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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1321953
審判番号 不服2015-17743  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-30 
確定日 2016-11-24 
事件の表示 特願2012-536005「メディアデータ及びメタデータの組み合わせを供給する方法及びシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月12日国際公開、WO2011/055288,平成25年 3月21日国内公表,特表2013-510462〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2010年(平成22年)11月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年11月4日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は,以下のとおりである。
平成26年 8月28日付け:拒絶理由の通知
平成26年12月 2日 :手続補正
平成27年 5月27日付け:拒絶査定
平成27年 6月 2日 :拒絶査定の謄本の送達
平成27年 9月30日 :拒絶査定不服審判の請求
平成27年 9月30日 :手続補正(誤訳訂正書の提出)

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年9月30日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下「本件補正」という。)は,本件補正前の平成26年12月2日付けの手続補正書の特許請求の範囲に記載された,

「【請求項1】
ビデオデータ及びメタデータの組み合わせを供給する方法において,
処理システムが,ビデオカメラにより取り込まれる画像のシーケンスを得るステップと,
前記処理システムが,前記画像のシーケンスから少なくとも1つの信号を抽出するステップであり,各々の抽出した信号は,光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付けている,ステップと,
前記処理システムが,圧縮したビデオデータを得るために,前記シーケンスからの画像の画像データに少なくとも1つのビデオ圧縮技術を適用するステップであり,前記少なくとも1つの抽出した信号は,前記画像からの画像データに前記少なくとも1つの圧縮技術を適用する前の状態の画像から抽出される,ステップと,
前記処理システムが,前記画像の少なくとも一部に表される被験者における少なくとも1つの処理を特徴付けるためのメタデータを前記圧縮したビデオデータに供給するステップであり,前記処理は,前記被験者から取り込まれる光の色及び強度の少なくとも1つの局所的な時間変動を引き起こし,前記メタデータは前記抽出した信号の少なくとも1つに少なくとも基づいている,ステップとを有する,方法。
【請求項2】
前記処理システムが,前記少なくとも1つの抽出した信号の少なくとも1つの得られた部分に少なくとも基づいたデータの分析の結果に依存して,前記少なくとも1つの圧縮技術の適用を適合させるステップを含む,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理システムが,前記画像のシーケンスを得ている間,前記抽出した信号の少なくとも1つの得られた部分に少なくとも基づいたデータの分析の結果に依存して,少なくとも1つのカメラを使用して前記画像を取り込む処理のパラメタを調節させるステップを有する,請求項1に記載の方法。
【請求項4】
カメラに含まれる処理システムにより実行される,請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記メタデータは,前記画像のシーケンスにおける光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付ける少なくとも1つの信号を含んでいる,請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ビデオデータ及びメタデータの組み合わせを供給するためのシステムにおいて,
画像のシーケンスを取り込むためのカメラとのインタフェースと,
圧縮したビデオデータを得るために,前記シーケンスからの画像の画像データに少なくとも1つのビデオ圧縮技術を適用し,前記画像のシーケンスから少なくとも1つの信号を抽出し,前記画像の少なくとも一部に表される少なくとも1人の被験者における少なくとも1つの処理を特徴付けるためのメタデータを生成するように構成されるビデオデータ処理システムであり,各々の抽出した信号は,光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付け,前記少なくとも1つの抽出した信号は,前記画像からの画像データに前記少なくとも1つの圧縮技術を適用する前の状態の画像から抽出され,前記メタデータは,前記被験者から取り込まれる光の色及び強度の少なくとも1つの局所的な時間変動を引き起こす処理を特徴付け,前記抽出した信号の少なくとも1つに少なくとも基づいている,ビデオデータ処理システムと,
前記圧縮したビデオデータに前記メタデータを供給するための出力インタフェースを有する,システム。
【請求項7】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の方法を実行するように構成される,請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
圧縮したビデオ及びメタデータの組み合わせを含む信号を処理する方法であって,
前記圧縮したビデオは,画像のシーケンスからの画像の画像データに少なくとも1つのビデオ圧縮技術を適用することにより得ることができ,前記メタデータは,前記画像のシーケンスにおける光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付ける少なくとも1つの信号を含み,前記少なくとも1つの信号は,前記画像からの画像データに前記少なくとも1つの圧縮技術を適用する前の状態の画像から抽出され,
当該方法は,処理システムが,前記画像のシーケンスの少なくとも一部に表される被験者における少なくとも1つの処理を特徴付けるパラメタの少なくとも1つの値を計算するステップを含み,
前記処理は,前記画像のシーケンスにおける光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付ける前記信号の少なくとも1つを入力として用いて,前記被験者から取り込まれる光の色及び強度の少なくとも1つの局所的な時間変動を引き起こす,方法。
【請求項9】
圧縮したビデオ及びメタデータの組み合わせを含む信号を処理するシステムにおいて,
前記圧縮したビデオは,画像のシーケンスからの画像の画像データに少なくとも1つのビデオ圧縮技術を適用することにより得ることができ,前記メタデータは,前記画像のシーケンスにおける光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付ける少なくとも1つの信号を含み,前記少なくとも1つの信号は,前記画像からの画像データに前記少なくとも1つの圧縮技術を適用する前の状態の画像から抽出され,
当該システムは,
前記信号を得るためのインタフェースと,
前記画像のシーケンスの少なくとも一部に表される被験者における少なくとも1つの処理を特徴付けるパラメタの少なくとも1つの値を計算するためのデータ処理システムであり,前記処理は,前記画像のシーケンスにおける光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付ける前記信号の少なくとも1つを入力として用いて,前記被験者から取り込まれる光の色及び強度の少なくとも1つの局所的な時間変動を引き起こす,データ処理システムとを有する,システム。
【請求項10】
機械読み取り可能な媒体に実装されるとき,情報処理機能を持つシステムに請求項1乃至5又は請求項8の何れか一項に記載の方法を行わせることが可能である命令の組を含む,コンピュータプログラム。」

