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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1320960
審判番号 不服2015-22201  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-16 
確定日 2016-10-27 
事件の表示 特願2012-176012「3次元形状計測装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年2月24日出願公開、特開2014-35241〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年8月8日の出願であって、平成26年4月10日に手続補正書が提出され、同年12月15日付けの拒絶理由の通知に対し平成27年2月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月26日付けの拒絶理由の通知に対しては指定された期間内に出願人から応答が無く、同年11月4日付けで拒絶査定(同年同月10日謄本送達)がなされ、これに対して同年12月16日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明について
1 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成27年2月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「相対的に搬送される対象物に対し、前記搬送の方向と交差する方向に長手方向軸を有するスリット光を照射し、その反射光をカメラ部で撮像して取得した画像に基づいて前記対象物の表面形状を計測する3次元形状計測装置において、
前記スリット光を出射する光源部と、
当該出射されたスリット光を前記対象物に照射するための第1光学部と、
当該照射によって前記対象物上に現れるスリット光の反射光を前記搬送の方向の上流側および下流側で捉えた光を重畳させるハーフミラーと、
前記スリット光の前記長手方向軸を挟んで前記搬送の方向の上流側および下流側に配置され、前記反射光を前記上流側および前記下流側からそれぞれ前記ハーフミラーに向ける第2および第3光学部と、
前記ハーフミラーによって重畳された光を前記カメラ部に向ける第4光学部と、を備え、
前記ハーフミラーは、前記対象物から前記第2光学部を介して向けられた前記反射光の光路長と前記対象物から前記第3光学部を介して向けられた前記反射光の光路長とが等しくなる位置に配置され、
前記第4光学部は、前記重畳された光を、その入射角によらず前記カメラ部に向けるように、少なくとも回転角度の調整が可能なミラーを含むことを特徴とする3次元形状計測装置。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、請求項1ないし5に係る発明は、いずれも、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-89534号公報(平成9年4月4日出願公開。平成27年6月26日付け拒絶理由通知書における「引用文献3」。以下、「引用例」という。)等に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用例・周知例
(1)引用例
ア 引用例には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審で付与した。以下同じ。)。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、立体形状の被測定物を測定する際に使用する3次元形状測定装置に関する。」

(イ)「【0009】
【実施例】以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。
【0010】(実施例1)図1は第1実施例における3次元形状測定装置の構成を示すものである。図1において、1は被測定物8にスリット光を照射するレーザ光源である。被測定物8は移動テーブル10に載置されており、移動テーブル10はX方向または回転方向(θ回転)へ移動可能に不図示の装置筐体に支持されている。2、3はそれぞれレーザ光源1に対して左右対に配置されたミラーであり、これらのミラー2、3は、被測定物8の表面からの光切断線(L1?L5)の拡散反射光をとらえてハーフミラー4に向けて反射させている。ハーフミラー4はミラー2からの反射光を透過しミラー3からの反射光を反射しこの透過光と反射光が同一光軸上になるように配置されている。5はハーフミラー4からの合成光をとらえ、2次元画像データを出力する撮像光学系である。6は撮像光学系5からの2次元画像データに対応する位置変換データを用いて3次元位置データに変換するデータ処理装置である。7は2次元画像データを表示するための表示装置である。9は角度調整機構であり、この角度調整機構9はミラー2の反射光の角度を調整してミラー3からの反射光と光軸を合わせるものである。
【0011】次に、上記実施例の動作について説明する。レーザ光源1より被測定物8にスリット光を照射する。被測定物8の表面に照射された光は全方向に拡散反射され、その拡散反射光の一部がミラー2及びミラー3に導かれる。ミラー2に反射した光はハーフミラー4を透過して撮像光学系5により撮像される。また一方のミラー3に入射した拡散反射光の一部はミラー3により反射され、ハーフミラー4により反射されて撮像光学系5により撮像される。このように、撮像光学系5はミラー2及びミラー3からの像を同時に撮像し、2次元画像データをデータ処理装置6に出力する。
【0012】このとき、ミラー2、3及びハーフミラー4と撮像光学系5の位置関係は、ハーフミラー4で合成時、ミラー2からの像とミラー3からの像の高さ基準位置であるゼロラインが重なり合い、更にゼロラインに対する高さ変動量が同一になるように、例えばh1bとh1cの長さが同一になるように調整されているものである。図2は、表示装置7に表示された画像データを示しているものであり、図2(a)は、ミラー2からの画像(図2(b))とミラー3からの画像(図2(c))を合成したものである。
【0013】データ処理装置6は、撮像光学系5からの2次元画像データを2値化等のデータ処理を用いて、被測定物8の表面の光切断線(L1?L5)の像を抽出し、位置変換データを用いて、3次元位置データに変換する。このときの位置変換データは測定に先立ち、キャリブレーションによって得られ、データ処理装置6のメモリに記憶されている。更に、被測定物8を移動テーブル10を用いて、レーザ照射位置を移動、回転させながら、このような操作を繰り返すことにより、立体形状をなす被測定物8の形状を測定することができる。
【0014】このように、上記実施例によれば、左右対に配置したミラー2、3からの反射光をハーフミラー4を介することにより、被測定物8の表面の光切断線L1?L5に相当するミラー2からの像L1b、L3b、L4b、L5bとミラー3からの像L1c、L2c、L3c、L5cを合成光として、例えばL1bとL1cは重なり合い1本のラインL1′としてとらえることができ、1つの撮像光学系5により、CRT7上に示すL1′?L5′を得ることができ、左右のそれぞれの死角(ミラー2ではL2、ミラー3ではL4が死角になる)になる部分をを回避して、3次元画像を得ることができるという利点を有する。」

