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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H03F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03F
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H03F
管理番号 1320127
審判番号 不服2016-1228  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-28 
確定日 2016-10-26 
事件の表示 特願2011-217346「冗長化増幅器及びその切替方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月25日出願公開、特開2013- 78023、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年9月30日の出願であって、平成27年5月25日付けで拒絶理由が通知され、同年8月3日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年10月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年1月28日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、同年3月25日付けで前置報告書が作成されたものである。


第2 補正の適否について
1.補正の内容
平成28年1月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲である、
「 【請求項1】
m個の入力P1、P2、…、Pmと、n個の出力Q1、Q2、…、Qn(m、nは自然数、m<n)のうちのm個とを一対一に接続する切替を行なう第1のスイッチと、
n個の入力R1、R2、…、Rnのうちのm個と、m個の出力S1、S2、…、Smとを一対一に接続する切替を行なう第2のスイッチと、
第1のスイッチの出力Q1、Q2、…、Qnと、第2のスイッチの入力R1、R2、…、Rnとの間に一対一に接続されたn個の同じ増幅器A1、A2、…、Anとを備え、
第1及び第2のスイッチのそれぞれにおける入出力間の接続状態により、入力P1と出力S1、入力P2と出力S2、…、入力Pmと出力Smとを接続する信号経路L1、L2、…、Lmであって、それぞれ、増幅器A1、A2、…、Anのいずれかひとつを介して接続する信号経路L1、L2、…、Lmを形成し、
信号経路に接続される増幅器の組み合わせが異なる少なくとも2種類の前記接続状態において、信号経路L1、L2、…、Lmの長さが互いに等しい
ことを特徴とする冗長化増幅器。
【請求項2】
前記第1及び第2のスイッチは、それぞれ、互いに接続された複数の導波管スイッチからなることを特徴とする請求項1に記載の冗長化増幅器。
【請求項3】
前記複数の導波管スイッチは、それぞれ、4つのポートと、当該4つのポートのうちの2つを互いに接続可能な2本の導波管とを備えることを特徴とする請求項2に記載の冗長化増幅器。
【請求項4】
前記複数の導波管スイッチは、それぞれ、4つのポートと、当該4つのポートのうちの2つを互いに接続可能な3本の導波管とを備えることを特徴とする請求項2に記載の冗長化増幅器。
【請求項5】
信号経路L1、L2、…、Lmの長さが全て等しい第1の接続状態における信号経路長である第1の信号経路長と、前記第1の接続状態とは異なる接続状態であって、信号経路L1、L2、…、Lmの長さが全て等しい第2の接続状態における信号経路長である第2の信号経路長とが等しいことを特徴とする請求項1に記載の冗長化増幅器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の冗長化増幅器と、
入力された信号をm本に分配し、分配したm本の信号をそれぞれ第1のスイッチの入力P1、P2、…、Pmに一対一に入力する分配器と、
第2のスイッチの出力S1、S2、…、Smから入力されたm本の信号を合成して出力する合成器と
を備えることを特徴とする信号増幅装置。
【請求項7】
第1のスイッチに同時に入力されたm本の信号が、それぞれ、n個の増幅器のうち予め定められたm個の現用系増幅器のいずれかを介する信号経路であって、互いに同じ第1の経路長を有するm本の信号経路からなる第1の信号経路群を通過して、第2のスイッチのm本の出力それぞれから出力される段階(m、nは自然数、m<n)と、
前記m個の現用系増幅器のうち少なくともひとつにて障害が発生する段階と、
前記第1及び第2のスイッチのそれぞれにおける入出力間の接続状態を変更することにより、現用系増幅器のうち障害が発生していないものと、前記n個の増幅器のうち予め定められたn-m個の冗長系増幅器とのいずれかを介する信号経路であって、互いに同じ第2の経路長を有するm本の信号経路からなる第2の信号経路群を形成する段階と、
第1のスイッチに同時に入力されたm本の信号が、前記第2の信号経路群を通過して、第2のスイッチのm本の出力それぞれから出力される段階と
を含むことを特徴とする冗長化増幅器の切替方法。
【請求項8】
前記第1及び第2のスイッチは、それぞれ、互いに接続された複数の導波管スイッチからなることを特徴とする請求項7に記載の冗長化増幅器の切替方法。
【請求項9】
第1の信号経路長と第2の信号経路長とが等しいことを特徴とする請求項7に記載の冗長化増幅器の切替方法。
【請求項10】
第1のスイッチに同時に入力されたm本の信号は、分配器にて1本の信号から分配された信号であり、
第2のスイッチのm本の出力は、合成器にて1本の信号に合成される
ことを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載の冗長化増幅器の切替方法。」

