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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60C
管理番号 1322754
審判番号 不服2016-3166  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-01 
確定日 2017-01-10 
事件の表示 特願2011-223283号「タイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月 9日出願公開、特開2013- 82311号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年10月7日の出願であって、平成27年4月9日付けで拒絶の理由が通知され、同年6月15日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月26日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされた。これに対し、平成28年3月1日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。

第2 平成28年3月1日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
(1) 請求項1について
本件補正は、特許請求の範囲について補正をするものであって、請求項1について、
<補正前の請求項1>
「樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体と、前記タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回される補強金属コード部材と、を有するタイヤであって、
前記補強金属コード部材の少なくとも一部が、少なくとも極性を有する熱可塑性樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとを含む被覆用混合物で被覆されており、
前記被覆用混合物中の全固形分に対する前記極性を有する熱可塑性樹脂の含有量は、前記被覆用混合物の全量に対して55?80質量%であるタイヤ。」
を、
<補正後の請求項1>
「樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体と、前記タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回される補強金属コード部材と、を有するタイヤであって、
前記タイヤ骨格体を形成する樹脂材料が、ポリアミド系エラストマーであり、
前記補強金属コード部材の少なくとも一部が、少なくとも極性を有する熱可塑性樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとを含む被覆用混合物で被覆されており、
前記極性を有する熱可塑性樹脂が、エチレン-ビニルアルコール共重合体であり、
前記被覆用混合物中の全固形分に対する前記極性を有する熱可塑性樹脂の含有量は、前記被覆用混合物の全量に対して55?80質量%であるタイヤ。」
とする補正(以下「補正事項1」という。)である(下線は、請求人が付した補正箇所である。)。

(2) 請求項2?4について
請求項2?4は、それぞれ請求項1を引用するものであるから、本件補正は請求項2?4についても、それぞれ補正事項1と同様の補正をするものである(以下「補正事項2?4」という。)。

2 補正の適否
(1) 補正事項1について
本件補正の補正事項1は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「タイヤ骨格体」及び「極性を有する熱可塑性樹脂」について、それぞれ補正前の請求項6及び請求項5に記載された事項によって限定するものであるから、発明特定事項を限定するものであって新規事項を追加するものではない。
したがって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、また、その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、当該補正事項は、特許法第17条の2第4項に違反するところもない。

そこで、本件補正後の請求項1(上記「1(1)」の「<補正後の請求項1>」参照)に記載された発明(以下「補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア 刊行物等の記載事項
(ア) 原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2011-42236号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。

(1a) 「【請求項1】
熱可塑性材料で形成された環状のタイヤ骨格部材と、
前記タイヤ骨格部材の外周部に補強コード部材を巻回して形成され、前記タイヤ骨格部材の幅方向に沿った断面で見て前記補強コード部材の少なくとも一部が前記外周部に埋設された補強層と、
被覆用熱可塑性材料で形成され、前記外周部に接合されて前記補強層を覆う被覆層と、
を有するタイヤ。

【請求項6】
前記熱可塑性材料と前記被覆用熱可塑性材料が同種である請求項1?請求項5の何れか1項に記載のタイヤ。」

(1b) 「【0005】
特許文献1の空気入りタイヤでは、耐久性、乗り心地、走行性能等の観点から、タイヤ骨格部材の外周部に補強コードを連続螺旋状に巻回して補強層を形成している。しかしながら、熱可塑性の高分子材料を用いて成形されたタイヤ骨格部材のクラウン部表面に補強コードを直接螺旋巻きし、その上に他のタイヤ構成部材(例えばトレッドなど)を配設した場合、補強コード周囲(補強コードとクラウン部との間)に隙間が生じて空気が残る(空気が入る)ことがある。空気入りが生じた場合には、補強コードがクラウン部表面に接着剤で接着されていても、走行時の入力で補強コードが動いてタイヤの耐久性を低下させる虞がある。このため、特許文献1では、クラウン部に設けたクッションゴムに補強コードを被覆埋設して補強層を形成することで補強コード周囲に空気入りが生じるのを抑制して補強コードの動きを抑制している。

