。
【0144】本発明で使用される非酸性特定有機化合物は、大別すると、脂肪族化合物と芳香族化合物に分けることができる(以下の記載ではこれらを適宜、それぞれ「非酸性特定脂肪族化合物」及び「非酸性特定芳香族化合物」というものとする。)。
【0145】非酸性特定脂肪族化合物の例としては、ピネン、テルピレノン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカン、2-メチルペンタン、リグロイン、石油ベンジン等の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素化合物;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメチルセロソルブ、エチレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン等の脂肪族エーテル化合物;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,2,2,2-テトラクロロエタン等のハロゲン化脂肪族化合物;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等の脂肪族ケトン化合物;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ヘキシル、アクリル酸ブチル、プロピオン酸メチル、酢酸シクロヘキシル等の脂肪族エステル化合物;メタノール、エタノール、ブタノール等の脂肪族アルコール化合物;ノルマルプロピルアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒド等の脂肪族アルデヒド化合物などが挙げられる。なお、これらの非酸性特定脂肪族化合物が有する炭化水素骨格は、鎖状(直鎖状でも分岐鎖状でもよい)であっても環状であってもよく、鎖状と環状とが結合したものであってもよい。
【0146】一方、非酸性特定芳香族化合物の例としては、トルエン、キシレン、ナフタレン、ビフェニル、ターフェニル等の芳香族炭化水素化合物;モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジクロロトルエン、クロロナフタレン、ブロモベンゼン等のハロゲン化芳香族化合物;ニトロベンゼン、フルオロニトロベンゼン等の芳香族ニトロ化合物、安息香酸メチル、安息香酸ブチル、クロロ安息香酸メチル、メチル安息香酸メチル、フェニルアセテート等の芳香族エステル化合物;ジフェニルエーテル、アニソール、クロロアニソール等の芳香族エーテル化合物;ベンズアルデヒド、クロロベンズアルデヒド等の芳香族アルデヒド化合物;アセトフェノン、クロロアセトフェノン等の芳香族ケトン化合物;チオフェン、フラン、キノリン、ピコリン等の複素環芳香族化合物などが挙げられる。
【0147】これら非酸性特定有機化合物の中でも、結晶型の変換能力の点から、ハロゲン原子若しくは酸素原子を含有する脂肪族化合物若しくは芳香族化合物、又は、芳香族炭化水素化合物が好ましい。中でも、得られたフタロシアニン結晶の分散時の安定性を考慮すると、ハロゲン化脂肪族化合物、脂肪族エーテル化合物、脂肪族ケトン化合物、脂肪族エステル化合物、芳香族炭化水素化合物、ハロゲン化芳香族化合物、芳香族ニトロ化合物、芳香族ケトン化合物、芳香族エステル化合物、芳香族アルデヒド化合物がより好ましく、得られたフタロシアニン結晶を材料として用いた電子写真感光体の特性の面から、脂肪族エーテル化合物、ハロゲン化芳香族化合物、芳香族ニトロ化合物、芳香族ケトン化合物、芳香族エステル化合物、又は芳香族アルデヒド化合物が更に好ましい。
【0148】なお、これらの非酸性特定有機化合物は、構造中の置換基等の種類によっては、上述した化合物群のうち複数種の化合物群に同時に属する場合がある(例えばニトロクロロベンゼンは「ハロゲン化芳香族化合物」及び「芳香族ニトロ化合物」の双方に属する。)が、そのような非アルコール性有機化合物は、それら複数種の分類全ての属性を有しているものとして、化合物の属性を判断することとする(例えばニトロクロロベンゼンは、ハロゲン化芳香族化合物及び芳香族ニトロ化合物の両方の属性を有する)。
【0149】また、本発明で使用される非酸性特定有機化合物は、1013hPa(760mmHg)、25℃の条件下において液体状態のものである。
【0150】非酸性特定有機化合物の分子量は特に制限されないが、分子量の増加と共に粘度等が上昇し、製造性が低下することから、非酸性特定有機化合物の分子量は通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは400以下、更に好ましくは300以下である。一方、非酸性特定有機化合物の分子量があまりに小さ過ぎると、一般的に沸点が低くなり、揮発し易いため生産時の取り扱いが低下する傾向があるので、分子量の下限は通常50以上、好ましくは100以上である。
【0151】なお、非酸性特定有機化合物としては、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0152】(電子吸引性特定芳香族化合物と非酸性特定有機化合物との併用)
結晶型を変換させる際の電子吸引性特定芳香族化合物の存在が、フタロシアニン結晶の電子写真感光体としての特性になぜ影響を及ぼすか、そのメカニズムは明白ではないが、非酸性特定有機化合物と電子吸引性特定芳香族化合物とが共存していることにより、電子吸引性特定芳香族化合物がより効率的にフタロシアニン結晶中に取り込まれることにより、本発明の効果が得られているのではないかと推測される。」

h フタロシアニン結晶前駆体の結晶型を変換する際に用いる化合物群(D)についての記載
段落【0153】?【0169】に、「結晶型変換用化合物類(D)は、酸素原子を含有する基、及び、原子量30以上のハロゲン原子を置換基として有する芳香族化合物(特定置換基含有芳香族化合物)である。この特定置換基含有芳香族化合物は、結晶型変換用接触化合物類として使用される」として、該当する特定置換基含有芳香族化合物について詳細に記載されている。

i 結晶型変換工程についての記載
段落【0171】?【0179】に、以下の記載がある。
「【0171】〔I-4.結晶型変換工程〕
結晶型変換工程は、上述の結晶型変換用化合物類を使用して、フタロシアニン結晶前駆体の結晶型を変換するものである。即ち、フタロシアニン結晶前駆体を、必要に応じて用いられる結晶型変換用共存化合物類の共存下、結晶型変換用接触化合物類に接触させることにより、その結晶型を変換するものである。
【0172】ここで、結晶型変換工程において、フタロシアニン結晶前駆体を、結晶型変換用接触化合物類と接触させる手法は特に制限されず、いかなる公知の手法を用いてもよい。
中でも、水の共存下で、フタロシアニン結晶前駆体を結晶型変換用接触化合物類と接触させるのが一般的であり、本発明のフタロシアニン結晶を得るために好適である。
【0173】水を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、結晶型変換用接触化合物類に対する重量比で、通常100重量%以上、中でも500重量%以上、また、通常5000重量%以下、中でも1500重量%以下の範囲とすることが好ましい。なお、二種以上の結晶型変換用接触化合物類を併用する場合には、それらの合計重量が上記範囲を満たすようにすることが好ましい。
【0174】フタロシアニン結晶前駆体と結晶型変換用化合物類との具体的な接触の方法としては、例えば、フタロシアニン結晶前駆体を、結晶型変換用化合物類を含む蒸気や液体、又は、結晶型変換用化合物類を含む溶液と共存させ、撹拌しながら接触させる方法や、フタロシアニン結晶前駆体と結晶型変換用化合物類とを、自動乳鉢、遊星ミル、振動ボールミル、CFミル、ローラーミル、サンドミル、ニーダー等の装置中でメディアと共に物理的な力を加えながら接触させる方法などが挙げられる。
【0175】フタロシアニン結晶前駆体と結晶型変換用化合物類との接触時の温度は特に制限されないが、通常は150℃以下である。よって、本発明に使用される結晶型変換用接触化合物類は、何れもその融点が通常150℃以下であることが望ましい。結晶型変換用接触化合物類の融点があまり高過ぎると、結晶変換時の結晶型変換用接触化合物類の取扱性が低下することから、120℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以下である。
【0176】フタロシアニン結晶前駆体と結晶型変換用化合物類との接触処理(即ち、結晶型変換処理)により、本発明のフタロシアニン結晶が得られる。得られた本発明のフタロシアニン結晶は、必要に応じて水や各種の有機溶媒等を用いて洗浄してもよい。接触処理後又は洗浄後において得られる本発明のフタロシアニン結晶は、通常はウェットケーキの状態である。前述したように、本発明の効果は、結晶変換時にフタロシアニン結晶前駆体を結晶型変換用化合物類と接触させた際に、フタロシアニン結晶中に結晶型変換用化合物類が取り込まれることにより得られるものであると考えられることから、接触処理後又は洗浄後における本発明のフタロシアニン結晶の、ウェットケーキ中におけるフタロシアニン類の含有量(ウェットケーキ総重量に対するフタロシアニン類の重量)は特に制限されず、いかなる量であってもよい。
【0177】接触処理後又は洗浄後に得られた本発明のフタロシアニン結晶のウェットケーキは、通常は乾燥工程に供される。乾燥方法は送風乾燥、加熱乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の公知の方法で乾燥することが可能である。
【0178】以上の方法により得られる本発明のフタロシアニン結晶は、通常は、一次粒子が凝集して二次粒子を形成する形態をとる。その粒子径は、フタロシアニン結晶前駆体と結晶型変換用化合物類との接触時の条件・処方等によって大きく異なるが、分散性を考慮すると、1次粒子径として、500nm以下が好ましく、塗布成膜性の面からは250nm以下であることが好ましい。
【0179】本発明において、フタロシアニン結晶前駆体と結晶型変換用化合物類との接触前後で、結晶変換がされたか否かの定義は、以下の通りである。即ち、接触前後において粉末X線回折スペクトルの各ピークが全く同一の場合は結晶変換がされてないものと定義し、接触前後において粉末X線回折スペクトルから得られるピーク位置、ピークの有無、ピーク半値幅等の情報に少しでも差異が認められた場合は結晶変換がされたものと定義する。」

