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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1321253
異議申立番号 異議2016-700693  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-05 
確定日 2016-11-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第5865916号発明「ガスノズル,これを用いたプラズマ装置およびガスノズルの製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5865916号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5865916号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は,2012年10月30日(国内優先権主張2011年10月31日)を国際出願日とする出願であって,平成28年1月8日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人 木下 淳 により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
特許第5865916号の請求項1ないし5の特許に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下「請求項1」の特許に係る発明等を「本件特許発明1」等ともいう。)
「【請求項1】
ガスが流れる貫通孔が形成されたセラミック焼結体からなる柱状の本体を備え,
前記本体の一端面には,前記貫通孔における前記ガスの排出口が形成されており,
前記一端面における輪郭曲線要素の平均長さ(Rsm)は,前記セラミック焼結体における平均結晶粒径の5倍以上100倍以下であることを特徴とするガスノズル。
【請求項2】
請求項1に記載のガスノズルにおいて,
前記一端面における算術平均粗さ(Ra)は,0.05μm以下であることを特徴とするガスノズル。
【請求項3】
請求項1に記載のガスノズルにおいて,
前記本体の前記一端面に接続した側面における輪郭曲線要素の平均長さ(Rsm)は,前記セラミック焼結体における平均結晶粒径の5倍以上であることを特徴とするガスノズル。
【請求項4】
請求項3に記載のガスノズルにおいて,
前記排出口は,前記本体に複数形成されており,且つ前記側面にも形成されていることを特徴とするガスノズル。
【請求項5】
請求項1に記載のガスノズルにおいて,
前記セラミック焼結体の主成分は,イットリアであることを特徴とするガスノズル。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人は,証拠として特開2011-49551号公報(以下「甲第1号証」という。)を提出し,請求項1ないし3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし3に係る特許を取り消すべきものである旨主張し,また,特許異議申立人は,主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として特表2005-507159号公報(以下「甲第2号証」という。)を提出し,請求項4に係る特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項4に係る特許を取り消すべきものである旨主張し,さらに,特許異議申立人は,主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として特開2007-63595号公報(以下「甲第3号証」という。)を提出し,請求項5に係る特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
さらに,特許異議申立人は,請求項1ないし5に係る特許は,発明の詳細な説明に記載したものではなく,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから,請求項1ないし5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

4 進歩性(特許法第29条第2項)について
(1)甲第1号証には,以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】
先端に被吸着物を真空吸着する吸着面を備えた真空吸着ノズルであって,前記吸着面は,複数の溝を有しており,特定方向の粗さ曲線における,JIS B 0601(2001)に記載の粗さ曲線の最大断面高さRtが0.18μm以上0.4μm以下であり,輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.01mm以上0.08mm以下であることを特徴とする真空吸着ノズル。
【請求項2】
前記吸着面は,前記特定の方向における算術平均粗さRaが0.02μm以上0.06μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の真空吸着ノズル。
【請求項3】
前記吸着面はセラミックスからなることを特徴とする請求項1または2に記載の真空吸着ノズル。
【請求項4】
前記セラミックスの主成分が安定化剤を含むジルコニアであって,前記主成分よりも硬度が低い金属酸化物を含む添加剤が含有していることを特徴とする請求項3に記載の真空吸着ノズル。」

・「【技術分野】
【0001】
本発明は,チップコンデンサやチップ抵抗器などのチップ状の電子部品を回路基板に実装するための電子部品装着機に好適に用いられる真空吸着ノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,チップコンデンサやチップ抵抗器などのチップ状の電子部品は,電子部品装着機に具備された真空吸着ノズルの先端の吸着面に真空吸引によって吸着された後,そのまま搬送されて回路基板の所定の位置へ実装される。このとき,このチップ状の電子部品の位置の測定は,光を照射して,このチップ状の電子部品によって反射された反射光をCCDカメラで受光し,画像解析装置でそのチップ状の電子部品の形状や電極の位置を解析することによって行なわれている。」

