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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1322662
審判番号 不服2015-18258  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-07 
確定日 2016-12-08 
事件の表示 特願2011-158067「積層型熱電変換モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月 4日出願公開、特開2013- 26334〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年7月19日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年 2月26日 拒絶理由通知(起案日)
平成27年 5月 1日 意見書・手続補正書の提出
平成27年 6月30日 拒絶査定(起案日)
平成27年10月 7日 審判請求・手続補正書の提出
平成28年 4月27日 上申書の提出


第2 補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年10月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の段落【0090】を補正するものであって、特許請求の範囲についての本件補正の内容は、特許請求の範囲の請求項1を補正するものである。
そして、本件補正前の請求項1、及び、本件補正後の請求項1の記載は以下のとおりである。
<本件補正前>
「【請求項1】
金属酸化物を熱電変換材料とする熱電変換モジュール又はシリコン系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュールからなる高温部用モジュールと、ビスマス・テルル系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュールからなる低温部用モジュールとを積層した構造であって、該高温部用モジュールと該低温部用モジュールとの間に、柔軟性を有する伝熱材料及び金属板が配置されていることを特徴とする、積層型熱電変換モジュール。」

<本件補正後>
「【請求項1】
金属酸化物を熱電変換材料とする熱電変換モジュール又はシリコン系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュールからなる高温部用モジュールと、ビスマス・テルル系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュールからなり、該高温部用モジュールとは接触面のサイズが異なる低温部用モジュールとを積層した構造であって、該高温部用モジュールと該低温部用モジュールとの間に、柔軟性を有する伝熱材料及び金属板が配置されていることを特徴とする、積層型熱電変換モジュール。」

2 本件補正の適否
(1)補正事項
本件補正は、本件補正前の「高温部用モジュールと、ビスマス・テルル系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュールからなる低温部用モジュールとを積層した構造」という記載を、本件補正後は「高温部用モジュールと、ビスマス・テルル系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュールからなり、該高温部用モジュールとは接触面のサイズが異なる低温部用モジュールとを積層した構造」に補正するものである。
すなわち、本件補正は、「低温部用モジュール」は「該高温部用モジュールとは接触面のサイズが異なる」と補正するものである。

(2)補正要件の検討
本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0042】、段落【0055】、段落【0080】?【0087】、及び、本願の願書に最初に添付した図面の図9(b)?(c)の記載から、上記(1)の補正事項は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであることは明らかである。
したがって、上記(1)の補正事項は特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

そして、上記(1)の補正事項1は、本件補正前の「低温部用モジュール」が「該高温部用モジュールとは接触面のサイズが異なる」ことを限定するもので、本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項を限定的に減縮するものであるから、特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり、また、同法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件についての検討
(1)検討の前提
上記2で検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としているから、本件補正後の特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かにつき、更に検討する。

(2)補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、本件補正後の請求項1に記載された、次のとおりのものと認める。(再掲)
「【請求項1】
金属酸化物を熱電変換材料とする熱電変換モジュール又はシリコン系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュールからなる高温部用モジュールと、ビスマス・テルル系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュールからなり、該高温部用モジュールとは接触面のサイズが異なる低温部用モジュールとを積層した構造であって、該高温部用モジュールと該低温部用モジュールとの間に、柔軟性を有する伝熱材料及び金属板が配置されていることを特徴とする、積層型熱電変換モジュール。」

(3)引用例1の記載と引用発明
ア 引用例1の記載
原査定の根拠となった拒絶理由通知において引用文献2として引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2004-64015号公報(以下「引用例1」という。)には、「熱電変換装置の製造方法ならびに熱電変換装置」(発明の名称)について、図1?図12とともに、次の記載がある。(当審注:下線は当審において付加した。以下同じ。)

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、産業用あるいは民生用の電子冷却装置や熱電発電装置として用いられる熱電変換装置の製造方法ならびに熱電変換装置に関するものである。」

