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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01B
審判 全部無効 特174条1項  A01B
審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  A01B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01B
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A01B
管理番号 1321459
審判番号 無効2014-800071  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-05-02 
確定日 2016-08-29 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5454845号「ロータリ作業機のシールドカバー」の特許無効審判事件についてされた平成27年4月10日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成27年(行ケ)第10094号、平成28年3月30日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第5454845号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第5454845号(以下、「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1」及び「本件発明2」という。また、本件特許に係る発明をまとめて「本件発明」という。)の特許を無効とすることを求める事件であって、手続の経緯は、概略以下のとおりである。

平成20年10月15日 本件出願(特願2008-266269号、本件出願は、平成20年3月26日に出願した特願2008-81313号を原出願とし、その一部を新たな特許出願としたものである。)
平成25年 9月25日 手続補正書
平成26年 1月17日 設定登録(特許第5454845号)
平成26年 5月 2日 本件無効審判請求
平成26年 7月23日 答弁書
平成26年10月21日 審理事項通知
平成26年11月 5日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成26年11月12日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成26年11月20日 口頭審理
平成26年12月15日 審決の予告
平成27年 2月17日 訂正請求書
平成27年 4月10日 一次審決(請求成立)
平成27年 5月14日 審決取消訴訟提起(被請求人)(平成27年(行ケ)第10094号)
平成28年 3月30日 判決言渡(一次審決取消)

第2 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、本件特許の請求項1に係る発明(本件発明1)及び請求項2に係る発明(本件発明2)の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(審判請求書、及び平成26年11月5日付け口頭審理陳述要領書を参照。)、証拠方法として甲第1号証ないし甲第3号証を提出している。

なお、無効理由1については、平成26年11月20日に行った口頭審理において、以下のとおり補正を許可する決定をした(第1回口頭審理調書を参照。)。
無効理由1について、審判請求時の本件発明1及び2は甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証及び甲第3号証)に基づいて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとするのを、本件発明1及び2は甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとする補正について、当該補正が、審理を遅延させるおそれがないことは明らかであり、被請求人の同意もあるから、特許法第131条の2第2項の規定により、決定をもって許可する。

(1)無効理由1
本件特許の本件発明1及び2は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1及び2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(2)無効理由2
平成25年9月25日付け手続補正書による補正(審判請求時の補正)によって、請求項1に「固定位置すべて」という事項が追加されたが、この補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものではなく、また、その記載から自明な事項でもない。
よって、平成25年9月25日付け手続補正書による補正、すなわち請求項1に「固定位置すべて」という事項を追加する補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明1及び2についての特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
(3)無効理由3
本件図面には、土除け材4のシールドカバー本体2に対する固定具8として、「ボルト」や「ピン」は図示されておらず、シールドカバー本体2上に位置する部材が図示されているに過ぎず、また、土除け材4のエプロン3に対する固定具8については、本件図面に何ら図示されていないため、土除け材4がシールドカバー本体2およびエプロン3に対してどのようにしてどの位置に固定されているのか不明であるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1及び2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明1及び2についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(4)無効理由4
本件特許請求の範囲の請求項1には、「……固定位置すべてにおいて互いに重なっている……」という記載があるが、本件明細書の発明の詳細な説明には、複数の固定位置のすべてにおいて互いに重なっていることの記載はないから、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
また、本件特許請求の範囲の【請求項1】に記載されている「固定位置すべて」が具体的にどの位置のすべてを意味するのか明らかでなく、さらに、【請求項1】に記載されている「エプロンの周方向」が具体的にどの方向を指すのか明らかでないから、本件発明1及び2は、明確であるとはいえない。
よって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号および第2号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明1及び2についての特許は、特許法第36条第6項第1号および第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(証拠方法)
甲第1号証:実願昭63-106917号(実開平2-29202号)のマイクロフイルム
甲第2号証:特開平6-303802号公報
甲第3号証:特開平7-67401号公報

2 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張に対して、概ね以下のとおり反論し(答弁書、及び平成26年11月12日付け口頭審理陳述要領書を参照。)、証拠方法として乙第1号証ないし乙第3号証を提出している。

(1)無効理由1
甲第1号証には、「主カバー12のロータリ耕耘部6側の面に、弾性を有する1枚以上の土付着防止部材20がその進行方向後方側の位置で固定され」という構成、及び「一方の土付着防止部材20は、他方の土付着防止部材20の主カバー12への固定位置すべてにおいて、他方の土付着防止部材20と互いに重なっている」という構成は記載されていない。
甲第2号証において、メインカバー12に対する低摩擦係数の部材14の固定位置は、低摩擦係数の部材14の後端部14aのみを固定位置と解することはできないから、甲第2号証には、「弾性部材23がメインカバー12の補強板18に対する低摩擦係数の部材14の固定位置においてその低摩擦係数の部材と互いに重なっている」という構成は記載されていない。
甲第3号証の図1において、取付面板16に対する樹脂板15の固定位置が不明であるから、甲第3号証には、「ゴム板3が主カバー12の取付面板16に対する樹脂板15の固定位置においてその樹脂板15と互いに重なっている」という構成は記載されていない。
甲第1号証に記載された発明に甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明を組み合わせることの動機付けがない。
本件発明1及び2は、土除け材がその周方向の一端で固定され、他端側が自由な状態になることで、作業機本体の振動に起因して発生する振動時の振幅が最大限発揮されるため、付着した土砂の落下を誘発する効果が高まり、土砂の付着と堆積を回避する効果が得られる(本件明細書段落【0018】、【0028】、【0029】)とともに、土除け材の固定位置を覆うように隣接する土除け材を重ねて固定することによって、付着した土砂が落下しにくい固定位置への土砂の付着自体を生じにくくすることができ、この結果、振動による落下を期待するまでもなく、土砂を落下させる必要がない伏態を得ることが可能になり、土砂の付着と堆積を有効に防止することができる(同【0016】、【0029】)という顕著な効果を有する。また、本件発明1及び2が上記の顕著な効果を有することは、乙第1ないし3号証の実験結果からも明らかである。
よって、請求人が主張する無効理由1には理由がない。
(2)無効理由2
本件明細書の段落【0048】?【0050】及び図1には、主にトラクタの進行方向前方から後方(土除け材の周方向)において、土除け材の固定位置すべてが後方側に隣接する他の土除け材によって覆われることが記載されている。
よって、請求人が主張する無効理由2には理由がない。
(3)無効理由3
本件明細書の段落【0012】、【0043】及び図1等から、土除け材がシールドカバー本体とエプロンにボルトやピン等の固定具によって着脱自在に固定されること、固定具は土除け材の長さ方向(シールドカバー本体の長さ方向、あるいは作業機本体の幅方向)には適度の間隔をおいて配置され、土除け材の周方向(シールドカバー本体の周方向)には基本的には1箇所配置されれば足りるが2箇所配置されてもよいこと、固定具が配置される具体的な固定位置はいずれも明確であり、固定具がボルトとナットである場合の固定方法も明確である。
よって、請求人が主張する無効理由3には理由がない。
(4)無効理由4
本件明細書の段落【0042】、【0043】、【0048】?【0050】及び図1には、土除け材の周方向において、土除け材の固定位置すべてが後方側に隣接する他の土除け材によって覆われることが記載されている。
また、「固定位置すべて」とは、周方向におけるシールドカバー本体への固定位置すべてを意味する。
さらに、本件明細書の段落【0011】に「土除け材の周方向とは、シールドカバー本体の周方向を指し、土除け材の周方向一方側とは、作業機本体の進行方向後方側、もしくは前方側であり、周方向端部寄りの位置等、周方向の中心位置から端部までの区間のいずれかの位置を指す」との記載があり、段落【0020】に「シールドカバー本体の周方向とは、作業ロータの周方向を指す」との記載があるため、「土除け材の周方向」及び「シールドカバー本体の周方向」という記載の意味は明確である。そして、本件明細書の段落【0028】に「弾性を有する土除け材をその周方向一方側の位置でシールドカバー本体、またはシールドカバー本体とエプロンに固定する」との記載があり、段落【0041】に「図1に示すようにシールドカバー本体2とエプロン3の作業ロータ5側の面に、複数枚の土除け材4がシールドカバー本体2の周方向に配列し、固定される」との記載があることから、土除け材の配置される位置を定義する「エプロンの周方向」とは、「土除け材の周方向」及び「シールドカバー本体の周方向」と同じである。したがって、本件明細書において「エプロンの周方向」という記載の意味は明確である。
よって、請求人が主張する無効理由4には理由がない。

(証拠方法)
乙第1号証:実験結果報告書
乙第2号証の1:DVD-R(作業機1)
乙第2号証の2:DVD-R(作業機2)
乙第3号証:録画データ内容説明書

第3 本件発明
本件発明1及び本件発明2は、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
トラクタの後部に装着され、トラクタと共に走行する作業機本体に支持される作業ロータと、その上方を覆うシールドカバー本体とその進行方向後方側に連結され、前記作業ロータの後方を覆うエプロンを有するシールドカバーを備えるロータリ作業機において、
前記シールドカバー本体の前記作業ロータ側の面に、弾性を有する1枚以上の土除け材がその進行方向後方側の位置で固定され、
前記エプロンの前記作業ロータ側の面に、弾性を有する1枚以上の土除け材がその進行方向後方側の位置で固定され、
前記土除け材は前記シールドカバー本体と前記エプロンの周方向に隣接して複数枚配置され、
その隣接する2枚の土除け材の内、一方の土除け材は他方の土除け材の前記シールドカバー本体への固定位置すべてにおいて互いに重なっていることを特徴とするロータリ作業機のシールドカバー。
【請求項2】
前記隣接する2枚の土除け材の内、前記作業ロータの回転方向上流側に位置する土除け材が下流側に位置する土除け材を前記作業ロータ側から覆う状態で重なっていることを特徴とする請求項1に記載のロータリ作業機のシールドカバー。」