・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,近年,真空吸着ノズルを高速で移動させてトレイ上の電子部品を吸着し,そのまま電子部品を回路基板まで移動して実装する工程等において,回路基板およびこれに実装する電子部品がますます小型化されて,実装する電子部品の数が増加する傾向にあるため,真空吸着ノズルが電子部品を吸着して回路基板の実装位置に載置するための時間を短縮することが課題となっている。また,真空吸着ノズルの吸着面の反射光と被吸着物からの反射光とを識別しにくい場合があり,被吸着物の位置検出を容易に行なう点で改善の余地があった。
【0006】
それゆえ,本発明は,先端に被吸着物を真空吸着して移送する際に被吸着物の位置ずれや落下が少なく,その移送先で吸着面から被吸着物を離脱する時間を短縮することができ,さらに,被吸着物の位置検出を容易に行なうことができ,装着精度や移動効率の向上した空吸着ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の真空吸着ノズルは,先端に被吸着物を真空吸着する吸着面を備えた真空吸着ノズルであって,前記吸着面は,複数の溝を有しており,特定方向の粗さ曲線における,JIS B 0601(2001)に記載の粗さ曲線の最大断面高さRtが0.18μm以上0.4μm以下であり,輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.01mm以上0.08mm以下であることを特徴とするものである。」

・「【発明の効果】
【0014】
本発明の真空吸着ノズルによれば,先端に被吸着物を真空吸着する吸着面を備えた真空吸着ノズルであって,吸着面は,複数の溝を有していることから,被吸着物を真空吸着したときに被吸着物と真空吸着ノズルの吸着面との間で溝を介して僅かな空気漏れが生じるため,真空吸着ノズルが被吸着物に近付いて吸着するときに急激な吸着が起こりにくく,被吸着物の位置ずれが生じることを抑制できる。さらに,被吸着物が吸着面から離脱するときに真空による貼り付きが残らないため,被吸着物の離脱不良が少なく,さらに時間が短縮できて応答動作が速いため,装着精度や移送効率を高めることができる。
【0015】
また,吸着面は,特定方向の粗さ曲線におけるJIS B 0601(2001)に記載の粗さ曲線の最大断面高さRtが0.18μm以上0.4μm以下であることから,吸着面に照射された光を乱反射させたり,場合によってはCCDカメラの方向とは違う方向へ反射させたりすることもできる。それにより,真空吸着ノズルの吸着面の反射光と被吸着物からの反射光とを識別しやすくなるため,位置検出が容易にできるようになり装着精度が向上する。」

・「【0019】
図1に示す真空吸着ノズル組み立て体7は,真空吸着ノズル1が,真空吸引することによって被吸着物である電子部品(図示せず)を吸着して保持するための吸着面2を先端の端面側に有した円筒部5と,円筒部5の吸着面2と相対する側に円筒部5に向かって先細りの形状で設けられ円錐部4と,円錐部4の吸着面2と相対する根元の端面側に設けられた頭部6とを有する構成である。そして,円筒部5を貫通して吸着面2に開口した内孔は,円錐部4と頭部6とに延設して頭部6の表面に開口させて,吸引孔3としてある。
【0020】
また,真空吸着ノズル1の頭部6と嵌合する受け部11を有し,吸引孔3と連通するように吸引孔12を有している保持部材10が,真空吸着ノズル1の頭部6と受け部11とを嵌合させて取り付けられており,保持部材10を介して真空吸着ノズル1が電子部品装着機(図示せず)に取り付けられるようにしてある。」

・「【0031】
さらに,溝8に対して直交する方向の粗さ曲線における輪郭曲線要素の平均長さRsmを0.01mm以上0.08mm以下としたので,例えば電子部品15を回路基板の実装位置に載置するための位置検出を画像解析する場合に,光を電子部品15に照射しても周囲の真空吸着ノズル1の吸着面2からの反射光は電子部品からの反射光とは別の方向へ反射するため,その反射光は電子部品15の反射光とは識別が可能となり,位置検出が容易にでき,装着精度が向上する。
【0032】
なお,この輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.08mmを超えると,吸着面2において,乱反射することが少なくなり,吸着面2からの反射光と電子部品15からの反射光との識別が難しくなるため,位置検出が容易にできなくなる傾向にある。逆に,この輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.01mm未満になると,溝8の間隔が小さくなるために吸着面2での乱反射が多くなり,吸着面2の輝度が高くなって電子部品15からの反射光との識別が困難になる傾向にある。」

