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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1319981
審判番号 不服2014-11050  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-11 
確定日 2016-09-20 
事件の表示 特願2008-283461「垂直磁気記録ヘッドおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月28日出願公開、特開2009-117027〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成20年11月4日(パリ条約に基づく優先権主張 平成19年11月2日 米国)の出願であって、平成25年3月15日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年7月19日付けで手続補正がなされたが、平成26年2月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月11日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし22に係る発明は、平成25年7月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし22に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
基体の上に形成されたテーパ主磁極層と、前記テーパ主磁極層の上に形成されたテーパ非磁性上部形状層と、前記テーパ主磁極層および前記テーパ非磁性上部形状層の上に形成されると共に一定の厚さを有する記録ギャップ層と、前記記録ギャップ層の上に形成されたトレーリングシールドと、を備えた垂直磁気記録ヘッドであって、
(a)前記テーパ主磁極層は、下側部分および上側部分を有し、
前記下側部分は、エアベアリング面に磁極先端部を有すると共に、前記基体の表面に平行な上面を有し、
前記上側部分は、前記エアベアリング面における一端部と前記一端部よりも前記エアベアリング面から離れた側に位置すると共に前記一端部よりも前記基体から離れた側に位置する他端部との間における傾斜面と、前記他端部において前記傾斜面に連結されると共に前記基体の表面に平行な上面と、を有し、
(b)前記テーパ非磁性上部形状層は、前記テーパ主磁極層の上側部分の上に配置されていると共に、前記上側部分の他端部に一致する一端部と前記一端部よりも前記エアベアリング面から離れた側における所定の距離に位置すると共に前記一端部よりも前記基体から離れた側に位置する他端部との間における傾斜面と、前記他端部において前記傾斜面に連結されると共に前記基体の表面に平行な上面と、を有し、
前記テーパ主磁極層の傾斜面と前記テーパ非磁性上部形状層の傾斜面とは、同一面内に位置し、
(c)前記記録ギャップ層は、前記テーパ主磁極層の傾斜面および前記テーパ非磁性上部形状層の傾斜面の上に配置された第1部分と、前記テーパ非磁性上部形状層の上面の上に配置された第2部分と、を有し、
(d)前記トレーリングシールドは、前記記録ギャップ層の第1部分の上に配置されていると共に、前記エアベアリング面に沿った第1側面と、前記エアベアリング面から離れた側における前記所定の距離に位置すると共に前記第1側面に対向する第2側面と、前記記録ギャップ層の第1部分に隣接した第3側面と、前記第3側面に対向すると共に前記エアベアリング面に垂直な第4側面と、を有する
ことを特徴とする垂直磁気記録ヘッド。」

3.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-242210号公報(公開日:平成19年9月20日。以下、「引用例」という。)には、「垂直磁気記録用磁気ヘッド」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
(1)「【請求項1】
記録媒体に対向する媒体対向面と、
前記記録媒体に記録する情報に応じた磁界を発生するコイルと、
前記媒体対向面に配置された端面を有し、前記コイルによって発生された磁界に対応する磁束を通過させると共に、垂直磁気記録方式によって前記情報を前記記録媒体に記録するための記録磁界を発生する磁極層と、
シールドとを備えた垂直磁気記録用磁気ヘッドであって、
前記シールドは、前記媒体対向面において前記磁極層の前記端面に対して記録媒体の進行方向の前側に配置された端面を有する第1層と、前記磁極層を前記第1層との間で挟む位置に配置された第2層と、前記磁極層に接触せずに前記第1層と第2層とを連結する第1の連結部と、前記第1の連結部よりも前記媒体対向面から遠い位置において前記磁極層と前記第2層とを連結する第2の連結部とを有し、
垂直磁気記録用磁気ヘッドは、更に、非磁性材料よりなり、前記磁極層と前記第1層との間に設けられたギャップ層を備え、
前記媒体対向面において、前記第1層の前記端面は、前記磁極層の前記端面に対して、前記ギャップ層の厚みによる所定の間隔を開けて配置され、
前記磁極層の前記端面は、前記ギャップ層に隣接する辺を有し、この辺はトラック幅を規定し、
前記コイルの一部は、前記磁極層、第2層、第1の連結部および第2の連結部によって囲まれた空間を通過していることを特徴とする垂直磁気記録用磁気ヘッド。」