また、本件明細書には、以下のとおり記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明はトラクタの後部に昇降可能に装着され、作業ロータを備えるロータリ作業機において、作業ロータが跳ね上げる土砂の付着を防止する機能を有するシールドカバーに関するものである。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロータリ軸の回転に伴って爪が跳ね上げる土砂の付着先は爪(ロータリ軸)の回転の向きによって決まり、例えば爪が圃場面に対し、進行方向前方から後方へ向かって(ダウンカット)回転する場合には、爪は土砂を前方から後方へ掻き上げるため、土砂はシールドカバーの後方側に付着しようとする。シールドカバーの後方にエプロンが連結される場合にはエプロンにより多く付着し易い。
【0006】
特許文献1のようにシールドカバーの内周面に例えばゴム製の付着防止板を固定した場合、付着防止板に付着した土砂は作業機の走行中の振動によってある程度、土砂が付着した時点で、自重で落下することを期待することはできる。
【0007】
しかしながら、特許文献1では付着防止板を幅方向、すなわちシールドカバーの周方向の両側位置でシールドカバーに固定していることから(段落0017)、付着防止板自体がシールドカバーから独立して振動を起こしにくいため、効果的に土砂を落下させることは難しい。付着防止板は固定位置以外の中間部では振動することができるものの、両側が固定されている以上、振動の自由度が低いことによる。
【0008】
特に土砂は付着防止板の中では振動しない、ボルト等による固定位置に集中的に付着していく傾向があるため、固定位置では付着防止板自身による土砂の除去効果を期待することができない。
【0009】
本発明は上記背景より、付着防止板自身が付着した土砂の除去機能を有し、特に付着防止板の固定位置への土砂の付着を排除する機能を有するロータリ作業機のシールドカバーを提案するものである。」
「【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明のシールドカバーは、トラクタの後部に装着され、トラクタと共に走行する作業機本体に支持される作業ロータと、その上方を覆うシールドカバー本体とその進行方向後方側に連結され、前記作業ロータの後方を覆うエプロンを有するシールドカバーを備えるロータリ作業機において、前記シールドカバー本体の前記作業ロータ側の面に、弾性を有する1枚以上の土除け材がその進行方向後方側の位置で固定され、前記エプロンの前記作業ロータ側の面に、弾性を有する1枚以上の土除け材がその進行方向後方側の位置で固定され、前記土除け材は前記シールドカバー本体と前記エプロンの周方向に隣接して複数枚配置され、その隣接する2枚の土除け材の内、一方の土除け材は他方の土除け材の前記シールドカバー本体への固定位置において互いに重なっていることを構成要件とする。
【0011】
土除け材の周方向とは、シールドカバー本体の周方向を指し、土除け材の周方向一方側とは、作業機本体の進行方向後方側、もしくは前方側であり、周方向端部寄りの位置等、周方向の中心位置から端部までの区間のいずれかの位置を指す。エプロンに固定される土除け材の周方向一方側も作業機本体の進行方向後方側、もしくは前方側を指す。この場合、エプロンに固定される土除け材は基本的にエプロンの作業ロータ側の面に、シールドカバー本体の土除け材に重なる状態で固定される。土除け材には耐久性の面からゴムの使用が適するが、作業機本体の振動に伴って振動できる弾性を有すれば、材料は問われず、金属、合成樹脂等も使用される。
【0012】
土除け材はシールドカバー本体とエプロンにはボルトやピン等の固定具によって着脱自在に固定される。固定具は土除け材の長さ方向(シールドカバー本体の長さ方向、あるいは作業機本体の幅方向)には適度の間隔をおいて配置され、土除け材の周方向(シールドカバー本体の周方向)には基本的には1箇所配置されれば足りる。固定具は土除け材の周方向に2箇所以上配置されることもあるが、後述のように1箇所であることが土砂の付着防止上、並びに土砂の落下上、合理的である。
【0013】
土除け材のシールドカバー本体等への固定位置が作業機本体の進行方向後方側であるか、前方側であるかは、土除け材がシールドカバー本体とエプロンに合わせて複数枚固定される場合に、作業ロータを構成するロータリ軸に固定される爪の回転の向き(ダウンカット回転かアップカット回転か)によって決められる。土除け材が複数枚固定される場合には、土除け材の周方向に隣接する2枚の土除け材を互いに重なった状態で配置することができるため、重なる部分に土除け材の固定位置を配置することで、固定位置を作業ロータから覆う(被覆する)ことができることによる。
【0014】
例えば爪が圃場面に対し、進行方向前方から後方へ向かって回転(ダウンカット回転)する場合には、前記のように土砂はシールドカバーの後方側に付着しようとする。この場合には請求項2に記載のように隣接する2枚の土除け材の内、作業ロータの回転方向上流側に位置する土除け材が下流側に位置する土除け材を作業ロータ側から覆う状態で重なって配置されることで、下流側の土除け材の固定位置を上流側の土除け材が覆う状態になるため、下流側の土除け材の固定位置を上流側の土除け材で保護することが可能である。
【0015】
逆に爪が圃場面に対し、進行方向後方から前方へ向かって回転(アップカット回転)する場合には、土砂はシールドカバーの前方側に付着しようとするため、この場合にも、請求項2に記載のように作業ロータの回転方向上流側に位置する土除け材が下流側に位置する土除け材を作業ロータ側から覆う状態で重なって配置されることで、下流側の土除け材の固定位置を上流側の土除け材が覆う状態になる。
【0016】
土除け材の固定位置はそれ自身の振動によっても振動を生じない箇所であるから、付着した土砂が落下しにくく、土砂が堆積し易い。そこで、前方側の土除け材の固定位置を後方側の土除け材が覆うことで、または逆に後方側の土除け材の固定位置を前方側の土除け材が覆うことで、固定位置への土砂の付着自体を生じにくくすることができる。この結果、振動による落下を期待するまでもなく、土砂を落下させる必要がない状態を得ることが可能になる。
【0017】
土除け材がその周方向一方側の位置で固定されることで、他方の端部側が自由な状態にあるため、土除け材は固定位置を固定端部として作業ロータの半径方向に自由に振動することができる。
【0018】
土除け材がその周方向の一端で固定され、他端側が自由になることで、作業機本体の振動に起因して発生する振動時の振幅が最大限、発揮されるため、付着した土砂の落下を誘発する効果が高まり、土砂の付着と堆積を回避する効果が得られる。従って土除け材は固定位置を除き、土除け材の全周に亘って土砂の付着防止効果を発揮する。土除け材に付着した土砂は土除け材自身の振動による他、ロータリ軸の回転と共に回転する爪が掻き落とすことによっても土除け材から落下する。」
「【0020】
シールドカバー本体とエプロンを合わせて土除け材が複数枚配置されるため、シールドカバー本体に固定される土除け材は1枚でもよい。シールドカバー本体の周方向とは、作業ロータの周方向を指す。」
「【0022】
この場合、土砂が付着する領域は固定位置以外の部分に制限されるため、土砂は土除け材の固定位置以外の領域に付着することになるが、固定位置以外の部分はシールドカバー本体に拘束されていないため、土除け材は固定位置を固定端部として作業機本体の振動に伴い、作業ロータの半径方向に自由に振動することができる。このため、土除け材は前記の通り、それ自身の振動によって付着した土砂を落下させる効果を発揮するため、固定位置への付着防止効果と併せて土除け材の全周に亘って土砂の除去(排除)効果が期待される。」
「【0025】
例えば爪がダウンカット回転する場合に、ある土除け材のロータリ軸側に、その回転方向上流側に位置する土除け材が重なれば、爪は回転方向上流側に位置する土除け材から下流側に位置する土除け材に順次、接近していくから、土砂が土除け材の重なり部分から進入する事態が回避される。
【0026】
この場合、土砂はシールドカバーの後方側から付着しようとするから、相対的に上流側に位置する土除け材が下流側に位置する土除け材を覆う形で重なれば、土砂が下流側の土除け材に回り込むことを上流側の土除け材が阻止しようとするため、爪から跳ね上げられた土砂が重なり部分の土除け材間に進入する事態が回避されることになる。」
「【発明の効果】
【0028】
弾性を有する土除け材をその周方向一方側の位置でシールドカバー本体、またはシールドカバー本体とエプロンに固定することで、他方の端部側を自由な状態にするため、土除け材を、固定位置を固定端部として作業ロータの半径方向に自由に振動させることができる。
【0029】
この結果、作業機本体の振動に起因して発生する振動時の振幅が最大限、発揮されるため、付着した土砂の落下を誘発する効果が高まり、土砂の付着と堆積を防止する効果が得られる。特に土除け材の固定位置を覆うように隣接する土除け材を重ねて固定した場合には、付着した土砂が落下しにくい箇所への付着を防止することができるため、土砂の付着と堆積を有効に防止することができる。」
「【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0031】
図1はトラクタの後部に装着され、トラクタと共に走行する作業機本体10に支持される作業ロータ5とその上方を覆うシールドカバー1を備えるロータリ作業機において、シールドカバー本体2の作業ロータ5側の面に、弾性を有する1枚以上の土除け材4がその幅方向一方の端部側の位置で固定されているシールドカバー1の構成例を示す。作業機本体10はトラクタの後部に3点リンクヒッチ機構を介して昇降可能に装着される。」
「【0041】
図1に示すようにシールドカバー本体2とエプロン3の作業ロータ5側の面に、複数枚の土除け材4がシールドカバー本体2の周方向に配列し、固定される。
【0042】
土除け材4には主に数mm?10数mm程度の肉厚を持つ硬質のゴムが使用され、作業機本体10の振動に伴って自ら振動できる程度の弾性を持ち、また図1に示すようにロータリ軸6の断面上は後述のようにシールドカバー本体2への拘束のない周方向の端部寄りが自重で垂れ下がる程度の剛性を有する。土除け材4がここで言う適度の弾性と剛性を有すれば、土除け材4の材料は限定されず、プラスチック製や金属製の板も使用される。
【0043】
土除け材4はシールドカバー本体2とエプロン3にはボルトやピン等の固定具8によって交換可能に、着脱自在に固定される。固定具8は土除け材4の周方向(シールドカバー本体2の周方向)には1箇所、もしくは2箇所程度、配置される。隣接する土除け材4、4は後述のように固定具8による固定位置が進行方向後方側に、もしくは前方側に位置する土除け材4に覆われるように重なるから、ロータリ軸6の断面上は固定具8の配置数は少ない方がよく、図面では1箇所で固定している。固定具8は土除け材4の長さ方向(シールドカバー本体2の長さ(幅)方向)には適度の間隔をおいて配置される。
【0044】
爪7が土砂を進行方向後方側へ掻き上げるように回転する場合には、図示するように後方側の土除け材4が前方側の土除け材4を覆うように固定され、逆向きに回転する場合には、前方側の土除け材4が後方側の土除け材4を覆うように固定される。
【0045】
図1ではエプロン3を除くシールドカバー本体2に対して3枚の土除け材4を重ねて固定しているが、エプロン3にも土除け材4が固定される、その土除け材4とシールドカバー本体2の土除け材4を重ねることができるため、シールドカバー本体2には少なくとも1枚の土除け材4が固定されれば足りる。シールドカバー本体2には4枚以上の土除け材4が固定される場合もある。
【0046】
複数枚の土除け材4は、隣接する2枚の土除け材4、4がシールドカバー本体2の周方向に一部において互いに重なり合いながら、シールドカバー本体2とエプロン3に固定される。シールドカバー本体2の周方向に隣接する土除け材4、4の重なり方は爪7の回転の向きによって決まる。
【0047】
例えば爪7が圃場面に対し、進行方向前方から後方へ向かって土砂を蹴るように回転するダウンカット回転する場合には、隣接する土除け材4、4間への土砂の進入を防止する観点から、後方側に位置する土除け材4が前方側に位置する土除け材4をロータリ軸6側から重なるように隣接する土除け材4、4が配置される。爪7が逆向きに、すなわち爪7が進行方向後方から前方へ向かって土砂を跳ね上げるようにアップカット回転する場合には、進行方向前方側に位置する土除け材4が後方側に位置する土除け材4をロータリ軸6側から重なるように配置される。
【0048】
図示するように爪7が進行方向後方へ向かって土砂を蹴るようにダウンカット回転する場合には、互いに重なる2枚の土除け材4、4の内、相対的にトラクタの進行方向前方側に位置する土除け材4はその重なり部分においてシールドカバー本体2に固定され、その土除け材4の固定位置(固定具8)は進行方向後方側に位置する土除け材4に覆われ、ロータリ軸6側から隠蔽される。
【0049】
この場合、進行方向後方側に位置する土除け材4は前方側に位置する土除け材4の固定位置を覆いつつ、その土除け材4にロータリ軸6側から重なってシールドカバー本体2に固定される。エプロン3に固定される土除け材4はシールドカバー本体2の最も後方側に位置する土除け材4の固定位置を覆いつつ、その土除け材4にロータリ軸6側から重なる。各土除け材4のシールドカバー本体2への固定作業は、トラクタの進行方向前方側に位置する土除け材4から後方側に隣接する土除け材4へかけて順次、シールドカバー本体2に固定していく、という手順で行われる。
【0050】
爪7が進行方向後方へ向かってダウンカット回転する場合、進行方向前方側に位置する土除け材4は後方側に位置する土除け材4に覆われ、シールドカバー本体2には後方側の土除け材4に覆われる位置で固定されるから、シールドカバー本体2への固定位置は土除け材4の周方向に対し、進行方向後方側になる。
【0051】
シールドカバー本体2への固定位置が土除け材4の周方向後方側であることで、土除け材4の前方側の端部から固定位置までの区間は拘束がないため、土除け材4の前方側の端部寄りの部分は自重で垂れ下がった状態になる。土除け材4の前方側端部から固定位置までの区間が自由であることで、この区間は作業機本体10の振動に伴って自由な振動が生じ、土除け材4は自身の振動によって付着している土砂を落下させる機能を有する。」

第4 訂正請求について
被請求人は、審決の予告があった後、本件特許について、平成27年2月17日に訂正請求書(当該訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)を提出している。
本件訂正後の請求項1及び2に係る発明は、上記訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである(下線は当審にて特定した訂正箇所を示す。)。

「【請求項1】
トラクタの後部に装着され、トラクタと共に走行する作業機本体に支持される作業ロータと、その上方を覆うシールドカバー本体とその進行方向後方側に連結され、前記作業ロータの後方を覆うエプロンを有するシールドカバーを備えるロータリ作業機において、
その進行方向後方側の位置で固定され、その進行方向前方側の端部から前記後方側の位置までの区間が自由な状態であり、前記端部寄りの部分が自重で垂れ下がる、弾性を有する土除け材が、前記シールドカバー本体の前記作業ロータ側の面に2枚以上固定されるとともに、前記エプロンの前記作業ロータ側の面に1枚以上固定され、
前記土除け材は前記シールドカバー本体と前記エプロンの周方向に隣接して複数枚配置され、
前記土除け材の内、前記シールドカバー本体に固定された各土除け材の固定位置すべてが、隣接する他の土除け材と互いに重なっていることを特徴とするロータリ作業機のシールドカバー。
【請求項2】
前記土除け材の内、前記作業ロータの回転方向上流側に位置する土除け材が、前記シールドカバー本体に固定された下流側に位置する土除け材を前記作業ロータ側から覆う状態で重なっていることを特徴とする請求項1に記載のロータリ作業機のシールドカバー。」

そこで、本件訂正の適否について検討する。

1 訂正内容
本件訂正は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-2について訂正することを求めるものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記シールドカバー本体の前記作業ロータ側の面に、弾性を有する1枚以上の土除け材がその進行方向後方側の位置で固定され、前記エプロンの前記作業ロータ側の面に、弾性を有する1枚以上の土除け材がその進行方向後方側の位置で固定され、」とあるのを、「その進行方向後方側の位置で固定され、その進行方向前方側の端部から前記後方側の位置までの区間が自由な状態であり、前記端部寄りの部分が自重で垂れ下がる、弾性を有する土除け材が、前記シールドカバー本体の前記作業ロータ側の面に2枚以上固定されるとともに、前記エプロンの前記作業ロータ側の面に1枚以上固定され、」と訂正するものであって、訂正事項1として、そのうちの「弾性を有する」「土除け材がその進行方向後方側の位置で固定され」ることについて、「その進行方向後方側の位置で固定され、その進行方向前方側の端部から前記後方側の位置までの区間が自由な状態であり、前記端部寄りの部分が自重で垂れ下がる、弾性を有する土除け材」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記シールドカバー本体の前記作業ロータ側の面に、弾性を有する1枚以上の土除け材がその進行方向後方側の位置で固定され、前記エプロンの前記作業ロータ側の面に、弾性を有する1枚以上の土除け材がその進行方向後方側の位置で固定され」とあるのを、「その進行方向後方側の位置で固定され、その進行方向前方側の端部から前記後方側の位置までの区間が自由な状態であり、前記端部寄りの部分が自重で垂れ下がる、弾性を有する土除け材が、前記シールドカバー本体の前記作業ロータ側の面に2枚以上固定されるとともに、前記エプロンの前記作業ロータ側の面に1枚以上固定され、」と訂正するものであって、訂正事項2として、そのうちの(訂正事項1を除く)土除け材の固定箇所及び枚数に係る事項について、「前記シールドカバー本体の前記作業ロータ側の面に2枚以固定されるとともに、前記エプロンの前記作業ロータ側の面にl枚以上固定され」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「その隣接する2枚の土除け材の内、一方の土除け材は他方の土除け材の前記シールドカバー本体への固定位置すべてにおいて互いに重なっている」とあるのを、「前記土除け材の内、前記シールドカバー本体に固定された各土除け材の固定位置すべてが、隣接する他の土除け材と互いに重なっている」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「前記隣接する2枚の土除け材の内、前記作業ロータの回転方向上流側に位置する土除け材が下流側に位置する土除け材を前記作業ロータ側から覆う状態で重なっている」とあるのを、「前記土除け材の内、前記作業ロータの回転方向上流側に位置する土除け材が、前記シールドカバー本体に固定された下流側に位置する土除け材を前記作業ロータ側から覆う状態で重なっている」に訂正する。