j 化合物群(A)?(D)を用いる結晶変換工程で得られるフタロシアニン結晶の結晶型についての考察の記載
段落【0180】?【0193】に、以下の記載がある。
「【0180】〔I-5.フタロシアニン結晶の結晶型〕
本発明のフタロシアニン結晶の結晶型は、フタロシアニン結晶前駆体と異なる結晶型であれば、如何なる結晶型であってもよいが、中でも、フタロシアニン結晶を電子写真感光体の材料として使用した場合における電子写真感光体の特性の面から、CuK_(α) 特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有する結晶型(以下適宜「特定結晶型」という。)が好ましい。
【0181】本発明の効果が得られるメカニズムは明らかとなっていないが、フタロシアニン結晶前駆体を結晶型変換用化合物類に接触させて結晶型を変換する際に、フタロシアニン環と結晶型変換用化合物類とが相互作用を持ち、結晶型変換用化合物類がフタロシアニン結晶中に取り込まれるとともに、取り込まれた結晶型変換用化合物類が、結晶中に存在する増感剤としての水と相互作用することにより、低湿条件下での結晶中からの水の脱離を抑制し、低湿条件下でも水分子がフタロシアニン結晶中で存在することができるようになり、増感剤である水の脱離による感度低下を抑制しているため、或いは、結晶型変換用化合物類が増感剤である水分子の替わりに増感剤としての役割を果たしているためではないかと考えられる。
【0182】ここで、上述の特定結晶型は、他の結晶型と比較して結晶密度が低く、結晶中の空いている空間部分が多いため、フタロシアニン結晶を結晶型変換用化合物類と接触させて上述の特定結晶型を構築する際に、結晶型変換用化合物類がフタロシアニン結晶中に容易に取り込まれ、フタロシアニン結晶中で増感剤としての役割を果たしているのではないかと考えられる。
【0183】以下、本発明のフタロシアニン結晶が上述の特定結晶型を有する場合に、本発明の効果がなぜ顕著に得られるのか、その推測されるメカニズムを、結晶型変換用化合物類の種類毎に分けて、より具体的に検討する。
【0184】結晶型変換用化合物類(A)を用いる場合、即ち、フタロシアニン結晶前駆体を芳香族アルデヒド化合物に接触させ、本発明のフタロシアニン結晶を得る場合には、該結晶型を構築する際に、フタロシアニン環と芳香族アルデヒド化合物の芳香環部分のπ電子同士が相互作用を持ち、芳香族アルデヒド化合物がフタロシアニン結晶中に取り込まれるとともに、取り込まれた芳香族アルデヒド化合物のアルデヒド基部分が、結晶中に存在する増感剤としての水と相互作用することにより、低湿条件下での結晶中からの水の脱離を抑制し、低湿条件下でも水分子がフタロシアニン結晶中で存在することができるようになり、増感剤である水の脱離による感度低下を抑制しているため、或いは、芳香族アルデヒド化合物のアルデヒド基が増感剤である水分子の替わりに増感剤としての役割を果たしているためではないかと考えられる。
【0185】結晶型変換用化合物類(B)を用いる場合、即ち、フタロシアニン結晶前駆体を特定有機酸化合物の存在下で非酸性有機化合物に接触させ、本発明のフタロシアニン結晶を得る場合には、該結晶型を構築する際に、特定有機酸化合物がフタロシアニン結晶中に取り込まれるとともに、取り込まれた特定有機酸化合物が、結晶中に存在する増感剤としての水と相互作用することにより、低湿条件下での結晶中からの水の脱離を抑制し、低湿条件下でも水分子がフタロシアニン結晶中で存在することができるようになり、増感剤である水の脱離による感度低下を抑制しているため、或いは、特定有機酸化合物が増感剤である水分子の替わりに増感剤としての役割を果たしているためではないかと考えられる。
【0186】結晶型変換用化合物類(C)を用いる場合、即ち、フタロシアニン結晶前駆体を電子吸引性特定芳香族化合物の存在下で非酸性特定有機化合物と接触させ、本発明のフタロシアニン結晶を得る場合には、該結晶型を構築する際に、電子吸引性特定芳香族化合物がフタロシアニン結晶中に取り込まれるとともに、取り込まれた電子吸引性特定芳香族化合物が、結晶中に存在する増感剤としての水と相互作用することにより、低湿条件下での結晶中からの水の脱離を抑制し、低湿条件下でも水分子がフタロシアニン結晶中で存在することができるようになり、増感剤である水の脱離による感度低下を抑制しているため、或いは、電子吸引性特定芳香族化合物が増感剤である水分子の替わりに増感剤としての役割を果たしているためではないかと考えられる。
【0187】結晶型変換用化合物類(D)を用いる場合、即ち、フタロシアニン結晶前駆体を特定置換基含有芳香族化合物と接触させ、本発明のフタロシアニン結晶を得る場合には、上記の特定置換基含有芳香族化合物が、原子量30以上のハロゲン原子を有していることにより、特定結晶型へと結晶変換する際の結晶型制御性に優れ、且つ、フタロシアニン結晶前駆体のフタロシアニン環と特定置換基含有芳香族化合物の芳香環部分のπ電子同士が相互作用することにより、特定置換基含有芳香族化合物が結晶変換の際にフタロシアニン結晶中に取り込まれ、特定置換基含有芳香族化合物中の酸素原子を含有する基が、結晶中で増感剤の役割を果たしているのではないかと考えられる。
【0188】以上の理由から、本発明のフタロシアニン結晶は、上述の特定結晶型を有するものが望ましい。
【0189】本発明のフタロシアニン結晶が上述の特定結晶型を有する場合、27.2°のピークと共に示す明確なピークの組み合わせとしては、以下の(i)?(iii)が挙げられる。
(i)9.6°、24.1°、27.2°
(ii)9.5°、9.7°、24.1°、27.2°
(iii)9.0°、14.2°、23.9°、27.1°
・・・・・・・・・・・・・・・
【0193】上述のように、本発明のフタロシアニン結晶における結晶型変換用化合物類の効果は、結晶変換の際にフタロシアニン結晶前駆体と結晶型変換用化合物類とを接触させることにより、結晶型変換用化合物類がフタロシアニン結晶中に取り込まれることにより得られるものであると考えられ、結晶の中の分子の配向性には依存していないものと考えられる。よって、上に挙げた好ましいピークの組み合わせにおいて、各ピーク間の強度比は、本発明の効果とは相関性が無いと考えられる。従って、これらのピークはいかなる強度比を有していてもよいが、通常は27.2°付近のピーク又は9.6°付近のピークが最大となることが多い。」

k 電子写真感光体についての記載
段落【0206】?【0293】に、感光体の定義(段落【0206】?【0207】)、感光体の特性とその測定方法(段落【0209】?【0243】)、感光体の層構成、各層を構成する材料及び草生の形成方法(段落【0244】?【0293】)が、詳細に記載されている。

