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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1320653
審判番号 不服2015-10717  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-05 
確定日 2016-10-20 
事件の表示 特願2010- 86842「半導体基板、半導体基板の製造方法、半導体基板の判定方法、および電子デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月18日出願公開、特開2010-263196〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年4月5日(国内優先権主張 平成21年4月6日)の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成25年 3月 7日 審査請求
平成26年 6月11日 拒絶理由通知
平成26年 8月 4日 意見書・手続補正
平成27年 3月 2日 拒絶査定(以下,「原査定」という。)
平成27年 6月 5日 審判請求・手続補正

第2 補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年6月5日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正により,本件補正前の特許請求の範囲の請求項11は本件補正後の請求項8へ補正された。
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,特許請求の範囲の請求項11の記載は次のとおりである。
「【請求項11】
2次元キャリアガスを生成する化合物半導体を形成する段階と,
キャリアの移動度を前記化合物半導体における前記キャリアの移動度よりも小さくする移動度低減因子を有する移動度低減半導体を形成する段階と,
前記化合物半導体に前記キャリアを供給するキャリア供給半導体を形成する段階と
を備える半導体基板の製造方法であって,
前記化合物半導体,前記移動度低減半導体および前記キャリア供給半導体を,当該半導体基板の構成要素を支持するベース基板の上に,前記キャリア供給半導体,前記移動度低減半導体,前記化合物半導体,前記移動度低減半導体,前記キャリア供給半導体の順に形成する半導体基板の製造方法。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の,特許請求の範囲の請求項8の記載は,次のとおりである。(当審注。補正個所に下線を付した。下記(3)も同じ。)
「【請求項8】
2次元キャリアガスを生成する化合物半導体を形成する段階と,
キャリアの移動度を前記化合物半導体における前記キャリアの移動度よりも小さくする移動度低減因子を有する移動度低減半導体を形成する段階と,
前記化合物半導体に前記キャリアを供給するキャリア供給半導体を形成する段階と
を備える半導体基板の製造方法であって,
前記化合物半導体,前記移動度低減半導体および前記キャリア供給半導体を,当該半導体基板の構成要素を支持するベース基板の上に,前記キャリア供給半導体,前記移動度低減半導体,前記化合物半導体,前記移動度低減半導体,前記キャリア供給半導体の順に形成し,
前記化合物半導体が,その内部では,基底状態にあるキャリアの存在確率が,励起状態にあるキャリアの存在確率より高いものであり,
前記移動度低減半導体が,その内部では,基底状態にあるキャリアの存在確率よりも第1励起準位の励起状態にあるキャリアの存在確率の方が高いものであり,
前記化合物半導体上の異なる2点間に電圧が印加された場合に前記化合物半導体を流れる電流yを,前記電圧に対応し,-1.5[kV/cm]以上,+1.5[kV/cm]以下の範囲内で変化する電界強度xを変数とする近似多項式y=ax^(3)+bx^(2)+cxで表した場合に,前記近似多項式における3次項係数aの1次項係数cに対する比の絶対値|a/c|が,0.037[(kV/cm)^(-2)]未満である
半導体基板の製造方法。」
(3)補正事項1
本件補正は,補正前請求項11の「半導体基板」について「前記化合物半導体が,その内部では,基底状態にあるキャリアの存在確率が,励起状態にあるキャリアの存在確率より高いものであり,
前記移動度低減半導体が,その内部では,基底状態にあるキャリアの存在確率よりも第1励起準位の励起状態にあるキャリアの存在確率の方が高いものであり,
