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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1319859
審判番号 不服2014-8269  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-07 
確定日 2016-09-16 
事件の表示 特願2012-522834「分散型プレディケート予測を実現するための方法、システム、およびコンピュータによってアクセス可能な媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月17日国際公開、WO2011/031361、平成25年 1月 7日国内公表、特表2013-500539〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、2010年6月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2009年9月9日、米国)を国際出願日とする出願であって、
平成24年1月26日付けで特許法第184条の5第1項の規定による書面、及び、特許法第184条の4第1項の規定による翻訳文が提出されるとともに、同日付けで審査請求がなされ、
平成25年9月6日付けで拒絶理由通知(平成25年9月10日発送)がなされ、
これに対して平成25年12月9日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、
平成25年12月27日付けで、同年9月6日付けの拒絶理由通知書に記載した理由1(特許法第36条第4項第1号)、理由2(同法同条第6項第1号)、及び理由3(同法同条第6項第2号)によって拒絶査定(平成26年1月7日謄本発送・送達)がなされたものである。

これに対して、「原査定を取り消す。本願の発明は特許すべきものとする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨として、平成26年5月7日付けで審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、
これに対して同年7月3日付けで審査官により特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)がなされたものである。


2.特許請求の範囲

本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成26年5月7日付の手続補正書により以下のように補正された。