イ 上記記載及び図1、2から、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「被測定物にスリット光を照射するレーザ光源と、
被測定物が載置され、X方向へ移動可能に支持されている移動テーブルと、
レーザ光源に対して左右対に配置され、被測定物の表面からの光切断線の拡散反射光をとらえてハーフミラーに向けて反射させるミラー2、3と、
ミラー2からの反射光を透過しミラー3からの反射光を反射しこの透過光と反射光が同一光軸上になるように配置されているハーフミラーと、
ハーフミラーからの合成光をとらえ、2次元画像データを出力する撮像光学系と、を備え、
ミラー2、3及びハーフミラーと撮像光学系の位置関係は、ハーフミラーで合成時、ミラー2からの像とミラー3からの像の高さ基準位置であるゼロラインが重なり合い、更にゼロラインに対する高さ変動量が同一になるように調整されており、
移動テーブルを用いてレーザ照射位置を移動させながら、撮像光学系からの2次元画像データを、被測定物の表面の光切断線の像を抽出して3次元位置データに変換する操作を繰り返すことにより、立体形状をなす被測定物の形状を測定する、3次元形状測定装置。」

(2)周知例1
ア 本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-101621号公報(平成11年4月13日出願公開。以下、「周知例1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光切断法による形状測定等に際して用いられ、対象物の表面に投影されたスリット像を取得する三次元視覚センサに関する。」

(イ)「【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施の形態を図にしたがって説明する。図1は、本発明にかかる三次元視覚センサを示す図であって、この三次元視覚センサは、光学ガラスにより窓1が形成されているケース2を有している。
【0017】ケース2内にはレーザー3と、レーザー3に電源を供給するレーザーアンプ4と、レーザー3が発するとともに、それに組み込まれた図示しないシリンドリカルレンズにより成形されたスリット光L1を前記窓1からケース2外へ向けて反射する第1のミラーM1とが設けられている。さらにケース2内には、第2及び第3のミラーM2,M3と、ビームスプリッター5と、CCDカメラ6とが設けられており、CCDカメラ6には、カラーフィルター7が装着された焦点距離の調整が可能なレンズ8が取り付けられている。
【0018】前記第2及び第3のミラーM2,M3は、本発明の一対のミラーであって、第1のミラーM1が反射したスリット光L1の光路を中心とする対称位置に設けられている。そして、第2及び第3のミラーM2,M3は、前記窓1から出たスリット光L1が対象物Wに照射されたとき、対象物Wの表面でスリット光L1の光路を中心とする対称方向にそれぞれ反射された互いに異なる戻り光L2,L3を、ビームスプリッター5に向けてそれぞれ反射する。また、ビームスプリッター5は、前記戻り光L2,L3を合成するとともに、合成した戻り光L4をCCDカメラ6に受光させる。また、CCDカメラ6は、第2のミラーM2とビームスプリッター5からなる一方の光学系と、第3のミラーM3とビームスプリッター5からなる他方の光学系を介して対象物Wの表面に投影されたスリット光L1の画像すなわちスリット像を撮影し、その画像データを、光切断法により対象物Wの三次元形状に関する各種の測定や検査を行う画像処理装置(図示せず)に出力するようになっている。」

