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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1323063
審判番号 不服2015-17080  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-16 
確定日 2016-12-22 
事件の表示 特願2013- 96241「液体噴射装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月29日出願公開、特開2013-166385〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成20年3月11日(以下「優先日」という。)に出願した特願2008-60681号を先の出願として、同年11月5日付けで特許法第41条第1項に規定する優先権の主張を伴う特許出願とした特願2008-284121号の一部を、平成25年5月1日付けで特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(分割出願)としたもので、平成25年5月29日付け、平成26年6月19日付け、及び平成27年4月21日付けで手続補正書が提出され、平成27年6月26日付けで同年4月21日付けの手続補正は却下されると同時に拒絶の査定がなされ(同査定の謄本の送達(発送)日 同月30日)、これに対し、同年9月16日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に手続補正書が提出されて特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、さらに、当審において平成28年7月25日付けで拒絶理由を通知したところ、同通知で指定した期間内の同年9月23日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願の発明
本願の請求項1に係る発明は、上記の平成28年9月23日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものと認める(以下「本願発明」という。)。
「【請求項1】
媒体に対して液体を噴射する複数の液体噴射ヘッドと、
噴射された前記液体が着弾した前記媒体を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段と前記複数の液体噴射ヘッドの間に設けられた第1ダクトと、
前記複数の液体噴射ヘッドを挟んで前記加熱手段とは逆側に設けられている第2ダクトと、を備える液体噴射装置において、
前記第1ダクトおよび前記第2ダクトにおける吸引口の開口面は、前記液体噴射ヘッドから離れるほど媒体搬送面からの距離が小さくなるようにして、前記液体噴射ヘッドによる前記液体の吐出空間に向かって開口されて前記吐出空間に負圧を発生させ、
前記第1ダクトおよび前記第2ダクトは、前記媒体搬送面の垂直方向に延びて設けられている液体噴射装置。」

3.当審で指摘した拒絶理由の概要
当審において平成28年7月25日付けで通知した拒絶の理由は、特許法第29条第1項第3号の規定に係る理由1と、同条第2項の規定に係る理由2であるが、そのうち拒絶の理由2の概要は、本願の請求項1ないし7の発明は,本願の優先日前の平成12年10月3日に頒布された特開2000-272104号公報(以下「引用例1」という。)、同じく平成17年7月14日に頒布された特開2005-186422号公報(以下「引用例2」という。)、同じく平成11年5月28日に頒布された特開平11-146587号公報(以下「引用例3」という。)、同じく平成6年6月28日に頒布された特開平6-180171号公報(以下「引用例4」という。)、同じく平成19年6月7日に頒布された特開2007-136761号公報(以下「引用例5」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願の前記各請求項の発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとするもので、以下、この拒絶の理由2について検討する。

