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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 発明同一 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1322012
審判番号 不服2015-8192  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-01 
確定日 2016-12-13 
事件の表示 特願2011-243238「熱処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月15日出願公開、特開2012- 54598、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年2月9日に出願した特願2007-29926号(以下「原出願」という。)の一部を平成23年11月7日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成23年11月 7日 審査請求
平成23年11月 7日 上申書の提出
平成25年 8月 7日 拒絶理由通知(起案日)
平成25年10月11日 意見書の提出
平成26年 4月25日 拒絶理由通知(起案日)
平成26年 6月27日 意見書の提出
平成27年 1月27日 拒絶査定(起案日)
平成27年 5月 1日 審判請求及び手続補正書の提出
平成28年 1月21日 当審拒絶理由通知(起案日)
平成28年 3月24日 意見書及び手続補正書の提出
平成28年 6月24日 当審拒絶理由通知(起案日)
平成28年 8月17日 意見書及び手続補正書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成28年8月17日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
イオンが注入された半導体基板に対してフラッシュ光を照射することによって該半導体基板を加熱する熱処理方法であって、
前記半導体基板の表面の全領域に少なくとも第1のピーク強度を有するフラッシュ光を第1のフラッシュランプから照射して前記半導体基板の表面温度を前記半導体基板に注入されたイオンの活性化温度以上の処理温度にまで昇温してイオンを活性化させる昇温工程と、
前記昇温工程の後、前記第1のピーク強度を有するフラッシュ光の強度が低下しているときに前記第1のピーク強度よりも弱い第2のピーク強度に到達するフラッシュ光を第2のフラッシュランプから前記半導体基板の表面の全領域に照射して少なくとも前記第2のピーク強度を有するフラッシュ光照射によって前記半導体基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する保温工程と、
を備えることを特徴とする熱処理方法。」


第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
(1)拒絶理由通知の概要
平成27年1月27日付けの拒絶査定(以下「原査定」という。)の根拠となった平成26年4月25日付けの拒絶理由通知の概要は以下のとおりである。
「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
本出願の明細書等は、以下の点で、原出願の出願当初明細書等に記載した事項の範囲内でないものを含むため、出願日の遡及が認められない。よって、本出願の出願日は、本出願が現実に出願された平成25年10月10日であると認められる。
a.請求項1には、「前記基板にフラッシュ光を照射して前記基板の表面温度を所定値以上の処理温度にまで昇温する昇温工程と、
前記昇温工程の後、フラッシュ光照射の保温効果によって前記基板の表面温度を前記処理温度に所定時間以上維持する保温工程と、を備える」との記載がある。
しかしながら、原出願の当初明細書等の段落【0065】には、「発光開始直後においては、主としてパルス幅の短いフラッシュランプFL1から照射された強いピーク強度を有するフラッシュ光によって半導体ウェハーWの表面が急速にイオンの活性化温度以上の処理温度T2(1000℃ないし1100℃程度)にまで昇温される。その後は、主としてパルス幅の長いフラッシュランプFL2から照射されたなだらかなピークを有するフラッシュ光による保温効果によって比較的長時間に渡って活性化温度以上の温度を維持した後に次第に降温する。」との記載はある。当該記載では、活性化以上の温度を所定時間維持する旨の記載があると認められる(図10の点線(活性化温度)と実線(ウエハー表面温度)との2つの交点の間の時間、活性化温度以上の温度を維持している旨の記載がされている)。しかしながら、当該記載からでは、活性化温度以上のある温度(処理温度)が所定時間継続するとは認められない。
よって、当該記載は、原出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内であるとは認められない。
……(中略)……
【請求項1-3】
・理由3
請求項1には、「前記基板にフラッシュ光を照射して前記基板の表面温度を所定値以上の処理温度にまで昇温する昇温工程と、
前記昇温工程の後、フラッシュ光照射の保温効果によって前記基板の表面温度を前記処理温度に所定時間以上維持する保温工程と、を備える」との記載がある。
しかしながら、発明の詳細な説明(段落【0065】)には、「発光開始直後においては、主としてパルス幅の短いフラッシュランプFL1から照射された強いピーク強度を有するフラッシュ光によって半導体ウェハーWの表面が急速にイオンの活性化温度以上の処理温度T2(1000℃ないし1100℃程度)にまで昇温される。その後は、主としてパルス幅の長いフラッシュランプFL2から照射されたなだらかなピークを有するフラッシュ光による保温効果によって比較的長時間に渡って活性化温度以上の温度を維持した後に次第に降温する。」との記載はあるものの、活性化温度以上のある温度(処理温度)が所定時間継続するとの記載はない。(なお、図面は、本願発明の理解を助けるための補助的手段であり図面(図10)をもとにして、発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。)
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に実質的に記載されていないと認められる。
請求項1を引用している請求項2-3に係る発明も同様である。

【請求項1,2,3】
・理由1,2
・引用文献1
・備考
引用文献1の特に図6及びその説明箇所参照。
なお、引用文献1(図6及びその説明箇所)には、時間幅の短いパルス電流Aが入力された閃光放電ランプ10の後にも、時間幅の長いパルス電流Bが入力された閃光放電ランプ10が点灯されていることから、時間幅の長いパルス電流Bが入力された閃光放電ランプ10により、基板の表面温度を処理温度に所定時間以上維持されているものと認められる。
……(中略)……
【請求項1-3】
・理由1,2
・引用文献2
・備考
引用文献2の図22及びその説明箇所及び段落【0106】-【0110】参照。
……(中略)……
【請求項1-3】
・理由2
・引用文献2-7
・備考
引用文献3の特に図5(b),(c)及びその説明箇所参照(特に段落【0083】参照)。
フラッシュランプで不純物活性の熱処理を行うことは周知技術であるから(引用文献2(段落【0106】等),引用文献4-7参照)、この技術を引用文献3に記載の発明に採用し、当該請求項に係る発明の構成とすることは当業者が容易に成し得ることである。
……(中略)……
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2008-147533号公報
2.特開2002-252174号公報
3.特開2005-136218号公報
4.特開2005-167005号公報
5.特開2007-012675号公報
6.特開2006-351871号公報
7.特開2006-278532号公報」

(2)原査定の概要
原査定の概要は以下のとおりである。
「この出願については、平成26年 4月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2,3によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
請求項1には、「前記基板にフラッシュ光を照射して前記基板の表面温度を所定値以上の処理温度にまで昇温する昇温工程と、前記昇温工程の後、フラッシュ光照射の保温効果によって前記基板の表面温度を前記処理温度に所定時間以上維持する保温工程と、を備える」との記載がある。

