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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D04B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D04B
管理番号 1319182
異議申立番号 異議2015-700220  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-26 
確定日 2016-07-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5725878号発明「防風性布帛およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5725878号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕〔8〕について訂正することを認める。 特許第5725878号の請求項1?4、6?8に係る特許を維持する。 特許第5725878号の請求項5に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5725878号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成23年1月21日に特許出願され、平成27年4月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人中嶋和昭(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年1月13日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成28年3月15日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、申立人により、平成28年4月27日付けで本件訂正請求について意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1-1)請求項1?7からなる一群の請求項についての訂正の内容
本件訂正請求による請求項1?7からなる一群の請求項についての訂正の内容は以下のア?キのとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「編物の片面に樹脂溶液をコーティング法により付与することによって前記編物の片面に樹脂膜が形成された布帛であって、」とあるのを、
「編物の片面に樹脂膜がコーティングされた布帛であって、前記樹脂膜を構成する樹脂は、前記樹脂膜がコーティングされた面における前記編物を構成する糸の表面に付与されており、」に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記編物のゲージ数が2.54cm当たり20以上であり、前記編物を構成する糸が20デシテックス以上であり、」とあるのを、
「前記編物のゲージ数が2.54cm当たり20以上100以下であり、前記編物を構成する糸が20デシテックス以上170デシテックス以下であり、」に訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記樹脂膜は孔又は亀裂を有している」とあるのを、
「前記樹脂膜は孔又は亀裂を有しており、前記樹脂膜を構成する樹脂は、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル、ナイロン、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレンおよび塩化ビニルからなる群から選ばれた少なくとも1つを含む」に訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか1項に記載の防風性布帛。」とあるのを、
「請求項1?4のいずれか1項に記載の防風性布帛。」に訂正する。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「前記編物を構成する糸が20デシテックス以上、170デシテックス以下である」とあるのを、
「前記編物を構成する糸が20デシテックス以上、100デシテックス以下である」に訂正する。

キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6のいずれか1項に記載の防風性布帛。」とあるのを、
「請求項1?4、6のいずれか1項に記載の防風性布帛。」に訂正する。

(1-2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に係る発明が防風性布帛という物の発明であるところ、「編物の片面に樹脂溶液をコーティング法により付与することによって」との記載が、製造方法によって物の発明を特定しようとするものに該当し、発明が不明確となるおそれがあることから、「編物の片面に樹脂溶液をコーティング法により付与することによって前記編物の片面に樹脂膜が形成された布帛であって、」を、「編物の片面に樹脂膜がコーティングされた布帛であって、前記樹脂膜を構成する樹脂は、前記樹脂膜がコーティングされた面における前記編物を構成する糸の表面に付与されており」とし、製造方法によらずに発明を特定しようとするものである。
よって、この訂正事項は、特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、この訂正事項は、特許明細書の段落[0025]の記載を根拠とするものであり、特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
そして、この訂正事項が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、「前記編物のゲージ数が2.54cm当たり20以上であり、前記編物を構成する糸が20デシテックス以上であり、」と、ゲージ数、糸(の太さ)についての下限のみ特定され、上限の特定がなかったものを、「前記編物のゲージ数が2.54cm当たり20以上100以下であり、前記編物を構成する糸が20デシテックス以上170デシテックス以下であり、」と、ゲージ数及び糸(の太さ)の上限を特定しようとするものである。
よって、この訂正事項は、特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、この訂正事項は、特許明細書の段落[0014]、[0016]の記載を根拠とするものであり、特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
そして、この訂正事項が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、樹脂膜を構成する樹脂について特定のなかったものを、「前記樹脂膜を構成する樹脂は、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル、ナイロン、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレンおよび塩化ビニルからなる群から選ばれた少なくとも1つを含む」と、当該樹脂の特定をしようとするものである。
よって、この訂正事項は、特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、この訂正事項は、特許明細書の段落[0021]の記載を根拠とするものであり、特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
そして、この訂正事項が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

エ 訂正事項4について
訂正事項4は、請求項5を削除しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、この訂正事項が、特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

オ 訂正事項5について
訂正事項5は、請求項5の削除(訂正事項4)に伴い、記載を整合させるための訂正であり、特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、この訂正事項が、特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

