• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1321777
審判番号 不服2015-21299  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-01 
確定日 2016-11-17 
事件の表示 特願2014- 79035「医用画像診断装置、及び医用画像診断システム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月10日出願公開、特開2014-128737〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年11月27日(優先権主張平成17年11月25日)に出願した特願2006-319356号の一部を新たな特許出願とした特願2012-142480号の一部を、平成26年4月7日に更に新たな特許出願としたものであって、平成27年1月6日付けで拒絶の理由が通知され、同年3月16日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月28日付けで拒絶査定がなされ、その謄本は同年9月1日に請求人に送達された。
これに対し、同年12月1日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、それと同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成27年12月1日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成27年12月1日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[補正の却下の決定の理由]

1 本件補正の内容について
(1)本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の記載を次のとおりに補正する補正事項をその一部に含むものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】
過去の所定の画像収集処理に関する特性を示すための情報であって、前記画像収集処理において利用された第1の位置決め画像、前記画像収集処理において使用された第1の撮影条件、前記画像収集処理において前記第1の位置決め画像を用いて設定された第1の撮影範囲の位置に関する情報を少なくとも含む第1のオブジェクトをPACSサーバに記憶する記憶制御ユニットと、
前記第1のオブジェクトに基づいて、前記第1の位置決め画像と現在の画像収集処理において利用される第2の位置決め画像との空間的対応付けを行うオブジェクト解析ユニットと、
前記第1の撮影条件に基づいて、現在の画像収集処理において使用される第2の撮影条件を設定する撮影条件制御ユニットと、
前記第1の撮影範囲が設定された前記第1の位置決め画像と前記第2の位置決め画像とを画像上の位置を対応付けて表示する表示ユニットと、
を具備することを特徴とする医用画像診断装置。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】
過去の所定の画像収集処理に関する特性を示すための情報であって、前記画像収集処理において利用された第1の位置決め画像、前記画像収集処理において使用された第1の影条件(当審注:「影条件」は「撮影条件」の誤記)、前記画像収集処理において前記第1の位置決め画像を用いて設定された第1の撮影範囲の位置に関する情報を少なくとも含む第1のオブジェクトをPACSサーバに記憶する記憶制御ユニットと、
前記第1のオブジェクトに基づいて、前記第1の位置決め画像と現在の画像収集処理において利用される第2の位置決め画像との空間的対応付けを行うオブジェクト解析ユニットと、
前記第1の撮影条件に基づいて、現在の画像収集処理において使用される第2の撮影条件を設定する撮影条件制御ユニットと、
前記第1の撮影範囲が設定された前記第1の位置決め画像と前記第2の位置決め画像とを画像上の位置を対応付けて表示する表示ユニットと、
少なくとも前記第2の撮影条件、前記第2の位置決め画像を含み、現在の画像収集処理に関する特性を示すための情報である第2のオブジェクトを生成するオブジェクト生成ユニットを具備することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の(当審注:「請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の」は、削除するべき誤記)医用画像診断装置。」(下線は、本件補正による補正箇所を示す。)

請求項1には、「前記画像収集処理において使用された第1の影条件」と記載されているが、当該記載中の「影条件」は、請求項1の「前記第1の撮影条件に基づいて」という記載からみて、「撮影条件」の明らかな誤記であり、また、請求項1には、「請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の医用画像診断装置」と記載されているが、当該記載は、明細書の【課題を解決するための手段】の段落【0014】における記載からみて、請求項1が独立形式請求項であることは明らかであることから、「医用画像診断装置」の明らかな誤記である。

(2)本件補正の目的について
上記請求項1についての補正事項は、本件補正前の請求項1において特定されている「医用画像診断装置」について、「少なくとも前記第2の撮影条件、前記第2の位置決め画像を含み、現在の画像収集処理に関する特性を示すための情報である第2のオブジェクトを生成するオブジェクト生成ユニット」を特定することで、さらに限定するものであって、それにより、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が変更されるものでもないから、当該補正事項による補正の目的は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項により従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

2 独立特許要件についての検討

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)イにおいて摘示したとおりの発明特定事項により特定されるものである。

(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平7-299061号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審により付加したもの。)