しかしながら、原出願の当初明細書等の段落【0057】には、「発光開始直後においては、主としてパルス幅の短いフラッシュランプFL1から照射された強いピーク強度を有するフラッシュ光によって半導体ウェハーWの表面が急速にイオンの活性化温度以上の処理温度T2(1000℃ないし1100℃程度)にまで昇温される。その後は、主としてパルス幅の長いフラッシュランプFL2から照射されたなだらかなピークを有するフラッシュ光による保温効果によって比較的長時間に渡って活性化温度以上の温度を維持した後に次第に降温する。」との記載はある。当該記載では、活性化以上の温度を所定時間維持する旨の記載があると認められる(図10の点線(活性化温度)と実線(ウエハー表面温度)との2つの交点の間の時間、活性化温度以上の温度を維持している旨の記載がされている)。しかしながら、当該記載からでは、活性化温度以上のある温度(処理温度)が所定時間継続するとは認められない。
よって、当該記載は、原出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内であるとは認められない。
(なお、図面は、本願発明の理解を助けるための補助的手段であり図面をもとにして、原出願の出願当初明細書等に記載した事項の範囲内であるとは認められない。)
……(中略)……
(1)請求項1には、「前記基板にフラッシュ光を照射して前記基板の表面温度を所定値以上の処理温度にまで昇温する昇温工程と、前記昇温工程の後、フラッシュ光照射の保温効果によって前記基板の表面温度を前記処理温度に所定時間以上維持する保温工程と、を備える」との記載がある。
しかしながら、発明の詳細な説明(段落【0057】)には、「発光開始直後においては、主としてパルス幅の短いフラッシュランプFL1から照射された強いピーク強度を有するフラッシュ光によって半導体ウェハーWの表面が急速にイオンの活性化温度以上の処理温度T2(1000℃ないし1100℃程度)にまで昇温される。その後は、主としてパルス幅の長いフラッシュランプFL2から照射されたなだらかなピークを有するフラッシュ光による保温効果によって比較的長時間に渡って活性化温度以上の温度を維持した後に次第に降温する。」との記載はあるものの、活性化温度以上のある温度(処理温度)が所定時間継続するとの記載はない。(なお、図面は、本願発明の理解を助けるための補助的手段であり図面(図10)をもとにして、発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。)
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に実質的に記載されていないと認められる。
請求項1を引用している請求項2-3に係る発明も同様である。
……(中略)……
(2)請求項1-3に対して
……(中略)……
以上のとおりであるから、当該請求項に係る発明は、引用文献1に記載の発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。仮にそうではないとしても、当該請求項に係る発明は、引用文献1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4)請求項1-3に対して
……(中略)……
以上のとおりであるから、当該請求項に係る発明は、引用文献2に記載の発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。仮にそうではないとしても、当該請求項に係る発明は、引用文献2に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)請求項1-3に対して
……(中略)……
以上のとおりであるから、当該請求項に係る発明は、引用文献2-7に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2008-147533号公報
2.特開2002-252174号公報
3.特開2005-136218号公報
4.特開2005-167005号公報
5.特開2007-012675号公報
6.特開2006-351871号公報
7.特開2006-278532号公報」

2 原査定の拒絶の理由についての判断
(1)本願の出願日について
ア 原査定は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1における「前記基板にフラッシュ光を照射して前記基板の表面温度を所定値以上の処理温度にまで昇温する昇温工程と」、「前記昇温工程の後、フラッシュ光照射の保温効果によって前記基板の表面温度を前記処理温度に所定時間以上維持する保温工程と」を「備える」との記載は、原出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内であるとは認められないので、本願の出願日の遡及は認められない、としている。
そこで、まず、本願の出願日について検討する。

イ 平成28年8月17日付けの手続補正により、本願発明は、上記アの記載に対応して、「前記半導体基板の表面の全領域に少なくとも第1のピーク強度を有するフラッシュ光を第1のフラッシュランプから照射して前記半導体基板の表面温度を前記半導体基板に注入されたイオンの活性化温度以上の処理温度にまで昇温してイオンを活性化させる昇温工程と」、「前記昇温工程の後、前記第1のピーク強度を有するフラッシュ光の強度が低下しているときに前記第1のピーク強度よりも弱い第2のピーク強度に到達するフラッシュ光を第2のフラッシュランプから前記半導体基板の表面の全領域に照射して少なくとも前記第2のピーク強度を有するフラッシュ光照射によって前記半導体基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する保温工程と」を「備える」との発明特定事項を有する旨の補正がなされている。
本願発明の前記発明特定事項が、原出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内であるかどうか、以下で検討する。

ウ 原出願の願書に最初に添付された明細書には、以下の記載がある、
「【0060】
ここで、第1実施形態においては、相対的に発光時間の短いフラッシュランプFL1と発光時間の長いフラッシュランプFL2とが交互に一列に配列されている(図7)。すなわち、パルス幅(フラッシュ光のパルスの周期)の異なるフラッシュランプFL1とフラッシュランプFL2とが相互に隣接するように配置されている。このため、処理位置の保持部7に保持された半導体ウェハーWの表面の全領域において、フラッシュランプFL1から照射されたフラッシュ光とフラッシュランプFL2から照射されたフラッシュ光とが相互に均一に重なり合う。」
「【0062】
図10は、発光開始からの半導体ウェハーWの表面温度の推移を示す図である。発光開始直後においては、主としてパルス幅の短いフラッシュランプFL1から照射された強いピーク強度を有するフラッシュ光によって半導体ウェハーWの表面が急速にイオンの活性化温度以上の処理温度T2(1000℃ないし1100℃程度)にまで昇温される。その後は、主としてパルス幅の長いフラッシュランプFL2から照射されたなだらかなピークを有するフラッシュ光による保温効果によって比較的長時間に渡って活性化温度以上の温度を維持した後に次第に降温する。その結果、半導体ウェハーWの表面から比較的深い領域をも活性化温度以上にまで昇温することができ、深い接合の活性化を行うことが可能となる。一方、半導体ウェハーWの表面(浅い領域)の温度が必要以上に上昇することもなく、半導体ウェハーWの反りや割れを防止することができる。」
そして、原出願の願書に最初に添付された図面における図9、図13及び図14には、発光時間が短いフラッシュランプのフラッシュ光を照射した後に、ピーク強度がより小さく、前記発光時間が短いフラッシュランプのフラッシュ光の強度がピークに到達して低下し始めた後にピーク強度に到達する、発光時間が長いフラッシュランプのフラッシュ光を照射することが記載されている。

エ したがって、原出願の前記明細書及び前記図面には、「パルス幅の短いフラッシュランプFL1から照射された強いピーク強度を有するフラッシュ光」を「半導体ウェハーWの表面の全領域」に照射することで「半導体ウェハーWの表面が急速にイオンの活性化温度以上の処理温度T2(1000℃ないし1100℃程度)にまで昇温」し、その後、ピーク強度がより小さく、「フラッシュランプFL1」からの「フラッシュ光」の強度が低下しているときにピーク強度に達する「パルス幅の長いフラッシュランプFL2から照射されたなだらかなピークを有するフラッシュ光」を「半導体ウェハーWの表面の全領域」に照射することで、「半導体ウェハーWの表面から比較的深い領域」をも「比較的長時間に渡って活性化温度以上の温度」に「維持」して「深い接合の活性化を行う」ことが記載されていると認められる。

オ そうすると、本願発明の「前記半導体基板の表面の全領域に少なくとも第1のピーク強度を有するフラッシュ光を第1のフラッシュランプから照射して前記半導体基板の表面温度を前記半導体基板に注入されたイオンの活性化温度以上の処理温度にまで昇温してイオンを活性化させる昇温工程と」、「前記昇温工程の後、前記第1のピーク強度を有するフラッシュ光の強度が低下しているときに前記第1のピーク強度よりも弱い第2のピーク強度に到達するフラッシュ光を第2のフラッシュランプから前記半導体基板の表面の全領域に照射して少なくとも前記第2のピーク強度を有するフラッシュ光照射によって前記半導体基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する保温工程と」を「備える」という発明特定事項は、原出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであると認められる。