【0009】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたもので、空気入りを抑制して耐久性を向上させたタイヤ、及びこのタイヤの製造方法を提供することが目的である。」

(1c) 「【0039】
[第1実施形態]
以下、図面にしたがって本発明のタイヤの第1実施形態に係るタイヤについて説明する。図1(A)に示すように、本実施形態のタイヤ10は、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと略同様の断面形状を呈している。
【0040】
図1(A)に示すように、タイヤ10は、リム20のビードシート21及びリムフランジ22に接触する一対のビード部12(図1(B)参照)、ビード部12からタイヤ径方向外側に延びるサイド部14、一方のサイド部14のタイヤ径方向外側端と他方のサイド部14のタイヤ径方向外側端とを連結するクラウン部16(外周部)からなる環状のタイヤケース17(タイヤ骨格部材の一例)を備えている。
【0041】
ここで、本実施形態のタイヤケース17は、単一の熱可塑性材料で形成されているが、本発明はこの構成に限定されず、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと同様に、タイヤケース17の各部位毎(ビード部12、サイド部14、クラウン部16など)に異なる特徴を有する熱可塑性材料を用いてもよい。
また、タイヤケース17(例えば、ビード部12、サイド部14、クラウン部16等)に、補強材(高分子材料や金属製の繊維、コード、不織布、織布等)を埋設配置し、補強材でタイヤケース17を補強してもよい。
【0042】
熱可塑性材料としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー(TPE)等を用いることができるが、走行時に必要とされる弾性と製造時の成形性等を考慮すると熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
【0043】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、JIS K6418に規定されるアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、熱可塑性ゴム架橋体(TPV)、若しくはその他の熱可塑性エラストマー(TPZ)等が挙げられる。なお、熱可塑性材料の同種とは、エステル系同士、スチレン系同士などの形態を指す。
【0044】
また、熱可塑性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。」

(1d) 「【0049】
図1(A)及び図2に示すように、クラウン部16には、タイヤケース17を形成する熱可塑性材料よりも剛性が高い補強コード26の一部(本実施形態では直径の約半分)が埋設されると共に螺旋状に巻回されて補強層28(図2では破線で示されている)が形成されている。補強層28は、クラウン部16に接合された被覆層29によって覆われている。この被覆層29は、被覆用熱可塑性材料で形成されており、被覆層29の幅方向両端部29Eは、補強層28の幅方向両端部28Eよりも幅方向外側に位置している。なお、幅方向とは、タイヤケース17又はタイヤ10の幅方向を示し、補強層28の幅方向両端部28Eとは、補強層28を形成する補強コード26のうち幅方向最外側の補強コード26の幅方向端部を示している。ここで、被覆層29の幅方向両端部29Eは、補強層28の幅方向両端部28Eよりも幅方向外側に位置している、すなわち、被覆層29は補強層28が形成された領域よりも広い領域でクラウン部16を覆っていることから、クラウン部16と被覆層29との接合面積が広く確保され、クラウン部16と被覆層29との間の接合強度が向上している。
【0050】
また、図2に示すように、補強コード26は、外周面の一部(図2では下部)がクラウン部16に埋設されてクラウン部16の熱可塑性材料に密着し、クラウン部16から露出した外周面の残りの部分(図2では上部)が被覆層29に覆われて被覆用熱可塑性材料に密着している。
【0051】
また、補強コード26は、金属繊維や有機繊維等のモノフィラメント(単線)、又はこれらの繊維を撚ったマルチフィラメント(撚り線)などを用いることができる。なお、本実施形態では補強コード26としてスチール繊維を撚ったスチールコードを用いている。なお、補強層28は、従来のゴム製の空気入りタイヤのカーカスの外周面に配置されるベルトに相当するものである。」