前記化合物半導体上の異なる2点間に電圧が印加された場合に前記化合物半導体を流れる電流yを,前記電圧に対応し,-1.5[kV/cm]以上,+1.5[kV/cm]以下の範囲内で変化する電界強度xを変数とする近似多項式y=ax^(3)+bx^(2)+cxで表した場合に,前記近似多項式における3次項係数aの1次項係数cに対する比の絶対値|a/c|が,0.037[(kV/cm)^(-2)]未満である」という限定を付加して,補正後請求項8とする補正(以下,「補正事項1」という。)を含むものである。
2 補正の適否
本願の願書に最初に添付した明細書の段落0018,0024及び0025の記載からみて,補正事項1は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるので,補正事項1は,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
そして,本件補正は前記1(3)のとおり,本件補正前の請求項11に記載された発明特定事項を限定的に減縮するものであるから,特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり,また,同法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,補正後の請求項8に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項)につき,更に検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は,本件補正後の請求項8に記載された,次のとおりのものと認める。(再掲)
「2次元キャリアガスを生成する化合物半導体を形成する段階と,
キャリアの移動度を前記化合物半導体における前記キャリアの移動度よりも小さくする移動度低減因子を有する移動度低減半導体を形成する段階と,
前記化合物半導体に前記キャリアを供給するキャリア供給半導体を形成する段階と
を備える半導体基板の製造方法であって,
前記化合物半導体,前記移動度低減半導体および前記キャリア供給半導体を,当該半導体基板の構成要素を支持するベース基板の上に,前記キャリア供給半導体,前記移動度低減半導体,前記化合物半導体,前記移動度低減半導体,前記キャリア供給半導体の順に形成し,
前記化合物半導体が,その内部では,基底状態にあるキャリアの存在確率が,励起状態にあるキャリアの存在確率より高いものであり,
前記移動度低減半導体が,その内部では,基底状態にあるキャリアの存在確率よりも第1励起準位の励起状態にあるキャリアの存在確率の方が高いものであり,
前記化合物半導体上の異なる2点間に電圧が印加された場合に前記化合物半導体を流れる電流yを,前記電圧に対応し,-1.5[kV/cm]以上,+1.5[kV/cm]以下の範囲内で変化する電界強度xを変数とする近似多項式y=ax^(3)+bx^(2)+cxで表した場合に,前記近似多項式における3次項係数aの1次項係数cに対する比の絶対値|a/c|が,0.037[(kV/cm)^(-2)]未満である
半導体基板の製造方法。」
(2)引用文献の記載と引用発明
ア 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平4-129231号公報(以下,「引用文献」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(当審注。下線は当審において付加した。以下同じ。)
(ア)「〔産業上の利用分野〕
本発明は,ヘテロ接合電界効果トランジスタに関し,特にそのエピタキシャル層構造に関するものである。」(1頁左下欄20行?同右下欄3行)
(イ)「このようなヘテロ接合電界効果トランジスタとしては,例えばAlGaAs/GaAs系へテロ接合電界効果トランジスタ,GaAs/InGaAsヘテロ接合等を採用したスードモルフィック(pseudo-morphic)電界効果トランジスタ等が知られている。
・・・
次に動作について説明する。n-AlGaAs層(電子供給層)5に比べてGaAs層(チャネル層)7の方が電子親和力が大きいので,n-AlGaAs層5中の電子はGaAs層7側へ引き寄せられ,ヘテロ界面のGaAs層7側にたまる。この電子は,ヘテロ界面に沿った方向にのみ自由度を持っているので,2次元電子ガスと呼ばれる。2次元電子ガスは,イオン化不純物による散乱が小さいので,高い移動度を持ち,ソース1,ドレイン3間に電圧を印加すると,この2次元電子ガスをキャリアとして電流が流れる。そして,ゲート2にバイアスを加えることによってこの電流の流れを制御して,素子動作を行う。」(1頁右下欄14行?2頁右上欄8行)