という記載を、次のとおりの記載(各請求項に記載された発明を、以下、「補正発明1」「補正発明2」・・・のようにいう。)に補正するものである。

「 【請求項1】
m個の入力P1、P2、…、Pmと、n個の出力Q1、Q2、…、Qn(m、nは自然数、m<n)のうちのm個とを一対一に接続する切替を行なう第1のスイッチと、
n個の入力R1、R2、…、Rnのうちのm個と、m個の出力S1、S2、…、Smとを一対一に接続する切替を行なう第2のスイッチと、
第1のスイッチの出力Q1、Q2、…、Qnと、第2のスイッチの入力R1、R2、…、Rnとの間に一対一に接続されたn個の同じ増幅器A1、A2、…、Anとを備え、
第1及び第2のスイッチのそれぞれにおける入出力間の接続状態により、入力P1と出力S1、入力P2と出力S2、…、入力Pmと出力Smとを接続する信号経路L1、L2、…、Lmであって、それぞれ、増幅器A1、A2、…、Anのいずれかひとつを介して接続する信号経路L1、L2、…、Lmを形成し、
信号経路に接続される増幅器の組み合わせが異なる少なくとも2種類の前記接続状態において、信号経路L1、L2、…、Lmの長さが互いに等しく、
前記第1のスイッチは、
入力を一の増幅器及び他の一の導波管スイッチのいずれか一方に接続する導波管スイッチ、
他の2つの導波管スイッチのいずれか一方を一の増幅器に接続する導波管スイッチ、及び、
入力を2つの導波管スイッチのいずれか一方に接続する導波管スイッチ
を備え、
前記第2のスイッチは、
一の増幅器及び他の一の導波管スイッチのいずれか一方を出力に接続する導波管スイッチ、
一の増幅器を他の2つの導波管スイッチのいずれか一方に接続する導波管スイッチ、及び、
2つの導波管スイッチのいずれか一方を出力に接続する導波管スイッチ
を備える
ことを特徴とする冗長化増幅器。
【請求項2】
前記複数の導波管スイッチは、それぞれ、4つのポートと、当該4つのポートのうちの2つを互いに接続可能な2本の導波管とを備えることを特徴とする請求項1に記載の冗長化増幅器。
【請求項3】
信号経路L1、L2、…、Lmの長さが全て等しい第1の接続状態における信号経路長である第1の信号経路長と、前記第1の接続状態とは異なる接続状態であって、信号経路L1、L2、…、Lmの長さが全て等しい第2の接続状態における信号経路長である第2の信号経路長とが等しいことを特徴とする請求項1に記載の冗長化増幅器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の冗長化増幅器と、
入力された信号をm本に分配し、分配したm本の信号をそれぞれ第1のスイッチの入力P1、P2、…、Pmに一対一に入力する分配器と、
第2のスイッチの出力S1、S2、…、Smから入力されたm本の信号を合成して出力する合成器と
を備えることを特徴とする信号増幅装置。
【請求項5】
第1のスイッチに同時に入力されたm本の信号が、それぞれ、n個の増幅器のうち予め定められたm個の現用系増幅器のいずれかを介する信号経路であって、互いに同じ第1の経路長を有するm本の信号経路からなる第1の信号経路群を通過して、第2のスイッチのm本の出力それぞれから出力される段階(m、nは自然数、m<n)と、
前記m個の現用系増幅器のうち少なくともひとつにて障害が発生する段階と、
前記第1及び第2のスイッチのそれぞれにおける入出力間の接続状態を変更することにより、現用系増幅器のうち障害が発生していないものと、前記n個の増幅器のうち予め定められたn-m個の冗長系増幅器とのいずれかを介する信号経路であって、互いに同じ第2の経路長を有するm本の信号経路からなる第2の信号経路群を形成する段階と、
第1のスイッチに同時に入力されたm本の信号が、前記第2の信号経路群を通過して、第2のスイッチのm本の出力それぞれから出力される段階と
を含み、
前記第1のスイッチは、
入力を一の増幅器及び他の一の導波管スイッチのいずれか一方に接続する導波管スイッチ、
他の2つの導波管スイッチのいずれか一方を一の増幅器に接続する導波管スイッチ、及び、
入力を2つの導波管スイッチのいずれか一方に接続する導波管スイッチ
を備え、
前記第2のスイッチは、
一の増幅器及び他の一の導波管スイッチのいずれか一方を出力に接続する導波管スイッチ、
一の増幅器を他の2つの導波管スイッチのいずれか一方に接続する導波管スイッチ、及び、
2つの導波管スイッチのいずれか一方を出力に接続する導波管スイッチ
を備える
ことを特徴とする冗長化増幅器の切替方法。
【請求項6】
第1の信号経路長と第2の信号経路長とが等しいことを特徴とする請求項5に記載の冗長化増幅器の切替方法。
【請求項7】
第1のスイッチに同時に入力されたm本の信号は、分配器にて1本の信号から分配された信号であり、
第2のスイッチのm本の出力は、合成器にて1本の信号に合成される
ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の冗長化増幅器の切替方法。」(下線は、請求人が手続補正書において補正箇所を示すものとして付加したものを援用したものである。)