という発明(特に,請求項1に係る発明を,以下「本願発明」という。)を,平成27年9月30日付け誤訳訂正書の特許請求の範囲に記載された,

「【請求項1】
ビデオデータ及びメタデータの組み合わせを供給する方法において,
処理システムが,ビデオカメラにより取り込まれる画像のシーケンスを得るステップと,
前記処理システムが,前記画像のシーケンスにある複数の関心領域から少なくとも1つの信号を抽出するステップであり,各々の抽出した信号は,光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付けている,ステップと,
前記処理システムが,圧縮したビデオデータを得るために,前記シーケンスからの画像の画像データに少なくとも1つのビデオ圧縮技術を適用するステップであり,前記少なくとも1つの抽出した信号は,前記画像からの画像データに前記少なくとも1つの圧縮技術を適用する前の状態の画像から抽出される,ステップと,
前記処理システムが,前記画像の少なくとも一部に表される被験者における少なくとも1つの生物学的処理を特徴付けるためのメタデータを前記圧縮したビデオデータに供給するステップであり,前記処理は,前記被験者から取り込まれる光の色及び強度の少なくとも1つの局所的な時間変動を引き起こし,前記メタデータは前記抽出した信号の少なくとも1つに少なくとも基づいている,ステップとを有する,方法。
【請求項2】
前記処理システムが,前記少なくとも1つの抽出した信号の少なくとも1つの得られた部分に少なくとも基づいたデータの分析の結果に依存して,前記少なくとも1つの圧縮技術の適用を適合させるステップを含む,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理システムが,前記画像のシーケンスを得ている間,前記抽出した信号の少なくとも1つの得られた部分に少なくとも基づいたデータの分析の結果に依存して,少なくとも1つのカメラを使用して前記画像を取り込む処理のパラメタを調節させるステップを有する,請求項1に記載の方法。
【請求項4】
カメラに含まれる処理システムにより実行される,請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記メタデータは,前記画像のシーケンスにおける光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付ける少なくとも1つの信号を含んでいる,請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ビデオデータ及びメタデータの組み合わせを供給するためのシステムにおいて,
画像のシーケンスを取り込むためのカメラとのインタフェースと,
圧縮したビデオデータを得るために,前記シーケンスからの画像の画像データに少なくとも1つのビデオ圧縮技術を適用し,前記画像のシーケンスにある複数の関心領域から少なくとも1つの信号を抽出し,前記画像の少なくとも一部に表される少なくとも1人の被験者における少なくとも1つの生物学的処理を特徴付けるためのメタデータを生成するように構成されるビデオデータ処理システムであり,各々の抽出した信号は,光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付け,前記少なくとも1つの抽出した信号は,前記画像からの画像データに前記少なくとも1つの圧縮技術を適用する前の状態の画像から抽出され,前記メタデータは,前記被験者から取り込まれる光の色及び強度の少なくとも1つの局所的な時間変動を引き起こす処理を特徴付け,前記抽出した信号の少なくとも1つに少なくとも基づいている,ビデオデータ処理システムと,
前記圧縮したビデオデータに前記メタデータを供給するための出力インタフェースを有する,システム。
【請求項7】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の方法を実行するように構成される,請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
圧縮したビデオ及びメタデータの組み合わせを含む信号を処理する方法であって,
前記圧縮したビデオは,画像のシーケンスからの画像の画像データに少なくとも1つのビデオ圧縮技術を適用することにより得ることができ,前記メタデータは,前記画像のシーケンスにある複数の関心領域における光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付ける少なくとも1つの信号を含み,前記少なくとも1つの信号は,前記画像からの画像データに前記少なくとも1つの圧縮技術を適用する前の状態の画像から抽出され,
当該方法は,処理システムが,前記画像のシーケンスの少なくとも一部に表される被験者における少なくとも1つの生物学的処理を特徴付けるパラメタの少なくとも1つの値を計算するステップを含み,
前記処理は,前記画像のシーケンスにおける光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付ける前記信号の少なくとも1つを入力として用いて,前記被験者から取り込まれる光の色及び強度の少なくとも1つの局所的な時間変動を引き起こす,方法。
【請求項9】
圧縮したビデオ及びメタデータの組み合わせを含む信号を処理するシステムにおいて,
前記圧縮したビデオは,画像のシーケンスからの画像の画像データに少なくとも1つのビデオ圧縮技術を適用することにより得ることができ,前記メタデータは,前記画像のシーケンスにある複数の関心領域における光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付ける少なくとも1つの信号を含み,前記少なくとも1つの信号は,前記画像からの画像データに前記少なくとも1つの圧縮技術を適用する前の状態の画像から抽出され,
当該システムは,
前記信号を得るためのインタフェースと,
前記画像のシーケンスの少なくとも一部に表される被験者における少なくとも1つの生物学的処理を特徴付けるパラメタの少なくとも1つの値を計算するためのデータ処理システムであり,前記処理は,前記画像のシーケンスにおける光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付ける前記信号の少なくとも1つを入力として用いて,前記被験者から取り込まれる光の色及び強度の少なくとも1つの局所的な時間変動を引き起こす,データ処理システムとを有する,システム。
【請求項10】
機械読み取り可能な媒体に実装されるとき,情報処理機能を持つシステムに請求項1乃至5又は請求項8の何れか一項に記載の方法を行わせることが可能である命令の組を含む,コンピュータプログラム。」

という発明(特に,請求項1に係る発明を,以下「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである(下線は,審判請求人が示した補正箇所である。)。

2 補正の目的要件等について
誤訳訂正書を提出することによる本件補正は,国際出願日における国際出願の明細書,請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされており,特許請求の範囲について,以下の点で限定することにより,これを減縮しようとするものであって,かつ,補正前の各発明と,補正後の各発明とは,産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。

・「前記画像のシーケンスから少なくとも1つの信号を抽出する」ことに関し,「前記画像のシーケンスから」抽出することを,「前記画像のシーケンスにある複数の関心領域から」抽出することと特定した点(請求項1,6について)
・メタデータが含む,「前記画像のシーケンスにおける光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付ける少なくとも1つの信号」に関し,「前記画像のシーケンスにおける」ものであることを,「前記画像のシーケンスにある複数の関心領域における」ものであることと特定した点(請求項8,9について)
・「処理を特徴付けるためのメタデータ」に関し,当該「処理」が「生物学的処理」である旨,特定した点(請求項1,6について)
・「処理を特徴付けるパラメタ」に関し,当該「処理」が「生物学的処理」である旨,特定した点(請求項8,9について)

したがって,本件補正後の特許出願は,特許法第184条の18において読み替えて準用する第49条第6号(原文新規事項)に違反するものではなく,また,本件補正は,第17条の2第5項第2号(補正の目的)の規定に適合している。
さらに,同法第第17条の2第4項(シフト補正)の規定に違反するところもない。

3 独立特許要件について
本件補正は,特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるから,補正後の発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について,以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1 本願発明と補正後の発明」において「補正後の発明」として認定したとおりである。
なお,下記のとおり,当審において,(A)から(F)までの記号を説明のために付与した。以下,構成要件A,構成要件Bなどと称することとする。

(A) ビデオデータ及びメタデータの組み合わせを供給する方法において,
(B) 処理システムが,ビデオカメラにより取り込まれる画像のシーケンスを得るステップと,
(C) 前記処理システムが,前記画像のシーケンスにある複数の関心領域から少なくとも1つの信号を抽出するステップであり,各々の抽出した信号は,光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付けている,ステップと,
(D) 前記処理システムが,圧縮したビデオデータを得るために,前記シーケンスからの画像の画像データに少なくとも1つのビデオ圧縮技術を適用するステップであり,前記少なくとも1つの抽出した信号は,前記画像からの画像データに前記少なくとも1つの圧縮技術を適用する前の状態の画像から抽出される,ステップと,
(E) 前記処理システムが,前記画像の少なくとも一部に表される被験者における少なくとも1つの生物学的処理を特徴付けるためのメタデータを前記圧縮したビデオデータに供給するステップであり,前記処理は,前記被験者から取り込まれる光の色及び強度の少なくとも1つの局所的な時間変動を引き起こし,前記メタデータは前記抽出した信号の少なくとも1つに少なくとも基づいている,ステップとを有する,
(F)方法。

(2)引用発明等
(2-1)引用例1の記載及び引用発明
(2-1-1)引用例1の記載
原審の平成26年8月28日付けの拒絶理由に引用された,特開2001-346768号公報(以下「引用例1」という。)には,「遠隔医療診断システム」として,図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【0009】近年,高齢化社会への移行に伴い遠隔医療診断のニーズは非常に高くなっているが,投資コストが低く,利便性が高く,かつ信頼性の高い遠隔医療診断システムが強く要求されているのが実状である。特に,多忙な医師にとっては,自宅あるいは出張先等で携帯電話等を使用して患者の画像,音声,生体信号を受信し,これら受信したデータをノート型パーソナルコンピュータで再生することにより,患者の容態を適切に診断できるシステムの開発が要求されている。
【0010】そこで,本発明の目的は,通信速度が数Mbpsである高速な通信回線,及び通信速度が数十Kbpsと比較的遅いアナログ式公衆電話回線,PHSあるいは携帯電話等の一般電話回線を使用しても,患者側の画像,音声,生体信号データを医師側の診断用端末装置であるノート型パーソナルコンピュータに伝送し,これらのデータを再生し表示することができる遠隔医療診断システムを提供することにある。(後略)」