(ウ)「文献(Y,Ando et al,:IEEE trans. on Electron Devices ED-35(1988)2295)によると,通常のへテロ接合電界効果トランジスタの場合,電子は室温において基底状態のみではなく,第1?第5励起状態まで分布する。
例えば,文献(F.Stern:Phys.Rev.B 15 July(1984))によると,電子の基底状態と第1励起状態との間のエネルギ差は40meV以上にならないので,室温において数十%ものキャリアが第1励起状態以上に分布する。このためバンド間散乱が大きくなってキャリアの移動度の低下が生じ,素子特性が悪化する。」(2頁右下欄18行?3頁左上欄9行)
(エ)「本願の第2発明にあっては,チャネル層より禁止帯幅が狭い半導体層,例えばInAs層をチャネル層内の所望位置に挿入する。禁止帯幅が狭いこの半導体層の存在により,深いポテンシャル井戸が局所的に形成されるので,基底状態のキャリアはこの狭い半導体層の近傍に強く束縛されて閉じ込め効果が大きくなり,ポテンシャルエネルギは数+meV小さくなる。一方,キャリアの第1励起状態は禁止帯幅が狭いこの半導体層の影響を殆ど受けないので,第1励起状態のポテンシャルエネルギの変化は小さい。従って,基底状態と第1励起状態とのエネルギ差は数+meV程度大きくなり,ヘテロ界面から離れた禁止帯幅が狭いこの半導体層近傍において基底状態にのみキャリアが分布する。この結果バンド間散乱が小さくなり,キャリアの移動度は大きい。また,基底状態のポテンシャルエネルギは下がるので,キャリア濃度は増加する。」(3頁右上欄16行?同左下欄13行)
(オ)「次に,キャリアの存在確率が基底状態では高く第1励起状態では低い位置に,禁止帯幅が狭い半導体層を挿入する第2発明について説明する。第4図は,第2発明の一実施例(AlGaAs層 GaAs系へテロ接合電界効果トランジスタ)の素子の断面図であり,図中10は半絶縁性のGaAs基板である。基板10上には,チャネル層となるアンドープGaAs層9,チャネル層内に挿入された禁止帯幅が狭い半導体層である単分子のアンドープInAs層8,チャネル層となるアンドープGaAs層7,スペーサ層となるアンドープAlGaAs層6,電子供給層5となるSiドープn-AlGaAs層5,キャップ層となるSiドープn-GaAs層4がこの順に積層形成されている。このn-GaAs層(キャップ層)4上には,ソース1,ドレイン3のオーミック電極と,ゲート2のショットキ電極が形成されている。 n-GaAs層(キャップ層)4は,ソース1,ドレイン3のオーミック電極におけるコンタクト抵抗を下げるために設けられており,AlGaAs層(スペーサ層)6は,ヘテロ界面における電子をn-AlGaAs層(電子供給層)5の不純物から離すために設けられている。なお,第4図において,ξ_(0)は通常のへテロ接合電界効果トランジスタの基底状態の波動関数を示し,ξ_(1)は同じくその第1励起状態の波動関数を示している。第2発明の要旨である禁止帯幅が狭いInAs層8が,チャネル層内であって電子の基底状態の存在確率が最大であり第1励起状態の存在確率が零となる位置近傍(ヘテロ界面から70Åの深さ位置)に挿入されている。
また,第5図は第4図に示す素子のエネルギバンド図であり,図中E_(0),E_(1)は夫々基底状態,第1励起状態のエネルギ固有値を示し,E_(F)はフェルミ準位を示し,ΔE_(C)はへテロ界面における伝導帯のバンド不連続値を示す,なお固有値は,ヘテロ界面における禁止帯幅が狭い半導体層(GaAs層7)の伝導帯の底を零として表している。
第4図に示すように,チャネル層内の所望の位置(ヘテロ界面から70Åの深さ位置)にInAs層8を挿入すると,その位置に0.6eVのポテンシャル井戸が形成され,第5図に示すようなエネルギバンドとなる。ポテンシャル井戸層であるInAs層8は基底状態の電子(ψ_(0))を強く引きつけるので,通常のへテロ接合電界効果トランジスタ(第11図参照)に比べて,20Å程度電子がへテロ界面から離れて分布する。従って,n-AlGaAs層(電子供給層)5中の不純物による電子の散乱が小さくなり,特に低温(77K以下)にあっては,通常のものに比べて移動度が2倍以上に増加する。また,電子の基底状態のポテンシャルエネルギ(E_(0))は通常のもの(第11図E_(0))と比べて数十meV低下するので,基底状態における電子濃度が数十%増加する。一方,電子の第1励起状態(ψ_(1))は,InAsポテンシャルの影響を殆ど受けないので,ポテンシャルエネルギ(E_(1))は通常のもの(第11図E_(1))と殆ど差がない,このため,通常のものと比較して,本発明の素子ではE_(0)とE_(1)との差が数十meV大きくなり,室温においても電子はほとんど基底状態に分布し,バンド間散乱は非常に小さい。また,電子の濃度にかかわらず,電子分布はInAs層8の近傍に限られるので,電子濃度の変化に対する移動度の変化は小さく,低電子濃度にあっても高い移動度を得ることができる。」(5頁左上欄4行?同右下欄5行)