4.引用例の記載事項と引用発明
(1)引用例1には、図面と共に次の事項が記載されている。(なお、下線は審決で付した。以下同じ。)
ア.「【請求項3】 記録媒体の記録面に対して記録に用いられる液体を吐出して記録動作を行う記録部が該記録媒体の搬送方向に沿って複数個、配列収容される記録部収容体内に、該記録媒体の搬送方向に沿って該記録部に隣接した下流側または上流側となる位置にそれぞれ配され、該記録媒体に記録面に付着した該液体を加熱定着させる複数の加熱部と、
前記加熱部と前記記録部との間にそれぞれ配され、前記記録媒体の記録面近傍と前記記録部収容体とを連通させる連通路を有し該加熱部から前記記録部への熱の移動を断つ複数の断熱部と、
前記連通路を通じて前記記録媒体の記録面近傍において飛沫した前記液体を含む気体を吸引排出する吸引排出手段と、
を具備した加熱式定着装置。」
イ.「【0124】図16および図17は、本発明に係る加熱式定着装置のさらなる他の例の要部を示す。なお、本例においても、図13に示される制御ユニット100が同様に備えられている。
【0125】図16および図17においては、ヘッドブロック72内に記録ヘッド70M,70Y,および、70Bの周囲を包囲し、用紙Paの記録面近傍に浮遊するインクミストなどを導き出す吸引排出ダクト152が配されている。」
ウ.「【0130】ハロゲンヒータ160は、吸引排出ダクト152の内側において、隣接する各記録ヘッド間の中間部近傍にそれぞれ配置される。これは、画像記録中に、ある一定色の印字後に、そのインクが直ちにハロゲンヒータ160によって加熱定着されることにより、用紙Pa上にすでに打ち込まれたインクを乾燥および定着させるとともに、更にその上から残りのインクが打ち込まれることにより、定着性、画像の品位を向上させるためである。
【0131】このハロゲンヒータ160は、その記録面を非接触加熱している。これにより、記録面が乾燥され、インクの乾燥が促進され、定着速度が大幅に向上することとなる。
【0132】各ハロゲンヒータ160は、ハロゲンヒータ84と同様に制御ユニット100により、用紙Paの搬送に応じた所定のタイミングで加熱動作が制御される。・・・」
エ.「【0141】本実施例においては、所謂、インクミスト吸引用ダクトと記録ヘッド断熱手段とが同一の部材により兼用された構成となっているものである。
【0142】記録ヘッド70C?70Bにより用紙Paに順次記録が行われる場合、用紙Pa上では、記録ヘッド70C→記録ヘッド70M→記録ヘッド70Y→記録ヘッド70Bの順にインク吐出量が増えるに従い、浮遊するインクミスト量も上記の順で増大することとなる。
【0143】その際、インクミストが各記録ヘッドと用紙Pa上との間を浮遊し、ヘッドの吐出口に付着した場合には、所謂、”ヌレ不吐”と呼ばれる吐出不能現象が生じ、また、ベルト等の装置に付着した場合には装置機能の低下を招くことになる。」
オ.「【0144】そこで、本実施例においては、各記録ヘッド70C?70B相互の境界部に、吸引分岐路156が設けられている。この吸引分岐路156は、用紙Paの幅全域にわたり設けられていることが望ましいことは言うまでもないが、吸引分岐路156の断面形状は、用紙Paの幅に相当する長さの長丸穴、角穴形状をなしていても良い。
【0145】プロペラファンユニット150の作動により、用紙Paと各記録ヘッド70C?70Bとの間に浮遊しているインクミストが各吸引分岐路156を通じて吸引され、図16の矢印の示す方向に沿って、吸引排出ダクト152の共通の内部空間に案内され、それが図16の矢印の示す方向に沿って最終的に外部に運ばれる。
【0146】従って、用紙Pa上のインク吐出量が、記録ヘッド70C→記録ヘッド70M→記録ヘッド70Y→記録ヘッド70Bの順に増加するが、しかし、各吸引分岐路156が各記録ヘッド70C?70Bの間に設けられ、プロペラファンユニット150により吸引されるので浮遊するインクミストを、均一かつ印字領域全域に渡って除去することができる。」
カ.「【0147】本実施例における断熱装置154および158は、各記録ヘツド70C?70B間に設けられているハロゲンヒータ160からの熱を断つための断熱壁の役割を備えていると同時に、浮遊するインクミストを吸引するための吸引分岐路156を形成しダクトとしての機能を有するので、プロペラファンユニット150の吸引により、インクミストが吸引されるとともに、各ハロゲンヒータ160からの熱をもこの吸引排出ダクト152を通じてさらに排熱効率を高くしたものである。」
キ.図16、17から、7つの吸引分岐路156は、いずれも記録媒体の搬送面に対して垂直方向に延在しており、また、上記7つの吸引分岐路156のうち、最も左(下流側)に位置する吸引分岐路156は、ハロゲンヒータ84と複数の記録ヘッドとの間にあり、最も右(上流側)に位置する吸引分岐路156は、全ての記録ヘッドにおける最も右(上流側)に位置する記録ヘッドのすぐ左(下流側)に位置し、ハロゲンヒータ84とは逆側にあることが看取できる。

図面(図16、17)の記載も参照して、上記アの記載事項と、上記イ以下に記載されている事項との対応関係についてみると、記載事項アの「記録部」は、「記録ヘッド」(イ、オ)に対応しており、以下同様に、「複数の加熱部」は「ハロゲンヒータ160及びハロゲンヒータ84」(ウ)に、「断熱部」は「断熱装置154および158」(カ)に、それぞれ対応しており、これらの断熱装置154および158は、「断熱壁の役割を備えていると同時に、浮遊するインクミストを吸引するための吸引分岐路156を形成しダクトとしての機能を有する」ものとされている。