「 【請求項1】
複数のプロセッサコアを含むマルチコアプロセッサを備えるコンピューティングシステムであって、前記複数のプロセッサコアの各々がプレディケート予測器を備え、少なくとも1つのプレディケート予測器が、前記複数のプロセッサコアのうちの対応するプロセッサコアにマッピングされたプレディケート命令の出力を予測するように構成され、前記プレディケート命令は、命令ブロックに含まれる分岐命令から生成され、前記命令ブロックは、前記複数のプロセッサコアのうちのどのプロセッサコアが前記分岐命令を実行するのに割り当てられるかを決定するブロックアドレスを含み、前記予測は、前記分岐命令内に符号化された情報に基づき、前記分岐命令内に符号化された前記情報は、概略プレディケート経路を表す、コンピューティングシステム。
【請求項2】
前記複数のプロセッサコアの少なくとも1つのプロセッサコアが、前記分岐命令を備えるアプリケーションプログラムを実行するように構成される、請求項1に記載のコンピューティングシステム。
【請求項3】
コンパイラの実行により、前記分岐命令に前記情報が符号化される、請求項1に記載のコンピューティングシステム。
【請求項4】
前記マルチコアプロセッサが、エクスプリジット・データ・グラフ・エグゼキューション(explicit data graph execution)マイクロアーキテクチャを備える、請求項1に記載のコンピューティングシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つのプレディケート予測器が、基本予測器およびグローバル履歴レジスタを備え、前記予測は、前記基本予測器および前記グローバル履歴レジスタにさらに基づく、請求項1に記載のコンピューティングシステム。
【請求項6】
前記グローバル履歴レジスタが、コアローカルプレディケート履歴レジスタを備え、前記コアローカルプレディケート履歴レジスタは、前記対応するプロセッサコアの前記プレディケート予測器に関するデータを記憶するように構成される、請求項5に記載のコンピューティングシステム。
【請求項7】
前記グローバル履歴レジスタが、グローバルブロック履歴レジスタを備え、前記グローバルブロック履歴レジスタは、複数の命令ブロックに関する複数のエントリを記憶するように構成され、前記複数のエントリの各々は、関連する分岐命令に対応する予測された終了コードを含む、請求項5に記載のコンピューティングシステム。
【請求項8】
前記グローバル履歴レジスタが、
前記対応するプロセッサコアの前記プレディケート予測器に関するデータを記憶するように構成されるコアローカルプレディケート履歴レジスタと、
複数の命令ブロックに関する複数のエントリを記憶するように構成されるグローバルブロック履歴レジスタとを備え、
前記複数のエントリの各々は、関連する分岐命令に対応する予測された終了コードを含む、請求項5に記載のコンピューティングシステム。
【請求項9】
マルチコアプロセッサ内の複数のプロセッサコアの各々に対してプレディケート予測器を使用することと、
前記複数のプロセッサコアのうちの対応するプロセッサコアにマッピングされたプレディケート命令の出力を予測することと、
を含み、
少なくとも1つのプレディケート予測器が、基本予測器およびグローバル履歴レジスタを含み、前記グローバル履歴レジスタが、複数の命令ブロックに関する複数のエントリを記憶するように構成されるグローバルブロック履歴レジスタを含み、前記複数のエントリの各々は、関連する分岐命令に対応する予測された終了コードを含み、
前記プレディケート命令は、分岐命令から生成され、前記プレディケート命令の前記出力を予測することは、前記分岐命令内に符号化された情報に基づき、前記プレディケート命令の前記出力を予測することは、前記基本予測器および前記グローバル履歴レジスタにさらに基づき、前記分岐命令内に符号化された前記情報は、概略プレディケート経路を表す、
マルチコアプロセッサ内でプレディケート予測を提供する方法。
【請求項10】
前記複数のプロセッサコアの少なくとも1つのプロセッサコアによってアプリケーションプログラムを実行することをさらに含み、前記アプリケーションプログラムが、前記分岐命令を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
コンパイラを用いて、前記分岐命令に前記情報を符号化することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記分岐命令は、命令ブロックに含まれ、前記命令ブロックは、ブロックアドレスを含み、前記ブロックアドレスを用いて、どのプロセッサコアが前記分岐命令を実行するかを決定することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
マルチコアプロセッサコンピューティングシステム内でプレディケート予測を提供するためのコンピュータ実行可能命令が記憶された、コンピュータによってアクセス可能な媒体であって、処理構成が前記コンピュータ実行可能命令を実行するときに処理手順を実行するように構成され、前記処理手順が、
マルチコアプロセッサの複数のプロセッサコアの各々に対してプレディケート予測器を使用することであって、前記プロセッサコアの各々が少なくとも1つのプレディケート予測器を備える、使用することと、
前記複数のプロセッサコアのうちの対応するプロセッサコアにマッピングされたプレディケート命令の出力を予測することと、
を含み、前記プレディケート命令は、命令ブロックに含まれる分岐命令から生成され、
前記プレディケート命令の前記出力を予測することは、前記分岐命令内に符号化された情報に基づき、前記命令ブロックは、前記複数のプロセッサコアのうちのどのプロセッサコアが前記分岐命令を実行するのに割り当てられるかを決定するブロックアドレスを含み、
前記分岐命令内に符号化された前記情報は、概略プレディケート経路を表す、
コンピュータによってアクセス可能な媒体。
【請求項14】
複数のプロセッサコアを含むマルチコアプロセッサを備えるコンピューティングシステムであって、前記複数のプロセッサコアの各々がプレディケート予測器を備え、少なくとも1つのプレディケート予測器が、前記複数のプロセッサコアのうちの対応するプロセッサコアにマッピングされたプレディケート命令の出力を予測するように構成され、前記少なくとも1つのプレディケート予測器が、基本予測器およびグローバル履歴レジスタを備え、前記グローバル履歴レジスタが、前記対応するプロセッサコアの前記プレディケート予測器に関するデータを記憶するように構成されるコアローカルプレディケート履歴レジスタと、複数の命令ブロックに関する複数のエントリを記憶するように構成されるグローバルブロック履歴レジスタとを備え、前記複数のエントリの各々は、関連する分岐命令に対応する予測された終了コードを含み、前記プレディケート命令は、分岐命令から生成され、前記予測は、前記分岐命令内に符号化された情報に基づき、前記予測は、前記基本予測器および前記グローバル履歴レジスタにさらに基づき、前記情報は、概略プレディケート経路を表す、
コンピューティングシステム。
【請求項15】
マルチコアプロセッサ内の複数のプロセッサコアの各々に対してプレディケート予測器を使用することと、
前記複数のプロセッサコアのうちの対応するプロセッサコアにマッピングされたプレディケート命令の出力を予測することと、
を含み、
前記プレディケート命令は、命令ブロックに含まれる分岐命令から生成され、前記命令ブロックは、前記複数のプロセッサコアのうちのどのプロセッサコアが前記分岐命令を実行するのに割り当てられるかを決定するブロックアドレスを含み、前記プレディケート命令の前記出力を予測することは、前記分岐命令内に符号化された情報に基づき、前記分岐命令内に符号化された前記情報は、概略プレディケート経路を表す、
マルチコアプロセッサ内でプレディケート予測を提供する方法。」