(ア)「【0012】これらガントリ11、保持装置16およびベッド装置17は操作コンソール18との間で信号・データの送受を行なっており、被検体10の位置やティルト角度等が操作コンソール18によって制御されるようになっている。また、X線管14の制御(X線のオン、オフやX線条件の制御等)や回転機構の制御やX線検出器15からの信号取り込みによるデータ収集制御なども操作コンソール18によって行なわれ、収集されたデータは操作コンソール18に送られて画像再構成に供される。この操作コンソール18には、後述の種々の制御装置や画像処理装置あるいはディスプレイ装置、キーボードやマウスなどの入力装置が備えられている。操作コンソール18の前面にはディスプレイ画面19が配置されている。
【0013】図2に示すように、中央制御装置21からの指示がデータバス22を経てスキャン制御装置23に伝えられることにより、ガントリ11におけるスキャンが制御される。つまり、X線管14が所定のX線条件となるように制御されてX線を発生するようにされ、その状態で、X線管14と検出器15とを回転するよう回転機構が制御される。他方、データ収集装置26も中央制御装置21により制御され、検出器15の出力をサンプリングおよびA/D変換することにより、被検体10を透過したX線によるデータを収集する。このときX線が走査する平面を被検体10のどの位置の面とするかはベッド制御装置25によってベッド装置17が制御されることにより定まる。またそのスライス面の角度は、ティルト制御装置24により保持装置16を制御してガントリ11の傾き角度を調整することにより、定められる。
【0014】入力装置27はキーボードやマウスなどであり、これにより患者の名前や種々のコマンドなどを入力したり、後述のカーソル位置・傾きの設定などを行なう。上記のようにデータ収集装置26で収集したデータは画像再構成装置30に送られて被検体10のスライス面での断層像(CT像)が再構成され、これが画像処理装置29などを経てディスプレイ装置28に送られて表示される。またこの再構成された画像が記録装置31により記録される。この記録装置31としてはたとえば光磁気ディスクなどが用いられる。」

(イ)「【0015】CT画像のためのデータ収集に先立ち、被検体10のどの面でX線の走査を行なうかを決める必要がある。このスライス面は一つの被検体10について1回の撮像ごとに8?20ほど定める。このようなスライス計画の設定のためにリファレンス像を撮影する。X線CT装置では通常、リファレンス像としてX線透過像が用いられる。X線管14と検出器15の回転を停止させた状態でX線管14からX線を発生させ、このときベッド装置17により被検体10を移動させる。これによって収集したデータを取得位置ごとに並べれば、X線管14側から見たような透過像が形成できる。このような透過像の構成は画像再構成装置30などにより行なう。この透過像はリファレンス画像としてディスプレイ画面19に表示される。
【0016】図3は、このようなリファレンス画像が表示されたディスプレイ画面19を表わしている。ここで示す例ではディスプレイ画面19に画像表示領域41と、文字表示領域42とが設けられており、画像表示領域41にリファレンス画像である透過像43が表示される。文字表示領域42には患者の氏名等の患者情報や、撮影年月日、あるいは撮影条件等が表示される。ここでは腰椎の椎体、椎間にスライス面を設定してそのスライス面での断層像を得る腰椎検査を行なうものとしている。リファレンス画像として表示された透過像43は患者の腹部を側面からX線照射して得たものであって、S字状に湾曲した腰椎部分が現われている。
【0017】この透過像43を観察しながら、マウス等を操作することにより、カーソル44を、断層像を得たいスライス面を表わすように、腰椎の椎体、椎間に設定する。このような透過像43上におけるカーソル44の設定により、スライス計画の設定ができるまで、患者はベッドの上で先に透過像43を撮影した位置・姿勢を保っており、スライス計画の設定が終了すると、カーソル44によって示されるスライス位置・角度となるように被検体10の移動とガントリ11のティルトとが制御される。こうしてスライス計画に基づいて一連の撮像スキャンが自動的に行なわれ、複数枚の断層像が得られる。
【0018】この断層像は記録装置31において患者の氏名等の文字情報とともに記録される。また、これに加えて、スライス計画のためのリファレンス画像として用いた透過像43およびカーソル44もまた、記録装置31に記録される。」