(2)「【0058】
以上説明したように、本実施の形態に係る磁気ヘッドは、記録媒体に対向する媒体対向面30と再生ヘッドと記録ヘッドとを備えている。再生ヘッドと記録ヘッドは、基板1の上に積層されている。再生ヘッドは記録媒体の進行方向Tの後側(スライダにおける空気流入端側)に配置され、記録ヘッドは記録媒体の進行方向Tの前側(スライダにおける空気流出端側)に配置されている。」

(3)「【0062】
磁極層12は、媒体対向面30に配置された端面を有する第1の部分と、この第1の部分よりも媒体対向面30から遠い位置に配置され、第1の部分よりも大きな厚みを有する第2の部分とを有している。第1の部分は、媒体対向面30からの距離に応じて変化しない厚みを有している。第1の部分における上面は、第2の部分における上面よりも基板1に近い位置に配置されている。そのため、ギャップ層14に接する磁極層12の上面は屈曲している。第1の部分における上面と第2の部分における上面との間の段差は、例えば0.1?0.3μmの範囲内である。また、第1の部分の厚みは、例えば0.03?0.3μmの範囲内である。」

(4)「【0067】
第1層13Aの下面は、ギャップ層14を介して磁極層12の上面に対向するように屈曲している。ギャップ層14も、磁極層12の上面に沿って屈曲している。また、第1層13Aの媒体対向面30に配置された端面の幅は、トラック幅以上である。また、図5に示したように、第1層13Aは、ギャップ層14を介して磁極層12に対向する部分を含む中央部分と、この中央部分のトラック幅方向の外側に配置された2つの側方部分とを有している。媒体対向面30に垂直な方向についての側方部分の最大の長さは、媒体対向面30に垂直な方向についての中央部分の長さよりも大きい。」

(5)「【0098】
この工程では、まず、積層体の上面全体の上に、ギャップ層14を形成する。ギャップ層14は、例えば、スパッタ法またはCVDによって形成される。CVDを用いてギャップ層14を形成する場合には、特にALCVDを用いることが好ましい。また、ALCVDを用いてギャップ層14を形成する場合には、ギャップ層14の材料としては、絶縁材料では特にアルミナが好ましく、導電材料では特にTaまたはRuが好ましい。ALCVDを用いて形成されるギャップ層14は、ステップカバレージがよい。従って、ALCVDを用いてギャップ層14を形成することにより、屈曲した磁極層12の上面の上に薄く且つ均質なギャップ層14を形成することができる。」

(6)「【0113】
[変形例]
以下、本実施の形態における第1および第2の変形例について説明する。始めに、図18ないし図21を参照して、第1の変形例の磁気ヘッドの製造方法について説明する。図18ないし図21は、それぞれ、磁気ヘッドの製造過程における積層体の、媒体対向面および基板に垂直な断面を示している。なお、図18ないし図21では、上部シールド層7よりも基板1側の部分を省略している。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0117】
第1の変形例の磁気ヘッドでは、媒体対向面30から見て最初にギャップ層14が屈曲する位置よりも、媒体対向面30から遠い領域において、磁極層12と第1層13Aとの間にギャップ層14および非磁性膜41が配置されている。従って、この領域における磁極層12と第1層13Aとの間における磁束の漏れは、非磁性膜41がない場合に比べて少なくなる。これにより、より多くの磁束を媒体対向面30まで導くことができ、その結果、オーバーライト特性を向上させることができる。第1の変形例の磁気ヘッドのその他の構成、作用および効果は、図1ないし図5に示した磁気ヘッドと同様である。」