したがって、上記ア?キの記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「記録媒体の記録面に対して記録に用いられる液体を吐出して記録動作を行う記録ヘッドが該記録媒体の搬送方向に沿って複数個、配列収容される記録ヘッド収容体内に、該記録媒体の搬送方向に沿って該記録ヘッドに隣接した下流側または上流側となる位置にそれぞれ配され、該記録媒体に記録面に付着した該液体を加熱定着させるハロゲンヒータ160及びハロゲンヒータ84と、
前記ハロゲンヒータ160及びハロゲンヒータ84と前記記録ヘッドとの間にそれぞれ配され、前記記録媒体の記録面近傍と前記記録部収容体とを連通させる連通路を有し該ハロゲンヒータ160及びハロゲンヒータ84から前記記録ヘッドへの熱の移動を断つとともに、浮遊するインクミストを吸引するための吸引分岐路156を形成しダクトとしての機能を有する複数の断熱装置154および158と、
前記連通路を通じて前記記録媒体の記録面近傍において飛沫した前記液体を含む気体を吸引排出する吸引排出手段とを具備し、
前記吸引分岐路156は、記録媒体の搬送面に対して垂直方向に延在しており、また、7つの吸引分岐路156のうち、最も左(下流側)に位置する吸引分岐路156は、ハロゲンヒータ84と複数の記録ヘッドとの間にあり、最も右(上流側)に位置する吸引分岐路156は、全ての記録ヘッドにおける最も右(上流側)に位置する記録ヘッドのすぐ左(下流側)に位置し、ハロゲンヒータ84とは逆側にある、加熱式定着装置。」

(2)引用例2には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア.「【0052】
図1に示すように、本実施の形態において、画像記録装置1は、シリアルプリント方式の画像記録装置1であり、この画像記録装置1には、平板状に形成され記録媒体Pを非記録面から支持するプラテン2が設けられている。」
イ.「【0054】
また、プラテン2の上方には、棒状のキャリッジレール3が搬送方向に直交する主走査方向Aに延在して配置されている。このキャリッジレール3には、キャリッジ4がキャリッジレール3に沿って往復動自在に支持されており、このキャリッジ4は、キャリッジ駆動機構28(図2参照)によって主走査方向Aに沿って往復駆動されるようになっている。なお、キャリッジ4の移動可能範囲のほぼ中央部であってプラテン2の配置されている領域は画像記録を行う記録領域Yとされている。
【0055】
キャリッジ4には、本実施形態における画像記録装置1で使用される各色(ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y))に対応した4つの記録ヘッド5,5…が一群として搭載されている。記録ヘッド5,5…の記録媒体Pに対向する面には複数のインク吐出口(図示せず)が形成されており、各々インクを吐出するようになっている。なお、画像記録装置1で使用されるインクの色はこれに限定されず、例えば、ライトイエロー(LY)、ライトマゼンタ(LM)、ライトシアン(LC)等の色を使用することもできる。この場合には、各色に対応した記録ヘッドがキャリッジ4に搭載される。
【0056】
また、キャリッジ4内部であって、記録ヘッド5,5…のうち両端に配置された記録ヘッド5,5とキャリッジ4の両側の側壁との間には、それぞれ記録ヘッド5,5…の長さとほぼ等しい長さ寸法の紫外線照射装置6,6が記録ヘッド5,5…の長手方向にほぼ並行して配設されている。」
ウ.「【0059】
各紫外線照射装置6,6と記録ヘッド5,5…との間には記録ヘッド5,5…から吐出され飛散したインクミスト及び紫外線照射装置6,6が発熱することによって発生した加熱された空気を吸引するための吸引機構11,11が設けられている。吸引機構11,11は記録ヘッド5,5…及び紫外線照射装置6,6の記録媒体Pに対向する面とほぼ同じ高さ位置で記録媒体Pに対して開口する開口部12を有するダクト13,13を備え、ダクト13,13の図1における上方にはダクト13,13の内部に空気を引き込む吸引装置としての吸引ファン14,14が設けられている。記録媒体Pの画像記録面付近には記録ヘッド5,5…から吐出され霧状になったインクを含んだ空気及び紫外線照射装置6,6から発生した熱を帯びた空気が滞留しているが、吸引ファン14,14が回転することにより、記録媒体Pの画像記録面付近のこうした空気をダクト13,13内部に引き込み、除去できるようになっている。」
エ.図1から、吸引機構11,11が備える2つのダクト13,13が、4つの記録ヘッドの全てを挟んで対向するように設けられていることが看取できる。