(5)訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0010】に記載された「請求項1に記載の発明のシールドカバー」とあるのを、「本発明のシールドカバー」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否について
上記訂正事項1は、「土除け材」について、「弾性を有する」こと及び「その進行方向後方側の位置で固定され」ることに加えて、「その進行方向前方側の端部から前記後方側の位置までの区間が自由な状態であり、前記端部寄りの部分が自重で垂れ下がる」ことを特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としているといえる。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項1は、訂正前に特定されていた「土除け材」についてより具体的に特定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
「その進行方向後方側の位置で固定され、その進行方向前方側の端部から前記後方側の位置までの区間が自由な状態であり、前記端部寄りの部分が自重で垂れ下がる、弾性を有する土除け材」については、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
すなわち、上記第3で摘記したように、本件明細書(願書に添付した明細書)には、「図1に示すようにシールドカバー本体2とエプロン3の作業ロータ5側の面に、複数枚の土除け材4がシールドカバー本体2の周方向に配列し、固定される。」(段落【0041】)、「土除け材4には主に数mm?10数mm程度の肉厚を持つ硬質のゴムが使用され、作業機本体10の振動に伴って自ら振動できる程度の弾性を持ち、また図1に示すようにロータリ軸6の断面上は後述のようにシールドカバー本体2への拘束のない周方向の端部寄りが自重で垂れ下がる程度の剛性を有する。土除け材4がここで言う適度の弾性と剛性を有すれば、土除け材4の材料は限定されず、プラスチック製や金属製の板も使用される。」(同【0042】)、「シールドカバー本体2への固定位置が土除け材4の周方向後方側であることで、土除け材4の前方側の端部から固定位置までの区間は拘束がないため、土除け材4の前方側の端部寄りの部分は自重で垂れ下がった状態になる。土除け材4の前方側端部から固定位置までの区間が自由であることで、この区間は作業機本体10の振動に伴って自由な振動が生じ、土除け材4は自身の振動によって付着している土砂を落下させる機能を有する。」(同【0051】)との記載があり、また、図1には、土除け材4の前方側端部寄りが垂れ下がることが図示されているといえるので、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否について
上記訂正事項2は、シールドカバー本体の作業ロータ側の面に固定される「土除け材」の枚数を、「1枚以上」から「2枚以上」と訂正して、枚数を限定するものであるといえるので、特許請求の範囲の減縮を目的としているといえる。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項2は、訂正前に特定されていた「土除け材」についてより具体的に特定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
土除け材が「前記エプロンの前記作業ロータ側の面にl枚以上固定され」ることについては、訂正前に「前記エプロンの前記作業ロータ側の面に、弾性を有する1枚以上の土除け材がその進行方向後方側の位置で固定され」と記載されており、また、土除け材が「前記シールドカバー本体の前記作業ロータ側の面に2枚以上固定される」ことについては、上記第3で摘記した本件明細書(願書に添付した明細書)に、「図1ではエプロン3を除くシールドカバー本体2に対して3枚の土除け材4を重ねて固定している……(略)……シールドカバー本体2には4枚以上の土除け材4が固定される場合もある。」(段落【0045】)と記載されているので、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否について
上記訂正事項3は、土除け材が相互に重なる構成について、訂正前に「その隣接する2枚の土除け材の内、一方の土除け材は他方の土除け材の前記シールドカバー本体への固定位置すべてにおいて互いに重なっている」と特定されていたのを、訂正後では、「前記土除け材の内、前記シールドカバー本体に固定された各土除け材の固定位置すべてが、隣接する他の土除け材と互いに重なっている」と、土除け材の内、隣接する他の土除け材と互いに重なる部分を、「前記シールドカバー本体に固定された各土除け材の固定位置すべて」と特定することで、土除け材が相互に重なる構成をより明瞭にしたもので、明瞭でない記載の釈明を目的としたものといえる。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項3は、土除け材が相互に重なる構成をより明瞭にしたものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
「前記土除け材の内、前記シールドカバー本体に固定された各土除け材の固定位置すべてが、隣接する他の土除け材と互いに重なっている」ことについては、上記第3で摘記した本件明細書(願書に添付した明細書)に、「図示するように爪7が進行方向後方へ向かって土砂を蹴るようにダウンカット回転する場合には、互いに重なる2枚の土除け材4、4の内、相対的にトラクタの進行方向前方側に位置する土除け材4はその重なり部分においてシールドカバー本体2に固定され、その土除け材4の固定位置(固定具8)は進行方向後方側に位置する土除け材4に覆われ、ロータリ軸6側から隠蔽される。」(段落【0048】)、「この場合、進行方向後方側に位置する土除け材4は前方側に位置する土除け材4の固定位置を覆いつつ、その土除け材4にロータリ軸6側から重なってシールドカバー本体2に固定される。エプロン3に固定される土除け材4はシールドカバー本体2の最も後方側に位置する土除け材4の固定位置を覆いつつ、その土除け材4にロータリ軸6側から重なる。各土除け材4のシールドカバー本体2への固定作業は、トラクタの進行方向前方側に位置する土除け材4から後方側に隣接する土除け材4へかけて順次、シールドカバー本体2に固定していく、という手順で行われる。」(同【0049】)と記載されているので、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否について
上記訂正事項4は、請求項2における土除け材が相互に重なる構成について、訂正前の「前記隣接する2枚の土除け材の内、前記作業ロータの回転方向上流側に位置する土除け材が下流側に位置する土除け材を前記作業ロータ側から覆う状態で重なっている」ことを、訂正後の「前記土除け材の内、前記作業ロータの回転方向上流側に位置する土除け材が、前記シールドカバー本体に固定された下流側に位置する土除け材を前記作業ロータ側から覆う状態で重なっている」こととして、土除け材が相互に重なる構成をより明瞭にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものといえる。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項4は、土除け材が相互に重なる構成をより明瞭にしたものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
「前記土除け材の内、前記作業ロータの回転方向上流側に位置する土除け材が、前記シールドカバー本体に固定された下流側に位置する土除け材を前記作業ロータ側から覆う状態で重なっている」ことについては、上記第3で摘記した本件明細書(願書に添付した明細書)に、「例えば爪がダウンカット回転する場合に、ある土除け材のロータリ軸側に、その回転方向上流側に位置する土除け材が重なれば、爪は回転方向上流側に位置する土除け材から下流側に位置する土除け材に順次、接近していくから、土砂が土除け材の重なり部分から進入する事態が回避される。」(段落【0025】)、「この場合、土砂はシールドカバーの後方側から付着しようとするから、相対的に上流側に位置する土除け材が下流側に位置する土除け材を覆う形で重なれば、土砂が下流側の土除け材に回り込むことを上流側の土除け材が阻止しようとするため、爪から跳ね上げられた土砂が重なり部分の土除け材間に進入する事態が回避されることになる。」(同【0026】)と記載されているので、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

(5)訂正事項5
上記訂正事項5は、明細書の段落【0010】の「請求項1に記載の発明のシールドカバー」を「本発明のシールドカバー」に訂正するもので、訂正事項1?4に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載を整合させるための訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き各号に掲げるいずれかの事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、結論のとおり、本件訂正を認める。

第5 無効理由1の検討
1 本件発明について
上記のとおり、本件訂正を認めるので、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、上記第4において本件訂正後の請求項1及び2に係る発明(以下「本件訂正発明1」及び「本件訂正発明2」という。)として示したとおりのものである。

2 甲第1号証について
(1)甲第1号証に記載された事項
請求人が無効理由1に係る証拠として提出した、本件出願の原出願の出願日前に頒布された甲第1号証には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「2.実用新案登緑請求の範囲
(1)横軸回りに回転駆動される耕耘爪10を有するロータリ耕耘部6と、このロータリ耕耘部6の上方を覆うロータリカバー11とが備えられたロータリ耕耘機において、
前記ロータリカバー11の下面に、このカバー11に土が付着するのを防止する土付着防止部材20が設けられ、この土付着防止部材20は、付着した土の重量によりその土が耕耘爪10よってかき落される位置まで下降可能、且つ、土がかき落されると上方に復元可能にロ?タリカバー11に取付けられていることを特徴とするロータリ耕耘機。」(明細書第1頁第4?16行)

イ 「(産業上の利用分野)
本考案は、ロータリ耕耘機に関する。
(従来の技術)
ロータリ耕耘機は、横軸回りに回転駆動される耕耘爪を有するロータリ耕耘部と、このロ?タリ耕耘部の上方を覆うロータリカバーとが備えられている。
(考案が解決しようとする課題)
ところが上記のものは、耕耘作業中に、土がロータリカバーの下面に付着し易く、カバーに土が付着すると耕耘効率が低下するという問題が生じたり耕耘後付着した土を落とすのが面倒であった。
本考案は、上記課題に鑑み、ロータリカバー側に土が付着するのを防止することを目的とする。
(課題を解決するための手段)
本考案が上記目的を達成するために講じた技術的手段は次の通りである。
横軸回りに回転駆動される耕耘爪10を有するロータリ耕耘部6と、このロ?タリ耕耘部6の上方を覆うロータリカバ-11とが備えられたロ?タリ耕耘機において、前記ロータリカバー11の下面に、このカバー11に土が付着するのを防止する土付着防止部材20が設けられ、この土付着防止部材20は、付着した土の重量によりその土が耕耘爪10によってかき落される位置まで下降可能、且つ、土がかき落されると上方に復元可能にロータリカバー11に取付けられている点にある。
(作用)
耕耘作業時に、土がロータリカバー11に設けられた土付着防止部材20に付着すると、土付着防止部材20は付着した土の重量で下降し回転している耕耘爪10に土がかき落される。
土がかき落された後に、土付着防止部材20は上昇し耕耘爪10の回転軌跡よりも上方のもとの位置に復元する。」(明細書第1頁第18行?第3頁第13行)

ウ 「(実施例)
本考案の実施例を図面を参照して詳述する。
第1図?第3図は本考案の実施例を示し、同図において1はロータリ耕耘機を示し、2はロータリ機枠で、このロ一タリ機枠2はトップリンク3及び左右一対のロアリンク4を介して図外のトラクタに装着されている。
ロータリ機枠2はギヤケース23と、このケース23両側から左右に突設された一対のサポートアーム24と、各アーム24外側端から下設されたチェンケース5、及びサイドプレート7等から成る。
6はロータリ耕耘部で、チェーンケース5とサイドフレーム7とに回転自在に支持された爪軸8に、多数の耕耘爪10を設けて構成され、耕耘爪10は矢印A方向に回転駆動される。
11はロータリカバーで、耕耘部6が上方を覆う主カバー12と、この主カバー12の前方に位置する前補助カバー12aと、主カバー12の後部に枢支連結された後部カバー13と、側部カバー14とを有しいる。15は後部カバー13に連結された均平圧調整機構、16はゲージ支持枠、17はゲージ輪である。
20は主カバー12に土が付着するのを防止する土付着防止部材で、帯板状のゴム材料から成り、主カバー12の下面に設けられている。この土付着防止部材20はその長手方向が主カバー12の略全幅に亘って配設され、且つ、耕耘爪10の回転方向Aの後方側の一方が複数のボルト21で主カバー12の下面に当て板22を介して取付けられている。また、この部材20の他方は自由端とされ、全体として上下方向に弾性変形自在に円弧状に保持されている。そして、この土付着防止部材20は主カバー12の前後方向に多数設けられ且つこれらは互いに平行に配置されている。また、これら土付着防止部材20は主カバー12の下面全域とボルト21を覆うように、前記各ボルト21の前後方向の間隔は、土付着防止部材20の前後方向の長さよりも小さくされている。
以上において、耕耘作業時に耕耘爪10の矢印A方向への回転耕耘により土が土付着防止部材20に付着した場合、その重量により土付着防止部材20の自由端側が弾性力に抗して下降し、付着した土は耕耘爪10にかき落される。
なお、上記実施例では、土付着防止部材20は耕耘爪10の回転方向Aの後方側のー方が取付けられ、他方が自由端とされているので、耕耘爪10と主カバー12との間を主カバー12前方から後方に流れる土の流れが悪くなったり、主カバー12と土付着防止部材20との間に土が溜ったりしない。
土がかき落された後に、土付着防止部材20は弾性力でもとの位置に復元する。
尚、本考案は上記の実施例に限定されるものではなく、上記と反対方向に耕耘爪10の回転するロータリ耕耘機にも前記土付着防止部材20を設けることができ、この場合も、土付着防止部材20の取付側と自由端側との耕耘爪回転方向に対する関係は上記実施例と同様とするのが好ましい。」(明細書第3頁第14行?第6頁第8行)

エ 「(考案の効果)
本考案によれば、ロータリカバー11の下面に、このカバー11に土が付着するのを防止する土付着防止部材20が設けられ、この土付着防止部材20は、付着した土の重量によりその土が耕耘爪10によってかき落される位置まで下降可能、且つ、土がかき落されると上方に復元可能にロータリカバー11に取付けられているので、耕耘作業中に土が土付着防止部材20に付着した場合、この土を耕耘爪10でかき取ることができる。」(明細書第6頁第9?18行)