・「【0050】
真空吸着ノズル1に用いるセラミックスに安定化剤を含むジルコニアセラミックスを用いることが好ましいのは,セラミックスとしての機械的強度が高いためである。特に,図1(a)に示す真空吸着ノズル1のように,円筒部5を有しており,その径が細小さい形状の真空吸着ノズル1の場合には,吸着面2に吸着した電子部品15を基板に実装したときに隣接する部品と真空吸着ノズル1の先端とが接することによって円筒部5が破損しやすいため,セラミックスとして機械的強度の高いジルコニアセラミックスを使用することが好適である。このときのジルコニアセラミックスに含ませる安定化剤としてはイットリア,セリア,マグネシアなどを用いればよく,これら安定化剤を2?8モル%程度含んでいれば実用上で機械的強度的に十分なジルコニアセラミックスとなる。また,ジルコニアの平均結晶粒子径は3μm以下のものが好ましい。ジルコニアの平均結晶粒子径を3μm以下とすることで,真空吸着ノズル1の作製や補修の際に吸着面2に対して研削加工や鏡面加工をするときに,結晶粒子が脱落しにくくなることから吸着面2に欠けが生じにくくなる。
【0051】
また,吸着面2の径が0.7mm以下と小さな真空吸着ノズル1であるときにも,被吸着物である電子部品15を回路基板に配設し実装したときに,真空吸着ノズル1の吸着面2の一部が先に実装してある電子部品や周囲に実装してある部品に接することによって破損するという問題が発生するのを抑制することができる。」

・「【0065】
なお,本実施形態の真空吸着ノズル1の形状を得るには,一般的な射出成形法に基づいて,真空吸着ノズル1の形状が得られる成形型を作製し,これをインジェクション成形機に設置して射出成形すればよい。これによって,容易に所望の形状の真空吸着ノズル1が得られる。
【0066】
ここで,ジルコニアセラミックス,アルミナセラミックスの焼成条件としては,導電性付与材に酸化鉄,酸化コバルト,酸化クロム,酸化ニッケルおよび酸化チタンの少なくとも1種を含む場合,または導電性付与材に少なくとも酸化鉄を含む場合には,大気雰囲気中での焼成で最高温度を1300?1500℃の範囲として,最高温度での保持時間を1?5時間とすればよい。また,導電性付与材が炭化チタンの場合には,最高温度を1400?1800℃の範囲として,最高温度での保持時間を1?5時間とし,真空雰囲気中またはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で焼成すればよい。また,導電性付与材が窒化チタンの場合には,これら真空雰囲気中または不活性雰囲気中に加えて,窒素ガス雰囲気中で焼成してもよい。これにより,セラミックス製の真空吸着ノズル1に適度な導電性を付与することができる。」

・「【0084】
表2に示す結果から,本実施形態の範囲外である,吸着面2の状態が鏡面である試料No.1-1,2-1の場合には,溝8からの適度な空気の流入がなく,電子部品15の吸着時の位置ずれ発生率および離脱不良の発生率が3%と高く,さらに吸着面2からの反射光が多くなり,輝度が非常に高くなった。また,吸着面2の溝8に対して直交する方向の粗さ曲線における最大断面高さRtが0.18μm未満である試料No.1-2,2-2は,溝8からの空気の流入が少なくなるので,吸着するときの位置ずれの発生率と,移送先からの離脱不良の発生率とが,いずれも0.05%とやや高かった。また,吸着面2の粗さ曲線の最大断面高さRtが0.4μmを超える試料No.1-6,2-6は,溝8からの空気の流入が多くなって吸着する力が低下したために,電子部品15の落下発生率が0.5%とやや高くなった。また,吸着面2の溝8に対して直交する方向の粗さ曲線における輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.01mm未満である試料No.1-7,2-7は,輝度が100以上とやや高くなったことから,吸着面2からの反射光が多くなったことが分かる。また,この輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.08mmを超える試料No.1-10,2-10も,輝度が100以上とやや高くなったことから,吸着面2からの反射光が乱反射することが少なくなり,電子部品15からの反射光との識別が難しくなるので位置検出が容易にできなくなったことがわかる。
【0085】
これに対して,本実施形態の範囲内である,吸着面2の溝8に対して直交する方向の粗さ曲線における最大断面高さRtが0.18μm以上0.4μm以下であり,吸着面2の溝8に対して直交する方向の粗さ曲線における輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.01mm以上0.08mm以下である試料No.1-3?1-5,1-8?1-9,2-3?2-5,2-8および2-9は,溝8からの適度な空気の流入があるので,被吸着物の位置ずれの発生率が0.02%以下で,被吸着物の吸着の強さが大きく低下しないので,移送中に電子部品15の落下がなく,移送先からの離脱不良の発生率が0.02%以下となり,吸着面2から電子部品15を離脱するのにかかる時間を短縮することができるので,装着精度や移送効率が向上することが分かる。
【0086】
また,吸着面2の溝8に対して直交する方向の粗さ曲線における輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.01mm以上0.08mm以下であることから,吸着面2に照射した光の反射光は適度な乱反射となるため輝度は100未満であった。電子部品15は本体が白色系であれば輝度は高く,黒色系であったとしても周囲には金またはニッケルや銀等のメッキされた電極やリードを備えているので,このような電子部品15の輝度は150以上になることが多く,吸着面2と電子部品15の輝度の差による識別が容易であり,電子部品15の位置検出が容易にできる。」

