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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1320580
審判番号 不服2015-17171  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-18 
確定日 2016-10-11 
事件の表示 特願2014-243486「映像復号化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月23日出願公開、特開2015- 80240〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)1月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年1月18日、韓国、2013年1月18日、韓国)を国際出願日とする出願である特願2014-553257号の一部を平成26年12月1日に新たな特許出願としたものであって、手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成26年12月24日(起案日)
手続補正 :平成27年 5月 1日
拒絶査定 :平成27年 5月19日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成27年 9月18日
手続補正 :平成27年 9月18日
前置審査報告 :平成27年11月17日
上申書 :平成28年 2月22日

第2.平成27年9月18日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成27年9月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、請求項1にかかる次の補正事項を含むものである(アンダーラインは補正箇所)。

(補正前の請求項1)
「映像復号化装置において、
現在ブロックに対して画面間予測を実行することで、予測ブロックを生成する予測ブロック生成部を備え、
前記予測ブロック生成部は、
現在ブロックの参照ピクチャおよび現在ブロックの画面間予測に用いられる参照ブロックの参照ピクチャの表示順序(POC: Picture Order Count)値に基づいて参照ブロックの動きベクトルについてスケーリングを実行するかを決定し、
前記参照ブロックの動きベクトルのスケーリングを行うことが決定したときには、前記ピクチャ間のPOC(:ピクチャの表示順序)差分値に基づいて第1及び第2の値を計算し、
前記第1の値の絶対値の2進値に対して1だけ算術的右側移動を実行することによりオフセット値を算出し、
このオフセット値を用いて前記第1の値の反比例値を算出し、
前記第1の値の反比例値と前記第2の値に基づいてスケーリング因子を計算することにより、前記参照ブロックの動きベクトルをスケーリングし、
前記第1の値は、参照ブロックを含むピクチャと、前記参照ブロックが参照する参照ピクチャ間のPOC差分であり、前記第2の値は、現在のピクチャと、この現在のピクチャが参照する参照ピクチャの間のPOC差分である、ことを特徴とする映像復号化装置。」
とあるのを、

(補正後の請求項1)
「映像復号化装置において、
現在ブロックに対して画面間予測を実行することで、予測ブロックを生成する予測ブロック生成部を備え、
前記予測ブロック生成部は、
現在ブロックの参照ピクチャおよび現在ブロックの画面間予測に用いられる参照ブロックの参照ピクチャの表示順序(POC: Picture Order Count)値に基づいて参照ブロックの動きベクトルについてスケーリングを実行するかを決定し、
前記参照ブロックの動きベクトルのスケーリングを行うことが決定したときには、前記POC値に基づいて第1及び第2の値を計算し、
前記第1の値の絶対値の2進値に対して1だけ算術的右側移動を実行することによりオフセット値を算出し、
このオフセット値を用いて前記第1の値の反比例値を算出し、
前記第1の値の反比例値と前記第2の値に基づいてスケーリング因子を計算することにより、前記参照ブロックの動きベクトルをスケーリングし、
前記第1の値は、参照ブロックを含むピクチャと、前記参照ブロックが参照する参照ピクチャ間のPOC差分であり、前記第2の値は、現在のピクチャと、この現在のピクチャが参照する参照ピクチャの間のPOC差分であり、
前記予測ブロック生成部は、時間的動きベクトルが誘導されるときに、前記現在ピクチャと前記現在ブロックの参照ピクチャとの間のPOC差分が、前記参照ブロックを含むピクチャと前記参照ブロックの参照ピクチャとの間のPOC差分と同じでない場合にのみ、前記参照ブロックの動きベクトルをスケーリングすることを特徴とする映像復号化装置。」
と補正する。

2.補正の適合性
(1)補正の範囲
本件補正のうち、請求項1において「前記ピクチャ間のPOC(:ピクチャの表示順序)差分値に基づいて第1及び第2の値を計算し」を「前記POC値に基づいて第1及び第2の値を計算し」と変更する補正事項(以下、「補正事項1」という)は、願書に最初に添付した明細書の段落【0169】の記載に基づくものである。
また、請求項1において「前記予測ブロック生成部は、時間的動きベクトルが誘導されるときに、前記現在ピクチャと前記現在ブロックの参照ピクチャとの間のPOC差分が、前記参照ブロックを含むピクチャと前記参照ブロックの参照ピクチャとの間のPOC差分と同じでない場合にのみ、前記参照ブロックの動きベクトルをスケーリングする」という構成を追加する補正事項(以下、「補正事項2」という)は、願書に最初に添付した明細書の段落【0162】,【0165】?【0167】の記載に基づくものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定される願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