(イ)「【0009】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施形態を図とともに説明する。図1ないし図3は第1実施形態に係る熱電変換モジュールを説明するための図で、図1は熱電変換モジュールの組み立て途中での断面図、図2は熱電変換モジュールの組み立てが完了した状態の断面図、図3はその熱電変換モジュールに用いる中間基板ユニットの斜視図である。
【0010】
本実施形態の場合は図1に示すように、下段側チップユニット20と、上段側チップユニット21と、基板ユニット22とから構成される。
【0011】
前記下段側チップユニット20は、放熱側絶縁基板1の上に多数の下段側放熱電極2が設けられ、その上に半田層3を介して多数の下段側P形半導体チップ4と下段側N形半導体チップ5が並設され、この下段側半導体チップ4,5の上には半田層6を介して多数の下段側吸熱電極7が設けられている。
【0012】
前記上段側チップユニット21は、多数の上段側放熱電極9の上に半田層10を介して多数の上段側P形半導体チップ11と上段側N形半導体チップ12が並設されている。この上段側半導体チップ11,12の上には半田層13を介して多数の上段側吸熱電極14が設けられ、その上に吸熱側絶縁基板15が設置される。
【0013】
前記基板ユニット22は、中間絶縁基板8の両面に弾性被膜23が形成されている。本実施形態の場合は図3に示すように、弾性被膜23は中間絶縁基板8のほぼ全面に一様に塗布形成されている。
【0014】
下段側チップユニット20と上段側チップユニット21と基板ユニット22は個別に作られ、図1に示すように下段側チップユニット20の上に基板ユニット22を介して上段側チップユニット21を載置することにより、図2に示すような2層のカスケード構造を有する熱電変換モジュールの組み立てを終了する。図2において16は下段側リード体、17は上段側リード体である。
【0015】
基板ユニット22を間にして下段側チップユニット20と上段側チップユニット21を圧着することにより、下段側チップユニット20の各下段側吸熱電極7が基板ユニット22の下側弾性被膜23に密着し、上段側チップユニット21の各上段側放熱電極9が基板ユニット22の上側弾性被膜23に密着する。
【0016】
前述の説明では、放熱側絶縁基板1の上に下段側放熱電極2、半田層3、下段側半導体チップ4,5、半田層6、下段側吸熱電極7を順次組付けて下段側チップユニット20とし、上段側放熱電極9の上に半田層10、上段側半導体チップ11,12、半田層13、上段側吸熱電極14、吸熱側絶縁基板15を順次組付けて上段側チップユニット21としたが、放熱電極と半田層とP形,N形半導体チップと半田層と吸熱電極を順次組付けて同じ集合体を製作し、その集合体に放熱側絶縁基板1を半田などにより接合したものを下段側チップユニット20とし、集合体に吸熱側絶縁基板15を半田などにより接合したものを上段側チップユニット21とすることもできる。」

(ウ)「【0030】
前記各実施形態において前記絶縁基板1,8,15には、例えばアルミナセラミック、窒化アルミニウム、表面に酸化物などの絶縁層を形成した銅やアルミニウム等の金属などが用いられる。
【0031】
前記半田層3,6,10,13,27,30には、例えば錫と鉛の共晶半田などが用いられる。
【0032】
前記半導体チップ4,5,11,12,28,29には、Bi-Te系、Pb-Te系、Zn-Sb系、Fe-Si系、Mn-Si系、Si-Ge系、Co-Sb系などが用いられ、カスケード構造の場合上下段の材料は同じであっても異なってもよい。
【0033】
前記電極2,7,9,14,26,31には、例えばニッケルメッキした銅薄板などが用いられる。
【0034】
前記弾性被膜23には、シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリアミド系接着剤、ジエン系ゴム接着剤、ジエン系ゴム接着剤などの接着剤、あるいはシリコーンゲルなどのゲル剤が基材として用いられ、熱伝導性を高めるために基材よりも熱伝導率の高いフィラーが適量混合されている。弾性被膜23の膜厚は、3?50μmが適当である。
【0035】
フィラーを含有したシリコーン系接着剤からなる弾性被膜23の硬さ(JISA)は65?100、引張強さは40?80〔kgf/cm^(2) 〕、伸び率は45?130〔%〕、熱伝導率は2×10^(-3)?5×10^(-3)〔cal/cm・sec・℃〕である。」

(エ)「【0044】
図11は、前記第1?5実施形態にいずれかの熱電変換モジュールを用いた発電用熱電変換装置の断面図である。アルミニウムブロックからなる第1熱導体70と、アルミニウムからなり多数のフィン71を有する第2熱導体72との間に、熱電変換モジュール73が介在されている。合成樹脂からなる複数本のボルト74で第1熱導体70と第2熱導体72との間を締結することにより、熱電変換モジュール73が両者の間で圧着される。
【0045】
図10ならびに図11に示す熱電変換装置において、熱電変換モジュール42,73が機械的に圧着されることにより、基板ユニット22側の弾性被膜23にそれと対向する各電極7,9,26,31が食い込むように密着して、各電極7,9,26,31の位置決めがなされるとともに、熱的に導通する。」

(オ)「【0046】
【発明の効果】
……(中略)……
【0048】
さらにまた、基板ユニットの弾性被膜上に電極が良好に圧着され、その圧着状態が弾性被膜の弾力性によって常に維持されているから、熱抵抗を低く抑えて、優れた熱電変換特性を発揮することができる。」

イ 引用発明
上記アの(ア)?(オ)より、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「多数の下段側放熱電極2の上に半田層3を介して多数の下段側P形半導体チップ4と下段側N形半導体チップ5が並設されている下段側チップユニット20と、
多数の上段側放熱電極9の上に半田層10を介して多数の上段側P形半導体チップ11と上段側N形半導体チップ12が並設されている上段側チップユニット21と、
表面に酸化物などの絶縁層を形成した銅やアルミニウム等の金属からなる中間絶縁基板8と、熱伝導性を高めるために熱伝導率の高いフィラーを適量混合した基材を前記中間絶縁基板8の両面のほぼ全面に一様に塗布して形成した弾性被膜23とからなる基板ユニット22と、から構成され、
前記下段側チップユニット20の上に前記基板ユニット22を介して前記上段側チップユニット21を載置して、前記下段側チップユニット20を前記基板ユニット22の下側弾性被膜23に密着させ、前記上段側チップユニット21を前記基板ユニット22の上側弾性被膜23に密着させた圧着状態を常に維持する、2層のカスケード構造を有する熱電変換モジュール。」

