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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1319039
審判番号 不服2015-11516  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-18 
確定日 2016-09-08 
事件の表示 特願2013-201884「エンハンスト・アップリンク送信における不連続データ・ブロックを転送する方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月 9日出願公開、特開2014- 3716〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2005年4月4日(パリ条約に基づく優先権主張2004年4月29日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2007-510744号の一部を平成23年10月24日に新たな特許出願とした特願2011-233127号の一部を平成25年9月27日に新たな特許出願としたものであって、平成26年5月22日付けで拒絶理由が通知され、平成26年9月29日付けで手続補正がなされ、平成27年2月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年6月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

2.平成27年6月18日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年6月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された(下線は変更箇所を示す)。

〈補正前〉【請求項1】
アップリンク信号を受信し、少なくとも1つのハイブリッド自動再送要求(HARQ)エンティティを使用して、受信した前記アップリンク信号のデータブロックを復号するように構成された受信機と、
前記復号されたデータブロックに応じて、肯定応答(positive acknowledgment)メッセージまたは否定応答(negative acknowledgment)メッセージをダウンリンクシグナリングチャネル上で前記HARQエンティティから送信するように構成された送信機と、
前記復号されたデータブロックを少なくとも1つの再順序化バッファに格納し、少なくとも前記格納されたデータブロックのシーケンス番号に基づいてデータブロックの欠落を識別したことに応答してタイマを起動し、前記タイマの満了前に前記欠落したデータブロックが復号されなかったことを条件として、前記タイマの満了に応答して少なくとも1つのデータブロックを上位層へ配送するように構成された処理装置と、を備える装置。

〈補正後〉【請求項1】
アップリンク信号を受信し、少なくとも1つのハイブリッド自動再送要求(HARQ)エンティティを使用して、受信した前記アップリンク信号のデータブロックを復号するように構成された受信機と、
前記復号されたデータブロックに応じて、肯定応答(positive acknowledgment)メッセージまたは否定応答(negative acknowledgment)メッセージをダウンリンクシグナリングチャネル上で前記HARQエンティティから送信するように構成された送信機と、
前記復号されたデータブロックを少なくとも1つの再順序化バッファに格納し、少なくとも前記格納されたデータブロックのシーケンス番号に基づいてデータブロックの欠落を識別したことに応答してタイマを起動し、前記欠落したデータブロックが前記タイマの満了後に欠落していることを条件として、前記タイマの満了に応答して少なくとも1つのデータブロックを上位層へ配送するように構成された処理装置と、を備えるネットワーク装置。

(2)本件補正の目的
本件補正は、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「処理装置」の「データブロックを上位層へ配送する」という動作を実行する条件を「前記タイマの満了前に前記欠落したデータブロックが復号されなかったこと」から「前記欠落したデータブロックが前記タイマの満了後に欠落していること」に変更し、さらに、「装置」を「ネットワーク装置」へと限定するものである。
本件補正前の「復号されなかったこと」とは、データブロックの復号動作が行われなかったことを指す一方、本件補正後の「欠落していること」とは、復号動作のいかんによらず、データブロックが欠損しているということのみを指すので、本件補正後の「欠落したデータブロックが欠落していること」という概念は、本件補正前の「欠落したデータブロックが復号されこと」という概念に対して限定を加えたものにはなっていない。さらに、本件補正前では時間範囲が「タイマの満了前」であったのを本件補正後では「タイマの満了後」としており、時間範囲についても限定を加えたものではない。よって、本件補正後の条件は、本件補正前の条件に限定を加えたものとはなっておらず、いわゆる限定的減縮に該当しない。
そして、本件補正は、特許法第36条第5項に規定する請求項の削除、誤記の訂正、及び、明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)のいずれにも該当しない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

