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審決分類 |
審判 一部申し立て 特29条の2 C03C |
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管理番号 | 1319188 |
異議申立番号 | 異議2016-700248 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-03-24 |
確定日 | 2016-08-15 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5782084号発明「合わせガラス用中間膜及び合わせガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5782084号の請求項1、3ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5782084号の請求項1及び3?7に係る特許についての出願は、平成25年9月27日に特許出願され(平成18年5月12日を優先権主張の日として平成19年5月11日に特許出願されたものの一部を新たな特許出願としたもの)、平成27年7月24日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人株式会社クラレにより特許異議の申立てがなされ、当審において平成28年5月17日付けで取消理由を通知し、平成28年7月13日付けで意見書が提出されたものである。 2.本件発明 本件発明1及び3?7は、各々、特許第5782084号の請求項1及び3?7に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 少なくとも一対の保護層と、前記一対の保護層に狭持された遮音層とからなり、断面形状が楔形であり、断面の楔角θが0.1?0.7mrad、最大厚さが2000μm以下、最小厚さが400μm以上である合わせガラス用中間膜であって、 前記遮音層の最小厚さが20μm以上であり、 断面形状が楔形の2枚の保護層により、断面形状が楔形の遮音層が狭持されている ことを特徴とする合わせガラス用中間膜。 (【請求項2】 一対の保護層のうち少なくとも1層に、形状補助層が積層されてなることを特徴とする請求項1記載の合わせガラス用中間膜。) 【請求項3】 遮音層は、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して40?80重量部の可塑剤を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項4】 遮音層に含まれるポリビニルアセタール樹脂は、アセタール基の炭素数が4?5であり、かつ、アセチル化度が4?30モル%であるポリビニルアセタール樹脂であることを特徴とする請求項3記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項5】 保護層は、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤を含有することを特徴とする請求項1、2 3又は4記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項6】 保護層、遮音層及び/又は形状補助層は、遮熱剤を含有することを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の合わせガラス用中間膜。 【請求項7】 請求項1、2、3、4、5又は6記載の合わせガラス用中間膜を用いてなることを特徴とする合わせガラス。」 3.取消理由の概要 当審において、請求項1及び3?7に係る特許に対して通知した取消理由は、要旨次のとおりである。 甲第1号証(特開2007-223883号公報、平成17年12月26日及び平成18年1月25日を優先権主張の日として平成18年8月25日に特許出願された特願2006-229348)に記載された発明(先願発明)が存在するところ、本件発明1及び3?7は、先願発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない出願に対してなされたものである。 4.甲第1号証の記載 甲第1号証には、次の記載がある。