上記の記載事項からみて、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「4つの記録ヘッド5,5…が一群として搭載されているキャリッジ4を備えた、画像記録装置1であって、
記録ヘッド5,5…のうち両端に配置された記録ヘッド5,5とキャリッジ4の両側の側壁との間には、紫外線照射装置6,6が配設され、各紫外線照射装置6,6と記録ヘッド5,5…との間には記録ヘッド5,5…から吐出され飛散したインクミスト及び紫外線照射装置6,6が発熱することによって発生した加熱された空気を吸引するための吸引機構11,11が設けられており、
吸引機構11,11は記録媒体Pに対して開口する開口部12を有するダクト13,13を備え、記録媒体Pの画像記録面付近に滞留する、記録ヘッド5,5…から吐出され霧状になったインクを含んだ空気及び紫外線照射装置6,6から発生した熱を帯びた空気をダクト13,13内部に引き込み、除去できるようになっており、2つのダクト13,13は、4つの記録ヘッドの全てを挟んで対向するように設けられている画像記録装置1。」

(3)引用例3には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えばタービン発電機等の回転電機の回転子巻線端部の冷却構造に係り、回転子巻線間に生じる高遠心力場の自然対流及び強制対流の衝突を回避し、回転子巻線表面の対流熱伝達を促進し、局部的な温度上昇を抑制するようにした回転子巻線端部の冷却構造を備えた回転電機の回転子に関する。」
イ.「【0025】第1の実施の形態では、軸方向に向かって流れる冷媒ガスの一部を回転子巻線端部の回転子巻線2間に導き、この導かれた冷媒ガスを巻線2の表面に吐き出すための通風孔21を巻線2に面した保持環5の内面に設けるものである。
【0026】この場合、通風路20は図2に示すように軸方向に向って流れる冷媒ガスを取入れるための流入口を、冷媒ガスが取込み易いように傾斜させてある。このような構成の回転電機の回転子において、回転子巻線2間の流れは図3に示すようになる。
【0027】即ち、通風路20の流入口より取込まれた冷媒ガスは、図3に示すように遠心力によって保持環5の内面側へ導かれ、巻線2に面した保持環5の内面近傍に設けられた通風孔21より巻線2の表面に吐出される。
【0028】この巻線2の表面に吐出された冷媒ガスは、回転子巻線2近傍の流体に作用する強大な浮力によって巻線2を冷却しながら巻線2の表面に沿って回転子軸8方向に流動する。」

上記の記載事項からみて、引用例3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「タービン発電機等の回転電機の回転子巻線端部を、軸方向に向かって流れる冷媒ガスの一部を回転子巻線端部の回転子巻線2間に導き、この導かれた冷媒ガスによって冷却する冷却構造のための通風路20であって、軸方向に向って流れる冷媒ガスを取入れるための流入口を、冷媒ガスを取込み易いように傾斜させた通風路20。」