(2)補正の目的
補正事項1は、請求項1の他の記載である「前記第1の値は、参照ブロックを含むピクチャと、前記参照ブロックが参照する参照ピクチャ間のPOC差分であり、前記第2の値は、現在のピクチャと、この現在のピクチャが参照する参照ピクチャの間のPOC差分である」という記載、及び、願書に最初に添付した明細書の段落【0169】の記載との整合性をとるものであって、これらに記載されるように、「第1及び第2の値」は、POC値から計算されるPOC差分値そのものである。
したがって、補正前の「前記ピクチャ間のPOC(:ピクチャの表示順序)差分値に基づいて第1及び第2の値を計算し」という記載は正確ではなく、当該記載を補正後の「前記POC値に基づいて第1及び第2の値を計算し」と変更することは、誤記の訂正を目的とするものといえ、特許法第17条の2第5項第3号の規定に該当するものである。
補正事項2は、補正前の請求項1に記載される「予測ブロック生成部」の動作を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第5項第2号の規定に該当するものである。

(3)独立特許要件
上述したように本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものであるので、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定された特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。

(3-1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という)は、次のとおりのものである。
なお、本願補正発明の各構成の符号は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成(A)、構成(B)などと称する。

(本願補正発明)
(A)映像復号化装置において、
(B)現在ブロックに対して画面間予測を実行することで、予測ブロックを生成する予測ブロック生成部を備え、
前記予測ブロック生成部は、
(B-1)現在ブロックの参照ピクチャおよび現在ブロックの画面間予測に用いられる参照ブロックの参照ピクチャの表示順序(POC: Picture Order Count)値に基づいて参照ブロックの動きベクトルについてスケーリングを実行するかを決定し、
(B-2)前記参照ブロックの動きベクトルのスケーリングを行うことが決定したときには、前記POC値に基づいて第1及び第2の値を計算し、
(B-3)前記第1の値の絶対値の2進値に対して1だけ算術的右側移動を実行することによりオフセット値を算出し、
(B-4)このオフセット値を用いて前記第1の値の反比例値を算出し、
(B-5)前記第1の値の反比例値と前記第2の値に基づいてスケーリング因子を計算することにより、前記参照ブロックの動きベクトルをスケーリングし、
(B-6)前記第1の値は、参照ブロックを含むピクチャと、前記参照ブロックが参照する参照ピクチャ間のPOC差分であり、前記第2の値は、現在のピクチャと、この現在のピクチャが参照する参照ピクチャの間のPOC差分であり、
(B-7)前記予測ブロック生成部は、時間的動きベクトルが誘導されるときに、前記現在ピクチャと前記現在ブロックの参照ピクチャとの間のPOC差分が、前記参照ブロックを含むピクチャと前記参照ブロックの参照ピクチャとの間のPOC差分と同じでない場合にのみ、前記参照ブロックの動きベクトルをスケーリングする
(C)ことを特徴とする映像復号化装置。

(3-2)引用文献の記載事項
a.原査定の拒絶の理由に引用された文献である「Tzu-Der Chuang, et al., “Non-CE9: Division-free MV scaling”, Joint Collaborative Team on Video Coding(JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11 7th Meeting: Geneva, CH, 21-30 November, 2011, Document: JCTVC-G223」(以下「引用文献1」という)には、次に掲げる事項が記載されている。
なお、括弧内に当審で作成した日本語仮訳を添付する。