以下では、仮に、本件補正のうち請求項1に関する部分が、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当したとして、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(3)本願補正発明のサポート要件
請求項1には、「前記欠落したデータブロックが前記タイマの満了後に欠落していることを条件として、前記タイマの満了に応答して少なくとも1つのデータブロックを上位層へ配送する」との記載がある。
上記記載によれば、データブロックの配送は、以下の(ア)及び(イ)2つの条件が共に成立したときに実行されると理解される。
(ア)欠落したデータブロックがタイマの満了後に欠落している
(イ)タイマが満了する
一方、発明の詳細な説明には、タイマが満了した場合は他の条件に関わらずにデータブロックの配送が実行されること、すなわち、(イ)の条件のみが成立した場合にデータブロックの配送が実行されることが記載されている(第0020段落を参照)が、タイマが満了した場合に、配送を実行する上でさらに他の条件をも必要とすることは記載されていない。
したがって、データブロックの配送を実行する条件として、(ア)及び(イ)の双方が成立することを必要とする本願補正発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができない。

(4)本願補正発明の進歩性

引用文献1.3GPP TSG RAN WG1 #31 R1-030208(原査定の引用文献1)
引用文献2.米国特許公開第2003/0169741号明細書(原査定の引用文献4)

ア.引用文献1の記載
引用文献1には、図面と共に、以下の事項が記載されている(訳の下線は当審が付与)。

(ア)第1頁下から11行目から最終行
The design of an uplink hybrid ARQ scheme should take the following aspects into account:
- Memory requirements, both in the UE and the Node B. Rapid retransmissions reduce the amount of buffer memory required in the Node B for buffering of soft bits when a retransmission has been requested.
- Low overhead. The overhead in terms of power and number of bits required for the operation of the hybrid ARQ protocol should be low, both in uplink and downlink. Note that, unlike the HS-DSCH, the number of simultaneous users employing hybrid ARQ for transmitting data in the uplink may be significant, stressing the fact that the overhead for each user needs to be kept at a minimum.
- In-sequence delivery. The RLC requires in sequence delivery of MAC-d PDUs. Note that the in sequence delivery mechanism can be located either in the Node B or the RNC.
〈訳〉
アップリンクハイブリッドARQスキームのデザインは、以下の観点を考慮に入れるべきである:
- UE及びノードBの双方が必要とするメモリー。迅速な再送信は、再送信が要求されたときのソフトビットのバッファリングに対してノードBで必要なバッファメモリーの量を減らす。
- オーバーヘッドの低減。パワー及びハイブリッドARQプロトコルの運用に必要なビット数の観点でのオーバーヘッドは、アップリンク及びダウンリンクの双方において、低くあるべきである。ここで留意すべきは、HS-DSCHとは異なり、アップリンクでのデータ伝送に対するハイブリッドARQを同時に用いるユーザ数は大きな影響を与えるかもしれないということであって、各ユーザのオーバーヘッドは最小限にとどめる必要があるという事実を強調しておく。
- 順序どおりの配送。RLCはMAC-d PDUの配送が順序どおりであることを要求する。ここで留意すべきは、順序どおりの配送メカニズムは、ノードB又はRNCのどちらかに設置することができるということである。

(イ)第2頁第17行から第21行
A protocol structure with multiple stop-and-wait hybrid ARQ processes is adopted, similar to the scheme employed for the downlink HS-DSCH, but with appropriate modifications motivated by the differences between uplink and downlink. The use of hybrid ARQ affects multiple layers: the coding and soft combining/decoding is handled by the physical layer, while the retransmission protocol is handled by a new MAC entity located in the Node B and a corresponding entity located in the UE.
〈訳〉
多重ストップアンドウェイトハイブリッドARQ処理を伴うプロトコル構造が採択され、これは、ダウンリンクHS-DSCHに採用されているスキームと同様であるが、アップリンクとダウンリンクとの違いによる適切な変更を含んでいる。ハイブリッドARQの使用は、多数の層に影響する。符号化とソフト合成/復号化は物理層で扱われる一方、再送信プロトコルは、ノードBに設置される新しいMACエンティティ及びUEに設置される対応するエンティティで扱われる。

(ウ)第2頁第22行から第24行
ACK/NAK signaling and retransmissions are done per TTI basis. Whether multiple transport channels using hybrid ARQ are supported and whether there may be multiple transport blocks per TTI or not are to be studied further.
〈訳〉
ACK/NAKシグナリング及び再送信はTTIベースで行われる。ハイブリッドARQを用いる多重伝送チャネルがサポートされるか、及び、TTI毎に多数のトランスポートブロックが存在しても良いか否かは、さらに検討されるべきである。