オ 「(他の技術の開示)
ロータリカバー11に土が付着するのを防止する装置として、第4図及び第5図に示すものと、第6図と第8図に示すものとがある。
……
第6図及び第7図において、主カバー12は平面視矩形状の鉄製の枠体34と、可とう性を有するシート部材20bとから主構成されており、枠体34は前後一対の横フレーム35とこの横フレーム35を連結する複数の連結フレーム36とからなる。シート部材20bは平面視矩形状を呈し、その下面または上下両面がテフロン加工されている。このシート部材20bの前後方向の両縁部は袋部38が設けられており、各袋部38に板バネ材39が左右方向に挿通されている。40は両袋部39に両端が挿通された板バネ材である。42はシート状の保持部材で、シート部材20bに前後方向両縁が開口する袋状に取付けられており、前記板バネ材38が挿通されている。
そして、前記枠体34の連結フレーム36の前後方向両端には、係合フック41が一体に形成されており、この係合フック41を介して枠体34にシート部材20bが横方向から挿通されることで、枠休34にシート部材20bが着脱自在に係合されている。尚、後部カバーl3も第8図に示すように前記主カバー12と同様に構成されている。」(明細書第6頁第19行?第9頁第1行)

カ また、第1図の断面側面図には、複数の土付着防止部材20が主カバー12のロータリ耕耘部6側の面に、進行方向前方側(矢印A方向上流側)の位置でボルト21によって固定され、固定されていない側は自由端となっているとともに、隣接する他の土付着防止部材20の固定部を覆っている構成がみてとれる。第1図からは、土付着防止部材20が、その固定部を除いて自由な状態であって、自由端側の端部寄りの部分が垂れ下がっていることもみてとれる。第2図についても上記同様である。
さらに、第6図の断面側面図には、シート部材20bが、主カバー12のロータリ耕耘部6側の面とともに、後部カバー13のロータリ耕耘部6側の面にも設けられている構成がみてとれる。

(2)甲第1号証に記載の発明
ア 甲第1号証には、上記(1)ウの記載事項並びに第1及び2図からみて、ロータリ耕耘部6の耕耘爪10は矢印A方向に回転駆動されるものであるから、複数の土付着防止部材20が主カバー12のロータリ耕耘部6側の面に、ロータリ回転方向上流側の位置でボルト21によって固定され、固定されていない側は自由端となっているとともに、隣接する他の土付着防止部材20の固定部を覆っている構成が開示されていると認められる。このような構成であるから、隣接する2枚の土付着防止部材20の内、一方の土付着防止部材20は、他方の土付着防止部材20の主カバー12への固定位置すべてにおいて、他方の土付着防止部材20と互いに重なっているといえる。
イ ところで、甲第1号証には、上記(1)ウのとおり、「本考案は上記の実施例に限定されるものではなく、上記と反対方向に耕耘爪10の回転するロータリ耕耘機にも前記土付着防止部材20を設けることができ、この場合も、土付着防止部材20の取付側と自由端側との耕耘爪回転方向に対する関係は上記実施例と同様とするのが好ましい。」と記載されているから、ロータリ耕耘部6の耕耘爪10が矢印A方向とは反対方向に回転駆動される場合にも、複数の土付着防止部材20がロータリ回転方向上流側の位置で、すなわち進行方向後方側で、ボルト21によって固定され、固定されていない側は自由端となっているとともに、隣接する他の土付着防止部材20の固定部を覆っている構成も開示されていると認められる。そして、そのような構成では、土付着防止部材20の内、固定位置のある進行方向後方側に隣接する土付着防止部材20が存在しない土付着防止部材20を除いて、言い換えると、進行方向において最も後方側の土付着防止部材20を除いて、主カバー12に固定された各土付着防止部材20の固定位置すべてが、隣接する他の土付着防止部材20と互いに重なっているといえる。
ウ また、甲第1号証には、上記(1)ウで摘記したように、「20は主カバー12に土が付着するのを防止する土付着防止部材で、帯板状のゴム材料から成り、主カバー12の下面に設けられている。この土付着防止部材20はその長手方向が主カバー12の略全幅に亘って配設され、且つ、耕耘爪10の回転方向Aの後方側の一方が複数のボルト21で主カバー12の下面に当て板22を介して取付けられている。また、この部材20の他方は自由端とされ、全体として上下方向に弾性変形自在に円弧状に保持されている。」と記載されているように、土付着防止部材20が帯板状のゴム材料から成るとともに、全体として上下方向に弾性変形自在であることが記載されているとともに、第1図には、上記したように、土付着防止部材20が、その固定部を除いて自由な状態であって、自由端側の端部寄りの部分が垂れ下がっていることが図示されているといえる。さらに、土付着防止部材20は、帯板状のゴム材料から成るので、自由端側の端部寄りの部分が垂れ下がるのは、それ自体の自重によるものと解される。以上のことから、甲第1号証に記載されている土付着防止部材20は、自由端(ロータリ耕耘部6の耕耘爪10が矢印A方向とは反対方向に回転駆動される場合には、進行方向前方側の端部)から固定部(ロータリ耕耘部6の耕耘爪10が矢印A方向とは反対方向に回転駆動される場合には、進行方向後方側の位置で固定される)までの区間が自由な状態であり、自由端(端部)寄りの部分が自重で垂れ下がるものと認められる。
エ そうすると、甲第1号証には、上記(1)に記載された事項及び図示内容からみて、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「トラクタの後部に装着され、トラクタと共に走行するロータリ機枠2に支持されるロータリ耕耘部6と、その上方を覆う主カバー12とその進行方向後方側に連結され、ロータリ耕耘部6の後方を覆う後部カバー13を有するロータリカバー11を備えるロータリ耕耘機1において、
主カバー12のロータリ耕耘部6側の面に、弾性を有する土付着防止部材20が、その進行方向後方側の位置で複数枚固定され、
前記土付着防止部材20は、進行方向前方側の端部から前記後方側の位置までの区間が自由な状態であり、前記端部寄りの部分が自重で垂れ下がるもので、
前記土付着防止部材20は、主カバー12の周方向に隣接して複数枚配置され、
前記土付着防止部材20の内、固定位置のある進行方向後方側に隣接する土付着防止部材20が存在しない土付着防止部材20を除いて(言い換えると、進行方向において最も後方側の土付着防止部材20を除いて)、主カバー12に固定された各土付着防止部材20の固定位置すべてが、隣接する他の土付着防止部材20と互いに重なっているロータリ耕耘機1のロータリカバー11。」

3 甲第2号証について
(1)請求人が無効理由1に係る証拠として提出した、本件出願の原出願の出願日前に頒布された甲第2号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、耕耘作業時に飛散した土が、ロータリのカバーに付着しないようにするための土付着防止装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図6は従来の土付着防止装置を示し、ロータリのメインカバー1の裏面及びリヤカバー2の裏面に座3,3…を固設し、カバーから一定の間隔を有して、土付着防止部材4及び5をボルト6,6…により固着してある。土付着防止部材4及び5の材質は一般にゴム等の弾性部材が使用され、この弾性を利用して土の付着を防止している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来は、メインカバー1及びリヤカバー2の裏面に夫々座3,3…を設けていたので、部品点数が多く構造が複雑となっていた。そして、ボルト6,6…の頭部が突出しているため、そこから土の付着が始まり易く、而も突出したボルト6,6…が邪魔になって清掃がやりにくいという問題があった。
【0004】
また、メインカバー1に固着した土付着防止部材4は自重で垂れ下がり易く、然るときは飛散した土の流れが悪くなり、メインカバー1とロータリ(図示せず)との間に土が詰り易くなる。更に、リヤカバー2の枢着部分では、双方の土付着防止部材4と5との接合部に間隙が生じ、ここに土が溜り易くなっている。そこで、耕耘作業時に飛散した土がロータリのカバーに付着しないようにするとともに、土付着防止装置の構成を簡素化するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、ロータリのメインカバーの裏面に低摩擦係数の部材を密接して取り付けるとともに、ロータリのリヤカバーの裏面に一定の間隔を有して弾性部材を取り付け、前記低摩擦係数の部材と弾性部材の接合部を重ね合わせた土付着防止装置を提供するものである。
【0006】
【作用】
ロータリのメインカバーに取り付けた部材は低摩擦係数であるため、弾性を利用しないで土の付着を防止できる。また、メインカバーに密接しているので、メインカバーとロータリとの間隙部に余裕が生じ、ロータリの伝動系の構成部品を小型化できる。更に、メインカバーに取り付けた低摩擦係数の部材と、リヤカバーに取り付けた弾性部材との接合部を重ね合わせてあるため、飛散した土が接合部に溜ることがなくなる。」

イ 「【0007】
【実施例】
以下、本発明の一実施例を図1乃至図5に従って詳述する。図1はロータリカバーを示したものであり、ロータリ11の上方にメインカバー12が設けられ、その後端部にリヤカバー13の上端を枢着する。前記メインカバー12の裏面(ロータリ11がある側)には、低摩擦係数の部材14を密接して取り付ける。上記部材14は表面摩擦抵抗の少ない樹脂、例えば超高分子量ポリエチレン等の平板を使用する。
【0008】
図2はメインカバー12の前端部を示し、メインカバー12の左右幅と略同寸法のステー15を固設し、該ステー15に段付きのプレート16をボルト17,17…により着脱自在に設ける。図3はメインカバー12の後端部を示し、補強板18を介してブラケット19が固設され、このブラケット19に設けた軸20にリヤカバー13の上端を枢着してある。更に、補強板18とブラケット19の接合部近傍に、メインカバー12の幅と略同寸法の段付きのプレート21を固着する。
【0009】
而して、前記低摩擦係数の部材14を取り付けるに当っては、先ず上記部材14の後端部14aを、図3に示した後部のプレート21の間隙部へ挿入する。次に、上記部材14をメインカバー12の形状に沿って湾曲させ、メインカバー12の裏面に密接する。そして、上記部材14の前端部14bを図2に示した前部のプレート16で挟持し、ボルト17,17…を緊締してプレート16をステー15へ固着する。
……
【0012】
一方、図1及び図3に示すように、リヤカバー13の裏面(ロータリ11がある側)に一定の間隔を有して弾性部材23を取り付ける。上記弾性部材23は、ゴム等の弾力に富んだ材質を使用し、前記低摩擦係数の部材14より厚い平板を使用する。リヤカバー13の裏面の所々には中空円筒状の座24,24…を固設してあり、夫々の座24,24…の中心位置に螺子部25,25…を設ける。
【0013】
而して、前記弾性部材23を座24,24…へ当接すれば、リヤカバー13と弾性部材23との間に一定の間隔Dが生じる。そして、弾性部材23が座24,24…へ当接する部位に、予め取付孔26,26…を開穿しておき、夫々の取付孔26,26…へ鍔部27aを備えた固定具27,27…を嵌入し、該固定具27,27…へボルト28,28…を挿入して螺子部25,25…へ締結する。
【0014】
従って、上記弾性部材23は、取付孔26の周囲を座24と固定具の鍔部27aとで挟持され、リヤカバー13に対して一定の間隔を有して取り付けられる。……
【0015】
また、メインカバー12へ取り付けた低摩擦係数の部材14の後端部14aと、リヤカバー13に取り付けた弾性部材23の前端部23aは夫々メインカバー12の補強板18及びブラケット19に密着しており、リヤカバー13が上方へ回動したときであっても飛散した土が入り込むことがない。尚、図3に示した弾性部材の前端部23aを更に前方へ延設し、前記低摩擦係数の部材14と重ね合わせた状態にしてもよい。然るときは、図1に於いてロータリ11は反時計方向へ回転するため、飛散した土の侵入がより一層防止できる。
【0016】
而して、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。」

ウ 「【0017】
【発明の効果】
本発明は上記一実施例に詳述したように、メインカバーとリヤカバーとで異なる材質の部材を取り付けたことにより、飛散した土の付着を防止でき、清掃も極めて容易となる。また、構成が簡素化され、各部材の着脱作業を簡便に行える。」

エ また、図3の断面図には、リヤカバー13に設けられた弾性部材23の前端部23aが、前方へ延出され、低摩擦係数の部材14の後端部14aのプレート21による固定部を覆っていることがみてとれる。図3からは、弾性部材23が、座24と固定具27で挟持される固定部を除いて前方側が自由な状態であることもみてとれる。

(2)甲第2号証には、上記(1)に記載された事項及び図示内容からみて、次の事項が記載されていると認められる。

「リヤカバー13のロータリー11側の面に、弾性を有する弾性部材23が、その進行方向後方側の位置で固定されるとともに、固定部を除いて前方側が自由な状態であり、その弾性部材23が、メインカバー12の補強板18に対する低摩擦係数の部材14の固定位置において、その低摩擦係数の部材14と互いに重なっていること。」

4 甲第3号証について
(1)請求人が無効理由1に係る証拠として提出した、本件出願の原出願の出願日前に頒布された甲第3号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、ロータリ耕耘具のリヤーカバー内張り固定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】耕耘時の泥土付着防止として、ロータリ耕耘具のリヤーカバー内面にゴム板を張り付けて、ゴムの弾性変形により泥土を振り落すものは、特開平4-304801号公報や特開平4-335801号公報で示すように、思想的には従来から公知である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】このような公知のものは、ゴム板にボルトやネジやピン等の止め具を貫通するための取付孔を開口し、平面状の取付面部にゴム板をボルトやピン等の止め具と座金等を介して略平面状態で取り付けていた。平面状態で取り付けたゴム板は、耕耘掘削した飛散泥土がゴム板に叩き付けられてゴム板が振動すると、ゴム板に開口した取付孔が伸びて止め具からゴム板が外れやすくなっており、これを防ぐため大きな座金が必要であった。
【0004】また、従来のものは、この座金がゴム板表面より泥土付着側に突出しているため、この座金を核として泥土の付着が進行しやすく、止め具の数を増やすとリヤーカバー内面の付着泥土が増加し、リヤーカバー内面の土落し掃除が大変であった。また、人手によって土落し掃除をする場合、土落しのためのヘラや鎌等がゴム板表面より泥土付着側に突出している座金に当って、作業の邪魔になったり、手首を痛めたりする不具合を生じていた。」