「Abstract
In HM-4.0 motion vector (MV) scaling for the derivation of spatial and temporal motion vector predictors (MVPs), a division operation is required to derive the scaling factor. In hardware and many DSP-based platforms, dividers are undesirable because of larger gate counts and more processing cycles. In this contribution, a division-free MV scaling is proposed to replace the general divider by a look-up table and simple arithmetic operations.」(1頁1?6行)
(概要 HM-4.0において、空間的および時間的動きベクトル予測子(MVPs)の導出のために動きベクトル(MV)をスケーリングする時、スケーリング因子を導出するために除算演算が必要とされます。ハードウェアや多くのDSPベースのプラットフォームにおいては、多くのゲート数、より多くの処理サイクルが必要となるという理由により、除算器は望ましくありません。この寄稿では、ルックアップテーブルと単純な算術演算により、一般的な除算器を置き換える除算フリーMVスケーリングが提案されています。)

「1 Introduction
In the motion vector predictor (MVP) derivation of HM-4.0, when a MVP is derived from a MV pointing to a different reference picture, the MV is scaled to the target reference picture as the final MVP. In the MV scaling process, the scaling factor is defined by equ. (1).

ScalingFactor = ( POC_(curr) - PoC_(ref) )/( POC_(col) - POC_(col_ref) )
= tb/td, (1)

where td is the POC distance between the co-located picture and the reference picture for the co-located block, and tb is the POC distance between the current picture and the target reference picture. In HM-4.0, the scaling factor is calculated by the following equations:

X = ( 2^(14) + | td/2 | ) / td (2)

ScalingFactor = clip ( -1024, 1023, ( tb × X + 32 ) >> 6 ) (3)

Then, the scaled MV is derived as follow:

ScaledMV = sign ( ScalingFactor × MV ) ×
( ( abs( ScalingFactor × MV ) + 127 ) ) >> 8 ) (4)

In equ. (2), a divider is required to derive the value of X. However, in hardware, the divider is undesirable due to the high area cost. Moreover, in HM-4.0, the MV scaling is the only thing that still needs the division operation. All other coding tools are division-free. In this contribution, to reduce the hardware complexity, a division-free MV scaling is proposed to replace the divider with a look-up table (LUT) and simple arithmetic operations.」(1頁11?27行)
(1 はじめに HM-4.0の動きベクトル予測子(MVP)の導出において、異なる参照ピクチャを指し示すMVからMVPが導出される場合、MVは、最終的なMVPとして、目標の参照画像にスケーリングされます。MVスケーリング処理では、スケーリング因子が式(1)によって定義されます。
式(1)
ここで、tdは、対応位置ピクチャと、対応位置ブロックのための参照ピクチャとの間のPOC距離であり、tbは、現在ピクチャと、目標の参照ピクチャとの間のPOC距離です。HM-4.0においては、スケーリング因子は次式で計算されます。
式(2)
式(3)
次に、スケーリングされたMVは、以下のように導出されます。
式(4)
式(2)において、Xの値を導出するために除算器が必要とされます。しかしながら、ハードウェアにおいて、除算器は高い面積コストのために望ましくありません。さらに、HM-4.0において、MVスケーリングは除算演算を未だに必要とする唯一のものです。全ての他の符号化ツールは、除算フリーです。この寄稿では、ハードウェアの複雑さを軽減するために、ルックアップテーブル(LUT)と単純な算術演算によって除算器を置き換える除算フリーMVスケーリングが提案されています。)

(3-3)引用発明
上記引用文献1に記載された発明を認定する。

a.動きベクトル予測子(MVP)の導出
引用文献1には、HM-4.0における空間的および時間的動きベクトル予測子(MVP)を導出する処理について記載されており、動きベクトル予測子(MVP)は、スケーリング因子を用いて異なる参照ピクチャを指し示す動きベクトル(MV)をスケーリングすることにより導出される。

b.スケーリング因子の計算
引用文献1には、さらに、動きベクトル(MV)をスケーリングするためのスケーリング因子を計算する手法について記載されており、スケーリング因子は、以下の手順により計算される。
(a)対応位置ピクチャと、対応位置ブロックのための参照ピクチャとの間のPOC距離をtdとし( td = POC_(col) - POC_(col_ref) )、現在ピクチャと、目標の参照ピクチャとの間のPOC距離をtbとする( tb = POC_(curr) - POC_(ref) )。
(b)tdを2で除算し、その絶対値(|td/2|)を求める。
(c)所定数(2^(14))に求められた絶対値(|td/2|)を加え、tdで除算することにより、tdの反比例値(X)を求める。
(d)求められたtdの反比例値(X)とtbを用いて、スケーリング因子を計算する。

c.まとめ
上述した動きベクトル予測子(MVP)を導出する手順は、符号化装置及び復号化装置に実装されて実現されるものであり、引用文献1に記載される発明を、上記手順を実現する処理部として、物の発明と捉えることとする。
以上のことから、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という)が記載されていると認められる。
なお、引用発明の各構成の符号は、説明のために付与したものであり、以下、構成(ア)、構成(イ)などと称する。