L 画像形成装置についての記載
段落【0294】?【0459】に、画像形成装置の基本構成(段落【0294】?【0319】)、トナーの形状、製造、物性、添加成分(段落【0320】?【0459】)が、詳細に記載されている。

m 実施例の記載

(a)段落【0460】?【0622】に、実施例及び比較例が記載されている。
まず、粉末X線回折測定法(段落【0461】?【0464】)、β型オキシチタニウムフタロシアニン結晶の合成例(段落【0465】合成例1)、低結晶性オキシチタニウムフタロシアニンの合成例(段落【0466】合成例2、段落【0469】合成例3)が記載されている。
次に、化合物群(A)?(D)の化合物又は化合物の組合せを用いてフタロシアニン前駆体の結晶型を変換し、得られたフタロシアニン結晶を用いて電子写真感光体を製造することに関する実施例1?202及び比較例(段落【0467】?【0622】)が記載されている。記載されている順に、その内訳は、実施例番号を対照させると、以下のとおりである:
化合物群(A)の化合物(芳香族アルデヒド化合物)を用いてフタロシアニン前駆体の結晶型を変換し、得られたフタロシアニン結晶を用いて電子写真感光体を製造することに関する実施例及び比較例(段落【0467】?【0493】:実施例1?16並びに比較合成例1?2及び比較例1?2、);
化合物群(D)の化合物(特定置換基含有芳香族化合物)を用いてフタロシアニン前駆体の結晶型を変換し、得られたフタロシアニン結晶を用いて電子写真感光体を製造することに関する実施例及び比較例(段落【0494】?【0504】:実施例17?34並びに比較合成例3?12及び比較例3?12);
化合物群(B)の化合物の組合せ(特定有機酸化合物と非酸性有機化合物の組合せ)を用いてフタロシアニン前駆体の結晶型を変換し、得られたフタロシアニン結晶を用いて電子写真感光体を製造することに関する実施例及び比較例(段落【0505】?【0523】:実施例35?116並びに比較合成例13?15及び比較例13?15);
化合物群(C)の化合物の組合せ(電子吸引性特定芳香族化合物と非酸性特定有機化合物の組合せ)を用いてフタロシアニン前駆体の結晶型を変換し、得られたフタロシアニン結晶を用いて電子写真感光体を製造することに関する実施例及び比較例(段落【0524】?【0540】:実施例117?158及び比較例13?15);
化合物群(A)?(D)の化合物又は化合物の組合せを用いてフタロシアニン前駆体の結晶型を変換して得られたフタロシアニン結晶を用いて別の電子写真感光体を製造することに関する実施例及び比較例(段落【0541】?【0592】:実施例159?190及び比較実施例16?20:実施例の内訳は、実施例159?178は(B)、実施例179?188は(C)、実施例189は(A)、実施例190は(D));
化合物群(A)又は(B)の化合物又は化合物の組合せを用いてフタロシアニン前駆体の結晶型を変換して得られたフタロシアニン結晶を用いて別の電子写真感光体を製造することに関する実施例及び比較例(段落【0593】?【0622】:実施例191?202及び比較例21?22:実施例の内訳は、実施例191?193は(A)、実施例194?202は(B))。

(b)上記(a)のうち、化合物群(C)の化合物の組合せ(電子吸引性特定芳香族化合物と非酸性特定有機化合物の組合せ)を用いてフタロシアニン前駆体の結晶型を変換し、得られたフタロシアニン結晶を用いて電子写真感光体を製造することに関する実施例は、実施例117?156、179?188である。これら実施例及び比較例に関連する記載は、以下に示すとおりである。

(b-1)「【0465】[合成例1(β型オキシチタニウムフタロシアニン結晶)]
特開平10-7925号公報に記載の「粗TiOPcの製造例」、次いで「実施例1」の手順に従って、β型オキシチタニウムフタロシアニン結晶を調製した。得られたβ型オキシチタニウムフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルを図6に示す。また、得られたβ型オキシチタニウムフタロシアニン結晶中に含有される塩素分を、上記[発明を実施するための最良の形態]の<塩素含有量測定条件(元素分析)>の欄に記載の手法に従って分析した結果、塩素含有量は検出下限以下の0.20重量%以下であった。また、上記[発明を実施するための最良の形態]の<マススペクトル測定条件>の欄に記載の手法に従って、得られたβ型オキシチタニウムフタロシアニン結晶中のオキシチタニウムフタロシアニンに対するクロロオキシチタニウムフタロシアニンのピーク強度比を測定したところ、0.002であった。
【0466】[合成例2(低結晶性オキシチタニウムフタロシアニン)]
合成例1で得られたβ型オキシチタニウムフタロシアニン結晶50重量部を、-10℃以下に冷却した95%濃硫酸1250重量部中に加えた。この時、硫酸溶液の内温が-5℃を超えないように、ゆっくりと加えた。添加終了後、濃硫酸溶液を-5℃以下で2時間撹拌した。撹拌後、濃硫酸溶液をガラスフィルターで濾過し、不溶分を濾別後、濃硫酸溶液を氷水12500重量部中に放出することにより、オキシチタニウムフタロシアニンを析出させ、放出後1時間撹拌した。撹拌後、溶液を濾別し、得られたウェットケーキを再度、水2500重量部中で1時間洗浄し、濾過を行なった。この洗浄操作を、濾液のイオン伝導度が0.5mS/mになるまで繰り返すことにより、低結晶性オキシチタニウムフタロシアニンのウェットケーキ452重量部を得た(オキシチタニウムフタロシアニン含有率11.1重量%)。得られた低結晶性オキシチタニウムフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルを図7に示す。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0469】[合成例3(低結晶性フタロシアニン組成物)]
合成例2において、原料として用いた合成例1のオキシチタニウムフタロシアニン結晶50重量部を、合成例1のオキシチタニウムフタロシアニン結晶47.5重量部と無金属フタロシアニン(大日本インキ化学工業(株)社製「FastgenBlue8120BS」)2.5重量部との混合物に変更した以外は、合成例2と同様の操作を行なうことにより、低結晶性フタロシアニン組成物のウェットケーキ410重量部を得た(フタロシアニン類の含有率12.2重量%)。得られた低結晶性フタロシアニン類の粉末XRDスペクトルを図13に示す。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0480】[実施例9?16、比較例1,2]
・・・・・・・・・・・・・・・
【0482】[電子写真感光体の評価]
実施例9?16及び比較例1,2の電子写真感光体を、電子写真学会標準に従って作製された電子写真特性評価装置(「続電子写真技術の基礎と応用」、電子写真学会編、コロナ社、404?405頁記載)に装着し、以下の手順に従って帯電、露光、電位測定、除電のサイクルを実施することにより、電気特性の評価を行なった。
【0483】帯電器を-70°、露光装置を0°、表面電位計プローブを36°、除電器を-150°の角度に配置し、各機器は感光体表面からの距離を2mmに配置した。帯電はスコロトロン帯電器を用いた。露光ランプはウシオ電機社製のハロゲンランプJDR110V-85WLN/K7を用い、朝日分光社製フィルターMX0780を用いて780nmの単色光とした。除電光には660nmのLED光を用いた。
【0484】感光体を一定の回転速度(60rpm)で回転させながら、感光体の初期表面電位が-700Vとなるように帯電させ、帯電した感光体表面を780nmの単色光が露光される露光部を通過させ、表面電位計のプローブの位置に来た時の表面電位を測定した(露光?電位測定間100ms)。
【0485】続いて、感光体表面に対し、780nmの単色光をNDフィルターに通して光量を変化させて照射して、表面電位が-350Vとなる時の照射エネルギー(露光エネルギー)を測定した。
【0486】感光体をNN環境下に8時間放置した後に、NN環境下で測定した照射エネルギー(露光エネルギー)の値(単位μJ/cm^(2))を標準湿度感度(以下「En_(1/2)」と言う場合がある。)とし、感光体をNL環境下に8時間放置した後に、NL環境下で測定した照射エネルギー(露光エネルギー)の値(単位μJ/cm^(2))を低湿感度(以下「E1_(1/2)」と言う場合がある。)とした。
【0487】得られた標準湿度感度:En_(1/2) 及び低湿感度:E1_(1/2) の値を用い、下記式に従って計算することにより、湿度変化による感度保持率を算出した(単位%)。
【0488】