(エ)第2頁下から4行目から最終行
Downlink signaling consists of a single ACK/NAK per TTI from the Node B. Similar to the HS-DSCH, a well-defined processing time from the reception of a transport block at the Node B to the transmission of the ACK/NAK in the downlink can be used in order to avoid explicit signaling of the hybrid ARQ process number along with the ACK/NAK.
〈訳〉
ダウンリンクシグナリングは、ノードBからのTTI毎の単一ACK/NAKから成る。HS-DSCHと同様に、ACK/NAKと一緒にハイブリッドARQプロセス番号を明示的にシグナリングせずに済ますことを目的として、ノードBでのトランスポートブロックの受信からダウンリンクでのACK/NAKの伝送までの明確な処理時間を使用することができる。

以上の引用文献1の記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

〈引用発明1〉
アップリンクハイブリッドARQスキームであって、
アップリンクハイブリッドARQスキームのデザインには、RLCがMAC-d PDUの配送が順序どおりであることを要求していることを考慮に入れ、
順序どおりの配送メカニズムは、ノードB又はRNCのどちらかに設置し、
再送信プロトコルは、ノードBに設置される新しいMACエンティティで扱われ、
ACK/NAKシグナリング及び再送信はTTIベースで行われ、
ダウンリンクシグナリングは、ノードBからのTTI毎の単一ACK/NAKから成り、
ノードBでのトランスポートブロックの受信からダウンリンクでのACK/NAKの伝送までの明確な処理時間を使用する、
アップリンクハイブリッドARQスキーム。

イ.引用文献2の記載
引用文献2には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

(オ)第0008段落から第0009段落冒頭3行
[0008] One example area where speed is important is in High Speed Downlink Packet Access (HSDPA) channels to employed in some mobile radio communications networks. Currently, it is proposed the HSDPA channels employ a HARQ protocol as specified in the 3GPP Technical Specification (TS) 25.308 v0.1.0 "UTRA High Speed Downlink Packet Access," released by the 3GPP (3rd Generation Partnership Project) in September 2001. The specified HARQ protocol retransmission scheme is implemented using retransmission entities in an extension of the media access control (MAC) protocol layer in a base station (sometimes referred to as a "Node B") and a mobile user equipment (UE). The retransmission entity stores erroneously received data blocks, for example in the UE, and combines them with corresponding, later-received retransmissions of the same data blocks. Two (or more) erroneously received copies of a data block may be combined in the UE receiver into a correct data block. The MAC-HSDPA retransmission entity delivers correctly received data blocks to a higher radio link control (RLC) protocol layer as RLC packet data units (PDUs).
[0009] The HARQ protocol defined in that specification includes a reordering entity that achieves in-sequence delivery of received data units to the higher RLC protocol layer.
〈訳〉
[0008] 速度が重要な領域の一例として、高速ダウンリンクパケットアクセス(HSDPA)チャネルがあり、いくつかの移動無線通信ネットワークで採用されている。現在、HSDPAチャネルがHARQプロトコルを採用することが提案されており、これは、2001年9月に3GPPから公開された3GPP技術規格(TS) 25.308 v0.1.0「UTRA High Speed Downlink Packet Access」で規定されている。規定されたHARQプロトコルの再送信スキームは、基地局(時として「ノードB」と称される)及び移動ユーザ装置(UE)のメディアアクセス制御(MAC)プロトコル層の拡張の中の再送信エンティティを用いて実装されている。再送信エンティティは、エラーのある受信データブロックを、例えば、UEに格納し、それと関連する後に受信する同じデータブロックの再送信と結合する。エラーのある受信データブロックの2以上のコピーは、UEの受信機中で結合され、正しいデータブロックとなる。MAC-HSDPA再送信エンティティは、正しく受信されたデータブロックをより上位のラジオリンク制御(RLC)プロトコル層へRLCパケットデータユニット(PDU)として配送する。
[0009] 上記規格で定義されたHARQプロトコルは、受信データユニットを順序どおりに上位のRLCプロトコル層へ配送することを達成するための再順序化エンティティを含む。