そうすると、本件補正の内容は以下の補正事項のとおりである。

(1)補正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「第1のスイッチ」と「第2のスイッチ」が、
「前記第1のスイッチは、
入力を一の増幅器及び他の一の導波管スイッチのいずれか一方に接続する導波管スイッチ、
他の2つの導波管スイッチのいずれか一方を一の増幅器に接続する導波管スイッチ、及び、
入力を2つの導波管スイッチのいずれか一方に接続する導波管スイッチ
を備え、
前記第2のスイッチは、
一の増幅器及び他の一の導波管スイッチのいずれか一方を出力に接続する導波管スイッチ、
一の増幅器を他の2つの導波管スイッチのいずれか一方に接続する導波管スイッチ、及び、
2つの導波管スイッチのいずれか一方を出力に接続する導波管スイッチ
を備える」
ことを特定する補正。

(2)補正事項2
特許請求の範囲の請求項5(本件補正前の請求項7)において、「第1のスイッチ」と「第2のスイッチ」が、
「前記第1のスイッチは、
入力を一の増幅器及び他の一の導波管スイッチのいずれか一方に接続する導波管スイッチ、
他の2つの導波管スイッチのいずれか一方を一の増幅器に接続する導波管スイッチ、及び、
入力を2つの導波管スイッチのいずれか一方に接続する導波管スイッチ
を備え、
前記第2のスイッチは、
一の増幅器及び他の一の導波管スイッチのいずれか一方を出力に接続する導波管スイッチ、
一の増幅器を他の2つの導波管スイッチのいずれか一方に接続する導波管スイッチ、及び、
2つの導波管スイッチのいずれか一方を出力に接続する導波管スイッチ
を備える」
ことを特定する補正。

(3)補正事項3
特許請求の範囲の請求項2,4,8を削除するとともに、これと整合するように請求項の項数を繰り上げる補正。


2.補正の適否
(1)補正事項1について
補正事項1は、請求項1における「第1のスイッチ」及び「第2のスイッチ」の構成をさらに限定するものであり、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された補正発明1が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア.刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-332209号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。