(カ)第5図には,InAs層(8)において電子の基底状態の波動関数(ψ_(0))が最大となり,第1励起状態の波動関数(ψ_(1))が0となること,及びGaAs層(7,9)のポテンシャルエネルギがInAs(8)よりも高いことが記載されている。
イ 前記ア(オ)には,「積層形成されている」とあるから,引用文献には「積層形成」という「製造方法」が記載されているに等しく,前記アより,引用文献には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「基板10上に,チャネル層となるアンドープGaAs層9,チャネル層内に挿入された禁止帯幅が狭い半導体層である単分子のアンドープInAs層8,チャネル層となるアンドープGaAs層7,スペーサ層となるアンドープAlGaAs層6,電子供給層5となるSiドープn-AlGaAs層5,キャップ層となるSiドープn-GaAs層4がこの順に積層形成された積層体の製造方法。」
(3)周知技術
ア 周知例1
原査定で引用された,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2004-207473号公報(以下,「周知例1」という。)には,図面とともに次の記載がある。
(ア)「【0003】
【従来の技術】
高周波通信機器の重要な構成部品として高電子移動度電界効果型トランジスタ(High Electron Mobility Transistor 、以下HEMTという)が用いられている。HEMTは、電子を供給する電子供給層(ドープ層)と電子が走行するチャネル層とを異なる材料で構成した選択ドープへテロ構造を採っている点が大きな特徴である。・・・」
(イ)「【0025】
図1は,本発明によるp-HEMT構造エピタキシャル基板の実施の形態の一例を示す層構造図である。図1において,1はGaAs単結晶基板,2はGaAs単結晶基板1上に形成されたバッファ層である。3はn-AlGaAs層として形成され,n型不純物をドープしたバック側電子供給層であり,バック側電子供給層3の上には,バック側スペーサ層(AlGaAs層)4及びバック側スペーサ層(GaAs層)5が形成されている。6は2次元電子を流すため2次元電子ガスが形成されるチャネル層であり,In組成に応じて4nmから13.5nm厚のi-InGaAs層として形成されている。
【0026】
チャネル層6の上には,GaAs層から成るフロント側スペーサ層7,AlGaAs層として形成されたフロント側スペーサ層8,n-AlGaAs層として形成されたフロント側電子供給層9,アンドープ層(i-AlGaAs層)10,及び別のアンドープ層(i-GaAs層)11がこの順序で形成されている。」
イ 周知例2
原査定で引用された,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2004-221363号公報には,図面とともに次の記載がある。
「【0005】
また電子供給層の総数に注目すると,電子供給層がInGaAsチャネル上に一層のもの(単層HEMT)と,チャネル下にも供給層を有したダブルヘテロタイプ(ここではD-HEMTと呼ぶ)に分けられる。前者は最もポピュラーな構造で,この構造によるトランジスタは,衛星放送のコンバータに不可欠な低雑音アンプ用として広く普及している。
【0006】
一方,D-HEMTはデジタル通信用高出力アンプとして,ここ数年盛んに研究・開発され,実用化も急速に進み,現在最も普及しているタイプである。この構造では,上下両方から電子が供給されることから,シートキャリア濃度の高いチャネルが実現できる。この薄型ウェハを使用すれば,デジタル方式のトランジスタにおいて低ひずみで非常に高い電力が得られる。」
ウ 周知技術
前記ア及びイより,本願の優先日前,下記の事項は周知技術と認められる。
「電子供給層とチャネル層とを異なる材料で構成した高移動度電界効果型トランジスタ(HEMT)において,チャネル層の上下両側に電子供給層を形成すること。」
(4)引用発明2
ア 引用文献2
本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2001-267332号公報(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