カ 訂正事項6について
訂正事項6は、請求項7の編物を構成する糸(の太さ)の上限を、「170デシテックス以下」から「100デシテックス以下」にしようとするものであるから、この訂正事項は、特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、この訂正事項は、特許明細書の段落[0016]の記載を根拠とするものであり、特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
そして、この訂正事項が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

キ 訂正事項7について
訂正事項7は、請求項5の削除(訂正事項4)に伴い、記載を整合させるための訂正であり、特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、この訂正事項が、特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(2-1)請求項8についての訂正の内容
本件訂正請求による請求項8についての訂正の内容は以下のア?イのとおりである。
ア 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「ゲージ数が2.54cm当たり20以上、編物を構成する糸が20デシテックス以上」とあるのを、
「ゲージ数が2.54cm当たり20以上100以下、編物を構成する糸が20デシテックス以上170デシテックス以下」に訂正する。

イ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項8に「編物の片面に樹脂溶液をコーティング法により付与して」とあるのを、
「編物の片面に、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル、ナイロン、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレンおよび塩化ビニルからなる群から選ばれた少なくとも1つを含む樹脂溶液をコーティング法により付与して」に訂正する。

(2-2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項8について
訂正事項8は、「ゲージ数が2.54cm当たり20以上、編物を構成する糸が20デシテックス以上」と、ゲージ数、糸(の太さ)についての下限のみ特定され、上限の特定がなかったものを、「ゲージ数が2.54cm当たり20以上100以下、編物を構成する糸が20デシテックス以上170デシテックス以下」と、ゲージ数及び糸(の太さ)の上限を特定しようとするものである。
よって、この訂正事項は、特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、この訂正事項は、特許明細書の段落[0014]、[0016]の記載を根拠とするものであり、特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
そして、この訂正事項が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

イ 訂正事項9について
訂正事項9は、コーティング法により付与される樹脂溶液について特定のなかったものを、「編物の片面に、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル、ナイロン、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレンおよび塩化ビニルからなる群から選ばれた少なくとも1つを含む樹脂溶液をコーティング法により付与して」と、当該樹脂溶液の特定をしようとするものである。
よって、この訂正事項は、特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、この訂正事項は、特許明細書の段落[0021]の記載を根拠とするものであり、特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
そして、この訂正事項が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(3)一群の請求項について
上記請求項1?7からなる一群の請求項についての各訂正及び請求項8についての各訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?7〕〔8〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.請求項1?8に係る発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?8に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
編物の片面に樹脂膜がコーティングされた布帛であって、前記樹脂膜を構成する樹脂は、前記樹脂膜がコーティングされた面における前記編物を構成する糸の表面に付与されており、前記編物のゲージ数が2.54cm当たり20以上100以下であり、前記編物を構成する糸が20デシテックス以上170デシテックス以下であり、得られた前記布帛を構成する編物の密度が2.54cmあたりコース30?80でウエル30?80であり、前記樹脂膜は孔又は亀裂を有しており、前記樹脂膜を構成する樹脂は、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル、ナイロン、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレンおよび塩化ビニルからなる群から選ばれた少なくとも1つを含む防風性布帛。
【請求項2】
前記樹脂膜は前記孔を有しており、前記孔の大きさが1?500μmである請求項1に記載の防風性布帛。
【請求項3】
JIS L1096A法(フラジール形法)にて測定した通気度が0.1cm^(3)/cm^(2)・sよりも大きく10cm^(3)/cm^(2)・s以下である請求項1または2に記載の防風性布帛。
【請求項4】
前記通気度が5cm^(3)/cm^(2)・s以下である請求項3に記載の防風性布帛。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記編物のゲージ数が2.54cmあたり30以上、50以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の防風性布帛。
【請求項7】
前記編物を構成する糸が20デシテックス以上、100デシテックス以下であることを特徴とする請求項1?4、6のいずれか1項に記載の防風性布帛。
【請求項8】
ゲージ数が2.54cm当たり20以上100以下、編物を構成する糸が20デシテックス以上170デシテックス以下、密度が2.54cmあたりコース30?80でウエル30?80の編物の片面に、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル、ナイロン、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレンおよび塩化ビニルからなる群から選ばれた少なくとも1つを含む樹脂溶液をコーティング法により付与して孔又は亀裂を有する樹脂膜を前記編物の片面に形成することを特徴とする防風性布帛の製造方法。」