(カ)第0010段落冒頭6行
[0010] Unfortunately, the specified HARQ protocol and ARQ protocols in general will "stall" in certain situations. In the simple example just given, a stall situation would occur when the reordering entity waits for a long time (or it may even wait indefinitely) for data-unit 1 to be correctly received.
〈訳〉
[0010] 不幸なことに、規定されたHARQプロトコル及びARQプロトコルは、一般に、ある状況で「ストール」する。先ほど挙げた簡単な例において、ストール状況が発生するのは、再順序化エンティティがデータユニット1を正しく受信しようとして長時間(又は、永遠に)待っている時である。

(キ)第0010段落冒頭6行
[0011] It is an object of the present invention to avoid stall situations in order to decrease data delays, and ultimately, increase data throughput rates.
〈訳〉
[0011] この発明の目的は、ストール状態を回避してデータ遅延を減らすことであり、究極的には、データのスループットレートを向上することである。

(ク)第0038段落
[0038] In this regard, reference is made to the Timer procedures (block 40) shown in flowchart form in FIG. 4. From the data units stored in the reordering buffer 24 in the receiver, the controller 22 detects a missing data unit with a lowest sequence number (SN) referred to as "the missing SN" (block 42). In block 44, a check is made for a stall condition. If a data unit with a sequence number equal to X, which is greater than the missing sequence number is received, a timer is started (assuming the timer is stopped or otherwise expired) for the data unit X. The timer unit is set to time out at a preset time. The preset time can be any time but is typically a trade-off between an acceptable data unit delay and an acceptable data unit loss. Because these trade-off parameters are often a function of quality of service requirements, the timer value may be set when quality of service requirements are known.
〈訳〉
[0038] この点について、図4のフローチャート中に示されるタイマー手続(ブロック40)への参照が成されている。受信機の再順序化バッファ24に格納されたデータユニットから、制御装置22は、「欠落SN」と称される最小のシーケンス番号を持つ欠落データユニットを見つける(ブロック42)。ブロック44では、ストール状態についてチェックをする。欠落シーケンス番号よりも大きいシーケンス番号Xに等しいデータユニットが受信されたならば、データユニットXのためにタイマーがスタートされる(タイマーが停止しているか又は満了しているかが仮定されている)。タイマーユニットは所定時間でタイムアウトするようセットされる。所定時間はどのような時間でもよいが、典型的には、許容できるデータユニットの遅延と許容できるデータユニットの損失とのトレードオフである。これらのトレードオフパラメータは、しばしばサービス品質要求の関数となるから、タイマー値はサービス品質要求がわかった時にセットしてもよい。

(ケ)第0039段落
[0039] A decision is made in block 46 whether the data unit X has been received. If so, the stall condition timer is stopped. The data unit X, along with any received data units stored in the reordering buffer having sequence numbers up to X, are removed from the buffer and sent up to a higher protocol layer (block 148), and the process repeats at block 42. If the data unit X has not yet been received, a decision is made in block 50 whether the timer has expired. If not, control returns to block 46. If the stall condition timer has expired, all data units are removed from the reordering buffer up to data unit X and sent to the higher layer (block 52), and the process repeats at block 42.
〈訳〉
[0039] ブロック46で、データユニットXが受信されたかが決定される。受信された場合、ストール状態タイマーは停止される。データユニットXは、再順序化バッファに格納されたXまでのシーケンス番号を持つ全ての受信されたデータユニットと共に、該バッファから取り除かれ、上位プロトコル層に送信され(ブロック148)、処理はブロック42へ繰り返される。データユニットXが未だ受信されていない場合、ブロック50で、該タイマーが満了したかが決定される。満了していない場合、制御はブロック46に戻る。該ストール状態タイマーが満了した場合、データユニットXまでの全てのデータユニットは再順序化バッファから取り除かれ、上位層に送信され(ブロック52)、処理はブロック42へ繰り返す。