(1e) 「【0058】
また、押出機44は、ノズル46をノズル88に交換可能となっている。このノズル88は、出口部がノズル46よりも幅広とされた略矩形状とされ、押出機44内の材料を被覆用熱可塑性材料と交換することで、溶接用熱可塑性材料53よりも幅広(本実施形態では一例として幅20mmとしている)とされた帯状の溶融又は軟化状態の被覆用熱可塑性材料90を吐出することができるようになる(図7参照)。この被覆用熱可塑性材料90は、後述するコード部材巻回工程でクラウン部16に埋設された補強コード26を覆い、補強コード26周囲の熱可塑性材料と溶接されるものである。このため、タイヤケース17を形成している熱可塑性材料と同種のもの、特に同一のものが好ましいが、溶接できれば異なる種類のものであってもよい。なお、以下では符号のない被覆用熱可塑性材料は固化状態のものを示し、符号の付された被覆用熱可塑性材料90は溶融又は軟化状態のものを示す。

【0088】
(作用)
本実施形態のタイヤ10では、熱可塑性材料で形成されたタイヤケース17のクラウン部16に補強コード26を埋設すると共に巻回して補強層28を形成していることから耐パンク性、耐カット性、及びタイヤ10の周方向剛性が向上する。なお、タイヤ10の周方向剛性が向上することで、熱可塑性材料で形成されたタイヤケース17のクリープが防止される。
【0089】
また、図2に示すように、補強コード26は、クラウン部16に埋設された部分が熱可塑性材料に密着し、クラウン部16から露出した部分が被覆層29の被覆用熱可塑性材料に密着していることから、補強コード26周囲への空気入りが抑制されている。これにより、走行時の入力などで補強コード26が動くのが抑制されて耐久性が向上する。

【0092】
また、熱可塑性材料と被覆用熱可塑性材料90とが同種の場合には、被覆用熱可塑性材料90で補強層28を覆って被覆層29を形成することから、接合部分(覆った部分)の熱可塑性材料と被覆用熱可塑性材料90とが良く混ざり合い、クラウン部16と被覆層29との接合強度が向上する。」

(1f) 引用文献1の図1、2及び6にはそれぞれ以下の図が記載されている。


(イ) 原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特開2011-42235号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】
熱可塑性材料で形成された環状のタイヤ骨格部材と、
補強コードに第1の被覆用熱可塑性材料を被覆して形成された被覆コード部材を、前記タイヤ骨格部材の外周部に巻回し且つ接合して形成された補強層と、
を有するタイヤ。

【請求項3】
前記外周部と前記被覆コード部材とが溶着により接合されている請求項1又は請求項2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記熱可塑性材料と前記第1の被覆用熱可塑性材料が同種である請求項3に記載のタイヤ。」

(2b) 「【0005】
特許文献1の空気入りタイヤでは、耐久性、乗り心地、走行性能等の観点から、タイヤ骨格部材の外周部に補強コードを連続螺旋状に巻回して補強層を形成している。しかしながら、熱可塑性の高分子材料を用いて成形されたタイヤ骨格部材のクラウン部表面に補強コードを直接螺旋巻きし、その上に他のタイヤ構成部材(例えばトレッドなど)を配設した場合、補強コード周囲(補強コードとクラウン部との間)に隙間が生じて空気が残る(空気が入る)ことがある。空気入りが生じた場合には、補強コードがクラウン部表面に接着剤で接着されていても、走行時の入力で補強コードが動いてタイヤの耐久性を低下させる虞がある。このため、特許文献1では、クラウン部に設けたクッションゴムに補強コードを被覆埋設して補強層を形成することで補強コード周囲に空気入りが生じるのを抑制して補強コードの動きを抑制している。

【0007】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたもので、走行性能を低下させることなく空気入りを抑制して耐久性を向上させたタイヤ、及びこのタイヤの製造方法を提供することが目的である。」