2.取消理由の概要
訂正前の請求項1?8に係る特許に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
[理由]
本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号、第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(取消理由1)特許法第36条第4項第1号
請求項1-8において、樹脂溶液の具体的な種類、編物のゲージ数の上限、編物の糸の太さの上限、撥水処理をすること等について特定されていないところ、発明の詳細な説明には請求項1-8に係る発明の一部の範囲の実施例が示されるのみであり、本件請求項1-8に係る発明を当業者が実施できる程度の記載がなされているとはいえない。

(取消理由2)特許法第36条第6項第1号
上記(取消理由1)のとおり、発明の詳細な説明には、請求項1-8に係る発明のうち、特定の実施例のみが開示されているところ、請求項1-8に係る発明は、当該開示された範囲を超えて特許されたものである。

(取消理由3)特許法第36条第6項第2号
請求項1-7は、「防風性布帛」という物の発明であるが、請求項1の「樹脂溶液をコーティング法により付与することによって前記編物の片面に樹脂膜が形成された」との記載、請求項5の「前記編物の片面に前記樹脂溶液をコーティング法により付与し、乾燥または冷却により前記編物の片面に前記樹脂膜が形成された」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合、製造に関して経時的な要素の記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえ、請求項1-7に係る発明は明確でない。

3.判断
(1)取消理由1、2について
(ゲージ数、糸の太さ)
本件訂正発明1?4、6?7では、ゲージ数、糸(の太さ)の上限について、「前記編物のゲージ数が2.54cm当たり20以上100以下であり、前記編物を構成する糸が20デシテックス以上170デシテックス以下であり、」と特定されている。
これは、特許明細書の段落[0014]の「前記編物は、防風性、通気性、樹脂の含浸防止、風合いの観点よりゲージ数が2.54cm当たり20以上であるとよい。また上限は、100以下であるとよい。より好ましくは、ゲージ数が2.54cm当たり25以上、60以下、さらに好ましくは30以上、50以下であるとよい。ゲージ数が20未満であると樹脂溶液が編物の樹脂溶液付与面の反対面にまで含浸し外観品位が低下するおそれがある。また、ゲージ数が100超となると風合いが硬化するおそれがあり、また、特殊な装置の開発や生産性が大きく低下するおそれがある。」との記載、同じく段落[0016]の「編物を構成する糸の太さは、20デシテックス以上が好ましく、また、上限は1000デシテックス以下が好ましい。防風性、通気性、樹脂溶液の含浸防止、風合いの観点からは、20デシテックス以上、170デシテックス以下、さらに好ましくは20デシテックス以上、100デシテックス以下のマルチフィラメントがより好ましい。」との記載に対応するものである。

(樹脂膜を構成する樹脂)
本件訂正発明1?4、6?7の樹脂膜を構成する樹脂の特定については、特許明細書の段落[0021]の「本発明の樹脂溶液とは、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル、ナイロン、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン、塩化ビニルなどの樹脂を溶媒に溶解させたものや水に分散させたもの、また、加熱し液化させたものなどが挙げられる。」との記載に対応するものである。

(撥水加工)
本件訂正発明1?4、6?7には、編物に撥水加工を施してからコーティングをしていることについての特定はない。これについて、特許明細書の段落[0020]には、「含浸防止の観点からは、編物には撥水加工および/またはカレンダー加工を施すとよい。」と記載され、撥水加工やカレンダー加工については必ずしも必須のものではなく、任意に選択すべき加工であることが明らかである。

ところで、段落[0038]?[0054]、[表1]に示される実施例では、ゲージ数は、22?46、糸(の太さ)は、22デシテックス?84デジテックスの範囲とし、樹脂膜を構成する樹脂等についても特定の物を用いた場合における結果が示されているのみである。
しかしながら、特許明細書の発明の詳細な説明には、ゲージ数及び糸(の太さ)の範囲について定性的に説明がなされており、樹脂膜を構成する樹脂についても記載がなされているところ、かかる記載は妥当であり、請求項で特定される発明に含まれる全ての場合について、実施例等を示して実証することを要するものではない。
そうすると、発明の詳細な説明は、本件訂正発明1?7を当業者が実施し得る程度の記載となっていないとはいえないし、本件訂正発明1?7が、発明の詳細な説明に記載されていないともいえない。
また、本件訂正発明8についても上記と同様である。