(なお、下線は、当審で付した。) (甲1-1): 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 湾曲した2枚のガラス板と、前記ガラス板の間に設けられた多層の樹脂製の中間膜とが積層された車両用合せガラスにおいて、 前記樹脂製の中間膜は、前記樹脂製の中間膜は、合せガラスとして車両に取り付けたときの上辺側の厚さが下辺側よりも厚いくさび状の断面形状を備え、かつ、少なくとも第一の樹脂層と第一の樹脂層より硬度の低い第二の樹脂層とを備えた多層膜であって、 前記第一の樹脂層の厚さが下辺から400mm以下の領域で0.3mm以上である ことを特徴とする車両用合せガラス。」 (甲1-2): 「【発明が解決しようとする課題】 ・・・ 【0012】 そこで本発明は、多層中間膜を備える高機能ウインドシールドを用いたHUD装置において、表示の二重像の生じない視認性に優れた車両用ウインドシールドおよびこれを用いたヘッドアップディスプレイ装置を提供することを目的とする。」 (甲1-3): 「【課題を解決するための手段】 【0013】 本発明によれば、湾曲した2枚のガラス板と、前記ガラス板の間に設けられた多層の樹脂製の中間膜とが積層された合せガラスにおいて、前記樹脂製の中間膜は、合せガラスとして車両に取り付けたときの上辺側の厚さが下辺側よりも厚いくさび状の断面形状を備え、かつ、少なくとも第一の樹脂層と第一の樹脂層より硬度の低い第二の樹脂層とを備えた多層膜であって、前記第一の樹脂層の厚さが下辺から400mm以下の領域で0.3mm以上であることを特徴とする車両用合せガラスを提供する。 【0014】 本発明の第2の態様は、前記中間膜は、前記第二の樹脂層を第一の樹脂層が挟持した三層からなる中間膜である態様1に記載の車両用合せガラスを提供する。」 (甲1-4): 「【発明の効果】 【0023】 本発明は、多層中間膜を備える高機能ウインドシールをと用いたHUD装置における表示の二重像を解消し、視認性の高い車両用ウインドシールドおよびこれを用いたHUD装置を提供することが可能にした。 【0024】 これにより、従来組み合わせることが困難であった、遮音合せガラス等の硬度の低い層を中間膜に備えた高機能ウインドシールドの採用とウインドシールドのくさび状の断面としてHUD装置の二重像防止することを両立した。」 (甲1-5): 「【発明を実施するための最良の形態】 【0038】 ここで、本発明について図を参照しながら、遮音合せガラスを用いたウインドシールドおよびこれを用いたHUD装置を例に説明する。 ・・・ 【0039】 また、遮音合せガラスとは、車外側から合せガラスに入射する自動車の走行時に発生する様々な音やエンジン音の音波と合せガラスの振動との共鳴を抑制して、音の伝わりを遮蔽することか可能な合せガラスである。特に、自動車走行時の風きり音、ワイパー等の振動音および車体のきしみ音等に多く含まれ、搭乗者にとって極めて不快な音である周波数5,000Hz付近の音を効果的に遮蔽し、車内における音響快適性を向上させる。 【0040】 [第1の実施形態] 図1および図2は、本発明に係る合せガラスの構成の一例を示す断面図、および、本発明に係る合せガラスを用いたヘッドアップディスプレイ装置の模式図である。 【0041】 図1に示すように、合せガラス10は、2枚の湾曲したガラス板11aおよび11bの間に樹脂製の多層中間膜12が挟持される。ガラス板11の厚さは均一であり、中間膜12は、上辺側が厚く、下辺側が薄いくさび状の断面を有する。ガラス板11は、くさび状の中間膜12を挟持するように固着されるため11aの表面である1面、2面と11bの表面である3面、4面は非平行に配設される。その結果、中間膜12との界面をなす2面と3面によりガラス板の角度が規定され、合せガラス10は、くさび状の断面をなす。 【0042】 中間膜12は、ガラス板11aの2面と、11bの3面とに固着される表面層12bおよび12c(第一の樹脂層)と、表面層に挟持される遮音層12c(第二の樹脂層)を備えた三層からなる多層膜である。表面層12aおよび12bは、上辺側が厚く、下辺側が薄いくさび状の断面を有し、遮音層12cは、表面層より硬度の低い樹脂によって形成されている。また、表面層12aおよび12bは、下辺から400mm以下の領域、または、表示領域内で0.3mm以上の厚さを備える。 ・・・ 【0049】 くさび状の中間膜断面の最小角度は、0.25mrad以上で二重像防止効果が得られ、矩形の中間膜を略台形形状に伸展する際の厚さのバラツキを考慮すると0.3mrad以上が好ましく、膜厚精度を担保することが可能であれば0.4mrad以上がさらに好ましく、良好な二重像防止効果が得られる。 