(4)引用例2の記載と周知技術1
ア 引用例2の記載
原査定の根拠となった拒絶理由通知において引用文献1として引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2006-237146号公報(以下「引用例2」という。)には、「熱電変換用カスケードモジュール」(発明の名称)について、図1?図8とともに、次の記載がある。

(ア)「【背景技術】
……(中略)……
【0009】
ところで、上記したように、熱電変換用モジュールを用いて熱電発電や熱電冷却、熱電加熱を行わせる場合には、P型及びN型の各熱電材料素子1及び2に対して、熱流の作用する方向又は通電方向に沿って温度勾配が形成されるようになるが、上記各熱電材料素子1及び2の熱電性能は、温度に敏感な特性を有している。すなわち、上記P型及びN型の各熱電材料素子1及び2を構成する熱電材料の組成を、或る温度域で良好な熱電性能を発揮できるように設定したとしても、その温度域を外れた温度条件の下では、別の組成の熱電材料の方が、優れた熱電性能を得られることがある。たとえば、一般に、よく知られているビスマス(Bi)・テルル(Te)系の材料組成を有する熱電材料素子は、上限が250?300℃程度までの温度範囲であれば比較的良好な熱電性能を示すが、300℃以上となるようなより高温の温度条件の下では、鉛テルル系や、シリコン・ゲルマニウム系、コバルト・アンチモン系、シリサイド系等、別の組成の熱電材料による素子を用いる方が、より良好な熱電性能を得ることができることがある。

(イ)「【0010】
そこで、たとえば、500?600℃あるいは更に高温の熱源により得られる広い温度領域を利用して熱電発電を行う場合や、熱電冷却や熱電加熱を行う際の冷却あるいは加熱すべき温度域が広い場合等に用いるための熱電変換用のモジュールとして、モジュール全体に形成させることが所望される温度勾配の領域を、低温域から高温域までの複数の温度域に分け、分けられた各温度域ごとに、該各温度域にてそれぞれ良好な熱電性能を得ることができるような材料組成のP型及びN型の熱電材料素子を用いた熱電変換用モジュールを形成し、これら低温域から高温域の異なる温度域でそれぞれ優れた熱電性能が得られるようにしてある熱電変換用モジュールを、上記モジュール全体に所望される温度勾配に合せて積層することにより、熱電変換の高効率化を図ることができるようにしたカスケード型の熱電変換用モジュール(以下、熱電変換用カスケードモジュールという)が提案されてきている。
【0011】
図8は上記熱電変換用カスケードモジュールの一例として、ペルチェ効果に基く熱電冷却を目的とした熱電変換用カスケードモジュールを示すもので、図6に示したと同様に、交互配置したP型及びN型の各熱電材料素子1,2と、これらの熱電材料素子1,2を直列に導通させるよう一端部同士及び他端部同士を順次接続するモジュール電極3,4と、上記各モジュール電極3,4の外側に固定した絶縁基板5,6とからなる熱電変換用モジュールにおけるP型及びN型の熱電材料素子1,2として、それぞれ高温側で良好な熱電性能が得られる熱電材料組成のP型及びN型の熱電材料素子(熱電エレメント)1a及び2aを用いてなる熱電変換用モジュール(熱電変換素子)8aと、同様に、それぞれ低温側で良好な熱電性能が得られるP型及びN型の熱電材料素子(熱電エレメント)1b及び2bを用いてなる熱電変換用モジュール(熱電変換素子)8bを形成し、この優れた熱電性能が得られる温度域が異なる、すなわち、高温域側と低温域側にそれぞれ温度適性を有する2つの熱電変換用モジュール8aと8bを、図8に示す如く上下に積層配置すると共に、下側の熱電変換用モジュール8aにおける上端部の絶縁基板5と、上側の熱電変換用モジュール8bの下端部の絶縁基板6の互いに相対向する面同士を、はんだ材、ろう材、接着材等で接合してなる構成としてある。これにより、上記熱電変換用カスケードモジュールによれば、低温側に温度適性を有する上方の熱電変換用モジュール8bの上面側の絶縁基板5の上側に取り付けた熱負荷となる部品(図示せず)より発せられる熱が、上記低温側に温度適性を有する熱電変換用モジュール8bにより吸熱され、更に、高温側に温度適性を有する熱電変換用モジュール8aにより、上記熱と低温側の熱電変換用モジュール8bより発熱される熱を吸熱し、該熱電変換用モジュール8aの下端部の絶縁基板6から排出することができるようにしてある(たとえば、特許文献2参照)。
……(中略)……
【0013】
【特許文献1】特開2002-353525号公報
【特許文献2】特開2004-281451号公報
【特許文献3】特開平9-321349号公報」