(2c) 「【0050】
[第1実施形態]
以下、図面にしたがって本発明のタイヤの第1実施形態に係るタイヤについて説明する。図1(A)に示すように、本実施形態のタイヤ10は、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと略同様の断面形状を呈している。
【0051】
図1(A)に示すように、タイヤ10は、リム20のビードシート21及びリムフランジ22に接触する一対のビード部12(図1(B)参照)、ビード部12からタイヤ径方向外側に延びるサイド部14、一方のサイド部14のタイヤ径方向外側端と他方のサイド部14のタイヤ径方向外側端とを連結するクラウン部16(外周部)からなる環状のタイヤケース17(タイヤ骨格部材の一例)を備えている。
【0052】
ここで、本実施形態のタイヤケース17は、単一の熱可塑性材料で形成されているが、本発明はこの構成に限定されず、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと同様に、タイヤケース17の各部位毎(ビード部12、サイド部14、クラウン部16など)に異なる特徴を有する熱可塑性材料を用いてもよい。
また、タイヤケース17(例えば、ビード部12、サイド部14、クラウン部16等)に、補強材(高分子材料や金属製の繊維、コード、不織布、織布等)を埋設配置し、補強材でタイヤケース17を補強してもよい。
【0053】
熱可塑性材料としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー(TPE)等を用いることができるが、走行時に必要とされる弾性と製造時の成形性等を考慮すると熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
【0054】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、JIS K6418に規定されるアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、熱可塑性ゴム架橋体(TPV)、若しくはその他の熱可塑性エラストマー(TPZ)等が挙げられる。なお、熱可塑性材料の同種とは、エステル系同士、スチレン系同士などの形態を指す。
【0055】
また、熱可塑性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。

【0060】
図1(A)及び図2に示すように、クラウン部16には、被覆コード部材26が巻回されて補強層28(図2では破線で示されている)が形成されている。この被覆コード部材26は、タイヤケース17を形成する熱可塑性材料よりも剛性が高い補強コード26Aに第1の被覆用熱可塑性材料27を被覆接合して形成されている。なお、補強コード26Aと第1の被覆用熱可塑性材料27とは、接着剤(詳細は後述)によって接着されており、補強コード26Aの外周面全体には接着剤による接着層が形成されている。また、被覆コード部材26はクラウン部16との接触部分において、被覆コード部材26とクラウン部16とが溶着して接合されている。
【0061】
また、補強コード26Aは、金属繊維や有機繊維等のモノフィラメント(単線)、又はこれらの繊維を撚ったマルチフィラメント(撚り線)などを用いることができる。なお、本実施形態では補強コード26Aとしてスチール繊維を撚ったスチールコードを用いている。なお、補強層28は、従来のゴム製の空気入りタイヤのカーカスの外周面に配置されるベルトに相当するものである。」

(2d) 「【0075】
この第1の被覆用熱可塑性材料27は、タイヤケース17を形成している熱可塑性材料と同種のもの、特に同一のものが好ましいが、溶接できれば異なる種類のものであってもよい。また、第1の被覆用熱可塑性材料27は、被覆層29を形成する第2の被覆用熱可塑性材料90と同種のもの、特に同一のものが好ましいが、溶接(溶着)できれば異なる種類のものであってもよい。またさらに、タイヤケース17を形成する熱可塑性材料と、被覆コード部材26の第1の被覆用熱可塑性材料27と、被覆層29を形成する第2の被覆用熱可塑性材料とが同種であることが接合強度の観点から好ましい。

【0111】
また、タイヤケース17を形成する熱可塑性材料と被覆コード部材26の第1の被覆用熱可塑性材料27が同種の場合には、熱可塑性材料と第1の被覆用熱可塑性材料27との溶着時に熱可塑性材料と第1の被覆用熱可塑性材料とが良く混ざり合い、クラウン部16と被覆コード部材26との接合強度が向上する。」