(引用発明)
(ア)時間的動きベクトル予測子(MVP)を導出する処理部であって、
(イ)対応位置ピクチャと、対応位置ブロックのための参照ピクチャとの間のPOC距離をtdとし( td = POC_(col) - POC_(col_ref) )、現在ピクチャと、目標の参照ピクチャとの間のPOC距離をtbとし( tb = POC_(curr) - POC_(ref) )、
(ウ)tdを2で除算し、その絶対値(|td/2|)を求め、
(エ)所定数(2^(14))に求められた絶対値(|td/2|)を加え、tdで除算することにより、tdの反比例値(X)を求め、
(オ)求められたtdの反比例値(X)とtbを用いて、スケーリング因子を計算し、
(カ)スケーリング因子を用いて異なる参照ピクチャを指し示す動きベクトル(MV)をスケーリングすることにより、時間的動きベクトル予測子(MVP)を導出する、
(キ)処理部。

(3-4)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

a.本願補正発明の構成(A)及び(C)について
引用発明は、映像復号化装置としての構成を備えていない。
よって、引用発明は、本願補正発明の構成(A)及び(C)の「映像復号化装置」としての構成を備えていない点で本願補正発明と相違する。

b.本願補正発明の構成(B)について
引用発明は、構成(ア)のように「時間的動きベクトル予測子(MVP)を導出する処理部」である。
本願補正発明の構成(B)の「予測ブロック生成部」は、現在ブロックに対して画面間予測を実行して予測ブロックを生成するものであるところ、本願補正発明の画面間予測は、構成(B-7)にあるように時間的動きベクトルが誘導されるものであり、「予測ブロック生成部」は、その誘導された時間的動きベクトルにより予測ブロックを特定して予測ブロックを生成するものといえる。
すなわち、本願補正発明の「予測ブロック生成部」は、時間的動きベクトルを誘導する処理を含むものである。
そして、引用発明の「時間的動きベクトル予測子(MVP)」は、予測ブロックを特定するための時間的動きベクトルであるから、引用発明の「時間的動きベクトル予測子(MVP)を導出する処理部」は、本願補正発明の「予測ブロック生成部」と、『時間的動きベクトルを誘導する処理部』という点で一致するものといえる。
ただし、『時間的動きベクトルを誘導する処理部』に関し、本願補正発明は、さらに、その誘導された時間的動きベクトルを用いて予測ブロックを生成する「予測ブロック生成部」であって、「現在ブロックに対して画面間予測を実行することで、予測ブロックを生成する予測ブロック生成部」を備えているのに対し、引用発明は、「時間的動きベクトル予測子(MVP)を導出する処理部」であって、本願補正発明のような構成を有していない点で、本願補正発明と相違する。

c.本願補正発明の構成(B-1)について
本願補正発明は「現在ブロックの参照ピクチャおよび現在ブロックの画面間予測に用いられる参照ブロックの参照ピクチャの表示順序(POC: Picture Order Count)値に基づいて参照ブロックの動きベクトルについてスケーリングを実行するかを決定し」という構成を備えているのに対し、引用発明は、そのようなスケーリングを実行するかを決定する構成を備えていない点で本願補正発明と相違する。