(b-2)「【0524】[実施例117?131]
フタロシアニン結晶前駆体として、合成例2で得られた低結晶性オキシチタニウムフタロシアニンのウェットケーキ40重量部を水100量部中に加え、室温で30分撹拌した。その後、下記表15に示す実施例117?131の接触処理液(非酸性特定有機化合物に電子吸引性特定芳香族化合物を所定の濃度で混合した溶液)各9mlを加え、更に室温で1時間撹拌した。撹拌後、水を分離し、メタノール80重量部を加え、室温で1時間撹拌洗浄した。洗浄後、濾別し、再度メタノール80重量部を加えて1時間撹拌洗浄した後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニン単独からなる結晶を得た(これらを以下適宜、実施例117?131のフタロシアニン結晶という。)。
【0525】実施例117?131のフタロシアニン結晶について、粉末XRDスペクトルを測定した。得られた粉末XRDスペクトルは、何れもCuK_(α) 特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するものであった。なお、使用した非酸性特定有機化合物が同一の場合は、電子吸引性特定芳香族化合物の存在の有無にかかわらず、概ね同じ形状の粉末X線回折スペクトルが得られた。代表例として、実施例128?131で得られたフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルをそれぞれ図45?図48に示す。
【0526】[実施例132]
合成例2で得られた低結晶性オキシチタニウムフタロシアニン(フタロシアニン結晶前駆体)のウェットケーキ40重量部を、テトラヒドロフラン(非酸性特定有機化合物)100mlにフタリド(電子吸引性特定芳香族化合物)15gを溶解させた混合溶液(下記表15に示す実施例132の接触処理液)に加え、室温で3時間撹拌した。撹拌後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニン単独からなる結晶を得た(これを以下適宜、実施例132のフタロシアニン結晶という。)。実施例132のフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルを図49に示す。図49から明らかなように、実施例132のフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルは、CuK_(α) 特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するものであった。
【0527】

【0528】[実施例133?136]
フタロシアニン結晶前駆体として、合成例3で得られた低結晶性フタロシアニン組成物のウェットケーキ33重量部を水90重量部中に加え、室温で30分撹拌した。その後、下記表16に示す実施例133?136の接触処理液(非酸性特定有機化合物である3-クロロベンズアルデヒドに電子吸引性特定芳香族化合物を所定の濃度で混合した溶液)各9mlを加え、更に室温で1時間撹拌した。撹拌後、水を分離し、メタノール80重量部を加え、室温で1時間撹拌洗浄した。洗浄後、濾別し、再度メタノール80重量部を加え1時間撹拌洗浄した後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニンと無金属フタロシアニンとの混晶を得た(これらを各々、実施例133?136のフタロシアニン結晶という。)。
【0529】実施例133?136のフタロシアニン結晶について、粉末XRDスペクトルを測定した。得られた粉末XRDスペクトルは、何れもCuK_(α) 特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するものであった。また、これらの粉末X線回折スペクトルは、何れも概ね同じ形状であった。代表例として、実施例133で得られたフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルを図50に示す。
【0530】

【0531】[実施例137?156]
電荷発生物質として実施例117?136のフタロシアニン結晶を用い、前記[感光体製造方法](審決注:段落【0472】?【0479】に「二軸延伸ポリエチレンタレフタレート樹脂フィルム(厚み75μm)の表面にアルミニウム蒸着膜(厚み70nm)を形成した導電性指示体を用い・・・」と記載されるものと認められる。本書では摘示は省略している。)に従って電子写真感光体を製造した(これらを以下適宜、実施例137?156の電子写真感光体という。)。各電子写真感光体と、電荷発生物質として用いたフタロシアニン結晶及びその組成との対応を、下記表17及び表18に示す。
【0532】[電子写真感光体の評価]
実施例137?156、比較例13?15の電子写真感光体を、実施例9?16の電子写真感光体の評価の場合と同様の手順(審決注:段落【0482】?【0488】に記載されるもの。本書では摘示は省略している。)に従って電気特性の評価を行なった。実施例137?156、比較例13?15の電子写真感光体についての感度保持率の評価結果を、下記表17及び表18に示す。なお、下記表17及び表18において、同じ非酸性有機化合物を用いて得られたフタロシアニン結晶を使用した実施例及び比較例については、上下に並べて示している。
【0533】(審決注:本件補正前)

【0533】(審決注:本件補正後)

【0534】

【0535】これらの実施例117?136、比較合成例13?15のフタロシアニン結晶を電荷発生物質として用いた実施例137?156、比較例13?15の電子写真感光体を比較すると、比較例14、15の電子写真感光体は、標準湿度感度En_(1/2) に劣るものであった。比較例13の電子写真感光体は、標準湿度感度En_(1/2) は実施例の電子写真感光体とほぼ同等であったが、感度保持率の値を比較すると、非酸性特定有機化合物及び電子吸引性特定芳香族化合物に接触させて得られたフタロシアニン結晶を用いた実施例の電子写真感光体の方が、非酸性特定有機化合物のみに接触させて得られたフタロシアニン結晶を用いた比較例の電子写真感光体に比べて、湿度変化に対する感度の変動が少なくより好ましいことが分かる。
【0536】[実施例157,158]
上述の[感光体の製造方法]において電荷発生層用塗布液を調製する際の微細分散処理工程において、電荷発生物質として実施例1のフタロシアニン結晶20重量部を使用するとともに、フタリド1.25重量部を併せて用いた他は、上述の[感光体の製造方法]の手順に従って電子写真感光体を製造した。これを以下適宜、実施例157の電子写真感光体という。
【0537】また、フタリド1.25重量部の代わりに2-スルホ安息香酸無水物1.25重量部を用いた他は、実施例157と同様の手順に従って電子写真感光体を製造した。これを以下適宜、実施例158の電子写真感光体という。
【0538】これら実施例157,158の電子写真感光体についても、実施例9?16の電子写真感光体の評価の場合と同様の手順に従って電気特性の評価を行なった。評価結果を下記表19に示す。
【0539】