・引用例に記載の「垂直磁気記録用磁気ヘッド」は、上記(1)、(2)の記載事項、及び図2、図21によれば、基板1の上に積層され、媒体対向面30に配置された端面を有し、コイル11によって発生された磁界に対応する磁束を通過させると共に、垂直磁気記録方式によって情報を記録媒体に記録するための記録磁界を発生する磁極層12と、シールド13とを備えた垂直磁気記録用磁気ヘッドであって、シールド13は、媒体対向面30において磁極層12の端面に対して記録媒体の進行方向Tの前側に配置された端面を有する第1層13Aを有し、更に、磁極層12と第1層13Aとの間に設けられたギャップ層14を備え、媒体対向面30において第1層13Aの端面は、磁極層12の端面に対して、ギャップ層14の厚みによる所定の間隔を開けて配置されている垂直磁気記録用磁気ヘッドに関するものである。
・上記(3)の記載事項、及び図2、図21によれば、磁極層12は、媒体対向面30に配置された端面を有し、媒体対向面30からの距離に応じて変化しない厚みを有する第1の部分と、この第1の部分よりも媒体対向面30から遠い位置に配置され、媒体対向面30からの距離に応じて第1の部分よりも徐々に厚みが大きくなり、その後変化しない厚みを有する第2の部分とを有しており、ギャップ層14に接する上面は屈曲している。
・上記(4)の記載事項、及び図2、図21によれば、磁極層12の上面が屈曲していることに伴い、ギャップ層14も磁極層12の上面に沿って屈曲しており、第1層13Aの下面もギャップ層14を介して磁極層12の上面に対向するように屈曲している。
なお、上記(5)の記載事項、及び図2、図21によれば、ギャップ層14は、好ましくはALCVD法を用いて形成され一定の厚さを有するものであると理解できる。
・図2、図21によれば、シールド13を構成する第1層13Aは、媒体対向面30における端面と、媒体対向面30から所定距離離れた側において前記端面と対向する側面と、ギャップ層14に隣接した下面と、当該下面に対向するとともに媒体対向面30に垂直な上面とを有するものである。
・上記(6)の記載事項、及び図21によれば、第1の変形例として、媒体対向面30から見て最初にギャップ層14が屈曲する位置よりも、媒体対向面30から遠い領域において、磁極層12とギャップ層14との間に非磁性膜41を配置してなり、非磁性膜41を設けたことによってこの領域における磁極層12と第1層13Aとの間における磁束の漏れを非磁性膜41がない場合に比べて少なくなるようにしている。
そして、図21によれば、非磁性膜41は、磁極層12の第2の部分の上に配置され、当該第2の部分における徐々に厚みが大きくなる部分と変化しない厚みの部分との境界位置より媒体対向面30からの距離に応じて徐々に厚みが大きくなり、その後変化しない厚みを有するものである。