イ 「【0012】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態について説明する。図1は,本発明の第1の実施の形態を示す全体システム構成図であり,電話回線として有線の一般電話回線を使用した例である。図1において,Aは医師側の診断用端末装置(以下,医師側端末装置という)であり,医師の自宅あるいは出張先などで使用されるもので,ノート型パーソナルコンピュータ(以下ノート型パソコンという)あるいはディスクトップ型パーソナルコンピュータから構成されるが,出張先等の携帯性を考慮するとノート型パソコンが望ましい。Bは患者側端末装置であり,患者の自宅あるいは病院内の患者の部屋に設置される。Cは有線の一般電話回線である。
【0013】医師側の診断用端末装置Aは,前記のように望ましくはノート型パソコン1から構成され,表示装置2,ハードディスク装置等の外部記憶装置3,キーボード及びマウス等の入力装置4を備えている。また,ノート型パソコン1には,図示しないインタフェースを介してマイクとイヤーホーン機能を持つヘッドセット5が接続されている。さらに,ノート型パソコン1は,モデム6を介して一般電話回線Cに接続される。
【0014】患者側端末装置Bは,制御装置7,患者の脈拍,血圧,心電図等を計測する生体モニタ装置8,患者の動きや顔色等を撮像するカメラ9,看護婦又は患者の音声を収集する手段であるマイク10,ヘッドセット5により医師側から送信された音声を出力するスピーカ11から構成されている。生体モニタ装置8は,脈拍,血圧,心電図等を同時に,あるいはこれらの任意のデータを計測することができる。生体モニタ装置8,カメラ9,マイク10,スピーカ11は,制御装置7に各々インターフェイス装置12,13,14,15,16,17,18等を介して接続されている。なお,カメラ9としては,NTSC方式のビデオカメラ,CCDカメラ等が使用できる。
【0015】インターフェイス装置12は,生体モニタ装置8で計測した血圧等のデジタルデータを制御装置7に取り込むためのRS232C回路である。インターフェイス装置13は,生体モニタ装置8で計測した脈拍,心電図等のアナログデータをデジタルデータに変換するための手段であるA/D変換装置である。インターフェイス装置14は,カメラ9で撮像した画像信号をデジタル信号データに変換する手段であり,インターフェイス装置15は,このデジタル信号データに変換した画像信号データを圧縮する手段であり,公知の画像圧縮用LSIを含む回路から構成されている。インターフェイス装置16は,医師側のパソコン1からの指示によりカメラ9の姿勢やズーム機能を制御するために伝送された制御信号を,カメラ9に組み込まれている姿勢制御装置に送信するためのRS232C回路である。インターフェイス装置17は,マイク10により収集した音声をデジタル信号に変換するための手段である。インターフェイス装置18は,医師側のヘッドセット5から送信された音声信号データをスピーカ11から出力するためにアナログ信号に変換する装置である。これらのインターフェイス装置12,13,14,15,16,17,18は,インタフェースボードとして制御装置7に組み込まれている。また,マイク10により収集した音声信号を圧縮するために,インタフェース装置17として音声圧縮機能を有するインタフェースボードを使用することも可能である。
【0016】制御装置7は,マイクロコンピュータ又はパーソナルコンピュータから構成され,RAM等の内部記憶装置19,CRT等の表示装置20を備えている。さらに,制御装置7には,一般電話回線Cとデータの送受信を行うためのモデム21が接続されている。また,制御装置7には,制御装置7の動作を制御するためのソフトウエアが組み込まれている。
【0017】制御装置7は,組み込まれたソフトウエアにより,次の二つの動作を制御する機能を有している。
1 生体モニタ装置8により計測した生体信号データ,カメラ9により撮像した画像信号データ,マイク10により収集した音声信号データを内部記憶装置19に一時記憶して,多重化し,さらに所定のデータ長を持つパケットデータに変換(編集)して医師側のノート型パソコン1に伝送する。特に,生体信号データ,音声信号データはリアルタイムに同期化して収集し,医師側のノート型パソコン1に伝送する。
2)カメラ9の姿勢及びズーム機能をインタフェース装置16を介して制御する。」

ウ 「【0019】以下,患者側端末装置Bを構成する制御装置7の処理のうち,生体信号データ,画像信号データ,音声信号データの収集と,これらデータの多重化,パケットデータへの編集及び医師側端末装置Aへのデータ伝送の処理手順を図3に示すフローチャートに基づいて説明する。この処理は,制御装置7に組み込まれているソフトウエアの制御に従って実行される。
【0020】(中略)
【0021】(ステップS2)制御装置7は,「データ伝送要求信号」を受信すると,生体モニタ装置8が計測した脈拍,血圧,心電図等のデジタル信号データを入力し,内部記憶装置19の所定の領域に一時記憶する。なお,脈拍,血圧,心電図等の生体信号データは,インタフェース装置12,13を介して各々所定の時間間隔で制御装置7に送られる。
【0022】(中略)
【0023】(ステップS4)上記ステップS2,S3の処理を行った処理時間が所定の時間(例えば1秒)ほど経過していない場合には,ステップS2に戻り,生体信号データ,及び音声信号データの入力を行う。このステップS2,S3,S4の処理により,生体信号データ,音声信号データは,リアルタイムにデータを収集し,内部記憶装置19に一時記憶させ,ほぼ同期してリアルタイムに医師側端末装置Aに伝送することができる。
【0024】(ステップS5)前回撮像した1画面分の画像信号データを医師側端末装置Aに伝送済みであり,かつ一般電話回線Cが空きの状態,すなわち,患者側端末装置Bから医師側端末装置Aにデータを伝送することができる状態になっているかどうかをチェックする。これは,医師側端末装置Aと患者側端末装置Bとは,既に一般電話回線Cを介して接続されているが,患者側端末装置Bから医師側端末装置Aにデータ伝送が可能な状態になっているかどうかをモデム21の伝送ポートをソフト的にチェックする処理である。この処理は,医師側端末装置Aに前回伝送したパケットデータの伝送が完了しているかをチェックするために必要な処理である。
【0025】(ステップS6)前回撮像した1画面分の画像信号データを医師側端末装置Aに伝送済みであり,かつ一般電話回線Cが空きの状態になっていれば,その時に,カメラ9で撮像した1画面分の患者の顔色等の画像データを圧縮したデジタル画像信号データを制御装置7に入力し,内部記憶装置19の所定の領域に記憶する。
【0026】(ステップS7)ステップS2,S3,S6の処理で内部記憶装置19に記憶した3種類のデータ,すなわち生体信号データ,音声信号データ及び画像信号データを多重化する。この多重化とは,図5に示すように,各信号データを画像信号データ,生体信号データ,音声信号データの順序に並べ,さらに,1パケットが所定のデータ長(バイト数)を有するパケットデータの構造に変換する。このとき,各パケットデータの先頭にはヘッダ部を設けて,パケットデータ内の画像信号,生体信号,音声信号の各データ長等を記憶する領域を設ける。また,1画面分の画像信号データ量は,画像圧縮した後においても5?20Kバイトになるために,1パケットで1画面分の画像信号データを伝送すると,画像伝送時間がかかり,生体信号データ,音声信号データをリアルタイムに医師側端末装置Aに伝送することができなくなる。従って,本発明では,1画面の画像信号データは,分割して数パケットに分けて伝送するようにしている。このため,図5に示すパケットデータの中の画像信号データの先頭部には,図示していないが,1画面分の画像データの先頭,及び最後の画像データ等を示す画像分割区分データを設けるようにしている。」