d.本願補正発明の構成(B-2)及び(B-6)について
引用発明は、構成(イ)にあるように、「対応位置ピクチャと、対応位置ブロックのための参照ピクチャとの間のPOC距離」である「td」( td = POC_(col) - POC_(col_ref) )と、「現在ピクチャと、目標の参照ピクチャとの間のPOC距離」である「tb」( tb = POC_(curr) - POC_(ref) )を計算するものである。
ここで、「対応位置ピクチャ」は、「対応位置ブロック」が含まれるピクチャのことであり、引用発明の「対応位置ブロック」は本願補正発明の「参照ブロック」に対応するものである。よって、引用発明の「対応位置ピクチャ」は、本願補正発明の「参照ブロックを含むピクチャ」に相当する。
また、引用発明の「POC距離」は、本願補正発明の「POC差分」に相当するものである。
そうすると、引用発明の「td」についての「対応位置ピクチャと、対応位置ブロックのための参照ピクチャとの間のPOC距離」は、本願補正発明の「参照ブロックを含むピクチャと、前記参照ブロックが参照する参照ピクチャ間のPOC差分」に相当し、引用発明の「td」は本願補正発明の「第1の値」に相当する。
さらに、引用発明の「目標の参照ピクチャ」は、「現在ピクチャ」が参照する参照ピクチャのことであるから、引用発明の「tb」についての「現在ピクチャと、目標の参照ピクチャとの間のPOC距離」は、本願補正発明の「現在のピクチャと、この現在のピクチャが参照する参照ピクチャの間のPOC差分」に相当し、引用発明の「tb」は本願補正発明の「第2の値」に相当する。
以上のことから、引用発明の構成(イ)は、本願補正発明の構成(B-6)と一致する。

引用発明の「td」及び「tb」は、ピクチャ間の「POC距離」であり、ピクチャの「POC」の値から計算されるものであるから、引用発明の構成(イ)は、本願補正発明の構成(B-2)の「POC値に基づいて第1及び第2の値を計算し」という構成を有しているものといえる。
ただし、上記cにおいて検討したように、引用発明は、スケーリングを実行するかを決定する構成を備えていないことから、「POC値に基づいて第1及び第2の値を計算」することに関し、本願補正発明は、構成(B-2)のように「前記参照ブロックの動きベクトルのスケーリングを行うことが決定したときには、」という条件を有しているが、引用発明は、そのような条件を有していない点で、本願補正発明と相違する。

e.本願補正発明の構成(B-3)及び(B-4)について
引用発明の構成(ウ)及び(エ)は、「(ウ)tdを2で除算し、その絶対値(|td/2|)を求め、(エ)所定数(214)に求められた絶対値(|td/2|)を加え、tdで除算することにより、tdの反比例値(X)を求め」るものである。
ここで、「td」は、「対応位置ピクチャ」と「参照ピクチャ」の間の「POC距離」であるから、たかだか2^(4)から2^(5)程度の値であるので、tdを2で除算した値の絶対値(|td/2|)は、所定数(2^(14))と較べると小さな値であり、所定数(2^(14))の補正値、すなわちオフセット値といえる。
よって、「tdを2で除算し、その絶対値(|td/2|)」は、「反比例値(X)」を求める際のオフセット値ということができる。
なお、「td」は、上記dにおいて検討したように、本願補正発明の「第1の値」に相当するものである。
以上のことから、引用発明は、『第1の値からオフセット値を算出』するものである点において、本願補正発明の構成(B-3)と共通するものである。
ただし、『第1の値からオフセット値を算出』することに関し、本願補正発明は、構成(B-3)のように「前記第1の値の絶対値の2進値に対して1だけ算術的右側移動を実行することによりオフセット値を算出し」ているものであるのに対し、引用発明は、td、すなわち第1の値を2で除算し、その絶対値(|td/2|)を求めることによりオフセット値を算出している点において、本願補正発明と相違する。
さらに、引用発明の構成(エ)は、「所定数(2^(14))に求められた絶対値(|td/2|)を加え、tdで除算することにより、tdの反比例値(X)を求め」るものであるから、オフセット値を用いて、td、すなわち第1の値の反比例値(X)を算出するものであり、本願補正発明の構成(B-4)の「このオフセット値を用いて前記第1の値の反比例値を算出し」という構成と一致する。