イ 「【0007】農用トラクターのPTO軸からの駆動力は、伝動ケース9上部の入力軸8を経て下部の耕耘軸10に達する。耕耘軸10には複数の耕耘爪11,11....が取り付けられ、耕耘軸10は矢印「イ」方向に回転している。一定軌跡で回転する耕耘爪11上方には、所定距離離して主カバー12が配設され、主カバー12の後方にはリヤーカバー1が軸13廻りに上下揺動自在と成っている。14は均平圧調整手段であって、バネ位置を調節したロッドを介してリヤーカバー1の揺動範囲と加圧力を調節する。
【0008】薄鉄板から成る主カバー12の内面には樹脂板15が、取付面板16に対し略密着状で、耕耘爪11の回転軌跡から略一定間隙(5から6cm程度)を有して取り付けられ、耕耘時の持ち回りする掘削泥土は樹脂板15の接線方向である表面に沿って流れる。この樹脂板15は高分子材から成り、泥土の付着に対し鉄板よりも剥離性が強く向上し、錆び付きが無いので安定した性能を発揮する。
【0009】主カバー12後方のリヤーカバー1も薄鉄板から成っており、このリヤーカバー1の鉄板面に対し2から3cmの間隙を開けた内面側に、ゴム板3から成る弾性体を取り付けている。……」

ウ 「【0015】リヤーカバー1内面には、このリヤーカバー1の雌ネジ17の対応位置に取付け用の開口19,19....を有する長方形のゴム板3を臨ませ、前述したように止め具2,2..でリヤーカバー1の鎮圧面24部を避けて取り付ける。ゴム板3は、取付け前の状態は平板であって、止め具2で締め付けてリヤーカバー1と間隙を有して取り付けることにより、掘削泥土の矢印「ハ」方向の衝突による泥土付着を振動により防止するものであり、ゴム板3の前端部31は主カバー12に密着取り付けた樹脂板15の後縁を覆うように重合している。」

エ また、図1の要部側面図には、リヤーカバー1の内面側に設けられたゴム板3から成る弾性体の前端部31が主カバー12に取り付けた樹脂板15に当接し、その後縁を覆っていることがみてとれる。図1からは、ゴム板3から成る弾性体が、止め具2による固定部を除いて前端部31側が自由な状態であることもみてとれる。

(2)甲第3号証には、上記(1)に記載された事項及び図示内容からみて、次の事項が記載されていると認められる。

「リヤーカバー1の耕耘爪11側の面に、ゴム板3から成る弾性体が、その進行方向後方側の位置で固定されるとともに、固定部を除いて前方側が自由な状態であり、その弾性体が、主カバー12に取り付けた樹脂板15の後縁と互いに重なっていること。」

5 本件訂正発明1について
(1)本件訂正発明1と甲1発明との対比
特許請求の範囲の請求項1の記載は、後述するように明確であるから、本件特許の請求項1に係る発明(本件訂正発明1)は、上記第4で記載したとおり、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものである。
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ロータリ耕耘機1」は、その構造及び機能からみて、本件訂正発明1の「ロータリ作業機」に相当し、同様に、「ロータリカバー11」は「シールドカバー」に、「ロータリ機枠2」は「作業機本体」に、「ロータリ耕耘部6」は「作業ロータ」、「主カバー12」は「シールドカバー本体」に、「後部カバー13」は「エプロン」に、「弾性を有する土付着防止部材20」は「弾性を有する土除け材」に、「複数枚」は「2枚以上」に、それぞれ相当する。
また、本件訂正発明1と甲1発明とは、それらの構成要素が上記のとおりに対応することを踏まえると、ともに、シールドカバー本体に固定された土除け材における隣接する2枚の土除け材の内、一方の土除け材は他方の土除け材のシールドカバー本体への固定位置すべてにおいて互いに重なっており、「前記土除け材の内、シールドカバー本体に固定された進行方向において最も後方側の土除け材を除いて、シールドカバー本体に固定された各土除け材の固定位置すべてが、隣接する他の土除け材と互いに重なっている」点で共通しているといえる。
したがって、両者は、次の一致点で一致し、相違点で相違する。

(一致点)
「トラクタの後部に装着され、トラクタと共に走行する作業機本体に支持される作業ロータと、その上方を覆うシールドカバー本体とその進行方向後方側に連結され、前記作業ロータの後方を覆うエプロンを有するシールドカバーを備えるロータリ作業機において、
その進行方向後方側の位置で固定され、その進行方向前方側の端部から前記後方側の位置までの区間が自由な状態であり、前記端部寄りの部分が自重で垂れ下がる、弾性を有する土除け材が、前記シールドカバー本体の前記作業ロータ側の面に2枚以上固定され、
前記土除け材は前記シールドカバー本体の周方向に隣接して複数枚配置され、
前記土除け材の内、シールドカバー本体に固定された進行方向において最も後方側の土除け材を除いて、シールドカバー本体に固定された各土除け材の固定位置すべてが、隣接する他の土除け材と互いに重なっているロータリ作業機のシールドカバー。」

(相違点)
本件訂正発明1では、「その進行方向後方側の位置で固定され、その進行方向前方側の端部から前記後方側の位置までの区間が自由な状態であり、前記端部寄りの部分が自重で垂れ下がる、弾性を有する土除け材が、」「前記エプロンの前記作業ロータ側の面に1枚以上固定され」、シールドカバー本体とエプロンに固定された土除け材はシールドカバー本体とエプロンの周方向に隣接して配置され、シールドカバー本体に固定された進行方向において最も後方側の土除け材の固定位置が、隣接するエプロンに固定された土除け材と互いに重なっているのに対し、甲1発明では、エプロン側に土除け材がなく、そのような構成を有していない点。

(2)当審の相違点に係る判断
ア 甲第2、3号証に記載の技術
甲第2号証には、ロータリカバーに土が付着するのを防止するとの課題を解決するために、「リヤカバー13のロータリー11側の面に、弾性を有する弾性部材23が、その進行方向後方側の位置で固定されるとともに、固定部を除いて前方側が自由な状態であり、その弾性部材23が、メインカバー12の補強板18に対する低摩擦係数の部材14の固定位置において、その低摩擦係数の部材14と互いに重なっていること。」が記載されている(上記3(2)を参照。以下「甲2技術」という。)。
そして、甲2技術の「ロータリー11」は、本件訂正発明1の「作業ロータ」に相当し、以下同様に、「メインカバー12」は「シールドカバー本体」に、「リヤカバー13」は「エプロン」に、「弾性を有する弾性部材23」は「弾性を有する土除け材」に、「固定部を除いて前方側が自由な状態」は「その進行方向前方側の端部から前記後方側の位置までの区間が自由な状態」に、それぞれ相当する。また、甲2技術の「低摩擦係数の部材14」は、甲第2号証の段落【0005】、【0006】に記載されているように、土の付着を防止するものであるから、「土除け材」に相当する。
また、甲第3号証には、「リヤーカバー1の耕耘爪11側の面に、ゴム板3から成る弾性体が、その進行方向後方側の位置で固定されるとともに、固定部を除いて前方側が自由な状態であり、その弾性部体が、主カバー12に取り付けた樹脂板15の後縁と互いに重なっていること。」が記載されている(上記4(2)を参照。以下「甲3技術」という。)。
そして、甲3技術の「リヤーカバー1」は、本件訂正発明1の「エプロン」に相当し、以下同様に、「主カバー12」は「シールドカバー本体」に、「リヤーカバー1の耕耘爪11側の面」は「エプロンの前記作業ロータ側の面」に、「ゴム板3から成る弾性体」は「弾性を有する土除け材」に、「固定部を除いて前方側が自由な状態」は「その進行方向前方側の端部から前記後方側の位置までの区間が自由な状態」に、それぞれ相当する。また、甲3技術の「樹脂板15」は、甲第3号証の段落【0008】に記載されているように、泥土の付着に対し剥離性を向上するものであるから、「土除け材」に相当する。
しかし、甲第2号証には、弾性部材23の前端部23aを前方に延設して低摩擦係数の部材14と重ね合わせた状態にしてもよい旨の記載はあるが(段落【0015】)、そのようにした場合に弾性部材23の前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がる旨の記載はない。また、同様に、甲第3号証には、ゴム板3の前端部31を樹脂板15の後縁を覆うように重合した場合に、ゴム板3の前端部31寄りの部分が自重で垂れ下がる旨の記載はない。

イ 本件訂正発明1の「土除け材」が「自重で垂れ下がる」ことの意義
本件訂正発明1の「土除け材」は、「その進行方向後方側の位置で固定され、その進行方向前方側の端部から前記後方側の位置までの区間が自由な状態であり」、片持ち梁であるから、単なる物理現象としては、必ず自重で垂れ下がることになる。しかし、本件訂正発明1は、「土除け材」が「その進行方向後方側の位置で固定され、その進行方向前方側の端部から前記後方側の位置までの区間が自由な状態であり、前記端部寄りの部分が自重で垂れ下がる、弾性を有する」ことによって、ロータリ作業機本体の振動に伴って、各土除け材がその固定位置を固定端部として作業ロータの半径方向に自由に振動し、その振動時の振幅が最大限発揮されるため、付着した土砂を落下させ、固定位置を除く土除け材の全周にわたって土砂の付着を防止する効果を発揮するものである(【請求項1】、段落【0017】、【0018】、【0022】、【0028】、【0029】、【0042】、【0051】)。そうすると、本件訂正発明1の「その進行方向後方側の位置で固定され、その進行方向前方側の端部から前記後方側の位置までの区間が自由な状態であり、前記端部寄りの部分が自重で垂れ下がる、弾性を有する土除け材」における「自重で垂れ下がる」とは、片持ち梁である「土除け材」の進行方向前方側の端部寄りの部分が単なる物理現象として「自重で」垂れ下がること(すなわち、「土除け材」が剛体ではないという当然のこと)を意味するのではなく、「土除け材」が、ロータリ作業機本体の振動に伴って、その振動時の振幅が最大限発揮する程度の弾性を有することによる、技術的意義のある現象としての「自重で垂れ下がる」ことを意味すると解すべきである。

ウ 相違点の容易想到性について
甲2技術の弾性部材23の前方側の端部寄りの部分の自重による垂れ下がり量は、少なくとも弾性部材23の固定部から自由端までの長さ並びにその部分の厚さ、質量(密度)及び弾性係数に依存することは明らかである。甲第2号証には、これらについて何の記載もないから、弾性部材23の材質がゴム等の弾力に富んだものであるとしても、その前方側の端部寄りの部分が上記イで説示した技術的意義のある現象として「自重で垂れ下がる」とは限らない。このことは、甲第2号証の段落【0015】に、弾性部材23の前端部23aがブラケット19に密着している旨の記載があることから明らかである。甲2技術においては、弾性部材23の前端部23aは、ブラケット19に密着しているのであるから、その前方側の端部寄りの部分がブラケット19の表面から離れるほど振動することは想定されていない。そうすると、弾性部材23の弾性係数、長さ等は、その前方側の端部寄りの部分が上記技術的意義のある現象として「自重で垂れ下がる」ことが当然に生じるものであるということはできない。
同様に、甲3技術のゴム板3から成る弾性体についても、その前方側の端部寄りの部分の自重による垂れ下がり量は、ゴム板3の弾性係数、長さ等に依存することは明らかであるところ、甲第3号証には、これらについて何の記載もないから、ゴム板3の前方側の端部寄りの部分が上記技術的意義のある現象として「自重で垂れ下がる」とは限らない。そして、甲第3号証の図1には、ゴム板3から成る弾性体の前端部31が主カバー12に取り付けられた樹脂板15に当接することが図示されていることを踏まえると、甲3技術のゴム板3から成る弾性体は、その前方側の端部寄りの部分が上記技術的意義のある現象として「自重で垂れ下がる」ものということはできない。
してみると、仮に、甲1発明に、甲2技術又は甲3技術を適用したとしても、甲1発明の後部カバー13に、甲2技術の弾性部材又は甲3技術のゴム板3から成る弾性体として設けられた土付着防止部材20は、その進行方向前方側の端部寄りの部分が自重で垂れ下がるものではないから、相違点に係る本件訂正発明1の構成には到らない。
よって、甲1発明に甲2技術、甲3技術を適用して、本件訂正発明1の相違点に係る構成とすることは、当業者が容易になし得るとすることはできない。

(3)小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲1発明、甲2技術及び甲3技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、本件訂正発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものということはできない。

6 本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用し、さらに構成を付加したものであって、本件訂正発明1の特定事項をすべて含むものである。
してみると、上記5のとおり、本件訂正発明1は、甲1発明、甲2技術及び甲3技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない以上、本件訂正発明2は、甲1発明、甲2技術及び甲3技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないことは明らかである。
よって、本件訂正発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものということはできない。

第6 無効理由2の検討
請求人は、平成25年9月25日付け手続補正書による補正(審判請求時の補正)によって、請求項1に「固定位置すべて」という事項が追加されたが、この補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものではなく、また、その記載から自明な事項でもないから、当該補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものである旨を主張している。なお、本件訂正後の請求項1にも、「固定位置すべて」との事項が記載されているので、当該主張(無効理由2)は、本件訂正発明1及び2に対するものともいえる。

