• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  E04D
審判 一部無効 2項進歩性  E04D
管理番号 1320882
審判番号 無効2015-800015  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-01-19 
確定日 2016-11-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第5551293号発明「換気構造体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成25年 5月22日:出願(特願2013-107570号)
平成26年 5月30日:設定登録(特許第5551293号)
平成27年 1月19日:本件審判請求
平成27年 4月 3日:被請求人より答弁書提出
平成27年 5月 8日:審理事項通知
平成27年 6月11日:請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成27年 6月25日:被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成27年 7月 9日:口頭審理

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は,特許明細書の特許請求の範囲の請求項1記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる(AないしDの分説は請求人の主張に基づく。)。

「A 通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化するコーナー部を備えた換気構造体において、前記換気構造体は、金属屋根の上に取り付けられた換気棟を含み、
B 前記コーナー部のうち特定コーナー部において、前記特定コーナー部の一部を塞ぐようにその内方の角から外方の角に向かって延びる突出片が形成されたことを特徴とし、前記突出片の突出した長さは、前記内方の角から前記外方の角までの距離の1/4から1/3までの距離に設定され、
C 前記コーナー部は、外方の開口位置から少なくとも3箇所以上連続して形成され、前記特定コーナー部は、外方側から3番目のコーナー部が対応し、前記コーナー部の内最初のコーナー部は、前記金属屋根に沿って配置されるフランジ部と前記フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる垂直部とにより構成され、
D 更に、前記垂直部の上方端部に、前記金属屋根に向かって傾斜する傾斜板が接続される、換気構造体。」

本件発明において、「コーナー部」が「通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化する」ものであることは上記発明特定事項から明らかである。本件発明は、「通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化する」「コーナー部」が「外方の開口位置から少なくとも3箇所以上連続して形成され」、「外方側から3番目のコーナー部」を「特定コーナー部」と定義し、「特定コーナー部において、・・・突出片が形成されたことを特徴」とするものである。

第3 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、特許第5551293号の請求項1に係る発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、以下の無効理由を主張し、証拠方法として、甲第2号証ないし甲第4号証を提出した。

<主張の概要>
(1)無効理由1(新規性欠如)
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、又は、甲第4号証に記載された発明と同一であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきものである。

(2)無効理由2(進歩性欠如)
本件特許の請求項1に係る発明は、当業者が、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、又は、甲第4号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきものである。

<具体的理由>
(3)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、本件請求項1に係る特許発明の構成要件中A、B、Dに相当する構成が記載され、その意匠に係る物品の説明においては構成効果の記載が認められる。
(口頭審理陳述要領書1頁?)
甲第2号証は意匠登録第1333959号であるが、その構成の説明に当って「風の流れを示す拡大断面図」について、拡大し向きを本件特許に合せ部位に本件特許と同一の名称符号(括弧内は引用特許の名称符号)を入れ説明を補足する。(甲第2号証の2)
甲第2号証には、物品「換気棟」の形状において、屋根面に沿って吹き付ける風雨の棟頂部に向かう水下側からの風雨の流れを変化させるため、下記i)?iii)に係る構成が記載されている。

i)屋根に沿って配置されている設置板39(底板24)の第2垂直部15(傾斜板25)の上方端部(水下側)に傾斜板16(風防板26)が形成され、
ii)通気経路(通気部K)の途中には直角に通気方向が変化するコーナー部78、79、80を備え、第1コーナー部78は、屋根に沿って配置されるフランジ部14と前記フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる第2垂直部15(傾斜板25)と第2垂下部23(垂下片11)により構成され通気口47を構成する。
iii)水下側から観て前記通気経路(通気部K)の内奥には特定コーナー部である第3コーナー部80の通気を塞ぐように突出片41(傾斜板22、水返し板21)が延設されている。
(対比)
本件発明と引用意匠とを対比する。
構成要件Aに対して、引用意匠の前記構成ii)の「通気経路の途中には直角に通気方向が変化するコーナー部78、79、80を備え」が対応し、
構成要件Bに対して、引用意匠の前記構成ii)の「通気経路の途中には直角に通気方向が変化する特定コーナー部である第3コーナー部80」及び前記構成iii)の「水下側から観て前記通気経路(通気部K)の内奥には特定コーナー部である第3コーナー部80の通気を塞ぐように突出片41(傾斜板22、水返し板21)が延設されている」が対応し、
構成要件Cに対して、引用意匠の前記構成ii)の「通気経路の途中には直角に通気方向が変化するコーナー部78、79、80を備え」及び「第1コーナー部78は、屋根に沿って配置されるフランジ部14と前記フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる第2垂直部15(傾斜板25)と第2垂下部23(垂下片11)により構成され通気口47を構成する」が対応し、
構成要件Dに対して、引用意匠の前記構成i)の「屋根に沿って配置されている設置板39(底板24)の水下側に傾斜板16(風防板26)が形成され」が対応する。
したがって、両者は、
構成要件Bの突出片41の長さが「前記内方の角から前記外方の角までの距離の1/4から1/3までの距離に設定され」と、引用意匠では、突出片の先端をカギ状にして成る点
構成要件Dの傾斜板16が、引用意匠ではその先端部分が設置板に沿ってカギ状に折り曲げて成る点で、相違する。
(判断)
両者前記の通り物品が同一であり、その用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲は共通し、その形態にあっては前記の通り基本的構成態様において共通している。即ち、片流れ屋根に設置され直角に通気方向が変化するコーナー部(第1、2、3コーナー部である78,79,80特定コーナー部80)を備え、その通気経路(通気部K)の内奥に突出片41(傾斜板22及び水返し板21)が形成され、屋根の棟頂部に向かい傾斜板16(風防板26)が設置されている。
斯かる共通点からして取引に当り看者の視覚印象に残り、引用登録意匠は本件出願以前の公知技術と認められるものである。
又構成要件Cの「コーナー部の構成」は、「外方の開口位置から少なくとも3箇所以上連続して形成され、」とするが、それは「通気口47」を形成するものであり、本件特許における技術的欠陥と認められ特段発明技術とは言い難い。
構成要件Bの突出片41の長さについては、引用意匠における構成が設置板39(底板24)と棟カバー上部までの距離の約1/2位の長さと認められ、長さにおける大差は認められない。
構成要件Dの傾斜板16については、「傾斜板16の形状」には大差なく、先端部を「カギ状に折曲」した形状は、補強及び雨返しのために当業者が通常なし得る技術である。
よって、本件特許は、既にその出願日前に頒布された刊行物である引用登録意匠の公報に掲載されたものと認められるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。
又本件特許発明は、甲第2号証に記載の引用意匠の公報により公衆に利用可能となった技術において、既に出願前に公知技術から、その課題(目的)を共通にしており、それに基づいて当業者において前記差異点を付加し構成することは、容易に発想発明することができたと認められ、特許法第29条第2項の規定に該当する。