(ウ)「【0019】その後、患者の経過を観察するために再度同一部位の同一スライス面を撮影したい場合、再び、、スライス計画のためのリファレンス画像として同様な透過像を撮影し、この透過像上でスライス計画を立てる必要がある。この場合、記録装置31に記録されていた前回の透過像43およびカーソル44に関する情報を読み出し、今回の透過像と対応させる。すなわち、今回のリファレンス画像を図3のように表示させておいて、そこに前回の透過像43およびカーソル44の画像を重ね合わせる。その際、前回の透過像43は今回の透過像とは異なる色で表示したり、あるいは輪郭のみの像としておく。
【0020】つまり、図4に示すように、今回の画像表示領域45に表わされた透過像46に対して、輪郭のみとされた前回の透過像43を、前回の画像表示領域41の輪郭およびカーソル44とともに重ね合わせる(図4では前回のこれらの画像は点線で表わしている)。前回と今回では透過像を撮影するときの条件が異なることがあり、X線管14-検出器15と、被検体10との位置関係(とくにX線管14から被検体10までの距離)がずれていると、2つの透過像43、46の間では大きさが異なっていたり、位置がずれていたりする。そこで、画像処理装置29によって、前回の透過像43の全体につき、その表示領域41およびカーソル44の画像も含めて、平行移動、回転移動、拡大、縮小などの処理を施しながら、2つの透過像43、46がなるべくぴったりと重なるようにする操作が必要となる場合がある。
【0021】こうして2つの透過像43、46がなるべくぴったりと重なるような状態になったとき、今回の透過像46に対して前回のカーソル44のみを固定させ、今回の透過像46に関するスライス面の設定を行なう。このように、前回の透過像43を参照しながら、今回の透過像46との対応関係に基づいて前回のスライス面設定をそのまま流用することができるため、多数のスライス面の設定を前回と同様のものとして行なわなければならない場合に、スライス計画の設定が非常に簡単になる。こうしてスライス計画が設定されるとそれに基づいて一連の撮像スキャンが自動的に行なわれ、前回と同様のスライス面での複数枚の断層像が得られる。そのため、前回と今回の断層像の比較が意味のあるものとなり、2回の撮像の間の変化をとらえやすくなる。」

(エ)「【0023】また、記録装置31に前回の撮影による断層像を記録するときに、患者の氏名等の文字情報やスライス計画のためのリファレンス画像として用いた透過像43およびカーソル44だけでなく、透過像43の撮影条件(X線条件やX線管14から被検体10までの距離等も含めたX線管14-検出器15の撮像系に対する被検体10の位置関係など)をも記録しておけば、これを読み出して今回の透過像46の撮影のために使用し、同じ条件で透過像46を得ることができる。そうすると、2つの透過像43、46を重ね合わせる際に、画像の大きさ等一致している部分が多いため、画像の平行移動のみで両画像の重ね合わせができるなど、操作がいっそう容易になる。さらに、前回の断層像撮影の条件をも記録しておけば、スライス面の位置・角度のみならず各スライス面での撮影条件等も流用でき、スライス計画の設定がさらに容易になる。」

(オ)図2


(カ)図3


(キ)図4


イ 引用例1に記載された発明

(ア)上記ア(ア)及び(オ)から、X線CT装置は、中央制御装置21が、データバス22を経て、スキャン制御装置23、ティルト制御装置24、ベッド移動制御装置25、データ収集装置26、入力装置27、ディスプレイ装置28、画像処理装置29、画像再構成装置30及び記録装置31と接続されている操作コンソール18を備えることが読み取れる。

(イ)上記ア(エ)には、記録装置31に前回の撮影による断層像を記録するときに、透過像43の撮影条件も記録し、これを読み出して今回の透過像46の撮影条件に設定すること、及び、前回の断層像の撮影条件も記録し、これを読み出して今回の断層像の撮影条件に設定することが開示されている。