上記(ケ)において受信されたか否かを判定する対象が「データユニットX」となっているが、上記(ク)において「データユニットX」は既に受信済みであるから、上記(ケ)において判定の対象となるデータユニットは、欠落データユニットでなければ辻褄が合わない。よって、上記(ケ)は、正しくは以下のことを記載しようとしたものだと理解される。

[0039] ブロック46で、欠落データユニットが受信されたかが決定される。受信された場合、ストール状態タイマーは停止される。欠落データユニットは、再順序化バッファに格納されたXまでのシーケンス番号を持つ全ての受信されたデータユニットと共に、該バッファから取り除かれ、上位プロトコル層に送信され(ブロック148)、処理はブロック42へ繰り返される。欠落データユニットが未だ受信されていない場合、ブロック50で、該タイマーが満了したかが決定される。満了していない場合、制御はブロック46に戻る。該ストール状態タイマーが満了した場合、データユニットXまでの全てのデータユニットは再順序化バッファから取り除かれ、上位層に送信され(ブロック52)、処理はブロック42へ繰り返す。

ウ.対比
本願補正発明と引用発明1とを以下で対比する。
引用発明1の「ハイブリッドARQ」、「ACK」、「NAK」及び「ノードB」は、それぞれ本願補正発明の「ハイブリッド自動再送要求(HARQ)」、「肯定応答(positive acknowledgment)メッセージ」、「否定応答(negative acknowledgment)メッセージ」及び「ネットワーク装置」に相当する。
引用発明1は、「ダウンリンクシグナリングは、ノードBからのTTI毎の単一ACK/NAKから成」るものであり、かつ、「ノードBでのトランスポートブロックの受信からダウンリンクでのACK/NAKの伝送までの明確な処理時間を使用する」ものであることから、HARQの技術常識に鑑みると、引用発明1は、アップリンクでノードBが受信したTTIの信号を復号処理した結果、復号処理に成功したらダウンリンクシグナリングチャネルでACKを送信し、復号処理に失敗したらダウンリンクシグナリングチャネルでNAKを送信するものであると理解でき、TTIの信号の受信のために受信機を当然に備え、ACK/NAKの送信のために送信機を当然に備えるものであると理解できる。
そして、引用発明1では、「再送信プロトコルは、ノードBに設置される新しいMACエンティティで扱われ」るのであるから、引用発明1において、上記ACK/NAKの送信は、新しいMACエンティティを使用して行われることが理解でき、当該「新しいMACエンティティ」は、HARQ動作を実行するものであることから、引用発明1の「新しいMACエンティティ」は、本願補正発明の「ハイブリッド自動再送要求(HARQ)エンティティ」及び「HARQエンティティ」に相当する。
以上から、引用発明1と本願補正発明とは、「アップリンク信号を受信し、少なくとも1つのハイブリッド自動再送要求(HARQ)エンティティを使用して、受信した前記アップリンク信号を復号するように構成された受信機と」、「前記復号された信号に応じて、肯定応答(positive acknowledgment)メッセージまたは否定応答(negative acknowledgment)メッセージをダウンリンクシグナリングチャネル上で前記HARQエンティティから送信するように構成された送信機と」を備える点で一致する。
引用発明1は、「アップリンクハイブリッドARQスキームのデザインには、RLCがMAC-d PDUの配送が順序どおりであることを要求していることを考慮に入れ」るとしている。これは、PDUの受信が順序どおり行われない可能性があることを前提として、MAC層からRLC層への伝送時には、PDUが順序どおりに整列されていなければならないのだと理解できる。そして、RLCがMACの上位層であることは技術常識であるから、引用発明1と本願補正発明とは、「前記復号された信号を再順序化し、少なくとも1つの信号を上位層へ配送するように構成された処理装置と、を備える」点で一致する。
すると、本願補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

〈一致点〉
「アップリンク信号を受信し、少なくとも1つのハイブリッド自動再送要求(HARQ)エンティティを使用して、受信した前記アップリンク信号を復号するように構成された受信機と、
前記復号された信号に応じて、肯定応答(positive acknowledgment)メッセージまたは否定応答(negative acknowledgment)メッセージをダウンリンクシグナリングチャネル上で前記HARQエンティティから送信するように構成された送信機と、
前記復号された信号を再順序化し、少なくとも1つの信号を上位層へ配送するように構成された処理装置と、を備えるネットワーク装置。」である点。