(4)甲第3号証に記載された発明
(審判請求書5?6頁)
【請求項1】の記載には、
「屋根頂部の棟部に施工し、小屋裏の空気を外部に喚起する棟構造において」
「上部を被閉する棟カバーの下部の屋根面に当接する本体部分を有し、」
「該本体部分の下部両側に棟頂部方向に向かって」
「30度乃至60度に傾斜した風防板を全長にわたって設置してなる換気棟」
と本件発明における「傾斜板」に相当する記載が認められる。
又明細書中発明の詳細な説明の段落【0011】【0012】【0022】の記載では、屋根頂部の棟部に設置する棟カバーで、棟カバー本体の下部両側(水下側の端縁)に棟頂部に向かって風防板が構成されて、その風防板の傾斜が棟頂部に向かって(屋根面に対して)30度乃至60度の角度(略三角形)である構成である。旨の記載が認められる。
更に、「突出片」に相当する記載としては、段落【0022】及び【0026】に「その水上側の端縁を上方に立ち上げて傾斜板22が折曲され、さらにその先端を外方に折曲して水返し板21が設けられている。」との記載及び「空気の流れ」の記載及び添付図面【図2】【図3】【図4】【図5】【図6】に徴しその記載が明らかである。
甲第3号証には、本件請求項1に係る特許発明の構成要件中A、B、Dに相当する構成が記載され、同一と認められる作用効果の記載も明らかである。
(口頭審理陳述要領書6頁?)
甲第3号証特許第4151044号であるが、その構成の説明に当って添付図面の「図3」「図5」について、同一向きにして拡大し改めて部位に本件特許明細書の名称・符号を入れ説明を補足する。括弧内は引用発明の名称・符号である。(甲第3号証の2及び3)
(対比)
本件特許における請求項1に記載の構成要件Aに対して、
引用発明における前記説明における「通気経路の途中には直角に通気方向が変化するコーナー部78(段落【0028】の記載において、その折曲角度や長さを容易に変更可能の記載で直角にすることが可能以下同様)、79、80」の記載があり
構成要件Cに対して、
「通気経路の途中で直角に通気方向が変化する特定コーナー部78、79、80(通気部K)を備え」「第1コーナー部78は、屋根に沿って配置されたフランジ部14とそのフランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる第2垂直部15〈傾斜板25〉と第2垂下部23に相当する(垂下片11)とで通気口47を構成する。」の記載があり
構成要件Dに対して、
「屋根に沿って配置されている設置板39(底板24)の水下側に傾斜板16(風防板26)が形成されている。」の記載が認められる。
以上「課題」及び基本的構成態様において、屋根に設置され直角に通気方向が変化するコーナー部(通気部K)を備え、その内奥に突出片が形成され、屋根の棟頂部に向かい傾斜板が設置されている。
本件発明と引用発明とは、
構成要件Bの突出片41の長さ「前記内方の角から前記外方の角までの距離の1/4から1/3までの距離に設定され」が、引用特許の図3では、突出片の先端をカギ状にして成る点、
構成要件Dの傾斜板16が、引用特許では風防板として棟頂部方向に向かい30度乃至60度に傾斜にして成る点で相違する。
(評価)
屋根に設置され勾配の低い屋根にも効果のある換気構造体であり、直角に通気方向が変化するコーナー部(通気部)を備え、その内奥に突出片(水返し板)が形成され、屋根の棟頂部に向かい傾斜板(風防板)が設置されている。斯かる共通点からして引用特許技術は、本件出願以前の公知技術と認められるものである。
しかして、差異点と目される構成要件Cの「コーナー部の構成」は、「外方の開口位置から少なくとも3箇所以上連続して形成され、」とするが、単に通気口47を構成するものであり、本件特許における技術的欠陥と認められ特段発明技術とは言い難い。
更に、「突出片41の長さ」であるが、引用特許発明における構成が設置板39と棟カバー上部までの距離の約1/2位の長さと認められ、長さにおける大差は認められず、本件特許で特段顕著な作用効果が認められるとされる記載はなく、その長さは当業者において適宜なしうる設計変更の域と認められる。
又「傾斜板16の形状」には大差なく、引用特許発明では「風防板」の折曲角度や長さを変更できる旨の記載(段落【0028】の2.)が認められ、コーナー部78を「直角」にでき、この記載からしても本件特許発明をするに容易に技術的端緒となり得るものと認められる。先端部を「カギ状に折曲27」した形状は、雨水の侵入を防ぎ(段落【0023】)補強のために当業者が通常なし得る技術である。
よって、本件特許は、既にその出願日前に頒布された刊行物である引用特許発明の公報に掲載されたものと認められるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。
又本件特許は、甲第3号証に記載の引用特許発明の公報により公衆に利用可能となった技術において、既に出願前に公知技術から、その課題(目的)を共通にしており、それに基づいて当業者において前記差異点を付加し構成することは、容易に発想発明することができたと認められ、特許法第29条第2項の規定に該当する。

(5)甲第4号証に記載された発明(省略)

[証拠方法]
甲第2号証:意匠登録第1333959号公報
甲第3号証:特許第4151044号公報
甲第4号証:特許第4517412号公報

なお、口頭審理陳述要領書とともに提出された甲第2号証の2,甲第3号証の2,甲第3号証の3については、請求人が甲第2号証、甲第3号証の図面に基づいて説明用に作成した図面であるため、同陳述要領書に添付の参考資料とされた(第1回口頭審理調書参照。)。