【0050】 くさび状の中間膜断面の最大角度は、1.8mrad以下で二重像を防止することが可能であるが、0.9mrad以下が好ましい。二重像以外の歪み防止などの表示品質が向上する。また、湾曲したガラス板の曲率や表示距離などのHUD装置の構成への依存性が減少し、様々な表示装置の構成に対応化可能になる。矩形の中間膜を略台形形状に伸展する際の厚さのバラツキを考慮すると0.7mrad以下がより好ましく、膜厚精度を担保することが可能であれば0.6mrad以下がさらに好ましい。機能を発揮する最低限の膜厚とするが可能になり、軽量かつ経済性に優れたHUD装置20に適した合せガラスおよびこれを用いたHUD装置を提供可能となるためである。 【0051】 ウインドシールドが形成された際のくさび状の断面の角度変化による合せガラスの厚み変化は、1mradが断面1m当たり約1mmに相当する。本発明における中間膜の下辺側の厚みは約0.7mm以上であるため、通常の乗用自動車のウインドシールドにおいて、中間膜の上辺の厚みは、0.85?2.5mmとすることが可能であり、好ましくは0.9?1.8mm、さらに好ましくは約1.1?1.3mmである。合せガラス10の厚さは、ガラス板の厚さに依存するが、中間膜を挟持するガラス板は、公知のものが使用可能であるが、1?3mmのガラス板が好適である。 ・・・ 【0054】 このとき、中間膜の表面層12aおよび12bとガラス板11aおよび11bは屈折率がほぼ等しくなるように構成され、光学的な歪は生じない。また、遮音層12cの厚さは0.5mm以下とすると、実際の表示に影響しない程度に抑制することができる。また、遮音層12cの厚さは0.1mmとすることがさらに好ましく、視認可能な光学的歪はほぼ発生しない。これらにより本発明の構成では、代表的な高機能合せガラスである遮音合せガラスと、二重像の発生しないHUD装置を両立することが可能になった。 ・・・ 【0058】 中間膜の表面層12aおよび12bは、公知の透明樹脂が利用可能であるが、ポリビニルブチラールまたはポリエチレンテレフタレートが好適である。また、遮音層12cは、中間膜12の製造しやすさの観点から、単独でフィルム状の形状を維持できる材料を用いて作製することが好ましく、例えばPVB改質材料、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)系材料、ウレタン樹脂材料、塩化ビニル樹脂材料、シリコーン樹脂材料等を用いるとよい。 ・・・ 【0060】 また、中間膜の表面層12aおよび12bと遮音層12cの硬度の差は、相対値として表せるが、その硬度は層の組成により変化させることができる。例えば、PVBフィルムであれば可塑剤の添加比率が10重量%以上異なることが好ましい。また、そのときの可塑剤の添加量は、表面層で30重量%、遮音層で40%程度が好ましい。 ・・・ 【0074】 また、中間膜12に赤外線遮蔽機能を備えてもよい。表面層12aおよび12bや遮音層12cに赤外線遮蔽性微粒子(以下、単に微粒子という)を分散配合する方法が好適に利用できる。分散配合される微粒子の平均粒子径は、0.2μm以下が好ましく、微粒子の材料としては、Re、Hf、Nb、Sn、Ti、Si、Zn、Zr、Fe、Al、Cr、Co、Ce、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moの金属、酸 化物、窒化物、硫化物、珪素化合物、またはこれらにSbもしくはFをドープした無機系微粒子、フタロシアニン系等の有機系赤外線吸収剤を用いることもでき、これらの微粒子を単独物または複合物として使用できる。」 (甲1-6): 「【0089】 [第3の実施形態] 図5は、本発明に係る合せガラスの構成の一例を示す断面図である。第一の実施形態と同様に中間膜12は、上辺側が厚く、下辺側が薄いくさび状の断面を有し、ガラス板11は、くさび状の中間膜を挟持するように固着される。その結果、合せガラス10はくさび状の断面をなす。 【0090】 中間膜は、表面層12aおよび12bに挟持される遮音層12cを含む多層膜であり、ガラス板11aの2面と、11bの3面とに固着され、合せガラス10を形成する。表面層12aおよび12bとこれに挟持される遮音層12cは共に、上辺側が厚く、下辺側が薄いくさび状の断面を有し、表面層より硬度の低い樹脂によって形成されている。 ・・・ 【0094】 中間膜12は、表面層の形成材料遮音層の形成材料をサンドイッチする形で、3層の形成材料を共押出成形して、3層構成の中間膜12を形成することができる。