したがって、特に図21に示される第1の変形例に係るものに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「基板の上に積層され、媒体対向面に配置された端面を有し、コイルによって発生された磁界に対応する磁束を通過させると共に、垂直磁気記録方式によって情報を記録媒体に記録するための記録磁界を発生する磁極層と、シールドとを備えた垂直磁気記録用磁気ヘッドであって、
前記シールドは、前記媒体対向面において前記磁極層の端面に対して記録媒体の進行方向の前側に配置された端面を有する第1層を有し、
前記磁極層と前記第1層との間には好ましくはALCVD法を用いて形成され一定の厚さを有するギャップ層が設けられ、
前記媒体対向面において前記第1層の端面は、前記磁極層の端面に対して、前記ギャップ層の厚みによる所定の間隔を開けて配置されてなる垂直磁気記録用磁気ヘッドにおいて、
前記磁極層は、前記媒体対向面に配置された端面を有し、前記媒体対向面からの距離に応じて変化しない厚みを有する第1の部分と、当該第1の部分よりも前記媒体対向面から遠い位置に配置され、前記媒体対向面からの距離に応じて第1の部分よりも徐々に厚みが大きくなり、その後変化しない厚みを有する第2の部分とを有していて、その上面は屈曲しており、
前記磁極層の上面が屈曲していることに伴い、前記ギャップ層も前記磁極層の上面に沿って屈曲しており、前記第1層の下面も前記ギャップ層を介して前記磁極層の上面に対向するように屈曲しており、
前記シールドを構成する前記第1層は、前記媒体対向面における前記端面と、前記媒体対向面から所定距離離れた側において前記端面と対向する側面と、前記ギャップ層に隣接した前記下面と、当該下面に対向するとともに前記媒体対向面に垂直な上面とを有し、
更に、前記媒体対向面から見て最初に前記ギャップ層が屈曲する位置よりも、前記媒体対向面から遠い領域において、前記磁極層と前記ギャップ層との間に非磁性膜が配置され、当該非磁性膜は、前記磁極層の前記第2の部分の上に配置され、当該第2の部分における徐々に厚みが大きくなる部分と変化しない厚みの部分との境界位置より前記媒体対向面からの距離に応じて徐々に厚みが大きくなり、その後変化しない厚みを有するものであり、当該非磁性膜を設けたことによってこの領域における前記磁極層と前記第1層との間における磁束の漏れを当該非磁性膜がない場合に比べて少なくなるようにした垂直磁気記録用磁気ヘッド。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
(1)引用発明における「基板」、「媒体対向面」は、本願発明における「基体」、「エアベアリング面」に相当し、
引用発明における「基板の上に積層され、媒体対向面に配置された端面を有し、コイルによって発生された磁界に対応する磁束を通過させると共に、垂直磁気記録方式によって情報を記録媒体に記録するための記録磁界を発生する磁極層と、シールドとを備えた垂直磁気記録用磁気ヘッドであって、・・・・前記磁極層は、前記媒体対向面に配置された端面を有し、前記媒体対向面からの距離に応じて変化しない厚みを有する第1の部分と、当該第1の部分よりも前記媒体対向面から遠い位置に配置され、前記媒体対向面からの距離に応じて第1の部分よりも徐々に厚みが大きくなり、その後変化しない厚みを有する第2の部分とを有していて、その上面は屈曲しており」によれば、
(a)引用発明における、媒体対向面に配置された磁極層の「端面」は、本願発明における「磁極先端部」に相当し、
引用発明の「磁極層」にあっても、媒体対向面に配置された端面を有するとともに、第1の部分の厚みを維持して基板の表面に平行な上面・下面を有する本願発明でいうところの「下側部分」と、この「下側部分」を除いた残りの「上側部分」とを有するとみることができ、
(b)また、「下側部分」を除いた残りの「上側部分」は、媒体対向面からの距離に応じて第1の部分よりも徐々に厚みが大きくなる部分を含むことから、一端部と当該一端部よりも媒体対向面から離れた側に位置するととともに当該一端部よりも基板から離れた側に位置する他端部との間における傾斜面を有し、さらに、その後変化しない厚みを有する部分を含むことから、前記他端部において傾斜面に連結されるとともに基板の表面に平行な上面を有するものである。
(c)そして以上のことから、引用発明における「磁極層」は、傾斜面を有する点において本願発明でいう「テーパ主磁極層」に相当するといえるものである。
したがって、本願発明と引用発明とは、後述の相違点を除いて「(a)前記テーパ主磁極層は、下側部分および上側部分を有し、前記下側部分は、エアベアリング面に磁極先端部を有すると共に、前記基体の表面に平行な上面を有し、前記上側部分は、一端部と前記一端部よりも前記エアベアリング面から離れた側に位置すると共に前記一端部よりも前記基体から離れた側に位置する他端部との間における傾斜面と、前記他端部において前記傾斜面に連結されると共に前記基体の表面に平行な上面と、を有し」ている点で共通する。