カ よって、特許法第44条第2項の規定により、本願は、原出願の出願日である平成19年2月9日に出願したものとみなされる。

(2)理由3について
ア 本願明細書には、以下の記載がある
「【0055】
ここで、第1実施形態においては、相対的に発光時間の短いフラッシュランプFL1と発光時間の長いフラッシュランプFL2とが交互に一列に配列されている(図7)。すなわち、パルス幅(フラッシュ光のパルスの周期)の異なるフラッシュランプFL1とフラッシュランプFL2とが相互に隣接するように配置されている。このため、処理位置の保持部7に保持された半導体ウェハーWの表面の全領域において、フラッシュランプFL1から照射されたフラッシュ光とフラッシュランプFL2から照射されたフラッシュ光とが相互に均一に重なり合う。」
「【0057】
図10は、発光開始からの半導体ウェハーWの表面温度の推移を示す図である。発光開始直後においては、主としてパルス幅の短いフラッシュランプFL1から照射された強いピーク強度を有するフラッシュ光によって半導体ウェハーWの表面が急速にイオンの活性化温度以上の処理温度T2(1000℃ないし1100℃程度)にまで昇温される。その後は、主としてパルス幅の長いフラッシュランプFL2から照射されたなだらかなピークを有するフラッシュ光による保温効果によって比較的長時間に渡って活性化温度以上の温度を維持した後に次第に降温する。その結果、半導体ウェハーWの表面から比較的深い領域をも活性化温度以上にまで昇温することができ、深い接合の活性化を行うことが可能となる。一方、半導体ウェハーWの表面(浅い領域)の温度が必要以上に上昇することもなく、半導体ウェハーWの反りや割れを防止することができる。」
そして、図9、図13及び図14には、発光時間が短いフラッシュランプのフラッシュ光の強度がピークに到達して低下し始めた後で、ピーク強度がより小さい、発光時間が長いフラッシュランプのフラッシュ光の強度がピークに到達することが記載されている。

イ 上記の記載は、上記(1)のウで摘記した原出願の願書に最初に添付された明細書又は図面の記載と同一である。
したがって、上記(1)のイ?オで検討したとおり、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であると認められる。

(3)理由1及び理由2について
A 引用文献1を主引例とする場合
上記(1)で検討したように、本願は、平成19年2月9日に出願したものとみなされる。
これに対して、引用文献1(特開2008-147533号公報)は、本願の出願後の平成20年6月26日に公開された刊行物である。
したがって、引用文献1に基づいては、本願発明が、特許法第29条第1項第3号に該当するとも、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとも、いえない。

B 引用文献2を主引例とする場合
ア 引用文献2に記載された発明
引用文献2(特開2002-252174号公報)の段落【0042】?【0048】、段落【0101】?【0110】、段落【0115】、及び、段落【0142】?【0222】の「第1の実施の形態」についての記載から、前記引用文献2には、図22で示されるフラッシュ照射によるフラッシュランプアニール方法として、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「基体上のアモルファスシリコン含有微結晶シリコン等の低級結晶性半導体薄膜にイオン注入又はイオンドーピングでn型又は/及びp型不純物領域を形成し、前記基体にフラッシュランプを照射して加熱するフラッシュランプアニールにより、前記低級結晶性半導体薄膜の結晶化及び不純物イオンの活性化を同時に行うフラッシュランプアニール方法において、
前記フラッシュランプの照射条件は、フラッシュランプアニール時に前記フラッシュランプに流す放電電流のピーク値及び時間幅で管理され、
放電電流がゼロから立ち上がってピーク値Pの3/4(融点)となり、しかる後、再び3/4(融点)に減衰するまでの時間幅τ_(41)の間、溶融時間を維持する第1照射工程と、
放電電流がゼロから立ち上がって前記ピーク値Pの3/4(融点)の、2/3以上?3/4未満となり、再び2/3以上?3/4未満に減衰するまでの時間幅τ_(32)の間、後加熱時間を維持する第2照射工程と、
放電電流がゼロから立ち上がって前記ピーク値Pの3/4(融点)の、2/3以上?3/4未満となり、再び2/3以上?3/4未満に減衰するまでの時間幅τ_(33)の間、後加熱時間を維持する第3照射工程と、
を備え、
各照射工程の放電電流のピークは、前記第1照射工程、前記第2照射工程、前記第3照射工程の順で現れ、前記第2照射工程及び前記第3照射工程の放電電流のピーク値は前記第1照射工程のピーク値Pの3/4(融点)に達せず、
前記第2照射工程は前記第1照射工程、及び、前記第3照射工程と時間的に重なっており、
フラッシュ照射で徐冷却することにより、大粒径で高結晶化率の多結晶性又は高単結晶性半導体膜を形成するフラッシュランプアニール方法。」

イ 対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違する。
<<一致点>>
「イオンが注入された半導体基板に対してフラッシュ光を照射することによって該半導体基板を加熱する熱処理方法であって、
前記半導体基板の表面に少なくとも第1のピーク強度を有するフラッシュ光を第1のフラッシュランプから照射して前記半導体基板の表面温度を前記半導体基板に注入されたイオンの活性化温度以上の処理温度にまで昇温させる昇温工程と、
前記昇温工程の後、前記第1のピーク強度を有するフラッシュ光の強度が低下しているときに前記第1のピーク強度よりも弱い第2のピーク強度に到達するフラッシュ光を第2のフラッシュランプから前記半導体基板の表面に照射して少なくとも前記第2のピーク強度を有するフラッシュ光照射によって前記半導体基板の表面温度を所定時間以上維持する保温工程と、
を備えることを特徴とする熱処理方法。」

<<相違点>>
<<相違点1>>
本願発明は、「昇温工程」において「フラッシュ光」を「半導体基板の表面の全領域」に「照射」し、「保温工程」において「フラッシュ光」を前記「半導体基板の表面の全領域」に「照射」するのに対して、引用発明1の「第1照射工程」及び「第2照射工程」における「フラッシュランプの照射」範囲は特定されておらず、「前記第2照射工程は前記第1照射工程」と「時間的に重なって」いるものの場所的に「重なって」いる範囲が不明である点。
<<相違点2>>
本願発明の「昇温工程」においては「イオンを活性化させる」のに対して、引用発明1の「第1照射工程」においては「放電電流」は「溶融時間を維持する」点。
<<相違点3>>
本願発明の「保温工程」では「前記半導体基板の表面温度を前記活性化温度以上」に「維持」するのに対し、引用発明の「第2照射工程」及び「第3照射工程」では「時間幅τ_(32)」及び「時間幅τ_(33)」の間は「後加熱時間を維持する」点。

ウ 判断
(ア)以上のように、本願発明と引用発明1とは、上記の相違点1?相違点3で相違するから、両者は同一の発明ではない。
したがって、もはや、本願発明が引用文献2に記載された発明であるとすることはできない。

(イ)次に理由2に関して、上記の各相違点のうち、相違点2及び相違点3について検討する。
引用発明1の「フラッシュランプアニール方法」は、「イオン注入又はイオンドーピングでn型又は/及びp型不純物領域を形成」した「アモルファスシリコン含有微結晶シリコン等の低級結晶性半導体薄膜」に「フラッシュランプを照射して加熱する」ことにより「前記低級結晶性半導体薄膜の結晶化及び不純物イオンの活性化を同時に行う」ものである。
したがって、「放電電流がゼロから立ち上がってピーク値Pの3/4(融点)となり、しかる後、再び3/4(融点)に減衰するまでの時間幅τ_(41)の間、溶融時間を維持する第1照射工程」は、その後の「工程」によって「前記低級結晶性半導体薄膜の結晶化及び不純物イオンの活性化を同時に行う」ために、前記「アモルファスシリコン含有微結晶シリコン等の低級結晶性半導体薄膜」の少なくとも一部を「溶融」させる工程であると認められる。
これに対して、本願発明の「前記第1照射工程」は「フラッシュ光照射」によって「前記半導体基板に注入されたイオン」を「活性化させ」る工程である。