「【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、複数M個の信号入力端子の信号を所定の位相関係で複数N個の出力端子に位相展開する第1の電力結合器と、前記第1の電力結合器の各出力端子に取り出される出力信号をそれぞれ増幅するN個の増幅器と、前記N個の増幅器の各出力信号を前記第1の電力結合器の位相関係に対応する所定の位相関係で位相合成し、前記各信号入力端子に対応するM個の信号出力端子に出力する第2の電力結合器とを備えた多端子電力増幅器において、a,b,c,dの4端子を有し、端子aと端子bが接続される接続状態1,端子aと端子cおよび端子bと端子dが同時に接続される接続状態2,さらに端子aと端子dおよび端子bと端子cが同時に接続される接続状態3の3つの接続状態をとり、前記接続状態1における端子a-b間の電気長がes1であり、前記接続状態2における端子a-c間,端子b-d間および前記接続状態3における端子a-d間,端子b-c間の各電気長がes2である4端子切替スイッチを前記増幅器対応に設け、隣接する4端子切替スイッチの端子dと端子cが電気長essの接続線路を介して接続され、両端の4端子切替スイッチの端子cまたは端子dが電気長erの接続線路を介してそれぞれ端子T1または端子T2に接続され、
ess=es1-2es2
er=es1-es2
の関係を有する切替スイッチ網を前記N個の増幅器の入力側と出力側のそれぞれに備え、前記各切替スイッチ網の端子T1間および端子T2間にそれぞれ前記N個の増幅器と同一の特性を有する2つの増幅器を備え、前記(N+2)個の増幅器のうちN個の増幅器を現用として用い、このN個の増幅器の少なくとも1つに故障が発生したときに、前記切替スイッチ網を操作してその増幅器に隣接する増幅器から予備として残っている増幅器まで1つずつシフトした迂回経路を形成する制御手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
【作用】図1は、本発明の多端子電力増幅器の基本構成を示すブロック図である。図において、N個並列に配置される増幅器831?83Nの外側に2個の増幅器83N+1,83N+2を予備として設け、従来の多端子電力増幅器としての動作を損なうことなく、故障した増幅器に代わって予備の増幅器83N+1あるいは増幅器83N+2に迂回する経路を形成する切替スイッチ網11,12を備える。切替スイッチ網11,12は、それぞれN個の4端子切替スイッチ131?13N,141?14Nを備える。なお、増幅器に付す番号の添字と、4端子切替スイッチに付す番号の添字が対応する。
【0013】ここで、4端子切替スイッチの接続状態を図2に示す。4端子切替スイッチの各端子a,b,c,dにおいて、端子a-b間の電気長をes1とし、端子a-c間,端子b-d間,端子a-d間,端子b-c間の各電気長をes2とする。図2(1)に示す接続状態1は端子a-b間が接続された状態を示し、図2(2)に示す接続状態2は端子a-c間,端子b-d間が接続された状態を示し、図2(3)に示す接続状態3は端子a-d間,端子b-c間が接続された状態を示す。
【0014】以下説明を容易にするために、各4端子切替スイッチ131?13N,141?14Nの初期状態を接続状態1とする。4端子切替スイッチ131?13Nの端子aは第1の電力結合器82の各出力端子に接続され、端子bは増幅器831?83Nの各入力端子に接続される。また、4端子切替スイッチ141?14Nの端子aは増幅器831?83Nの各出力端子に接続され、端子bは第2の電力結合器84の各入力端子に接続される。また、各4端子切替スイッチ131?13N,141?14Nの端子c,dは、それぞれ隣接する4端子切替スイッチの対向する端子に電気長essの接続線路15を介して接続される。また、切替スイッチ網11の4端子切替スイッチ131の端子cは、電気長erの接続線路16を介して切替スイッチ網11の端子171に接続され、4端子切替スイッチ13Nの端子dは、接続線路(電気長er)16を介して切替スイッチ網11の端子172に接続される。また、切替スイッチ網12の4端子切替スイッチ141の端子cは、接続線路(電気長er)16を介して切替スイッチ網12の端子181に接続され、4端子切替スイッチ14Nの端子dは、接続線路(電気長er)16を介して切替スイッチ網12の端子182に接続される。予備の増幅器83N+1は端子171と端子181との間に接続され、予備の増幅器83N+2は端子172と端子182との間に接続される。
【0015】また、各増幅器831?83N,83N+1,83N+2の振幅量がすべてAであり、位相量がすべてθAであるとし、各切替スイッチ網11,12は無損失であるとする。各切替スイッチ網11,12が無損失であれば、各4端子切替スイッチがどのような接続状態でも、切替スイッチ網11から各増幅器831?83N,83N+1,83N+2を介して切替スイッチ網12の出力端子に得られる振幅量は増幅器の振幅量Aとなるので、以下の説明では各接続状態における位相量だけに着目する。
【0016】初期状態における切替スイッチ網11の4端子切替スイッチ13i(i=1?N)の端子aから、増幅器83i(i=1?N)を介して、切替スイッチ網12の4端子切替スイッチ14i(i=1?N)の端子bまでの位相量θTは、すべて
θT=es1+θA+es1
となる。なお、従来の多端子電力増幅器と同等の動作を実現する場合には、増幅器での絶対位相量は問題にならず、各増幅器の振幅および位相特性が揃っていれば十分である。したがって、初期状態では、各切替スイッチ網11,12を挿入したことにより、各増幅器での見かけ上の位相量が全体にθAからθTにシフトするだけであり、多端子電力増幅器としての機能には支障はない。
【0017】初期状態で増幅器83j1(1≦j1≦N)が故障した場合には、図示しない制御手段により、切替スイッチ網11,12を制御して予備の増幅器83N+1あるいは増幅器83N+2への切替えを行う。増幅器83N+1に切替える場合には、増幅器83k(k=1?j1)に接続する切替スイッチ網11の4端子切替スイッチ13k(k=1?j1)を接続状態2に設定し、切替スイッチ網12の4端子切替スイッチ14k(k=1?j1)を接続状態3に設定する。
【0018】すなわち、故障した増幅器83j1に入力される信号が、対応する4端子切替スイッチ13j1から接続線路(電気長ess)15,4端子切替スイッチ13j1-1を介して隣接する増幅器83j1-1に迂回され、対応する4端子切替スイッチ14j1-1から接続線路(電気長ess)15,4端子切替スイッチ14j1を介して出力される(このときの位相量をθT1とする)。以下順次、迂回経路が隣接する増幅器にシフトし、最後に増幅器831に入力される信号が、対応する4端子切替スイッチ131から接続線路(電気長er)16,切替スイッチ網11の端子171を介して予備の増幅器83N+1に迂回され、切替スイッチ網12の端子181から接続線路(電気長er)16,4端子切替スイッチ141を介して出力される(このときの位相量をθT2とする)。
【0019】各位相量θT1,θT2は、それぞれ
θT1=es2+ess+es2+θA+es2+ess+es2
θT2=es2+er+θA+er+es2
となる。ここで、接続線路15,16の各電気長ess,erを
ess=es1-2es2 ・・・(3)
er=es1-es2 ・・・(4)
と設定することにより、
θT1=es1+θA+es1
θT2=es1+θA+es1
となり、ともに初期状態における位相量θTと等しくなる。すなわち、故障した増幅器から予備の増幅器83N+1側に迂回経路を全体にシフトしても、位相量に変化はなく従来と同様の多端子電力増幅器として動作させることができる。
【0020】また、増幅器83N+2に切替える場合には、故障した増幅器83k(k=j1?N)に接続する切替スイッチ網11の4端子切替スイッチ13k(k=j1?N)を接続状態3に設定し、切替スイッチ網12の4端子切替スイッチ14k(k=j1?N)を接続状態2に設定する。以下同様に、故障した増幅器から予備の増幅器83N+2側に迂回経路を全体にシフトしても、位相量に変化はなく従来と同様の多端子電力増幅器として動作させることができる。」(3頁4欄?5頁7欄)