(4)引用例4には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア.「【0018】
【第1実施例】図1は、本発明の冷蔵ショーケースの第1実施例の外観を示す斜視図である。
【0019】この冷蔵ショーケースは、上部に左右水平方向をなす庇体(1)を設置し、その左右両端と床面(2)との間に側面板(3)を取付けて、陳列用ブースを形成してある。」
イ.「【0022】図2は、図1の冷蔵ショーケースの縦断側面図である。庇体(1)は、前端に垂下部(11a)を設けたZ字形のフレーム(11)を有し、吊りボルト(12)により、建物の天井(7)に固着された構造材(8)に装着されて、下方の床面(2)から所要の高さに設置してある。
【0023】フレーム(11)の中央部下面には、冷凍機に接続された蒸発器(13)が装着されている。冷凍機の本体(図示省略)は、庇体(1)と分離して、適宜の場所、たとえばブース近傍の床上等に設置してある。」
ウ.「【0025】フレーム(11)の後端に、格子状に形成した吸入口(15)を設置してある。吸入口(15)は、下端をやや前方にして傾設され、下方からの気流を吸入するようにしてある。」
エ.「【0026】吸入口(15)の内部に吸気フアン(16)を設置して、吸入口(15)を通して外気を吸入し、蒸発器(13)に送りこむようにしてある。
【0027】フレーム(11)前端の垂下部(11a)の下端に、格子状に形成した冷気吹出口(17)を、後方に向けて設置してある。冷気吹出口(17)は、後端をやや下方にして傾設され、蒸発器(13)を通って冷却された気流を、下方の床面(2)の前方へ向けて吹き出すようにしてある。」

上記の記載事項からみて、引用例4には、次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「冷蔵ショーケースの上部に設置される庇体1であって、庇体1が有するフレーム(11)の後端には吸入口(15)を設置し、フレーム(11)前端に冷気吹出口(17)を設置し、吸入口(15)の内部に吸気フアン(16)を設置して、吸入口(15)を通して外気を吸入して蒸発器(13)に送りこみ、蒸発器(13)を通って冷却された気流を下方の床面(2)へ向けて吹き出すようにしてあり、吸入口(15)は下端をやや前方にして傾設され、下方からの気流を吸入するようにしてある庇体1。」

(5)引用例5には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア.「【0001】
本発明は、複数台のインクジェットヘッドを記録紙の走行方向に配置してなるインクジェット記録装置で、特に各インクジェットヘッド下面と記録紙との間に発生するインクミストを回収除去することができるようにしたインクジェット記録装置に関するものである。」
イ.「【0015】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る装置の全体を示す正面図であり、図中1はガイドローラ2,2…にて構成されるペーパラインに沿って走行する記録紙(輪転紙あるいは枚葉紙)、3a,3bはこのペーパラインに沿って複数台(2台)設けられたインクジェットヘッド、4はこれの下面側に設けたノズルヘッドである。このノズルヘッド4は記録紙1の幅方向にインクノズルをライン状に並設した構成になっている。」
ウ.「【0017】
上記複数台のインクジェットヘッド3a,3bのうち、最上流側のインクジェットヘッド3aの上流側には、このインクジェットヘッド3aの下面と記録紙1との間に隙間に上流側から空気を吹き込む空気吹き出し装置8が、また最下流側のインクジェットヘッド3bの下流側には、このインクジェットヘッド3bの下面と記録紙1との間の隙間の空気を下流側から吸引する空気吸引装置9が設けてある。そして各インクジェットヘッド3a,3bの間には、上流側のインクジェットヘッド3aと記録紙1との間の空気を下流側から吸引し、この吸引した空気を下流側のインクジェットヘッド3bの上流側から、この下流側のインクジェットヘッド3bと記録紙1との間の隙間に吹き出すようにした空気吸引・吹き出し装置10が設けてある。」
エ.「【0020】
上記空気吸引・吹き出し装置10は、インクジェットヘッド3a,3bの全幅にわたる幅を有する吸引口15と吹き出しノズル16とが記録紙1の走行方向の両側に設けられており、これらの間に吸引口15から空気を吸引すると共に、吹き出しノズル16から吹き出すようにした軸流型のファン12cと、このファン12cの上流側に位置するインクフィルタ17とが設けてある。そしてこの空気吸引・吹き出し装置10は、これの吸引口15が上流側のインクジェットヘッド3aと記録紙1との間の隙間に下流側から向くようにし、また吹き出しノズル16が下流側のインクジェットヘッド3aと記録紙1との間の隙間に上流側から向くようにしてアーム6aを介してブラケット6にて支持されている。すなわち、この空気吸引・吹き出し装置10は、インクジェットヘッド3a,3bの間に設置された状態で、これの吸引口15が上流側のインクジェットヘッド3aの下流端に対向し、また吹き出しノズル16の先端が下流側のインクジェットヘッド3bの下側に上流側から少し入り込むような形状になっている。」
オ.「【0023】
かくすることにより、空気吹き出し装置8の吹き出しノズル11から吹き出た空気が最上流側のインクジェットヘッド3aの下面と記録紙1との間の隙間を通って、記録紙1の走行方向下流側へ層状になって流れ、このインクジェットヘッド3aの下流側において、空気吸引・吹き出し装置10の吸引口15から吸引される。
【0024】
一方、この空気吸引・吹き出し装置10の吸引口15から吸引され、インクフィルタ17を通った空気は吹き出しノズル16から吹き出され、この空気は下流側のインクジェットヘッド3bの下面と記録紙1との間の隙間を通って記録紙1の走行方向に層状に流れ、このインクジェットヘッド3bの下流側において、空気吸引装置9の吸引口13から吸引される。
【0025】
このときにおいて、上流側のインクジェットヘッド3aのインクヘッド4の周囲に発生したインクミストは、空気吸引・吹き出し装置10にて吸引されてこれのインクフィルタ17にて捕捉される。また、下流側のインクジェットヘッド3bのインクヘッド4の周囲に発生したインクミストは、空気吸引装置9にて吸引されてこれのインクフィルタ14にて捕捉される。」
カ.図1、2から、上流側のインクジェットヘッド3aの下流端に対向する吸引口15が、上流側のインクジェットヘッド3aから離れるほど記録紙からの距離が小さくなる傾斜状態で設けられていることが看取できる。