(なお,段落0048の第2式の右辺中V_(ds)の係数b_(1)はb_(2)の誤記であると認められるので,当審において修正した。)
「【0048】トランスコンダクタンスgm,ドレインコンダクタンスgdは以下の式で
gm=a_(1)+b_(1)×V_(ds)+c_(1)×V^(2)_(ds)+d_(1)×V^(3)_(ds)+・ ・ ・
gd=a_(2)+b_(2)×V_(ds)+c_(2)×V^(2)_(ds)+d_(2)×V^(3)_(ds)+・ ・ ・
近似的に表現される。
【0049】上記の実施の形態に係わる電界効果トランジスタによれば,gmおよびgdは,V_(ds)に対して良好な線形性を有する。つまり,図6に示された実施の形態に係わる電界効果トランジスタでは,
|b_(1)/c_(1)|≧10
|b_(2)/c_(2)|≧5
を達成できる。一方,図6に示された従来の電界効果トランジスタでは,これらの比はそれぞれ2.9,0.2である。故に,本実施の形態に係わる電界効果トランジスタのgm,gdは,従来の電界効果トランジスタに比べて優れていることが理解される。
【0050】2次歪みは,|V_(ds)|によるgmの2次微分係数の項が小さければよいので,|c_(1)|が小さい方がよい。図6では,V_(ds)によるgmの2次微分係数は0.3であり,V_(ds)によるgdの2次微分係数は0.04である。一方,従来の構造では,V_(ds)によるgmの2次微分係数は1.1であり,V_(ds)によるgdの2次微分係数は0.13である。」
イ 引用発明2
前記アより,引用文献2には次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「ドレインコンダクタンスgdをV_(ds)の多項式で近似的に表現すると,電界効果トランジスタのドレインコンダクタンスgdが良好な線形性を有する場合,2次歪みは,ドレインコンダクタンスgdの2次微分係数c_(2)が小さい方がよい。」
(5)本願補正発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「チャネル層内に挿入された禁止帯幅が狭い半導体層である単分子のアンドープInAs層8」は,基底状態のキャリアを強く束縛し(前記(2)ア(エ)),キャリアはヘテロ界面に沿った方向にのみ自由度を持っているので,2次元電子ガスを発生させる(前記(2)ア(イ))ものでしかもInAsという化合物半導体からなるから,本願補正発明の「2次元キャリアガスを生成する化合物半導体」に相当するものであり,引用発明は製造方法の発明であるから,これを形成する段階を含むものであり,この段階は,本願補正発明の「2次元キャリアガスを生成する化合物半導体を形成する段階」に相当すると認められる。
イ 本願補正発明の「キャリアの移動度を前記化合物半導体における前記キャリアの移動度よりも小さくする移動度低減因子を有する移動度低減半導体」について、本願明細書の発明の詳細な説明には、「移動度低減半導体116が含む移動度低減因子は、例えば、不純物、結晶欠陥、低移動度材、およびバンド障壁材である。キャリアが電子である場合には、ドナー不純物が移動度低減因子として機能する。また、キャリアが正孔である場合には、アクセプタ不純物が移動度低減因子として機能する。バンド障壁材は、例えば、化合物半導体114に比べてバンドギャップが大きな半導体である。」(【0021】)と記載されているから、当該記載を参酌すれば、本願補正発明の「移動度低減半導体」は、バンド障壁材、具体的には「化合物半導体」に比べてバンドギャップが大きな半導体を包含すると認められる。
そして、引用発明の「チャネル層となるアンドープGaAs層9,7」は、「InAs層8」(本願補正発明の「化合物半導体」に相当。)に比べてバンドギャップが大きく、そのポテンシャルエネルギが「InAs層8」よりも高い(前記(2)ア(カ))から、バンド障壁を構成し、移動度低減因子として機能していると認められる。
そうすると、引用発明の「チャネル層となるアンドープGaAs層9,7」は、本願補正発明の「キャリアの移動度を前記化合物半導体における前記キャリアの移動度よりも小さくする移動度低減因子を有する移動度低減半導体」に相当すると認められ、引用発明は製造方法の発明であるから,これを形成する段階を含むものであり,この段階は,本願補正発明の「キャリアの移動度を前記化合物半導体における前記キャリアの移動度よりも小さくする移動度低減因子を有する移動度低減半導体を形成する段階」に相当すると認められる。