(2)引用発明における「更に、前記媒体対向面から見て最初に前記ギャップ層が屈曲する位置よりも、前記媒体対向面から遠い領域において、前記磁極層と前記ギャップ層との間に非磁性膜が配置され、当該非磁性膜は、前記磁極層の前記第2の部分の上に配置され、当該第2の部分における徐々に厚みが大きくなる部分と変化しない厚みの部分との境界位置より前記媒体対向面からの距離に応じて徐々に厚みが大きくなり、その後変化しない厚みを有するものであり、当該非磁性膜を設けたことによってこの領域における前記磁極層と前記第1層との間における磁束の漏れを当該非磁性膜がない場合に比べて少なくなるようにした・・」によれば、
引用発明の「非磁性膜」は、磁極層の第2の部分の上に配置され、当該第2の部分における徐々に厚みが大きくなる部分と変化しない厚みの部分との境界位置より記媒体対向面からの距離に応じて徐々に厚みが大きくなり、その後変化しない厚みを有するものであることから、磁極層の上側部分の他端部に一致する一端部と当該一端部よりも媒体対向面から離れた側における所定の距離に位置すると共に当該一端部よりも基板から離れた側に位置する他端部との間における傾斜面と、前記他端部において傾斜面に連結されるとともに基板の表面に平行な上面とを有するものであるといえ、
よって、引用発明における「非磁性膜」は、傾斜面を有する点において本願発明でいう「テーパ非磁性上部形状層」に相当するといえるものである。
したがって、本願発明と引用発明とは、「(b)前記テーパ非磁性上部形状層は、前記テーパ主磁極層の上側部分の上に配置されていると共に、前記上側部分の他端部に一致する一端部と前記一端部よりも前記エアベアリング面から離れた側における所定の距離に位置すると共に前記一端部よりも前記基体から離れた側に位置する他端部との間における傾斜面と、前記他端部において前記傾斜面に連結されると共に前記基体の表面に平行な上面と、を有し」ている点で一致する。

(3)引用発明における「ギャップ層」は、本願発明における「記録ギャップ層」に相当し、
引用発明における「前記磁極層と前記第1層との間には好ましくはALCVD法を用いて形成され一定の厚さを有するギャップ層が設けられ、・・・・更に、前記媒体対向面から見て最初に前記ギャップ層が屈曲する位置よりも、前記媒体対向面から遠い領域において、前記磁極層と前記ギャップ層との間に非磁性膜が配置され・・」によれば、
本願発明の「ギャップ層」は、磁極層と非磁性膜とに跨がってその上に設けられており、少なくとも、磁極層の傾斜面および非磁性膜の傾斜面の上に配置された部分(本願発明でいう「第1部分」)と、非磁性膜の上面の上に配置された部分(本願発明でいう「第2部分」)とを有するといえる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「(c)前記記録ギャップ層は、前記テーパ主磁極層の傾斜面および前記テーパ非磁性上部形状層の傾斜面の上に配置された第1部分と、前記テーパ非磁性上部形状層の上面の上に配置された第2部分と、を有し」ている点で一致する。

(4)引用発明における、シールドを構成する「第1層」は、本願発明における「トレーリングシールド」に相当し、
引用発明における「前記シールドは、前記媒体対向面において前記磁極層の端面に対して記録媒体の進行方向の前側に配置された端面を有する第1層を有し、・・・・前記媒体対向面において前記第1層の端面は、前記磁極層の端面に対して、前記ギャップ層の厚みによる所定の間隔を開けて配置され・・・・前記シールドを構成する前記第1層は、前記媒体対向面における前記端面と、前記媒体対向面から所定距離離れた側において前記端面と対向する側面と、前記ギャップ層に隣接した前記下面と、当該下面に対向するとともに前記媒体対向面に垂直な上面とを有し」によれば、
引用発明の「第1層」における「端面」、「側面」、「下面」、「上面」が、それぞれ本願発明の「トレーリングシールド」における「第1側面」、「第2側面」、「第3側面」、「第4側面」に相当し、
本願発明と引用発明とは、後述の相違点を除いて「(d)前記トレーリングシールドは、前記記録ギャップ層の第1部分の上に配置されていると共に、前記エアベアリング面に沿った第1側面と、前記エアベアリング面から離れた側における所定の距離に位置すると共に前記第1側面に対向する第2側面と、前記記録ギャップ層の第1部分に隣接した第3側面と、前記第3側面に対向すると共に前記エアベアリング面に垂直な第4側面と、を有する」点で共通するといえる。