(ウ)図8には、下側の熱電変換用モジュール8aと上側の熱電変換用モジュール8bとを積層して熱電変換用カスケードモジュールを形成すること、積層する際の接触面である前記熱電変換用モジュール8aの上面のサイズは、前記接触面である前記熱電変換用モジュール8bの下面のサイズより大きいことが、それぞれ記載されていると認められる。

(エ)「【0054】
次いで、図5は本発明の実施の更に別の形態を示すもので、図1に示した実施の形態において、積層する高温域用と低温域用のスケルトン型熱電変換用モジュール9xと9yとの間に、モジュール広がり方向の面内にてスリット11が存在するよう小面積の領域に分けられた接合用絶縁基板10を介在させるよう配置すると共に、該接合用絶縁基板10の上下面に、上側のスケルトン型熱電変換用モジュール9x下端部のモジュール電極4と、下側のスケルトン型熱電変換用モジュール9y上端部のモジュール電極3とを接合、固定するようにした構成に代えて、積層配置したスケルトン型熱電変換用モジュール9xと9yとの間に、モジュール広がり方向の全面に亘る接合用絶縁基板12を介在させるよう配置すると共に、該接合用絶縁基板12の上下面に、上側のスケルトン型熱電変換用モジュール9x下端部のモジュール電極4と、下側のスケルトン型熱電変換用モジュール9y上端部のモジュール電極3とを、それぞれ高熱伝導性を有する弾性接着剤13により接合してなる構成としたものである。
【0055】
上記弾性接着剤13は、本発明の熱電変換用カスケードモジュールの使用時に接合用絶縁基板12部分に作用することとなる温度条件に対する耐熱性と、高熱伝導性を有し、更に、接合用絶縁基板12、スケルトン型熱電変換用モジュール9xのモジュール電極4の下面、及び、スケルトン型熱電変換用モジュール9yのモジュール電極3の上面と接する界面は強固に付着するが、硬化後にも素材自体は柔軟性(弾性)を有するような樹脂系等の接着剤を用いるようにしてある。
【0056】
その他、図1(イ)(ロ)に示したものと同一のものには同一符号が付してある。
【0057】
本実施の形態の熱電変換用カスケードモジュールの使用時に、所要の温度条件が作用することによって上記接合用絶縁基板12に熱膨張による変形が生じると、該変形は、上記接合用絶縁基板12とスケルトン型熱電変換用モジュール9xのモジュール電極4との間、及び、接合用絶縁基板12とスケルトン型熱電変換用モジュール9yのモジュール電極3との間をそれぞれ柔軟性を備えた状態で接着している弾性接着剤13自体が変形することで変位量が緩和された後、各スケルトン型熱電変換用モジュール9x及び9yのモジュール電極4及び3へそれぞれ伝えられる。」

イ 引用例2に記載された周知技術1
上記ア(ア)から、引用例2には、
「熱電変換用モジュールを用いて熱電発電や熱電冷却、熱電加熱を行わせる場合には、よく知られているビスマス(Bi)・テルル(Te)系の材料組成を有する熱電材料素子は、上限が250?300℃程度までの温度範囲であれば比較的良好な熱電性能を示すが、300℃以上となるようなより高温の温度条件の下では、鉛テルル系や、シリコン・ゲルマニウム系、コバルト・アンチモン系、シリサイド系等、別の組成の熱電材料による素子を用いる方が、より良好な熱電性能を得ることができること。」
という技術が記載されている。
上記の技術は、引用例2に【背景技術】として記載されており、本願の出願時に既に周知の技術(以下、上記の技術を「周知技術1」という。)であったと認められる。

(5)補正発明と引用発明の対比
ア 各「モジュール」について
引用発明の「多数の下段側放熱電極2の上に半田層3を介して多数の下段側P形半導体チップ4と下段側N形半導体チップ5が並設されている下段側チップユニット20」と「多数の上段側放熱電極9の上に半田層10を介して多数の上段側P形半導体チップ11と上段側N形半導体チップ12が並設されている上段側チップユニット21」は、いずれも、「P形半導体チップ」と「N形半導体チップ」が「並設されている」チップユニットであるとともに、両者によって「2層のカスケード構造を有する熱電変換モジュール」を構成していることから、それぞれ自体が「熱電変換モジュール」であることは、自明である。
そして、前記「下段側チップユニット20」及び「上段側チップユニット21」における、前記「P形半導体チップ」と「N形半導体チップ」は、いずれも、「熱電変換材料」で形成されていることも、当業者には自明な事項であると認められる。
したがって、引用発明の「多数の下段側放熱電極2の上に半田層3を介して多数の下段側P形半導体チップ4と下段側N形半導体チップ5が並設されている下段側チップユニット20」及び「多数の上段側放熱電極9の上に半田層10を介して多数の上段側P形半導体チップ11と上段側N形半導体チップ12が並設されている上段側チップユニット21」と、補正発明の「金属酸化物を熱電変換材料とする熱電変換モジュール又はシリコン系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュールからなる高温部用モジュール」及び「ビスマス・テルル系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュールからなり、該高温部用モジュールとは接触面のサイズが異なる低温部用モジュール」とは、それぞれ、「熱電変換材料」で形成された「熱電変換モジュールからなる」第1の「モジュール」及び「熱電変換材料」で形成された「熱電変換モジュールから」なる第2の「モジュール」である点で共通する。