(2)したがって,上記各記載から,甲第1号証には,異議申立人が,異議申立書の第7ないし8ページで「甲1発明」と認定した以下の発明が記載されていると認められる。(なお,異議申立人は,「甲1発明」の認定において,「前記特定の方向」としたが,当該「前記」に対応する「特定の方向」が存在しないので,以下のように認定をした。)
「吸着面を先端の端面側に有した円筒部と,円筒部の吸着面と相対する側に円筒部に向かって先細りの形状で設けられた円錐部と,円錐部の吸着面と相対する根元の端面側に設けられた頭部とを有し,円筒部を貫通して吸着面に開口した内孔は,円錐部と頭部とに延設して頭部の表面に開口させて,吸引孔とした,セラミックス焼結体からなる真空吸着ノズルであって,
前記吸着面の輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.01mm以上0.08mm以下であり,
前記吸着面は,特定の方向における算術平均粗さRaが0.02μm以上0.06μm以下であり,
前記吸着面は,セラミックスの主成分が安定化剤を含むジルコニアであり,
前記ジルコニアの平均結晶粒子径が3μm以下である真空吸着ノズル」

5 判断
(1)本件特許発明1に係る発明について
ア 本件特許発明1と甲1発明とを対比すると,甲1発明には,本件特許発明1の「柱状の本体」が記載されていない点(相違点1),及び,本件特許発明1が,「ガスの排出口」が形成されている一端面のRsmを特定する「ガスノズル」の発明であるのに対して,甲1発明が,「吸着面」が形成されている一端面のRsmを特定する「真空吸着ノズル」の発明である点(相違点2)において相違し,その余の点で両者は一致すると認められる。

イ 相違点1について検討する。
特許異議申立人は,「本件特許発明1の『セラミックス焼結体からなる柱状の本体』は,甲1発明の「セラミックス焼結体からなる,吸着面を先端の端面側に有した円筒部及び円筒部に向かって先細りの形状で設けられ円錐部』に相当する。」と主張する。
しかしながら,甲1発明の「円筒部及び円筒部に向かって先細りの形状で設けられ円錐部」からなる形状は,「柱状」とは異なる形状であるから,「本件特許発明1の『セラミックス焼結体からなる柱状の本体』は,甲1発明の「セラミックス焼結体からなる,吸着面を先端の端面側に有した円筒部及び円筒部に向かって先細りの形状で設けられ円錐部』に相当する。」とは認めることはできない。
そして,甲1発明の前記形状は,例えば,「0.7mm以下と小さな」「吸着面2の径」を有する「真空吸着ノズル1」(【0051】)を,「保持部材10を介して真空吸着ノズル1が電子部品装着機(図示せず)に取り付けられるように」(【0020】)するためという技術的意義を有すると理解されるから,甲1発明の前記「吸着面を先端の端面側に有した円筒部及び円筒部に向かって先細りの形状で設けられ円錐部」という形状を,「柱状の本体」とすることには,動機付けが存在せず,しかも,阻害事由があるといえる。
したがって,上記相違点1について,本件特許発明1の構成を採用することは,当業者が容易になし得たことではない。