(ウ) ところで、引用文献2には、段落【0106】に「(e)上記(c)、(d)で作製した前記SCSOS基板、例えばSCSOG基板の前記単結晶性半導体薄膜内にイオン注入又はイオンドーピングしてn型又は/及びp型不純物領域(例えばソース/ドレイン、ソース/ゲートチャンネル/ドレインなど)を形成し、少なくとも赤外線低減又は赤外線遮断フィルタを使用し、前記基板の適当な予備加熱処理(Pre-baking)、補助加熱状態(Asist-baking)及び後加熱保持(Post-baking)でのフラッシュランプアニールにより、不純物イオンを活性化する、単結晶性半導体薄膜又は単結晶性半導体装置の製造方法。」と記載されている。
すなわち、引用文献2には、「単結晶性半導体薄膜内にイオン注入又はイオンドーピング」した後、「フラッシュランプアニールにより、不純物イオンを活性化する」ことが記載されている。
しかしながら、「フラッシュランプ」の「照射」を、本願発明のように、「第1のピーク強度を有するフラッシュ光を照射」した後に「前記第1のピーク強度を有するフラッシュ光の強度が低下しているときに前記第1のピーク強度よりも弱い第2のピーク強度に到達するフラッシュ光」を照射するという照射方法は、引用文献2には、引用発明1の根拠である、図22で示されるフラッシュ照射によるフラッシュランプアニール方法が開示されているだけである。
そして、前記図22で示される1回目のフラッシュ照射により、「時間幅τ_(41)の間、溶融時間を維持する」から、照射対象の「半導体薄膜」の少なくとも一部は「溶融」しているものと認められる。

(エ) したがって、「第1のピーク強度を有するフラッシュ光を照射」した後に「前記第1のピーク強度よりも弱い第2のピーク強度を有するフラッシュ光を照射する」というフラッシュ照射によるフラッシュランプアニール方法において、1回目のフラッシュ照射によって、照射対象の「半導体薄膜」に注入された「イオンを活性化」させることは、引用文献2には、記載も示唆もされていない。

(オ) そして、本願発明は、相違点2及び相違点3に係る構成を備えることで、「その結果、半導体ウェハーWの表面から比較的深い領域をも活性化温度以上にまで昇温することができ、深い接合の活性化を行うことが可能となる。一方、半導体ウェハーWの表面(浅い領域)の温度が必要以上に上昇することもなく、半導体ウェハーWの反りや割れを防止することができる。」という、本願明細書の段落【0059】に記載された格別の効果を奏すると認められる。

(カ) したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明は、もはや、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

C 引用文献3を主引例とする場合
ア 引用文献3に記載された発明
引用文献3(特開2005-136218号公報)の段落【0001】、段落【0006】?【0018】、段落【0021】?【0052】、及び、段落【0082】?【0085】の記載から、前記引用文献3には、図5(B)で示されるレーザビーム照射による不純物活性化方法として、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「半導体基板の表層に添加された不純物を、レーザ照射により活性化する方法であって、
レーザ光源1aから出射したパルスレーザビームLaの照射をする第1照射工程と、
前記パルスレーザビームLaの照射時間中に照射が開始され、前記パルスレーザビームLaの強度が低下しているときにピーク強度に到達し、前記パルスレーザビームLaの照射時間よりも長い照射時間にて、前記パルスレーザビームLaよりも弱いピーク強度で、レーザ光源1bから出射したレーザビームLbの照射を行う第2照射工程と、
を備え、
前記パルスレーザビームLa及び前記レーザビームLbを偏光ビームスプリッタ4に入射するとこで、当該偏光ビームスプリッタ4を出射した両レーザビームが、同一光軸上に重畳され、
前記重畳されたビームの入射位置を前記半導体基板の表面内で移動させて行うパルスレーザ照射を繰り返すことにより基板表面でレーザビームが走査され、このようなパルスレーザ照射を繰り返して、前記基板表面の所望の領域全体にビーム照射を行い、
前記パルスレーザビームLaの照射に加えて前記レーザビームLbの照射を行うことにより、前記パルスレーザビームLaの照射で上昇した前記基板表面の温度が、前記パルスレーザビームLaの照射終了後も高い状態に維持され、これにより、活性化の反応が深い位置まで及び、前記半導体基板の表層に存在する不純物の活性化率を高めることができることを特徴とする、レーザ照射により不純物を活性化する方法。」

イ 対比
本願発明と引用発明2とを対比すると、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違する。
<<一致点>>
「イオンが注入された半導体基板に対して光を照射することによって該半導体基板を加熱する熱処理方法であって、
前記半導体基板の表面に少なくとも第1のピーク強度を有する光を第1の光源から照射して前記半導体基板の表面温度を前記半導体基板に注入されたイオンの活性化温度以上の処理温度にまで昇温してイオンを活性化させる昇温工程と、
前記昇温工程の後、前記第1のピーク強度を有する光の強度が低下しているときに前記第1のピーク強度よりも弱い第2のピーク強度に到達する光を第2の光源から前記半導体基板の表面に照射して少なくとも前記第2のピーク強度を有する光照射によって前記半導体基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する保温工程と、
を備えることを特徴とする熱処理方法。」

<<相違点>>
<<相違点1>>
「フラッシュ」
本願発明は、「第1のフラッシュランプ」及び「第2のフラッシュランプ」を用いて半導体基板に対して「フラッシュ光」を照射するのに対して、引用発明2は、「レーザ光源1aから出射したパルスレーザビームLa」及び「レーザ光源1bから出射したレーザビームLb」を「半導体基板の表層」に「レーザ照射」する点。
<<相違点2>>
本願発明は、「第1のフラッシュランプ」及び「第2のフラッシュランプ」からの「フラッシュ光」を「半導体基板の表面の全領域」に照射するのに対して、引用発明2は、「前記重畳されたビーム」を「基板表面」で「走査」して「パルスレーザ照射」を「前記基板表面の所望の領域全体」に対して行う点。

ウ 判断
(ア)引用文献3には、段落【0001】?【0010】に、「半導体基板の表層に添加された不純物を、レーザ照射により活性化する方法」において、「レーザ光源に干渉性の高いレーザを用いても、光強度分布の均一化が良好に行われるレーザ照射装置を提供」し、これにより、「表層に不純物が添加された半導体基板の基板表面から深い位置に存在する不純物の活性化を行うことができる不純物活性化方法を提供すること」を目的とすることが記載されている。
したがって、引用文献3は、「半導体基板の表層に添加された不純物」を「活性化」するために、「レーザ」以外の光源を用いることは、まったく想定していないと認められる。

(イ)そして、引用発明2は、「前記重畳されたビーム」を「基板表面」で「走査され」ることにより「パルスレーザ照射」を「前記基板表面の所望の領域全体」に対して行うものである。
すなわち、引用発明2の「前記重畳されたビーム」は、「前記基板表面」から見れば、「パルスレーザ照射」を「前記基板表面の所望の領域全体」に対して行うためには、当該「基板表面」で「走査」させることが必要な点光源であり、本願発明の「第1のフラッシュランプ」及び「第2のフラッシュランプ」のように、「半導体基板の表面の全領域」に「照射」される光源ではない。

(ウ)そうすると、不純物を活性化するための熱処理をフラッシュランプで行うことが、前記引用文献2に記載されるとともに引用文献4(特開2005-167005号公報)に記載されるように周知技術であり、不純物活性化の熱処理にフラッシュランプとレーザのどちらでも用いてもよい旨が、引用文献5(特開2007-12675号公報)の段落【0046】、引用文献6(特開2006-351871号公報)の段落【0056】、及び、引用文献7(特開2006-278532号公報の段落【0060】に記載されているとしても、引用発明2の「前記重畳されたビーム」を「前記基板表面の所望の領域全体」に対して照射するための光源として、「レーザ」に代えてフラッシュランプを用いることを、引用文献3の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものとは認められない。