上記摘記事項及び図面の記載によれば、増幅器の故障前の状態であっても、故障による切替を行った後の状態であっても、切替スイッチ網(11)の端子(a)から切替スイッチ網(12)の端子(b)までのそれぞれの電気長は等しいから、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
「切替スイッチ網(11)のN個の端子(a)と、切替スイッチ網(11)のN+2個の端子(b、及び17)のうちのN個とを一対一に接続する切替スイッチ網(11)と、
切替スイッチ網(12)のN+2個の端子(a、及び18)のうちのN個と、切替スイッチ網(12)のN個の端子(b)とを一対一に接続する切替スイッチ網(12)と、
切替スイッチ網(11)のN+2個の端子(b、及び17)と、切替スイッチ網(12)のN+2個の端子(a、及び18)との間に接続されたN+2個の増幅器(83)とを備え、
切替スイッチ網(11)のN個の端子(a)から、切替スイッチ網(12)のN個の端子(b)へのそれぞれの経路は、いずれかの増幅器(83)を含み、また、増幅器の故障により切替スイッチ網(11)及び切替スイッチ網(12)が切り替わる前後において、それぞれ電気長が等しく、
前記切替スイッチ網(11)は、
端子(a)を、一の増幅器、他の増幅器、及び他の4端子切替スイッチのいずれか一つに接続する4端子切替スイッチ、及び、
端子(a)を、他の4端子切替スイッチ、一の増幅器、及びさらに他の異なる4端子切替スイッチのいずれか一つに接続する4端子切替スイッチ、を備え
前記切替スイッチ網(12)は、
一の増幅器、他の増幅器、及び他の4端子切替スイッチのいずれか一つを端子(b)に接続する4端子切替スイッチ、及び、
他の4端子切替スイッチ、一の増幅器、及びさらに他の異なる4端子切替スイッチのいずれか一つを端子(b)に接続する4端子切替スイッチ、
を備える電力増幅器。」