ウ 相違点2について検討する。
異議申立人は,「本件特許発明1は『ガスの排出口』を備えるガスノズルであるのに対して,甲1発明は『ガスの吸引孔』を備えるガスノズルである点において相違する。即ち,本件特許発明1と甲1発明は,ガスノズルである点において共通し,該ノズルをガス排出用として用いるか,ガス吸引用として用いるかの単なる用途上の相違に過ぎない。したがって,甲1発明の『ガスの吸引孔』を備えるガスノズルに基づいて,本件特許発明1のような『ガスの排出口』を備えるガスノズルになすことは,当業者が容易に想到し得ることである。」と主張する。
しかしながら,前記主張は採用することはできない。その理由は以下のとおりである。
甲1発明において,「吸着面の輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.01mm以上0.08mm以下」とした技術的意義は,甲第1号証の上記記載から,「真空吸着ノズルの吸着面の反射光と被吸着物からの反射光とを識別しにくい場合があり,被吸着物の位置検出を容易に行なう点で改善の余地があった」(【0005】)という課題の認識のもと,「溝8に対して直交する方向の粗さ曲線における輪郭曲線要素の平均長さRsmを0.01mm以上0.08mm以下としたので,例えば電子部品15を回路基板の実装位置に載置するための位置検出を画像解析する場合に,光を電子部品15に照射しても周囲の真空吸着ノズル1の吸着面2からの反射光は電子部品からの反射光とは別の方向へ反射するため,その反射光は電子部品15の反射光とは識別が可能となり,位置検出が容易にでき,装着精度が向上する」という効果を得るためのものであると認められ,さらに,前記「吸着面の輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.01mm以上0.08mm以下」という構成は,「溝8からの適度な空気の流入があるので,被吸着物の位置ずれの発生率が0.02%以下で,被吸着物の吸着の強さが大きく低下しないので,移送中に電子部品15の落下がなく,移送先からの離脱不良の発生率が0.02%以下となり,吸着面2から電子部品15を離脱するのにかかる時間を短縮することができるので,装着精度や移送効率が向上することが分かる」(【0085】)という効果を奏するものと認められる。
これに対して,本件特許発明1のような「ガスの排出口」を備えるガスノズルからは,前記「真空吸着ノズルの吸着面の反射光と被吸着物からの反射光とを識別しにくい場合があり,被吸着物の位置検出を容易に行なう点で改善の余地があった」という課題が生じることはなく,さらに,前記「位置検出が容易にでき,装着精度が向上する」及び「吸着面2から電子部品15を離脱するのにかかる時間を短縮することができるので,装着精度や移送効率が向上する」という効果も奏さないといえる。
してみれば,甲1発明に係る,前記「吸着面の輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.01mm以上0.08mm以下」という構成を有する真空吸着ノズルを,当該「吸着面の輪郭曲線要素の平均長さRsmが0.01mm以上0.08mm以下」とする課題の認識もなく,効果を奏することもない,本件特許発明1のような「ガスの排出口」を備えるガスノズルとして用いることは想定することはできないから,「甲1発明の『ガスの吸引孔』を備えるガスノズルに基づいて,本件特許発明1のような『ガスの排出口』を備えるガスノズルになすことは,当業者が容易に想到し得ることである。」との異議申立人の主張は採用することはできない。

エ そして,これら相違点1及び相違点2について,甲第2,3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たとする理由は主張されていない。
したがって,請求項1に係る発明は,甲第1号証に記載された発明から当業者が容易になし得たものではない。また,請求項1に係る発明は,甲第1号証に記載された発明及び甲第2,3号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たものでもない。