ウ 引用発明の「電子供給層5となるSiドープn-AlGaAs層5」は電子すなわちキャリアを供給するから,本願補正発明の「前記化合物半導体に前記キャリアを供給するキャリア供給半導体」に相当し,引用発明は製造方法の発明であるから,これを形成する段階を含むものであり,この段階は,本願補正発明の「前記化合物半導体に前記キャリアを供給するキャリア供給半導体を形成する段階」に相当すると認められる。
エ 引用発明の「積層体」は,半導体からなる板状のものであるから,本願補正発明の「半導体基板」に相当し,引用発明の「積層体の製造方法」は,本願補正発明の「半導体基板の製造方法」に相当すると認められる。
オ 引用発明の「基板10」は,本願補正発明の「ベース基板」に相当し,前記アないしウのとおり,引用発明の「チャネル層となるアンドープGaAs層9,7」,「チャネル層内に挿入された禁止帯幅が狭い半導体層である単分子のアンドープInAs層8」及び「電子供給層5となるSiドープn-AlGaAs層5」は,それぞれ本願補正発明の「前記移動度低減半導体」,「前記化合物半導体」及び「前記キャリア供給半導体」に相当すると認められる。すると,本願補正発明と引用発明とは,下記相違点1を除いて,「前記化合物半導体,前記移動度低減半導体および前記キャリア供給半導体を,当該半導体基板の構成要素を支持するベース基板の上に,前記移動度低減半導体,前記化合物半導体,前記移動度低減半導体,前記キャリア供給半導体の順に形成」する点で共通すると認められる。
カ してみると,本願補正発明と引用発明とは,下記(ア)の点で一致し,下記(イ)の点で相違するものと認められる。
(ア)一致点
「2次元キャリアガスを生成する化合物半導体を形成する段階と,
キャリアの移動度を前記化合物半導体における前記キャリアの移動度よりも小さくする移動度低減因子を有する移動度低減半導体を形成する段階と,
前記化合物半導体に前記キャリアを供給するキャリア供給半導体を形成する段階と
を備える半導体基板の製造方法であって,
前記化合物半導体,前記移動度低減半導体および前記キャリア供給半導体を,当該半導体基板の構成要素を支持するベース基板の上に,前記移動度低減半導体,前記化合物半導体,前記移動度低減半導体,前記キャリア供給半導体の順に形成する
半導体基板の製造方法。
(イ)相違点
a 相違点1
本願補正発明においては,最初の「前記移動度低減半導体」を形成する前に,「前記キャリア供給半導体」を形成するのに対し,引用発明においては,最初の「前記移動度低減半導体」を形成する前には,「前記キャリア供給半導体」を形成しない点。
b 相違点2
本願補正発明においては,「前記化合物半導体が,その内部では,基底状態にあるキャリアの存在確率が,励起状態にあるキャリアの存在確率より高いものであり,前記移動度低減半導体が,その内部では,基底状態にあるキャリアの存在確率よりも第1励起準位の励起状態にあるキャリアの存在確率の方が高いものであ」るのに対し,引用発明においては,「前記化合物半導体が,その内部では,基底状態にあるキャリアの存在確率が,励起状態にあるキャリアの存在確率より高いものであり,前記移動度低減半導体が,その内部では,基底状態にあるキャリアの存在確率よりも第1励起準位の励起状態にあるキャリアの存在確率の方が高いものであ」ることが明示されていない点。
c 相違点3
本願補正発明においては,「前記化合物半導体上の異なる2点間に電圧が印加された場合に前記化合物半導体を流れる電流yを,前記電圧に対応し,-1.5[kV/cm]以上,+1.5[kV/cm]以下の範囲内で変化する電界強度xを変数とする近似多項式y=ax^(3)+bx^(2)+cxで表した場合に,前記近似多項式における3次項係数aの1次項係数cに対する比の絶対値|a/c|が,0.037[(kV/cm)^(-2)]未満である」のに対し,引用発明においては,「前記化合物半導体上の異なる2点間に電圧が印加された場合に前記化合物半導体を流れる電流yを,前記電圧に対応し,-1.5[kV/cm]以上,+1.5[kV/cm]以下の範囲内で変化する電界強度xを変数とする近似多項式y=ax^(3)+bx^(2)+cxで表した場合に,前記近似多項式における3次項係数aの1次項係数cに対する比の絶対値|a/c|が,0.037[(kV/cm)^(-2)]未満である」ことが開示されていない点。
(6)相違点についての検討
ア 相違点1について
引用発明が前提としているヘテロ接合電界効果トランジスタにおいて,チャネル層の上下両側に電子供給層を形成することは,前記(3)ウのとおり,周知技術であって,この周知技術を採用して引用発明の製造方法をチャネル層の上下両側に電子供給層が形成されたダブルへテロ構造の製造方法とすることは当業者が容易になし得ることである。この際に半導体基板の製造ではベース基板から順に形成することは技術常識であるから,チャネル層の下に供給層を有するようにするには,引用発明においてチャネル層となっているGaAs層9を形成する前に電子供給層を形成すべきことは,当業者にとって自明のことである。