イ.対比
引用発明において、特定の周波数においては、電気長が等しければ実際の長さも等しくなることから、補正発明1を引用発明と対比すると、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「 m個の入力P1、P2、…、Pmと、n個の出力Q1、Q2、…、Qn(m、nは自然数、m<n)のうちのm個とを一対一に接続する切替を行なう第1のスイッチと、
n個の入力R1、R2、…、Rnのうちのm個と、m個の出力S1、S2、…、Smとを一対一に接続する切替を行なう第2のスイッチと、
第1のスイッチの出力Q1、Q2、…、Qnと、第2のスイッチの入力R1、R2、…、Rnとの間に一対一に接続されたn個の同じ増幅器A1、A2、…、Anとを備え、
第1及び第2のスイッチのそれぞれにおける入出力間の接続状態により、入力P1と出力S1、入力P2と出力S2、…、入力Pmと出力Smとを接続する信号経路L1、L2、…、Lmであって、それぞれ、増幅器A1、A2、…、Anのいずれかひとつを介して接続する信号経路L1、L2、…、Lmを形成し、
信号経路に接続される増幅器の組み合わせが異なる少なくとも2種類の前記接続状態において、信号経路L1、L2、…、Lmの長さが互いに等しいことを特徴とする冗長化増幅器。」

(相違点)
補正発明1では、「第1のスイッチ」と「第2のスイッチ」が
「 前記第1のスイッチは、
入力を一の増幅器及び他の一の導波管スイッチのいずれか一方に接続する導波管スイッチ、
他の2つの導波管スイッチのいずれか一方を一の増幅器に接続する導波管スイッチ、及び、
入力を2つの導波管スイッチのいずれか一方に接続する導波管スイッチ
を備え、
前記第2のスイッチは、
一の増幅器及び他の一の導波管スイッチのいずれか一方を出力に接続する導波管スイッチ、
一の増幅器を他の2つの導波管スイッチのいずれか一方に接続する導波管スイッチ、及び、
2つの導波管スイッチのいずれか一方を出力に接続する導波管スイッチ
を備える」のに対して、

引用発明の「切替スイッチ網(11)」(補正発明1の「第1のスイッチ」に対応する。)と「切替スイッチ網(12)」(補正発明1の「第2のスイッチ」に対応する。)は、
「 前記切替スイッチ網(11)は、
端子(a)を、一の増幅器、他の増幅器、及び他の4端子切替スイッチのいずれか一つに接続する4端子切替スイッチ、及び、
端子(a)を、他の4端子切替スイッチ、一の増幅器、及びさらに他の異なる4端子切替スイッチのいずれか一つに接続する4端子切替スイッチ、を備え
前記切替スイッチ網(12)は、
一の増幅器、他の増幅器、及び他の4端子切替スイッチのいずれか一つを端子(b)に接続する4端子切替スイッチ、及び、
他の4端子切替スイッチ、一の増幅器、及びさらに他の異なる4端子切替スイッチのいずれか一つを端子(b)に接続する4端子切替スイッチ、
を備える」ものである点。