2 被請求人の主張
被請求人は,答弁書を提出し,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め,請求人の無効理由に対して以下のとおり反論した。

<主張の概要>
(1)無効理由1及び2に関して
本件特許発明は、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証には、開示も示唆もない構成を備え、これにより甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に比して有利な効果を奏するものである。
したがって、特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項のいずれの規定に該当するものではない。

<具体的主張>
(2)甲第2号証に記載された発明について
ア 引用意匠の構成要件ii)について
請求人は、引用意匠の構成要件ii)の一部として、“通気経路(通気部K)の途中には直角に通気方向が変化するコーナー部78、79、80を備え”と認定するが、甲第2号証及び甲第2号証の2からは“通気経路の途中には直角に通気方向が変化するコーナー部78、79、80を備え”る構成は認められず、上記認定は妥当でない。

イ 引用意匠の構成要件iii)について
引用意匠の構成要件iii)における突出片41については、本件特許発明の構成要件Bにおける突出片と対応するものではない。
請求人は、引用意匠の構成要件iii)として“水下側から観て前記通気経路(通気部K)の内奥には特定コーナー部である第3コーナー部80の通気を塞ぐように突出片41(傾斜板22、水返し板21)が延設されている”と認定するが、甲第2号証の2の図面を確認する限りでは、突出片41は第3コーナー部80からは離れた場所に形成されており、同図の風の流れの矢印の記載からは、突出片41は第3コーナー部80の通気に影響を与えるほどの作用・効果をもたらしていない。
甲第2号証及び甲第2号証の2には、“水下側から観て前記通気経路(通気部K)の内奥には特定コーナー部である第3コーナー部80の通気を塞ぐように突出片41(傾斜板22、水返し板21)が延設されている”構成は認められない。

ウ 評価について
以上より、甲第2号証の引用意匠に基づいて、本件特許発明が特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に該当するものであるとする請求人の主張は妥当でない。

(3)甲第3号証(甲第4号証)に記載された発明について
甲第3号証及び甲第4号証は相互に多くの共通点が見受けられるので、甲第3号証を中心に比較検討する。

ア 甲第3号証の2の図面について
甲第3号証の2の図面が甲第3号証の図3を拡大編集したものだとしても、乙第1号証の2に示す点線矢印の軌跡(空気の流れt)と、甲第3号証の2の図面にて点線矢印の軌跡とが一致しない。これは、元の図3又は元の図4から説明の補足以上の改変がなされていると言わざるを得ない。

イ 構成要件A及び構成要件Cについて
甲第3号証の2の図面のコーナー部79及びコーナー部80に相当する位置において、甲第3号証の元の図3では通気方向は変化していない。
甲第3号証の2の図面のコーナー部79及びコーナー部80に相当する位置ではルーバー3を通じて通気が行われているため、実際は「直角に通気方向が変わるコーナー部」とはなっておらず、本件特許発明とは前提となる構成が異なっている。

ウ 構成要件Bについて
傾斜板22と傾斜板25との間にルーバー3(元の図4)が設けられる構成であるため、甲第3号証の2の図面で“突出片41(傾斜板22及び水返し板21)”として示される部材は、同図の“特定コーナー部80”においで一部を塞ぐようにその内方の角から外方の角に向かって延びる”ものでもない。

エ (2)評価の記載に対する主張
本件特許発明は、段落【0022】に記載しているように、“防水効果が向上する”ことや“効率的な通気効果”等の効果を奏するものである。請求人が主張するようなフランジ部に雨水が溜まる構成の課題を解決するものはもはや別発明であり、本件特許発明が上記効果を奏すること及び本件特許発明が成立していることと関係がない。
請求人は、“引用特許発明では、通気口からの雨水の侵入に対しての対応処置は、雨水が滞留しないように「水抜き孔」が複数個設けられている(【0023】参照)”と主張するが、このような「水抜き孔」を設ける構成は、本件特許発明でもー実施形態として採用し得る設計事項である。
甲第3号証(甲第4号証)の引用発明に基づいて、本件特許発明が特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に該当するものであるとする請求人の主張は妥当でない

[証拠方法]
口頭審理陳述要領書とともに提出された乙第1号証の1,乙第1号証の2については、被請求人が甲第3号証の図面に基づいて説明用に作成した図面であるため、同陳述要領書に添付の参考資料とされた(第1回口頭審理調書参照。)。

第4 当審の判断
1 甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項
(1)甲第2号証に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(意匠登録第1333959号公報)には,次の記載がある(下線は審決で付した。以下同じ。)。
ア 「【意匠に係る物品】換気棟」

イ 「【意匠に係る物品の説明】本物品は、屋根の片棟(片流れ屋根)における頭頂部に取り付ける金属製の棟カバーである。屋根に吹き付ける風雨は、屋根面に沿って棟側へと上昇する。また本物品の水下側の三角状凸部に当った風雨はさらに上方へと向きを変える。これらの風雨の侵入を防止するためのものである。」

ウ 「

」(審決注:「風の流れが上方へと向きを変える箇所」及び「水返し片」を特定するため、○を付加し、請求人が「第2コーナー部79」「第3コーナー部80」に相当すると主張する箇所に△を付加した。)

エ 上記イを踏まえれば、上記ウの【風の流れを示す拡大断面図】から以下の事項が看取できる。
(ア)「風の流れが上方へと向きを変える箇所」、すなわち「通気経路」が直角に変化する「コーナー部」が1箇所存在すること、
(イ)「通気経路」の奥に「水返し片」が形成されていること、
(ウ)「コーナー部」が、「金属屋根に沿って配置されるフランジ部と、前記フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる立ち上がり部とにより構成され」ること、
(エ)「前記立ち上がり部の上方端部に、前記金属屋根に向かって傾斜する傾斜板が接続され」、「前記立ち上がり部と前記傾斜板により三角状凸部が形成され」ていること、