(ウ)「【符号の説明】
3 レーザー(スリット光源)」

イ 上記記載から、周知例1には、次の技術が記載されている。
「光切断法による形状測定等に際して、レーザー(スリット光源)から発せられたスリット光を反射させて対象物に照射する第1のミラーを設ける」技術。

(3)周知例2
ア 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった登録実用新案第3135153号公報(平成19年9月6日発行。平成27年6月26日付け拒絶理由通知書における「引用文献4」。以下、「周知例2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本考案は、多層プリント配線板の層間接続のための導電性凸部や、液晶表示器用フィルタの製造時に生じる凸部などを検査する表面検査装置に関するものである。」

(イ)「【0007】
小型化するためには、第一光源と第二光源とから照射されて被検査物の表面にて反射した光の進行方向を変更する変更手段をさらに備えてなり、変更手段にて進行方向の変更された光が入射するように撮影手段を配置するものが好ましい。このような変更手段としては、被検査物の全幅から反射される光を反射する長尺の鏡が挙げられる。」

(ウ)「【0018】
このような第一光源23b及び第二光源23cに対して、鏡23dは、第一光源23bとほぼ同じ長さを有するもので、導電性シート部材1の表面で反射し第一光源23bと第二光源23cとの間を通って上方に向かう反射光を、入射方向とほぼ垂直な方向に反射するものである。鏡23dは、その取付角度を調整し得るようにして取り付けてあり、導電性シート部材1の表面で反射した光に対するカメラユニット23fの光軸の調整を容易にし得るようになっている。」

イ 上記記載から、周知例2には、次の技術が記載されている。
「表面検査装置において、小型化するために、被検査物の表面にて反射した光の進行方向を変更する変更手段としての鏡を備え、変更手段にて進行方向の変更された光が入射するように撮影手段を配置し、鏡は、その取付角度を調整し得るようにして取り付けて、表面で反射した光に対するカメラユニットの光軸の調整を容易にする」技術。

(4)周知例3
ア 本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-145639号公報(平成8年6月7日出願公開。以下、「周知例3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、皮膚表面三次元形状測定装置に関する。更に詳しくは、本発明は、ナイフエッジ照明を用いて皮膚表面のしわの三次元的形状を測定する装置に関する。」

(イ)「【0025】また、この装置には、受光手段2に入射させる測定光の角度調整のため、角度調整鏡13が移動ステージ3に固定されて設けられている。
【0026】本発明において、皮膚表面に対する投光角及び皮膚表面からの反射光の受光角に特に制限はないが、図1に示したように、投光光が皮膚表面Sに略垂直に入射するようにし(投光角θi=約0°)、皮膚表面からの反射光が受光角θo=30°?50°、より好ましくはθo=約45°で受光されるようにすることが好ましい。一般に皮膚は半透明体であるため投光した光の内部拡散が起こりやすく、そのために測定されるナイフエッジパターンの濃淡差が低減し、測定精度が低下しやすいが、投光角θi を0°に近づけるほど反射光における皮膚内部拡散光の割合を少なくすることができるので、ナイフエッジパターンの濃淡差の低減を抑制し、測定精度を向上させることが可能となるので好ましい。また、受光角θoに関しては、受光光が投光光に対して90°に近づく程しわの凹凸が検出されやすくなるのでしわの測定精度は向上するが、角度が大きくなりすぎると死角となる部分が生じてデータの欠落箇所が生じるので、上述のように投光角θi を略0°とする場合に、受光角θo は30°?50°、より好ましくは約45°とすることが好ましい。」

イ 上記記載から、周知例3には、次の技術が記載されている。
「三次元的形状を測定する装置において、受光手段に入射させる測定光の角度調整のために角度調整鏡を設ける」技術。

(5)周知例4
ア 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭63-180810号公報(昭和63年7月25日出願公開。平成27年6月26日付け拒絶理由通知書における「引用文献2」。以下、「周知例4」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(ア)「(技術分野)
本発明は物体表面の高さを非接触で検出する高さ検出方式に関する。」(第1ページ左下欄第14ないし16行)