(2)請求項2ないし5に係る発明について
請求項2ないし5に係る発明は,請求項1に係る発明に更に別の発明特定事項を付加したものであるから,上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により,上記甲第1号証に記載された発明及び甲第2,3号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。
以上のとおり,請求項1ないし5に係る発明は,甲第1号証に記載された発明及び甲第2,3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 記載要件(特許法第36条第6項第1号)について
(1)異議申立人は,以下のように主張する。
「本件特許公報に記載された実施例(段落[0044]?[0052]には,輪郭曲線要素の平均長さ(Rsm)がセラミック焼結体における平均結晶粒径の19倍(試料4)を越える実施例の開示がなく,所定の効果を奏するか,否か明らかではない。
更に言えば,本件特許公報の明細書中には,輪郭曲線要素の平均長さ(Rsm)を,「平均結晶粒径の5倍」「平均結晶粒径の100倍」とする実施例の記載,また数値限定による臨界的意義を明らかにする記載等がなく,本件特許発明1は「発明の詳細な説明」に記載されたものでないことは明らかである。
尚,本件特許発明2-5は,本件特許発明1を引用するため,本件特許発明2-5についても「発明の詳細な説明」に記載されたものでないことは明らかである。」

(2)しかしながら,本件特許明細書の【0019】に,「一方,本実施形態においては,本体13の一端面S1における凹部の数に着目し,後述する本実施形態の研磨加工を用いて加工時における結晶粒子の破砕を抑制することによって,図3(b)に示すように,本体13の一端面S1における凹部の数を低減し,本体13の一端面S1における輪郭曲線要素の平均長さ(Rsm)をセラミック焼結体の平均結晶粒径の5倍以上とした。その結果,本体13の一端面S1における凹部の数を低減することによって,反応室2内のプラズマ化された腐食性ガスに直接触れたとしても,パーティクルの脱落を低減することができ,ひいてはウェハの不良を低減することができる。」との記載から,本体の一端面における凹部の数を低減すること,すなわち,Rsmの値を大きくすれば,反応室内のプラズマ化された腐食性ガスに直接触れたとしても,パーティクルの脱落を低減することができ,ひいてはウェハの不良を低減することができるとの効果が得られることが理解できる。
してみれば,本件特許明細書の「輪郭曲線要素の平均長さ(Rsm)がセラミック焼結体における平均結晶粒径の19倍(試料4)」において,良好な結果が得られているのであれば,当該数値を超えて,100倍以下の範囲においても良好な結果が得られることを予測することができるから,「所定の効果を奏するか,否か明らかではない。」とする異議申立人の主張は採用することはできない。
さらに,本件特許明細書の【0022】に「また,本体13の一端面S1における輪郭曲線要素の平均長さ(Rsm)は,例えばセラミック焼結体の平均結晶粒径の100倍以下に設定されている。」と記載されており,【0036】の「第1ラップ加工で発生した結晶粒子の破砕層を除去することができる。また,第2ラップ加工の前に第1ラップ加工を行って一端面S1の算術平均粗さ(Ra)を小さくしておくことによって,加工時間を短縮することができる。」との記載から,加工時間を短縮することが望ましいとする一般的な課題を認識できるから,本件特許発明1において,Rsmの値を不必要に大きくして加工時間が長くなることを防ぐために,「例えばセラミック焼結体の平均結晶粒径の100倍以下に設定」することが理解される。
すなわち,本件特許発明1において,輪郭曲線要素の平均長さ(Rsm)を,「平均結晶粒径の5倍」「平均結晶粒径の100倍」とする実施例の記載,また数値限定による臨界的意義を明らかにすることが必ずしも必要であるとは認められないから,異議申立人の前記主張は採用することができない。

(3)そして,上記検討したように,本件特許発明1が「発明の詳細な説明」に記載されたものではないとまではいえないから,「本件特許発明2-5は,本件特許発明1を引用するため,本件特許発明2-5についても『発明の詳細な説明』に記載されたものでないことは明らかである。」とする,異議申立人の上記の主張も理由がない。

7 むすび
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-11-02 
出願番号 特願2013-541776(P2013-541776)
審決分類 P 1 652・ 537- Y (H01L)
P 1 652・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 直也  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 加藤 浩一
河口 雅英
登録日 2016-01-08 
登録番号 特許第5865916号(P5865916)
権利者 京セラ株式会社
発明の名称 ガスノズル、これを用いたプラズマ装置およびガスノズルの製造方法  

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