オ 上記アないしエの事項を総合すると、甲第2号証には、下記の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「屋根の片棟(片流れ屋根)における頭頂部に取り付ける金属製の換気棟であって、
通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化するコーナー部を1つ備え、通気経路の奥に水返し片が形成され、
前記コーナー部は、前記金属屋根に沿って配置されるフランジ部と
前記フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる立ち上がり部とにより構成され、
前記立ち上がり部の上方端部に、前記金属屋根に向かって傾斜する傾斜板が接続され、前記立ち上がり部と前記傾斜板により三角状凸部が形成された、換気棟。」

(2)甲第3号証に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(特許第4151044号公報)には以下の記載がある。

ア 「【請求項1】屋根頂部の棟部に施工し、小屋裏の空気を外部に換気する棟構造において、上部を被閉する棟カバーの下部の屋根面に当接する本体部分を有し、該本体部分の下部両側に棟頂部方向に向って30度乃至60度に傾斜した風防板を全長にわたって設置してなる換気棟。」

イ 「【0001】【産業上の利用分野】本発明は屋根の棟部に設置して屋根裏や小屋裏などの空気を外部に逃がす換気棟に関するものである。」

ウ 「【0002】【従来の技術】従来より建物の屋根裏や小屋裏の換気は、切妻屋根などでは妻側端面のかべに通気孔などを形成して行うものがあったが、近年の洋風住宅に多く見られる寄棟形式の屋根では妻部分が無く、このような屋根形状では棟頂部に換気構造が必要となる。この換気棟を通じて小屋裏や屋根裏の換気を行うものであるが、棟から排気される空気の補充は通常主として軒先などから取り入れられる。
【0003】換気を行うためには小屋裏と外部を結ぶ換気口を設ける必要があり、この換気口は空気を流通させるために、その大きさは例えばある基準では設置した部屋の天井面積の1/1600以上の開口部分が必要となり、この面積以上の空気が流通する開口部分をもつ換気棟が理想である。
【0004】このように施工される換気棟は従来より種々の構造が知られ、箱形と呼ばれる高さの高い形のものが(特開平7-180314号)通常よく知られているが、このような換気棟の条件としてはつぎのようなものが挙げられる。
【0005】すなわち、小屋裏の内部の空気を容易に排出できる開口部分を有し、反対に強風雨のときにも換気口から内部に雨が吹き込まない等である。これは内部の小屋裏から上昇してくるゆるやかな空気の流れは遮断する事なく、外部の正面から吹き付ける強風雨などの強い空気の流れに対しては遮断しなければならない。
【0006】この他にも屋根の頂部の目につき易い場所に施工するため、意匠的にも優れたものが要望され、高さも比較的低くして施工したときにも建物全体の意匠を損なわないように考慮したものとして特開平7-279325号が知られている。
【0007】しかし台風などの際は毎秒30m以上の風が吹くことがあり、換気棟自体が風圧を避けるためには高さを低くしなければならず、またこれらの強風と共に吹き込んでくる雨水も換気棟の奥まで入らない構造が求められる。」

エ 「【0008】【発明が解決しようとする課題】このような従来よりの換気棟の課題として、換気能力を高めることは換気口を大きくすることであるが、これはまた外部から風雨による吹き込みの恐れも大きく、雨水の侵入も多くなり、これらを確実に防がなくてはならない。雨水が換気棟から小屋裏などに侵入すると天井などが濡れてしまうことはもちろん、長期間にわたると換気棟本体や建物の腐食の原因にもなった。
【0009】施工後の外観から考慮すると、棟の高さがあまり高いと換気棟が目だちすぎて建物全体の意匠を損なうことにもなり、高さは低くして換気能力が十分であり、また強風雨に対しても雨水が侵入しない構造が要望されている。このため棟カバーである上面に換気口を形成した構造などもあるが、これらは換気能力である開口部分が少なかったり、また雨水が一度内部に入ってから排出されるため内部に湿気が溜りやすく腐食の原因ともなっていた。」

オ 「【0014】【実施例】以下、本発明を添付図面に示した一実施例により詳説する。図1は本発明に係る換気棟Aを屋根Bの頂部に施工しキャップJを取り付けたときの斜視図を示し、図2は同じく換気棟Aの分解斜視図である。
【0015】換気棟Aは上部に覆せる棟カバー1、本体2およびルーバー3から構成され(図2)、棟カバー1は棟頂部13にて施工する屋根の勾配に合わせて折曲可能であり、両側端部は下方の折曲して垂下片11およびその先端を裏面に折り返した折り返し片12が形成されている。このとき本体2とルーバー3はあらかじめ固定しておいても施工などには影響はない。
【0016】長手方向の長さは本実施例では1m程度としたが、この長さは特に技術上の制約は特になく例えば2mないし3mでも可能で、換気する小屋裏の面積などを勘案してその長さを決めればよく、たとえば1mより短いものを多数接続させて施工することも可能である。この棟カバー1の軒先側の端部には固定用のネジ孔14が適宜な間隔で窄設され、図示例のものでは片側に4箇所設けた。ネジ孔14はルーバー3のネジ孔39を相互にネジGにて固定するものであり、従ってそれぞれの孔位置は相互に対応したものとなっている。
【0017】この内部のルーバー3の扉状部分を通して、奥の小屋裏との間には通気部Kが形成され、小屋裏から上昇してくる空気の通路tとなっている。(図7)すなわちこの空気の流路tを形成して維持して置くことが換気棟の性能を維持することとなる。
【0018】ルーバー3(図3)は本体2に裁置する裁置板36の両側端を立ち上げて支持板34及び分割板37が設けられ、この支持板34の両端縁からはそれぞれ扉状に折曲した羽根33が内方に向かって形成されている。この羽根33は略両開き状態として相対向して2列に形成され、相対向した羽根33は換気口35どうしを横方向にずらして配置し、空気の流通経路を長くして直線的に連通させず(図4)、強風と共に入ってくる雨滴などを途中で落下させて侵入を防ぐ構造となっている。」