(2)取消理由3について
本件訂正発明1は、「編物の片面に樹脂膜がコーティングされた布帛であって、前記樹脂膜を構成する樹脂は、前記樹脂膜がコーティングされた面における前記編物を構成する糸の表面に付与されており、」とされ、製造方法による発明の特定はなされていないから、取消理由3によっては、本件訂正発明1が不明確であるとはいえない。また本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2?4、6?7についても同様である。
なお、製造方法による発明の特定があった請求項5は削除された。

4.むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由によっては、本件訂正発明1?4、6?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1?4、6?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正請求により、請求項5に係る特許は削除されたため、請求項5について申立人がした特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。

5.付記
なお、申立人の特許法第29条第2項第29条の2に関する申立ての理由については、以下の理由で採用しなかった。
(第29条第2項)
甲第1号証には、少なくとも、コーティングが「片面」に施されていること、コース、ウエルの数値の記載がないこと、「孔又は亀裂を有」することについて記載がないこと。
甲第2号証には、3層を交絡させた積層布に関するものであり、片面に樹脂膜がコーティングされた編物のコース、ウエルを規定したものとはいえないこと。
甲第1号証に甲第2号証を組み合わせる動機がないこと。

(第29条の2)
甲第3号証には、少なくとも、「孔又は亀裂を有」することについての記載がなく、段落[0039]には、ピンホールが好ましくない旨の記載、すなわち孔又は亀裂を有することとは相反する記載があること。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
編物の片面に樹脂膜がコーティングされた布帛であって、前記樹脂膜を構成する樹脂は、前記樹脂膜がコーティングされた面における前記編物を構成する糸の表面に付与されており、前記編物のゲージ数が2.54cm当たり20以上100以下であり、前記編物を構成する糸が20デシテックス以上170デシテックス以下であり、得られた前記布帛を構成する編物の密度が2.54cmあたりコース30?80でウエル30?80であり、前記樹脂膜は孔又は亀裂を有しており、前記樹脂膜を構成する樹脂は、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル、ナイロン、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレンおよび塩化ビニルからなる群から選ばれた少なくとも1つを含む防風性布帛。
【請求項2】
前記樹脂膜は前記孔を有しており、前記孔の大きさが1?500μmである請求項1に記載の防風性布帛。
【請求項3】
JIS L1096A法(フラジール形法)にて測定した通気度が0.1cm^(3)/cm^(2)・sよりも大きく10cm^(3)/cm^(2)・s以下である請求項1または2に記載の防風性布帛。
【請求項4】
前記通気度が5cm^(3)/cm^(2)・s以下である請求項3に記載の防風性布帛。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記編物のゲージ数が2.54cmあたり30以上、50以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の防風性布帛。
【請求項7】
前記編物を構成する糸が20デシテックス以上、100デシテックス以下であることを特徴とする請求項1?4、6のいずれか1項に記載の防風性布帛。
【請求項8】
ゲージ数が2.54cm当たり20以上100以下、編物を構成する糸が20デシテックス以上170デシテックス以下、密度が2.54cmあたりコース30?80でウエル30?80の編物の片面に、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル、ナイロン、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレンおよび塩化ビニルからなる群から選ばれた少なくとも1つを含む樹脂溶液をコーティング法により付与して孔又は亀裂を有する樹脂膜を前記編物の片面に形成することを特徴とする防風性布帛の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-06-28 
出願番号 特願2011-11177(P2011-11177)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (D04B)
P 1 651・ 537- YAA (D04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 井上 茂夫
見目 省二
登録日 2015-04-10 
登録番号 特許第5725878号(P5725878)
権利者 小松精練株式会社
発明の名称 防風性布帛およびその製造方法  
代理人 道坂 伸一  
代理人 道坂 伸一  
代理人 新居 広守  
代理人 新居 広守  

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