f.本願補正発明の構成(B-5)について
引用発明は、構成(オ)にあるように、「求められたtdの反比例値(X)とtbを用いて、スケーリング因子を計算し」、構成(カ)にあるように、「スケーリング因子を用いて異なる参照ピクチャを指し示す動きベクトル(MV)をスケーリングすることにより、時間的動きベクトル予測子(MVP)を導出する」ものである。
ここで、上記d、eにおいて検討したように、構成(オ)の「tdの反比例値(X)」は、本願補正発明の「第1の値の反比例値」に相当し、「tb」は、本願補正発明の「第2の値」に相当する。
また、構成(カ)の「異なる参照ピクチャを指し示す動きベクトル(MV)」は、符号化の対象となる現在ピクチャの参照ピクチャとは異なる参照ピクチャを指し示す動きベクトルことであり、スケーリングの対象となる「対応位置ブロック」の動きベクトルのことである。
そして、上記dにおいて検討したように、「対応位置ブロック」は本願補正発明の「参照ブロック」に対応するものであるから、構成(カ)の「異なる参照ピクチャを指し示す動きベクトル(MV)をスケーリングする」ことは、本願補正発明の「参照ブロックの動きベクトルをスケーリング」することに相当する。
以上のことから、引用発明の構成(オ)及び(カ)は、『第1の値の反比例値と第2の値を用いてスケーリング因子を計算し、スケーリング因子を用いて参照ブロックの動きベクトルをスケーリング』するものであり、本願補正発明の構成(B-5)の「前記第1の値の反比例値と前記第2の値に基づいてスケーリング因子を計算することにより、前記参照ブロックの動きベクトルをスケーリングし」という構成と一致する。

g.本願補正発明の構成(B-7)について
引用発明は、上記fにおいて検討したように、『参照ブロックの動きベクトルをスケーリング』するものであるが、上記cにおいて検討したように、スケーリングを実行するかを決定する構成を備えていないことから、『参照ブロックの動きベクトルをスケーリング』することに関し、本願補正発明は、構成(B-7)のような「前記予測ブロック生成部は、時間的動きベクトルが誘導されるときに、前記現在ピクチャと前記現在ブロックの参照ピクチャとの間のPOC差分が、前記参照ブロックを含むピクチャと前記参照ブロックの参照ピクチャとの間のPOC差分と同じでない場合にのみ、前記参照ブロックの動きベクトルをスケーリングする」というものであるのに対し、引用発明はそのような構成を有していない点で、本願補正発明と相違する。

h.まとめ
上記aないしgの対比結果をまとめると、本願補正発明と引用発明との[一致点]と[相違点]は以下のとおりである。

[一致点]
時間的動きベクトルを誘導する処理部であって、
POC値に基づいて第1及び第2の値を計算し、
前記第1の値からオフセット値を算出し、
このオフセット値を用いて前記第1の値の反比例値を算出し、
前記第1の値の反比例値と前記第2の値に基づいてスケーリング因子を計算することにより、前記参照ブロックの動きベクトルをスケーリングし、
前記第1の値は、参照ブロックを含むピクチャと、前記参照ブロックが参照する参照ピクチャ間のPOC差分であり、前記第2の値は、現在のピクチャと、この現在のピクチャが参照する参照ピクチャの間のPOC差分である、
時間的動きベクトルを誘導する処理部。

[相違点1]
引用発明は、本願補正発明の「映像復号化装置」としての構成を備えていない点。

[相違点2]
『時間的動きベクトルを誘導する処理部』に関し、本願補正発明は、さらに、その誘導された時間的動きベクトルを用いて予測ブロックを生成する「予測ブロック生成部」であって、「現在ブロックに対して画面間予測を実行することで、予測ブロックを生成する予測ブロック生成部」を備えているのに対し、引用発明は、「時間的動きベクトル予測子(MVP)を導出する処理部」であって、本願補正発明のような構成を有していない点。

[相違点3]
本願補正発明は「現在ブロックの参照ピクチャおよび現在ブロックの画面間予測に用いられる参照ブロックの参照ピクチャの表示順序(POC: Picture Order Count)値に基づいて参照ブロックの動きベクトルについてスケーリングを実行するかを決定し」という構成を備えているのに対し、引用発明は、そのようなスケーリングを実行するかを決定する構成を備えていない点。

[相違点4]
相違点3に起因して、「POC値に基づいて第1及び第2の値を計算」することに関し、本願補正発明は、「前記参照ブロックの動きベクトルのスケーリングを行うことが決定したときには、」という条件を有しているが、引用発明は、そのような条件を有していない点。