エ 「【0030】続いて,医師側端末装置であるノート型パソコン1の処理について説明する。ノート型パソコン1は,医師が自宅又は出張先等において使用する。まず,前記のように,医師は一般の電話機等を用いて患者側端末装置Bにいる看護婦にデータの伝送依頼を行う。続いて,ノート型パソコン1をモデム6を介して通信回線Cに接続し,パソコン1のソフトウエアを稼動させて,パソコン1と患者側の端末装置Bとを一般電話回線Cを介して接続する。図4は,この接続後のノート型パソコン1の処理手順の概要を示すフローチャートである。以下図4に基づいて説明する。
【0031】(中略)
【0032】(ステップS22)患者側端末装置Bから送られてくる1パケット分のデータを受信する。受信した1パケット分のデジタルデータは,内部記憶装置の所定の領域に記憶する。
【0033】(ステップS23)ステップS22で受信した生体信号データ,音声信号データを再生して,生体信号データはノート型パソコン1の表示装置2に表示し,音声信号データはヘッドセット5から音声として出力する。この受信したデータの再生処理では,生体信号データ及び音声信号データはデジタルデータであるので,ソフトウエアの処理により,生体信号データの血圧データは数値,脈拍及び心電図は波形として表示装置2に表示する。また,音声信号データは図示していないインタフェース装置により音声としてヘッドセット5から出力するようにする。
【0034】(ステップS24)ステップS22で受信した1パケット分のデータのうち,画像データを分離して内部記憶装置の所定の画像データ記憶領域に記憶する。このステップでは,1パケットで伝送される画像信号データは,1画面分の画像信号データの一部分であるため,1画面分の画像信号データが伝送されるまで内部記憶装置に記憶するようにしている。
【0035】(中略)
【0036】(ステップS26)患者側端末装置から,1画面分の画像信号データを受信したかをチェックし,まだ受信していない場合には,ステップS22に戻って次の1パケットデータを受信する。(中略)
【0037】(ステップS27)1画面分の画像信号データを受信した場合には,画像データ記憶領域に記憶した1画面分の画像信号データを復号化してノート型パソコン1の表示装置2に表示する。この画像信号データの復号化は,ソフトウエアの処理により患者側端末装置Bで行った画像信号データの圧縮を解凍し,表示装置2に表示可能な信号データに変換する。表示装置2に1画面分の画像信号データを表示すると,患者側端末装置Bに次の画像信号データの伝送要求信号を送り,ステップS22に戻って,次のパケットデータを受信する。なお,表示装置2に血圧,脈拍,心電図等の生体信号データ,及び画像データを表示するときには,表示する画面を適切に分割して表示するようにする。また,1画面分の画像信号データ及び生体信号データは,外部記憶装置3に記憶することも可能である。」

オ 「【0042】
【発明の効果】以上に説明した本発明は次のような効果を有している。
1)通信速度が32Kbps,または64Kbpsという比較的に通信速度が遅い一般電話回線を利用した場合でも,画像信号,生体信号,音声信号データをパケット化して医師側のノート型パソコンに伝送するために,このノート型パソコンでは,画像を静止画像の連続画像として,生体信号及び音声はほぼ患者側とリアルタイムに同期して再生することができるので,医師は適切な診断を行うことができる。
2 画像信号,生体信号,音声信号データの3種類のデータをパケットデータに変換して伝送するので,一般電話回線の1回のみでシステムの構築ができる。
3)医師側端末装置は,ノート型パソコンを利用することが可能であり,利便性が著しく向上するのみならず,電話回線も1回線でよいために,投資コストが低い遠隔医療診断システムを提供することができる。」

(2-1-2)引用発明
上記(2-1-1)の摘記事項アないしオ及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮して引用例1の記載を検討する。

(ア) 上記ア及びイには,引用例1において開示される発明が,医師側端末装置において,撮像された患者の画像や生体信号を受信し,医師が患者の容態を適切に診断できるようにするためのものであることについて記載されている。
また,上記アないしウには,遠隔医療診断システムにおいて,患者側端末装置から医師側端末装置に,画像信号データ及び生体信号データを多重化して伝送することについて記載されている。
上記エには,医師側端末装置において,表示する画面を分割して,生体信号データと画像データとを表示することについて記載されている。
また,上記ウには,引用例患者側端末装置から医師側端末装置に対し,複数枚分の画像信号データが伝送されることが記載され,上記オには,前記画像信号に係る画像が,静止画像の連続画像として再生されることについて記載されている。

以上の記載を踏まえ,上記遠隔医療診断システムの動作を,方法の発明として把握すると,引用例1には,『撮像された患者の,静止画像の連続画像に係る画像信号データと,当該撮像された患者の,生体信号データとを,医師側端末において画面を分割して表示できるように伝送する方法』が記載されているといえる。

(イ) 上記ア及びイには,上記遠隔医療診断システムが,患者側端末装置を備え,当該患者側端末装置の備えるカメラ9が,患者の動きや顔色等の画像を撮像することについて記載されている。
また,上記(ア)に示したように,上記ウには,患者側端末装置から医師側端末装置に対し,複数枚分の画像信号データが伝送されることについて記載され,上記オには,前記画像信号に係る画像が,静止画像の連続画像として再生されることについて記載されている。

以上の記載を踏まえれば,引用例1には,『遠隔医療診断システムが,カメラにより,前記静止画像の連続画像を撮像』することについて記載されているといえる。

(ウ) 上記ア及びイには,遠隔医療診断システムの患者側端末装置において,生体モニタ装置が患者の脈拍等を計測することについて記載されている。
当該記載を踏まえれば,引用例1には,『前記遠隔医療診断システムが,生体モニタ装置で患者の脈拍等を計測』することについて記載されているといえる。

(エ) 上記ア及びイには,遠隔医療診断システムの患者側端末装置において,インターフェイス装置15が,前記カメラ9で撮像した画像の画像信号データを,圧縮することについて記載されている。
当該記載を踏まえれば,引用例1には,『前記遠隔医療診断システムが,カメラで撮像した画像の前記画像信号データを圧縮』することについて記載されているといえる。

(オ) 上記(イ)及び(ウ)に示したように,上記ア及びイには,遠隔医療診断システムの患者側端末装置において,カメラ9が,患者の動きや顔色等を撮像すること,及び生体モニタ装置8が,患者の脈拍等を計測することについて記載されている。
また,上記イ及びウには,患者側端末装置において,制御装置7が,前記圧縮した画像信号データ,及び患者の脈拍等に係る前記生体信号データを多重化し,所定のデータ長を持つパケットデータに変換して,医師側端末装置に伝送することについて記載されている。

以上の記載を踏まえれば,引用例1には,『前記遠隔医療診断システムが,カメラで撮像している患者の脈拍等のデータである前記生体信号データを,前記圧縮した画像信号データと多重化して医師側端末装置に伝送する』ことについて記載されているといえる。

(カ) まとめ
以上によれば,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されている。なお,引用発明に対し,下記のとおり,当審において,(a)から(f)までの記号を説明のために付与した。以下,構成要件a,構成要件bなどと称することとする。

(引用発明)
(a)撮像された患者の,静止画像の連続画像に係る画像信号データと,当該撮像された患者の,生体信号データとを,医師側端末において画面を分割して表示できるように伝送する方法において,
(b)遠隔医療診断システムが,カメラにより静止画像の連続画像を撮像し,
(c)前記遠隔医療診断システムが,生体モニタ装置で患者の脈拍等を計測し,
(d)前記遠隔医療診断システムが,カメラで撮像した画像の前記画像信号データを圧縮し,
(e)前記遠隔医療診断システムが,カメラで撮像している患者の脈拍等のデータである前記生体信号データを,前記圧縮した画像信号データと多重化して医師側端末装置に伝送する,
(f)方法。

(2-2)引用例2の記載及び技術事項
(2-2-1)引用例2の記載
原審の平成26年8月28日付け拒絶理由に引用された,特開2005-218507号公報(以下「引用例2」という。)には,「バイタルサイン計測方法と装置」として,図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,被検体の体動を示す部分を撮像した動画像から生体の状態を示す信号(バイタルサイン)を計測する方法と装置に関する。」

イ 「【0010】
本発明の目的は,被検体のバイタルサインを簡単かつ正確に測定可能にする,バイタルサイン計測方法と装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点によれば,被検体のバイタルサインを示す体動を示す領域を撮像し,該体動を示す領域の撮像信号の画像濃度を算出することを連続して行い,該算出した濃度の時間的変化から前記被検体のバイタルサインを計測する,バイタルサイン計測方法が提供される。」