3.拒絶理由通知及び拒絶査定の概要

上記1.に示した、平成25年9月6日付けで通知した拒絶の理由、及び、平成25年12月27日付けでした拒絶査定は、各々以下のとおりである。

(拒絶の理由)
「理由1
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


本願明細書等全体を考慮すると、本願においては、分岐命令を有するアプリケーションプログラムに対してif-convertを行って、predicate付き命令を有するプログラムとしたものを、マルチコアプロセッサにて複数のコアに分散して実行する際に、(1つのコアにpredicateの値の予測を集中的に行わせるのではなく、)複数のコアのそれぞれにpredicateの値の予測を分散的に行わせて、プログラムを複数のコアにて分散して実行することを実現することを、解決すべき課題としている。
しかしながら、本願明細書等全体を検討しても、上記した課題を解決するための実施可能な態様がひとつとして明確に示されているとはいえない。
具体的に言えば、・・・(中略)・・・
以上で示したように、本願の全ての請求項(請求項1乃至20)に関して、本願は特許法第36条第4項第1号でいう実施可能要件を満たしているとはいえない。

理由2
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


本願明細書等全体を考慮すると、本願においては、分岐命令を有するアプリケーションプログラムに対してif-convertを行って、predicate付き命令を有するプログラムとしたものを、マルチコアプロセッサにて複数のコアに分散して実行する際に、(1つのコアにpredicateの値の予測を集中的に行わせるのではなく、)複数のコアのそれぞれにpredicateの値の予測を分散的に行わせて、プログラムを複数のコアにて分散して実行することを実現することを、解決すべき課題としている。
そして、上記理由1に示したように実施可能要件を満たすほどには本願明細書等の記載はされていないものの、本願明細書等には、一応、上記した課題を解決する手段として、分岐命令を有するアプリケーションプログラムをコンパイルする際に、分岐命令に対してapproximate predicate path infomation(訳文では、概略プレディケート経路情報)を静的に生成して、当該approximate predicate path infomationを当該分岐命令にencodeしておいた上で、approximate predicate path infomation付きの命令を適宜各コアに分配し、各コアでは、このapproximate predicate path infomationを用いてlocal exit history 401やglobal exit history 402なるものを生成し、(従来技術ではtaken/not takenに関する情報をインデックスとして用いていたことに代えて、)local exit history 401やglobal exit history 402をインデックスとして用いてcore-local prediction table412やglobal prediction table406?409から何らかの値を読み出し、読み出した値を加算して、加算した結果に基づいてpredicateの値の予測を行うことが示されていると推察される。
これに対し、本願の請求項1乃至20の記載は、いずれも、断片的な構成のみを示しているに過ぎず、本願の請求項1乃至20には上記で示したような課題を解決するための一貫した手段が適切に反映されているとはいえない。そのため、本願の請求項1乃至20は明細書の発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであり、本願の請求項1乃至20に関して、本願は特許法第36条第6項第1号でいうサポート要件を満たしていない。

理由3
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


1.請求項2、請求項3、請求項13に「プレディケート経路情報」という語が用いられているが、このような語を用いるだけでは「プレディケート経路情報」なるものが技術的にいかなるものであるのかが不明である。

2.請求項3に「前記コアの少なくとも1つが、前記分岐命令に基づいて前記プレディケート経路情報を符号化するように構成されるコンパイラである」と記載されている。
しかしながら、「コンパイラ」という語は通常はコンパイルを行うためのプログラムそのものを意味する用語であるため、請求項3の上記で指摘した箇所のような「コア」が「コンパイラ」であるかのような記載は技術的に正確でない。

(例えば、請求項3の「前記コアの少なくとも1つが、前記分岐命令に基づいて前記プレディケート経路情報を符号化するように構成されるコンパイラである」という記載に代えて、「前記プレディケート経路情報は、コンパイラを実行することにより、前記分岐命令上に符号化されるものである」とすれば、この2.の拒絶理由は解消するものと考えられる。)