カ 「【0022】本体2は図2の斜視図を示す如く、屋根面に当接し中央にバーリング孔23を底板24に設けられ、その水上側の端縁を上方に立ち上げて傾斜板22が折曲され、さらにその先端を外方に折曲して水返し板21が設けられている。また本体2の水下側の端縁は、傾斜板25、風防板26、折曲片27がそれぞれ折曲され、略三角形をなしている。この風防板26は屋根面にたいして30度ないし60度の傾斜をもって設置されているが、屋根面を沿うようにして吹き上がって来る強風雨の流れを上方に向きを変えて換気棟の上を通過させるものである。」

キ 「【0026】図7において小屋裏の内部から上昇して来る空気の流れtと、反対側の換気口から通過して来る空気の流れSは、通気部Kを通過して外部に容易に排出されるものである。また図8において屋根面方向から吹き付ける風雨による風Sは風防板26にて方向を上方に変えられ、そのまま換気棟Aの上方に流れて風雨共に換気棟の内部には侵入しないものである。」(審決注:「図7」「図8」はそれぞれ「図4」「図5」の誤記と認める。)

ク 「【0027】
【発明の効果】上記したように本発明に係る換気棟は、風の方向を変える高さの高い風防板に加え、扉状のルーバーなどによる構造であるため強風雨などが吹き付けてもその方向を変えて従来にない種々の効果を有するものである。
【0028】
1.屋根面から吹き付ける風雨に対して、その風の流れ方向を変化させる風防板が設置され、この高さが棟カバーの垂下片より高く形成してあるため、風雨は換気棟上部を通過し、内部に雨水が侵入することもなく腐蝕する恐れもないものである。
2.風防板はその折曲角度や長さを容易に変えられるため、どのような傾斜の屋根にも適用してその効果が得られ、またコスト的にもきわめて有利にしてその効果も大なるものである。
3.また相互に互い違いとなる扉状のルーバーが設けてあるため、外部から吹き込む風雨に対して複雑な流路を有するようになり、雨滴などに対して十分な遮断効果が得られ、雨滴などが吹き込んで内部を濡らすようなこともない。
4.本発明による構造は、棟カバーを含めて全体の高さを低くできるため屋根の棟に設置したときにも外観を損なうことがない。
5.本発明の換気棟はその構造も簡易なため製造コスト的にも有利であり、大量生産により安価に提供できるものである。」

ケ 図1として




コ 図2として、




サ 図3として




シ 図6として、




ス 図7として、




セ 上記カの「本体2の水下側の端縁は、傾斜板25、風防板26、折曲片27がそれぞれ折曲され、略三角形をなしている」及び上記キの「小屋裏の内部から上昇して来る空気の流れtと、反対側の換気口から通過して来る空気の流れSは、通気部Kを通過して外部に容易に排出されるものである」との記載を参酌すれば、上記サ(図3)から、通気部Kを通過して外部に容易に排出される空気の流れが傾斜板25によって上方に向きが変わることが看取できる。

上記アないしセの事項を総合すると、甲第3号証には、下記の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

「屋根頂部の棟部に施工し、小屋裏の空気を外部に換気する棟構造において、
上部に覆せる棟カバー1、本体2およびルーバー3から構成され、上部を被閉する棟カバー1の下部の屋根面に当接する本体2を有し、該本体2の下部両側に棟頂部方向に向って30度乃至60度に傾斜した風防板26を全長にわたって設置してなる換気棟であって、
屋根面に当接する底板24の水上側の端縁を上方に立ち上げて傾斜板22が折曲され、さらにその先端を外方に折曲して水返し板21が設けられ、
本体2の水下側の端縁は、傾斜板25、風防板26、折曲片27がそれぞれ折曲され、略三角形をなしており、
通気部Kを通過して外部に容易に排出される空気の流れが傾斜板25によって上方に向きが変わる、換気棟。」

(3)甲第4号証に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(特許第4517412号公報)には以下の記載がある。

ア 「【請求項1】屋根頂部の棟部に施工し、小屋裏の空気を外部に換気する棟構造において、上部を被閉する棟カバーの下部の屋根面に当接する本体を有し、該本体の水下側両端縁で棟カバーの水下側端部よりやや離れた位置に傾斜板、風防板、折曲片がそれぞれ折曲され略三角形にして成り、前記風防板は屋根面に対して30度乃至60度の傾斜を有するように傾斜板に連続して折曲させて成る換気棟。」

イ 「【0001】【産業上の利用分野】本発明は屋根の棟部に設置して屋根裏や小屋裏などの空気を外部に逃がす換気棟に関するものである。」

ウ 「【0002】【従来の技術】従来より建物の屋根裏や小屋裏の換気は、切妻屋根などでは妻側端面のかべに通気孔などを形成して行うものがあったが、近年の洋風住宅に多く見られる寄棟形式の屋根では妻部分が無く、このような屋根形状では棟頂部に換気構造が必要となる。この換気棟を通じて小屋裏や屋根裏の換気を行うものであるが、棟から排気される空気の補充は通常主として軒先などから取り入れられる。
【0003】換気を行うためには小屋裏と外部を結ぶ換気口を設ける必要があり、この換気口は空気を流通させるために、その大きさは例えば設置した部屋の天井面積の1/1600以上の開口部分が必要となり、この面積以上の空気が流通する開口部分をもつ換気棟が理想である。
【0004】このように施工される換気棟は従来より種々の構造が知られ、箱形と呼ばれる高さの高い形のものが(特開平7-180314号)通常よく知られているが、このような換気棟の条件としてはつぎのようなものが挙げられる。
【0005】すなわち、小屋裏の内部の空気を容易に排出できる開口部分を有し、反対に強風雨のときにも換気口から内部に雨が吹き込まない等である。これは内部の小屋裏から上昇してくるゆるやかな空気の流れは遮断する事なく、外部の正面から吹き付ける強風雨などの強い空気の流れに対しては遮断しなければならない。
【0006】この他にも屋根の頂部の目につき易い場所に施工するため、意匠的にも優れたものが要望され、高さも比較的低くして施工したときにも建物全体の意匠を損なわないように考慮したものとして特開平7-279325号が知られている。
【0007】しかし台風などの際は毎秒30m以上の風が吹くことがあり、換気棟自体が風圧を避けるためには高さを低くしなければならず、またこれらの強風と共に吹き込んでくる雨水も換気棟の奥まで入らない構造が求められる。」