上記の記載事項からみて、引用例5には、次の発明(以下「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。
「インクジェットヘッド下面と記録紙との間に発生するインクミストを回収除去することができるようにした空気吸引・吹き出し装置10を備えたインクジェット記録装置であって、
空気吸引・吹き出し装置10は、インクジェットヘッド3a,3bの間に設置された状態で、これの吸引口15が上流側のインクジェットヘッド3aの下流端に対向し、また吹き出しノズル16の先端が下流側のインクジェットヘッド3bの下側に上流側から少し入り込むような形状になっていて、吸引口15と吹き出しノズル16との間に吸引口15から空気を吸引すると共に、吹き出しノズル16から吹き出すようにしたファン12cと、このファン12cにより生じる空気流中のインクミストを捕捉するミストフィルタ17とを設けてなり、
前記空気吸引口15は、上流側のインクジェットヘッド3aから離れるほど記録紙からの距離が小さくなる傾斜状態で設けられている空気吸引・吹き出し装置10を備えたインクジェット記録装置。」

5.対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
後者の「加熱式定着装置」は、その構成や機能・作用等からみて、前者の「液体噴射装置」に相当するものであり、以下同様に、「記録媒体」は「媒体」に、「液体を吐出して記録動作を行う記録ヘッド」は「媒体に対して液体を噴射する液体噴射ヘッド」に、「記録媒体に記録面に付着した該液体を加熱定着させるハロゲンヒータ160及びハロゲンヒータ84」は「噴射された前記液体が着弾した前記媒体を加熱する加熱手段」に、「(7つの吸引分岐路156のうち、最も左(下流側)に位置して、ハロゲンヒータ84と複数の記録ヘッドとの間にある)吸引分岐路156」は「前記加熱手段と前記複数の液体噴射ヘッドの間に設けられた第1ダクト」に、「ハロゲンヒータ84とは逆側にある吸引分岐路156」は「加熱手段とは逆側に設けられている第2ダクト」に、「記録媒体の搬送面に対して垂直方向に延在して」は「前記媒体搬送面の垂直方向に延びて設けられている」に、にそれぞれ相当している。また、前者でいう「吐出空間」とは、「記録ヘッド25による液体噴射域のことであり、また、インクの噴射によって発生するインクミストが浮遊している空間のことでもある」(段落【0023】参照。)から、後者の吸引分岐路156が「浮遊するインクミストを吸引する」ものである以上、その吸引口の開口面は、前者と同様に「液体噴射ヘッドによる液体の吐出空間に向かって開口されて吐出空間に負圧を発生させ」ているといえる。