(ウ)上記(ア)及び(イ)を含め上記ア(ア)?(キ)の記載を総合すると、引用例1には、次の発明が記載されているものと認められる。

「中央制御装置21が、データバス22を経て、スキャン制御装置23、ティルト制御装置24、ベッド移動制御装置25、データ収集装置26、入力装置27、ディスプレイ装置28、画像処理装置29、画像再構成装置30及び記録装置31と接続されている操作コンソール18を備えるX線CT装置であって、
ディスプレイ画面19に画像表示領域41と、文字表示領域42とが設けられており、画像表示領域41にリファレンス画像である透過像43が表示され、文字表示領域42には患者の氏名等の患者情報や、撮影年月日、あるいは撮影条件等が表示され、この透過像43を観察しながら、カーソル44を、断層像を得たいスライス面に設定し、スライス計画の設定が終了すると、スライス計画に基づいて一連の撮像スキャンが自動的に行なわれ、複数枚の断層像が得られ、この断層像は記録装置31において患者の氏名等の文字情報とともに記録され、これに加えて、スライス計画のためのリファレンス画像として用いた透過像43およびカーソル44もまた、記録装置31に記録され、
その後、再度同一部位の同一スライス面を撮影したい場合、今回の画像表示領域45に表わされた透過像46に対して、輪郭のみとされた前回の透過像43を、前回の画像表示領域41の輪郭およびカーソル44とともに重ね合わせ、2つの透過像43、46がなるべくぴったりと重なるような状態になったとき、今回の透過像46に対して前回のカーソル44のみを固定させ、今回の透過像46に関するスライス面の設定を行ない、こうしてスライス計画が設定されるとそれに基づいて一連の撮像スキャンが自動的に行なわれ、前回と同様のスライス面での複数枚の断層像が得られ、
記録装置31に前回の撮影による断層像を記録するときに、透過像43の撮影条件も記録し、これを読み出して今回の透過像46の撮影条件に設定し、また、前回の断層像の撮影条件も記録し、これを読み出して今回の断層像の撮影条件に設定する、X線CT装置。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 「記憶制御ユニット」について

(ア)引用発明の「前回の」「透過像43を観察しながら、カーソル44を、断層像を得たいスライス面に設定し、スライス計画の設定が終了すると、スライス計画に基づいて一連の撮像スキャンが自動的に行なわれ、複数枚の断層像が得られ」る工程は、前回の断層像を収集するための処理であることが明らかであるから、本件補正発明の「過去の所定の画像収集処理」に相当するといえる。

(イ)上記(ア)を踏まえると、引用発明の「前回の透過像43」は、「複数枚の断層像」を「得」るための位置決め画像といえるから、本件補正発明の「過去の所定の」「画像収集処理において利用された第1の位置決め画像」に相当するものである。

(ウ)上記(ア)を踏まえると、引用発明の「前回の」「透過像43の撮影条件」及び「前回の断層像の撮影条件」は、本件補正発明の「過去の所定の」「画像収集処理において使用された第1の撮影条件」に相当するものである。

(エ)上記(ア)を踏まえると、引用発明の「前回の」「透過像43を観察しながら、カーソル44を、断層像を得たいスライス面に設定し」た「スライス計画」は、透過像43を用いてカーソル44により設定された断層像の撮影範囲の位置に関する情報(上記ア(カ)参照。)であることが明らかであるから、本件補正発明の「過去の所定の」「画像収集処理において前記第1の位置決め画像を用いて設定された第1の撮影範囲の位置に関する情報」に相当するものである。

(オ)引用発明の、上記(イ)の「前回の透過像43」、上記(ウ)の「前回の」「透過像43の撮影条件」及び「前回の断層像の撮影条件」、並びに上記(エ)の「前回の」「透過像43を観察しながら、カーソル44を、断層像を得たいスライス面に設定し」た「スライス計画」は、いずれも、「複数枚の断層像が得られ」る工程に必要な特性を示すための情報であることが明らかであるから、本件補正発明の「過去の所定の画像収集処理に関する特性を示すための情報」に相当する。