ウ.判断
上記相違点について検討すると、補正発明1が有する「第1のスイッチ」及び「第2のスイッチ」と、引用発明が有する「切替スイッチ網(11)」及び「切替スイッチ網(12)」とを比較すると、これらを構成する素子である、補正発明1の「導波管スイッチ」と引用発明の「4端子切替スイッチ」とでは、前者が導波管によるスイッチであり、1つの構成を2つの構成に選択的に接続するものであるのに対して、後者は1つの構成を3つの構成に選択的に接続しているから、構成する素子が異なっており、また、これらの接続関係も異なっている。
そして、相違点とした補正発明1の「第1のスイッチ」及び「第2のスイッチ」の構成は、刊行物1をみても、導波管タイプの切替スイッチを使用する例について【0034】段落に示唆があるものの、その他の点については何らの記載も示唆もされていない。
また、原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-161711号公報(以下、「刊行物2」という。)にも、上記の相違点とした補正発明1の構成に関して何らの記載も示唆もされていない。さらに、上記の相違点とした補正発明1の構成が周知の構成である証拠もない。
そうしてみると、上記相違点とした補正発明1の構成は、引用発明及び刊行物2に記載のものから、当業者が容易に想到できたものということはできず、特許法29条2項に違反するということはできない。
また、上述のように、補正発明1は引用発明及び刊行物2に記載のものとは「第1のスイッチ」及び「第2のスイッチ」の構成に相違があるから、引用発明及び刊行物2に記載のものに基づいて特許法29条1項3号に違反するといえない。
なお、平成28年3月25日付け前置報告書において、補正発明1を引用する補正発明2及び4が同法36条6項2号に違反し、独立特許要件を満たさないと報告されているので、この点についても検討すると、本件補正発明2の「前記複数の導波管スイッチ」の記載は、補正発明1において「第1のスイッチ」と「第2のスイッチ」を構成する導波管スイッチを合わせて指し示していると理解することができるから、特許法36条6項2号に違反しているということはできない。補正発明2を引用する補正発明4についても同様である。
したがって、補正発明1に係る補正事項1は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合する。

(2)補正事項2について
補正事項2は、請求項7(本件補正後の請求項5)における「第1のスイッチ」及び「第2のスイッチ」の構成をさらに限定するものであり、本件補正前の請求項7に記載された発明と本件補正後の請求項5に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項5に記載された補正発明5が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。
補正発明5も、上記「(1)補正事項1について」の「イ.対比」において、相違点として認定した補正発明1の構成と同様の構成を有するから、補正発明5を引用発明と対比しても、少なくとも上記「イ.対比」において相違点とした点は、補正発明5と引用発明との相違点となるものと認められる。そして、当該相違点については、上記「ウ.判断」において検討したように、引用発明及び刊行物2に記載のものから容易に想到できたものとも、またこれらと同一のものともいえないから、補正発明5は、特許法29条2項、及び同法29条1項3号に違反するとはいえない。
なお、平成28年3月25日付け前置報告書において、補正発明5が、特許法36条6項1号及び2号に違反し、独立特許要件を満たさない旨報告されているので、この点についても検討すると、前置報告書において指摘されているように、補正発明5の記載では、信号経路の始点と終点が明示されていない。しかしながら、補正発明5の技術的な意味を踏まえれば、第1スイッチの入力を始点とし、第2スイッチの出力を終点とすると理解することができるから、特許法36条6項1号及び2号に違反しているということはできない。
したがって、補正発明5に係る補正事項2は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合する。


(3)補正事項3について
補正事項3は、請求項の削除を目的とした補正であることは明らかであるから、特許法17条の2第5項1号に該当する。
また、特許法17条の2第3項、第4項に違反するところはない。


3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。


第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり、特許法17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1?7に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものである。

そして、補正発明1及び補正発明5は、上記「第2」の「2.補正の適否」で検討したとおり、当業者が引用発明及び刊行物2に記載のものと同一であるとも、あるいはこれらに基づいて容易に発明をすることができたものともいうことはできない。
また、補正発明1または補正発明5を直接的または間接的に引用する補正発明2?4,6,7は、補正発明1または補正発明5に係る発明の構成をさらに限定した発明であるから、補正発明1及び補正発明5と同様の理由により、引用発明及び刊行物2に記載のものと同一であるとも、あるいはこれらに基づいて容易に発明をすることができたものともいうことはできない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-10-11 
出願番号 特願2011-217346(P2011-217346)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (H03F)
P 1 8・ 121- WY (H03F)
P 1 8・ 575- WY (H03F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 白井 孝治  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 水野 恵雄
山本 章裕
発明の名称 冗長化増幅器及びその切替方法  
代理人 池田 憲保  
代理人 佐々木 敬  
代理人 松田 順一  
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