エ 「【0008】【発明が解決しようとする課題】このような従来よりの換気棟の課題として、換気能力を高めることは換気口を大きくすることであるが、これはまた外部から風雨による吹き込みの恐れも大きく、雨水の侵入も多くなり、これらを確実に防がなくてはならない。雨水が換気棟から小屋裏などに侵入すると天井などが濡れてしまうことはもちろん、長期間にわたると換気棟本体や建物の腐食の原因にもなった。
【0009】施工後の外観から考慮すると、棟の高さがあまり高いと換気棟が目だちすぎて建物全体の意匠を損なうことにもなり、高さは低くして換気能力が十分であり、また強風雨に対しても雨水が侵入しない構造が要望されている。このため棟カバーである上面に換気口を形成した構造などもあるが、これらは換気能力である開口部分が少なかったり、また雨水が一度内部に入ってから排出されるため内部に湿気が溜りやすく腐食の原因ともなっていた。」

オ 「【0014】【実施例】以下、本発明を添付図面に示した一実施例により詳説する。図1は本発明に係る換気棟Aを屋根Bの頂部に施工しキャップJを取り付けたときの斜視図を示し、図2は同じく換気棟Aの分解斜視図である。
【0015】換気棟Aは上部に覆せる棟カバー1、本体2およびルーバー3から構成され、棟カバー1は棟頂部13にて施工する屋根の勾配に合わせて折曲可能であり、両側端部は下方の折曲して垂下片11およびその先端を裏面に折り返した折り返し片12が形成されている。このとき本体2とルーバー3はあらかじめ固定しておいても施工などには影響はない。
【0016】長手方向の長さは本実施例では1m程度としたが、この長さは特に技術上の制約は特になく例えば2mないし3mでも可能で、換気する小屋裏の面積などを勘案してその長さを決めればよく、たとえば1mより短いものを多数接続させて施工することも可能である。この棟カバー1の垂下片11には固定用のリベット孔14が適宜な間隔で窄設され、図示例のものでは片側に4箇所設けた。リベット孔14は本体2のリベット孔29とルーバー3のリベット孔39を相互にネジGにて固定するものであり、従ってそれぞれの孔位置は相互に対応したものとなっている。
【0017】このとき内部のルーバー3の扉状部分を通して、奥の小屋裏との間には通気部Kが形成され、小屋裏から上昇してくる空気の通路tとなっている。(図7)すなわちこの空気の流路tを形成して維持して置くことが換気棟の性能を維持することとなる。
【0018】ルーバー3(図3)は本体2に裁置する裁置板36の両側端を立ち上げて支持板34及び分割板37が設けられ、この支持板34の両端縁からはそれぞれ扉状に折曲した羽根33が内方に向かって形成されている。この羽根33は略両開き状態として相対向して2列に形成され、相対向した羽根33は換気口35どうしを横方向にずらして配置し、空気の流通経路を長くして直線的に連通させず(図3、図4)、強風と共に入ってくる雨滴などを途中で落下させて侵入を防ぐ構造となっている。」

カ 「【0026】図7において小屋裏の内部から上昇して来る空気の流れtと、反対側の換気口から通過して来る空気の流れSは、通気部Kを通過して外部に排出されるものである。また図8において屋根面方向から吹き付ける風雨による風Sは風防板26にて方向を上方に変えられ、そのまま換気棟Aの上方に流れて風雨共に換気棟の内部には侵入しないものである。」

キ 図1として、




ク 図2として、




ケ 図3として、




コ 図7として、




以上のとおり、前記アの「本体の水下側両端縁で棟カバーの水下側端部よりやや離れた位置に傾斜板、風防板、折曲片がそれぞれ折曲され略三角形にして成り」の「略三角形」の形状を除けば、甲第4号証に記載された事項は、甲第3号証のものとほぼ同じであるから、甲第4号証には、甲3発明と同様に、下記の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

「屋根頂部の棟部に施工し、小屋裏の空気を外部に換気する棟構造において、
上部に覆せる棟カバー1、本体2およびルーバー3から構成され、上部を被閉する棟カバー1の下部の屋根面に当接する本体2を有し、該本体2の下部両側に棟頂部方向に向って30度乃至60度に傾斜した風防板26を全長にわたって設置してなる換気棟であって、
屋根面に当接する底板24の水上側の端縁を上方に立ち上げて傾斜板22が折曲され、さらにその先端を外方に折曲して水返し板21が設けられ、
本体2の水下側の端縁は、傾斜板25、風防板26、折曲片27がそれぞれ折曲され、略三角形をなしており、
通気部Kを通過して外部に容易に排出される空気の流れが傾斜板25によって上方に向きが変わる、換気棟。」

2 無効理由1及び2(甲2発明)に関して
(1)甲2発明
甲2発明は、前記1(1)で認定した以下のとおりのものである。
「屋根の片棟(片流れ屋根)における頭頂部に取り付ける金属製の換気棟であって、
通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化するコーナー部を1つ備え、通気経路の奥に水返し片が形成され、
前記コーナー部は、前記金属屋根に沿って配置されるフランジ部と
前記フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる立ち上がり部とにより構成され、
前記立ち上がり部の上方端部に、前記金属屋根に向かって傾斜する傾斜板が接続され、前記立ち上がり部と前記傾斜板により三角状凸部が形成された、換気棟。」

(2)対比
本件発明と甲2発明とを対比する。

ア 甲2発明の「屋根の片棟(片流れ屋根)における頭頂部に取り付ける金属製の換気棟」は、「通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化するコーナー部を1つ備え」るから、本件特許発明の「(金属屋根の上に取り付けられた換気棟を含む)通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化するコーナー部を備えた換気構造体」に相当する。

イ 甲2発明の「水返し片」は本件発明の「突出片」に相当するから、甲2発明の「通気経路の奥に水返し片が形成され」た構成と、本件発明の「前記コーナー部のうち特定コーナー部において、前記特定コーナー部の一部を塞ぐようにその内方の角から外方の角に向かって延びる突出片が形成されたこと」とは、「通気経路に突出片が形成されたこと」で共通する。