(5)そして、引用発明における「垂直磁気記録用磁気ヘッド」は、本願発明における「垂直磁気記録ヘッド」に相当し、
引用発明における「基板の上に積層され、媒体対向面に配置された端面を有し、コイルによって発生された磁界に対応する磁束を通過させると共に、垂直磁気記録方式によって情報を記録媒体に記録するための記録磁界を発生する磁極層と、シールドとを備えた垂直磁気記録用磁気ヘッドであって、前記シールドは、前記媒体対向面において前記磁極層の端面に対して記録媒体の進行方向の前側に配置された端面を有する第1層を有し、前記磁極層と前記第1層との間には好ましくはALCVD法を用いて形成され一定の厚さを有するギャップ層が設けられ、前記媒体対向面において前記第1層の端面は、前記磁極層の端面に対して、前記ギャップ層の厚みによる所定の間隔を開けて配置されてなる垂直磁気記録用磁気ヘッドにおいて」によれば、上記(1)?(4)を踏まえると、
本願発明と引用発明とは、「基体の上に形成されたテーパ主磁極層と、前記テーパ主磁極層の上に形成されたテーパ非磁性上部形状層と、前記テーパ主磁極層および前記テーパ非磁性上部形状層の上に形成されると共に一定の厚さを有する記録ギャップ層と、前記記録ギャップ層の上に形成されたトレーリングシールドと、を備えた垂直磁気記録ヘッドであって」の点で一致するということができる。

よって、本願発明と引用発明とは、
「基体の上に形成されたテーパ主磁極層と、前記テーパ主磁極層の上に形成されたテーパ非磁性上部形状層と、前記テーパ主磁極層および前記テーパ非磁性上部形状層の上に形成されると共に一定の厚さを有する記録ギャップ層と、前記記録ギャップ層の上に形成されたトレーリングシールドと、を備えた垂直磁気記録ヘッドであって、
(a)前記テーパ主磁極層は、下側部分および上側部分を有し、
前記下側部分は、エアベアリング面に磁極先端部を有すると共に、前記基体の表面に平行な上面を有し、
前記上側部分は、一端部と前記一端部よりも前記エアベアリング面から離れた側に位置すると共に前記一端部よりも前記基体から離れた側に位置する他端部との間における傾斜面と、前記他端部において前記傾斜面に連結されると共に前記基体の表面に平行な上面と、を有し、
(b)前記テーパ非磁性上部形状層は、前記テーパ主磁極層の上側部分の上に配置されていると共に、前記上側部分の他端部に一致する一端部と前記一端部よりも前記エアベアリング面から離れた側における所定の距離に位置すると共に前記一端部よりも前記基体から離れた側に位置する他端部との間における傾斜面と、前記他端部において前記傾斜面に連結されると共に前記基体の表面に平行な上面と、を有し、
(c)前記記録ギャップ層は、前記テーパ主磁極層の傾斜面および前記テーパ非磁性上部形状層の傾斜面の上に配置された第1部分と、前記テーパ非磁性上部形状層の上面の上に配置された第2部分と、を有し、
(d)前記トレーリングシールドは、前記記録ギャップ層の第1部分の上に配置されていると共に、前記エアベアリング面に沿った第1側面と、前記エアベアリング面から離れた側における所定の距離に位置すると共に前記第1側面に対向する第2側面と、前記記録ギャップ層の第1部分に隣接した第3側面と、前記第3側面に対向すると共に前記エアベアリング面に垂直な第4側面と、を有する
ことを特徴とする垂直磁気記録ヘッド。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
テーパ主磁極層(の上側部分)における傾斜面の一端部について、本願発明では、「前記エアベアリング面における」ものである、つまり、エアベアリング面に位置している旨特定するのに対し、引用発明では、そのような構成を有していない点。

[相違点2]
テーパ主磁極層の傾斜面とテーパ非磁性上部形状層の傾斜面について、本願発明では、「同一面上に位置し」ている旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

[相違点3]
トレーリングシールドにおけるエアベアリング面から離れた側に位置する第2側面について、エアベアリング面からの所定の距離が、本願発明では、「前記所定の距離」、つまり、エアベアリング面からテーパ非磁性上部形状層の傾斜面の他端部までの距離である旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