(エ) したがって、本願発明は、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)小括
以上から、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されていると認められる。
そして、本願は原出願の出願日である平成19年2月9日に出願したものであるから、本願の出願後に頒布された刊行物である引用文献1に基づいて、本願発明が、特許法第29条第1項第3号に該当するとも、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとも、いえない。
また、本願発明は、引用文献2に記載された発明であるとすることはできないばかりでなく、引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。
さらに、本願発明は、引用文献3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、もはや、本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由1について
1 当審拒絶理由1の概要
当審より平成28年1月21日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由1」という。)の概要は以下のとおりである。
「1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.(拡大先願)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1
(1) 本願の請求項1には「前記昇温工程の後、フラッシュ光照射の保温効果によって前記基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する保温工程」と記載されている。
しかしながら、「フラッシュ光照射の保温効果」とはどのような効果であるのか不明であり、当該工程を実現するための具体的な構成を特定することができない。
したがって、例えば、「前記昇温工程の後、フラッシュ光照射の保温効果によって前記基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する保温工程」と「前記昇温工程の後、基板に対してフラッシュ光を照射することによって前記基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する保温工程」とは、差異があるのか差異がないのかや、仮に差異がある場合にその差異がどのようなものであるのかを特定することができない。
よって、本願の請求項1、2に係る発明は、明確でない。

(2) 本願の請求項2には「前記昇温工程は、第1のピーク強度を有するフラッシュ光の照射によって行われ」と記載されている。
……(中略)……
したがって、本願の請求項2に係る発明は、昇温工程において、基板に第1のピーク強度を有するフラッシュ光のみが照射され、第2のピーク強度を有するフラッシュ光は照射されない場合のみを含んでいるのか、それとも、基板に第1のピーク強度を有するフラッシュ光及び第2のピーク強度を有するフラッシュ光の両方が照射される場合も含んでいるのか特定することができない。
また、本願の請求項2に係る発明は、保温工程において、基板に第2のピーク強度を有するフラッシュ光のみが照射され、第1のピーク強度を有するフラッシュ光は照射されない場合のみを含んでいるのか、それとも、基板に第1のピーク強度を有するフラッシュ光及び第2のピーク強度を有するフラッシュ光の両方が照射される場合も含んでいるのかについても特定することができない。
よって、本願の請求項2に係る発明は、明確でない。

●理由2
(1)
ア 本願明細書の発明の詳細な説明には、以下のとおりの事項が記載されている。
……(中略)……
このように、本願明細書の発明の詳細な説明には、フラッシュランプFL1の発光開始タイミングとフラッシュランプFL2の発光開始タイミングとを同時とし、発光開始直後においてはフラッシュランプFL1からのフラッシュ光の照射が支配的となり、主として発光時間が1.0ミリセカンドのフラッシュランプFL1から照射された強いピーク強度を有するフラッシュ光によって半導体ウェハーWの表面が急速にイオンの活性化温度以上の処理温度T2(1000℃ないし1100℃程度)にまで昇温され、フラッシュランプFL1からのフラッシュ光強度が減衰した後は、フラッシュランプFL2からのフラッシュランプFL1より低いピーク強度を有するフラッシュ光の照射が支配的となり、主として発光時間が3.0ミリセカンドのフラッシュランプFL2から照射されたなだらかなピークを有するフラッシュ光による保温効果によって比較的長時間に渡って活性化温度以上の温度を維持することにより、基板に反りや割れを生じさせることなく従来よりも若干深い接合の活性化を行うとの課題を解決した発明が記載されているものと認められる。

イ 他方、本願の請求項1には、以下のとおりの事項が記載されている。
「前記基板の表面の全領域にフラッシュ光を照射して前記基板の表面温度を前記基板に注入されたイオンの活性化温度以上の処理温度にまで昇温する昇温工程と、
前記昇温工程の後、フラッシュ光照射の保温効果によって前記基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する保温工程と、
を備えることを特徴とする熱処理方法。」

しかしながら、本願の請求項1に係る発明は、「昇温工程」の「フラッシュ光照射」と、「保温工程」の「フラッシュ光照射」との関係を規定していないことや、「基板」の材料や、「フラッシュ光照射」のピーク強度や照射時間についての規定がないことから、1回のフラッシュ光の照射によって、昇温工程と保温工程とが行われ、従来よりも若干深い接合のイオン活性化ができない場合や、基板の表面温度が必要以上に上昇してウェハー反りが生じたり、ウェハー割れが発生する場合を含んでいるものと認められる。
また、本願の請求項1、2に係る発明は、「昇温工程」の「フラッシュ光照射」と、「保温工程」の「フラッシュ光照射」との関係を規定していないことから、「昇温工程」の「フラッシュ光照射」と、「保温工程」の「フラッシュ光照射」を1つのフラッシュランプに複数回電流を流すことより行う場合を含んでいるものと認められる。
また、本願の請求項1、2に係る発明は、「昇温工程」の「フラッシュ光照射」と、「保温工程」の「フラッシュ光照射」とを、別のフラッシュランプにより行う場合を含んでいるものの、それらの、照射時間、発光開始タイミングについての規定がないことや、「基板」の材料や、「フラッシュ光照射」のピーク強度についての規定がないことから、「フラッシュ光照射」と、「保温工程」の「フラッシュ光照射」とを同時に開始する場合であって、「昇温工程」の「フラッシュ光照射」の照射時間と、「保温工程」の「フラッシュ光照射」の照射時間とが同じであり、従来よりも若干深い接合のイオン活性化ができない場合や、基板の表面温度が必要以上に上昇してウェハー反りが生じたり、ウェハー割れが発生する場合を含んでいるものと認められる。
また、本願の請求項1、2に係る発明は、昇温工程が、第1のフラッシュ光の照射によって行われ、保温工程が、第2のフラッシュ光の照射によって行われ、昇温工程と保温工程との間に第1のフラッシュ光と第2のフラッシュ光の両方が照射される工程を備え、この昇温工程と保温工程との間の第1のフラッシュ光と第2のフラッシュ光の両方が照射される工程において、基板の表面温度が必要以上に上昇してウェハー反りが生じたり、ウェハー割れが発生する場合を含んでいるものと認められる。
さらに、本願の請求項1、2に係る発明は、「昇温工程」の「フラッシュ光照射」により、基板の表面温度が必要以上に上昇してウェハー反りが生じたり、ウェハー割れが発生する場合を含み、本願の請求項1に係る発明は、「保温工程」の「フラッシュ光照射」により、基板の表面温度が必要以上に上昇してウェハー反りが生じたり、ウェハー割れが発生する場合を含み、本願の請求項1、2に係る発明は、「保温工程」の「フラッシュ光照射」のピーク強度が小さいことや、「所定時間」が短いこと等により、「フラッシュ光照射の保温効果」が十分でなく、従来よりも若干深い接合のイオン活性化ができない場合を含んでいるものと認められる。

ウ したがって、これらの場合を含んでいる本願の請求項1、2に係る発明の範囲まで、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された内容を、拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本願の請求項1、2に係る発明は、本願の発明の詳細な説明に記載したものではない。

●理由3
・請求項1
・引用文献1
・備考
(1)引用文献1に記載された発明
ア 引用文献1には、以下のとおりの事項が記載されている。
……(中略)……
イ よって、引用文献1には、第1の実施の形態として、以下のとおりの発明が記載されているものと認められる。
「基板上のアモルファスシリコン膜の同一領域に、C_(1)の放電によりτ41の溶融時間が維持され、τ_(41)時間が経過する直前のC_(2)の放電によりτ_(42)の溶融時間が維持され、τ_(42)時間が経過する直前のC_(3)の放電によりτ_(43)の溶融時間が維持され、トータルとしてτ_(0)=τ_(41)+τ_(42)+τ_(43)(例えば1.5=0.5+0.5+0.5msec)の溶融時間が維持されるように、繰り返してフラッシュ照射した後に、徐冷却しながら結晶化するフラッシュランプアニール。」