ウ 甲2発明の「前記コーナー部は、前記金属屋根に沿って配置されるフランジ部と、前記フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる立ち上がり部とにより構成され」と、本件発明の「前記コーナー部の内最初のコーナー部は、前記金属屋根に沿って配置されるフランジ部と前記フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる垂直部とにより構成され」とは、「金属屋根に沿って配置されるフランジ部と前記フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる部材とにより構成される」「コーナー部」を有する点で共通する。

エ 甲2発明の「前記立ち上がり部の上方端部に、前記金属屋根に向かって傾斜する傾斜板が接続され、前記立ち上がり部と前記傾斜板により三角状凸部が形成された」構成と、本件発明の「前記垂直部の上方端部に、前記金属屋根に向かって傾斜する傾斜板が接続され」た構成とは、「前記フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる部材の上方端部に、前記金属屋根に向かって傾斜する傾斜板が接続され」た構成で共通する。

オ 上記アないしエから、本件発明と甲2発明とは、
「通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化するコーナー部を備えた換気構造体において、前記換気構造体は、金属屋根の上に取り付けられた換気棟を含み、
通気経路に突出片が形成され、
金属屋根に沿って配置されるフランジ部と前記フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる部材とにより構成されるコーナー部を有しており、
前記立ち上がる部材の上方端部に、前記金属屋根に向かって傾斜する傾斜板が接続される、換気構造体。」
で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
「コーナー部」に関して、
本件発明は、「コーナー部は、外方の開口位置から少なくとも3箇所以上連続して形成され」ているのに対して、
甲2発明は、そのような構成を有していない点。

[相違点2]
「特定コーナー部」及び「突出片」に関して、
本件発明は、「特定コーナー部は、外方側から3番目のコーナー部が対応し」、「特定コーナー部の一部を塞ぐようにその内方の角から外方の角に向かって延びる突出片が形成され」、「突出片の突出した長さは、前記内方の角から前記外方の角までの距離の1/4から1/3までの距離に設定され」ているのに対して、
甲2発明は、「コーナー部」は1つ備え、通気経路の奥に「突出片」は形成されているものの、「外方側から3番目の特定コーナー部」は存在せず、かつ、「特定コーナー部の一部を塞ぐようにその内方の角から外方の角に向かって延びる突出片」は形成されていない点。

[相違点3]
「前記フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる部材」に関して、
本件発明は、該立ち上がる部材が「垂直部」であるのに対して、
甲2発明は、「立ち上がり部」であって、(垂直に立ち上がる)「垂直部」との特定がない点。

(3)判断
ア 相違点1及び2について
甲2発明は、コーナー部を一箇所有しているだけであって、コーナー部を複数備える構成や、第3番目のコーナー部に突出片を設けることは記載も示唆もされていない。
そして、本件発明は、相違点1及び2に係る構成を備えることによって、「突出片が雨水侵入時の抵抗を拡大するので、防水効果が向上する。又、突出片が過度の通気抵抗にならないので、効率的な通気効果及び防水効果が発揮される。」(段落【0022】)との本件発明特有の効果を奏するものである。

イ 相違点3について
フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる部材の角度を変更し、垂直にする程度のことは、当業者が適宜採用できる設計的事項に過ぎない。
したがって、甲2発明において、相違点3に係る構成を採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

ウ 請求人の主張について
請求人は、甲第2号証のものは、「コーナー部」を3つ備えている(「コーナー部78,79,80」、前記第3の1(3)参照)と認定しているが、以下のとおり誤りである。

(ア) 「風の流れを示す拡大断面図」に記載された「風の流れ」(通気方向)が直角に変化する箇所は一箇所のみ(第1コーナー部78、前記第4の1(1)ウ参照)である。
請求人が主張する「第2コーナー部79」「第3コーナー部80」(前記第4の1(1)ウの△の箇所参照)は板材が直角に折り曲げられた箇所ではあるが、直角に通気方向が変化する箇所ではない。
(イ) 仮に、甲2のものが甲3,甲4と同様の構造を有するとすれば、請求人が「コーナー部」であると主張する箇所には、扉状の「ルーバー」(前記第4の1(2)シの符号3参照)が設けられており、複雑な流路を有するようになるものの、通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化するコーナー部には該当しない。
なお、 請求人はコーナー部を複数設けることが容易であるとの証拠や根拠を何ら示していない。

エ まとめ
以上のとおり、相違点1及び2が存在する以上、本件発明は甲2発明と同一ではない。また、甲2発明において、相違点1及び2に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、甲2発明に関する無効理由1及び2は理由がない。

3 無効理由1及び2(甲3発明、甲4発明)に関して
(1)甲3発明(甲4発明)
甲3発明は前記2(1)で認定した下記のとおりのものである。
なお、上記のとおり、甲3発明と甲4発明とは実質的に同一であるから、まとめて甲3発明について検討する。

「屋根頂部の棟部に施工し、小屋裏の空気を外部に換気する棟構造において、
上部に覆せる棟カバー1、本体2およびルーバー3から構成され、上部を被閉する棟カバー1の下部の屋根面に当接する本体2を有し、該本体2の下部両側に棟頂部方向に向って30度乃至60度に傾斜した風防板26を全長にわたって設置してなる換気棟であって、
屋根面に当接する底板24の水上側の端縁を上方に立ち上げて傾斜板22が折曲され、さらにその先端を外方に折曲して水返し板21が設けられ、
本体2の水下側の端縁は、傾斜板25、風防板26、折曲片27がそれぞれ折曲され、略三角形をなしており、
通気部Kを通過して外部に容易に排出される空気の流れが傾斜板25によって上方に向きが変わる、換気棟。」