(イ)「(発明の開示)
以下、実施例を示す図面に沿って本発明を詳述する。
物体表面を光切断により検出する場合、第1図(イ)に示すようにスポット光を走査あるいはライン光を照射し、ある特定の角度θで結像させれば光切断像が得られる。走査ラインlに対し方向Aから見た像AGを(ロ)に示す。また、方向Bから見た像BGを(ハ)に示す。この2つの図からわかるように物体1の光切断線は直線S1-S2に対し対称になっている。ただし、光切断線以外の像は対称にはなり得ない。ここで、像BGを直線S1-S2を軸に反転させると光切断線のみが像AGと同一の像RBGが(ニ)の如くできる。像RBGと像AGとを直線S1-S2が重なるように合成すると(ホ)に示すように光切断線のみ同一軌跡の像が生成される。この像の光切断線のみを分離すれば、A方向、B方向の両方、あるいはどちらが一方の光切断像を得ることが可能であり、この像をレンズを通して位置検出センサに結像させれば、第4図に示す構成と同じ結果を得ることができる。
これを光学的に実現させた一例を第2図に示す。図において、2はレーザ光源、3はレンズ、4は位置検出センサであり、ミラー5,6が走査ライン光平面に平行に設置され、レーザスポット光照射点0からの光路長が同一になるような位置にハーフミラー7が設置されている。
しかして、ミラー6により反転した像と、ミラー5により反転し更にハーフミラー7により元に戻した像との光学的な合成が行われ、この合成光をレンズ3を通して位置検出センサ4に結像させることにより、物体1の表面の高さが検出される。」(第2ページ左上欄第4行ないし右上欄第17行)

イ 上記記載から、周知例4には、次の技術が記載されている。
「物体表面の高さを光切断により検出する場合、ミラー5,6が走査ライン光平面に平行に設置され、レーザスポット光照射点からの光路長が同一になるような位置にハーフミラーが設置され、ミラー6により反転した像と、ミラー5により反転し更にハーフミラーにより元に戻した像との光学的な合成を行う」技術。

4 対比・判断
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「被測定物」は、「X方向へ移動可能に支持されている移動テーブル」に「載置され」、「移動テーブルを用いてレーザ照射位置」が「移動させ」られるものであるから、本願発明の「相対的に搬送される対象物」に相当する。

イ 引用発明において、「被測定物に」「照射」される「スリット光」の長手方向が、「移動テーブル」の「移動可能」な方向である「X方向」と交差する方向とされていることは、引用例の図1から明らかであるので、引用発明の「スリット光」は、本願発明の「前記搬送の方向と交差する方向に長手方向軸を有するスリット光」に相当する。

ウ 引用発明の「撮像光学系」は、「被測定物の表面からの光切断線の拡散反射光」を、「ミラー2、3」及び「ハーフミラー」を介して「とらえ、2次元画像データを出力する」ものであるから、本願発明の「カメラ部」に相当する。

エ 引用発明の「3次元形状測定装置」における「測定」は、「被測定物の表面の光切断線の像を抽出して3次元位置データに変換する操作を繰り返すことにより」なされるものであるから、引用発明において「測定」がなされる「立体形状をなす被測定物の形状」が、「被測定物の表面の」「形状」であることは、明らかであるといえ、さらに上記アないしウも踏まえれば、引用発明の「移動テーブルを用いてレーザ照射位置を移動させながら、撮像光学系からの2次元画像データを、被測定物の表面の光切断線の像を抽出して3次元位置データに変換する操作を繰り返すことにより、立体形状をなす被測定物の形状を測定する、3次元形状測定装置」は、本願発明の「相対的に搬送される対象物に対し、前記搬送の方向と交差する方向に長手方向軸を有するスリット光を照射し、その反射光をカメラ部で撮像して取得した画像に基づいて前記対象物の表面形状を計測する3次元形状計測装置」に相当するといえる。

オ 引用発明の「被測定物にスリット光を照射するレーザ光源」は、本願発明の「前記スリット光を出射する光源部」に相当する。

カ 引用発明において、「レーザ光源」が「被測定物にスリット光を照射する」ことと、本願発明において、「当該出射されたスリット光を前記対象物に照射するための第1光学部」「を備え」ることとは、「当該出射されたスリット光が前記対象物に照射される」点で共通する。