したがって、両者は、
「媒体に対して液体を噴射する複数の液体噴射ヘッドと、
噴射された前記液体が着弾した前記媒体を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段と前記複数の液体噴射ヘッドの間に設けられた第1ダクトと、
前記加熱手段とは逆側に設けられている第2ダクトと、を備える液体噴射装置において、
前記第1ダクトおよび前記第2ダクトにおける吸引口の開口面は、前記液体噴射ヘッドによる前記液体の吐出空間に向かって開口されて前記吐出空間に負圧を発生させ、
前記第1ダクトおよび前記第2ダクトは、前記媒体搬送面の垂直方向に延びて設けられている液体噴射装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
第2ダクトが、本願発明では「複数の液体噴射ヘッドを挟んで」いるのに対し、引用発明1では、「全ての記録ヘッドにおける最も右(上流側)に位置する記録ヘッドのすぐ左(下流側)に位置し」ている点。
[相違点2]
本願発明では、第1ダクトおよび第2ダクトにおける吸引口の開口面は、「液体噴射ヘッドから離れるほど媒体搬送面からの距離が小さくなるようにして」いるのに対し、引用発明1では、そのようなものでない点。

6.当審の判断
上記相違点について以下検討する。
(1)相違点1について
引用発明1の「最も右(上流側)に位置する吸引分岐路156(第2ダクト)」は、最も右(上流側)に位置する記録ヘッドを挟んだ位置に設けられていないものの、その他の複数の記録ヘッドを挟んだ位置に設けられているといえる。
また、本願発明における「複数の液体噴射ヘッドを挟んで」との意義が、「全ての複数の液体噴射ヘッドを挟んで」と解釈されてるものであっても、引用発明2には、「2つのダクト13,13(第1ダクト、第2ダクト)は、4つの記録ヘッド(液体噴射ヘッド)の全てを挟んで対向するように設けられている」ものであるから、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、上記引用発明2に備えられているといえる。
そして、引用発明1と引用発明2とは、液体噴射装置という共通する技術分野に属し、引用発明1において、最も右側(上流側)に位置する吸引分岐路156(第2ダクト)を複数の記録ヘッドの全てを挟んだ位置に設けることが技術的に格別困難であるものでもないから、引用発明1に引用発明2を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、引用発明1において、引用発明2を適用することにより、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
(2)相違点2について
引用発明3では「冷媒ガスを取入れるための流入口を、冷媒ガスを取込み易いように傾斜させた」としており、引用発明4では「吸入口(15)は下端をやや前方にして傾設され」としており、引用発明5では「空気吸引口15は、上流側のインクジェットヘッド3aから離れるほど記録紙からの距離が小さくなる傾斜状態で設けられている」としているものであって、上記の「流入口」、「吸入口(15)」、及び「空気吸引口15」は、冷媒ガスや空気などの流体を吸引するものであるから、「吸引口」といえ、引用発明3ないし5は、いずれも吸引口の開口面を吸引方向に向かって傾斜するように設けることを示したものといえる。
そして、空気などの流体を吸引する吸引口の開口面を、吸引方向に向かって傾斜するように設けることは、インクミストの回収除去に関する技術分野を含む、各種の技術分野で一般的に行われている技術事項であり、これによって吸引の効率が向上するものであり、引用発明1においても、浮遊するミストを吸引するものであって、浮遊するミストを効率よく吸引しようとすることは、明らかであるから、引用発明1に引用発明3ないし5を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、引用発明1において、引用発明3ないし5を適用することにより、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
なお、特に、引用発明5には、吸引口の開口面を「インクジェットヘッド3aから離れるほど記録紙からの距離が小さくなる」傾斜状態で設けることが示されており、これは、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を備えているものである。
(3)また、本願発明の発明特定事項の全体によって奏される効果も、引用発明1ないし5から当業者が予測し得る範囲内のものといえる。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1ないし5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-20 
結審通知日 2016-10-25 
審決日 2016-11-07 
出願番号 特願2013-96241(P2013-96241)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 梶田 真也小澤 尚由  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 植田 高盛
黒瀬 雅一
発明の名称 液体噴射装置  
代理人 鈴野 幹夫  

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