ウ 「【0017】
第1実施の形態
図1は本発明のバイタルサイン計測装置の第1実施の形態としての構成図である。
バイタルサイン計測装置1は,被検体100,たとえば,人体のバイタルサインを測定するため,本発明の撮像手段としてのビデオカメラ11と,本発明の信号処理手段としての信号処理装置13とを有する。
【0018】
ビデオカメラ11はズーム機能つきであるが,カラービデオカメラでもよいし,モノクロビデオカメラでもよい。本実施の形態ではモノクロビデオカメラを用いた。
ビデオカメラ11は従って,撮像信号として各画素について,たとえば,0?255の階調のデータを出力する。たとえば,白が階調0であり,黒が階調255となる。
【0019】(中略)
【0023】
たとえば,被検体100の位置,および,ビデオカメラ11の撮像条件,たとえば,撮像方向,ズームの度合い,照明条件などは手動で設定する。
なお,上記照明条件については,ビデオカメラ11のオートアイリス機能で生活の場の明暗変化に自動的に対応させることもできる。その場合,照明条件を設定する必要はない。
上記条件下において,ビデオカメラ11で撮像した画像信号(画像データ)を,たとえば,半導体メモリ134に一時的に記憶し,その画像データを1フレーム分液晶表示装置137に表示し,液晶表示装置137に表示された画像データについて,ユーザが,たとえば,マウスなどを用いて,使用する画像領域,たとえば,後述する第1例における第1領域A1,第2領域A2などを設定する。
【0024】
他方,ビデオカメラ11を3次元空間内で撮像の向き(方向)を変更可能な機構を付加し,ズーム機能付きビデオカメラ11を用いて,自動的にビデオカメラ11の撮像方向を調整し,ズームの有無またはズームの程度を調整して希望する撮像条件にすることもできる。(中略)
【0026】
ステップ2:撮像
ビデオカメラ11は連続的にビデオカメラ11の所定位置を撮像して信号処理装置13の入力部131に送出している。
CPU135は所定周期,たとえば,テレビジョン受像機と同じ周期ならば1秒間に33フレーム分の画像データ,または,たとえば,20msごとに1フレーム分の撮像画像データを入力部131から入力して,半導体メモリ134に一時的に1フレーム単位で記憶する(保存する)。(後略)」

エ 「【0030】
第1例,呼吸状態の測定
図3および図4を参照して第1例を述べる。
被検体100が呼吸をしているとき,吸気により胸から背中にかけて膨らみ,場合に応じて,胸から肩にかけて上昇する。他方,呼気のときは胸から背中にかけて窄み,度合いにより胸から肩にかけて下降する。すなわち,被検体100の呼吸の際い,被検体100の胸郭部分は2次元状に上記のごとく動き(体動)をとる。
第1例は,この現象をビデオカメラ11で撮像し,撮像した画像データを信号処理装置13で信号処理して被検体100の呼吸状態を連続的に測定する。
【0031】
図3は本発明のバイタルサイン計測装置およびバイタルサイン計測方法の具体的な第1例として,図1に図解したバイタルサイン計測装置1を用いて呼吸を計測するための撮像領域を図解した図である。
第1例において,ビデオカメラ11は白黒(モノクロ)のビデオカメラを用いた。したがって,ビデオカメラ11の撮像画像データは,たとえば,0?255の範囲の階調のみのデータである。そのため,好ましくは,白地,灰色地などの模様のない無地色の背景の前に,被検体100として着衣した女性が横向きで立ち,または,椅子に座り,胸郭,特に,肺の前に対応する胸部分を第1領域A1とし,第1領域A1を含み,上は肩から下は心臓の下に位置する胸部分まで,横は背中から第1領域A1の先端までを含む第2領域A2についてのビデオカメラ11による撮像画像データを信号処理対象データとする。
白地,灰色地などの模様のない無地色の背景の前に被検体100が横向きに位置することは,被検体100と背景との識別を容易にするためであり,本発明のために必須の条件ではない。
【0032】
ビデオカメラ11による撮像領域は,図3に図解したように,第1領域A1を含む第2領域A2を含み,首から下で,胸郭の上部部分までとすることもできるし,第1領域A1を含む第2領域A2のみとすることもできる。ビデオカメラ11による撮像領域の設定は,ステップ1の動作として,ユーザが手動で行った。
また,ビデオカメラ11で撮像した画像データについての,第1領域A1および第2領域A2の設定も,ステップ1の動作として,キーボード139を介してユーザが手動で行った。
もちろん,呼吸状況の測定のためのビデオカメラ11に撮像位置の好適な条件は,事前に試行錯誤的に行った準備動作を参照して,または,経験による結果を反映して決定する。
【0033】
ステップ2の動作として,CPU135は,入力部131を介してビデオカメラ11から時間的に等間隔で連続的に,または,時間的に不等間隔で連続的に入力されてくる画像データを半導体メモリ134に1フレームごと連続的に格納する。CPU135は,時間的に不等間隔で画像データが入力されたときは,上述したように,等間隔で入力されたと同様の画像データとなるように補間処理を行う。
ステップ3の処理動作として,CPU135は半導体メモリ134に一時的に格納された画像データについて,第1領域A1の画像データについて2次元的にエッジ位置を演算し,第2領域A2の濃度(または明度)を演算した。濃度または照度については後述する。
【0034】(中略)
【0036】
CPU135における濃度は,ビデオカメラ11で撮像した画像データの階調から算出することができる。
またはCPU135における濃度演算として,好ましくは,たとえば,白色の階調「0」とし,黒の階調を「255」として,背景と被検体100とを識別するため,しきい値=100として,半導体メモリ134に記憶されている第2領域A2部分の画像データとしきい値とを大小比較判断して2値化した。たとえば,しきい値より低い値の画像データを背景部分として「0」とし,しきい値より高い値の画像データを被検体100の部分として「1」とした。そして,しきい値より高い値の画像データで「1」となった画素部分の総数を,濃度または照度として算出した。
以下の記述においては,2値化した場合について述べる。
したがって,濃度または照度は,ビデオカメラ11で撮像した第2領域A2の画素のうち,被検体100の部分の面積を意味している。
【0037】
ステップ2?3の処理を連続して行った。
CPU135による連続的な演算結果をプロットした結果を図4に例示する。横軸は時間経過を示し,縦軸は検出したエッジと濃度(または照度)とを示す。曲線CV1はエッジの位置の変化を示しており,曲線CV2は濃度変化を示している。
図4の図解の結果から,エッジの位置の変化と濃度の変化とは1対1の対応関係にあり,エッジの位置が高くなるとき濃度が低下し,エッジの位置が低くなるとき濃度で高くなる。そして,両者とも周期的に変化する。
【0038】
図4に図解した結果を分析する。
被検体100が吸気を行ったときは,被検体100の横方向において,胸から背中にかけてが膨らむから,しきい値より高い部分の画素の総数が多くなり,濃度が高くなる。このときエッジの位置が低くなる。他方,被検体100が呼気を行ったときは,被検体100の横方向において,胸から背中にかけて窄むから濃度は低くなる。
検証のため,被検体100の鼻下にサーミスタを置き,被検体100の呼吸気流を測定した。その結果,サーミスタで測定した呼吸の周期と,図4に図解したエッジ位置の変化と濃度変化の周期が一致した。したがって,被検体100が着衣状態でも,上述した撮像と信号処理を行うことにより,図4に図解したエッジ位置の変化と濃度変化は被検体100の呼吸の周期を正確に示していることが検証された。
【0039】
図4に図解した例示において,エッジの位置の変化は時間経過とともに低くなるが,濃度は一定している。その理由は,測定開始直後は被検体100が大きく呼吸をしたためと推定される。濃度は呼吸の状態に依存せず,一定のリズム(周期)で一定の変動を示している。
この結果から,しきい値以上の階調を持つ部分の面積の数を示す濃度を用いると,エッジの変化を用いた場合より,吸気か呼気か,そして,呼吸数を正確に測定できる。
換言すれば,特開平11-86002号公報および特開平11-276443号公報に開示されているように,エッジを用いると,呼吸状態の有無を検出することはできるが,吸気か呼気か,そして,正確な呼吸数を測定するには十分ではなかったが,上記濃度を測定すると,呼気および吸気識別でき,かつ,正確に呼吸数を測定することができた。
【0040】
なお,本例による呼吸状態の判定方法としては下記のいずれかの方法で行うことができる。
(1)濃度変化のみで呼吸状態を判断する。
(2)濃度変化とエッジの位置の変化の双方の一致をもって呼吸状態を判断する。
(3)エッジの位置変化のみで呼吸状態を判断する。
【0041】
本例は,被検体100が着衣状態で,ビデオカメラ11による非接触状態で呼吸状態(吸気か呼気か,呼吸数)が正確に測定できる。また背景との識別も容易であり,被検体100の着衣状態には依存しない。」