【0540】以上の結果から、上述の電子吸引性特定芳香族化合物を電荷発生層用塗布液の調製時に加えただけでは、本発明のフタロシアニン結晶による上述の効果(感度の向上及び使用環境の湿度変化に対する感度変動の抑制効果)は、小さいことが分かった。」

(b-3)「【0562】[実施例179]
実施例159(審決注:段落【0541】?【0542】に記載されるもの。本書では摘示は省略している。)に用いた電荷発生層形成用塗布液の代わりに、実施例145で作製した電荷発生層形成用塗布液を用いた以外は実施例159と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例179の電子写真感光体という。
【0563】[実施例180]
電荷輸送層の膜厚を30μmとした以外は実施例179と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例180の電子写真感光体という。
【0564】[実施例181]
電荷輸送層の膜厚を25μmとした以外は実施例179と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例181の電子写真感光体という。
【0565】[実施例182]
電荷輸送層の膜厚を20μmとした以外は実施例179と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例182の電子写真感光体という。
【0566】[実施例183]
電荷輸送層の膜厚を15μmとした以外は実施例179と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例183の電子写真感光体という。
【0567】[実施例184]
実施例159に用いた電荷発生層形成用塗布液の代わりに、実施例144で作製した電荷発生層形成用塗布液を用いた以外は実施例159と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例184の電子写真感光体という。
【0568】[実施例185]
電荷輸送層の膜厚を30μmとした以外は実施例184と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例185の電子写真感光体という。
【0569】[実施例186]
電荷輸送層の膜厚を25μmとした以外は実施例184と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例186の電子写真感光体という。
【0570】[実施例187]
電荷輸送層の膜厚を20μmとした以外は実施例184と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例187の電子写真感光体という。
【0571】[実施例188]
電荷輸送層の膜厚を15μmとした以外は実施例184と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例188の電子写真感光体という。」
・・・・・・・・・・・・・・・
【0579】[電子写真感光体の評価]
実施例159?190、比較例16?20で得られた電子写真感光体の半減露光量E_(1/2) を、市販の感光体評価装置(シンシア55、ジェンテック社製)を用いて、以下に説明する手順に従ってスタティック方式で測定した。
【0580】帯電器を0°、露光装置及び表面電位計プローブを90°、除電器を270°の角度に配置し、帯電器、表面電位計プローブ、除電器を感光体表面からの距離が2mmとなるように配置し、暗所で、感光体の表面電位が約-700Vになるような放電が行なわれるように設定したスコロトロン帯電器上を、温度25℃±2℃、相対湿度50%rh±5%の環境中に8時間放置した後の感光体を、一定の回転速度(30rpm)で感光体表面を通過させ帯電させた。
【0581】帯電後の感光体表面がプローブ位置に到達した際に停止させ、停止してから2.5秒後に、付属の分光光源システムPOLAS34から得た、強度0.15μW/cm^(2) の780nmの単色光を7.5秒間照射し、感光体の表面電位が-550Vから-275Vになるまでに要した露光量を測定した。再び感光体を回転させ、除電器により全周除電を行なった後、同じ操作を行なった。このサイクルを6回繰り返し、1回目を除く5回の露光量の測定値を平均し、得られた平均値を半減露光量E_(1/2)(μJ/cm^(2))とした。測定結果を下記表20及び表21に示した。
【0582】次に、電子写真学会標準に従って作製された電子写真特性評価装置〔「続電子写真技術の基礎と応用」、(電子写真学会編、コロナ社発行、第404?405頁記載)〕に感光体を装着し、帯電、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性の評価を行なった。
【0583】帯電器を-70°、露光装置を0°、表面電位計プローブを36°、除電器を-150°の角度に配置し、各機器は感光体表面からの距離を2mmに配置した。帯電にはスコロトロン帯電器を用いた。露光ランプは、ウシオ電機社製のハロゲンランプJDR110V-85WLN/K7を用い、朝日分光社製フィルターMX0780を用いて780nmの単色光とした。除電光には660nmのLED光を用いた。
【0584】温度25℃±2℃、相対湿度50%rh±5%の環境中に8時間放置した後の感光体を一定の回転速度(60rpm)で回転させながら、感光体の初期表面電位が-700Vとなるように帯電させ、帯電した感光体表面を780nmの単色光により露光する露光部を通過させ、表面電位計のプローブの位置に来た時の表面電位を測定した(露光?電位測定間100ms)。
【0585】780nmの単色光をNDフィルターに通して光量を変化させ、露光量が半減露光量E_(1/2) の0倍から10倍までの範囲の光を照射し、それぞれの露光量における表面電位を測定した。この操作を、温度25℃±2℃、相対湿度50%rh±5%の環境(常温常湿環境。以下「NN環境」という場合がある。)で行ない、各露光量におけるNN環境下での露光後電位(これを以下「V_(NN)」という場合がある。)を測定した。
【0586】その後、感光体を温度25℃±2℃、相対湿度10%rh±5%の環境中に8時間放置した後に、温度25℃±2℃、相対湿度10%rh±5%の環境(常温低湿環境。以下「NL環境」という場合がある。)において同様の操作を行ない、各露光量におけるNL環境下での露光後電位(これを以下「V_(NL)」という場合がある。)の測定を行った。
【0587】同じ露光量におけるNN環境下での露光後電位V_(NN) とNL環境下での露光後電位V_(NL) との差の絶対値(|V_(NN)-V_(NL)|)を計算し、その最大値を環境変動依存量として、下記表20及び表21に示した。
【0588】また、各電子写真感光体を用いて画像を形成し、以下の評価方法により画像評価を行なった。
ミノルタ社製デジタル複写機DIALTA Di350用カートリッジに、当該電子写真感光体を装着し、このカートリッジを当該複写機に装着した。この複写機を、温度35℃±2℃、相対湿度83%rh±5%の環境中で24時間放置した後に、更に温度5℃±2℃、相対湿度10%rh±5%の環境中で5時間放置した後、ハーフトーン画像を印刷した。印刷された画像に基づいて、電子写真感光体の1周期で発生する黒いスジの出方を比較した。
なお、当該複写機はスコロトロン帯電器により電子写真感光体を帯電させ、2成分接触現像方式で現像する装置であり、黒いスジが発生し易い。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0590】

【0591】・・・表21の結果から、以下のことが分かる。
実施例159?190の電子写真感光体は、同じ膜厚で比較したときに、各比較例の感光体よりも半減露光量En_(1/2) が小さく、高感度であって、環境変動依存量も小さい。また、これらの電子写真感光体を搭載した接触現像方式の画像形成装置により画像を形成して、画像特性を評価した結果をみると、各比較例の電子写真感光体では黒いスジが見られたのに対し、各実施例の電子写真感光体では見られなかった。
【0592】以上のことから、実施例159?190の電子写真感光体は高感度で、且つ、湿度変動に対して特性の変動が小さいこと、更に、これらの電子写真感光体を搭載したプロセスカートリッジ及び画像形成装置は、環境の変動に対して画像欠陥のない高品質な画像を提供出来ることが明らかとなった。」

n 図面の記載
図1には、画像形成装置の概略図が記載されている。図2及び図3には、低結晶性フタロシアニン類の粉末X線回折スペクトルが記載されている。図4及び図5には、アモルファス性フタロシアニン類の粉末X線回折スペクトルが記載されている。図6?図50には、合成例、比較合成例又は実施例で得られたフタロシアニン類又はフタロシアニン結晶の粉末X線回折スペクトルが記載されている。