他に3層の形成材料を別個に押出成形して各層を膜状に形成した後に、各層を所望の積層順序で熱圧着することで、3層構成の膜にできる。表面層および遮音層には、可塑剤などの添加剤を含んでもよい、具体的には、特開2000-272936号公報に開示された方法が好ましい。 【0095】 特開2000-272936号公報によれば、遮音層12cは以下のように作製できる。熱可塑性樹脂としてPVB-c(ブチラール化度:60.2モル%、アセチル基量:11.9モル%)100部に対し、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート(3GH)60部を添加し、ミキシングロールで充分に混練した後、プレス成形機を用いて、150℃で30分間プレス成形し、厚さ0.2mmの第一層を作製できる。表面層12aおよび12bは、熱可塑性樹脂としてポリビニルブチラール樹脂{PVB-a(ブチラール化度:65.9モル%、アセチル基量:0.9モル%)}100部に対し、可塑剤として3GH40部を添加し、ミキシングロールで充分に混練した後、プレス成形機を用いて、150℃で30分間プレス成形し、厚さ0.2mm、0.4mmの第二層、第三層を作製できる。 ・・・ 【0104】 図8は、伸展によりくさび状の断面形成する際の伸展前後の中間膜の他の一例を示した断面模式図である。図8(A)に示した中間膜12の伸展前の断面において、表面層12aおよび12bとこれに挟持される遮音層12cはほぼ均一な厚さで、遮音層12cが変形するのに十分な厚みを供える。図7と同様に中間膜の側辺を伸展することにより、積層された三層が同時に伸展され、図8(B)に示したように三層全てがくさび形状を有するくさび状の断面の中間膜が形成される。」 (甲1-7): 「 」 5.判断 ア 前記4.の摘記事項、特に、(甲1-5)によれば、甲第1号証の段落【0054】には、「遮音層12cの厚さは0.5mm以下とすると、実際の表示に影響しない程度に抑制することができる。また、遮音層12cの厚さは0.1mmとすることがさらに好ましく、視認可能な光学的歪はほぼ発生しない。」と、合わせガラス用中間膜の遮音層の厚さに関する説明があるが、これは、段落【0040】冒頭の記載から明らかなように、あくまで「第1の実施形態」についての説明である。 イ 一方、前記4.の(甲1-6)ないし(甲1-7)によれば、甲第1号証には、「断面形状が楔形の2枚の保護層により、断面形状が楔形の遮音層が狭持されている」構成を有する態様が、「第3の実施形態」として説明されている。しかし、この第3の実施形態においては、断面形状が楔形の遮音層(12c)の最小厚さについて記載されているところはない。 ウ また、甲第1号証には、第1の実施形態における遮音層12c(断面形状が矩形であり楔形ではない)の厚さを、第3の実施形態における断面形状が楔形の遮音層にそのまま適用し得る旨の記載や示唆はない。 エ したがって、甲第1号証には、合わせガラス用中間膜であって、「断面形状が楔形の2枚の保護層により、断面形状が楔形の遮音層が狭持されている」構成を有し、かつ、その「遮音層の最小厚さが20μm以上であ」る構成、すなわち、本件発明1及び3?7が有する構成が記載されているということはできないし、記載されているに等しいということもできない。 オ よって、本件発明1及び3?7は、甲第1号証に記載された発明と同一であるということはできない。 6.むすび 前記5のとおりであるから、前記取消理由によっては、請求項1及び3?7に係る特許を取り消すことができない。 また、他に請求項1及び3?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-08-03 |
出願番号 | 特願2013-202431(P2013-202431) |
審決分類 |
P
1
652・
16-
Y
(C03C)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 吉川 潤 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
後藤 政博 板谷 一弘 |
登録日 | 2015-07-24 |
登録番号 | 特許第5782084号(P5782084) |
権利者 | 積水化学工業株式会社 |
発明の名称 | 合わせガラス用中間膜及び合わせガラス |
代理人 | 森住 憲一 |
代理人 | 特許業務法人 安富国際特許事務所 |
代理人 | 川添 雅史 |