オ 「【0044】
第2例,呼吸状態の測定
図5および図6を参照して,第2例として呼吸状態の測定方法の他の例を述べる。
第2例は,図5に図解したように,図1に図解したバイタルサイン計測装置1を用いて,被検体100の両腕(上腕と前腕)および手を,モノクロ・ビデオカメラ11でそれぞれ撮像し,撮像データの濃度(相対濃度)を算出して被検体100の呼吸状態を測定する例である。
【0045】
本発明者の研究によると,呼吸による胸部運動は頭部,前腕などにも体動を与える。その結果,心臓の動きに応じて血流が変化する。それに伴って,表面皮膚が動くことになる(体動する)。上腕と前腕の体動をビデオカメラ11で動画像として撮像し,信号処理装置13で信号処理することによっても被検体100の心拍などの状態が測定できることを見いだした。
【0046】
そのため,図5に図解したように,被検体100の剥き出しの上腕と前腕と手を,これらの輪郭が識別できるような第1領域AA1,第2領域AA2,第3領域AA3について,それぞれビデオカメラ11で撮像した。上腕と前腕と手とについて撮像したのは,どの部分でも測定可能か否かを試行したためであり,常に,3か所の撮像が必要であることを意味している訳ではない。
【0047】
なお,本例は背景を斜線で示したように黒または灰色にして,被検体100は白系統の着衣をし,腕を剥き出しにしている場合である。
ただし,信号処理において,ビデオカメラ11の撮像データを,たとえば,信号処理装置13内で画像反転すればよいから,背景が黒または灰色でも,白でも信号処理上は大きな相違はない。
撮像画像データから,被検体100の手足における第1領域AA1,第2領域AA2,第3領域AA3の各々の画素の数(面積)を濃度(照度)として求めた。
【0048】(中略)
【0051】
第3例:心拍および呼吸数の測定
図7?図9を参照して第3例を述べる。
第3例は,図7に図解したように,図1に図解したバイタルサイン計測装置1を用いて,被検体100Aの首全体(喉部分)または顔(前額など)を第1領域AB1とし,首左側(肩部分)を第2領域AB2とし,鎖骨部分を第3領域AB3として,モノクロビデオカメラ11でそれぞれ撮像し,信号処理装置13において,特に,CPU135において,撮像データの濃度(相対濃度)を算出して心拍および呼吸数を測定する例である。(後略)」

(2-2-2)引用例2記載の技術事項
上記(2-2-1)の摘記事項アからオまでの記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮して引用例2の記載を検討する。

上記ア及びイには,引用例2記載の技術が,動画像の時間的変化から,生体の状態を示す信号であるバイタルサインを簡単かつ正確に測定可能にするバイタルサイン計測方法に係るものであることについて記載されている。
上記ウには,ビデオカメラ11による連続的な撮像により,信号処理装置13に,所定周期ごとに1フレーム分の撮像画像データが入力されることについて記載されている。
上記イ及びエには,ユーザが設定した領域の撮像画像データを信号処理対象データとすること,及び前記領域の撮像画像データの階調から,当該領域の濃度又は照度を算出し,その時間的変化により被検体の呼吸状態が判定されることについて記載されている。
また,上記オには,前記領域を複数設定する例について記載されている。

なお,上記エは,引用例2における「第1実施の形態」の「第1例」に係る記載事項であり,上記オは,「第1実施の形態」の「第2例」及び「第3例」についての記載事項であるが,まず上記エにおいて,バイタルサインを計測する方法の詳細な説明がなされ,上記オにおいて,上記「第1例」と相違する,撮影部位についての説明を中心に記載されている。したがって,上記エの記載事項は,上記オの記載事項と相反しない限りにおいて,「第2例」及び「第3例」の前提事項を示す記載としての位置付けも有するものと認められる。

以上の記載を踏まえれば,引用例2には,以下の技術事項が開示されている。

(引用例2記載の技術事項)
「生体の状態を示す信号であるバイタルサインを,簡単かつ正確に測定可能にする方法であって,連続する複数フレームの撮像画像内の複数の領域について,撮像画像データを信号処理し,前記領域における撮像画像データの階調の時間的変化を算出し,当該時間的変化により,被検体の呼吸状態,心拍等の判定ができること。」

(3)対比
補正後の発明と引用発明とを対比する。

(3-1)構成要件Aと構成要件aとの対比
ア 引用発明の「撮像された患者の,静止画像の連続画像に係る画像信号データ」は,補正後の発明の「ビデオデータ」に相当する。

イ 引用発明の「当該撮像された患者の,生体信号データ」は,前記画像信号データに係る連続画像に映っている患者のデータであるから,前記画像信号データに関連するデータである。ここで,補正後の発明の「メタデータ」についてみるに,メタデータとは,一般に,当該データに関連するデータであって,当該データ自身についての付加的なデータのことである。そして,本願の明細書及び図面をみても,「メタデータ」について,特別の定義はなされていない。したがって,上記アも踏まえれば,引用発明の「当該撮像された患者の,生体信号データ」と,補正後の発明の「メタデータ」とは,「ビデオデータに関連するデータ」という点では共通する。

ウ 引用発明において,前記画像信号データと,前記生体信号データとを,「医師側端末において画面を分割して表示できるように伝送する」ということは,画像信号データと,生体信号データとを,組み合わせた形で表示できるように,両データを医師側端末装置に供給するということであるから,両データの「組み合わせを供給する」ことといえる。

エ よって,引用発明の構成要件aと,補正後の発明の構成要件Aとは,「ビデオデータ及び当該ビデオデータに関連するデータの組み合わせを供給する方法において,」という点で共通する。
しかしながら,「ビデオデータに関連するデータ」が,補正後の発明では,「メタデータ」であるものの,引用発明では,「メタデータ」とはいえない点で,両発明は相違する。

(3-2)構成要件Bと構成要件bとの対比
ア 引用発明の「遠隔医療診断システム」は,画像信号データや生体信号データを伝送するための処理を行うシステムであるから,補正後の発明の「処理システム」に相当する。また,引用発明の「カメラ」は,これにより前記静止画像の連続画像を撮像するのであるから,補正後の発明の「ビデオカメラ」に相当する。

イ 引用発明において,「前記静止画像の連続画像を撮像」するということは,前記遠隔医療診断システムが,前記連続画像を「取り込」み,前記静止画像の連続画像,すなわち「画像のシーケンス」を「得る」ことといえる。

ウ よって,引用発明の構成要件b「遠隔医療診断システムが,カメラにより,前記静止画像の連続画像を撮像し,」は,補正後の発明の構成要件B「処理システムが,ビデオカメラにより取り込まれる画像のシーケンスを得るステップと,」に相当する。

(3-3)構成要件Cと構成要件cとの対比
引用発明は,構成要件cに示されているように,前記遠隔医療診断システムが,生体モニタ装置で患者の脈拍等を計測するというものである。したがって,当該脈拍の信号は前記連続画像から抽出されておらず,補正後の発明の構成要件Cに相当する構成を備えていない。
よって,補正後の発明では,前記処理システムが,「前記画像のシーケンスにある複数の関心領域から少なくとも1つの信号を抽出するステップであり,各々の抽出した信号は,光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付けている,ステップ」を有する,という構成を備えているのに対し,引用発明では,遠隔医療診断システムが,生体モニタ装置で患者の脈拍等を計測しており,そのような,画像から信号を抽出する構成を備えていない点で,両発明は相違する。