3.請求項6、請求項8、請求項9、請求項10、請求項16、請求項18、請求項19に「グローバル履歴レジスタ」という語が用いられているが、このような語を用いるだけでは「グローバル履歴レジスタ」なるものが技術的にいかなるものであるのかが不明である。特に、どのような意味で「グローバル」であり、何の「履歴」に関するものであるのかが不明である。

4.請求項7、請求項17に「幾何履歴長予測器」という語が用いられているが、このような語を用いるだけでは「幾何履歴長予測器」なるものが技術的にいかなるものであるのかが不明である。特に、ここにおいて「幾何」という語がどのような意味合いを有するのかが不明であり、何の「履歴長」に関するものであるのかが不明であり、「履歴長予測器」という文言上、履歴長を予測するかのように解釈も可能であるが、履歴長を予測するとは技術的にどのような意味を有するのかが不明である。

5.請求項8、請求項10、請求項18に「コアローカルプレディケート履歴レジスタ」という語が用いられているが、このような語を用いるだけでは「コアローカルプレディケート履歴レジスタ」なるものが技術的にいかなるものであるのかが不明である。特に、どのような意味で「コアローカル」であるのかが不明である。

6.請求項9、請求項11、請求項19に「グローバルブロック履歴レジスタ」という語が用いられているが、このような語を用いるだけでは「グローバルブロック履歴レジスタ」なるものが技術的にいかなるものであるのかが不明である。特に、どのような意味で「グローバル」であるのかが不明であり、「ブロック履歴」とは何を意味するのかが不明である。

7.方法の発明を構成するひとつのステップとして、請求項12に「マルチコアプロセッサ内の複数のプロセッサコアの各々に対してプレディケート予測器を提供すること、」と記載されている。
しかしながら、請求項12の上記で指摘した箇所の記載が、プロセッサコアにプレディケート予測器というハードウェアが備えられていることを意味するとすれば、請求項12の上記で指摘した箇所の記載は実質的に物の発明の構成要素を示したものといえるのであって、請求項12の上記で指摘した箇所の記載は方法の発明を構成するひとつのステップと示したものとしては適切であるとはいえない。

8.請求項12に「複数の分岐命令からプレディケート予測を生成する」と記載されている。
しかしながら、この記載の意味するところが明確でない。なお、明細書等に記載された実施形態では、上記理由1や上記理由2で示したような構成を用いてプレディケート予測を行うことが意図されていると推察されるところ、「複数の分岐命令からプレディケート予測を生成する」という文言が、明細書等に記載された実施形態とどのように対応付けられるのかが不明であり、また、「複数の分岐命令からプレディケート予測を生成する」という文言自体も明確なものとはいえない。

9.コンピュータによってアクセス可能な媒体に記憶されるコンピュータ実行可能命令を実行するときに実現される処理手順(方法)のひとつのステップとして、請求項20に「前記マルチコアプロセッサの複数のプロセッサコアの各々に対してプレディケート予測器を提供することであって、前記プロセッサコアの各々が少なくとも1つのプレディケート予測器を備える、提供することと、」と記載されている。
しかしながら、請求項20の上記で指摘した箇所の記載が、プロセッサコアにプレディケート予測器というハードウェアが備えられていることを意味するとすれば、請求項20の上記で指摘した箇所の記載は実質的に物の発明の構成要素を示したものといえるのであって、請求項20の上記で指摘した箇所の記載は処理手順(方法)を構成するひとつのステップと示したものとしては適切であるとはいえない。」

(拒絶査定)
「 この出願については、平成25年 9月 6日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、理由2及び理由3によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
理由1について
出願人は平成25年12月9日付けで意見書を提出し、同意見書において、平成25年9月6日付け拒絶理由通知書における理由1の拒絶理由、つまり、本願は特許法第36条第4項第1号でいう実施可能要件に違反する旨の拒絶理由に対する反論の主張を行っている。しかしながら、下記に具体的に示すように、出願人の意見書における主張を考慮しても、平成25年9月6日付け拒絶理由通知書における理由1の拒絶理由を覆すに至らない。・・・(中略)・・・