イ 相違点2について
(ア)引用発明においては「禁止帯幅が狭いInAs層8が,チャネル層内であって電子の基底状態の存在確率が最大であり第1励起状態の存在確率が零となる位置近傍(ヘテロ界面から70Åの深さ位置)に挿入されて」おり,「InAs層8は基底状態の電子(ψ_(0))を強く引きつけ」,「一方,電子の第1励起状態(ψ_(1))は,InAsポテンシャルの影響を殆ど受けない」(前記(2)ア(オ))ので,引用文献の第5図に示されるように基底状態の電子の波動関数ψ_(0)はInAs層8において最大になり,一方,励起状態の電子の波動関数ψ_(1)はInAs層8で零となる(前記(2)ア(カ))。波動関数は電子(キャリア)の存在確率を表すので,これはすなわち,本願補正発明でいう「前記化合物半導体が,その内部では,基底状態にあるキャリアの存在確率が,励起状態にあるキャリアの存在確率より高いものである」ことを意味する。
(イ)また,量子力学上の定義により,波動関数が表す存在確率は全確率が1に等しいことから,各波動関数は規格化条件(関数の自乗の全空間積分値が1となること。)を満たしており,このことと引用文献の第5図及び前記(ア)から,引用発明のInAs層8を除いたチャネル層となるアンドープGaAs層7,9においては,基底状態にあるキャリアの存在確率よりも第1励起準位の励起状態にあるキャリアの存在確率の方が高いといえる。
(ウ)以上のとおりであるから,相違点2に係る本願補正発明の構成は引用発明においても満たされているものであり,相違点2は実質的には相違点ではない。
ウ 相違点3について
「通常のヘテロ接合電界効果トランジスタの場合」,電子が励起状態に分布し,「バンド間散乱が大きくなってキャリアの移動度の低下が生じ,素子特性が悪化する」(前記(2)ア(ウ))ところ,引用発明においては,「ポテンシャル井戸層であるInAs層8」(本願補正発明の「2次元キャリアガスを生成する化合物半導体」に相当。)を設けることにより「電子はほとんど基底状態に分布し,バンド間散乱は非常に小さい」(前記(2)ア(オ))ものとすることができるから,引用発明において,電圧対電流特性の線形性が向上することは,当業者が容易に予測できることである。そして,引用発明2において,電界効果トランジスタにおける良好な電圧対電流特性の線形性を定量的に表現するために,コンダクタンス(電流を電圧で除したもの)を多項式で近似しその2次微分係数(コンダクタンスの代わりに電流で表示すれば,3次項係数に相当する)の小ささを用いることが示されている。
してみれば,引用発明において,引用発明2の表現形式を適用して,電圧対電流特性の線形性を定量的に表現することは当業者が容易になし得ることである。そして,この際に,3次項係数を1次項係数で正規化したり,線形性の程度を評価するための適宜の数値範囲を設定したりすることは,当業者が適宜行い得る事項にすぎない。
ところで、本願補正発明の「前記化合物半導体上の異なる2点間に電圧が印加された場合に前記化合物半導体を流れる電流yを、前記電圧に対応し、-1.5[kV/cm]以上、+1.5[kV/cm]以下の範囲内で変化する電界強度xを変数とする近似多項式y=ax^(3)+bx^(2)+cxで表した場合に、前記近似多項式における3次項係数aの1次項係数cに対する比の絶対値|a/c|が、0.037[(kV/cm)^(-2)]未満である」との発明特定事項は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載(【0083】ないし【0086】)を参酌すれば、「絶対値|a/c|」が、本願補正発明の「移動度低減半導体」にドーピングしない場合(すなわち不純物濃度が0(cm^(-3))の場合)の「絶対値|a/c|」である0.037[(kV/cm)^(-2)]未満であるか否かによって、線形性が良好な電圧対電流特性を有するか否かを判定することを特定したものと解される。
しかし、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、「絶対値|a/c|」における0.037[(kV/cm)^(-2)]との値を基準に、上記近似多項式で表される電圧対電流特性の線形性が良好であるか否かを判断できる理由は不明であるし、また、「絶対値|a/c|」が0.037[(kV/cm)^(-2)]を僅かに下回る場合と、「絶対値|a/c|」が0.037[(kV/cm)^(-2)]又はこれを僅かに上回る場合とで、、上記近似多項式で表される電圧対電流特性の線形性に格別の相違が生じるとも認められない。