(2)対比
……(中略)……
エ そうすると、本願の請求項1に係る発明と引用文献1に記載された発明とは、
「基板に対してフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法であって、
前記基板の表面にフラッシュ光を照射して前記基板の表面温度を処理温度にまで昇温する昇温工程と、
前記昇温工程の後、フラッシュ光照射の保温効果によって前記基板の表面温度を所定時間以上維持する保温工程と
を備える熱処理方法。」
である点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点1) 本願の請求項1に係る発明は、フラッシュ光を基板の表面の全領域に照射しているのに対して、引用文献1に記載された発明は、繰り返してフラッシュ照射する「アモルファスシリコン膜の同一領域」が、基板の表面の全領域であるか不明な点。

(相違点2) 本願の請求項1に係る発明は、昇温工程において、フラッシュ光を照射して基板の表面温度を基板に注入されたイオンの活性化温度以上の処理温度にまで昇温し、保温工程において、基板の表面温度を活性化温度以上に所定時間以上維持するのに対して、引用文献1に記載された発明は、アモルファスシリコン膜にτ0=τ41+τ42+τ43の溶融時間が維持されるように、繰り返してフラッシュ照射した後に、徐冷却しながら結晶化するものである点。

(3)判断
ア 相違点1について
上記(1)ア(イ)で摘記したとおり、引用文献1には、大面積を一括して必要回数繰り返してフラッシュ照射する方法を適宜に選択してもよいことが記載されている。(段落【0161】)
したがって、引用文献1に記載された発明において、フラッシュ照射する対象である「アモルファスシリコン膜の同一領域」を、「アモルファスシリコン膜」を有する基板の表面の全領域とすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。

イ 相違点2について
上記(1)ア(ア)で摘記したとおり、引用文献1には、フラッシュランプアニールによる溶融状態の加熱と冷却で半導体薄膜の結晶化及び不純物イオンの活性化を同時に行うことが記載されている。(段落【0115】)
したがって、引用文献1に記載された発明において、アモルファスシリコン膜にτ_(0)=τ_(41)+τ_(42)+τ_(43)の溶融時間が維持されるように、繰り返してフラッシュ照射した後に、徐冷却しながら結晶化する際に、アモルファスシリコン膜の結晶化と不純物イオンの活性化を同時に行うものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
そして、アモルファスシリコン膜が溶融される温度は、不純物イオンの活性化温度よりも高いもの認められる。

(4)まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明と引用文献1に記載された発明との相違点は、引用文献1に記載された技術を勘案することにより、当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものである。
よって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

●理由3
・請求項1
・引用文献2
・備考
(1)引用文献2に記載された発明
ア 引用文献2には、以下のとおりの事項が記載されている。
……(中略)……
イ よって、引用文献2には、課題を解決するための手段として、以下のとおりの発明が記載されているものと認められる。
「基板上に形成された半導体膜に注入された少なくとも2種類以上の不純物を活性化する不純物活性化工程とを含み、前記不純物活性化工程は、相対的に高温で短時間の熱処理を行う高温短時熱処理工程と、相対的に低温で長時間の熱処理を行う低温長時熱処理工程とを含み、
高温短時熱処理工程において580?620℃の熱処理を、低温長時熱処理工程において540?580℃の熱処理を行うものとすることができ、高温短時熱処理工程において580℃未満の熱処理とした場合には、ホウ素イオンの活性化率が低減する場合があり、低温長時熱処理工程において540℃未満の熱処理とした場合には、リンイオンの活性化率が低減する場合があり、
不純物活性化工程はフラッシュランプ光を照射するフラッシュランプアニール(FLA)を例示することができるRTA(Rapid Thermal Anneal)法を用いた熱処理工程とすることができる
半導体装置の製造方法。」

(2)対比
……(中略)……
エ そうすると、本願の請求項1に係る発明と引用文献2に記載された発明とは、
「基板を加熱する熱処理方法であって、
前記基板の表面温度を前記基板に注入されたイオンの活性化温度以上の処理温度にまで昇温する昇温工程と、
前記基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する保温工程と、
を備えることを特徴とする熱処理方法。」
である点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点3) 本願の請求項1に係る発明は、「基板の表面の全領域にフラッシュ光を照射して前記基板の表面温度を前記基板に注入されたイオンの活性化温度以上の処理温度にまで昇温」し、「フラッシュ光照射の保温効果によって前記基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する」ものであるのに対して、引用文献2に記載された発明は、高温短時熱処理工程と低温長時熱処理工程とを含む不純物活性化工程を、フラッシュランプ光を照射するフラッシュランプアニール(FLA)を例示することができるRTA(Rapid Thermal Anneal)法を用いた熱処理工程とすることができるものである点。

(相違点4) 本願の請求項1に係る発明は、「前記昇温工程の後」に「保温工程」「を備える」のに対して、引用文献2に記載された発明は、「不純物活性化工程」が「高温短時熱処理工程」と「低温長時熱処理工程」とをどのような順序で含むのか不明である点。

(3)判断
ア 相違点3について
上記(1)イのとおり、引用文献2に記載された発明は、高温短時熱処理工程と低温長時熱処理工程とを含む不純物活性化工程を、フラッシュランプ光を照射するフラッシュランプアニール(FLA)を例示することができるRTA(Rapid Thermal Anneal)法を用いた熱処理工程とすることができるものである。
また、フラッシュランプ光を照射するフラッシュランプアニール(FLA)により不純物の活性化を行う際に、フラッシュランプ光を、基板の表面の全領域に照射することは、通常のことである。
したがって、引用文献2に記載された発明において、高温短時熱処理工程と低温長時熱処理工程を、フラッシュランプ光を基板の表面の全領域に照射するフラッシュランプアニール(FLA)により行うことは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

イ 相違点4について
上記(1)アのとおり、引用文献2には、比較的高温の第1熱処理工程を行った後に、第2熱処理工程を行う旨記載されている。(段落【0034】)
したがって、引用文献2に記載された発明において、「不純物活性化工程」を、「高温短時熱処理工程」の後に「低温長時熱処理工程」を含むものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(4)まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明と引用文献2に記載された発明との相違点は、引用文献2に記載された技術を勘案することにより、当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものである。
よって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

●理由3
・請求項2
・引用文献2
・備考
上記「●理由3」の「・請求項1」の「・引用文献2」の「・備考」の(1)イのとおり、引用文献2に記載された発明の「高温短時熱処理工程」は、「580?620℃の熱処理」を行うものであり、「低温長時熱処理工程」は、「540?580℃の熱処理」を行うものである。
したがって、引用文献2に記載された発明において、高温短時熱処理工程と低温長時熱処理工程を、フラッシュランプ光を基板の表面の全領域に照射するフラッシュランプアニール(FLA)により行うと、低温長時熱処理工程におけるフラッシュランプ光のピーク強度は、高温短時熱処理工程におけるフラッシュランプ光のピーク強度よりも弱いものといえる。
よって、本願の請求項2に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

●理由4
・請求項1
・引用文献等3
・備考
(1)先願3に記載された発明
ア 先願3の願書に最初に添付された明細書には、以下のとおりの事項が記載されている。
……(中略)……
エ そうすると、先願3の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面には、発明を実施するための最良の形態として、以下のとおりの発明が記載されているものと認められる。
「被処理物2である半導体ウエハに不純物イオンを導入して形成したIGBTのコレクタ側のPN接合部の活性化処理が可能な熱処理方法であって、
時間幅の長いパルス電流Bが入力され、被処理物2の全体と対向した第1の閃光放電ランプ10bにより、被処理物2の表面温度T2を処理温度T3(1100℃)の近くまで上げ、時間幅の短いパルス電流Aが入力され、被処理物2の全体と対向した第2の閃光放電ランプ10aにより、処理温度T3に足りない分だけ短時間加熱し、約0.8msecから約1.2msecの時間まで被処理物2の表面温度T2が1000℃以上に維持される熱処理方法。」