イ 各「モジュール」の間の部材について
(ア)引用発明の「表面に酸化物などの絶縁層を形成した銅やアルミニウム等の金属からなる中間絶縁基板8と、熱伝導性を高めるために熱伝導率の高いフィラーを適量混合した基材を前記中間絶縁基板8の両面のほぼ全面に一様に塗布して形成した弾性被膜23とからなる基板ユニット22」において、「前記中間絶縁基板8の両面のほぼ全面に一様に塗布して形成した弾性被膜23」は、「弾性」を有するのであるから、柔軟性を有する材料で形成されていると認められる。
そして、引用発明の「前記中間絶縁基板8の両面のほぼ全面に一様に塗布して形成した弾性被膜23」は、「基材」に「熱伝導性を高めるために熱伝導率の高いフィラーを適量混合した」材料で形成されているから、「熱伝導率の高い」伝熱材料で形成されているものである。
したがって、引用発明の「熱伝導性を高めるために熱伝導率の高いフィラーを適量混合した基材を前記中間絶縁基板8の両面のほぼ全面に一様に塗布して形成した弾性被膜23」は、補正発明の「柔軟性を有する伝熱材料」に相当する。

(イ)引用発明の「表面に酸化物などの絶縁層を形成した銅やアルミニウム等の金属からなる中間絶縁基板8」から、「表面」の「酸化物などの絶縁層」を除いた構成、すなわち、「銅やアルミニウム等の金属」からなる「基板」は、補正発明の「金属板」に相当する。

(ウ)そして、引用発明においては、「前記下段側チップユニット20の上に前記基板ユニット22を介して前記上段側チップユニット21を載置」される。
したがって、前記「熱伝導性を高めるために熱伝導率の高いフィラーを適量混合した基材を前記中間絶縁基板8の両面のほぼ全面に一様に塗布して形成した弾性被膜23」、及び、前記「銅やアルミニウム等の金属」からなる「基板」は、「前記下段側チップユニット20」と「前記上段側チップユニット21」の間に配置されている。
これに対して、補正発明は「該高温部用モジュールと該低温部用モジュールとの間に、柔軟性を有する伝熱材料及び金属板が配置されている」という特定を有するところ、当該特定は、「該高温部用モジュールと該低温部用モジュールとの間」に「柔軟性を有する伝熱材料及び金属板」以外の他の部材が「配置されている」という構成を除外するものではない。
そうすると、引用発明において、「前記下段側チップユニット20」と「前記上段側チップユニット21」の間に、前記「熱伝導性を高めるために熱伝導率の高いフィラーを適量混合した基材を前記中間絶縁基板8の両面のほぼ全面に一様に塗布して形成した弾性被膜23」及び前記「銅やアルミニウム等の金属」からなる「基板」が配置されていることと、補正発明において、「該高温部用モジュールと該低温部用モジュールとの間に、柔軟性を有する伝熱材料及び金属板が配置されている」ことは、前記第1の「モジュール」と前記第2の「モジュール」との間に「柔軟性を有する伝熱材料及び金属板が配置されている」点で共通する。

ウ 「積層型熱電変換モジュール」について
引用発明の「前記下段側チップユニット20の上に前記基板ユニット22を介して前記上段側チップユニット21を載置して、前記下段側チップユニット20を前記基板ユニット22の下側弾性被膜23に密着させ、前記上段側チップユニット21を前記基板ユニット22の上側弾性被膜23に密着させた」構造と、補正発明の「該高温部用モジュールと該低温部用モジュールとの間に、柔軟性を有する伝熱材料及び金属板」を「配置」させて「該高温部用モジュール」と「低温部用モジュールとを積層した構造」は、前記第1の「モジュール」と前記第2の「モジュール」との間に「柔軟性を有する伝熱材料及び金属板」を配置させて、前記第1の「モジュール」と前記第2の「モジュール」とを「積層した構造」である点で共通する。
そうすると、引用発明の「2層のカスケード構造を有する熱電変換モジュール」は、以下に挙げる相違点を除き、補正発明の「積層型熱電変換モジュール」に相当する。

エ 以上から、補正発明と引用発明とは、下記(ア)の点で一致し、下記(イ)の点で相違すると認められる。

(ア)一致点
「熱電変換材料で形成された熱電変換モジュールからなる第1のモジュールと、熱電変換材料で形成された熱電変換モジュールからなる第2のモジュールとを積層した構造であって、該第1のモジュールと該第2のモジュールとの間に、柔軟性を有する伝熱材料及び金属板が配置されていることを特徴とする、積層型熱電変換モジュール。」

(イ)相違点
・相違点1
補正発明は「金属酸化物を熱電変換材料とする熱電変換モジュール又はシリコン系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュールからなる高温部用モジュール」と、「ビスマス・テルル系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュール」からなる「低温部用モジュール」とを備えるのに対し、引用発明は「多数の下段側放熱電極2の上に半田層3を介して多数の下段側P形半導体チップ4と下段側N形半導体チップ5が並設されている下段側チップユニット20」と「多数の上段側放熱電極9の上に半田層10を介して多数の上段側P形半導体チップ11と上段側N形半導体チップ12が並設されている上段側チップユニット21」とを備える点。