(ウ)本願補正発明の課題について
上記(イ)aによれば、この出願の優先日当時、電子写真感光体に用いるオキシチタニウムフタロシアニン結晶に関して、多数の結晶型が知られ、その中で、CuK_(α)特性X線に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有する結晶型が高い量子効率を示し高感度を示すことが知られていたが、環境の湿度が低くなると、感度が低下し、そのためフルカラー画像の色調の変化等が現れるという課題があった。そこで、この出願は、高い感度を有するとともに使用環境の湿度変化に対する感度の変動が少ないフタロシアニン結晶を提供し、また、高感度であるとともに使用環境の湿度変化に対する感度変動の少ない電子写真感光体を提供し、さらに、この電子写真感光体を用いることにより使用環境の湿度変化に対して安定した画質の画像を提供することのできる電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置を提供する、というものである。
したがって、本願補正発明の課題は、高い感度を有するとともに使用環境の湿度変化に対する感度の変動が少ないフタロシアニン結晶の製造方法を提供することであると認められる。

(エ)発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲の請求項1に記載された発明との対比・判断

a 本願補正発明は、上記1に示したとおり、
「オキシチタニウムフタロシアニンを化学的処理して得られる、オキシチタニウムフタロシアニンを含有する低結晶性/アモルファス性フタロシアニン化合物を、
水の共存下、
1013hPa、25℃の条件下において固体であり、ベンゼンまたはナフタレンに、Hammett則における置換基定数σ_(p)^(0) の値が0.200以上である電子吸引性の置換基として、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基及びその無水物、並びにスルホ基及びその無水物から選ばれる少なくとも一つを有する芳香族化合物である電子吸引性特定芳香族化合物の存在下、
1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない分子量50以上300以下の有機化合物である非酸性特定有機化合物として、ハロゲン、アルデヒド基、アセチル基、ニトロ基、及びアルコキシカルボニル基から選ばれる少なくとも一つを置換基として有するベンゼン、またはテトラヒドロフランに接触させることにより結晶型を変換する工程を備え、
上記の結晶型を変換する工程においては、前記電子吸引性特定芳香族化合物及び前記非酸性特定有機化合物をフタロシアニン結晶中に取り込みながら結晶型を変換し、
上記の結晶型を変換する工程を経て得られるオキシチタニウムフタロシアニンを含有し、CuK_(α)特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2に主たる回折ピークを有するフタロシアニン結晶を得ることを特徴とするフタロシアニン結晶の製造方法。」
と特定されている。上記(1)アに示した「化合物S」、「化合物L」の語で表すと、
「オキシチタニウムフタロシアニンを化学的処理して得られる、オキシチタニウムフタロシアニンを含有する低結晶性/アモルファス性フタロシアニン化合物を、
水の共存下、
化合物Sである電子吸引性特定芳香族化合物の存在下、
化合物Lである非酸性特定有機化合物に接触させることにより結晶型を変換する工程を備え、
上記の結晶型を変換する工程においては、前記電子吸引性特定芳香族化合物及び前記非酸性特定有機化合物をフタロシアニン結晶中に取り込みながら結晶型を変換し、
上記の結晶型を変換する工程を経て得られるオキシチタニウムフタロシアニンを含有し、CuK_(α)特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2に主たる回折ピークを有するフタロシアニン結晶を得ることを特徴とするフタロシアニン結晶の製造方法。」
というものである。
要するに、本願補正発明は、オキシチタニウムフタロシアニンを化学的処理して得られるオキシチタニウムフタロシアニンを含有する低結晶性/アモルファス性フタロシアニン化合物を、水の共存下、化合物Sと化合物Lの組合せと接触させて結晶型を変換し、その際に化合物Sと化合物Lが結晶中に取り込まれ、所定のX線回折角を示すフタロシアニン結晶を製造する、というものである。
以下、本件補正後の請求項1の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かについて検討する。

b そこで、本願明細書の発明の詳細な説明を参照する。

(a)本願明細書には、本願補正発明の上位概念に当たる発明が、上記(イ)bにフタロシアニン結晶前駆体の結晶型を変換する際に用いる化合物群(A)?(D)の要約が記載されるうちの、以下の化合物群(C)の化合物の組合せを用いる発明として、記載されている。
「(C)フタロシアニン結晶前駆体を、1013hPa、25℃の条件下において固体であり、電子吸引性の置換基を有する芳香族化合物(以下適宜「電子吸引性特定芳香族化合物」という。)の存在下、1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない有機化合物(以下適宜「非酸性特定有機化合物」という。)に接触させることにより、結晶型を変換する。即ち、結晶型変換用共存化合物類として電子吸引性特定芳香族化合物を使用し、結晶型変換用接触化合物類として非酸性特定有機化合物を使用する(以下、これらの電子吸引性特定芳香族化合物及び非酸性特定有機化合物を併せて「結晶型変換用化合物類(C)」という場合がある。)。」
上記において、「1013hPa、25℃の条件下において固体であり、電子吸引性の置換基を有する芳香族化合物(以下適宜「電子吸引性特定芳香族化合物」という。)」は、本願補正発明における「化合物Sである電子吸引性特定芳香族化合物」すなわち「化合物S」の上位概念であり、「1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない有機化合物(以下適宜「非酸性特定有機化合物」という。)」は、本願補正発明における「化合物Lである非酸性特定有機化合物」すなわち「化合物L」の上位概念である。つまり、化合物群(C)の化合物の組合せ(電子吸引性特定芳香族化合物と非酸性特定有機化合物の組合せ)は、本願補正発明における化合物Sと化合物Lの組合せの上位概念に当たる。
そして、一般的な記載として、その化合物群Cの詳細は、上記(イ)gのとおり記載され、低結晶性/アモルファス性フタロシアニン化合物を得るところまでについては、上記(イ)dのとおり記載され、結晶型を変換する操作については、上記(イ)iのとおり記載されている。

(b)化合物群(C)を用いる発明の、具体的な実施例は、上記(イ)m(b)に記載されている。用いた化合物群(C)の化合物の組合せ(電子吸引性特定芳香族化合物と非酸性特定有機化合物の組合せ)と、得られたフタロシアニン結晶を用いた電子写真感光体の性能が、表17、表18、表19、表21に、比較例及び他の化合物群(A)又は化合物群(D)の化合物を用いた例とともに、要約されている。上記(イ)m(b)に示したように、実施例117?156、179?188が、化合物群(C)を用いた実施例である(実施例157、158、189は(A)、実施例190は(D))。
上記の表に記載されている化合物群(C)の化合物の組合せ(電子吸引性特定芳香族化合物と非酸性特定有機化合物の組合せ)は、非酸性特定有機化合物が、3-クロロベンズアルデヒド、2-クロロアセトフェノン、2-クロロ安息香酸メチル、2,4-ジクロロフルオロベンゼン、2-フルオロニトロベンゼン又はテトラヒドロフランの6種であり、電子吸引性特定芳香族化合物が、3,5-ジニトロ安息香酸、3-フルオロ安息香酸、フタリド、2-スルホ安息香酸無水物、1,3-ジニトロベンゼン、4-ニトロフタロニトリル、3-ニトロアセトフェノン、無水フタル酸、4-ニトロ無水フタル酸、ピロメリット酸無水物、18-ナフチル酸無水物の11種であって、3-クロロベンズアルデヒドは上記11種の電子吸引性特定芳香族化合物との組合せが記載されているが、残り5種の非酸性特定有機化合物は、フタリドとの組合せ又は2-スルホ安息香酸無水物との組合せが記載されているだけである。
例えば、1番目の実施例である実施例117の、具体的なフタロシアニン結晶の製造方法は、上記(イ)m(b)の(b-1)及び(b-2)に示したとおりであり、合成例1に従いβ型オキシチタニウムフタロシアニン結晶を調製し、これを合成例2に従い95%濃硫酸で処理して低結晶性オキシチタニウムフタロシアニンのウェットケーキを調製し、このウェットケーキ40重量部を水100量部中に加え、室温で30分撹拌し、その後、表15に示す実施例117の接触処理液(非酸性特定有機化合物3-クロロベンズアルデヒドに電子吸引性特定芳香族化合物3,5-ジニトロ安息香酸を0.056g/ml濃度で混合した溶液)9mlを加え、更に室温で1時間撹拌し、撹拌後、水を分離し、メタノール80重量部を加え、室温で1時間撹拌洗浄し、洗浄後、濾別し、再度メタノール80重量部を加えて1時間撹拌洗浄した後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニン単独からなる結晶を得た、というものである。この実施例117で得たフタロシアニン結晶を用いた電子写真感光体の、感度保持率(上記(イ)m(b)の(b-1)に定義がされている。標準環境下での露光エネルギーを低湿環境下での露光エネルギーで除したもの。)は、表17によれば94.7%である。
ここで表17の感度保持率をみると、3-クロロベンズアルデヒドと上記11種の電子吸引性特定芳香族化合物との組合せは、92.4?94.7%の範囲にあり、概ね良好であるが、2-クロロアセトフェノン、2-クロロ安息香酸メチル、2,4-ジクロロフルオロベンゼン、2-フルオロニトロベンゼン又はテトラヒドロフランとフタリド又は2-スルホ安息香酸無水物との組合せは、88.1?91.9%の範囲にあり、劣っている。同じ電子吸引性特定芳香族化合物を同じ濃度で用いても組み合わせる非酸性特定有機化合物の種類により、得られるフタロシアニン結晶の性質が異なっている。
また、表21では、半減露光量E_(1/2)、環境変動依存量及び画像評価(上記(イ)m(b)の(b-3)に定義が記載されている。)が記載されているが、3-クロロベンズアルデヒドと4-ニトロ無水フタル酸の組合せか、3-クロロベンズアルデヒドと無水フタル酸の組合せについてだけである。
このように、本願補正発明の課題を解決できることが具体的に開示されている態様は、本願補正発明における化合物Sと化合物Lの組合せの範囲の広さと比べると、ごく限られたものである。