(2)対比
……(中略)……
ウ そうすると、本願の請求項1に係る発明と先願3の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明とは、
「基板に対してフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法であって、
前記基板の表面の全領域にフラッシュ光を照射して前記基板の表面温度を前記基板に注入されたイオンの活性化温度以上の処理温度にまで昇温する昇温工程と、
前記昇温工程の後、フラッシュ光照射の保温効果によって前記基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する保温工程と、
を備えることを特徴とする熱処理方法。」
である点で一致し、構成上の差異を見いだすことができない。

(3)まとめ
よって、本願の請求項1に係る発明は、先願3の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないと認められるので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

●理由4
・請求項2
・引用文献等3
・備考
上記「●理由4」の「・請求項1」の「・引用文献等3」の「・備考」の(1)アのとおり、先願3の願書に最初に添付された明細書には、第2の閃光放電ランプ10aに入力されるパルス電流Aのピーク値は、第2の閃光放電ランプ10bに入力されるパルス電流Bのピーク値より大きいことが好ましいことが記載されている。(段落【0018】)
よって、本願の請求項2に係る発明は、先願3の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないと認められるので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2002-252174号公報
2.特開2004-103841号公報
3.特願2006-335267号(特開2008-147533号公報)」

2 当審拒絶理由1についての判断
(1)理由1(明確性)について
平成28年3月24日付けの手続補正によって当該手続補正前の請求項2が削除され、当該手続補正前の請求項1における「フラッシュ光照射の保温効果によって前記基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する保温工程」との記載は、平成28年8月17日付けの手続補正によって、本願発明においては、「前記第1のピーク強度を有するフラッシュ光の強度が低下しているときに前記第1のピーク強度よりも弱い第2のピーク強度に到達するフラッシュ光を第2のフラッシュランプから前記半導体基板の表面の全領域に照射して少なくとも前記第2のピーク強度を有するフラッシュ光照射によって前記半導体基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する保温工程」と補正された。
この平成28年8月17日付けの手続補正によって、「保温効果」の記載は削除され、「保温工程」を実現するための具体的な構成が明確となった。
よって、当審拒絶理由1の理由1は解消した。

(2)理由2(サポート要件)について
平成28年8月17日付けの手続補正によって、請求項1において、「昇温工程」では「少なくとも第1のピーク強度を有するフラッシュ光を第1のフラッシュランプから照射」こと、「保温工程」では「前記昇温工程の後、前記第1のピーク強度を有するフラッシュ光の強度が低下しているときに前記第1のピーク強度よりも弱い第2のピーク強度に到達するフラッシュ光を第2のフラッシュランプから前記半導体基板の表面の全領域に照射して少なくとも前記第2のピーク強度を有するフラッシュ光照射」を行うこと、がそれぞれ特定された。
これらの補正により、請求項1に係る発明は本願明細書の発明の詳細な説明における開示によってサポートされるようになった。
よって、当審拒絶理由1の理由2は解消した。

(3)理由3(進歩性)について
A 引用文献1を主引例とする場合
当審拒絶理由1における引用文献1(特開2002-252174号公報)は、原査定の根拠となった平成26年4月25日付けの拒絶理由通知における引用文献2である。
したがって、第3の2(3)Bで記載したと同じ理由により、もはや、本願発明は当審拒絶理由1における引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

B 引用文献2を主引例とする場合
ア 引用文献2に記載された発明
当審拒絶理由1における引用文献2(特開2004-103841号公報)の段落【0006】?【0012】、段落【0023】?【0034】、及び図5、図6の記載から、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「基板上に形成された半導体膜に注入された少なくとも2種類以上の不純物を活性化する不純物活性化工程とを含み、前記不純物活性化工程は、相対的に高温で短時間の熱処理を行う高温短時熱処理工程と、相対的に低温で長時間の熱処理を行う低温長時熱処理工程とを含む半導体装置の製造方法であって、
前記不純物として、N型不純物イオンを基板に注入して、NチャネルTFTの低濃度ソース領域5c及び低濃度ドレイン領域5dを形成し、
前記不純物として、P型不純物イオンを基板に注入して、PチャネルTFTのソース領域5j及びドレイン領域5kを形成し、
その後、RTA法による加熱処理を施すことによって、注入した不純物イオンを活性化させるに際して、高温短時熱処理工程においては620℃で30秒の熱処理を行って前記P型不純物イオンが主として活性化され、低温長時熱処理工程においては580℃で120秒の熱処理を行ってN型不純物イオンが主として活性化され、
前記高温短時熱処理工程を行った後に、直ちに前記低温長時熱処理工程を行い、
前記RTA法として、たとえば、フラッシュランプ光を照射するフラッシュランプアニール(FLA)を用いる半導体装置の製造方法。」

イ 対比
本願発明と引用発明3とを対比すると、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違する。
<<一致点>>
「イオンが注入された半導体基板に対してフラッシュ光を照射することによって該半導体基板を加熱する熱処理方法であって、
前記半導体基板の表面にフラッシュ光を第1のフラッシュランプから照射して前記半導体基板の表面温度を前記半導体基板に注入されたイオンの活性化温度以上の処理温度にまで昇温してイオンを活性化させる工程と、
前記昇温工程の後、前記第1のフラッシュランプからのフラッシュ光の強度が低下しているときにフラッシュ光を第2のフラッシュランプから前記半導体基板の表面に照射して少なくとも前記第2のフラッシュランプからのフラッシュ光照射によって前記半導体基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する工程と、
を備えることを特徴とする熱処理方法。」

<<相違点>>
<<相違点1>>
本願発明の「昇温工程」においては「半導体基板の表面の全領域」に「少なくとも第1のピーク強度を有する」フラッシュ光を照射するのに対して、引用発明3の「高温短時熱処理工程」において照射する「フラッシュランプ光」の照射範囲及びピーク強度は不明である点。
<<相違点2>>
本願発明の「保温工程」においては「半導体基板の表面の全領域」に「前記第1のピーク強度を有するフラッシュ光の強度が低下しているときに前記第1のピーク強度よりも弱い第2のピーク強度に到達するフラッシュ光」を照射するのに対して、引用発明3の「低温長時熱処理工程」において照射する「フラッシュランプ光」の照射範囲、照射タイミング及びピーク強度は不明である点。
<<相違点3>
本願発明の「第1のピーク強度を有するフラッシュ光」を「照射」する工程は「イオンを活性化させる昇温工程」であり、「第2のピーク強度に到達するフラッシュ光」を「照射」する工程は「前記半導体基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する保温工程」であるのに対して、引用発明3の「高温短時熱処理工程においては620℃で30秒の熱処理を行って前記P型不純物イオンが主として活性化され」、「低温長時熱処理工程においては580℃で120秒の熱処理を行ってN型不純物イオンが主として活性化され」る点。

ウ 判断
上記各相違点のうち、相違点3について検討する。
(ア)引用発明3の「低温長時熱処理工程」は主として「N型不純物イオン」を「活性化」させるための工程である。
したがって、前記「低温長時熱処理工程」は、その前に行う「高温短時熱処理工程」で昇温させた「P型不純物イオンが主として活性化」させるための「620℃」という当該「P型不純物イオン」の「活性化」温度を、それ以上に維持させるための工程ではない。