・相違点2
補正発明の「低温部用モジュール」は「該高温部用モジュールとは接触面のサイズが異なる」のに対し、引用発明は、そのような特定を有していない点。

(6)相違点についての検討
ア 相違点1について
(ア)第2の3(3)ア(エ)で摘記したように、引用例1には、「第1?5実施形態にいずれかの熱電変換モジュールを用いた発電用熱電変換装置」では「アルミニウムブロックからなる第1熱導体70と、アルミニウムからなり多数のフィン71を有する第2熱導体72との間に、熱電変換モジュール73が介在されている。」と記載されている。
ここで、「アルミニウムからなり多数のフィン71」は空冷装置であると解されることから、前記「第2熱導体72」は低温の環境で使われる「熱導体」であり、「熱電変換モジュール」が「発電用熱電変換装置」に用いられることを考慮すれば、前記「第1熱導体70」は高温の環境で使われる「熱導体」であると認められる。
したがって、引用発明の「多数の下段側放熱電極2の上に半田層3を介して多数の下段側P形半導体チップ4と下段側N形半導体チップ5が並設されている下段側チップユニット20」と「多数の上段側放熱電極9の上に半田層10を介して多数の上段側P形半導体チップ11と上段側N形半導体チップ12が並設されている上段側チップユニット21」のうち一方は常に低温の環境に接し、他方は常に高温の環境に接するという状態で、引用発明の「2層のカスケード構造を有する熱電変換モジュール」が使われることが、引用例1に記載されていると認められる。
一方、第2の3(3)ア(ウ)で摘記したように、引用例1には、「前記半導体チップ4,5,11,12,28,29には、Bi-Te系、Pb-Te系、Zn-Sb系、Fe-Si系、Mn-Si系、Si-Ge系、Co-Sb系などが用いられ、カスケード構造の場合上下段の材料」は「異なってもよい。」と記載されている。

(イ)そして、引用発明の「多数の下段側放熱電極2の上に半田層3を介して多数の下段側P形半導体チップ4と下段側N形半導体チップ5が並設されている下段側チップユニット20」と「多数の上段側放熱電極9の上に半田層10を介して多数の上段側P形半導体チップ11と上段側N形半導体チップ12が並設されている上段側チップユニット21」のそれぞれに、より良好な熱電性能を要求することは、引用発明が当然に有する技術的課題であると認められる。

(ウ)したがって、引用発明の「下段側チップユニット20」を構成する「下段側P形半導体チップ4と下段側N形半導体チップ5」を形成する熱電変換材料と、「上段側チップユニット21」を構成する「上段側P形半導体チップ11と上段側N形半導体チップ12」を形成する熱電変換材料を、周知技術1を勘案して、常に低温の環境に接して使われる「チップ」についてはBi-Te系の熱電変換材料を用いることで当該「チップ」を低音部用とし、常に高温の環境に接して使われる「チップ」についてはSi-Ge系やCo-Sb系の熱電変換材料を用いることで当該「チップ」を高音部用として、相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

イ 相違点2について
(ア)補正発明は「該高温部用モジュールとは接触面のサイズが異なる低温部用モジュールとを積層した構造」を有するという発明特定事項を備える。
この発明特定事項は、「接触面のサイズ」が大きいのはどちらの「モジュール」であるか、あるいは、各「モジュール」の「積層」においてどちらが下側とするかを、特定するものではなく、したがって、単に、大きい方の「モジュール」が「一部は宙に浮いた状態」(本願明細書の段落【0042】の記載)になることを特定するものであると認められる。

(イ)これに対して、熱電発電に用いる2つの熱電変換用モジュールを積層して積層型の熱電変換用カスケードモジュールを形成するとき、下側の熱電変換用モジュールの接触面のサイズを、上側の熱電変換用モジュールの接触面のサイズより大きくすること、すなわち、大きい方の「モジュール」の一部を「宙に浮いた状態」にすることは、以下に挙げる周知例1及び周知例2に記載され、本願の出願時に既に周知の技術(以下「周知技術2」という。)であったと認められる。