理由2について
平成25年9月6日付け拒絶理由通知書における理由2で指摘したように、本願明細書等全体を考慮すると、本願においては、分岐命令を有するアプリケーションプログラムに対してif-convertを行って、predicate付き命令を有するプログラムとしたものを、マルチコアプロセッサにて複数のコアに分散して実行する際に、(1つのコアにpredicateの値の予測を集中的に行わせるのではなく、)複数のコアのそれぞれにpredicateの値の予測を分散的に行わせて、プログラムを複数のコアにて分散して実行することを実現することを、解決すべき課題としている。
そして、平成25年9月6日付け拒絶理由通知書の理由1に示したように実施可能要件を満たすほどには本願明細書等の記載はされていないものの、本願明細書等には、一応、上記した課題を解決する手段として、分岐命令を有するアプリケーションプログラムをコンパイルする際に、分岐命令に対してapproximate predicate path infomation(訳文では、概略プレディケート経路情報)を静的に生成して、当該approximate predicate path infomationを当該分岐命令にencodeしておいた上で、approximate predicate path infomation付きの命令を適宜各コアに分配し、各コアでは、このapproximate predicate path infomationを用いてlocal exit history 401やglobal exit history 402なるものを生成し、(従来技術ではtaken/not takenに関する情報をインデックスとして用いていたことに代えて、)local exit history 401やglobal exit history 402をインデックスとして用いてcore-local prediction table412やglobal prediction table406?409から何らかの値を読み出し、読み出した値を加算して、加算した結果に基づいてpredicateの値の予測を行うことが示されていると推察される。
平成25年12月9日付け手続補正により、本願の各請求項は補正されたものの、依然として、手続補正後の本願の請求項1乃至17は、上記で上記で示したような課題を解決するための一貫した手段が適切に反映されているとはいえない。そのため、手続補正後の本願の請求項1乃至17は明細書の発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであり、手続補正後の本願の請求項1乃至17に関して、依然として、本願は特許法第36条第6項第1号でいうサポート要件を満たしていない。

理由3について
平成25年9月6日付け拒絶理由通知書における理由3で指摘した拒絶理由のうち、1.と3.と5.と6.の拒絶理由は、平成25年12月9日付け手続補正後も解消していない。」


4.平成26年5月7日付け手続補正書に係る本願発明に対する検討

本願発明が、上記3.に示した拒絶査定の理由を解消しているか否かについて以下に検討する。

4-1 理由1について

4-1-1 拒絶理由の趣旨、及び請求人の対応
上記(拒絶の理由)の趣旨は、本件で掲げた課題を解決できる態様の具体的開示がない、とするものであって、特に、分岐命令に対応して生成される「概略プレディケート経路情報」の内容を、本件明細書の発明の詳細な説明では、具体的に示していない(どのような場合に生成され、どのような値を有し、どのような意味を持つものか、を問うたもの)ため明らかとされていない、とするものである。
当該理由1に対し、請求人は拒絶査定後の手続として、平成26年5月7日付けで手続補正書は提出しているものの、明細書の発明の詳細な説明に対してなんら追加的に補正を行っていない。

4-1-2 請求人の主張の整理
平成25年12月9日付け意見書では、一例として【0021】-【0023】、【0026】を示しつつ、
『概略プレディケート経路情報は、終了コード内に符号化されるものであり、命令ブロックの特定の終了に繋がるデータフロー分析に基づくものです。』
と述べている。
また、審判請求書では、
『平成25年12月9日付け意見書で述べたとおり、(1)本願の発明の詳細な説明は、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されており(特許法36条4項1号)、(2)各請求項は、発明の詳細な説明に記載されたものであり(特許法36条6項1号)、(3)各請求項は、明確である(特許法36条6項2号)ものと思料いたします。
審判官殿におかれましては、平成25年12月9日付け意見書を参照のうえ、ご審理くださいますよう宜しくお願い申し上げます。』
と述べ、新たな意見は示していない。