(イ)そして、本願発明は、相違点3に係る構成を有することで、「半導体ウェハーWの表面から比較的深い領域をも活性化温度以上にまで昇温することができ、深い接合の活性化を行うことが可能となる。一方、半導体ウェハーWの表面(浅い領域)の温度が必要以上に上昇することもなく、半導体ウェハーWの反りや割れを防止することができる。」という本願明細書の段落【0059】に記載された格別の効果を有するものである。

(ウ)したがって、本願発明は、引用発明3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。

(4)理由4(拡大先願)について
ア 先願に記載された発明
当審拒絶理由1で引用した先願(特願2006-335267号)の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を開示する特開2008-147533号公報には、その特許請求の範囲の請求項1?4、段落【0011】?【0019】、段落【0023】?【0034】、及び、図6、図7の記載から、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「第1の閃光放電ランプと第2の閃光放電ランプとを有し、前記第2の閃光放電ランプの電流は、時間幅が前記第1の閃光放電ランプの電流の時間幅より小さく、前記第1の閃光放電ランプの電流入力後に入力されることを特徴とする閃光放電装置を用いて、不純物イオンを導入した半導体ウェハの表面を熱処理して活性化処理を行う活性化処理方法であって、
時間幅の長いパルス電流Bが入力された前記第1の閃光放電ランプにより、前記半導体ウェハの表面温度T2を予め処理温度T3近くまで予備加熱温度より高い温度に加熱し、
時間幅の短いパルス電流Aが入力された前記第2の閃光放電ランプ10により、短時間だけ処理温度以上に前記半導体ウェハの表面を加熱することで、前記半導体ウェハの表面と裏面との温度差を緩和して前記半導体ウェハが割れることを防止する活性化処理方法。」

イ 対比
本願発明と先願発明とを対比すると、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違していると認められる。
<<一致点>>
「イオンが注入された半導体基板に対してフラッシュ光を照射することによって該半導体基板を加熱する熱処理方法であって、
前記半導体基板の表面に少なくとも第1のピーク強度を有するフラッシュ光を第1のフラッシュランプから照射して前記半導体基板の表面温度を前記半導体基板に注入されたイオンの活性化温度以上の処理温度にまで昇温してイオンを活性化させる昇温工程と、
前記第1のピーク強度よりも弱い第2のピーク強度に到達するフラッシュ光を第2のフラッシュランプから前記半導体基板の表面に照射して少なくとも前記第2のピーク強度を有するフラッシュ光照射によって前記半導体基板の表面を加熱する加熱工程と、
を備えることを特徴とする熱処理方法。」

<<相違点>>
<<相違点1>>
本願発明の「第1照射工程」及び「第2照射工程」の「フラッシュ光」の「照射」は「半導体基板の表面の全領域」に行われるのに対して、先願発明は、それらの構成を有していない点。
<<相違点2>>
本願発明は「前記第1のピーク強度を有するフラッシュ光の強度が低下しているときに」前記第1のピーク強度よりも弱い第2のピーク強度に到達するフラッシュ光を照射するのに対して、先願発明は「時間幅の長いパルス電流Bが入力された前記第1の閃光放電ランプ」により「前記半導体ウェハの表面温度T2を予め処理温度T3近く」まで「加熱し」てから「時間幅の短いパルス電流Aが入力された前記第2の閃光放電ランプ10」により「短時間だけ処理温度以上に前記半導体ウェハの表面を加熱する」点。
<<相違点3>>
本願発明の「前記第1のピーク強度よりも弱い第2のピーク強度に到達するフラッシュ光」を照射する工程は「前記半導体基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する保温工程」であるのに対して、先願発明の「時間幅の長いパルス電流Bが入力された前記第1の閃光放電ランプ」から「閃光」を照射する工程は「前記半導体ウェハの表面温度T2を予め処理温度T3近くまで予備加熱温度より高い温度に加熱」する工程である点。

ウ 判断
上記の通り、本願発明と先願発明とは、3つの相違点を有する。
そして、これらの相違点はいずれも実質的な相違点であると認められるので、本願発明と先願発明は同一の発明ではない。

(5)小括
したがって、平成28年8月17日付けの手続補正によって、本願発明は特許請求の範囲の記載要件を満たすものとなった。
また、本願発明は、当審拒絶理由1における引用文献1に記載された発明、ないしは、当審拒絶理由1における引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本願発明は、先願(特願2006-335267号)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一の発明ではない。
そうすると、もはや、当審拒絶理由1によっては、本願を拒絶することはできない。


第5 当審拒絶理由2について
1 当審拒絶理由2の概要
当審より平成28年6月24日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由2」という。)の概要は以下のとおりである。
「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2002-252174号公報

・請求項 :1
・引用文献等:1
・備考
……(中略)……
2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項1には、「前記昇温工程の後、前記第1のピーク強度を有するフラッシュ光の強度が低下しているときに前記第1のピーク強度よりも弱い第2のピーク強度に到達するフラッシュ光を第2のフラッシュランプから前記半導体基板の表面の全領域に照射して少なくとも前記第2のピーク強度を有するフラッシュ光照射の保温効果によって前記半導体基板の表面温度を前記活性化温度以上に所定時間以上維持する保温工程」と記載されている。
この記載によれば、前記「保温効果」を有する「フラッシュ光照射」とは、「フラッシュ光」それ自体により「半導体基板の表面温度」を「保温」するという特別な効果を有する特別な「フラッシュ光」を「照射」することを意味すると解することもできる。
しかしながら、本願明細書には、当該「保温効果」については、段落【0056】に「パルス幅の長いフラッシュランプFL2から照射されたフラッシュ光は、ピーク強度はフラッシュランプFL1より低いものの、比較的長時間に渡って光強度を維持する。……その後フラッシュランプFL1からのフラッシュ光強度が減衰した後はフラッシュランプFL2からの閃光照射が支配的となって比較的長時間に渡ってある程度の光強度が維持される。」、段落【0057】に「その後は、主としてパルス幅の長いフラッシュランプFL2から照射されたなだらかなピークを有するフラッシュ光による保温効果によって比較的長時間に渡って活性化温度以上の温度を維持した後に次第に降温する。」と記載されているだけである。
すなわち、本願明細書には、「フラッシュランプFL1からのフラッシュ光強度が減衰した後」に、「ピーク強度はフラッシュランプFL1より低いものの、比較的長時間に渡って」ある程度の「光強度を維持」する「フラッシュランプFL2からの閃光照射」を行うこと、これにより、結果として、「半導体基板の表面温度」が「比較的長時間に渡って活性化温度以上の温度を維持」されることが記載されているだけで、「照射」する「フラッシュ光」それ自体が特別な効果を有することは、何ら記載されていない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、また、依然として明確でない。」

2 当審拒絶理由2についての判断
(1)理由1について
当審拒絶理由2における引用文献(特開2002-252174号公報)は、原査定の根拠となった平成26年4月25日付けの拒絶理由通知における引用文献2である。
したがって、第3の2(3)Bで記載したと同じ理由により、本願発明は、もはや、当審拒絶理由2における引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)理由2について
平成28年8月17日付けの手続補正によって、請求項1の「保温効果」という記載は削除されたので、本願発明は、明確になり、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとなった。
したがって、当審拒絶理由2の理由2は解消した。

(3)小括
以上のとおり、本願発明は、当審拒絶理由2における引用文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、当審拒絶理由2の理由2は解消した。
そうすると、当審拒絶理由2によっては、本願を拒絶することはできない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-29 
出願番号 特願2011-243238(P2011-243238)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 161- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 柴山 将隆  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 飯田 清司
河口 雅英
発明の名称 熱処理方法  
代理人 有田 貴弘  
代理人 吉竹 英俊  

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