(3-4)構成要件Dと構成要件dとの対比
ア 上記(3-2)アで示したように,引用発明の「遠隔医療診断システム」は,補正後の発明の「処理システム」に相当する。

イ 引用発明における「カメラで撮像した画像」は,構成要件bで示されるように,静止画像の連続画像であるから,上記(3-2)イの検討を踏まえると,画像のシーケンスを構成しており,各画像についてみれば,「前記シーケンスからの画像」ということができる。
また,引用発明において,「前記画像信号データを圧縮」するということは,上記(3-1)アの検討も踏まえると,「画像データ」に「ビデオ」の「圧縮技術を適用」してなされるといえ,このことは,「圧縮したビデオデータを得るため」になされていることといえる。

ウ よって,引用発明の構成要件dと,補正後の発明の構成要件Dとは,「前記処理システムが,圧縮したビデオデータを得るために,前記シーケンスからの画像の画像データに少なくとも1つのビデオ圧縮技術を適用するステップ」を有する,という構成を備える点で共通する。
しかしながら,補正後の発明では,「前記少なくとも1つの抽出した信号は,前記画像からの画像データに前記少なくとも1つの圧縮技術を適用する前の状態の画像から抽出される」という構成を備えているのに対し,引用発明では,そのような構成を備えていない点で相違する。

(3-5)構成要件Eと構成要件eとの対比
ア 上記(3-2)アで示したように,引用発明の「遠隔医療診断システム」は,補正後の発明の「処理システム」に相当する。
また,引用発明の「患者」は,補正後の発明の「被験者」に相当する。
さらに,上記(3-1)イで示したように,引用発明の「前記生体信号データ」は,補正後の発明の「メタデータ」と,「前記ビデオデータに関連するデータ」という点では共通する。
また,上記(3-1)アを踏まえれば,引用発明の「前記圧縮した画像信号データ」は,補正後の発明の「前記圧縮したビデオデータ」に相当する。

イ 引用発明において,「カメラで撮像している」患者は,カメラで撮像した「前記画像の少なくとも一部に表され」ているといえる。
また,引用発明において,前記生体信号データが,「脈拍等のデータである」ということは,患者がどのように脈を打っているのか等の,患者における生物学的処理に関し,前記生体信号データが,当該生物学的処理の特徴を示している,ということができるから,前記生体信号データは,患者における「生物学的処理を特徴付けるための」ものであるということができる。

ウ 引用発明において,前記生体信号データを,前記圧縮した画像信号データと「多重化して医師側端末装置に伝送する」ということは,前記圧縮した画像信号データの側からみれば,多重化のために,前記生体信号データが,前記圧縮した画像信号データに「供給」されているといえる。

エ よって,引用発明の構成要件eと,補正後の発明の構成要件Eとは,「前記処理システムが,前記画像の少なくとも一部に表される被験者における少なくとも1つの生物学的処理を特徴付けるための,前記ビデオデータに関連するデータを前記圧縮したビデオデータに供給するステップ」を有する,という構成を備えている点で共通する。
しかしながら,両発明は,以下の点で相違する。
(i)「前記ビデオデータに関連するデータ」が,補正後の発明では,「メタデータ」であるものの,引用発明では,「メタデータ」とはいえない点
(ii)補正後の発明では,被験者における生物学的処理について,「前記処理は,前記被験者から取り込まれる光の色及び強度の少なくとも1つの局所的な時間変動を引き起こし,」という構成を備えているのに対し,引用発明では,そのような構成を備えていない点
(iii)補正後の発明では,「前記メタデータは前記抽出した信号の少なくとも1つに少なくとも基づいている,」という構成を備えているのに対し,引用発明では,そのような構成を備えていない点

(3-6)構成要件Fと構成要件fとの対比
引用発明の「方法」は,上記(3-1),(3-3),(3-4)及び(3-5)において示した相違を除き,補正後の発明の「方法」に相当するものといえる。

(3-7)まとめ
上記(3-1)から(3-6)までに示した対比結果に基づき,補正後の発明と,引用発明との間の一致点と相違点をまとめると,以下のとおりである。

(一致点)
「ビデオデータ及び前記ビデオデータに関連するデータの組み合わせを供給する方法において,
処理システムが,ビデオカメラにより取り込まれる画像のシーケンスを得るステップと,
前記処理システムが,圧縮したビデオデータを得るために,前記シーケンスからの画像の画像データに少なくとも1つのビデオ圧縮技術を適用するステップと,
前記処理システムが,前記画像の少なくとも一部に表される被験者における少なくとも1つの生物学的処理を特徴付けるための,前記ビデオデータに関連するデータを前記圧縮したビデオデータに供給するステップとを有する,方法。」

(相違点1)
「ビデオデータに関連するデータ」が,補正後の発明では,「メタデータ」であるものの,引用発明では,「メタデータ」とはいえない点

(相違点2)
補正後の発明では,前記処理システムが,「前記画像のシーケンスにある複数の関心領域から少なくとも1つの信号を抽出するステップであり,各々の抽出した信号は,光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付けている,ステップ」を有する,という構成を備えているのに対し,引用発明では,遠隔医療診断システムが,生体モニタ装置で患者の脈拍等を計測しており,そのような,画像から信号を抽出する構成を備えていない点

(相違点3)
補正後の発明では,「前記少なくとも1つの抽出した信号は,前記画像からの画像データに前記少なくとも1つの圧縮技術を適用する前の状態の画像から抽出される」という構成を備えているのに対し,引用発明では,そのような構成を備えていない点

(相違点4)
補正後の発明では,被験者における生物学的処理について,「前記処理は,前記被験者から取り込まれる光の色及び強度の少なくとも1つの局所的な時間変動を引き起こし,」という構成を備えているのに対し,引用発明では,そのような構成を備えていない点

(相違点5)
補正後の発明では,「前記メタデータは前記抽出した信号の少なくとも1つに少なくとも基づいている,」という構成を備えているのに対し,引用発明では,そのような構成を備えていない点

(4)当審の判断
ア 上記(相違点1),(相違点2),(相違点4)及び(相違点5)について
(ア) 引用発明は,構成要件cに示されるように,患者の脈拍等を生体モニタ装置で計測するものである。したがって,引用発明においては,生体情報を,生体モニタ装置から取得しており,撮像した画像から取得してはいない。

他方,引用例2には,上記(2-2-2)で示したように,「生体の状態を示す信号であるバイタルサインを,簡単かつ正確に測定可能にする方法であって,連続する複数フレームの撮像画像内の複数の領域について,撮像画像データを信号処理し,前記領域における撮像画像データの階調の時間的変化を算出し,当該時間的変化により,被検体の呼吸状態,心拍等の判定ができること」という技術事項が記載されている。

引用発明と,引用例2記載の技術事項とは,人間を撮像するとともに,その人間から生体情報を取得するという点で共通している。また,データの計測手法として,新たなものが登場した場合に,正確性,簡便性,価格等の観点から,新たな計測手法の採用を試みることは,当業者の通常の創作能力の発揮といえる。
これらのことに鑑みれば,引用発明に引用例2記載の技術事項を適用する動機付けはあるといえ,患者の生体情報の取得について,引用発明の,生体モニタ装置を用いる手法に代えて,引用例2に開示されているような,撮像した画像を用いる手法を適用し,当該手法により,生体信号データを取得するように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。