請求人の主張について検討する。
後述するように(第8の無効理由4の検討を参照。)、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に、「その隣接する2枚の土除け材の内、一方の土除け材は他方の土除け材の前記シールドカバー本体への固定位置すべてにおいて互いに重なっている」(本件訂正後においては、「前記土除け材の内、前記シールドカバー本体に固定された各土除け材の固定位置すべてが、隣接する他の土除け材と互いに重なっている」)と記載されているが、この記載からは、2枚の土除け材が隣接して設けられていることを前提とし、その一方の土除け材が他方の土除け材のシールドカバー本体への固定位置のすべてにおいて互いに重なっていることが理解できる。すなわち、シールドカバーの長手方向(作業機の幅方向)における固定位置は当然として、周方向に複数の固定位置がある場合は、そのすべてにおいて重なっていることを意味するものと解される。土除け材が3枚以上あり、隣接する箇所が2箇所以上ある場合は、その隣接する箇所(すなわち固定位置)のすべてにおいて重なっているといえる。
そして、本件出願当初明細書には、
「図1に示すようにシールドカバー本体2とエプロン3の作業ロータ5側の面に、複数枚の土除け材4がシールドカバー本体2の周方向に配列し、固定される。」(段落【0041】)、
「土除け材4はシールドカバー本体2とエプロン3にはボルトやピン等の固定具8によって交換可能に、着脱自在に固定される。固定具8は土除け材4の周方向(シールドカバー本体2の周方向)には1箇所、もしくは2箇所程度、配置される。隣接する土除け材4、4は後述のように固定具8による固定位置が進行方向後方側に、もしくは前方側に位置する土除け材4に覆われるように重なるから、ロータリ軸6の断面上は固定具8の配置数は少ない方がよく、図面では1箇所で固定している。固定具8は土除け材4の長さ方向(シールドカバー本体2の長さ(幅)方向)には適度の間隔をおいて配置される。」(同【0043】)、
「図1ではエプロン3を除くシールドカバー本体2に対して3枚の土除け材4を重ねて固定しているが、エプロン3にも土除け材4が固定される、その土除け材4とシールドカバー本体2の土除け材4を重ねることができるため、シールドカバー本体2には少なくとも1枚の土除け材4が固定されれば足りる。シールドカバー本体2には4枚以上の土除け材4が固定される場合もある。」(同【0045】)、
「図示するように爪7が進行方向後方へ向かって土砂を蹴るようにダウンカット回転する場合には、互いに重なる2枚の土除け材4、4の内、相対的にトラクタの進行方向前方側に位置する土除け材4はその重なり部分においてシールドカバー本体2に固定され、その土除け材4の固定位置(固定具8)は進行方向後方側に位置する土除け材4に覆われ、ロータリ軸6側から隠蔽される。(同【0048】)、
「この場合、進行方向後方側に位置する土除け材4は前方側に位置する土除け材4の固定位置を覆いつつ、その土除け材4にロータリ軸6側から重なってシールドカバー本体2に固定される。エプロン3に固定される土除け材4はシールドカバー本体2の最も後方側に位置する土除け材4の固定位置を覆いつつ、その土除け材4にロータリ軸6側から重なる。各土除け材4のシールドカバー本体2への固定作業は、トラクタの進行方向前方側に位置する土除け材4から後方側に隣接する土除け材4へかけて順次、シールドカバー本体2に固定していく、という手順で行われる。」(同【0049】)
「爪7が進行方向後方へ向かってダウンカット回転する場合、進行方向前方側に位置する土除け材4は後方側に位置する土除け材4に覆われ、シールドカバー本体2には後方側の土除け材4に覆われる位置で固定されるから、シールドカバー本体2への固定位置は土除け材4の周方向に対し、進行方向後方側になる。」(同【0050】)
と記載されているように、土除け材4は、長さ方向(シールドカバー本体2の長さ(幅)方向)に適度の間隔をおいて固定されており、また、複数枚の土除け材4は、隣接する2枚の土除け材4、4がシールドカバー本体2の周方向に一部において互いに重なり合いながら、シールドカバー本体2とエプロン3に固定されることが記載されており、さらには、トラクタの進行方向前方から後方(土除け材の周方向)において、土除け材が隣接するところの固定位置のすべてが、後方側に隣接する他の土除け材によって覆われることが記載されているといえる。

したがって、平成25年9月25日付け手続補正書による補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているから、本件訂正発明1及び2についての特許は、請求人の主張する無効理由2によっては無効とすることができない。

第7 無効理由3の検討
請求人は、本件図面には、土除け材4のシールドカバー本体2に対する固定具8として、「ボルト」や「ピン」は図示されておらず、シールドカバー本体2上に位置する部材が図示されているに過ぎず、また、土除け材4のエプロン3に対する固定具8については、本件図面に何ら図示されていないため、土除け材4がシールドカバー本体2およびエプロン3に対してどのようにしてどの位置に固定されているのか不明であるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1及び2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨を主張している。なお、当該主張(無効理由3)は、実施可能要件に関するものであるから、本件訂正発明1及び2に対するものともいえる。

請求人の主張について検討する。
本件明細書の段落【0012】には、「土除け材はシールドカバー本体とエプロンにはボルトやピン等の固定具によって着脱自在に固定される。固定具は土除け材の長さ方向(シールドカバー本体の長さ方向、あるいは作業機本体の幅方向)には適度の間隔をおいて配置され、土除け材の周方向(シールドカバー本体の周方向)には基本的には1箇所配置されれば足りる。固定具は土除け材の周方向に2箇所以上配置されることもあるが、後述のように1箇所であることが土砂の付着防止上、並びに土砂の落下上、合理的である。」と記載されており、また同【0043】には、「土除け材4はシールドカバー本体2とエプロン3にはボルトやピン等の固定具8によって交換可能に、着脱自在に固定される。固定具8は土除け材4の周方向(シールドカバー本体2の周方向)には1箇所、もしくは2箇所程度、配置される。隣接する土除け材4、4は後述のように固定具8による固定位置が進行方向後方側に、もしくは前方側に位置する土除け材4に覆われるように重なるから、ロータリ軸6の断面上は固定具8の配置数は少ない方がよく、図面では1箇所で固定している。固定具8は土除け材4の長さ方向(シールドカバー本体2の長さ(幅)方向)には適度の間隔をおいて配置される。」と記載されており、さらに、図1?3には、土除け材4がシールカバー本体2にボルト8で固定されていることが図示されていると認識できるから、当業者であれば、これらの記載から、土除け材4がシールドカバー本体2およびエプロン3に対してボルトやピン等の固定具によって着脱自在に固定されること、及びそのような固定がなされる位置が理解できるといえる。
また、ボルトやピン等の固定具を用いて固定することは、土除け材のシールドカバーへの固定に限らず様々な技術分野において本件出願の原出願の出願日前から周知慣用であるから、このことからも、土除け材をシールドカバー本体及びエプロンへ固定することは、当業者が容易に実施可能であるといえる。

したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているから、本件訂正発明1及び2についての特許は、請求人の主張する無効理由3によっては無効とすることができない。

第8 無効理由4の検討
1 第36条第6項第2号に規定する要件について
本件特許請求の範囲の【請求項1】に記載されている「固定位置すべて」が具体的にどの位置のすべてを意味するのか明らかでなく、さらに、【請求項1】に記載されている「エプロンの周方向」が具体的にどの方向を指すのか明らかでないから、本件発明1及び2は、明確であるとはいえないので、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨を主張している。なお、本件訂正後の請求項1にも、「固定位置すべて」及び「エプロンの周方向」との事項が記載されているので、当該主張(無効理由4)は、本件訂正発明1及び2に対するものともいえる。

請求人の主張について検討する。
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に、「その隣接する2枚の土除け材の内、一方の土除け材は他方の土除け材の前記シールドカバー本体への固定位置すべてにおいて互いに重なっている」(本件訂正後においては、「前記土除け材の内、前記シールドカバー本体に固定された各土除け材の固定位置すべてが、隣接する他の土除け材と互いに重なっている」)と記載されているが、この記載からは、2枚の土除け材が隣接して設けられていることを前提とし、その一方の土除け材が他方の土除け材のシールドカバー本体への固定位置のすべてにおいて互いに重なっていることが理解できる。すなわち、シールドカバーの長手方向(作業機の幅方向)における固定位置は当然として、周方向に複数の固定位置がある場合は、そのすべてにおいて重なっていることを意味するものと解される。土除け材が3枚以上あり、隣接する箇所が2箇所以上ある場合は、その隣接する箇所(すなわち固定位置)のすべてにおいて重なっているといえる。
また、本件明細書の段落【0011】に「土除け材の周方向とは、シールドカバー本体の周方向を指し、土除け材の周方向一方側とは、作業機本体の進行方向後方側、もしくは前方側であり、周方向端部寄りの位置等、周方向の中心位置から端部までの区間のいずれかの位置を指す」との記載があり、同【0020】に「シールドカバー本体の周方向とは、作業ロータの周方向を指す」との記載があるため、「土除け材の周方向」及び「シールドカバー本体の周方向」という記載の意味は明確であるところ、同【0028】に「弾性を有する土除け材をその周方向一方側の位置でシールドカバー本体、またはシールドカバー本体とエプロンに固定する」との記載があり、同【0041】に「図1に示すようにシールドカバー本体2とエプロン3の作業ロータ5側の面に、複数枚の土除け材4がシールドカバー本体2の周方向に配列し、固定される」との記載があることから、土除け材の配置される位置を定義する「エプロンの周方向」とは、「土除け材の周方向」及び「シールドカバー本体の周方向」と同じであると理解できるので、「エプロンの周方向」という記載の意味は明確であるといえる。
したがって、本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は明確である。

よって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

2 第36条第6項第1号に規定する要件について
請求人は、本件特許請求の範囲の【請求項1】には、「……固定位置すべてにおいて互いに重なっている……」という記載があるが、本件明細書の発明の詳細な説明には、複数の固定位置のすべてにおいて互いに重なっていることの記載はないから、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載したものではないので、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨を主張している。なお、本件訂正後の請求項1にも、「固定位置すべてが、隣接する他の土除け材と互いに重なっている」との事項が記載されているので、当該主張(無効理由4)は、本件訂正発明1及び2に対するものともいえる。

請求人の主張について検討する。
上記1で説示したように、「固定位置のすべて」において互いに重なっているとは、シールドカバーの長手方向(作業機の幅方向)における固定位置は当然として、周方向に複数の固定位置がある場合は、そのすべてにおいて重なっていることを意味するものと解される。
そして、本件明細書には、
「土除け材はシールドカバー本体とエプロンにはボルトやピン等の固定具によって着脱自在に固定される。固定具は土除け材の長さ方向(シールドカバー本体の長さ方向、あるいは作業機本体の幅方向)には適度の間隔をおいて配置され、土除け材の周方向(シールドカバー本体の周方向)には基本的には1箇所配置されれば足りる。固定具は土除け材の周方向に2箇所以上配置されることもあるが、後述のように1箇所であることが土砂の付着防止上、並びに土砂の落下上、合理的である。」(段落【0012】)、
「土除け材が複数枚固定される場合には、土除け材の周方向に隣接する2枚の土除け材を互いに重なった状態で配置することができるため、重なる部分に土除け材の固定位置を配置することで、固定位置を作業ロータから覆う(被覆する)ことができることによる。」(同【0013】)、
「図1に示すようにシールドカバー本体2とエプロン3の作業ロータ5側の面に、複数枚の土除け材4がシールドカバー本体2の周方向に配列し、固定される。」(同【0041】)、
「土除け材4はシールドカバー本体2とエプロン3にはボルトやピン等の固定具8によって交換可能に、着脱自在に固定される。固定具8は土除け材4の周方向(シールドカバー本体2の周方向)には1箇所、もしくは2箇所程度、配置される。隣接する土除け材4、4は後述のように固定具8による固定位置が進行方向後方側に、もしくは前方側に位置する土除け材4に覆われるように重なるから、ロータリ軸6の断面上は固定具8の配置数は少ない方がよく、図面では1箇所で固定している。固定具8は土除け材4の長さ方向(シールドカバー本体2の長さ(幅)方向)には適度の間隔をおいて配置される。」(同【0043】)、
「図1ではエプロン3を除くシールドカバー本体2に対して3枚の土除け材4を重ねて固定しているが、エプロン3にも土除け材4が固定される、その土除け材4とシールドカバー本体2の土除け材4を重ねることができるため、シールドカバー本体2には少なくとも1枚の土除け材4が固定されれば足りる。シールドカバー本体2には4枚以上の土除け材4が固定される場合もある。」(同【0045】)、
「図示するように爪7が進行方向後方へ向かって土砂を蹴るようにダウンカット回転する場合には、互いに重なる2枚の土除け材4、4の内、相対的にトラクタの進行方向前方側に位置する土除け材4はその重なり部分においてシールドカバー本体2に固定され、その土除け材4の固定位置(固定具8)は進行方向後方側に位置する土除け材4に覆われ、ロータリ軸6側から隠蔽される。」(同【0048】)、
「この場合、進行方向後方側に位置する土除け材4は前方側に位置する土除け材4の固定位置を覆いつつ、その土除け材4にロータリ軸6側から重なってシールドカバー本体2に固定される。エプロン3に固定される土除け材4はシールドカバー本体2の最も後方側に位置する土除け材4の固定位置を覆いつつ、その土除け材4にロータリ軸6側から重なる。各土除け材4のシールドカバー本体2への固定作業は、トラクタの進行方向前方側に位置する土除け材4から後方側に隣接する土除け材4へかけて順次、シールドカバー本体2に固定していく、という手順で行われる。」(同【0049】)、
「爪7が進行方向後方へ向かってダウンカット回転する場合、進行方向前方側に位置する土除け材4は後方側に位置する土除け材4に覆われ、シールドカバー本体2には後方側の土除け材4に覆われる位置で固定されるから、シールドカバー本体2への固定位置は土除け材4の周方向に対し、進行方向後方側になる。」(同【0050】)、
と記載されているように、土除け材4は、長さ方向(シールドカバー本体2の長さ(幅)方向)に適度の間隔をおいて固定されており、また、複数枚の土除け材4は、隣接する2枚の土除け材4、4がシールドカバー本体2の周方向に一部において互いに重なり合いながら、シールドカバー本体2とエプロン3に固定されることが記載されており、さらには、トラクタの進行方向前方から後方(土除け材の周方向)において、土除け材が隣接するところの固定位置のすべてが、後方側に隣接する他の土除け材によって覆われることが記載されているといえる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項が記載されている。