(c)そして、上記(a)の化合物群(C)の化合物の組合せ(電子吸引性特定芳香族化合物と非酸性特定有機化合物の組合せ)を用いる発明についての、その化合物群Cの詳細についての上記(イ)gの記載を参照しても、
「電子吸引性特定芳香族化合物」である「1013hPa、25℃の条件下において固体であり、電子吸引性の置換基を有する芳香族化合物」(本願補正発明における「化合物Sである電子吸引性特定芳香族化合物」又は「化合物S」である「1013hPa、25℃の条件下において固体であり、ベンゼンまたはナフタレンに、Hammett則における置換基定数σ_(p)^(0) の値が0.200以上である電子吸引性の置換基として、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基及びその無水物、並びにスルホ基及びその無水物から選ばれる少なくとも一つを有する芳香族化合物である電子吸引性特定芳香族化合物」の上位概念)と、
「非酸性特定有機化合物」である「1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない有機化合物(本願補正発明における「化合物Lである非酸性特定有機化合物」又は「化合物L」である「1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない分子量50以上300以下の有機化合物である非酸性特定有機化合物として、ハロゲン、アルデヒド基、アセチル基、ニトロ基、及びアルコキシカルボニル基から選ばれる少なくとも一つを置換基として有するベンゼン、またはテトラヒドロフラン」の上位概念)
について、本願補正発明で用いる化合物S及び化合物Lの範囲を大きく超える、広範な置換基を有する化合物が例示される一方で、化合物Sと化合物Lを組み合わせるという技術思想を説明する記載はなく、また、なぜ、特定の低結晶性/アモルファス性フタロシアニン化合物を、常温常圧条件下で固体である電子吸引性の置換基を有する芳香族化合物と常温常圧条件下で液体であり酸性官能基を有さない有機化合物との組合せで処理することにより得られるフタロシアニン結晶が、感光体としたときに低湿環境下での感度低下が小さくなるかについては、何ら、理論的な説明もされていない。
すなわち、「結晶型を変換させる際の電子吸引性特定芳香族化合物の存在が、フタロシアニン結晶の電子写真感光体としての特性になぜ影響を及ぼすか、そのメカニズムは明白ではないが、非酸性特定有機化合物と電子吸引性特定芳香族化合物とが共存していることにより、電子吸引性特定芳香族化合物がより効率的にフタロシアニン結晶中に取り込まれることにより、本発明の効果が得られているのではないかと推測される」(上記(イ)g段落【0152】)と、根拠が何ら示されない推測が述べられている。「本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物が有する電子吸引性基部分の分子量は、大き過ぎると化合物全体の分子体積が大きくなり、フタロシアニン結晶へ取り込まれ難くなることから、通常は300以下であり」(同段落【0131】)と記載されていても、結晶中に取り込まれる上記化合物の量は、実際には開示されていないし、そのことと感光体特性との関係も不明である。そもそも、結晶中に上記化合物が取り込まれていることの具体的な裏付けも、発明の詳細な説明に記載されていない。非酸性特定有機化合物についても「如何なる構造を有していてもよいが」(同段落【0143】)、「結晶型の変換能力の点から、ハロゲン原子若しくは酸素原子を含有する脂肪族化合物若しくは芳香族化合物、又は、芳香族炭化水素化合物が好ましい。中でも、得られたフタロシアニン結晶の分散時の安定性を考慮すると、ハロゲン化脂肪族化合物、脂肪族エーテル化合物、脂肪族ケトン化合物、脂肪族エステル化合物、芳香族炭化水素化合物、ハロゲン化芳香族化合物、芳香族ニトロ化合物、芳香族ケトン化合物、芳香族エステル化合物、芳香族アルデヒド化合物がより好ましく、得られたフタロシアニン結晶を材料として用いた電子写真感光体の特性の面から、脂肪族エーテル化合物、ハロゲン化芳香族化合物、芳香族ニトロ化合物、芳香族ケトン化合物、芳香族エステル化合物、又は芳香族アルデヒド化合物が更に好ましい」(同段落【0147】)と、裏付けなしに広範な一連の化合物が好ましいとする記載がされている。

(d)そうすると、本願補正発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。

c 次に、当業者が出願時の技術常識に照らし本願補正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。
この出願の出願日において、オキシチタニウムフタロシアニンを化学的処理して得られるオキシチタニウムフタロシアニンを含有する低結晶性/アモルファス性フタロシアニン化合物を、水の共存下、化合物Sと化合物Lの組合せと接触させて結晶型を変換して、所定のX線回折角(CuK_(α) 線(2θ±0.2°)27.2°)を示すフタロシアニン結晶を製造すると、感光体にしたときに高い感度を有するとともに使用環境の湿度変化に対する感度の変動が少ない感光体が得られる、という技術常識は存在しない。本願明細書においても、「上記の特定結晶型を有するフタロシアニン結晶は、前駆体となるフタロシアニン類を特定の化合物に接触させ、結晶型を変換することによって製造される。この結晶型変換工程において、用いた化合物分子とフタロシアニン類との相互作用により結晶型を構築するが、この際、用いる化合物によって、フタロシアニン類との相互作用が異なり、製造法の違いにより様々な結晶型、粒子形状を示す。また、電荷発生能力(感度)、帯電性、暗減衰などの電子写真感光体としての特性の面も製造法に依存しており、その性能を前もって予測することは非常に困難である」(上記(イ)a段落【0020】)と記載している。
そうすると、本願補正発明は、発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。

d したがって、請求項1の特許を受けようとする発明(本願補正発明)は、発明の詳細な説明に記載した発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願補正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願補正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。

e なお、請求人は、平成28年6月2日付けの意見書において、「4-2」及び「4-3」の項で、本願明細書の段落【0182】等を引用して、本願明細書には電子吸引性特定芳香族化合物及び非酸性特定有機化合物をフタロシアニン結晶中に取り込みながら結晶型を変換する工程を備え所定のフタロシアニンの結晶を得る発明が開示され、使用環境の湿度変化に対する感度の変動が少ないフタロシアニン結晶を提供することができることを当業者が理解することができる程度に理論的に説明していると主張する。また、「4-4」の項で、本願明細書には、電子吸引性特定芳香族化合物が有する共通特徴及び非酸性特定有機化合物が有する共通特徴がそれぞれ理論的に説明されており、これらの共通特徴がもたらす作用効果は各実施例で十分に評価されていると主張し、また、追加実験データを提示している。
しかし、請求人が引用した本願明細書の記載は、推測を述べただけで裏付けのない記載であり、意見書の記載をみても、請求人が化合物の共通特徴というものと得られるフタロシアニン結晶の性質との関係が理論的に説明されているともいえない。追加実験データをみても、試験されたのは、以下の