4-1-3 判断
そこで、上記2.の補正された本願発明が、拒絶査定の理由1を解消しているかについて検討する。
拒絶理由の趣旨とされた「概略プレディケート経路情報」に関する発明の詳細な説明での記載は、以下のとおりである。
・【0021】及び【0022】に、コンパイラが、当該情報を分岐命令から符号化するとしている。
・【0026】には、コンパイラは、命令ブロック中にある分岐命令の順序と、概略プレディケート経路情報の割り当てとが関連する関係(「割り当て」が、「順序」に「基づいて」なされるとした記述を参照)と、最初に限って行われてもよいとされている。
・図5の501の図示、及び、【0032】では、当該「概略プレディケート経路情報」は、コンパイラに対して予め準備された別の情報であり、分岐命令のコンパイルに「用い」られるものとして説明された記載が行われている。
それ以上の説明は、本件の発明の詳細な説明には、直接的な記述は見当たらない。

ところで、本件の請求項1に係る発明は、その記載から明らかなとおり、コンピューティングシステムを構成するマルチコアプロセッサの各々のコアに、「プレディケート予測器」なるものを備えることを特徴とする発明とされ、当該予測器は、分岐命令内に符号化された概略プレディケート経路を表す情報に基づいて、自身のコアにマッピングされた命令の出力予測を実行出力することとされたものである。

当該請求項1に係る発明は、その請求項内にプレディケート予測器の内部構成を特定できる事項を伴っていない状態で記載がなされていることは明らかである。
いずれの特許出願でも、請求しようとする発明に対し、当業者がその発明を実施できるよう、明細書の発明の詳細な説明欄に、実施を保証できる記載を求めるとしたものが、特許法第36条第4項第1項の制定趣旨であるところ、この趣旨を本件に当てはめると、発明の詳細な説明では少なくとも、分岐命令内に符号化されたとする「概略プレディケート経路情報」の具体例と、該具体例を用いてマッピング命令の出力予測が得られる証明ないし疎明が求められることになる。
ところが、上述のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、「概略プレディケート経路情報」を実際に述べた箇所は無い上、命令の出力予測を得るために行われる、「分岐命令内に符号化された概略プレディケート経路を表す情報」に対する処理内容すら開示されていない。これでは、本件出願に接する当業者が、コアに備えるべきプレディケート予測器をどのようにして作るか、また、分岐命令を含む命令ブロックから、どのようにしてプレディケート予測器に与えるべき情報を作成すればよいのかを十分に知り得る状況にないことが明らかというべきである。

従って、拒絶査定に挙げられた理由1は、補正されてもなお依然として解消されていない。

なお、当該理由1に関する請求人の回答も検討してみたが、当該「概略プレディケート経路情報」が、“終了コード内に符号化されるものである”と断定できる説明は、根拠箇所としてあげられた段落内には全く見当たらないばかりか、この回答に続く“命令ブロックの特定の終了”及び“データフロー分析”なる用語自体も、根拠箇所としてあげられた段落内のいずれにも見いだせない。
以上を総合すると、原審で採り上げた「概略プレディケート経路情報」は、どのタイミングで何によって作成されたものであり、どのような形で存在する情報とされ、システム内でどのように利用されるのかを明らかにした説明はないというべきである。
その結果、本件の各請求項に係る発明は、当該「概略プレディケート経路情報」を含む分岐命令から生成されるプレディケート命令の出力予測が、どのようになされるのかを、その出発時点から不知とされることとなり、当業者による発明の実施が困難というべきである。

4-1-4 小結
以上で示したように、本願の全ての請求項(請求項1乃至20)に係る発明に関して、特許法第36条第4項第1号でいう実施可能要件を満たしているとはいえず、原審で示した理由1は、依然として解消されていない。

4-2 理由2について

4-2-1 拒絶理由の指摘の要点整理
上記(拒絶の理由)の要点は、課題を解決するために必要な事項として考えられる諸点を例示しつつ、例示と見比べると請求項1乃至20の記載がいずれも採り上げた諸点の一部でしかない、いうなれば断片的な構成のみを示しており、課題解決のための一貫した手段が反映されていないとするものである。
当該指摘は、拒絶査定時に上記(拒絶査定)に示すとおり、平成25年12月9日付け手続補正書によって特許請求の範囲が補正されたものの、依然として課題解決のための一貫した手段が請求項1乃至17には反映されていないため、拒絶理由を覆すに足るものではないとしている。