よって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

3 まとめ
以上とおりであるから、本件訂正発明1及び2についての特許は、請求人の主張する無効理由4によっては無効とすることができない。

第9 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1ないし4によっては、本件訂正発明1及び2の特許を無効とすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ロータリ作業機のシールドカバー
【技術分野】
【0001】
本発明はトラクタの後部に昇降可能に装着され、作業ロータを備えるロータリ作業機において、作業ロータが跳ね上げる土砂の付着を防止する機能を有するシールドカバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
耕耘作業機のような、ロータリ軸の周りに複数の耕耘爪等の爪が突設された作業ロータを備えるロータリ作業機では、爪が跳ね上げる土砂が作業機本体に及ぶことを防止するために、作業ロータの上方にシールドカバーが固定される。シールドカバーはトラクタのPTO軸から動力を受けるギアボックスを中心として作業機本体の幅方向に張り出し、ロータリ軸に動力を伝達する伝動フレームと、ギアボックスを挟んで伝動フレームに連続する支持フレームに支持される。
【0003】
シールドカバーの内周面が直接、ロータリ軸に面する場合には、土砂はシールドカバーの内周面(作業ロータ側の面)に付着することになるが、付着した土砂は回転する爪の抵抗になり、作業効率を低下させる問題を招く。そこで、シールドカバーの内周面への土砂の付着と堆積を防止する目的で、シールドカバーの内周面に土砂付着防止用の板を固定することがある(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平11-9002号公報(請求項1、段落0016?0018、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロータリ軸の回転に伴って爪が跳ね上げる土砂の付着先は爪(ロータリ軸)の回転の向きによって決まり、例えば爪が圃場面に対し、進行方向前方から後方へ向かって(ダウンカット)回転する場合には、爪は土砂を前方から後方へ掻き上げるため、土砂はシールドカバーの後方側に付着しようとする。シールドカバーの後方にエプロンが連結される場合にはエプロンにより多く付着し易い。
【0006】
特許文献1のようにシールドカバーの内周面に例えばゴム製の付着防止板を固定した場合、付着防止板に付着した土砂は作業機の走行中の振動によってある程度、土砂が付着した時点で、自重で落下することを期待することはできる。
【0007】
しかしながら、特許文献1では付着防止板を幅方向、すなわちシールドカバーの周方向の両側位置でシールドカバーに固定していることから(段落0017)、付着防止板自体がシールドカバーから独立して振動を起こしにくいため、効果的に土砂を落下させることは難しい。付着防止板は固定位置以外の中間部では振動することができるものの、両側が固定されている以上、振動の自由度が低いことによる。
【0008】
特に土砂は付着防止板の中では振動しない、ボルト等による固定位置に集中的に付着していく傾向があるため、固定位置では付着防止板自身による土砂の除去効果を期待することができない。
【0009】
本発明は上記背景より、付着防止板自身が付着した土砂の除去機能を有し、特に付着防止板の固定位置への土砂の付着を排除する機能を有するロータリ作業機のシールドカバーを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のシールドカバーは、トラクタの後部に装着され、トラクタと共に走行する作業機本体に支持される作業ロータと、その上方を覆うシールドカバー本体とその進行方向後方側に連結され、前記作業ロータの後方を覆うエプロンを有するシールドカバーを備えるロータリ作業機において、
前記シールドカバー本体の前記作業ロータ側の面に、弾性を有する1枚以上の土除け材がその進行方向後方側の位置で固定され、
前記エプロンの前記作業ロータ側の面に、弾性を有する1枚以上の土除け材がその進行方向後方側の位置で固定され、
前記土除け材は前記シールドカバー本体と前記エプロンの周方向に隣接して複数枚配置され、
その隣接する2枚の土除け材の内、一方の土除け材は他方の土除け材の前記シールドカバー本体への固定位置において互いに重なっていることを構成要件とする。
【0011】
土除け材の周方向とは、シールドカバー本体の周方向を指し、土除け材の周方向一方側とは、作業機本体の進行方向後方側、もしくは前方側であり、周方向端部寄りの位置等、周方向の中心位置から端部までの区間のいずれかの位置を指す。エプロンに固定される土除け材の周方向一方側も作業機本体の進行方向後方側、もしくは前方側を指す。この場合、エプロンに固定される土除け材は基本的にエプロンの作業ロータ側の面に、シールドカバー本体の土除け材に重なる状態で固定される。土除け材には耐久性の面からゴムの使用が適するが、作業機本体の振動に伴って振動できる弾性を有すれば、材料は問われず、金属、合成樹脂等も使用される。
【0012】
土除け材はシールドカバー本体とエプロンにはボルトやピン等の固定具によって着脱自在に固定される。固定具は土除け材の長さ方向(シールドカバー本体の長さ方向、あるいは作業機本体の幅方向)には適度の間隔をおいて配置され、土除け材の周方向(シールドカバー本体の周方向)には基本的には1箇所配置されれば足りる。固定具は土除け材の周方向に2箇所以上配置されることもあるが、後述のように1箇所であることが土砂の付着防止上、並びに土砂の落下上、合理的である。
【0013】
土除け材のシールドカバー本体等への固定位置が作業機本体の進行方向後方側であるか、前方側であるかは、土除け材がシールドカバー本体とエプロンに合わせて複数枚固定される場合に、作業ロータを構成するロータリ軸に固定される爪の回転の向き(ダウンカット回転かアップカット回転か)によって決められる。土除け材が複数枚固定される場合には、土除け材の周方向に隣接する2枚の土除け材を互いに重なった状態で配置することができるため、重なる部分に土除け材の固定位置を配置することで、固定位置を作業ロータから覆う(被覆する)ことができることによる。
【0014】
例えば爪が圃場面に対し、進行方向前方から後方へ向かって回転(ダウンカット回転)する場合には、前記のように土砂はシールドカバーの後方側に付着しようとする。この場合には請求項2に記載のように隣接する2枚の土除け材の内、作業ロータの回転方向上流側に位置する土除け材が下流側に位置する土除け材を作業ロータ側から覆う状態で重なって配置されることで、下流側の土除け材の固定位置を上流側の土除け材が覆う状態になるため、下流側の土除け材の固定位置を上流側の土除け材で保護することが可能である。
【0015】
逆に爪が圃場面に対し、進行方向後方から前方へ向かって回転(アップカット回転)する場合には、土砂はシールドカバーの前方側に付着しようとするため、この場合にも、請求項2に記載のように作業ロータの回転方向上流側に位置する土除け材が下流側に位置する土除け材を作業ロータ側から覆う状態で重なって配置されることで、下流側の土除け材の固定位置を上流側の土除け材が覆う状態になる。
【0016】
土除け材の固定位置はそれ自身の振動によっても振動を生じない箇所であるから、付着した土砂が落下しにくく、土砂が堆積し易い。そこで、前方側の土除け材の固定位置を後方側の土除け材が覆うことで、または逆に後方側の土除け材の固定位置を前方側の土除け材が覆うことで、固定位置への土砂の付着自体を生じにくくすることができる。この結果、振動による落下を期待するまでもなく、土砂を落下させる必要がない状態を得ることが可能になる。
【0017】
土除け材がその周方向一方側の位置で固定されることで、他方の端部側が自由な状態にあるため、土除け材は固定位置を固定端部として作業ロータの半径方向に自由に振動することができる。
【0018】
土除け材がその周方向の一端で固定され、他端側が自由になることで、作業機本体の振動に起因して発生する振動時の振幅が最大限、発揮されるため、付着した土砂の落下を誘発する効果が高まり、土砂の付着と堆積を回避する効果が得られる。従って土除け材は固定位置を除き、土除け材の全周に亘って土砂の付着防止効果を発揮する。土除け材に付着した土砂は土除け材自身の振動による他、ロータリ軸の回転と共に回転する爪が掻き落とすことによっても土除け材から落下する。
【0020】
シールドカバー本体とエプロンを合わせて土除け材が複数枚配置されるため、シールドカバー本体に固定される土除け材は1枚でもよい。シールドカバー本体の周方向とは、作業ロータの周方向を指す。
【0021】
複数枚の土除け材がシールドカバー本体の周方向に隣接して配列し、一方の土除け材が他方の土除け材のシールドカバー本体への固定位置において互いに重なることで、作業ロータの半径方向に見たとき、重なり部分で作業ロータ側に位置する土除け材がシールドカバー本体側に位置する土除け材の固定位置の部分を作業ロータ側から覆うことになる。この結果、少なくともシールドカバー本体側に位置する土除け材の固定位置に土砂が付着することが防止、もしくは抑制される。
【0022】
この場合、土砂が付着する領域は固定位置以外の部分に制限されるため、土砂は土除け材の固定位置以外の領域に付着することになるが、固定位置以外の部分はシールドカバー本体に拘束されていないため、土除け材は固定位置を固定端部として作業機本体の振動に伴い、作業ロータの半径方向に自由に振動することができる。このため、土除け材は前記の通り、それ自身の振動によって付着した土砂を落下させる効果を発揮するため、固定位置への付着防止効果と併せて土除け材の全周に亘って土砂の除去(排除)効果が期待される。
【0023】
従って前記のように爪が圃場面に対し、作業機本体の進行方向前方から後方へ向かってダウンカット回転する場合には、シールドカバー本体の周方向に隣接し、互いに重なる2枚の土除け材の内、相対的に作業機本体の進行方向前方側に位置する土除け材がその重なり部分においてシールドカバー本体に固定されていれば、後方側に位置する土除け材が固定部分への土砂の付着を阻止する機能を発揮する。
【0024】
請求項2ではまた、作業ロータの回転方向上流側に位置する土除け材が下流側に位置する土除け材を作業ロータ側から覆う状態で重なることで、作業ロータの半径方向に見たとき、ロータリ軸回りに回転する爪が手前に位置する土除け材から奥側に位置する土除け材に接近する状態になるため、隣接する2枚の土除け材の重なり部分からの土砂の進入を阻止することが可能である。
【0025】
例えば爪がダウンカット回転する場合に、ある土除け材のロータリ軸側に、その回転方向上流側に位置する土除け材が重なれば、爪は回転方向上流側に位置する土除け材から下流側に位置する土除け材に順次、接近していくから、土砂が土除け材の重なり部分から進入する事態が回避される。
【0026】
この場合、土砂はシールドカバーの後方側から付着しようとするから、相対的に上流側に位置する土除け材が下流側に位置する土除け材を覆う形で重なれば、土砂が下流側の土除け材に回り込むことを上流側の土除け材が阻止しようとするため、爪から跳ね上げられた土砂が重なり部分の土除け材間に進入する事態が回避されることになる。
【0027】
爪がアップカット回転する場合にも、土除け材のロータリ軸側に、その回転方向上流側に位置する土除け材が重なれば、爪は上流側に位置する土除け材から下流側に位置する土除け材に順次、接近していくから、土砂が土除け材の重なり部分から進入する事態が回避される。
【発明の効果】
【0028】
弾性を有する土除け材をその周方向一方側の位置でシールドカバー本体、またはシールドカバー本体とエプロンに固定することで、他方の端部側を自由な状態にするため、土除け材を、固定位置を固定端部として作業ロータの半径方向に自由に振動させることができる。
【0029】
この結果、作業機本体の振動に起因して発生する振動時の振幅が最大限、発揮されるため、付着した土砂の落下を誘発する効果が高まり、土砂の付着と堆積を防止する効果が得られる。特に土除け材の固定位置を覆うように隣接する土除け材を重ねて固定した場合には、付着した土砂が落下しにくい箇所への付着を防止することができるため、土砂の付着と堆積を有効に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0031】
図1はトラクタの後部に装着され、トラクタと共に走行する作業機本体10に支持される作業ロータ5とその上方を覆うシールドカバー1を備えるロータリ作業機において、シールドカバー本体2の作業ロータ5側の面に、弾性を有する1枚以上の土除け材4がその幅方向一方の端部側の位置で固定されているシールドカバー1の構成例を示す。作業機本体10はトラクタの後部に3点リンクヒッチ機構を介して昇降可能に装着される。
【0032】
作業機本体10はトラクタ後部のトップリンクとロアリンクからなる3点リンクヒッチ機構に連結されるトップマスト11と、ロアリンク連結部12を備え、トップマスト11の下端部に、トラクタのPTO軸にユニバーサルジョイント、伝動シャフト等を介して連結されるギアボックス13が配置され、ギアボックス13から図4、図5に示す作業機本体10の幅方向に伝動フレーム14と支持フレーム15が架設される。PTO軸からの動力はギアボックス13の入力軸13aに伝達され、入力軸13aで受けた動力は伝動フレーム14の内部を挿通する伝動シャフトに伝達される。
【0033】
伝動フレーム14の先端部にはチェーン伝動ケース16が垂下する形で固定され、支持フレーム15の先端にはチェーン伝動ケース16に対向する端部カバー17が固定される。このチェーン伝動ケース16と端部カバー17との間に作業ロータ5のロータリ軸6が軸回りに回転自在に架設される。伝動シャフトとロータリ軸6間にはチェーンが張架され、チェーンを通じて伝動シャフトの動力がロータリ軸6に伝達される。
【0034】
ロータリ軸6の外周には周方向に適度な間隔を置いて耕耘爪等の爪7が突設される。爪7は主にナタ爪であるが、圃場面の土砂を掻き上げる機能を有すれば、代掻き機用や畦塗り機用等の爪も含む。爪7はロータリ軸6の軸方向には互いに干渉しない程度の間隔を置いて配置される。作業ロータ5はロータリ軸6とその外周に突設された爪7から構成され、作業ロータ5は耕耘ロータになる。