(カ)本件補正発明における「オブジェクト」とは、本願明細書の段落【0056】の記載を踏まえると、「過去の医療行為実施時において使用された情報(例えば、位置決め画像、撮影位置、撮影範囲、撮影条件、画像生成条件等)を有効に利用するために、画像情報と付帯(文字または数値)情報とから構成され」、「通常の画像データとは分離した情報の実体(例えばファイル)として生成され、保存・管理される」ものと理解できる。
一方、引用発明の、上記(イ)の「前回の透過像43」、上記(ウ)の「前回の」「透過像43の撮影条件」及び「前回の断層像の撮影条件」、並びに上記(エ)の「前回の」「透過像43を観察しながら、カーソル44を、断層像を得たいスライス面に設定し」た「スライス計画」は、上記(オ)で述べたとおり「過去の所定の画像収集処理に関する特性を示すための情報」であって、「記録装置31に前回の撮影による断層像」と関連付けて記録されたデータ構造で記録したファイルであることは明らかである。
してみれば、引用発明の、「前回の透過像43」、「前回の」「透過像43の撮影条件」及び「前回の断層像の撮影条件」、並びに「前回の」「透過像43を観察しながら、カーソル44を、断層像を得たいスライス面に設定し」た「スライス計画」は、本件補正発明の「第1のオブジェクト」に相当する。

(キ)上記(ア)?(カ)の対比をまとめると、引用発明の、前回の「複数枚の断層像」を「得」るための情報であって、「前回の透過像43」、「前回の」「透過像43の撮影条件」及び「前回の断層像の撮影条件」、並びに「前回の」「透過像43を観察しながら、カーソル44を、断層像を得たいスライス面に設定し」た「スライス計画」を少なくとも含む情報は、本件補正発明の「過去の所定の画像収集処理に関する特性を示すための情報であって、前記画像収集処理において利用された第1の位置決め画像、前記画像収集処理において使用された第1の撮影条件、前記画像収集処理において前記第1の位置決め画像を用いて設定された第1の撮影範囲の位置に関する情報を少なくとも含む第1のオブジェクト」に相当する。

(ク)引用発明の「記録装置31」と、本件補正発明の「PACSサーバ」とは、共に、「記憶装置」である点で共通するものといえる。

(ケ)引用発明の「操作コンソール18」が、「記録装置31」を制御する構成を備えていることは、技術的に明らかであるから、引用発明が、本件補正発明の「記憶制御ユニット」に相当する構成を備えていることは明らかである。

(コ)よって、上記(ア)?(ケ)の対比を総合すると、
引用発明の、前回の「複数枚の断層像」を「得」るための情報であって、「前回の透過像43」、「前回の」「透過像43の撮影条件」及び「前回の断層像の撮影条件」、並びに「前回の」「透過像43を観察しながら、カーソル44を、断層像を得たいスライス面に設定し」た「スライス計画」を少なくとも含む情報を、「記録装置31に記録」する構成と、
本件補正発明の「過去の所定の画像収集処理に関する特性を示すための情報であって、前記画像収集処理において利用された第1の位置決め画像、前記画像収集処理において使用された第1の撮影条件、前記画像収集処理において前記第1の位置決め画像を用いて設定された第1の撮影範囲の位置に関する情報を少なくとも含む第1のオブジェクトをPACSサーバに記憶する記憶制御ユニット」とは、
共に、「過去の所定の画像収集処理に関する特性を示すための情報であって、前記画像収集処理において利用された第1の位置決め画像、前記画像収集処理において使用された第1の撮影条件、前記画像収集処理において前記第1の位置決め画像を用いて設定された第1の撮影範囲の位置に関する情報を少なくとも含む第1のオブジェクトを記憶装置に記憶する記憶制御ユニット」である点で共通するものといえる。

イ 「オブジェクト解析ユニット」について

(ア)引用発明は、「今回の画像表示領域45に表わされた透過像46に対して、輪郭のみとされた前回の透過像43を、前回の画像表示領域41の輪郭およびカーソル44とともに重ね合わせ、2つの透過像43、46がなるべくぴったりと重なるような状態」にするものである。
ここでの「今回の」「透過像46」は、「複数枚の断層像」を「得」るための位置決め画像といえるから、本件補正発明の「現在の画像収集処理において利用される第2の位置決め画像」に相当する。また、ここでの「前回の透過像43」が、本件補正発明の「記憶」された「第1のオブジェクト」に含まれていることは明らかである。

(イ)引用発明の「操作コンソール18」が、「今回の画像表示領域45に表わされた透過像46に対して、輪郭のみとされた前回の透過像43を、前回の画像表示領域41の輪郭およびカーソル44とともに重ね合わせ、2つの透過像43、46がなるべくぴったりと重なるような状態」にする構成を備えていることは、技術的に明らかであるから、引用発明が、本件補正発明の「オブジェクト解析ユニット」に相当する構成を備えていることは明らかである。