5.判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
例えば原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-302281号公報(特に、段落【0049】、【0057】、【0062】、【0066】?【0077】、図1、図11を参照)、さらには特開2002-133610号公報(特に、段落【0022】、図10(a)を参照)に記載されているように、主磁極中を流れる磁束を集中させて記録磁界の強度を高くするために主磁極の先端部の例えばトレーリング側に傾斜面(テーパ)を設ける際に、傾斜面(テーパ)をエアベアリング面から始まるように設けることは周知の技術事項であるといえ〔なお、上記特開2005-302281号公報には、傾斜面(テーパ)をエアベアリング面から後退した位置から始まるように設ける例についても記載(図1に示される実施の形態に係るものを参照)されている〕、引用発明においても磁極層を、媒体対向面からの距離に応じて変化しない厚みを有する第1の部分を研磨処理などの際に省くなどして、傾斜面がエアベアリング面から始まる、すなわち、傾斜面の一端部がエアベアリング面に位置しているようにすることは当業者であれば容易になし得ることである。

[相違点2]について
引用例の図21によれば、磁極層の傾斜面と非磁性膜の傾斜面とはわずかに屈曲しており、同一平面内には位置していないように見てとれ、両傾斜面の形成工程としては、引用例の段落【0114】に「マスク42を用いて、例えば反応性イオンエッチングによって非磁性膜41の一部をエッチングする。次に、マスク42を用いて、例えばイオンビームエッチングによって磁性層12Pの一部をエッチングする。」とあり、それぞれの傾斜面を個別のエッチング法を用いて形成しているが、反応性イオンエッチングあるいはイオンビームエッチングのいずれか一方のエッチング法のみを用いて両傾斜面を同じエッチング工程で形成するなどして、引用発明においても両傾斜面が同一平面内に位置するとみなせるようなものとすること(本願発明にあっても、本願明細書の段落【0051】に「フォトレジスト層50をマスクとして用いて、主磁極層21zおよび非磁性上部形状層22zをイオンビームエッチングする。これにより、図3に示したように、下側部分21aおよび上側部分21bを含むと共に傾斜面21sを有するテーパ主磁極層21が形成されると共に、傾斜面22sを有するテーパ非磁性上部形状層22が形成される。この場合には、基準面28-28と直交する方向において、フォトレジスト層50から離れるにしたがってエッチング量が増大するため、同一面内に位置すると共に基準面28-28に対して角度βをなすように傾斜面21s,22sが形成される。」と記載されてはいるものの、主磁極層と非磁性上部形成層とは材料が異なり、当然、エッチングレートが異なることからすると、厳密な意味で両傾斜面が同一平面内に位置するようにすることは技術的に困難なはず。)は当業者であれば適宜なし得ることである。
なお、そもそもテーパ主磁極層の傾斜面とテーパ非磁性上部形状層の傾斜面とが同一平面内に位置するようにすることについて、本願明細書には上記段落【0051】の他に、例えば段落【0036】に「テーパ主磁極層21の傾斜面21sおよびテーパ非磁性上部形状層22の傾斜面22sは、例えば、同一面内に位置している。傾斜面21s,22sとABS25-25との間の角度βは、例えば、約10°?80°である。」と記載されているのみであり、両傾斜面が同一平面内に位置するようにしたことによる格別の技術的意義は見出せない。

[相違点3]について
引用例の図21によると、引用発明における「第1層」の媒体対向面から離れた側の側面(本願発明でいう「第2側面」)は、非磁性膜における傾斜面の他端部を越えて当該非磁性膜における基板の表面に平行な上面の位置まで達しているが、かかる位置は、所望する磁気ヘッドの特性(記録磁界の強度や勾配など)に応じて適宜定められるべきものであり、引用発明において、「第1層」の媒体対向面から離れた側の側面が、例えば非磁性膜における傾斜面の他端部を越えることなくその他端部に位置するものとすること、つまり、媒体対向面からの所定の距離を、媒体対向面から非磁性膜の傾斜面の他端部までの距離とすることも当業者が適宜なし得ることである。

そして、上記各相違点を総合的に勘案しても本願発明が奏する効果は、引用発明及び周知の技術事項から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-17 
結審通知日 2015-03-18 
審決日 2015-03-31 
出願番号 特願2008-283461(P2008-283461)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 斎藤 眞  
特許庁審判長 丹治 彰
特許庁審判官 井上 信一
関谷 隆一
発明の名称 垂直磁気記録ヘッドおよびその製造方法  
代理人 三反崎 泰司  
復代理人 特許業務法人つばさ国際特許事務所  

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