【0035】
伝動フレーム14と支持フレーム15の下には作業ロータ5の爪7の回転範囲を覆い、作業機本体10を土砂から保護するシールドカバー本体2が配置される。シールドカバー本体2は図4に示すように伝動フレーム14と支持フレーム15の下に突設された下部ブラケット14a、15aにフランジ2aにおいて接合されることにより両フレーム14、15に支持される。図中、20は圃場面上を転動することで、作業中にある作業ロータ5の圃場面からの深度を調整するためのゲージホイールである。
【0036】
シールドカバー本体2の、作業機本体10の進行方向後方側には作業ロータ5の後方を覆うエプロン3が伝動フレーム14の軸と平行な軸の回りに回転自在に連結される。エプロン3は例えばシールドカバー本体2のエプロン3側の端部に伝動フレーム14の軸と平行(水平)に配置された軸2bに連結されることによりシールドカバー本体2に対して回転自在になる。エプロン3の表面側、すなわち作業ロータ5の反対側の面にはエプロン3の圃場面との接地圧を適度に保つためと、エプロン3を跳ね上げた状態に保持するためのコンプレッションロッド18が接続される。
【0037】
コンプレッションロッド18の一端、すなわちトラクタ側の端部(上端)は伝動フレーム14と支持フレーム15の上に固定された上部ブラケット14b、15bに回転自在に連結され、他端(下端)はエプロン3の表面に固定されたブラケット3aに軸方向の位置調整が自在な状態に接続される。コンプレッションロッド18にはコイルスプリング18aが内蔵されるか、外周を巻回することにより装着される。
【0038】
コイルスプリング18aの一端(上端)はその軸方向に摺動可能な係止部18bに係止し、他端(下端)はコンプレッションロッド18の軸方向に移動可能で、任意の位置で停止可能なストッパ19に係止し、コイルスプリング18aは常に圧縮力を負担した状態にある。ストッパ19にはエプロン3のブラケット3aが接続され、ストッパ19はエプロン3の回転に伴い、コンプレッションロッド18に沿って移動する。
【0039】
作業機本体10の作業時には図1、図2に示すようにコイルスプリング18aが係止部18bと停止状態のストッパ19に係止した状態にあり、係止部18bがコイルスプリング18aの反力に応じて軸方向に摺動することで、エプロン3の圃場面との接地圧が一定範囲内に納まるよう、エプロン3のレベルを調整する。エプロン3の跳ね上げ時には、図3、図6-(b)に示すようにストッパ19がコンプレッションロッド18の上端側へ移動させられて停止させられることで、エプロン3の跳ね上げ状態を維持する。
【0040】
図1はロータリ軸6の回りを回転する爪7が通過する最下点のレベルとエプロン3の下端のレベルが等しいか、ほぼ等しい場合での作業ロータ5の作業時の様子を、図2は爪7が通過する最下点のレベルよりエプロン3の下端のレベルが例えば200mm程度、上に位置する場合での作業ロータ5の作業時の様子を示す。エプロン3の下端のレベルはコンプレッションロッド18のストッパ19の位置を調整することにより自由に設定される。図3はエプロン3を跳ね上げ、その状態で静止させたときの様子を示す。シールドカバー本体2の内周側の面の清掃は図3の状態で行われる。
【0041】
図1に示すようにシールドカバー本体2とエプロン3の作業ロータ5側の面に、複数枚の土除け材4がシールドカバー本体2の周方向に配列し、固定される。
【0042】
土除け材4には主に数mm?10数mm程度の肉厚を持つ硬質のゴムが使用され、作業機本体10の振動に伴って自ら振動できる程度の弾性を持ち、また図1に示すようにロータリ軸6の断面上は後述のようにシールドカバー本体2への拘束のない周方向の端部寄りが自重で垂れ下がる程度の剛性を有する。土除け材4がここで言う適度の弾性と剛性を有すれば、土除け材4の材料は限定されず、プラスチック製や金属製の板も使用される。
【0043】
土除け材4はシールドカバー本体2とエプロン3にはボルトやピン等の固定具8によって交換可能に、着脱自在に固定される。固定具8は土除け材4の周方向(シールドカバー本体2の周方向)には1箇所、もしくは2箇所程度、配置される。隣接する土除け材4、4は後述のように固定具8による固定位置が進行方向後方側に、もしくは前方側に位置する土除け材4に覆われるように重なるから、ロータリ軸6の断面上は固定具8の配置数は少ない方がよく、図面では1箇所で固定している。固定具8は土除け材4の長さ方向(シールドカバー本体2の長さ(幅)方向)には適度の間隔をおいて配置される。
【0044】
爪7が土砂を進行方向後方側へ掻き上げるように回転する場合には、図示するように後方側の土除け材4が前方側の土除け材4を覆うように固定され、逆向きに回転する場合には、前方側の土除け材4が後方側の土除け材4を覆うように固定される。
【0045】
図1ではエプロン3を除くシールドカバー本体2に対して3枚の土除け材4を重ねて固定しているが、エプロン3にも土除け材4が固定される、その土除け材4とシールドカバー本体2の土除け材4を重ねることができるため、シールドカバー本体2には少なくとも1枚の土除け材4が固定されれば足りる。シールドカバー本体2には4枚以上の土除け材4が固定される場合もある。
【0046】
複数枚の土除け材4は、隣接する2枚の土除け材4、4がシールドカバー本体2の周方向に一部において互いに重なり合いながら、シールドカバー本体2とエプロン3に固定される。シールドカバー本体2の周方向に隣接する土除け材4、4の重なり方は爪7の回転の向きによって決まる。
【0047】
例えば爪7が圃場面に対し、進行方向前方から後方へ向かって土砂を蹴るように回転するダウンカット回転する場合には、隣接する土除け材4、4間への土砂の進入を防止する観点から、後方側に位置する土除け材4が前方側に位置する土除け材4をロータリ軸6側から重なるように隣接する土除け材4、4が配置される。爪7が逆向きに、すなわち爪7が進行方向後方から前方へ向かって土砂を跳ね上げるようにアップカット回転する場合には、進行方向前方側に位置する土除け材4が後方側に位置する土除け材4をロータリ軸6側から重なるように配置される。
【0048】
図示するように爪7が進行方向後方へ向かって土砂を蹴るようにダウンカット回転する場合には、互いに重なる2枚の土除け材4、4の内、相対的にトラクタの進行方向前方側に位置する土除け材4はその重なり部分においてシールドカバー本体2に固定され、その土除け材4の固定位置(固定具8)は進行方向後方側に位置する土除け材4に覆われ、ロータリ軸6側から隠蔽される。
【0049】
この場合、進行方向後方側に位置する土除け材4は前方側に位置する土除け材4の固定位置を覆いつつ、その土除け材4にロータリ軸6側から重なってシールドカバー本体2に固定される。エプロン3に固定される土除け材4はシールドカバー本体2の最も後方側に位置する土除け材4の固定位置を覆いつつ、その土除け材4にロータリ軸6側から重なる。各土除け材4のシールドカバー本体2への固定作業は、トラクタの進行方向前方側に位置する土除け材4から後方側に隣接する土除け材4へかけて順次、シールドカバー本体2に固定していく、という手順で行われる。
【0050】
爪7が進行方向後方へ向かってダウンカット回転する場合、進行方向前方側に位置する土除け材4は後方側に位置する土除け材4に覆われ、シールドカバー本体2には後方側の土除け材4に覆われる位置で固定されるから、シールドカバー本体2への固定位置は土除け材4の周方向に対し、進行方向後方側になる。
【0051】
シールドカバー本体2への固定位置が土除け材4の周方向後方側であることで、土除け材4の前方側の端部から固定位置までの区間は拘束がないため、土除け材4の前方側の端部寄りの部分は自重で垂れ下がった状態になる。土除け材4の前方側端部から固定位置までの区間が自由であることで、この区間は作業機本体10の振動に伴って自由な振動が生じ、土除け材4は自身の振動によって付着している土砂を落下させる機能を有する。
【0052】
爪7が掻き上げる土砂の飛散をシールドカバー本体2が抑制する上では、作業ロータ5を包囲するように複数枚の土除け材4を配置することが望ましい。そこで、図面では多角形状に形成されたシールドカバー本体2の周方向両側をその内周側に折り返し、屈曲部2cを形成することで、シールドカバー本体2の内周面を爪7の先端が描く円形の軌跡に合わせて曲面(円弧面)に近い形状に形成し、この周方向両側の屈曲部2cに土除け材4を固定している。複数枚の土除け材4がロータリ軸6の断面上、円弧面をなすように配置されることで、回転する爪7を最小の領域内で包囲するため、土砂がシールドカバー本体2側へ飛散する範囲を最小に留めることができる利点がある。
【0053】
シールドカバー本体2の周方向両側に位置する土除け材4が屈曲部2cに固定されることで、複数枚の土除け材4は作業ロータ5を包囲するように円弧面をなすように配列するため、土砂の飛散を極力、抑制することができる。またこの場合、屈曲部2cが形成されることで、固定具(ボルト)8の螺入深さを確保することができる利点もある。
【0054】
図7に図1に示す作業ロータ5を装着した作業機本体10による耕耘作業の結果を示す。対比のために図8に本発明の土除け材4を装着しない従来の作業機本体による耕耘作業の結果を示す。図8ではシールドカバー本体の内周面に数mm?10数mm程度の厚さの土砂が付着し、ロータリ軸6にも付着している。
【0055】
これに対し、図7では土除け材4のロータリ軸6側の面、特にエプロン3側(後方側)には多少の土砂の付着があるものの、シールドカバー本体2内周面には土砂の付着がないことが分かる。図7の場合、土除け材4の後方側に土砂が付着するとしても、付着領域はエプロン3寄りであるため、エプロン3を跳ね上げることで、容易に土砂を落下させ、土除け材4を清掃することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】エプロンのレベルが低い状態にある作業ロータと本発明のシールドカバーとの関係を示したロータリ軸に直交する断面図である。
【図2】エプロンのレベルが高い状態にある作業ロータと本発明のシールドカバーとの関係を示したロータリ軸に直交する断面図である。
【図3】エプロンを跳ね上げたときの作業ロータと本発明のシールドカバーとの関係を示したロータリ軸に直交する断面図である。
【図4】作業ロータを装着した作業機本体を示した背面図である。
【図5】図4の側面図である。
【図6】(a)は図5の一部を示した側面図、(b)はエプロンを跳ね上げたときの図5の一部を示した側面図である。
【図7】本発明の作業機本体による耕耘作業後のシールドカバー本体内周面への土砂の付着の様子を示した斜視図である。
【図8】従来の作業機本体による耕耘作業後のシールドカバー本体内周面への土砂の付着の様子を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0057】
1……シールドカバー、2……シールドカバー本体、2a……フランジ、2b……軸部、2c……屈曲部、
3……エプロン、3a……ブラケット、
4……土除け材、
5……作業ロータ、6……ロータリ軸、7……爪、8……固定具(ボルト)、
10……作業機本体、11……トップマスト、12……ロアリンク連結部、
13……ギアボックス、13a……入力軸、
14……伝動フレーム、14a……下部ブラケット、14b……上部ブラケット、
15……支持フレーム、15a……下部ブラケット、15b……上部ブラケット、
16……チェーン伝動ケース、17……端部カバー、
18……コンプレッションロッド、18a……コイルスプリング、18b……係止部、
19……ストッパ、20……ゲージホイール。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラクタの後部に装着され、トラクタと共に走行する作業機本体に支持される作業ロータと、その上方を覆うシールドカバー本体とその進行方向後方側に連結され、前記作業ロータの後方を覆うエプロンを有するシールドカバーを備えるロータリ作業機において、
その進行方向後方側の位置で固定され、その進行方向前方側の端部から前記後方側の位置までの区間が自由な状態であり、前記端部寄りの部分が自重で垂れ下がる、弾性を有する土除け材が、前記シールドカバー本体の前記作業ロータ側の面に2枚以上固定されるとともに、前記エプロンの前記作業ロータ側の面に1枚以上固定され、
前記土除け材は前記シールドカバー本体と前記エプロンの周方向に隣接して複数枚配置され、
前記土除け材の内、前記シールドカバー本体に固定された各土除け材の固定位置すべてが、隣接する他の土除け材と互いに重なっていることを特徴とするロータリ作業機のシールドカバー。
【請求項2】
前記土除け材の内、前記作業ロータの回転方向上流側に位置する土除け材が、前記シールドカバー本体に固定された下流側に位置する土除け材を前記作業ロータ側から覆う状態で重なっていることを特徴とする請求項1に記載のロータリ作業機のシールドカバー。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-07-04 
結審通知日 2016-07-06 
審決日 2016-07-20 
出願番号 特願2008-266269(P2008-266269)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (A01B)
P 1 113・ 851- YAA (A01B)
P 1 113・ 537- YAA (A01B)
P 1 113・ 55- YAA (A01B)
P 1 113・ 853- YAA (A01B)
P 1 113・ 536- YAA (A01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 有家 秀郎小島 寛史  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 住田 秀弘
中田 誠
登録日 2014-01-17 
登録番号 特許第5454845号(P5454845)
発明の名称 ロータリ作業機のシールドカバー  
代理人 樺澤 襄  
代理人 福永 健司  
代理人 林 佳輔  
代理人 山田 哲也  
代理人 林 佳輔  
代理人 高橋 雄一郎  
代理人 樺澤 聡  
代理人 福永 健司  
代理人 北島 志保  
代理人 高橋 雄一郎  
代理人 北島 志保  

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