4-2-2 請求人の主張の整理
平成25年12月9日付け意見書では、以下のとおり、
『理由2の拒絶理由についても、上記理由1と同様に、解消されているものと思料いたします。』
とのみ述べ、原審審査官が必要な事項と考え述べた諸点についてなんら言及していない。
また、審判請求書では、
『平成25年12月9日付け意見書で述べたとおり、(1)本願の発明の詳細な説明は、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されており(特許法36条4項1号)、(2)各請求項は、発明の詳細な説明に記載されたものであり(特許法36条6項1号)、(3)各請求項は、明確である(特許法36条6項2号)ものと思料いたします。
審判官殿におかれましては、平成25年12月9日付け意見書を参照のうえ、ご審理くださいますよう宜しくお願い申し上げます。』
と述べ、全く見解を示していない。

4-2-3 判断
そこで、上記2.の補正された本願発明が、拒絶査定の理由2を解消しているかについて検討する。
本件明細書及び添付図面によると、処理の流れを示す図面は図2、図3、図5の3つであり(【図面の簡単な説明】参照)、その内ブロック図で説明されたものが図2と図3であり、処理方法のフローとして図示されたものが図5になる。これらの図に関する説明は、図2が【0022】、図3が【0025】、図5が【0032】となる。
これらの説明箇所を中心に、関連する箇所も含め全体を見渡すと、随所に「・・・有してもよく」、「・・・なり得る」、「・・・使用され得る」といった、原語で“may”、“can”とされた説明文ばかりが多用され、デバイスないし手段として登場する多くの対象、例えば、原審審査官が必要と考えた、コアローカル履歴レジスタや、グローバル分岐履歴レジスタ、インデックス、予測テーブルは、発明の詳細な説明の語尾を素直に字句通りに解せば、必ずしも必要ではないとは思われるものの、図2、図3、及び図5の流れ図にも、対応する段落内にも、段階毎にいかなる処理を講じるとするのかの具体的な明記も、断定的な明記の、いずれもが見いだせない。
係る状況を鑑みると、唯一処理の具体的情報を示している箇所は、図4で図示したコアローカル履歴レジスタと予測テーブルとが連結された組合せ(図6A及び【0028】にて説明あり)や、グローバル分岐履歴レジスタと予測テーブルとが連結された組合せ(図6B及び【0029】にて説明あり)の、都合2例であれば、最終的にプレディケート予測を実行することをサポートし得る可能性があると思われる。ただし、それのみでは十分ではなく、図2中の203及び207の2箇所で、どのような処理が講じられているかも必要であることは言うまでも無い。
そして、上記2.の本件の特許請求の範囲のいずれを見ても、請求項1に記載された「プレディケート予測器」に求められる予測器自体の構成及び当該予測器に与えられる情報や出力情報を特定できる記載は見受けられず、どの請求項を採ってみても、本件の課題を解決できる水準に達した記載はない。

4-2-4 小結
以上により、本願の請求項1乃至15に係る発明は、上記で示した課題を解決するための一貫した手段が適切に反映されているとはいえず、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしているとはいえないので、原審で示した理由2は、依然として解消されていない。

4-3 理由3について

4-3-1 拒絶理由の指摘の要点整理
上記(拒絶の理由)の要点は、1.?9.とされた箇所の記載が明確でないとするものである。
当該指摘は、拒絶査定時に上記(拒絶査定)に示すとおり、平成25年12月9日付け手続補正書によって特許請求の範囲が補正されたものの、1.と3.と5.と6.の箇所は依然として解消されていないとしている。

4-3-2 請求人の主張の整理
平成25年12月9日付け意見書では、
『理由3の拒絶理由についても、上記理由1と同様に、解消されているものと思料いたします。
なお、補正前の記載において、「『コア』が『コンパイラ』であるかのような記載は技術的に正確でない」と指摘された点につきましては、「コンパイラの実行により?」との記載に変更しております。
また、方法に関する記載における、補正前の「プレディケート予測器を提供する」との記載については、「プレディケート予測器を使用する」との記載に変更しています。』
と述べ、番号毎への対応、意見の表明は直接的にはなされていない。ただし、なお書きの前半で述べた事項は、指摘事項の2.への対応であり、なお書きの後半で述べた事項は、指摘事項の7.及び9.への対応と見られる。