キ 引用発明の「被測定物の表面からの光切断線の拡散反射光」は、「被測定物にスリット光を照射」したことによって現れるものであるから、本願発明の「当該照射によって前記対象物上に現れるスリット光の反射光」に相当する。また、引用発明の「ハーフミラー」は、「ミラー2からの反射光を透過しミラー3からの反射光を反射しこの透過光と反射光が同一光軸上になるように配置され」、「合成光」を生じさせるものであるから、引用発明において、「ミラー2、3」がそれぞれ「とらえ」た「被測定物の表面からの光切断線の拡散反射光」が、「ハーフミラー」によって重畳されていることは、明らかであるといえる。そして、引用発明において、「レーザ光源に対して左右対に配置され」た「ミラー2、3」が、「被測定物に」「照射」される「スリット光」の長手方向軸を挟んで、「移動テーブル」の「移動可能」な方向である「X方向」の上流側及び下流側で、それぞれ「被測定物の表面からの光切断線の拡散反射光をとらえ」ていることも、引用例の図1から明らかであるので、引用発明の「ミラー2からの反射光を透過しミラー3からの反射光を反射しこの透過光と反射光が同一光軸上になるように配置されているハーフミラー」及び「レーザ光源に対して左右対に配置され、被測定物の表面からの光切断線の拡散反射光をとらえてハーフミラーに向けて反射させるミラー2、3」は、本願発明の「当該照射によって前記対象物上に現れるスリット光の反射光を前記搬送の方向の上流側および下流側で捉えた光を重畳させるハーフミラー」及び「前記スリット光の前記長手方向軸を挟んで前記搬送の方向の上流側および下流側に配置され、前記反射光を前記上流側および前記下流側からそれぞれ前記ハーフミラーに向ける第2および第3光学部」にそれぞれ相当するといえる。

ク 引用発明において、「撮像光学系」が「ハーフミラーからの合成光をとらえ」ることと、本願発明において、「前記ハーフミラーによって重畳された光を前記カメラ部に向ける第4光学部」「を備え、」「前記第4光学部は、前記重畳された光を、その入射角によらず前記カメラ部に向けるように、少なくとも回転角度の調整が可能なミラーを含むこと」とは、「前記ハーフミラーによって重畳された光が前記カメラ部に向けられる」点で共通する。

(2)よって、本願発明と引用発明とは、
「相対的に搬送される対象物に対し、前記搬送の方向と交差する方向に長手方向軸を有するスリット光を照射し、その反射光をカメラ部で撮像して取得した画像に基づいて前記対象物の表面形状を計測する3次元形状計測装置において、
前記スリット光を出射する光源部を備え、
当該出射されたスリット光が前記対象物に照射され、
当該照射によって前記対象物上に現れるスリット光の反射光を前記搬送の方向の上流側および下流側で捉えた光を重畳させるハーフミラーと、
前記スリット光の前記長手方向軸を挟んで前記搬送の方向の上流側および下流側に配置され、前記反射光を前記上流側および前記下流側からそれぞれ前記ハーフミラーに向ける第2および第3光学部と、を備え、
前記ハーフミラーによって重畳された光が前記カメラ部に向けられる、3次元形状計測装置。」
である点で一致する一方、次の点で相違する。

ア 相違点1
本願発明では、「光源部」から「出射されたスリット光を前記対象物に照射するための第1光学部」「を備え」るのに対し、引用発明では、そのような構成について示されておらず、「レーザ光源」から直接「被測定物にスリット光を照射する」ようにされている点。

イ 相違点2
本願発明では、「前記ハーフミラーによって重畳された光を前記カメラ部に向ける第4光学部」「を備え、」「前記第4光学部は、前記重畳された光を、その入射角によらず前記カメラ部に向けるように、少なくとも回転角度の調整が可能なミラーを含む」のに対し、引用発明では、そのような構成について示されておらず、「ハーフミラーからの合成光を」「撮像光学系」が直接「とらえ」るようにされている点。

ウ 相違点3
本願発明では、「前記ハーフミラーは、前記対象物から前記第2光学部を介して向けられた前記反射光の光路長と前記対象物から前記第3光学部を介して向けられた前記反射光の光路長とが等しくなる位置に配置され」ているのに対し、引用発明では、「ミラー2、3及びハーフミラーと撮像光学系の位置関係は、ハーフミラーで合成時、ミラー2からの像とミラー3からの像の高さ基準位置であるゼロラインが重なり合い、更にゼロラインに対する高さ変動量が同一になるように調整されて」いる点。

(3)相違点の判断
ア 相違点1について
一般に、光切断法による形状測定等に際し、スリット光源から発せられたスリット光を、ミラー等の光学部を介した上で対象物に照射することは、周知の技術であって(例えば、周知例1(上記3(2)イ)を参照。)、引用発明において、「レーザ光源」から直接「被測定物にスリット光を照射する」ことに代えて、ミラー等の光学部を介した上で「被測定物にスリット光を照射する」ようにすることは、当業者が適宜なしうる設計変更にすぎないものである。