a 周知例1
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平5-299704号公報には、「サーモモジュール」(発明の名称)について、図1?図8とともに、次の記載がある。
(a)「【0002】
【従来の技術】熱電変換は、物質中のキャリアがランキン・サイクルやヒートポンプのように働くソリードステート・エネルギ変換の一つである。したがって、エネルギー変換部には、火力発電や冷暖房機のように機械的な可動要素をもたないので、騒音や振動がなく信頼性の高い熱-電気エネルギー変換ができる。熱電変換材料(熱電材料)は、一般に相互に電気伝導性の異なる半導体を組合わせた熱電対として利用し、該半導体の対は熱電変換素子(又は熱電素子)と言われている。この熱電変換素子は、例えば図5、図6に示すように構成され、そのP-N接合部と両分岐端間に温度差を与えることによって電力を取り出したり(ゼーベック効果)、また逆に両分岐端に電流を通ずることによって冷却や加熱の目的に使用する(ペルチェ効果)。
……(中略)……
【0004】しかし、図7のような単段構造のサーモモジュールの場合、冷温熱間の到達温度差(Th-Tc)が約70℃程度と比較的低く、用途が限定される欠点がある。
【0005】そこで、最近では例えば図8に示すように、上記図7の構造のサーモモジュールの上部に更に半導体31,32を組合せたもう一段目の熱電変換素子部を設け、リード線L1,L2および接合部33,34,35を介してカスケード接続することによって多段構造体に形成し、それによって上記冷温熱間の温度差(Th-Tc)を大きくする構成が採用されている。」
(b)図5には、熱電変換素子の上側は加熱されて温度がThであり、前記熱電変換素子の下側は放熱されて温度がTcであり、前記上側と前記下側の温度差は(Th-Tc)で、前記上側は前記下側より高温であることが、記載されている。
(c)図8には、一段目の熱電変換素子部の上に二段目の熱電変換素子部を接合部34及び接合部35を介して接合することで積層した構成において、前記一段目の熱電変換素子部の横幅は前記二段目の熱電変換素子部の横幅より大きく、大きい方の前記一段目の熱電変換素子部の上面のうち前記二段目の熱電変換素子部で覆われていない部分が露出して、前記覆われていない部分が宙に浮いた状態にあることが記載されている。

b 周知例2
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2006-237547号公報には、「熱電変換モジュール、これを用いた発電装置及び冷却装置」(発明の名称)について、図1?図5とともに、次の記載がある。
(a)「【背景技術】
【0002】
熱電変換素子は、P型半導体とN型半導体とからなるPN接合対の両端に温度差をつけると、電位差が発生する特徴を有しており、排熱回収発電などへの利用が期待されている。
……(中略)……
【0008】
また、発電用途には、200?300℃までは冷却用途と同様、Bi-Te系が主に使用され、さらにそれ以上の温度域では、Mn-Si系、Mg-Si系、Si-Ge系、Pb-Te系、TAGS系(GeTe-AgSbTe)、Zn-Sb系、スクッテルダイト系などが熱電変換素子2に使用される。
【0009】
このようなN型熱電変換素子2a及びP型熱電変換素子2bを対にしたものを複数直列に電気的に接続する。」
(b)「【0040】
また図4に示すように、より高温の熱源を利用して発電効率を高めたい場合、あるいはより低温まで冷却したい場合、支持基板1cを介して2段以上熱電変換素子2を積層したり、あるいは図5に示すように、耐熱温度の異なる熱電変換素子2(熱電変換素子2aと2c、および熱電変換素子2bと2d)を、基板を介さずに直接接合して積層構造にすることができる。」
(c)「【0063】
【図1】熱電変換モジュールを示す一部破断斜視図である。
【図2】2段熱電変換モジュールを示す斜視図である。
……(中略)……
【符号の説明】
【0064】
1・・・支持基板
1a・・・(下部)支持基板
1b・・・(上部)支持基板
1c・・・(中間)支持基板
2・・・熱電変換素子
2a・・・低温用N型熱電変換素子
2b・・・低温用P型熱電変換素子
2c・・・高温用N型熱電変換素子
2d・・・高温用P型熱電変換素子
3・・・金属層
3a・・・金属層
3b・・・金属層」
(d)積層型の2段熱電変換モジュールを図示する図2には、下側の熱電変換モジュールの横幅は上側の熱電変換モジュールの横幅より大きいこと、両者の接触面である(中間)支持基板1cの前記上側の熱電変換モジュールで覆われていない部分が露出することで、大きい方の前記下側の熱電変換モジュールの一部が宙に浮いた状態になること、横幅がより大きい前記下側の熱電変換モジュールには低温用N型熱電変換素子2a及び低温用P型熱電変換素子2bが設けられていること、がそれぞれ記載されている。

(ウ)したがって、引用発明において、「下段側チップユニット20」と「上段側チップユニット21」とを、「基板ユニット22を介して」密着させるに際して、前記「下段側チップユニット20」と前記「上段側チップユニット21」とで前記「基板ユニット22」に密着する面のサイズを異ならせることで、大きい方の「ユニット」の一部を宙に浮いた状態にするという相違点2に係る構成とすることは、周知技術2を参酌すれば、当業者が適宜なし得たものと認められる。

(7)補正発明の作用効果について
ア 審判請求人は、審判請求書において、本願明細書の段落【0042】を引用して、補正発明は、相違点2に係る構成を備えることで、「高温部用モジュールとは接触面の面積が異なる低温部用モジュールを使用し、温度ムラを発生しやすい条件を採用しているにもかかわらず、温度ムラを効率的に低減することができている」という効果を奏すると主張している。