(ウ)上記(ア)及び(イ)の対比をまとめると、引用発明の「今回の画像表示領域45に表わされた透過像46に対して、輪郭のみとされた前回の透過像43を、前回の画像表示領域41の輪郭およびカーソル44とともに重ね合わせ、2つの透過像43、46がなるべくぴったりと重なるような状態」にする構成は、本件補正発明の「前記第1のオブジェクトに基づいて、前記第1の位置決め画像と現在の画像収集処理において利用される第2の位置決め画像との空間的対応付けを行うオブジェクト解析ユニット」に相当する。

ウ 「撮影条件制御ユニット」について

(ア)引用発明では、前回の「透過像43」と「断層像の撮影条件」「を読み出して今回の透過像46」と「断層像の撮影条件に設定する」ことが特定されているところ、引用発明の「操作コンソール18」が、「前回の」「撮影条件」に基づいて、「今回の」「撮影条件」を、「入力装置27」を介してもしくは自動的に「設定する」構成を備えていることは、技術的に明らかであるから、引用発明が、本件補正発明の「撮影条件制御ユニット」に相当する構成を備えていることは明らかである。

(イ)よって、引用発明の、前回の「透過像43」と「断層像の撮影条件」「を読み出して今回の透過像46」と「断層像の撮影条件に設定する」構成は、本件補正発明の「前記第1の撮影条件に基づいて、現在の画像収集処理において使用される第2の撮影条件を設定する撮影条件制御ユニット」に相当する。

エ 「表示ユニット」について

(ア)引用発明の「今回の画像表示領域45に表わされた透過像46に対して、輪郭のみとされた前回の透過像43を、前回の画像表示領域41の輪郭およびカーソル44とともに重ね合わせ、2つの透過像43、46がなるべくぴったりと重なるような状態」にすることは、「ディスプレイ装置28」の「ディスプレイ画面19」上に表示して行っていることは、明らかである。

(イ)よって、上記ア及びイの対比を踏まえると、引用発明の「今回の画像表示領域45に表わされた透過像46に対して、輪郭のみとされた前回の透過像43を、前回の画像表示領域41の輪郭およびカーソル44とともに重ね合わせ、2つの透過像43、46がなるべくぴったりと重なるような状態」を「ディスプレイ画面19」上に表示する「ディスプレイ装置28」は、本件補正発明の「前記第1の撮影範囲が設定された前記第1の位置決め画像と前記第2の位置決め画像とを画像上の位置を対応付けて表示する表示ユニット」に相当する。

オ 「オブジェクト生成ユニット」について

(ア)引用発明の「今回の透過像46」と「今回の断層像の撮影条件」、及び「今回の透過像46」は、それぞれ本件補正発明の「第2の撮影条件」、及び「第2の位置決め画像」に相当する。

(イ)引用発明の「今回の透過像46」と「今回の断層像の撮影条件」、及び「今回の透過像46」は、いずれも、「複数枚の断層像が得られ」る工程に必要な特性を示すための情報であることが明らかであるから、本件補正発明の「現在の所定の画像収集処理に関する特性を示すための情報」に相当する。

(ウ)引用発明の「今回の透過像46」と「今回の断層像の撮影条件」、及び「今回の透過像46」は、上記(イ)で述べたとおり「現在の所定の画像収集処理に関する特性を示すための情報」であって、記録装置31に今回の撮影による断層像と関連付けて記録されたデータ構造で記録したファイルであることは明らかであることから、本件補正発明の「第2のオブジェクト」に相当する。

(エ)上記(ウ)の対比を踏まえると、引用発明の「操作コンソール18」が、「今回の透過像46」と「今回の断層像の撮影条件」、及び「今回の透過像46」を、いずれも、記録装置31に今回の撮影による断層像と関連付けて記録されたデータ構造で記録したファイルとして、生成する構成を備えていることは、技術的に明らかであるから、引用発明が、本件補正発明の「オブジェクト生成ユニット」に相当する構成を備えていることは明らかである。