そうすると、本願補正発明の上記の発明特定事項における「絶対値|a/c|が、0.037[(kV/cm)^(-2)]未満である」との数値限定に、臨界的意義を有するとは認められない。
以上から、引用発明において、引用発明2を適用し、電圧対電流特性の線形性を定量的に表現することは、当業者が容易になし得たものであり、その際に、本願補正発明のように、「前記化合物半導体上の異なる2点間に電圧が印加された場合に前記化合物半導体を流れる電流yを、前記電圧に対応し、-1.5[kV/cm]以上、+1.5[kV/cm]以下の範囲内で変化する電界強度xを変数とする近似多項式y=ax^(3)+bx^(2)+cxで表した場合に、前記近似多項式における3次項係数aの1次項係数cに対する比の絶対値|a/c|が、0.037[(kV/cm)^(-2)]未満」とすること( 相違点3に係る構成とすること)は、当業者が適宜なし得たものと認める。
(7)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は,引用発明の構成及び周知例1,2にみられるような周知技術から当業者が予測できる程度のもので,格別なものではない。
(8)まとめ
本願補正発明は,引用文献に記載された発明及び周知技術並びに引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 むすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明の特許性の有無について
1 本願発明について
平成27年6月5日にされた手続補正は前記のとおり却下された。
そして,本願の請求項11に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成26年8月4日付け手続補正による補正がされた特許請求の範囲の請求項11に記載された,次のとおりのものと認める。(再掲)
「2次元キャリアガスを生成する化合物半導体を形成する段階と,
キャリアの移動度を前記化合物半導体における前記キャリアの移動度よりも小さくする移動度低減因子を有する移動度低減半導体を形成する段階と,
前記化合物半導体に前記キャリアを供給するキャリア供給半導体を形成する段階と
を備える半導体基板の製造方法であって,
前記化合物半導体,前記移動度低減半導体および前記キャリア供給半導体を,当該半導体基板の構成要素を支持するベース基板の上に,前記キャリア供給半導体,前記移動度低減半導体,前記化合物半導体,前記移動度低減半導体,前記キャリア供給半導体の順に形成する半導体基板の製造方法。」
2 引用発明及び周知技術
引用発明は,前記第2の2(2)で認定したとおりであり,周知技術は,前記第2の2(3)で認定したとおりである。
3 本願発明と引用発明との対比
前記第2の1(3)のとおり,本願発明は,本願補正発明から補正事項1に係る限定を除いたものである。すると,前記第2の2(5)のとおり,補正事項1に係る限定すなわち相違点2及び3に係る構成は本願発明では除かれることになるから,本願発明と引用発明とを対比すると,相違点1で相違し,その余の点で一致するものと認められる。
4 判断
相違点1については,前記第2の2(6)アのとおりである。そして,本願発明の効果は引用発明の構成及び周知例1,2にみられるような周知技術から当業者が予測できる程度のもので,格別なものではない。
5 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用文献に記載された発明及び周知例1,2にみられるような周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第4 結言
したがって,本願の請求項11に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-22 
結審通知日 2016-08-23 
審決日 2016-09-07 
出願番号 特願2010-86842(P2010-86842)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 朋一  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 鈴木 匡明
深沢 正志
発明の名称 半導体基板、半導体基板の製造方法、半導体基板の判定方法、および電子デバイス  
代理人 林 茂則  
代理人 龍華国際特許業務法人  
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