イ 相違点2について
一般に、被検査物の表面からの反射光を撮影手段に入射させる際、装置の小型化を目的に、ミラーにより反射光の進行方向を変更させた上で撮影手段に入射させるとともに、該ミラーの取付角度を調整可能とすることで、反射光に対する撮影手段の光軸調整を容易にすることは、周知の技術である(例えば、周知例2(上記3(3)イ)を参照。)。そして、装置の小型化は、技術分野を問わない一般的な課題であって、引用発明においても当然に内在する課題といえるから、引用発明において、装置の小型化を目的として、当該周知技術のように、「ハーフミラーからの合成光を」、角度調整が可能なミラーを介して「撮像光学系」に入射させるようにすることは、当業者が容易になしえたことである。
また、三次元形状測定装置に限ったとしても、受光手段に入射させる測定光の角度調整のためのミラーを設けることは、周知の技術である(例えば、周知例3(上記3(4)イ)を参照。)から、引用発明において、受光手段に入射させる測定光の角度調整という目的からも、「ハーフミラーからの合成光を」、角度調整が可能なミラーを介して「撮像光学系」に入射させるようにすることは、当業者が容易になしえたことである。

ウ 相違点3について
引用発明において、「ミラー2、3及びハーフミラーと撮像光学系の位置関係は、ハーフミラーで合成時、ミラー2からの像とミラー3からの像の高さ基準位置であるゼロラインが重なり合い、更にゼロラインに対する高さ変動量が同一になるように」するためには、「被測定物の表面」から「ミラー2」を経て「ハーフミラー」に至る光路長と、「被測定物の表面」から「ミラー3」を経て「ハーフミラー」に至る光路長とが等しくなるようにすればよいのであり、このことは引用発明に接した当業者が当然に理解するところであるから、相違点3は実質的な相違点ではない。
また、相違点3が仮に実質的な相違点であったとしても、物体表面の高さを光切断により検出する際、像の合成を行うハーフミラーを、光照射点からの光路長が同一になる位置に設置することは、周知の技術である(例えば、周知例4(上記3(5)イ)を参照。)から、引用発明において、「ハーフミラー」の位置を、「被測定物の表面」の光照射点からの光路長が同一になる位置とすることは、当業者が容易になしえたことである。

エ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(4)審判請求人の主張
審判請求人は、平成27年12月16日付け審判請求書の請求の理由において、概略、本願発明は、「ハーフミラーとカメラ部との間に第4光学部が配設され、その第4光学部は重畳光の入射角度によらず重畳光をカメラ部に向けるように回転角度の調整が可能であるミラーを含むことを特徴とするもので」あり、「これにより、単に一つのミラーの回転角度の調整を行えば2視線の俯角の調整を行うことができるものとな」る、のに対し、周知例2は「対象物に両側から当てられた光の反射光を対象物の直上に配された鏡でさらに反射させてカメラに向ける技術を開示するもので、載置面からの高さが異なる種々の対象物への対応は問題とな」らないため、引用発明に周知例2を「どのように組み合わせるかは全く不明であり」、「また、仮に組み合わせを行っても、入射角によらず重畳光をカメラ部に向けるように、回転角度の調整が可能なミラーを備えるという技術思想は導かれることはなく、これによって異なる高さの対象物を検査する場合の俯角の変化に対応できるという効果を得ることもできない」、との旨(【本願発明が特許されるべき理由】(c))を主張している。
しかしながら、本願の請求項1の記載では、「前記第4光学部は、前記重畳された光を、その入射角によらず前記カメラ部に向けるように、少なくとも回転角度の調整が可能なミラーを含む」としか特定されておらず(本願の明細書には、「第2ミラー272を鉛直方向に平行移動させるとともに、回転軸Pを中心にして第2ミラー272を回転させることによって、搬送方向上流側の視線および搬送方向下流側の視線、すなわち2視線の俯角を調整することができる」点(【0033】)が記載されているが、「第4光学部」の「ミラー」を「鉛直方向に平行移動させ」、かつ、「回転軸Pを中心にして」「回転させることによって、」「2視線の俯角を調整する」点については、請求項1の記載により特定されていない。)、引用発明においてそのような構成を採用することが当業者にとって容易になしえたことであることは、上記(3)イで述べたとおりであるから、審判請求人の当該主張は、採用することができない。

(5)したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第3 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-26 
結審通知日 2016-08-30 
審決日 2016-09-13 
出願番号 特願2012-176012(P2012-176012)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 眞岩 久恵  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 大和田 有軌
須原 宏光
発明の名称 3次元形状計測装置  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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