(2)対比
本件発明と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「通気部Kを通過して外部に容易に排出される空気の流れが傾斜板25によって上方に向きが変わる」は、本件発明の「通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化する」に相当するから、甲3発明は、「通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化するコーナー部」を1つ備えているといえる。
そうすると、甲3発明の「屋根頂部の棟部に施工し、小屋裏の空気を外部に換気する棟構造において、上部に覆せる棟カバー1、本体2およびルーバー3から構成され」る「換気棟」は、本件発明の「金属屋根の上に取り付けられた換気棟を含」む「通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化するコーナー部を備えた換気構造体」に相当する。
甲3発明の「屋根面に当接する底板24の水上側の端縁を上方に立ち上げて傾斜板22が折曲され、さらにその先端を外方に折曲して水返し板21が設けられ」と、本件発明の「前記コーナー部のうち特定コーナー部において、前記特定コーナー部の一部を塞ぐようにその内方の角から外方の角に向かって延びる突出片が形成されたことを特徴とし、前記突出片の突出した長さは、前記内方の角から前記外方の角までの距離の1/4から1/3までの距離に設定され」とは、「突出片が形成された」構成で共通する。

甲3発明の「本体2の水下側の端縁は、傾斜板25、風防板26、折曲片27がそれぞれ折曲され、略三角形をな」す構成と、本件発明の「更に、前記垂直部の上方端部に、前記金属屋根に向かって傾斜する傾斜板が接続される」構成とは、「前記フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる部材の上方端部に、前記金属屋根に向かって傾斜する傾斜板が接続され」た構成で共通する。

したがって、本件発明と甲3発明とは、
「通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化するコーナー部を備えた換気構造体において、前記換気構造体は、金属屋根の上に取り付けられた換気棟を含み、
通気経路に突出片が形成され、
金属屋根に沿って配置されるフランジ部と前記フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる立ち上がり部とにより構成されるコーナー部を有しており、
前記立ち上がり部の上方端部に、前記金属屋根に向かって傾斜する傾斜板が接続される、換気構造体。」で一致し、下記の点で相違する。

[相違点1]
「コーナー部」に関して、
本件発明は、「コーナー部は、外方の開口位置から少なくとも3箇所以上連続して形成され」ているのに対して、
甲3発明は、そのような構成を有していない点。

[相違点2]
「特定コーナー部」及び「突出片」に関して、
本件発明は、「特定コーナー部は、外方側から3番目のコーナー部が対応し」、「特定コーナー部の一部を塞ぐようにその内方の角から外方の角に向かって延びる突出片が形成され」、「突出片の突出した長さは、前記内方の角から前記外方の角までの距離の1/4から1/3までの距離に設定され」ているのに対して、
甲3発明は、「コーナー部」は1つ備え、通気経路の奥に「突出片」は形成されているものの、「外方側から3番目の特定コーナー部」は存在せず、かつ、「特定コーナー部の一部を塞ぐようにその内方の角から外方の角に向かって延びる突出片」は形成されていない点。

[相違点3]
「前記フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる部材」に関して、
本件発明は、該部材が「垂直部」であるのに対して、
甲3発明は、「立ち上がり部」であって、(垂直に立ち上がる)「垂直部」との特定がない点。

(3)判断
ア 相違点1及び2について
甲3発明又は甲4発明は、コーナー部を1つ備えるだけであって、甲第3号証又は甲第4号証には、コーナー部を複数備える構成や、第3番目のコーナー部に突出片を設けることは記載も示唆もされていない。
そして、本件発明は、相違点1及び2に係る構成を備えることによって、「突出片が雨水侵入時の抵抗を拡大するので、防水効果が向上する。又、突出片が過度の通気抵抗にならないので、効率的な通気効果及び防水効果が発揮される。」(段落【0022】)との本件発明特有の効果を奏するものである。

イ 相違点3について
フランジ部の外方側端部から上方に立ち上がる部材の角度を変更し、垂直にする程度のことは、当業者が適宜採用できる設計的事項に過ぎない。
したがって、甲3発明において、相違点3に係る構成を採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

ウ 請求人の主張について
請求人は、甲第2号証に記載のものと同様に、甲3(甲4)に記載のものについても、「コーナー部」を3つ備えている(「コーナー部78,79,80」、前記第3の1(4)参照。)と認定しているが、前記「2 無効理由1及び2(甲2発明)に関して」で検討したとおり、このような認定は妥当ではない。。
甲2発明と同様に、水下側の三角状凸部で空気の流れが上方へ向きを変えており、この箇所のみが「通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化するコーナー部」である。換気棟の内部には、複雑な流路を有するようになるよう、扉状の「ルーバー」が設けられているが、「ルーバー」は「通気経路の途中に形成された直角に通気方向が変化するコーナー部」には該当しない。
参考資料とされた甲第3号証の2に関して、請求人は「同一向きにして拡大し改めて部位に本件特許明細書の名称・符号を入れ説明を補足する」としているが、「向きの変更」「拡大」「説明の補足」に加えて、「空気の流れt」を「U字状に改変」しているから、このような資料に基づいて空気の流れやコーナー部の存在を認定することは不適切である。
また、請求人は「差異点と目される構成要件Cの「コーナー部の構成」は、「外方の開口位置から少なくとも3箇所以上連続して形成され、」とするが、単に通気口47を構成するものであり、本件特許における技術的欠陥と認められ特段発明技術とは言い難い」とも主張するが、このような勝手な技術評価に基づいて構成要件Cに係る想到容易性を判断することはできないし、請求人はコーナー部を複数備える構成が容易に想到できるとする、具体的な証拠や根拠を何ら示していない。

エ まとめ
以上のとおり、相違点1及び2が存在する以上、本件発明は甲3発明又は甲4発明と同一ではない。また、甲3発明又は甲4発明において、相違点1及び2に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、甲3発明又は甲4発明に関する無効理由1及び2は理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明に係る特許を、無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-29 
結審通知日 2015-07-31 
審決日 2015-08-17 
出願番号 特願2013-107570(P2013-107570)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (E04D)
P 1 123・ 113- Y (E04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五十幡 直子  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
赤木 啓二
登録日 2014-05-30 
登録番号 特許第5551293号(P5551293)
発明の名称 換気構造体  
代理人 川崎 仁  
代理人 三嶋 景治  
代理人 葛西 泰二  
代理人 葛西 さやか  
復代理人 山本 英明  
代理人 中里 浩一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