(2e) 引用文献2の図1、2及び8には、それぞれ以下の図が示されている。


イ 引用文献に記載された発明
(ア) 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、
a 熱可塑性材料で形成された環状のタイヤ骨格部材と、前記タイヤ骨格部材の外周部に補強コード部材を巻回して形成され、前記タイヤ骨格部材の幅方向に沿った断面で見て前記補強コード部材の少なくとも一部が前記外周部に埋設された補強層と、被覆用熱可塑性材料で形成され、前記外周部に接合されて前記補強層を覆う被覆層と、を有するタイヤに関し(摘示(1a)【請求項1】)、
b
(a) タイヤケース17は、タイヤ骨格部材の一例であること(摘示(1c)【0040】)、
(b) タイヤケース17は、単一の熱可塑性材料で形成されていること(摘示(1c)【0041】)、
(c) タイヤケース17を形成する熱可塑性材料は、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)であること(摘示(1c)【0041】?【0043】)、
c 補強コード26はスチールコードであり(摘示(1d)【0051】)、
d 被覆用熱可塑性材料90は、クラウン部16に埋設された補強コード26を覆い、補強コード26周囲の熱可塑性材料と溶接されること(摘示(1e)【0058】)、
が記載されており、また、
e
(a) 上記「c」の「補強コード26」は上記「a」における「補強コード部材」に相当するものであること、
(b) 上記「(a)」、摘示(1f)の図1及び6より、上記「a」において補強コード部材はタイヤケース17の「周方向」に巻回されているといえること、
が明らかである。

これらのことから、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)で形成された環状のタイヤ骨格部材と、前記タイヤ骨格部材の外周部に補強コード部材をタイヤ骨格部材の周方向に巻回して形成され、前記タイヤ骨格部材の幅方向に沿った断面で見て前記補強コード部材の少なくとも一部が前記外周部に埋設された補強層と、被覆用熱可塑性材料で形成され、前記外周部に接合されて前記補強層を覆う被覆層と、を有するタイヤであって、
補強コード部材は、スチールコードであり、
被覆用熱可塑性材料は、補強コード部材を覆うものである、
タイヤ。」

(イ) 引用文献2に記載された発明
a 熱可塑性材料で形成された環状のタイヤ骨格部材と、補強コードに第1の被覆用熱可塑性材料を被覆して形成された被覆コード部材を、前記タイヤ骨格部材の外周部に巻回し且つ接合して形成された補強層と、を有するタイヤに関し(摘示(2a)【請求項1】)、
b タイヤケース17の熱可塑性材料は、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)であること(摘示(2c)【0052】?【0054】)、
c 補強コード26Aはスチールコードであること(摘示(2c)【0061】)、
が記載されており、
d 摘示(2f)の図1及び図8より、被覆コード部材26はタイヤ骨格部材17の「周方向」に巻回されているといえること、
が明らかである。

これらのことから、引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)で形成された環状のタイヤ骨格部材と、補強コードに第1の被覆用熱可塑性材料を被覆して形成された被覆コード部材を、前記タイヤ骨格部材の外周部に周方向に巻回し且つ接合して形成された補強層と、を有するタイヤであって、
補強コードは、スチールコードである、
タイヤ。」

ウ 対比・判断
ウ-1 引用発明1を主引用発明とした場合について
(ア) 補正発明1と引用発明1を対比する。
a 引用発明1の「アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)で形成された環状のタイヤ骨格部材」は補正発明1の「樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体」及び「タイヤ骨格体を形成する樹脂材料が、ポリアミド系エラストマーであ」ることに相当する。
b
(a) 引用発明1の「補強コード部材」は、「スチールコードであ」ることから、補正発明1の「補強金属コード部材」に相当する。
(b) 引用発明1の「補強コード部材」は、「タイヤ骨格部材の外周部に」当該「補強コード部材」を「タイヤ骨格部材の周方向に巻回」されるものであるから、上記「(a)」の相当関係より、補正発明1の「タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回される補強金属コード部材」に相当する。
c 引用発明1の「被覆用熱可塑性材料は、補強コード部材を覆うものである」ことは、補正発明1の「補強金属コード部材の少なくとも一部が、少なくとも極性を有する熱可塑性樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとを含む被覆用混合物で被覆されて」いることと、「補強金属コード部材の少なくとも一部が、被覆用物質で被覆されて」いる限度で一致する。
d 引用発明1の「タイヤ」は補正発明1の「タイヤ」に相当する。

(イ) 以上によれば、補正発明1と引用発明1との一致点及び相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体と、前記タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回される補強金属コード部材と、を有するタイヤであって、
前記タイヤ骨格体を形成する樹脂材料が、ポリアミド系エラストマーであり、
前記補強金属コード部材の少なくとも一部が、被覆用物質で被覆されているタイヤ。」