また、審判請求書では、
『平成25年12月9日付け意見書で述べたとおり、(1)本願の発明の詳細な説明は、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されており(特許法36条4項1号)、(2)各請求項は、発明の詳細な説明に記載されたものであり(特許法36条6項1号)、(3)各請求項は、明確である(特許法36条6項2号)ものと思料いたします。
審判官殿におかれましては、平成25年12月9日付け意見書を参照のうえ、ご審理くださいますよう宜しくお願い申し上げます。』
と述べ、新たな主張を示すものではない。

4-3-3 判断
まず、請求項の記載不備とされ、依然として解消されていないとした拒絶査定の対象となった、上記4-3-1に記載の、1.と3.と5.と6.の箇所を以下に再掲する。(ただし、請求項の番号は、出願当初の番号のまま。)

「1.請求項2、請求項3、請求項13に「プレディケート経路情報」という語が用いられているが、このような語を用いるだけでは「プレディケート経路情報」なるものが技術的にいかなるものであるのかが不明である。

3.請求項6、請求項8、請求項9、請求項10、請求項16、請求項18、請求項19に「グローバル履歴レジスタ」という語が用いられているが、このような語を用いるだけでは「グローバル履歴レジスタ」なるものが技術的にいかなるものであるのかが不明である。特に、どのような意味で「グローバル」であり、何の「履歴」に関するものであるのかが不明である。

5.請求項8、請求項10、請求項18に「コアローカルプレディケート履歴レジスタ」という語が用いられているが、このような語を用いるだけでは「コアローカルプレディケート履歴レジスタ」なるものが技術的にいかなるものであるのかが不明である。特に、どのような意味で「コアローカル」であるのかが不明である。

6.請求項9、請求項11、請求項19に「グローバルブロック履歴レジスタ」という語が用いられているが、このような語を用いるだけでは「グローバルブロック履歴レジスタ」なるものが技術的にいかなるものであるのかが不明である。特に、どのような意味で「グローバル」であるのかが不明であり、「ブロック履歴」とは何を意味するのかが不明である。」

いずれの指摘箇所も、請求項で使用されている用語に対して、その技術的な意味、内容が明確でないとするものである。
特に、前記1.で採り上げた「プレディケート経路情報」は、既に上記「4-1 理由1について」で検討したとおり、そもそも発明の詳細な説明には十分な説明がなされていないとされたものであって、補正等の法定手続では解消しがたいというべきであり、上記「1.手続の経緯」に示す2回の手続補正によっても、なんら技術的に内容を特定できるに足る記載の付加は図られていない。
そして、請求人も、平成25年12月9日付け意見書で一度だけ、指摘された箇所全てではなく、一部の箇所のみ対応したに留まっている。
加えて、「グローバル履歴レジスタ」、「コアローカルプレディケート履歴レジスタ」、「グローバルブロック履歴レジスタ」の3箇所についても、平成26年5月7日付け手続補正書による特許請求の範囲の請求項5-9、14に記載されていることを確認したが、少なくとも請求項5に記載の「グローバル履歴レジスタ」に関しては、技術的に如何なるものかの記載はなされていない。

従って、理由3についても、全ての不備が解消されているとは認められない。

4-3-4 小結
以上により、本願の請求項1乃至15に係る発明は、上記で示した「プレディケート経路情報」に関する技術的に十分な記載を伴っていないとする不備を含んでおり、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしているとはいえず、原審で示した理由3は、依然として解消されていない。


5.むすび

したがって、本件請求項1-15に係る発明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、同法同条第6項第1号に規定する要件、同法同条第6項第2号に規定する要件をも満たしていない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-12 
結審通知日 2015-03-13 
審決日 2015-03-24 
出願番号 特願2012-522834(P2012-522834)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G06F)
P 1 8・ 536- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清木 泰  
特許庁審判長 石井 茂和
特許庁審判官 田中 秀人
西村 泰英
発明の名称 分散型プレディケート予測を実現するための方法、システム、およびコンピュータによってアクセス可能な媒体  
代理人 内藤 和彦  
代理人 土屋 徹雄  
代理人 大貫 敏史  
代理人 江口 昭彦  
代理人 稲葉 良幸  
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