ここで,当該適用をどのように行うかについては,生体モニタ装置に代替するカメラをさらに設けることにより,カメラを二台とする態様と,生体モニタ装置に代替するカメラとして,すでにあるカメラを用いる態様とが考えられるところである。
そこで検討するに,装置やシステムを設計するに当たり,一般に,重複構成を避ける方が,スペースや価格等の面で好ましく,また実際に,手段を兼用することは,本願出願前における常套手段である。さらに,引用例2記載の技術事項におけるカメラにつき,引用例2には,「ビデオカメラ11はズーム機能つきであるが,カラービデオカメラでもよいし,モノクロビデオカメラでもよい。本実施の形態ではモノクロビデオカメラを用いた。ビデオカメラ11は従って,撮像信号として各画素について,たとえば,0?255の階調のデータを出力する。たとえば,白が階調0であり,黒が階調255となる。」(段落【0018】)といった記載があるにとどまり,引用例2記載の技術事項は,特殊なカメラを用意しなければ実現できないというものでもない。
そうすると,引用発明への,引用例2記載の技術事項の適用を,カメラが一台で済む,後者の態様によって行うことは,当業者が適宜選択し得たことであり,当該適用に伴う設計的事項にすぎないことといえる。

(イ) 次に,容易想到である前記適用により,補正後の発明に到達するか否かについて,以下検討する。
(イ-1) 上記(相違点2)の前段に係る構成について
前記適用により,引用発明は,静止画像の連続画像,すなわち,画像のシーケンスにある複数の領域について,撮像画像データを信号処理するものとなる。
ここで,「信号処理する」ことは,「信号を抽出する」ことが前提となっているといえる。また,前記「複数の領域」は,上記(2-2-2)に示すように,信号処理を行う領域として,ユーザが設定するものであって,「関心領域」ということができる。
そうすると,当業者は,前記適用により,上記(相違点2)の前段に係る構成,すなわち,「前記画像のシーケンスにある複数の関心領域から信号を抽出するステップ」を有する構成に到達するといえる。

(イ-2) 上記(相違点2)の後段に係る構成について
前記適用により,引用発明は,前記領域における撮像画像データの階調の時間的変化,すなわち時間変動を算出するものとなる。
ここで,階調は,光の強度といえ,その各領域における変動は,局所的な時間変動ということができるから,複数の領域から抽出した各信号は,光の強度の局所的な時間変動を特徴づけるものといえる。
そうすると,当業者は,前記適用により,上記(相違点2)の後段に係る構成,すなわち,「各々の抽出した信号は,光の強度及び色の少なくとも1つの局所的な時間変動を特徴付けている」という構成に到達するといえる。

(イ-3) 上記(相違点4)に係る構成について
前記適用により,引用発明は,撮像画像データの階調の時間的変化,すなわち時間変動により,被検体の呼吸状態,心拍等の判定ができるものとなる。
ここで,被検体の呼吸状態や心拍等は,被検体においてなされる生体活動,すなわち,生物学的処理の結果ということができる。また,被検体の呼吸状態や心拍等の判定を,前記時間変動により行えるということは,前記時間変動は,被検体の呼吸状態や心拍等によって引き起こされているといえる。
そうすると,当業者は,前記適用により,(相違点4)に係る構成,すなわち,生物学的処理について,「前記処理は,前記被験者から取り込まれる光の色及び強度の少なくとも1つの局所的な時間変動を引き起こし,」という構成に到達するといえる。

(イ-4) 上記(相違点1)及び(相違点5)に係る構成について
前記適用により,引用発明の生体信号データは,カメラにより撮影した画像について信号処理したものになるといえる。そして,その生体信号データは,カメラにより撮像された患者の画像に係る画像信号データに関連し,さらに,当該画像信号データ自身について処理して得られた付加的なデータでもあるから,画像信号データの「メタデータ」ということができる。このことと,上記(イ-1)の検討を踏まえれば,「メタデータは,前記抽出した信号の少なくとも1つに少なくとも基づいている」ことになる。
そうすると,当業者は,前記適用により,上記(相違点1)に係る構成,すなわち,ビデオデータに関連するデータが「メタデータ」であるという構成,及び上記(相違点5)に係る構成,すなわち,「前記メタデータは前記抽出した信号の少なくとも1つに少なくとも基づいている,」という構成に到達するといえる。

(ウ) 審判請求人は,平成27年9月30日付け審判請求書において,動機付けの不存在や,「引用文献1,2は,いずれも,本願発明のように,少なくとも1つの信号と圧縮したビデオデータとを同一のソース(即ち,同一の画像のシーケンス)から得ることを開示するものではなく,従って,これらを組み合わせたとしても,本願発明の前記構成には至らないことは明らか」といった主張をしているが,上記(ア)に示すように,引用発明に引用例2記載の技術事項を適用する動機付けはあるといえ,当該適用を,生体モニタ装置に代替するカメラとして,すでにあるカメラを用いる態様で行うことは,当業者が容易に想到し得たことである。
また,審判請求人は,同審判請求書において,「本願発明は,ビデオカメラにより取り込まれた画像のシーケンスにある複数の関心領域から少なくとも1つの信号を抽出することを特徴と一つ」とする旨,主張しているが,「複数の領域について,撮像画像データを信号処理」することについては,上記(ア)に示すように,引用例2記載の技術事項として,引用例2に開示されていることである。

(エ) 以上によれば,審判請求人の主張を斟酌しても,上記(相違点1),(相違点2),(相違点4)及び(相違点5)に係る構成は,引用発明に,引用例2記載の技術事項を適用することにより,当業者が容易に想到し得たものといえる。

イ 上記(相違点3)について
引用発明に引用例2記載の技術事項を適用する容易想到性については,上記ア(ア)に示すとおりである。
ここで,引用例2記載の技術事項における,「連続する複数フレームの撮像画像内の複数の領域について,撮像画像データを信号処理し,前記領域における撮像画像データの階調の時間変化を算出」することについてみると,引用例2には,圧縮等の他の画像処理を事前に行うことは何ら記載されていない。また,階調についての情報を得るに当たり,圧縮後の撮像画像データの方が好ましいという技術常識があるともいえない。
したがって,引用発明に,引用例2記載の技術事項を適用するに当たり,前記信号処理のための信号の抽出を,あえて圧縮後の画像から行わせるのではなく,圧縮前の画像から行うようにすることは,ごく自然なことといえる。
よって,上記(相違点3)に係る構成,すなわち,「前記少なくとも1つの抽出した信号は,前記画像からの画像データに前記少なくとも1つの圧縮技術を適用する前の状態の画像から抽出される」という構成は,引用発明に引用例2記載の技術事項を適用して,当業者が容易に想到し得たものである。

ウ さらに,補正後の発明の作用,効果も,引用発明及び引用例2記載の技術事項から当業者が予測できる範囲のものである。

エ したがって,補正後の発明は,引用発明及び引用例2記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 結語
以上のとおり,本件補正は,補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しない。
したがって,本件補正は,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記「第2 補正却下の決定」の「1 本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2 引用発明
引用発明及び引用例2記載の技術事項は,上記「第2 補正却下の決定」の「3 独立特許要件について」における「(2)引用発明等」の項で認定したとおりである。

3 対比及び判断
そこで,本願発明と引用発明とを対比するに,本願発明は,上記「第2 補正却下の決定」の「1 本願発明と補正後の発明」において認定した「補正後の発明」から本件補正の補正箇所に係る限定事項を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成に本件補正の補正箇所に係る限定事項を付加した「補正後の発明」が,上記「第2 補正却下の決定」の「3 独立特許要件について」において検討したとおり,引用発明及び引用例2記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,補正後の発明から本件補正の補正箇所に係る限定事項を省いた本願発明も,同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び引用例2記載の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-29 
結審通知日 2016-06-30 
審決日 2016-07-13 
出願番号 特願2012-536005(P2012-536005)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H04N)
P 1 8・ 121- Z (H04N)
P 1 8・ 575- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 嘉宏山▲崎▼ 雄介  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 渡辺 努
戸次 一夫
発明の名称 メディアデータ及びメタデータの組み合わせを供給する方法及びシステム  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 小松 広和  
代理人 津軽 進  

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