[相違点1]
補正発明1においては、被覆用物質は「少なくとも極性を有する熱可塑性樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとを含む」「混合物」であり、さらに「前記極性を有する熱可塑性樹脂が、エチレン-ビニルアルコール共重合体であり、前記被覆用混合物中の全固形分に対する前記極性を有する熱可塑性樹脂の含有量は、前記被覆用混合物の全量に対して55?80質量%である」のに対し、引用発明1においては、「被覆用熱可塑性材料」はそのように特定された物質ではない点。

(ウ) 判断
上記相違点1について検討する。
a 引用発明1の「被覆用熱可塑性材料」の具体的な材料に関しては、摘示(1e)【0058】には「タイヤケース17を形成している熱可塑性材料と同種のもの、特に同一のものが好ましい」と記載され、また、摘示(1e)【0092】には同種の材料を用いることで「接合強度が向上する」と記載されている。よって、引用文献1に接した当業者は、まず、当該記載に従って、引用発明1の「被覆用熱可塑性材料」の材料をタイヤ骨格部材と同一の「アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)」、又は、同種(摘示(1c)【0043】)のアミド系樹脂等を選択することを想起するといえる。
b また、摘示(1e)【0058】には「溶接できれば異なる種類のものであってもよい。」と記載されている。しかしながら、引用文献1(摘示(1c)の【0041】?【0044】等)には、相違点1に係る補正発明1の被覆用物質を用いることは記載も示唆もされていなし、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2010-125890号公報)、引用文献4(特開2002-331806号公報)、引用文献5(特開2010-053495号公報)においても、相違点1に係る補正発明1の被覆用物質を用いることは記載も示唆もされていない。
なお、引用発明1の課題は、タイヤ骨格部材に熱可塑性の高分子材料を用いたタイヤにおいて、補強コード周囲に隙間が生じて空気が残ることを抑制することである(摘示(1b))ところ、引用文献3?5に記載されているのはいずれもタイヤ骨格部材にゴムを用いたタイヤに関する技術であって、引用発明1の課題を解決するものでもないから、引用文献3?5に記載された技術を引用発明1に適用する動機付けも存在しないものといえる。
c さらに、補正発明1は、当該相違点1に係る補正発明1の被覆用物質を用いることにより、「補強金属コード部材とタイヤ骨格体との接着耐久性に優れたタイヤを提供する」(本願明細書の【0017】)ものであって、本願明細書の【0137】の表1に示されるような効果を奏するものである。
そして、当該効果は引用発明1、引用文献1及び引用文献3?5のいずれによっても当業者が予測できる範囲のものとはいえない。
よって、当該相違点1に係る補正発明1の構成は、引用発明1、引用文献1及び引用文献3?5に記載の事項に基いて当業者が容易になし得るものとはいえない。

ウ-2 引用発明2を主引用発明とした場合について
(ア) 補正発明1と引用発明2を対比する。
a 引用発明2の「アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)で形成された環状のタイヤ骨格部材」は補正発明1の「樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体」及び「タイヤ骨格体を形成する樹脂材料が、ポリアミド系エラストマーであ」ることに相当する。
b
(a) 引用発明2の「補強コード」は、「スチールコードであ」ることから、補正発明1の「補強金属コード部材」に相当する。
(b) 引用発明2の「補強コード」は「被覆コード部材」をなすものである。また、引用発明2の「補強コードに第1の被覆用熱可塑性材料を被覆して形成された被覆コード部材」は「タイヤ骨格部材の外周部に周方向に巻回」されるものである。
(c) 上記「(a)」、「(b)」の相当関係より、引用発明2の「補強コードに第1の被覆用熱可塑性材料を被覆して形成された被覆コード部材」は、補正発明1の「タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回される補強金属コード部材」に相当する。
c 引用発明2の「補強コードに第1の被覆用熱可塑性材料を被覆して形成された被覆コード部材」は、補正発明1の「補強金属コード部材の少なくとも一部が、少なくとも極性を有する熱可塑性樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとを含む被覆用混合物で被覆されて」いることと、「補強金属コード部材の少なくとも一部が、被覆用物質で被覆されて」いる限度で一致する。
d 引用発明2の「タイヤ」は補正発明1の「タイヤ」に相当する。