に示されたもので、上記b(b)でも検討した実施例に記載されていた6種の非酸性特定有機化合物のうちの3-クロロベンズアルデヒド以外の5種につき、実施例に記載されていた11種の電子吸引性特定芳香族化合物のうちの1?2種と組み合わせた結果を示しただけである。本願補正発明における化合物Sと化合物Lの組合せの範囲の広さと比べると、ごく限られたものである。
したがって、請求人の主張によっては、本願補正発明が、発明の詳細な説明に記載した発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願補正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願補正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。

(オ)まとめ
以上のとおり、本件補正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

イ 特許法第36条第4項第1号についても検討する。

(ア)はじめに
物を生産する方法の発明における発明の「実施」とは、その方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいう(特許法2条3項3号)から、特許法36条4項1号の「その実施をすることができる」(実施可能要件)とは、その方法により物を生産することができ、かつ、その物を使用できることである。したがって、物を生産する方法の発明については、明細書の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者がその方法により物を生産することができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。

(イ)検討
本件補正における「上記の結晶型を変換する工程においては、前記電子吸引性特定芳香族化合物及び前記非酸性特定有機化合物をフタロシアニン結晶中に取り込みながら結晶型を変換し」との事項を追加する補正が、仮に、補正前の請求項1に係る発明において、化合物Sの存在下、化合物Lに接触させることにより結晶型を変換する工程について、化合物S及び化合物Lをフタロシアニン結晶中に取り込みながら結晶型を変換する態様と、そうでない態様とが存在していて、そのうちの、前者の態様に限定しようとする補正であるとして検討する。
発明の詳細な説明の記載は、上記ア(イ)に示したとおりである。
本願明細書には、結晶中に取り込まれる化合物S及び化合物Lの量は、上記アでも検討したとおり、実際には開示されていない。
また、化合物Sと化合物を取り込みながら結晶型を変換する工程の態様が、そうでない態様と、区別されるものであるとすると、本願明細書には、どのように操作をすると化合物S及び化合物Lが結晶中に取り込まれ、どのように操作をすると取り込まれないのか、当業者が理解できるように記載されているとはいえない。
また、出願時の技術常識を参酌しても、どのような操作をすれば、本願補正発明の方法の「上記の結晶型を変換する工程においては、前記電子吸引性特定芳香族化合物及び前記非酸性特定有機化合物をフタロシアニン結晶中に取り込みながら結晶型を変換し」を実現できるのか、当業者が理解できるとはいえない。
したがって、明細書の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者が本願補正発明の方法により目的とするフタロシアニン結晶を生産することができるように記載したものであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願補正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(ウ)まとめ
以上のとおり、本願補正発明について、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

ウ 独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、本件補正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
また、以上のとおり、本願補正発明について、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正却下の決定のむすび
上記2(1)で述べたとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
そして、仮に、独立特許要件について検討しても、上記2(2)で述べたとおり、本件補正は、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 特許請求の範囲の記載
平成28年6月2日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、
この出願の特許請求の範囲の記載は、平成28年2月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載されたとおりであるところ、その請求項1の記載は、上記第2の1に、補正前の請求項1であるとして示したとおりである(以下、請求項1の特許を受けようとする発明を「本願発明」という。)。以下に再掲する。
「オキシチタニウムフタロシアニンを化学的処理して得られる、オキシチタニウムフタロシアニンを含有する低結晶性/アモルファス性フタロシアニン化合物を、
水の共存下、
1013hPa、25℃の条件下において固体であり、ベンゼンまたはナフタレンに、Hammett則における置換基定数σ_(p)^(0) の値が0.200以上である電子吸引性の置換基として、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基及びその無水物、並びにスルホ基及びその無水物から選ばれる少なくとも一つを有する芳香族化合物の存在下、
1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない分子量50以上300以下の有機化合物として、ハロゲン、アルデヒド基、アセチル基、ニトロ基、及びアルコキシカルボニル基から選ばれる少なくとも一つを置換基として有するベンゼン、またはテトラヒドロフランに接触させることにより結晶型を変換する工程を備え、
上記の結晶型を変換する工程を経て得られるオキシチタニウムフタロシアニンを含有し、CuK_(α)特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2に主たる回折ピークを有するフタロシアニン結晶を得ることを特徴とするフタロシアニン結晶の製造方法。」

第4 当審より通知した拒絶の理由
当審より平成28年3月29日付けで通知した拒絶の理由は、「この出願は、特許請求の範囲の記載が・・・特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない」というものであり、請求項1?9について指摘したものである。

第5 当審の判断
当審は、当審が通知した拒絶の理由のとおり、請求項1に記載された特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。
本願発明は、上記第2で検討した本願補正発明と比べて、
(i)「1013hPa、25℃の条件下において固体であり、ベンゼンまたはナフタレンに、Hammett則における置換基定数σ_(p)^(0) の値が0.200以上である電子吸引性の置換基として、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基及びその無水物、並びにスルホ基及びその無水物から選ばれる少なくとも一つを有する芳香族化合物である電子吸引性特定芳香族化合物」と特定される代わりに「1013hPa、25℃の条件下において固体であり、ベンゼンまたはナフタレンに、Hammett則における置換基定数σ_(p)^(0) の値が0.200以上である電子吸引性の置換基として、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基及びその無水物、並びにスルホ基及びその無水物から選ばれる少なくとも一つを有する芳香族化合物」と特定され、
(ii)「1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない分子量50以上300以下の有機化合物である非酸性特定有機化合物として、ハロゲン、アルデヒド基、アセチル基、ニトロ基、及びアルコキシカルボニル基から選ばれる少なくとも一つを置換基として有するベンゼン、またはテトラヒドロフラン」と特定される代わりに「1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない分子量50以上300以下の有機化合物として、ハロゲン、アルデヒド基、アセチル基、ニトロ基、及びアルコキシカルボニル基から選ばれる少なくとも一つを置換基として有するベンゼン、またはテトラヒドロフラン」と特定され、
(iii)本願補正発明においては特定されていた「上記の結晶型を変換する工程においては、前記電子吸引性特定芳香族化合物及び前記非酸性特定有機化合物をフタロシアニン結晶中に取り込みながら結晶型を変換し、」との特定を欠くものである。
そして、本願補正発明が、上記第2で検討したとおり、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないのであるから、本願発明も、同様の理由で、発明の詳細な説明に記載した発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。
したがって、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
したがって、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、その余を検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-28 
結審通知日 2016-07-05 
審決日 2016-07-19 
出願番号 特願2012-204899(P2012-204899)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 千弥子緒形 友美  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 木村 敏康
中田 とし子
発明の名称 フタロシアニン結晶の製造方法、及びそれを用いた電子写真感光体の製造方法  
代理人 真田 有  

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