イ しかしながら、前記段落【0042】には、「本発明では、二種類のモジュールの接触面のサイズが異なる場合、大きい方のモジュールの素子の一部は宙に浮いた状態になり、同一モジュール内に温度ムラを発生する原因となって、発電効率が低下する。この問題を解消するためにモジュールの全面を覆うことができる金属板、例えば、アルミニウム板を伝熱材料と共にモジュール間に挿入することが好ましい。これにより温度ムラを解消して、発電効率を向上させることができる。」と記載されている。
すなわち、審判請求人が主張する効果を奏するためには、「大きい方のモジュール」の「全面を覆うことができる金属板」を備えることが必要である。
しかしながら、補正発明はそのような発明特定事項を有していない。

ウ したがって、審判請求人の当該主張は、本願の特許請求の範囲の記載に基づかないものであるから、採用することはできない。

エ なお、第2の3(4)ア(イ)で摘記したように、引用例2の段落【0011】及び【0013】には、段落【0011】に記載の「熱電変換用カスケードモジュール」は「特許文献2」すなわち「特開2004-281451号公報」に開示されたものである旨が記載されている。そこで、この「特開2004-281451号公報」を参照すると、段落【0028】に「また、下段の熱電変換素子を構成する第一の基板4、第二の基板3および上段の熱電変換素子2を構成する第一の基板6、第二の基板7の表面はメタライズ層11、10、13、12が形成されている。」と、図1(a)及び(b)に、前記下段の熱電変換素子は前記上段の熱電変換素子より大きいこと、平板状のメタライズ層10が絶縁基板3のほぼ全面に設けられていることが、記載されている。
したがって、大きい方の下側の熱電変換用モジュールの一部を宙に浮いた状態にした積層型熱電変換用モジュールにおいて、前記大きい方の下側の熱電変換用モジュールを構成する絶縁基板の上面に、平板状のメタライズ層、すなわち、板状の金属層をほぼ全面に設けることは、本願の出願時に既に周知の事項であったと認められる。

(8)まとめ
本件補正後の請求項1に係る発明(補正発明)は、引用発明と、周知技術1及び周知技術2とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明の特許性の有無について
1 本願発明について
平成27年10月7日に提出された手続補正書による手続補正は、前記の通り却下された。
そして、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年 5月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものと認める。(再掲)
「【請求項1】
金属酸化物を熱電変換材料とする熱電変換モジュール又はシリコン系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュールからなる高温部用モジュールと、ビスマス・テルル系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュールからなる低温部用モジュールとを積層した構造であって、該高温部用モジュールと該低温部用モジュールとの間に、柔軟性を有する伝熱材料及び金属板が配置されていることを特徴とする、積層型熱電変換モジュール。」

2 引用例1の記載と引用発明、及び、引用例2の記載と周知技術1
原査定の根拠となった拒絶理由通知において引用文献2として引用された引用例1の記載は第2の3(3)アのとおりであり、引用発明は第2の3(3)イで認定したとおりである。
また、原査定の根拠となった拒絶理由通知において引用文献1として引用された引用例2の記載は第2の3(4)アのとおりであり、周知技術1は第2の3(4)イに記載されるとおりである。

3 本願発明と引用発明との対比
(1)第2の1及び2から明らかなように、本件補正後の請求項1に係る発明(すなわち、補正発明)は、本件補正前の請求項1に係る発明(すなわち、本願発明)に対して、「該高温部用モジュールとは接触面のサイズが異なる」ことを限定したものである。
したがって、本願発明は、補正発明から上記限定をなくしたものである。

(2)そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、第3の3(5)の検討から、両者は、下記アの点で一致し、下記イの点で相違すると認められる。

ア 一致点
「熱電変換材料で形成された熱電変換モジュールからなる第1のモジュールと、熱電変換材料で形成された熱電変換モジュールからなる第2のモジュールとを積層した構造であって、該第1のモジュールと該第2のモジュールとの間に、柔軟性を有する伝熱材料及び金属板が配置されていることを特徴とする、積層型熱電変換モジュール。」

イ 相違点
本願発明は「金属酸化物を熱電変換材料とする熱電変換モジュール又はシリコン系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュールからなる高温部用モジュール」と、「ビスマス・テルル系合金を熱電変換材料とする熱電変換モジュール」からなる「低温部用モジュール」とを備えるのに対し、引用発明は「多数の下段側放熱電極2の上に半田層3を介して多数の下段側P形半導体チップ4と下段側N形半導体チップ5が並設されている下段側チップユニット20」と「多数の上段側放熱電極9の上に半田層10を介して多数の上段側P形半導体チップ11と上段側N形半導体チップ12が並設されている上段側チップユニット21」とを備える点。

4 相違点についての検討
第3の3(5)で検討したとおり、前記相違点は、補正発明と引用発明との相違点の一つである相違点1と一致する。
したがって、第3の3(6)アで検討したとおり、本願発明は、引用例2に記載された周知技術1を勘案すれば、引用発明から当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして、本願発明が奏する作用効果は、引用例2の記載を参酌すれば、引用発明から当業者が容易に予測し得るものと認められ、格別のものとはいえない。

5 まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、引用例1に記載された発明、及び、引用例2の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第4 結言
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-05 
結審通知日 2016-10-11 
審決日 2016-10-24 
出願番号 特願2011-158067(P2011-158067)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 直也  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 鈴木 匡明
小田 浩
発明の名称 積層型熱電変換モジュール  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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