(イ) 以上によれば、補正発明1と引用発明2との一致点及び相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体と、前記タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回される補強金属コード部材と、を有するタイヤであって、
前記タイヤ骨格体を形成する樹脂材料が、ポリアミド系エラストマーであり、
前記補強金属コード部材の少なくとも一部が、被覆用物質で被覆されているタイヤ。」

[相違点2]
補正発明1においては、被覆用物質は「少なくとも極性を有する熱可塑性樹脂とポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとを含む」「混合物」であり、さらに「前記極性を有する熱可塑性樹脂が、エチレン-ビニルアルコール共重合体であり、前記被覆用混合物中の全固形分に対する前記極性を有する熱可塑性樹脂の含有量は、前記被覆用混合物の全量に対して55?80質量%である」のに対し、引用発明2においては、「第1の被覆用熱可塑性材料」はそのように特定された物質ではない点。

(ウ) 判断
上記相違点2について検討する。
a 引用発明2の「第1の被覆用熱可塑性材料」の具体的な材料については、摘示(2d)【0075】には「タイヤケース17を形成している熱可塑性材料と同種のもの、特に同一のものが好ましい」と記載され、また、摘示(2d)【0111】には同種の材料を用いることで「接合強度が向上する」ことが記載されているから、上記「ウ-1(ウ)a」で述べたのと同様に、当業者は引用発明2の「第1の被覆用熱可塑性材料」をタイヤ骨格部材と同一の「アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)」、又は、同種(摘示(2c)【0054】)のアミド系樹脂等を選択することを想起するといえる。
b また、摘示(2d)【0075】には、「溶接できれば異なる種類のものであってもよい。」と記載されているものの、引用文献2(摘示(2c)の【0053】?【0055】等)には、相違点2に係る補正発明1の被覆用物質を用いることは記載も示唆もされていないし、また、引用文献3?5にも記載も示唆もされていない(上記「ウ-1(ウ)b」参照。)。
なお、引用発明2の課題は、引用発明1と同様のものであるところ(摘示(2b))、引用文献3?5に記載された技術を引用発明2に適用する動機付けも存在しないものといえる。
c さらに、補正発明1は、上記「ウ-1(ウ)c」に記載した効果を奏するものであって、当該効果は引用発明2及び引用文献2?5のいずれによっても当業者が予測できる範囲のものとはいえない。
よって、当該相違点2に係る補正発明1の構成は、引用発明2及び引用文献2?5に記載の事項に基いて当業者が容易になし得るものとはいえない。

エ 上記「ウ-1」のとおり、相違点1に係る補正発明1の構成については、引用発明1、引用文献1及び引用文献3?5に記載の事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。また、上記「ウ-2」のとおり、相違点2に係る補正発明1の構成については、引用発明2及び引用文献2?5に記載の事項に基いて当業者が容易になし得るものではない
。したがって、補正発明1は、引用発明1、引用文献1及び引用文献3?5に記載の事項、又は、引用発明2及び引用文献2?5に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(2) 補正事項2?4について
本件補正の補正事項2?4については、それぞれ請求項2?4に記載された発明について、補正事項1と同様の補正をするものであるから、補正事項1と同様に、特許法第17条の2第3項ないし第6項に違反するところはない。

3 むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1?4に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、補正発明1は、上記「第2 2(1)」のとおり、当業者が引用発明1、引用文献1及び引用文献3?5に記載の事項、又は、引用発明2及び引用文献2?5に記載の事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。
また、補正発明1を引用する本件補正後の請求項2?4に記載された発明は、補正発明1をさらに限定した発明であるから、当業者が引用発明1、引用文献1及び引用文献3?5に記載の事項、又は、引用発明2及び引用文献2?5に記載の事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-12-12 
出願番号 特願2011-223283(P2011-223283)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 柳楽 隆昌  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 氏原 康宏
小原 一郎
発明の名称 タイヤ  
代理人 加藤 和詳  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  

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