〈相違点1〉
本願補正発明は、受信した信号の復号、復号結果に応じた肯定応答又は否定応答の送信、再順序化のそれぞれの処理単位が「データブロック」であるのに対し、引用発明1は、復号及びACK/NAKの送信の処理単位が「TTI」であり、再順序化の処理単位が「MAC-d PDU」である点。

〈相違点2〉
本願補正発明は、再順序化に際して信号を「再順序化バッファに格納」しているのに対し、引用発明1は、再順序化バッファへの格納を行っているか否かが明確ではない点。

〈相違点3〉
本願補正発明は、再順序化処理が「少なくとも前記格納されたデータブロックのシーケンス番号に基づいてデータブロックの欠落を識別したことに応答してタイマを起動し、前記欠落したデータブロックが前記タイマの満了後に欠落していることを条件として、前記タイマの満了に応答して少なくとも1つのデータブロックを上位層へ配送する」ものであるのに対し、引用発明1の再順序化処理は具体的にどのような処理を行っているかが明確ではない点。

エ.判断

(相違点1について)
引用発明1は、ACK/NAKシグナリングをTTIベースで行うものであり、技術常識に鑑みれば1つのTTIでは所定長のデータが伝送される。したがって、1つのTTIで伝送されるデータを「データブロック」と称することに困難性は存在せず、この場合、データの受信、データの復号及びACK/NAKシグナリングは「データブロック」を単位に行われるといえる。
そして、受信したデータの上記一連の処理がデータブロックを単位として行われるのであるから、受信したデータの再順序化も同くデータブロック単位で行うことが自然である。
したがって、引用発明1において、受信した信号の復号、復号結果に応じたACK/NAKシグナリング及び再順序化をデータブロックを単位として行うことは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎず、格別のことではない。

(相違点2及び3について)
引用文献2は、HSDPAにおけるHARQプロトコルで受信データユニットを順序どおりに上位のRLCプロトコル層へ配送することを達成するための再順序化エンティティを技術背景とし(摘記事項(オ)を参照)、HSDPAにおけるHARQプロトコルが特定の状況で「ストール」することを問題として(摘記事項(カ)を参照)、ストール状態を回避してデータ遅延を減らすことを目的とし(摘記事項(キ)を参照)、受信機の再順序化バッファ24に格納されたデータユニットについて、欠落シーケンス番号よりも大きいシーケンス番号Xに等しいデータユニットが受信されたならば、データユニットXのためにタイマーがスタートされ(摘記事項(ク)を参照)、欠落データユニットが未だ受信されていない場合であって、該ストール状態タイマーが満了した場合、データユニットXまでの全てのデータユニットが再順序化バッファから取り除かれ、上位層に送信されること(摘記事項(ケ)を参照)が記載されている。つまり、引用文献2には、再順序化バッファに格納されたデータユニットに対し、データユニットのシーケンス番号に基づいてデータユニットの欠落を識別したことに応答してストール状態タイマーを起動し、欠落したデータユニットがストール状態タイマーの満了後に欠落している場合(引用文献2の表現では「欠落データユニットが未だ受信されていない場合であって、該ストール状態タイマーが満了した場合」)に、ストール状態タイマーの満了に応答してデータユニットを上位層へ配送することが記載されている。
引用文献2に記載された技術は、HSDPAにおけるダウンリンクHARQプロトコルであるが、引用文献1には、アップリンクHARQ処理について、「多重ストップアンドウェイトハイブリッドARQ処理を伴うプロトコル構造が採択され、これは、ダウンリンクHS-DSCHに採用されているスキームと同様であるが、アップリンクとダウンリンクとの違いによる適切な変更を含んでいる」ことが記載されており(摘記事項(イ)を参照)、技術常識から「ダウンリンクHS-DSCH」はHSDPAにおけるダウンリンクチャネルを指すことが明らかであるから、引用発明1のHARQスキームに、引用文献2に記載されたHSDPAにおけるHARQプロトコルを採用して、復号された信号を再順序化バッファに格納し、格納された信号のシーケンス番号に基づいて信号の欠落を識別したことに応答してタイマを起動し、前記欠落した信号が前記タイマの満了後に欠落していることを条件として、前記タイマの満了に応答して信号を上位層へ配送するように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(効果について)
また、本願補正発明の構成によって生じる効果も、引用発明1、及び、引用文献2に記載された技術から当業者が予測し得る範囲内のもので格別顕著であるとはいえない。