(オ)上記(ア)?(エ)の対比をまとめると、引用発明の「今回の透過像46」と「今回の断層像の撮影条件」、及び「今回の透過像46」を生成する構成は、本件補正発明の「少なくとも前記第2の撮影条件、前記第2の位置決め画像を含み、現在の画像収集処理に関する特性を示すための情報である第2のオブジェクトを生成するオブジェクト生成ユニット」に相当する。

カ 「医用画像診断装置」について

引用発明の「X線CT装置」は、「患者」を対象とするものであるから、本件補正発明の「医用画像診断装置」に相当する。

キ 上記ア?カでの検討を踏まえると、本件補正発明と引用発明とは、次の点で一致し、次の相違点で相違するものである。

<一致点>
「過去の所定の画像収集処理に関する特性を示すための情報であって、前記画像収集処理において利用された第1の位置決め画像、前記画像収集処理において使用された第1の撮影条件、前記画像収集処理において前記第1の位置決め画像を用いて設定された第1の撮影範囲の位置に関する情報を少なくとも含む第1のオブジェクトを記憶装置に記憶する記憶制御ユニットと、
前記第1のオブジェクトに基づいて、前記第1の位置決め画像と現在の画像収集処理において利用される第2の位置決め画像との空間的対応付けを行うオブジェクト解析ユニットと、
前記第1の撮影条件に基づいて、現在の画像収集処理において使用される第2の撮影条件を設定する撮影条件制御ユニットと、
前記第1の撮影範囲が設定された前記第1の位置決め画像と前記第2の位置決め画像とを画像上の位置を対応付けて表示する表示ユニットと、
少なくとも前記第2の撮影条件、前記第2の位置決め画像を含み、現在の画像収集処理に関する特性を示すための情報である第2のオブジェクトを生成するオブジェクト生成ユニットを具備する、医用画像診断装置。」である点

<相違点1>
過去の所定の画像収集処理に関する特性を示すための情報を記憶する記憶装置について、本件補正発明は、「PACSサーバ」であるのに対し、引用発明は、X線CT装置が備える記録装置31である点

(4)検討
相違点1について検討する。

X線CT装置において、過去の所定の画像収集処理に関する特性を示すための情報を、ネットワーク上のPACSサーバに記憶することは、本願の優先日前において周知である。例えば、原査定の周知例として引用した特開2005-327301号公報(段落【0015】)の他に、特開2004-171386号公報(段落【0036】?【0038】)、特開2005-44321号公報(段落【0012】)など多数挙げられる。
そして、引用発明において、過去の所定の画像収集処理に関する特性を示すための情報を、その利便性を考慮して、ネットワーク環境下のサーバに記憶してみようとすることは当業者が容易に想到することであり、引用例1の記載において特段の阻害要因も見当たらない。
してみると、引用発明において、過去の所定の画像収集処理に関する特性を示すための情報を、上記周知技術に鑑み、X線CT装置が備えた記憶装置に記憶することに代えて、ネットワーク上のPACSサーバに記憶することとし、上記相違点1に係る本件特許発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に為し得たことである。

(5)本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果は、引用例1の記載及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものであって格別なものではない。

(6)小括
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし16に係る発明は、平成27年3月16日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものであって、そのうち請求項1に係る発明は、上記第2の1(1)アにおいて記載したとおりのものである。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

2 引用例及びその記載事項
原査定で引用された引用例1に記載の事項は、上記第2の2(2)において説示し、認定したとおりである。

3 本願発明と引用発明との対比・判断
本件補正発明は、本願発明において特定されている「医用画像診断装置」について、「少なくとも前記第2の撮影条件、前記第2の位置決め画像を含み、現在の画像収集処理に関する特性を示すための情報である第2のオブジェクトを生成するオブジェクト生成ユニット」を特定することで、さらに限定するものであるから、本願発明は、本件補正発明から限定事項を省いた発明といえる。その本件補正発明が、上記第2の2において検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
上記で検討したように、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-13 
結審通知日 2016-09-20 
審決日 2016-10-03 
出願番号 特願2014-79035(P2014-79035)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 九鬼 一慶田邉 英治  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
田中 洋介
発明の名称 医用画像診断装置、及び医用画像診断システム  
代理人 井上 正  
代理人 野河 信久  
代理人 河野 直樹  
代理人 鵜飼 健  
代理人 峰 隆司  
代理人 蔵田 昌俊  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