[相違点5]
『第1の値からオフセット値を算出』することに関し、本願補正発明は、「前記第1の値の絶対値の2進値に対して1だけ算術的右側移動を実行することによりオフセット値を算出し」ているものであるのに対し、引用発明は、td、すなわち第1の値を2で除算し、その絶対値(|td/2|)を求めることによりオフセット値を算出している点。

[相違点6]
相違点3に起因して、『参照ブロックの動きベクトルをスケーリング』することに関し、本願補正発明は、「前記予測ブロック生成部は、時間的動きベクトルが誘導されるときに、前記現在ピクチャと前記現在ブロックの参照ピクチャとの間のPOC差分が、前記参照ブロックを含むピクチャと前記参照ブロックの参照ピクチャとの間のPOC差分と同じでない場合にのみ、前記参照ブロックの動きベクトルをスケーリングする」というものであるのに対し、引用発明はそのような構成を有していない点。

(3-5)相違点の判断
[相違点1及び2について]
引用発明の「時間的動きベクトル予測子(MVP)を導出する処理部」の処理は、映像符号化装置において、画面間予測を実行する際の現在ブロックに対する予測ブロックを特定するための動きベクトルを予測するという処理であることは、当業者にとって周知の事項である。
また、この処理は、映像復号化装置においても、現在ブロックに対する参照ピクチャの予測ブロックを特定する動きベクトルを予測する処理として実行されることも当業者にとって周知の事項である。
したがって、引用発明の「時間的動きベクトル予測子(MVP)を導出する処理部」を、現在ブロックに対して画面間予測を実行することで予測ブロックを生成する予測ブロック生成の処理に用いて、予測ブロック生成部として構成し、さらに、その予測ブロック生成の処理を行う予測ブロック生成部を、映像復号化を行うものに実装して、映像復号化装置として構成することにより、上記相違点1及び2の構成を採用することは、当業者が容易になし得ることと認められる。

[相違点3,4及び6について]
引用発明は、「時間的動きベクトル予測子(MVP)」を導出するために、「異なる参照ピクチャを指し示す動きベクトル(MV)」をスケーリングするものである。
この処理は、現在ピクチャの処理対象の現在ブロックの参照ピクチャへの動きベクトルである「時間的動きベクトル予測子(MVP)」を、対応位置ブロックの参照ピクチャへの動きベクトルである「異なる参照ピクチャを指し示す動きベクトル(MV)」から予測する時に、「時間的動きベクトル予測子(MVP)」の時間的スケールである『現在ピクチャと処理対象の現在ブロックの参照ピクチャとの間のPOC距離(tb)』と、「異なる参照ピクチャを指し示す動きベクトル(MV)」の時間スケールである『対応位置ブロックの対象位置ピクチャと参照ピクチャとの間のPOC距離(td)』の違いを吸収させて時間的スケールを一致させ、「異なる参照ピクチャを指し示す動きベクトル(MV)」の大きさを、「時間的動きベクトル予測子(MVP)」に対応した大きさにスケーリングするというものである。
したがって、『現在ピクチャと処理対象の現在ブロックの参照ピクチャとの間のPOC距離(tb)』と、『対応位置ブロックの対象位置ピクチャと参照ピクチャとの間のPOC距離(td)』が異なる場合にスケーリングが必要となるが、同じ場合にはスケーリングの必要がないことは、自明のことである。
そして、上記2(3)(3-2)に摘示したように、引用文献1には、『スケーリング因子を導出するために除算演算が必要であるが、ハードウェアや多くのDSPベースのプラットフォームにおいては、多くのゲート数、より多くの処理サイクルが必要となるという理由により、除算器は望ましくない』ということが記載されているように、引用文献1には、スケーリング因子の導出のための除算演算は、可能な限り避けるべきであるという技術思想が開示されている。
その技術思想を踏まえると、引用発明において、動きベクトルのスケーリングを行う必要のない場合にはスケーリング因子の演算を回避させるために、スケーリング因子の導出処理の前に、『現在ピクチャと処理対象の現在ブロックの参照ピクチャとの間のPOC距離(tb)』と、『対応位置ブロックの対象位置ピクチャと参照ピクチャとの間のPOC距離(td)』を検査し、両者が同じ場合にはスケーリングを行わないようにすることは、当業者が容易に想到し得ることであって、そうすることにより上記相違点3,4及び6の構成を採用することは、当業者が容易になし得ることと認められる。
なお、引用発明のPOCが、相違点3に係る構成に含まれる「現在ブロックの参照ピクチャおよび現在ブロックの画面間予測に用いられる参照ブロックの参照ピクチャの表示順序(POC: Picture Order Count)」であることは、周知の事項である。