(進歩性についてのまとめ)
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明1、及び、引用文献2に記載された技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
上記(3)及び(4)のとおり、本件補正は、仮に本件補正のうち請求項1に関する部分が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当したとしても、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成27年6月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年9月29日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(前記2.(1)の〈補正前〉の再掲)。

【請求項1】
アップリンク信号を受信し、少なくとも1つのハイブリッド自動再送要求(HARQ)エンティティを使用して、受信した前記アップリンク信号のデータブロックを復号するように構成された受信機と、
前記復号されたデータブロックに応じて、肯定応答(positive acknowledgment)メッセージまたは否定応答(negative acknowledgment)メッセージをダウンリンクシグナリングチャネル上で前記HARQエンティティから送信するように構成された送信機と、
前記復号されたデータブロックを少なくとも1つの再順序化バッファに格納し、少なくとも前記格納されたデータブロックのシーケンス番号に基づいてデータブロックの欠落を識別したことに応答してタイマを起動し、前記タイマの満了前に前記欠落したデータブロックが復号されなかったことを条件として、前記タイマの満了に応答して少なくとも1つのデータブロックを上位層へ配送するように構成された処理装置と、を備える装置。

(1)サポート要件
請求項1には、「前記タイマの満了前に前記欠落したデータブロックが復号されなかったことを条件として、前記タイマの満了に応答して少なくとも1つのデータブロックを上位層へ配送する」との記載がある。
上記記載によれば、データブロックの配送は、以下の(ア)及び(イ)2つの条件が共に成立したときに実行されると理解される。
(ア)タイマの満了前に欠落したデータブロックが復号されなかった
(イ)タイマが満了する
一方、発明の詳細な説明には、タイマが満了した場合は他の条件に関わらずにデータブロックの配送が実行されること、すなわち、(イ)の条件のみが成立した場合にデータブロックの配送が実行されることが記載されている(第0020段落を参照)が、タイマが満了した場合に、配送を実行する上でさらに他の条件をも必要とすることは記載されていない。
したがって、データブロックの配送を実行する条件として、(ア)及び(イ)の双方が成立することを必要とする本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができない。

(2)進歩性

ア.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された文献、及びその記載事項は、前記2.(4)に記載したとおりである。

イ.対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明のうち、データブロックを上位層へ配送する処理を行う条件として、「欠落したデータブロックが前記タイマの満了後に欠落している」とあったものを「タイマの満了前に欠落したデータブロックが復号されなかった」とし、かつ、「ネットワーク装置」を「装置」としたものである。
一方、引用文献2には、欠落データユニットが未だ受信されていない場合であって、ストール状態タイマーが満了した場合に、データユニットを上位層に配送することが記載されている。
欠落データユニットが受信されていない場合は、当然復号もできないのであるから、引用文献2には、タイマの満了前に欠落したデータブロックが復号されなかったことを条件として、前記タイマの満了に応答して少なくとも1つのデータブロックを上位層へ配送することが記載されていると理解できる。
そして、「装置」は「ネットワーク装置」の上位概念に当たるので、本願補正発明と同様に、引用発明1の「ノードB」は本願発明の「装置」に相当する。
そうすると、本願補正発明と同様に、本願発明は、引用発明1、及び、引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、及び、引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-29 
結審通知日 2016-03-30 
審決日 2016-04-18 
出願番号 特願2013-201884(P2013-201884)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04W)
P 1 8・ 537- Z (H04W)
P 1 8・ 57- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古市 徹  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 佐藤 智康
吉田 隆之
発明の名称 エンハンスト・アップリンク送信における不連続データ・ブロックを転送する方法および装置  
代理人 長門 侃二  
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