[相違点5について]
デジタル演算において、2での除算を2進数の右1ビットシフト演算で行うことは周知の技術である。
そして、引用文献1においても「2 Algorithm description」(2頁3?7行、図1)に、
「2 Algorithm description
2.1 MV scaling in HM-4.0
The MV scaling process in HM-4.0 is specified in equ. (2-4). Figure 1 shows the circuit diagram of HM-4.0 MV scaling hardware. In the divider, a 16-bit input is divided by an 8-bit input. The divider occupies over half of gate counts in the MV scaling module.

Figure 1. The circuit diagram of HM-4.0 MV scaling hardware」
(仮訳:2 アルゴリズムの説明
2.1 HM-4.0におけるMVのスケーリング
HM-4.0におけるMVのスケーリング処理は、式(2-4)におい明示されています。図1は、HM-4.0のMVスケーリングのハードウェアの回路図を示しています。除算器において、16ビットの入力が8ビットの入力で除算されます。除算器は、MVスケーリングのモジュールで、ゲート数の半分以上を占めています。
図1 HM-4.0のMVスケーリングのハードウェアの回路図)
と記載されており、「図1 HM-4.0のMVスケーリングのハードウェアの回路図」を参照すると、『入力されるTDD(td)を[abs]演算器により絶対値を取り、その後、[>>1]演算器により2進数の右1ビットシフト演算を行い、0x4000(2^(14))に加えること』、すなわち、所定数(2^(14))に加えるオフセット値を、tdの絶対値を取った後に、それを2進数の右1ビットシフト演算して算出することが示されている。
したがって、引用発明の、td、すなわち第1の値を2で除算し、その絶対値(|td/2|)を求めることによりオフセット値を算出することを、td、すなわち第1の値の絶対値の2進値に対して1だけ算術的右側移動を実行することによりオフセット値を算出するものに変更し、相違点5に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得ることである。

(3-6)効果等について
本願補正発明の構成は、上記のように当業者が容易に想到できたものであるところ、本願補正発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測しうる範囲内のものであり、同範囲を超える顕著なものではない。

(3-7)上申書について
出願人は、平成28年2月22日付け上申書において、請求項1に「前記予測ブロック生成部は、空間的動きベクトルが誘導されるときに、前記現在ブロックの参照ピクチャと、前記現在ブロックの画面間予測に用いられる前記参照ブロックの参照ピクチャとが同じでない場合にのみ、前記参照ブロックの動きベクトルをスケーリングし、」という構成を追加する補正の用意がある旨を述べているが、上記第2の2(3)(3-3)aに示したように、引用文献1には、HM-4.0における空間的および時間的動きベクトル予測子(MVP)を導出する処理について記載されており、空間的動きベクトルを誘導することに関する技術についても開示されている。
そして、上記(3-5)の[相違点3,4及び6について]において検討したのと同様に、空間的動きベクトルに関してもスケーリングを行う条件を定め、スケーリングが必要である場合のみスケーリングを行うようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、上申書で述べられる上記補正によっても、本願補正発明が進歩性を有するものとは認められない。

(3-8)まとめ
以上のように、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明、並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について

1.本願発明
平成27年9月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成27年5月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載した事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、上記第2の1の(補正前の請求項1)に記載した事項により特定されるとおりのものである。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、並びに、その記載事項は、上記第2の2(3)(3-2)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記第2の2(1)及び(2)で摘示した本願補正発明に追加された限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が上記第2の2(3)に記載したとおり、引用文献1に記載された発明、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1に記載された発明、並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-16 
結審通知日 2016-05-17 
審決日 2016-05-31 
出願番号 特願2014-243486(P2014-243486)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04N)
P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 梅本 達雄山▲崎▼ 雄介  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 小池 正彦
清水 正一
発明の名称 映像復号化装置  
代理人 吉元 弘  
代理人 勝沼 宏仁  

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